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Sustainable Fashion Genealogical Study サステナブル・ファッションの系譜 March 2019

Daijiro Mizuno Lab Faculty of Environment and Information Studies Keio University 慶應義塾大学 環境情報学部 水野大二郎研究会


序論

時にサステナビリティという言葉が現在の意に近いものとして 国民に認識されるようになった。

学術領域としてのサステナブル・ファッションは、ファッショ ンデザインプロセスを包括的に捉え、環境持続可能性に貢献す るための理論、手法である。本稿は欧米諸国におけるサステナ ブル・ファッションに関する既往研究動向について明らかにす る。まず第 1 章にて、国連主導のサステナビリティの政策提言 がファッションデザインに及ぼした影響を概観する。続く第 2 章では、近年の英国および米国におけるサステナブル・ファッ ション研究の一環として開発されたフレームワークついてまと める。最 3 章では、急進的サステナブル・ファッション研究を 概観し、 新素材やビジネスモデル、 教育ツールについて言及する。 - 

1. サステナビリティ

fig.1 サステナビリティに関する世界的会議の変遷

このように国連による国際会議によって、持続可能という言葉 が誕生し、その目標を達成するために、国レベルでの政策が行 われるようになり、社会的に持続可能な社会への歩み寄りが始 まった。 -

1.1 サステナビリティの体系化 1972年、国連人間環境会議で国際的民間組織のローマクラブが 「成長の限界」に人口増加、資源の消費、環境悪化が現在のま

1.2 サステナブル・ファッションの実践例  1960-70 年代

ま続く場合、100 年以内に地球は限界に達すると示したことが、

Alison Gwilt『A Practical Guide to Sustainable Fashion』(2014)

サステナビリティ概念の原点とされる。この言葉が社会で認知

によると、1960-70 年代から、大量生産大量消費社会における

されるようになったのは 1987 年の国連環境と開発に関する委

環境負荷や破壊に対し、環境保護主義者が懸念を表明し、生産

員会で当時のノルウェー首相・ブレトランドが主導し採択した

や消費における持続可能なアプローチを模索する動きが始まっ

「Our Common Future(我々共通の未来) 」である。ここでは

たとされる。自然保護団体として、フレンズ・オブ・アース

「Sustainable Development(持続可能な発展) 」が人類の課題

やグリーンピース (2) などが設立した。さらには、プロダクト生

として取り上げられ、将来の世代に応える能力を損ねることな

産に言及したエコデザインやグリーンデザインの書籍の出版も

く現代の世代のニーズを満たすこと定義され、環境保全と人類

盛んであった。1962 年出版のレイチェル・カーソン『沈黙の春』

の発展を両立させることが重要とされた。

では、DDT 使用による農薬被害に目が向けられた。さらに当時

(1)

ユネスコの専門委員であったヴィクター・パパネックの著書『生 2012 年にはリオデジャネイロにおいて,国連持続可能な開発

きのびるためのデザイン』では、当時のデザイン設計手法につ

会議(通称リオ +20)が開催され、成果文書として「Future

いて批評されており、消費を前提としたデザインがかえって使

We Want(我々の求める未来) 」が採択された。1980 年代か

い捨てを促進していると痛切に描かれている。

らなされてきた国連の世界会議による一連の環境政策は、2015 年 9 月の国連総会で採択された「我々の世界を変革する : 持続

これらの環境保護運動は、持続可能なプロダクト生産に向けて

可能な開発のための 2030 アジェンダ」における「Sustainable

懸念を批評したものであり、プロダクト生産における持続可能

Development Goals(持続可能な開発目標) 」において、よ

性への歩み寄りは、同年代に始まったとみられる。一方ファッ

り具体的な 17 の分野別の目標と 169 項目の達成基準を定めら

ション産業では、 エコ・ファッションが台頭していたとみられる。

れた。この達成基準により、2030 年までにそれぞれの国が目

エンドユーザによって 1970 年代半ばに台頭したヒッピー文化

指すべき持続可能な社会の目標が明確化され、環境政策だけで

がエコ・ファッションの一つの文化であろう。若者の他人と違

なく、将来の政治的効果や経済的効果を同時に考慮した上で変

う衣服を着用したいというニーズが、結果として家庭裁縫を促

化を生んでいくための政策が生まれるようになった。それと同

したことから、リメイクや修繕、およびカスタマイズが一種の

Sustainable Fashion Genealogical Study 2019, Keio University Daijiro Mizuno Lab

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エコの手段として貢献していた。ハイ・ファッションでは、エ

がなされた初のサプライチェーンとして The Soil Association

シカルなサプライチェーンによる生産及び手作業によって作成

Certification を受賞し、以降もミニーはフェアトレードの食料品

された布地や衣服がデザインに影響したとされている。社会派

や衣料品の販売を促している。

デザイナーとも度々評されるキャサリン・ハムネットが 1979 年に自身のブランドを創設して以来、コレクションシーンでエ

2000 年代

シカルや環境への懸念を表現している。1983 年から生産開始

2000 年代から環境負荷を考慮したブランドが台頭した。オラ

されたスローガン T シャツでは、環境への懸念のみならず社

ンダのデニムブランドである Kuyichi

会問題へのメッセージを指摘している。1984 年に元イギリス

ンを 100%使用したデニムを販売した。さらに、1990 年代か

初の女性首相であるマーガレット・サッチャーの主催したロ

ら勢力的に環境問題に取り組んでいる Patagonia は、2005 年に

ンドンのファッションウィークレセプションでは「58% Don’ t

日本企業との共同開発「Common Threads Garment Recycling

Want Pershing」とパーシング核ミサイルがヨーロッパ全土で

Program」(6) にて、回収されたポリエステルとナイロン製品を

拡散したことへの抗議メッセージが入った T シャツを着て挨拶

再生し、繊維循環システムに適用する技術を開発した。2006

し、社会的なメッセージを衣服にプリントすることでインパク

年には、チェルシー・カーレッジ・オブ・アート&デザインの

トを与えた。

レベッカ・アーリーによって The Craft Council's Well Fashioned

(5)

はオーガニックコット

exhibition が開催され、特に若い世代に向けてエコ・ファッショ 1980 年代

ンの認識を促す宣伝として貢献した。また同年には、Levis がナ

1980 年代になると Patagonia などの有名企業が自社のビジネ

チュラルインディゴで染めたリーバイス・エコ・ジーンズを発

スとして衣服に持続可能性という付加価値をもたらしたことに

表した。さらに、 2007 年には、 初のエシカルファッションショー

より、サステナブル・ファッションが広く普及し始める。当時

がパリにて開催され、83 人のデザイナーによるエコ・テキス

Patagoniaの創設者であったイヴォン・シュイナードとダグラス・

タイルを使用した衣服ややローカルなサプライチェーンを用い

トンプキンズはアウトドアマンであり、彼らは過剰消費社会に

たプロジェクトなどが発表された。以上の事例からみられる通

よって環境が損なわれているのを目撃し、自社製品の繊維に利

り、2000 年代後半は環境問題を懸念するブランドの方針のも

用されている繊維の調査を依頼した。その後彼らは自社製品に

と、多様なサステナブル・ファッションが体現されたといえる。

利用する綿、ウール、ナイロン、ポリエステルの 4 種類の繊維 のライフサイクルアセスメントを行い、その後 1985 年に繊維

一方、市場のニーズに応える形でエコな生産を確保しつつも、

工場と共同で看板商品の1つであるシンチラを開発する。同時

カスタマイゼーションを提供するサービスが始まった。2004

に環境保護助成プログラムを開始し、税引き前利益の 10%を

年には NIKE が「NIKE iD」を始動させ、アスリートに向け

寄付するこのシンチラは 1993 年にリサイクル・ペットボトル

に足の形を個人に合わせるだけでなく、色や素材、形状を顧

から作られた見頃と 100%オーガニックコットンの糸を使用し

客に選択させるシステムの提供を始めている。さらに英国の

たシンチラ・ジャケットとして発表され、サステナブル・ファッ

Marks&Spencer は、環境問題への取り組みを具体的に綴った

ションの体現に積極的に取り組む姿勢を見せた。

「Plan A」(7) を発表し、気候変動、廃棄、リソース、公平なパー トナーシップ、ヘルスと 5 つの問題に取り組むための 100 の

1990 年代

コミュニティを作成し、 そのうち一つの取り組みとして「Design

1990 年代は環境問題を懸念したデザイナーによるエコデザ

your own shirt」というオンラインサービスを始動している。

インが台頭し、市場に拡大した。1994 年には、米国でリン

これらのカスタマイゼーションは、持続可能性という文脈にお

ダ・グロースの創設したブランド Esprit が、エコラインとし

いて、顧客の衣服への愛着心の増幅に貢献し、廃棄までの速度

て E-collection を展開し、化学染料によるブリーチを施さない

を低下させることができるとみられた。このように 2000 年代

オーガニックコットンや、無染色の糸を紡いだウールの使用を

は、エシカル・ファッションを体現するブランドが多く台頭す

中心に使用し、エコファッションを体現した。1997 年になる

る一方で、顧客の嗜好に合わせた製品の生産を推し進めるオン

と、サフィア・ミニー自身の会社であるフェアトレードカン

ラインサービスが始まったとみられる。しかしながら、エコ・

のコレクションが日

ファッションは主に環境負荷の少ない素材の使用や、エシカル

パニー株式会社のもとで、People Tree

(3)

本にて創設された。当ブランドは、2006 年に英国の The Soil

なサプライチェーンといった生産の手法のみに目が向けられ、

Association

一種のトレンドとして消費されていたと考察できる。

(4)

から、生産ステージにおける全体への環境配慮

Sustainable Fashion Genealogical Study 2019, Keio University Daijiro Mizuno Lab

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2010年代 2009年、Walmart と Patagonia の CEO らによってグロー バル企業が一体となって持続可能性を追求する指針に基づき設 立された Sustainable Apparel Coalition(通称 SAC)には、 Nike、H&M、Levi Strauss、Mark&Spencer や政府機関、 NGO や教育機関が参入した (8)。 SAC は定期的にカンファレン スを開催しており、その参加企業は世界中様々なステークホル ダー 200 以上により構成されている。最初の想起メンバーであ る Patagonia は 2011 年、ブラック・フライデーに米国の New York Times に「Don’ t Buy This Jacket」の広告を掲載した。 インタビュー (9) において Patagonia は、兼ねてから実装して いる「Common Thread Intiative」を成功させるためには、 環境負荷の少ない製品を生産し続けるだけでは実現できず、全 体の消費量を軽減するべきであるためにブラック・フライデー を狙って掲載したとしている。この取り組みは、かつてからの 環境負荷を考慮した生産手法や調達方法とは異なり、消費社会 における根本的な問題に対して言及した例である。

2. サステナブル・ファッション研究の動向 本章では、2008年にCenter for Sustiainable Fashionが創 立されてから急速に体系化が進んだサステナブル・ファッショ ンに関する欧米諸国の主要な研究者を紹介を通して、サステナ ブル・ファッションにおける近年の研究動向を解説する。 2.1 Centre for Sustainable Fashion ロンドン芸術大学 London College of Fashion の Centre for Sustainable Fashion(通称 CSF)は、2008 年に当大学 のサステナブル・ファッションデザインの教授であるディルス・ ウィリアムズ(Dillys Williams)によって創設された研究所 である。研究所のメンバーは英国内に留まらず、ファッション デザイナー、研究者、学生と実務家から構成され、文化、環境、 社会、経済的な側面からサステナビリティ体現の手段を探索す るコミュニティである。多様な側面からファッションを考察す ることで国際的に研究を主導しているほか、国内でも政府、産 業へのアジェンダ設定を率先して行っている。実社会とも関係 が強く、後述のケリングとのオンラインプログラムを協働して いる他にも多方面でプロジェクトを展開している。サステナブ ル・ファッションにおける体系化を主導してきた研究者として、 サンディ・ブラック(Sandy Black)とケイト・フレッチャー の諸研究を以下にまとめた。 サンディ・ブラック サンディ・ブラックは現在ディルス・ウィリアムズと共に CSF のディレクターを務めており、サステナブル・ファッションに おけるデザイン主導のフレームワークを提唱している。ブラッ クは台頭するファスト・ファッションにより、ファッション・ サイクルの短期消費が急速化する事態を受け、安価な衣服が使 い捨てファッションのパラダイムを加速した悪循環を生んでい

fig.2 Patagonia「Don’ t Buy This Jacket」広告 (10)

ると指摘している。さらにファッションは文化、経済、社会的 現象であり、生産と消費の間のステークホルダーが細分化しパ

本章では、1960 年代から環境への懸念を示したデザイナーら

ラドックス状態であることから、各ステージにおける問題を再

によって、エコ・シックとしてのトレンドが持続可能性という

度検討するためのフレームワークをまとめている:

人類のゴール設定をうけ、いかにサステナブル・ファッション へと拡張したのか実例を元に解説した。綿産業に代表される労

 1. プロダクトデザインと開発

働環境や人体被害への懸念を示したデザイナーらによるパラダ

・繊維と素材の選定及び組み合わせ

イムが、国連主導により国家レベルの社会共通目標として後押

・素材とエネルギーの無駄の減少

しされ、サステナビリティが掲げられた。よって、設計方法論

・染色による水やエネルギーの使用量及び環境負荷

・再利用ないしはリサイクルの可能性

・ライフサイクル全体のデザイン

・美的で良いデザイン

・新しい技術とプロセス

としてのサステナブル・ファッションの理論体系が求められた ことが時代別による動向の変化と拡大から受け取られる。次章 では、体系化が急速に進んだ 2008 年以降の近年の研究動向に ついて考察する。 Sustainable Fashion Genealogical Study 2019, Keio University Daijiro Mizuno Lab

 

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2. 生産と製造

ファッションアイテムを作り出すことを支援することを目的と

・グローバルソーシングのロケーション及び国際取引の条例

・ファストファッションの競争

し開発されたコンセプト、 コンシダレートデザイン(Considerate

・エシカルな生産、監査、コンプライアンス

・サプライチェーンのマネジメント

・効率性と資金の価値

Design)を用いるべきだとする。コンシダレートデザインとは、 ファッションデザイン及び製造プロセスの中で、持続可能性、 パーソナライゼーション、およびコストの間に新たなつながり

 3. 利益性とリサーチの投資

を生み出すこととされる。当手法を用いることによって、カス

・販売と顧客対応

タマイズされた製品を通して顧客が望むものを顧客に提供する

・倫理及び環境問題の教育

・コミュニケーションと透明性

だけでなく、デザイナーが制作過程でアイテムの環境負荷を評

・生産ラインのトレーサビリティ

・社会的責任と正義

・製品寿命の終了時の製品回収の責任

価可能にすることができるとする。

上記の問題を整理した上で、ファッション・パラドックスを解決 する際に考慮されるべきアプローチについて以下を挙げている:  ・ファッションのライフサイクル全体のデザインの再考

使用、廃棄、可能であれば再利用や再構築を考慮したデザイン

 ・廃棄物を回収して再利用

廃棄目前素材を用いたデザイン

 ・リサイクル

Hudson,p.93 を元に著者再作成

再生産された廃棄物を使用したデザイン

 ・アップサイクル

再生産された廃棄物を使用し、以前と同等もしくはそれ以上の

デザイン

 ・修繕および改造

fig.3 コンシダレートデザインの要素、Black, S. (2012). The sustainable fashion handbook, Thames and

既存の衣服を新たな用途にあわせ、デザインし直す

以上の 3 要素を考慮した上で、意思決定に際して重要となる複 数の要因を評価軸とした上でまとめた (fig.4 を参照 ) 以上の評価軸を用いた上で、コンシダレートデザインがパーソ

 ・再作成

ナライズされた製品の実装可能性や設計コストを正しく評価す

る補助することが目的とされる。

既存デザインを創造的に再考、カスタマイズ、新たにデザイン

 ・リデュース

最小限のエネルギー使用及び素材廃棄の減少を含めたデザイン

 ・環境配慮型素材の使用

環境負荷の少ない繊維、布地や素材の使用を考慮したデザイン

ケイト・フレッチャー ケイト・フレッチャーは CSF の研究員であり、主に実務で用

 ・単一素材の使用

いられている持続可能な手法をまとめ、さらには研究領域につ

いての整理を行なっている。フレッチャーは、ファッション及

リサイクル能力を上げるための単一素材使用したデザイン

 ・新技術の活用

エネルギー及び素材使用量を削減し、効率的に新たなプロセス

をデザイン

 ・長持ちするファッション

びテキスタイル産業が複雑で創造性に富み、かつ消費者主義主 導であるため、持続可能性はデザイナーのみでは実現できない と主張している。そこでフレッチャーは複雑化した問題の所在、

機能性、感情的な結びつきを促す美的耐久性を揃えた良質素材

研究対象を分割し、提唱する手法の有用性についてまとめて

の作成及び使用

いる。フレッチャーは『Sustainable fashion and textiles: design

 ・多機能性

journey』において主に、既存の産業をより持続可能性を担保し

た手法へと変容を促す為の具体的な代替案を提示している:

着用方法が複数あるデザイン

 ・喜びのためのデザイン

衣服と着用者の持続的に良好な関係構築のためのデザイン

加えてブラックは、サステナブル・ファッションが既存のファッ ションシステムにおける本質的な問題に取り組みながらニーズ を満たし続ける必要性をふまえ、デザイナーがより持続可能な Sustainable Fashion Genealogical Study 2019, Keio University Daijiro Mizuno Lab

1. 素材およびマテリアルの選択 フレッチャーは環境負荷の大きい素材の使用を見直すことによ り、 結果として環境や社会に好影響を与えられるとする。 例えば、 化学繊維をオーガニックコットン、亜麻、麻、リヨセルなど環 4


fig.4 コンシダレートデザインとデザイナー、Black(2012) p.95 を元に著者再作成

境負荷の少ない素材に置き換えることで、水や殺虫剤の使用量

3. 修繕および廃棄

を削減できる。さらに、フレッチャーは素材選定段階で耐久性

フレッチャーは消費者のトレンドや嗜好など、感情的耐久性も

を考慮に入れると、衣服の消費及び排気量の削減や長期寿命を

無視できないとしている。ファストファッションの流行により、

確保できるとする。具体的には、複数の素材を使用する際に寿

耐久性の高い服を購入するよりも新しい服を購入する方が安い

命の長さが等しい素材を利用する事で、素材同士がお互いの寿

ため、 「耐久性」はエンドユーザの意思によって定まってしま

命を相殺する事なく十分な衣服の寿命を確保できるとする。

うのである。フレッチャーが行なったLocal Wisdom Project

(11)

では消費者向けワークショップを開催し、消費者が実際に衣服 2. テキスタイル生産手段

の修理やリメイクをする場を設けることで物理的寿命を伸ばす

フレッチャーは繊維生産で最善の実践は、最低限の材料と手段

だけでなく、愛着心を増幅させたサステナブルな衣服のあり方

で環境負荷を最小限に抑えたデザインを可能にする事であると

を検討した。他にもフレッチャーは、マチルダ・サム(Matilda

する。例えば、玉ねぎの皮やアボカドのタネなどを自然染料と

Tham)と協働で「Future Wardrobe Metabolism」というシェ

して利用する手段が有効である。他にも染浴の再利用やパッド、

アリング、特価販売、リサイクル、再加工、再構築による廃棄

バッチ染色等の利用、昇華転写プリントといった手段が選択肢

に代替するエコシステムを提案している。

として提示される。ただし、染色は素材特性によって方法が決 定されるため、一手法で問題を解決することはできず、それぞ

また、フレッチャーは現状の生産における代替手法に加え、複

れの繊維に適した持続可能な方法が探求されるべきだとする。

雑化したサステナブル・ファッションの研究対象についてもま とめている。対象は生産時の手法に加え、ファッションシステ ムや、デザイナーの役割の変容にまで多岐に渡る:

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1. ファッションプロダクトの変容

・持続可能性を中核にさまざまな業種が出現する。販売は依然として推進

・素材

力としての役割を果たすが、成功は社会文化的および環境的価値において

・プロセス

・販売

測られる。

・消費者のケア

・廃棄

 2. ファッションシステムの再考

・生産規模は社会的、環境的、文化的恩恵と失敗を監視するコミュニティ の能力に関連し、調整される。

・適応能力

・事業の規模は再構築される。適応、変更に向かない肥大化したビジネス

・最適な製品寿命

モデルはなくなる。生産規模は、事業が属するエコシステムとコミュニティ

・低環境負荷

の能力によって定義され、その真の利益を追求する。成長するにつれて、

・サービス及び共有

・ローカル

企業は社会的および環境的な品質を回復する能力も向上していく。

・バイオミミクリー

・スピード

・必要性

・社会及び環境との関与

 3. ファッションデザイナーの役割

・教育機関は「slow knowledge」の源となり、新しいビジネスモデルのイン キュベーターとして、持続可能性を迅速に実践に移すための安全な場所を 提供する。

このようにフレッチャーは生産ステージや包括的な衣服の寿命

・教育及び伝達役としてのデザイナー

・進行役としてのデザイナー

・活動家としてのデザイナー

能に向けた可能であろうとされる選択肢についても言及してい

・起業家としてのデザイナー

る。研究家という立場からフレッチャーは複雑化するアパレル

における設計フレームワークや諸問題についてまとめ、持続可

産業において、サステナビリティ体現に向け具体的な手法の紹 さらに、フレッチャーは消費者参加型デザインプロセスに価値

介も行なっており、当学術領域における第一人者の一人である

を見出している。とくに、デザイナーの新たな職能を既存産業

と位置付けられる。

の構造において受容する必要があるとし、サステナブル・ファッ ションの実践における最善なシナリオを提示している:

FutureLearn「Fashion and Sustainability」 近年はサステナブル・ファッションを取り巻く研究教育機関も、

・ファッションデザインは、トレンド主導ではなくインパクトとなる。環 境や社会問題の解決の新たなアイデアは、抽象的なトレンドの傾向からで はなく、多様な場所や共同作業の産物、文化から影響を受け、革新の原動 力となり得る。

インターネットを利活用した遠隔サービスや P2P による自律 的サービスに移り変わっている。本項ではサステナブル・ファッ ションに取り組むオンラインプログラムに着目し、その概要に ついて解説する。

・ファッションは、異なるビジネスアプローチの反映、地域限定の素材、 アクセス可能なプロセス / スキルおよび文化、そして生産方法といった多

FutureLearn は、世界中の大学や研究を定期的なコースとして

元的な美学を持つようになる。

学ぶことができるオンライン教育に特化したプラットフォーム

・原材料が乏しくなるにつれてファッションの重要でない側面がより顕著

である。2017 年度からは、ロンドン芸術大学とケリングとの

になり、ファッションの重要な構成要素は、より大きな敬意を持って扱わ

サステナブル・ファッションに関するオンラインコース(https://

れる。

www.futurelearn.com/courses/fashion-and-sustainability) が 開講した。CSF での教育や、ケリングにおけるサステナブル・

・デザイナーは、生産物に関わらず、衣服に含まれるエネルギーと水の使 用を最適化する。 ・デザイナーは、経済学者、政策立案者、環境保護主義者、ビジネスリーダー、 科学者と共に戦略を検討する立場をとり、社会文化的変化に影響を与える。 ・デザイナーは社会学、倫理学、心理学および生態学の「slow knowledge」(12) を参照し、新しいビジネスモデルを生み出すために実践への迅速な応用と 産業と連携し促進する。

ファッションの実戦や方法を学ぶことができる:  WEEK 1: なぜサステナビリティはファッションで必要か  WEEK 2: 世界を変えるために文脈化したサステナビリティ  WEEK 3: マテリアルサイズ:高級ブランドによる調達  WEEK 4: 意思決定の方法:ツールと方法  WEEK 5: 創造的な可能性  WEEK 6: 創造的な現実

本コースはサステナブル・ファッションにおける包括的な概念 や文脈的なサステナブル・ファッションの理解が中心であり、

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その教育プログラムを世界中の不特定多数が受講できる。

1. デザイン マーケットやトレンドのリサーチやコレクションのデザインや

-

コンセプト構想、始末など既存のファッション・デザインにお いて一般的であるデザイン構想に加え、包括的デザインが求め

2.2 Alison Gwilt at Sheffield Hallam University

られるステージである。IDEO の Human-Centred Toolkit 等の手

シェフィールド・ハラム大学(Sheffield Hallam University)

法を利用し、着用者の服に対する感情や経験をデザインの構想

内の Art and Design Research Centre(通称 ADRC)に設

に含め、ユーザ中心設計を考慮すべきだとする。

立された、Fashion and Sustianability において、以下に紹介 するアリソン・ギルト(Alison Gwilt)主導のもと、サステナ

2. 生産

ブル・ファッションにおける包括的な研究が進んでおり、教育

デザインフェーズを経て、パタンナーや縫製業者等と協働にて

現場での使用を見込んだ書籍の執筆が行われている。

パターン展開やトワル組み、立体裁断を実施ののち、最終デザ インが決定する段階である。布の廃棄量を減らすパターン展開

ギルトはイギリス、シェフィールド・ハラム大学のサステナブ

やトワル数の削減が求められる。

ル・ファッション方法論の研究者である。 ギルトは自身の研究 にて、設計論としてのデザイナーのデザインの及ぶ範囲につい

3. 流通・販売

て提唱している。一般的にファッションデザイナーと言われる

実際の商品の運送方法のみならず、サンプルの布地の運送方法

デザイナーがガーメントの廃棄を含めた責任を考慮せず販売ま

やパッケージの装飾なども含まれる。運送の際の二酸化炭素排

でを目的とした鑑賞目的のデザインの現状を問題に掲げ、デザ

出量のアセスメントを行なった上で、サプライヤーとの配送方

イナーはガーメントのライフサイクルを全て考慮した上でサス

法の検討、また地域コミュニティとの連携した生産を促すこと

テナブルなアプローチをするべきだと主張している。ギルトは、

ができる。また、サプライヤーとの間のステークホルダーの労

著書においてアリス・ペイン(Alice Payne)の作成した「Think

働環境への考慮も、当ステージで評価することが求められる。

Life Cycle」をもとに、 デザイナーに求められる包括的なフレー

さらに在庫保管場所の減少、生産過剰防止のためのオンデマン

ムワークを提唱している:

ドでの生産や、ウェブ展開でカスタマイズ機能を加える考慮も 可能である。 4. 使用 主に着用者の心的状況を反映する。洗濯方法、 手入れ、 使用頻度、 さらに廃棄理由などの考慮が求められる。デザイナーは、アイ ロンや、使われる洗剤、また保管方法の情報公開や共有、さら に使用を見越した生地の選定が求められる。修繕やメンディン グに必要なスキル、デザインの変更、また年齢を重ねても着用 できるデザインなどの考慮が求められる。

fig.5 Payne による「Think Life Cycle」(13)

5. 終末期  リサイクル、循環サイクルを用いた焼却や埋め立てによる環境

既存のシステムにおける物流をマッピングし、問題点を要素毎

への負荷を減らす方法を探る。セカンドハンドショップに持ち

に整理することで、本フレームワークはサステナビリティを考

込む、チャリティに寄贈、リメイクなどの一般的な方法のみな

慮した代替案の提案を容易にするとされる。また、 ギルトによっ

らず、生産段階からの残布の有益な使用方法及びアップサイク

て分割されたマッピング手法では、 デザインプロセスを5ステー

ル等がを含まれる。近年では、未使用のテキスタイルを分解し、

ジに分割し、各ステージの環境や社会への影響のアセスメント

新たな布へ活用する方法も開発が進んでいる。既存のテキスタ

を行なった上でサステナビリティ評価を行い、改善点を発見す

イルやガーメントを分解、再利用する方法も開発が進んでいる

る一連のプロセスが示されている:

ものの、異なる繊維が編み込まれている場合やダメージ度合い が一定でない場合、アップサイクルが難しく、汎用範囲が狭まっ

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ているという側面がある。なお評価ツールには、ライフサイク

持続可能性における環境的及び社会的問が阻害されてしまうと

ルアセスメント(通称 LCA)

と呼ばれる環境負荷量を生産

し、今後のあるべき評価軸についても言及しているが、新たな

、The

評価軸では、二次的要因が全て一時的要因のサブカテゴリとし

(14)

プロセス全体で測る手法や、the EcoMetrics Calculator Higg Index

(16)

、先述の IDEO HCD Toolkit

(17)

(15)

などがある。

て含まれ、持続可能性が Appearance、Fit、Cost 同様に重要で あるとしている。

fig.6 Gwilt, A. (2014). A practical guide to sustainable fashion. A&C Black. p.43 を元に著者再作成

2.3 Timo Rissanen at Persons new school パーソンズ・ニュー・スクールは近年、多領域におけるデザイ ン設計方法論の研究が進んでおり、サステナブル・デザイン及 びサステナブル・ファッションにおける研究のプログラムが設 置されている (18) 。副専攻として Alternative Fashion Strategies が設置されており、クラフト思考、デザイン戦略、デザインへ の倫理的アプローチを利用し、実務分析のもと代替案の提案及 び作成に関する講義や演習を受けることが可能である。講義内 容は主に制作、文化、政治、経済、包括的なアパレル産業の考察、 地域社会との関与、スキルシェアリングなど多岐に渡り、包括 的な学習を促す体系的なアプローチが取り入れられている。そ して、この大学にいるティモ・リサネン(Timo Rissanen)が 主導する手法がゼロ・ウェイスト・パターンカッティングであ る。当手法はリサネンの博士研究(https://opus.lib.uts.edu.au/ handle/10453/23384)を元に、ニュージーランド・マッセー 大学のホリー・マッキラン(Holly McQuillan)と実践型共同研 究を行い、 『Zero Waste Fashion Design』にまとめたものである。 ゼロ・ウェイストとはパターンカッティングの段階で、2 次元 の布を曲線の多い 3 次元の体に沿わせるため従来のパターンを 使用すると総量の 15% が廃棄されることを受け、裁断時ジク ソーパズルのように収まることで廃棄量を 0% にすることを指 す。リサネンが設定したゼロ・ウェイスト・ファッションデザ インの評価基準には、一時的要因に既存のファッションデザイ ンにおいて重要視される Appearance、 Fit、 Cost に加え 「残布量」 がある。これは、反の長さが生地幅に依存することや、工業生 産段階のパターンカットのコストをデザインプロセスに持ち 込む必要性があるためとしている。これに加えて Masculiniy、 Fashionability、Sustainabiity、Future Transformability、Physical Durabity を二次的要因に設定している。研究初期の評価軸では、

Sustainable Fashion Genealogical Study 2019, Keio University Daijiro Mizuno Lab

fig.7 ファッションデザインの評価軸、Rissanen, T. I. (2013). Zero-waste fashion design: a study at the intersection of cloth, fashion design and pattern cutting を元に著者作成

さらにリサネンは、現行の細分化された産業構造ではゼロ・ウェ イストを実現できないとし、評価軸における製造コストがデザ インと一体である事に明らかな通り、新たにデザインと製造と に二分すべきであると述べている。一般的にパターンカッティ ングにはデザイナーの指示をふまえ、適切な外観を適切なコ ストで適切にフィットさせることが求められるため、生産段階 における物理的な残布の量が削減されたとしても、時間的コス トや人的コストが発生してしまう可能性がある。そこでファッ ションデザイナー、パターナー、生産管理担当者などが一体 となって包括的にデザインに携わることでゼロ・ウェイスト・ ファッションデザインが可能であるとしている。なお、リサネ ンは、マッキランと開発したゼロ・ウェイスト・パターン数点 をウェブサイト (19) にて公開している。教育現場での普及を推 奨するだけでなく、近年のデジタル・ファブリケーションの普 及を考慮した上で、パターンや 3D でのシュミレーションをア パレル CAD 上で行うことで、試作を作成する際の廃棄量が最 小限に抑えられ、さらにデジタルファブリケーション機器との 円滑に連携できるようになるためである。 2.4 Fabricademy ファブリカデミー(Fabricademy)(20) とはアムステルダムとバ ルセロナにある FabLab を中心に新しいテクノロジーを応用し た繊維・ファッションデザインのあり方を模索するオンライン 8


コースである。このプログラムは 6 ヶ月間に渡り、3 ヶ月の講

実践として行われている持続可能なファッションとバイオ新素

義と演習に加え 3 ヶ月間の個人プロジェクトに取り組む。

材の研究例の1つに、 「発酵」という伝統的なバイオ技術をバイ オハッキングと呼ばれる市民運動としてデザインに応用する動

ファブリカデミーでは、ファストファッションの環境汚染や低

きがある。例えば、自宅で SCOBY と呼ばれる発酵によるセル

賃金労働問題を解決するための演習が行われ、受講者はバイオ

ロース生成機能を持つ微生物共生群体を培養し、それを衣服に

テキスタイルやウェアラブルテクノロジー、アルゴリズミック・

するという実験がスザンヌ・リー(Suzanne Lee)によってな

デザイン等の演習を通して、新しいファッションデザインの在

されている。 対して、 最先端の合成生物学がサステナブル・ファッ

り方や持続可能なファッション産業の姿について考えることと

ションに取り入れられる例として、バイオ新素材の開発を進め

なる。デジタルファブリケーションツールを積極的に利用しつ

るスパイバーや Bolt Threads が挙げられる。彼らはクモの糸の

つも実習内容は様々で、モノから人々の生活まで幅広く演習対

主成分であるフィブロインを人工的に操作することで合成タン

象となるのがその特徴である。オンラインコースは世界中の生

パク質の繊維化を成功させており、スパイバーでは 2015 年に

徒と共有され、ビデオ通話などを通してインタラクティブな講

The North Face とのコラボレーションで「MOON PARKA」ジャ

義や演習が開講されている。オンラインコースであること、そ

ケットの試作を完成させている。

してファブリカデミー設立のきっかけとなった MIT に代表され る科学とデザインの普及によって、ファブリカデミーは既存の

また、生物由来の素材を利用して生産されるテキスタイルには

ファッション教育では実現できなかった学際的領域としてのサ

既に製品化している例が散見される。例えばスペイン繊維会社

ステナブル・ファッションをグローバル、ローカル拠点の二方

ananas anam は 7 年間の期間を経て、本来廃棄されてしまうパ

向から捉えようとしているのである。

イナップルの葉を用いて無駄を減らしつつ、同時に堆肥として 土に還る革状のテキスタイル「Piñatex」と称ばれる新素材を開

-

発した。特に動物の革や化学染料を使った合皮の代替えとして 利用されており、現在は LVMH が所有するオーガニックファッ

3. サステナブル・ファッション 本章では、体系化が進むサステナブル・ファッションの取り組 みにおける新素材、 ビジネス、 デザインツールキット例を紹介し、 サステナブル・ファッションの多様な実践について以下に解説 する。 3.1 新素材とサステナブル・ファッション バイオマテリアル バイオマテリアルと呼ばれる素材はバイオテクノロジーを利用 した新しいバイオテクノロジーとはサステナブル・ファッショ ンの循環型サイクルを体現するために近年注目されている研究 分野の一つである。バイオテクノロジーの先端研究により、既 存のファッションで利用される化学物質を原料にした素材植物 や細菌等の自然由来の素材に代替えしたことで、衣服が自然に 還る循環するファッションデザインが可能となった。ロンドン 芸術大学のTextile Future Research Centreにて、 キャロル・コレッ ト(Carole Collet)が実践した循環型繊維産業の未来をシナリ オとして提示した「Horizon 2050」では、2050 年までに従来 利用されてきた自然繊維、再生繊維、合成繊維に加えて、合成 バイオファイバーと合成バイオ生地の開発が追加されるだろう と言及している。 Sustainable Fashion Genealogical Study 2019, Keio University Daijiro Mizuno Lab

ションブランド、Edun ともコラボレーションを行っている。 3.2 ビジネスとサステナブル・ファッション H&M H&M は最も有名なファストファッションを駆動する企業の 1 つであるが、社会、環境的責任を持った経営も行っている。 2010 年、初めて持続可能な素材で作られたフルファッション コレクションを立ち上げてから、本社は環境責任を配慮する ように変化してきた。リサイクルされた持続可能な原材料は、 H&M グループの全物質使用量の 35%を占め、使用している綿 花の59%が持続可能な供給源からのものである。H&Mコンシャ ス・エクスクルーシブ・コレクション 2018 ではリサイクル・ シルバーなどの新しい持続可能な素材と、魚網などのナイロン 廃棄物から 100%再生繊維である ECONYL が発表されている。 また、サプライヤーの賃金管理システムを改善することによっ て、労働者に公正な賃金を提供することを本社は目指しており、 2017 年までに 375,000 人を超える 227 のサプライヤー工場が 賃金管理システムを改善している。賃金関連の問題に関して経 営者と労働者がコミュニケーションを取ることでスキル、経験、 責任を考慮した賃金を支払う役割を担っている。さらに、H&M

9


は消費者が持続可能性に関する活動に参加することを推奨して

れるテキスタイルはマッシュルームの菌糸体細胞を培養させた

いる。 2013 年には消費者に対して衣類リサイクルを促し始め、

ものを革の代替品を提案しているが、彼女はこれをバッグに使

累計で衣類回収プログラムは 61,000 トンの織物の回収に成功

用することで新たなイギリスのコンセプチュアル・ファッショ

しているとされる。

ンデザインの地平を切り開いている。

ケリング(Kering)

他方、2012 年に本社は世界中のアパレル産業に携わる労働者

ケリングはグッチやサンローランを初めとするラグジュアリー

の労働条件改善を目指すエシカルトレーニングイニシアティブ

ブランドを展開するグローバル・コングロマリットである。彼

(ETI)に加わり、天然資源保護協議会(NRDC)と「クリーン

らはサステナブル・ファッションに積極的に取り組む会社とし

バイデザイン」プログラムを導入した。本プログラムは廃棄排

て、「Global 100」 という世界経済フォーラムにて世界で最も

出削減を目指すプログラムであり、ステラ・マッカートニーは

サステナブルなテキスタイル、アパレルおよびラグジュアリー

ヨーロッパにこのイニシアチブを導入し、繊維生産における水

企業に 3 年連続で認定された。ケリングは SDGs を基にサステ

とエネルギー利用の削減と生産効率性の向上をイタリアの工場

ナブル・ファッションの体系化に向けて、Care、Collaborate、

と協力して検討するなど、積極的に環境維持可能性に配慮した

を設定し、

ビジネスを展開しているブランドであることがその多様な活動

Create の 3 つの概念を軸とした「Kering 2025」

(21)

持続可能なラグジュアリーブランドの形成を経営戦略として掲

からうかがえる。

げた。具体的にはプラネタリー・バウンダリー内の資源を使用 し、事業活動から発生する炭素放出を 2025 年までに 50% 減

-

少させるなど、科学的根拠に基づいたターゲット目標を設定し ている。また、 グループ内すべてのサプライチェーンにアプロー

3.3 サステナブル・ファッションデザインに関するツールキット

チすることにより、環境インパクトの減少やグループ内外の社

サステナブル・デザインの実現に向けたツールキットは多数開

会福祉支援などに 取り組んでいる。本社では、より具体的に

発されているが、ファッションデザインに特化したツールキッ

自社が環境に与える影響を測るため 2015 年に環境損益計算書

トは未だ数が少ない。そこで本項は、 実践に従事するデザイナー

(EP&L) の内容と計算方法を発表した。環境損益計算書はグロー

向けと消費者向けに開発されたサステナブル・ファッションの

バルサプライチェーン全体の温室効果ガスの排出量、水の使用

ためのデザイン・ツールキットについて以下に紹介する。

量を含めた環境に対する影響を金額に変換、評価することで、 環境負担を軽減し費用を可視化する自然資本会計である。他に、

Susutainable Fashion Bridges (SFB) Ideation Toolkit

衣服のリサイクルや水の活用技術を減らすための研究に投資活

SFB は、ユンスク・ハー(Eunsuk Hur)によって開発されたデ

動や中国での「ケリング・サステナブル・イノベーションアワー

ザイナーのための持続可能な生産および消費のデザインを補助

ド」を立ち上げ、アパレル分野における持続可能な発展を加速

するツールキットである (22)。 Hur は博士課程の論文(Hur, E.

化することを目的に対外的にも活動し、研究機関や生産現場と

S. & Beverley, K. J. (2014), Design and optimisation of a user-

の協業によって、実務としてサステナブル・ファッションを体

engaged system for sustainable fashion)にて、デザイナーを

系化することに力を入れている。

含めた実務に携わるステークホルダー全体を包摂するサステナ ブル・ファッション・デザイン・ツールキットの開発が十分に

ステラ・マッカートニー

行われていないことを問題視し、デザイン初期段階から参加型

ステラ・マッカートニーは「責任を持ち、誠実で、現代的な会

デザインを実現するために当ツールキットを開発した。当ツー

社であること」を軸に、環境維持可能性に配慮したデザインを

ルキットの目的は、サステナブル・デザインを実践する上で潜

ビジネスに取り入れていることで知られている。彼女らはデザ

在的な問題の発見及び理解、問題設定、デザインの可能性探索

イン、店舗、製造など、ブランドが地球に与える影響を考慮し、

にあり、10 枚ずつ 6 つのカテゴリに分類されている:

顧客が安心するデザインがサステナビリティを促進させるとし ている。具体的なデザイン事例には、 生分解性ゴムの使用やウェ

 ・選択(Choice)

ブサイトでノ衣服ケアの方法の紹介などがあるが、著名なのは

サンフランシスコのベンチャー企業、Bolt Threads とのコラボ レーションであろう。Bolt Threads が開発した「Mylo」と呼ば

デザイナー及び個人が、ガーメントのライフサイクルにおけるリソー

スの使用を再考することで、自分の行動に責任を持つよう促す  ・最適化(Optimation)

ガーメントのライフサイクルに介入し、製品とシステムに有意義な影

響を最大にする方法を模索する Sustainable Fashion Genealogical Study 2019, Keio University Daijiro Mizuno Lab

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・エンパワーメント(Empowerment)

デザインプロセスにおいてユーザとの関係を構築し、心理的及び社会

的ニーズを満たす  ・説得(Persuation)

積極的に行動に従事するよう促し、即座に利益を生み出す支援的な役

割を果たす  ・インタラクション(Interaction)

製品とユーザの関係性を探り、負の習慣を無意識的に有益な行動に変

えるよう見直す  ・社会慣習(Social Conversation)

ユーザがスキルや知識を身に付けるのを助けるためのネットワークを

構築し、社会的課題に立ち向かう自信を与える

fig. 9 The TEN Sustainable Design Strategy (23)

Design with Intent Toolkit Design with Intent Toolkit

(24)

はカーネギーメロン大学デザイ

ン・スタテディーズで教鞭をとるインタラクション・デザイン 研究者のダン・ロックトン(Dan Lockton)(25) と、ブルネル大 学のサステナブル方法設計論のデヴィッド・ハリソン(David Harrison)によって開発されたツールであり、 既存のプロダクト、 サービス、インタフェース、環境に関するユーザ体験を構造化 インタビューなどを通して明らかにし、デザインのアイデアを 引き出すことを目指すものである。 その目的は 「人々と働きかけ、 人々の理解を深め、そして日常的な人間の経験の複雑さを解決 fig. 8 6 つのカテゴリの包含関係 Hur, E. S. & Beverley, K. J. (2014). Design and optimisation of a userengaged system for sustainable fashion (Doctoral dissertation, University of Leeds.p.151) より引用

SFB の特徴として、各カードには問題解決方法は明示されてお

する」(26) とされており、主に特定のユーザ行動をデザインする 際の使用が推奨される。ツールは図のように 8 つの視点に基づ き分けられている:

らず、代わりに補助となり得るメソッドやガイドが記されてい る点をあげたい。これはプロダクト・ライフサイクルやエコシ ステム、社会文化を分析し、独自の解決策を作成を促すこと、 分断されたデザイナーとステークホルダー間で対話の機会創造 の支援を可能とすることがその目的としてあげられるだろう。 The TEN Textile Environment Design The TEN は ロ ン ド ン 芸 術 大 学 Textile Futures Research Community 内の研究グループ Textile Environment Design 、 通称 TED によって開発されたツールキットである。TED は 1996 年創立以来、テキスタイルにおける持続可能なデザイ ン戦略開発及び改良を行なっている。ウェブサイト(http:// www.tedresearch.net/teds-ten/)では、環境負荷を軽減し たデザイン例や、デザイナーの使用を見込んだツールの公開な ど、サステナブル・ファッションデザインのプラットフォーム

fig.10. Design with Intent に お け る 8 つ の カ テ ゴ リ、http://designwithintent.co.uk/introduction-to-thedesign-with-intent-toolkit/ より引用

を構築している。The TEN は、デザイナーに向けて開発された ツールキットであり、テキスタイル生産における複雑な持続可 能性に配慮するデザインプロセスを簡約化しオンラインにて無 償で公開している。

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4. 結論 本論は国連の提示する持続可能性の定義の変遷について論じ、 エコファッションと呼ばれるトレンドと共に拡大したサステナ ブル・ファッションの登場を紹介した。さらに、2008 年以降 急速に体系化が進んだサステナブル・ファッションの理論体系 を英国及び米国の諸研究を元に考察しゼロ・ウェイスト・パター ンやバイオ素材について紹介したのち、ビジネスモデルの実践 例やツールキットについて解説してきた。 サステナブル・ファッションは伝統的なデザイナー教育の現場 での技術面に留まらず、サプライ・チェーン全体における環境 負荷を考慮する必要があり、新たなデザイナーの役割及びその 教育が求められている。近年ではファブリカデミーを始めとす るテクノロジーやオンライン型教育を適用する先端研究との融 合が進んでおり、持続可能なデザインを実現するためにさらに 複雑化した問題として捉える必要性が増している。 2018 年、 英 国 の Victoria&Albert Museum で 開 催 さ れ た 「Fashioned from Nature」展において、多様な持続可能な素材を 用いたファッションアイテムが展示された。CSF は本展示にお いて「Fashion Now and Fashion Futures 2030」のインスタレー ションを行い、今後のファッション業界に起こりうる考えられ る 4 つのシナリオを提示している (27)。 このシナリオは世界中 で起こっている環境的、経済的、社会的、文化的および技術的 変化に基づき、ファッションと自然が今後どのようになるのか を探り制作されたものであり、 展覧会来場者に 2030 年にファッ ションをどのようにデザインし、作り、購入し、ケアをしたの ちに処分する、しないなどを思索する機会を提供している。会 期に合わせて Global Fashion Conference 2018 の開催、英国政

参考文献 Black, S. (2008). Eco-chic: The fashion paradox. Black Dog. Black, S..(2012). The Sustainable Fashion Handbook. Thames&Hudson. Fletcher, K., & Grose, L. (2012). Fashion and sustainability: design for change. Laurence King. Fletcher, K. (2013). Sustainable fashion and textiles: design journeys. Routledge. Fletcher, K. and Tham, M. eds., (2014). Routledge handbook of sustainability and fashion. Routledge. Gwilt, A. (2014) Fashion Design for Living. Routledge, London. Gwilt, A. (2014). A practical guide to sustainable fashion. A&C Black. Gwilt, A. & Rissanen, T. (2011)“Shaping sustainable Fashion changing the way we make and use clothes”, Earthscan, London, UK Rissanen, T., & McQuillan, H. (2016). Zero waste fashion design(Vol. 57). Bloomsbury Publishing. Rissanen, T. I. (2013). Zero-waste fashion design: a study at the intersection of cloth, fashion design and pattern cutting (Doctoral dissertation). Victoria and Albert museum. (2018) Fashioned from Nature. V&A Publishing, South Kensington, London. 脚注 (1) Friends of the Earth: https://www.foei.org (2) Greenpeace: https://www.greenpeace.org/usa/

府の環境監査委員会によるファスト・ファッション企業へのヒ

(3) People Tree: http://www.peopletree.co.jp/home-photo/about/

アリングも Victoria&Albert Museum において実施された。この

safprofile_10feb.pdf

ように、少なくとも英国では政府が介入して持続可能なファッ ションのあり方を問う動きが進んでいるといえるだろう。(28)

(4) Soil Association Certification: The Soil Association Certification offers a huge range of organic and sustainable certification

このように、サステナブル・ファッションの体現は既存ファッ ション研究だけで網羅することはできず、持続可能な未来実現 に向けて政治をも巻き込んだ包括的なアプローチを進める動き が始まりつつあることを示し、結語の代わりとする。

schemes across food, farming, catering, health and beauty, textiles and forestry. For the Fashion & Textile field, they certify a wide range of businesses involved in processing or manufacturing organic textiles, specifically cotton and wool. https://www. soilassociation.org/certification/ (5) Kuyichi: https://kuyichi.com, accessed November 12, 2018 (6) Patagonia's Common Thread Garments Recycling Program:

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A Detailed Analysis - Patagonia pp 1, https://www.Patagonia.

究や、またそのデザイン教育の盛んさから、生徒主体で統合を

com/on/demandware.static/Sites-Patagonia-us-Site/Library-Sites-

目指した研究を実践している。

PatagoniaShared/en_US/PDF-US/common_threads_whitepaper. pdf, accessed November 12, 2018

(19) Holly McQuillan: https://hollymcquillan.com/category/ patterns/

(7) Plan A, Marks & Spencer: https://corporate.marksandspencer. com/media/press-releases/archive/2007/15012007_marksspen

(20).Fabricademy: https://textile-academy.org

cerlaunchesplana200mecoplan accessed November 9 2018 (21) Kering 2025,https://hollymcquillan.com/category/patterns/ (8) SAC,https://apparelcoalition.org/origins/ (22) Eun Suk Hur: https://www.eunsukhur.com/sfb-toolkit (9) Patagonia articles, https://www.Patagonia.com/ blog/2011/11/dont-buy-this-jacket-black-friday-and-the-new-york-

(23) TEN: http://www.tedresearch.net/teds-ten/

times/ (24) Design with Intent: http://designwithintent.co.uk/introduction(10).「Don’ t Buy This Jacket」.https://www.Patagonia.com/

to-the-design-with-intent-toolkit/

blog/2011/11/dont-buy-this-jacket-black-friday-and-the-new-yorktimes/

(25).Dan Lockton はさらに自身の会社である imaginaries lab の ディレクター及び創設者でもある。https://danlockton.com/

(11). Local Wisdom Project: http://localwisdom.info, cited

about/

November 12, 2018 (26) densign with intent toolkit, http://designwithintent.co.uk/ (12) slow knowledge, https://aha.wildapricot.org/Resources/

introduction-to-the-design-with-intent-toolkit/

Documents/ZD%202014%20-%20Slow%20Knowledge,%20 David%20Orr.pdf

(27) fashioned from nature, http://sustainable-fashion.com/ projects/fashionedfromnature/

(13) Payne, A.thinklifecycle CMS. http://www.thinklifecycle.com/ index.html

(28) BBC News“MPs to investigate‘fast fashion’impact”, 閲 覧 日 2018 年 11 月 10 日 https://www.bbc.com/news/uk-

(14) LCA とはライフサイクルアセスメントをさし、製品・サー

politics-44565755

ビスのライフサイクルにおける環境負荷を評価する方法であ る。ファッションのみならず、個別プロダクト及び提供する サービスなどアセスメント対象は広域にわたる。詳しくは国立 環境研究所の website を一読されたい。http://tenbou.nies.go.jp/ science/description/detail.php?id=57 (15) The EconoMetrics Calculator: www.colour-connections.com/ EcoMetrics/ (16) the Higg index: https://apparelcoalition.org/the-higg-index/ (17) IDEO Human-Centered Toolkit https://www.ideo.com/post/ design-kit (18) パーソンズでは、サスティナブル・ファッションに特化し たプログラムは無いが、サスティナビリティの授業をカリキュ ラムに取り入れている。さらに、近年ではケリングとの共同研

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