Brevis fabula 光の乙女と夜空の王

WORDS WOODS 2014

BREVIS FABULA

光と闇の物語

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Memen / ASURAWILL

THEORIA ANIMI

kokoronorikutu

光の乙女と夜空の王 目次 夜空の国 ......................................................... 2

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夜空の国

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今は昔、ここより遥か東の果てに広大な領土を持 つ王国がありました。その国の名をイリアソエルと言い ます。山々に囲まれた強い国として、人々に支持さ れ長く栄えていました。

その国を少し離れ、いくつかの山を越えたところに もうひとつの国がありました。その国の名はシンラウルと 言います。湖と山がひとつあるだけの小さな国でした。

その国は、そこに住む人々から夜空の国と呼ばれ ていました。なぜならその国では、子供が生まれると、 夜空に輝く星にみたてて名前をつけ、お前はあの星 WORDS WOODS 2004

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の元に生まれてきたのだよと語り聞かせてきたからで す。

夜空の国の王は、変わり者と呼ばれ国民に愛さ れていました。性格はとても温厚で、国内で子供らを 見れば笑いかけ、大人たちに会えば仕事を手伝い 楽しそうに喋るからです。

「ここはイリアソエルよりも住みやすいんだけどな。 王がいつまでも独身ってところが、俺たちの悩みの種 だよな。」

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男たちはそう言いあいながら、仕事に出かけていく のが挨拶になっていました。

「やれ税金だの、やれ国事に参加しろだの、やれ 戦争だのいう王のいる国よりもずっとマシだけどね ぇ・・・。いいお嫁さんが早くこないかねぇ。」

女たちはそう言って家事に勤しんでいました。

「王様と遊ぶと、途中で何か考え事をはじめるから つまらないよ！」 WORDS WOODS 2004

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男の子たちは口々にそういいながら、毎日野山を 駆け回り楽しそうでした。

「私は王様のお城が好き。だって綺麗なお花とか、 景色とかいっぱい見られるのだもの。」

女の子たちはそう言いながら、毎日お城に行き草 花や景色を楽しんでいました。

さて、そんな王様ですが、このところ何かに悩んで いるようでした。近頃はどうしたわけなのか、街で会う WORDS WOODS 2004

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誰とも会話をしようともせず、なにかをずっと考え込ん でいるようでした。

大人たちはいろいろな憶測をたて、どうしたものか と頭を悩ませています。

「普段からいてもいなくても大差ない王だけど、あ んなふうに思い悩む様を見せられるとなんかしてやら なきゃって思っちゃうよな」

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毎晩のように男たちはそう言い、酒場で酒を煽っ ていました。

「なんだっていいから飲む口実が欲しいんでしょ。」

女たちはそう言って料理を作り、楽しんでいまし た。

子供たちだけが、王の悩みを知っていました。です が子供たちは、王の秘密を大人たちに言わないよう、 一様に口をつぐんでいました。 WORDS WOODS 2004

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そうして、とある夜のこと。

「なあなあ、あれってやっぱ、王様だよね？」

男の子たちが草陰からこそこそと話しているのが聞 こえます。

「ねえねえ、あれって・・・妖精さん？」

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女の子たちも同じ草陰から、頬を赤らめたようなこ そこそ声で話しているのが聞こえてきます。

子供たちはこの夜、互いに手を取り合って国の象 徴とも言える湖へと、夜の散歩へと出かけてきまし た。

大変治安のよいこの国では、夜に子供たちが互 いの家を行き来することが当たり前になっていたので す。そうしてこの夜はたまたま、誰かが湖に行こうと言

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いだし、そうしてみなで遊びにと出かけてきたわけで す。

そこに、王がやって来ました。

「ねえ、やっぱりそうだよね？」

女の子たちが、そう言って驚いています。

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「あれって、そうなのかな？」

男の子のひとりが、好奇心から王の前に出ようとし ました。すると女の子たちが、

「駄目！邪魔したら駄目！！！」

そう言って男の子を押さえつけました。

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見ると湖のほとりには、黒衣をまとった王が光り輝く 乙女といました。

その様子はまるで絵本のようで、女の子たちはうっ とりとしていました。

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「そなたに今夜も会いに来てしまった。もう来ては いけないと思いつつ何度も足を運んでしまう。・・・そ なた、私に何か呪いでもかけたのか？」

王がそう言うと乙女は微笑んで答えます。

「あなたのそれは、私がかけた呪いではなく、あなた があなたに自分でかけた呪いだと思います。」

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クスクスと笑う乙女の声が、子供たちの耳にも届 いてきます。

「ねえ、すごく可愛い声」

女の子がそう言うと、男の子たちはうなずきまし た。

「かわいいなぁ・・・」

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男の子たちがそう答えると、女の子はそれぞれに、 男の子のお尻をキュッとつねりました。

その間も、王と乙女の会話は続いています。

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「これは私が自分にかけた呪いなのか・・・」

真面目な王はそう口にすると、思い悩むように頭 をかかえました。

「どうしたら・・・呪いを解くことができるのだろう か？」

その言葉に、乙女が答えました。

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「解いてしまいたいの？そのまじない？」

王はその言葉に暫く黙り込み、そして言いました。

「・・・できるならば、このままでいたい。」

乙女の声が、明るく答えを返します。

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「ならば王よ、私に贈り物をください。そうすればそ の想いをずっと手にしたまま、思い悩まぬようにするこ とができます。」

乙女の申し出に、王は暫く考えました。

「このままだと・・・。私は王として皆の前に立てぬ。 男たちを気持ちよく働かせることも、女たちを笑顔に することも、子供らに愛を与えることも、ここ数日の間 何一つできないでいる。」

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王の答えに同情し、乙女は悲しくなりました。

「・・・だが、この気持ちは手放したくはない。」

つづく王の言葉に、乙女は嬉しくなりました。

「ならば王よ、再び言いましょう。あなたにとって大 切なものをお与えください。そうしたら王よ、その想い のままで皆の前に立ち、今まで以上に皆を幸せにす ることができるようになるでしょう。」

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王は暫く乙女の瞳を見つめ、そうしてたずねまし た。

「乙女よ・・・そなたは何を望む？望むものがあれ ば何なりと与えよう。」

乙女は困った顔をして答えます。

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「王よ、それは私に聞いてはいけないというのが、 古からの決まりなのです。それをお決めになり、与えて くれるのが、あなたの役目なのです。」

王は乙女の瞳から目を離せずに、聞きました。

「ならば・・・我が城の秘宝とされる宝石はいかがだ ろうか？」

乙女は悲しそうに答えました。

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「王よ、あなたの大切なものをお与えください。」

そう言われ王は、暫く考えてから乙女の目を見て 言いました。

「それでは乙女よ、この石を与えよう。これは、夜 空の秘密が集まり形を成したこの世にひとつの宝物。 これを手にすれば望むものがなんであろうと手に入 る。」

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乙女はさらに悲しそうに答えました。

「この世の如何なるものも私は欲しませぬ。ただひ とつ、王よ・・・、あなたが一番に大切にしているもの 以外には。」

王はその言葉を聞き、少し驚いたように後ずさりま した。そうして少し考えたあとで、乙女の瞳をみつめま す。そうして意を決したように言いました。

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「では、この命を捧げよう。」

乙女はとても驚き、刀を握り構える王の腕にしが みつきました。

「王よ！なりません！その手をお収めください。その 命は多くの民のためにあるもの。それはあなたのもの ではありませぬ！」

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乙女の言葉に王はいよいよわからなくなり、刀を 鞘に収め、聞きました。

「では、何が欲しいと言うのか？乙女よ。」

乙女は王の腕にしがみついたまま、黙り込んでい ます。

「乙女よ・・・。」

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王はたまらず何かをいいかけました。すると、

「王よ・・・。」

夜空に月がまんまるに輝き、二人をじっと照らして います。その月明かりの下、子供たちは黙ったまま、 王と乙女の様子を息をのんで見ています。

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「乙女よ・・・。汝に我が心を・・・」

「王よ・・・。あなたに私のすべてを・・・」

月の光が湖面を輝かせ、王と乙女の影が重なっ ていきました。淡い光が湖面で踊り、空にきらめく 星々の宴が、きらきらと輝いています。輝きを前に二 つのシルエットが重なり、子供たちはまるで夢を見てい るようでした。

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こうして王の悩みは、星と月と子供たちの秘密とな りました。

それからしばらくして、夜空の国に新しいお妃がむ かえられました。それをしった大人たちは、口々に喜び とお祝いの言葉を並べ、ふたりを祝福しました。

国はその後も長く栄え、みな幸せにくらしたというこ とです。

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おわり。

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光の乙女と夜空の王

著作： Memen Crital H/B ASURAWILL 写真： The Queasy Photograph 編集： COCOROZASI.NET

Copyright©2015 COCOROZASI.NET

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