農村六起 入門講座

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入 門 講 座

地域起業家人材育成のための 社会システム構築に関する構想

川 辺 紘 一


の う そ んろっき

入門講座

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特に、農業就業人口の高齢化は深刻である。周

要 旨

知のように、わが国では戦後一貫して昭和一桁世

わが国の農山漁村地域が疲弊の度を加えている。2008 年のアメリカ発の金

代が農業人口の中心を占めてきた。敗戦直後、わ

図表 2.今後25年間の高齢化比率

が国は食料危機に陥り、食料供給のかなりの部分

融危機に端を発する経済危機は瞬く間に世界を巡り、わが国経済も極めて厳

をアメリカ等の外国からの食料援助に頼ってきた。

しい状況に追い込まれた。その影響は、雇用不安の激化、中小企業の経営困

そうした時代に、昭和一桁世代は就職期を迎え、

難、格差と貧困問題の深刻化などとして現出しているが、同時に農山漁村地

農村部の若者のほとんどは農業に就いた。農業は

域においては「地域崩壊」ともいうべき事態も起こり始めている。

当時、食料危機を脱するために最も必要とされる

一方、都市生活者の 4 割程度が「地方への定住」や「農山漁村での二地

産業であり、他産業の就職先も未だ少なかったこ

域居住」などの ふるさと回帰 を望んでおり、その多くが「田舎で働きたい」

とから、昭和一桁世代の多くが農業に就くことに

と考えている。このような動きを「ふるさと起業」に結びつけることができれば、

なった。その後、日本の産業界が急速に復興して

「ふるさと回帰産業」とも呼ぶべき新たな産業形成が可能なのではないか。

ゆくと、若年労働者は、次第に第二次産業・第三

このような考えに立つ筆者等は、平成 21 年度に政府の支援のもとに各地の

次産業にシフトしてゆき、朝鮮戦争の特需などに

自治体の参画を得て、「ふるさと起業家」を育成するための社会装置としての

よって 1950 年代後半より、わが国経済が高度成

『ふるさと起業塾』の開設・運営の試行的実践(「社会実験」)を行った。こ

長期を迎えたあたりから、農業と他産業の所得格

の社会実験の成果を踏まえ、平成 22 年度より『ふるさと起業塾』の全国展開

ふるさと起業塾

差が顕著となり、農村部の若者は高賃金を求めて

に取り組んでゆくこととした。

起案者の川辺です。

都市へと向っていった。

(通称 紘一くん)

図表 3.今後25年間の人口減少率

一方で、農業分野においても、水田を中心に、 用排水路整備、農道整備、区画整理・拡大等の 圃場整備が急速に進むとともに、トラクター、田

第1章 農村をめぐる現状と展望

植え機、コンバインなどの農業機械の性能向上と

ポイント!

化学肥料、農薬の多投、品種改良、農法改善など

・農業就業人口の減少、 農業 高齢化など…農業をとりまく状況を知ろう ・6次産業とはなにかを理解しよう

が強力に進められて、生産性が顕著に向上したこ とにより、農業従事者の増大は止まり、農家の兼 業化が始まった。  また、高度成長期を経て 1970 年代の列島改造

1.1 人口急減、高齢化急進と集落機能減退

わが国における人口の推移を農業地域類型別に

期から 80 年代のバブル期にかけての時期におい 図表1.農業地域累計別にみた総人口の推移

見ると、都市的地域を除く、平地、中間、山間地

1990 年代のバブル調整期から 21 世紀の最初の 10 年を経て現在に至るまで、昭和一桁世代農家はわが

人口減少が著しく、この傾向は今後も加速的に進

国農業の最大の担い手グループであり続けた。しかし、この世代もいまや、75 才から 84 才となり、さす

んでゆくものと予測されている。

がに農業労働力として主力を担うことは困難となった。かくして今、わが国農業の中心的担い手の大量引

また、2025年までの人口の動向を見ると、農

退が始まった。続く世代が極端に少ないため、わが国農業は担い手不在の危機に瀕しているのである。

山漁村部は都市部と比較して、高齢者比率、人口

農業の担い手不足は農業集落の機能低下を意味する。国が行っている各種調査から推計する今後消滅

減少率ともに高い水準となることが確実である

する可能性のある集落(無住化が危惧される集落数)は現在、1,695 集落(北海道、沖縄を除く)に達す

また、2025 年までの人口の動向を見ると、農山漁 率ともに高い水準となることが確実である。

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ては、製造業の農村立地や国土改造の公共工事 により、農業従事者の兼業機会が増え、昭和一桁世代農家の多くは兼業しつつ農業に止まった。さらに、

域ともに減少傾向にある。特に、中山間地域での

村部は都市部と比較して、高齢者比率、人口減少

注:ここで農山漁村とは、中枢・中核都市圏から1時間圏外の地 方圏をいう。 出所:国土審議会「国土の総合的点検」 (2005年4月) より

るものとみられている。今後、こうした集落機能減退が進む農業集落は、中山間地域を中心に加速度的 出所:農林水産政策研究所 橋詰登「日本農村の人口問題」 2005年10月

に増大してゆくことは明らかであり、国土保全や伝統文化の保持の上からも危惧が広がっている。

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1. 2 産業・雇用構造の変化と就業機会の減少

1. 3 農村への国民の期待の高まり

農村地域に立地していた各種企業、特に製造業

図表4.産業別県内総生産の推移

終戦直後の昭和

はバブル崩壊以降の低成長期に入ると、より安価

6 ,0 0 0

年から24 年の3年間) に生まれたベビーブーマー、

な立地や労働力そしてよりポテンシャルの高い市 場を求めて、相次いで日本の農村から撤退し、中

いわゆる団塊の世代(注3)たちが、高度成長期

5 ,0 0 0 建設業

4 ,0 0 0 3 ,0 0 0

の減少につながり、農家の農外所得の減少をもた

2 ,0 0 0

らすとともに、農村部の若者の都市への流出を加

1 ,0 0 0

の産業戦士として、またバブル期のプレイヤーと

図表4は、産業別県内総生産の推移を農林水 産業上位5県(北海道は含まず)の平均で表した ものだが、これで見ると、農村部で最も大きな就業・

○ 農山 漁 村へ の 定住 ・二 地 域居 住 に 対す る願望 (%

H8

H9

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H 15 H 16

H 17

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出所:内閣府 「県民所得計算」 (農林水産業上位5県:青森県、 岩 手県、 高知県、 宮城県、 鹿児島県。 平成17年国勢調査にお いて、 第一次産業従事者の割合が高い上位5県)

兼業機会を提供してきた建設業は、平成8年から

30 20

えはじめた 21 世紀の初めころから、わが国では

10

国民の価値観が大きく変化し始めた。とくに団

0

塊世代の男性を中心として、農山漁村への定住

0

二地域居住の願望 40

しての役割を終え、そろそろリタイヤの時期が見 農林水産業

食料品製造業

速させた。

図表6.農山漁村への定住・二地域居住に対する願望 50

国や東南アジアにフライトして行くこととなった。 このことは、農村部における農業以外の就業機会

20 年代前半(とくに昭和 22

や二地域居住(注4)を求める人が顕著に出現

定住の願望 2 0代

が 20 代から 60 代まですべて3割を超えており、

もジリジリと減少しており、一次産業の衰退を裏

50 代とともに2つの山を成している。これは、 「ロ

30

付けている。一方、食料品製造業のみが微増また

ストジェネレーション」とも言われる「団塊ジュ

20

は横ばいで推移しており、地域食品産業が意外に

ニア世代」がストレスの多い都市生活よりも、自

10

根強い力を保持していることを示している。

然豊かで安らぎのある農山漁村に生きることを求

0

昨年秋の政権交代により、 「コンクリートから人

め始めていることの徴候を見ることもできよう。

へ」との政策転換が進んでゆくことを考えると、

図表7は、図表6とは別の調査結果から農山

農村部における建設業のウエイトがさらに低下し

漁村への定住・二地域居住に対する国民の願望

てゆくことは確実であろう。一方、新政権は農業・

(ふるさと暮らし願望)の推移をみたものだが、

村の6次産業化」 (注1)を打ち出しており、農山

出所:農林水産省 「農業経営統計調査経営形態別経営統計 (個 別経営) 」 より

漁村地域における農林水産業と食料品製造業と の連携・融合、また、地産地消や地産都商(注2)による販売・流通との結合、さらには観光・ツーリズ

7 0以 上

図表7.ふるさと暮らし希望者の推移

40

農村の再生・発展の最重要戦略として、 「農業・農

6 0代

図表6では、農山漁村への二地域居住の願望

がわかる。定住願望は意外にも 20 代が最も高く、

図表5.販売農家の総所得の推移

5 0代

するようになってきた。

50

ている。この間、地域の基幹産業たる農林水産業

4 0代

出所:内閣府「都市と農山漁村の共生・対流に関する世論調査」 (平成17年11月調査)

特に団塊の世代を含む 50 代が突出していること

18 年までの10 年間で約4割減と大幅な減少となっ

3 0代

1.5倍

40% 26%

1996

2005

出所:総理府「食料・農業・農村の役割に関する世論調査」 (平成 8年9月)、ふるさと回帰支援センター「都市生活者に対 するふるさと回帰・循環運動に関するアンケート調査」 (平成17年1月)の同趣旨を比較

1996 年から 2005 年の 10 年間に、ふるさと暮ら し( 「ふるさと回帰」とも言われている)願望が

ここまで

26%から 40%へと約 1.5 倍にも増えていること

順調かな?

を示している。

ムとの結合・融合によって6次産業化が農業・農村再生・発展のフロンティアとなることが期待される。

注1) 「農業の第6次産業化」は、農業経済学者の今村奈良臣が提唱して普及した農業経営の新しい考え方。農業経営に農畜産物の生

注3)終戦直後の昭和 22 年から 24 年の3年間のベビーブーム時代に生まれた約 670 万人の人口の塊りを評論家の堺屋太一が「団塊の

産(第 1 次)に加えて、加工(第 2 次) 、販売・流通・サービス(第3次)を結合・融合(1次×2次×3次=6次)することにより、他産

世代」と名づけたが、これらの人々が今、 ふるさと回帰 の流れの中心にいる。また、これらの人々の子供たち(いわゆる 団塊ジュニ

業が得ていた付加価値を農業側に引き戻す経営努力を意味する。民主党政権は、農業・農村政策の柱として「農業・農村の6次産業化」

ア世代 は「ロストジェネレーション」の多くを占め、<ふるさと起業>をめざす人も多い。

を掲げており、 「6次産業化人材=<ふるさと起業家>の育成が政府の大きな政策課題として浮上している。

注4)国土交通省国土計画局が平成 16 年度に設置した「二地域居住人口研究会」 (小林勇造委員長)が平成 17 年3月に発表した「都

注2)農山漁村や都市周辺の農村部において、農産物直売所や農村レストランおよび農産物加工所などの「地産地消」型の事業が伸び

市と農山漁村の『二地域居住』への提言」 により、 「二地域居住」という新しいライフスタイルが注目されるようになった。 ふるさと回帰

ている。このような「地産地消」の拠点で集荷・品揃えしたり、加工食品として製造したりした「商品」を都市に向けて販路開拓する「地

のかたちとしては「定住」よりも「二地域居住」の方がより現実的であると思われる。

産都消」の動きも活発化している。こうした動きが農山漁村の再生につながってゆく。

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第2章 ふるさと回帰の動向

2.2 ふるさと回帰者の働く意欲

ポイント!

図表 10 には、2005 年に認定NPO法人ふるさ

図表 10.ふるさと回帰者の暮し方願望

と回帰支援センターが行った都市勤労者5万人を

・ふるさと回帰運動をめぐる動きに注目しよう

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対象としたふるさと回帰意向に関するアンケート調 査(有効回答数 2.2 万サンプル)の結果をもとに、 2.1 2012 年に 400 万世帯

前節でふるさと暮らしを願う人が国民の4割に

ふるさと回帰をした後、どのような暮らし方をした 図表8.ふるさと回帰の将来普及率と実践世帯数

達したことを見たが、それでは実際にふるさと暮ら

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しを(ふるさと回帰)を実行した人はどのくらいい るのか、また今後はどうなのか?  図表8で見ると、今年 2010 年時点でふるさと回 帰の実践世帯数は約 300 万世帯となり、2012 年 には、都市住民のおよそ1割近くの 400 万世帯に 達し、さらに、その 10 年後の 2011 年には 700 万

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事実、国土交通省が行った別の調査(注5)結果

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ふるさと回帰見込世帯は 1200 万世帯となる。

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こうしたふるさと回帰の普及に伴う新たな市場 も形成されていくだろう(図表9)中位推計で見て も、2012 年には約8兆円の市場規模となることが 予測されている。  わが国農山漁村地域に「ふるさと回帰産業」と も呼ぶべき新たな市場/産業が形成されつつある のだ。

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(53%)、 「仕事をしながらふるさと暮らし」をした いとする人が半分弱(47%)とほぼ2分される結 業やその他の自営業で「起業」したいと考えてい る。雇用されて仕事をしたい人も全体の2割いる

をはじめとする雇用情勢が年々厳しさを増してい

ることを考えると、 「会社勤めをしながらふるさと

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出所: 「都市生活者に対するふるさと回帰・循環運動に関する アンケート」 (NPOふるさと回帰支援センター、2005年1 月)

図表 11.ふるさと回帰市場「花びら型産業」 (2012 年)

さと回帰者 400 万世帯となり、それにともなって 8兆円の新たな市場が形成され、その市場に向け

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た 「ふるさと回帰産業」 と呼ぶべき産業が立ち上がっ

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てゆくものと見られている。

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ふるさと回帰市場/産業は、ひとつの単一の市

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場/産業ではなく、さまざまな業種(サブ・インダ

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2.3  「ふるさと回帰産業」の可能性

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暮らし」の願望は実現性が低いと言える。

前述の 2.1 で 述べた如く、2012 年には、ふる

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果となった。そして、 「仕事派」の約6割が農林漁

が、先述のごとく、農山漁村地域における建設業

図表9.ふるさと回帰の市場規模 㧏న᥆゛

「悠々自適のふるさと暮らし」を望む人々が半分強

出所: 「平成19年度地域への人の誘致・移動による市場創出の 可能性及び方策に関する調査」 (2008年3月、 国土交通 省、 ㈱ふるさと回帰総合政策研究所)

では、2030 年には都市住民約1千万人の地方定住 または二地域居住が見込めると推計されている。

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されている。また、都市生活者の約4割がふるさ

6割= 3000 万世帯が都市生活者として)すれば、

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基に推計(日本の世帯総数約5千万世帯×およそ

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世帯を超え、普及率も2割近くになるものと予測 と暮らしを望んでいるという、前出の調査結果を

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いのかを分析したものである。この分析によれば、

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ストリー)が複合的に組み合わされた「花びら型 ᐁ ㊮ ୯

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出所:図8と同じ

産業(注6) 」の形になる。ここには、ふるさと回 帰希望者を各地に誘導するプロモーター事業(行 政、旅行業、メディア・広告業、NPOなど)、定住・ 二地域居住用の住まいや農地などを提供する事業

出所:「平成18年度 地域への人の誘致・移動による市場創出の 可能性及び方策に関する調査」 (国土御交通省、ふるさと総 研、2008年3月)

(不動産業、農業団体、建設業、住宅改修業など) 、 注5)平成 16 年に、国土交通省の依頼で(財)日本システム開発研究所が行った人口 30 万人以上の都市住民を対象として行われたア ンケート調査(有効回答数 10,491 人)

5

働く場や田舎暮らしを充実させるアクティビティを

注6)自動車産業や電機産業などに象徴される 20 世紀型産業の市場構造は縦に長い「円柱構造」であったが、21 世紀に伸びてゆく情

提供する事業(職業紹介、起業支援、農林漁業、観光施設業、趣味関連など)、生活サービスや運輸サー

報通信、医療・介護、生活文化(コミュニティ・ビジネス)などの市場は、上から見下ろすと規模は大きいが、横から見ると極めて薄い「円

ビス業(小売・飲食業、各種生活支援サービス業、鉄道・バス・航空、レンタカー、引っ越し業など)等、

盤型」市場が何層にも重なって構成されており、それぞれの「円盤市場」は多様な市場が花びらのようにいくつも集まってできていると

様々な業種・業態の事業機会が発生する。また、これらさまざまな業種・業態を結合させてトータルなふ

いう市場/産業構想観。2000 年頃、野村総合研究所の玉田樹理事(当時)等が提唱した。

るさと回帰産業として組み立てるインテグレーター業(統治企業)も現れるだろう。

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といったニーズを捉え、彼らが農山漁村地域等に賦存する豊富な資源を活用して「ふるさと起業」に取り

第3章 『ふるさと起業塾』 の構想

組むことができるような方向に導いてゆくことが必要なのではないか。言うなれば 「 雇用 から 起業 へ」

ポイント!

のパラダイムシフトである。

・ふ ふるさと起業塾とは何か ・ふるさと起業塾が目指す2つの回帰とは… 3. 1. 2  田舎 は人材を求めている

・今なぜ地方で起業が必要なのか考えてみよう

田舎 (農山漁村)における雇用機会が縮減しつつあることは、農家の兼業所得が年々縮小している ことに端的に現れている。かつて農村での三大雇用源であった建設業、農林漁業、サービス業(公務含)

3.1  『ふるさと起業塾』がめざすもの

の産業サイズが縮んでいるからである。だから地方定住を希望する都市生活者が田舎で「勤め先」を確

3.1.1  雇用 から 起業 へ

100 年に一度の と言われた一昨年秋以来の 世界同時不況は、昨今ようやくその最悪期を脱し、

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中国など一部の国や地域では再び成長軌道を回復

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しつつあるようだが、わが国の経済危機・雇用不

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の3分の1を占め、来春大学卒業見込み者の3割近 くが 内定 なしで、 「第二のロストジェネレーショ ン」化が懸念されている。正規労働者にしても、

では、 起業 のチャンスはあるのか?結論を先に述べるならば、 「地域資源の活用と連携を軸とした

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周知のごとく、わが国には 40 万haにも及ぶ耕作放棄地がある。作付けされていない水田などを含め

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地域の活性化」という方向で一所懸命の努力をする覚悟があれば、農山漁村における 起業 のチャン スは無限にあると言える。

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安は依然として厳しい状況にある。完全失業率は 5%超に高止まっており、非正規雇用は全雇用者

保することは極めて困難であると言わざるを得ない。

図表 12.雇用者率と自営者率

れば 100 万haほどの農地が遊休化しているとも言われる。また、前述のごとく昭和一桁世代農業従事

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者の大量リタイアが始まっており、後継者不在の状況下で今後耕作放棄地が膨大な面積になることが考

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えられる。この耕作放棄地・遊休地を活用した 起業 がまず考えられる。

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出所:国勢調査より

年収 300 万円未満が3割を超え、終身雇用と手厚

わが国はまた森林大国でもある。林野率は7割近くに達し、これは世界第3位であり、40 億立米超の 森林資源があり、毎年約8千万立米の蓄積増加があるのに、その2割程度しか利用されていないと言わ れている。

い企業内福祉の日本型雇用慣行は過去のものとなり、経済情勢によってはいつリストラの対象となるかわ

農村は水資源も豊かである。アジア・モンスーン地帯の気象は、夏の梅雨と秋の台風そして冬の雪によっ

からない。こうした雇用不安が社会の安定を阻害する大きな要因となっていることは、一昨年の「秋葉原

て日本列島に年間 1700 mm以上(世界平均の約2倍)の豊富な降水量をもたらし、この水を利用した農

事件」など、一連の 不可解な 出来事などにも象徴的に現れている。

業用水は全長 40㎞にのぼる。農業用水は田畑を潤すだけでなく、 小水力発電の資源としても有望である。

しかし、 翻って考えてみると、 わたしたちは 雇用 ということにあまりにも過度に依存していないだろうか。

いま世界は深刻な水不足の時代に突入しつつある。水こそ最大の天然資源だとも言われている。

今から 60 年前の 1950 年頃、わが国の働く者の6割は自営業者か第一次産業従事者であり、給料を得

さらに、農山漁村に賦存する未利用の各種自然資源(未利用バイオマス(注7)や自然エネルギー(注

て生活する被雇用者は4割程度であった。 (図表 12)。それが今や(2005 年)85%が被雇用者となり、自

8)など)を活用し、素材・エネルギー・医薬品などを創出する国家戦略も検討されている。例えば、

営業者は1割程度となった。また、60 年前は働く者の半分近くを占めていた農林漁業など一次産業の就

わが国の耕作放棄地の1割にあたる4万h

業者はわずか数%となってしまった。働く者の 85%が被雇用者(給与生活者)であるという状態が健全な

aに太陽光パネルを設置した場合、東京都

経済社会の姿なのだろうか?現下の 雇用不安 は、もしかするとわが国産業・企業の雇用キャパシティ

の全世帯(616 万世帯)が消費する分を超

が縮み始めていることを示しているのではないだろうか?もしそうだとするならば、 雇用 に過度に依存

える電力供給(約 650 万世帯分)が可能で

し続けることは社会の一層の不安定化をもたらすのではないか。多くの勤労者が、常に企業の都合でリス

あり、また、わが国に賦存するバイオマス(年

トラされるかわからない不安を抱えながら生きなければならない社会は安定感に欠ける。自立的な自営業

間 3.2 億トン)をすべて発電に利用した場合、

者が自らの知恵と技を活かして創意工夫しながら、新しい事業を起こすことによって経済が活性化してゆ

関東地域の全世帯(1,800 万世帯)分に近

く社会のほうが、多くの人が よりよく生きる ことにつながりやすい社会といえるのではないだろうか。

い約 1,600 万世帯分の電力供給が可能との

図表 13.緑と水の環境技術革命による新産業創出

出所: 「農村の振興に関する施策の整理」 (平成21年8月、農林水産省)

以上のように考えると、今般の経済危機のもとで政府が行ってきた各種の対策は 雇用 に偏重しすぎ のように思える。 雇用 の受け皿となるべき既存の企業が現下の経済危機への対応策として 雇用調整

7

注7)太陽エネルギーと土と水を基に生成する動植物から生まれた再生可能な有機性資源。地球温暖化防止、循環型社会形成、戦略的産業育成、

の方向に向いており、また新たな雇用を創出するような新しい産業や企業も育っていない。そのような情

農山漁村活性化等の観点から、バイオマス利活用推進に関する国家戦略として「バイオマス・ニッポン総合戦略」が平成 14 年 12 月閣議決定された。

勢の下で政府がいかに雇用対策に躍起になってもおいそれと新たな雇用が生まれてくるものではない。

注8)農山漁村地域に賦存する利用可能な自然エネルギー(再生可能エネルギー)としては、バイオマスの他、小水力発電、太陽光発電、

むしろ近年、若者の間に顕著な傾向として現れてきた「地方定住」 「ふるさと回帰」 「田舎で働きたい」

風力発電などがある。

8

の う そ んろっき


の う そ んろっき

入門講座

試算もある(注9)。国(農林水産省)では「緑と

入門講座

図表 14. 「新たな旅」への将来参加希望と潜在需要

3. 1. 3  ふるさと回帰者 は田舎で働くための研修を望んでいる

水の環境技術革命」と銘打ち、10 ∼ 20 年後に

本稿 2.2 で述べたごとく、ふるさと回帰希望者の約半分(47%)は「仕事をしながらふるさと暮らし」を

は農山漁村地域において6兆円規模の新産業を

したいと望んでおり、その6割の人々(全体の 27%)が農林漁業なり、その他の自営業を自ら起してみたい

創出することを検討している。

と考えている。このふるさと回帰希望者の3割近く

農地・森林・水といった自然環境のほかに、農

を占める 起業派 とも呼ぶべき人々が『ふるさと

村には祭りや伝統芸能、郷土料理などの食文化

起業塾』の主たる対象者になるものと思われる。

やさまざまな生活文化、心安らぐ農山漁村景観そ

では、 この人々は 「ふるさと起業」のための 「研修」

して暖かな人情や相互扶助の精神など、多くの無

を必要としているのだろうか?本稿の筆者が研究

形の資源がある。これらのソフトな地域資源を活

パートナーとして参加している㈱ふるさと回帰総合

用して新たな 交流需要 ( 「新たな旅」 (注 10) )

出所: 「レジャー白書2007」 (財団法人社会経済生産性本部)

政策研究所が 2009 年8月に行った「全国 10 万人

を創出することもできる。

web アンケート調査」によれば、下図の如き結果

(財)社会経済生産性本部の「レジャー白書 2007」によれば、このような「新しい旅」の潜在需要は

が得られた。

併せて 8.5 兆円程度となるとされている(図表 14) 。景勝地・名所・旧跡や温泉地・各種レジャー施設な

いま、 日本の国民の3分の1強(35%)の人は「田

どを訪れ、非日常的な金銭消費を行う従来型の観光・余暇行動を対象とした「観光業」はいまや衰退産

舎で働きたい」と思い始めており、 4分の1強 (26%)

業化しつつあるが、一方で従来型の観光地ではない、ふつうの農山漁村に滞在し、いのちのにぎわいと

の人々は、そのために研修を受けることを望んで

安らぎに満ちた田園空間の中でゆったりと流れる時間に身を任せたり、地域に生きる人々と交流しながら

いるのである。

図表 15.田舎で働きたい

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出所: 「全国10万人アンケート」 (ふるさと総研、2009年8月)

農林漁業を体験したり、地域の食文化や伝統芸能を楽しんだりする、新しいかたちの余暇行動が台頭し つつある。同時に、こうした新しい余暇行動を対象とした観光・ツーリズムも立ち上がりつつある。これ らは「グリーン・ツーリズム」 「ニューツーリズム」 「エコツーリズム」 「ヘルスツーリズム」など様々な名 称で呼ばれ、各方面で新たなツーリズム産業として育成すべく努力が傾けられているが、未だ潜在市場 の状態にあると言えよう。  このように、わが国の農山漁村には有形・無形の未活用の資源が極めて豊富に賦存している。これら の未利用資源を有効に活用した新産業を創出してゆけば、農山漁村は新しい産業のフロンティアとなり、 そこには巨大な起業・事業創造のチャンスが生まれることとなる。そして、その産業/市場スケールは本 稿で触れただけでも、 「ふるさと回帰産業」8兆円(2012 年) 、 「緑と環境技術革命による新産業創出」 約6兆円、 「新しい旅」の潜在需要約 8.5 兆円、という巨大なスケールである。またさらに、新政権が 掲げる「農業・農村の6次産業化」等による「新たな農村産業」を 5 ∼ 10 兆円と見込む議論もある(注 11)。  このような「新たな農村資源活用型産業」を創出してゆくためには、政府の強力な政策誘導、産業・ 企業の積極的な事業参入、学界・大学等による研究開発、資金や技術の惜しみない投入、そして何より も起業家マインドにあふれた膨大な数の新たな人材の登場が必要である。新たな産業のフロンティアとな る可能性に満ちたわが国の農山漁村(田舎/ふるさと)は、起業意欲にあふれた新たな人材の登場を待っ ているのである。

3. 1. 4  『ふるさと起業塾』は2つの回帰をめざす

わが国経済社会は明治維新以来の「拡大・成長社会」の時代を了え、 「成熟社会」ないしは「定常化社会」 へ向かいつつある、との考え方がある(注 12) 。事実、わが国の人口は既に減少の時代に入り、2050 年 には1億人を割り込むことが確実と見られており、国民の意識も「モノの豊かさ」よりも「ココロの豊かさ」 を選ぶ人が圧倒的大多数となって久しい。近年、歴代の政府は「内需拡大」を叫び続けてきたが、消費 低迷は長く続き、今や「デフレギャップ 35 兆円」とも言われ、ピーク時の名目GDP 520 兆円は今や 470 兆円と、50 兆円も縮んでしまった。かつて 1億総中流 と言われた国民生活レベルは崩壊し、昨年 10 月わが国政府が初めて公表した日本の相対的貧困率は 2006 年で 15.7%、実に 800 万世帯近くが貧困世 帯となっていることになる(注 13) 。  こうした時代に生きる人々の 働き方

生き方 として、都会での 安定雇用 に頼るだけでなく、 田舎 (農

山漁村)での 起業 という選択肢をより太くすることが必要なのではないか。そして 田舎で起業 ( 「ふ るさと起業」)という 働き方

生き方 を選択しようとする人々に対して、 「ふるさと起業」に必要な知識・

技術・スキルを身につけ、地域の人々とのネットワークを築くための場――『ふるさと起業塾』――が社 会システムとして構築されるべきではないか。  都会から田舎へ、 雇用 から 起業 へ、この2つの大きな 回帰 の社会潮流をつくる――これが『ふ るさと起業塾』がめざすものである。

注9) 「農村の振興に関する施策の整理」 (農林水産省「食料・農業・農村政策審議会企画部会」21 年8月会合資料)P 8に記載。

注 12) 「21 世紀後半に向けて世界は、高齢化が高度に進み、人口や資源消費も均衡化するような、ある定常点に向かいつつあるし、ま

注 10) 「レジャー白書 2007」より

たそうならなければ持続可能ではない」という認識。千葉大学教授広井良典等が提唱している。

注 11) 「緊急雇用対策への NPO からの緊急提言」 (「新しい公共をつくる市民キャビネット設立準備会」2009 年 12 月 18 日)より

注 13)2009 年 10 月、政府(厚生労働省)が初めて公式に発表した相対的貧困率は 2006 年で 15.7%。世帯総数が 5038 万世帯なので 単純計算では 791 万世帯が貧困世帯となる(2009 年 12 月 28 日、日本経済新聞)

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の う そ んろっき


の う そ んろっき

入門講座

入門講座

3.2 全体の仕組み 3.2. 1  『ふるさと起業塾』の全体構図

3. 2.3  《地域塾》の開設・運営 図表 16.ふるさと起業塾の全体構想(概念図)

全国各地の「ふるさと起業塾《地域塾》 」の開設・運営主体となる団体・組織としては、地方自治体、

大 学 企 業

『ふるさと起業塾』を全国各地域に展開・整備

ふるさと起業塾全国ネット(仮称)

してゆくためには、概ね図表 16 のごとき仕組みが

推進本部

ふるさと起業塾の全国提案、

るさと起業全国ネット」が本構想全体の推進母体

塾生の紹介

全国大学連携、講師ネットワーク、 塾コンテンツ 支援

塾生支援

総合塾 ( 東京・ 札幌)

e−ラーニング による起業ノウハウ 塾生受入

地域塾ネッ ネット

地 地域塾

となり、これにそれぞれが独立して運営される全

講師派遣 e−ラーニング

塾運営 ノウハウ提供

経営支援

... ...R R R

《地域塾》の開設・運営を実行するにはいくつかの必須の要件がある。

塾生の募集、地域塾への紹介

塾の 入口支援

必要となろう。  『ふるさと起業塾』構想は、全国組織である「ふ

NPO、地域経済団体、教育機関およびこれらの連携体などが考えられる。

(推進母体)

Q Q P O O P O Q P

直営 地域塾

A B C D

...

塾の出口支援

奨学金 起業資金

第一に、運営体制の整備である。 《地域塾》の開設・運営という事業全体の責任者(事業責任者)、塾 生(研修生)の研修を指導する責任者( 塾長 など) 、運営事務・業務を統括する責任者(事務責任者) および実務担当者、そして座学や実地研修(OJT など)を実際に指導する講師陣やインストラクターなど で運営体制が構成される。また、地域の住民やさまざまな分野からの支援体制も必要となる。

国各地の「ふるさと起業塾《地域塾》」が加わって、

起業ファンド<投資ファンド、奨学金>

第二に、研修生受け入れのための施設の整備。まず、都市からやってくる研修生のための「宿舎」と座

全体のネットワークを形成することにより構成され

ふるさと起業家 多数の輩出

学研修のための「教室」の整備が不可欠である。できれば、宿舎と教室が一体となるか、隣接しており、

る、一種のフランチャイズ・システムのごとき仕組

出所:認定NPO法人ふるさと回帰支援センター

みとなることが想定できる。

常設・専用の施設として整備されることが望ましい(廃校の活用等) 。空き家等を改修・整備して利用する ことも考えられる。また、農業研修のための農地なども必要となろう。耕作放棄地や遊休農地などを研 修生の労力で農地再生して研修圃場として活用することも考えられる。

3.2. 2  「全国ネット」の3つの役割

第三に、 《地域塾》の開設・運営に要する資金の確保である。塾の運営に従事する要員の人件費、講師

「ふるさと起業塾全国ネット」は次の3つの役割を担うこととなる

等に対する謝金、施設の整備・運用費、塾生(研修生)の生活・活動経費(移動のための車両費含む) 、

(1) 『ふるさと起業塾』の全国提案及び塾生の募集と《地域塾》への送り込み( 入り口 の形成)

その他塾の運営に必要な諸経費など。

政府、地方自治体、産業界・企業、学界・大学、マスコミ等に対して『ふるさと起業塾』の構想をア

以上、3つの要件が整ったところから随時《地域塾》を開設してゆく。各地の《地域塾》の開設・運営

ピールし、必要な支援・協力を確保する。また、国民の3分の1(先述の 10 万人 web アンケートによ

については、 「全国ネット」が全面的な支援を行うが、 《地域塾》の運営を効果的に遂行し、ふるさと起業家

る)に及ぶ「田舎で働きたい」と考える人々に対して『ふるさと起業塾』への入塾を呼びかけ、 《地域塾》

の輩出という所期の目的を果たしてゆくには、各地域の自主的・主体的取り組みが絶対不可欠である。

の塾生(研修生)を全国的に募集し、 《地域塾》へ送り込む。 (2) 『ふるさと起業塾』の コンテンツ の開発・提供と《地域塾》運営支援(「内容」の充実)

3. 3  『ふるさと起業塾』の対象とカリキュラム

大学連携や講師陣ネットワークを形成し、カリキュラム開発および研修内容のコンテンツ開発を行い、

3. 3. 1 塾生の4つのタイプ

同時に全国ネットが自ら《総合塾》を開設・運営する。また、全国各地の独立した《地域塾》の開設

『ふるさと起業塾』の塾生対象となる人々として次の4つのタイプが想定される。

を支援し、講師派遣及び運営ノウハウを提供する。

① 目的意識明確 タイプ

(3) ふるさと起業 のためのファンドの造成( 「出口」の確保) 『ふるさと起業塾』での研修を修了した者が 起業 に挑戦する際、当然そのための 資金 が必要 となる。 「全国ネット」はその資金を供給する仕組みを創らねばならない。先述の「全国 10 万人 web アンケート」によれば、 「田舎での様々な小さな 起業家 に対して、しっかりした投資環境が整備さ れれば、是非投資してみたい」とする人は全体の 32%にものぼる。こうした多くの人々の力を借りな

② モラトリアム タイプ

ふるさと回帰を行い、その地域で自ら生業(なりわ

都市に住むサラリーマンや学生であるが、なんとなく都

い)を営むことを強く願望しているが、その機会や

市生活に居心地の悪さを感じ、田舎で生きたいとも考え

方法が具体化できないでいる人

ているが、何をどうしたらよいか見当がつかないでいる人

③ 企業から派遣 タイプ

④ 地域に生きるひと タイプ

企業の人事・福利厚生制度の一環として(例えば

現在農山漁村に在住して農林漁業や建設業、その

英国の「ギャップ・イヤー」 (注 15)のような制度)

他の仕事に就いているが、新しい知識やノウハウを

がら、 また、 志のある企業や 地域起業 に関心のある金融機関、 そして政府等の支援(注 14)も得て、

企業から派遣される人、あるいは農山漁村の地域

身につけ、ふるさと起業家 として自らのレベルアッ

「ふるさと起業ファンド」を造成する。この「ファンド」を効果的に運用しながら全国各地に《地域塾》

資源活用による新たな事業創造に取り組もうとして

プを図るとともに、地域活性化に貢献したいと考え

いる企業から送り込まれる人

る人々。農家の後継者や地域の高校卒業生なども

の育成を行い、多数の意欲にあふれた「ふるさと起業家」が輩出されることを支援する。 注 14)平成 21 年 12 月8日に政府が発表した「明日の安心と成長のための緊急経済対策」において、緊急雇用創造対策の重点施策と

注 15)大学や大学院への進学が決まった若者が、入学までの一定期間(半年から 1 年くらいの間)、社会的見聞を広げるために旅をした

して「地域社会雇用創造事業の創設」が盛り込まれた。この事業は、 「NPO や社会起業家など社会的企業等の創業・事業化を通じて<

り仕事をしたりすること。1990 年代の英国で始まり、英語圏の国で普及しつつある。

地域社会雇用>を創造する」ことを目的とした「社会起業インキュベーション事業」と、社会的企業分野におけるインターンシップを含 めた人材創出に取り組む「社会的企業人材育成・インターンシップ事業」の2つの事業で構成される。この事業を実施するために、平成 21 年度第2次補正予算(内閣府分)に 70 億円が計上されている。

11

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入門講座

入門講座

3.3. 2 5つの研修テーマ

3. 3. 3 コースとカリキュラムの構成

「ふるさと起業」は必ずしも「研究開発型の新規創業企業(NTBF s:New Technology − Based

『ふるさと起業塾』は、 「入門コース」 「基礎コー

Firms)を重点的にめざすものではない。もちろん、 「地域イノベーション」 (注 16) や 「緑と水の環境技術革命」

ス」 「実践コース」 「起業家コース」の 4 つの段階

などによる農業・農山村漁村資源活用型新産業創出も視野にいれておくことは重要であるが、NTBF sが

を設ける。

図表 17. 『ふるさと起業塾』のコース/カリキュラム構成案

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IPS(株式上場)をひとつのゴールとしてイメージされることが多いのに対して、 「ふるさと起業」は生業 ①「入門コース」は、web 上で展開し、 「ふるさと

によって、全体として地域活性化につながってゆくことをめざす。その意味で「ふるさと起業」は 花びら

起業」への関心を喚起し、 『ふるさと起業塾』の

型産業 (注6参照)の形成をより強くイメージしている。このような考えに基づき、 『ふるさと起業塾』の

周知を図り、 「基礎コース」以降へのイントロダク

研修テーマとして当面、次の5つの分野を設定する。

ションとなる内容を盛り込む。このコースは常時 <1>「循環持続型農業」による起業 化学合成物質やエネルギーの多投による慣行農業

『ふるさと起業塾』の研修テーマ(起業分野例)

ではなく、地域有機質資源の循環に基づく持続性 のある農業(環境保全型農業、有機農業など)に 真摯に取り組む人材の育成

<2>「6次産業化」による起業

<3>「次世代ツーリズム」分野での起業

地域特性のある農林水産物の生産、地域の伝統文

旧来の観光業から提供される 「商品」を購入する 金

化や技術を活かした食品加工、地域食文化を提供

銭消費型 のツーリズムではなく、農山漁村の自然

する農村レストラン、農林水産物と地域特産品の流

環境、人々の暮らし、安らぎのある時間と空間など

通(地産地消/地産都商など)を結合・融合させ

を活かした「景観」 「食」 「医療」 「健康」 「癒し」 「体

た新たな農村複合産業を起業できる人材の育成。

験」 「学習」 「交流」などを重視した新しいツーリズ ム( 「次世代ツーリズム」 )の産業化を担う人材(地 域観光創造起業家)の育成。

開設され、いつでも、誰でも、どこでも受講す

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ることができる。できるだけ広範な分野の多数の 人々が参加することを期待する。 ②「基礎コース」は、 「ふるさと起業」全般の概説、方法論、起業分野(研修テーマ/当面5コース)別 の基礎知識、その他必要な情報・知識等について、主として座学スタイルで実施する。講義内容をテレ ビ会議システムも組み合わせたe‐ラーニングシステムで受講できることも検討する。 ③「実践コース」は、各地で開設される《地域塾》において、それぞれの地域地場産業の現場などで、 実地研修(OJTなど)を中心に実施し、 「ふるさと起業」の具体的なかたちと厳しさを自らの五感を通 して学ぶ。また、地域の人々との良好な人間関係の構築を心がけ、起業後の連携・協力ネットワークの 形成を図る。 ④最後の「起業家コース」は、塾生(研修生)それぞれが自らの「ふるさと起業」の事業計画を立案し、 事業目論見書にまとめ、必要に応じてスポンサーや協力者を募ったり、投資家(起業ファンド等)や金融

<4>「ふるさと回帰産業」分野での起業

<5>コミュニティ・ビジネスの起業

2012 年には8兆円のスケールとなることが見込ま

農山漁村の地域課題解決型ビジネス(集落機能維

れる「ふるさと回帰産業」 ( 「プロモーション業」 「空

持、高齢者支援、コミュニティ交通、環境・資源

き家確保・改修・提供業」 「農園住宅(ダーチャ)

保全、地域活性化など)の担い手となる社会起業

開発業など」の花びら型産業)の担い手の育成。

家(Social Entrepreneur)の育成。

機関等へのプレゼンテーションを行う。 以上、4つのコースとカリキュラムの概略構成案は図表 17 の通りである。

上記5テーマ以外にも、今後の研修テーマとして「地域イノベーション」 「緑と水の環境技術革命」など の新分野の起業家育成も検討すべきであろう。

残すは あと 1 章です。

注 16) 「多様な分野の多様な主体が価値を共有し、連携して農山漁村地域を発展させてゆけるよう、新たな技術や各産業の有するノウ ハウを核に、食品産業や農業分野に変革やイノベーション、新たな価値を創出するための人材の確保、ビジネスモデルの明確化、ソフト・ ハード支援等を行ってゆく取り組みのこと。農林水産省が設置した「食料・農業・農村政策審議会」において、平成 22 年3月に策定さ れる「新たな食料・農業・農村基本計画」に盛り込むことが検討されている。

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入門講座

入門講座

場産業の生産現場(地鶏「天草大王」の飼養現場、

第4章 『ふるさと起業塾』 の全国展開に向けて ポイント!

図表 19. 《総合塾(基礎コース) 》の試行

地域商標登録済農産物「天草緑竹」の生産圃場、

・社会起業家 (ソーシャルアントレプレナー)とは、何か

天然塩や海産物の生産・加工場など)における実

・社会企業を支援するファンドについて諸外国の例から学ぼう

地研修や遊休農地の再生・利用などの研修を行っ た上で、ふるさと起業に向けての事業計画書の作 成に取り組んだ。これらの研修の結果、起業塾終 了時点で、都市からの参加者9名のうち 3 名が天

4. 1 全国7地区での試行的取り組み

これまで述べてきた『ふるさと起業塾』の構想に基づき、本稿の筆者等は認定NPO法人ふるさと回帰支

草での 起業 を決意し、2名が引き続き 起業

援センターと北海道大学観光学高等研究センターとの連携を核として、昨年9月、本構想の推進母体とな

へむけての取り組みを行うことを選択した。

る「ふるさと起業塾全国ネット」を立ち上げ、 『ふるさと起業塾』の全国展開に向けて試行的取り組み(社

東京での取り組みは、経済産業省(中小企業庁)

会実験)を開始した。

の支援により全国中小企業団体中央会が推進する

実施地区は北海道美瑛町、北海道ニセコ町、新潟県長岡市(小国地区)、東京都(北海道大学東京オフィ

「農商工連携等人材育成事業」の採択を受け、北

ス) 、大分県竹田市、熊本県阿蘇市、熊本県天草市の7地区。このうち、美瑛町、ニセコ町、長岡市、竹

海道大学東京オフィスを会場として平成 21 年9月

田市、阿蘇市の5地区では、農林水産省の「農村活性化人材育成派遣支援モデル事業(通称: 「田舎で働

下旬∼ 11 月上旬の 2 か月間行った。内容は連続

き隊!」平成 21 年度第一次補正予算分)の採択を受けて『ふるさと起業塾《地域塾》 』の 6 か月実践コー

20 回の座学(図表 19)を中心とした『ふるさと起

スの開設・運営を試みている(平成 21 年 10 月開講、 平成 22 年3月終了)。塾生(研修生)の募集に当たっ

業《総合塾》 』の基礎コースの試行として実施した。

ては、日本経済新聞への広告掲載(図 18) 、web アンケート、ホームページ( 『ふるさと起業塾』ホームペー

塾生(研修生)は 50 名、そのほとんどが東京圏

ジ:http://www.furusatokigyo.net/) 、認定 NPO 法人ふるさと回帰支援センターのふるさと回帰希望者

の事業所に勤務するサラリーマンや学生であった。

リストなどによって行った。 各地区での『ふるさと起業塾』の開設・運営につ いては、地元の行政、NPO 法 人、農商工・観 光 関係団体、そして各分野の有志や多くの地元住民 の連携・協力のもとで進められている。各地区の 受け入れ塾生数は美瑛町6名、ニセコ町4名、長 岡市5名、阿蘇市2名、竹田市3名の 20 名(全員 都市在住のふるさと回帰希望者)である。昨年 10 月の開講以来1人の脱落者もなく各地区それぞれ の地域特性を活かした充実した研修活動が進めら れている。 天草市での取り組みは、内閣府の「平成 21 年度 地方の元気再生事業」の採択を得て「天草アグリ ビジネス起業塾」と銘打って実施された。受け入 れ塾生数は地元在住者6名、都市からの参加者9 名の計 15 名であった。期間は平成 21 年 10 月頭 初開講、同年 12 月末終了の 3 カ月コース。最初 の 1 ヶ月間は、地元の有機農業実践者(中井俊作 氏)の許で合宿生活を行い、残り 2 カ月間で、地

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図表 18. 『ふるさと起業塾』塾生募集広告

4.2 全国展開へ向けての全体スキーム

ふるさと起業 に果敢に挑戦し、農山漁村の再生・活性化を担う新たな人材(<ふるさと起業家>) 育成を全国レベルで本格的に進めてゆくためには、次の 3 つの社会的装置を全国各地域に整備してゆく ことが必要である。  その第一の装置は言うまでもなく『ふるさと起業塾』そのものである。 ふるさと起業 を志す人々を地 域に迎え入れ、必要な知識・スキルを身につけ、地域の人々との良好な関係を築いてゆく場を作ること― ― ふるさと起業 の「入口」づくりである。  第二は、 『ふるさと起業塾』での研修を修了し、 ふるさと起業 のしっかりした事業計画をつくり、本 気で起業に取り組もうとする塾生に、必要な資金を提供し、ハンズオン型の支援を行う仕組み(『ふるさ と起業ファンド』)の整備――いわば、 『ふるさと起業塾』の「出口」づくりである。  第三は、 『ふるさと起業塾』の修了者と地域の人々との共同参画による 地域マネジメント法人 ( 「ふる さと元気法人」 )の設立。これは、 平成の大合併 や政府の財政逼迫によって弱体化しつつあるコミュ ニティレベルの公共サービスの新たな担い手となる。いわば、 「新たな公共」を担う社会的企業(Social  Enterprise)の創出である。この法人は、 ふるさと起業 や社会起業家(Social Entrepreneur)をめ ざす大学生等のインターンシップの受け皿ともなる。  上記の3つの社会的装置が全国各地に整備され、これらが有機的に連携し、三位一体となって相乗効 果が発揮されることによって ふるさと起業 の全国展開が進められてゆくことが望ましい。

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入門講座

図表 20. 『ふるさと起業塾』全国展開の全体スキーム

入門講座

結びに代えて  『ふるさと起業塾』の全国展開を効果的に進めてゆくために、筆者等は図表 20 に示すような全体スキー ムを構想している。全国レベルの仕組みとしては、 「ふるさと起業塾全国ネット」とともに「ふるさと起業 全国ファンド」の造成が必要である。地域レベルでは、 『ふるさと起業塾』の実践コースの場となる 《地域塾》 と、<ふるさと起業家>への資金供給を行う「ふるさと起業地域ファンド」、および『ふるさと起業塾』の 修了者と地域に生きる人々との共同参画で設立される『ふるさと元気法人』 (地域マネジメント法人)の3 つの装置が三位一体のかたちで緊密に連動・協働する仕組みを構築してゆくこととしたい。  幸いにして、 『ふるさと起業塾』の取り組みに対して、 平成 21 年度は、 国 (農林水産省、経済産業省、 内閣府) の支援のもとに、地方自治体(美瑛町、ニセコ町、長岡市、竹田市、阿蘇市、天草市等)の積極的事業参画、 そして百余名の塾生(研修生)の参加を得て、本格的な試行的実践(「社会実験」)を行うことができた。  本年度は、さらに多くの政府関係(府省庁) 、地方自治体(都道府県、市町村)、大学、農林漁業団体、 金融機関、労働・消費者団体、NPO 等に参画を呼びかけ、 『ふるさと起業塾』の全国展開に取り組んで ゆくこととしたい。  与えられた紙幅が尽きたので、本稿を閉じることとするが、もし許されれば『ふるさと起業塾』全国展 開の今後の成果について、くわしく報告する機会を得たいと思う。

4.3  「ふるさと起業ファンド」の形成

「起業ファンド」というと、一般的には「研究開発型の新規創業企業(NTBF s) 」の起業資金として投 資する、いわゆる「ベンチャー・ファンド」が想起される。 しかし、 「ふるさと起業」は、これまで述べてきたように、地域資源を活用して、地域の多様な分野の人々 との連携のもとで 生業(なりわい) 型の事業創造をめざすものであり、株式上場によるキャピタルゲイ ンをめざすような「私的利益」の追求よりも、 地域の課題をビジネス手法によって解決してゆこうという「社

大変、お疲れさまでした

会的利益」を追求する中で自らの 生きる場(occupation) を築き、自己実現を果たすことをめざす「社

論文はいかがでしたか?農山漁村活性化の方向性を示す

会起業家(Social Entrepreneur)」によって主として担われことが想定される。従って、その起業/創業

6 次産業化の重要性などが学べましたか?

資金としては、ベンチャー・キャピタルが運用するハイリスク・ハイリターン型の「ベンチャー・キャピタル」

以上で、農村六起 入門講座を修了いたします。

は馴染みにくいと思われる。

マイページへ移動し「読了」ボタンにチェックを入れると

また、わが国においては、一般の金融機関においても、政府資金による「制度金融」においても、 「ふる

入門テストが受けられます。

さと起業」や「社会起業家」に対する資金供給の仕組みが整っていない。

入門テストは入門講座で学んだ事のほか、農村における

近年、わが国においても、米国の地域開発金融機関(CDFI)や英国の「フェニックス・ファンド」や、 「マ

6 次産業について出題されます。

イクロ・ファイナンス」の世界的なひろがりなどに学びながら、 「NPO バンク」 「市民ファンド」 、 「コミュニティ 、 ・ ファンド」 (注 17)などの取り組みがようやく進みつつあるが、その動きは未だ「点」が徐々に増えつつあ

さぁ、入門テストにチャレンジしよう

るという段階と言える。   ふるさと回帰 を願う人が都市住民の4割を超え、 ふるさと定住 を望む若者が 20 代の3割を占め るに至った今、これらの人々の中から<ふるさと起業家>を多数輩出させ、その起業/事業創造を支援し、 地域社会雇用創出にもつなげてゆくためには『ふるさと起業塾』の整備と連動するかたちで『ふるさと起 業ファンド』の形成を図ることが不可欠である。 注 17)政府の「地域再生推進のためのプログラム」 (平成 16 年2月、地域再生本部決定)に、 「コミュニティ・サービス事業」を資金面 から支援する「コミュニティ・ファンド」形成が盛り込まれたが、この事業に取り組む地方自治体等の動きはあまり活発ではない。

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