Design by People 2017|よし介工芸館、工房まるでの協働事例

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インの対象となる現実世界の問題はより複雑であり唯一無二の最適解(optimal solution)など存 在しない「意地悪な問題(Wicked Problems) 」であると定義づけ、利害関係者間の議論に基づく 参加型設計プロセスこそが重要であるがゆえに、デザイナーはユーザー参加を促す意味での助産師 や教師として振舞うべきであると主張した。 [Rittel,1972] また、 同時期にスカンジナビア半島で労働者が経営者に対する労働環境の調整を図る方法論として 「参加型デザイン」が立ち現れたことからも明らかなように、70 年代のリッテルによるデザインの製 品開発のみならず、政治的な意思決定の場においても、ユーザーがプロセスに参加することで、よ り多様な意見を包括しながら開発を進める設計方法の検討が多方面で顕著化してきた。 ここで重要なのは従来のデザイナー主導であったプロセス内にユーザーによる関わりしろが与えられ、 「ユーザーとともに(Design with People) 」デザイン行為をすることこそが、複雑な現実世界の問 題を解く上で有効であるとする考え方である。 さらに、このデザインプロセスにユーザーを包括的に巻き込んでいく方法論として学術的な分野 から台頭してきたのがインクルーシブデザインである。1994 年にロジャー・コールマン(Roger Coleman)によって提唱され、1999 年にロイヤルカレッジ・オブ ・アート(英国王立芸術学院)に 設立されたヘレンハムリン・リサーチセンター(現ヘレンハムリンセンターフォーデザイン)から組織 的な活動として始まったインクルーシブデザインは、現在ではその対象を製品のみならずサービスや コミュニティなど多岐に広げ、設計プロセスに多くの人々を包括することによる実践が医療現場、福 祉現場など様々な現場で行われている。しばしユニバーサルデザインとも混同されがちではあるが、 後者はロナルド・メイス(Ronald Mace)が提起する 7 原則[Mace,1985]1 を前提に、デザイン されたものに対して事後的にその概念を当てはめているという点で「ユーザーとともに」というより はむしろ「ユーザーのための」設計方法としてここでは区別しておきたい。

1. ロナルド・メイスが提起するユニバーサルデザイン 7 原則 Equitable Use(誰でも公平に使えること) Flexibility in Use(使う上での自由度が高いこと) Simple and Intuitive(使いかたが簡単で、直感的に理解できること) Perceptible Information(使用する上で必要な情報がすぐに見つかること) Tolerance for Error(ミスや危険につながらないこと) Low Physical Effort(身体への負担が軽く、楽に使えること) Size and Space for Approach and Use(接近したり利用するために十分な大きさと広さが確保されていること)

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