Headmaster's Bookshelf・学院長の本棚

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学院長

HEADMASTER'S

本棚

BOOKSHELF 〜��孝之 1988-2023〜
慶應義塾ニューヨーク学院(ニューヨーク州パーチェス、1990年創立) Keio Academy of New York(Purchase, NY, Founded in 1990)

2022年1月、慶應義塾ニューヨーク学院に赴任してすぐ気づい たのは、コロナ禍のため、図書室が二年以上も開店休業同然だった ことだ。さっそく改革に乗り出し、自身の単著や監修書、編著、共 著や訳書や注釈書も百冊ほど寄贈した。そんなある日のことであ る、改革の中心的役割を担ってくださっている川島恵さん(Health Center)とボールドウィン吉田静佳さん(Office of IT & Media)が「学

院長の本棚を作りたいと思います」と宣言したのは。

世に作家や批評家、学者研究者の名を冠した「本棚」の企画は決 して少なくない。これまでにも、学会やイベントに合わせた選書企 画を紀伊國屋書店から依頼されたり、個人的に偏愛する本たちを中 心にした展示が横浜市立中央図書館で開催されたりしたものだ。し

かし、今回の企画は、あくまで自分自身の関わった本を集大成した 本棚を、図書室の一角に作る企画なのである。しかも位置は、なん と福沢諭吉先生の本棚の隣だという。緊張するほかはない。

だが、これはまたとないチャンスでもある。一般に、著者が自分 自身の人生をふりかえる本を自伝と呼ぶ。けれども、本そのものに も生命があるとしたら、その一冊一冊の誕生秘話や成長過程を明ら かにしていけば、本そのものの伝記とも呼べる画期的なカタログが 編纂できるのではないか。そしてやがてはこのカタログを媒介に、 本棚そのものが自伝的に語り始めるのではないか(Shelf Life!)。

そこには、思い出深い共著者たちや編集者たち、校閲者たち、デ ザイナーたちのエピソードがふんだんに盛り込まれるだろう。その 息吹は、すべてこのカタログの奥深くに仕舞い込まれている

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――『学院長の本棚』巻頭言――
本棚は生きている �� 孝之

1955年東京生まれ。 1978年、上智大学文学部英文学科卒業。 1983年、同大学

院博士後期課程修了。その前年1982年、慶應義塾大学法学部英語助手。1984年より、 慶應義塾及びフルブライト奨学金の援助で北米留学。1987年、コーネル大学大学院 博士課程修了(Ph.D.)。 1989年に移籍し、慶應義塾大学文学部英米文学専攻助教授、 1997年より教授。

2021年3月の定年退職とともに名誉教授。 2022年 1月より慶

應義塾ニューヨーク学院(Keio Academy of New York)第 10代学院長。

アメリカ 文学思想史・批評理論専攻。 日本英文学会理事、アメリカ学会理事、日

本アメリカ文学会第 16代会長、アメリカ研究振興会理事、日本 ポー学会第2代会

長、日本 メルヴィル学会副会長、慶應義塾大学藝文学会委員長、慶應義塾アメリカ 学会発起人代表、三田文学会理事を歴任。 2009年より北米学術誌 The Journal of Transnational American Studies 編集委員。 MLA、日本ペンクラブ、 日本 SF作家クラ

ブ会員。日本学術会議連携会員。

1984年、論文「作品主権をめぐる暴力―― Narrative of Arthur Gordon Pym 小論」で 第7回日本英文学会新人賞受賞(『英文學研究』第61巻 第2号、1984年)。

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��  孝之 (たつみ・たかゆき) 慶應義塾大学名誉教授 慶應義塾ニューヨーク学院長

代表的単著に『 サイバーパンク・アメリカ』( 勁草書房、1988年度日米友好基金

アメリカ研究図書賞;増補新版、2019年)、『現代

SFのレトリック』( 岩波書店、

1992年)、『メタフィクションの謀略』(筑摩書房、1993年;『メタフィクションの思想』 と改題してちくま学術文庫化、2001年)、『ニュー・アメリカニズム――米文学思想 史の物語学』(青土社、1995年度福沢賞;増補新版 2005年、増補決定版

2019年)、

『ニ ューヨークの世紀末』(筑摩書房、1995年)、『E・A・ポウを読む』(岩波書店、1995年)、 『恐竜のアメリカ』(筑摩書房、1997年)、『日本変流文学』(新潮社、1998年)、『メ タファーはなぜ殺される――現在批評講義』(松柏社、2000年)、『アメリカン・ソドム』

(研究社、2001年)、『「 2001年宇宙の旅」講義』(平凡社、2001年)、『プログレッ シヴ・ロックの哲学』(平凡社、2002年;増補決定版、河出書房新社、2016年)、『リ ンカーンの世紀』(青土社、2002年、増補新版 2013年)、『想い出のブックカフェ―― �� 孝之書評集成』(研究社、2009年)、『モダニズムの惑星』(岩波書店、2013年)、『盗 まれた廃墟――ポール・ド・マンのアメリカ』(彩流社、2016年)、『パラノイドの帝 国』(大修館書店、2018年)、『慶應義塾とアメリカ――��

房、2022年)、Full Metal Apache: Transactions between Cyberpunk Japan and Avant-Pop

America (Duke UP, 2006 , The 2010 IAFA [International Association for the Fantastic in the Arts] Distinguished Scholarship Award)、Young Americans in Literature: The Post-Romantic Turn in the Age of Poe, Hawthorne and Melville (Sairyusha, 2018) ほか多数。

代表的論文に “Literary History on the Road: Transatlantic Crossings and Transpacific Crossovers” (PMLA [January 2004]))、“U.S.-Japan Literary Interactions in the Transpacific Cultural History”( Oxford Research Encyclopedia of Literature , Oxford UP, 2017: Doi: 10.1093/acrefore/9780190201098.013.201.)など。

編訳書にダナ・ハラウェイ他『サイボーグ・フェミニズム』(

レヴィル、1991年/北星堂書店、2007年;第2回日本翻訳大賞思想部門賞)、 ラ リイ・マキャフリイ『

アヴァン・ポップ』( 越川芳明と共編、 筑摩書房、1995年)、

J・G・バラード他『この不思議な地球で――世紀末SF傑作選』(浅倉久志、増田ま もるらと共訳、紀伊國屋書店、1996年)ほか。訳書にエドガー・アラン・ポー『黒 猫・アッシャー家の崩壊』(新潮社、2009年)『モルグ街の殺人・黄金虫』(新潮社、 2009年)『大渦巻への落下・灯台』(新潮社、2015年)ほか。

編著に『日本 SF論争史』(勁草書房、2000年、第 21回日本 SF大賞)『現代作家

ガイド3  ウィリアム・ギブスン』(彩流社、1997年/増補新版 2015年)、『反知

性の帝国』(南雲堂、2008年)、Cyberpunk in a Transnational Context (Mdpi AG, 2019)、

Transpacific Cultural Studies, 4 vols (SAGE, 2019)、監修書に『現代作家ガイド 6   カ ート・ヴォネガット』( 彩流社、2012年)、『脱領域・ 脱構築・脱半球』( 小鳥遊書 房、2021年)、『アメリカ文学と大統領』( 南雲堂、2023年)、共編著に『事典 現 代のアメリカ』( 大修館書店、2004年)、The Routledge Companion to Transnational American Studies (Routledge, 2019) など多数。

�� ゼミ三田会ウェブサイト:http://www.tatsumizemi.com/ 慶應義塾ニューヨーク学院ウェブサイト:https://www.keio.edu

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孝之最終講義』(小鳥遊書
小谷真理と共訳、ト

NY学院の正面玄関に着く。ドアを開けてロタンダの螺旋階段を3 階まで昇ると、すぐに図書室の入口が見える。中に入ると、大きな 窓からは濃い木々の緑、学院正面にたなびく3つの旗(それぞれ慶 應義塾旗、アメリカ合衆国旗、 ニューヨーク州旗)が目に入る。放 課後であれば、生徒の勉強する姿、語らう姿、ボランティア活動の 姿など、活気に満ちているだろう。その右手に目をやると、レファ レンス本棚、そして壁沿いに木目の本棚。私たちが「特別本棚」と 呼ぶセクションだ。そこでは、右から福澤先生の本棚、 �� 学院長の 本棚、そして日本・アメリカ・慶應義塾(Triculture)の本棚が連なる。

昨年2022年の夏、パンデミック以来二年以上も時の止まった図 書室の窓を開け、新鮮な空気を取り込むとともに、新学期に向けて 行動を開始した。佐藤吾郎事務長、三田メディアセンターの関秀行、 関口素子、五十嵐健一の諸氏のご協力のもと、図書室ワーキンググ ループ(山本富夫主事、ジョン・カール・ラヘンケンプ教育テクノ ロジー&メディア部長、大谷龍太施設担当ディレクター、国語科瀬 戸正彦教諭、ヘルスセンター川島恵の諸兄姉)と共に、新レイアウ トやデジタル化等を進めている。

「新しい図書室」を作るにあたっては、もちろん �� 学院長にご協

力をお願いした。お隣の福澤先生の本棚についても、福澤研究セン ター、 慶應義塾大学出版会のご協力を賜った。Triculture の本棚と 合わせ、順次カタログを編纂しながら、アップデートした家具も整 備予定。新しい図書室の柱として、これら特別本棚を楽しんでもら えるよう、期待は膨らむばかりである。

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――序言――
「新しい図書室」に向けて ボールドウィン吉田静佳
(Assistant Manager, Information Technology & Media)

日本・アメリカ・慶應義塾 川島 恵

(Librarian / Health Center Staff)

�� 学院長とは2022年4月、NY学院のヘルスセンターの懇親会 で初めてお目にかかりました。私はたまたま新学院長と席が隣にな り、緊張していたことを覚えています。しかし学院長はご専門の文 学の話題を交えながら、やさしくわかりやすく話してくださったの で、初対面でありながら打ち解け合い、楽しい時間を過ごしました。 その時は、まさか後に学院長と図書のプロジェクトで関わることに なるとは、想像もしていませんでした。

2022年9月、2年以上閉鎖していた学院の図書室が再び開室さ れることになりました。私は日本では学校図書館司書教諭の資格を 取得しており、小学校における図書の活動に携わった経験があるこ とから、図書室ワーキンググループの一員としてリノベーションの 企画に参加させていただくことになりました。グループでは、「ア メリカ合衆国にある慶應義塾」という本学院の特色を生かし、「日 本・アメリカ・慶應義塾」のトライカルチャー(Triculture)に焦点 を当てた新しい図書室のあり方について検討してきました。

折しも、新学院長がアメリカ文学者であり、ご著書の数々が「日 本・アメリカ・慶應義塾」のトライカルチャーを色濃く反映させて いることに私達は着目しました。そこで図書室に「�� 学院長コーナ

ー」を設置することを立案させていただいたところ、さっそく学院 長からさまざまなご寄贈を賜り、先生のライフワークが詰まった本 棚が完成しましたことを報告させていただきます。今後、NY学院 の生徒達をはじめとする利用者の方々が、この本棚をトライカルチ ャーに直に触れられる場として活用されますよう、願っております。

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――緒言――
vi 『学院長の本棚』巻頭言 本棚は生きている �� 孝之 序言 「新しい図書室」に向けて ボールドウィン吉田静佳 Assistant Manager, Information Technology & Media 単著 Monographs 編著 Anthologies 訳書 Translations 共著 Collaborations �� 孝之 略歴 学院長の本棚 HEADMASTER'S BOOKSHELF 〜�� 孝之 1988-2023〜 i ii iv v 1 53 133 171

退職記念論文集 Festschrifts

結語 アートとしての本棚 �� 孝之

* 本書で扱う書籍は目次通り、1)単著、2)編著 (共編著、監修書、注釈書含む)、3)共著、4) 訳書(編訳書、共編訳書含む)、5)退職記念論

* 全てのカテゴリーにおいて、単行本の形式を 採っているものは可能な限り網羅したが、共著 の場合はあまりにも数が多いため、何らかの形 で�� が主導的役割を果たしている書籍、あるい は表紙に名前が印刷されている書籍に限定し た。共著はさらに和文、英文で分けた。

* 編著には責任編集ないし特集監修を務めた雑 誌特集号をムック的性格に鑑みて含めたが、一 定期間編集長を担当していた学術雑誌の類は割 愛した。

* 扱った書籍は一冊ごとに表紙写真と解説文の 見開きで構成したが、明らかに連動する書籍の 場合は複数を同時に処理したケースもある。ま た、対象書籍と密接に関わる関連文献が欠かせ ない場合は、それらの書影も反映させている。

vii
山口
索引 INDEX
編集後記Ⅱ メタカタログの極小宇宙
恭司
凡例 185 193 195 196 197 199

単著 Monographs 1988-

『サイバーパンク・アメリカ』

担当編集:島原裕司;山田政弘 勁草書房、1988年;増補新版、2021年  著者初の単著である。

1980年代中葉、コーネル大学大学院では19世紀アメリカ・ ロ マン派文学研究で博士号請求論文を仕上げながら、1987年の帰国 後、初の単独による著作は、1984年以降に北米で勃興した、当時 最新のSF運動 サイバーパンクをめぐる評伝となった。 電 サイバースペース 脳空間 と ローテク系ストリート文化を融合した独特な物語学は、ウィリアム・ ギブスンの第一長編『ニューロマンサー』(1984年)以降のスプロー ル三部作で洗練され、ギブスンと盟友ブルース・スターリングが総 力を結集した唯一の、そして両作家にとって最高傑作と評される共 作長編『ディファレンス・エンジン』(1990年)で頂点を極める。

本書は彼ら関連作家たちとのインタビューやデイヴィッド・ハー トウェル、エレン・ダトロウ、スティーヴ・ブラウンら関連編集者 の取材に加え、著者自身がこの運動に積極的に加担する過程で、ワ シントンDCで創刊された新批評誌 < SF Eye >や日本の月刊誌<

SFマガジン>に発表したリアルタイムの報告や論考が、ふんだん に導入されている。とりわけニューウェーヴ系思弁小説家サミュエ ル・ディレイニーやポストモダン文学の伝道師たるサンディエゴ州 立大学教授ラリイ・マキャフリイとの出会いは、サイバーパンク運 動がやがてグローバルな文化史研究に足跡を残す理論的背景を固め る意味でも重要だった。 20世紀初頭のロスト・ジェネレーション や戦後のビート・ジェネレーションを一例とする歴史上のあらゆる 運動がそうであったように、この時期、米ソ冷戦末期という「凝縮 された時間」の中で、全ての役者がそろったのだ。

3
1988年度日米友好基金アメリカ研究図書賞受賞作。

Science Fiction Eye volume1 number1 winter 1987 premiere issue Til You Go Blind Cooperative, 1987.

4
勁草書房、1988年 増補新版、2021年

『現代SFのレトリック』

担当編集:坂下裕明

岩波書店、1992年;復刊、2016年  著者初の単独論文集である。単著として先行する『サイバーパン ク・アメリカ』が当時現在進行形であった北米SF運動のドキュメ ンタリーであった一方、本書は北米留学で培った構造主義以後の最 新批評理論による緻密な作品分析を展開する。扱われるのはスタニ スワフ・レム、J・ G・バラード、フィリップ・K・ディック、サミ ュエル・ディレイニー、ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア、ウ ィリアム・ギブスン、ルーシャス・シェパード、リチャード・コー ルダーら、

ポストモダン・クラシックとも呼べる作家たち。『

サイ バーパンク・アメリカ』が著者自身を編集委員とする北米批評誌

< SF Eye >の 連載“Graffiti’s Rainbow”や我が国の月刊誌< SFマガ ジン>の連載「 �� 孝之のアメリカSFグラフィティ」を母胎とする ジャーナリズムだった一方、本書は北米学術誌<エクストラポレー ション>や日本の<ユリイカ><現代思想>発表の論文を元にした アカデミズムであるから対照的に映るだろう。にもかかわらず、こ れら初期の二冊が、一人のSF批評家の顔を定着させた。

同書の表紙は、 ミシェル・フーコーが『言葉と物』(1966年) で解析したヴェラスケスの傑作「侍女たち」(1656年)を 20世紀

ダダ=シュールレアリストの ジョゼフ・コーネルがSF風にパロデ ィ化した「衛星の観測」(1956年)。同年夏に東京湾岸のクラブで 行われた出版記念会では筒井康隆、山野浩一や、著者の盟友でポス トモダン文学の伝道師ラリイ・マキャフリイがスピーチに立った。

初版刊行後、四半世紀を経て「名著復刊」の一環として復刻された。

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6 岩波書店、1992年;復刊、2016年

『メタフィクションの謀略』

担当編集:石井慎吾 筑摩書房、1993年

『メタフィクションの思想』と改題

担当編集:渡辺英明 筑摩書房、2001年

1963年のケネディ大統領暗殺から1974年のウォーターゲート 疑獄によるニクソン大統領辞任に至る期間、アメリカ国内には陰謀 理論が渦巻き、現実が一枚岩ではないことを突く文学的主題を表現 するのに高度に前衛的な手法が取られるようになった。その結果、 戦後の現代文学と構造主義以後の批評理論は積極的な相乗作用を示 し始めた。具体的には、

カート・ヴォネガットや ジョン・バース、

トマス・ピンチョンらの自己言及的創作とロバート・スコールズや レイモンド・フェダマン、ラリイ・マキャフリイらの先鋭的理論と の共振である。SFの世界でも、これはフィリップ・

K・ディックや

サミュエル・ディレイニー、トマス・ディッシュらのニューウェー

ヴ的入子細工手法に対応し、我が国でも筒井康隆や大江健三郎、井 上ひさしらの超虚構的かつ魔術的リアリズム的実験が同時生起して いた。この現象に着目した著者は1981年のSFセミナーで、「メタ 文学とメタ SF」のタイトルで講演した(単行本未収録)。

本書は以後、理論的強化を図った著者が、ピンチョンから筒井康 隆、ルーディ・ラッカー、沼正三、スティーヴ・エリクソンに及ぶ 現代作家を考察し、アヴァン・ポップ系映像やメタ演劇、ポスト・ フェミニスト系およびエスニック系メタフィクションの可能性に至 るまでを探った一冊。折しも電脳文化が促進する「読むこと」と「書 くこと」の相乗効果が、ロバート・クーヴァー曰くの「ハイパーフ ィクション」を生み出した時代の証言になっている。      2001年の文庫版では、学魔・高山宏が熱くて濃過ぎるほどの解 説「�� の方角に宝あり」を寄稿。

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8 筑摩書房、1993年
筑摩書房、2001年

『ジャパノイド宣言――

現代日本SFを読むために』

担当編集:細井恵津子

早川書房、1993年

著者唯一の日本SF論である。

戦後日本初の SF評論家・ 石川喬司による第一世代論『 SFの時

代――日本SFの胎動と展望』(奇想天外社、1977年)を引き継ぎ、 第二世代以降に重点を置く。

その5年前に刊行された『サイバーパンク・アメリカ』(1988年) のあとがきに、著者はこう書いた。「アメリカという『空間と運動 の国』に対しては、日本という『時間と消費の国』を視点に将来『サ イバーパンク・ジャパン』という名の評伝が必要なのだ」。

これが宣言と受け取られたのかどうかは、わからない。だが、同 書以後の著者が、 <SFアドベンチャー>誌では内外を問わぬ SF 作家論「読むことのサイエンス・フィクション」を、 < SFマガジ

ン>では書評欄「 SFレビュウ」を連載することになり、日本作家 の文庫解説の仕事が次々に舞い込むようになったのは事実である。

もともと 1980年代初頭にデビューした野阿梓や神林長平、大原ま り子ら第三世代と併走してきた著者は、北米で勃興したサイバーパ ンク運動に環太平洋的な現在SF同時多発現象を見出していたのだ。

折しも1989年には荒巻義雄の短篇「柔らかい時計」が英訳され て英国 SF誌<インターゾーン>に載り、日本

SFの世界 SF的意義

が認識され始めた。タイトルの「ジャパノイド」は、そんな時代に 憑依してやまない記 セミオティック・ゴースト 号論的亡霊としての仮想日本人像を表すために 著者がひねりだした造語である。それが何の因果か、今やカナダの 日本車ディーラーの名称に転用されるに至ったのは、もう一つのグ ローバリズムの喜劇といえよう。

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10 早川書房、1993年

『E・A・ポウを読む』

担当編集:星野紘一郎 岩波書店、1995年

エドガー・アラン・ポウのイメージは、長らく数種類の紋切り型 のもとで語られてきた。友人にして遺著管理人でもあったルーファ ス・グリズォルドによって流布された奇人変人像。F. O. マシーセ ンやチャールズ・ファイデルソンらによって構築された反民主主義 者、象徴主義者としての作家像。さらにはパトリック・クインらに よって確立された名誉フランス人としての肖像。

本書はそのような作家像を根本から覆し、雑誌文学者として、そ して「19世紀アメリカ・ロマン派作家」としてのポウを描き出す。

著者の博論 Disfiguration of Genres: A Reading in the Rhetoric of Edgar

Allan Poe をベースとし、新歴史主義の方法論によって刷新された論 文群は、ジョナサン・カラーやシンシア・チェイスらの修辞学的理 論と、スチュアート・レヴィーン流の歴史的/文献学的な調査に基 づいて、ジャンル脱構築の作家としてのポウの姿を暴き出す。

本書のアイデアの源流は、著者の修士論文にまで遡る。例えば第 五章「美女たちのいない庭」では、ポウの認識能力の区分がカント 先験哲学と酷似していることが指摘されているが、このアナロジー は1980年に脱稿された修論に端を発しており、同時期に北米ポウ 学者グレン・オーマンズが発表した同構想の論文と共振していた。

結果、本書は園田恵子や鵜殿えりか、富士川義之などによって評 価を受けることとなった。特に、大神田丈二が本書を「クラシック 音楽の演奏にたとえれば、さしずめオリジナル楽器による最良の演 奏である」と評したのは興味深い。

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12 岩波書店、1995年

『ニュー・アメリカニズム――

米文学思想史の物語学』

担当編集:宮田仁;菱沼達也

青土社、1995年、増補新版、2005年;増補決定版、2019年  20世紀末に起こった 脱構築から 新歴史主義への理論的転回の根 底には、三つの視座がある。一つには西海岸 フーコー学派の存在、 第二にアメリカ的なヘーゲルの復興運動、そして第三に米ソ冷戦を 踏まえた「ニュー・アメリカニズム」理論の勃興。

本書は同理論をまとめた理論書でもあり、17世紀 ピューリタニ ズムの極北コットン・マザーや18世紀建国の父祖たちの代表格フ ランクリンから、19世紀混血黒人女性奴隷 ハリエット・ジェイコ ブズまで六名のテクストにそれを応用して読み解いた実践書でもあ る。フーコーとド・マンの脱修辞学的文脈における邂逅を基礎に『幻 影の盟約』を著したニュー・アメリカニズム理論の代表格ドナルド・ ピーズと、彼らを批判したフレデリック・クルーズの論争の意義が 再確認される。というのも、序章「冷戦以後の魔女狩り」に集約さ れるように、1692年のセイラムの魔女狩りの言説すら、1950年代 の赤狩りマッカーシズムや、米ソ冷戦以後の20世紀末当時の「現在」 においても依然として克服されていないからだ。

同書は夥しい書評を得て高く評価され、慶應義塾の助教授として は例外的に、1996年に福澤賞を受賞。 高山宏に「幾重もの意義を 抱えた画期書」、丹生谷貴志に「 ロックンロールのリフで迫ってく るよう」と評された。2005年には 9・11同時多発テロに応答した 論文「グラウンド・ゼロの増殖空間―メルヴィル・サリンジャー・ヴィ ゼナー」を新たに収録した最初の増補新版(第二版)が、2019年 には「お前はクビだ!―ナサニエル・ホーソーンの選挙文学史」を 加えた増補決定版(第三版)がそれぞれ出版。今日に至るも著者の 代表作にして、文学思想史四部作の第一作。

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青土社、1995年
増補決定版、2019年 増補新版、2005年

『ニューヨークの世紀末』

担当編集:清水檀 筑摩書房、1995年

ニューヨークはアメリカではない、しかしニューヨークのないア メリカはない――とは、よく言われる逆説である。

イギリス系ピューリタンが中心のマサチューセッツ植民地など厳 格な戒律の支配するニューイングランドとは異なり、かつてオラン ダ系が入植しニューアムステルダムとも呼ばれた ニューヨークは、

アメリカ的リベラリズムの温床であった。アメリカ・ロマン派文学

の先鞭を付けたワシントン・アーヴィングらニューヨーク作家たち の文学は「ニッカーボッカー派」と渾名されたこともあった。

そんなニューヨーク独自の物語を、アン・ダグラスやウィリアム・ リーチ、ティモシー・ギルフォイルの文化史をふまえ、最新のジェ ンダー理論をも考慮して読み直したら、いかに変貌するのか。ハー

マン・メルヴィルとヘンリー・アダムズ、マルセル・デュシャンの 三者をミシェル・カルージュの「独身者の機械」とテンプル騎士団 の秘儀を鍵概念に交錯させた表題論文を中心に、ジャズ・エイジの 花形 F・スコット・フィッツジェラルドからノンフィクション・ノ ヴェルの旗手トルーマン・カポーティやトム・ウルフ、世紀末クイ ア作家ゲイリー・インディアナやトニー・クシュナーに及ぶ作家た ちの代表作を解読した本書は、著者唯一の都市文学論である。

なお、表題論文は最初1994年12月の第18回日本 オスカー・

ワイルド協会特別講演として読まれた。以後、著者はイギリス文学 関連の学会にも頻繁に招聘されるようになり、その系統の環大西洋 的文学研究はやがて2013年の文学思想史第四作『モダニズムの惑

星――英米文学思想史の修辞学』に結実する。

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16 筑摩書房、1995年

『トマス・ジェファソンとアメリカ文学――

清岡瑛一名誉教授に捧ぐ』

福澤記念選書/慶應義塾大学編60

担当編集:三田評論編集部 慶應義塾大学、1998年

著者が『ニュー・アメリカニズム』で1996年度福沢賞を受賞し たため、1997年 5月15日の「 福沢先生ウェーランド経済書講述 記念日」に三田演説館で行った特別講演の採録。奇しくも、福沢先 生の孫で『福翁自伝』英訳者の清岡先生の葬儀当日に当たっていた。  瀟洒な装幀を除けば、限りなく紀要論文の抜刷りないしパンフ レットに近い印象を与える非売品である。にもかかわらず、いった いなぜ単著扱いなのかといえば、『ニュー・アメリカニズム』以後 さらに展開していくことになる 文学思想史四部作の序章に当たる ためだ。折しも1993年にはジェファソンと黒人女性奴隷の愛人サ リー・ヘミングスとの恋愛をモチーフにしたスティーヴ・エリクソ

ンの『 Xのアーチ』が、1995年には同じ背景から着想されたジェ イムズ・アイヴォリー監督の『パリのジェファソン』が発表されて 論議を巻き起こしていた。かくして、作家の文学作品も建国の父祖 たちの政治的文書も一定の物語学に統御されており、容易には区別 し得ないという認識が、本論考を貫く。

この論考を加筆改稿して「アメリカン・ナラティヴの独立革命」

という序文に据えたのが、当時の慶應義塾大学アメリカ文学専攻が 若手中心に総力を結集した 渡部桃子との共編著『物語のゆらめき』

(1998年)である。それはさらに、 <英語青年>誌連載「アメリ カ小説史の革命」(1997-99年)をもとにした文学思想史の第二作 『アメリカン・ソドム』(2001年)、 < ユリイカ>誌連載「<南北

>の創生」( 2000年-2001年)をもとにした第三作『リンカーン の世紀』(2002年)に結実する。

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(右から)清岡教授の養子チャールズ・ギョット、清岡瑛一名誉教授、 �� 孝之、ギョット氏の友人

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慶應義塾大学、1998年
1996年度福沢賞授賞式後 三田キャンパス 1996年11月

『恐竜とアメリカ』

担当編集:湯原法史 筑摩書房、1997年

およそ6500万年前に絶滅した巨大爬虫類。もしも連中がいまも この地球のどこかに残存しているとしたら?はるか太古の時代に、 前時代の覇者であった恐竜と人間が同時存在して直接対峙し、相手 を打ち負かしていたとしたら?

このような想像力は11世紀、ヴァイキングがアメリカを「ヴィ ンランド」と呼び親しんだ時代から人々の文学的想像力をかきたて 続けた。本書は、「恐竜」「アメリカ」「文学」という3つのキーワ ードを横断しつつこの巨大爬虫類をめぐる多様な言説を分析した、 著者初となる新書である。

もっとも、ダーウィニズム以降において、長きにわたる恐竜発掘 史とそれをとりまく物語史を紡ぐことは、一筋縄では行かない。近 代以前の聖書的・疑似科学的世界観においては、恐竜の骨は前時代 の「竜」や「巨人」の骨として説明されていたからだ。また、資本 主義的古生物学のもとで、科学者たちが論争と捏造の発掘史を作り 上げていったことも見逃せない。

つまり、恐竜をめぐる想像力と文学の連関を探ることは、それを 受容する同時代の土壌がどのように作られていったのかを検討する ことに等しい。「巨大妄想」に貫かれた19世紀から全地球的電脳 文化が制御する高度資本主義の時代まで、必然的に本書が扱う時代 は幅広くなり、対象作品もソローやメルヴィル、トウェインやヴォ ネガット、マーク・ジェイコブスンまで膨大である。批評家自身の 想像力を限界まで拡大させた点では、著者唯一の奇書と呼んでもよ い。その結果、本書は高山宏や風間賢二のみならず、社会学者の大 澤真幸やSF作家・亀和田武により高い評価を受けることとなった。

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20 筑摩書房、1997年

著者唯一の日本文学論である。

1988年に単著『 サイバーパンク・アメリカ』でデビューし、 1992年以降は盟友ラリイ・マキャフリイとのアヴァン・ポップ運 動を日米で促進してきた著者は、現代日本の ポストモダン文学に ついても批評的見解を要請されるようになった。特に ブルース・

スターリングの提唱した「スリップストリーム」(slipstream)は、

当初、トマス・ピンチョンやマーガレット・アトウッド、スティーヴ・ エリクソンやキャシー・アッカー、サルマン・ラシュディやアン・ ライスといった境界領域作家たちの作品を指したが、同じ傾向は 我が国でも

筒井康隆を筆頭に 村上龍や 村上春樹、 島田雅彦や 笙野 頼子、

松浦理英子や吉本ばなな、久間十義らに連なる「変流文学」

の系譜に対応するだろう。その点に着目した本書は、文芸雑誌『三 田文学』を皮切りに書き継がれた作家論を中心に、アパッチ族か らおたくやおこげ、レンタル・ファミリーにおよぶ奇妙で多様な 「ジャパネスク・ヒーロー」を浮き彫りにした。

なお第1章「日本アパッチ族の文化史」は2006年、著者初の 英文単著『フルメタル・アパッチ』Full Metal Apache の表題作となり、 第7章「Rental Tokyo」のレンタル・ファミリー文学論は 2018年 の『ニューヨーカー』誌 4月 30日号のエリフ・バトゥーマン氏

による著者インタビューに反映する(https://www.newyorker.com/ magazine/2018/04/30/japans-rent-a-family-industry)。

21
『日本変流文学』
担当編集:矢野優 新潮社、1998年
22 新潮社、1998年

『メタファーはなぜ殺される―― 現在批評講義』

担当編集:森有紀子

松柏社、2000年

著者が1990年より慶應義塾大学文学部英米文学専攻の学部向け 科目で開始し、のちに、かつて由良君美氏が担当した大学院向けの 専攻横断科目「文芸批評史」で展開した授業の講義録である。

第一部は主として勤務校の紀要の類に発表した脱構築から新歴史 主義、ポストコロニアリズムからクイア・リーディングに及ぶ先端 的理論の概説から成り、第二部は『翻訳の世界』の連載「現在批評 のカリキュラム」を中心に、ジョナサン・カラーからヘンリー・ル イス・ゲイツ・ジュニア、キャシー・デイヴィッドソン、ウォルタ ー・ベン・マイケルズに及ぶ重要理論書の長文書評群を軸に据え、 第三部では文学研究入門者へのアジテーション「知的ストーカーの すすめ」を筆頭に、岩波書店の書評誌『よむ』など一般的な新聞雑 誌を媒体に発表された内外学術書の批評を収録。

ただし、本書はありがちな批評理論案内に見られるような、欧米 一辺倒の教科書ではない。たしかに、著者が北米に留学していた

1980年代半ばには 脱構築から 新歴史主義へ移行するパラダイム・ シフトが起こり、自身の内部でも意識変革を行わねばならなかった。

とりわけ 1990年代において文学研究と文化研究の境界を脱構築す るような知的方法論が勃興したことの影響は絶大だった。

けれども本書には、こうした潮流をいかにわが国の知性が先取り していたか、あるいはいかに克服していったかを明かす視線も埋め 込まれている。志村正雄や金関寿夫、亀井俊介、大井浩二、武藤脩

子らの業績への目配りに、それは窺われるだろう。

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二、 冨山太佳夫、千石英世、富島美子(現・ 宇沢美子)、斎藤美奈
24 松柏社、2000年

1.『アメリカ文学史のキーワード』

担当編集:佐藤とし子 講談社、2000年

2.『アメリカ文学史――駆動する物語の時空間』

担当編集:村山夏子

慶應義塾大学出版会、2003年

十世紀にヴァイキングが「新世界」に到達してから千年余。その 間に形成された「アメリカ的無意識」と文学史との連関を、コロニ アリズムからポスト・アメリカニズムにまで至る「非常識」な配置 によって捉え直したのが『アメリカ文学史のキーワード』(2000年) と『アメリカ文学史』(2003年)の二部作である。前者が「コン ピレーション版」とすれば、後者はそこで示された史観をそのまま 維持して、図版やコラムを大幅に拡充し、「教科書」として再編集 された「ディレクターズ・カット版」と言えよう。

1980年代から90年代にかけて、 エモリ―・エリオットによる

コロンビア版アメリカ文学史やサクヴァン・バーコヴィッチによる ケンブリッジ版アメリカ文学史などが世に問われた。表題二冊は、 そのような最新の文学史再評価の流れを汲みつつ、ヴァイキングに よるヴィンランド到達から植民地時代、建国期までのアメリカ史を 貫くロード・ナラティヴが、ロマン派からポストモダニズムに至る までの文学につねに影を落とすという、欧米でも前例のない枠組み を導入した。新田啓子は『アメリカ文学のカルトグラフィ』(2012年) において、こうした視座における多文化意図を巧みに掬い取り、前 者を「アメリカでの論争にいち早く応答した成果」と評価している。  この試みは、出版後多くの反響に恵まれることとなった。特に、 中・四国アメリカ文学会第44回大会シンポジウム(2015年6月 13・14日、於・香川大学幸町キャンパス)において、島克也が著 者の文学史理論における主流文学とSFの融合の影響を「�� 以後の 文学史」と呼んだのは注目される。

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26 『アメリカ文学史のキーワード』 講談社、2000年 『アメリカ文学史―― 駆動する物語の時空間』
慶應義塾大学出版会、2003年

『アメリカン・ソドム』

担当編集:西山広記 研究社、2001年

西暦2000年、ローマ教皇ヨハネ・パウロ2世エルサ レム訪問

以降の聖地ゴールド・ラッシュは、19世紀アメリカにおけるパレ スチナ巡礼ブームを彷彿とさせた。「危機」の時代には必ず、聖地 ゴールド・ラッシュが起こる。本書はビル・クリントン第42代大 統領のスキャンダルを念頭に、そのような危機をむしろ「全てが再 構築されるのに必要な条件」であると捉え返すところから始まる。

タイトルから、読者は一瞬、R・ W・B・ルイスの名著『アメリカ ン・アダム』(1955年)を連想するかもしれない。だが、エデン の園に始まるユートピアとは、一切の異端が許されないがためその 内部に必ず「ソドムの市」を招く論理的倒錯を抱えている。「丘の 上の町」として構築されたアメリカ共同体は、その好例だ。

そのような視点から本書はウィリアム・ヒル・ブラウンやスザン ナ・ローソンからハンナ・フォスター、ロイヤル・タイラーなどを 通じてヒュー・ヘンリー・ブラッケンリッジ、ナサニエル・カヴァ リー、ジョージ・リッパ―ドに至るまで、様々な作家の作品により「ア メリカン・ソドム」を例証していくこととなった。終章「グローバル・ カナン」では、マーク・マーリス『アメリカン・スタディーズ』(1994)

を論じつつ、性的腐敗の極みかと思われていたアメリカン・ソドム が、グローバル時代におけるマルチセクシュアリティの解放にして、

もう一つのユートピアニズムになりうる可能性を検討している。

なお、本書には本邦初紹介となる南北戦争以前の古典も多いため、

のちに松柏社のアメリカ古典大衆小説シリーズ創刊を導く。

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文学思想史四部作の第二作。
28 研究社、2001年

『「2001年宇宙の旅」講義』

担当編集:坂下裕明

平凡社、2001年;新装版、2009年

表題の『 2001年宇宙の旅』はイギリス SFの巨匠アーサー・ C・

クラークとアメリカを代表する映画監督スタンリー・キューブリッ クが力を合わせ、人類が月面初着陸する1969年の前年1968年に 公開した映像作品である。SF史のみならず映画史における金字塔 としても名高い。だが、映画だけ見て難解な印象に辟易した観衆が、 ついに小説の方は読まずじまいのことも多かった。小説を読む習慣 さえあれば、人類の曙から登場する謎の石 モノリス 板の役割は、あまりにも わかりやすい。しかしキューブリックが、散文的な種明かしになる のをあえて拒否し、あくまで映像美学を優先させたがために、良く 言えば象徴的な印象を醸し出したこともまた、事実なのである。

本書は、この傑作の根底に流れる小説と映画の抗争を詳らかに すべく書かれた。担当編集者は、著者の最初の単独論文集『現代 SFのレトリック』を企画し、のちに平凡社へ移籍した坂下裕明氏。

2001年に『

2001年宇宙の旅』論を出すのは一種の洒落のようだが、 実際のところ、本書の構想は十年ほど先立つ。映画版では原子力宇 宙船ディスカバリー号を統御するスーパーコンピュータHAL9000

が 1992年にイリノイ州で誕生しているため、1992年 1月にその

誕生日を記念するべく開かれた松岡正剛氏司会のシンポジウムに著 者が招聘されたのがきっかけである。以後、本作品について考え続 けた著者は、これが異星人の操るモノリスを触媒とする人類の超進 化以上に、教育機械から通信装置、

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サイバー・スペース 脳空間 へと発展するAIの超 進化の物語であることを確信するようになった。
30 平凡社、2001年
平凡社、2009年

『リンカーンの世紀――

アメリカ大統領たちの文学思想史』

担当編集:宮田仁;足立桃子

青土社、2002年;増補新版、2013年  1865年4月14日、ワシントンDCはフォード劇場にて、 エイ ブラハム・リンカーン第 16代大統領は、当代屈指の シェイクスピ

ア俳優ジョン・ウィルクス・ブースが放った凶弾に倒れた。

本書はこの暗殺を特異点に、一つの巨大な演劇的想像力がアメリ カ全体を「巨大な見世物小屋」へと変容させてしまったのではない

かというスペクタクル論的仮説から始まる。というのも、リンカー ンは政治家であると同時にシェイクスピアなど演劇に耽溺した一人 の文学者であり、アメリカン・モーゼとアメリカン・マクベス双方

の役割を兼ね備えた演技者でもあったからだ。

リンカーンを貫いたのと同じ弾丸が世紀を超えて第35代大統領 ケネディをも射抜いたとする本書の物語学は、 ジョージ・ W・ブッ シュ以降に至る大統領 文学思想史を織り紡ぎ、リンカーンの同時代 作家 メルヴィル『白鯨』(1851年)で幕を下ろす。というのも、本 書の原型となる<ユリイカ>誌の一年間にわたる連載「<南北>の 創生」が 2001年の初夏に終了した直後、9・11同時多発テロが起 こり、多くのメルヴィリアンたちが、ブッシュ大統領対アルカーイ ダ首領ウサーマ・ビン・ラーディンの対立の背後に捕鯨船ピークォ ッド号に突進する白鯨モビー・ディックの構図を幻視したからだ。 してみると、このテロはアメリカという身体に対するもう一つの暗 殺ではなかったか――そう直感した著者は連載全体を加筆改稿した。

文学思想史第三作。2013年、南北戦争150周年の折には、補章「オ バマ以降のリンカーン」を付加した増補新版が出版。それは十年後 の退職記念出版第三弾『アメリカ文学と大統領』に連なる。

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青土社、2002年
増補新版、2013年

『プログレッシヴ・ロックの哲学』

担当編集:坂下裕明;阿部晴政 平凡社、2002年;増補新版、河出書房新社、2016年

著者唯一の音楽批評である。

幼少期からクラシック・ピアノに親しんだ著者が初めて接したロ ックは、1966年に来日した ザ・ビートルズが発表したばかりのア ルバム『リボルバー』だった。1969年には彼らの最後のアルバム『ア ビー・ロード』と、キング・クリムゾンの最初のアルバム『クリム ゾン・キングの宮殿』が発売される。1970年の

ザ・ビートルズ解

散後には、モーグ・シンセサイザーを舞台に持ち込んだキース・エ マーソンが新グループのライヴを重ね、年末にはデビュー・アルバ ム『エマーソン、レイク&パーマー』を発表。プログレッシヴ・ロ ックの時代が幕を開ける。

当時中学3年生で SFに浸かっていた著者にとって、新たな電子 鍵 キーボード

盤楽器の、この世のものとは思われないサウンドを中心に、クラ シックやロックやジャズが融合し日々変貌していく音楽的風景の魅 力は決定的だった。かくして、高校2年だった1973年の春にイ エスの初来日公演に足を運び、このジャンルへの傾倒が深まる。

その意味で本書は、極めて個人的に偏向した秘密の趣味を開陳す る音楽的回想録である。とはいえ、読者の中にはすでに『メタフィ クションの謀略』(1993年)の中にプログレッシヴ・ロック的な 文体を、『ニュー・アメリカニズム』の中にロック・ギターのリフ 的な効果を聴き取る向きもあったのだから、面白い。

以後、15年以上の歳月を経て、 河出書房新社の「文藝別冊夢ム

ック」シリーズにおけるロック系統を手がける阿部晴政氏の担当で、 増補版が刊行。こちらには旧版刊行以後に書かれたロック漫画論も 含まれ、特に水野英子『ファイヤー!』(1971年)への偏愛が露

呈している。

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平凡社、2002年 増補新版、河出書房新社、2016年

『「白鯨」アメリカン・スタディーズ』

担当編集:島原裕司 みすず書房、2005年

本書は、知的好奇心旺盛な中高生を対象としてみすず書房が展開 する講義シリーズ「理想の教室」の一巻である。

一見、本書は19世紀アメリカ作家ハーマン・メルヴィルの『白鯨』 (1851年)を丁寧に解題した入門書のような印象を与えるかもし

れない。なるほど、冒頭に第一章と最終章の翻訳が配置されている だけでなく、当時のアメリカを支えた鯨油産業や伝記的事実、ニュ ーヨークの文学産業と作家の関係性や「明白な運命」を標語とする 同時代の拡張主義の気分が、まずは十全に解説されている。

だが、本書の射程はメルヴィル研究史の常識を再認識するにとど まらず、2001年の9・

11同時多発テロ以後における『白鯨』再

解釈の可能性にまで及ぶ。作家の池澤夏樹氏が言うように、『白鯨』

をデータベースとして捉えることは、結果的に同作を「テキストの 断片をつなぎ合わせ、読むことの自由を保証する」ハイパーフィク ションの先駆的原型と見る再解釈を導くだろう。このような21世 紀的転回の中で、本書はハリウッド映画版や日米の漫画版『白鯨』 比較を通して白鯨とエイハブ船長の対決がいかに原作小説に反して も「唯一絶対の物語学的正解」に仕立て上げられ、エドワード・サ イードにまで影響を与えたかを探るほか、同作が内包する「核の想 像力」が クラーク、 レムといったSF作家、果ては「 ゴジラ」まで

をも貫く可能性を探る。なお、本書のエッセンスの原型は著者によ る下記の英語論文に確認することができる。

“Literary History on the Road: Transatlantic Crossings and Transpacific Crossovers.” PMLA, vol. 119, no.1, 2004, pp. 92-102.

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36 みすず書房、2005年

Full Metal Apache: Transactions between Cyberpunk Japan and Avant-Pop America

Managing Editor: J. Reynolds Smith

Duke University Press, 2006.

著者初の英文単著である。

北米留学中に知り合い盟友となるサンディエゴ州立大学教授ラリ イ・マキャフリイとは、 サイバーパンクにおいても アヴァン・ポ

ップにおいても共同作業を行ってきたが、1992年夏にはラリイと 夫人の同大学教授 シンダ・グレゴリーが来日し、それ以来、日本 の作家や芸術家たちとのインタビューを重ねるようになった。折 も折、著者自身も北米に対応する日本の ポストモダン作家たちに 関する比較文学的論考を内外から要請されることが増え、それは 1998年の単著『日本変流文学』と2002年の共編による Review of Contemporary Fiction 誌「新しい日本小説」特集号に結実する。

本書はそんな経緯で著者が北米雑誌 < SF Eye >や Critique など を舞台に数多く発表するようになった英語論文の一群を渡したと ころ、ラリイがまとめてデューク大学出版局へ送り、出版が決ま ったものだ。加筆改稿や図版の版権交渉を経て、いざ 2006年 5

月に刊行されると同年12月には即増刷となり、2010年には本書 を中心にした業績が評価され、2010年度国際幻想芸術学会学術

賞(The 2010 IAFA [International Association of the Fantastic in the Arts] Distinguished Scholarship Award)を受賞。

ちなみに表題作は当初、小松左京の再評価を目論む「鉄男が時を 飛ぶ」として

< ユリイカ>臨時増刊「悪趣味大全」特集号(1995 年)に発表され、間髪入れずにアメリカ学会英文号7号( 1996年) に掲載されたテクストを元にしている。

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Duke University Press, 2006.

『想い出のブックカフェ――�� 孝之書評集成』

担当編集:金子靖 研究社、2009年

著者唯一の書評集である。

いわゆる「書評」の第一印象が新聞雑誌に発表されるものである なら、本書には著者が 20年以上もの間、朝日新聞や毎日新聞の書 評委員や読売新聞の読書委員を務め、共同通信では文芸時評を連載

してきた期間のジャーナリズムがほぼ網羅的に収録されている。

しかし、それだけではない。本書はさらに、月刊誌<eとらん す>連載の批評理論書の書評や学術誌 <英文学研究>や

<アメリ

カ文学研究>に発表された文学研究書の長文書評に代表されるア カデミズムを含む。

読者は一瞬、著者が2000年に松柏社より刊行した『メタファー はなぜ殺される――現在批評講義』を連想するかもしれないが、同

書は確実にアカデミズムの方法論マニュアルをめざしていた。しか

し本書の場合、第一章の導入で21世紀初頭に話題を呼んだアーザ ル・ナフィーシーの『テヘランで読む「ロリータ」』(2003年)や カレン・ジョイ・ファウラーの『ジェイン・オースティンの読書会』 (2004年)の意義を考察し、あくまで日常的な「本を読む暮らし」

とはどういうことか、一冊の本をめぐる「会話」がいかに楽しいか、 そもそも「書評」をどう楽しむかを、あたかも架空の「ブッククラブ」 「ブックカフェ」を構築するかのような気分で演出するところに主 眼を置く。第4部には著者と親しい読書の達人たち、高山宏、沼野 充義、四方田犬彦との対談をも収める。

一冊の本をめぐって評価の割れた「討議」がいかに激越なものに なりうるかについては、著者が北米文学賞の選考委員を務めた際の 「ティプトリー賞戦記」のセクションが参考になるだろう。

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40 研究社、2009年

1.『エドガー・アラン・ポー ――文学の冒険家』

担当編集:粕谷昭大 NHKブックス、2012年

担当編集:粕谷昭大 NHK出版、2022年

著者はこれまで文学史や注釈書などいくつかの「教科書」をも のしてきたが、この二冊は 19世紀アメリカ・ロマン派作家ポーに

対象を絞り、大学の授業向けではなく一般向けに、しかも前者は 2012年 4月から6月にかけての NHKラジオ第二放送の「カルチ ャーラジオ」、後者は2022年3月の ETV「100分de名著」全四 回分のために書き下ろされた。

基本的に著者のポー観は博論をもとにした『E・A・ポウを読む』 (1995年)の姿勢から変わっていない。 雑 マガジニズム

誌第一主義 と文学ジャ

ンルの脱構築が、その中核を成す。しかし、以後も世界のポー研究 は北米内外で開かれる国際会議を通して刻々と発展しているため、 これら啓蒙書にも最新の知見が生かされている。

たとえば前者では、往々にして失敗作と見なされる、名探偵デュ パン・シリーズの第二作「マリー・ロジェの謎」(1842年)で悲 劇の死を遂げるヒロインのモデル、メアリ・ロジャースの雇い主か ら、作者自身が賄賂を受け取っていた可能性が例証される。また後 者では、『アーサー・ゴードン・ピムの冒険』「アッシャー家の崩壊」 「黒猫」「モルグ街の殺人」を貫くアメリカ南部貴族主義、転じては 黒人奴隷制と地下鉄道を秘める沼地地帯の影響が考察される。

だが、これら二冊において最も注目すべきは、著者が作家名の表 記を原音に忠実な「ポウ」や創元推理文庫版の「ポオ」ではなく、 比較的広く用いられている新潮文庫版の「ポー」に切り替えたこと だろう。2007年の「日本 ポー学会」の設立と、2009年の著者自 身による新潮文庫版の新訳ポー短編集の刊行が、その要因である。

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2.『100分de名著 エドガー・アラン・ポー スペシャル――
「ジャンル」の創造者』
42 『エドガー・アラン・ポー ――文学の冒険家』 NHKブックス、2012年 『エドガー・アラン・ポー ――文学の冒険家』 NHKブックス、2012年

『モダニズムの惑星――

英米文学思想史の修辞学』

担当編集:西澤昭方

岩波書店、2013年

ガヤトリ・ スピヴァクが『ある学問の死――惑星思考の比較文 学へ』(2003年)で提唱した 惑 プラネタリティ 星思考 は、 電 サイバー・スペース 脳空間

上で制御可

能であるかのように見える「 地 グローブ 球 」ではなく、有史以前から続く 「惑 プラネット 星」のうちに他者に対する責任=応答可能性を見出す。本書は、 スピヴァクがやがて放棄してしまうこの概念を、ポール・ジャイル ズやグレッチェン・マーフィ、ワイ・チー・ディモクの理論を導入 して批判的に発展させ「来るべき惑星思考」を掲げる。その特異点 は百年前の1912年。豪華客船タイタニック号が難破したこの年を モダニズム以前以後を分ける危機的瞬間と捉え直し、ジュール・ヴ ェルヌからアーネスト・ヘミングウェイ、オスカー・ワイルドや D.H.

ロレンス、T.S. エリオットやマーク・トウェイン、ウィリアム・フ ォークナー、ジョン・スタインベックに及ぶ系譜を辿る。

企画の種子は、2008年10月12日に西南学院大学で行われた 日本アメリカ文学会第47回全国大会のシンポジウム「惑星思考の アメリカ文学」(司会・講師:山里勝己、講師:渡邊真理子、�� 孝 之、坂手洋二)。この年が、ケニア出身の父と北欧系の母の血を引き、 ハワイやインドネシアまでも成長のルーツに持つ史上初の惑星的大 統領バラク・オバマが初当選した年であるのは、偶然ではない。

西半球の独立宣言であったはずの「モンロー・ドクトリン」が一 世紀を経て論理的倒錯を起こし、新たな帝国主義へと変容して以降、

アメリカ的グローバリズムが抑圧してきた「 深 ディープ・タイム

ますます切実になっている。本書はその探索の旅の第一歩である。

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い時間 」の意義は、
文学思想史四部作の第四作。
44 岩波書店、2013年

『盗まれた廃墟――

ポール・ド・マンのアメリカ』

担当編集:高梨治 彩流社、2016年

著者唯一の学者批評家論である。

1970年代後半から80年代半ばまでの大学院時代、著者が最も 影響を受けたのは、アルジェリア系フランス人思想家ジャック・デ リダが提唱した西欧形而上学批判の哲学であり、それを北米ではベ ルギー系アメリカ人批評家ポール・ド・マンが受け皿となり文学教 育に応用した脱構築であった。二人の愛弟子バーバラ・ジョンソン の、あまりにも明快な英文で織りなされたポーやメルヴィル、ソロ ーの分析も衝撃的だったが、何よりこの方法論のうちには、著者自 身を含む米国における非英語圏人が国際的文学研究へ参入し貢献し

うるフロンティアが幻視されたのである。

1983年、 ド・マンが 64歳で没した後には、ベルギー時代に残

した対独協力文書と言われるジャーナリズムが物議を醸し、脱構築 批判とともに膨大なイエール学派研究が氾濫した。その大半はヨー ロッパ思想史を前提にしている。けれども、著者が長年思っていた のは、彼はベルギー時代にはメルヴィルの『白鯨』をフラマン語訳 するほどだったのだから、アメリカニズムを独自の形で咀嚼してい たのではないか、ということだ。とりわけ1948年に米国に亡命し、

作家メアリ・マッカーシーを筆頭とするニューヨーク知識人と交流 したからこそ、北米アカデミズムへの扉が開いたのである。 2014

年にはそうした盲点を照射したイヴリン・バリッシュによる浩瀚な 評伝が出たが、もちろんそれで十分ではない。

かくして本書は、ド・マンのアメリカ的側面を一層明らかにすべ く、とりわけ1970年代前半、ニクソン大統領時代のウォーターゲ ート疑獄と脱構築批評の共振を中核に据えた。

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46 彩流社、2016年

Young Americans in Literature: The Post-Romantic Turn in the Age of Poe, Hawthorne and Melville.

Managing Editor: Osamu Takanashi

Sairyusha Publishers, 2018.

著者の英文単著第二弾である。

第一弾 Full Metal Apache(2006)がポストモダン文学研究だった ので、以来 12年を経たこちらは本来の19世紀ロマンティシズム 研究へ回帰したかのような格好に見えるかもしれない。じっさい、 21世紀に入ると ポー研究でも メルヴィル研究でも国際会議で発表 することが増え、アメリカン・ルネッサンス理論が大きく変動して いるのを深く実感するようになった。しかも、最初の学術的共著『文 学する若きアメリカ』(1989年)でモチーフにした「ヤング・アメ リカ運動」の研究が、以後の フレデリック・マーク(1995年)や エドワード・ウィドマー(1999年)の業績により抜本的に刷新さ れていたから、それらを睨みつつリベンジする必要も痛感していた。  そんなところへ、2018年6月に京都で国際ポー&ホーソーン会

議が開かれることになり、著者のコーネル大学時代の恩師で、現カ リフォルニア大学ロサンジェルス校教授マイケル・コラカチオが基 調講演者に決まったのが、本書刊行の駆動力となった。かくしてポ ー、ホーソーン、メルヴィルからエマソン、ソロー、ディキンソン へ及ぶ作家論を網羅するとともに、献辞においても『白鯨』を模し て本書をコラカチオ教授へ捧げることにしたゆえんだ。

なお、序文は教授の授業で共に机を並べていたメルヴィル学者で カリフォルニア大学バークリー校教授サミュエル・オッター。表紙 と装幀を担当したのは『想い出のブックカフェ』(2009年)以来 の著者の理解者

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YOUCHAN。一見シンプルな作りながら、細部にお いて凝りに凝った書物が仕上がった。
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Sairyusha Publishers, 2018.

『パラノイドの帝国――アメリカ文学精神史講義』

担当編集:辻村厚

大修館書店、2018年

リチャード・ホフスタッターの『アメリカ政治におけるパラノイ ド・スタイル』(1965年)を導入し、 ドナルド・トランプ大統領 政権下でアメリカ文学精神史の再構築を試みた一冊。編著『反知性 の帝国』(2008年)と二部作を成す。

かつてジョージ・ブッシュ大統領が庶民的にして感性に訴えかけ るポピュリズムでリベラル知識人を打ち負かしたことは、いまなお アメリカ国民の記憶に残っている。そして、60年代対抗文化の遺 産でもある反知性主義(反権威主義)やパラノイド・スタイルと連 動したポピュリズムは、歴史の自己言及性を体現するかのように、

こうした精神史は、アメリカ文学史に関する限り、むしろ豊饒な

想像力の源泉であろう。本書はフィリップ・K・ディックのパラノ

イア概念とトマス・ピンチョンのパラノイド概念を明確に峻別する ところから出発し、レイ・ブラッドベリやケン・キージー、サミュ エル・ディレイニーらの冷戦ナラティヴや、ロベルト・ボラーニョ、 コーマック・マッカーシー、スティーヴ・エリクソン、ドン・ウィ ンズロウらのボーダー・ナラティヴを克明に分析していく。

作家だけではない。本書におけるパラノイド・スタイルは、映画 監督ヘンリー・ハザウェイがマリリン・モンローを主役にした『ナ イアガラ』(1953)やリドリー・スコット監督の『悪の法則』(2013 年)、 ポール・トーマス・アンダーソン監督『マグノリア』(1999 年)や ニール・ブロムカンプ監督の『第9地区』(2009)、 ギレル

モ・デル・トロ監督の『シェイプ・オブ・ウォーター』(2017年) などの映像分析によっても実証される。

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トランプ前後から息を吹き返した。
50 大修館書店、2018年

『慶應義塾とアメリカ――�� 孝之最終講義』

担当編集:高梨治

小鳥遊書房、2022年

本書は『モダニズムの惑星』(2013年)刊行以後に、同書のテ ーマと慶應義塾を連動させた 講演を各地で行なってきた 著者が、 講演草稿の余白に書き溜めた余談的アイデアの集大成である。福 沢諭吉の「独立自尊」と フランクリンや ジェファソン、 エマソン

の思想を比較検討するばかりでなく、その「瘠我慢」と ソローや 南北戦争以後の「失われた大義」を連動させ、彼と同い年のマー ク・トウェイン中心に著者独特の作家生命論を展開している。

刊行が2022年なので、著者が翌年に慶應義塾 ニューヨーク学 院第十代学院長に就任したことと結びつける向きもあるかもしれ

ない。だが本書の構想は 2021年3月の最終講義の時にはすでに

出来上がっており、その後、4月末に選出された伊藤新塾長から 「慶應スピリットの回復」を任務とする学院長就任の要請があっ たのは5月末。つまり、最終講義の時点では、4月から八ヶ岳別 荘の新書庫で蔵書整理をしながら優雅な年金生活を送ることぐら いしか、考えていなかったのだ。

ならば、オビに謳った「三

トライカルチャー 重文化」は土屋常任理事が提唱した新 生ニューヨーク学院の新たな使命ではないか、というツッコミもあ りうるだろう。しかし、著者は定年退職に至るまでの十年余、北米

学術誌

Journal of Transnational American Studies の編集委員を務め、

2017年には慶應義塾アメリカ学会を正式発足させ、とりわけ環太 平洋的アメリカ研究の確立に邁進してきた。日米慶應が交錯する「三 重文化」は、さらに「慶應スピリット」とも「環太平洋的アメリカ 研究」とも交錯する地点で融合し精緻化されたと言ってよい。

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小鳥遊書房、2022年

編著 Anthologies 1993-

The Best Essays of Isaac Asimov

アイザック・アシモフ『アシモフが語るアイデアの世界』

担当編集:佐野英一郎 成美堂、1993年

刊行から30年を経て、現在でも入手可能な、編注者唯一の一般 教養英語向け教科書。慶應義塾では1982年から法学部英語部会に 所属し、1989年からは文学部英米文学専攻に移籍したので、本書 刊行時にはもう一般教養は担当していない。にもかかわらず引き受 けたのは、版元の代表取締役・佐野英一郎氏が高校の同級生だっ

た――しかも編注者よりはるかに優秀だった――という縁による。

最初の打ち合わせは、今でも忘れられない。社屋に近いお茶の水 は山の上ホテルのカフェで、当初は専門のアメリカ文学でアンソロ ジーを編むのかと思い込んでいた編注者に、佐野君、いや佐野副社 長(当時)は、すでにもうマーケティング・リサーチは終わってい

ると宣言した。そして、今この手の教科書として売れる分野は、広 告論と自然環境論、そしてアシモフだと断言したのだ。

幼年期からSFに馴染んできた者にとって、アシモフのロボット

もの、特にSFミステリは原点に刷り込まれている。しかし文明評 論家・科学啓蒙家でもあった彼は名エッセイストだった。1992年

4月に急逝した後も、愛読者は増えるばかり。とはいえ、市販の著 書の大半は既に他社によって版権が取られている。ではどうするか。

編注者が考えたのは、長く定期購読していた北米のSF月刊誌

Isaac Asimov's Science Fiction Magazine の洒脱な巻頭言を通読して、

そこから選び出し、日本独自の編集による一冊にすることである。

果たして選りすぐりの10編はいずれも評判を呼び、本書は今日ま でほぼ毎年増刷するという、英語教科書としては異例のロングセラ ーとなった。

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56 成美堂、1993年

『現代作家ガイド3 ウィリアム・ギブスン』

担当編集:八木敦子、藤原哲史;増補新版:若田純子

彩流社、1997年;増補新版、2015年

1970年代中葉、編者が大学で英米文学を勉強し始めた時の心強 い味方は、1960年代に 研究社から出た「

20世紀英米文学案内」

シリーズだった。主としてモダニズム前後の主流文学者一人につき 一巻を充て、作家の伝記から主要作品の梗概、先行研究における評 価に至るまで懇切丁寧な解説を施した全24巻。1970年代後半か ら 80年代にかけては、解説よりも本格的論考を目指した冬樹社の 英米文学作家論叢書が、専門家を揃えて壮観だった。

しかし1990年代以降、いよいよ学術研究の対象となり始めたポ ストモダン作家に関しては必携書が空白だったところへ企画された のが、彩流社の「現代作家ガイド」シリーズ。オースター、エリク ソンに続くかたちで、本書は編纂された。

サイバーパンクは「運動」としてはすでに1991年に終結宣言が 下されたが、しかしその前年に スターリングとの共作長編『ディ ファレンス・エンジン』を発表し高い評価を得ていた ギブスンは、 80年代の「電 サイバー・スペース 脳空間三部作」に次ぐ90年代の「橋三部作」に着手し、 ローテク文化とジャンクヤードから成る独特な世界は新たな展開を 見せていた。折も折、ヴァーチャル・アイドルSFの傑作『あいど る』(1996年)が上梓されたので、新たな作家インタビューを目 玉に据えたのが本書初版である。第二版では、21世紀に入ってか

らの ギブスンが 9・11同時多発テロに想を得た『パターン・レコ グニション』(2003年)以降の「ブルーアント三部作」から『ペ リフェラル』(2014年)を皮切りとする「ジャックポット三部作」 までをカバーする。

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58 彩流社、1997年 増補新版、2015年  (左)�� 孝之 (右)ウィリアム・ギブスン ギブスン来日歓迎パーティ  渋谷 NHK裏の無国籍料理店<スンダ> 1988年2月

『身体の未来』

担当編集:後藤真理

トレヴィル、1998年

西武系セゾングループの美術書系出版社トレヴィルとは1991年 の編訳書『サイボーグ・フェミニズム』を皮切りに、英国を代表す るポスト・サイバーパンク作家リチャード・コールダーの短編集や 長編三部作など、さまざまな企画を実現してきたが、本書は同社最 大のシグネチャーである身体について批評的集大成を任された一冊 である。折しも映像作家デイヴィッド・ブレアの夫人だった芸術家 フローレンス・オルメッツァーノの先鋭的な表紙画を得て、監修者 の序文は当時センセーションを呼んでいたマイケル・ジャクソンの 身体変容問題に斬り込んだ。

寄稿者には学魔・高山宏をはじめ科学史家の佐倉統、作家の藤沢 周や赤坂真理、大原まり子から骨董玩具店主・神谷僚一、前衛写真 家ローリー・エディソンとその盟友たるファット・フェミニズム運 動家デビー・ノトキン、日本のサブカルチャー論『暴走族』の著者 カール・タロー・グリーンフェルドまで、当時最も先鋭的な書き手 が勢揃い。出版記念シンポジウムは今はなき神田須田町のデルタ・ ミラージュで行ったが、じつはトレヴィル自体もこの年 1998年に、

1985年から13年間続いた歴史に一旦幕を下ろし、より小規模な エディシオン・トレヴィルに改組している。その意味で、この野心 的な企画は、旧トレヴィル社の有終の美と言える。

同社の運命は、バブル景気とそれ以後の平成史と関連づけて語ら れるかもしれない。だが、世の中には恐ろしく潤沢な予算と研ぎ澄 まされた感性が融合しなければ決して実現しない文化が存在する。

本書はそんな文化自体の未来を思い込めた「白鳥の歌」である。

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60 トレヴィル、1998年

『物語のゆらめき――

アメリカン・ナラティヴの意識史』

渡部桃子と共編 担当編集:原信雄 南雲堂、1998年

初版刊行以来、学部�� ゼミでは長く指定図書だったので、教科書 と思われてきたかもしれない。だが、本書は基本的には1998年度 における山本晶教授の定年退職記念として構想された。慶應義塾ア メリカ文学専攻は1965年、大橋吉之輔教授の日吉から三田への移 籍を端緒とするが、さらに1972年に山本教授が加わることで、専 攻として確立した。1990年代には山本教授の作成になる規程によっ て、博士課程における博士号請求論文作成の条件も整備された。本

書はそんな時代に、まさしく博論執筆中の院生たちを中心に、山本 教授自身のメルヴィル論も含めて編まれた共同研究である。

にもかかわらず本書が依然、教科書として読まれるとしたら、

ピューリタン植民地文学からポストモダン文学まで、文学史的年代 別にも考慮しつつ、詩と散文、演劇や批評などジャンル的多様性を 重んじ、文学史と文化史の相互駆引にも留意したからだろう。序章 には共編者の�� が前年1997年に行った

福沢先生ウェーランド経済

書講述記念日講演「トマス・ジェファソンとアメリカ文学」の加筆 改稿版「アメリカン・ナラティヴの独立革命」を収録し、以下「ピュー リタニズム以降の想像力」「フェミニスト・アメリカの地平線」「ア メリカン・ジャンルの進化論」「マルチカルチュラリズム以後の物 語意識」の四部構成のうちにはアン・ブラッドストリートからリディ ア・マライア・チャイルド、ナサニエル・ホーソーン、ブランダー・ マシューズ、

ウォラス・アーウィン、ポール・オースター、オクテ

イヴィア・バトラーまでを扱う力作論考全般十三編が並ぶ。

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62 南雲堂、1998年

1. Sources of Science Fiction:Future War Novels of the 1890s.

Ed. George Locke, Introd. Takayuki Tatsumi. London: Routledge,1998. 8 vols.

2. American Future-War Fiction: China and Japan, 1880-1930

全12巻 + 別冊解説

20世紀末から 21世紀初頭にかけて、つまり湾岸戦争からイラク戦争 にかけての時代は、通常は自然主義文学の時代とされる世紀末アメリカ文 学が近未来戦争小説の勃興期だった事実を考え直す機会となった。

最初はイギリスのラウトリッジ社において、SF作家兼書誌編纂者の ジョージ・ ロック(1936-2019)と共同編纂した1890年代近未来小説 選集全8巻。だが、それをふまえた我が国の アティーナ・プレスは、世 紀転換期を挟み半世紀に及ぶ期間にスケールを拡大し、黄禍論勃興と近未 来戦争小説発展の因果関係を探る選集全12巻を刊行した。

実際、世紀転換期には英国作家 H・G・ウェルズが米国天文学者 パー

シヴァル・ローエルの火星研究に感化された長編『宇宙戦争』(雑誌連載 1897年、単行本1898年)を発表し、これがグレイヴズ&ルーカスの 『ウィーナス戦争』(1898年)やギャレット・サーヴィスの『エジソンの 火星征服』(1898年)を導く。さらに同年にはクレオール作家M・P・シー ルがずばり黄禍を前景化した未来戦争小説『黄色い脅威』を刊行。ロイ・ ノートンの『ほろびゆく艦隊』(1907年)やジャック・ロンドンの「比 類なき侵略」(1910年)の先鞭をつけている。

アティーナ版は、こうしたウェルズ周辺の埋もれた近未来戦争小説を発 掘するほか、 トウェインも影響を受けた可能性のある我が国のベストセ

ラー作家・ 村井弦斎が日露戦争を睨んだ英文小説『ハナ――日本の娘』( 1904年)をも収録。アメリカ近未来戦争小説の勃興期は環太平洋的文学 史の形成期とも重なっていたことの、これは証左である。

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『アメリカ近未来戦争小説集1880-1930:
アメリカ対脅威の極東アジア』
�� 孝之監修&解説 担当編集:中島信彦 アティーナ・プレス、 2010-2011年

Sources of Science Fiction: Future War Novels of the 1890s. Routledge, 1998.

American Future-War Fiction: China and Japan, 1880-1930

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アメリカ対脅威の極東アジア』 アティーナ・プレス,
『アメリカ近未来戦争小説集1880-1930:
2010-2011年

『スタンリー・キューブリック』

�� 孝之監修

担当編集:日向正規、小出幸子

キネマ旬報社、1999年

監修者が映像作家研究を手がけた唯一の書物である。キネマ旬報 社がスタートした <フィルムメーカーズ>シリーズの第8巻。名 匠キューブリックが1999年3月に 70歳で逝去し、最後の作品と してトム・クルーズとニコール・キッドマンが主演した『アイズ・ ワイド・シャット』を残したことで、急遽企画された。監修者とサ イバーパンク映画『鉄男』シリーズで世界的に著名な塚本晋也監督

の対談を軸に、寄稿者には英米文学者の高山宏や若島正から、映画 評論家の滝本誠、音楽家の難波弘之、翻訳家の栩木玲子、作家の向 山貴彦、電波系評論家・村崎百郎、ドラァグ・クイーンのヴィヴィ アン佐藤まで多彩な顔ぶれが並ぶ。

作品は初期の『非情の罠』から『ロリータ』『博士の異常な愛情』

『時計じかけのオレンジ』『フルメタル・ジャケット』まで網羅して いるが、監修者のアメリカ文学ゼミでは、スティーヴン・キング原 作の『シャイニング』が一番人気であり、卒論に選んだ学生も多い。

本書をきっかけに、二年後には単著『「 2001年宇宙の旅」講義』 が書き下ろされる。なお、キューブリックの真の遺作になる予定だっ たイギリスSF作家 ブライアン・オールディスの原作「スーパート イズ」(1969年)に基づく『A.I.』(2001年)は、 スティーヴン・

スピルバーグが 2001年に完成させるが、同作品の分析について

は 南波克行編『 スティーヴン・スピルバーグ論』(フィルムアート 社、2013年)への寄稿「スタンリー・キューブリックの遺産——『 2001宇宙の旅』が『 A.I.』になる時——」で読むことができる。

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キネマ旬報社、1999年

1.『週刊朝日百科世界の文学31 南北アメリカⅠ

ヴァイキングの文学』

担当編集:近藤雅人 朝日新聞社、2000年

2.『週刊朝日百科世界の文学48 南北アメリカⅡ ――SFと変流文学』

担当編集:近藤雅人 朝日新聞社、2000年

全巻揃えれば壮大なヴィジュアル版世界文学百科事典が出来上が るような企画を週刊でやりたい、ついてはアメリカ文学系の全巻を 総括する編集委員として参加してほしい、と朝日新聞社から依頼さ れたのは、1997年ごろだったろうか。各巻、せいぜい週刊誌ほど の分量だが、ふつうの学術書だったらまず使用困難な図版も着実に 版権を取る上に、毎週のように全国各地のコンビニに並ぶ、という。 とんでもない企画であり、実現したら面白くないわけがない。その 結果、アメリカ文学史の時代区分、ジャンル区分に応じて全 20巻 近くの内容を立案する羽目になり、各巻の監修には各分野の権威を お願いすることになった。大変な作業ではあったが、まことに贅沢 な経験だったのは間違いない。

かくして1999年には準備が整い刊行が始まったが、興味深いの は南北アメリカ編の第一回配本をどれにするかと議論した時、編集 部が強力に押したのが、やはり一般に「アメリカ文学」の顔と思わ れているヘミングウェイの巻だったことだ。

編者自身は、当時、アメリカ文学史を南欧ならぬ北欧から、しか も一千年のスケールで考え直そうとしていたから、植民地時代の筆 頭ということで31巻の「ヴァイキングの文学」と、ポストモダン 文学の方面では48巻「SFと変流文学」を担当。この時の編集委員 としての経験が、単著『アメリカ文学史のキーワード』(2000年) や『アメリカ文学史――駆動する物語の時空間』(2003年)に活 かされる。発刊記念として学魔・ 高山宏氏と対談。両者は以後も 対話を重ね、のちにまるまる一冊を費やした『 マニエリスム談義』

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(2018年)へ発展する。

『週刊朝日百科世界の文学31  南北アメリカⅠ――ヴァイキングの文学』

朝日新聞社、2000年

朝日新聞社、2000年

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『週刊朝日百科世界の文学48  南北アメリカⅡ――SFと変流文学』

『日本SF論争史』

担当編集:島原裕司&橋本晶子

勁草書房、2000年

本書の構想は1992年、現代SF研究の創始者とも呼ぶべきマッ ギル大学教授ダルコ・スーヴィンが来日して、山野浩一の「日本 SF の原点と指向」の共訳を開始し、それが北米学術誌 < SF Studies > 62号(1994年3月号)に掲載された時点に遡る。必然的に、同誌 で日本SFを代表する評論特集をやろうという企画が出たが、編者は、 まずは日本語圏でその叩き台を作るのが先決と考えた。

じっさい、戦後の日本SFは1957年における日本初のSF同人誌 <宇宙塵>創刊時よりさまざまな論争を繰り返してきた。そのコン テクストを掬い取る方針により、安部公房、小松左京から山野浩一、 荒巻義雄を経て、小谷真理や大原まり子に及ぶ論争テクストを選び 出し、各章に解説を付け、巻末には論争史年表を置いた。

扱った約40年間は、ざっくり図式化するならば、ハードコア科 学小説からニューウェーヴ思弁小説へ至る過程における定義論争か ら サイバーパンク以後におけるジャンル SFの市場戦略論争への転 換である。高度成長期において日本の未来を展望したSFから、高 度資本主義時代において文化商品として市場競争を余儀なくされ

る SFへの変容。では、21世紀のSFは文学の一レトリックなのか、

それとも今なお文学的フロンティアなのか? SFを考えるヒントが、 論争と論争の間にぎっしり詰まっている。

なお、スーヴィンとの約束は、部分的には同じ編者による

< Mechademia: Second Arc >の SF特集号(2021年秋季号)で果た

されたことを付記しておく。

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第 20回日本 SF大賞受賞作。
70 勁草書房、2000年

1.『ユートピアの期限』2002年

宮坂敬造・坂上貴之・坂本光と共編 担当編集:村山夏子 慶應義塾大学出版会

2.『幸福の逆説』2005年

3.『情の技法』2006年

4.『リスクの誘惑』 2011年

宮坂敬造・坂上貴之・岡田光弘・坂本光と共編 担当編集:村山夏子 慶應義塾大学出版会

慶應義塾大学文学部におけるオムニバス連続講義シリーズ。

1994年に哲学専攻の岡田光弘、心理学専攻の坂上貴之、人間科学 専攻の宮坂敬造、社会学専攻の 岡原正幸、民族学考古学専攻の 棚橋 訓といった若手教授陣が共同コーディネータとなり立ち上げた通称 「総合講座」は、初年度の「自我と意識」から2023年度の「ジェンダー の変容」に至るまで、世代交代を経ながら30年ほども続く長寿プロ グラムである。 �� 孝之が運営に加わったのは2年目の「イマジネー ションとイメージ」以降。コーディネータ陣は不必要なほど頻繁に 会合や打ち上げを重ね、次年度のテーマや講師候補を徹底討議した。 文学部からは共同研究としての特別予算を獲得していたから、希望 する講師はほとんど招聘できた贅沢なプログラムであった。

実際、ゲスト講師陣はSF作家の 小松左京やロシア文学者の 沼野 充義、暗黒舞踏家の 田中泯(「ユートピアの期限」、2000年)から 哲学者の 東浩紀や作家芸術家の 小林エリカ(「幸福の逆説」、2001 年)、精神分析学者の 土居健郎や映画監督の 是枝裕和、プログレ・

メタル・ユニット の ALI PROJECT(「情の技法」、2003-04年)、 劇作家のつかこうへいや軍事評論家の江畑謙介、競馬評論家の山野 浩一(「リスクの誘惑」、2002年)に至るまで多彩を極めた。

その内容を活字化するのに、じっくり時間をかけて

21世紀初頭

の総合講座の成果をまとめ上げたのが、これら四巻である。人文学 の危機を突破する叡智が、ここには凝縮されて詰まっている。

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72 『ユートピアの期限』 慶應義塾大学出版会、2002年 『幸福の逆説』 慶應義塾大学出版会、2005年 『情の技法』 慶應義塾大学出版会、2006年 『リスクの誘惑』 慶應義塾大学出版会、2011年

New Japanese Fiction

Review of Contemporary Fiction, vol. 22, no. 2, 2002.

Co-edited with Larry McCaffery and Sinda Gregory

Managing Editor: Robert F. McLaughlin

Dalkey Archive Press, 2002.

盟友 ラリイ・マキャフリイと開始した アヴァン・ポップ運動は、 結果的に日米文学の連環を促進した。すでにラリイは夫人のシンダ とともに、アメリカ現代作家については少なからぬ作家たちとの対 話を重ね、数冊のインタビュー集を刊行していたが、日本作家につ いても1992年の夏休み二ヶ月の東京滞在と1995年 7月の『 ア ヴァン・ポップ』出版記念、および1998年秋学期の成蹊大学客員 教授就任といった数回の来日を経て知識を深めた。その結果、筒井 康隆から村上春樹、笠井潔、島田雅彦、笙野頼子、大原まり子、柾 悟郎、松尾由美にまで共同インタビューを行い、各作家の代表的短 編の英訳と共に編纂したのが、この「新しい日本小説」特集号である。

なにしろ1992年から始まったプロジェクトであるから 足掛け

10年。作業は難航し、翻訳と再編集には大学院生の協力も仰いだが、

まさにその「遅れ」が、21世紀初頭のクール・ジャパン勃興と共 振したのは奇遇であった。

ちなみに、共編者として書き下ろした序文では、1993年に提起 した新概念「ジャパノイド」(Japanoid)を、エスニシティやセク シュアリティから文学ジャンルに至るまで脱領域化が進む時代に鑑 み、さらに深化させている。インターネットによる全世界的な情報 交通の緊密化は、日米文学を必ずしも影響関係ではなく、因果関係 を超えた同時多発の論理で読み解くべき時代の到来を告げた。その 意味で、このプロジェクトがなければ、同じ頃に準備し始めたデュ ーク大学出版局の単著『フルメタル・アパッチ』Full Metal Apache の理論武装も、成立しなかったろう。

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(左から)小谷真理、�� 孝之、ラリイ・マキャフリイ、シンダ・グレゴリー  『現代 SFのレトリック』出版記念会  芝浦湾岸<タンゴ> 1992年 7月 2日
Dalkey Archive Press, 2002.

『事典 現代のアメリカ』

松尾弌之、小田隆裕、柏木博、能登路雅子、吉見俊哉と共編 担当編集:康駿&原田由美子

大修館書店、2004年

この野心的にして、現在の日本語圏で最も包括的なアメリカ事典 の企画が立ち上がったのは、1997年のことである。委員たちは猛 者ぞろいだから、編集作業はさほどの困難もなくスムーズに進行し ていくだろう、と思われた。先行企画としては、平凡社より1986

年に出て以来版を重ね、新版も出たロングセラーの『アメリカを知 る事典』が大きな壁として立ちはだかっていたが、大統領史に詳し い松尾委員をはじめ、大衆文化の権威である能登路委員、日米関係 を問い直す吉見委員、視覚文化に造詣が深い柏木委員、グローバリ ズムの時代ならではの理論を構築した小田委員まで、総力を結集す れば、不安はない。どの項目を誰に頼めば最良の原稿を取ることが できるかも、我々はすでに熟知していた。

それが一体どうして、完成までに7年の歳月を要したのか?  2001年、思いもかけず勃発した 9・11同時多発テロが要因で ある。この事件は、それさえ補足すれば事典が仕上がるたぐいのも のではなく、むしろそれを中核に据え全体を組み直すことを編集委 員全員に強いた。百科事典の編纂というのは「アメリカのことなら よく知っている」という自負を持つ者であればあるほど、専門家同 士の討議を通して「アメリカについてますます知らないことが増え ていく」歩みであり、それはまさに編集委員会の共同作業を通して こそ建設的に解決されるはずだった。ところが同時多発テロは、そ もそも「みんなが知っていると信じてきたこと全体が根底からゆら ぐ」事件だったのだ。

その結果、21世紀初のこのアメリカ百科事典は、先行する類書 にない深さと広さを備えるに至ったものと自負している。

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大修館書店、2004年

『アメリカ古典大衆小説コレクション』

亀井俊介と共同監修

担当編集:森有紀子

松柏社、2003年-

1991年の夏、札幌クールセミナーの講師として来日した新歴史

主義批評家マイケル・ギルモアの主著『アメリカ・ロマン派と市場 経済』(原著1985年)の邦訳をいち早く出したのが、松柏社である。 かくして同社からは、やがて批評理論の教科書『メタファーはなぜ 殺される』(2000年)を上梓することになる。

そんな松柏社が21世紀に入り着手した巨大プロジェクトが、北 米で1980年代から進行していたアメリカ文学史の正典問い直しに 一石を投じる、アメリカ大衆文学の再評価であった。タイトルのみ 著名でも邦訳がなかったり、その文学史的意義が十分に認識されて いなかったりする「もうひとつの古典」の何と多いことか!  かくして、独立革命直後の共和政時代を代表するハナ・フォスタ ーの感傷小説『コケット』(1797年)から ナサニエル・カヴァリ ーの戦闘美少女小説『女水兵ルーシー・ブルーアの冒険』(1815-18 年)、 ホレイショ・アルジャーのセルフメイ ド・マン小説『ぼろ着 のディック』(1867年)、ライマン・フランク・ボームの『オズの ふしぎな魔法使い』(1900年)、オーウェン・ウィスターの西部劇 小説『ヴァージニアン』(1902年)まで、珠玉の作品を選び抜き、次々 に翻訳を刊行できたのは僥倖だった。

もちろん、二人の監修者の取り合わせには、一瞬、驚く向きもあ るかもしれない。親子ほどの年齢差の両者だが、主流文学とともに 大衆文化をも一貫して探求し、一種の「見えない学統」を構築して きた姿勢は、相通じるところがあるだろう。その両者を組み合わせ たこと自体が、同社の慧眼である。

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78 『オズのふしぎな魔法使い』
松柏社、2003年
〈アメリカ古典大衆小説コレクション12〉 松柏社、2010年
〈アメリカ古典大衆小説コレクション2〉
『女水兵ルーシー・ブルーアの冒険』

Гордев Узел

(『ゴルディアスの結び目――現代日本SF傑作選』)

担当編集:諸永京子

Inostranka Publishers / Japan Foundation, 2004.

日本 SF初のロシア語版短編傑作選である。

最初に国際交流基金(ジャパン・ファウンデーション)の提供を 受けたのは、1996年 3月、ニューヨークのジャパン・ソサエティ で映画をめぐる講演とワークショップを行った時だ。以後、2005 年のテキサス大学オースティン校における日本研究シンポジウム

や 2011年 3月のオスロ大学集中講義、2013 年の第二回国際シン

ポジウムまで、さまざまな機会に後方支援していただいたが、同基 金の企画になるこの日本文学英訳プロジェクト「ロシア語の現代日 本文学アンソロジー・シリーズ」全6巻も忘れるわけにはいかな

い。 沼野充義、 グレゴーリー・チハルシヴィリ両者の監修により、 2004年から刊行が始まり、2005年には「現代日本小説」「現代日 本詩歌」「現代日本 SF小説」「現代日本時代小説」「新しい日本小 説――彼」「新しい日本小説――彼女」の全てが出揃った。

そのうちの「現代日本SF小説」の巻を編纂し、第一世代から第 四世代までの作品からお気に入りを選んだのだから、こんな贅沢な 経験はない。1996年の『この不思議な地球で』が英米SFの最先 端を占うアンソロジーだったとしたら、8年後の本書ではロシア文 学とも拮抗しうる日本 SFの収穫を語るため、序文では戦後日本SF 史簡略版とも呼べる構図をスケッチした。表題作の作者 小松左京、

星新一、筒井康隆らいわゆる第一世代の「御三家」を筆頭に、荒巻 義雄、横田順彌、梶尾真治、山尾悠子、野阿梓、神林長平、大原ま り子、 菅浩江、 牧野修まで、ここに収めた12名の代表的短編は、

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どれも世界 SF水準の傑作と断言できる。

Inostranka Publishers / Japan Foundation, 2004

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『ゴルディアスの結び目―― 現代日本SF傑作選』
小松左京 KADOKAWA、2018年(初出1976年) 『人造美人 ショート・ミステリイ』 星新一 新潮社、1961年
『ゴルディアスの結び目』

『アメリカン・ゴシック傑作選』第一期&第二期

�� 孝之監修 担当編集:中島信彦

アティーナ・プレス、2005年& 2007年

American Gothic (Part 1 [1820-1860 Gothic and Sensational Literature], 7 vols. & Part 2 [1860-1940], 8 vols.)

Athena Press, 2005 & 2007.

長くアメリカン・ルネッサンスの作家たちを研究してくると、こ の時代がアメリカン・ロマンティシズム、転じては北米におけるゴ シック・ロマンスの勃興期であることに気づく。そもそも1848年、 フォックス姉妹がポルターガイスト事件を引き起こしたこの年は、 以下の有名な文章から始まるマルクス=エンゲルス共著の『共産党 宣言』が書かれたのとまったく同年だった――「とある亡霊がヨー ロッパに取り憑いている――共産主義という名の亡霊が」。

そのような経緯に加えて、この系統における監修や編纂の依頼が 相次ぐようになったのは、とりわけ2001年に出したゴシック研究 色の強い文学思想史シリーズ第二作『アメリカン・ソドム』以降で ある。同書にはポーの親友であり当時のベストセラー作家でありな がら現在は埋もれているジョージ・リッパードをめぐる本邦初の論 考もおさめたから、このシリーズ第一期(PartI)にはその代表長 編『クエーカー・シティ』『エンパイア・シティ』をはじめ、ジョン・ ニールやウィリアム・ギルモア・シムズ、リディア・マライア・チャ イルドらを収録した。

さらに第二期には、かつてニューイングランドの古書店で入手し 感銘を受けたルイザ・メイ・オルコットのフェミニスト・ゴシック・ ロマンスの傑作『当世風メフィストフェレス』をはじめ、本邦でも 人気の怪談作家フランシス・マリオン・クロフォードやフィッツ= ジェイムズ・オブライエン、メアリ・ウィルキンズ・フリーマンら を収録した。

こうした監修作業が、2022年の ロジャー・ラックハースト『 ゴ シック全書』の監訳に活かされることになる。

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Fitz James O'Brien 1828-1862 George Lippard 1822-1854 Mary Eleanor Wilkins Freeman 1852-1930 Lydia Maria Child 1802-1880 Louisa May Alcott 1832-1888 William Gilmore Simms 1806-1870
『アメリカン・ゴシック傑作選』第一期&第二期  カタログ提供:アティーナ・プレス

『アメリカの文明と自画像』

シリーズ「アメリカ研究の越境」第1巻 上杉忍と共編

担当編集:富永雅史 ミネルヴァ書房、2006年

1970年代末から参加してきた 日本英文学会や日本アメリカ文学 会に比べると、 �� 孝之がアメリカ学会に参加したの は 1990年代で あり、かなり遅い。 しかし1992年に、北米を代表する映画学者の ニューヨーク大学教授 ロバート・スクラーを迎えた同学会の国際シ ンポジウムに招かれたのを皮切りに、1996年には英文号への寄稿

を 慫慂 され、2004年に年報編集委員長を任されてからは、関わり が深まった。特に1966年創設のアメリカ学会の40周年企画として、

2004年に ミネルヴァ書房から「アメリカ研究の越境」叢書全六巻

を出すのが決まった時には、前編集委員長の上杉忍教授と共に、第 一巻を共編した。その際、「今、世界に君臨しているアメリカは、共 通の過去でなく共通の未来で結ばれる社会として出発し、先住民を 征服し多様な人々を迎え入れながら、独自の文明社会として膨張し てきた」という共通了解の批判的再検討を目的に据えた。

なにしろ21世紀に入って間もない記念企画であるから、新たな アメリカ研究の展望を示すべく、編者にとって最も刺激的な論者に は片端から声をかけたものである。 森本あんり、

前川玲子のような

思想史研究から宮本陽一郎、後藤和彦、新田啓子のような文学研究、 そして 宇野邦一のように トクヴィルや アーレントからアメリカを見 直すフランス文学者の論考まで。

共編者自身の最終章「自画像は炸裂する」は、当時、 シェリー・

フィッシャー・フィッシュキン教授の脱アメリカ的アメリカ研究が 宣言されたばかりの空気を反映して、 環大西洋や

ディープ・タイム い時間」を意識した方法論的展望になっている。

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環太平洋、さらに は「深
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ミネルヴァ書房、2006年

『人造美女は可能か?』

荻野アンナと共編 担当編集:小室佐絵

慶應義塾大学出版会、2006年

2005年12月、慶應義塾大学文学部フランス文学専攻で長く教 鞭を執られ、マラルメやコクトー、ブランショを研究翻訳された立 仙順朗教授の退職記念シンポジウムをもとに編まれた論文集。原動 力は、かつて立仙教授の薫陶を受け、ミシェル・カルージュの『独 身者の機械』に傾倒し、サイバーパンク以降のヴァーチャル・アイ ドルにも造詣が深い経済学部教授・新島進氏(当時は早稲田大学非 常勤講師)。しかし文学史的な人造美女の起源として、この時共通 了解になったのは、むしろドイツ・

ロマン派の E・T・A・ホフマ

ン経由の美しく精巧な自動人形オピンピアやコッペリアであり、ヴ ィリエ・ド・リラダンの『未来のイヴ』であり、そうした文学的系 統を継ぐ英国作家リチャード・コールダーのハイテク人造美女(ガ イノイド)や ALI PROJECT(アリプロ)の「コッペリアの柩」で あり、現代におけるラブドールであった。

シンポジウムではフランス文学者兼芥川賞作家の荻野アンナ氏が メイド姿で、アリプロのヴォーカルでゴシック・ロリータのファッ ションリーダー宝野アリカ氏がステージ衣装で登壇し、フロアには 現役のドラァグ・クイーンも駆けつけ、壇上から指名されて質疑応 答する一幕も。とはいえ、シンポジウムと本書に共通のこのタイト ルを付したのは、立仙教授自身である。「可能か?」には「叶[姉妹] か?」が思い込められていたという。

書籍版にはさらに作家の 茅野裕城子氏によるバービー人形論や SF&ファンタジー評論家の 小谷真理氏による芸者論、 識名章喜氏

によるフリッツ・ラング監督『メトロポリス』論を収録。

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86 慶應義塾大学出版会、2006年

Robot Ghosts and Wired Dreams: Japanese Science Fiction from Origins to Anime.

Co-edited with Christopher Bolton and Istvan Csicsery-Ronay, Jr

Managing Editor: Jason Weidmann

Minneapolis: U of Minnesota P, 2007.

21世紀クール・ジャパンの時代を迎えると、共同研究者の顔ぶ れにもいささかの変化が生じる。

まず、1990年代より編集顧問を務めていた北米の< SF Studies > 誌(SFS)より申し出があったため、若手日本学者クリストファー・ ボルトンと語らい、同誌 2002年11月号で「日本SF特集号」を実現。 スーザン・ネイピア、小谷真理を交えた小松左京インタビューを巻 頭に据え、安部公房の「 SF、この名づけがたきもの」や柴野拓美の「集 団理性の提唱」といった古典的評論の英訳に、中村ミリの夢野久作 『ドグラ・マグラ』論、ネイピアの『新世紀エヴァンゲリオン』論、 ボルトン自身の『機動警察パトレイバー』論まで。�� 自身は日本 SF 第一世代の成立から第四世代までの展開を跡付けた。

この特集号に ミネソタ大学出版局が興味を持ったので、若干の 増補を施し、旧知の レム学者で SFS 編集部の中核 イシュトヴァー ン・チチェリイ= ローナイ・ジュニア を共編者に加えたのが、本 書である。 �� は1981年にイシュトヴァーンが ポーランド語原典

のハンガリー語訳を経て英訳 した レムの「メタファンタジア」を 1984年に日本語訳したという経緯を持つ(現在では国書刊行会の レム・コレクション『高い城・文学エッセイ』[2004年]に収録)。 かくして SFS 特集号の内容を増強するため、新たに東浩紀のSF論 と斎藤環のおたくのセクシャリティ論を収録した。

なお、本書出版の2007年夏にはちょうどアジア初の世界 SF大 会が日本で行われ、ボルトンらを中心に「SF研究、SF教育」なる 日本語パネルが組まれたことを付記しておく。

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88 Minneapolis: U of Minnesota P, 2007.

『D.H.ロレンスとアメリカ/帝国』

冨山太佳夫、立石弘道、宇野邦一と共編 担当編集:佐藤聖、飯田建

慶應義塾出版会、2008年

2004年6月に開催された日本ロレンス協会設立35周年記念大 会プログラムの第二部「D.H.ロレンスと帝国」の内容をもとに構 成され、ネグリ/ハート以降の帝国論を基本に据えた一冊。

記念大会二日目の公開シンポジウム「D.H.ロレンス:アメリカ/ 帝国」(司会・発表:立石弘道、発表:�� 孝之、宇野邦一、大田信良) に登壇した�� は、その時の草稿をもとに、本書第Ⅱ章に「ジャズ・ エイジの帝国」を寄稿。ロレンス『古典アメリカ文学研究』(1923年) が、1920年代アメリカの言説空間におけるハーマン・メルヴィル 再評価運動「メルヴィル・リヴァイヴァル」に果たした貢献を再吟 味した。これはサクヴァン・バーコヴィッチ編『ケンブリッジ版ア メリカ文学史』第5巻(2003年)において 環大西洋批評史の構築

を目指したウィリアム・ケインの超歴史的時代錯誤評価を踏まえた、 21世紀的視点による読解である。異稿の検討から見えてくるのは、 一つには『古典アメリカ文学研究』自体をもう一つの「古典」たら しめた、ロレンスの批評精神における「若さ」。そしてもう一つには、 1920年代アメリカでは最も恐れられていた人種間のエロティック な融合、もとい「新しいアメリカ人像」への眼差しだ。これらの前 提を踏まえ、本論ではロレンス1928年の長編『チャタレイ夫人の 恋人』における近代的人間像の脱構築にも踏み込む。

この寄稿はのちに大幅な加筆改稿を経て単著『モダニズムの惑星』 (2013年)に再録。『チャタレイ夫人の恋人』に潜在したポストヒ ューマニズムの地平が、スピヴァク以降の「来るべき惑星思考」の 構図と共振した瞬間である。

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90 慶應義塾出版会、2008年

『反知性の帝国――アメリカ文学精神史』

担当編集:原信雄

南雲堂、2008年

ジョージ・W・ブッシュ政権下、演説原稿執筆を担当した デイ ヴィッド・フラムは著書『ふさわしい男』(2003年)において、「ブッ シュ政権下のホワイトハウスでは、優れた知能はまったく歓迎され ない」とのたまった。2000年の不正まがいの当選を皮切りに、9・ 11同時多発テロやイラク戦争を経てもなお全米の代表的「知識人」 を寄せ付けず、04年に再選を果たした彼は、まさに「反知性派」 の代表格である。だが、反知性主義が反権威主義と重なるとすれば、 その体現者は必ずしもアメリカにおける少数派ではない。

本書はそんなブッシュ政権下、リチャード・ホフスタッター『ア メリカの反知性主義』(1963年)のレガシーを再検討する共同研究。

大元にあるのは2006年、日本アメリカ学会第45回全国大会にお けるシンポジウム「アメリカ文学と反知性主義」(司会・�� 孝之、講師・

出口菜摘、志村正雄、竹村和子、亀井俊介、於・法政大学市ヶ谷キャ ンパス)。この書籍版には 田中久男、 後藤和彦のお二人に加わって いただき、マーガレット・フラーやハーマン・メルヴィル、マーク・ トウェイン、T・ S・エリオット、ウィリアム・フォークナー、カー

ト・ヴォネガットといった正典の底流に流れる思想を炙り出した。  本企画の意図は、反知性主義が、そして反権威主義転じてアメリ カ独自の「情の技法」が、植民地時代のアン・ハッチンソンの反律 法主義から19世紀ラルフ・ウォールド・エマソンらの超絶主義を 経て現代まで発展を続けているゆえんを探ることである。「危機」 の時代に、反知性主義的伝統をおいてアメリカ独自の「知性」は成 立しうるのか。今こそ切実に問い直されるべき問題が、ここにある。

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92 南雲堂、2008年

『エドガー・アラン・ポーの世紀』

八木敏雄と共編 担当編集:金子靖 研究社、2009年

19世紀アメリカ・ ロマン派を代表する作家エドガー・アラン・ ポーに絞った学会を結成したらどうかという話は、すでに 1980年 代より何度となく持ち上がっていた。しかし、ようやく、本邦にお ける ポー研究と翻訳の最大の権威・ 八木敏雄教授を初代会長に迎

えて準備が整ったのは、2007年のことだ。その二年後にポー生誕 200周年が迫っていたことも、一因であった。もっとも、世界広

ポー学会は少ない。1972年に設立されたアメリカ 合衆国の ポー学会と我が国の日本 ポー学会、2016年に出発したス ペイン・ポー学会の三つに限られる。

本書は、21世紀初頭にできたばかりの日本 ポー学会が総力を結 集し「天才作家は、いまが最も新しい」のキャッチコピーのもとに、

過去の学術的蓄積はもちろん、ポーという詩人・小説家・劇作家・ 批評家・編集者の全体像を包括し、しかもその影響が文学史のみな らず美術史、音楽史にまで及んだ経緯を一気に掬い取った必携書。

執筆陣は、2008年の第一回総会で講演を行ったミステリ作家の 笠 井潔や幻想小説家の西崎憲から、ドビュッシー博士でもあるピアニ ストの青柳いづみこ、名翻訳家の鴻巣友季子、そして学魔・高山宏 まで、多彩を極めた。カバーの銅版画肖像は、国際的芸術家の久保 卓治。刊行されると評判になり、たちまち増刷となった。

なお、北米ポー学会は1999年に第一回国際ポー会議をリッチモ ンドで開催して以来、数年おきにこのシリーズを続行しているが、

2018年には北米側の要請により、日本ポー学会と日本ホーソーン

協会が力を合わせ、国際ポー&ホーソーン会議が京都ガーデンパレ スで開催されたことも、特記しておく。

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しといえども、
94 研究社、2009年

TOKON10 OFFICIAL SOUVENIR BOOK

編集長:�� 孝之 担当編集:おのうちみん

第49回日本SF大会実行委員会、2010年

本書は基本的に、1990年以来20年ぶりに東京で開かれた日本 SF大会の公式プログラム・ブックである。会場は江戸川区のタワ ーホール船堀。内容は実行委員長の立花眞奈美を筆頭に、大会主賓 の夢枕獏、萩尾望都、佐藤嗣麻子、宝野アリカ、岡野栄之など豪華 な布陣を紹介し、テーマとして「首都大会EDO~電脳金魚の大冒 険~」、サブテーマとして「東京 SFファンスロポロジー」を掲げ読 みどころ満載、さらに表紙には新進気鋭のアーティスト YOUCHAN (伊藤優子)の遊び心満載という、極めて贅沢な造りになっている。

編者自身が初めて日本SF大会の運営に関わったのは約40年前、

1982年に赤坂の都市センターホールで開かれた TOKONVIIIだっ

た。26歳。企画担当を務めたが、若気の至りと、背伸びしても届 かない挫折感が残った。その意味で、28年の歳月を経て、小谷真 理と共に顧問として関わり、ジェンダー SF研究会と慶應義塾大学

SF研究会、そして日本最古の歴史をもつ SFファン集会「一の日会」

の全面協力を得たTOKONXは、一種のリベンジだった。

はたして構想した企画は概ね成功を収め、詳細なブックガイド「東

京 SF大全」は日本 SF評論賞出身者チームを中心に、「地域」から SFを考え直す風潮を促進した。その成果は< SFマガジン>2010

年 9月号の小谷真理監修「東京 SF化計画」に始まり、宮野由梨香 他共著『しずおか SF 異次元への扉』(2012年)や岡和田晃編『北 の想像力――<北海道文学>と<北海道 SF>をめぐる思索の旅』

(2014年、第35回日本 SF大賞最終候補)へと批判的発展を見た。

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TOKON10 OFFICIAL SOUVENIR BOOK 第49回日本SF大会実行委員会、2010年

< SFマガジン> 「東京 SF化計画」

小谷真理監修 2010年 9月号 早川書房

『北の想像力―― <北海道文学>と <北海道 SF>を めぐる思索の旅』

岡和田晃編 寿郎社、2014年

『しずおか SF 異次元への扉』 宮野由梨香他共著 静岡県文化財団、 2012年

『HORIZM』35号 慶應義塾大学 SF研究会、 2011年

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Paradoxa No.22: Three Asias

Japan, S.Korea,China.

Co-edited with Jina Kim and Zhang Zhen David Willingham, Paradoxa, 2010.

ワシントン州のデイヴィッド・ウィリンガムから、新しくジャン ル文学専門の研究誌 Para*Doxa を創刊するので編集委員会に加わ るよう要請されたのは、1995年のことだ。この誌名は逆説や珍説 ばかりでなく、同じく編集委員のサミュエル・ディレイニーの提唱 するパラ文学、つまり主流文学と逆説的関係を結ぶ「もうひとつの 文学」としての SFにも通ずるので、さっそく承諾した。創刊翌年 の号にはウィリアム・ギブスンの 90年代「橋三部作」第一作『ヴァー チャル・ライト』(1993年)をめぐる論考を寄稿。以後、同誌は 年2回刊行のペースで順調に発展し、スパイ小説やグラフィックノ ヴェル、アフリカ SF、南米思弁小説、気象小説、ニュー・ウィアー ド小説など、次々に興味深い特集を組んで行く。

折も折、21世紀に入り 惑 プラネタリティ 星思考 やトランスナショナリズムの理 論が勃興する中で、編集部より「三つのアジア――日本、韓国、中国」 という特集号を共同編集してくれないかという要請があり、日本部 門を担当。早速、日本研究の新進気鋭による卓越した論稿が集まる。

メアリ・ナイトンの湯浅克衛論やウィリアム・ガードナーの小松左 京&筒井康隆論、ゲイル・サトウのカレン・テイ・ヤマシタ論、レベッ カ・スーターの辰己ヨシヒロ論まで。韓国部門でも映画論が隆盛を 見せ、中国部門ではヒップホップまでが射程に収められた。のちの 2019年にセージ社の Transpacific Cultural Studies 全四巻を――とり

わけ最終巻「クール・アジア」を――編纂する際に、この時の編集 経験が役立ったのは、言うを俟たない。

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Paradoxa, 2010.

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『3・ 11の未来――日本・ SF・創造力』

笠井潔と共同監修、海老原豊、藤田直哉編 担当編集:福田隆雄

作品社、2011年

2011年 3月 11日は同年の�� ゼミの追いコンが予定されていた。

卒業式も終わっていない時期だが、翌日にはノルウェイはオスロ大 学東アジア学科における集中講義へ発たねばならなかったのだ。だ

が、折からの東日本大震災により追いコンは中止された。けれども、 すでに国際交流基金によってお膳立てが整っていたため、出発を遅 らせても集中講義は行う決断を下した。かくして 3月 14日朝に成

田から離陸した直後、機体が東北上空に差し掛かった瞬間は、福島 原発の水素爆発と、ほぼ共振していた。

以後二週間にわたる集中講義を終えて帰国するや否や、笠井潔の 招集で、日本 SF評論賞出身の編者二名とのミーティングが持たれ、

実質的に

日本 SF作家クラブ中心に、

3・11に対して SFからの応

答責任を果たす一冊を大至急世に問うことが決まる。

その結果、 豊田有恒や 山田正紀、 森下一仁、 瀬名秀明、 谷甲州、

新井素子、小谷真理、海外からも日本研究の俊英スーザン・ネイピ アやクリストファー・ボルトンといった面々が揃ったが、わけても 重要だったのは電力会社側が原発推進キャンペーンのために数多く の作家や文化人を巻き込んできたことを、当事者たる大原まり子が 赤裸々に語ったことだろう。

ちなみに巻頭には『復活の日』(1964年)や『日本沈没』(1973 年)といった恐るべき予言的小説の著者・ 小松左京が

3・11を目

撃した後続世代に対し「事実の検証と想像力をフル稼働させて、次

の世代の文明に新たなメッセージを与えるような創造力」を期待す るテクストが書き下ろされ、これが絶筆となった。

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100 作品社、2011年

『現代作家ガイド 6 カート・ヴォネガット』

�� 孝之監修、伊藤優子編 担当編集:若田純子

彩流社、2012年

1996年に始まった彩流社の「現代作家ガイド」シリーズは、オ ースター、 エリクソン、 ギブスン、 モリスン、 アトウッドと続き、 16年後のヴォネガットでやっと第6巻。 現代作家というにはかな り年配ではあるものの、急遽このラインアップに組み込んだのは、 作家が没した直後に監修した< SFマガジン>2007年9月号の追 悼特集号がたちまち売り切れてしまったからだ。そこで、たまたま ヴォネガットで博論執筆中だった永野文香君の協力と作家愛に満ち

た YOUCHANの挿絵と文章を得て、追悼特集号の徹底増補版とも 言える本書が出来上がった。 全作品解説、力作論考群に加え1984 年来日時の大江健三郎との対談も再掲した充実の陣容である。  監修者が初めて手にしたヴォネガットは、中学入学早々手にした 伊藤典夫訳『猫のゆりかご』ハヤカワノヴェルズ版初版(1968年)。 かつてサリンジャーの野崎孝訳の文体が庄司薫へ影響を与えたよう

に、この時の伊藤文体が、村上春樹らわが国のポストモダン作家へ 与えた影響は測り知れない。そして今や、英訳の相次ぐ日本作家に 影響を受けた英米作家が続々登場しており、現代文学は世界的に循 環し連環し続けている。

そんなことを感じていたある日、本書を熟読したという東大の院 生が監修者の研究室でロング・インタビューを行った。やがてその 内容は博論に組み込まれ、邵丹氏の第一著書『翻訳を産む文学、文 学を産む翻訳――藤本和子、村上春樹、SF小説家と複数の訳者たち』

(松柏社、2022年)となり、サントリー学芸賞を受賞した。文学研 究もまた、国を超え言語を超えた循環を続けてやむことがない。

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『現代作家ガイド 6 カート・ヴォネガット』

彩流社、2012年

< SFマガジン>2007年9月号 早川書房、2007年

(左)筒井康隆 (中央)�� 孝之 (右)カート・ヴォネガット  第47回国際ペン東京大会  新宿京王プラザホテル

1984年5月

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“Parallel Futures” series

University of Minnesota Press

Co-supervised with Thomas Lamarre

Chiaki KAWAMATA, Death Sentences (2012)

Yoshio ARAMAKI, The Sacred Era (2017)

Mariko Ohara, Hybrid Child: a Novel (2018)

2006年は、北米に日本のサブカルチャーに特化して研究する拠 点として、年刊学術誌『メカデミア』(Mechademia)が誕生した年

であった。版元はミネソタ大学出版局、編集長はミネソタ芸術大学 教授フレンチー・ラニング。編集委員会には現在シカゴ大学教授の トマス・ラマールやウィリアムズ大学教授のクリストファー・ボル トンが入り、�� や小谷真理の論考も少なからず掲載された。  同誌の成功に乗じて同社から浮上したのが、英語圏に紹介すべき 現代日本小説の英訳企画である。�� とラマールは1997年以来、国 内外における国際会議、とりわけ国際江戸川乱歩会議でしばしば同 席してきた盟友であり、企画は速やかに進んだ。第一弾は、すで にカズコ・ベアレンズの下訳のあった川又千秋の代表作にして第5 回日本 SF大賞受賞作『幻詩狩り』(原著1984年)にラマールが手 を入れ、2012年に刊行。折しも日本SF作家クラブ創立 50周年の 前年だったため、一種のキックオフとして、城西国際大学を会場に、 『幻詩狩り』をめぐる国際シンポジウムも行った。

同書の評判が良かったため同社が提案したのが、�� とラマール両 者を編集顧問とする、この「並行未来」シリーズだ。我が国ニュー ウェーヴSFの草分け荒巻義雄の最高傑作『神聖代』(1978年)を ミネソタ大学准教授バリオン・ポサダスが、日本におけるサイバー パンク&サイボーグ・フェミニズムを体現する 大原まり子の第 22

回星雲賞受賞作『ハイブリッド・チャイルド』(原著1990年)を 翻訳家ジョディ・ベックが英訳し、思弁小説研究の俊英レイチェル・ コルダスコから高い評価を受けている。

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Death Sentences

Chiaki KAWAMATA

University of Minnesota Press, 2012. (右) 『幻詩狩り』 川又千秋 中央公論社、1984年 (左)

The Sacred Era

Yoshio ARAMAKI

University of Minnesota Press, 2017. (右) 『神聖代』 荒巻義雄 徳間書店、1978年 (左)

Hybrid Child: a Novel

Mariko Ohara

University of Minnesota Press, 2018. (右) 『ハイブリッド・ チャイルド』 大原まり子 早川書房、1990年

104
(左)

1.『世界の SFがやって来た!――ニッポンコン・ファイル2007』

小松左京監修、�� 孝之&乙部順子共編、日本 SF作家クラブ編 角川春樹事務所、2008年

2.『国際SFシンポジウム全記録――冷戦以後から 3.11以後へ』

孝之監修、日本 SF作家クラブ編 担当編集:高梨治 彩流社、2015年

1963年の日本SF作家クラブ(SFWJ)結成以降、最大の仕掛け 人の< SFマガジン>初代編集長・福島正実(1929-76年)が温め ていたクラブ主催による国際SFシンポジウムは、1970年に 小松 左京実行委員長によって実現した。

やがて1980年を境に「ジャパン・アズ・ナンバーワン」「パ ックス・ジャポニカ」と呼ばれるほどに日本の経済力が増大し、 1990年を境にバブル景気がピークを迎える過程で、北米では「日 本が世界 SF大会を主催する可能性はないのか」と尋ねられること が増える。かくして、日本の SFファンダムとプロダム(SFWJ)が 手を合わせ、大会主賓にはデイヴィッド・ブリンのほか小松氏と柴 野拓美氏を迎えて2007年に第65回世界SF大会が実現した。そ の全貌は膨大になるため、SFWJ 側主導の企画に限った全記録『世 界の SFがやって来た!』を�� と小松左京事務所イオの乙部順子が まとめた。第40回星雲賞ノンフィクション部門賞受賞。

一方、SFWJ が第2回国際SFシンポジウムを主催することにな ったのは、第16代会長 瀬名秀明がクラブ50周年記念行事として 発案したことによる。実行委員長として�� が指名され、国際交流基 金の援助を得て、北米からパット・マーフィとパオロ・バチガルピ、 中国から呉岩、フランスからドゥニ・タヤンディエーを招聘、広島 から大阪、京都、名古屋、東京、福島に及ぶ各会場をキャラバンし た。その成果を、同じく�� と乙部が中心となり、第一回の資料と合 わせて集大成したのが『国際 SFシンポジウム全記録』である。

105
��

『世界の SFがやって来た!―― ニッポンコン・ファイル2007』

角川春樹事務所、2008年

第65回世界SF大会&第46回日本SF大会 パシフィコ横浜

2007年9月1日

『国際SFシンポジウム全記録――

冷戦以後から 3.11以後へ』

彩流社、2015年

第2回国際SFシンポジウム 東京大会 城西国際大学

2013年7月27日

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『定本 荒巻義雄メタ SF全集』

全7巻+別巻

三浦祐嗣と共同編纂

担当編集:高梨治 彩流社、2014年-15年

2013年7月に日本SF作家クラブ50周年を祝う第二回国際SF シンポジウムが開催され、その総括『国際 SFシンポジウム全記録』 の編集を彩流社に依頼したあたりから、敏腕編集者・高梨治氏(現・ 小鳥遊書房)との交流が始まった。2014年2月に札幌の北海道立 文学館で荒巻義雄展が開催されたころ、SNSで高梨氏が「全集とい うものを編集してみたい」と発言し、「 荒巻義雄全集はどうか」と 応答したのが多くの支持を得て、企画が立ち上がった。

日本SF第一世代ではすでに

筒井康隆全集や 小松左京全集の前例 がある。だが、とりわけ 1960年代、J・G・バラードらのニューウェー

ヴ運動を承けた荒巻義雄初期の画期的な思弁小説が、文学館のテー マになるほどなのに文庫ですら入手困難というのはいただけない。

傑作短中編群「白壁の文字は夕陽に映える」「大いなる正午」「緑の 太陽」「トロピカル」から連作集『時の葦舟』、長編小説『白き日旅 立てば不死』『神聖代』まで、その マニエリスム的想像力の水準は 21世紀の世界 SFとも、依然として互角なのだから。

かくして、各巻に詳細な解説と月報を付し、作家自身もこの企画 実現のため旧稿に手を入れた、文字通りの「定本」が出来上がった。 月報には著者の英語圏デビュー作「柔らかい時計」の共訳者コンビ、 現ニューヨーク州立大学准教授カズコ・ベアレンズと元サイバーパ ンク作家ルイス・シャイナーの寄稿も収録。

第36回日本SF大賞最終候補。その7年後、著者は2021年、

88歳で刊行した新著『SFする思考

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荒巻義雄評論集成』( 小鳥遊 書房)で第 43回日本SF大賞受賞。

SF全集』第1巻 彩流社、2014年 解説:�� 孝之

『定本 荒巻義雄メタ SF全集』 彩流社、2014年-15年

108 『定本 荒巻義雄メタ

担当編集:高梨治 彩流社、2016年

編者の父である上智大学名誉教授の遺稿集。やや古風なタイトル は、晩年の単著『人生の意味』(南窓社、1985年)、『人生の風景』(南 窓社、1998年)と合わせ三部作となるよう調整した結果である。  著者は1916年(大正5年)9月12日東京・赤坂生まれ。横浜 正金銀行ロンドン支店長・�� 孝之丞(たつみ・こうのじょう)と繁 子の三男。洗礼名洗者ヨハネ。

1940年、東京大学文学部英文科卒業。兵役を経て 1946年より 上智大学に奉職。上智大学文学部英文学科長、上智短期大学英語科 長を歴任。退職後は東京工科大学工学部一般教養学系主任教授。専

門は十九世紀英文学とカトリシズム。とくにオクスフォード運動の 指導者 ジョン・ヘンリー・ニューマン枢機卿の主著『アポロギア』

の本邦初訳( エンデルレ書店、1948-58年)で知られ、日本ニュ ーマン協会会長も務める。その他の翻訳にニコラス・ロゲン『イギ リス文学史』、 イーヴリン・ウォー『夜霧と閃光ーーエドマンド・ キャンピオン伝』、エリザベス・ギャスケル『ルース』など多数。

2004年11月10日、瑞宝小綬章受章。

2013年12月9日逝去。享年97。

その業績を偲んで本書を計画し、著者が晩年継続的に探究してい たオースティンやトロロープ、ディケンズら ヴィクトリア朝英文 学における紳士像をめぐる論考を中心に据えた。

2016年11月6日には、本書刊行に合わせ、上智大学英文学科 同窓会主催で「�� 豊彦名誉教授生誕百周年記念シンポジウム」(講師: ピーター・ミルワード、小谷真理、三好洋子、�� 孝之、司会:吉田 紀容美)が開かれた(2号館5階508教室)。

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�� 豊彦『人生の住処』
�� 孝之編集
110 『人生の意味』 南窓社、1985年 『人生の風景』 南窓社、1998年 �� 豊彦名誉教授 生誕百周年記念シンポジウム 上智大学英文学科同窓会主催 2016年11月 6日 �� 豊彦『人生の住処』 彩流社、2016年

富士見高原愛好会編、�� 孝之監修

担当編集:高梨治 彩流社、2017年 序文「愛好会五十年―― ある避暑地の文化史」(1-4頁)担当

いまや「避暑地」という単語も死語の部類だろうか。

しかし昭和中期には、作家や芸術家、学者研究者が夏休みに仕 事のしやすい避暑地を求め、別荘を建てることが珍しくなかった。

2011年の 3・11東日本大震災や2020年以後のコロナ禍以後には、 避暑地ならぬ避難地としての別荘を求める傾向も認められる。

監修者の父・�� 豊彦が長野県諏訪郡富士見町に絶好の避暑地を見 出したのは 1965年。同地に集う別荘族がセメント工場建設への反 対運動を組織し、元厚生大臣の山縣勝見氏を初代会長に、富士見高 原愛好会を立ち上げたのが1966年、会報創刊が1967年。以後、 父が同会の編集委員や副会長などを務めてきたため、監修者は小学 生の頃から、毎年夏休みには愛好会の活動になじんできた。それが 2013年には第6代会長である「民法の神様」星野英一先生が急逝 されたことで、2014年には第7代会長に選出され、2017年には 50周年記念出版を企画監修することになった。

同会はすでに1985年、アララギ派の研究など文学的傾向の強い 発足20周年記念出版『富士見高原――その詩その小説そして』(鳥 影社)を出しているが、続く本書は、会報バックナンバー半世紀分 をもとに、自然環境運動や富士見高原夏季大学をも含む多様な活動 を洗い直し、避暑地をめぐる貴重な文化史を織り紡ぐ。

今日に至るまで、富士見高原にはマクドナルドもスターバックス も存在しない。だが、避暑地の起源を成す犬養毅(木堂)元首相の 白林荘(1924年建立)や堀辰雄が著し宮崎駿がアニメ化した『風 立ちぬ』(1938年)は、いまも語り継がれている。

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『富士見高原――環境と文化の50年』

『富士見高原――環境と文化の50年』 彩流社、2017年

『富士見高原―― その詩その小説そして』鳥 鳥影社、1985年

避暑地の文化史

―富士見高原愛好会の 50 年― 富士見高原夏季大学 、2017年

富士見高原愛好会 会報 第55号 富士見高原愛好会、2022年

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『教室の英文学』

日本英文学会(関東支部)編 担当編集:津田正&高野渉 研究社、2017年

序論第2章「今、日本で、アメリカ文学にどう取り組むか?―― 学問と批評のインターフェイス」(10-20頁)担当

日本英文学会は1928年の発足以来、我が国における英語英米文 学研究を促進してきた最大組織である。�� は1984年に同学会の第7

回新人賞を受賞して以来、1995年からは編集委員を、2004年から は理事を務めた。ちょうどそのころ、文科省の要請により同学会は 全国各地に支部を設け財団法人化せねばならなくなったので、2006 年にはその一環で関東支部が誕生。2007年には第一回支部大会が開 かれ2008年には全国の支部を束ねる支部統合号が創刊された。

本書は、そうした新体制から約十年を経て、当時の関東支部長・ 原田範行氏の主導で目論まれた英語英米文学教育の必携である。当

時は2015年に政府が通称戦争法案(安全保障関連法案)を成立させ、

国公立大学を中心に人文系や教育系の抑圧が始まっていた。

そんな危機の時代に、第一線で活躍する学者研究者が、一般読者

をも見据えて「英語力のない学生にいかに文学テキストを読ませる か」「英米文学でいかに社会や表象文化を教えるか」といった問題 意識の下、詩や小説、戯曲から批評に至るまで、可能な限りそれぞ れの専門をわかりやすく語ったのが、本書である。

序論は二部構成。第1章「今、日本で英文学にどう取り組むか?」

アメリカ文学にどう取り組むか?――学問と批評のインターフェ イス」を�� が担当。新批評以後の文学教育で金科玉条とされる “close reading” とその邦訳「精読」のズレの認識から、17世紀以来の『ニ ューイングランド初等読本』に立ち返り、識字教育がいかに文学 力獲得へ反映したかを考察した。

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ディケンズの世界的権威・ 佐々木徹 が、第2章「今、日本で、
114 研究社、2017年

『上智英文90年』

高柳俊一と共同監修

上智大学文学部英文学科同窓会編

担当編集:高梨治 彩流社、2018年

2013年、上智大学は創立百年を迎えたが、ちょうどこの年の 12月、戦後から長く上智大学文学部英文学科及び同大学院で教鞭 を執り、上智短期大学では英語学科長を務めた名誉教授・�� 豊彦が 亡くなった。ヴィクトリア朝英文学を専攻し、とりわけオックス フォード運動の立役者ジョン・ヘンリー・ニューマン枢機卿の研究 では本邦の第一人者であったが、その晩年の教え子の一人である平 野由紀子の提案で、同年暮れには同窓会が組織され、学部・大学院 の卒業生である�� 孝之が初代会長に推挙された。

当初はピーター・ミルワード教授らの講演会を中心に活動したも のの、学科自体の創設90年を節目に、その歴史と教授陣を振り返 る企画が持ち上がり、都留文科大学教授の加藤めぐみを編集長に据 えた編集委員会を結成。

上智大学英文学科の最大の特徴は、比較文学のヨゼフ・ロゲンド ルフ教授やウィリアム・カリー教授、イギリス文学のピーター・ミ ルワード教授、アメリカ文学のフランシス・マシー教授など、イエ ズス会に所属する学匠司祭が多く教鞭を執るとともに、英語学の渡 部昇一教授やヨーロッパ文学の高柳俊一教授のように、欧米で博士 号を取得し国際的に知られる学者を擁したことだろう。その結果、

1970年代には黄金時代と呼ばれるほどの知的活況を呈した。かく して本書も、教え子である同窓会員有志の分担により、イギリス文 学の

アメリカ文学の刈田元司教授、佐多真徳教授、秋山健教授に及ぶファ カルティの業績と横顔を網羅し、上智英文の特色と可能性を凝縮し た総覧が出来上がった。

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中野記偉教授、 安西徹雄教授、 生地竹郎教授、 別宮貞徳教授、
116 彩流社、2018年

The Routledge Companion to Transnational American Studies.

Co-edited with Nina Morgan and Alfred Hornung

Managing Editor: Fiona Hudson Gabuya

Routledge, 2019.

2001年、いわゆる9・ 11同時多発テロによって世界が震撼し た後、アメリカ研究は確実に変わった。 ガヤトリ・ スピヴァクの 「惑 プラネタリティ 星思考」(2003年)やグレッチェン・マーフィの「半球的想像 力」、ワイ・チー・ディモクの「深 ディープ・タイム い時間」(2006年)などは、旧

来のアメリカ研究を着実に脱中心化した。とりわけ2004年に、北 米アメリカ学会の会長講演でシェリー・フィッシャー・フィッシュ キンが提唱した、アメリカ外部の視点を重視する「脱アメリカ的ア メリカ研究」(Transnational American Studies

Journal of Transnational American Studies(JTAS)の創

)は、2009年における 新たな学術誌

刊を促して順調に発展し、2019年にはこの方法論による優秀論文 を顕彰する年次フィッシュキン賞も設立された。

本書は JTAS 創刊の頃から長く編集委員を務めたケネソー大学教授 ニーナ・モーガン、ドイツのマインツ大学教授 アルフレッド・ホー ヌングと �� の三名が、力作論文を募って編纂した必携である。序文 ではオバマ大統領の民主主義がアフリカの ネルソン・マンデラ経由

であることが強調され、ホーヌングはそもそも建国の父祖たちの霊 感源が儒教であったことを、 �� は南部作家 フォークナーと日本作家

小松左京が敗戦の想像力によって共振していたことを論証している。

発刊直後には、2019年11月にハワイで開かれたアメリカ学会 年次大会と、12月に東京で開かれた慶應義塾アメリカ学会第一回 総会で、それぞれ記念シンポジウムが開かれた。

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Routledge, 2019.

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『アメリカン・マインドの音声――

文学・外傷・身体』

下河辺美知子監修、高瀬佑子、日比野啓、舌津智之と共編

担当編集:高梨治 小鳥遊書房、2019年

成蹊大学で長く教鞭を執り、科研費共同研究のリーダーとしても 数々の成果を挙げてきた下河辺美知子氏の定年退職を機に編まれた 記 フェストシュリフト

念論文集。多彩な執筆者たちと下河辺氏が共にしてきた「 祝

フェスト 祭 」

としての時空間と、そこに響く多様な「声」をテーマに、もう一つ の「祝祭空間」を演出することを目指した一冊である。三部構成の うちに全10編の論文が収録されているほか、下河辺氏自身による 書評・劇評集成や同僚・村山敏勝氏への追悼文、および氏が文学部 の責務と弾力性を論じたエッセイ「ショートターム的思考の呪詛に 抗って」を収録した特集「言葉を届ける」をも含む。

下河辺氏とは30年来学会活動を共にしてきた�� の寄稿は、序文

「セオリー狂騒曲――極東における受容と変容」と、捕鯨都市セイ ラムを媒介としてホーソーンとメルヴィルの師弟が見せた芸術的共 振を探る論文「声なき絶叫――「税関」を通って『白鯨』へ」の二編。

中でも本書の前提を成す序文は、 ポスト構造主義以降の批評理 論が隆盛しつつあった1970年代末から80年代にかけての我が国 が、具体的には日本アメリカ文学会東京支部がいかに「理論の受容」 と「理論への抵抗」の論争に明け暮れていたかを再現する。脱構築 華やかなりし84年にコーネル大学へ留学しジョナサン・カラーに 師事した �� と、「 ポール・ ド・マン事件」以降のスキャンダルが学 会を席巻していた88年にイエール大学へ留学しショシャナ・フェ ルマンから多くを吸収した下河辺氏の間の理論的分水嶺も明かされ る。日本アメリカ文学会が未曾有の知的激震に見舞われていた時代 とその後をめぐる、これは一つの歴史的証言である。

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小鳥遊書房、2019年

Trans-Pacific Cultural Studies. 4 Vols.

Ed. Takayuki Tatsumi.

Shelley Fisher Fishkin, “Preface.”

Volume 1: Trans-Pacific Americanism

Volume 2: Trans-Pacific Literary Studies

Volume 3: SF / Cyber Culture

Volume 4: Cool Asia

担当編集:小森高朗 SAGE Publications, 2019.

一人の書き手の執筆歴で「驚異の年」(annus mirabilis)は必ずし

も多くはない。だが1995年度は『ニュー・アメリカニズム』を筆 頭とする単著三冊に編訳書『 アヴァン・ポップ』が出た年だった。 そして2019年は『ニュー・アメリカニズム増補決定版』に加え、

英語圏の共編著 The Routledge Companion to Transnational American Studies と編著 Cyberpunk in a Transnational Context が、さらには

Trans-Pacific Cultural Studies(Sage)全四巻が出揃った年だった。どち らも驚異の年というほかない。

原動力になったのは、ラウトリッジ社の共編著を実現した JTAS (脱アメリカ的アメリカ研究誌)編集委員会での十年に及ぶ経験だ が、セージ社の要請は論文選全四巻だから要求水準が高い。しかし 全体のテーマを環太平洋的文化研究に定め、内訳を第一巻「環太平 洋的アメリカニズム」、第二巻「環太平洋文学研究」、第三巻「SF / 電脳文化」、第四巻「 クール・アジア」に振り分けてみると、不思 議なことが起こった。これまで編者自身がそれぞれのトピックで莫 大な論文を読破してきただけに、各巻に入れたい論文候補が次々に 浮かび上がってきたのだ。かくしてアメリカ文学研究から日米比較 研究、SF研究、オタク文化研究まで珠玉の論考全55本を選び出し、 四巻各巻に詳細な序文を付して、編纂が完了した。

全巻共通の緒言はもちろん JTAS 創始者シェリー・フィッシャー・ フィッシュキン教授。

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Volume 1: Trans-Pacific Americanism Volume 2: Trans-Pacific Literary Studies Volume 3: SF / Cyber Culture Volume 4: Cool Asia

1. Cyberpunk in a Transnational Context.

Ed. Takayuki Tatsumi.

Managing Editor: Colin Chen, MDPI, 2019.

2. William Gibson and the Futures of Contemporary Culture.

Ed. Mitch R. Murray and Mathias Nilges. University of Iowa Press, 2021. Takayuki Tatsumi, “The Difference Engine in a post-Enlightenment Context: Franklin, Emerson, Gibson & Sterling” (pp. 81-94)

1988年に『サイバーパンク・アメリカ』を上梓した時にはまだ

この「運動」は進行中だったが、スターリングによれば、その開始 は1985年で終結は1991年。だが21世紀を迎え、2017年には 映画『ブレードランナー2049』とハリウッド実写版『攻殻機動隊』 が公開され、2021年には『マトリックス・レザレクションズ』が シリーズ第四作として製作されるなど、30年ぶりの サイバーパン

ク・ブーム再燃の兆が見られる。そんな時代にスイスのウェブ学術 誌 ARTS が特集をしたいというので論文を公募したところ、マイク・ モッシャーの西海岸対抗文化的言説分析からフレンチー・ラニング の映像空間研究、ドゥニ・タヤンディエーの日本 SF考察までグロー

バルな視点から力作が集まった。その結果は大好評で、ハードコピー 版も販売に至ったのが本書である。

なお、この時期は編者自身にとってもサイバーパンクを再考する 機縁となった。カナダの聖フランシスコ・ザビエル大学教授マシア ス・ニルジェスからの依頼で、ウィリアム・ギブスン作品をめぐる 包括的な共同研究への参加を要請されたため、2018年に上智大学 ヨーロッパ研究所主催の『フランケンシュタイン』出版200周年 記念国際シンポジウムで読んだ論考を徹底改稿した。ギブスン&ス ターリングの共作長編『ディファレンス・エンジン』とベンジャミ ン・フランクリンやイマニュエル・カントに代表される啓蒙主義及 びラルフ・ウォルドー・エマソンに象徴される超越主義の関連をめ ぐるこの環大西洋文学思想史的論考は、現時点における著者のサイ バーパンク研究の集大成と言える。

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Cyberpunk in a Transnational Context. MDPI, 2019.

William Gibson and the Futures of Contemporary Culture. University of Iowa Press, 2021.

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『世界物語大事典』 ローラ・ミラー編

�� 孝之日本語版監修、越前敏弥監訳

担当編集:樋口真理 三省堂、2019年

原題は “Literary Wonderlands” だから、直訳すれば「文学作品に現 れる不思議の国」とでもなろうか。にもかかわらずこの邦題になっ たのは、このところ世界文学を促進するブームが再燃しており、 三 省堂書店はこの前年に大図鑑シリーズの一環として ジェイムズ・キ

ャントン著の The Literature Book を同じ監訳者のもと、 沼野充義氏

を監修者に据え「世界文学大図鑑」のタイトルで刊行しているからだ。

しかし、原題がそうだからといって、本書に登場するのはアリス の「不思議の国」やピーター・パンの「ネヴァーランド」、Kが彷 徨する「城」やアスランが君臨する「ナルニア」ばかりではない。

むしろこの「不思議の国」は、ギルガメシュ叙事詩からセルバンテ スやシェイクスピアを潜り抜け、ガルシア=マルケスのラテンアメ リカにおける魔術的リアリズム共同体からウィリアム・ギブスンの サイバーパンクにおける電 サイバースペース 脳空間に至るまで、もはや現実と峻別し えないほど現代人の血肉になってしまった想像世界の地理学、いわ ば「虚構の歩き方」を指南するものなのである。

監訳者の 越前敏弥氏は ダン・ブラウンの『ダヴィンチ・コード』

など大ベストセラーで知られ、翻訳講座で教鞭を執るほどの人気翻 訳家であり、刊行後には監修者と<図書新聞>紙上対談も行った。 もともと彼の翻訳を愛読してきた監修者にとって、この仕事はまこ とに楽しい日々だった。プログレッシヴ・ロックの知識を要求され る部分もあり、原著で「キング・クリムゾンの宮殿」と誤記された アルバム名を監修者が修正する一幕もあった。

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『ダ・ヴィンチ』2020年 3月号にて「ひとめ惚れ大賞」受賞。
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『よくわかるアメリカ文化史』

宇沢美子と共編 担当編集:河野菜穂

ミネルヴァ書房、2020年

本書は、アメリカ文化をめぐる「形」と「物語」を折り重ねてい くことで、立体的なアメリカ文化図像を提示する「やわらかアカデ ミズム・<わかる>シリーズ」の一冊。第一部から第四部は近代国 家以前から南北戦争以前・以降を通じて20世紀に至るまでの時代 によって区分されているほか、第五部には「戦争と環境」、第六部 には「環太平洋的ヴィジョン」といった具合に、最新の研究テーマ がちりばめられている。各部のもとに収められた章を合計すると全 22章に及び、1章ごとにいくつかのセクションを内包している。

だが、そもそも「文化」とは何か?序章では、 ハインラインの 『夏への扉』(1957年)に登場する家庭内ロボット “Hired Girl” の 福島正実による名訳「文化女中器」を引き合いに出し、1950年 代パクス・アメリカーナの影響を再確認する。そして1980年 代以降に勃興した新保守派 アラン・ブルームらの60年代ラディ カリズム批判とともに、 マシュー・アーノルド『教養と無秩序』 (1869年)における文化革命リベラリズムの萌芽にも目配りし、

「 外 ゼノフォビア 部/他者への恐怖感 」や「 反知性主義」といった文脈で再評価 されるべきアメリカ文化の存在を確認する。

多士済済の寄稿を得た本書には、米比戦争における「アメリカ敗 戦」の記憶や第二次世界大戦終結がアジア系アメリカ文学に与えた 影響など、旧来のアメリカ文化史には含まれなかった視点も数多い。

二人の共編者は、1982年以来40年以上、、慶應義塾大学で研究 教育をともにしてきた最も長い同僚同士。にもかかわらずというか、

満を持してというべきか、これが初めての共編著になる。

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ミネルヴァ書房、2020年

Mechademia: Second Arc (the special “Science Fiction” issue).

Vol.14, No.1 , Fall 2021.

Science Fiction

Guest editor, Takayuki Tatsumi University of Minnesota Press, 2021.

ミネソタ大学出版局が日本のサブカルチャー研究誌『メカデミア』 を創刊した2006年の翌年2007年。東洋初の世界 SF大会が横浜で

開かれ、同誌ゆかりの若手日本学者が多数来日し、以後、日本のマ ンガ&アニメの研究や現代小説の英訳に拍車がかかる。編者や 小谷 真理も創刊号への 小松左京/モリ・ミノル論や第二号の コスプレ論

など、しばしば寄稿してきた。けれどもその14年後、自分自身が SF特集号の責任編集を務めることになるとは、夢にも思わなかった。

きっかけは

2017年、ミネアポリスでメカデミア国際会議が開か れ、基調講演者として招聘された時に遡る。この時に、フレンチー・ ラニング編集長から、日本 SF特集号の可能性を打診されたのだ。編

者はもともと、2000年に『日本 SF論争史』を編む前から、ダルコ・ スーヴィン教授から、英語圏に日本 SF批評の代表的論考を順次翻訳 紹介していく計画を吹き込まれていたので、絶好のチャンスだった。

これまで

山野浩一や

柴野拓美/小隅黎の論文が英訳されてきたもの の、それだけでは足りない。そこで本誌特集号では 小松左京「拝啓

イワン・エフレーモフ様」から荒巻義雄「術の小説論」、野阿梓「花 咲く娘たちのミステリ」、 小谷真理「無垢の将校――『イノセンス』

を読む」に至るまでを訳出した。それに加え、 ブライアン・ホワイ

トの 飛浩隆論、 長澤唯史と ドゥニ・タヤンディエーそれぞれの視点 からする日本SF史、ジェニファー・ロバートソンのロボット演劇論 まで、力作論考がずらりと並んだ。

本特集号をもって、日本 SFをトランスナショナルな視野から読み 解く準備作業は充分に整ったものと確信する。

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Mechademia: Second Arc Vol.14, No.1 , Fall 2021. Science Fiction University

Minnesota Press, 2021.

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of Mechademia 1: Emerging Worlds of Anime And Manga University of Minnesota Press, 2006. Mechademia 2: Networks of Desire University of Minnesota Press, 2007. Mechademia 3: Limits of the Human University of Minnesota Press, 2008. Mechademia 4: War/Time University of Minnesota Press, 2009.

ロジャー・ラックハースト

『ヴィジュアル版 ゴシック全書』

�� 孝之日本語版監修、大槻敦子訳 原書房、2022年

現代イギリスを代表する文学史家にして文化史家のロジャー・ラ ックハーストに初めて会ったのは、2012年11月にドイツはドル トムント市で行われた第一回フィリップ・K・ディック国際会議の 席上である。21世紀的視点から革新的な文学史観をもたらすその 仕事にはかねがね敬意を抱いていたから、これはうれしい邂逅だっ た。特に同年に彼が出版した意欲作『ミイラの呪い――ダーク・フ ァンタジーをめぐる真の歴史』は、1912年のタイタニック号沈没 はエジプト第十八王朝の女王ハトシェプストのミイラの棺を運んで いたためであり、その背後には棺が長く属していた大英博物館その もののゴシック的想像力が介在すると断じたスリリングな業績だっ た。そんな彼が、以後、ほぼ十年の歳月を費やして刊行した力業が 本書である。

ヴィジュアル満載の内容を一瞥した読者は、本書に今日で言う SFやホラー、我が国の『 ゴジラ』に象徴される怪獣映画までがふ んだんに盛り込まれているのに一驚するだろう。だが、ふりかえっ てみれば、ゴシック文学の代表作であるメアリ・シェリーの『フラ ンケンシュタイン』(1818年)はホラーや SFの起源であり、人造

人間が制作者たる人間の制御をいつしか超えて自走し始める物語だ った。その意味で、著者が最新のゴシック的イメージを、中国系ア メリカ人 SF作家テッド・チャンが斬新に描く未知との遭遇物語「あ なたの人生の物語」(1998年)を ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が映 像化した『メッセージ』(2016年)に求めたのは注目される。

ゴシック的想像力は、今や国境も民族もジャンルをも逸脱する創 造力なのである。

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原書房、2022年

共著 Collaborations

1986-

『悪夢としてのP.K.ディック――

人間、アンドロイド、機械』

西村俊昭編

担当編集:西村俊昭 サンリオ、1986年

最終章「P・K・ディック批評史概説」(250-74頁)担当 世の中には、「この作家のことは世界で自分だけがわかっている」 と妄信する熱狂的読者を生み出すタイプの作家がいる。『ブレードラ ンナー』原作者ディックも、その一人だ。そんな作家をめぐる共著 の仕事が、1980年代半ばのコーネル大学大学院在学中に舞い込んだ。

山野浩一氏が監修していた サンリオSF文庫『銀河の壺直し』(原著 1969年)の解説を1983年に引き受けたのがきっかけらしい。その ため、編集部からは訳出すべき先行研究や日本人寄稿者の選定まで を依頼された。作家研究共著も責任編集経験も、これが人生初だった。

結果的には、ジェフ・ワグナーの伝記的研究やダルコ・スーヴィ ンの記号論的分析、スタニスワフ・レムのアメリカSF批判を目玉に、 国内では笠井潔や水鏡子、冨山太佳夫や大橋洋一といった論客を揃 え、末尾は�� 自身による情報量満載「P・K・ディック批評史概説」

で締めくくった。とりわけこの最終章には、当時出版されたばかり だったポール・ウィリアムズのディック・インタビュー集も導入し、 パラノイア作家ディックの根拠を明確にしている。

以後のディック研究は、サイバーパンク SF運動との関連で発展 したと言ってよい。<ユリイカ>1987年11月号や1991年1月 号の特集や『銀星倶楽部 12』(1989年)における特集などは好例。 折しも1992年には北米の < SF Studies >誌がディック論 40編を 集大成した論文選を刊行。2012年には世界初の国際ディック会議 がドイツで行われ、その成果は アレックス・ダンストら編の共著

The World According to Philip K. Dick(2015)にまとまった。

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『悪夢としてのP.K.ディック ――人間、アンドロイド、機械』 サンリオ、1986年

<ユリイカ> 1987年11月号

<ユリイカ> 1991年1月号

136
青土社
青土社
『銀星倶楽部 12』 ペヨトル工房、1989年
The World According to Philip K. Dick Palgrave Macmillan, 2015.

『文学する若きアメリカ――ポウ、ホーソン、メルヴィル』

鷲津浩子&下河辺美知子と共著 編集担当:原信雄 南雲堂、1989年 序章「アメリカン・ルネッサンスは再生するか?」 第一部「エドガー・アラン・ポウ」(7-108頁)担当  日本アメリカ文学会東京支部の若手三名がアメリカ・ロマン派文 学研究の新境地を開拓するべく結集した、三名それぞれにとって初 めての学術的共著である。当時は記号論や構造主義、脱構築の手法 を自家薬籠中のものとしたウォルター・ベン・マイケルズとドナル ド・ピーズの『 アメリカン・ルネッサンス再考』(1984年)が

戦以後の言説空間を意識するニュー・アメリカニズムの先鞭を付け、 デイヴィッド・レナルズの『アメリカン・ルネッサンスの地層』(1988 年)が新歴史主義批評の視点からマシーセン的な新批評的常識を問 い直すなど、明らかにこの分野が再活性化していた。たまたま共著 者三名は、米国留学を経験してそうした動きに応答責任を果たそう としており、南雲堂の名編集者・原信雄氏の英断によって本書の企 画がまとまった。その結果、ポウの『ナンタケット島出身のアーサー・ ゴードン・ピムの冒険』「群衆の人」「黒猫」、 ホーソーンの『緋文 字』『七破風の屋敷』「ウェイクフィールド」、メルヴィルの『白鯨』 『ピエール』「ベニト・セレノ」を対象に、それぞれ最新の批評的実 験を展開するに至った。

ちなみに、タイトルは、アメリカン・ルネッサンスの時代が民主 党によるヤング・アメリカ運動の勃興期と共振するため、メルヴィ

ル『ピエール』第17章 “Young America in Literature” の邦訳に準拠

している。エドワード・ウィドマーの本格的研究書『ヤング・アメ リカ――花開く民主主義』(1999年)が陽の目を見るのは、さら に10年先のことである。

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138 南雲堂、1989年

1. Silent Interviews: On Language, Race, Sex, Science Fiction, and Some Comics---A Collection of Written Interviews.

Ed. Samuel R. Delany. Wesleyan University Press, 1994.

Takayuki Tatsumi, “Some Real Mothers … The SF EYE Interview”

(SF Eye#3 [1987]); “Science Fiction and Criticism: The Dialectics Interview” (Diacritics [Fall 1986])

2. Conversations with William Gibson.

Ed. Patrick A. Smith. University Press of Mississippi, 2014.

Takayuki Tatsumi, “Eye to Eye: An Interview with William Gibson” (SF Eye#1[1987])

3. Conversations with Steve Erickson.

Ed. Matthew Luter and Mike Miley. University Press of Mississippi, 2021. Larry McCaffery and Takayuki Tatsumi, “An Interview with Steve Erickson” (Contemporary Literature [Vol.38, No.3, Fall 1997])

初めてインタビューした作家は、1986年、コーネル大学人文科学研 究所の客員教授として一学期間 サイバーパンク講義を担当した、ニュー ウェーヴ SFの旗手にして黒人ゲイ文学の代表格 サミュエル・ディレイ ニーである。詳細は『 サイバーパンク・アメリカ』(1988年)参照。正 確には、彼が授業を担当する前の 1985年秋にペンシルヴェニア地区SF 大会NOVACONで最初のインタビューを行い、 ポスト構造主義批評誌 <

Diacritics >に発表したため、本書にはサイバーパンク批評誌< SF Eye > 版と合わせて二篇が収録された。

ウィリアム・ ギブスンについては前掲書増補版(2019年)にインタ ビュー二編を収録。サイバーパンク運動勃興直後、本来は< SFマガジン >のために企画したのだが、ひょんなことから < SF Eye >に掲載された ので英語圏でも先陣を切り、このインタビュー集成でも巻頭を飾っている。

スティーヴ・ エリクソンの名は、 ギブスンが最も意識する主流文学者 というのが最初の認識だった。しかし、いざ読んでみると、デビュー長 編『彷徨う日々』から最新作『アメリカは吃る』に至るまで、洗練され た魔術的リアリズムの文体で虚実の境を突き崩し、アメリカ大統領に象 徴される国家の将来を占う作風は、余人をもって代え難い。盟友ラリイ・ マキャフリイと行ったインタビューの日本語版は、1995年のラリイの本 『アヴァン・ポップ』にまず収録され、北米発表の方が後になった。

139

Silent Interviews: On Language, Race, Sex, Science Fiction, and Some Comics---A Collection of Written Interviews. Wesleyan

Press, 1994.

140
Conversations with Steve Erickson. University Press of Mississippi, 2021. University Conversations with William Gibson. University Press of Mississippi, 2014.

『アメリカの嘆き――米文学史のなかのピューリタニズム』

秋山健監修、宮脇俊文&高野一良編 編集担当:森有紀子 松柏社、1999年

第7章「マーク・レイナー――ニューヨークの魔女たち―― 『ヤング・バーグドーフ・グッドマン・ブラウン』に見る アヴァン・ポップ・ピューリタニズム」(279-99頁)担当

秋山健教授が同志社大学から上智大学へ移籍したのは 1976年の

ことである。すぐに担当されたアメリカ文学思想史は衝撃的だった。 ハーヴァード大学教授 サクヴァン・バーコヴィッチが当時最初の単 著『アメリカ的自己の ピューリタン起源』(1975年)で展開し旧来 のアメリカ文学史観を更新した予型論(タイポロジー)が応用され、 愛読していた ジョン・スタインベック『怒りの葡萄』(1939年)の 元説教師ジム・ケイシー(Jim Casy)の頭文字にはイエス・キリスト (Jesus Christ)が反映しているという示唆には、目を開かれた。  のちに、 かつて若き秋山教授が 1959年から十年近く留学してい

たミシガン大学大学院では新批評理論家として知られる オースティ ン・ウォレンの助手を 務めていたと聞き、さらに驚く。しかもバー コヴィッチや ローレンス・ビューエルとは文通し論文交換する仲で あり、 ピューリタン詩文選も北米で共同編集中であるという。国際 的なアメリカ文学研究の可能性を思い知らされた。

本書は、そんな稀有の ピューリタン文学者が上智大学を定年退職 するにあたり、同志社大学時代の教え子も加わって編纂された記念 論文集である。タイトルはバーコヴィッチの1978年の著書のもの を借り、共著者たちはブラッドフォード、シェパードからクーパー、 セジウィック、 ストウ、 ホーソーン、 メルヴィル、ジェイムズまで 秋山理論に準じて幅広く論じた。ちなみに�� 自身は第7章「マーク・ レイナー――ニューヨークの魔女たち――『ヤング・バーグドーフ・ グッドマン・ブラウン』に見るアヴァン・ポップ・ピューリタニズム」 を寄稿(単著未収録)。

141
142 松柏社、1999年

1.

Transactions, Transgressions,

Transformations:

American Culture in American Western Europe and Japan. Ed. Heide Fehrenbach and Uta Poiger. Berghahn Press, 2000.

Takayuki Tatsumi, “Waiting for Godzilla: Chaotic Negotiations between Post-Orientalism and Hyper-Occidentalism”

2. American Studies: An Anthology.

Ed. Janice Radway et al. Wiley-Blackwell, 2009.

Takayuki Tatsumi, “Waiting for Godzilla: Toward a Global Theme Park”

北米におけるアメリカ研究の教科書に既発表論文が再録された唯一のケ ースである。

元を辿れば、1996年 4月 13日に、ブラウン大学歴史学科の主催で「ド イツ、フランス、イタリア、日本におけるアメリカ文化の影響: 1945 年-1995年」なる国際会議が開かれ、 フォルカー・バーガーン教授の司

会により、イエール大学教授ウィリアム・ケリー、ボローニャ大学教授フ ランコ・ミンガンティ教授と共に登壇した�� が、日本を代表する怪獣ゴジ

ラという形象内部でポスト・オリエンタリズムとハイパー・オキシデン タリズムがいかに交錯したかを探る論文を読んだことがきっかけだった。 同会議では極めて刺激的で生産的な討議が交わされたので、のちの 2000

年にはその全貌が公刊される。この時の論文を加筆改稿したテクストが 2006年の単著 Full Metal Apache の最終章となる。

それからというもの、本論考は頻繁に引用されるようになったが、ある 日突然、北米のアメリカ学会では会長も務めたジャニス・ラドウェイを筆 頭共編者とする巨大アンソロジーに、前触れもなく同論考が再録されたの だから、驚くほかなかった。もちろん、ラドウェイはキャシー・デイヴィ ッドソンと並び、北米の新歴史主義批評の代表格であるから、彼女の関与 するプロジェクトに不可欠と判定されたこと自体は、必ずしも悪い気はし ない。ところが、蓋を開けてみたら、何の断りもなく原文が切り刻まれ本 来の三分の一程度に縮小されていたのは、いかがなものか。版元と編者そ れぞれに質問状を送ったが、どちらからも回答は得られなかった。

143

Transactions, Transgressions, Transformations: American Culture in American Western Europe and Japan. Berghahn Press, 2000.

American Studies: An Anthology. Wiley-Blackwell, 2009.

144

『アメリカ文学ミレニアム』I&II

國重純二編 南雲堂、2001年

國重純二氏は、19世紀 ロマン派作家 ナサニエル・ ホーソーン研 究の鬼である。しかし同時に、学会活動においても人望が厚く、東 大大学院教授時代の1990年代には、何と日本英文学会と日本アメ リカ文学会双方の会長を務めている。

そんな國重氏の東大退職記念論文集がなぜ �� 孝之と関わるかと 言うと、1980年代初頭の日本アメリカ文学会デビュー時からお世 話になったのみならず、1990年代には氏を代表とする科研費共同 研究に加わっていたからだ。國重氏の東大における演習にも何度か 招かれ講義する機会を与えていただいた。そのため、本論文集の企 画実現に向けて、平石貴樹氏の音頭で組まれた編集委員会において も、志村正雄、内野儀の各氏に連なり、�� が末席を汚した次第である。  もちろん、それまでにも大橋健三郎先生の『文学とアメリカ』全 3巻(1980年)など大がかりな 退 フェストシュリフト 職記念論文集 の前例はあったけ れども、國重氏の学会的貢献を考えれば、アメリカ文学研究者を中 心に北海道から沖縄まで、重鎮から若手まで、植民地時代からポス トモダンまでをカバーするのが最も理想的に思われたので、委員会 はその方針で人選を行った。その結果、 �� 案により、収録論文 全

46編は下記のようなセクションに分けられた。

1)「ニュー・ワー

ルドの夢と悪夢」2)「トランセンデンタリズムの遺産」3)「アメリ カン・リアリティの発明」4)「ロスト・ジェネレーションの伝統」5)

「ヨクナパトーファの魂」6)「パクス・アメリカーナの明暗」7)「多 文化ミレニアム」。

�� 自身は第1部第1章「ピューリタンと海賊」を寄稿。つまり、 巻頭論文である。

145
146 『アメリカ文学ミレニアム
南雲堂、2001年 『アメリカ文学ミレニアム
南雲堂、2001年
I』
Ⅱ』

Cinema Anime.

Ed. Steven T. Brown. Palgrave Macmillan, 2006. Takayuki Tatsumi, “The Advent of Meguro Empress: Decoding the Avant-Pop Anime TAMALA 2010”

2002年、t.o.L (trees of Life)という謎のアーティスト集団によ る『TAMALA2010:A Punk Cat in Space』という謎のアニメが、 カルト的なブームを呼び、熱狂的なファンを獲得した。

2010年、ネコ地球における人間の母「アナコンダ婆」に育てら れたパンクな子猫TAMALAはようやく一歳になったばかり。彼女 はMEGURO-CITYの権ノ助坂からネコ銀河系へ飛び立ち、母ネコ のいるオリオン座エディッサ星を目指す。ところがオリオン座へ宇 宙船で出発するも、不時着した惑星Qで雄猫のミケランジェロを ナンパしたり万引きしたりアイドルになったりしているうちに、獰 猛な犬警官のケンタウロスに喰い殺されてしまう――。

単純明快な物語のようだが、そのテーマは、まさに TAMALAの 死が「破壊と再生のプログラム」の神話体系をいかに維持し、それ によって巨大複合企業体 Catty & Co.がいかに世界を経済支配して いったかという、高度に思弁的な比定神学的かつ陰謀論的次元へと 昇り詰めていく。スタンリー・キューブリックやトマス・ピンチョ ンからウンベルト・エーコ、ジャック・デリダにおよぶ文学や思想 を吸収したこのメタアニメについて、 �� はまず『TAMALA2010コ ンプリートブック』(平凡社、2002年)に解説「メグロ・エンプレ ス降臨」を寄稿。それを自身で英訳したのが、Cinema Anime 所収 “The Advent of Meguro Empress” である。のちに t.o.Lは Full Metal Apache (2006)のカバーアートを担当。

147
�� 唯一のアニメをめぐる共同研究。

『TAMALA2010

『TAMALA2010コンプリートブック』

担当編集:小玉豊、石田直子、日下部行洋

148
a punk cat in space』 t.o.L (trees of Life)、2002年 Cinema Anime. Palgrave Macmillan, 2006. 平凡社、2002年

『慶應義塾大学創立150年

ブックレット学問のすすめ21

:Vol.5: ――文学のすすめ』

荻野アンナ、川又千秋と共著

担当編集:慶應義塾創立150年記念事業室

慶應義塾大学出版会、2008年

第1章「文学のアメリカ」(1-19頁)担当

1858年に福沢諭吉先生が江戸築地鉄砲洲の中津藩屋敷内に開い た蘭学塾が慶應義塾の起源である。その 150周年にあたる2008年、 安西祐一郎塾長はさまざまな記念行事を遂行するべく各種委員会を 組織した。�� も企画委員の一人に選ばれ、塾員中心に日本全国各地 で行う連続記念講演シリーズ「学問のすゝめ 21」の一端を担うこ とになった。これは前年 2007年7月の東京会場から始まり、北 海道から九州まで全国13カ所を巡回して、2008年9月には東京 会場で締めくくるという壮大なプロジェクトである。ところが、先 行する100周年や125周年を調べようとしても、『三田評論』バ ックナンバーしか資料がない。そこで提案したのが、これら記念講 演を逐一ブックレットに編集し、後に残すことだった。

本書は同講演会シリーズの第10回「文学のすすめ」が2007年 10月8日、ホテル仙台プラザにて行われた時の講演&シンポジウ ムの全容である。聴衆は約170名。アメリカ文学者の �� の「文学 のアメリカ」を皮切りに、フランス文学者の荻野アンナの「楽問ノ ススメ」、SF作家の川又千秋の「推理と空理の小説史」と続き、最 後はリラックスした三者の座談会で幕を閉じた。

ふりかえってみると、公の場で 永井荷風から 遠藤周作に及ぶ三 田文学の伝統をアメリカという文脈中で考えるようになったのは、 この時が最初だったかもしれない。その発想が、やがて2010年 に企画実行した「三田文学 100周年記念シンポジウム」や、2021 年の最終講義をもとにした単著『慶應義塾とアメリカ』(2022年) に発展を遂げる。

149
150 慶應義塾大学出版会、2008年

John Steinbeck’s Global Dimensions.

Ed. Kyoko Ariki et al. Scarecrow, 2008. Takayuki Tatsumi, “Which Way to Road Space?:

Between the New Deal and the New Frontier”

専門であるアメリカン・ルネッサンス以外の正典作家に取り組んだ 唯一の共同研究である。

その理由は、もともとジョン・スタインベックの『怒りの葡萄』や 『エデンの東』を愛読していたということもあるものの、何より2003 年に教科書『アメリカ文学史――駆動する物語の時空間』を刊行する 際、何らかの統一的ヴィジョンが必要だったことが大きい。1995年 の『ニュー・アメリカニズム』ではインディアン捕囚体験記から黒人 奴隷体験記まで多様なアメリカン・ナラティヴを抽出したが、北欧系 から南欧系、英国系へと覇権がめまぐるしく移り変わったアメリカ大 陸の文学史を一気に包括するには、スタインベックに象徴される「ロ ード・ナラティヴ」が最も有効ではないかと閃いたのだ。

はたして『アメリカ文学史』刊行の年2003年の 5月には、第27

回日本 ジョン・スタインベック学会の特別講演に招聘され、2005年

の 6月には第6回国際スタインベック会議におけるパネル「スタ インベック作品の物語戦略」で “Which Way to Road Space?: Between the New Deal and the New Frontier” を発表することになった。そして 2008年、同会議の中心を担った有木恭子、スコット・ピューの両教 授が、会議の成果をまとめ、拙論をも一部に組み込んで出来上がった のが本書である。

全四巻の各巻解説も書き下ろし、最もスタインベック研究に傾斜した 一年となった。その集大成は『モダニズムの惑星』(2013年)に収録。

151
同年には土屋政雄氏の新訳によるハヤカワ epi文庫版『エデンの東』
152
John Steinbeck’s Global Dimensions. Scarecrow, 2008.
『エデンの東』全四巻 ハヤカワ epi文庫版、2008年

Survivance:

Narratives of Native Presence.

University of Nebraska Press, 2008.

現代アメリカを代表する先住民作家 ジェラルド・ ヴィゼナー

(1934-)はカリフォルニア大学バークレー校名誉教授。ホワイト アース居留地のアニシナベ族(チベワ族)の血を引く自称「ポスト・ インディアン作家」だ。1988年に長編小説『悲しむ者――アメリ カ版西遊記』(1987) によってニューヨーク・フィクション・コレ クティヴ文学賞と全米図書賞をダブル受賞。以後30冊以上の著作 を発表したが、とりわけ核時代の歌舞伎を目論み日本人と北米イン ディアンの比較神話学的想像力を発揮した長編小説『ヒロシマ・ブ ギ』(2003)

が話題を呼ぶ。

初対面は2004年秋。慶應義塾大学での講演では、自作とメルヴィ ルの『白鯨』を連動させた講演「ヒロシマに漂着したイシュメール」

で日本初の英語教師となった先住民ラナルド・マクドナルドを導入、 聴衆を魅了した。懇親会にはメルヴィル研究と日本英語教育史の権 威・川澄哲夫教授も参加。

そんな作家自身の編纂する共同研究への寄稿を要請された成果 が、本書である。タイトルの “Survivance”は生存と抵抗を掛け合 わせた彼自身の造語。9・11同時多発テロを経た核の想像力を主 題に メルヴィル、 サリンジャー、 ヴィゼナーの 文学思想史的系譜

を探ったこの時の論文 “Total Apocalypase, Total Survivance: Nuclear Literature and/or Literary Nucleus Melville, Salinger, Vizenor” は、 のちに日本語版が『ニュー・アメリカニズム』第2版(2005年) に収録される。

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University of Nebraska Press, 2008.

My Postwar Life: New Writings from Japan and Okinawa.

Ed. Elizabeth McKenzie. Chicago Quarterly Review Books, 2012.

2010年、来日したアメリカ女性作家エリザベス・マッケンジー から、戦後の日米関係をめぐる論文集に寄稿してほしいという要請 を受けた。熟考した結果、自身の父方と母方の先祖がいかに英米と 関わってきたかを回想する論考“Tales from Fin de siècle Japantown: The Japanese Working Students of San Francisco” を寄稿した。世紀転

換期が舞台だから、必ずしも編者が想定した第二次世界大戦後では ないが、米西米比戦争以後、日清日露戦争以後の時代であることは 間違いない。

正金銀行サンフランシスコ支店を経てロンドン支店へ移り、 20世

紀初頭にはロンドン支店長兼取締役を務めた人物。母方の曽祖父・ 川瀬元九郎(1871-1945年)は、やはり19世紀末にサンフラン シスコを経て東海岸はボストン大学医学部で学び、同じ頃タフツ大 学生物学科で学んでいたのちの曽祖母・ 山口冨美子(1873-1956 年)と結婚して帰国し、聖路加病院の創設に関与した人物。第二次  世界大戦の敗戦国日本はかつての敵国アメリカに対して複合的な関 係を結ぶことになるが、19世紀末から英米を実体験した祖父たち、 曽祖父たちにとって、アメリカは限りなく友人にも似た愛すべき相 手であり、とりわけ曽祖母にとって、そのスタンスは第二次世界大 戦を経ても変わることがなかった。そのような世代が実在したこと

同書には小谷真理の竹宮惠子論「腐女子同士の絆」も収録。

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父方の祖父・ �� 孝之丞(1864-1931年) は 、19世紀末に横浜
の、これは証言である。
156 Chicago Quarterly Review Books, 2012.

『スティーブン・スピルバーグ論』

南波克行編著

担当編集:二橋彩乃 フィルムアート社、2013年 論考6「スタンリー・キューブリックの遺産―― 『2001年宇宙の旅』が『A.I.』になる時」(168-87頁)担当  日本では長いこと、ひとりの映画作家としてのスティーブン・ス ピルバーグが体系的に語られたことはなかった。本書は本邦スピル バーグ研究の権威・南波克行が総括を手掛け、大久保清朗、越智道 雄、上島春彦、斎藤英治、西田博至らの力作論考を揃えた一冊。

�� の寄稿「スタンリー・キューブリックの遺産――「2001年宇 宙の旅」が「A. I. 」になる時」が前提にしているのは、スピルバー グが『シャイニング』(1980)撮影中のスタジオに招かれて以来、

スタンリー・キューブリックと19年にわたる親交を結んでいた事 実である。キューブリックは、SF作家 ブライアン・オールディス の短編「スーパートイズ」(1969年)の映画化を計画していたが、 原作者との対立などが原因で完成には至らなかった。そこで彼はス ピルバーグに、同短編をもとに自分が撮るはずだった『A.I.』(2001) の監督を託したのだった。

かくしてこの論考は、平凡社新書から2001年に出版された単著 『「2001年宇宙の旅」講義』の補講と銘打ち、ひとまずキューブリ ックがアーサー・ C・クラークのハードコアSF小説を60年代ニュ ー・ウェーヴ系の

スぺキュラティヴ・フィクション 弁物語 風映画へと作りかえることで、SF 映画のみならず映画史上の金字塔を打ち立てたことを再確認する。

そして1999年に亡くなったキューブリックの言わば遺言執行人と なったスピルバーグがニュー・ウェーヴ運動の代表格オールディス の短編を『A.I.』に作りかえたとき、いかなる化学的変容が起こっ たかを考察する。

著者唯一のスピルバーグ論。

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フィルムアート社、2013年

2. Science Fiction Double Feature: The Science Fiction Film as Cult Text.

1. The Liverpool Companion to World Science Fiction Film. Ed. Sonja Fritzche. Liverpool University Press, 2014. Ed. P.J. Telotte and Gerald Duchovnay. Liverpool University Press, 2015.

必ずしもシネフィルではないが、気がつけばSF映画論も少なく ない。特に 21世紀に入りジャンルSFが グローバルな展開を示す ようになってからは、目下、SF批評全般を支える英国のリバプー ル大学出版局 が次々と打ち出す新企画に応えてきた。

前者に寄稿した “On the Monstrous Planet, or How Godzilla Took a Roman Holiday” は、3・11東日本大震災の本質を思索する意味で、 2012年に慶應義塾大学アート・センターが刊行した共著『ゴジラ

とアトム――原子力は「光の国」の夢を見たか』に寄稿した「ゴジ ラ状無意識」の英語版。多忙な時期だったので、コーネル大学の後 輩セス・ジャコボヴィッツに翻訳を依頼した。『ローマの休日』(1953 年)と『ゴジラ』(1954年)に触発された東宝怪獣映画の傑作『三 大怪獣 地球最大の決戦』(1964年)の面白さを熱く語っている。

後者に寄稿した “Transnational Interactions: District 9, or Apaches in Johannesburg” は、2009年に一見して以来21世紀 SF映画の傑作と 信ずる南アフリカ映画を、クラークの『幼年期の終り』(1953年) と徹底比較した論考。日本語版「宇宙アパッチ族――『第9地区』、 あるいはヨハネスブルクのロー・テクたち」(三添篤郎訳)は江藤 秀一編『帝国と文化――シェイクスピアからアントニオ・ネグリま で」』(春風社、2016年)に寄稿したのち単著『パラノイドの帝国』 (2018年)に収録。

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Science Fiction Double Feature: The Science Fiction Film as Cult Text. Liverpool University Press, 2015.

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The Liverpool Companion to World Science Fiction Film. Liverpool University Press, 2014.

1. Translated POE.

Ed. Emron Esplin and Margarida Vale de Gato. Leihigh University Press, 2014.

Takayuki Tatsumi, “The Double Task of the Translator: Poe and His Japanese Disciples” (pp. 163-74).

2. Anthologizing Poe: Editions, Translations, and (Trans) national Canons.

Ed. Emron Esplin and Margarida Vale de Gato. Leihigh University Press, 2020.

Takayuki Tatsumi, “Editing and Anthologizing Poe in Japan” (pp.351-67).

3. Retrospective Poe: The Master, His Readership, His Legacy.

Ed. José R. Ibáñez and Santiago Rodríguez Guerrero-Strachan. Palgrave Macmillan, 2023.

Takayuki Tatsumi, “The Man of the Crowd and His Descendants: Poe, Rampo, and Sakate” (pp.293-309).

いささか乱暴なようだが、ポー研究関連の英文共著を一気にまとめておく。  国際ポー会議に初めて出席したのは 1999年、没後 150周年大会がリッ

チモンドで開かれた時だが、そののち、2010年代に入ってから、北米 ポ ー学会でバリバリ活躍を始めた若手で、現在ユタ州のブリガムヤング大学 准教授のエムロン・エスプリンから、しきりに共同研究への参加を求めら れるようになった。彼は英語とスペイン語のバイリンガルの比較文学者で、 最初の単著も『ボルヘスのポー』(2016年)。かつてジョージア州のケネ ソー大学では JTAS(Journal of Transnational American Studies)の編集委

員を長く務めたニーナ・モーガンと同僚で、脱アメリカ的アメリカ研究に も全面的に貢献。 2018年に京都で開かれた国際ポー&ホーソーン会議で も、再会を祝した。

その彼が、ポルトガルはリスボン大学准教授のマルガリータ・ヴァリ・ ディ・ガトーと組み �� への依頼を始め、2014年には国際的な ポー受容を 網羅した『世界の ポー翻訳』を、2020年には国際的な ポー短編集を網羅 した『世界のポー短編集』を編纂。後者は北米ポー学会が2020年度の最 優秀共同研究を顕彰する J・ラスリー・ダムロン賞を受賞。  三冊目のホセ・イバネスらの共編になる最新刊『ポー再構築』(2023年) は、2020年2月のスペイン・ ポー学会の国際会議が機縁で企画された包 括的な一冊。かつてポー研究では米仏文学の比較が主流だったが、今や米 西文学、さらには米日文学にシフトしているのかもしれない。

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Anthologizing Poe: Editions, Translations, and (Trans) national Canons.

University Press, 2020.

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Retrospective Poe: The Master, His Readership, His Legacy. Palgrave Macmillan, 2023. Translated POE Leihigh University Press, 2014. Leihigh

The Cambridge History of Postmodern Literature.

Ed. Brian McHale and Len Platt. Cambridge University Press, 2016.

現代アメリカ文学研究の権威であるオハイオ州立大学教授 ブラ

イアン・マクヘイルの名前を初めて知ったのは、名著『ポストモ ダニスト・フィクション』(1987年)が出版された時だった。以来、 毎年暮れに北米で開かれる近現代語学文学会(MLA)で彼が出演

するパネルにも、何度か足を運んだ。しかし、あれは確か2003 年の MLA 大会がサンディエゴで開かれた時に、畏友 ラリー・マ

キャフリイから紹介されて、ともに批評理論家 ジョナサン・カラ

ーの教え子であることが判明してからは一気に距離が縮まった。

2011年10月末に彼が創立した新学会「現在芸術学会」略称

ASAP (“Association for the Study of the Arts of the Present” の略)の 年次大会のためピッツバーグに招かれ、パネル「惑星的 ポストモ ダニズム」で 3・11以後を意識したペーパー “Planet of the Frogs: Thoreau, Anderson and Murakami.” を読んだのが手始めだった。 2013年には彼の創刊した学術誌 Narrative(Vol.21, No.3) に同論文

が掲載された。その直後、本書への参加依頼が来たので、同論稿 をも一部に組み込み、 高度資本主義日本 の ポストモダニズムの文 脈全般にスケールを拡大した大幅な加筆改稿版 “Postmodern Japan and Global Visual Culture” を寄稿。なお、ASAP 版の日本語版「空 から死神が降ってくる―― ラヴクラフト、 アンダーソン、 村上春

樹」はのちに日本の複数の学会で発表後、単著『パラノイドの帝国』 (2018年)に収録。

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Cambridge University Press, 2016.

『マニエリスム談義――

驚異の大陸をめぐる超英米文学史』

高山宏・�� 孝之 担当編集:高梨治  彩流社、2018年

朝日新聞社の「週刊朝日百科世界の文学」シリーズや 青土社 < ユ リイカ>のハーマン・ メルヴィル特集号& ルイス・キャロル特集号

など、この二人は少なからぬ対談を重ねてきた。昨今では、両者の 対話に影響を受けたノースキャロライナ州立大学助教 アマンダ・ケ ンネルが『不思議の国日本のアリス』(ハワイ大学出版局、2023年) を刊行したほど。だが、基本的に二人がかねてより併せ持つのは、 驚異の帝国アメリカを基軸に、環大陸的な英米文学史を極東の島国 だからこそ構築せねばならないという野心だ。その出発点は、高山 が多くの学会で「なぜアメリカ文学者は マニエリスムの視点から文 学史研究を行わないのか」なる挑発を繰り返してきたことにある。

我が国ではグスタフ・ルネ・ホッケ『迷宮としての世界』やマリオ ・プラーツ『官能の庭』といった研究によって広く知られ、澁澤龍彥

種村季弘、 由良君美や

若桑みどりらによって議論されてきた マニ エリスムは、アメリカ文学、なかでもアメリカン・ルネサンス研究 との接続を図った研究は八木敏雄の遺作『マニエリスムのアメリカ』

(2012年)を除けば、ほとんど先例がない。そこで、本書の対談は サミュエル・オッタ―や ロバート・ウォレスらの最先端 メルヴィル

論を踏まえつつ、 マニエリスム的なアメリカ・ ロマン派論、ピクチ ャレスク論、環太平洋/ 環大西洋的文学論へと一気に展開してみせる。 ちなみに、四年後に出た高山宏『鎮魂譜:アリス狩りVII』(青土社、 2022年)は、�� 著作『ニュー・アメリカニズム』『リンカーンの世紀』 への書評のほか『メタフィクションの思想』解説を再録。

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166 彩流社、2018年  (左)高山宏 (右)�� 孝之  徹底討議「『不思議の国のアリス』と/のアメリカニズム」 <ユリイカ> 2015年3月臨時増刊号 青土社応接室、2014年12月2日

Lingua Cosmica:

Science Fiction from around the World.

Ed. Dale Knickerbocker. University of Illinois Press, 2018.

2010年 3月、国際幻想芸術会議(ICFA)で知り合ったのが、本 書編者のイーストキャロライナ大学外国語外国文学部教授ニッカー ボッカー氏である。スペイン文学を専攻する立場より、SFが英語 圏主導で発展してきたものの、今や世界文学の一環を成しているこ とを鋭く意識する人物だった。その序文も、「二か国語を喋るのは バイリンガル、一ヶ国語しか喋れないのはアメリカ人」というジョ ークから始まり、21世紀には北欧にもロシアにもアジアにもアフ リカにも目を向け、世界共通語(リンガ・フランカ)どころか宇宙 共通語(リンガ・コズミカ)に留意せねばならないことを説く。げ

んに、2015年の第 73回世界 SF大会では、歴史上初めて、ファン 投票で選ぶヒューゴー賞長編部門賞が非英語圏中国の作家・劉慈欣 『三体』(原著2008年、英訳 2014年)にもたらされた。しかし、

彼が日本 SF第一世代の巨匠・小松左京の作品、とりわけ『日本沈没』 (1973年)から多大な影響を受けてきたのも事実である。

小松 SFは1964年の『日本アパッチ族』と『復活の日』で始ま り、早くも1966年の『果てしなき流れの果に』でピークに達し、 1972年の『継ぐのは誰か?』で現代小説としての洗練度をも備え た。1970年の大阪万博と国際 SFシンポジウムを仕掛けたことも 併せて、まさに宇宙共通語を操るSF作家だった。 かくして本書に

は“Sakyo Komatsu’s Planetary Imagination: Reading Virus and The Day of Resurrection” を寄稿した(単著未収録)。

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University of Illinois Press, 2018.

『極東証券寄付講座・慶應義塾文学部公開講座

文学部のひらく未来』

担当編集:井上櫻子、藤澤啓子

慶應義塾大学文学部編、2019年

「アメリカ文学とフロンティア」(37-60頁)担当

2019年7月20日、三田キャンパス北館ホールにて開催された「ア メリカ文学とフロンティア」を収録。�� とフランス文学者・新島進 との共同討議は、英米仏を取り巻く環大西洋的な視座から「新たな フロンティア」像を提起した。

フロンティアとは何か。ベルギーの画家ストラデイナスとガレに よる名画『アメリゴ・ベスプッチの新世界到達』やヒエロニムス・ ボスの『快楽の園』などの マニエリスム芸術が物語るように、16 世紀当初、ヨーロッパが夢見たフロンティアはエキゾティシズムに 貫かれた新世界、アメリカ大陸そのものだ。やがて、17世紀ピュー リタンの「荒野への使命」やその19世紀版である「明白な運命」

といったスローガンに押されてフロンティア空間が南極や地底へと 広がっていくことは、ポー『アーサー・ゴードン・ピムの冒険』(1838 年)やメルヴィル『白鯨』(1851年)、それらの影響を受けたヴェ ルヌの『地底旅行』(1864年)『氷のスフィンクス』(1897年)な どを見ても明白だろう。さらに世紀転換期、ライマン・フランク・ ボーム『オズのふしぎな魔法使い』(1900年)が示唆したように、 フロンティアは飛行機や摩天楼を経て宙空へと拡張。これを文化史 家アン・ダグラスは「 宙

エア・マインデッドネス 空指向 」と呼び、のちの60年代ケネディ 政権以降は宇宙へと広がり、20世紀後半にはウィリアム・ ギブス ン『ニューロマンサー』(1984年)が描く電

サイバー・スペース 脳空間を切り拓く。

ちなみに�� と新島は彩流社の『ウィリアム・ギブスン』の共著者。

慶應義塾大学 SF研究会の会長職は、前者の定年退職後には後者に 引き継がれた。

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『極東証券寄付講座・慶應義塾文学部公開講座 文学部のひらく未来』

慶應義塾大学文学部編、2019年

『ジュール・ヴェルヌと フィクションの冒険者たち』

新島進編 水声社、2021年

慶應義塾文学部公開講座

「アメリカ文学とフロンティア」

三田キャンパス北館ホール

2019年7月20日

「EXCELSIOR! vol.10」

特集:八十日間世界一周 日本ジュール・ヴェルヌ研究会、 2015年

(左)新島進 (右)�� 孝之 三田キャンパス北館ホール 2019年7月20日

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1991-
共 編 訳 書 監 Translations

『サイボーグ・フェミニズム――

ハラウェイ、ディレイニー、サーモンスン』

�� 孝之編、�� 孝之&小谷真理訳

トレヴィル、1991年;増補新版、水声社、2001年  編者が初めてカリフォルニア大学サンタクルース校意識史専攻教 授 ダナ・ハラウェイの論文「 サイボーグ宣言」(1985年)を知っ たのは1986年、コーネル大学留学中のことだ。同年秋に同大学人 文科学研究所に招かれた黒人 SF作家サミュエル・ディレイニーが、 発表直後の同論文を公開講演で取り上げたのである。ウィリアム・ ギブスンが 電 サイバースペース 脳空間 というフロンティアを幻視した第一長編『ニ ューロマンサー』(1984年)がサイバーパンクの聖典として 1980 年代以降の現代文学を牽引した一方、ハラウェイがレーガン政権 下で社会主義フェミニズムの未来を占った「 サイボーグ宣言」は 文 カルチュラル・スタディーズ 化研究 の聖典として1990年代以降の言説空間を一変させて しまった。彼女は旧来、SFで親しまれてきた「 サイボーグ」の概 念を再定義する際に、シリコンヴァレーで働く有色人女性の主体形 成を重視したのだ。それはポストコロニアリズム理論家ガヤトリ・ スピヴァクの鍵概念「サバルタン」とも袖触れ合う。

こうしたハラウェイの独創性を浮き彫りにするため、本書はディ レイニーの批判に加え、トランス作家ジェシカ・アマンダ・サーモ ンスンのアン・マキャフリイ『歌う船』論を併録して、サイボーグ とフェミニズムの交点における「ジェンダー論争」の文脈を露呈さ せる戦略を選んだ。 1992年、バベル・プレス主催の第二回日本翻 訳大賞思想部門賞受賞(BABEL国際翻訳大賞の前身)。

増補新版には、初版に先行する1989年夏にカリフォルニア州サ ンタローザで行われたハラウェイ・インタビューを収録。

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トレヴィル、1991年 増補新版、水声社、2001年

ラリイ・マキャフリイ 『アヴァン・ポップ』

越川芳明と共編訳 担当編集:清水檀

筑摩書房、1995年;増補新版、北星堂書店、2007年  サンディエゴ州立大学教授ラリイ・マキャフリイの名は、名著『メ タフィクションの詩神』(1982年)で広く知られるようになった。

彼と本書の共編訳者である�� が初遭遇を遂げたのは 1986年夏、同 大学で開かれた SFRA(アメリカ SF学会)の年次大会会場。折し

もサミュエル・ディレイニーやウィリアム・ギブスンなど、同じ作 家たちとのインタビューを重ねていたことを知る。

やがてマキャフリイは1989年、筑波大学教授・岩元巌氏が企画 実行した国際会議に招かれ、そのパネルでも �� と同席。この場で、

彼が当時、デューク大学出版局から出版すべく編集中だった サイ バーパンク事 ケースブック 例演習教科書『現実スタジオを急襲せよ』Storming the Reality Studio に�� の寄稿を仰いだのが、以後の長い交友関係の始ま りとなった。1992年夏には彼が二ヶ月間、東京に滞在。その経験 を経て、サイバーパンクをも一翼とする現代文学として彼が提唱す る「アヴァン・ポップ」が深化し始め、二人は翌年1993年に対話 形式の共著論文「メタフィクションからサイバーパンク、そしてア ヴァン・ポップへ」を北米批評誌 < SF Eye >12号に発表。同論 文は1994年にSFRA年間最優秀論文賞パイオニア賞に輝く。

そんな流れの中で、日本独自の編集による彼の著書を刊行しよ うという動きが強まり、本書『 アヴァン・ポップ』が日の目を見 た。デイヴィッド・ブレアの野心的映画『WAX――蜜蜂TVの発見』 をめぐる議論を中核に据え、ギブスンからエリクソンに及ぶインタ ビューが詰まっている。

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Avant-Pop: Fiction for a Daydream Nation BlackIceBooks, 1992

After Yesterday's Crash: The Avant-Pop Anthology Penguin Books 1995

In Memoriam to Postmodernism: Essays on the Avant-Pop San Diego State University Press,1995

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増補新版、北星堂書店、2007年
筑摩書房、1995年

J・G・バラード他

『この不思議な地球で』

�� 孝之編訳、浅倉久志他、増田まもる他共訳

担当編集:瀬尾昌也、高橋英紀 紀伊國屋書店、1996年

1980年代のサイバーパンク運動や 1990年代のアヴァン・ポッ プ運動以後、現代文学へ強い影響力を持つ英米 SFの最先端を一望 のもとに収めることはできないものかというアンソロジー編纂の 話が、紀伊国屋書店という思わぬ版元から舞い込んだ。思い返せ ば、一つの運動が定着するのにアンソロジーが不可欠であることは、 ニューウェーヴ思弁小説をめぐるハーラン・エリスンの『危険なヴィ ジョン』やサイバーパンク電脳小説をめぐるブルース・スターリン グの『ミラーシェード』が証明済みである。では、20世紀末、極

化し透明化した時代そのものへの衝撃を掬い取るしかない。

そう考えた編訳者は、ギブスン、スターリングからパット・マー フィ、ストーム・コンスタンティン、エリザベス・ハンド、マシュー・ ディケンズ、F・M・バズビーらに及ぶ第一線作家たちの傑作を選び、 浅倉久志や増田まもるら卓越した翻訳家たちに依頼した。

思弁小説の中でもジェンダー SFが隠し味になっているのが特色。

ちなみに、本書に先立つ企画として編者が全面的に関わったのは、

文芸雑誌『新潮』1990年9月号「現代 SFの冒険」特集号。ディッ クやレム、カルヴィーノ、オースン・スコット・カード、コニー・ウィ リス、リチャード・コールダーらの秀作をずらりと揃え、文芸時評 を持つ主要新聞全紙で取り上げられた。この時、バラード自身に書 き下ろしを依頼して出来上がった「夢の積荷」については、編訳者 自身が翻訳。その関係で、本書におけるバラード「火星からのメッ セージ」の翻訳も担当した。

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東の島国で SF傑作選を編むとすれば、とうに SFが世界の空気と

紀伊國屋書店、1996年

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スタニスワフ・レム

『高い城・文学エッセイ』

沼野充義、芝田文乃他と共訳

担当編集:島田和俊

国書刊行会、2004年

1960年代以降のニューウェーヴ運動も一件落着した1980年前 後は、ポスト構造主義をめぐる方法論が多様に発展していた「理論」

の最盛期だった。1973年にはその実験場の一つとして北米学術誌 < SF Studies >が創刊され、

ディックやバラード、 アーシュラ・ K・

ル=グウィンら思弁小説家の再評価を活発に行うとともに、 レムの 論考「メタファンタジア」を1981年3月号に掲載。自然科学的な SFや社会科学的なSFのパターンをみごとに理論化しながらも、レム 十八番の宇宙創成論的思索が、構造主義以後にはメタフィクション すら超えていく体系であることを巧みに傍証した、これは衝撃的な 議論であった。英訳者は、ハンガリー系アメリカ人のデュ ポー大学 教授で北米レム研究の権威イシュトヴァーン・チチェリ=ローナイ。

折しも我が国でもSF批評の探究が始まり、1982年に新時代社よ り創刊されたSF批評誌 <SFの本>が、1984年の第5号で レム特 集を企画。�� は同誌編集部に関わっていたため、ポーランド語~ハ ンガリー語を経た英語からの重訳にはなるものの、同特集に「メタ ファンタジア」を翻訳掲載した(現在では『マイクロワールズ』所収)。

それからきっかり 20年。国書刊行会から畏友・沼野充義氏を実 質的な監修者とする「スタニスワフ・コレクション」第一期(全6巻) の企画が立ち上がり、2004年暮れには第1巻の『ソラリス』新訳(ポ ーランド語からは本邦初訳)に続く第6巻の『高い城・文学エッセイ』 に、前掲「メタファンタジア」が再録される。もちろん多少の改訳 は施したが、一読した時の驚きは、今も変わっていない。

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Microworlds: Writings on Science Fiction and Fantasy Harcourt, 1985.

180 『高い城・文学エッセイ』 国書刊行会、2004年
<SFの本>1984年 5月号 新時代社 < SFマガジン>2004年 1月号 早川書房 <ユリイカ>1986年 1月号 青土社
Microworlds Houghton Mifflin, 2009.

エドガー・アラン・ポー

1.『黒猫・アッシャー家の崩壊――ポー短編集I ゴシック編』2009年

2.『モルグ街の殺人・黄金虫――ポー短編集IIミステリ編』2009年

3.『大渦巻への落下・灯台――ポー短編集III SF&ファンタジー編』2015年

担当編集:中川建 新潮社

4.『アーサー・ゴードン・ピムの冒険』 鴻巣友季子&桜庭一樹編『E・A・ポー』所収

担当編集:増子信一 集英社、2016年

著者自身が訳したポー作品は、以上4点に集約される。

新潮文庫の ポーを新訳してほしいという依頼があったのは、20 世紀末だった。しかし、多忙を理由に作業を遅らせているうちに、 2009年には作家が生誕200周年を迎えるということで、日米双 方において周囲がにわかに騒がしくなってくる。なにしろ 2007年 には長く懸案だった日本ポー学会が発足して、著者は八木敏雄初代 会長を支える副会長を仰せつかるばかりか、2009年春には 研究社

から八木教授との共編になる記念出版『エドガー・アラン・ポーの 世紀』を出し、同年秋には日米双方で開かれる記念大会で、いずれ もパネルを企画進行せねばならなくなったのである。

こうなると、翻訳の方もタイミングを外すわけにはいかない。そ こで、 ゴシック編とミステリ編、SF&ファンタジー編で予定され た全3巻中最初の2巻だけは何とか生誕200周年に漕ぎ着けた。  以後、集英社が立ち上げた文庫サイズの世界文学全集ポケットマ スターピースの第9巻が、鴻巣友季子&桜庭一樹編『E・A・ポー』 に決まり、そこに『ピム』の新訳を入れたいという要請が来る。著 者にとって『ピム』は、小学校低学年時代に偕成社の少年少女向け「名 作冒険全集」のポーの巻で「ゆうれい船」のタイトル、武田武彦の リトールドで初めて読み、その約20年後、慶應義塾大学の助手と して就職した直後には、同作品の 脱構築的分析により第5回 日本

英文学会新人賞まで受賞することになった因縁の作品であり、断る 理由がなかった。それと並行して新潮文庫版の SF&ファンタジー 編も完成。かくして 21世紀のポー翻訳が出揃った。

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『黒猫・アッシャー家の崩壊―― ポー短編集I ゴシック編』

新潮社、2009年

『モルグ街の殺人・黄金虫―― ポー短編集IIミステリ編』

新潮社、2009年

『大渦巻への落下・灯台―― ポー短編集III SF&ファンタジー編』

新潮社、2015年

『アーサー・ゴードン・ピムの冒険』 鴻巣友季子&桜庭一樹編『E・A・ポー』所収 集英社、2016年

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グレゴリー・クレイズ

『ユートピアの歴史』

孝之監訳、小畑拓也訳

担当編集:加藤修

東洋書林、2013年

ロンドン大学ロイヤル・ホロウェイ校で教鞭を執っていた著者 (現在、同大学名誉教授)が 2011年に放った名著は、学際的にし て包括的なユートピア史を紡いだ一冊。政治思想史から出発しなが ら社会思想史、文学思想史にも造詣が深いクレイズは、類い稀なる 学際的視点の持ち主である。そのため、本書でも類書には見られな いほどふんだんに図版を盛り込み、ギリシャ・ローマ時代から大 航海時代、そして転換期となる トマス・モアの名著『ユートピア』

(1516年)以降、19世紀近代帝国主義を経て共産主義共同体の時代、 1960年代の対抗文化時代、果ては

1980年代の空想科学小説 サイ

バーパンクの時代に至るまで、古今東西のユートピア絵巻を展開。    わけても本書が2011年に刊行されたのは象徴的だ。

というのも、2001年の 9・11同時多発テロから 2011年の 3・

11東日本大震災にかけての約十年間は、20世紀中葉までに紡がれ た「薔薇色の未来」としての21世紀像がいかに完全な神話にすぎ なかったかを露呈させたからである。監訳者はすでに2000年度に は慶應義塾大学文学部設置総合講座「ユートピアの期限」をコーデ ィネータのひとりとして運営し、2002年には20世紀的創造力の総 括として共同研究『ユートピアの期限』( 慶應義塾大学出版会)に まとめあげたが、本書は以後の 21世紀がユートピアとディストピ アが急速度で反転していく過程を見据えて書かれた点が興味深い。

なお、訳者の尾道市立大学教授・小畑拓也氏はアメリカを代表す る SF作家ロバート・A・ハインラインの研究の第一人者。

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184 東洋書林、2013年

Festschrifts 2020-

退 職 記 念論文 集

『藝文研究』No. 119-1

「�� 孝之教授退職記念論文集」

担当編集:大串尚代 慶應義塾藝文学会編、2020年

以後、全3巻に及ぶことになる退職記念論文出版の第一弾。

冒頭には略年譜、および53ページにわたる業績表が収録されて いるほか、�� 研究会(ゼミ)二期生にして現慶應義塾大学教授であ

り、本号の責任編集を担った 大串尚代による序文が付されている。 統一テーマの「アメリカ」に合わせ、文学部英米文学専攻に関わる 同僚たちが学部を超えて総力を結集し、英文学、米文学、言語学各 専攻それぞれの視点から力作論文を寄稿。その他にもフランス文学 分野の朝吹亮二や新島進、ドイツ文学分野の識名章喜による学際的 なアメリカ論が掲載され、さながら慶應義塾全体の脱アメリカ的ア メリカ研究ネットワークを結ぶ拠点といった観を呈した。この方向 性は前年に出た慶應義塾アメリカ学会会誌 Journal of Keio American Studies 創刊号(Vol.0, 2020年)とも連動するだろう。

ちなみに、本塾英米文学専攻は 1980年より大学院生の研究雑

誌 Colloquia を定期刊行してきたが、21世紀に入りその総力を結集 した仕事としては、西脇順三郎&厨川文夫両碩学の薫陶を受けた中 世英文学者・安東伸介教授の没後10周年を記念する著述集『ミメ ーシスの詩学』( 慶應義塾大学出版会、2013年)がある。教授陣 と院生たちが力を合わせた同書には、慶應英文学の魂がこもってい る。その表紙を飾った安東邸書棚が、『九龍城砦』( ペヨトル工房、

1988年; 彩流社、2017年)で サイバーパンク作家ウィリアム・

ギブスンに多大な影響を与えた廃墟写真の鬼才・宮本隆司による撮 り下ろしであることは、それ自体が脱領域的な奇遇を物語る。

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188 『藝文研究』No. 119-1 「�� 孝之教授退職記念論文集」 慶應義塾藝文学会編、2020年 Journal of Keio American Studies 創刊号 慶應義塾アメリカ学会、 2020年 Colloquia 40周年特別記念号 慶應義塾大学 大学院文学研究科、 2019年 安東伸介 『ミメーシスの詩学―― 安東伸介著述集』 慶應義塾大学出版会、 2013年

『脱領域・脱構築・脱半球――二一世紀人文学のために』

�� 孝之監修、

下河辺美知子、越智博美、後藤和彦、原田範行編

担当編集:高梨治 小鳥遊書房、2021年

退職記念出版第一弾の『藝文研究』には詳細な履歴書業績表が掲 載されたが、この第二弾、通称「三脱本」では半世紀におよぶ人文 学研究史をともに歩んできた盟友たち約50名が一致団結しつつ筆 を揮った寄稿が全3部構成、総計550ページを埋め尽くす。その対 象は18世紀の環大西洋文学からゴシック・ロマンス、アメリカン・ ルネッサンス、リアリズム、モダニズム、南部ルネッサンス、 ポス トモダニズムまで広く深い。とりわけ現代の人文学研究の代表格へ のオマージュから成る「代表的批評家30選」は I・ A・リチャーズ

から トニー・タナー、 ヴァーナー・ソラーズ、 ポール・ジャイルズ

にまで及び最新の批評理論入門としても役立つよう目論まれている。

序章では監修者の中に批評的な想像力が立ち上がった瞬間が、学 生時代、 サミュエル・ベケット『ゴドーを待ちながら』(1952年) が洞察する四福音書間の記述上の齟齬を認識した時だったことが明 かされる。ほかならぬこの体験をきっかけに、以後半世紀の間、監 修者はいわゆる批 セオリー 評理論に寄り添う。20世紀後半には、比較文学者 ジョージ・スタイナーの「脱領域」や反形而上学的哲学者ジャック・ デリダの「脱構築」が勃興したが、21世紀にはその批判的発展とし てグレッチェン・マーフィーやワイ・チー・ディモクらの「脱半球」

英米文学者のみならずフランス文学者やドイツ哲学者、SF評論家 も参加した本書は多くの書評に恵まれたが、中でも宮本陽一郎の「ヘ テロドクシー(異説)としての魅力に溢れている」という評言は正 鵠を射ているだろう。

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が提唱され、�� もその一翼を担った。
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小鳥遊書房、2021年

『アメリカ文学と大統領――文学師と文化史』

�� 孝之監修、大串尚代、佐藤光重、常山菜穂子編 担当編集:加藤敦&高梨治

南雲堂、2023年

退職記念出版の第三弾であり完結編である。

監修者が表題のテーマに関心を持つようになったのは1980年代 後半、レイモンド・フェダマンやラリイ・マキャフリイのポストモ ダン文学観が1963年のジョン・F・ ケネディ大統領暗殺を分岐点

に形成されているのを知って以来のことだ。以後、スティーヴ・エ リクソンやバーバラ・チェイス=リボウがトマス・ジェファソンを 主題にした歴史改変小説が刺激となり、2002年には大統領自身を 文学者として再解釈する『リンカーンの世紀』を上梓する。

やがて2008年に、新歴史主義批評を牽引したブランダイス大学 教授マイケル・ギルモアが日本英文学会特別講演のため来日した時 には、彼もまたリンカーンをアメリカン・ルネッサンスの中核とし て再定義する文学史観を温めていたことが判明。監修者はさっそく 南雲堂の名編集者・原信雄氏に本書の原型をなす共同研究企画を提 案したが、当時はブッシュ政権末期であり、編著『反知性の帝国』 (2008年)を優先することになった。

したがって本書は構想15年の一冊である。はたして三田から育 った実力派の書き手たちを得て、建国の父祖たちの声を共和制文学 に聞き取る論考からフランクリン・デラノ・ローズヴェルトとフォ ークナーの共振を探る論考、トランプとポストモダニズム的物語学 の関連を考察する論考まで、いずれも文学史と大統領史の連動を基 礎に新たな批評的研究の方法論を提起するに至っている。

ちなみに、本書の実質的な編集代表を、同じ原氏担当の『物語の ゆらめき』(1998年)においてはまだ院生だった寄稿者たち三名 が担当したことにも、奇遇以上のものがある。

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192 南雲堂、2023年

――結語――

アートとしての本棚 �� 孝之

学院長の本棚は、オブジェとしての書物に満ちあふれている。

『現代SFのレトリック』は ジョゼフ・コーネル作品を鈴木成一

が見事に装丁し、編訳書『サイボーグ・フェミニズム』は表紙にジ ム・バーンズを迎え、内部にはフェティッシュ写真家ヤマザキ・シ ンジの撮るヤマザキ・ユミが躍った。彼らの芸術はこの本棚の一角 を占める小谷真理の第一評論集『女性状無意識』にも反映している。

ラリイ・マキャフリイ『アヴァン・ポップ』を彩った異才・木庭 貴信は、『 ニューヨークの世紀末』『日本変流文学』『アメリカン・ ソドム』と一貫して独創的なアートワークを展開。ドラァグ・クイ ーン兼芸術家のヴィヴィアン佐藤は、総合講座『ユートピアの期限』 から単著『モダニズムの惑星』まで華麗な表紙を描き下ろした。作

家の向山貴彦は�� ゼミ在籍時代に、スタジオ・エトセトラを率い『メ タファーはなぜ殺される』に凝りに凝った造本を施した。

さらに『日本SF論争史』のとり・みき、『メタフィクションの 思想』の 小林エリカ、Young Americans in Literature の YOUCHAN、

Cyberpunk in a Transnational Context の ni_kaは、各書籍の本質に迫 る。ビッグバンド「渋さ知らズ」の一員の廣田清子は、『パラノイ ドの帝国』でドラクロワの名画を巧みに演出した。

そして何と言っても Full Metal Apache で英語圏読者を惹きつけ たのは SFアニメ『TAMALA2010』のチーム t.o.L (trees of Life)。

この本棚は、現代美術のショウケースとしても楽しめるだろう。

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小谷真理 『女性状無意識―― 女性SF論序説』

勁草書房、1994年

大原まり子『戦争を演じ た神々たち』とともに第 15回日本 SF大賞受賞。 女性の受賞は同賞史上初。

向山貴彦&宮山香里 『童話物語』

スタジオ・エトセトラ、 1997年;

幻冬舎、1999年

まだ学生時代に、文学部 の同窓生だった向山と宮 山が文と絵を分担したデ ビュー作。

解説:�� 孝之

向山貴彦&たかしまてつを 『金網の向こう』

角川春樹事務所、 2022年

向山とたかしまのコンビ は『ビッグ・ファット・ キャットの世界一簡単な 英語の本』シリーズで累 計 200万部を超えるベ ストセラーを放った。本 書はその黄金コンビニよ る向山の遺作。

解説:�� 孝之&小谷真理

シンジ・ヤマザキ&ユミ 『BD BODY DISCIPLINE』 フールズメイト、1992年

1989年から 2000年ま で、ヤマザキ夫妻はフ ェティッシュ・ファッ ション専門店 A.Z.Z.L.O を経営、深夜パーティ DISCIPLINE GYMも定期 的に主催していた。

YOUCHHAN 『 TURQUOISE (ターコイズ)』 アトリエサード、2014年 帯:新井素子 解説:�� 孝之

日本近代文学を心から愛 し、特にミステリと SF に造詣が深い YOUCHAN (伊藤優子)は『想い出 のブックカフェ』以来、 文芸書のカバーで引っ張 りだこだ。

小谷真理 『リス子のSF、 ときどき介護日記』 以文社、2010年 絵:YOUCHHAN

Ni_ka Website

ハイテクを駆使してアートとテクストを 有頭させた作品群はモニタ詩とも AR詩 (Augmented Reality Poetry)とも呼ばれ、 国際的評価を受けている。

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「読んでも眺めても楽しい雑誌的なカタログを作りたい」

まだ肌寒さも残る3月13日、先生行きつけの「ワインと愛情料 理 しょこら」での一言であった。�� 研究会31期の盟友、榮光太 郎君とともに三田の地へ赴いた私は、気づけば大学院での研究とカ タログ編集という二刀流の日々に突入していた。

類似の企画は初めてではない。ハードコピー最終号となった

『Panic Americana』25号のインタビュー記事 “Bonus Track"ですで に取り組んでいたことでもある。しかし、今回は記事ではなくカタ ログだ。さて、どうすればまとまるのか。

ためしに、ふつう「目録」と訳される「カタログ」(catalog)の語 源を遡ってみると、古代ギリシャ語の“katalogos”(κατάλογος, 列挙

する、登録する)に行き着く。なるほど、廃盤になり、最新のカタ ログから登録抹消されたモデルも「カタログ落ち」という。

そこで今回は、「登録」された書籍が人文学研究史の中で決して「カ タログ落ち」せぬよう、本書を作成した。時に書影の周りに関連書 籍や雑誌の表紙を散りばめたのは、単体ではわからないコンテクス トを示すためである。

企画始動時より、多士済済の顔ぶれによる得難いご支援に恵まれ た。まず、数々の編集ソフトを縦横無尽に使いこなす編集長・榮光 太郎君。さらに、資料収集に助言をくださった文学部教授・佐藤光 重先生、貴重な書影をお送りくださった�� 家アシスタントの中江川 靖子さん。そして心温まるコメントをお寄せくださったニューヨー ク学院図書室のボールドウィン吉田静佳さん、川島恵さん、�� ゼミ 三田会会長の山口恭司さん。本当にありがとうございました。

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――編集後記Ⅰ―― 謝辞に代えて 篠碕 優人

「カタログ化」という言葉は、 �� ゼミ32年の歴史の中で、学生 が繰り返し �� 先生から叩き込まれてきたひとつのキーワードであ る。作家やカテゴリー別の書籍を並べ、文学史上のテーマごとに配 列して、それをビジュアル的に俯瞰すること。

文学者とは本来、物語が生まれる不思議なケミストリーや作家の 抱える時代的・運命的なモチベーションなど、基本的に捉えようの ないものを何より重視するものだと思い込んでいた当時20代の私 は、あえて膨大な文学作品をテーマやトピック毎に選び出し並べ替 え、時に楽しそうな顔でシャッフルしていく講義に刮目したものだ。

本来カタログとは、美術品や書物に必須ではあるが、現代では一 般に商品やサービスを一覧させて販促を促すディスプレイ方法にな っている。しかし、内に潜んでいるはずの感覚を、本来乗らないは ずの資本主義的な脈絡に乗せてみる「アヴァン・ポップ」な戦略も 存在する。たとえば、この「学院長の本棚」のゲラをいち早くみせ てもらったときには、精緻に紡がれたレビューと名だたる装幀家の 方々の仕上げた美しいカバー、均整のとれたエディトリアル・デザ インに接し、そのまま現代美術館に飾りたくなった。カタログに込 められた時間の厚みや、まさに捉えようのない複雑な思念の流れに 興奮を覚えたのだ。

さらに本書は、日米で脱半球的に活躍する学者批評家が自らの和 英双方の関連書籍を批評するという、メタカタログになっている。

詳細なインデックスを活用すればクロス・レファレンスを通して多 次元的な時空の世界がますます広がるだろう。極大宇宙を秘めたこ の極小宇宙を、どうか心ゆくまで楽しんでいただきたい。

196
――編集後記Ⅱ―― メタカタログの極小宇宙 山口 恭司

Headmaster of Keio Academy of New York

Takayuki Tatsumi was born in Ebisu, Shibuya-ku, Tokyo on May 15, 1955, to Toyohiko Tatsumi (1916-2013), professor emeritus of Sophia University and the third son of Kōnojō Tatsumi (1864-1931), manager of the London branch of Yokohama Specie Bank (now MUFG) in the 1910s, and Chizuko Kurita Tatsumi (1926-2009), the second granddaughter of Dr. Motokurō Kawase (1871-1945), who earned a medical degree from Boston University in 1899, and who co-founded St. Luke’s Hospital in Tsukiji in 1902. Deeply influenced by his father’s profound scholarship in Victorian Anglo-Catholic literature, Tatsumi has loved reading books, writing about books and publishing his own books. No books no life! Among others, Herman Melville’s Moby-Dick (1851) and Sir Arthur Conan Doyle’s The Lost World (1912) determined the future of the young Japanese Americanist.

197
Dr. Takayuki Tatsumi Professor Emeritus of Keio University

Since he received Ph.D. from Cornell University in 1987, Tatsumi has long taught American Literary History and Critical Theory at Keio University and other academic institutions. It is a couple of prestigious awards that launched his career: The 7th ELSJ (English Literary Society of Japan) Prize for New Talent for the article "Violence as Metaphor: Deconstruction of Author(-) ity in The Narrative of Arthur Gordon Pym of Nantucket" (1984); The 1988 American Studies Book Prize (The Japan-US Friendship Commission) for his first book Cyberpunk America (1988);The 2nd Japan Translation Award: Philosophy Section, for his edited anthology Cyborg Feminism: Haraway, Delany, Salmonson (1991).

In the 21st century, having served as president of the American Literature Society of Japan (2014–2017), president of the Poe Society of Japan (2009-2020), vice president of the Melville Society of Japan (2012-), and founder of Keio University’s American Studies Association (2017-), he is a member of the editorial board of the Journal of Transnational American Studies (2009-). However, professional duties could not prevent him from loving books.

From the 1990s through the 2010s he published major monographs such as: New Americanist Poetics (Seidosha,1995, the winner of the Yukichi Fukuzawa Award), Full Metal Apache (Duke UP,2006, the 2010 IAFA [International Association for the Fantastic in the Arts] Distinguished Scholarship Award), Young Americans in Literature: The Post-Romantic Turn in the Age of Poe, Hawthorne and Melville (Sairyusha, 2018), and Keio Gijuku and Its TransPacific Imagination (Takanashi Shobou, 2022). Co-editor of The Routledge Companion to Transnational American Studies ( Routledge, 2019), he has also published a variety of essays on books in P MLA , Critique , Paradoxa , Extrapolation , American Book Review, Mechademia , The Oxford Research Encyclopedia of Literature and elsewhere on subjects ranging from the American Renaissance to post-cyberpunk fiction and film. His bookshelf life is timelss.

Keio Gijuku Tatsumi Seminar’s Website:http://www.tatsumizemi.com/ Keio Academy of New York’s Website: https://www.keio.edu

198

あ――――――――――――――――――――

アーウィン, ウォラス 61

アーヴィング, ワシントン 15

『アーサー・ゴードン・ピムの冒険』→ ポウ, エ ドガー・アラン

ARTS 123

アーノルド, マシュー 127

アーレント, ハンナ 83

アイヴォリー, ジェイムズ 17

『パリのジェファソン』 17

『アイズ・ワイド・シャット』→ キューブリック, スタンリー

『あいどる』→ ギブスン, ウィリアム

アヴァン・ポップ 7, 21, 37, 73, 121, 139, 141, 175, 176, 177, 193

『アヴァン・ポップ』→マキャフリイ, ラリイ

青柳いづみこ 93

赤坂真理 59

秋山健 115, 141

『悪の法則』→ スコット, リドリー

『悪夢としてのP.K.ディック――人間、アン ドロイド、機械』 135

浅倉久志 177

朝日新聞社 67, 68, 165

朝吹亮二 187

アシモフ, アイザック 55

『アシモフが語るアイデアの世界』 55

東浩紀 71, 87

アダムズ, ヘンリー 15

アッカー, キャシー 21

「アッシャー家の崩壊」→ ポウ, エドガー・アラン

アティーナ・プレス 63, 64, 81, 82

アトウッド, マーガレット 21, 101

アトリエサード 194

「あなたの人生の物語」→ チャン, テッド

『アビー・ロード』→ ザ・ビートルズ

安部公房 69, 87

『アポロギア』→ ニューマン, ジョン・ヘンリー

『アメリカ近未来戦争小説集1880-1930:アメリ カ対脅威の極東アジア』 63

『アメリカ古典大衆小説』 27, 77, 78

「アメリカ小説史の革命」『アメリカン・ソド ム』を参照

『アメリカ政治におけるパラノイド・スタイル』

→ ホフスタッター, リチャード

『アメリカ的自己のピューリタン起源』→ バーコ ヴィッチ, サクヴァン

『アメリカの嘆き――米文学史のなかのピューリ タニズム』 141

『アメリカの文明と自画像』 83

『アメリカは吃る』→ エリクソン, スティーヴ

<アメリカ文学研究> 39

『アメリカ文学史――駆動する物語の時空間』 25, 67, 151

『アメリカ文学史のキーワード』 25, 26, 67

『アメリカ文学と大統領――文学師と文化史』 31, 191

『アメリカ文学ミレニアム』 145

『アメリカ・ロマン派と市場経済』→ ギルモア, マイケル

『アメリカン・アダム』→ ルイス, R・W・B

『アメリカン・ゴシック傑作選』 81, 82

『アメリカン・スタディーズ』→ マーリス, マーク

American Studies: An Anthology. 143

『アメリカン・ソドム』 17, 27, 81, 193

「アメリカン・ナラティヴの独立革命」→『物語 のゆらめき――アメリカン・ナラティヴの意識史』

『アメリカン・マインドの音声――文学・外傷・ 身体』 119

アメリカン・ルネッサンス 47, 81, 137, 151, 189, 191

『アメリゴ・ベスプッチの新世界到達』 169

新井素子 99, 194

199
索引 / Index

荒巻義雄 9, 69, 79, 103, 104, 107, 108, 129

『SFする思考 荒巻義雄評論集成』 107

「大いなる正午」 107

「術の小説論」 129

「白壁の文字は夕陽に映える」 107

『白き日旅立てば不死』 107

『神聖代』 103

『時の葦舟』 107

「トロピカル」 107

「緑の太陽」 107

「柔らかい時計」 9, 107

有木恭子 151

ALI PROJECT 71, 85

アルジャー, ホレイショ 77

『ぼろ着のディック』77

安西徹雄 115

安西祐一郎 149

Anthologizing Poe: Editions, Translations, and (Trans)

national Canons 161

アンダーソン, シャーウッド 163

アンダーソン, ポール・トーマス 49

安東伸介 187

『ミメーシスの詩学』 187

インディアナ, ゲイリー 15

う―――――――――――――――――――― 『ヴァージニアン』ウィスター, オーウェン 参照

『ヴァーチャル・ライト』→ ギブスン, ウィリアム

ヴァイキング 19, 25, 67, 68

ヴィヴィアン佐藤 65, 193

『ヴィジュアル版 ゴシック全書』 131

ウィスター, オーウェン 77

『ヴァージニアン』 77

ヴィゼナー, ジェラルド 13, 153

ウィドマー, エドワード 47, 137

William Gibson and the Futures of Contemporary Culture 123 →ギブスン, ウィリアム

ウィリアムズ, ポール 135

ウィリス, コニー 177

ウィリンガム, デイヴィッド 97

ヴィルヌーヴ, ドゥニ 131

『メッセージ』 131

ウィンズロウ, ドン 49

上島春彦 157

上杉忍 83

ヴェラスケス, ディエゴ

『宮廷の侍女たち』(『ラス・メニーナス』) 5

ウェルズ, H・G 63

い――――――――――――――――――――

『E・A・ポウを読む』 11, 41

『怒りの葡萄』→ スタインベック, ジョン 参照

石川喬司 9

『 SFの時代――日本SFの胎動と展望』 9

伊藤優子→ YOUCHAN 参照

伊藤典夫 101

犬養毅 111

井上ひさし 7

イバネス, ホセ 161

以文社 194

岩波書店 5, 6, 11, 12, 23, 43, 44

岩元巌 175

<インターゾーン> 9

『宇宙戦争』 63

ヴェルヌ, ジュール 43, 169, 170

『氷のスフィンクス』 169

『地底旅行』 169

ウォー, イーヴリン 109

『夜霧と閃光ーーエドマンド・キャンピオン

伝』 109

ヴォネガット, カート 7, 19, 91, 101, 102

『猫のゆりかご』 101

ウォレス, ロバート 165

ウォレン, オースティン 141

宇沢美子 23, 127

『歌う船』→ マキャフリイ, アン

内野儀 145

200

<宇宙塵> 69

『宇宙戦争』→ ウェルズ, H・G

宇野邦一 83, 89

ウルフ, トム 15

え――――――――――――――――――――

<英語青年> 17

「衛星の観測」→ コーネル, ジョゼフ

<英文学研究> 39

『AI.』→『スティーヴン・スピルバーグ論』

エーコ, ウンベルト 147

< SF Eye > 3, 5, 37, 139, 175

<SFアドベンチャー> 9

< SF Studies > 69, 87, 135, 179

『SFする思考 荒巻義雄評論集成』→ 荒巻義雄

<SFの本> 179, 180

『SFマガジン』 3, 5, 9, 95, 96, 101, 102, 105, 139, 180

「 SFレビュウ」 9

エスプリン, エムロン 161

越前敏弥 125

『 Xのアーチ』→ エリクソン, スティーヴ

エディシオン・トレヴィル → トレヴィル

エディソン, ローリー 59

『エデンの東』→ スタインベック, ジョン

『エドガー・アラン・ポー ――文学の冒険家』 41

『エドガー・アラン・ポーの世紀』 93, 181

江戸川乱歩 103

NHK 41, 42, 58

江畑謙介 71

海老原豊 99

エマソン, ラルフ・ウォルドー 47, 51, 91, 123

MLA 35, 163

エリオット, T・S 43, 91

エリオット, エモリー 25

エリクソン, スティーヴ 7, 17, 21, 49, 57, 101,

139, 175, 191

『アメリカは吃る』 139

『 Xのアーチ』 17

『彷徨う日々』 139

エリスン, ハーラン 177

エンデルレ書店 109

遠藤周作 149

お――――――――――――――――――――

生地竹郎 115

「大いなる正午」→ 荒巻義雄

『大渦巻への落下・灯台――ポー短編集III SF&

ファンタジー編』 181

大江健三郎 7, 101

大串尚代 187, 191

大久保清朗 157

オースター, ポール 57, 61, 101

大田信良 89

大槻敦子 131

大橋洋一 135

大橋吉之輔 61

大橋健三郎 145

大原まり子 9, 59, 69, 73, 79, 99, 103, 104, 194

『戦争を演じた神々たち』194

『ハイブリッド・チャイルド』 103

オーマンズ, グレン 11

オールディス, ブライアン 65, 157

「スーパートイズ」 65, 157

岡田光弘 71

岡野栄之 95

岡原正幸 71

岡和田晃 95, 96

荻野アンナ 85, 149

『オズのふしぎな魔法使い』→ボーム, ライマン・

フランク

小田隆裕 75

越智道雄 157

越智博美 189

オッター, サミュエル 47, 165

乙部順子 105

201

小畑拓也 183

オバマ, バラク 43

オブライエン, フィッツ=ジェイムズ 81, 82

『想い出のブックカフェ――�� 孝之書評集成』 39, 47

オルコット, ルイザ・メイ 81, 82

『当世風メフィストフェレス』81

オルメッツァーノ, フローレンス 59

河出書房新社 33, 34

川又千秋 103, 104, 149

『幻詩狩り』 103

環大西洋 15, 83, 89, 123, 165, 169, 189

環太平洋 9, 51, 63, 83, 121, 127, 165

カント, イマヌエル 11, 123

『官能の庭』→ プラーツ, マリオ

Conversations with William Gibson 139

Conversations with Steve Erickson 139

か――――――――――――――――――――

カード, オースン・スコット 177

ガードナー, ウィリアム 97

偕成社 181

『快楽の園』→ ボス, ヒエロニムス

カヴァリー, ナサニエル 27, 77

『女水兵ルーシー・ブルーアの冒険』 77

笠井潔 73, 93, 99, 135

笙野頼子 21, 73

梶尾真治 79

柏木博 75

「火星からのメッセージ」→ バラード, J・G

『風立ちぬ』→ 堀辰雄

加藤めぐみ 115

角川春樹事務所 105, 106, 194

『金網の向こう』 →向山貴彦

『悲しむ者――アメリカ版西遊記』→ ヴィゼナー, ジェラルド

カポーティ, トルーマン 15

神谷僚一 59

亀井俊介 23, 77, 91

カラー, ジョナサン 11, 23, 119, 163

カリー, ウィリアム 115

刈田元司 115

カルヴィーノ, イタロ 177

カルージュ, ミシェル 15, 85

「独身者の機械」 15

ガルシア=マルケス, ガブリエル 125

川澄哲夫 153

川瀬元九郎 155

神林長平 9, 79

き―――――――――――――――――――― キージー, ケン 49

『危険なヴィジョン』→ エリスン, ハーラン

『北の想像力――<北海道文学>と<北海道 SF >をめぐる思索の旅』 95

キッドマン, ニコール 65

『機動警察パトレイバー』 87

キネマ旬報社 65

紀伊國屋書店 177, 178

ギブスン, ウィリアム 3, 5, 57, 58, 97, 101, 123, 125, 139, 169, 173, 175, 177, 187

『あいどる』57

『ヴァーチャル・ライト』 97

「ジャックポット三部作」 57

『ディファレンス・エンジン』 3, 57, 123

「電脳空間三部作」57

『ニューロマンサー』 3

「橋三部作」57

『パターン・レコグニション』 57

「ブルーアント三部作」 57

『ペリフェラル』 57

ギャスケル, エリザベス 109

『ルース』 109

キャロル, ルイス 165

キャントン, ジェイムズ 125

9・11 13, 31, 57, 75, 91, 153, 183

キューブリック, スタンリー 29, 65, 147, 157.

202

『アイズ・ワイド・シャット』 65

『シャイニング』 65

『時計じかけのオレンジ』 65

『博士の異常な愛情』 65

『非情の罠』 65

『フルメタル・ジャケット』 65

『ロリータ』 65

『教室の英文学』 113

『教養と無秩序』→ アーノルド, マシュー

『恐竜とアメリカ』 19

清岡瑛一 17, 18

『極東証券寄付講座・慶應義塾文学部公開講座

文学部のひらく未来』 169

ギルフォイル, ティモシー 15

ギルモア, マイケル 77, 191

『アメリカ・ロマン派と市場経済』 77

キング・クリムゾン 33, 125

キング, スティーブン 65

北星堂書店 175

『銀星倶楽部』 135, 136

く――――――――――――――――――――

クイア 15, 23

クイア・リーディング 23

クイン, パトリック 11

クーパー, ジェイムズ・フェニモア 141

クール・アジア 97, 121

『九龍城砦』→ 宮本隆司

クシュナー, トニー 15

國重純二 145

久保卓治 93

クラーク, アーサー・C 29, 35, 157

グリーンフェルド, カール・タロー 59

Critique 37

『クリムゾン・キングの宮殿』→ キング・クリム

ゾン

厨川文夫 187

クリントン, ビル 27

クルーズ, トム 65 クルーズ, フレデリック 13

クレイズ, グレゴリー 183

グレゴリー, シンダ 37, 73, 74

グローバル 3, 27, 123, 159

「黒猫」→ ポウ, エドガー・アラン

『黒猫・アッシャー家の崩壊――ポー短編集Iゴ シック編』 181

クロフォード, フランシス・マリオン 81

け――――――――――――――――――――

慶應義塾アメリカ学会会誌 (Journal of Keio American Studies) 187, 188

慶應義塾藝文学会 187, 189

慶應義塾大学出版会 25, 26, 71, 72, 85, 86, 149, 150, 183, 187, 188

『慶應義塾大学創立150年 ブックレット学問の

すすめ21 :Vol.5: ――文学のすすめ』 149

『慶應義塾とアメリカ――�� 孝之最終講義』 51, 149

ケイシー, ジム 141

勁草書房 3, 4, 69, 70, 194

ゲイツ・ジュニア, ヘンリー・ルイス 23

『藝文研究』No. 119-1「�� 孝之教授退職記念論文

集」 187, 188, 189

ケイン, ウィリアム 89

ケネディ, ジョン・F 7, 31, 169, 191

ケリー, ウィリアム 143

『幻影の盟約』→ ピーズ, ドナルド

研究社 27, 28, 39, 40, 57, 93, 94, 113, 114, 181

『幻詩狩り』→ 川又千秋

『現実スタジオを急襲せよ』→ マキャフリイ, ラリイ

『現代SFのレトリック』 5, 29, 193

『現代作家ガイド3 ウィリアム・ギブスン』 169

→ギブスン, ウィリアム も参照

『現代作家ガイド 6 カート・ヴォネガット』 101

幻冬舎 194

ケンネル, アマンダ 165

『ケンブリッジ版アメリカ文学史』→ バーコ

203

ヴィッチ, サクヴァン

こ――――――――――――――――――――

『攻殻機動隊』 123

講談社 25, 26

鴻巣友季子 93, 181, 182

『幸福の逆説』 71

コーネル, ジョゼフ 5, 193

『氷のスフィンクス』→ ヴェルヌ, ジュール

コールダー, リチャード 59, 177

呉岩 105

『国際SFシンポジウム全記録――冷戦以後から

3.11以後へ』 105

国書刊行会 87, 179, 180

コクトー, ジャン 85

越川芳明 175

ゴシック 81, 82, 85, 131, 181, 182, 189

ゴジラ 35, 131, 143, 159

コスプレ 129

小隅黎 → 柴野拓美

小谷真理 69, 74, 85, 87, 95, 96, 99, 103, 109, 129, 155, 173, 193, 194

『女性状無意識――女性SF論序説』 193, 194

「無垢の将校――『イノセンス』を読む」 129

『リス子のSF、ときどき介護日記』 194

「コッペリアの柩」→ ALI PROJECT

『古典アメリカ文学研究』→『D.H.ロレンスとア メリカ/帝国』

後藤和彦 83, 91, 189

『ゴドーを待ちながら』→ ベケット, サミュエル

『言葉と物』→ フーコー, ミシェル

コーネル, ジョゼフ 193

『この不思議な地球で』 79, 177

木庭貴信 193

小林エリカ 71, 193

小松左京

『継ぐのは誰か?』 167

『日本アパッチ族』 167

『日本沈没』 99

「拝啓イワン・エフレーモフ様」 129

『果てしなき流れの果に』 167

『復活の日』 99

コラカチオ, マイケル 47

『ゴルディアスの結び目――現代日本SF傑作選』 79

是枝裕和 71

Colloquia 187, 188

コロニアリズム 23, 25, 173

コンスタンティン, ストーム 177

さ――――――――――――――――――――

Survivance: Narratives of Native Presence. 153

サーモンスン, ジェシカ・アマンダ 173

サイード, エドワード 35

Science Fiction Double Feature: The Science Fiction

Film as Cult Text 159

斎藤英治 157

サイバーパンク 3, 5, 9, 21, 37, 57, 59, 65, 69, 85, 103, 107, 123, 125, 135, 139, 173, 175, 177, 183, 187

『サイバーパンク・アメリカ』 3, 5, 9, 21, 123, 139

Cyberpunk in a Transnational Context 121, 123, 124, 193

サイボーグ 59, 103, 173, 193

『サイボーグ・フェミニズム――ハラウェイ、ディ レイニー、サーモンスン』59, 173, 193

彩流社 45, 46, 47, 48, 57, 58, 101, 102, 105, 106, 107, 108, 109, 110, 111, 112, 115, 116, 165, 166, 169, 187

Silent Interviews: On Language, Race, Sex, Science

Fiction, and Some Comics---A Collection of Written Interviews 139

坂上貴之 71

坂本光 71

作品社 99

佐倉統 59

桜庭一樹 181

204
37, 69, 71, 79, 80, 87, 97, 99, 105, 107,
117, 129, 167

The Cambridge History of Postmodern Literature 163

佐々木徹 113

佐多真徳 115

サトウ, ゲイル 97

佐藤嗣麻子 95

佐藤光重 191

ザ・ビートルズ 33

『彷徨う日々』→ エリクソン, スティーヴ

The Routledge Companion to Transnational American Studies 117, 121

The Liverpool Companion to World Science Fiction Film 159

サリンジャー・J・D 13, 101, 153

三省堂 125, 126

『三体』→ 劉慈欣

『三大怪獣 地球最大の決戦』→ゴジラ

3・11 99, 111, 159, 163, 183

『3・11の未来――日本・SF・創造力』 99

サンリオ 135, 136

し――――――――――――――――――――

シェイクスピア, ウィリアム 31, 125, 159

ジェイコブズ, ハリエット 13

ジェイコブスン, マーク 19

『シェイプ・オブ・ウォーター』→ デル・トロ, ギレルモ

『ジェイン・オースティンの読書会』→ ファウ

ラー, カレン・ジョイ

シェパード, ルーシャス 5, 141

ジェファソン, トマス 17, 51, 61, 191

シェリー, メアリ 131

『フランケンシュタイン』 123, 131 →シェリー, メアリ

ジェンダー理論 15

識名章喜 85, 187

『しずおか SF 異次元への扉』 95

『事典 現代のアメリカ』 75

Cinema Anime 147

芝田文乃 179

柴野拓美 87, 105, 129

澁澤龍彥 165

島田雅彦 21, 73

シムズ, ウィリアム・ギルモア 81, 82

志村正雄 23, 91, 145

下河辺美知子 119, 137, 189

Journal of Transnational American Studies (JTAS)

117, 121, 161

シャイナー, ルイス 107 『シャイニング』→ キューブリック, スタンリー

ジャイルズ, ポール 43, 189

ジャクソン, マイケル 59

ジャコボヴィッツ, セス 159

ジャズ 15, 33, 89

ジャズ・エイジ 15, 89

「ジャックポット三部作」→ ギブスン, ウィリアム

『ジャパノイド宣言――現代日本SFを読むために』 9

Japan Foundation 79, 80

集英社 181, 182

『週刊朝日百科世界の文学 南北アメリカⅠ――

ヴァイキングの文学』 67

『週刊朝日百科世界の文学48 南北アメリカⅡ ― ―SFと変流文学』 67

『ジュール・ヴェルヌとフィクションの冒険者た ち』→『極東証券寄付講座・慶應義塾文学部公開 講座 文学部のひらく未来』

「術の小説論」→ 荒巻義雄

春風社 159

庄司薫 101

邵丹 101

『上智英文90年』 115

『情の技法』 71

松柏社 23, 24, 27, 39, 77, 78, 101, 141, 142

『女性状無意識――女性SF論序説』 →小谷真理

John Steinbeck’s Global Dimensions 151

「白壁の文字は夕陽に映える」→ 荒巻義雄

『白き日旅立てば不死』→ 荒巻義雄

新時代社 180

205

シンジ, ヤマザキ 193

『新世紀エヴァンゲリオン』 87

『神聖代』→ 荒巻義雄

『人生の意味』→ �� 豊彦

『人生の住処』→ �� 豊彦

『人生の風景』→ �� 豊彦

『人造美女は可能か?』 85

『身体の未来』 59

『新潮』 177

新潮社 21, 22, 80, 181, 182

新歴史主義 11, 13, 23, 77, 137, 143, 191

成美堂 55, 56

セイラムの魔女狩り 13

『世界の SFがやって来た!――ニッポンコン・ ファイル2007』 105

『世界のポー短編集』 161

『世界のポー翻訳』 161

「世界文学大図鑑」→ 沼野充義

『世界物語大事典』 125

セジウィック, イヴ 141

舌津智之 119

瀬名秀明 99, 105

す――――――――――――――――――――

水鏡子 135

スーヴィン, ダルコ 69, 129, 135

スーター, レベッカ 97

「スーパートイズ」→ オールディス, ブライアン

菅浩江 79

スクラー, ロバート 83

スコールズ, ロバート 7

スコット, リドリー 49

鈴木成一 193

スターリング, ブルース 3, 21, 57, 123, 177

『ミラーシェード』 177

スタイナー, ジョージ 189

スタインベック, ジョン 43, 141, 151

『怒りの葡萄』 141

『エデンの東』 151

スタジオ・エトセトラ →向山貴彦

『スティーヴン・スピルバーグ論』 65, 157

ストウ, ハリエット・ビーチャー 141

スピヴァク, ガヤトリ 43, 89, 117, 173

スピルバーグ, スティーヴン 65

『A.I.』 65

せ――――――――――――――――――――

青土社 13, 14, 31, 32, 136, 165, 166, 180

そ――――――――――――――――――――

Sources of Science Fiction: Future War Novels of the 1890s 63

ソラーズ, ヴァーナー 189

『ソラリス』→ レム, スタニスワフ

ソロー, ヘンリー・デヴィット 19, 47, 51

た――――――――――――――――――――

ダーウィニズム 19

『 TURQUOISE』→YOUCHAN

< Diacritics > 139

『第9地区』→ ブロムカンプ, ニール

大修館書店 49, 50, 75, 76

タイラー, ロイヤル 27

『ダヴィンチ・コード』→ ブラウン, ダン

『高い城・文学エッセイ』→ レム, スタニスワフ

たかしまてつを 194

高瀬佑子 119

高梨治 45, 47, 51, 105, 107, 109, 111, 115, 119, 165, 189, 191 小鳥遊書房 も参照

小鳥遊書房 51, 52, 107, 119, 120, 189, 190

高野一良 141

高柳俊一 115

高山宏 7, 13, 19, 39, 59, 65, 67, 93, 165, 166

『鎮魂譜:アリス狩りVII』 165

206

宝野アリカ 85, 95. ALI PROJECT も参照

滝本誠 65

ダグラス, アン 15, 169

武田武彦 181

竹宮惠子 155

竹村和子 91

脱構築 11, 13, 23, 41, 45, 89, 119, 137, 181, 189

�� 孝之丞 109, 155

�� 豊彦 109, 110, 111, 115

『人生の意味』 109

『人生の住処』 109

『人生の風景』 109

辰己ヨシヒロ 97

『脱領域・脱構築・脱半球――二一世紀人文学の

ために』 189

立石弘道 89

ダトロウ, エレン 3

タナー, トニー 189

田中久男 91

田中泯 71

棚橋訓 71

谷甲州 99

種村季弘 165

『TAMALA2010:A Punk Cat in Space』 → t.o.L (trees of Life)

『TAMALA2010コンプリートブック』→ Cinema Anime

タヤンディエー, ドゥニ 105, 123, 129

ダンスト, アレックス 135

メリカ/帝国』

チャン, テッド 131

「あなたの人生の物語」 131

中央公論社 104

超越主義 123

『鎮魂譜:アリス狩りVII』→ 高山宏

つ――――――――――――――――――――

つかこうへい 71

塚本晋也 65

『鉄男』 65

『継ぐのは誰か?』→ 小松左京

筒井康隆 5, 7, 21, 73, 79, 97, 102, 107

常山菜穂子 191

t.o.L (trees of Life) 147, 148, 193

て――――――――――――――――――――

『D.H.ロレンスとアメリカ/帝国』 89

デイヴィッドソン, キャシー 23, 143

ディキンソン, エミリー 47

ディケンズ, マシュー 177

ディック, フィリップ・K 5, 49, 131, 177, 179

『銀河の壺直し』 135

ディッシュ, トマス 7

ティプトリー・ジュニア, ジェイムズ 5

ディモク, ワイ・チー 43, 117, 189

ディレイニー, サミュエル 3, 5, 7, 49, 97, 139, 173, 175

ち――――――――――――――――――――

チェイス, シンシア 11

チェイス=リボウ, バーバラ 191

筑摩書房 7, 8, 15, 16, 19, 20, 175, 176

『地底旅行』→ ヴェルヌ, ジュール

茅野裕城子 85

チハルシヴィリ, グレゴーリー 79

チャイルド, リディア・マライア 61, 81, 82

『チャタレイ夫人の恋人』→『D.H.ロレンスとア

出口菜摘 91 『鉄男』→ 塚本晋也

『テヘランで読む「ロリータ」』→ ナフィーシー, アーザル

デュシャン, マルセル 15

デリダ, ジャック 45, 147, 189

デル・トロ, ギレルモ 49

「電脳空間三部作」→ ギブスン, ウィリアム

207

と――――――――――――――――――――

土居健郎 71

トウェイン, マーク 19, 43, 51, 63, 91

『当世風メフィストフェレス』→オルコット、ル

イザ・メイ

東洋書林 183, 184

『童話物語』→向山貴彦, 宮山香里

TOKON10 OFFICIAL SOUVENIR BOOK 95

『時の葦舟』→ 荒巻義雄

トクヴィル, アレクシ・ド 83

「独身者の機械」→ カルージュ, ミシェル

徳間書店 104

『ドグラ・マグラ』→ 夢野久作

『時計じかけのオレンジ』→ キューブリック, ス

タンリー

栩木玲子 65

飛浩隆 129

『トマス・ジェファソンとアメリカ文学――清岡

瑛一名誉教授に捧ぐ』 17

ド・マン, ポール 13, 45, 77, 119

富島美子 → 宇沢美子

冨山太佳夫 23, 135

豊田有恒 99

三重文化(Triculture) 51

Transactions, Transgressions, Transformations:

American Culture in American Western Europe and Japan. 143

Transpacific Cultural Studies 97, 121

Translated POE 161

トランプ, ドナルド 49, 191

とり・みき 193

トレヴィル 59, 60, 173, 174

「トロピカル」→ 荒巻義雄

長澤唯史 129

中野記偉 115

『夏への扉』→ ハインライン, ロバート・A

ナフィーシー, アーザル 39

Narrative 163

南雲堂 61, 62, 91, 92, 137, 138, 145, 146, 191, 192

南窓社 109

難波弘之 65

南波克行 65, 157

南北戦争 27, 31, 51, 127

「<南北>の創生」→『リンカーンの世紀――ア メリカ大統領たちの文学思想史』を参照

に――――――――――――――――――――

新島進 85, 169, 170, 187

ニール, ジョン 81

ni_ka 193

ニクソン 7, 45

西田博至 157

西村俊昭 135

西脇順三郎 187

「2001年宇宙の旅」 29, 157

『「2001年宇宙の旅」講義』 29, 157

ニッカーボッカー, デイル 167

新田啓子 83

『日本アパッチ族』→ 小松左京

日本英文学会 83, 113, 145, 181, 191

日本 SF作家クラブ 99, 105

『日本SF論争史』 69, 129, 193

『日本沈没』→ 小松左京

『日本変流文学』21, 37, 193

『ニュー・アメリカニズム――米文学思想史の物 語学』 13, 17, 33, 121, 151, 153, 165

な――――――――――――――――――――

『ナイアガラ』→ ハザウェイ, ヘンリー

ナイトン, メアリ 97

永井荷風 149

New Japanese Fiction Review of Contemporary Fiction. 73

ニューマン, ジョン・ヘンリー 109, 115

ニューヨーク 15, 35, 45, 51, 79, 83, 107, 141, 153, 193

208

ニューヨーク学院 51

『ニューヨークの世紀末』15, 193

ニルジェス, マシアス 123

ぬ―――――――――――――――――――― 『盗まれた廃墟――ポール・ド・マンのアメリカ』 45

沼正三 7

沼野充義 39, 71, 79, 125, 179

『『白鯨』アメリカン・スタディーズ』 35

白林荘 → 犬養毅

ハザウェイ, ヘンリー 49

「橋三部作」→ ギブスン, ウィリアム

バズビー, F・M 177

『パターン・レコグニション』→ ギブスン, ウィ リアム

バチガルピ, パオロ 105

ハッチンソン, アン 91

『果てしなき流れの果に』→ 小松左京

バトラー, オクテイヴィア 61

ね――――――――――――――――――――

ネイピア, スーザン 87, 99

ネグリ, アントニオ 159

『猫のゆりかご』→ ヴォネガット, カート

『ハナ――日本の娘』→ 村井弦斎

「花咲く娘たちのミステリ」→ 野阿梓

早川書房 9, 10, 96, 102, 104, 180

バラード, J・G 5, 107, 177

「火星からのメッセージ」 177

「夢の積荷」 177

の――――――――――――――――――――

野阿梓 9, 79, 129

「花咲く娘たちのミステリ」 129

野崎孝 101

ノトキン, デビー 59

能登路雅子 75

は――――――――――――――――――――

バーガーン, フォルカー 143

バーコヴィッチ, サクヴァン 25, 89, 141

『アメリカ的自己のピューリタン起源』 141

『ケンブリッジ版アメリカ文学史』 89

バース, ジョン 7

ハートウェル、デイヴィッド 3

「拝啓イワン・エフレーモフ様」→ 小松左京

『ハイブリッド・チャイルド』→ 大原まり子

ハインライン, ロバート・A 127, 183

『博士の異常な愛情』→ キューブリック, スタンリー

萩尾望都 95

『白鯨』 31, 35, 45, 47, 119, 137, 153, 169.

→ メルヴィル, ハーマン

ハラウェイ, ダナ 173

原書房 131, 132

原田範行 189

Paradoxa No.22: Three Asias Japan, S.Korea,China 97

『パラノイドの帝国――アメリカ文学精神史講義』 49, 159, 163, 193

“Parallel Futures” series 103

バリッシュ, イヴリン 45 『パリのジェファソン』→ アイヴォリー, ジェイ ムズ

バーンズ, ジム 193

反知性主義 49, 91, 127

『反知性の帝国――アメリカ文学精神史』 49, 91, 191. 『パラノイドの帝国――アメリカ文学精神史講 義』も参照

ハンド, エリザベス 177 ひ――――――――――――――――――――

ピーズ, ドナルド 13, 137

『BD BODY DISCIPLINE』→シンジ, ヤマザキ&ユ

209

ミ, ヤマザキ

『非情の罠』→ キューブリック, スタンリー

『ビッグ・ファット・キャットの世界一簡単な英

語の本』→向山貴彦

日比野啓 119

『100分de名著 エドガー・アラン・ポー スペシャ

ル――「ジャンル」の創造者』 41

ビューエル, ローレンス 141

ピュー, スコット 151

ピューリタニズム 13, 61, 141

ピューリタン 15, 61, 141, 145, 169

平石貴樹 145

『ヒロシマ・ブギ』→ ヴィゼナー, ジェラルド

廣田清子 193

ピンチョン, トマス 7, 21, 49, 147

藤沢周 59

藤田直哉 99

『富士見高原――環境と文化の50年』 111

『復活の日』→ 小松左京

ブッシュ, ジョージ・W 31, 49, 91

プラーツ, マリオ 165

『官能の庭』 165

フラー, マーガレット 91

ブラウン, スティーヴ 3

ブラウン, ダン 125

ブラッケンリッジ, ヒュー・ヘンリー 27

ブラッドストリート, アン 61

ブラッドフォード, ウィリアム 141

ブラッドベリ, レイ 49

フラム, デイヴィッド 91

『ふさわしい男』 91

フランクリン, ベンジャミン 13, 51, 123, 191

ふ――――――――――――――――――――

ファイデルソン, チャールズ 11

ファウラー, カレン・ジョイ 39

フィッシュキン, シェリー・フィッシャー 83, 117, 121

フィッツジェラルド, スコット・F 15

フィルムアート社 157

<フィルムメーカーズ> 65

フーコー, ミシェル 5, 13

『言葉と物』 5

ブース, ジョン・ウィルクス 31

フェダマン, レイモンド 7, 191

フェルマン, ショシャナ 119

フォークナー, ウィリアム 43, 91, 117, 191

フォスター, ハナ 77

『コケット』77

フォスター, ハンナ 27

福沢諭吉 17, 51, 61, 149

『福翁自伝』 17

福島正実 105

『ふさわしい男』→ フラム, デイヴィッド

『不思議の国日本のアリス』→ ケンネル, アマンダ

『フランケンシュタイン』 123, 131

ブランショ, モーリス 85

フリーマン, メアリ・ウィルキンズ 81, 82

ブリン, デイヴィッド 105

「ブルーアント三部作」→ ギブスン, ウィリアム

ブルーム, アラン 127

『フルメタル・ジャケット』→ キューブリック, スタンリー

『フルメタル・アパッチ』Full Metal Apache 21, 37, 47, 73, 143, 147, 193

ブレア, デイヴィッド 175

『ブレードランナー2049』 123

『プログレッシヴ・ロックの哲学』 33

ブロムカンプ, ニール 49

文学思想史 13, 15, 17, 27, 31, 43, 81, 123, 141, 153, 183

『文学する若きアメリカ』 47

『文学とアメリカ』→ 大橋健三郎

「文藝別冊夢ムック」 33

210

へ――――――――――――――――――――

ベアレンズ, カズコ 103, 107

平凡社 29, 30, 33, 34, 75, 147, 148, 157

ベケット, サミュエル 189

『ゴドーを待ちながら』 189

別宮貞徳 115

ベック, ジョディ 103

ヘミングウェイ, アーネスト 43, 67

ヘミングス, サリー 17

ペヨトル工房 136, 187

『ペリフェラル』→ ギブスン, ウィリアム

『ポストモダニスト・フィクション』→ マクヘイ ル, ブライアン

ボス, ヒエロニムス 169

ホッケ, グスタフ・ルネ 165

『迷宮としての世界』 165

ホフスタッター, リチャード 49, 91

『アメリカ政治におけるパラノイド・スタイル』 49

ホフマン, E・T・A 85

ボラーニョ, ロベルト 49

堀辰雄 111

ボルトン, クリストファー 87, 99, 103

『ボルヘスのポー』→ エスプリン, エムロン

『ぼろ着のディック』→ アルジャー, ホレイショ

ほ――――――――――――――――――――

ポウ(ポー), エドガー・アラン 11, 15, 41, 42, 43, 45, 47, 49, 61, 81, 87, 93, 119, 135, 137, 161, 169, 179, 181, 182, 189

『アーサー・ゴードン・ピムの冒険』 41, 169,

181, 182

「アッシャー家の崩壊」 41

「黒猫」 41, 137

「マリー・ロジェの謎」 41

「モルグ街の殺人」 41

『ポー再構築』 161

ホーソーン, ナサニエル 13, 47, 61, 93, 119, 137, 141, 145, 161

ホーヌング, アルフレッド 117

ボーム, ライマン・フランク 77, 169

『オズのふしぎな魔法使い』→ ボーム, ライマン・ フランク

ポサダス, バリオン 103

星新一 79, 80

ポスト・アメリカニズム 25

ポスト構造主義 119, 139, 179

ポストコロニアリズム 23, 173

ポストモダニズム 25, 163, 189, 191. ポストモ

ダン も参照

ポストモダン 3, 5, 21, 37, 47, 57, 61, 67, 101, 145, 191

ホワイト, ブライアン 129 『翻訳を産む文学、文学を産む翻訳――藤本和子、 村上春樹、SF小説家と複数の訳者たち』→ 邵丹

ま――――――――――――――――――――

マーク, フレデリック 47

マーフィ, グレッチェン 43, 117, 189

マーフィ, パット 105, 177

マーリス, マーク 27

『アメリカン・スタディーズ』 27

マイケルズ, ウォルター・ベン 23, 137

My Postwar Life: New Writings from Japan and Okinawa 155

前川玲子 83

牧野修 79

マキャフリイ, ラリイ 3, 5, 7, 21, 37, 73, 74, 139, 163, 175, 191, 193

『アヴァン・ポップ』 73, 121, 139, 175, 193

『メタフィクションの詩神』 175

マキャフリイ, アン 173

『歌う船』 173

『マグノリア』→ アンダーソン, ポール・トーマス

マクヘイル, ブライアン 163

マザー, コットン 13

柾悟郎 73

211

マシーセン, F. O. 11

マシー, フランシス 115

マシューズ, ブランダー 61

増田まもる 177

松尾弌之 75

松尾由美 73

マッカーシー, コーマック 49

マッカーシー, メアリ 45

マッカーシズム 13

マッケンジー, エリザベス 155

『マトリックス・レザレクションズ』 123

マニエリスム 67, 107, 165, 169

『マニエリスム談義――驚異の大陸をめぐる超英

米文学史』 67, 165

『マニエリスムのアメリカ』→ 八木敏雄

マラルメ, ステファヌ 85

「マリー・ロジェの謎」→ ポウ, エドガー・アラン

マンデラ, ネルソン 117

み――――――――――――――――――――

『ミイラの呪い――ダーク・ファンタジーをめぐ

る真の歴史』→ ラックハースト, ロジャー

三浦祐嗣 107

みすず書房 35, 36

『三田評論』 149

『三田文学』 21

「緑の太陽」→ 荒巻義雄

ミネルヴァ書房 83, 84, 127, 128

ミノル, モリ 129

ミメーシスの詩学』→ 安東伸介

宮坂敬造 71

宮崎駿 111

宮野由梨香 95, 96

宮本陽一郎 83

宮本隆司 187

『九龍城砦』 187

宮山香里 194

『童話物語』194

宮脇俊文 141

三好洋子 109

『ミラーシェード』→ スターリング, ブルース

ミラー, ローラ 125

『未来のイヴ』→ リラダン, ヴィリエ・ド

ミルワード, ピーター 109, 115

ミンガンティ, フランコ 143

む―――――――――――――――――――― 「無垢の将校――『イノセンス』を読む」 → 小谷

真理

向山貴彦 65, 193, 194

『童話物語』 194

『金網の向こう』 194

『ビッグ・ファット・キャットの世界一簡単な

英語の本』194

村井弦斎 63

『ハナ――日本の娘』 63

村上春樹 21, 73, 101, 163

村上龍 21

村崎百郎 65

村山敏勝 119

め―――――――――――――――――――― 『迷宮としての世界』 → ホッケ, グスタフ・ルネ

< Mechademia: Second Arc > 69, 103, 129

『メタファーはなぜ殺される――現在批評講義』

23, 39, 193

「メタファンタジア」→ レム, スタニスワフ

『メタフィクションの詩神』→ マキャフリイ, ラ リイ

『メタフィクションの思想』7, 165, 193

『メタフィクションの謀略』7, 33. →『メタフィ

クションの思想』も参照

『メトロポリス』→ ラング, フリッツ

メルヴィル, ハーマン 13, 15, 19, 31, 35, 45, 47, 61, 89, 91, 119, 137, 141, 153, 165, 169

212

も――――――――――――――――――――

モア, トマス 183

モーガン, ニーナ 117, 161

『モダニズムの惑星――英米文学思想史の修辞学』

43, 51, 89, 151, 193

モッシャー, マイク 123

『物語のゆらめき――アメリカン・ナラティヴの

意識史』 17, 61, 191

森下一仁 99

モリスン, トニ 101

森本あんり 83

「モルグ街の殺人」→ ポウ, エドガー・アラン

『モルグ街の殺人・黄金虫――ポー短編集IIミス

テリ編』 181

モンロー・ドクトリン 43

モンロー, マリリン 49

や――――――――――――――――――――

八木敏雄 93, 165, 181

『マニエリスムのアメリカ』 165

山尾悠子 79

山縣勝見 111

山口冨美子 155

山田正紀 99

山野浩一 5, 69, 71, 129, 135

山本晶 61

「柔らかい時計」→ 荒巻義雄

Young Americans in Literature: The Post-Romantic Turn in the Age of Poe, Hawthorne and Melville 47, 193

ゆ――――――――――――――――――――

湯浅克衛 97

YOUCHAN 47, 95, 101, 193, 194

『ユートピア』 → モア, トマス

『ユートピアの歴史』 183 『ユートピアの期限』 71, 72, 183, 193

「ゆうれい船」 → 武田武彦

ユミ, ヤマザキ 193

「夢の積荷」 → バラード, J・G

夢野久作 87

夢枕獏 95

由良君美 23, 165

<ユリイカ> 5, 17, 31, 37, 135, 136, 165, 166, 180

よ―――――――――――――――――――― 『幼年期の終り』 → クラーク, アーサー・C

『よくわかるアメリカ文化史』 127

横田順彌 79

吉見俊哉 75

四方田犬彦 39

ら―――――――――――――――――――― ライス, アン 21

ラヴクラフト, ハワード・フィリップス 163

Routledge 63, 64, 117, 118, 121

ラシュディ, サルマン 21

ラッカー, ルーディ 7

ラックハースト, ロジャー 81, 131

ラドウェイ, ジャニス 143

ラニング, フレンチー 103, 123, 129

ラマール, トマス 103

ラング, フリッツ 85

『メトロポリス』 85

り――――――――――――――――――――

リーチ, ウィリアム 15

『リス子のSF、ときどき介護日記』 →小谷真理

『リスクの誘惑』 71

リチャーズ, I・A 189

コールダー, リチャード 5, 59, 85, 177

立仙順朗 85

リッパ―ド, ジョージ 27, 81, 82

『エンパイア・シティ』 81

213

『クエーカー・シティ』 81

『リボルバー』→ ザ・ビートルズ

劉慈欣 167

『三体』 167

リラダン, ヴィリエ・ド 85

『未来のイヴ』 85

リンカーン, エイブラハム 31, 191

『リンカーンの世紀――アメリカ大統領たちの文

学思想史』 17, 31, 165, 191

Lingua Cosmica: Science Fiction from around the World. 167 る――――――――――――――――――――

ル=グウィン, アーシュラ・K 179

ルイス, R・W・B 27

『アメリカン・アダム』 27

『ローマの休日』 159

ロゲンドルフ, ヨゼフ 115

ロゲン, ニコラス 109

『イギリス文学史』 109

ロスト・ジェネレーション 3, 145

ロック 13, 33, 63, 125

ロック, ジョージ 63

ロバートソン, ジェニファー 129

Robot Ghosts and Wired Dreams: Japanese Science

Fiction from Origins to Anime. 87

ロマン派 3, 11, 15, 25, 41, 77, 85, 93, 137, 145, 165

『ロリータ』→ キューブリック, スタンリー

ロレンス, D・H 43

れ――――――――――――――――――――

冷戦 3, 13, 49, 105, 106, 137

レヴィーン, スチュアート 11

Retrospective Poe: The Master, His Readership, His Legacy. 161

Review of Contemporary Fiction 37

レム, スタニスワフ 5, 27, 35, 87, 135, 177, 179

『ソラリス』 179

『高い城・文学エッセイ』 87

『マイクロワールズ』 179

「メタファンタジア」 87, 179

わ――――――――――――――――――――

ワイルド, オスカー 15, 43

若桑みどり 165

若島正 65

ワグナー, ジェフ 135

渡部桃子 17, 61

『WAX――蜜蜂TVの発見』→ ブレア,イヴィッド

ろ――――――――――――――――――――

ローエル, パーシヴァル 63

ローズヴェルト, フランクリン・デラノ 191

ローソン, スザンナ 27

ロード・ナラティヴ 25, 151

ローナイ・ジュニア, イシュトヴァーン・チチェ

リイ 87, 179

214

HEADMASTER'S BOOKSHELF

2023年7月11日発行

監修 �� 孝之

発行人

慶應義塾ニューヨーク学院

編集長

榮光太郎

編集 (Panic Americana)

篠��優人

西山祥

Editorial Design / DTP

榮光太郎

寄稿 ボールドウィン吉田静佳

川島恵

山口恭司

特別協力

慶應義塾大学文学部英米文学専攻 慶應義塾大学藝文学会 慶應義塾アメリカ学会

奥田詠二(慶應義塾大学出版会) 加藤敦 (南雲堂)

高梨治(小鳥遊書房)

中島信彦 (アティーナ・プレス)

諸永京子(国際交流基金)

小泉由美子

小谷真理

榮冠太郎

佐藤光重

田ノ口正悟

中江川靖子

表紙

Photo / Design:榮光太郎

�� ゼミ三田会

Tatsumi Seminar Mita-Kai

108-8345 東京都港区三田2-15-45

http://www.tatsumizemi.com/

General Editor Takayuki Tatsumi

Publisher

Keio Academy of New York

Editor in Chief

Kotaro Sakae

Managing Editors (Panic Americana)

Yuto Shinozaki

Sho Nishiyama

Editorial Design / DTP

Kotaro Sakae

Contributors

Shizuka Yoshida Baldwin

Megumi Kawashima

Takashi Yamaguchi

Special Thanks

Department of English, Faculty of Letters, Keio University

The Keio Society of Arts and Letters

Keio University’s American Studies Association

Eiji Okuda (Keio University Press Inc.)

Atsuhi Kato (NAN’UN-DO Co., Ltd)

Osamu Takanashi (Takanashi Shobou Co., Ltd.)

Nobuhiko Nakajima (Athena Press)

Kyoko Moronaga (Japan Foundation)

Yumiko Koizumi

Mari Kotani

Kantaro Sakae

Mitsushige Sato

Shogo Tanokuchi

Yasuko Nakaegawa

Cover

Photo / Design:Kotaro Sakae

慶應義塾ニューヨーク学院図書室 Library of Keio Academy of New York 3 College Road, Purchase, New York 10577 USA

https://www.keio.edu

印刷所 / Printed by

ファインワークス Fine Works

〒601-8395京都市南区吉祥院中河原西屋敷町15 15, Kisshoinnakagawara Nishiyashikicho, Kyoto-shi Minami-ku, Kyoto, 601-8395, JAPAN

学院長の本棚
Printed in JAPAN ©︎2023 Library of Keio Academy of New York & Tatsumi Seminar Mita-Kai All Rights Reserved. 発行 / Published by
〜��
孝之 1988-2023〜

これまでに指導した学位論文を収めた書棚前にて 八ヶ岳巽別荘・新書庫

2022年 夏
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