アカデミーキャンプ 2016夏「未来への留学」報告書

Page 1

アカデミーキャンプ 2016 夏 「未来への留学」 報告書 一般社団法人アカデミーキャンプ 2016 年 8 月


アカデミーキャンプ 2016 夏「未来への留学」報告書

はじめに 今を生きるこどもたちの大半は、将来において、現在は存在しない職業に就くと言われます。そのような未知の未来を切り拓い ていくのは、他でもないこどもたち自身です。このキャンプでは、そんなこどもたちが未来のことを考えるきっかけになるように、 「未来を見据えて大学等にて研究をつづけている研究者たち・学生たちとの交流を通して、こどもたちが自分たちの未来に向けた視 点を得ること」 、そして「仲間をつくりながら積極的・能動的に活動することを通して、未来は与えられるものではなく自分たちで つくっていくのだという実感を得ること」 を目指しました。みなさまのご支援と、学生たちの若い力に支えられた、こどもたちにとっ ての素晴らしい 5 日間 ×2 の記録をどうぞお楽しみください。 【一般社団法人アカデミーキャンプ】 私たちは、大学教員・キャンプ指導者・こどもたちを支援する 非営利法人メンバー等の集まりで、2011 年の夏より、福島県 を中心とするこどもたちを対象として「遊び」と「学び」の頂 上体験を目指したキャンプをつづけています。 【アカデミーキャンプ 2016 夏 実施責任者

( 括弧内キャンプネーム )】

・斉藤 賢爾 ( サイケ ) - 一般社団法人アカデミーキャンプ 代表理事 - 慶應義塾大学 SFC 研究所 上席所員

・南 政樹 ( まぼさん ) - 一般社団法人アカデミーキャンプ 理事 - 慶應義塾大学 大学院 政策・メディア研究科 特任助教

基本データ 開催日程 開催地 対象・参加人数 スタッフ 主催・共催 助成

2

第 1 期 : 2016 年 8 月 5 日 ( 金 ) 〜 9 日 ( 火 ) 4 泊 5 日 第 2 期 : 2016 年 8 月 18 日 ( 木 ) 〜 22 日 ( 月 ) 4 泊 5 日 慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス (SFC) ( 神奈川県藤沢市 ) 宿泊 : SFC 未来創造塾 滞在棟 1 対象 : 福島県を中心とする小学 4 年生〜中学・高校生 第 1 期参加 : 22 名 ( 小 3 〜高 1) 第 2 期参加 : 21 名 ( 小 2 〜中 2) ボランティアスタッフ 24 名 ( 専門学校生・大学生・社会人 ) 実施責任者 2 名 ( 一般社団法人アカデミーキャンプ ) 一般社団法人アカデミーキャンプ 慶應義塾大学 SFC 研究所 デジタル市民社会デザインコンソーシアム 独立行政法人 国立青少年教育振興機構「子どもゆめ基金」


第1期

初日 8/5

福島駅・郡山駅に集合し、そして東京駅で も合流を果たした総勢 22 名のメンバー ( 参加 者 ) たちは、リーダー ( 学生ボランティア ) た ちに引率されて、神奈川県藤沢市の慶應義塾 大学湘南藤沢キャンパス (SFC) にやってきま した。 疲れを知らないメンバーたちは、オリエン テーションでアイスブレークのゲームに熱中 し、打ち解けたころ、未来のイメージを壁一 面のボードにマーカーで描き出しました。 宿泊兼ワークショップ用の施設である未来 創造塾滞在棟 1 に移動したメンバーたちとリー ダーたちは、初めての夕食を食べたあと、そ の後の 4 日間、毎朝やることになる、ダンス・ フィットネスのプログラム「ズンバ」の洗礼 を受け、思い切り汗をかきました。

3


アカデミーキャンプ 2016 夏「未来への留学」報告書

第1期

ゲーム AI( 人工知能 ) の第一人者である三宅 陽一郎さん ( スクウェア・エニックス ) による

2 日目 8/6

「人工知能ワークショップ」では、ゲーム AI を体験的に理解し、紙で動かすコンピュータ をつかって実際に対戦までしてみました。 ご自身も全盲である研究者、守井 清吾さん ( インテック ) による「いろいろな情報の " 通 訳者 " になろう!」では、目が見えない相手に 触覚と言葉でリーダーの顔のかたちなどの情 報を伝える工夫を考えました。 「即興芝居 × 即興コメディ」のロクディムさ んによる即興コメディのライブ公演にはメン バーたちも出演し、大爆笑の連続を生みまし た。すべてアドリブの台詞と身体の表現を通 して相手と行うコミュニケーションは、さま ざまなことを教えてくれました。

三宅 陽一郎さん 守井 清吾さん ( 中央 )

ロクディムさん

ロクデイムさんと即興芝居に挑戦

4


第1期

3 日目 8/7

人気のゲーム、 「ポケモン GO」の仕組みを 簡単に学んだあと、「面白いポケストップを探 して、その理由を写真といっしょに Twitter で ツイートする」というルールで「ゲットだぜ! 江ノ島デジタルオリエンテーリング」がはじ まりました。 江ノ島とその近辺にはポケストップがいっ ぱい!リーダーたちのアシストのもと、メン バーたちは、単にポケストップを探すだけで なく、江ノ島の面白いところを見つけたり、 江ノ島に来ていたほかの「ポケモン GO」プレー ヤーたちにインタビューするなど、アクティ ブな活動を繰り広げました。 滞在棟 1 にはシャワーしかないため、 この日、 メンバーたちとリーダーたちは帰りにコミュ ニティ銭湯に寄ってお風呂を満喫しました。

5


アカデミーキャンプ 2016 夏「未来への留学」報告書

第1期

エンジニアの高城 勝信さん ( 日本 IBM) に よる「コグニティブテクノロジー」では、人

4 日目 8/8

間中心の考え方で今までより高度な情報処理 を目指す「コグニティブ」と、人間の知性の 理解とその人工的な再現を目指す「人工知能」 との違い、そして「ディープラーニング」に ついて学び、自分たちの生活に役立つ人工知 能技術のアプリケーションをみんなで考え、 発表しました。 アカデミーキャンプの理事でもある南 政樹 ( 慶應義塾大学 ) による「ドローン : 空飛ぶロ ボットの秘密」では、ドローンの飛行と制御 の仕組みを理解し、ミュージックビデオの撮 影など、さまざまな応用にも触れたあと、走 行するドローンと飛行するドローンを実際に 交代で操縦してリレー競争に熱中しました。

高城 勝信さん 南 政樹

6


第1期

最終日 8/9

最後のプログラム「未来創造発表会」では、 「10 年後、自分の夢をロボットや人工知能がどのようにアシストし、自分は何がで きるようになっているか」について考え、メンバーもリーダーも、全員で発表しました。 お弁当を食べ、閉会の挨拶のあとは、各班で帰路につき、東京駅での引き渡し、郡山駅、福島駅での解散を経て無事に 4 泊 5 日 の全日程を終えました。

7


アカデミーキャンプ 2016 夏「未来への留学」報告書

第1期

学生 スタッフ

〜 スタッフふりかえりシートから 〜 「一期一会」 印象に残ったのは、江ノ島デジオリの観光客との交流です。どう転ぶかは話しかけるまでわかりませんが、それも含めてコミュ ニケーションを取る面白さを改めて知ってもらえたと思います。 題名を付けるとするなら、やはり「一期一会」ですかね…。 ── 森川 亮太 ( 静岡大学 教育学部 )

8


第2期

第 2 期も、福島駅・郡山駅に集合した総勢 21 名のメンバーたちが、リーダーたちに引率

初日 8/18

されて、神奈川県藤沢市の SFC にやってきま した。 オリエンテーションでのアイスブレークの ゲームで遊んだあとは、20 年後である 2036 年の未来の想像図や未来の自分のイメージを 壁一面のボードにマーカーで描き出しました。 宿泊兼ワークショップ用の施設である未来 創造塾滞在棟 1 に移動したメンバーたちとリー ダーたちは、大学で栄養学を学ぶ学生たちか ら成る食事班が調理した、初めての夕食を美

この日の深夜、残念かつ申し訳ないことに、

味しく食べました。

メンバーのひとりが就寝中に二段ベッドから 転落し、鎖骨を折る怪我をしました。病院で の診察と手当ての後、怪我をしたメンバーは キャンプの途中で、リーダーの付き添いのも と帰宅することになりました ( その後の経過は 順調とのことです )。 アカデミーキャンプでは、この事故を重く 受けとめ、大学とともに再発防止策を検討し、 実施して参ります。

SFC 未来創造塾 滞在棟 1

9


アカデミーキャンプ 2016 夏「未来への留学」報告書

第2期

アカデミーキャンプ代表理事でもある斉藤 賢爾 ( 慶應義塾大学 ) による「ロボット人権宣

2 日目 8/19

言ワークショップ」では、2036 年の国連の会 議をシミュレートし、メンバーたちが各国の 代表となって、「ロボットに人権は必要か」と いう、未来社会におけるリアルな課題につい ての討議をしました。 SONY MESH タグや Olympus Air、そし て各種レンズなど、さまざまな機材とともに 参加してくださった篠崎 新さん、清水 さおり さん、石井 謙介さん ( オリンパス ) のご協力 による「カメラとモノのインターネット」では、 センサーからの情報にもとづき、カメラや音 を制御して、いろんな遊びをしてみたり実用 のアイデアを練ったりしました。

斉藤 賢爾

篠崎 新さん

石井 謙介さん 清水 さおりさん

10


第2期

3 日目 8/20

第 2 期では、2, 3, 4 日目の朝に、 「10 分ランチフィットネス」の讃井 里佳子 さん ( パートナーズ・ジャパンYAM ATE ) を招いて体操とストレッチの 時間を設けました。おかげさまで身体 のコンディションを整えた上で毎日を 過ごせました。( 本当は最終日にも実施 する予定でしたが、台風のため中止に させていただきました。)

第 1 期につづき、人気のゲーム、 「ポケモン GO」の仕組みを簡単に学んだあと、 「面白い ポケストップを探して、その理由を写真といっ しょに Twitter でツイートする」というルール

讃井 里佳子さん

で「ゲットだぜ!江ノ島デジタルオリエンテー リング」がはじまりました。 朝はあいにくの天気だったため、最初の目 的地として、全班いっしょに新江ノ島水族館 に出かけました。その後は思い思いのコース で江ノ島と湘南地区の探検を楽しみました。 第 1 期と同様、この日、メンバーたちとリー ダーたちは帰りにコミュニティ銭湯に寄って お風呂を満喫しました。

11


アカデミーキャンプ 2016 夏「未来への留学」報告書

第2期

4 日目 8/21

毎年、夏に参加してくださっている、角 薫 教授と学生のみなさん ( はこだて未来大学 ) に よる「ゲーム・デ・エデュケーション」では、 IBM ワトソンを利用するなどした、5 つの学 びのゲームで楽しく遊びました。 第 1 期につづいて実施した、アカデミーキャ ンプ理事でもある南 政樹 ( 慶應義塾大学 ) に よる「ドローン : 空飛ぶロボットの秘密」では、 ドローンの飛行と制御の仕組みを理解した後、 実際に外に出て空撮を体験したり、空飛ぶド ローンを交代で操縦するリレー競争で楽しみ ました。 SFC のキャンパスを夜中に探検する「ナイ ト・オリエンテーリング」では、日曜の夜に もかかわらず大学にいる学生たちとの交流も

はこだて未来大学の学生のみなさん

角 薫 教授

12

生まれました。


第2期

最終日 8/22

第 1 期に引き続き、最後のプログラム「未来創造発表会」では、「10 年後、自分の夢をロボットや人工知能がどのようにアシス トし、自分は何ができるようになっているか」について考え、メンバーもリーダーも、全員で発表しました。 お弁当を食べ、台風のため出発のタイミングを見計らいながら人間知恵の輪などのゲームで楽しみ、閉会の挨拶をした後、各班 で帰路につき、急遽追加された新白河駅、そして郡山駅、福島駅での解散を経て 4 泊 5 日の全日程を終えました。

13


アカデミーキャンプ 2016 夏「未来への留学」報告書

第2期

学生 スタッフ

〜 スタッフふりかえりシートから 〜 「子どもからのプレゼント」 全日程を通して、子ども達と遊ぶ楽しさ、子どもを預かることの責任感など様々なことを私自身が学ぶことができました。そし てさらに子どもを好きになりました。学年によって、落ち着きや話す内容が違っておもしろかった。今回初日から一人ケガ人がで てしまい、どうなるか不安だったが、実際に小児看護学という講義で学んだことが活かせて、看護で学んでいてよかったと思った。 同じ部屋だった子からはおそろいのブレスレットをもらった。 全体をとおして、 「子どもからのプレゼント」という題名をつけたい。多くのことを得ることができ、プレゼントを物としても受 け取ったからである。 ── 佐久間 玲奈 ( 慶應義塾大学 看護医療学部 )

14


おわりに アカデミーキャンプ 2016 夏を終えて 一般社団法人アカデミーキャンプ 代表理事 斉藤 賢爾 みなさまからのたくさんのご支援と、いっしょにキャンプを創り上げてくれた大学生・専門学校生 をはじめとするボランティアの仲間たちの尽力によって、怪我や、また台風による帰着スケジュール の変更はあったものの、このキャンプは概ね参加したこどもたちとご家族にとって好評のうちに終わ ることができました。 ここで、このキャンプのテーマだった「未来への留学」に関連して、私の好きな「ドラえもん」の エピソードについてご紹介させてください ( あくまで私の記憶の中にあるもので、実際のエピソード とは異なっているかも知れません )。これは、今夏の両期のキャンプの最後にこどもたちにもお話し た内容です。 自分の子孫であるセワシの身代わりとなったのび太は、タイムマシンで 22 世紀に向かい、未来の ジャイアンや未来のスネ夫とともに月に修学旅行に出かけます。ひとしきり遊んだあと、のび太たち は、宇宙船のコンピュータが壊れて地球に帰れなくなります。未来のスネ夫たちが泣きながら言うには、帰るためには人間には絶 対解くことのできないような難しい計算をして、その結果をコンピュータに入力しなければならないというのです。それを聞いた のび太は、自分は算数が苦手だし、絶対にその計算はできるはずもないけれど、このまま酸素が切れて月面で死んでしまうならば、 その前に一度その問題を見せてくれ、と頼みます。見せてもらったその問題は、なんと「二桁のかけ算」でした。のび太は、これ なら自分にも解けるかも知れないと、一生懸命、筆算をして、何度も何度も、確かめ算をして、そして答えをコンピュータに入力 してもらいます。すると、その答えは合っていて、無事にのび太たちは地球に帰ることができるのです。 私がこのエピソードが好きなのは、未来人がかけ算も自分でできないほどひ弱で、のび太は自分が苦手だと思っていたことで役 に立てたから、ではありません。それを言うなら、原始の人から見たら、私たち現代人も十分にひ弱に見えるはずです。私がこの エピソードが好きなのは、 「未来の学校では二桁のかけ算は教えられていない」という部分なのです。 「では、未来の学校では代わりに何を教えているんだろう?」この問いが今回のキャンプのテーマ「未来への留学」の根本にあり ました。人工知能やロボットがさまざまに人間をアシストしている未来での、人としての基礎力とは何でしょうか。これからも仲 間たちと、そしてみなさまといっしょに創っていくアカデミーキャンプで、この問いへの答えを探しつづけたいです。 改めまして、アカデミーキャンプ 2016 夏「未来への留学」のためにご支援をいただいたみなさま、ありがとうございました。 ひきつづき、福島のこどもたちとアカデミーキャンプをどうぞよろしくお願いいたします。

斉藤 賢爾 ( サイケ )

〜 保護者のみなさまから 〜 『大変お世話になりました。「ただいま」の前の第一声が「冬も行くから」でした。 ちょっとお兄さんとして、今までとは違う感 想が聞けて少し成長したなと感じました。帰りは台風で大変だったと思いますが無事に帰宅でき楽しい思い出が出来たのも、 スタッ フの皆さまのおかげです。ありがとうございました』 『アカデミーから帰って来た時、 「ただいま」ではなく「また行きたい‼️」と言われビックリしたのですが、写真を見て納得しました。 楽しそうな顔がたくさんあり、息子にとって夏休みのステキな思い出になったと思います。 次回も行けるといいなと思ってます。5 日間 大変お世話になりありがとうございました』

15


【ご寄付について】 アカデミーキャンプは、参加者やスタッフからの参加費、講師のみなさまからの貢献、助成金、 そしてみなさまからのご寄付によって成り立っています。 ご寄付の宛先 : 城南信用金庫 湘南台支店 ( 店番号 083) 普通 109187 一般社団法人アカデミーキャンプ または GlobalGiving( 米国 ) - https://www.globalgiving.org/projects/academy-camp/ GlobalGiving( 英国 ) - https://www.globalgiving.co.uk/projects/academy-camp/

『アカデミーキャンプ 2016 夏「未来への留学」報告書』 制作 : 一般社団法人アカデミーキャンプ http://academy-camp.org

© Academy Camp


Issuu converts static files into: digital portfolios, online yearbooks, online catalogs, digital photo albums and more. Sign up and create your flipbook.