サステナビリティ マーケット ダイナミクス 2025年第3四半期

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サスティナビリティ マーケットダイナミクス

Japan: SustainabilityMarketDynamics

Keytrends

1 2

グリーンビル認証は増加が続く

2025年第3四半期のLEED認証の取得件数は 19件で、2009年からの累計件数は352件、前 期比+5.7%となった。当四半期末時点で有効

な CASBEE- 建築を有する物件は前期比で

1.0%の増加となり、CASBEE-不動産は集合 住宅での認証取得が牽引し前期比で5.1%増加 した。

3

ウェルネス認証は減少に転じる

2025年第3四半期のWELL認証の取得件数は0 件で、当期末時点で有効な認証を有する物件

は51件、前期比-15%となった。Fitwel認証の 取得件数は6四半期連続で0件となっている。

当四半期末時点で有効なCASBEE-ウェルネス

オフィスを有する物件は前期比で5.0%増加し、 増加率の回復が続いている。

特別レポート: 不動産のエネルギー性能―理想と現実 サステナビリティ情報の開示義務化を前にグ リーンビルディング認証の取得が増えている。

一方、海外投資家を中心に不動産投資の判断 に利用されるのは気候変動リスクを評価する CRREM Pathwayだ。第三者による確認を経 て登録された国内唯一の運用エネルギー消費 量データベースといえる DECC データと CRREM Pathwayを比較し、CASBEE-不動産 認証のエネルギー評価レベルによる気候変動 リスクを調査した結果、2025年時点で多くの 建物がすでにCRREM Pathwayの逸脱年を迎 えていることや、CASBEE-不動産認証で最高 ランクを取得していても気候変動リスクの高 い物件があることが判明した。一刻も早いエ ネルギー性能向上に向けた建物運用の見直し や、空調/衛生設備の燃料転換、電気設備の 再生可能エネルギー導入が期待される。

主要指標

前期比+3.9%

グリーンビル認証(各認証の増加率の平均)

前期比-3.3%

ウェルネス認証(各認証の増加率の平均)

注釈:LEED、WELL、Fitwelは全ランク、CASBEE-建 築、CASBEE-不動産、CASBEE-ウェルネスオフィスは B+以上を対象とする。

出所:USGBC, IWBI, Fitwel, IBECs

Japan: SustainabilityMarketDynamics

LEEDはデータセンター2件を含む19件

• LEEDの第3四半期の認証取得件数は19件で、前 期比、前年同期比ともに増加した。当期にプラ チナを取得した事例として、Akasaka Intercity Air(LEED v4.1 O+M: EB)が挙げられる。

2009年からの累計認証件数は352件(前期比 +5.7%)となった。

• CASBEE-建築の第3四半期の認証取得件数は23 件で前期比、前年同期比ともに減少した。物流 施設での認証取得が半数を占めた。一方、当期 に有効期限満了となった件数は前期より少なく、 当期末時点で有効な認証を有する物件は529件 (前期比+1.0%)と増加した。

• CASBEE-不動産の第3四半期の認証取得件数は 137件で、前期比では減少、前年同期比では増 加した。集合住宅で認証取得の増加が続いてお り、当期の取得件数の6割を占めた。当期末時 点で有効な認証を有する物件は2,699件(前期 比+5.1%)となった。

グリーンビル認証物件数の推移(認証取得年別)

注)グラフ上では、CASBEE-建築をCASBEE-BD、CASBEE-不動産をCASBEE-REと表記している。CASBEEの認証取得件数はB+以上を対象としている。

Japan: SustainabilityMarketDynamics

ウェルネス認証物件数の推移(認証取得年別)

Wellness

WELLは14四半期ぶりに取得ゼロ

• WELLの第3四半期の認証取得件数は、2022年 第1四半期以来の0件だった。当期末時点で有効 な認証を有する物件は51件(前期比-15.0%)と 減少に転じたが、当期に有効期限満了となった 9件のうち5件は再認証の手続き中である。

• Fitwelの第3四半期の認証取得件数は0件で、当 期末時点で有効な認証を有する物件は5件(前 期比±0.0%)にとどまった。

• CASBEE-ウェルネスオフィスの第3四半期の認 証取得件数は9件で、前期比、前年同期比とも に減少した。一方、当期に有効期限満了となる 物件がなかったことから、当期末時点で有効な 認証を有する物件は190件(前期比+5.0%)と なり、増加率は若干増加した。

出所:IWBI, Fitwel, IBECs 公開データをもとにJLL

注)グラフ上では、CASBEE-ウェルネスオフィスをCASBEE-WOと表記している。CASBEEの認証取得件数はB+以上を対象としている。

特別レポート

不動産のエネルギー性能 ―理想と現実

DECC データと CRREM Pathway の比較

CASBEE-不動産認証取得物件の気候変動リスク

Keyinsights

1

気候変動リスクが高いと判断される不動産は対応

に迫られる

サステナビリティ情報の開示義務化を前にグ リーンビルディング認証の取得が増えている。

一方、海外投資家を中心に不動産投資の判断に 利用されるのは気候変動リスクを評価する

CRREM (Carbon Risk Real Estate Monitor) Pathwayだ。

2

グリーンビルディング認証のみでは不動産の気候 変動リスクを把握できない

CASBEE-不動産認証においてエネルギー性能は 評価項目の一部にすぎない*1。気候変動リスク を知るにはCASBEE-不動産認証のエネルギー評 価レベルとCRREM Pathwayとの照合による検 証が必要である。

3

省エネ法の削減目標(毎年1%削減)に則した建 物運用の継続では間に合わない

現行のCASBEE-不動産認証で最高ランクを取得 した建物でもCRREM Pathwayから逸脱しかね ない*2。エネルギー性能向上に向けた建物運用 の見直しや、空調/衛生設備の燃料転換、電気設 備の再生可能エネルギー導入が鍵となる。

*1 CASBEE-不動産認証は、DECCデータによる延床面積当たりの年間一次エネルギー消費量分布をベースに、5段階でランク付けを行いエネルギー性能を評価しているが、その配点は全得点の一部にしかすぎない。

*2 従来はCRREM Pathwayから外れることを「座礁(Stranding)」と称していたが、財務用語としての座礁資産と混同しないよう、現在は「逸脱(Misalignment)」という表現に変更されている。

情報開示で 注目される 不動産の 気候変動 リスク

サステナビリティに関する情報開示が国内外で 進んでいる。EUでは、金融機関や投資家の投資 先を規制する SFDR ( Sustainable Finance Disclosure Regulation:サステナブルファイナ ンス開示規則)が2021年3月に施行され、事業 主の事業内容を規制する CSRD ( Corporate Sustainability Reporting Directive:企業サステ ナビリティ報告指令)が2023年5月に発効し、

その具体的な報告項目等が ESRS(European Sustainability Reporting Standards:欧州サス テナビリティ報告基準)に定められている*3 。

国際統一基準としては、ISSB(International Sustainability Standards Board: 国際サステナ ビリティ基準審議会)が2023年6月にTCFD 提 言に沿った新たな非財務情報開示基準である IFRS S1「サステナビリティ関連財務情報の開 示に関する全般的要求事項」及びIFRS S2「気 候関連開示」を公表し、2024年から適用可能と なっている*4 。

*3 詳細はJLL「欧米の環境規制が促す日本不動産市場の変革」。

*4 詳細はJLL「不動産の脱炭素化を推進するグローバルツール」。

日本でも、2025年3月にSSBJ(Sustainability Standards Board of Japan:サステナビリティ 基準委員会)がサステナビリティ開示基準(適 用基準、一般基準、気候基準)を公表し、2027 年以降段階的に国内企業に義務化されることと なっている*5 。

*5 詳細はJLL「サステナビリティマーケットダイナミクス 2025年第1四 半期」。

投資家が不動産売買の際に

ESG情報開示内容に則して

不動産の評価を行うことが肝要

近年、不動産の価値を証明したり価値を高める ツールとして、グリーンビルディング認証やエ ネルギー性能評価を利用する事例が増えている。

一方、海外投資家を中心に投資判断を行うツー ルとして、不動産毎のエネルギー消費量やGHG 排出量を評価するCRREM Pathwayが使われて いる。気候変動リスクが高いと判断される不動 産は対応に迫られるだろう。

DECC× CRREMで

日本の現状 を知る

CRREMではパリ協定の1.5℃目標に整合する GHG排出量、CO2排出量、エネルギー消費量の 2050年までのPathway(削減経路)を国・セク ター毎に公開しており、CRREMのリスクアセ スメントツールを用いて不動産毎のデータと Pathwayを比較することにより、Pathwayを上 回る場合に支払う経済的負担や、Pathwayから の逸脱(すなわち、GHG排出量目標を達成でき ないことにより不動産価値が損なわれるリス ク)を回避するために必要な改修工事等の時期 や程度を確認することができる*6 。 *6 詳細はJLL「サステナブル不動産への道:エネルギー編」。

エネルギー消費量の実績値を

CRREM Pathway で評価し

国内不動産の実情を知ることが重要

CRREM Pathwayの構築にあたり、日本の商業 用不動産の基礎データ(エネルギー原単位 – 開 始値 [kWh/m²・年])として参照されたのが日 本サステナブル建築協会のDECC(Data-base for Energy Consumption of Commercial Buildings)である。2007年度から2018年度ま でに調査が行われた建物について、建物属性情 報、エネルギー消費量、水消費量等が公開され ており*7、第三者による確認を経て登録された 国内唯一の運用エネルギー消費量データベース といえる。その後データの追加・更新はされて いないが *8 、 DECC の公開データを用いて

CRREM分析を行うことにより、2017年度時点 での国内不動産の状況を把握することができる。

*7 https://www.jsbc.or.jp/decc/outline_level1.html

*8 CASBEE-不動産のエネルギー使用・排出原単位(実績値)の評価基 準として参照されているDECCデータも2017年度までの実績値に基づく。

全国で 対象建物の 過半数が ハイリスク*9

JLL では 、 DECC にデータが公開されている 44,435件の建物を対象としてCRREM分析を行 い、各建物についてCRREM Pathwayからの逸

脱年 ( Misalignment Year ) を算出し 、 セク ター別や建物規模別の実態を調査した。

①-a エネルギー消費量による逸脱年

各建物について、エネルギー消費量から逸脱年 を算出し、各年に何件の建物が逸脱年を迎える かをグラフ化した。

①-b エネルギー評価レベル別逸脱年

対象建物をCASBEE-不動産認証のエネルギー評

価基準に基づきレベル1~レベル5に分類し、各

年に何件の建物が逸脱年を迎えるかをグラフ化 した。

何も対策をしなければ

CRREM Pathway から外れる“逸脱年”は 気候変動リスクが高まる警告年

*9 2017年度時点のデータに基づく。

最新の状況を把握するためには、 DECCまたはそれに代わるシステム による更新が必要である。

② GHG排出量による逸脱年

各建物について、エネルギー種毎のエネルギー 使用量をCO2排出量に換算のうえ逸脱年を算出 し、各年に何件の建物が逸脱年を迎えるかをグ ラフ化した。

CASBEE認証のエネルギー評価レベルとは

CASBEE-不動産認証では、電力・ガス消費量 の年間実績値を一次エネルギー消費量に換算 し、建物の延床面積で除して一次エネルギ消 費原単位(MJ/㎡年)を求め、DECCデータ に基づく建物規模別の原単位頻度分布におけ る位置により5段階(原単位の大きいレベル1 ~原単位の小さいレベル5)に分類している。

つまり、原単位の大きいレベル1は低評価、 原単位の小さいレベル5は高評価となる。

レベル1:下位10%未満

レベル2:下位10%以上25%未満

レベル3:下位25%以上~上位50%以下

レベル4:上位25%以上50%未満

レベル5:上位25%未満

出所:CASBEE-不動産 評価マニュアル(2024年版)

① a エネルギー消費量による逸脱年

➢ 2025年時点で70%の建物が逸脱年を 迎えている。

➢ 建物規模が大きくなるにつれて逸脱年 が早くなる。

➢ 2025年時点で90%弱の建物で逸脱年 を迎えている。

店舗*10

➢ 2025年時点で85%以上の建物が逸脱 年を迎えている。

➢ 母数の大半を占める百貨店等で2025 年時点に95%弱の建物が逸脱年を迎 えている影響が大きい。

*10 本調査における店舗は、百貨店等(デパート・スー パー)、家電量販店、郊外大型店舗、その他(その他物販、 一般小売)を対象としている。

調査結果の調査についてはお問い合わせください。

➢ レベル1~3の建物のほとんどが2025 年時点で逸脱年を迎えている。

➢ レベル4~5の建物でもそのほとんど が2033年までに逸脱年を迎える。 ホテル

➢ レベル1~4の建物のほとんどが2025 年時点で逸脱年を迎えている。

➢ 最高位のレベル5の建物でもそのほと んどが2033年までに逸脱年を迎える。

CASBEE-不動産認証では、DECCデータによる 延床面積当たりの年間一次エネルギー消費量分 布をベースに、5段階でランク付けを行いエネル ギー性能を評価しているが、その配点は全得点 の一部にしかすぎない。

JLLでは、CASBEE-不動産認証を取得した物件 についても同様に、一次エネルギー消費量(実 績値)をCRREM Pathwayで評価し、認証ラン クと逸脱年の関連性を分析している。分析結果 をまとめたレポートは順次発行予定である。

オフィス

➢ 2025年時点で70%の建物が逸脱年を 迎えている。

➢ 建物規模が大きくなるにつれて逸脱年 が早くなる。

ホテル

➢ 2025年時点で85%の建物が逸脱年を 迎えている。

店舗*11

➢ 2025年時点で90%弱の建物が逸脱年 を迎えている。

➢ 母数の大半を占める百貨店等で2025 年時点に95%弱の建物が逸脱年を迎 えている影響が大きい。

*11 本調査における店舗は、百貨店等(デパート・スー パー)、家電量販店、郊外大型店舗、その他(その他物販、 一般小売)を対象としている。

※ 調査結果の詳細についてはお問い合わせください。

Conclusion

情報開示の義務化を前にグリーンビル ディング認証の取得が増えるなか、実際 に認証を取得した不動産のエネルギー消 費量やGHG排出量がCRREM Pathwayで どのような評価になるのかを把握する必 要がある。DECCデータを用いてCRREM 分析を行った結果、2025年時点で多くの 建物がすでに逸脱年を迎えていることや、 CASBEE-不動産認証で最高ランクを取得 していても気候変動リスクの高い物件があ ることが判明した。

DECCは2017年度までのデータに限られ ており、それ以降に建築された建物のエ ネルギー性能は改善していると考えられ るものの、全国には2017年度時点で建築 されていた建物のほうが圧倒的に多く存 在する。CRREMの過度な理想論には調整 も必要だが、世界に後れを取る日本は更な る努力が必須である。一刻も早いエネル ギー性能向上に向けた建物運用の見直しや 空調/衛生設備の燃料転換、電気設備の再 生可能エネルギー導入が期待される。

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