ファッションにおいて、「ラグジュ アリー」たる所以とは何か。
ファッションブランドyasukawa
デザイナー安川貴信氏は、服作りから 販売に至るまでの全てのプロセスを一
人で行なっているインディペンデント クリエイターだ。
総合大学を卒業後、学生時代に 参加したファッションブランド MIKIOSAKABEでのインターンを
きっかけに安川氏は服作りの世界 に飛び込む。エスモードジャポンや coconogacco、meといったファッ
ションスクールで服作りを学んでいく なかで自身のファッションブランド yasukawaの活動を開始した。
服作りのなかでは、自らのスタイル の確立を模索する時期もあった。「最 初はかっこいいものを作りたい思いが
強くて、デコラティブな服が多かった。
自分自身に嘘をついていたわけではな いけど、他の人に「そこに安川の思い
はのってない」みたいなことを言われ て…」。自分に嘘をつけないもの、向 き合えるものは何かを考え続ける。そ
のなかで今回の制作は、始めて3シー ズン目になるブランドの軸を決定づけ るターニングポイントになったとい う。「それが僕にとっては家族でした」。
今回の23AWコレクションのモチー フは「家族」であった。モチーフを通 じて生まれる、プロダクトを作る手法 やその魅せ方は、とても示唆に富むも のであった。そして、こうした安川氏 の実践が仄めかしているのは、新たな 価値としての「精神性のラグジュア リー」である。
今回のコレクションに際して制作 された映像インスタレーションでは、 「フードコートでの食事を楽しんでい る家族が、モードな服を纏ったスー バーモデルが隣に相席してきた途端、 急に喋らなくなり気まずい雰囲気にな る」といった、ある意味非現実的なの に、どこか親しみや懐かしさを感じさ せるような、不気味で絶妙なストー リーが記録されている。「家族の服を ノスタルジーだけに留めないで、モー ドな服を着たモデルと普通の服を着た 家族を並べたときに、「家族の服いい な」っていうふうに新しい魅力を見せ ていきたい」。
ファッション業界で大量生産が進ん でいくなかで、「ラグジュアリーブラ ンドはクオリティが高いっていうのが 昔から一般的だと思うんですけど、最 近のラグジュアリーブランドでもファ スナーがすぐ壊れたりするのを聞いた
り、クオリティーが揺らいできてるの かなって。だけど、価格が高くても未
だに買う人は多いじゃないですか。だ からこそ僕は、ラグジュアリーはクオ リティじゃなくて、もっと精神的なも
のに寄ってくると思う」と安川氏は話 す。
今回のコレクションでは、自身が幼 少期のときに家族が着ていた服を忠実 に再現したものをプロダクトとして展 開している。「とにかく自分でデザイ ンしないでチープさをずらさないこ とが大事でした」。当時家族が着てい
た服は90年代の大量生産のもとで作 られたもの。一般的にはチープで普通 の服と言われるだろう。しかし、安川
氏は自身と共にある記憶や感情を込め て、自らの手で当時の家族の服を忠実 に再現しなおすことで、それらを自ら
にとっての「ラグジュアリーな普通」
に昇華している。
最もアイコニックなのは、一般的な
Tシャツに「解いて、縫って」のプ ロセスを100回施したプロダクトだ。
その価格は40万円。「かかった時間 を考えればそれぐらいになるなって。
クオリティではないラグジュアリー性 を伝えるためには、中途半端な価格設 定ではぶれてしまう」。「精神性のラグ
ジュアリー」とはまさに、社会的に共 有されている記号の意味や生産性の論 理を悠々と超越しながら、自らの思う がままに実践できる、そんな心の余裕 とも言えるかもしれない。
これからのブランドの方向性とし て、「日常の存在感を増幅させたい」 と安川氏は語る。「リアルを追求すれ ばするほど、ファンタジーへの導線は できていく」。私が映像インスタレー ションで感じた不気味な懐かしさは、 まさしく安川氏の追求した「家族」の リアルによって導かれたものだった。
そして、私たちは「100回Tシャツ」 みたく、「普通」や「日常」といった 漠然としたものにいかに正直に向き合 い続けられているのだろうか。そう した自らの周囲に対する解像度を着 実に上げていった先には、「普通」で あっても漏れ出してくる魅力としての ファッション性が立ち上がってくるの かもしれない。
text by Daiki Adachi (Noah's Talk)
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