With You 52

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その境遇を思う。

難民、国内避難民のいま

避難を強いられている子どもたちは世界にどのくらいいるのか。 多くの人はどこから逃れ、どこへ向かったのか。

人々が避難を余儀なくされる背景では、何が起こっているのか……。

紛争や迫害により故郷を追われた人の数が12年連続で増加し、 過去最多の1億2000万人を超えたいま、さまざまな角度から 難民や国内避難民の“いま”をお伝えいたします。

* 本ページ( 2 、3 ページ)の数値は、別途出典の言及がない場合は 2024 年 6 月に UNH C R 本部が発表した年間統計報告書 「グローバル・トレンズ・レポート 2023 」から引用しています

1億 2000 万人

2024 年 5 月時点で、紛争や迫害により 故郷を追われた人の数は 1 億 2000 万人に のぼったとみられています。

40%

2023 年末時点で故郷を追われた人の数は 1 億 1730 万人に。そのうち約 4700 万人 (40%)が、18歳未満の子どもです* 。 *出典:www.unhcr.org/refugee-statistics 66% の難民が長期化した状態*におかれ ています。

66%

* 長期化した状態( protracted situations )とは 母国を追われた同じ国籍の 2 万 5000 人以上の難民 の、ある低中所得国での避難生活が少なくとも5 年に わたって継続している状態を指します

スーダンの戦闘から逃れてきた人々

難民*の主な出身国

73 % の難民の出身国が 5 か国に集中しています

アフガニスタン

シリア ベネズエラ ウクライナ

南スーダン

640 万人

640 万人

610 万人

600 万人

230 万人

* 難民:このページではすべて、難民およびそのほかの国際的な  保護を必要としている人々を指します

国内避難民の多い国

2023 年末時点で、国内避難民は 6830万人となり、2022 年末から 580万人 急増しています。

スーダン

シリア

コロンビア

コンゴ民主共和国 イエメン

910 万人

720 万人

690 万人

630 万人

主な出身国別、難民の数の推移  2014 年 2023 年

シリア

出典:グローバル・トレンズ・レポート 2023

難民の主な受け入れ国

難民の 39 %が 5 か国に集中しており* 、 低中所得国 が難民の75 % を受け入れています。

450 万人 イラン トルコ コロンビア ドイツ

380 万人(大多数はアフガン難民)

330 万人(大多数はシリア難民)

290 万人(大多数はベネズエラ人)

260 万人(ウクライナ難民、シリア難民、アフガン難民、イラク難民など)

パキスタン

200 万人(大多数はアフガン難民)

* 出典:www.unhcr.org/refugee-statistics

多くの難民、国内避難民は、紛争だけでなく気候関連の災害にもさらされ ており、受け入れ地域の人々もその深刻な影響を受けています

気候関連災害、10 万人あたり1 人以上の紛争関連死のある国( 2022 年)、各国に居住する避難を余儀なくされている人の数( 2023 年)

出典:グローバル・トレンズ・レポート 2023

*地図上の境界線や記号はあくまでも参考であり、  国連の見解や許諾を示すものではありません

【万人】

避難を強いられた人々は1億2000万人超に。

2023年、多くの難民、国内避難民を生み出し、いまも戦闘や不安定な状況が続いている国や地域

戦闘により避難する人々が急増。

スーダン

世界の難民、国内避難民の数を 押し上げる

2023 年 4 月、首都ハルツームでスーダン軍と準軍事組織「即応支援部隊」の武力 衝突が発生。エスカレートした暴力はほかの都市へと急速に拡大し、何百万人もが 避難を強いられ、世界最大規模の人道危機を引き起こしています。スーダンは、 もっとも多くの避難を強いられた人々が、紛争と気候関連の災害の両方にさら されている国でもあります。

首都:ハルツーム

人口;4281万人(2019 年:世銀) 国土面積は日本の約5倍。アラ ブ人、ヌビア人、ヌバ人、フール 人、ベジャ人など200以上の部 族が混在。

スーダンのダルフール地方から逃れ、隣国チャドに到着したばかりの人々

国内避難民 360 万人→910 万人

昨年 4 月の衝突の発生以前 360 万人だった国内避難民は、2023 年末には910 万人に 増加。スーダンは、もっとも多くの国内避難民を抱える国になりました。衝突の発生 以降に国内で避難を強いられた人は、2024 年 9 月時点で 800 万人にのぼり、さらに 154万人以上のスーダン難民と庇護希望者が周辺国に身を寄せています。

急性食料不安 人口の 42%

国内で食料不安が拡大し、昨年7月~9月の時点で全人口の42%にあたる2000万人以 上が急性食料不安に直面。とりわけ戦闘地域へのアクセスは困難を極め、状況は悪化の 一途をたどっており、現在北ダルフール州では飢饉が確認されるまでに至っています。

2023 年に戦闘がさらに激化し 今年も引き続き多くの人が避難

UNHCR 職員の声 スーダン人職員 オマー・エルナイエム

私の国の人々には回復する力 がありますが、疲弊しています。 あまりに多くのことを経験しま した。だから、銃がおろされ、平 和が訪れるまで、どうか、スーダ ンのことを話し続けてください。

スーダンに身を寄せていた 各国の難民はどこへ ? これまでスーダンには、主 に エリトリアやエチオピア、南 スーダン、シリアなどから逃 れた 100 万人の難民がいま した。現在こうした人々の多 くが、まだ状況の不安定な母 国に戻るか別の国に逃れざ るをえないという事態に追い 込まれています。

首都:ネーピードー 人口:5114万人(2019 年推計: ミャンマー入国管理・人口省発表) ビルマ族(約 70% )とそのほ か多くの少数民族で構成。

ミャンマーでは、2021年 2 月に軍が政権を掌握した後に 暴力が激化。昨年 10 月には戦闘が一層エスカレートし、 以降今年 8 月までに、さらに130 万人以上が避難を強い られています。8 月時点で、国内避難民の総数は333 万 人以上にのぼり、133万人以上の難民と庇護希望者が他 国に逃れています(約 100 万人はロヒンギャ難民で、そ の大多数は7年前にミャンマーから避難)。

の情報を中心にお伝えいたします。

アフガン難民は 世界最多の 640 万人* に

アフガニスタン

*2023年末時点のアフガン難民の数

アフガン難民の大多数は、周辺国に身を寄せています。さらにアフガニスタン国内 でも何百万人もの人々が避難を強いられており、人口の約半数が急性食料不安に直 面していることから、国外からの持続可能な形での帰還の機会は限られています。

また、昨年の地震に続き、今年は洪水が頻繁に起こるなど、深刻な災害により人々 のおかれている状況はさらに厳しいものになっています。

首都:カブール 人口:3890万人( 2020 年:世 界人口白書)| イランやパキ スタン、ウズベキスタン、中国 など、6か国と国境を接する内 陸の国。面積は日本の約1.7倍。

保護アセスメントの一環で、今年5月の洪水で深刻な被害を受けたゴール州を訪問

戦前の人口の 推定 6分の1が国外へ流出

ウクライナ

2022 年ほどの避難のスピードではないものの、ウクライナでは 2023 年も戦闘によ り多くの人々が国内外に継続して避難を強いられました。2024 年 5月時点、国内外 で推定1000万人以上のウクライナの人々が避難を余儀なくされており、大規模な 攻撃は同国各地で続いています。国連ウクライナ人権監視団は、同国で5月に少なく とも174 人の民間人が亡くなり、690人が負傷したと報告しており、 昨年 6月以降で民間人の犠牲者がもっとも多い月になりました。

UNHCR 職員の声 アフガニスタン人職員 ファラマルズ・バルジーン 甚大な洪水被害のあった 東部ナンガルハール州から 私たちは、甚大な被害を受けた 人々に心理社会的支援を提供す るためのサービスを強化する予定 です。彼らの多くは、トラウマや喪 失を経験しています。人々にとっ て極めて重要な法的書類の支援 も計画しています。私の国、アフガ ニスタンは美しい所ですが、近年 の人道危機や極端な気候条件で 状況が悪化しています。

首都:キーウ 人口:4159万人(クリミアを 除く)( 2021 年:ウクライナ 国家統計局)| ウクライナ人 ( 77.8% )、ロシア人( 17.3% )、 ベラルーシ人( 0.6% )、モル ドバ人、クリミア・タタール人、 ユダヤ人などがいる( 2001年 国勢調査)。

「私たちを気にかけてもらい、 声を聴いてもらえているように感じます」

2023 年、ウクライナ西部の小さな村でミサイルにより破壊された家屋。現在も、 とりわけ北部、南部、東部の最前線や国境地域で空爆や爆撃が続いており、 UNHCRは影響を受けている地域に住む人々に緊急の保護と支援を提供している

国内避難民のスヴィトラーナさん 私たちは 5 人家族で、すべてを一から始める ほかありませんでした。基本的な生活必需品 でさえ、すべてを買わなければなりませんで した。だから、こうして受け取れる支援はとて もありがたいものです。

コンゴ民主共和国

コンゴ民主共和国では、東部の紛争の再燃により、約 20 年前に多くの人が避難を 強いられるような状況が始まった人道危機が悪化。2024 年 4 月時点で、109 万人 以上が難民となって国外に逃れているほか、720万人が国内で避難を余儀なくされて います。さらに52 万人以上の難民が同国に逃れており、事態は混迷を極めています。

首都:キンシャサ

人口:9901万人(2022年:世銀) 部族の数は 200 以上を数え、 大部分がバントゥー系。アフリ カ大陸で 2 番目に国土が広く、 天然資源が豊富。長年紛争下 にあり最貧国の一つ。

こうした状況下で、避難を強いられた人々が身を寄せている地域でもエムポックス の感染の疑いがある人が確認されており、事態はさらに悪化する恐れがあります。

コンゴ民主共和国は災害も多く、今年1月には首都キンシャサで洪水が発生した

コンゴ民主共和国の女性たちの声、女性たちの願い

指導者たちに平和を取り戻すよう訴え ます。子どもたちが学校に通えるように。

世界でもっとも複雑な危機 武装グループ間の対立、民 間人への想像を絶する暴力、 頻繁に起こる洪水、猛威を ふるう流行病……。コンゴ 民主共和国では、過去 30 年 間直面し続けてきた数々の 課題により、近年かつてな いほどにニーズが増大し、人 口の 4 分の 1 が支援を必要と しています。緊急のニーズ は暴力と治安の悪化が深刻 な東部に集中していますが、 支援のためにアクセスでき る地域は著しく限られてい る状況です。 この紛争はあまりにも多くのも のを私から奪いました。夫は 殺され、娘は亡くなり、孫まで 殺され、家も破壊されました。

女性として、お願いしているの です。横行している性的暴行 から私たちを守ってください。

ソマリア 05 06

それは本当に大切なことです。学校に 行けば、ちゃんと成長できるからです

指導者たちに伝えてください。

ほかの人に依存しなくてすむように、 仕事に使えるスキルがほしいのです。

気候関連の災害により甚大な被害が 発生し、緊急のニーズが増大

ソマリアは、政治的に不安定な状況、紛争、干ばつや洪水 など、さまざまな課題に直 面し続けています。2023 年は紛争により67 万 3000 人、災害により200 万人が国 内で新たに避難を強いられるなど、近年紛争だけでなく気候関連の災害の影響も 一層深刻化しています。

今年も豪雨と洪水による大規模な被害が発生しています エルニーニョが引き金となった豪雨と大洪水は、東アフリ カと大湖地域*に壊滅的な打撃を与えており、多くの人が 避難を余儀なくされ、何十万人もの難民や国内避難民、 受け入れコミュニティに影響をおよぼしています。

ソマリアでも鉄砲水や河川の氾濫により避難を強いられる 人が続出するなど、今年 5 月までで、すでに26 万 8000 人が 深刻な影響を受けています。食料やシェルター、水と衛生、 子どもの保護など、幅広い支援が必要とされています。

*コンゴ民主共和国東部、ブルンジ、ルワンダ、ウガンダなどを含む地域

神に祈ります。平和を ください、私たちが 故郷に帰ることができ るように。

首都:モガディシュ 人口:1760万人(2022年:世銀) アフリカの角と呼ばれる地域 にある国で、国土は日本の約 1.8 倍。ほぼ単一民族(ソマリ 族)で構成されている。

武力衝突と治安の悪化により、ソマリアからエチオピアへ逃れてきた人々

中南米ハイチ、ベネズエラ 07

05 06 09 ハイチでは、ギャングの無差別暴力により人権侵害が急増 しています。国内避難民の数は、2022 年から 2023 年の 間に倍増。さらに今年は 5月までで 26万人増加し、6月時 点で 57万8000人以上が国内で避難を余儀なくされてい ます。人口1140万人の約半数が人道支援を必要としてお り、難民と庇護希望者の数も急増しています。

中南米では、ベネズエラから国外へ逃れる人々も依然として 増え続けており、2023 年末時点で、その総数は 610 万人に 達しました。大多数の人々は、中南米諸国に身を寄せています。

母国を後にし、危険なダリエン地峡を移動する人々は後を絶たない

2023年、14万1900人の難民 がアルメニアに避難。その大 多数は、同年9月に南コーカサ ス地域で武力衝突が起こった 後に到着し、現在もアルメニ ア各地に留まっています。

南コーカサス地域 09 08

中東シリア

アルメニア南東部のゴリスには 1 週間足らずのうちに数万人が 逃れてきた

2023 年、シリアで紛争が再燃し避難する人が増加。国内避難民 の数は720 万人となり、650 万人の難民と庇護希望者を含める と、1380万人のシリア人が137か国で避難を強いられた状態に (2023年末時点)。シリア危機は今年で14年目に入り、人々の避 難生活は過酷さを増す一方ですが、世界で多くの紛争が起きて いるいま、その窮状が注目されることも少なくなっています。

故郷を追われた人たち、無国籍の人たちの解決策

平和のなかで尊厳のある暮らしを送り生活を再建していくために、難民に開かれた恒久的な解決策には、自主 帰還、庇護国における社会統合、第三国定住があります。無国籍状態におかれた人々の主な解決策のひとつに は、国籍の付与があります。

第三国定住、庇護国における社会統合、自主帰還、無国籍者の国籍の取得に関する進捗状況をお伝えいたします。 難民の帰還民の5 人中4 人は、ウクライナ難民または南スーダン難民です。戦争が続くウクライナへの帰還や、紛争下の スーダンから不安定な状況が続く南スーダンへの帰還が多いことからも、こうした自主帰還のほとんどは、必ずしも安全 で尊厳のある帰還に資するものではなく、持続可能なものではない可能性があります。国内避難民の帰還民の主な内訳 は、コンゴ民主共和国 180 万人、ウクライナ 130 万人、エチオピア北部で避難を強いられていた約 53 万 4300 人など。

*数値は「グローバル・トレンズ・レポート 2023」から引用しており、2023年の集計です

自主帰還

庇護国における社会統合

3万 800人の難民が受け入れ国で国籍を取得しました *2023年に24の難民受け入れ国から受け取ったデータを元に算出

国籍を取得した 3 万 800 人のうち、1 万 4900 人がオランダで、主な内訳は、シリア人( 7700 人)とエリトリア人 ( 2400 人)。カナダでは9400 人、フランスでは2500 人がそれぞれ取得しました。

第三国定住

610 万人が故郷に帰還しました (国内避難民 510 万人、難民 100 万人) 15 万

UNHCRは、15万5500人の第三国定住の申請を各国に提出しました。

無国籍者の国籍の取得

3万 2200人の無国籍者が国籍を取得しました

無国籍の問題を解決するために、各地でさまざまな進展がみられていますが、世界では依然として440万人の 人々が無国籍状態におかれています。

中央アフリカ共和国、アムダ フォックに身を寄せるスーダン 難民の女性。同国にはスーダン の戦闘が始まって以降、3 万 5000 人以上が到着している (2024年9月1日時点)。

バングラデシュ情報

バングラデシュ インド

ミャンマー 中国 タイ ラオス ベトナム カンボジア マレーシア コックスバザール ダッカ

バングラデシュ南東部の コックスバザールには、33 の難民キャンプがあり約 100 万人のロヒンギャの 人々が生活しています。就業 も正規の教育を受けること も許されない未来の見えな い生活のなかで、今年の上 半期で数千人のロヒンギャ の人々が陸路や海路でイン ドやマレーシア、タイ、インド ネシアなどに出たことがわ かっています。統計の内訳で は、17 歳未満の子どもと18 ~ 24 歳の男女が7 割を占め ており、就学や就業の機会 などを目指しての移動が主 な目的と推察されます。

*地図上の境界線や記号はあくまでも参考であり、  国連の見解や許諾を示すものではありません

With You

国連UNHCR協会ニュースレター [ウィズ・ユー]

第52号|2024年10月

発行 特定非営利活動法人 国連UNHCR協会

[国連難民高等弁務官事務所・日本委員会] 〒107-0062

東京都港区南青山6-10-11

ウェスレーセンター3F Tel.0120-540-732 Fax.03-3499-2273 www.japanforunhcr.org

編集 国連UNHCR協会 デザイン NDCグラフィックス

印刷 TOPPAN株式会社

©Japan for UNHCR

本誌掲載記事の無断転載を禁じます。

くのロヒンギャ難民が身を寄せる バングラデシュのコックスバザール で、私は法的保護に従事し、殺人や 集団暴行から、家庭内暴力や隣人トラブル まで、難民キャンプで起きる問題にバング ラデシュ人スタッフとと もに対応しています。経 験豊富な現地スタッフ は毎日難民と向き合っ てカウンセリングを行 い、自ら対応できること がほとんどですが、中 には複雑な事件や当局 との交渉が必要な場合 もあり、その場合は私 たち国際スタッフと現 地スタッフが協力して 解決に向けて動きます。

From the Field

動を行うことができるので、ボランティアは 私たちの仕事になくてはならない存在です。

難民支援の現場から

小島 秀亮 こじま・ひであき

ここ数カ月、隣国ミャン マーでの戦闘が激化し ており、キャンプから 難民を誘拐して戦闘員 として働かせる事件が増加しています。こう したケースでは、キャンプの治安維持にあ たる部隊にかけあって捜索・救出の依頼を したり、事実関係を把握するための情報収 集をしたりします。解決が難しいケースもあ りますが、UNHCR がキャンプにいることで、 難民たちが直接訪れ、相談できる場所があ るのは、確実に彼らの支えになっています。

法的保護の支援で難民ボランティアが活躍 難民の方たちの状況を改善するためには、 政府との協力が不可欠です。UNHCR はあ らゆるルートを通じて高いレベルで政府に 提言を行っていますが、なかなか進展はみ られません。いまは国の状況が不安定なこ ともあり、とりわけ難しい局面だと感じて います。これまでに政府への提言を通して 大きく変わった点としては、数年前から難 民ボランティアがキャンプで働けるように なったことです。バングラデシュは失業率 が高くこの国の人でさえ働き口がない状況 なので、ロヒンギャの人たちに労働許可は 与えられていません。そのため、国連機関な どが雇い、彼らが少額ではあってもボラン ティアとしての報酬を得て働くことができ ることは、とても重要なことだと思います。 法的保護の分野でもボランティアは重要な 役割を果たしています。当地には33のキャン プがあるのですが、各キャンプに 3 ~ 4 名の ボランティアがいて、シンプルなケースであ れば彼らが相談に合った支援団体の案内な どをしてくれます。また、夜中に銃声が聞こ えたり洪水が起きたりした場合にも、すぐに UNHCRに知らせてくれてスムーズに支援活

劣悪な環境、先の見えない生活……海を渡る人々 ここは紛争下の国のように突然ミサイルが 飛んでくるというよう な状況ではないものの、 生活の質という面では、 これまでに私が支援活 動で関わったどの国よ りも劣悪な環境である と感じています。たと えばいまはモンスーン の季節で、一部のキャ ンプは大雨のたびに浸 水し、酷い場合には ボートでの移動を余儀 なくされることもあり ます。こうした暮らしに 加え、就業も正規の教 育を受けることもでき ず、その状況に終わり が見えないことが彼らにとって一番苦しい ことなのではないかと思います。最近は国 外に出る決断をする人々もいて、UNHCRは 海で命を落とすリスクや他国での強制労働 の危険性について情報提供をしていますが、 それでもたどり着くことを信じて海を渡る 人たちが後を絶ちません。

雨季*のいまは、連日大雨が続きます。そん な大雨の中でも、鬱陶しそうな素振りもな く日常を過ごす大人たちと、両手を広げ、は しゃいで遊ぶ子どもたちの姿をキャンプで はよく目にします。彼らを見るたびに、この 人たちはなんて強いのだろうと思います。 そして同時に、自分と彼らは何も変わらな い同じ人間のはずなのに、いかにおかれて いる状況が違うか、いかに彼らを守るもの がないか、その不条理さを考えずにはいら れません。ロヒンギャの人々の境遇に注目 が集まることが少なくなっているいま、日本 人と同じ、お米を食べて生きている人たち が、たまたまここに生まれたというだけで 苦しい思いをしていることに、一人でも多く の方に関心を持ち続けていただけたらと、 そう願っています。ロヒンギャの人々に不可 欠な支援を届ける、私たちの活動を可能に してくださっている日本の支援者の皆様に、 心より感謝申し上げます。

*雨季は5月から10月中旬頃まで

プロフィール パリ政治学院大学院修了。台湾 とフランスで国際人権法分野の仕事に携わり、 その後トルコでシリア難民の支援に従事。2023 年 3 月から UNHCR モルドバ事務所で勤務開始。 現在はバングラデシュ・コックスバザール事務所 で法的保護チームの一員として勤務。

コックスバザール事務所で

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