サステナビリティ マーケット ダイナミクス 2025年第1四半期

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サスティナビリティ マーケットダイナミクス

Japan: SustainabilityMarketDynamics

Keytrends

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CASBEE取得物件が2年で倍増

2025年第1四半期のLEED認証の取得件数は9 件で、2009年からの累計件数は315件、前期 比+2.9%となった。当四半期末時点でを有効

な CASBEE- 建築を有する物件は前期比で

8.2%増加、CASBEE-不動産を有する物件は

前期比で11.5%増加し、いずれも2023年第1

四半期末時点の2倍以上となった。

CASBEE-WO取得は鈍化傾向

2025年第1四半期のWELL認証の取得件数は5 件で、当期末時点で有効な認証を有する物件

は 60 件 、 前期比 +9.1% となった 。 一方 、

Fitwel認証の取得件数は4四半期連続0件で、 当四半期末時点で有効な認証を有する物件は5 件にとどまっている。

CASBEE-ウェルネスオ フィスを有する物件は前期比で1.2%増加した が、取得は鈍化傾向にある。

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特集:SSBJサステナビリティ開示基準

サステナビリティ基準委員会 (SSBJ ) は 2025年3月、サステナビリティ開示基準(適 用基準、一般基準、気候基準)を公表した。 企業が直面するサステナビリティ関連のリス クと機会を開示するもので投資判断の材料と なる。不動産業界においては、省エネや節水 の強化、グリーンビルディング認証やエネル ギー格付認証の取得等が今後ますます重要に なると予想される。

主要指標

前期比+7.6%

グリーンビル認証(各認証の増加率の平均)

前期比+3.4%

ウェルネス認証(各認証の増加率の平均)

注釈:LEED、WELL、Fitwelは全ランク、CASBEE-建 築、CASBEE-不動産、CASBEE-ウェルネスオフィスは B+以上を対象とする。

出所:USGBC, IWBI, Fitwel, IBECs

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CASBEE取得物件が2年で倍増

• LEEDの第1四半期の認証取得件数は9件で、前 期比・前年同期比ともに減少した。当期にプラ チナを取得した事例として、Azabudai Hills (LEED ND Built v4)が挙げられる。 2009年 からの累計認証件数は315件(前期比+2.9%) となった。

• CASBEE-建築の第1四半期の認証取得件数は54 件で前期比・前年同期比ともに増加したが、S ランクの割合は前期比・前年比ともに減少した。

当期末時点で有効な認証を有する物件は526件 (前期比+8.2%)で、2023年第1四半期末時点 の2.1倍となっている。

• CASBEE-不動産の第1四半期の認証取得件数は 282件で、前期比では増加、前年同期比では減 少した。当期末時点で有効な認証を有する物件 は2,388件(前期比+11.5%)で、2023年第1四 半期末時点の2.2倍となっている。

グリーンビル認証物件数の推移(認証取得年別)

出所:USGBC, IBECs 公開データをもとにJLL作成

注)グラフ上では、CASBEE-建築をCASBEE-BD、CASBEE-不動産をCASBEE-REと表記している。CASBEEの認証取得件数はB+以上を対象としている。

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ウェルネス認証物件数の推移(認証取得年別)

Wellness

CASBEE-WO取得は鈍化傾向

• WELLの第1四半期の認証取得件数は5件で、前 期比・前年同期比ともに減少した。当期にプラ チナを取得した事例として 、 Mitsubishi Corporation Head Office や Shimizu Corporation Nagoya Branch(いずれもWELL v2 Certification: Office Spaces)が挙げられる。

当期末時点で有効な認証を有する物件は60件 (前期比+9.1%)となった。

• Fitwelの第1四半期の認証取得件数は0件で、当 期末時点で有効な認証を有する物件は5件(前 期比±0.0%)にとどまった。

• CASBEE-ウェルネスオフィスの第1四半期の認 証取得件数は9件(うち1件は有効期限切れに伴 う再取得)で、前期比・前年同期比ともに減少 した。当期末時点で有効な認証を有する物件は 174件(前期比+1.2%)で、2023年第1四半期末 時点の1.9倍となっている。

出所:IWBI, Fitwel, IBECs 公開データをもとにJLL作成 注)グラフ上では、CASBEE-ウェルネスオフィスをCASBEE-WOと表記している。CASBEEの認証取得件数はB+以上を対象としている。

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Office

3都市ともグリーンビル認証取得率が増加

• 東京ではDBJ-GBとCASBEE-不動産の取得が進 み、第1四半期末時点でグリーンビルディング 認証を有する大規模オフィスビルは72%(前期 比+7pt)となった。ウェルネス認証は当期に竣 工したビルの認証取得率が低く、6%(前期比 -1pt)となった。

• 大阪ではCASBEE-不動産の取得が進み、第1四 半期末時点でグリーンビルディング認証を有す る大規模オフィスビルは45%(前期比+3pt)と なった。ウェルネス認証は前期から取得が増え ず、10%(前期比±0pt)となった。

• 福岡ではCASBEE-不動産の取得が1棟増え、第 1四半期末時点でグリーンビルディング認証を 有する大規模オフィスビルは 30% ( 前期比 +3pt)となった。ウェルネス認証は前期から取 得が増えず、9%(前期比±0pt)となった。

大規模オフィスビルの認証取得率(棟数ベース)

出所:USGBC, IWBI, Fitwel, IBECs, DBJ

注1)大規模オフィスビルは、東京・大阪・福岡の中心業務地区にある1990年以降に竣工した延床面積30 000㎡以上(東京)または15,000㎡以上(大阪・福岡)の賃貸オフィスビルを参照している。

注2)複数の認証を取得している物件については、最上位の認証制度で集計している。

注3)LEEDについては、1敷地内における複数ビルの開発を対象とするNDや、ビル内の一部のテナントスペースを対象とするID+Cを集計の対象外としている。

【特集】SSBJサステナビリティ開示基準

• SSBJが2025年3月にサステナビリティ開示基準(適用基準、一般基準、気候基準)の最終版を公表

• 2027年3月期から時価総額3兆円以上の企業に適用開始、2030年代にプライム全企業に適用の見込み

• 今後も生物多様性や人的資本など重要なサステナビリティ課題に関する基準を段階的に開発か

• 不動産業界については省エネや節水の強化、グリーンビルディング認証やエネルギー格付認証の取得等に期待

不確実性の時代でも前進する気候変動対策

不動産市場におけるトランプ関税の影響やESG関連対応の後退 を懸念する声も聞こえてくるが、日本の不動産市場において当 面その心配はなさそうだ。2025年3月時点における不動産賃貸 市場・投資市場の見通しはともに良好であり*、不動産のグ リーンビルディング認証取得件数も堅調に伸びている。2025 年3月にはサステナビリティ基準委員会(SSBJ: Sustainability Standards Board of Japan)からサステナビリティ開示基準が 公表され、国内企業の気候変動対策は着実に進むものと予想さ れる。

*参考記事:JLL『2025年、オフィスが再び「投資の花形」へ』

現在のサステナビリティ開示状況

SSBJ基準の適用に先立ち、企業内容等の開示に関する内閣府 令等の改正により、2023年3月期の有価証券報告書から「サス テナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄が新設され、 サステナビリティ情報の開示が求められている。開示するのは、 「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標及び目標」の4 つの構成要素(コア・コンテンツ)に関する情報である。現時 点ではSSBJ基準に厳密に従う必要はないが、将来的にはSSBJ 基準が重要な役割を果たす可能性が高い。現行のTCFDフレー ムワークを基本としつつ、国際的な動向やSSBJ基準の開発状 況を注視し、柔軟に対応していくことが望ましい。

SSBJの適用対象企業と適用時期

SSBJ基準は企業が直面するサステナビリティ関連のリスクと 機会を開示することにより投資判断の材料となるものである。

SSBJは適用対象企業を明確に定めていないが、SSBJ基準はグ ローバル投資家との建設的な対話に備える企業(プライム上場 企業)が適用することを想定して開発された。また、金融庁の 資料「サステナビリティ開示及び保証に係る動向」によると、

SSBJ基準は時価総額の規模により段階的に適用が義務化され る予定であり、時価総額3兆円以上の企業への適用は2027年3 月期から、プライム全企業への適用は2030年代となる見込み である。

ISSBサステナビリティ開示基準の開発 1990年代以降、さまざまな気候変動対策に関する情報開示基 準が策定され運用されてきたが、各国・地域の基準が統一され ていなかったため、国際基準の必要性が高まってきた。国際会 計基準(IFRS: International Financial Reporting Standards) 財団は、グローバルレベルでサステナビリティ報告の質と一貫 性を向上させ、投資家その他ステークホルダーにとって有用な 情報を提供することを目指して、2021年に国際サステナビリ ティ基準審議会(ISSB: International Sustainability Standards Board)を設立し、ISSB基準が開発された。2022年には気候 関連開示基準の草案が発表され、2023年6月にIFRS S1「サス テナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」お よびIFRS S2「気候関連開示」が公表された。

SSBJサステナビリティ開示基準の開発

この動きを受け、日本においてもサステナビリティ開示基準の 開発と国際基準の開発に対する意見発信を行うための体制整備 が必要であるとして、2022年に公益財団法人財務会計基準機 構(FASF: Financial Accounting Standards Foundation)の もとにSSBJが設立された。グローバルに展開する企業のサス テナビリティ情報開示について、国際的な比較可能性を確保す ることが求められたためである。SSBJは2024年の草案を経て、 2025年3月5日に「サステナビリティ開示基準」を、同年4月30 日に「有価証券報告書の作成要領(サステナビリティ関連財務 開示編)」および「SSBJハンドブック」を公表した。開示基 準はユニバーサル基準「サステナビリティ開示基準の適用」と、 テーマ別基準第1号「一般開示基準」、同第2号「気候関連開 示基準」から成る。

ISSB基準とSSBJ基準の差異

SSBJ基準は、国際的な比較可能性を大きく損なわないよう ISSB基準との整合性を重視し、原則としてISSB基準の要求事

項を全て取り入れながら、相応の理由が認められる場合には SSBJ基準独自の取り扱いを追加し、ISSB基準の要求事項に代

えてSSBJ基準独自の取り扱いを選択することを認めている。

なお、ISSBはS1「全般的要求事項」とS2「気候関連開示」の 2つの文書から構成されているのに対し、SSBJではISSBのS1 「全般的要求事項」をユニバーサル基準とテーマ別基準に分割 し、ISSBのS2「気候関連開示」にあたるテーマ別基準と合わ せて3つの文書から構成されている。また、Scope 2のGHG排 出量の報告において、ISSBではロケーション基準を採用して いるのに対し、SSBJではマーケット基準も併用することがで きるといった差異や、GHG排出量の測定方法について、SSBJ ではGHGプロトコルでの測定結果に加えてGHGプロトコル以 外の測定方法での結果を併せて開示することができるといった 差異もある。

予想される今後の展開

ISSBでは今後の重要なサステナビリティ課題として生物多様 性や人的資本等についてすでにリサーチを開始しており、段階 的に基準を開発していく可能性が高い。これはSSBJにも波及 するものと予想される。また、SSBJにおいても、サステナビ リティ関連のリスク及び機会を識別する場合にさまざまなガイ ダンスを参照している。「参照し、その適用可能性を考慮しな ければならない」ガイダンスとしては、米国サステナビリティ 会計基準審議会(SASB)が2018年に公表した11セクター77業 種の情報開示に関する「SASBスタンダード」が挙げられてお り、同スタンダードには環境(GHG排出、大気質、エネル ギー管理、水・下水管理、廃棄物・危険物管理、生態系への影 響の6カテゴリー)、社会資本、人的資本、ビジネスモデルと イノベーション、リーダーシップとガバナンスの5領域26カテ ゴリーの開示項目が規定されている。「参照し、その適用可能 性を考慮することができる」ガイダンスとしては、気候変動開 示基準委員会(CDSB)が2021年に公表した「水関連開示のた めのCDSBフレームワーク適用ガイダンス」及び「生物多様性 関連開示のためのCDSBフレームワーク適用ガイダンス」、グ ローバル・レポーティング・イニシアティブ(GRI)が2016年 以降に公表したサステナビリティ報告書を作成するすべての組 織に適用される「GRIスタンダード」、EUが2024年から適用 を開始している「欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)」 が挙げられている。つまり、企業は気候変動にとどまらない開 示を推奨されているといえる。

気候関連の具体的な開示内容

SSBJでは、Scope1, 2, 3すべてのサステナビリティ開示が求め られているため、それぞれの情報収集、GHGプロトコルに基 づくGHG排出量の集計、必要に応じて地球温暖化対策推進法 に基づくGHG排出量の集計が必須となる。さらに、気候関連 のリスク及び機会を識別する場合や開示する指標を決定する場 合に「参照し、その適用可能性を考慮しなければならない」と されている「IFRS S2号の適用に関する産業別ガイダンス」で は産業別に開示すべきトピックや指標が挙げられている。なお、 この産業別指標については、考慮した結果、開示トピックに関 連しないと判断した場合、適用しないことも認められる。

産業別ガイダンスにおける不動産関連産業の開示内容

不動産業界に求められているもの

産業別ガイダンスのうち不動産関連としては「エンジニアリン グ及び工事サービス」、「住宅建築業」、「不動産」、「不動 産サービス」がある。「エンジニアリング及び工事サービス」 および「住宅建築業」の指標には第三者による多属性(エネル ギー効率、節水、材料及び資源効率、屋内環境品質)サステナ ビリティ基準の取得件数などがあり、「不動産」および「不動 産サービス」にはエネルギー格付認証の取得率や面積などがあ る。なお、「不動産」産業の指標に関する各種定義はGRESB との整合が求められており、すでにGRESBに参加している企 業は産業別指標の開示が比較的容易と考えられる。

プロジェクト開発における環境インパクト (省略)

構造上の完全性及び安全性 (省略)

建物及びインフラのライフサイクルにわたるインパクト

住宅建設業 ハウスメーカー

不動産 REIT

サステナビリティ開示の動向を踏まえると、不動産業界におい ては、省エネルギーや節水など基本的な取り組みを推し進める ことが従来以上に求められるとともに、グリーンビルディング 認証やエネルギー格付認証といった第三者による認証も説得力 のあるエビデンスとして重要な位置づけとなることが予想され る。日本は気候変動に係る国際イニシアティブへの賛同・参加 表明企業数こそ多いものの、実行に移し高い評価を受けている 企業は多いとは言えない。日本のCO2総排出量の約3分の1をも 占める不動産に関わる我々から、気候変動さらには多様な環境 問題に対して率先して行動することが期待される。

第三者による多属性サステナビリティ基準の認証を受けた受注プロジェクトの件数等

事業構成に対する気候インパクト (省略)

土地利用及び生態系へのインパクト (省略)

資源効率的な設計

第三者の多属性グリーン・ビルディング基準の認証を受けた、引き渡された住宅の数等

気候変動への適応 (省略)

エネルギー管理

不動産物件セクター別のエネルギー格付を有する適格ポートフォリオの割合等

水管理 (省略)

テナントのサステナビリティ・インパクトの管理 (省略)

気候変動への適応

(省略)

不動産サービス 資産管理、仲介、鑑定、情報サービス サステナビリティ・サービス エネルギー格付を取得した、管理下にある建物の床面積及び建物の数等

出所:SSBJ資料をもとにJLL作成

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