サステナビリティ マーケット ダイナミクス 2024年第4四半期

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サスティナビリティ マーケットダイナミクス

Japan: SustainabilityMarketDynamics

Keytrends

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グリーンビル認証の増加率は拡大

2024年通年のLEEDの取得件数は52件となり、

前年の30件を大幅に上回った。2009年からの 累計件数は306件、前期比+6.6%となった。

2024年末時点でを有効なCASBEE-建築を有 する物件は前期比で5.4%増加、CASBEE-不 動産を有する物件は前期比で9.9%増加した。

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特集:SBTi建築セクター基準

SBTiは2024年8月、建築関連企業および金融 機関向けに、パリ協定の1.5℃目標に沿った建 築セクターの目標設定基準を発表した。対象 企業は今後 、 CRREM と連携開発された Pathwayを用いたオペレーショナルカーボン の削減目標や、新築および大規模改修におけ るエンボディドカーボン(アップフロント カーボン)の削減目標の設定などが必要とな る。

主要指標

前期比+7.3%

グリーンビル認証(各認証の増加率の平均)

前期比+2.2%

ウェルネス認証(各認証の増加率の平均)

ウェルネス認証の増加率は縮小

2024年通年のWELLの取得件数は24件となり、 前年の18件を大幅に上回った。2024年末時点

で有効な認証を有する物件は55件、前期比 +7.8% となった 。 2024 年末時点で有効な Fitwelを有する物件は5件にとどまった。

CASBEE-ウェルネスオフィスは有効期限満期 となる物件も出始め、有効な認証を有する物 件数が前期比で初めてマイナスとなった。

注釈:LEED、WELL、Fitwelは全ランク、CASBEE-建 築、CASBEE-不動産、CASBEE-ウェルネスオフィスは B+以上を対象とする。

出所:USGBC, IBECs, IWBI, Fitwel

Japan: SustainabilityMarketDynamics

LEEDの取得件数が前年通年を上回る

• LEEDの第4四半期の認証取得件数は19件で、 2009 年からの累計件数は 306 件 ( 前期比 +6.6%)となった。当期にプラチナを取得した 事例として 、 Goldman Sachs Tokyo Toranomon Office(LEED v4 ID+C: CI)が挙 げられる。2024年通年の取得件数は52件となり、 2023年通年の30件を大幅に上回った。

グリーンビル認証物件数の推移(認証取得年別)

• CASBEE-建築の第4四半期の認証取得件数は38 件で、当期末時点で有効な認証を有する物件は 486件(前期比+5.4%)となった。当期の取得 件数は前期比・前年比ともに減少し、2024年通 年では前年と比べて10%減少した。

• CASBEE-不動産の第4四半期の認証取得件数は 214件で、当期末時点で有効な認証を有する物 件は2,141件(前期比+9.9%)となった。当期の 取得件数は前期比・前年比とも増加に転じ、 2024年通年では前年と比べて20%増加した。

Source:JLL,USGBC,IBECs

Japan: SustainabilityMarketDynamics

ウェルネス認証物件数の推移(認証取得年別)

WELLを東京都心5区のオフィス3件が取得

• WELLの第4四半期の認証取得件数は6件で、当 期末時点で有効な認証を有する物件は55件(前 期比+7.8%)となった。当期にプラチナを取得 した事例として 、 Goldman Sachs Tokyo Toranomon Office ( WELL v2 Pilot: Office Spaces)が挙げられる。2024年通年の取得件 数は24件となり、2023年通年の18件を大幅に 上回った。

• Fitwelの第4四半期の認証取得件数は0件で、当

期末時点で有効な認証を有する物件は5件(前 期比±0.0%)にとどまった。Fitwelの日本での 認知度は未だ低いが、当期末時点で有効な認証 は世界38の国・地域で約2,000件にのぼる。

• CASBEE-ウェルネスオフィスの第4四半期の認 証取得件数は8件、有効期限切れが9件で、当期 末時点で有効な認証を有する物件は168件(前 期比-1.2%)となった。CASBEE-WO認証の運 用開始から5年以上経過し、有効期限満期とな る物件が出てきたため、累計件数が初めて前期 比でマイナスとなった。

Source:JLL,USGBC,IBECs

【特集】SBTi建築セクター基準

• デベロッパー、オーナーで占有者、オーナーで賃貸者、プロパティマネージャー、金融機関向けの目標設定基準

• オペレーショナルカーボンの削減にCRREMと連携開発したPathway(脱炭素化に向けた削減経路)を活用

• 新築および大規模改修におけるエンボディドカーボン(アップフロントカーボン)の削減目標が必要

• Scope3削減目標の設定、既存建物のエネルギー効率改善、化石燃料使用設備の新設禁止も規定

建築セクターの脱炭素化を推進

SBTi*1は2024年8月、建築関連企業および金融機関向けに、パ リ協定の1.5℃目標に沿った建築セクターの基準(BUILDINGS

SECTOR SCIENCE-BASED TARGET-SETTING CRITERIA)を 発表した。世界のエネルギー関連排出量の4分の1以上*2を占め る建築セクターの気候課題を克服しネットゼロに向けた対応を 加速するためである。

日本の建築関連企業は2024年末時点で356社がSBTiに参加して いるが、2025年3月以降に目標を提出する対象企業には当該基 準が義務付けられる。対象となるのはデベロッパー、オーナー で占有者、オーナーで賃貸者、プロパティマネージャー(不動 産管理会社等)、金融機関のいずれかで、建物運用中のオペ レーショナルカーボン*3排出量や開発・取得する建物のアップ フロントカーボン*4排出量が一定の水準にある企業だ。

SBTiは重要なアクションとして、①化石燃料使用設備の新設 禁止、②オペレーショナルカーボンの削減、③エンボディド カーボン*5の削減、④非効率建物の改修の4点を挙げている。

*1 Science Based Targets initiative(科学的根拠に基づく目標イニシアティブ)。パリ 協定の目標である世界の平均気温上昇を産業革命以前と比べて1.5℃に抑えることを目指 すためにGHG排出削減シナリオと整合した目標を設定し実行を求める国際的なイニシア ティブ。国際NGOが運営。2024年末時点において、世界で9,631の企業が参加(うち 6,910社が認定取得、2,721社がコミットのみ)、日本は1,488の企業が参加(うち1,413社 が認定取得、75社がコミットのみ)している。

*2 IEAによると、2022年の世界の最終エネルギー消費量の34%、エネルギー関連排出量の 26%は建築セクターに直接・間接的に起因する。また、世界のエネルギー・プロセス関連 排出量の8%が建築物における化石燃料の使用に、18%が建築物で使用される電力と熱の 生成に、さらに4%が建築に使用されるセメント、鉄鋼、 アルミニウムの製造によるエン ボディドカーボンに関連している。

*3 建物運用時のエネルギー消費や水消費により発生するCO2のこと。

*4 建築物のライフサイクルのうち、資材製造段階(原材料の調達、工場への輸送、製 造)および施工段階(現場への輸送、施工)で発生するCO2のこと。

*5 アップフロントカーボンに、使用段階(使用、維持保全、修繕、交換、改修)の資材 関連から発生するCO2、および解体段階(解体・撤去、廃棄物の輸送、中間処理、廃棄物 の処理)で発生するCO2を加えたもの。(詳細はJLL「欧米の環境規制が促す日本不動産 市場の変革」。

SBTi に参加している日本の建築関連企業数

BuildingProducts

ConstructionandEngineering

ConstructionMaterials

Homebuilding

RealEstate

TargetSet1.5℃ TragetSetWell-below2.0℃

TargetSet2.0℃ Commited

オペレーショナルカーボンの削減 SBTiは従来、住宅および商業ビルのオペレーショナルカーボ ン(運用時排出量)について、2℃、2℃を大きく下回る、 1.5℃を目標としたPathway(削減経路)を提示しており、多 くの企業がこれらを用いて目標を設定してきた。今回の建築セ クター基準では 、 オペレーショナルカーボンに関して CRREM*6 と連携して開発した Pathway を SDA ( Sectoral Decarbonization Approach :セクター別脱炭素化アプロー チ)として採用し、国別・セクター別のより細かな閾値を提示 している。自社が所有・管理する建物から排出されるオペレー ショナルカーボンが選択した基準年においてScope1、2および 3のカテゴリー1~14の総排出量の20%以上に相当する企業は、 今後、SDA等を用いた目標設定が必要となる*7 。

*6 Carbon Risk Real Estate Monitor(クレム)。不動産や不動産ポートフォリオの気候 変動リスクを分析するツールとして、パリ協定の1 5℃目標に整合するGHG排出量、CO2 排出量、エネルギー消費量の2050年までのPathway(削減経路)を国別・セクター別に 公開している。詳細はJLL「サステナブル不動産への道:エネルギー編」。

*7 SBTiにおけるSME(中小企業)に該当する場合は、建築セクター基準とSME向け基準 のいずれかを選択することができる。

オペレーショナルカーボンとアップフロントカーボン

ホールライフカーボン

(建築物のライフサイクル全体で発生するCO2)

エンボディドカーボン

(新築・改修・解体時に発生するCO2)

アップフロントカーボン

(新築時に発生するCO2)

施工段階 使用段階(資材関連) 解体段階 使用段階(光熱水関連)

オペレーショナルカーボン

(運用時に発生するCO2)

B6 エネルギー消費

B7 水消費

出所: ゼロカーボン推進会議「令和4年度 ゼロカーボンビル推進会議報告書」をもとにJLL作成

エンボディドカーボンの削減 世界の床面積は2030年までに15%増加すると予想されており、 今回の建築セクター基準では、新築および大規模改修を対象と して、エンボディドカーボンのうち原材料、製造、輸送、建設 から発生するアップフロントカーボンの削減目標を設定するこ とを求めている。新規開発または第一所有者としての建物取得 に伴うアップフロントカーボン排出量が過去3年間のいずれか の年においてScope1、2、3のカテゴリー1~14の総排出量の 20%を超えている企業は、絶対値での削減目標もしくは、

SDAを用いた削減目標の設定が必要となる*8 。 なお、エンボディドカーボンに関しては、SDAのPathwayには セクター別のみ存在し国別のPathwayがなく、耐震性確保のた めコンクリート・鉄骨・鉄筋量が比較的多い日本の建築物が Pathwayを達成するには不利となる可能性がある。

*8 SBTiにおけるSME(中小企業)に該当する場合は、建築セクター基準とSME向け基準 のいずれかを選択することができる。

サプライチェーン排出量の分類

②資本財

③Scope1, 2に含まれない燃料及びエネルギー活動

④輸送、配送

⑤事業から出る廃棄物

⑥出張

⑦雇用者の通勤

⑧リース資産

自社

1

2

建設資材の製造、販売する不動産の資材購入

自社の資本財の建設・製造、建設現場で発生した廃棄物、不動産の取得

調達燃料の採掘・精製、調達電力の発電燃料の採掘・精製

建設資材の輸送・配送

建設廃棄物、所有不動産の運用時に発生する産業廃棄物

従業員の出張

従業員の通勤

賃借しているリース資産の稼働

自社での化石燃料の燃焼、セメントの製造、フロンガスの漏洩等に伴う直接排出

自社で使用するために他者から供給された電気、熱、蒸気の使用に伴う間接排出

⑨輸送、配送

⑩販売した製品の加工

⑪販売した製品の使用

下流 3

出荷輸送、倉庫での保管

事業者による中間製品の加工

販売した不動産の運用

⑫販売した製品の廃棄 販売した不動産の解体時に発生する産業廃棄物

⑬リース資産

⑭フランチャイズ

⑮投資

所有不動産の賃貸

自社が主宰するフランチャイズの加盟者のScope1, 2 に該当する活動

株式投資、債券投資、プロジェクトファイナンスなどの運用

出所: 国土交通省「不動産分野における 気候関連サステナビリティ情報開示 対応のためのガイダンス」、日本建設業連合会「日建連 環境情報開示ガイドライン」の資料をもとにJLL作成

Scope3削減目標の設定

SBTiでは基本的に、サプライチェーン排出量のうちScope3の 排出量が総排出量の40%以上を占める場合にScope3の目標設 定を求めている。しかし、建築セクター基準においては、オペ レーショナルカーボン排出量やアップフロントカーボン排出量 の閾値を満たす企業は、Scope3排出量が総排出量の40%未満 でも、一部のカテゴリーについて短期目標を設定することが必 要となる。

建物全体の排出量の把握(建物全体アプローチ)

対象企業は、目標バウンダリー内にある貸主と借主が管理する

スペースの両方を対象として、業務上のエネルギー消費により 発生する全ての排出量を把握しなければならない。

ロケーション基準排出量の開示

対象企業は、目標設定にマーケット基準アプローチ*9を選択し た場合、年次GHGインベントリの別項目として、ロケーショ ン基準アプローチ*10を用いた建物全体のオペレーショナル カーボンも測定し報告しなければならない。

*9 選択して購入した電力固有の排出係数を用いて排出量を算定する方法。

*10 系統または同じ市場の平均排出係数を用いて排出量を算定する方法。

エネルギー効率公約の推奨

WEFによると、新しく建築される建物はエネルギー効率が高 いものの、2050年に存在するであろう建物の80%は現在すで に存在している建物であると予想されることから、既存建物の 改修(レトロフィット)を2030年までに2倍以上に増やし、既

存建物のエネルギー効率を改善し脱炭素化することが求められ る。したがって、CO2排出量目標に加え、エネルギー効率改善 の実施を公約することが推奨されている。

化石燃料使用設備の新設禁止

建築セクター基準を用いて目標を設定することが義務付けられ ている企業は、遅くとも2030年までに、自社が所有または財 政的に管理する建物ポートフォリオにおいて、化石燃料ベース の暖房、調理、発電、給湯設備を新たに設置しないことを公約 しなければならない。なお、この公約は、建物内の現行の化石 燃料使用設備が耐用年数を迎えた場合、それらを更新するので はなく、化石燃料を必要としない技術に置き換えることを意味 することに注意が必要である。

建築セクター基準で求められる

Scope3の短期目標

①購入した製品・サービス

②資本財

⑪販売した製品の使用

オーナーで

占有者

オーナーで

賃貸者

②資本財

②資本財

⑬リース資産(下流)

プロパティ マネージャー ⑪販売した製品の使用

新築建物のアップフロントカーボン

販売した建物のオペレーショナルカーボン(報告年度)

報告年度に第一所有者として取得した新築建物のアップフロントカーボン

報告年度に第一所有者として取得した新築建物のアップフロントカーボン

報告年度に賃借人が管理するスペースのオペレーショナルカーボン

(建物全体アプローチによりScope1またはScope2に該当しない場合)

報告年度に発生した、顧客のために管理している建物のオペレーショナルカーボン

(Scope1、2、またはその他のScope3に該当しない場合)

出所: SBTi「BUILDINGS SECTOR SCIENCE-BASED TARGET-SETTING CRITERIA」をもとに

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