2023年度 札幌市立大学大学院 デザイン研究科デザイン専攻 博士前期課程 修了制作報告書
樹木の再盛
芸術の森キャンパスで伐採された樹木を用いた休憩施設の木質化
The Second Peak Season of Trees
Wooden Renovation of Pavilion Using Harvested Trees in Geijutsu-no-mori Campus
人間空間デザイン分野 2262002
伊藤 冠介
指導教員 金子 晋也
1.研究背景
1-1.森林と未利用材
建築用材には、住宅に頻繁に用いるサイズを大量に生産・流通させた「一般流通材」が 用いられる1)。北海道では、戦後に植林されたトドマツやカラマツが50年を経て活用期を 迎え、その活用方法が模索されている2)。北海道産のトドマツを加工したCLT工法の実践事 例もあり、新技術への適応もみられる3)。一般流通材には林業により生産された主伐材が 用いられるが、近年では生産過程で生まれた「間伐材」4)を活用した様々な事例もみられ る。加えて、後に一般流通材へと加工される主伐の過程で生まれる根元・欠点材・末木・ 枝条などの製材不可能な部分にあたる「林地未利用材」を、薪・チップ・ペレット等に加 工した上で「木質バイオマス」として有効活用する工場や施設も、ここ数年で急激に増加 している5)。木質バイオマスは、ストーブやボイラーなどで直接燃焼させることで暖房や 給湯に利用され、近年では木質バイオマスを活用した発電所も稼動している。このように
森林では、林業を通じて未利用材の積極的な利活用が取り組まれている(図1-1)。
1-2.都市と未利用材
都市では製材工場での製材過程や、建設現場での建設・解体において未利用材が発生す るが、それぞれ製紙原料・燃料・家畜敷料、燃料・木質ボードとして利用されている5)。
その一方で、都市では近年の気象災害の深刻化による倒木の発生や街路樹の維持管理を 通して、多くの樹木が伐採されている。街路樹は維持管理の際に、幹の傾斜・病虫害・腐 朽・亀裂等が見受けられると危険木として抽出され、著しく危険なものは伐採される6)(図 1-1)。また、道路交通の安全性・快適性など、環境整備として伐採される場合もある。
森林
循環 (林業による樹木)
都市
非循環 (街路樹・伐採樹木)
※5.適切な植栽と伐採を繰り返す
樹皮・背板 構造材・家具材 (製材工場) (建設現場)
図1-1 森林の樹木の循環と都市の樹木の非循環
同様に、公園や大学など大規模な緑地を有する公共空間においても、防災や環境整備の 観点から伐採される樹木は多い。しかしこれらの樹木の大半は廃棄されてしまい、たとえ 巨木であっても不要なものとして扱われ、未活用のままである(表1-1)。
表1-1 未利用材の分類と特性
対象 材の品質 製材可否 用途
間伐材 丸太
伐採樹木
丸太
発生理由
間伐
一般流通材 ※�
製材工場端材
丸太
林地未利用材 根元・欠点材 ・末木・枝条 樹皮・背板 ・木屑 構造材・家具材
安全性・快適性 ・環境整備 主伐
主伐・間伐
(以下参考)
可能 可能 可能
建設発生木材
本研究での対象
製材 建設・解体
不可能 不可能
場合による
良い
基本的にやや悪い
悪い-
非常に良い
木質バイオマス
製材 廃棄・ 木質バイオマス 製材
製紙原料・燃料 ・家畜敷料 木質バイオマス ・木質ボード
※� 一般流通材は未利用材ではないが、ここでは比較の対象として提示している。
未活用の要因には、コストと材質の2点が大きく関わると考えられる。コストについて は、「木質バイオマス」として資源化することで有価物へと生まれ変わらせることも可能 であることから、処分または加工や運搬に係る費用は回収が可能である7)。これらの樹木 の活用の大きな障壁となっているのは、その材質にあると考えられる。一般的に木材で良 質とされる条件としては、樹形が良いことや節が少ないこと、虫食いや傷みが少ないこと 等があげられる。これらの樹木は木材としての利用を想定していないため、樹種や大きさ は様々で、節や曲がりといった欠点も多く見られる。
一見価値のないように思われるこれらの都市部で伐採される樹木を、本研究では「木材 資源」としてプラスと捉え、デザイン学の知見を通じて製材を通して活用することを試み る(図1-2)。これにより、さらなる環境意識の高まりや、資源の有効活用に対する示唆が 得られると考える。このような取り組みは、近年着目される「クリエイティブリユース」 のように、社会的な観点からも重要と考える8) 。
なお本研究では「安全性・快適性や環境整備の点から伐採された後に廃棄の対象とされ た樹木」を、「伐採樹木」と呼ぶこととする。
製材可能
製材不可能
製材可能
製材不可能
製材可能
都市
樹皮・背板 (製材工場)
構造材・家具材 (建設現場)
製材 製材市場 へ 製材
資源化 資源化 廃棄, ( 資源化 )
(木材)
※本研究で実践するルート 従来のルート
本研究の対象
資源化
製材不可能
製材不可能 資源化
製材不可能 資源化
1-3.芸術の森キャンパスでの樹木の伐採
設備 へ (工場・施設)
(薪・チップ・ペレット)
2023年3月9日から3月15日にかけて、芸術の森キャンパス敷地内のアリーナ横と並木道 の2箇所で、樹木の伐採が行われた(図1-3)。アリーナ横では、倒木により学生や来訪客等 へ危害を及ぼす恐れや、施設を破壊する恐れのある樹木が対象とされた。並木道では、環 境整備の観点から間伐に近い形で伐採の対象とする樹木が決定された9)。
アリーナ横では倒木の危険性からニオイヒバ・トドマツが、並木道ではキャンパス内の 環境整備という側面からトドマツ・カラマツが対象とされ、3樹種・計38本が伐採された 10)。丸太は薪として使用する他に用途が無く、廃棄物となっていた。

2.研究目的・先行事例
2-1.研究目的:キャンパス伐採樹木の木質化を通じた活用の実践
以上の背景を踏まえ本制作の目的は、屋外休憩施設の木質化を通じて、芸術の森キャン パスの伐採樹木の製材を通した活用の実践と、知見(現場の知)を明確にすることとする。
ここでの知見とは、従来の実践で明確化されにくい現場の知を明らかにし、プロセスと共 に記述、さらに制作へと反映することを指している。主要な内容は以下の通りである。
(1)キャンパスでの伐採樹木の製材活用の実践
(2)什器制作を通じた木質化による伐採樹木の活用
(3)現場の知を明確化、記述、制作へ反映する
都市で発生する伐採樹木の活用は、環境形成(景観など)を目的とした都市森林に対して 第二の目的を与えることを意義としている。長期的に景観を形成した後に伐採され、目的 を達成したため廃棄される現状がある。このような現状に対してその後の活用を考えるこ
とは、今ある資源を有効に活用するクリエイティブリユースの観点からも重要であると考 える。林業で主伐材・間伐材だけではなく未利用材を含めた積極的な循環が実践されつつ ある今、私たちの広大な生活圏にあたる都市においても伐採樹木のような未利用材の循環 を実践することは、社会的にも意義があると言えるのではないだろうか。
本制作では、芸術の森キャンパスにおける伐採樹木を用いた。山地と隣接した敷地の特 性から森林とも近似するが、私たちの生活圏の一部、広大な緑地を有する公共空間として 都市の分類と捉えている。前述の都市の未利用材の循環の実践という側面に加え、大学と いう空間において発生した樹木のルーツを継承し大学へ木質化という形で還元するとい う、「地産地消」的な取り組みとしての側面があると考えている。今回は休憩施設を対象 地として、伐採樹木を学生や地域住民が利用できる什器として活用することで、その意義 を見出そうと考えた。
2-2.《森とまちをつなげる家具》竹中工務店+河野銘木店 《森とまちをつなげる家具》は、札幌の森で育てられた間伐材を市内の製材工場で加工 し、身近なデジタル技術や手仕事と掛け合わせることで制作された家具である11) (図 2-1)。小さなサプライチェーンで、1本1本異なる木の個性に価値を見いだす地域に根差し たものづくりを実践した例である。天然木の原板を用いたテーブルでは、腐食部分の空洞 にレジン(樹脂)を流し込むことで天板としている。制作で生まれた端材を用いたテーブル
では、端材の形状をパズルのように組み合わせることで、ちぎりを使用せずに一枚の天板 へと加工している。木の個性とも言える素材的特性をデザインへ落とし込むための手法と しての知見を得た。
2-3.《交流型学生レジデンス1F共用部プロジェクト》ヒダクマ+株式会社船場+ 東急不動産株式会社
《交流型学生レジデンス1F共用部プロジェクト》は、東急不動産株式会社が開発した、
交流型学生レジデンス「キャンパスヴィレッジ大阪近大前」の1F共用部向けの家具である 12)(図2-1)。地球環境や社会との調和に配慮した消費や製品を指す「エシカルデザイン」 を共用部に実装している。本プロジェクトでは関係者が一体となり、関係者と森や地域と の関わり合いの中で制作を進めている。また、テクノロジーを駆使することで木の多様な 魅力を引き出すことも重視されている。トチの木の枝分かれを脚として使用したテーブル には、スキャン技術や3Dデータを使った設計手法を用いることで木が持つ固有形状を家具 に反映しており、具体的にデジタルデータを活用することでデザインへ落とし込むための 知見を得た。

3.研究方法・対象地
3-1.研究方法:木質化による伐採樹木の利活用
木質化とは、建築物の新築、増築、改築又は模様替にあたり内・外装に木材を利用する ことを指す13)。北海道ではHOKKAIDO WOODや、 道庁本庁舎エントランスホールの木質化な ど、官民で道産材の利用拡大に取り組んでいる。特に内装の木質化では、木材の持つ心理 的・身体的なストレス緩和効果から、利用者の滞在時間を延ばすとされている。
木質化においても通常では一般流通材・間伐材が利用されるが、本制作では芸術の森 キャンパスで発生した伐採樹木を用いたクリエイティブリユース14)を試みる。元のモノか ら創造的に価値を高める「アップサイクル」に対して、本制作では伐採樹木本来が持つ木 材資源としての価値を重視することから「クリエイティブリユース」と呼ぶこととした。
3-2.対象地:屋外休憩施設
本学の開学10周年を記念し、2017年にB棟の東側に建設された木造平屋建ての休憩施 設がある(図3-1)。現状は東屋としての機能を持つが、学部授業の「家具インテリアデザ イン」の講義課題を通して制作された17脚スツールの展示場所としての利用に留まる。
本制作では、伐採地点の並木道に近く、学生によるさらなる空間の活用が求められる休 憩施設を対象地として木質化を行うこととした。なお、休憩施設の建築や周辺環境の詳細 に関しては、調査の項目で述べる。

4.制作報告1:調査・設計・プレゼンテーション・各種加工・測定
4-1.制作の条件
本制作では、憩施設の建築躯体に手を加えられないことから、建築の構造体から独立し た什器による木質化とした。また、什器の制作に用いる伐採樹木の材質は様々であり、制
作後に大きな割れや反りが生じる可能性があるため、材(パーツ)の作り変えによって使い 続けることが可能な設計を重視した。制作にあたり、以下3つの条件を定めた。
(1)主要な素材は伐採樹木を製材したものとする
(2)建築と独立した構造で材の作り変えが可能とする
(3)素材的特性を活かしたデザイン要素を組み込む
また、2022年11月から2024年1月に渡る、制作の日時・場所・工程を示したスケジュール 表を以下に示す(表4-1)。
表4-1 本制作研究におけるスケジュール表
銘木店 [河野銘木店] 製材所 製材 [北見木材株式会社] 視察 [木の種社] 木工室 保管場所 [木工室前] 展示場 [H棟中央] C棟横 伐採地点1 [アリーナ横] 伐採地点2 [並木道] 休憩施設
● 伐採予定との情報を得る 2022.11
● 樹木 伐採 03.09-03.15
● 伐採樹木 調査 05.01-
● 選別 [丸太13本] 06.05
● 搬出 [アリーナ横:3本] 07.12
● 移動 [並木道:10本] 08.04
● 皮剥き [並木道:10本] 08.15-08.21
● 搬出 [並木道:10本] 08.25
●搬入 [製材済木材] 09.27
● 含水率 測定 10.03-12.25
● 休憩施設 調査 04.01
● 基本設計 [什器15点] 06.29
● 什器 制作 10.10-12.04
● 什器 施工 12.05
● 什器 展示 12.05-12.15
● 製材所 視察 [木の種社] 05.14
● プレゼンテーション 07.21 [銘木店M氏/工務店F氏]
● 皮剥き [アリーナ横:3本] 08.17
● 製材 [丸太13本] 09.20
● 作品展示場 制作 12.01-01.25
4-2.伐採樹木の調査・選別
伐採樹木について、現地調査を行った。下記の表に調査項目を示す(表4-2)。
はじめにアリーナ横の伐採地点周囲5m程度と並木道全体で、切り株を元に伐採された個 体数・樹種・直径・残された樹木との位置関係を全て記録した。伐採された個体数はア リーナ横でニオイヒバとトドマツ各1本、並木道でトドマツ19本、カラマツ17本の計38本 であった(図4-1)。
表4-2 伐採樹木の属性
個体数 伐採地点 丸太全長 (min./max.)
丸太直径 (min./max.)
丸太本数 ニオイヒバ アリーナ横
トドマツ
アリーナ横
トドマツ 並木道
カラマツ
並木道
- 合計
本研究での対象
� 本
� 本
�� 本
�� 本
���mm-���mm
���mm-���mm
���mm-���mm
���mm-���mm
���mm-�,���mm
�,���mm-�,���mm
�,���mm-�,���mm
���mm-�,���mm
� 本
� 本
�� 本
約 ��� 本
�� 本 - - 約 ��� 本

図4-1 伐採樹木の丸太(上:アリーナ横/下:並木道) 続いて同じ場所で、丸太を元に直径・全長・本数を記録した。なお、アリーナ横の2樹 種の丸太に関しては本数が少ないため個々にサイズの計測を行い、並木道の2樹種の丸太 に関してはランダムにサンプル抽出を行いサイズを計測した。丸太の本数はアリーナ横で ニオイヒバ6本、トドマツ5本、並木道でトドマツ75本、カラマツ約160本の計246本程度で あった。丸太の直径は300mm程度のものが大半を占めるが、アリーナ横のトドマツは根本 の切り株部分で直径1,000mmの巨木であった。このトドマツは樹齢100年以上のものである ことがわかった14)。運搬から製材まで携わっていただいた河野銘木店の宮島氏は、「原生 林においてもこれほど大きなトドマツは既に伐採され尽くしており、見たことが無い」と 話しており、非常に希少価値の高い個体であることが分かった。丸太の全長は3,000mm程 度で切断されているものが多いことがわかった。
2023年6月5日に、調査した丸太の中からニオイヒバ(アリーナ横)3本、トドマツ(並木道)
10本の、2樹種・計13本の丸太を選別し、管理している大学施設担当者から譲り受けた。
ここでは、製材において十分な長さ(2.0m-2.5m以上)と径(300mm以上)を保っており、外見 上で腐朽などが見られないものを選別した。以後、伐採樹木を製材したうえで什器制作の 主要な素材として用いる。
なお、トドマツ(アリーナ横)とカラマツ(並木道)は選別の対象外とした。トドマツ(ア リーナ横)は大径木としての希少価値が高いため、小型の什器の制作では巨木の価値を発 揮することが出来ないと考えた。カラマツ(並木道)は製材において丸太の固定に必要な最 低長さの1.8mを上回る丸太が存在しないためである。大学工房での加工も、固定方法が難 しく事故となる可能性があったため、今回は制作に使用しないこととした。
また、今回使用するニオイヒバ(アリーナ横)とトドマツ(並木道)の13本の丸太以外の選 別の対象外とした丸太については、地域住民が薪として利用している事を確認した。伐採
地点に残る約200本の丸太は等、木質ペレットとしての利用等で収益化が可能である。
4-3.休憩施設の調査
本制作の対象地とする休憩施設は2017年に建設された。設計は当時の羽深久夫教授の助 言を元に、学内コンペティションにて選出された本学6期生の畠山慎吾氏が行った。ま
た、武部建設株式会社が実施図面を作成している16)。調査を行い、当時の図面と比較して 一部修正が見受けられ、建築と周辺の実測を行い修正版図面を作成した(図4-2,表4-3)。

所在地
用途
設計
建設年
建築面積
表4-3 札幌市立大学 10周年記念 休憩施設の建築データ
札幌市立大学 芸術の森キャンパス B棟東側
休憩施設
畠山慎吾, 武部建設
����年
��.���m�
階数 構造 柱材 梁材 垂木材
地上�階 木造
ヒバ集成材(���mm×���mm)
WW集成材(���mm×���mm)
SPF材(��mm×���mm)
調査は、2023年4月1日より1ヶ月程度、現地での写真撮影・寸法計測・長時間滞在(観 察)を通じて行った。休憩施設は1,820mm×2,730mmの基準寸法となるスパンが、東西・南北 に、各3×3スパン連続する木造である。東西方向が短手方向であり南北方向が長手方向と なっている。また東方向と西方向では、それぞれ幅300mmと900mmのキャンチスラブとなっ
ている。結果として8,270mm×6,670mmの土間空間が生まれている。また西寄りの2×3スパ ンが鋼製ターンバックルブレースでコの字形に囲われたひとつの空間とされている。
周辺環境として、東は、水路を挟んで石山3号線が南北方向に走る。西は、木々や植栽 を挟みB棟が位置する。南は、幅:約14m、奥行き:約33mの茂みが存在する。北は、A棟・B棟間
の地下通路から伸びる遊歩道が石山3号線へ接続する。地形は南から北へかけて約3度の下 り勾配となり、同時に西から東へかけて約1度の下り勾配となっている。
構造体に関して、柱はヒバ集成材(105mm×105mm)、梁はWW集成材(105mm×150mm)、垂木は SPF材(38mm×235mm,2×10 )を使用している。また、屋根勾配は1/150であり、接合にはM12 ボルトが使用されている。柱脚金物と接合するブレース端部金物には、四分円形の特注品 が使用されている(図4-3)。
4-4.基本設計
2023年6月29日に、什器の基本設計を行った。休憩施設のさらなる空間の活用に必要 と考えられる、9種類の什器を設計した。学生のための屋外空間としてアプローチ階段・ フローリング・パーテーション・テーブル・スツール・ベンチ・間仕切り・シーリングラ イト・バードハウスを設計した(図4-4)。

図4-3 特注のブレース端部金物 図4-4 什器の基本設計
4-5.プレゼンテーション
2023年7月21日に河野銘木店にて、宮島弘之氏(河野銘木店)と藤田純也氏(竹中工務店) の2名へ、現段階での基本設計を元にプレゼンテーションを行い、制作を検討している什 器の設計について意見を伺った。今回使用する伐採樹木は、内部の腐食の可能性も考えら れたため、製材後に実際の材を見ながら設計を進めることが望ましいと助言いただいた。 設計が先行してしまうと、材の特性と齟齬が生まれてしまうため原木の個性を見極めなが ら設計・制作を同時に進めてゆくことの重要性について指摘頂いた。家具デザイナーの ジョージ・ナカシマ氏は、「その樹幹から美と効用に満ちた形を作り出してやらねばなら ない。だがその樹幹の、その内に秘め備えている究極的な形態はわからない。(中略)それは 探し続けられなければならない」17)と原木の個性を見極める重要性について述べている。
4-6.皮剥き
2023年8月15日より、選別していた13本の丸太の「皮剥き」をなった(図4-5,6)。丸太の 小口面から「バール」を差し込み「ハンマー」で打ち付けることで手作業にて皮を剥いて いく。手作業で行うことで木肌を傷つけずに皮剥きを行うことができ、また1本1本の木の 個性をじっくりと観察することができる。1本あたり1-2時間ほどかかるため、数日間に 渡って作業を行なった。


図4-5 バールを用いた皮剥き 図4-6 皮を剥いた丸太
4-7.搬出
2023年7月12日にアリーナ横の丸太の「搬出」を行なった(図1-10)。ユニック車にてベル トを巻きつけた丸太を引き上げ、荷台へ積載した。この際、クレーンの設備によって吊り 荷の重量が測定できるが、大きな丸太では400kg-500kg程度の重さが確認できた。
並木道では、遊歩道でのアウトリガーの展開が出来ないため、石山3号線の道路上から 丸太を吊り上げてC棟横へ一度丸太を「仮搬出」した。C棟横にて皮剥きを行なった上で 2023年8月25日に「搬出」を行なった(図4-7)。13本の丸太は手稲区にある北見木材株式会 社の製材所へ保管された。

4-8.製材
2023年9月20日に、北見木材株式会社の製材所にて「製材」を行なった。製材は北見社 長に自ら行っていただいた。ここでは製材の工程を解説する。
はじめに、屋外に保管されていた13本の丸太をフォークリフトにて製材機横の「ベルト コンベア送り機」の上に積載していく(図4-8,9)。この機械では自動送材車までベルトを 回転させ、丸太を1本ずつ送り出す機能がある。同時にベルト上から起き上がるような複 数のストッパー装置が備え付けられており、上下するストッパーとベルトの回転を用い て、任意の方向に丸太自体を回転させるこが可能である。節の多い箇所など製材に不向き な面を最初に捨て切りするため、手前側へと回転させておく。


図4-8 フォークリフトでの運搬 図4-9 ベルトコンベア送り機の上の丸太 製材所で使用されていた製材機は「自動送材車付き帯のこ盤」と呼ばれる種類のもので ある。丸太を自動送材車に載せ、遠隔操作により車を往復させることでその先にある帯の こを用いて縦びき切断するという仕組みである(図4-10,11)。自動送材車はトロッコのよ うなもので線路上を往復する。線路の先では車の進行方向左側に車の端よりも僅かに外側 に帯のこがセットされており、車からはみ出した材が通過と共に刃によって切断される。


図4-10 自動送材車 図4-11 車を遠隔操作するパネル部 前述の「ベルトコンベア送り機」の先端は自動送材車に直結しており、丸太は車の上に 転がり落ちるようになっている。車には丸太の前後中の3箇所を固定するためのピン装置 が備え付けられている。このピンは丸太に差し込むことで車の上で丸太が動かないように 固定するとともに、丸太を車の進行方向左側に1mm単位で押し出し移動させることができ るようになっている。切り出す材の厚み分、ピンによって丸太の左側面を押し出すことで
切断する。なお、レーザー装置によって切断面(押し出し分)が丸太へ赤く照射されるよう になっている(図4-12,13)。


図4-12 レーザー照射(丸太側面) 図4-13 レーザー照射(小口面)
丸太の位置を確定し、自動送材車を走らせる。その先の帯のこ盤によって縦びき切断さ れる(図4-14)。切断された材はその先の「ベルトコンベア送り機」上に落下するように なっており、板材とする場合は手作業で回収する(図4-15)。


図4-14 帯のこ盤による縦びき切断 図4-15 手作業での板材の回収
角材を切り出す場合は。小口面を90度回転させて再度切断するため、手作業にて車上へ 材を載せてスタート位置へ送り返す(図4-16)。切断された材の表面は非常に荒い(図 4-17)。


図4-16 角材を切断する様子 図4-17 切断された表面 切断では、材を送り出す際に切り出し寸法の墨付け(メモ)をチョークによって書き出 し、機械を操作する北見社長へ指示する(図4-18,19)。これは帯のこ盤の稼働音が非常に 大きく機械付近での会話が困難なためである。今回は休憩施設の建築に用いられている材 の寸法を中心に、角材は45mm×45mm・105mm×105mmを、板材は厚さ21mm・30mm・45mm・ 50mm・60mm・105mmを加工していただいた。


図4-18 チョークによる墨付け 図4-19 105mm幅での切断指示
手作業で回収した材は、フォークリフトで屋外へ搬出される(図4-20,21)。製材所では 切断をはじめとした加工自体は機械が行うものの、人の手で行われる熟練の作業が非常に 多く見受けられた。製材に立ち会っていただいた宮島氏の「機械は国産メーカーが製造し た古いものを今でも使い続けて職人の手は欠かせなかったり、昔なからずっと同じ方法で 現代も変わらず製材所は動き続けている」という言葉には非常に感激し、納得した。
なお、製材の工程では板材を製材した際の背板や、角材を製材した際の耳など、多くの 副産物が生まれる。製材での歩留まりは6割と言われているため、4割に当たる副産物も1 つも残すことなく回収させていただいた。本制作では、意図せずに生まれたこのような副 産物も積極的に使用することとする。


図4-20 手作業での材の移動 図4-21 フォークリフトへの積載 運び出された材は一度屋外で寸法によって仕分けがなされ、PPバンド(荷締めバンド)で 固定されたのち、フォークリフトでトラックへ積載され運び出される(図4-22,23)。


図4-22 仕分け後の材 図4-23 トラックへの積載
4-9.搬入
2023年9月27日に、製材した材の大学への「搬入」を行なった。トラックから休憩施設 内へ荷下ろしすると共に、木材の天然乾燥の工程を兼ねて桟木を挟み込むことで保管した (図4-24,25)。桟木は材の間に挟む木材のことで、間隔を設けることで風が通りやすくな り、材の表面からの水分蒸発を促す(乾燥)。木材は自重以上の水分を持ち合わせているこ ともあり、乾燥の工程では全体としての水分量(含水率と呼ぶ)を落とし、かつ材の部分ご との水分量を均一にする役割がある。天然乾燥では屋外に半年から1年程度保管すること
で、周囲の環境と含水率が平衡するとされている。本制作では制作の可能な期間で乾燥の 工程を行うこととした。そのため、什器の各所が破損した場合には、パーツの作り変えが 可能で長期的に使用できるような設計とした。


図4-24 トラックによる搬入 図4-25 休憩施設への保管 2023年10月2日に什器の制作作業に入るため樹種と寸法による仕分けを行った(図4-26)。
下記に材の寸法と材数を示す(表4-3)。同時に全ての材を休憩施設から木工室前の通路へ 移動させ、ブルーシートにて覆うことで雨から材を保護した(図4-27)。


図4-26 樹種と寸法による仕分け 図4-27 木工室前の通路への保管 表4-3 製材した材の寸法と材数
トドマツ
ニオイヒバ
4-10.含水率測定
2023年10月3日から2023年12月25日にかけての3ヶ月間で含水率の測定を行った。週に1度 材の8箇所を測定し、12日間計96回分のデータを取得した。対象としたのはトドマツの原 板(t=30mm)と角材(45mm×45mm)、ニオイヒバの原板(t=30mm)と角材(45mm×45mm)の4種類の 材で、それぞれ材の端部と中央部での含水率を測定しているため計8箇所の測定となる。
測定はKETT社製のMT-900(木材水分計)を使用した。測定結果を下記にグラフで示す(表 4-4)。
表4-4 含水率の推移(上:トドマツ/下:ニオイヒバ)
含水率の推移(トドマツ・原板t=��mm)
含水率の推移(ニオイヒバ・原板t=��mm)
(スムージング)
それぞれの材の端部と中央部での含水率の結果の平均値をスムージングしたものを太線 と塗りで表している。木材がある温度と湿度の環境に置かれると、その環境とバランスが とれた含水率になり安定する。この値を「平衡含水率」と呼び、その日の天候の気温と湿 度により変化する。基本的にこの値よりも含水率は低下しないため、平衡含水率に達した 時点で乾燥の工程を終えたと言える。この値は平衡含水率表から求めることができ、各測 定日の平衡含水率を横線で示している。日本では8%-12%が平衡含水率とされる。
測定開始日は製材から13日目にあたるが、ここでは22%-24%程度の含水率となっており この日の平衡含水率は約10.5%であることから、材としての水分量がかなり多いことがわ かる。3ヶ月で見るとトドマツは値の変化が激しく低下の角度もニオイヒバよりも急勾配 である。一方でニオイヒバは安定して緩やかな低下を描いている。最終的にトドマツは 14%程度まで低下し、ニオイヒバは16%程度まで低下した。論文執筆とデータ整理の都合 上、12月25日で測定は打ち切りとした。
3ヶ月間で平衡含水率までは到達しなかったものの、ある程度材の縮小を完了させ、使 用可能な材へと変化させることができたと言える。また、グラフの低下率から2024年2月 上旬頃には平衡含水率に達し乾燥の工程を終えることができると推測する。
5.制作報告2:作品について
5-1.《樹木の再盛》
本制作研究では、9種類計12点の什器群による休憩施設の木質化を行い、《樹木の再 盛》と名付けた(図5-1)。タイトルには、景観等の環境形成を目的として植えられた木々 が、本制作の製材を通じた什器として第二の目的を与えることで、再び生きるという意味 を込めている。具体的に制作した什器の内容について平面図と共に記す(図5-2)。
図中の什器01〜什器05は、基本設計で提案した15種類の什器を元に制作した(図5-2)。具
体的には対象者を学生や地域住民とし、対象地とした休憩施設の内部でどのような行動が 想定されるか改めて検討を重ねた。その結果、制作などの作業、学生間での会議、あるい は休息・交流の場としての用途が想定された。このような用途に見合う什器を基本設計か ら5種類ピックアップし、設計のブラッシュアップと制作を同時並行で行った。また、製 材時の副産物や制作での端材などを用いて、追加で什器06〜什器09を制作した(図5-2)。
什器は北側から南側にかけて、複数人で利用する空間から個人で利用する空間へ変化す るゾーニングを意図し、配置計画を行なった。素材には主に本学での伐採樹木を製材した ものを用い、全ての什器に材の特質を活かしたデザイン要素を組み込んだ。

A- 基本設計よりピックアップし、 設計をブラッシュアップした什器
B- 副産物(背板・耳)や端材を用い、 追加で制作した什器
什器��《Approach Stairs for Pavilion》
什器��《Flooring for Pavilion》
什器��《Louver for Pavilion》
什器��《Table for Pavilion》
什器��《Stool for Pavilion》
什器��《Ceiling Light for Pavilion》
什器��《Birdhouse for Pavilion》
什器��《Table Tray for Pavilion》
什器��《Bookstand for Pavilion》
Turnbuckle Brace [X-1]
Turnbuckle Brace [Y-1]
Turnbuckle Brace [X-2]
×� 点 ×� 点 ×� 点 ×� 点
×� 点
×� 点 ×� 点
×� 点 ×� 点
Turnbuckle Brace [Y-2]
furniture(��). 《Flooring for Pavilion》
furniture(��). 《Ceiling Light for Pavilion》
Turnbuckle Brace [Y-3]
furniture(��). 《Louver for Pavilion》
Turnbuckle Brace [X-3]
furniture(��). 《Approach Stairs for Pavilion》
furniture(��). 《Bookstand for Pavilion》
furniture(��). 《Table for Pavilion》
furniture(��). 《Stool for Pavilion》
furniture(��). 《Birdhouse for Pavilion》
Turnbuckle Brace [X-4]
Turnbuckle Brace [Y-4]
休憩施設 平面図(什器あり)
furniture(��). 《Table Tray for Pavilion》
5-2.《Approach Stairs for Pavilion》
5-2-1.コンセプト
北面に位置する、地盤面と床面の600-800mm程度の高低差を繋げるためのアプローチ階 段(図5-3)。計4段で構成され、各段でトドマツとニオイヒバの耳18)付き原板(t=30mm)の オープン踏板が向かい合うデザインとした。A棟・B棟間の地下通路から伸びる歩道より、 休憩施設内部へ直接的にアクセスする経路として設けた什器である。

素材:SPF材(45x60), トドマツ原板(t=30mm), アルミ平棒(t=2), M12ボルト+ナット+ワッシャー 寸法:W 910mm × D 1,815mm × H 730mm 段数:4段 踏面/蹴上:480mm/180mm 制作期間:1週間
5-2-2.設計について
アプローチ階段の設計では、まず始めに設置場所の検討を行なった。制作前より、休憩 施設北面には学生によって仮設的な階段が設置されていたが、木材の腐敗によって踏み板 にたわみが生じ危険な状態であったため、解体・撤去した。
休憩施設の設計当初は、内部へのアプローチとして地盤面と床面の高低差が数cmである ことから、B棟側の西面からの出入りを想定していたと思われる。しかしながら現在の休 憩施設周辺の学生をはじめとする人の流れは、A棟・B棟間の地下通路とC棟へ向かう石山3 号線とを結ぶ遊歩道上の人の流れが主である。また、犬の散歩などで通りかかる地域住民 も、石山3号線から最短ルートで北面から休憩施設内へ立ち入っていることが確認され た。以上より、北面から休憩施設内へ利用者をアプローチすることが適切であると考え
た。最終的に北面の西側にはターンバックルブレースがX状に設置されているため、北面 の東側にアプローチ階段を設置することとした(図5-4)。
石山�号線
遊歩道
アプローチ階段の設置場所(北面)▶
↓A棟・B棟へ
▲設計当初の出入口(西面)
図5-4 休憩施設周辺の位置関係と設置場所
設計にあたり、胴縁(18mm×45mm×910mm)を用いて仮設的なフレームを制作し、地盤面と
休憩施設の床面との高低差を測定した(図5-5)。続いて全体の寸法の検討に入る。蹴上は
一般的な階段の180mmとし、踏面は480mmと一般的な階段の約2倍とすることで、地盤面の傾 斜からゆるやかに上り下り可能な傾斜角を意図した。製材後に露わになった双方の赤身や 白太の色味の美しさの違いを最大限に活かすために2樹種による踏み板へ設計変更した。 また、階段の幅は設置場所の柱割り(1,820mm)の半分の910mmとした。

図5-5 高低差を測定するための仮設的なフレーム
5-2-3.素材について
以上の測定結果と寸法から、計4段のアプローチ階段を設計した。踏み板は一定の強度 が確保できることからトドマツとニオイヒバの耳付き原板(t=30mm)を使用することとし た。また、踏み板の下地となる構造体は、地面との接地面からの腐朽や上り下りに対する
強度を要するため、市販のSPF材19)(断面寸法:45mm×60mm)を使用した。なお、僅かな地盤
面のレベル差を解消するためSPF材は60mm程度の埋め込み長さを確保し、さらに胴縁 (18mm×45mm×455mm)の先端を杭として加工した材を300mmほど地中へ埋め込み、SPF材へ抱 かせることでアプローチ階段全体を支える構造とした。
5-2-4.制作について
制作でははじめに踏み板と構造体の「軸傾斜横切盤」による切り出しを行った。4段の それぞれで、トドマツとニオイヒバの踏み板(D240mm×W910mm)が向かい合うことで1ペア(1 段)の踏み板(D480mm×W910mm)となるデザインとする。トドマツとニオイヒバの耳付き原板 (t=30mm)から、長辺の片側に耳を残しながら4枚ずつ踏み板(D250mm×W920mm程度)を「軸傾 斜横切盤」にて切り出した(図5-6)。
次に、切り出したトドマツとニオイヒバ1枚ずつでペアを作成し、長辺の耳同士を向かい 合わせにして押し付け、形状を組み合わせる。ペアの踏み板の上に端材の合板にて作成し たガイド板(D480mm×W910mm)を重ね、踏み板の4辺全てがはみ出る位置でビス留めにて一体 化させる(図5-7)。ガイド板の4辺に沿ってペアの踏み板を「軸傾斜横切盤」にて切り出す ことで、踏み板(D480mm×W910mm)を制作した(図5-8)。
最後にガイド板を取り外し、「卓上ボール盤」にて構造体と踏み板へ、双方を締め付け る際のM12ボルト用の穴(φ13)を加工した(図5-9)。穴開け加工では、僅かなズレさえ生じ てしまうとボルトが通らなくなるため、構造体と踏み板を都度重ねながら、慎重に位置合 わせを行なった。
材料が揃った時点で、全ての部材に「木部用防腐防虫塗料(クリア)」を2回塗布した(図 5-10)。乾燥後、屋内にて構造体の組み立てを行った。踏み板とM12ボルトの通りを仮組み によって確認した。なお、SPF材や踏み板にはナンバリングを施すことで、近似した長さ の材などを誤った部分の組み立てに使用してしまわないよう配慮している(図5-11)。
後日、現地にて杭打ちおよび構造体の施工を行なった。水平を保ちながら地中へ各部材 を埋め込んでいく繊細な作業により設置を行なった。踏み板は「ラチェットレンチ」を用 いてM12ボルト(l=120mm)にて構造体へ締めつけた(図5-12)。なおM12ボルトの上端にはM12平 ワッシャーを、下端にはM12平ワッシャー・M12スプリングワッシャー・M12ナットを挟み 込んでいる。全体が木部で構成されるアプローチ階段において、段差部分の視認性の観点 から、アルミ平棒(t=2mm)によるノンスリップ(すべり止め)を追加で施工した(図5-13)。






図5-10 木部用防腐防虫塗料の塗布 図5-11 材のナンバリング


5-3.《Flooring for Pavilion》
5-3-1.コンセプト
休憩施設の四半円形の特注ブレース端部金物(r=120mm)を手がかりとして、20倍の r=2,400mmにて制作したトドマツの四半円形単層フローリング(図5-14)。13枚の板幅は 125mm-270mmであり、それぞれ原板(t=30mm)から採取可能な最大寸法によって切り出すこと
で敷き詰めている。休憩施設は屋外の東屋であるため、土足で利用するコンクリートスラ ブの空間が広がっている。フローリングは、休憩施設において裸足で過ごすことが可能な 一部のエリアを設けることで活用の幅が広がることを企図した什器である。

素材:トドマツ原板(t=30mm), 針葉樹合板(t=9mm), 垂木材(45mm×45mm), アルミLアングル(t=2) 寸法:W 2,400mm × D 2,400mm × H 84mm 板数:13枚 層種別:単層(無垢材) 制作期間:2週間
5-3-2.設計について
北面の東側にアプローチ階段を設けたが、それに対してフローリングは北面の西側の隅 に設けている。フローリングの空間を利用している休憩施設内の人と、遊歩道上を歩行す る休憩施設外の人との、会話をはじめとした接点が生まれることを期待しこのエリアを設 置場所とした。
フローリングの設計では、はじめに柱割りの1区画(1,820mm×2,730mm)を基準として長方 形型のフローリングを検討した。しかしながら、1区画ごとに分化してしまうことで空間 の広がりを妨げるような印象を与えかねないと考察した。本制作では休憩施設の新たな活 用を検討するという点から、従来のグリッド化したゾーニングを超えた、グラデーション のようなゾーニングの変化を行いたいと考えている。そこで、3区画×3区画というグリッ ドに反した四分円型のフローリングを考案した。形状は、ターンバックルブレースと柱 頭・柱脚の接合に使用されている「特注ブレース端部金物(r=120mm)」を参照し、材の寸 法から20倍へ拡大したr=2400mmの寸法とした。
5-3-3.素材について
素材には、トドマツ原板(t=30mm)を使用した。r=2400mmの四分円を構成するには約4.5m2 の材が必要であるため、原板の材数からトドマツを採用した。フローリングの幅(W)は原 板(t=30mm)から採取可能な最大幅により確保、フローリングの長さ方向(L)は一枚板で構成 することとした。これにより幅方向と長さ方向が全て異なる板を使用することとなった。 また休憩施設の床面は、適切な水勾配が設けられていないため、雨が吹き込むと水溜まり となることがある。そのため市販の垂木(断面寸法:45mm×45mm)と針葉樹合板(t=9mm)によ る下地層を設け、コンクリートスラブから54mm浮かせる仕様とした。
5-3-4.制作について
制作では計13枚のトドマツ原板(t=30mm)の切り出しから行った。幅方向(W)の片側に墨付 けを行い「電動丸鋸」にて切り出した(図5-15)。同時に切り出した面の平滑を「手押しか んな盤」にて出しておく(図5-16)。その後、切り出した面から採取可能な最大幅を図のよ うにメジャーを用いて測定する(図5-17)。次に切り出した辺と平行になるよう最大幅で対 辺にも墨付けを行い、「軸傾斜丸鋸盤」にて切り出した(図5-18)。加えて、長さ方向(L) を「軸傾斜横切盤」を用いて余裕を持った長さで切り出しておく。幅と長さが確保された 13枚の板材の小口の対角を「電子ルータ」を用いて切り欠いていく(図5-19)。高さ15mm・ 幅15mmで13枚の板材が幅方向で15mmずつ合欠部分で重なりながら、r=2,400の四分円型を構 成する。続いて、型紙を作成しr=2,400のアウトラインを墨付けしていく(図5-20)。「標準 型コンターマシン」と「無断変速電子ジグソー」にて曲線部分、および柱・ブレースの干 渉部分の切り欠きを行なった(図5-21,22)。アプローチ階段と同様に「木部用防腐防虫塗 料(クリア)」を2回塗布した(図5-23)。
乾燥後に現地にて施工を行った。下地とする垂木(断面寸法:45mm×45mm)は303mmピッチ で、フローリングの長さ方向(L)と直交するように施工した。さらに垂木の上には針葉樹 合板(t=9mm)をr=2400mmの四分円の全面に敷き詰めた。その上に13枚のフローリング板材を 施工し、15mmの合欠部分で下地の垂木・針葉樹合板と共にビス留めした。最後にr部分を 除く2辺の外周部に、L型のアルミアングル(t=2mm)を押さえとして施工した(図5-24)。










5-4.《Louver for Pavilion》
5-4-1.コンセプト
縦ルーバーは、柱と梁によって構成される休憩施設において、空間の一部に透過性のあ る壁として設けたものである(図5-25)。個々が異なる形状や節の跡を持ち合わせており、 表情の違いを読み取れるよう、休憩施設内部に耳側を向けた。休憩施設周辺の人の気配を 適度に調節し、周囲の自然環境を感じるための落ち着きのある空間を演出するための什器 である。場所や間隔を変えて日除けとしての活用も可能である。

素材:トドマツ耳材(t=30,45mm), ニオイヒバ耳材(t=45mm), 2×4材(38mm×89mm), ラッシングベルト 縦ルーバー本数:32本
寸法:W 2,580mm × D 125mm × H 2,185mm 制作期間:4日間
5-4-2.設計について
この什器は他の制作物とは異なり、フローリングをはじめとした什器の製作によって発 生した耳(端材)を用いて設計したものである。
5-4-3.素材について
素材には製材所にて製材を行なった2種類の厚さの耳付き原板(t=30,45mm)を、各什器の 制作を通して切り出した際に生まれる耳を用いたものである。
耳とは丸太における外皮に最も近い部分のことを指し、皮剥きを行った際に現れる表層
部がこれに該当する。当然ながら丸太本来の歪みのある曲線形状をそのまま残しており、 最も個体の特徴が形状に現れる部分の1つであると考えられる。耳には節や薄皮がそのま ま残され、元口から末口にかけての丸太の径の変化で細くなっていくものもあり、伐採樹 木ならではの多種多様な個性を持ち合わせている。
5-4-4.制作について
制作にあたっては、原板の厚みによって全ての耳の幅(W)が30mmまたは45mmに保たれてい るため、長さ(L)のみ、2,185mmに統一した。現地での施工では、2×4材を縦ルーバーの上 下2箇所に横に渡すことでビス打ちの土台とした(図5-26)。上部の2×4材はラッシングベ ルトとPPバンド(荷締め用バンド)を用いて休憩施設の梁へ締め付けることで、抱かせた (図5-27)。縦ルーバーの設置はトドマツとニオイヒバの2樹種が混在するよう、ランダム な配列と間隔によって打ちつけた(図5-28,29)。なお、はじめに上部のみビス留めにて位 置決めを行い、水平器で垂直を図りながら下部のビス留めを行った。なお下部の2×4材は ルーバーへのビス打ちと床面によって固定している。


土台とした2×4材 図5-27 ラッシングベルトによる固定


5-5.《Table for Pavilion》 5-5-1.コンセプト
製材所にて1枚のみ製材したニオイヒバの耳付き原板(t=60mm)を天板に使用したテーブ ルである(図5-30)。休憩施設での学生の作品制作作業や複数人での会議など、様々な用途
で使用できる大きさを持ち合わせた什器として制作した。天然の耳が生み出すカーブが使 用する部分ごとの楽しさを演出する。

図5-30 《Table for Pavilion》(2023)
素材:ニオイヒバ原板(t=60mm), ニオイヒバ原板(t=42mm), ニオイヒバ角材(45mm×45mm),
トドマツ角材(105mm×105mm), M12ボルト+ナット+ワッシャー 寸法:W 2,275mm × D 485mm × H 677mm 制作期間:1.5週間 天板高さ:677mm
5-5-2.設計について
テーブルの設計は、天板のサイズを基準として行った。厚さ60mmのニオイヒバの耳付き 原板は、有効長さ(L)が2,350mm程度、幅(W)が485mm前後であった。この材を用いて、柱割 りの1,820mmの1.25倍の2,275mmの長さで、幅は材が持ち合わせる形状をそのまま活用した 耳付き天板とすることとした。緩やかなカーブを描いた外径は、樹木の成長によって生ま れたものであり、左右の部分ごとに異なっている。
休憩施設には学部授業の「家具インテリアデザイン」の講義にて、履修学生によって製 作されたスツール作品が17脚展示されている。今回はテーブルの設計にあたり、これらの スツールと合わせた使用も想定することから、全てのスツールの計測と3Dモデル化を行っ た。モデルを元に座面高さの平均値を算出した結果、397mmであった(大きく数値が外れる 作品は除いた)。一般的にテーブルの天板と椅子の座面の差尺は280mm程度が使いやすいと されているため、397mmに280mmを足し合わせた677mmに天板の高さを設定した。
脚は4角に設けることで、足を入れられるスペースを大きく確保した。また、天板と脚 の間に横繋ぎ材と縦繋ぎ材を21mm浮かせて挿入することで、全体の印象として軽やかさを
持ち合わせるデザインとした。横繋ぎ材と縦繋ぎ材を介して天板と脚のそれぞれがM12ボ ルトによって接合されるディテールとした。
5-5-3.素材について
テーブルの素材に関して、天板には前述の通りニオイヒバの耳付き原板(t=60mm)を使用 した。ニオイヒバは製材所での流通が少ないことから、大きな丸太のサイズを活かした厚 切りとした。脚にはトドマツの角材(105mm×105mm,一部耳付き)を使用した。この寸法は休 憩施設の柱の寸法と同じものである。4本の脚のうちの1つが耳付きとなっている。これ は製材所にて105mm×105mmの材を製材した際に発生する最外部の材である。材の特性を生 かしたデザイン要素として組み込んでおり、テーブル全体の印象に不完全さを与えてい る。横繋ぎ材にはニオイヒバの原板(t=42mm)を、縦繋ぎ材には角材(断面寸法: 45mm×45mm)を使用している。
5-5-4.制作について
テーブルの制作でははじめに、「軸傾斜横切盤」を用いて長さ2,275mmに天板の切り出 しを行った(図5-31)。続いて4本の脚の加工に入る。角のみ盤を用いて横繋ぎ材(断面寸 法:42mm×105mm)を挿入するためのほぞを加工した(図5-32)また天板は「自動かんな盤」
を用いて表面を整える(図5-33,34)。続いて横繋ぎ材と縦繋ぎ材とを噛み合わせるほぞを 加工した。この時点で垂直方向のM12ボルト接合部の穴あけ加工(φ13mm)を、「卓上ボー ル盤」を用いて双方の材を組み合わせた状態で行った(図5-35)。同じように天板と、脚と 横繋ぎ材を組み合わせた状態で穴(φ13mm)の加工を行った。最後に脚と繋ぎ材の組み立て を行い、天板の組み立てを行なって完成となる(図5-36)。なお、アプローチ階段と同様に M12ボルトの上端にはM12平ワッシャーを、下端にはM12平ワッシャー・M12スプリングワッ シャー・M12ナットを挟み込んでいる。


図5-31 天板の墨付け 図5-32 脚のほぞ彫り


図5-33 自動かんな掛け前の天板表面 図5-34 自動かんな掛け後の天板表面


図5-35 M12ボルト用の穴開け 図5-36 脚と繋ぎ材の組み立て
5-6.《Stool for Pavilion》
5-6-1.コンセプト
テーブルと同様の角材(105mm×105mm,一部耳付き)を使用したスツールである(図5-37)。
トドマツの角材4本を束ね、立木として生きた時代の樹木本来の姿を想像させるデザイン となることを意図している。座板にはニオイヒバ(t=21mm)を用い、赤みのある美しい木目 の表しとした。束ねられた4本の角材は一見重厚感もあるが、スペーサーとワッシャーに よってそれぞれが12mmの間隔を保ち、床面との設置面では外周部を10mm切り欠くことで同 時に軽やかさを演出している。休憩施設での学生の作品制作作業や複数人での会議など、 テーブルと合わせた利用を想定した什器として制作した。

素材:トドマツ角材(105mm×105mm), ニオイヒバ原板(t=21mm), , M12ボルト+ナット+ワッシャー スペーサー
寸法:W 243mm × D 243mm × H 397mm 制作期間:1.5週間 座面高さ:397mm
5-6-2.設計について
スツールの設計では前述の「家具インテリアデザイン」にて製作されたスツールの座面 高さの平均値である397mmを基準にデザインを行った。テーブルと同様の角材 (105mm×105mm,一部耳付き)を使用した。座面として座ることが可能な大きさを確保するた め、角材を4本束ねて使用することとした。テーブルと同様に、4本の脚のうちの1つを耳 付きとした。流通材では省かれてしまうことから希少性があると言える大きな枝分かれ を、伐採樹木ならではの特性として外形のフォルムへと転用した。それぞれの角材は4本 のボルトを用いて接合する仕様とした。この際、ボルトの高さは休憩施設の柱と柱脚金物 の接合に使用されているM12ボルトの高さと統一することで、休憩施設の建築から派生し たような家具としてデザインした。また、角材同士の間にはスペーサーを挟み込むことで 目地を保つデザインとしている。角材の上端(座面側)は外周部の高さ10mm・幅10mmを残し て彫り込みを、下端(設置面側)は外周部の高さ10mm・幅10mmの切り欠きを行った。上端は この彫り込み部分に、210mm×210mmの座面をはめ込むデザインとした。
5-6-3.素材について
スツールの素材にはトドマツの角材(105mm×105mm,一部耳付き)を使用した。また座面に は、赤みがかった美しい木目が特徴的なニオイヒバを使用した。角材を接合するM12ボル トは長さ240mmの長尺ボルトを使用した。また、角材同士の間にはM12ワッシャーで挟み込 んだステンレス製のM12スペーサー(L=8mm)を挟みこんでいる。
5-6-4.制作について
スツールの制作では、はじめに「軸傾斜横切盤」にてトドマツの角材を長さ386mmで切 り出す作業を行った(図5-38)。次に上端の彫り込みを行うためのガイド枠の製作を行った (図5-39)。このガイド枠は105mm×105mm角の脚に被せられるような形状をしており、4辺中
の2辺で天板が端部より10mm内側へオフセットした形で留められている。このため、天板 の縁に沿って深さ10mmで彫り込みを行うことで、4本の脚を合わせた際に外周部の10mmが 残された彫り込みが行えるガイド枠となっている。彫り込みには「電子ルータ」を用い て、外周部から中心部にかけて直径6mmずつ切削を行った(図5-40)。彫り込み後は入角部 分で刃の形状によるrが発生するため、のみで微調整を行った(図5-41)。
続いて下端の彫り込みを行った。電子ルーターが上下逆さまにテーブルへ取り付けら れ、刃が天板より露出している「面取り盤(電子ルーター用テーブル)」を用いて、外周部 に高さ10mm・幅10mmの切り欠きを行なった(図5-42)。これにより床面に置かれた際の浮遊 感や軽やかさを演出するデザインとした。
4本の脚にM12ボルトを通すための穴(φ13mm)の加工を「卓上ボール盤」にて行なった。
この際、1つの脚において誤った穴開け加工を行なってしまった。X方向Y方向で高さが異 なる下穴に対して、誤った高さに穴を加工してしまったためである。そこで同様のトドマ ツの端材から木ダボを製作し、不要な下穴を埋め込んだ(図5-43)。M12ボルトとスペー サーを用いて4本の脚を繋げ(図5-44)、「ラチェットレンチ」にて締め付けた(図5-45)。最 後に「軸傾斜横切盤」にて切り出したニオイヒバの座面板をはめ込むことで完成とした。




図5-40 上端の彫り込み 図5-41 入角部分の微調整


図5-42 下端の切り欠き 図5-43 木ダボによる穴埋め


図5-44 スペーサーとワッシャー 図5-45 脚の締め付け
5-7.《Ceiling Light for Pavilion》 5-7-1.コンセプト
什器の制作にて生まれたニオイヒバ耳を用いて、その間から光が注ぐデザインとした シーリングライトである(図5-46)。全体のボリュームは休憩施設の梁と同等とすることで 内部に溶け込むデザインとした。左右に2つのLED電球を内蔵しており、耳以外の外観には 軽量化を計るため針葉樹合板を用いた。休憩施設の活用の時間帯を広げるため、照明器具 の無い空間をささやかに照らす什器として製作した。

素材:ニオイヒバ耳材(t=30mm), ニオイヒバ角材(45mm×45mm), 針葉樹合板(t=9mm), LEDスマート電球(E26), ソケット(E26) 寸法:W 1,125mm × D 105mm × H 150mm 制作期間:1週間 電球数:2個
5-7-2.設計について
シーリングライトの設計では、天井の梁付近に設置することから、全体のボリュームを 梁と揃えることとした。同等のボリュームとすることで均質なグリッド空間である休憩施 設に対して、違和感無く設置することが可能と考えた。長さは使用する耳の寸法から、 1,125mmとして、シーリングライト全体の断面寸法を梁と同等の105mm×150mmとした。2本
の耳の間から内部の照明の光が注ぐデザインである。照明器具は、調光やWi-Fiによる指 示が可能な、スマートLED電球を左右2箇所に内蔵する仕様とした。電球はコード付きレ セップを介して、トドマツ角材(断面寸法:45mm×45mm)で製作したフレームに固定した。
休憩施設の梁より2箇所のワイヤーで吊るす仕様として設計したため、電球とフレームの 周囲には市販の針葉樹合板(t=9mm)を用いることでシーリングライト全体の軽量化を図っ た。
5-7-3.素材について
素材には什器の制作でニオイヒバの原板(t=30mm)から切り出していた左右の耳を照明の シェード(下部)に用いた。トドマツ角材(断面寸法;45mm×45mm)と針葉樹合板(t=9mm)をそ れぞれフレームとシェード(上部)に用いた。スマート電球には、SwitchBot LED電球(E26口
径/800lm)を、ソケットには陶器製コード付きレセップ(E26口径/中間スイッチ付属)を採用 した。
5-7-4.制作について
シーリングライトの制作では、はじめに「軸傾斜横切盤」にてニオイヒバの耳材、トド マツ角材、針葉樹合板それぞれの切り出しを行った(図5-47)。フレームとなるトドマツ角 材には、「軸傾斜横切盤」により連続的に刃で削り取ることで、中間スイッチを埋め込む ための彫り込みを加工した。また針葉樹合板の天板には照明器具のコードと吊りワイヤー のための下穴(φ28mm)の加工を「卓上ボール盤」を用いて行なった(図5-48)。続いて組み 立てに入る。2本の耳材は幅が105mmとなるように並行に並べ、トドマツ角材によるフレー ムとビス打ちにて固定する。ソケットと電球の取り付けを行い、同時に配線を行なってい
く。コードと中間スイッチは「エアータッカー」を用いてフレームに固定した(図5-49)。
また吊りワイヤーを引っかけるためのヒートン(吊り金具)を設置しておく。最終的に針葉 樹合板によるシェードを木工用ボンドを用いて貼り付けていく。乾燥まではマスキング テープにて仮止めを行い、乾燥後に「空気圧ネイルガン」を用いて固定した(図5-50)。現
地での施工では、梁にくくりつけたワイヤーをヒートンに掛けることで設置した。なお、
休憩施設には給電設備が無いため、管理センター・センター長の協力のもと、A棟・B棟間 地下通路付近の電力盤より延長コードを設置していただきシーリングライトに接続した。




5-8.《Birdhouse for Pavilion》
5-8-1.コンセプト
休憩施設の周辺環境の特性を活かしたバードハウスである(図5-51)。約75mm×105mm× 150mmの内部空間を設けており、南面に位置する茂みへ向けて休憩施設の柱へ固定し接地 する。製材を行なったトドマツの角材(105mm×105mm)の外周部に、製材の工程で発生した 背板19)を貼り付けることで、天然木から加工材への変化を象徴するようなデザインとし た。縦ルーバーと同じエリアにに設置することで、これらを併せて静かな落ち着きのある 空間とする。

素材:トドマツ角材(105mm×105mm), トドマツ背板(t=26mm-36mm),ラッシングベルト 寸法:W 168mm × D 122mm × H 455mm 制作期間:1週間 内部空間:約 W 75mm × D 105mm × H 150mm
5-8-2.設計について
バードハウスの設計では、トドマツの角材をベースとしてデザインした。角材にコの字 型に彫り込みを行うことで内部の空間を確保した。また、角材の周囲には製材の過程で発 生した伐採樹木ならではの節などが残された背板を貼り付けることとした。
5-8-3.素材について
バードハウスの素材にはトドマツの角材(105mm×105mm)を主として用い、トドマツの背 板(t=26mm-36mm)を左右前の3面に貼り付けた。角材は伐採時の先端形状が特徴的であった
ため、素材の特質としてそのまま残すこととした。
5-8-4.制作について
バードハウスの制作では、はじめに「軸傾斜横切盤」にてトドマツの角材を長さ432mm と23mmに切り出した。続いて角材の左右15mmずつを残して、「バンドソー」を用いて長さ 150mmの切り込みを断続的に入れた(図5-52)。切り込み部分にできた短冊状の板ををのみで 突くことで引き剥がし、約75mm×105mm×150mmの内部空間を加工した(図5-53)。続いて、
「軸傾斜横切盤」にてトドマツの背板を長さ282mmに切り出した。トドマツの角材へ背板 と底板(L=23mm)を木工用ボンドにて固定し、ビス留めにて固定した。最後に鳥が出入りす るための穴と固定用のベルトを通す穴(φ30mm)を「卓上ボール盤」にて加工した(図 5-54,55)。現地での施工では、ラッシングベルトとPPバンド(荷締め用バンド)を用いて休 憩施設の柱へ締め付け、設置した。


図5-52 長さ150mmの切り込み 図5-53 のみによる引き剥がし


図5-54 鳥用の穴開け 図5-55 固定ベルト用の穴開け
5-9.《Table Tray for Pavilion》
5-9-1.コンセプト
様々な什器の制作において発生した端材で制作した、小型のテーブルトレイである(図 5-56)。端材の時点で確保されていた173mmという寸法を基準として、角丸長方形と円形の トレイ計3つを制作した。天面には3mmピッチで凹凸の溝を施すことで水平方向と垂直方向
の木目の表しとした。主に制作したテーブルや休憩施設の既存のテーブルの上で、小物置 きとして使用されることを意図している。

図5-56 《Table Tray for Pavilion》(2023)
素材:トドマツ原板(t=30mm), ニオイヒバ原板(t=30mm) 寸法:Type A-W 280mm × D 173mm × H 27mm / Type B-W 173mm × D 173mm × H 27mm / Type C-W 173mm × D 107mm × H 29mm 制作期間:2日間
5-9-2.設計について
テーブルトレイの設計は端材の時点で確保されていた173mmという寸法を基準として設 計した。
5-9-3.素材について
テーブルトレイの素材にはトドマツの端材板(t=30mm)とニオイヒバの端材板(t=30mm)を 使用した。
5-9-4.制作について
テーブルトレイの制作では、はじめに「軸傾斜横切盤」にてトドマツの端材板を 107mm×173mmに、ニオイヒバの端材板を173mm×173mmと173mm×280mmに切り出した。続い
て、「軸傾斜横切盤」にて長さ方向と並行になるように溝を切削した(図5-57)。幅3mmの 刃を高さ3mm出しとし、6mmずつガイド押さえをずらしながら切削することで、3mmピッチ の凹凸溝を加工した。その後、「標準型コンターマシン」にて幅方向の2辺を最大値のrで
切断し角丸長方形と円形のトレイとした(図5-58)。最後に「各種自動研磨機」を用いて側 面と表面の微細な段差を整えることで完成とした。


図5-57 溝の切削 図5-58 最大値rでの切断
5-10.《Bookstand for Pavilion》
5-10-1.コンセプト
加工の段階で割れてしまったトドマツとニオイヒバの原板(t=30mm)を再び切断加工して 制作した、小型のブックスタンドである(図5-59)。制作したテーブルや休憩施設の既存の テーブルの上で使用する本立てとして製作した。

素材:トドマツ原板(t=30mm), ニオイヒバ原板(t=30mm), アルミ複合板(t=2mm) 寸法:W 100mm × D 107mm × H 173mm 制作期間:1日
5-10-2.設計について
ブックスタンドの設計では、テーブルトレイと同様に端材の時点で確保されていた約
200mmという寸法を基準として設計した。使用するのは、什器の制作で割れてしまったト ドマツとニオイヒバの板材である。トドマツは一部が欠けているが、素材的特性としてそ のままの形で活かすこととした。テーブルトレイとボリュームを揃える意図から、端材を 本の押さえ部分として107mm×173mmへ加工することとした。
5-10-3.素材について
ブックスタンドの素材には本の押さえ部分としてトドマツの端材板(t=30mm)とニオイヒ バの端材板(t=30mm)を使用した。また土台部分には100mm×100mmに加工した市販のアルミ 複合板(t=2mm)を使用することとした。
5-10-4.制作について
ブックスタンドの制作では、はじめに「軸傾斜横切盤」にてトドマツとオイヒバの端材 板を107mm×173mmに切り出した。続いて、「カッター」を用いてアルミ複合板を 100mm×100mmに切り出した。最後に「インパクトドライバ」にて、アルミ複合板の裏面か ら端材板をビス留めすることで完成とした。
6.制作報告3:作品展示場の設計・制作
本制作研究の展示場所であるH棟中央部に、制作した什器や資料の展示を行うための展 示場の設計・制作を行った。周囲に管理センターへ続く下り階段下りや学長室へ続く上り 階段などが位置するため、通行を妨げない範囲内での設置を条件に設計を行った。
什器の設置場所から展示場全体の構成を考え、CAD上でモデルを作成した(図6-1)。
《Approach Stairs for Pavilion》と《Louver for Pavilion》の2作品については、会場での スペース確保が難しいため、それぞれ作品の一部分の展示とし、アプローチ階段の構造体 は展示場に合わせて新たに制作した。

図6-1 作品展示場のCADモデル
会場の形状は、2面の壁によって構成される入角の空間で、計5段の階段がある。鑑賞者 が階段による上り下りを通して展示を眺めることができるよう設計している。特にアプ ローチ階段の設置では計5段の階段を応用した設計としている。
左側面の壁にはパネルと展示台を設置した。研究概要や什器の設計について、また 《Louver for Pavilion》・《Ceiling Light for Pavilion》の展示を行う。右側面の壁には ワイヤーメッシュと側面に105mm×105mmの柱を設置した。完成した什器や制作過程の写 真、休憩施設の模型、また《Table for Pavilion》・《Table Tray for Pavilion》・《Bookstand for Pavilion》・《Birdhouse for Pavilion》の展示を行う。最後に階段下の床面に 《Flooring for Pavilion》を設置し、階段の中段に《Stool for Pavilion》とカラマツ丸太
l本の展示を行う。カラマツについては製材が困難であり、皮剥きを行なったままの状態 で保管していたことから、皮剥きを行なった表面の姿や実物の丸太のスケール感について 鑑賞者に触れて感じてもらうことを意図して展示することとした。
フローリング上は休憩施設において土足禁止の什器として制作したため、展示会場でも 鑑賞者は裸足での体験に限定して触れてもらう。そのため、展示台前に台上を鑑賞するた めの歩行通路を設置し、アプローチ階段とテーブル手前の階段の3,4段目を通して、鑑賞 者は作品展示場全体をL字型に土足のままで回遊できる空間構成とした。
また、《Table for Pavilion》や《Stool for Pavilion》についても箱型の展示台を制作 し、その上に設置することで作品として丁寧に扱い展示することを心がけた。なお、制作 した展示台については全てライトグレーにて塗装している。塗装を施すことで、未塗装の 木表面仕上げとした什器群(作品)との視覚による差別化を測っている。
作品展示場の制作では、マスキングテープを使用し実際の会場とCAD上での設計の整合 性を確かめながら作業を進行した。特に高所の壁での制作作業は、会場に階段があること から脚立の設置が難しく困難を極めた。安全に作業を進めるため、複数人で作業を行っ た。完成した作品展示場の実際の様子を掲載する(図6-2)。

7. プロジェクト費用概算
本制作研究における、調査費・運搬費・製材費・設計費・作業費・材料費を足し合わ せたプロジェクト費用の概算は「¥691,763 」となった( 表7-1) 。なお、材料費のうちの 伐採樹木(丸太13本)に関しては廃棄されていたという観点から「¥0」とした。また人件費
は参考値として「時給:¥1,000」にて算出している。
表7-1 プロジェクト費用概算
A-調査費
樹木調査(1日3h作業)
建築調査(1日3h作業)
B-運搬費
配送費(1日/大学→製材所)
配送費(1日/製材所→大学)
運搬補助(1日2h作業/2人)
C-製材費
製材費(1日/丸太13本)
D-設計費 ¥60,000
基本設計(1日6h作業)
実施設計(1日6h作業)
E-作業費(機械・工具使用量含)
什器01制作(1日6h作業)
什器02制作(1日6h作業)
什器03制作(1日6h作業)
什器04制作(1日6h作業)
什器05制作(1日6h作業)
什器06制作(1日6h作業)
什器07制作(1日6h作業)
什器08制作(1日6h作業)
什器09制作(1日6h作業)
現地設営(1日6h作業)
制作補助(1日6h作業)
F-材料費
什器01 《Approach Stairs for Pavilion》
伐採樹木 板材 910×240mm(t=30mm)
六角ボルトZU(バラ) 12x195mm
Uナット ZU(バラ) M12
ワッシャー ZU(バラ) M12×26×2.3mm
スプリングワッシャー(バラ) M12
アルミ平棒 1m 2.0×20mm(クローム)
SPF材 45×60×1,820mm
水性木部防腐防虫ペイント 0.7L(クリア)
什器02 《Flooring for Pavilion》
小計 ¥120,000 ¥3,000 ¥3,000
小計 ¥62,000 ¥25,000 ¥25,000 ¥4,000
小計 ¥67,500 ¥67,500
小計 ¥60,000 ¥6,000 ¥6,000
小計
小計
伐採樹木 板材 約185×25,520mm(t=30mm)
アルミ アングル 1m 2.0×19.5×19.5mm(クローム)
アルミ アングル 2m 2.0×19.5×19.5mm(クローム)
松製材6尺 垂木 4本 45×45×1,820mm
針葉樹合板 1,820×910×9mm
水性木部防腐防虫ペイント 0.7L(クリア)
什器03 《Louver for Pavilion》
伐採樹木 耳材 約30×2,185mm(t=30mm)
伐採樹木 耳材 約45×2,185mm(t=45mm)
ラッシングベルト 20+450cm(25mm)
ホワイトウッド2×4 6F 38×89×1,820mm
什器04 《Table for Pavilion》
伐採樹木 板材 472×2,275mm(t=60mm)
伐採樹木 板材 105×363mm(t=45mm)
伐採樹木 角材 2,135mm(45 mm)
伐採樹木 角材 596mm(105 mm)
六角ボルトZU(バラ) 12x190mm
六角ボルトZU(バラ) 12x130mm
Uナット ZU(バラ) M12
ワッシャー ZU(バラ) M12×26×2.3mm
スプリングワッシャー(バラ) M12
水性木部防腐防虫ペイント 0.7L(クリア)
什器05 《Stool for Pavilion》(2点)
伐採樹木 板材 210×210mm(t=21mm)
伐採樹木 角材 386mm(105 mm)
六角ボルトZU(バラ) 12x240mm
Uナット ZU(バラ) M12
ワッシャー ZU(バラ) M12×26×2.3mm
スプリングワッシャー(バラ) M12
ステンレススペーサー 12mm/15mm(10個)
耐震マット 40×40×5mm(4枚)
什器06 《Ceiling Light for Pavilion》
伐採樹木 耳材 約41×1,125mm(t=30mm)
ステンレス 足長よーと 22mm(4本)
ワイヤー 1.5m(1.5mm)
SwitchBot LED電球 E26(2個)
コード付レセップ HS-L2615SZR/W
松製材6尺 垂木 45×45×1,820mm
針葉樹合板 1820×910×9mm
什器07 《Birdhouse for Pavilion》
伐採樹木 背板材 105×282mm(t=約31.5mm)
伐採樹木 角材 23mm(105 mm)
伐採樹木 角材 432mm(105 mm)
ラッシングベルト 20+450cm(25mm)
什器08 《Table Tray for Pavilion》(3点)
伐採樹木 板材 107×173mm(t=30mm)
伐採樹木 板材 173×173mm(t=30mm)
伐採樹木 板材 173×280mm(t=30mm)
什器09 《Bookstand for Pavilion》
伐採樹木 板材 107×173mm(t=30mm)
アルミ複合板 200×300mm
その他
木割れ防止ビス 3.8×25mm
木割れ防止ビス 3.8×35mm
木割れ防止ビス 3.8×50mm
木割れ防止ビス 4.2×75mm
8.考察
8-1.成果と課題
本制作研究では、芸術の森キャンパスで生まれた「伐採樹木」を主要な素材とし、その 製材を通した活用の可能性について探求した。都市部での伐採樹木の活用においては、製 材までの伐採・運搬・皮剥きの工程で、本制作と異なる状況が発生すると予測できる。
対して、製材後の制作を中心とする成果は、伐採樹木に共通して見られるような素材的 特性から導いたもので、都市部での伐採樹木においても十分に応用可能と考えられる。
先行事例として挙げた《森とまちをつなげる家具》や《交流型学生レジデンス1F共用部 プロジェクト》のように、3D技術をはじめとしたデジタルファブリケーションなど、最新 技術を扱う事例が数多く存在し注目を浴びる中で、本制作研究ではアナログ技術(加工方 法)に限定して制作を進めた。これは本制作を通して様々な人と関わる中で、自らの手で 木の個性を見つけ出すことの大切さや、現場の職人たちの手によるローテク(アナログ)な らではの知見があると考えたためである。デジタル技術では木をデータ化し、このように データ上で木を扱うことや関係者間のデータを通した連携に対して、実際の木を自らの手 で選び、運び、配置し、組み合わせ、その個性を探ること、また暗黙の「現場の知」の一 部を明らかにすることで制作を展開してきたという点で本制作における新規性があると考 える(表8-1)。 また、アナログな加工方法で生み出した本制作における什器の設計は、
一般的な工房や家具職人が所有する機械・工具で制作可能な再現性を持ち合わせていると いう点も、デザイン手法を提案するにあたり重視した点のひとつである。
林業から一律に良質な材が提供される一般流通材や間伐材ではなく、荒々しい自然感を 残したままの枝分かれや凹凸のある外形など、個性が強く現れる伐採樹木ならではの素材 的特性を活かした美しさが、本制作研究における什器では生まれたと考えている。実際に 什器に使用する木の選定には、制作と同程度の膨大な時間を費やした。
本制作で用いた伐採樹木は、かつての農地が広がっていた時代から存在していたもので あり、長い年月での生長の過程で大学が設置され、環境整備として伐採され、大学の休憩 施設へ什器として活用されるという一連の「地産地消」に関わる1つのモデルを提示した という点も成果として挙げられる。このような「地産地消」の実践は、他の地域において も歴史に沿った実践が可能であると言える。
事前調査
伐採
製材所視察
樹木調査 建築調査
プレゼン テーション
皮剥き
搬出 製材
乾燥
表8-1 制作を通して明らかになった現場の知
都市では近年の気象災害の深刻化による倒木の発生や街路樹の維持管理を通して、多くの樹木が伐採される。
伐採樹木の未活用の要因には、材質と活用に係るコストの2点が大きく関わっている。
伐採樹木は、危険木化や環境整備など、 安全性や快適性の観点から都市の様々な場所で発生する。
伐採を担う造園会社は、通常では長さ1.0m-1.5m程度に切断する。
製材には機械の構造上から、最低でも1.8mの丸太の長さを要する。
伐採は周辺環境の安全性を考慮して行われ、 歩道や車道が近い場所では丸太の長さが短く切断される。
伐採樹木には一般流通材では省かれてしまう大きな枝分かれや凹凸が見られる。
柱とブレースの接合には、四分円形の特注ブレース端部金物が使用されている。
休憩施設の北面には緩やかな傾斜が広がっている。
休憩施設の床面には水勾配が無く、水捌けが悪い。
休憩施設の梁集成材の 1 層は 30mm である。
休憩施設の南側の茂みには複数の野鳥が訪れる。
特に伐採樹木は林業による材と異なるため、節や曲がりが多く内部の腐朽の可能性もある。
針葉樹の皮剥きは、小口面からバールを差し込みハンマーで打ち込むことで行うことができる。
機械作業よりも木肌を傷つけずに加工できる。
搬出では伐採地点にてトラックが作業可能であるか、事前に打ち合わせを行なう必要がある。
製材における歩留まりは6割と言われている。4割は背板や耳など副産物として端材となる。
寸法は、乾燥時の縮みを見積もって算出する。板材の加工を行なった後に、角材の加工を行う。
ニオイヒバは流通することが少なく希少性が高い。
乾燥工程では小口割れの被害を最小限に抑えるため、割れ止め塗料(木工用ボンド+水)を塗布する。
木材材は自重以上の水分を持ち合わせていることもある。
乾燥の工程では全体の水分量を落とし、かつ部分ごとの水分量を均一にする。
自然乾燥の工程は最短でも半年とされ、含水率8-12%が適正値とされる。
板材は乾燥と共に木裏側が凸形に反り始める。
材の乾燥による縮小により、部材には、短期間で2,3mmのズレが生じる。
「現場の地」を明らかにし、木材に関わる専門性を持たない一般の人へは新たな知識や 視点を与えることで、伐採樹木をはじめとした未利用材資源の有効活用に関する示唆や、 議論のきっかけを生み出すと想定される。また木材に関わる専門性を持つ人へは、流通か ら排除される欠点を持つ伐採樹木を用いたデザイン手法を提供できたと考える。
8-2.今後の展望
芸術の森キャンパスの森林に面する地域的特性から、本制作で使用した個体は通常の都 市部における個体よりも生育環境が良好で材が良質であった可能性があると推察される。
都市部では、内部の腐朽などが激しく製材できない個体が多発する可能性も考えられる。
このような場合に製材可能な個体と、内部の腐朽などのために薪・チップ・ペレットとし
て資源化する個体を明確に判別する手法を今後は検討する必要がある。伐採作業では製材 を見据えた長さを確保し切断するため、交通や歩行者への支障、建築物の密集したエリア での構造物への配慮など、今回の制作とは異なる注意点が生まれると考えられる。加えて 街路樹では一般的に広葉樹が多いため、特に皮剥きの工程などは今回使用した針葉樹と同 様に作業を進行できない可能性が考えられる。また、小径の樹木の場合は運搬や製材のコ ストと、製材後の制作物の社会的な有用性を十分に比較して検討する必要があると同時 に、樹木を保有する自治体や造園会社をはじめとする関係者間の連携が不可欠と言える。
本制作において明らかにした現場の知は、ごく一部の知見であり、さらに関係者との実 践を深めていく中で明らかになる普遍的な知見や、あるいは地域性を反映した知見が明ら かとなる可能性がある。制作の現場においてもデジタル技術が主流となる現代において、
今一度職人が持ち合わせるローテクを明確化し、制作へ反映することで継承してゆくこと が重要であるように制作を通して強く感じられた。
今後は、研究成果として作品展示場に展示を行なっている什器を、夏期を中心とした利 用へ向けて休憩施設内へ再構築する。また、適切なキャプション等を設けることで、本学
の伐採樹木を用いて制作した什器であることが理解できるような施工を検討してゆく。学
生の様々な利用シーンに応じて、制作した什器群のレイアウト変更や使われ方の変化が構 築されていくことを期待する。
また、都市部の伐採樹木を活用した本制作について、国内外のコンペティション等を通 じた作品発表を行なっていく。作品発表を通してさらなる環境意識の高まりや、資源の有 効活用を示唆し、都市部の伐採樹木がクリエイティブリユースの素材として活用される動 きへと繋げていきたい。