EFLOPS、レジリエンス、脱炭素と日本のデータセンター不動産市場~データセンター不動産市場の展望~

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データセンター不動産市場の展望

EFLOPS、レジリエンス、脱炭素と日本のデータセンター不動産投資市場

エグゼクティブサマリー

データセンター不動産市場では 、 国内外の投資家の関心の高まりにより 、 投

資利回りが低下している 。 今後は 、 全ての産業における AI の利活用の増大を含 むデジタルトランスフォーメーション ( DX ) や技術革新により 、 データセン ターに求められる計算能力が飛躍的に増大することが予想され 、 データセン ター需要は増加するとみられるため 、 投資家の関心は引き続き高くなり 、 投資 市場の拡大は続くであろう。

責任投資原則を受けて、ESGへの配慮を求める動きが拡大している。電力消 費量の大きいデータセンターにとって 、 エネルギー効率は E 分野にかかわる重 要な課題である 。 また 、 耐震性能や自然災害対策は S 分野における評価項目に 含まれる 。 サステナビリティ戦略の計画 、 実行 、 管理の外部発信には 、 テクニ カルビルディングアセスメント 、 パフォーマンスデータ管理を経て 、 建築物や 街区の環境性能を評価する認証の取得が有効である。

土地価格 、 建設価格 、 労働力需給の逼迫を反映した最近の開発コストや電力 単価の上昇がデベロッパーの計画に影響を与え 、 場合によっては投資回収計画 の見直しや戦略の再評価が必要となっている 。 今後は 、 データセンター事業に おいては 、 事業企画立案フェーズにおける外部の専門家との協働が重要になる であろう 。 外部の知見は 、 事業の質とスピードを高め 、 投資家の意思決定を支 援する役割を果たす。

“ データセンターは、企業にとって

DXと脱炭素に同時に取り組む場であり 持続的成長が期待できる投資対象である。

浅木 文規

シニアディレクター

データセンタービジネス推進室長 キャピタルマーケット事業部

EFLOPS、レジリエンス、脱炭素と日本のデータセンター不動産投資市場

目次

データセンター市場 04

• 先進国のデータセンター売上比較

01 02 半導体・デジタル産業戦略と データセンター 07

• 日本のデータセンター市場の特徴

• データセンターとクリーンエネの供給の現状

• 今後の整備の方向性

• ケーススタディ

03

データセンター不動産市場 12

• データセンター賃貸市場

• データセンター投資市場

• ケーススタディ

05 データセンターと物価上昇 24

04

データセンターのエネルギー効率と レジリエンス 20

• データセンター等による電力需要増加見通し

• データセンターのエネルギー効率と レジリエンスを測定する環境不動産認証の例

• ケーススタディ

、レジリエンス、脱炭素と日本のデータセンター不動産投資市場

日本はアジアパシフィック地域最大のデータセンター市場

データセンター売上比較

日本

日本のデータセンター市場は、売上ベースで、先 進国 ( MSCI ワールド指数構成国 23 か国のうち香港 を含まない 22 か国 ) 内において 、 米国に次ぐ第 2 位 の市場規模となっている。アジアパシフィック地域 では最大の市場であり 、 オーストラリア 、 ニュー ジーランド、シンガポールが続く(Statista) 。

日本のデータセンター市場は、2022年のマイナス 成長から回復し 、 2023 年は 5.8 % の成長が見込まれ る 。 2027 年には成長率は 10.8 % へ加速し 、 2028 年 には 7.6 % に減速すると予想されている 。 他方 、 ア ジアパシフィック地域では、引き続き上昇は継続す るものの、ニュージーランドのマイナス成長が影響 し、成長率は2023年の5.3%から2024年は4.9%に減 速する見通しである。

日本のデータセンター市場の成長の牽引役には、 AI の利活用の増大を含むデジタルトランスフォー メーションやクラウドサービスによる需要増加が挙 げられる。日本のデータセンター業界はこの成長機 会を活かし、技術革新や持続可能性に注力しながら、 市場シェアを拡大していくことが期待される。

出所: Statista、

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日本の優位性には、政治的安定性、インフラの安全性、 高度人材、昨今の地政学的優位性の高まりが挙げられる

日本のデータセンター市場の特徴:優位性と課題

1. 地理的な位置

2. 政治的安定性

3. 光ファイバー敷設率

4. 停電実績が欧米諸国との比較で低い

5. サイバーセキュリティ対策

6. 高度人材のプール

7. 地政学的優位性の高まり

8. 政府による一部地域における施設整備支援

9. 自然災害への備え(高度な耐震性能設計、水 害対策を含む)

10. AIにポジティブな反応

出所: World Bank Databank, MEXT, JLLリサーチ事業部

1. 高電圧帯に接続する際のリードタイム

2. 建設コストの上昇

3. 建設業における労働需給のひっ迫

4. 電力価格がAP各国との比較で高い

これまで日本のデータセンター市場が発展して きた背景には 、 地理的な条件 ( 北米 ・ 欧州等 、 ア ジアパシフィック地域等との接続 ) 、 政治的安定 性 ( WGI パーセンタイル 86.7 ) 、 良好な市場環境 ( 2022 年の需要家停電時間は 25 分 ) 、 豊富な高度 人材 ( 高等教育機関への進学率が OECD 平均 57% に対し74%)を含む優位性が挙げられる。

加えて 、 昨今では 、 世界的に不確実性が高まる 中での地政学的優位性の高まり 、 世界的に自然災 害が激甚化 ・ 頻発化する中において重要性を増す 高度な防災 ・ 減災対策 、 また 、 国全体の取り組み や ChatGPT の利用者数を含む AI へのポジティブな 反応が挙げられる。

一方で 、 課題としては 、 高電圧帯に接続する際 のリードタイム(5年程度と目される)、2021年よ り続く原材料費 ・ エネルギーコストの世界的な上 昇と円安の影響による資材価格等の高騰 ( 建設総 合物価指数は 2024 年に 2019 年比 30% 上昇 ) 、 建設 業における人手不足の状況が挙げられる(3月短観 の建設業雇用人員D.I.-59)。

日本の主要都市圏は三大都市圏(東京、名古屋、

を都市圏別にみると

三大都市圏が

% 、

データセンターは東京と大阪に集積 クリーンエネルギーは地方の比率が高い

都市圏別クリーンエネルギー比率

出所:富士キメラ総研「データセンタービジネス市場調査総 覧 2024年版」都道府県別データセンター立地面積(2023年)を

基にJLL作成

こうした状況下、データセンターの供給は主に東 京圏と大阪圏に集中している。

データセンターの供給(面積)を都市圏別にみる と、東京圏と大阪圏に過半が集中している。さらに、 インターネットトラフィックの中継地点である IX (インターネット・エクスチェンジ)については、 東京圏と大阪圏の2地域で約98%を占めている(経 済産業省)。

一方で、クリーンエネルギーは地方比率が高いと いう状況が存在している。脱炭素電源の供給(最大 出力)を都市圏別にみれば、東京圏と大阪圏以外の 都市圏で 90% 以上を占めている( 経済産業省) 。

2023年5月に成立したGX脱炭素電源法案に基づいて、 利用促進が図られる脱炭素電源は再生可能エネル ギーと原子力を含む(内閣府)。

以上の状況を踏まえて 、今後の国のデータセン ターを含むデジタルインフラ整備戦略は、レジリエ ンス強化と脱炭素電源の確保を含む観点からの対応 が求められている。

JONES LANG

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データセンターの国内最適配置に向けた方向性とは

北海道と九州に中核拠点を整備

地域に分散型データセンターを整備

脱炭素電源の活用

出所: 経済産業省, JLLリサーチ事業部

前述の通り、日本が有するデータセンター立地の 優位性、データセンターの立地状況、クリーンエネ ルギーの供給可能性状況に関する現状を考慮し、経 済産業省の半導体・デジタル産業戦略では、データ センター開発に関する方向性を以下のように示して いる:

• レジリエンス強化のため 、 東京圏と大阪圏を補 完 ・ 代替する第三 、 第四の中核拠点を北海道や 九州のエリアにて整備

• AI を含む遅延許容度が高い用途に利用される計 算資源やデータセンターについては 、 地方の適 地に分散立地

• いずれも脱炭素電源活用の観点から整備を促進 この方向性は、カーボンニュートラル宣言を受け て策定されたグリーン成長戦略における半導体・情 報通信産業の 2040 年カーボンニュートラル目標に も沿った内容となっている。かかる政府による支援 には、グリーンデータセンター等の研究開発や一部 地域における開発に対する支援が含まれる。

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ケーススタディ:ソフトバンクとIDCフロンティア

補助対象

対象地域

データセンター地方拠点整備事業費補助金の概要と採択事業概要 出所:経済産業省、ソフトバンク、

データセンター基盤 ・ 施設整備に要 する経費 ( 土地造成費 、 建物費 、 サーバ費等)

東京圏 ( 東京都 、 千葉県 、 埼玉県 、 神奈川県)の全域を除く地域

採択事業の概要

採択企業 ソフトバンク

事業実施場所 北海道苫小牧市

事業費総額 650 億円超 ( 最大補助額 300 億円 、 補助率1/2)

スケジュール

受電容量 10MW のデータセンターを 令和 8年度に竣工予定。 将来的には 300MW超までの拡張を見込む。

事業内容

高いデータ処理能力を有する大規模 な計算基盤環境を構築し、 生成AIの 開発等に活用する他 、 大学や研究機 関、 企業などに幅広く提供予定。

レジリエンスの強化に資する東京圏・大阪圏を補 完・代替するデータセンターの中核拠点を地方に新 たに設けるため、政府は、両地域以外における土地 造成、電力・通信インフラ、建屋及び設備の整備を 支援を行っている。

令和 5 年度の公募で 、 採択された事例を左に示す 。 ソフトバンクと IDC フロンティアは 、北海道苫小牧 市に大規模な計算基盤などを整備したデータセン ターを建設する。将来的には、敷地面積は国内最大 規模の 70 万㎡ 、 受電容量は 300MW 超まで拡大する 見込みである 。 また 、 北海道内の再生可能エネル ギーを 100 %利用する 、 地産地消型のグリーンデー タセンターである。

地方の適地におけるデータセンターの分散立地は、 レジリエンス強化と脱炭素のみならず、地域経済の 活性化や地方創生に寄与する可能性がある。

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コロケーション価格は上昇していく

コロケーション価格の推移と予測

コロケーション価格は、需給バランスや立地特 性による地域間格差が見られ、都心が最も高く、 次いで首都圏、関西、印西周辺となっている。

全体傾向としては 、 2022 年に引き続き 2023 年 も、建設コストの高騰に伴い、サービス価格も上 昇した。建設コストは2024年以降も高騰する可能 性があり、また、コストが低減する見通しが定ま らないため、当面はコロケーションサービス価格 は上昇傾向が続く見通しである。

上昇率は、都心と首都圏では、それぞれ、2024 年の前年比4.8%から2025年に同9.1%へ、2024年 の同 5.1% から 2025 年に同 5.8% へ加速する見通し である。関西と印西では、それぞれ、2024年に同 5.6%から2025年に2.4%に、2024年に同5.4%から 2025 年に 2.6% に 、 上昇は継続するものの 、 その ペースは減速する見通しである。

出所:富士キメラ総研「データセンタービジネス市場調査総覧

潤沢な供給を上回る旺盛な需要 EFLOPS、レジリエンス、脱炭素と日本のデータセンター不動産投資市場

東京圏の需給の推移と予測

大阪圏の需給の推移と予測

出所:Structure Research、JLLリサーチ事業部

純需要 新規供給 稼働率

左に東京圏と大阪圏の需給の推移と予測を示す 。

東京圏では 、 2024 年から 2028 年にかけて 、 稼働

率は概ね上昇が続く見通しである 。 2024 年と 2025 年は供給要因により稼働率が低下するが 、 需要も 勢いがあり 、 前年を上回る水準で推移する見通し である 。 2026 年以降は旺盛な需要が潤沢な供給を 上回り 、 稼働率は概ね 90 ~ 95% の水準で推移する 見通しである。

大阪圏では 、 2024 年から 2026 年にかけて 、 稼働 率は 、 供給要因により 80% 程度まで低下するもの の 、 需要は堅調であり 、 2027 年から 2028 年にかけ て 、 供給の減少とともに 90% 超へ上昇する見通し である。

東京圏と大阪圏では 、 総じてみれば 、 供給が需 要が上回り 、 中期的に稼働率は概ね上昇が続く見 通しである 。 デジタルトランスフォーメーション を背景に急速に高まる需要に対応した供給計画や 、 需要の ESG 要件等に合致した物件設計が求められ るであろう。

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国内外の投資家の関心の高まりにより、東京圏の データセンターの取引利回りは低下傾向で推移している

東京圏のデータセンターの取引利回りの下限

出所:JLLリサーチ事業部 注1:取引は、用途の一部がデータセンターである事例も含む。

過去 10 年の東京圏のデータセンター取引事例におけ る利回りを左の図表に示す 。 データセンターの利回り は 、 物件所在地や用途割合を含む個別性を考慮すれば 、 一概の比較には注意が必要であるものの 、 概して投資 家の関心の高さを受けて、低下傾向で推移している。

データセンターの投資利回りを考察する際に 、 示唆 に富むセクターは A グレードオフィスとロジスティク スである 。 データセンターはオフィスに分類され 、 ま た 、 その所在地は都心のオフィスエリアから郊外の物 流エリアまでを網羅するためである。

特にロジスティクスの発展のスピード感に注目した い 。 現在直接投資の 20 % 超を占める主要セクターであ るが 、 オフィスを含む伝統的セクターとの比較では新 しく、2000年以降に急速に成長した。2002年に初めて 外資系不動産企業による BTS 型の施設が供給され 、 産 業特化型 J-REIT が上場した 2007 年末の利回りは 4.7 % であった 。2016 年の物効法の改正を経て 、 現在東京圏 内陸部の利回りは3.3%まで低下している。

データセンター市場が急速に拡大する中で 、 国内外 の投資家の関心は引き続き高くなるとみられ 、 今後の 投資利回りの動向が注目される。

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直接投資は草創期の市場では抑制される傾向にあるが

データセンターの1物件の投資規模は大きい

データセンター不動産直接投資の総額の推移

データセンター直接投資 対直接投資総額比

2023 年のデータセンター不動産の直接投資の推計値は 1120億円となった 。

2 年ぶりに増加に転じ 、2007 年の JLL による統計開始以来過去最高となった 。

同年に直接投資の総額に対するデータセンターの直接投資の割合は 3.6% と なり 、 前年比 3.4 ポイント上昇し 、データセンターの投資割合が大きく拡大 していることを示した。

2023 年の取引事例には 、 東京に所在する御殿山 SH ビルの TIS による取得 、 大阪に所在する SUMA 新築工事 ( 仮称 ) の Mapletree Industrial Trust, Mapletree Investmentsによる取得が挙げられる。取得価格はそれぞれ700億 円、520億円であった。いずれもデータセンターの投資規模を示す事例であ り、御殿山SHビルは2023年の高額取引上位10位にランクインした。

2024 年第 1 四半期の投資総額は 77 億 2500 万円となった 。 前年同期に直接 投資が確認されなかったために 、 前年比変動率は算出できないが 、 過去 10 年の第1四半期の直接投資の平均との比較では34%の増加となった。当四半 期の取引事例には 、 「 KIX11 データセンター 」 (10 % 持分 ) の Digital Core (S-REIT)による追加取得が挙げられる。

データセンター不動産投資市場は 、 投資適格案件の稀少性が高い草創期 にあるため 、 直接投資は抑制される傾向にあるものの 、 1物件あたりの投 資規模は大きいことが示されつつある 。 データセンターの需要が急速に拡 大し 、 国内のみならず 、 投資意欲が減退している海外の不動産投資家もこ の成長分野に注目していることから 、 今後も直接投資が増加することが予 測される。

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AIや量子コンピューターの情報処理の飛躍に伴い、 計算量が増大するため、データセンター需要も高まる

データセンターの計算力の試算

出所:経済産業省, Preferred Networks, JLLリサーチ事業部 注1:FLOPS(Floating-point Operations Per Second)は、コンピュータの処理速度を表す単位の一つで、 1秒間に実行できる演算回数。生成AI利用時の計算では、最大8.5EFLOPSの計算性能が発揮される。

データセンターは 、 情報産業全体の中では5 G を含む通信等と並び 、 デジ タルインフラのレイヤーに位置づけられる。 デジタルインフラは 、 クラウド 産業 、 データ連携基盤産業 、 サイバーセキュリティ産業を含むデジタル産業 のみならず 、 自動運転、 ロボティクス 、 デジタルヘルスを含むあらゆる産業 のデジタルトランスフォーメーションの基盤として機能する。

AIや量子コンピューター等の情報処理の飛躍にともない、今後のデジタル トランスフォーメーションの推進には 、 膨大なデータを処理する計算力が必 要となる 。 例えば 、 訓練を 1 日で終わらせるのに必要な計算リソース ( 推 計)は、自動運転やロボティクスで1E~100E Flopsとなっている。

今後 、 データセンターにおいては 、 計算処理の拡大や用途別化が進み 、ま た 、 エッジ領域における分散情報処理の拡大も予想される 。 計算需要の増加 と計算資源確保の重要性から、 今後もデータセンターの需要は高まる見通し である。

こうした状況下 、 国内投資家のみならず 、 海外投資家も昨今の画一の消極 的投資判断においてデータセンターに対する関心は高くなっていることから、 今後、投資市場の活性化により投資総額の拡大が続くことが期待される。

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ケーススタディ:KIX11データセンター

概要

物件名称 MCデジタル・リアルティ

大阪KIX11データセンター

持分10%

住所 大阪府箕面市彩都粟生北6

竣工 2019年

物件タイプ フィットアウト

稼働率 95%

賃貸可能面積 11,000㎡(114,940ft2)

ITロード 25,500kW

売主 三菱商事

買主 Digital Core REIT

価格 7,725,000,000円

取得時期 2024年3月

備考

Digital Core REIT, MCデジタル・リアルティ JLLリサーチ事業部

投資法人は2023年11月に同物件の持分 10%を取得しており、今回の取得によ り、全体に対する持分割合は20%と なった

データセンターの エネルギー効率と レジリエンス

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データセンター需要の増加を反映して 電力需要も増加する見通し

データセンター・半導体工場の新増設に伴う個別織り込み最大需要電力

出所:電力広域的運営推進機関、JLLリサーチ事業部 注1:各年は年度を参照する

日本の長期成長戦略の一環でもあるカーボン ニュートラル宣言を受けて策定されたグリーン成長 戦略では、データセンターを含む半導体・情報通信 産業は、2040年までのカーボンニュートラル実現を 目指すとされている。

一方で、データセンターのエネルギー消費量は大 きくなっている 。 OCCTO が公表した需要予測によ れば、データセンターや半導体工場の新設や増設に より、2024年度には最大48 万kW 、2033 年度には最 大537万kWの電力需要の増加が見込まれている。尚、 最大需要電力におけるデータセンターと半導体工場 のうちわけについては開示が控えられているものの 、 2024 年度から 2033 年度にかけて 、 最大需要電力全 体に占めるデータセンターの割合は概ね 80~90% 程 度と目される。

遠い将来の予測の信頼性の確保は不確実性がある ものの、大量の電力を消費するデータセンターでは 、 今後、高いエネルギー効率が求められることは確実 であり、省エネ化や再生可能エネルギーの活用を含 む取り組みは避けては通れない重要な課題である。

エネルギー効率やレジリエンスの向上には、最先端の 技術・設備導入、データ管理、環境不動産認証取得が有効

環境不動産認証の例

出所:JLLリサーチ事業部 注1:環境不動産認証とは、建物の環境性能基準である。建物について、エネルギー効率を含む環境分野(E)、耐震性能を含む社会分野(S)、不動産 会社・運用機関のサステナビリティ配慮を測定するガバナンス分野(G)を評価する

責任投資家原則を受けて、ESG(環境、社会、企業 統治)への配慮を求める動きが拡大する中、 データセ ンターでも、サステナビリティパフォーマンスデータ (エネルギー、CO2排出量、水使用量、廃棄物量)の 管理プロセス等を経て、コミットメントの達成を対外 的に情報発信することが求められている。

E 分野にかかわる重要な課題にエネルギー効率があ る。対策には、最先端の情報処理技術・付帯設備の導 入、データ管理が挙げられる。

また、データセンターにおいて重要な耐震性能や自 然災害対策は 、 S 分野における取り組みの一環として 評価項目に含まれる。

さらに、米国では、大手プラットフォーマーが地熱 発電活用やクリーンエネルギー発電所に直結したデー タセンターを取得している。今後、日本でもより持続 可能性に配慮した取り組みが求められるであろう。

エネルギー効率向上を含むサステナビリティ戦略の 計画、実行、管理には、外部の専門家の支援が重要で ある 。 テクニカルビルディングアセスメント 、 パ フォーマンスデータ管理を経て 、建築物や街区の環境 性能を評価する認証制度の評価指標を取得すれば、 成 果の外部発信に有効である。

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ケーススタディ:Equinix TY15

4,140㎡ (44,563ft2)

階数 地上7階建て

構造 鉄骨

耐震構造 免震構造

収容能力

最大3,700キャビネット (当初1,200)

開設時期 2024年9月

備考 再生エネルギー利用 100%

品川キャンパスにある TY15 は 、 日本で一番ネット ワークプロバイダーが集約されている拠点TY2と直接 のキャンパスクロスコネクトで接続可能な延伸サイ トである。 品川駅から徒歩 5 分で行ける便利な距離に ある好立地なデーターセンターである。

エクイニクス内で液冷即対応に分類されているサ イトであり 、 チップ直冷式の GPU や CPU に対応して いるインラック CDU やインロークーラー 、 リアドア 熱交換機への設置に加えて 、 更に次世代の電力高密 度が高い GPU や CDU 向けにデータセンターからの冷 却水を供給可能な将来を見据えた最新サイトである 。

PCI-DSS や FISC にも準拠 、 再生可能エネルギー 100% で運用 、 さらには主要なサービスプロバイダへ の接続に加え 、1 万社以上のエコスシステムと接続が 可能であることが特長である。

物価上昇が 開発計画に影響を 与えている

土地価格、建設価格、労働力需給の逼迫を反映した最近の開発コストの上昇、また次ページで述べる電力価格の上昇は、 デベロッパーの計画に影響を与え、場合によっては投資回収計画の見直しや戦略の再評価が必要となっている。

土地については、全国的な需要の回復を主な要因として、価格は上昇している。この影響により、事業費における用地 費が増加することがある。

建物については、 2021年より続く原材料費及びエネルギーコストの世界的な上昇、 さらには円安の影響により、 建設 資材物価指数が押し並べて上昇している。これにより、事業費における建設費用が増加することが考えられる。

また、建設業の労働需給の状況をみると、 全産業と比べて雇用人員D .I.の不足超幅が大きく、 関連する職種の有効求 人倍率も職業計に比べて高い状況が続いており、供給が需要に追いついていないため、人件費の上昇につながっている。

今後は、データセンター事業においては、事業企画立案フェーズにおける外部の専門家との協働が重要になるで あろう。外部の知見は、事業の質とスピードを高め、投資家の意思決定を支援する役割を果たす。

商業地と工業地の価格の指数

EFLOPS、レジリエンス、脱炭素と日本のデータセンター不動産投資市場

電気料金は用地選定のインセンティブとなりえる

地域別電力単価

出所:経済産業省 電力・ガス取引監視等委員会, JLLリサーチ事業部 注1:電力単価は特別高圧を参照する(円/kWh)。各月の電力量と販売額から年度の電力単価を作成した

データセンターの原価内訳では、電気料(25%)が 大きな割合を占めているため (経済産業省 )、 相対的 に安価な電気料金は 、良好な地盤条件やデジタルイン フラ整備環境と並んで、 用地選定のインセンティブと なりえる。

2023 年度の全国の特別高圧の電力価格は 1kWh あた り 18.7 円となり 、 前年比 5 % の上昇 、 2019 年比 66 % の 上昇となった 。 価格は地域で一定の格差がみられ 、 九州 、 関西が低く沖縄 、 東北が高くなった 。 2021 年 より続く燃料価格の世界的な上昇 、円安の影響 、電力 小売自由化等により、上昇が続いている。2019年度比 の上昇率は中国 、 東北が高くなった ( 経済産業省 ) 。

2024 年 3 月の全国の特別高圧の電力価格は 1kWh あ たり 18.4 円となり 、 前月比 1 % の下落 、 前年比 20 % の 下落となった 。 2023 年4 月をピークに下落し 、2024 年 に入り概ね横ばい推移となっている。

今後 、この動向を反映して 、データセンターにおけ る電力コスト上昇のペースも緩やかになる可能性はあ るものの 、設計 ・ 管理・ 運用にあたり 、効率化やコス ト対策は引き続き重要となるであろう 。今後の推移に 留意が必要である。

著者

赤城 威志

リサーチ

事業部長 takeshi akagi@jll com

岩永 直子 リサーチ シニアディレクター naoko iwanaga@jll com

お問い合わせ先

浅木 文規

データセンタービジネス推進室長

キャピタルマーケット事業部

fuminori asaki@jll com

松本 仁

エナジー & サステナビリティサービス

事業部長

jin matsumoto@jll com

宮本 淳

執行役員

プロジェクト・開発マネジメント

事業部長

jun miyamoto@jll com

相川 正敏

ストラテジックコンサルティング

事業部長

masatoshi aikawa@jll com

山田 剛 リーシングアドバイザリー シニアディレクター

tsuyoshi yamada@jll com

片桐 修

不動産運用サービス

シニアディレクター

osamu katagiri@jll com

マルケジニス オディセウス Work Dynamics法人事業部 セールス&アカウンツヘッド ody markezinis@jll com

神山 繁一 執行役員 JLL森井鑑定 shigekazu.kamiyama@jll.com

JLLリサーチについて

JLLリサーチは、世界のあらゆる市場、あらゆるセクターにおける最新の不動産動 向並びに将来予測を提供します。全世界550名超のリサーチエキスパートが、60ヵ 国を超える国々の経済及び不動産のトレンドを日々調査・分析し、世界のリアルタ イム情報と革新的考察を発信しています。グローバル、リージョン、そしてローカ ルの不動産市場におけるエキスパートが集結する精鋭リサーチチームは、今日の課 題、さらに将来の好機をも特定し、競争上の優位性、成功のための戦略、不動産に 関する最適な意思決定へとお客様を導きます。JLLリサーチは、適正な市場メカニ ズムが機能する公正・透明な不動産市場の形成に寄与することを使命とし、より良 い社会の実現に貢献します。

JLLについて

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