支えていくということいま、帰還した人々を

年近くにわたり続いたシリア危機とそれに伴う避難生活。一度なら ずも、二度三度と避難を余儀なくされるということ。こうした過酷な日々 を生き抜いた多くの人々にとって、故郷に戻り暮らせるかもしれないと いうことは、何よりの報せです。アサド政権の崩壊後、シリアの先行き はいまだ不透明なものの、長期にわたる避難生活を送っていた人々にいま、 帰還という希望の光が見え始めています。すぐに行動に移す人、様子を 見ながら帰ることを心待ちにする人、先に戻った人々に様子を聞く人、 それぞれのペースで故郷に帰ろうとしている人が増えているなか、国内 外からすでに帰還した人々はさまざまな支援を必要としています。生活を建て直し、再び故郷で生きていくために。 破壊された故郷。それでもここで生きていきたい。

万人以上のシリア人が帰還したと推定 もみられ、推定 180
万人以上が国内各地から 帰還しています( 2024
年 11月 27 日以降)。 住 ( 55
日のアサド政権の崩壊後、シリ アの状況は一変し人々の帰還に希望の光が見 えてきました。周辺国では帰還を前向きに考えるシリア難民が増え、帰還民が大幅に増加。 シリア国内には治安状況に不安が残る地域が あるものの帰還の流れは続いており、政権の 崩壊以降、
年 9 月 3 日時点で周辺国 経由で 86
のは、変わり果てた姿の我が家でした。壁が 崩れていたうえに窓やドアもなくなっていた ので、すぐに修理をしなければならなかった といいます。破損した家の様子を語る厳しい表情の一方で、自然と顔がほころぶのが、故郷 への思いを口にするときです。「破壊されつくした状況にもかかわらず、私たちはこの国、 そして自分たちのコミュニティを愛していま す。それは環境であり、隣人たちです。この 国のこうした美しいものが、故郷というもの のような気がするのです。だから私たちはこ こにいるのです」。
帰還した多くの人々の例にもれず、故郷に戻ったナディームさん(
年
った時、家はほとんど壊れていました」。
12月 8
歳)を待っていた
44
「私たちはこの国、 そして自分たちの コミュニティを 愛しています」


家族とともにテント生活を送るサナさん

【シリア・イドリブ】故郷に戻り、壊れた家の前でテント生活を 送る人々

ナディームさん一家。損壊したダラアの家の庭で
「何もみつからず、途方に暮れていました。 そしてふとした瞬間、がれきの中に見覚えのあるタイルのかけらがあることに気づきました。 残っていたのは、それだけでした。」サナさ んにとってこの床のタイルのかけらは、かつ
部に位置するイドリブの農村部に身を寄せていたサナさんと夫は旧政権の崩壊直後、 家の状況を把握するために故郷に戻りました。 しかし、家は跡形もなくなっていたといいます。
シリア情勢 2011~2025
のものを奪い、破壊しつくしました。故郷に 戻ってきても、家が完全に破壊されていてむことができない人々は多くいます。サナさん 歳)は家を失った一人です。シリア北西
● 2011年「アラブの春」、それと連動してシリアでも内戦が発生
● 14年近く続いたシリア危機は世界最大規模の難民危機に
● 2024年12月アサド大統領支配下のシリア政府崩壊により情勢が大きく変化
● 帰還に向けて動き始める人々が増加
● 地雷、電力不足、インフラ破壊、高失業率など、復興と安全に多くの課題が残る
直近のシリアの状況
その他の国々
されています。このような傾向は国内避難民に かし、長期にわたる紛争はあまりに多く
709万人
てそこにあったものを思い出させるつらいも のであると同時に、家族の安定や帰属意識を 取り戻す希望の象徴でもあるといいます。
周辺国経由で帰還したシリア人
出典:【周辺国経由で帰還したシリア人】Regional Flash Update #43 Syria situation crisis 4 September 2025 【国内の避難先から帰還した人々、国内避難民】UNHCR CORE Syria governorates IDPs and IDP returnees overview as of 3 September 2025 【周辺各国のシリア難民】data.unhcr.org/en/situations/syria(最終アクセス日:9月12日) 【ドイツ、その他の国々に身を寄せるシリアからの難民と庇護希望者】グローバル・トレンズ・レポート 2024
は難民や国内避難民が自らの意 思で帰還を決断し、それが安全かつ尊厳のあ るものとなるよう努めるとともに、損壊した 住居の修繕、基本的なサービスやインフラの 復旧をはじめ、人々が故郷で一から生活を立 て直すうえで必要な支援に尽力しています。
(各国に避難していた帰還民の割合)

帰還した家族の暮らしに寄り添う

族が故郷に戻った時に、元の住まいで安全に暮らせるようサポートする持続可能なシェル
シェルター・パッケージ・プロジェクトにより住まいは再び息を吹き返しました。「ヒーターや照明、蛇口、シャワーも取り付けてくれました」と、シャハーダさん。 設置したソーラーパネルは、送電網に接続されていないこの地域で 重要な役割を果たしています。 同プロジェクトは帰還民の家
故郷で再びふつうの暮らしを送ることができる喜びを物語っているかのようです。 帰還した直後、家はドアや窓、建具などがすべ てなくなっていた状態でした。「ドアの部分を毛 布で覆い、私たちはここで一から始めました」と シャハーダさんは言います。当時は自力で住まいを修繕できる経済状況になく、
日々の暮らしの要
支援のかたち
シェルター支援、住まいの修繕
年前にアレッポ南部の村に戻ってきた
シャハーダさん( 65 歳)の一家。家族の笑顔は、
「ドアの部分を毛布で覆い、 私たちはここで一から始めました」
住居の支援 4
多くを失いました。イクリマさんはシリアで 息子2人が投獄され、さらに野戦病院を運営 しているという疑いをかけられて家が砲撃を 受け、ヨルダンへ逃れました。避難生活の間 にイクリマさんの妻は病気で亡くなり、娘の バスマさん(
多くは孤児となった子どもたちです。 対象に UNHCR
人の孫の面倒を見ており、その
から一度のみ給付される
400 4759 9 月 4 日時点)。
失いました。現在、イクリマさんとともにバ スマさんは 15
ともについにシリアのダラアに戻ってきた イクリマさん(
故郷での帰還民の再スタート
を受け、家屋の修繕が行われました(
現金の給付支援帰還の流れを安定化させ、コミュニティの回復力 を強化する上で重要なサポートです。アレッポ南 東部の
歳)は紛争下で子ども
年以上避難生活を送り、娘と
歳)。この
を支える ヨルダンで
世帯がこの支援の恩恵
年で、一家は

4 つの村では 106
4 月末時点)。
シャハーダさん一家 修繕されたシャハーダさんの家の外観。シェルター支援の一環と して、外壁補修工事のほか貯水タンク、ソーラーパネルも設置 【シリア・イドリブ南部】全壊家屋と一部損壊家屋の分布を確認するUNHCR
人の娘のアワティフさん



今年6月下旬にはグランディ高等弁務官がモハメドさんのお店を 訪問 モハメドさんは事故で腕を失ったものの、2人の従業員のサポートを受けながら店の ほとんどの業務を自身でもこなす
コミュニティセンターでこの助成に申し込み、 プロジェクトが承認されたのです。お店を開き、 モハメドさんの生活状況は大きく改善したと いいます。夢は
小規模事業の助成を受けて、モハメドさん はアレッポでファラッフェルやフムスを売る お店を開きました。
人道支援を必要としている大変厳しい状況にあります。多くの地域で治安情勢が脆弱であることに加え、経済状況も依然として深刻です。 こうしたなかで、人々が生活を再建していく うえで欠くことのできない支援のひとつが小 規模事業の助成です。
シリアに多くの人々が戻りつつあるいま、 同国は人口の約
シリア国内におけるUNHCRの主な支援
緊急救援活動
● シェルター/住居の修繕や救援物資の提供
● 帰還した人々が故郷に移動する際の支援
号店を開いて事業を拡大する
保護・生活支援
● コミュニティセンターを通じた保護・生活支援
● 身分証明書など法的書類のサポート
● 自立支援(特に小規模事業、農業分野)
現金の給付支援
医療費や生活費など、各家庭のニーズに沿った
支援が可能になる命を守る現金給付の実施
はプロジェクトを開始する資金を提供。イマンさんは
年 11 月、衣料品店をオープンし
一家はドゥーマに戻り ましたが自宅はがれきと化していました。そんな失意の中で訪れたのが、新たなチャンスでした。 申し込んでいた生計プログラムのプロジェクトが承認されたのです。 「それは自分の衣料品店を持つと いう、何年も抱き続けてきた夢でした」とイマンさん。
ました。売れ行きは好調で、ビジ ネスは順調に成長しているといいます。「支えてくれたチームに感謝しています 」 とイマンさん。
年、夫は飼料を集めている最中に 連行され、刑務所で亡くなったといいます。 さらにその後、紛争で息子一人を失いました。 残された家族は国内で避難生活を送り、イマ ンさんは子どもを養うために衣料品店で働き ながら家賃と食料に必要なお金を必死に工面 してきました。その月日は毎日が闘いだった といいます。 昨年、
小規模事業の助成
再び自ら立ち上がり、 暮らして いくために
7 割にあたる
1650
イマンさんと家族は農場で暮らしていましたが、 2012
こと。収入を増やして家を購入し、家族が家 賃の負担から解放されることが目標です。
ダマスカス郊外のドゥーマに住むイマンさん ( 43 歳)も助成を受けた一人です。紛争前、
「もう傷ついているとは思いません。
私はいま、自分の足で立っているのです」

「私の暮らしはまったく別のものになりました。服、家族との関係性、考え方。もう傷つい ているとは思いません。私はいま、自分の足で立っているのです」とイマンさん

ただ、過半数の人は依然として様子を見ていて、その背景にはシリアの状況が経済的にも政治的にも、また治安的にもこの先どうなるのかまだ読めないということがあります。破壊されたままの家屋やインフラ、電力不足、地中に残っている地雷の問題に加え、経済

の崩壊です。それ以降、周辺国で暮らしていたシリア難民たちの帰還に対する考え方は大きく変わりました。
まではシリアにすぐに帰りたいと思っていた人はほどんどいませんでしたが、昨 年 12 月以降、帰還が大幅に増えています。


12月 8 日の旧政権
多くの人々にとって、子どもたちの 教育環境も大きな関心のひとつ。
シリア国内の学校の多くは修復が 必要な状態にある
ダラアに戻ってきた子どもたち。外壁の いたるところに戦闘の名残がみられる。 首都ダマスカスなどでも少し移動した だけ破壊が目立つ状況だという
そういったなかで入ってきた新政権は、 最近では経済制裁の緩和についても発表されて外交的成果も出ています。ただ、 政権が引きついだシリアの状況は大変な状況で、まだまだ時間がかかるかと思いますが、インフラや社会サービスなどで市民が実感できる成果が出せるかどうか が今後の になると思います。 治安も安定しているわけではなく、 旧政権側の地盤である北西部地中海側の地域で大規模な武力衝突があったりと人道的に懸念される事態が起きたり もしています。 シリアはあまり大きな国ではないのですが、宗教や民族、コミュニティなど、
もまだ復興できていないという状況ですので様子を見ている人が多いのです。
いろいろなアイデンティティの軸があり、非常に複雑な国です。そのようななかで、人々のいろいろな見解や期待、不安が入り混じった状態がいまのシリア といえるかと思います。
シリアのいまとこれからを 考えるうえでのポイント
● 半世紀以上の圧政の終焉と 経済制裁の緩和などの外交的成果
● 市民が実感できる成果を出せるかどう かが (インフラや社会サービスなど)
● 政治・治安の安定化に苦心
現地レポート 三浦職員に聞く、シリアのいま
UNHCRシリア ダマスカス事務所
現金給付支援プログラム担当官として最前線で支援活動にあたる 三浦貴顕職員に、いまのシリアについてお話を伺いました。
一方で、長期にわたる危機による心の 傷というのはいまだに見受けられ、情勢が安定しないなかで少しでも事件などが起きると、その傷をえぐり返されてしまうことにつながりかねないということを感じる場面もあります。先日はこんなことがありました。私は現地の人々のオーケストラに所属しており、
月にコン サートを予定していました。当日待機していると、突然主催者の方が騒然とした様子になったので何が起きているか聞いたところ、コンサート会場から
5 分ほど のところにある教会で自爆テロが起きたということでした。これはすごくターニングポイントになる出来事でした。少なくとも私が着任した
という質問です。限定的とはいえ、国内各地で武力衝突が続いているため一概に安全とはいえませんが、イメージとは異なり一般犯罪はさほど多くありません。 特徴として、コミュニティのつながりがとても強くモラルが崩壊していないということがあり、それはすごく奇跡 的な社会資本といえると思います。
シリアに来てから一番聞かれること が「治安は大丈夫?危なくないの?
シリアの治安状況
2023
いまなぜ現金の給付支援が 必要なのか
急支援やシェルター、国境からの帰還民の移動のサポートをはじめ、 ほぼすべての分野で支援を実施しています。提携先の NGO が運営して いるコミュニティセンターで生活不安などを伺って、どのようなニーズがあるかを特定したうえで支援をしています。 そのひとつが身分証明書の発行などの法的支援で、身分証明書がないとさまざまなサービスにアクセスできないのでとても重要な支援です。現金の給付支援も身分証明書があることで受けられるようになります。私は現金給付を実施できるかどうかという判断や実施後の受益者の聞き取り調査をはじめ、現金の給付支援の 全 工程に携わっています。
年以来、 UNHCR


【シリア・イドリブ】援助物資の配布場所 に集まる帰還した人々

ロジスティックなどにかかるコストが抑えられるのもメリットのひとつです。 また、受益者の方が地域でお金を使うと地域社会も潤い、実際に買い物をすることで普通の市民として地域に統合 されていくことにも寄与します。 「現金給付」と聞くと、銀行口座にお金が振り込まれることを想像されるかもしれません。しかし、いまシリアは紙幣をあまり刷っていないので銀行口座にお金があっても引き出せません。 こういった状況では銀行口座への送金は機能しないので、銀行の支店で米ドルを給付しています。支援者側が受益
【シリア・ダマスカス郊外】現金給付を通じた 住居修繕プロジェクトの受益者の家庭を訪問 する三浦職員(右から2番目)
しないので、きちんとデータを揃えられるかがになります。 帰還のフェーズにあたっては、UNHCR 辺国で支援を継続してきたことによって帰還民のしっかりしたデータベースを持っているということが強みになっていて、支援の実施につながっています。
者のデータを持っていないとこの支援 は成立
シリアでは昨年末から帰還民が増えており、現金給付をはじめ、幅広い分野で支援のニーズが増加しています。いち早く戻ってきた人々がうまく定住できるかどうかが今後を左右することになるので、 いまはとても重要なフェーズなのですが、 活動資金不足により
減される見込みで大変厳しい状況です。 シリアでは、日本は欧米とは一線を画した存在感があり、昔から何十年もかけて支援を通じて培われたとても強い信頼、 親日感情というものがあります。どうぞ今後も、日本からシリアに関心を寄せ続けていただければ幸いです。
2025年に予想される 国外からの シリア人の帰還
現金の給付支援がもたらすもの
● 効果的・効率的な支援
● 地域社会への経済的貢献 →経済の復興にも貢献
● 帰還民の地域統合の実現 など
*周辺国以外からの帰還民も含む
2025年に予想される シリアの 国内避難民の帰還 150万人
200万人
出典:グローバル・トレンズ・レポート
国外からの難民の帰還の推移 国内避難民の帰還の推移
の支援は続いています。紛争 や迫害により避難を余儀なくされた人々が十分な情報をもとに安全に帰還できる時期を決められるようサポートし、自主的かつ尊厳のある帰還にすること。そして、人々が生活を再建できるよう支えていくこと。これは、帰還に際して決して欠くことのできない支援です。
必要な条件
● 貨幣経済、金融サービスへのアクセス
● 支援団体が受益者のデータを 保持していること
● 受益者が身分証明書を持っていること
帰還に希望の光が見えたときも、 UNHCR
2024年、世界で 980万人 が 帰還しました
160万人の難民が 出身国に帰還しました (2023年比54%増)
帰還に際する支援はUNHCR の重要な 任務のひとつです。
820万人の国内避難民が 故郷に帰還しました (2023年比61%増)
出典:グローバル・トレンズ・レポート 2024
2700人)、南スーダン(

万人以上の難民が117の出身国に帰還しました。2002年以来、年間で最多の難民帰還者数となり、 シリア(
2024年は計
の庇護国から160
万4700人)、 アフガニスタン( 36 万4400人)、ウク ライナ( 20 万9100人) からの帰還民が 全体の 92 %を占めています。国内避難民 は820万人以上が帰還したと推定さ れ ており、史上2番目の高水準となり ました。 しかしながら、2024年に多くのアフガニスタン人が非常に厳しい環境下で故郷に戻らざるを得ない状況に追い込まれたほか、国内避難民の帰還と同時に新たに大規模な避難が報告されている国もあるなど、帰還の多くが厳しい政治状況や安全保障のもとで起こっているのもまた事実です。UNHCRは、今後も難民や国内避難民が安全かつ尊厳をもって自発的に帰還し、故郷で生活を再建できるよう支援に尽力していきます。
51

父さんとお母さんはどこにいるの? 」 私の質問に空を指さす少女。空爆で 両親を失いたったひとりになった シリア人の少女は、親戚に引き取られてギリシャ まで逃れてきていました。こう いった経験をしている人々が、 難民になっているのか。そう 痛切に感じた出来事でした。 あれから10 年が経ち、私はい まトルコで第三国定住* 担当 官として難民支援に携わって います。
From the Field
ウトし、建設現場で働かざるをえない状況に追 い込まれているということが起きているのです。
第三国定住は子どもたちの権利を守り、彼らが 新しい国で教育を受ける機会を提供することに もつながる大切な施策です。
しかし、いま各国では第三国 定住の枠がさらに狭められ つつあり、難民の方々をめぐ る状況は以前にも増して厳 しいものになっています。
難民支援の現場から

昨年12 月のアサド政権の崩 壊後、トルコからは 8月末時点 で45万人以上がシリアに帰還 していますが、この国にはまだ 200万人近いシリア難民の方 たちがおり、中にはさまざま な事情により帰還できない 方々もいて、多くの人が支援を 必要としています。偏見を持た れたり差別を受けたりしやすいシングルマザー とその子どもたち、LGBTI の人々、特定のマイノリ ティグループの人々をはじめ、国に帰ることので きない人たちも少なからずいるのが現状で、第 三国定住のニーズも依然としてあります。 先日お話を伺ったトランスジェンダーの女性 の方も国に帰ることのできない一人でした。彼女 はこれまでトルコで友達と一緒に生活すること でやっと生活できていたのですが、友人が皆シ リアに帰ることになり、一人になって家賃も払え なくなりました。ホームレスとして路上で暮らし ていると暴力を受けるリスクも高くなるのです が、いまは住所もないので政府が発行している ID も失効し、骨折しているのに治療も受けられ ないという状況です。第三国定住の可能性も含 め、どうにか彼女を支援できないか模索してい ます。しかし、各国の拠出金の削減により現在 UNHCRは深刻な資金不足に直面しており、彼女 のようにトルコで支援を必要としている人々へ のサービスの質の低下が懸念されています。
牧野 アンドレ まきの・あんどれ
ケースワークを行うアンカラの事務所で
こうした日々のなかで、時 おり訪れる喜ばしい瞬間は やはり、難民の方が無事に 第三国に出発できたことが わかった時です。特に印象に 残っているのは、2023 年2月 にトルコ南東部で起きた地 震で家族を失った19 歳のシ リア人の女性が第三国に受 け入れられたときのことで す。彼女は一人で買い物に出 ている時に地震が起き、家が倒壊して家族を亡 くしました。帰る家もなく家財道具もすべて失い、 かつ女性一人で暮らしていくのは本当に大変な ことなので、プロテクションチームとも連携しな がら彼女の安全を第一に考え、はじめのケース ワークから数か月以内にお姉さんが暮らすカナ ダに送り出すことができました。ひとりの難民の 方の人生に少しでもポジティブな影響を与えら れるよう支援できたことをとてもうれしく思い ました。
この仕事には人の人生がかかわっているとい うこと。そのことを、いつも忘れないでおきたい と思っています。それは自分が仕事を続ける活 力でもあり、また一方で、重い責任を伴うものだ ということを肝に銘じています。各国の情勢な どにより拠出金が減り、UNHCRも厳しい局面に 立たされるなか、民間の方々からの変わらない ご支援は大変大きな力になりますし、とても励 みになっています。そしてその思いに応えていか なければと強く感じています。

【ヨルダン・ザータリ難民キャンプ】 「子どもたちとともにシリアで 新たな生活を築いていきたい です。だからいま、帰還をとても 楽しみにしています。電気関連 のプロジェクトで多くの経験を 積みました。この知識を、シリア の再建に役立てたいです。近い 将来、帰還した人たちにとって 素晴らしい日々が待っているこ とを願っています」と、ファリス さん(写真中央)。難民キャンプ では電気技術者としてボラン ティアを行い、電気の配線修理 など、さまざまなサービスを提 供し安全な配線の提案なども 行っていたそう。一家はもうす ぐ、ファリスさんのお母さんの いるシリアに戻る予定です。
2024 年、18 万 8800 人の 難民が第三国に受け入れ られました
2024 年第三国に定住した人 の数は過去 40 年で最多となり ました。しかし、第三国定住が 必要であると特定されていた 人は世界全体で240 万人にの ぼり、実際に第三国への定住を 果たした人はそのうち 8% に 留まっています。
2024年第三国定住の 受け入れが多かった国々 1. アメリカ(10万5500人) 2. カナダ(4万9300人) 3. オーストラリア(1万7200人) 4. ドイツ(5600人) 出典:グローバル・トレンズ・レポート 2024
私の主な業務のひとつに、事務所を訪れた難 民の方の話を伺い彼らの抱えている問題やニー ズを特定し、提供できるサービスについて情報 提供をしたり、第三国定住に関する話をしたりす るケースワークがあります。そのなかで、最近は 難民の児童労働も増加しているように感じます。
シングルマザーで元夫から暴力を受けていたと いうような人たちに、UNHCRは金銭的な支援を していました。しかし、最近こうした方々への支 援が止まってしまった影響で 、12 、3 歳くらいの 男の子が家族を助けるために学校をドロップア
* 第三国定住とは
難民が最初に庇護を求めた国から受け入れに同意し た第三国に移動し定住すること。トルコは世界でもっ とも多く第三国定住の送り出しをしている国で、去年 だけで1万770人が同国から旅立った。
プロフィール 1993 年静岡県浜松市生まれ。学生 時代にドイツで「欧州難民危機」を目の当たりにし、 難民支援の道を志す。これまでギリシャ、ヨルダン、 日本、イラクで難民支援の現場に従事。2024 年より UNHCR アンカラ事務所で准第三国定住担当官として 勤務している。
WithYou 国連UNHCR協会ニュースレター [ウィズ・ユー] 第54号|2025年10月
発行 特定非営利活動法人 国連UNHCR協会 [国連難民高等弁務官事務所・日本委員会] 〒107-0062 東京都港区南青山6-10-11 ウェスレーセンター3F Tel.0120-540-732 Fax.03-3499-2273 www.japanforunhcr.org
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