アカデミーキャンプ 2017 「空飛ぶアカデミーキャンプ」 「次世代の創造」 報告書 一般社団法人アカデミーキャンプ 2017 年
アカデミーキャンプ 2017「空飛ぶアカデミーキャンプ」「次世代の創造」報告書
はじめに アカデミーキャンプは、2011 年の東日本大震災と東電福島第一原発事故をきっかけとして、福島のこどもたちのためのキャン プとしてスタートしました。今でもその基本的な心は変わっていません。ですが、最近では、私たちはこどもたちの「学び」その ものをめぐる状況にも危機感を募らせています。技術と社会の状況が大きく変化しつつあるからです。 「世の中の常識に従ったことで世界を変えた人はいまだかつていない (No one has ever changed the world by doing what the world has told them to do)」という言葉があります。10 代の若き起業家の言葉です。今、さまざまな分野で、そうした若者 たちが続々と頭角を現しています。そして AI やロボットなどの新しい技術が社会にいよいよ組み込まれ、世の中の常識そのものが、 新しく生まれ変わろうとしています。 「次世代」のはじまりです。今を生き、未来を担うこどもたちは、そうした「次世代」の一部 なのです。 今、私たちにできることは、 「次世代」が新たな悲劇を生まないように、そして、むしろ勢いを増していく変化を先導し大きく未 来に羽ばたけるように、未知に向かって彼ら・彼女らが自ら前に進んでいくことを応援することではないでしょうか。そんな気持 ちで、私たちは「遊び」と「学び」が詰まったキャンプをつづけています。 【一般社団法人アカデミーキャンプ】 私たちは、大学教員・キャンプ指導者・こどもたちを支援する非営利法人メンバー等、そして活動を支える多くの学生や社会人 のボランティアの集まりで、2011 年の夏より、福島県を中心とするこどもたちを対象として「遊び」と「学び」の頂上体験を目 指したキャンプをつづけています。 https://academy-camp.org 【2017 年の活動】 2017 年は、3 月と 8 月に合わせて 3 期のキャンプを開催しました。3 月のキャンプは「空飛ぶものを科学する」をテーマとし た『空飛ぶアカデミーキャンプ 2017 春』 、 そして 8 月のキャンプはデジタルものづくりや人工知能をテーマとした『アカデミーキャ ンプ 2017 夏「次世代の創造」 』第 1 期・第 2 期で、いずれも開催地は神奈川県藤沢市の慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスでした。 この報告書はそれらのキャンプでの活動の内容をまとめたものです。 みなさまのご支援と、学生たちの若い力に支えられた、こどもたちが主役の素晴らしい日々の記録をどうぞお楽しみください。
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空飛ぶアカデミーキャンプ 2017 春 「飛行機が飛ぶ原理がわかっていない」という話を聞いたことがあるでしょうか。一種の都市伝説のようなものですが、NASA によると、実際、飛行機が飛ぶ原理の多くの説明は不正確だそうです。現在は、正しいとされるモデルがあり、現実がほぼそのモ デル通りに動いているので、実用上、飛行機を設計・製造して飛ばすことに支障はありません。ただ、飛行機が飛ぶ原理をより深 く知りたいという知的探究は続くでしょう。 「科学」は答えのないチャレンジなのです。 このキャンプでは、紙飛行機からドローンまで、自分たちで操れるさまざまな空飛ぶものを通して、みんなで「空飛ぶものを科 学する」ために、答えのないさまざまなチャレンジに取り組みました。 【アカデミーキャンプ 2017 春 実施責任者
( 括弧内キャンプネーム )】
・斉藤 賢爾 ( サイケ ) - 一般社団法人アカデミーキャンプ 代表理事 - 慶應義塾大学 SFC 研究所 上席所員
・南 政樹 ( まぼさん ) - 一般社団法人アカデミーキャンプ 理事 - 慶應義塾大学 大学院 政策・メディア研究科 特任助教
基本データ 開催日程 開催地 対象・参加人数 スタッフ
2017 年 3 月 18 日 ( 土 ) 〜 20 日 ( 月 ) 2 泊 3 日 慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス (SFC) ( 神奈川県藤沢市 ) 宿泊 : SFC 未来創造塾 滞在棟 1 対象 : 福島県を中心とする小学 4 年生〜中学・高校生 参加 : 26 名 ( 小 2 〜高 1) ボランティアスタッフ 13 名 ( 専門学校生・大学生・社会人 ) 実施責任者 2 名 ( 一般社団法人アカデミーキャンプ ) 一般社団法人アカデミーキャンプ
主催・共催
慶應義塾大学 SFC 研究所 ドローン社会共創コンソーシアム 同研究所 パブリックテクノロジーデザインコンソーシアム
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アカデミーキャンプ 2017「空飛ぶアカデミーキャンプ」「次世代の創造」報告書
空飛ぶ
初日 3/18
福島駅・郡山駅・新白河駅に集合した総勢 22 名のメンバー ( 小中学生の参加者 ) および 4 名のサブリーダー ( 高校生の参加者 ) たちは、 リーダー ( 学生ボランティア ) たちに引率され て、神奈川県藤沢市の慶應義塾大学湘南藤沢 キャンパス (SFC) にやってきました。 初日は、ある特定の条件を満たす紙飛行機 を作るというオリエンテーションとチームビ ルディングのセッションの後、NASA の資料 などを用いて、よくある誤解なども参照しな がら、現在正しいとされる飛行機の揚力の理 論を学びました。 その後、紙飛行機を用いてその理論を検証 することを試みました。
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空飛ぶ
2 日目 3/19
2 日目は、ドローンの専門家であり、アカデ ミーキャンプの理事でもある南 政樹 ( 慶應義 塾大学 ) の指導でドローンの操縦の実習を行い ました。まず、小さなドローンでのホバリン グの練習をして、テストに合格すると大きめ のドローンの操縦者となれます。そしてカメ ラ付きのドローンを使った空撮のストーリー づくりと撮影計画を立て、実際に班ごとに撮 影をしてみました。空飛ぶ謎の物体を追いか ける話など、面白い動画が 4 本できました。 また、最終日の内容として「紙でできたオ ブジェクトを設計し、どのくらい 1) 真っ直ぐ 落ちるか、2) 空中に長く留まるか、3) 遠くま で飛ぶか、を競う」というルールが発表され、 早速班ごとに取り組みました。
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空飛ぶ
最終日 3/20
最終日は、前日に発表されたルールに沿って大学の建物の 3 階から飛行体を飛ばすチャレンジを行いました。さまざまな創意工 夫に大人たちも驚きの連続でした。 お弁当を食べ、閉会の挨拶のあとは、各班で帰路につき、新白河駅、郡山駅、福島駅での解散を経て無事に 2 泊 3 日の全日程を 終えました。
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空飛ぶ
( 学生 ) スタッフ
THANK YOU! 7
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アカデミーキャンプ 2017 夏 「次世代の創造」
今を生き、未来を担うこどもたちが、すでに様々な分野で始まっている「次世代」の一部であることは、この報告書の「はじめに」 でも触れた通りです。 このキャンプでは、そうした「次世代」であるこどもたちが、新しい常識となりつつあるデジタルファブリケーション ( デジタ ル技術を利用したものづくり ) や人工知能などの技術に触れ、また、そうした技術を生み出し・使いこなす研究者たちや大学生た ちと触れ合うことを通して、みんなで未来を生き抜くための力について考え、チャレンジすることを狙いました。 【アカデミーキャンプ 2017 夏 実施責任者
( 括弧内キャンプネーム )】
・斉藤 賢爾 ( サイケ ) - 一般社団法人アカデミーキャンプ 代表理事 - 慶應義塾大学 SFC 研究所 上席所員・環境情報学部 講師 ( 非常勤 )
・南 政樹 ( まぼさん ) - 一般社団法人アカデミーキャンプ 理事 - 慶應義塾大学 大学院 政策・メディア研究科 特任助教
基本データ 開催日程 開催地 対象・参加人数 スタッフ 主催・共催 助成
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第 1 期 : 2016 年 8 月 17 日 ( 木 ) 〜 20 日 ( 日 ) 3 泊 4 日 第 2 期 : 2016 年 8 月 21 日 ( 月 ) 〜 24 日 ( 木 ) 3 泊 4 日 慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス (SFC) ( 神奈川県藤沢市 ) 宿泊 : SFC 未来創造塾 滞在棟 1 対象 : 福島県を中心とする小学 4 年生〜中学・高校生 第 1 期参加 : 25 名 ( 小 2 〜高 2) 第 2 期参加 : 24 名 ( 小 3 〜高 3) ボランティアスタッフ 26 名 ( 専門学校生・大学生・社会人 ) 実施責任者 2 名 ( 一般社団法人アカデミーキャンプ ) 一般社団法人アカデミーキャンプ 慶應義塾大学 SFC 研究所 パブリックテクノロジーデザインコンソーシアム 独立行政法人 国立青少年教育振興機構「子どもゆめ基金」
夏1
初日 8/17
今夏のキャンプでは、私たちの友人、即興 芝居 × 即興コメディのロクディムさんに、キャ ンプのオリエンテーションのリードをお願い しました。そこでみんなが体験したのは、未 知に向き合って自分が「決める」ということ でした。即興のお芝居には台本はありません。 周りの出演者たちが何をしたいのか、互いに 推し量りながら、先の見えない中に一歩を踏 み出さなければならないのです。それはまさ しく今回のキャンプのテーマ「次世代の創造」 とも重なっていました。 また、夕方行われたロクディムさんのライ ブパフォーマンスには、こどもたちにも参加 する機会があり、爆笑に次ぐ爆笑で一日が締 め括られました。
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夏1
2 日目 8/18
2 日目は渋谷の「FabCafe Tokyo」を訪問 し、3D スキャナーと 3D プリンター、レーザー カッター、そしてオリジナルのテープづくり のマシンを使用する体験をしました。(3D プ リンティングは時間がかかるのでプリントし たものを後日発送しました )。 講師のひとり、原宿の Happy Printers か ら来てくださった杉原さんは、 「かたちにする」 ことがファブなのだと伝えてくださいました。 さあ、欲しいものをかたちにしていきましょ う。そして、 「欲しいもの」は社会から強烈に 影響を受けます。次世代たちは、どんなもの を「欲しい」と思う社会を創っていくのでしょ うか。
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夏1
3 日目 8/19
3 日目は、iPad を携えて街を探検する恒例 の「デジタルオリエンテーリング」でした。 今回は江ノ島・鎌倉を散策しましたが、出 発前に何枚かの写真を見せて、それと同じ場 所・同じ構図で写真を撮ってくるというミッ ションが付いていました。 その中のひとつ、江ノ電「極楽寺駅」での 撮影では、アイスキャンディーの屋台の人々 との交流があったりと、地域の探検は様々な 思い出を作ったようです。 さあ、翌最終日は「28 歳の自分とわくわく テクノロジー」をテーマに、次世代が自分た ちの未来を創造します。
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アカデミーキャンプ 2017「空飛ぶアカデミーキャンプ」「次世代の創造」報告書
夏1
最終日 8/20
最後のプログラムは、「28 歳の自分とわくわくテクノロジー」です。28 歳というのは、ユーチューバーとして有名な HIKAKIN の 2017 年時点での年齢です。彼がこどもだったとき、自分がユーチューバーになるとは夢にも思っていなかったはずです。 だから、「28 歳の自分とわくわくテクノロジー」なんてお題を設けられたって、答えがあるわけがありません。人類が未だかつ て経験したことのない激動の時代を生きるこどもたち・若者たちは、それでも勇気をもって自ら一歩を踏み出していきます。
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夏1
( 学生 ) スタッフ
Appreciated!
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夏2
初日 8/21
ふたたび「世の中の常識に従ったことで世 界を変えた人はいまだかつていない」という 言葉に触発されて、私たちはこのキャンプを 通して「従順になるな」というメッセージを 打ち出しました。このキャンプの参加者たち が大人になる頃、従順であることにかけては、 人工知能やロボットがもっとうまくやってい るだろうからです。 このキャンプでも、ロクディムさんにオリエ ンテーションのリードをお願いしました。答 えのない領域に自ら足を踏み込んで「決める」 という、現在のところ人間にしかできないそ の営みを大切に、自分にとって一番長い付き 合いとなる「自分」との付き合い方を考える、 そんなメッセージを受け取りました。
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夏2
2 日目 8/22
2 日目の江ノ島・鎌倉を舞台としたオリエン テーリングでは、 「課題ツイート」と題して、 いくつかの写真を見せて「同じ構図で写真を 撮ってツイートしてください」というお題を 出しました。写真の場所は知らせません。 お題は「ゴジラ上陸」 「極楽寺駅」「仮面ラ イダーエグゼイド」の 3 本です。 「極楽寺駅」 は駅名が写真に写っていたのでサービス問題 ですが、1986 年に撮られた写真を紹介し、現 在はどう違っているか、テクノロジーとポリ シーの面から分析するという課題になってい ました。メンバーたちは駅の人にインタビュー するなど、運営側の想像を超えたレベルでこ の課題に取り組んでくれました。
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夏2
3 日目 8/23
午前のプログラムは、はこだて未来大学の学生さん たちによるストーリーづくりのワークショップでし た。キャラクターのデザインでは、身近な人物をモデ ルにして各グループで大盛り上がりです。 美味しい昼食のあとは、Preferred Networks 社の 土井さんによるディープラーニングのワークショップ で、イヌとネコを見分ける ( 従って何を見せてもイヌ かネコでしか答えない ) ニューラルネットワークづく りと、有名なトロッコ問題について考えることを通し て、私たちの生活を支えつつある人工知能と自分たち の生き方について考えました。これは、先端技術を小 中学生を対象にありのまま伝えることについての実験 だったと言えるでしょう。 その後は「ふりかえり」として、初日に思い描いた 28 歳の自分像をアップデートし、暗くなってからは 夜のキャンパスを宝探ししました。
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夏2
最終日 8/24
最終日には、こどもたちと学生スタッフがそれぞれ、自分が 28 歳になったときのことを考えました。 こどもたちの前には未知の未来が広がっています。この夏のふたつのキャンプを通して、保護者のみなさまからは多くのメッセー ジを受け取りました。多くの保護者のみなさまも、こどもたちの未知の未来が気がかりなようです。
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夏2
( 学生 ) スタッフ
much obliged! 18
おわりに アカデミーキャンプ 2017 を振り返って 一般社団法人アカデミーキャンプ 代表理事 斉藤 賢爾 みなさまからのたくさんのご支援と、いっしょにキャンプを創り上げて くれた大学生・専門学校生をはじめとするボランティアの仲間たちの尽力 によって、2017 年も好評のうちに 3 つのキャンプを実施できました。 アカデミーキャンプではみんなで歌を歌うことも多いのですが、2017 年夏のキャンプではいつもの「校歌」である「がんがん」に代わって、英 語の歌ですが、テレビアニメ「クラレンス」の主題歌を練習してみました。 その歌詞の日本語での意味は次の通りです。「お前の言うことなんか気にし ない! / 一日中やりたいことをやってやる! / ( なぜなら ) ボクは世界の 王様だ!」 夏のキャンプの閉会式には「従順になるな」というメッセージを込めま した。 「自分がやりたいと思ったことには歯を食いしばって向かっていけ」 とも。ルール通りに動けばよいなら、人工知能やロボットには敵いません。ある面ではルールに従わないことに、人としての価値 があるのではないでしょうか。 「世界の言うことを聞くだけの人が、世界を変えたことはいまだかつてない」のです。 このキャンプが、関わったすべての人々にとって、自分と未来と社会を見つめ直すきっかけになったら幸いです。 改めまして、2017 年もアカデミーキャンプのためにご支援をいただいたみなさま、ありがとうございました。ひきつづき、福 島のこどもたちとアカデミーキャンプをどうぞよろしくお願いいたします。 斉藤 賢爾 ( サイケ )
夏のキャンプの 後、ずいぶん時間 が経過しました が、 年 末 に ( 汗 ) 3D フ ィ ギ ュ ア を 該当する参加者の みなさんにお送り しました。 こうして並べて みると同窓会のよ うですね。
※ キャンプの後には、こどもたちのご家族のみなさまから多くの感謝のメッセージをいただいています。「空飛ぶ」キャンプの後、 ある参加メンバーは、帰ってからずっとネットでドローンについて調べていたそうです。また、別の参加メンバーは、お母さまに 熱心に正しい揚力の理論を説明したそうです。アカデミーキャンプが、こどもたちの好奇心を刺激するよいきっかけになったよう で、スタッフ一同、嬉しく感じています。
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【ご寄付について】 アカデミーキャンプは、参加者やスタッフからの参加費、講師のみなさまからの貢献、助成金、 そしてみなさまからのご寄付によって成り立っています。 ご寄付の宛先 : 城南信用金庫 湘南台支店 ( 店番号 083) 普通 109187 一般社団法人アカデミーキャンプ または GlobalGiving( 米国・英国 ) - https://www.globalgiving.org/projects/academy-camp/
『アカデミーキャンプ 2017 「空飛ぶアカデミーキャンプ」「次世代の創造」報告書』 制作 : 一般社団法人アカデミーキャンプ https://academy-camp.org
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