月刊現代ギター - 2015年7月号

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takeda

現代ギター 昭和 42 年 6 月 27 日第三種郵便物認可 平成 27 年 7 月 1 日発行（毎月１回１日発行）第 49 巻 第 7 号

定価 1,296 円 （本体 1,200 円 + 税）

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株式会社 現代ギター社

Vol.49 No.7 July 2015 No.619

13 特

July 村治奏一

集

ギターで弾く装飾音 バッハのリュート作品に見られる装飾：小川伊作

装飾音の弾き方と練習法：新井伴典 46 第

2 特集 「キネマ楽園」特別編：鈴木大介

CONCERT PHOTO REPORT 30

コンサート・フォトレポート

村治奏一

大萩康司＆林 美智子（ M s）

新井伴典＆宮下仁司

渡邊順生（リュートチェンバロ） 北林 隆

REPORT 50 54 56 58

第 46 回クラシカルギターコンクール 神奈川ギターコンクール 2015 第 1 回オールジャパンギターコンクール 第 6 回 J.S. バッハ国際ギターコンクール

INTERVIEW 26 スペシャル対談 荘村清志＆福田進一 第 10 回 Hakuju ギターフェスタ 2015 38

Jiro's Bar ～濱田滋郎対談〔28〕

竹間久枝（ マ ン ド リ ニ ス ト）

READING ／ ESSAY ／ LECTURE

74 75

あなたの街の～ギター教室紹介〔4〕 Etude Pub ～ギター・ベーシック・レパートリー

78

アンサンブルで聴く巨匠の名技〔4〕

82

セゴビアとパキータ〔52〕

86 88

（ワシリー・サバ／訳：関塚亮司） ロンドン便り〔67〕 レパートリー充実講座〔244〕（藤井眞吾）

（坂場圭介） 完全攻略〔4〕

（朝川 博） 80 a tempo 日記〔64〕（渡辺和彦）

（A. エスカンデ／訳：坪川真理子）

24 の漸進的な小品集 Op.44 ②（ソル）

INFORMATION 60 62 64 66 70 94 96

新譜案内 新刊案内 外盤案内 めもらんだむ コンクール・インフォメーション 今月の見どころ聴きどころ イベント & コンサートガイド

ENSEMBLE

34

愛器を語る［76］

42

ポインツ・オブ・ギターテクニック［16］

SCORE

67

オールド・ポップス・コレクション〔16〕

71

ポピュラー・ヒット・レパートリー〔28〕

113 今月の楽譜解説 114 ロンド Op.8-1（ジュリアーニ） 118 哀悼（ヘンツェ） 119 故郷（岡野貞一～佐藤弘和） 122 アンダマンの真珠

（タイ・プーケット民謡～新井伴典）

角 圭司（三浦隆志） 佐々木 忠

「人間の証明」のテーマ（ 大 野 雄 二） （たしまみちを） Birthday（さだまさし）

（小関佳宏）

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92

アンサンブルの広場

●表紙 荘村清志、福田進一 ●写真 石井孝典

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特集

特集 ギターで弾く装飾音

ギターで弾く装飾音

バッハのリュート作品に見られる装飾 小川伊作（大分県立芸術文化短期大学音楽科教授） 1952 年大阪生まれ。高校よりクラシックギターを始め、東京芸術大学楽理科に入学。在学中にリュートと出会い、以後リュートの 研究と演奏に専念する。同大学院修士課程修了。音楽学を故服部幸三に師事。 1989 年に大分県立芸術文化短期大学に赴任。1996 年には文部省在外研究員として米国ハーヴァード大学に留学。2000 年には大 分県在外研修助成金を得て、スペインのヒホンで開催されたビウエラ製作の講習会に参加した。この時ビウエラを一台完成したこと がきっかけで、以後ビウエラの研究と演奏に没頭する。荒川孝一、フランク・ウォレスにリュートのレッスンを受け、またコンソー ト・オブ・ミュージックのワークショップに参加した。 現在日本で数少ないリュート、ビウエラの専門家として論文、CD 解説を多数執筆。『現代ギター』誌にも記事・翻訳多数掲載。「別 府古楽祭」を 2000 年より主宰。著書『ギター譜で学ぶ新楽典』（現代ギター社刊）は第 2 版を数える。 現在大分県立芸術文化短期大学音楽科教授。専門は音楽学（音楽史・音楽理論）。

1. バロック音楽の装飾について―――――――――――

1638 年の曲集ではコンマに加え、クロス「×」が加わ

およそ 1600 年から 1750 年に至るバロック音楽では、

る。さらに 1652 年頃編まれたリュート手稿『神々の修辞』

他のどの時代にもまして音楽を「飾る」ことに意を注い

に装飾記号は一切用いられていない）。しかし 1636 年に

だ。それらは個々には「装飾音」と呼ばれ、その方法を「装

出版されたマラン・メルセンヌの著書『宇宙の調和』で

飾法」と呼び、大別して 2 つの装飾法が存在した。それ

はリュートに関して 8 種類の装飾記号を取り上げている

はイタリア式装飾法とフランス式装飾法の 2 種である。

ことから、楽譜には記されていなくても、演奏では装飾

ただし時代的にはイタリアが先行しているので、フラン

が種々行なわれていたことが推察できよう。17 世紀後半

ス式装飾法の中にはイタリア式装飾法も含まれているこ

になると、ゴティエ、ガロ、ムトンのリュート曲集の序

とに注意する必要がある（この時期の音楽の歴史的な流

文に、奏法の説明の中に装飾の説明が登場する。クラヴ

れについては、文末の【先行記事】に挙げた拙稿「バッ

サンでも、先のシャンボニエールに続き、ダングルベー

ハに至る器楽曲の流れ」に詳しいのでそちらを一読して

ル、フランソワ・クプランの曲集・著作により当時の装

欲しい。装飾音と装飾記号一般については、小著『ギター

飾法の詳細を知ることができるのである。その要点は先

譜で学ぶ新楽典』「13. 装飾音と装飾記号」に基本的な事

のイタリア式装飾法と反対に、個々の音ないし和音を装

柄をまとめている）。

飾することを目的としている。

イタリア式装飾法は 1600 年頃に複数の地域で同時多 発的に発生した。フィレンツェのカメラータの一員で

2. 装飾音の名称について――――――――――――――

あったジュリオ・カッチーニの声楽曲集『新音楽』 （1602）、

最初に主要な装飾音の名称についてその代表的なもの

マントヴァの宮廷に仕えていたクラウディオ・モンテ

を整理しておこう。下に示したものは、見出しになって

ヴェルディが上演した最初期のオペラの傑作『オルフェ

いるものは、本稿で統一的に使用するもので、その後に

オ』（1607）。ローマのオルガニスト、ジロラモ・フレス コバルディが出版した『トッカータ集第 1 巻』（1615）、 三者に共通するのは音楽の表現上の要求を満たすため、

列挙しているものは各国語の呼称一覧である。 【トリル trill

】 トリル trill、シェイク shake［英］、トリラー Triller［独］、ト

旋律を構成する長い音価の音符を細分化し、急速な走句 （パッサッジョ passaggio）を作り出すことである。その際

リル trille、トランブルマン tremblement［仏］、トリロ trillo［伊］ 【モルデント mordent 、 】

イタリア人たちは記号によらず、演奏されるままに音符 で記譜した。

モルデント mordent［英］ 、Mordent［独］ 、マルテルマン martellement、モルダン mordant、パンセ pincé［仏］ 、モルデ

フランス式装飾法（アグレマン agrément）は、文献上

ンテ mordente［伊］

その発生はイタリアより遅れてみられる。フランス宮廷 クラヴサン奏者であったシャンボニエールの『クラヴサ ン曲集』 （1670）には、すでに種々の装飾記号がみられ るが、シャンボニエールの晩年出版されたため、初出の 正確な時期が分からない。しばしばクラヴサンに先行す ると言われるリュートでも 17 世紀半ばまでは装飾記号 はごくわずかしか用いられていない（1631 年に出版さ れたピエール・バラールのリュート曲集で初めて装飾記 号が登場するが、それはコンマ「,」一種類である。続く

【前打音（倚音）appogiatura 】主要音符の前に小さな 音符で示される。 アッポジアトゥーラ appogiatura［伊］、ポールドヴォア port de voix［仏］、フォアシュラーク Vorschlag［独］ 【スライド slide 】 スライド slide［英］、シュライファー Schleifer［独］、ク レ coulé［仏］ 【ターン turn

】

ターン turn［英］、ドッペルシュラーク Doppelschlag［独］、 Gendai Guitar 13

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第 10 回

Hakuju ギター・フェスタ 2015 ～Viva! エスパーニャ2 ～

今や真夏の恒例ギターイベントである「Hakuju ギ ター・フェスタ」も今年で 10 回目を迎え、プロ デューサーを務める、荘村清志、福田進一の両巨 匠による 10 周年記念のデュオ・アルバムも 6 月 24 日に発売されることとなった。今回のテーマは スペイン音楽。多忙なスケジュールの合間を縫っ てお二人に話を伺うことが出来たので紹介したい。

スペシャル 対 談

荘村清志

×

福田進一

©Takanori Ishii

2015 年 5 月 11 日 於：GG サロン 聴き手：渡邊弘文（本誌編集長）

●「Hakuju ギター・フェスタ」10 周年

たが、 「前回くらいで出てください」とお願いしたら、 「わ

――「Hakuju ギター・フェスタ」も第 10 回となりまし

かりました。ご恩がありますから」と言ってくれて（笑）。

たね。今年のテーマはスペインということですが？

ソロの他、鈴木一義 Quinta さんとのデュオも披露して

荘村（以下 S） ：第 1 回が武満 徹さんの特集で、第 2 回

頂きます。コンサートの開始前には直木賞作家の逢坂 剛

がスペインだったんです。その後、イタリアとかフラン

さんをゲストにプレトークも行ないます。

スを回って、今回は第 10 回ということでスペインに戻っ

S：8 月 22 日（土）は、福田さんの親友でもあるフラン

て来た訳です。

シスコ・ベルニエール。

――夏のギターフェスティバルとしてすっかり定着しま

F：パコ（フランシスコの愛称）は、パリのエコール・

したが、10 年続いたことへの感慨はありますか？

ノルマル音楽院の後輩なんですよ。スペインの伝統的な

福田（以下 F） ：当初は、2、3 回で終わるよとか、持っ

とても音の綺麗なギタリストで、今の 40 歳代前後を牽

て 5 回くらいだろうと言われたりもしたんですが、こう

引しているメンバーの中でも、最も優秀な一人ですね。

して 10 年間、無事に回を重ねることが出来ました。継

S：ベルニエールと同じ日に、僕はソプラノの小林沙羅

続は力なりということでしょうか。 S：Hakuju Hall の社長さんが常にバックアップしてくだ

さんと共演します。今すごく人気が出ている方なんです

さって、本当に心から感謝しています。それなしでは 10

F：8 月 23 日（日）は、松尾俊介君と朴 葵姫さんに出て

年間も継続出来ませんでした。

貰い、最後はベルニエールも交えて演奏します。若手が

F：白寿生科学研究所という会社のホールということで やりやすい面もありましたし、Hakuju Hall 自体がギター

出演する「旬のギタリスト」は藤元高輝君。第 1 回目の「旬」

にぴったりで、我々が望んでいた、ちょうど良い大きさ

で、10 年間という時の流れを感じますね。

の箱でした。加えて音響も非常にギターに向いています。

――今回の委嘱作品は？

S：自分が表現したいことが、120％跳ね返って来るので、

S：アントン・ガルシア・アブリルという、スペインの

演奏しがいがありますね。

作曲の大家に委嘱作品を書いて頂きました。

でもすごくクリアに通り

が、スペインの歌を聴いて頂きます。

に登場した松尾君が、今回は本編に戻って来てくれる訳

ますし、無理しないで楽に弾けるホールだと思います。

F：今回は曲の完成も早かったですね。タイトルが《ヒ

――今年のゲストについて教えてください。

ラルダへの讃歌》。ヒラルダというのはセビーリャの中

S：まず、8 月 21 日（金）は、フラメンコ・ギタリスト

心にある塔の名前です。『プラテーロと私』の詩にも出

の沖 仁さんが登場します。前回のスペイン特集にも出て

てきますよ。

頂きました。

S：ヒラルダはイスラムの時代に建てられた物見櫓で、

F：この 10 年間で彼は知名度もギャラも跳ね上がりまし

高さは 100 ｍくらいあるかな？ 塔の内側は階段ではな

26 Gendai Guitar

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村治奏一 Soichi Muraji

春の雨が降りしきる中、ほぼ満員となった東京 オペラシティ・リサイタルホールで、Ｂ→Ｃ （ビートゥーシー）の今シーズンの幕開けとな るこのコンサートが開催された。Ｂ→Ｃは若手 演奏家がバッハと現代曲を中心に演奏するリサ イタルシリーズで 1998 年の開始以来、高田元 太郎、大萩康司、益田正洋らが出演し、今回は 2010 年の松尾俊介以来 5 年ぶりとなるギタリ ストの出演となった。村治は世界的にも注目を 集める日本人作曲家、藤倉 大の新作〈Chance Monsoon〉の日本初演を含む大曲、難曲を集め た意欲的なプログラムに真っ向から取り組み、 確かな技術に裏付けられた実力を改めて認識さ せた。 プログラム：Sparks（藤倉 大） 、エキノクス（武 満 徹） 、リブラ・ソナチネ（ディアンス） 、カ ヴァティーナ組曲（タンスマン） 、 プレリュード・ ハ短調 BWV999、フーガ・ト短調 BWV1000、 プ レ リ ュ ー ド、 フ ー ガ と ア レ グ ロ 変 ホ 長 調 BWV998（バッハ） 、神秘的なバリケード、手 品（クープラン∼ラッセル）、コンポステラ組 曲（モンポウ）、Chance Monsoon（藤倉 大／ 村治奏一委嘱作品※日本初演 ［2 月 14 日／東京：オペラシティ・リサイタル ホール］ 写真：満田 聡

毎年ゴールデンウィークに開催されている N 響のゴールデン・ クラシックスに、 村治奏一がソリストとして登場した。コンサー ト開演前にはプレコンサートが開かれ、ギターソロで、タレ ガ〈アランブラの想い出〉、第１ヴァイオリン次席奏者、大宮 臨太郎とのデュオでファリャ『7 つのスペイン民謡』より第 1 曲〈ムーア人の織物〉 、ピアソラ『タンゴの歴史』より〈ナイ トクラブ 1900〉が演奏され、開演 1 時間前から詰めかけた聴 衆を魅了した。本公演は前述の“Ｂ→Ｃ”のハードなプログラ ムとはうって変わって、幅広い客層に対応するため親しみやす い名曲ばかり揃えた選曲となった。 《アランフエス協奏曲》で は確かなテクニックで N 響と堂々と渡り合い、 〈カヴァティー ナ〉ではオーケストラをバックに朗々と歌い上げた。会場では 「ギターっていいね」という声も多く聞かれ、プレコンサート、 本コンサートを通じてギターの魅力をアピールする良い機会と なった。 プログラム：ピアノと管弦楽のためのロンド ニ長調 K.382 （モーツァルト） 、アランフエス協奏曲（ロドリーゴ）、／カヴァ ティーナ（マイヤース）、交響曲第 5 番ハ短調作品 67「運命」 （ベートーヴェン） ［5 月 4 日／東京文化会館・大ホール］

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愛器を語る 角 圭司 ◆ 三浦隆志（2013)

Keishi Sumi 1997 年スペイン音楽ギターコンクール優勝。これまでに M. バルエコ、R. チェスター、尾尻雅弘、増田幸作の各氏に師事。 1999 年に渡米。米国の同時多発テロ後、ワシントン DC の国務省にて演奏。2002 年ニューヨークにて世界貿易センター ビルのためのチャリティコンサートを行ない、TV ニュース番組で全米に紹介された。同年パンアメリカン交響楽団、コ スタリカ国立交響楽団とも共演。その前後にもケネディセンター、カーネギーホールはじめ全米で演奏する。1999 年ジョ ンズ・ホプキンス大学ピーボディ音楽院入学、翌年修士課程演奏家ディプロマコースに特別進級。2002 年同音楽院修士 課程ディプロマコースを修了し卒業。2005 年、在米日本大使館主催でリサイタルを開催しその後帰国。2005 年の台湾 ツアーでは台北と高雄で演奏。台南芸術大学でマスタークラスを行なった。2008 年 NHK 交響楽団団友オーケストラと 共演、2010 年と 2011 年にスペインツアー、2013 年にベトナムツアーを行なった。ソロだけでなく重奏や他楽器との 室内楽など多岐に渡り演奏している。

写真：木田新一 写真：木田新一

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the

cinema

paradice

第 2 特集

特別編 クラシックギター界きっての“映画通”である 鈴木大介氏が、シリーズ 7 作目となる映画音楽 CD『キネマ楽園∼ 70years』を 7 月にリリース する。本誌では 2014 年 4 月より 1 年間、鈴木 氏には同タイトルの連載（コラムと編曲楽譜掲 載）をお願いしていたが、7 月にこれまでの連載 楽譜に新たな数曲を加え、『キネマ楽園曲集』と して出版することとなった。 今回はその CD リリースと曲集出版を記念した “キネマ楽園・特別編”として、鈴木氏に映画と キネマ楽園シリーズにかける熱い想いを語って もらった。

鈴木大介 Daisuke Suzuki 作曲家の武満 徹から「今までに聴いたことのないようなギタリス ト」と評されて以後、新しい時代の音楽家として常に注目され続け ている。『カタロニア讃歌∼鳥の歌／禁じられた遊び∼』（ベルウッ ド・レコード）は 2005 年度芸術祭優秀賞（レコード部門）を受賞。 ギター・ソロによる映画音楽のカバーで大ヒットとなった『キネ マ楽園』（同上）シリーズは 2013 年までに 5 作品をリリース。第 10 回出光賞、第 56 回芸術選奨新人賞を受賞。

●武満音楽への想い ギタリストになりたての若い時期に、武満 徹さんのギ ター音楽をすべて録音するという仕事をいただいた。武 満さんの音楽は学生時代もヨーロッパでもコンサートを する時にはよく弾いていたし、大好きな作曲家だったの ですぐにお引き受けしたのに、間もなくしてご本人が亡 くなられてしまい、その CD の完成作を聴いていただく ことはできなかった。しかしながらその CD は、セール スも周囲が驚くほど良くて、僕がギタリストになって生 活してゆく道を切り拓いてくれた。たぶん、新人作家が 何かの賞をもらう出世作、みたいなものに相当するのか もしれない。演奏は未熟というか、無我夢中というか、

リが弾くドビュッシーの前奏曲集の録音や、ピエール・ ブーレーズが指揮するドビュッシーの〈海〉のビデオを 鑑賞した。そうしているうちに夜が明けて、音楽を聴き 続けた興奮がおさまりきらなくて、武満さんが住んでい た鎌倉の空気に触れたら何か自分の身体の細胞の構成が 変わって、突如演奏も良くなるのではなかろうか、と思 い込んで始発から間もない電車に飛び乗って出かけたこ とも何度かあった。 多分、僕は武満さんの音楽が生まれた時代の空気、自 分がこの世に生まれていたけれども、自覚した音楽家と して触れることのなかった昔の気配を探していたんだと

正直 26 歳の僕には荷が重すぎて結果のことなど考える 余裕はなかった。廉価盤になっていることもあって最近

『不良少年』

でも皆さんによく聴いていただいているが、本心を吐露

監督：羽仁 進 音楽：武満 徹 出演：山田幸男、吉武広和、山崎耕 一郎、他

してしまうと自分にとっては、甲子園で延長戦を制して 優勝したことを今でも誉められている野球選手のようで 甘酸っぱい感じだ。

特別少年院の生徒と先生の赤裸々 な手記『とべない翼 』をもとに羽 仁 進が脚本を執筆した劇映画。 歪んだ少年たちの“心”を探ろうと する意図のもと、役者は素人から 起用された。武満 徹の音楽は、こ うした演出の狙いに沿った少年た ちの衝動、不安、激しい心理の起 伏を見事に表現している。

武満さんの CD の録音のために、1 年間彼の音楽と向 き合う中で僕が一番興味をそそられたのは、武満さんの 音楽の中に切り取られているその時代ごとの“昭和の風 景”だった。毎日練習が終わると、深夜からお酒を片手 に武満さんの音楽の録音を聴いた。70 年代の琵琶の録音 や、荘村清志さんの〈フォリオス〉の演奏が好きで、毎 日聴いていた。70 年代の録音には冷たい空気が頬を刺す 冬の明け方に森の中を歩いているみたいな厳しさがあっ た。それからアルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェ

［DVD］RFD-1149 3,800 円 + 税 発売元：ローランズ・フィルム

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