Portfolio_2018-2023(後半)

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1-1 期待を背負った都市 日本の首都東京に対する一極集中の構図に対して 魅力的に感じながら、危惧も抱いていた。実際、 政治・観光・商業・住居の役割を一手に担っている。 が、私はさらに東京という街は私たちの過度な都 市イメージの期待を背負っているという役割があ ると考えている。東京への一極集中と、東京を舞 台にした作品の氾濫により、そこに住んでいる人 でない人も、東京に対してそれぞれの想像を膨ら ませている。

1-2 想像の世界が有する価値

そこで私が注目した点は、各個人の想像の世界が 持つ価値である。想像の世界においては真偽・正 誤のものさしが機能しない。なぜなら、想像上で は法律や倫理の範疇の及ばないところにあり、た だ一個人の趣向と抽象化された記憶の印象のみの 裁量の及ぶところだからだ。

1  背景

2  目的 3  集計結果

4  手法

5  展望 6  設計

6-1 渋谷' 6-2 新宿' 6-4 港区' 6-3 原宿' 6-5 丸の内' 6-6 浅草'

1-3 「都市のイメージ」

ケヴィン・リンチの「都市のイメージ」では「各 個人が描く心象はそれぞれ独自のものであり、そ

の内容の一部はめったに、または絶対に、他人に 伝達されない」とある。

2 想像の共有 私が表現者・還元者となり、“想像の共有”を図る。 これにより、思考のきっかけを生むことを目的と する。

5-1 目的

1-3でも述べた通り、我々が都市に対して抱く心象 はそれぞれ独自のものであり、その内容の一部は めったに、または絶対に、他人に伝達されない、 とある。この作品はイメージの共有の手助けをす る。情報に受け身である現代社会において、自身 の考えを発信することは稀である。誰しも抱く TOKYOに対するイメージTOKYO”に対し、見た人は 感想・意見を持つだろう。それを発信した時点で この作品を作った目的は達成される。

avant3 集計結果

イメージとは常に変化し続けるものである。

都市構造自体がイメージを形成しているものもあれば、発信している文化やそこに根付く歴史がイメージを形成するものもある。 しかし、東京が特別たる所以は、東京というブランド価値が生み出す膨大な2次情報がイメージ形成の大半を担っているからである、と考えた。 情報媒体の報じる一部の東京の姿、東京を舞台とした作品の氾濫もイメージ形成に加担しているのではないかという仮説を立て、調査を行った。

1  背景

2  目的

3  集計結果

4  手法

5  展望

6  設計

6-1 渋谷'   6-2 新宿'   6-4 港区'   6-3 原宿'   6-5 丸の内'   6-6 浅草'

左図は回答の多かった都市を+の大きさで 表したものと、回答の多い地区の地図の特 徴を抜粋したものである。

区名ではなく地区名の回答が目立ち、渋谷、 新宿、原宿、港区、丸の内、浅草の順で多 かった。

渋谷’ 新宿’ 原宿’ 港区’ 品川' お台場' 港区' 新宿' 代々木' 下北沢' 駒場' 皇居' 千代田区' 大手町' 神田' 秋葉原' 浅草' 上野' 台東区' 文京区' 池袋' 霞が関' 丸の内'日本橋' 東京駅' 銀座' 有楽町' 六本木' 港区' 原宿' 表参道' 渋谷' 品川' お台場' 新宿' 代々木' 下北沢' 駒場' 皇居' 千代田区' 大手町' 神田' 秋葉原' 浅草' 上野' 台東区' 文京区' 池袋' 霞が関' 丸の内'日本橋' 東京駅' 銀座' 有楽町' 六本木' 港区' 原宿' 表参道' 渋谷' 丸の内’ 浅草’
集計結果
3

一次情報イメージグループ:

実際に都市を訪れたり、住んだりして感じ、得た情報 で構成される印象の集合体。

(人が多い、地下鉄の乗り換えが難しい等)

4-1 都市のイメージを形成するもの 都市に対するイメージを集める中で、 都市に よって、都市の形態自体にイメージを引っ張ら れる都市と、発信される文化や、舞台になった 作品に強く印象付けられる都市があることが判 明した。

4-2 二次情報のイメージグループ

一度、二次情報を媒介することで、情報は抽象 化される。抽象化された情報のイメージグルー

プを組み合わせることで、都市イメージを構成 する試みである。

二次情報イメージグループ:

人から聞いた話やメディアを介して得た情報で構成さ れる印象の集合体。

(ニュースで桜前線がもうすぐと言っていた、漫画で 舞台になった駅は日本一の利用者を誇るらしい、映画 でそこのカフェを主人公が利用していた等)

1  背景

2  目的

3  集計結果

4  手法

5  展望

6  設計

6-1 渋谷'   6-2 新宿'   6-4 港区'   6-3 原宿'   6-5 丸の内'   6-6 浅草'

く。

集めた抽象化されたイメージとその街が歩んで きた歴史をもとに都市を再構成する。

4-3 イメージの再構成 前提として、イメージは成長し、姿を変えてい
表現された作品の還元を鑑賞する人々
-都市イメージTOKYO"の生成過程-

4-2 TOKYO”の形成

TOKYO”は一つのイメージで構成されてはいない。 人々は、区名でTOKYO”を認知しているのではなく、 地区名でイメージを作り上げている。

多様な性格・顔をもった都市が集中するのがTOKYO であり、人々は自分の知りえるエリアのみで TOKYO”を構成している。

ゆえに特に回答の多い・関心の高い地区6つを取 り上げ、イメージとは常に変化し続けるものであ ること、都市ごとにイメージを構成する定義が異 なることを前提とし、TOKYO”のイメージを再構成 することを試みた。

1  背景

2  目的 3  集計結果

4  手法

5  展望 6  設計   6-1 渋谷'   6-2 新宿'   6-4 港区'

6-3 原宿'   6-5 丸の内'   6-6 浅草'

4-3 形態決定手法 -抽象から具現へ- 都市ごとにそのイメージを構成する骨組みは異な る。集めた言葉から骨組みをそれぞれ抽出し、都 市ごとに肉付けを行い、イメージを作り上げる。 抽出された言葉は一度、その言葉が持つイメージ グループに属してから、再編される。この一連の 過程が現在起こっている情報社会の縮図であると もいえるだろう。

5-2 展望 -還元のシステム化- ここでは形態化される手法を提示する。願わくば 鑑賞者からのフィードバックを得ることで、形態 が変わるシステムのサイクルが完成することだ。 作品が思考のきっかけとなり、イメージの集合体 に影響を与え、イメージの集合体が形態を変え、 変化し続けるTOKYO”をみた鑑賞者がまた思考をし、 発信するという塩梅である。

1  背景

2  目的

3  集計結果

4  手法

5  展望

6  設計

6-1 渋谷'   6-2 新宿'   6-4 港区'   6-3 原宿'   6-5 丸の内'   6-6 浅草'

イメージグループから、“渋谷’”の根幹

を成すものは、

都市構造(交差点・低層のビル・雑多な 景観)、と発信される文化(東京随一の若

者の街・多方面における最先端の情報・ 人の多さ)であると定義した。

渋谷が迎えた7つの転換点が層と して現れる。

・2027年中央棟・西棟開業予定Ⅱ

・スクランブルスクエア/ヒカリ

エ開業Ⅰ

・西武百貨店/パルコ開業

・若者文化の中心が新宿→渋谷

・東京大空襲を受ける

・交通結節点として発展する

・宿場町として栄える

1  背景

2  目的 3  集計結果

4  手法

5  展望 6  設計   6-1 渋谷'   6-2 新宿'   6-4 港区'   6-3 原宿'   6-5 丸の内'   6-6 浅草'

“渋谷”から抽出した 一次・二次イメージグループ

4

新陳代謝の激しい“渋谷”である が、新しいものを作る際に古いも のを全て捨て去ることはしてこな かった。

単なる道路の交わりが“渋谷’”を 形成するのではない。時代ごとに 新たな軸が発生し-それは最新の 流行だったり景気だったり開発計 画だったりする-層と交差しなが ら“渋谷’”は変化していく。

“渋谷”イメージの成長 Ⅰ:宿場町として発展する。

Ⅱ:交通結節点として重要な 役割を担うようになり、多く の人の想像を受け止める土壌 (軸)が出来上がる。

Ⅲ/Ⅳ:転換点を迎え、層と 軸が付け足されていく。

Ⅴ:駅周辺の再開発計画が行 われながらも、少し前の“渋 谷’”のイメージは人々の中に 根付き続ける。

2
1
3
Ⅰ Ⅲ Ⅱ Ⅳ Ⅴ
5

1  背景

2  目的 3  集計結果

4  手法

5  展望

6  設計   6-1 渋谷'   6-2 新宿'   6-4 港区'

6-3 原宿'   6-5 丸の内'   6-6 浅草'

2

イメージグループから、“新宿’”の根幹 を成すものは、都市構造(東西の対比構 造)、と発信される文化(東西の対比構造 /ビジネス街と歌舞伎町)であると定義し た。

線路で隔てられた東と西は、戦後復興で 全く異なる発展の仕方をした。高度経済 成長時に争う様に建てられた西側の景観 は近いうちに刷新を迎えるだろう。

その時にまたイメージの上書きがなされ るに違いない。

西 東

1
“新宿”から抽出した一次・二次イメージグループ

1  背景

2  目的

3  集計結果 4  手法 5  展望 6  設計   6-1 渋谷'   6-2 新宿'   6-4 港区'   6-3 原宿'   6-5 丸の内'   6-6 浅草'

“原宿”から抽出した一次・二次イメージグループ

イメージグループから、“港区’” の根幹を成すものは、 都市構造(複数の商業拠点・高層ビ ルのまちなみ)、と人を駆り立てる 動力源(高級感が存在することによ る見栄・憧れの集中)であると定義 した。

2 ひと・もの・かね・情報が高層ビ ルに集約されているのが“港 区’”である。動力源の、見栄・ 憧れが独り歩きし、巨大な磁力線 に似た求心性をはらむようにな る。

1  背景

2  目的 3  集計結果

4  手法

5  展望

6  設計

6-1 渋谷'   6-2 新宿'   6-4 港区'

6-3 原宿'   6-5 丸の内'   6-6 浅草'

・虎ノ門ヒルズ

・六本木ヒルズ

・赤坂サカス

・汐留シオサイト ・東京ミッドタウン etc...

・虎ノ門ヒルズ

・六本木ヒルズ

・赤坂サカス

・汐留シオサイト

・東京ミッドタウン

高層ビルの出で立ちをした商業拠点 が均等に区内に配置されている点 が、“港区”一体の価値を高め、そ

の効果がそのまま“港区’”イメー ジ形成へと繋がっている。

3 4
1 Ⅲ Ⅱ Ⅳ Ⅴ Ⅰ “港区”から抽出した一次・二次イメージグループ

イメージグループから、“丸の内’”の根 幹を成すものは、 都市構造(オフィス街・皇居付近・東京 駅付近)であると定義した。

2

煉瓦基調の建物が一斉に計画され、一斉 に建て替えられた歴史を鑑み、“丸の内’” は、空を映すガラス張りの高層ビル街の 奥には煉瓦作りの かつての街並みが眠っている。

1  背景

2  目的

3  集計結果

4  手法

5  展望

6  設計   6-1 渋谷'   6-2 新宿'   6-4 港区'   6-3 原宿'   6-5 丸の内'   6-6 浅草'

“丸の内”から抽出した一次・二次イメージグループ

1

イメージグループから、“浅草’”の根幹 を成すものは、

都市構造(新陳代謝の遅いまちなみ・再 建が繰り返され守られてきた歴史的建造 物)、と発信される文化(観光客をターゲッ トにしたグルメ・浴衣レンタル・和の風情) であると定義した。

1  背景

2  目的 3  集計結果 4  手法 5  展望 6  設計   6-1 渋谷'   6-2 新宿'   6-4 港区'   6-3 原宿'   6-5 丸の内'   6-6 浅草'

日本で最初の地下鉄が開通し、 演芸所・劇場が立ち並んできた “浅草’”のもつ価値は、テレビ の登場により、あっけなく崩れ 落ちた。

しかし、浅草が持つ魅力はそれ に留まらず、近年は国内外の観 光客の大半が目指すTOKYO”の 観光地となっている。

そのため、観光客が求めるもの を提供し続ける“浅草’”が必要 となり、“浅草’”は我々の想像 の中で、観光客をおびき寄せる 餌を付けるようになった。

TOKYO”有数の地に根ざした歴史 的文化色の強い都市である。日 本文化の根底を成していると 言っても過言ではなく、我々の 想像上でなら、言い切っても差 支えないだろう。

“浅草’”を構成するもう一つの 都市構造的要素にグリッド状の 街区がある。

大規模な都市開発の餌食になる ことなく、脈々と受け継いでき

た歴史の息遣いを感じに観光客 をはじめとして我々を魅了し続

けるのであろう。

“浅草”から抽出した一次・二次イメージグループ

1 +
62 卒業設計|TOKYO"
63

玉善住宅コンペ「部屋以上離れ未満」

玉善住宅コンペ出展

グループ制作

「住むことと働くことを共有させながら、決して空間を分断し閉ざすのでは無く、家族の気配や 繋がりを感じられる安心と安らぎのある楽しい家を提案してください」(主旨抜粋)

日本建築に存在する茶室のスケールを設計に用い、躙り口で空間を繋ぐ試みをした。

66 玉善住宅コンペ|部屋以上離れ未満

コロナ禍でリモートワークを余儀なくされ、住宅に職を持ち込んだ。しかし、 本来住宅には職に臨む機能が備わっておらず、住と曖昧に区切られた空間で 職をせざるを得ない状況が課題だと考えた。一方オフィスワークのように集 中するための「離れ」は孤独を作り、反って集中できないという課題が残る。

そこで、“職殿”と呼ばれる空間を創 出し、新たな職住一体の住まいを提 案する。“職殿”は必要に応じて職以 外の趣味空間としても機能する。住 民たちはその機能の一部を共有する。

三種の“職殿”とその機能

“職殿”には広さに応じて「広間」、「中間」、「小間」 の三種類に分類され、広さに応じて様々な使い方 ができる。「広間」は唯一三世帯共有の職殿で、家 族以外の他人と仕事の時間を共有することで、コ ワーキングスペースのような役割を果たす。

住民は“にじり口”と呼ばれる小さ な開口部を通って住まいと職殿を行 き来する。

“にじり口”は家族や住まいの雰囲気 を感じさせながらも、職殿が特別な 空間であることを認識させる。 かがまないと入れない煩わしさが仕 事とプライベートの境界をつくる。

扉を設けない小さな間口は仕事をし ながら、家族の存在を感じさせる。

“職殿”の抽出と構成

ボリュームが小さくなったことで隙間ができ、庭空間が生まれる。

あえて住まいはシンプルな方行にすることで、“職殿”が張り出し、 通常の部屋とは異なる空間となる。

い.三棟を配置(130㎡×3棟)

ろ.家族構成に合わせて必要諸室以外のボリュームを抽出 は.抽出したボリュームを小間、中間、広間に再編

に.広間(職殿)を中心に配し、三棟が共有 ほ.小間、中間を住棟に挿入

職住の変遷と課題
1
オフィス 在宅 母家と離れ
部屋以上離れ未満
-“職殿(ショクドノ)”
2 800mm 800mm
4 職殿と住まいの境界、躙口の応用
3
い.
ほ. 5 67
は.
ろ. に.

・ 通風等を得られるようボリューム配置を行い、下記 の家族構成に応じた平面計画とした。また、家族内にとどまらず、3世帯 が職殿を通してゆるやかに繋がるよう、7棟の職殿の位置を設定した。

6 父 母 姉 43 38 13 商社勤務 専業主婦 陶芸 観葉植物・バイオリン 弟7 小2 ピアノ・塾 中1 ピアノ・水泳 構成員年齢 職業 趣味 夫 妻 54 52 建築家 インテリアデザイナー 映画 ピアノ・ヨガ 構成員年齢 職業 趣味 父 母 兄 猫 25 26 2 3 銀行勤務 花屋パート 読書 漬物 高所に登る 弟2 構成員年齢 職業 趣味 3F
68 玉善住宅コンペ|部屋以上離れ未満
家族構成と平面計画 3棟が良好な日照
平面図 S=1:100
2F 1F 69
断面図 南北断面図 S=1:50 ガリバリウム鋼板 ガリバリウム鋼板 高窓から光が差し込む はしごを登ってにじり口へ
お父さんの働く姿が見える 雨除けの杉板張り にじり口で職殿(広間)と繋がる
70 玉善住宅コンペ|部屋以上離れ未満
一番高い職殿からの見晴らしは良い
目線をずらした開口が公私を緩やかに繋ぐ 日影となる小さい庭は子供たちの遊び場 茅葺屋根の落ち着いた空間

“職殿”は単に職場としてだけでなく、個々 の趣味に没頭する空間や住民同士の交流 の場所としても使えるので、住まいの可

お父さんの働く姿が見える 雨除けの杉板張り にじり口で職殿(広間)と繋がる 目線をずらした開口が公私を緩やかに繋ぐ 日影となる小さい庭は子供たちの遊び場
“職殿”により変化する生活
“職殿”が住まいの計画にも変化を及ぼし、 思わぬところに生活の楽しさを生み出す。
能性を広げる。
職殿から母屋を眺める 三家族が集う職殿
7 71
寝室から職殿を見る

テーマ:他者と生きる建築 において、私たちは文字通り人間の他者を想定し、 社会問題である「独り身高齢者」に焦点をあて、家開きをする解決策を提案した。

学会コンペ出展

グループ制作

学会コンペ「一人が独りにならないように」
74 学会コンペ|一人が独りにならないように

私たちは他者とともに生きることで自分のアイデンティティを保つ。

そんな私たちにとっての最も身近な他者とは家族、ひいては配偶者である。

長年連れ添った配偶者に先立たれ、外との関係を断ってしまいがちな"ボツイチ"(単身高齢者)が賃貸農業を介して、

もう一度マチとの関係を築き、新たな他者と共生するなかで再び自分の役割を手に入れる。

彼らを起点とした“もやいなおし“はマチの未来を変えてゆく。

75

01-1.熊本県宇城市松橋町勤住協両仲間住宅団地

熊本市近郊にあり、高度経済成長期に作られた建売住宅のニュータウン。当時生産人口を担っていた世 代が同時期に入居し、現在一斉に後期高齢者となっており、配偶者を無くした "ボツイチ(単身高齢者)"

や空き家が増加している。今後一気にその傾向が強まることが予想される。

01-2."ボツイチ" と空き家の増加

02.問題:"ボツイチ"を取り巻く様々な問題

02-1.精神的問題

一、サチコ(74)

十分感じている多分感じているあまり感じていないまったく感じていない・わからない

最近は料理もしよごんなかっ 作っても食べる人がおらんでしょ

足が腫れてきてきつかー 早く次の趣味ば見つけんば

料理作るのがやおいかん 家事ってたいぎゃきつかね

長年連れ添った”他者”を失ったボツイチの多くは、妻や夫という”役割”を失ったことで、無気力になったり、過度な喪失感から外 との交流を自ら断つことも少なくない。これまで家族、ないし夫婦用に作られてつくられてきた建築は、より一層その問題を複雑化させる。

02-3.親族の問題

宇城市は高齢化率や空き家の数が全国平均や熊本県平均よりも上回っている。対象とした団地はボツイチが特に多く、空き家も数件ある。

空き家問題には「空き家バンク」等を設置して行政が取り組んでいるが、ハードルすべてを網羅できている訳ではなく、喫緊の課題である。

01-3.農業で盛えた熊本市の近郊住宅街

敷地的背景として、熊本市中心市街地まで車で20~30分ほど、国道3号線がすぐ横を走っており、JR松橋駅にも比較的近い、小中高 の学校やスーパーも近く、子育て世帯にとっては良好な条件である。周辺は田畑が広がり古くから第一次産業で盛えていたマチである。

ボツイチになった

住みこなせない家で殻に閉じこもる 後処理で親族にかかる負担は大きい 最悪の場合、放置される 遠方に住む親族が頻繁に訪れることも難しく、多くの親族は年に数回の帰省でしか訪れない。ボツイチは外と関わる術を持たないまま、 過ごしてしまう。ここで必要なことは、近くの他人と関係を持つことであり、ボツイチが自立することである。

家族のために増築建て替えをした住まいは住みこなせない過剰なものとなり、無秩序な増築は痛風や日射など、住環境の性も損ねている。 従来の塀の高さはボツイチの孤立化を促すものとなっている。

出典:住宅土地統計調査 出典:国勢調査及び社人研の推計値
宇城市人口・世帯数・世帯員の推移 8.00 7.00 6.00 5.00 4.00 3.00 2.00 1.00 0.00 昭30昭35昭40昭45昭50 総人口(万)世帯数(万) 1世帯平均人数 昭55昭60平2平7平12平17平22平27平32平37平42平47 15.0% 宇城市・熊本市・全国の空き家率推移 宇城市の空き家率(%) 熊本市の空き家率(%) 全国の空き家率(%) 14.0% 13.0% 12.0% 11.0% 10.0% 9.0% H10 9.9% 11.5% 12.2% 11.2% 13.1% 13.4% 13.1% 14.3% 14.3% 13.5% H15 H20 H25 ボツイチ 空き家
©2022 Google ©2022 Airbus CNES Airbus Maxar Technologies Planet.com ©2022200 m 松橋中学校 松橋高等学校 松橋駅 国道3号線 0 総数 男性 女性
出典:内閣府「高齢者の健康に関する意識調査」 10 40.9 40.3 41.4 40.8 39.5 41.8 15.0 16.0 14.2 3.3 4.4 2.6 2030405060708090100
・増築/建て替えによる過剰建築 ・孤独を助長する"塀"害 02-3.建築的問題 増築部 二階増築 既存 直角増築 離れ増築 ブロック塀 建売住宅 76 学会コンペ|一人が独りにならないように

本提案では“ボツイチ”が、近隣住民と、外からやってくる人たちをつ なぐ役割を担う。新しい役割が生きる活力となり、新たな他者、そして これまで関係を築いてきた他者とともに第二の人生を生きていく。

04.提案:未来へのもやいなおし(ボツイチの自立と共同性の再構築)

ボツイチを起点として、マチの共同性を取り戻す、“入会畑” を用いた もやいなおし を提案する。これにより、ボツイチが新た

な他者と再び生き生きと生活していけるマチとなるとともに、循環可能なマチへと変容していく。

05.システム

様々な人々が時間場所を変えながらシステムに参入していく。

農業に精通していた地域背景を生かし、 ボツイチ は住まいの余剰な建築の壁や屋

根を取り払って布基礎を利用したシェア菜

園へと変換する。改築した小スペースの室

内空間と合わせて、趣味としての家庭菜園 や癒しのワークスペースを求めて市街地か らやってくる人たちに「週末農業セット」 として貸し出す。住まいの一部をマチへと 開くことで役割を失い、住まいの環境を悪 化させていた建築に役割を与える。

街区に点在する週末農業セットは街区

の" 入会畑 "となり住民が共同所有する。

ボツイチは畑分の面積を公に提供するこ

とで、通常時の維持・管理を地区全体で 行う。       入会畑の管理で日常的に地区住民がボ ツイチと顔を合わせることになる。

日常時の菜園等の世話を街区で協力しておこな うことで、希薄になっていたお隣さん、ご近所さ んとの繋がりを徐々に取り戻し、 ボツイチ を含め た本来のマチがもつ“もやい”を再構築する。

また、 ボツイチ は、週末やってくる人たちと、ま ちの人たちの間を取り持つ役割となる。外からの 他者も取り込んだ新たな形でもやいなおしをして いく。

地元の小学生

移住者

入会畑の管理は、普段から地区住民により共同でおこなわれる。地区の中で多数を占める仕事や子育てを 終えた、高齢者が中心となって協力し合いながら水やり、除草、害虫駆除や追肥などをおこなう。 週に1,2度週末農業に来る人たちが地区住民の輪に加わることで、まちに刺激を与えながら新たな形でも やいが再生していく。

週末農業セット 週末農業セット 週末農業セット 週末農業セット 週末農業セット ボツイチ の住まい ソトの人 減築・改築 管理 提供 時間貸 賃貸 賃料
04-1
減築、シェア菜園へ 04-2. 入会畑(共同所有)→ もやいなおし
相互扶助 入会畑
03.概念:ボツイチの役割と他者
05-1. 管理方法
平日 休日 ボツイチ 子供夫婦 ・親族
地元の中学生 先生 賃貸・時間貸 空き家バンク (行政) 医療・ 福祉関係者 補助金 余剰部屋の仲介 医療的ケア サポート 助言 街区住民
SOS減築・改築 支援 自立 共同管理 情報発信 空き家増加の防止・負担軽減 利用 食材 資金 移住 流入 サチコ(74) タツロウ(70) ミツヨ(68)マサコ(65) 施工 設計 施工 管理 提供 市街地の マンションに住む家族 地元の高校生 2拠点居住者 地元の 大学生 リモートワーカー
週末農業セット
77

06.建築操作 case1. 2階建てガレージを増築した住戸

07.建築未満の操作

case2. 1階南側と2階を増築した住戸case3. 南側半分を増築した空き家

人びとの生活が変わるにつれて、まちや家に求められる形も変わっていく。住民が主体となって、今あるも のを活かしながらまちや家を徐々に作り変えていく。

a)塀を崩してみる

b)塀を敷地に引き込む c)塀を倒してミチにする

まちの人が家や畑の様子を気にかける。

週末は来訪者のカーポートになるポケット パーク。

隣地との塀を倒すことで、お互いに行 き来しやすくなる。

気を付けていってらっしゃい 採れたてのイチゴ、おいしいよ

ここは涼しくていいなあ

準備体操っ! おじいちゃん、なんしよーと 畑の様子ば見に行こう

家に帰ってプロ野球みよう

断面図・立面図
11.街区を超えて生まれるもやい
増築部分
母屋ダイニング 母屋寝室 貸しコテージ 屋根撤去 貸し菜園 母屋ダイニング 貸し菜園 屋根撤去 母屋寝室 貸しコテージ 共用ダイニング・ キッチン (共同)ビニール栽培 屋根撤去 共用浴室
①塀を再構する…これまで他者を隔てていた塀が他者との交流を誘発する装置になる。
78 学会コンペ|一人が独りにならないように

ボツイチにとって管理が大変な庭を、

ご近所の協力のもと世話を継続していく.

e)1年草など d)既存の樹木

f)道具の活用

③家を改良していく…住居内に他者が入り込むことで、生活が大きく変わる。

まちの風景・記憶を語り継ぐものとし て、まち全体で残していく。

花植えや草むしりなどの定期的な必要のあるも のは、まち全体でイベント的におこなう。

庭いじりに使っていた農具や設備・資材 は、シェア菜園の利用者に貸し出す。

Bさんちの庭は広くて最高!

大人しい子なんですよ さあ、Aさんの畑にいくわよ

g)すだれや衝立を取り付ける i)バリアフリー化

可動のスクリーンは、気分・状況に 応じてプライバシーを調節できる。

h)デッキを取り付け(増設)す

お年寄りも世話しやすくなる.畑を囲ん

で一休みできるデッキ

必要に応じ、手すりやスロープ を増設する。

かわいいワンちゃんですね

ちょっと一休み、ここでは仕事 がはかどるわ

疲れたでしょ、ちょっと

こっちで休みなさんね

断面図・立面図 1/200
79
ミツヨさんと近所の子供たち マサコさんと入会畑
80 学会コンペ|一人が独りにならないように
タツロウさんとBBQ サチコさんも畑仕事してみる

時間の流れ

これまで

ボツイチになった これから

軸組にすることで日光を取り入れる

物置になっていた屋根裏部屋を改築

〖5年後〗

街区そして、マチの共同性が回復する。

マチのソトから、菜園を利用する他者の 流入により、"ボツイチ"の住まいを中心 として、地区のもやいが形成される。マ

チのソトの他者も取り込みながら新たな 形で復活していく。

〖10年後〗

"ボツイチ"の家の一部が世代交代を迎 える。新たな住民も既存のストックを 活かし、安価にライフスタイルに合わ せた家にカスタマイズすることができ る。

住みこなせない家で殻に閉じこもる 後処理で親族にかかる負担は大きい 最悪の場合、放置される

〖15年後〗 新たに"ボツイチ"になった人たちも、 同様に新たな他者を受け入れることが できる。また、これまでの経験を活か

してシェア畑農業以外にもそこで新た な商いを初めてみることもできる。

新しい他者と繋がるきっかけになる

もやいなおしにより、遠くの親戚ではなく、 近くの他人にスムーズに受け継がれる

10.未来:持続可能な住宅地へ
630 3,048 1,942 1,003
09.断面操作 布基礎畑 GL+630 GL±0
a-a'詳細断面図
既存の屋根
日光 貸しコテージへ はしご階段を常設仕様に ふれあいのデッキ ボツイチのリビング 手摺 GL+3,680 GL+5,680 GL+6,680 ← ← 81

水彩画個展 @ 赤坂(福岡) 1年2月

Construction Festival @同済 2年6月 小学校・新人戦|十人十空間 3年7月 集合住宅|共寄生の住宅 3年10月

PNU Winter Workshop|Cap/Nature 3年2月

玉善住宅コンペ|部屋以上離れ未満 1年5月

学会コンペ|一人が独りにならないように 1年5月

複合施設|LANDeSCAPE 3年1月 学会技術コンペ|市街地網状脈 4年5月
自主制作アニメーション|Ignorance 3年12月 「Cap/Nature」3位獲得
卒業設計|TOKYO” 4年
82 Extra

一 年生から活動に参加している「糸島空き家プロ ジェクト」は、九州大学の位置する糸島半島の古 民家・空き家を改修するサークルである。施主さんと のコンタクト、基本設計、材料調達、施工まで学生の 手によって運営している。

施工事例:

⌂まえばる荘(木造2階建て一軒屋→食事つきシェアハウス)

⌂元岡学び家(築140年の古民家→学習塾)

⌂がやがや門 (築130年の長屋門→コワーキングスペースのあるカフェ)

⌂シノハウス (築30年の木造賃貸住宅2F→カスタマイズ可能なシェアハウス)

83

自主制作アニメーション「Ignorace」

学内発表

個人制作

絵を描くことが好きだった主人公が、次第に絵を描けなくなっていく話。 絵について多くを知ってしまったことが彼から鑑賞をいう行為を奪う。

知識を得ることの是非を問う。 フルCG、2 分20 秒の映像作品。

88 Extra | 自主制作
89

綺麗、美しい、圧倒される、などといった感情を受け取りてが引き起こすように、 作り手は意識して作品の中に仕掛けを隠すが、 綺麗、美しい、圧倒される、そう感じる理由がわかってしまったらどうだろうか。 作り手側の意図が手に取るように分かり、観る作品聴く作品が全て「自分の作品 を良くする」手本になってしまい、受け取り手がら「鑑賞」という行為を奪う。 テーマは「知ること」。知っていることが増えることは本当に幸福なのかとう問 いを投げかけたい。

主人公(手のみの登場)は幼い頃から絵を描くことが好きであった。

ままごとと同じぐらい絵を描くこと観ることを好み、成長するにつれて壁には展覧会のチケット やポスターカード、自分の絵が増えていった。

しかしある日を境に絵を描けなくなってしまう。

机にはネリネと共一通の手紙が残された。

90 Extra | 自主制作

床で自由に絵をかく幼少期と、展覧会の帰りにポストカードとチケットを飾る青年期。

91

絵を描き続けていると部屋に賞状が増え、遊び道具が減っていった。

壁にかかる絵はいつしか壁を埋めつくすほどになった。

92 Extra | 自主制作

幼少期の絵を見返している様子。 「知らない」「見えていない」ゆえに描けることがあるとこに気づく。 手元のスケッチブックの多さが沢山絵を描いてきたことを物語っている。

93
94 Extra | 自主制作
何気ない日常にも「知っている」ことから情報が溢 れてしまう。鑑賞の行為を奪われる。
95
ネリネの花言葉は、また会う日まで。 冒頭のシーン。

PNU Winter Workshop「Capture/Nature」

PNU Winter Workshop 3rd

Theme:"Cinema Paradise"

Inventing the Natural and Harmonious Cinema Paradise Places in the Bolognetta, Palermo, Sicily. テーマ:"シネマパラダイス"

シチリア島パレルモのボロネッタに、自然で調和のとれたシネマパラダイスを創り出す。

自然に囲まれた敷地に、映画の文脈を反映させた散策できるパビリオンを設計。

96 Extra | PNU Winter Workshop
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We installed various frames to capture the beautiful nature in the site. From there, new nature is focused and new stories are given.

Let's show what kind of course you walk.

When you enter the building so that you can be naturally invited, your story begins.

First of all, there is a conference room filled with fresh air.

Then, you feel the magnificent waterfall with the sound and observe the rock surface that rises next to it.

After that, please heal your daily fatigue in the lodge.

Finally, let’s forget dairy life in a new type of theater inside the cave.

98 Extra | PNU Winter Workshop
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100 Extra | PNU Winter Workshop
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2021.7.24初版 2021.9.3 第2版 2022.11.7 第3版

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