都市のカルチュラル・ナラティヴ 2020

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はじめに、そして2020年の年度のおわりに

﹁都市のカルチュラル・ナラティヴ﹂にとって、おそらくあらゆる  2020年は、 プロジェクトがそうであったように、新型コロナウイルス感染症と向き合いながら手

どのように進めるか/進められるかについて検討した。 ﹁都市のカルチュラル・ナラティヴ﹂で予定されていた活動は、 つのイベント、地

なことに、このプロジェクトの企画はもともと、短期のイベントや講演会など規模や

て、文化に関わる活動をなんとか止めることなく、つないでいきたいと考えた。幸い

は否定しがたい。ささやかではあるが地域の文化活動の一端を担うプロジェクトとし

ス感染症をめぐる状況が見通せない中では、延期の判断がいずれ中止に変わる可能性

来年度まですべての企画を延期するプランも検討された。しかし、新型コロナウイル

ワークショップだ。夏頃まで状況を見て、秋もしくは冬以降に、あるいは思い切って

きな見直しを迫られたのが、人が集まることを前提に設計されたイベントと人材育成

ループ、人材育成ワークショップ、そして外部評価プログラムだった。このうち、大

域文化資源とコミュニティに関する調査、地域における学びに関するワーキング・グ

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探りで活動を進める1年だった。2020年4月7日、緊急事態宣言の発出にともな い、プロジェクトの事務局、慶應義塾大学アート・センターがある慶應義塾大学三田 キャンパスは、同日より閉鎖となった。この初めての緊急事態宣言が都内の人出を大 幅に抑制したことは記憶に新しいだろう。プロジェクトのフィールドであり、数多く の企業が拠点を構える港区は、都内でもトップクラスに昼間人口が多い。そのような 都市だから、多くの企業がリモートワークに移行したとき、街の風景が一変した。 月から休館し、大学の春学期授業の完全オ  国立美術館をはじめとする文化施設が ンライン化が決断される中、当初の計画通りにイベントやワークショップを開催する

見通しはまったく立たなかった。そのため、 月から 月にかけて、プロジェクトメ

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ンバーだけではなく、地域の文化担当者とも相談しながら、今年度のプロジェクトを

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3 はじめに

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開催形態を調整しやすい機動的な作りになっている。そこで、5月の時点で、ほぼす べての企画をオンライン開催に変更し、予定通り実施することを決めた。 建築特別公開日﹂ ﹁プロトコルを探るダイアログ

﹁カルナラ! イベントシリーズ﹂では、4つのイベント﹁港画 都市と文化のビデ

オノート﹂ ﹁建築プロムナード カルチュラル・レジスタンスをめぐって﹂ ﹁文化と集団のアーバン・リサーチ││いま、 都市のコミュニティはどうなっているか?﹂をすべてオンラインで開催した。とりわ け﹁建築プロムナード﹂は、屋外中継という技術的な困難に悩まされながらも、時間・ 距離の制約がなくなったことで、現実では不可能な数の参加者を得た。 ﹁人材育成ワークショップ﹂については、フィールドワークの場として考えていた六 本木アートナイトが開催延期となったことで、企画内容と開催形態を変更することに なった。当初は学生などの若年層を対象とした育成プランを準備していたが、文化活 動の実施が困難な状況下で、ボランティアガイドなど、地域で文化に関わる活動を継 続する社会人に対する働きかけと支援をする必要があると考え、学生対象のワークシ

ョップと社会人対象のワークショップの2部構成を取ることにした。  外部評価プログラムの当初計画は、評価担当者がプロジェクトに伴走する形でプロ ジェクトの企画に参加し、メンバーと議論を重ねた上で評価をまとめるというものだ った。しかし、今年度の活動を対象とした場合、非常に特殊な状況下での評価となり、 プロジェクト全体に対する評価とは見なしがたい。そのため2020年度は、来年度 以降にどのような方法で外部評価を行うか、またその外部評価プログラム自体がどの ようにモデル化されうるのかを検討した。

ニケーターを育てる﹂からいくつかの企画を取り上げ、詳細な報告を記載した。実施

。また、  本報告書では、これらの活動を時系列に活動記録としてまとめた︵120頁︶ ﹁カルチュラル・コミュ プロジェクトの中核をなす﹁カルナラ! イベントシリーズ﹂

本間友 (慶應義塾大学アート・センター)

したイベントは、そのほとんどをオンラインで公開しているので、あわせてご参照い ただきたい。

4 5 はじめに


もくじ

はじめに、そして2020年の年度のおわりに

建築特別公開日

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﹁都市のカルチュラル・ナラティヴ﹂プロジェクトとは カルナラ! イベントシリーズ 港画 都市と文化のビデオノート

地域の文化を学び続けていくための仕組み作り

カルチュラル・コミュニケーターを育てる

文化と集団のアーバン・リサーチ いま、都市のコミュニティはどうなっているか?

建築プロムナード オンライン

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活動記録

6 7 もくじ

93 106

46

2 118

96

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六本木アートナイト連携ワークショップ ︶ ﹂ ﹁六本木イメジャリ︵ Roppongi Imagery

都市のカルチュラル・ナラティヴ おわりに

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「都市のカルチュラル・ナラティヴ」 プロジェクトとは

「都市のカルチュラル・ナラティヴ」 (通称カルナラ)は、慶應義塾大学アート・センタ ーが中心となり、港区の文化機関が連携して行っているプロジェクトだ。2016年に企

Japan Cultural Research

画が立ち上げられてから、今年度で 年目となる。現在は、公益財団法人味の素食の文化 センター、NHK放送博物館、NHK放送文化研究所、NPO法人 、曹洞宗萬松山泉岳寺、一般財団法人草月会、大本山増上寺、株式会社虎屋 虎屋 Institute 文庫、東京海洋大学マリンサイエンスミュージアム、慶應義塾大学アート・センターの 機関で活動している。

このように豊かな史跡を有する港区は、同時に現代の文化芸術の集積地でもある。僅か ㎢ほどのエリアに、12、000ヵ所を超えるアート・スペースが集まり、日々あたら

得ている。

屋敷跡に立つ迎賓館、あるいは松平家の屋敷跡に立つ慶應義塾など、新たな役割と機能を

た泉岳寺など、江戸時代からの寺院が多く活動する一方、かつての大名屋敷は、徳川家の

られていた。徳川将軍家代々の霊廟をもつ増上寺や、赤穂浪士の討ち入りの舞台ともなっ

輪では高輪大木戸を見ることができる。またこの地域は、大名屋敷と寺院の町としても知

過去に目を向ければ、江戸と京都を繋ぐ東海道は国道一号線としていまも町を走り、高

イヤーの上にモザイクのように展開し、蓄積している都市だ。

「都市のカルチュラル・ナラティヴ」のフィールドである港区は、様々な文化が複数のレ

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文化に関心がある人々の双方を惹きつける、幅広い文化資源を擁する都市と考えることが できる。 「都市のカルチュラル・ナラティヴ」では、この港区という都市で展開する文化を、多様 な視点から物語り、つないでゆくことを目指している。文化に関わって活動するひとびと が、それぞれのコンテクストから語り起こす文化の物語を集積することにより、複雑な都

8 9 「都市のカルチュラル・ナラティヴ」 プロジェクトとは

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しい創造を試みている。つまり港区は、歴史や伝統文化に関心がある人々と、現代の芸術

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市の文化の様相を複雑なままに捉えようという試みだ。 「都市のカルチュラル・ナラティヴ」ではまた、ひとびとによる物語の生成と大学や文 化機関などにおける学術研究活動を接続することも企図している。展覧会やイベント、ワ ークショップといった文化資源に関連する様々な活動の背後には、その文化資源に対する 学術的な調査研究の裏づけがある。これらの調査研究は、相互に参照しあいながら、地域 に存在する文化資源の時と場所を横断するダイナミックな連関を描き出している。この成 果が参照されることで、都市の文化の物語はより豊かに語られていくことになるが、この ような学術研究活動の成果は、一般に利用しやすい形で公開されているとは言いがたい。 そのため、 「都市のカルチュラル・ナラティヴ」では、学術研究活動のアクセシビリティ 向上をプロジェクトの狙いの一つとしている。 「カルナラ!イベントシ プロジェクトの活動は、都市文化を紹介するイベントの開催( リーズ」 ) 、国際的な情報発信のためのプラットフォーム構築( 「コミュニティをつなぐ・ 情報を伝える(連携と発信) 」 ) 、コンテンツ制作( 「文化を可視化する(コンテンツ制作) 」 ) 、

10 11 「都市のカルチュラル・ナラティヴ」 プロジェクトとは

人材育成プログラムの開発( 「カルチュラル・コミュニケーターを育てる(人材育成) 」 ) 、 プロジェクトの運営とモデル化( 「プロジェクトを育てる(プロジェクト運営とモデル構 築) 」 )という プログラムからなる。

ップなどを企画している。

をその歴史的・文化的文脈とともに紹介する講演会、展覧会、ガイドツアー、ワークショ

放送・生け花・食・和菓子といった幅広い主題をフィールドに、港区で展開する都市文化

のイベントプログラム。プロジェクトメンバーの多様性を活かし、現代美術・寺院・建築・

「都市のカルチュラル・ナラティヴ」のコンセプトを具体的に表現し、社会に届けるため

カルナラ! イベントシリーズ

きたい。本書付録の都市のカルチュラル・ナラティヴの見取り図も参照のこと。(記=本間友)

る」に焦点を絞って報告を行うが、プログラムの全体像についてここで簡単に紹介してお

本報告書では、 「カルナラ!イベントシリーズ」 「カルチュラル・コミュニケーターを育て

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コミュニティをつなぐ・情報を伝える (連携と発信) 地域の文化資源を顕在化させ、さまざまなコミュニティにその情報を伝えていくため、 地域の文化資源や、地域で活動するコミュニティの調査を行っている。また、地域で展開 する文化活動を相互につなぐために、ウェブサイトを通じた情報発信、地域の文化機関と のコミュニケーションを進めている。

文化を可視化する (コンテンツ制作) 既存の学術成果を活用し、地域の文化資源を多様なコミュニティに伝えるためのコンテ ンツの内容や、適当なメディアについて調査し、検討を行った上で制作を行う。これまで に、テキストを翻訳し、ドキュメンタリー映像を製作したほか、学生や地域の人材と共同 してコンテンツを制作する方法について、ワークショップの機会も活用しながらプロトタ イピングを実施している。

カルチュラル・コミュニケーターを育てる (人材育成) 地域の文化を伝えるためには、その活動を担うための人材が必要だ。現在は、美術館・ 博物館といったコンテンツホールダーとしての文化機関、出版社などの企業、アートNP Oなどのコミュニティがそれを担っている。これらの主体による発信を支えるために、プ ロジェクトメンバーに総合大学が含まれていることを活かした人材育成プログラムの開発 を試みている。

プロジェクトを育てる (プロジェクト運営とモデル構築) 組織の大小や運営母体を問わない柔軟で多様な文化機関の連携を実現するモデルを構築 するため、調査・研究とプロトタイピングを実践している。地域や組織の種類、規模が異 なっても共有・実践可能なミニマム・セットを定義することを目指している。

12 13 「都市のカルチュラル・ナラティヴ」 プロジェクトとは


カルナラ! イベントシリーズ


ル・レジスタンスをめぐって﹂ ﹁文化と集団のアーバン・リサーチ││いま、都市の

イベントシリーズ﹂では、 ﹁港画 都市と文化のビデオノート﹂  今年度の﹁カルナラ! ﹁建築プロムナード ││建築特別公開日﹂ ﹁プロトコルを探るダイアログ カルチュラ コミュニティはどうなっているか?﹂の イベントを開催した。 ﹁港画 都市と文化のビデオノート﹂は、プロジェクトがドキュメンタリー映画監督 たちとともに取り組んでいる、都市文化の物語を映像で捉える映像作品の上映会だ。 今年は、海のミュージアム、食文化専門図書館、そして漆芸家の工房に取材した作品 を上映し、監督たちによるポスト・トークを行った。 ﹁建築プロムナード ││建築特別公開日﹂は、オンライン・ガイドツアーとしての開 催。重要文化財に指定されている明治・大正時代の建築や関東大震災後に建築された 震災復興建築、そして昭和の名建築など、慶應義塾大学三田キャンパスのさまざまな 建築物を、普段は見ることのできない建築物の内部までカメラを入れて紹介した。

トークイベント﹁プロトコルを探るダイアログ カルチュラル・レジスタンスをめ ぐって﹂では、現代美術家の山田健二氏と、東京アートアクセラレーション共同代表、 ディレクターをつとめる山峰潤也氏を招き、再開発が進む東京における ANB Tokyo 文化実践をめぐり、 ﹁カルチュラル・レジスタンス﹂をテーマに対談を行った。 ﹁文化と集団のアーバン・リサーチ││いま、都市のコミュニティはどうなっている か?﹂では、新型コロナウイルスの影響で﹁現場﹂の空気に触れることが難しい状況 下において、カルチャー/文化を前に進めるためにどんな知恵が必要なのか、さまざ まなフィールドで実践を続ける 名の登壇者が、興味深い事例や試行錯誤の成果を発 表した。

市のコミュニティはどうなっているか?﹂の内容を紹介する。

16 17 カルナラ! イベントシリーズ

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本書ではこれらのイベントの中から、 ﹁港画 都市と文化のビデオノート﹂ ﹁ 建築   ﹁文化と集団のアーバン・リサーチ││いま、都 プロムナード ││建築特別公開日﹂

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Youtube Live

「都市のカルチュラル・ナラティヴ」 ドキュメンタリー映像 オンライン 上映会

港画 : 都市と文化のビデオノート 2020年7月 日(土) 時~ 時 報告執筆/千葉夏彦 16

藤川史人監督 「博物海景」( 分)

接見ることも可能で、ネットワークトラブルや時間外視聴に対応している。

上でこれら3作品を上映し、その後監督たちで行ったポストトークの様子を Youtube Live で直 放映した。コメントや質問はチャット欄やアンケートで受け付けた。各作品は Vimeo

ジアム、味の素食の文化センター食文化ライブラリー、人間国宝室瀬和美を取り上げた。

れたのは2019年に制作した3作品。それぞれ、東京海洋大学マリンサイエンスミュー

岳寺、菓子資料室虎屋文庫、横田茂ギャラリーを題材にした作品を制作した。今回上映さ

を描こうとしているシリーズだ。 「港画」は2018年度からスタートし、初年度には泉

このプロジェクトでは様々な方法を使って都市の文化を捉えようとしているが、今回上 映する「港画」はドキュメンタリー映画監督とチームを組み、映像、ビデオで文化の物語

のない方など、オンラインならではの参加者を含めて多くの方に閲覧していただいた。

新型コロナウイルス感染症の拡大防止の観点から対面、来場式のイベントが制限される 中、オンラインでの公開となった今回の「港画」だが、遠方にお住まいの方、時間に余裕

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で捕鯨実習を含む漁業練習船として活躍した雲鷹丸の大型模型だ。現物は東京海洋大 学の敷地内に保存、展示されている。二階の展示室には無脊椎動物、魚類から鯨類海 産哺乳類に至るまで、あらゆる海の生物の標本が展示されている。

18 19 カルナラ! イベントシリーズ 港画:都市と文化のビデオノート

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東京海洋大学マリンサイエンスミュージアムの入り口が定点で映し出される。一階 の雲鷹ホールに入ってすぐ左手に展示されているのは、1909年から1929年ま

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博物館では学生による実習が行われている。骨標本を計測するチームもいれば、3D スキャナを用いてデータ化をするチームもいる。  東京海洋大学品川キャンパスの学園祭である海鷹祭は﹁海を知り、守り、利用する﹂ ことを使命として、大学の知的資源を広く公開する機会でもある。マリンサイエンス ミュージアムでもスタンプラリーなどのイベントが開催され、館内は子どもたちや家 族連れで非常に賑わいを見せていた。特別な日の開館と閉館のアナウンスは、実習生 の仕事だ。すこし緊張した声が館内放送で流れる。閉館の後には学生たちによる丁寧 な清掃が行われる。  セミクジラとコククジラの全身骨格の展示が屋外からも覗ける鯨ギャラリー。その 前で一瞬足を止め、ミュージアムへ。この日雲鷹丸の見学に訪れたのは、曾祖父が雲 鷹丸の乗員だったという男性だ。雲鷹丸は、関東大震災の際に東京湾で船上火災に対 応しながらも市民500人余りを救助したエピソードでも知られている。幼いころか ら祖父に聞かされて育ったものの、これまであまり海には縁がなかったという彼が、

今回見学に訪れたきっかけは、新しい家族が増えたことだという。  老朽化が進んだ船内をゆっくりと巡り、帰りには鯨ギャラリーに立ち寄って、巨大 骨格のドームを見上げる。ラストシーンで夕闇の中の雲を鯨に見立てて息子に語りか ける彼の胸中には、実際に触れて知った自身のルーツを伝えていきたいという思いも あったかもしれない。

コメント

慶應義塾大学アート・センターも博物館相当施設で、大学ミュージアムなのですが、この 作品を見て大学ミュージアムのイメージが変わりました。子供から大人まで広い世代の人 がいて楽しそうにしているのはあまりこれまでの大学ミュージアムのイメージになかった ので、新鮮でした。 個人的に非常に印象的だったのは、最後のシーン。暗いミュージアムの中を映していると ころ。ミュージアムが深海の底にあるように見えて非常に心を動かされました。

20 21 カルナラ! イベントシリーズ 港画:都市と文化のビデオノート


大川景子監督 「食の探求 本の旅」( 分)

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万冊の  港区高輪にある食の専門図書館﹁味の素食の文化ライブラリー﹂には、約 ﹁食﹂にまつわ ﹁食﹂に関する書籍と、明治から昭和 年代の古い資料が揃っている。

大川景子監督「食の探求 本の旅」 藤川史人監督「博物海景」

観光ツーリズム専攻の阿部さんと三富さんは、お弁当グッズの歴史を調べるために、

会いは、思わず声を漏らすほどに、大きな成果だった。

読者問答欄でのやりとりから窺える、地域色のある一般読者の声といった資料との出

をあてたいという浦田さんにとって、ページの間に保存されたレシピの切り抜きや、

食べるもの、教科書にはなかなか載っていない地方の食文化といったものにスポット

マに研究を始めた。上流階級の人が儀礼的に食べるものというよりは庶民の人たちの

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22 23 カルナラ! イベントシリーズ 港画:都市と文化のビデオノート

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閲覧室で古い料理雑誌﹁料理の友﹂のページをめくっているのは、日本史学専攻 年の浦田さんだ。 ﹁今の時代に繋がっているものの歴史をやりたい﹂と食文化をテー

る知識を求めて様々な人がここを訪れる。

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司書の方々に相談に訪れた。愛妻弁当やキャラ弁といった彩りの概念の成立と、型取 りグッズなどの発明との間にどういう因果が、いつから存在したのだろうか。共働き が増えたことはグッズの普及にどう影響したのだろうか。 ﹁共働き﹂より﹁女性の社 会進出﹂というワードの方が調べやすい、レシピ本の弁当の写真を時代順に並べて年 表と比べてみては、といったレファレンスサービスを受け、各々の気付きを相談する。  フレンチシェフの藤原さんが書棚から取り出したのは、ランブロアジーというフラ ンス料理の三ツ星の店のレシピ本。藤原さんが最初に修行を始めたお店のシェフが、 修行時代に学んでいたお店の本だ。自分がいまやっている料理、自分のベースになっ たものの源流を再認識したいという思いで探していたが、どこにも売っていなかった という。ようやく巡り合えた本を手に、藤原さんは語ってくれた。 ﹁たぶんできる人 は勉強しなくてもできるし、修行しなくても成功しちゃう、でも本当に一握りなんで すよね。いろいろ知っていたほうが、よりできるし、楽しい﹂ ﹁図書館という場所がすごく好きで、ただ本を見るだけで、触るだけで楽しく時間を

過ごせます﹂と、デジタルマーケティング・ブランディングに携わるモニカさんは笑 顔を見せる。食文化や料理にまつわる全般に興味があり、常に料理についての本を探

ことは難しくて、まだお客様の知りたいことに追いついていないという実感はありま す﹂と語ってくれたのは司書の方々。 ﹁探した本をここにきてみつけることができた

24 25 カルナラ! イベントシリーズ 港画:都市と文化のビデオノート

していたという彼女にとって、食の専門図書館はまさに求めていた場所だった。一度 に全て見られるわけではないので、毎回テーマを決めて訪れる。この日は、季節や行 事、しきたりについて調べに来たという。 ﹁今、この本が要るかどうかを考えた時に、  ライブラリーで働く人の思いも様々だ。 ひょっとしてこれが 年後とか100年後にとっておけば、今私たちが貴重だと考え

﹁ありと ば全て 階に排架したいが、スペースが足りず、整理しなければならない。

ど、丁寧に見ていきたい﹂地下書庫に所蔵されている1、000冊以上の本。できれ

ている本の仲間入りをするんじゃないか。それを言ってしまうとなかなか進まないけ

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あらゆる食に関係する本が有るとはいえ、お客様に聞かれたことにずばりお答えする

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とか、思いもしない本と出会えたとか聞くと、本当に私たちも図書館としてやりがい を感じる﹂という言葉の通り、食の文化ライブラリーは、様々な人の思いと出会いの 機会を提供している。

コメント

この作品を見て、実は図書館は賑やかなところなんじゃないかなと思いました。本をめく る音とか利用者の「おっ」っていうちょっとした呟きだとか、書架が動く音、そういう繊 細な音を拾っていくことによって、静かなところと思われている図書館でも、耳を澄ます ことで意外にいろいろな音がしてるんじゃないか、そんなことを思わせてくれる作品にな っていたと思います。 また、思考が身体化される、あるいは物質化される場所としての図書館というものをこの 作品から非常に強く感じました。人の考えとか思考というものは目に見えないですけれども、

26 27 カルナラ! イベントシリーズ 港画:都市と文化のビデオノート

図書館の中では、図書館内での移動、本から本への移動というような形でその人の思考の 流れが目に見えるようになっていると思います。

阿部理沙監督「漆と人」


阿部理沙監督 「漆と人」( 分)

漆芸家、重要無形文化財﹁蒔絵﹂保持者 ︵人間国宝︶の室瀬和美氏の制作の現場で ある目白漆芸文化財研究所の一角。室瀬氏が手にした無地の皿が、ここから半年をか

きているので、翌春には新しい芽が出てくる。それを 年で育て、また掻き出すとい

鮮やかな金粉の模様が、研ぎの工程を経るごとにシックな、奥行きのあるものとな っていく。 ﹁目は誤魔化せるけど、指は誤魔化せないからね﹂室瀬氏は皿を研ぎなが

と身振りを交えて語る室瀬氏の表情が、漆芸にかける愛情を物語っていた。

室瀬氏は言う。展覧会の場で﹁一本の樹液から出る一種類の液が、こうまで広がる﹂

熱海市立伊豆山小学校で、小学生を対象に行われた漆芸教室。生徒たちは漆器を思 い思いに触り、感触を確かめる。 ﹁自分で触って、形にする﹂ことが人間の原点だと

て室瀬氏のモチーフに活かされているという。

ようだ。工房の庭には何種類もの木や花が植えられ、一年中何かが咲いている庭とし

皿に描かれた模様に金粉を蒔く、粉蒔という行程。スポイト状の粉筒に入った金粉 を、指の振動で少しずつ蒔いていく。一定の律動と指の動きそのものが熟練の芸術の

て木と向かい合っていくのは楽しい﹂と岡さんは笑う。

200g、 ﹁漆の一滴は血の一滴﹂とも言われる。 ﹁毎日の天気と木の調子、そうやっ

う サ イ ク ル を 順 繰 り に 回 し て い く。 こ う し て 採 ら れ る 漆 の 量 は 一 本 当 た り わ ず か

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けて研出蒔絵の傑作へと作り上げられていく。 ﹁工芸というのは、生活の中にある、ということが一番重要﹂と語る室瀬氏。今回の 作品は﹁虎屋さんのお菓子をのせたいと思っています。それが実現するのを楽しみに しているし、使ってもらいたいなと思っている﹂  茨城の奥久慈にある漆畑。漆搔きの岡慶一さんが、漆の表面に傷をつけると、じわ じわと白い漆の樹液が染み出してくる。 、 日かけて溜まったものをヘラで回収す

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る。ワンシーズンで漆を搔ききり、冬になると漆の木は伐採する。伐採しても根は生

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29 カルナラ! イベントシリーズ 港画:都市と文化のビデオノート

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ら呟く。 後のツヤ上げの工程を終えて、作品が完成した。

﹁指はなるべくしなやかでなければいけないね﹂と、指先の繊細な感覚が問われる最  虎屋の黒川光博氏は、箱から作品が取り出されると、興奮を隠せずに声を漏らす。 実際に菓子をのせてみると、お互いの映えが見事だ。 ﹁見えないところにどれだけの 作り手の魂が込められているか﹂それは漆芸も菓子も一緒だと黒川氏は語る。昔は蠟 燭の明かりの下、暗いところでいかに美しく見せるかというテーマがあったが、現在 は明るい場所でも使われる。そういった変化にも対応していくことを指して、 ﹁伝統 なんて結果、守る物じゃなくて作るもの﹂と室瀬氏は頷いた。 ﹁漆という樹液の最高に素晴らしいところを、私たちの手を  最後に室瀬氏は語る。 通してなんとか生かしてやりたい。こんなに美しく姿を変えていき、しかも仕上がっ たらものすごく綺麗だし、強い。美しいもの、綺麗なもの、触りたいものを伝えるっ ていうのは一番の根源なんじゃないかな。それが伝わると心が豊かになる。心を豊か

にしていくことがやはり一番の幸せ。そういうところが自分が一番大事にしてきたア イデンティティ。これからの未来に、それが一番伝わるといいなと思っています﹂

コメント

自然や伝統といった大きい対象と、緻密にコツコツと進めていく手仕事の対比、その壮大 さと緻密さが非常に興味深いバランスで描かれている作品だなと思いました。そういった 特徴は、作中の室瀬氏のお話とも繋がりあうところがあります。展覧会のところのカットで、 一本の木から採れる樹液が広がりを持つのが漆の魅力だというお話をされていますが、そ の小さいところから広がっていくイメージ、その漆の世界の特性というものが阿部さんの 作品にも反映されているのかなと感じました。

30 31 カルナラ! イベントシリーズ 港画:都市と文化のビデオノート


ポスト・トーク 登壇者/阿部理沙、藤川史人、大川景子 モデレーター/本間友

本 間 最初に、カルナラ以外でどういう作品を普段撮られているのかということを、   自己紹介代わりにお願いできますか。

普段はフィクションとかドキュメンタリーとかはあまりこだわらず、映画とい   うものがどういうものかということを常に考えながら、自分が撮りたいものを

藤川

撮れる環境にいられるように模索しながら生きている最中です。 日本文学作家のリービ英雄さんが幼少期の数年間を過ごした台湾を 年ぶりに   再訪する旅に立ち会ったドキュメンタリーを、そこある場所と記憶みたいなも

大川

のをテーマに、2013年に作りました。それ以降は自分の作品を発表すると

いうよりも他の人の編集でずっと映画に関わっています。 阿 部 大学で映画を勉強していて、テレビ番組から映画の脚本とか広告とか、色んな   映像に関わる物を作ってきて、わりとフィクションを作ることもあります。2・

5次元のイケメン俳優たちが歌って踊るミュージカルドラマだとか、お二人よ り幅広く、雑多に色んなことを映像でやってきた感じです。 今回のドキュメンタリー企画は2018年から始めて2年目になりますが、同   じチームで制作にあたっています。文化資源をテーマにした映像を撮る場合は、

本間

普通はプロジェクト側から細かく指示を出して作っていくことが多いと思いま すが、カルナラではよく言えば監督のクリエイティビティにお任せして、悪く 言えば丸投げみたいな形で制作をお願いしています。今年は つの対象だけは ら決めていくという形で制作が進んでいきました。 今回の作品について、それぞれどういう風にテーマを絞り込んでいったのか、

32 33 カルナラ! イベントシリーズ 港画:都市と文化のビデオノート

52

こちらで指定し、そこからどうテーマを見出すかはディスカッションをしなが

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フォーカスの対象や撮り方をどう決めていったのか、言語化するのは難しいと ころだとは思いますが、簡潔に教えていただければと思います。 阿 部 まず室瀬先生の作品を作る工程を撮らせていただけるというのが最初にありま   して、それを追いながら色んなことを考えました。そもそも漆って何なんだっ

ていうところから始まり、室瀬先生の言ってらした、美術品としての漆器とい うよりは、見るだけではなくて使ってほしいということ。大自然の漆の木の樹 液から私たちが使う器に届くまでを、ミクロとマクロという全体として捉えた いという気持ちがありました。 漆に携わることってとにかく時間がかかることだと思うんですよ。何度も研い     で塗って削ってっていう工程の部分は、テレビとかだとじっくり見ることはな かなかできない。時間の制約が少なくて自由にやれるのがカルナラの良いとこ ろだと思います。ゆっくりと流れる、漆の時間の共有がしたいなと思って作っ たというのはあります。

大 川 最初にライブラリーを見せていただいたとき、書棚の分類の単語がすごく興味   深くてワクワクしたというのが第一印象にあり、一体どんな人たちが利用して

34 35 カルナラ! イベントシリーズ 港画:都市と文化のビデオノート

いるのかなというところに興味がいきました。ライブラリーの方に、ここを利 用している方々にリサーチをさせてほしいとお願いし、 人くらいにお話を伺

てくれた。それを表現したいなと思いました。

興奮している。喋り始めると皆さんすごく楽しそうにたくさんのお話を聞かせ

で皆さん黙々と調べているんですけど、お話を聞くと実は内側ではものすごく

て、違う棚にいって違う本を見つけて、みたいな。シーンとしたライブラリー

ました。ひとつのことを調べたら、それを機にまた何か調べたいことが出て来

すると、皆さんが本から本に数珠繋ぎみたいに旅しているということがわかり

べ物に来ているということがわかって、段々質問が絞られていきました。そう

ったんです。聞いていくうちに、ただ本を借りに来るんじゃなくて、みんな調

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それと、職員の方にお話を聞いたとき、 万冊もあるけど、人の知りたい欲求

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にはまだまだ追いついていないという言葉と、地下の書架を見せていただいた とき、その本の価値は誰かにとっては何ともない本でも、誰かにとってはすご く貴重なものだったりするので、その価値は私たちには決められないという話。 これは絶対どうにか作品の中で伝えたいっていうのがありました。  マリンサイエンスミュージアムに最初みんなで行って湯川さんに案内していた だいて、お客さん目線で見ていてすごく興奮しました。展示品とか、鯨ギャラ

藤川

リーのクジラの骨とか、個人的に元々すごく好きだったので。最終的に大川さ んと僕が食の文化ライブラリーさんと東京海洋大学さんのどっちを撮るかとい う時に、大川さんに譲っていただいたという︵笑︶ 。 好きなものが沢山あったので、最初は場に寄った撮り方をしようかなとか色々     考えていたんですが、撮影前に湯川さんにお話しを伺っているときに、任期が その年度いっぱいで終わるということを聞きました。その時に、湯川さんがい るこの空間だから今僕がみている景色というものがあって、次の年になって違

う方が来られた時に僕は多分違う見方をするんだろうな、と思ったら、空間の 見え方って、物だけじゃなくてそこにいる人とかによっても変わるのかなと。

で伺って、お話を聞いて、その後誰がどれを撮るか決めます。一つのプロジェ

36 37 カルナラ! イベントシリーズ 港画:都市と文化のビデオノート

ミュージアムの作品だけども主役は湯川さんなのかなと思い始めて、そこから 湯川さんにフォーカスするようになったという感じです。 雲鷹丸はどうしても撮りたかった。ただ、当時乗艦していた学生さん方にイン     タビューできるかと聞いたとき、多くはご存命ではないかかなりの高齢でコン タクトは難しいと言われました。それならその方々の子孫という方はいるはず で、直接会うことはできなくても、それを想像しながら、そういう人として平 吹さん︵博物海景出演者︶に登場していただいて、全体像がちょっとずつ出来 上がっていった感じです。 本 間 藤川さんのお話にあったように、このカルナラの﹁港画﹂シリーズは、チーム   での作業も特殊なところがありまして、最初に取材先を決めてそこに監督 人

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クトではあるけど、ディスカッションして同じ対象を見ながら、別々の作品を 撮っていくという、こういう仕事の仕方はどう思いますか。 藤 川 途中経過の時とかにやはり共通言語として、場の雰囲気は分かったりするので、   アドバイスを貰ったりできるのは、最初にみんなで回る良さかなと思います。

ディスカッションの時に、みんな頑張っているから私も頑張ろうっていう励み になりました。自分だけで監督やるときはなかなか孤独だと思うんですよ。だ

阿部

けど一つのプロジェクトで 人いることにすごく勇気づけられる。 最初のロケハンで自分もその場所に行っていて、その後、途中経過で他の作品   を見たときに、その人によって全然見てたものが違うんだな、と知ることがで

大川

きて、たぶんどの人が担当しても全然違う作品ができるのは明らかで。その人 がカメラを持って行ってそこを撮るというとき、実際には見えないけど立ち上 がってくるもの、そこが全然違うというのが毎回楽しいです。  途中のラフの状態でみんなで集まって、作品を見てディスカッションをしてい

本間

ますよね。自分が編集している中で人の作品をみるってどういう感じですか。 途中で人のものを見ると混乱しちゃうみたいな話も聞くんですけど。 人のものは客観的に見られます。自分のはこねくり回しすぎてよくわからなく   なっちゃいますが︵笑︶ 。周りに客観的な意見を貰えるのはすごく有意義だと

阿部

思います。 全く一緒ですね。お二人の作品は僕も楽しみにしています。早く見たいなくら   いの感じで、やっぱりすごいなあと思いながら見て。自分のは不安なんで、お

藤川

二人のことをすごく信頼しているので、何かきっといい言葉をかけてくれるだ ろうって。すごくいい場ですね。 大 川 チームメイトではないから無責任に言いたいこと言えますよね。それでいいア   ドバイスが貰えたりします。

個々の作品は独立しているので、いい距離感がありますよね。ここが面白かっ たとか、ここの絵が良かったとか、お互いの作品の推しはありますか?

本間

38 39 カルナラ! イベントシリーズ 港画:都市と文化のビデオノート

3


大 川 こういう上映会という場では、身内の作品でも、自分も観客として見られる。   藤川さんの作品は、最初は淡々とミュージアムの日常を撮っているところに、

藤川さんの物語が入ってきて、自然にそれが溶け込んでいるのが単なるフィク ションとは違って面白いなと思いました。  後で平吹さんにお話ししてもらおうと思ってたんですけど、曾祖父が雲鷹丸に 乗っていたことだけ決めて、あとはなんか二人でポエムみたいなものを送り合

藤川

ったりして、撮影に挑みました。湯川さんには本当によくお付き合いいただき ました。 大 川 実際にそこで働いている湯川さんと、物語の中の平吹さんが出会うじゃないで   すか。それがすごく面白い。 藤川

ドキドキしますよね。 阿 部 藤川さんの絵ってやっぱりすごくいいなと思いました。湯川さんの働きぶりが   素敵なのもあるし、あの展示されているカニだとかが、湯川さんを見守ってい

るような風に見えてきて、すごい優しい感じがしましたね。 平 吹 最初は藤川くんからメールが来て、海洋大学を撮影している中でフィクション   の部分を入れたいというお誘いがあって。海洋大学を語り継ぐ人が見つからな

いということで、役柄を通してそこを語るということができればなあと。湯川 さんというそこで働いている方がいたときに、役者というフィクションの存在 がどうやれるか、ということを往復書簡みたいにやりとりしました。テイクは 全部一回。 ︵例外は︶最初に湯川さんに会ったシーン、僕的には少し違うなと 思ったんですけど。役者のエゴでもう一回やりたいとか、かっこ悪いなと思い ましたけどね。 、結局使ったのは一回目という。  やりましたけどね︵笑︶

藤川 平吹

そういった発見はありましたね。  阿部さんの途中で見せてもらったものと完成作で比べると、室瀬先生のオフシ ョットみたいなものが増えていて、それで作品の幅とか深みが増したように感

大川

40 41 カルナラ! イベントシリーズ 港画:都市と文化のビデオノート


じました。 室瀬先生、ずっと作品だけ作っているのかと思いきや、色んなことをやってら   っしゃって面白かったです。

阿部

大 川 本間さんがコメントでおっしゃっていたように、利用者の方の内面ではものす   ごく壮大な旅をしているんだけども、見た目にはすごくミニマムな、ちょっと

した行動で、表情とか口に出るわけではない。じゃあそれを映像だったらどう やって表現できるのかなと。表面とは違うものをどうにかして見せるというの はすごく映画的なことで、もっと自由なやり方もあったのかなと思いながらも、 やれるだけやれたかなと思います。 阿 部 ︵漆器を︶実際手で持ってみた感じ、熱海の小学校のシーンでも子供たちがべ   たべた触っていましたけど、ああいう触ってみないとわからないことを、いか

に映像に起こすかっていうのは結構難しいですね。岡さんの楽しげなところと か、先生の真剣なところと、すごくチャーミングなところとか、それに関わる

人たちの表情とか態度ってその物に宿ると思います。こういう人たちが作るん だなあという信用がある。 場も人も含めての総体としての﹁場﹂みたいなものを捉えるということを、撮   り始めたときに思ったんですけど、お二人の作品を見てて、すごく共通してい

藤川

るなと思いました。大川さんの図書室のオフショット、ボイスオーバーであの 職員さんの声でお客さんの期待や知りたいことに応えたいと言っていたあたり、 やはりそういう人たちがいてこそあの空間があるということを、大きいスクリ ーンを通して見たらすごく納得しました。室瀬先生も空間を作ってらっしゃる というか、最初入った時に、応接室なのかなと思ったら作業部屋だったという のがまずすごく衝撃で、また庭も自分の作品の一部というか、漆作りという中 に空間が全て統合されていた。人と場との関係性のようなものは、映像を通す からこそ初めて見えてくるような気がして、三者三様にカメラを使ってそうい うものを捉えられたんじゃないかなと思いました。

42 43 カルナラ! イベントシリーズ 港画:都市と文化のビデオノート


ポスト・トークでは、約半年をかけて対象と向き合い、撮影や編集をしてきた監督た ちから、非常に印象的な言葉を聞くことができた。 「 (漆の)時間を共有する」 「空間 の見え方は物だけではなくてそこにいる人によっても変わる」 「 (作品に)関わる人の 表情や態度がその物に宿ると思う」など、単なる紹介映像ではなく、都市の物語を映 像で捉えることを試みる「港画」の作品たちが、どのようなまなざしで造形されてい

44 45 カルナラ! イベントシリーズ 港画:都市と文化のビデオノート

くのか、だんだんと見えてきたように思う。2020年度の「港画」のテーマは、 「地

「港画:都市と文 化のビデオノート」 ポスト・トーク/

の探求 本の旅」/

藤川史人監督「博 物海景」

域の歴史と新しい生活様式」 、そして「都市の風景」 。2021年の春から初夏にかけ て上映会を開催する予定だ。

(上から) 大川景子監督「食


慶應義塾三田キャンパス

建築プロムナード オンライン 建築特別公開日

2020年 月 日、 日 講師/森山緑、新倉慎右(慶應義塾大学アート・センター) 報告執筆/千葉夏彦 14

今年の慶應義塾三田キャンパス建築プロムナードにむけては、数カ年にわたる耐震補強 工事を終えた慶應義塾図書館旧館(重要文化財)の公開、とりわけ大規模災害や空襲の歴 史を刻む構造部の見学など、これまでにない内容を準備していたが、新型コロナウイルス の感染拡大状況を受けて、対面での実施を取りやめ、オンラインでの開催に移行した。プ を利用し、配信補助スタッフを交えた事前のルート Zoom Webinar 確認、音声や通信状況に関する数度のテストを経て本番に臨んだ。プロジェクトとして、

ラットフォームとして

屋外で実施するイベントをリアルタイムでオンライン配信する初めての取り組みとなった

が、カメラワークを意識した解説や、 Zoom の機能を駆使したリアルタイムの質疑応答など、 挑戦的ながらも充実した内容となった。(本間友)

三田演説館

1875年竣工の三田演説館は、現在の三田キャンパスの建築のなかでも最も古い もので、当初は旧図書館と塾監局の間に建てられていたが、1924年にキャンパス 南西の稲荷山に移築された。建築様式としては擬洋風建築と呼ばれる。明治初期のま だ建築家という概念がなかった頃、大工たちが既知の情報がほとんど無い中で、いわ ば見よう見まねで洋風を取り入れた建築様式だ。擬洋風建築は、 ∼ 年ほどのごく

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重要文化財に指定された。

外観で目を引くのは、外壁一面に施された白い漆喰のチェック模様

なまこ壁だ。

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短い時代にしか作られず、存在自体が貴重なもので、三田演説館も1967年に国の

10

47 カルナラ! イベントシリーズ 建築プロムナード オンライン ─ 建築特別公開日

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倉敷の伝統建築などに見られるこの壁は耐火性防水性に優れている。対して、入り口 に設けられた偏平アーチは専ら洋風な装飾という意味合いで採用されたもので、力学 的に有効なものではないが、それゆえに全体として、擬洋風建築に特有の自由な和洋 折衷のデザインが強調されている。  もう一つ重要なモチーフとして縦長の上げ下げ窓がある。この窓は三田キャンパス の他の建築にも影響を与えている。谷口吉郎による校舎や曾禰中條による第一校舎に も、この縦長の窓のリズムが活かされた。  木造二階建ての内部は吹き抜けのギャラリー形式になっており、演壇の奥壁が半円 状になっていることで、登壇者に視線を集中させ、話者の声が聴衆に届きやすくなる といった、演説館という用途に合わせた工夫がなされている。  演説という言葉を日本語に訳したのは福沢諭吉で、演壇の上部には和田英作が原画 を手がけた福澤諭吉の肖像画がかけられている。演説館は通常時は非公開だが、三田 演説会など一部のイベントの際には現在も利用されている。

48 49 カルナラ! イベントシリーズ 建築プロムナード オンライン ─ 建築特別公開日

慶應義塾図書館・旧館

周年を記念して、曽禰中條事務所設計、戸  慶應義塾図書館旧館は、慶應義塾創立 田組施工のもと1912年に竣工した。関東大震災や東京大空襲によって大きな被害

しながら残していくのは非常に大きな課題です。

は専門家に依頼するなどしてメンテナンスしています。こうした古い建物を保存修理を

1995年に大規模な解体修理をしたほか、重要文化財ということもあり、細かい部分

メンテナンスはしているのでしょうか?

はないと思います。

演説館は移設されていて、特に電気回りなどは後から整備しているので、当時のもので

シャンデリアは当時のものでしょうか?

曽禰中條事務所の曽禰達蔵は最初期の日本人建築家の一人で、機能や場所に応じて

を受けながらも当時の姿を留めており、1969年に国の重要文化財に指定された。

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過去の時代の様式を自由に選択し建築するという歴史主義建築の立場から、この図書 館を設計した。図書館旧館は現在でも慶應義塾の象徴的建物として捉えられているが、 正面からすぐ右手に旧正門だった東門があることからもわかる通り、設計当時から正 門の奥に聳える、威厳のある顔としての機能が求められていた。特に、赤レンガと白 い花崗岩からなる壮麗かつ優雅なデザインが特徴のクイーンアン様式はそれに適った

の内部構造を思わせるこのような形がこの建物に重厚感を与えている。その奥の階段

慶應義塾図書館・旧館/三田演説館 撮影:新良太

ものだった。  内部に入ると、入り口の尖塔アーチと呼応するかのように、同様のアーチが連続し ている。 連アーチの中心に配置されているのは重厚な尖頭アーチで、ゴシック聖堂 の踊り場には小川三知によって制作されたステンドグラス︵戦災によりオリジナルは 消失、戦後に再制作︶が配置されている。原画は和田英作が担当しており、慶應義塾 のペンマークを手にした女神に鎧武者が跪くというもので、下部にはラテン語でペン は剣よりも強しと刻まれている。

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塾監局

1926年竣工のこの重厚な佇まいの建造物は、図書館旧館と同様曽禰中條事務所 の設計。学校を裏方から支えるというその役割にマッチして、図書館の壮麗さとは対 照的に、質実剛健さが意識されている。図書館との比較で考えても、建築物のコンテ クストによって様式を自由に用いるという歴史主義建築の観点からの表現に注目すれ ば一貫性があるということが興味深い。とはいえ装飾的要素が乏しいわけではなく、 外壁はテラコッタタイルとスクラッチタイルで飾られ、正面の二連窓や尖塔はゴシッ ク様式やルネサンス様式を取り入れた城郭風のデザインになっている。 第一校舎

曾禰中條事務所設計、戸田組施工で1937年に竣工したこの第一校舎には、モダ

ニズム建築の影響が強く見られる。塾監局と比べてもさらに外観の装飾はシンプルな もので、建物そのものも直方体を組み合わせたような形で、非常に多くの窓が幾何学 的に配されている。演説館の擬洋風建築から、図書館旧館と塾監局の歴史主義建築を 経て、この第一校舎のモダニズム建築と、近代建築の流れが全て説明できてしまうと いう意味で、三田キャンパスは非常に貴重な場所であるといえる。

窓の上の四角い突起はなんですか?

換気扇や通風孔など、現代的なもので、後から付けられたものです。

第一校舎内部の白とグレーの色分けは震災復興建築の特徴でしょうか?

震災復興建築全般の特徴と呼べるかはわかりませんが、そういう配色が少なくないのは

たしかです。下の方は人が触れることも多いので、あまり白を使いたくないという実際 的な理由もあるのではないでしょうか。

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中に入ってみると、壁や梁などが重厚かつ頑丈な作りであることが印象強い。関東 大震災後の建築、特に公共建築などでは耐震性が意識され、鉄骨鉄筋コンクリートの 頑丈な建物が多く作られるようになった。そうした震災復興建築の特色のひとつとし て、利用者の動線を意識した構造が挙げられる。吹き抜けのホールには骨太の階段が 上まで伸びている。これは避難を容易にするための構造的工夫のひとつであるが、奇

撮影:新良太

妙な浮遊感のある折り返しのデザインなど、頑丈なだけではなく建築的な美しさも損 なわないようにという努力の形跡も同時に見て取れる。 慶應義塾図書館・新館

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慶應義塾の利用者の現在の動線を考えると、南門から南校舎の大階段を昇って中庭 に出て、第一校舎に受け止められる形になっている。正面から見て右に新図書館、左 に大学院校舎、いずれもモダニズム建築家の槇文彦の設計によるものだ。

第一校舎・中央階段 重なり合う階段が不思議な奥行き を作り出す


新図書館は、図書館旧館が手狭になったことから構想され、1981年に竣工した。 地上 階地下 階という深い層を持っているこの建物は、一見してわかる通りモジュ

に合致するものとして、 「薄明の闇に花開く大輪のイメージ」でこの作品を制作した

飯田 善國の作になるこの「知識の花弁」は、風に合わせて動く構造のキネティック彫 刻です。飯田は槇の建築を「透明な空間の万華鏡的構造体」と評し、その基本的構造

新図書館入り口のモニュメント 「知識の花弁」 の上部が動いているように見えましたが。

上の研究室部分では窓は多く小さく配されており、よく見ると外張りのタイルの大き

槇文彦設計の下1985年に竣工した大学院校舎は、機能上の区分けが外観からで もわかる造りになっている。三階より下の教室部分では窓は少なく大きく、それより

大学院校舎

したことが伺える。

呼応し、ここからも槇文彦が中庭とそこに面した建物全体をひとつの環境として設計

の間の柱も細くなっているのがわかる。入り口の開口部は、向かいあう大学院校舎と

層に向かって窓のサイズがだんだん小さくなっている。窓のサイズだけではなく、窓

の塾監局に合わせて調整されている。こういった配慮は窓の部分にも現れており、上

これは中庭や既存の空間に圧迫感を与えないという配慮だ。張り出した八角形状の 部分は図書館旧館との対応が意識されており、モジュールの凹んだ二段目の高さも隣

窓の大きさも間隔も、上に行くほど小さく狭くなっている。

の工夫がなされている。モジュールは正面から見ると上部がセットバックしており、

建築するということは難しい課題だったと思われ、周りとの調和という観点から多く

や塾監局など、慶應義塾の伝統が反映された建築物のすぐ傍に新しくモダンな建物を

ール構造を採用し、外壁にはサーモンピンクのタイルが用いられている。図書館旧館

5

そうです。

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さも違っている。正面右手には2階の教室に直接アプローチできる階段が配されてお り、対面する図書館との開口部との呼応と同様、学生の動線を意識した構造になって いる。コンクリートの打ち放しは槇が得意とするモダニズム建築の特徴のひとつ。伝 統的なタイル張りと合わせることで、慶應義塾の伝統とモダニズムのコラボレーショ ンを示している。 旧ノグチ・ルーム

1951年、谷口吉郎の設計により第二研究室が竣工した。第二研究室の一階には、 彫刻家イサム・ノグチによってデザインされた談話室﹁ノグチ・ルーム﹂があった。 竣工当初は演説館の向かいにあった第二研究室だが、新校舎建設のために2003年 に解体され、2005年、建築家隈研吾によるリデザインを経てその一部が南館三階 のテラスに移築された。

第二研究室の縦長の連続した窓は、谷口吉郎の特徴的な手法でありかつ、演説館同 様の上げ下げ窓になっており、演説館との連続性、ひいては慶應の伝統との接続が意 識されている。入り口を入ってすぐに目に付くのは、白いカーテン状の幕だ。これは ﹁記憶のフィルター﹂というコンセプトのもとに隈研吾が設置したもの。入り口横の 螺旋階段や暖炉脇の柱が途中で切断されていることからも、移築の際の事情が難しい ものだったことが伺える。慶應義塾ではかつての部屋をノグチ・ルーム、現在のこの 状態を旧ノグチ・ルームと呼称している。  福沢諭吉由来の萬来舎というコンセプトのもとに、人々が集い、談笑したり飲食を したりする空間として設計された旧ノグチ・ルームの内部は、家具も含めて、谷口吉 郎建築の直線的なリズムと対照をなす、温かみのある曲線によって構成されている。 また、土間、板の間、小上がりといった日本家屋の造りを取り入れ、西洋の靴文化に も和風の伝統的なくつろぎ方にも対応したデザインも興味深い。  西側の庭園には、イサム・ノグチの彫刻作品﹁無﹂が設置されており、沈む夕日を

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石の円の中に取り込むことで石灯籠のように機能することが意図されている。イサム・ ノグチは建築とインテリア、庭園と彫刻というすべてが響き合って一つの空間的芸術 が生み出されることを志向したといえる。また、イサム・ノグチが、日本人の父とア

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メリカ人の母を持つという出自ゆえに、自らのアイデンティティーに悩んだ経験は、

撮影:新良太

西洋と東洋のみならず、異なる素材や技術の融和としてこの旧ノグチ・ルームに昇華 されている。

旧ノグチ・ルーム 家具、暖炉や衝立などのインテリア・ デザインをイサム・ノグチが手がけた


文化と集団のアーバン・リサーチ

いま、都市のコミュニティはどうなっているか? 報告編集/千葉夏彦

2019年の師走にこの講演会の企画を考えていたときには、コロナの話もまだ聞こえ ず、港区のそこかしこで進む再開発プロジェクトや、東京オリンピックのような一大イベ ントと、地域における文化活動がどのように関わるのかを考えたいと思っていた。大きな 組織や大きな資本が、強いちからで都市や文化の枠組みを形成しようとしているときに、 ローカルなメディアやコミュニティの実践をどう展開すればよいのか、都市のカルチュラ ル・ナラティヴのプロジェクト・マガジンの企画・制作を手がけ、自らも批評誌の発行や 」や、かれらの知るひとびとと 地域コミュニティに関わる活動を展開している「 Rhetorica ともに考えてみたいと思っていた。

2020年の年明けから春にかけて状況は一変して、改めて企画内容を考え直すことに なったけれども、イベントを終えて振り返ると、中心的なテーマは変わっておらず、コロ ナという状況によって、より焦点が明確になったように感じている。ローカルなメディア やコミュニティが、実践を続けていく手がかりとなる問いを立てること。いろいろなアイ デアがでた中で、最後に選ばれた「文化と集団のアーバン・リサーチ──いま、都市のコ ミュニティはどうなっているか?」は非常に示唆的なタイトルだった。トークでは、いま までの集団の形が解体される中で、文化にかかわって活動する集団││ コミュニティが、 どのような形を必要としているのか、どのような場をつくりだし、どのような実践を行う のか、といった問いかけが、登壇者それぞれのフィールドからなされていたと思う。 ここでは、トークのサマリーを書き起こし原稿をベースにまとめた。本イベントの詳細 別冊として刊行してい な記録および登壇者からの振り返りコメントは、別途、 ARTEFACT るので、そちらもご参照いただきたい。また、トークの全編は、オンラインで公開されて いる。(本間友)

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─ 生活だけでも、仕事だけでもなく

小林えみ、米澤慎太郎、さのかずや モデレータ/瀬下翔太、松本友也

ッション1 コロナ禍におけるライフワーク セ

セッション ではコロナ禍におけるライフワークと題しまして、コロナ禍でのライ フワーク、とりわけ物とかプロジェクトとかイベントを作る段階で色々影響があった ところについて考えていきたいと思います。 という同人誌を作っているんですが、即売会をはじめ、  自分の場合ですと、 Rhetorica 合宿や密な雰囲気のイベントでの交流、デジタルゲームの大会に行ったりだとか、そ ういうことが出来なくなってしまった。  とはいえ、オンラインで交流したり共同で何か考えていくこと自体はできる。クロ ーズドなコミュニティで作品を発表したり、一緒に通話しながら作業したりといった 制作に関する共同性をどうやって再構築していくか。どうしてそれが必要なのか、意 外と孤独でもやれるのかといった話も出てくるだろうと思っています。(瀬下)

「『集まる』 音楽コミュニティの共同性を再構築する」 米澤慎太郎

音楽コミュニティの共同性を再構築するという題名で、まだ実践ベースではないと ころもありますが、その方法について少しお話させていただければと思います。  コロナ以前は総じてオフラインでのコミュニティーへの発信、関わりが多かったの ですが、コロナ以降はどちらかといえば楽曲制作やリリース、アーティスト︵個人︶ への支援というところに活動の軸が移っていった経緯があります。  コロナ禍が東京の音楽シーンに与えた影響について考えると、前提として東京のク ラブ・ライブハウスは非常に小規模なものが多く、特定のエリアに密集しており、キ ャパシティも100名未満の小さいものが多い。自粛要請や、それが解除された後で も人数制限があることで事業継続が困難になる、また渡航制限で海外アーティストの 招聘が困難になるなどの影響が出ています。そういった状況下で、署名活動やクラウ ドファンディング、給付金など政府による支援といった対策が行われています。その

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1


結果どういうことが起きているかというと、無観客とかストリーミング配信がすごく 増えているという現状があります。  ミュージシャン、アーティスト側の視点から考えると、クラブやライブハウスは、 ビジネスが組織化されていないフリーランスや兼業アーティスト、その他様々な人々 の、バラバラになっているクリエイティヴを繋げる機会を提供する場です。そういっ

人々が集まり、半クローズドでコミュニケーションできる場所を提供し、それをモデ レーションして、社交やクリエイションを促進していくというような形をとっていま す。英語のプラットフォームになるので、日本人のアーティストの参加の障壁はある と思いますが、日本でもこういった﹁安全に﹂ ﹁ゆるく﹂繋がれる場所づくりが必要 となるのではないかと思っています。 2

「100日後に死ぬ小林」 小林えみ

コロナ禍での出版業界ですが、ちょっと特殊なところがあります。皆さんよくご存 じの鬼滅の刃特需ですね。これがコロナに関係なくバグみたいな数字で入ってきてし まっているので、正確にコロナ禍での出版業界の影響がどうだったかというのは測定 しづらいものがあります。もちろんお店によっては人手不足や時短営業といった影響

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たコミュニティの停滞という現状において、一つの空間に集まることで培われてきた 共同性や関係性を、どう立て直すかは考えていかなければならないと思っています。 とい   その中で一つ私が参加していて面白いと思った事例として、 Eternal Dragonz

のコミュニティを紹介します。 Discord は う音楽レーベルコレクティヴによる Discord 2015年に発足したSNSサービスで、チャット機能・音声通話機能をメインに、 と連携しており、主にゲームコミュニティでヒットし Twitch 、 コミュニティに関わ ました。コミュニティの特徴は、 招待制︵半匿名である︶

配信プラットフォーム

る人数が限られている、 コミュニティ・ルールが定められている、 共通の趣味・

関心がある、 参加者が特定の地域に限らない、といったもので、趣味・関心が近い

67 カルナラ! イベントシリーズ 文化と集団のアーバン・リサーチ


はあったのですが、音楽業界や飲食業界などかなり深刻なことになった業界と比べる と、出版・書店業界というのはまだ恵まれていた方ではないかと思います。全体的に 学習参考書や巣ごもりの娯楽としての需要がありました。一方で電子書籍の需要増や、 書店を通さずに本が買えるということもありました。  課題としては図書館などの機能制限や、コロナ禍による経済ダメージからの︵嗜好 品ゆえの︶中長期的な売上課題は出てくるかとは思いますが、総じて現状としては何 とか保てているというところです。  今後としては、もともと出版物というものが個の作者から大勢の個に広まるという ものですので、コンテンツの流通自体もそんなに今までと変わりがないところがあり ます。集団に関してもSNSや WeBツールでの読書会などと親和性が高く、盛り 上がりが見られます。結果としては、とても困難な状況が続いてるとは今は言い難い かなと思います。ただそれでもリアルな書店という場が必要とされているその意味を しっかりと捉えなければ、今後に関して楽観視はできないと考えております。

そんな中で私は分倍河原でマルジナリア書店というリアルの書店を1月2日に開店 しました。今後私個人が何ができるかということと、社会としてどういうことを変え

68 69 カルナラ! イベントシリーズ 文化と集団のアーバン・リサーチ

ていって欲しいかということですが、まずは女性の地位向上です。そして、関連書籍 の刊行によって女性がメディア・社会に登場できる場を設けること。私は版元ドット コムで幹事をやらせていただいていますが、 名くらいいる中で女性は1人。決して 落はあると思っています。後進の育成ということでも、マルジナリア書店の店長を 代の女性にお願いしており、マイノリティの支援は意識しています。

行きたいと思っております。

なければ出会えない本もある。本や知識と出会う場の創設というのは意識してやって

地域の活性化という意味でも書店の開業は実施しています。オンラインで繋がる場 もあるといっても、たとえばデバイスを持っていない子供にとっては、直接の書店で

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他の方が差別的であるというわけではないですが、やはり不在という形で生まれる欠

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「わちゃわちゃの目的化/友達経済をキモくなくやっていく」 さのかずや

集団で制作することに関して、あまり客観的ではないかも知れませんが、お話でき たらと思っています。 ﹁わちゃわちゃの目的化﹂です。 ﹁わちゃわちゃ﹂とは、目的や結果と  ひとつ目は、 は関係なく、とにかく仲良くやるということです。以前より集まることの価値が高ま り、相対的にアウトプットの価値が下がっているとも言えるかもしれません。しかし、 いまはみんなが集まる場そのものを強く求めていると思います。 ﹁友達経済﹂ ︵友人関係をベースにお金や仕事が回っていくような経  もうひとつは、 済圏︶という視点です。この言葉を考えついたときには、内輪みたいで嫌だ、もっと アウトプットベースの経済圏をつくりたいという文脈で使っていました。しかし、現 在では評価を変えています。はじめは身内感があっても自分の周囲から少しずつ仲間 づくりを進め、それを軸に無理矢理にでもプロジェクトとして盛り上げていくことし

かないのではないかと。現在では、コロナ禍の影響によって新たな人と出会って仕事 をすること、また継続的に集団で活動をすることが困難なこともあって、 ﹁目的のた めに活動する﹂のではなく﹁交流のために活動する﹂といった手法が急速にスタンダ ードになってきているようにみえます。仲間を集めてアウトプットをつくっていくた めの方法論として、 ﹁友達経済﹂と適切に付き合っていく必要があると思っています。 ﹁友達経済﹂が強くな  では、どのように﹁友達経済﹂と付き合っていけばよいか。 っている現状のなかでは、身内の盛り上がりから始めることは避けられません。しか し、 ﹁キモくなく﹂やることが重要なのです。つまり、活動をただの内輪の盛り上が りで終わらせるのではなく、最終的にアウトプットを世に出し、成果や目的に向き合 う状態にできる限り方向づけていくことです。仲良く楽しく活動することと、クオリ ティの高い成果物を出すことは、一見トレードオフと思われがちですが、意外と無関 係のように思われます。 ﹁わちゃわちゃ﹂や﹁友達経済﹂から出てきたものであっても、 アウトプットのクオリティが高まれば必ず外部にも届きます。そして、そこで出会っ

70 71 カルナラ! イベントシリーズ 文化と集団のアーバン・リサーチ


た人を新たに﹁わちゃわちゃ﹂のなかに巻き込んでいく。  はじめから﹁友達経済﹂や﹁わちゃわちゃ﹂を忌避するのではなく、手法として活 用していきながら、少しずつその外部に進む。今はこういうやり方が重要だと信じて います。 ィスカッション 開かれた制作のコミュニティは可能か? デ

さのさんのお話についてですが、わちゃわちゃを作っていく、格好つけて何も   盛り上がらないで静かになっちゃうよりも、誰かが盛り上げて作っていく方が

瀬下

いいっていうのは、すごく大事な問いかけだと思っています。お二人の意見は どうでしょうか。 米 澤 音楽でも、コミュニティがあって初めて制作がその上にあるみたいなことはず   っと思っていたので、基本的には同じ話かなと思って聞いていました。

小 林 内輪の盛り上がりというのは今後のスタンダードになり得ると思っていたので、   すごく分かります。ただ、内輪で盛り上がろうっていう、強いものを志向しす

ぎるのも良くないと思っていて、女性とか小学生とか普通だったら団体に入っ てこないような弱い人たちというのをどう捉えているのかなというのは聞いて みたいところでした。 多様性を担保しながらやるというのは難しいなと思っています。 Discord のコ   ミュニティはそのトピックにフォーカスしているから盛り上がるみたいなとこ

さの

ろがある。その人にとってそのコミュニティが全てみたいになっちゃうと多分 だいぶ歪んできちゃうと思いますし、地方のコミュニティになるとそれが生活 の全てみたいになりがちな部分もあると思います。

と Twitter

米澤 に関してはトピックごとに集まるような構造になっていて、そう仕向   Discord けられているSNSの特徴みたいなものがあって、それによってすべてを託さ

ないで、一部だけをソーシャルメディアに託すことができる。でも

72 73 カルナラ! イベントシリーズ 文化と集団のアーバン・リサーチ


か Facebook だと、全てを自分のアバターとしてそこに置いちゃうわけじゃな いですか。そういうSNSと違うポイントがあって、そこが結構大事なのかな とは思いました。 瀬 下 自分が何かやるぞ、と言った時、誰も反応してくれないとそれができない。相   対的に弱い立場に置かれていればいるほど、相互の声かけ機能っていうのは必

小 林 うちの書店の前のテナントが不動産屋さんだったので、掲示板があって、そこ   から路上に情報を放っていけるのはリアルな場として良かったなと思います。 瀬下 のようなものは日本では既にあったりしますか、無いなら自分でも作   Discord りたい、という質問が来ています。

私自身は日本では見たことがないですね。私もやろうかな、という気持ちは持 っています。

米澤

74

要だと思います。 さの  瀬下さんと話したとき、福祉というか、セーフティネットみたいな機能もある かなという話もしてましたね。SNSとかでよく見る、声が大きい人が勝つみ

たいなこと以外のやり方も多分色々あると思ってて、色んな人が模索している と は 思 い ま す。 育 て る 機 能 と し て の コ ミ ュ ニ テ ィ は、 ク ラ ブ で の 出 会 い を

だと、声を挙げる人とモデレーターが分離していて、モデレー Discord

という形に置き換えていって補完するというところに通じるものがあ Discord ると思います。  海外の

米澤

トする専門スキルというのも蓄積されている。人を集めることと、モデレート

2

いなものをオンラインでやるのは結構難しいんだろうなと思います。

30

75 カルナラ! イベントシリーズ 文化と集団のアーバン・リサーチ

することはやっぱり結構違う能力として見るべきなのかなと思いました。 リアルな場と相互の声かけ機能というのは二律背反みたいなところがあって、   相互の声かけはある程度分母がいないと無理で、 万人見ている中で100人

瀬下

1

くらいは声かけてくれて、そのうちの 人か 人は作る感じだけど、リアルな

1

場が発生すると、 ∼ 人がある程度水平に話したりできる。その中間性みた

20


瀬 下 それぞれのプレゼンを聞いて触発されたこと、これからやってみたいと思った   アイデアなどあったら教えてください。

のモデレーターとしての知見という話がありましたけど、作るところ さの Discord   まではうまく行ってもそういったコミュニティマネージャーみたいな人の存在 がなければ上手く回していくのは難しいのかなと思いました。 瀬 下 日本でもシェアオフィスとかにコミュニティマネージャーはいますけど、全体   としてそういう職能があるという感じではないですね。

人が集まったけど何も起きないみたいなことは結構あったので、そこでコミュ   ニケーションを作るのは大事だし、今後もっと増えてくるんだろうなという気

さの

がします。

今、リアルの空気を捉えるには

小山ひとみ、 Erinam 、遠山啓一 モデレータ/松本友也、瀬下翔太

ッション2 リモート・アーバン・リサーチ セ

ということをお二人の話を聞いていて思いました。

ュニティマネージャーを入れるとか色んな形でやっていけるんじゃないかな、

思っていて、身内ノリを回避するにはどうしていけばいいかというのは、コミ

ていけるといいなと思いました。わちゃわちゃという雰囲気はすごい大事だと

集団から発生していくものはこれから新しくなっていくし、ツールも、電子書   籍ひとつとってもあり方は変化していくので、新しいジャンルのことは吸収し

小林

セッション2は、リモート・アーバン・リサーチということで、セッション1がわ りとどういう風に事業を進めていくかとか、物事を動かしていくかという話だったん ですが、こちらでは実際の、とりわけアジアのカルチャーの現場をどうリサーチして いくかという問題について話していきたいと思います。  今回のコロナのことで一番ダメージを受けたのがやはりカルチャーの動向が掴みづ らくなっているということ。アジアのカルチャーはものすごく相互干渉が強いけども、

76 77 カルナラ! イベントシリーズ 文化と集団のアーバン・リサーチ


今お互いに行き来ができなくなっていると。お互いが何を考えているか、現場の感触

Erinam

みたいなものが見えなくなっている。そういう状況で、アジアのカルチャーは今後ど うなっていくのかという話をしたいと思っています。(松本) 「コロナ禍の韓国カルチャーのリアリティをいかに捉えるか」

いかにして現地のリアリティをキャッチするかということで、今年一年自分がよく 見ていたメディアを紹介させていただきます。日本に比べると、韓国はインターネッ ト環境や宅配、電子決済などが一般化していたこともあり、あまり社会的な変化が大 きくなかったなと思っています。印鑑とかFAXにもあまり依存していなかったので、 わりとすぐにオンラインに行けました。後は元々国内の市場があまり大きくはないの で、海外向けコンテンツが大きい。VPNを繋がなくても見られる配信サービスとか、 のコンテンツもすごく多いので、国内外問わず見られる。現地に住んでる YouTube

若い子が外国人目線で現地の情報を発信してる母数も他の国に比べたらすごく多い。 他の国と比べてトレンドとかは追いやすいと思います。  コロナ以降の現地の流行情報へのアクセスの方法を考えた時に、一番視覚的にキャ や V live など ッチしやすいのがSNSで、現地のラジオやメールマガジン、 YouTube で現地でどういうエンタメが発信されているかをチェックしたり、アーティスト主催 のオンラインライブを視聴する方法もありました。  オンラインライブの試みは早かったです。ただライブ映像を流すのではなく、3D グラフィックをリアルタイムに織り交ぜたり、デジタルペンライトや、好きなメンバ ーだけ追えるマルチカメラ、後ろに映っているファンの人とかと直接通話できるよう になっていたりと、相互コミュニケーションが取れる工夫があって面白いなと思いま した。こういうプラットフォームは今後も増えていきそうです。  また、韓国はデモが社会情勢的に多い国ですが、人が集まれなくなったので、オン ライン上でバーチャルデモみたいなこともやっていました。仕事の仕方も日本と同様

78 79 カルナラ! イベントシリーズ 文化と集団のアーバン・リサーチ


の変化で、 Zoom で会議したりオンライン通話をしながら仕事するという感じです。 文化が地方に分散していくというイメージは特にありませんでした。 ︵放送局が元々圧倒的な力を  オンラインライブやネット配信の普及による変化は、 持っていた中で︶オンラインライブなどで配信プラットフォームの普及率が一気に伸 などから得る広告収入の配分を びて、困窮している中小の芸能事務所から、 YouTube 見直してほしいという運動が起こるなど、力関係が変化しつつあると思います。テレ ビの重要性よりも、自社のプラットフォームでライブする事の方が大事みたいな価値 観がちょっとずつその企業から出てきたのではないかと思いました。 「アナログな関係も未だ重要な中国カルチャーシーン」 小山ひとみ

80 81 カルナラ! イベントシリーズ 文化と集団のアーバン・リサーチ

コロナ状況下の中国カルチャーですが、やはりオンライン番組の需要が増えたこと が全体に大きく影響しているように思います。もちろんコロナの抑制は徹底的に行わ

トークイベントは Zoom Webinar および YoutubeLive で配信された


れたので、収録が一時的にストップしたりもしていましたが、コンテンツをつくる上 での規制自体はそれほどなく、すぐに通常の番組収録が再開されました。クローズし てしまう映画館も多く、オンライン番組にニーズが集中したという背景があるようで す。こうしたオンライン番組で人気を集めた演者が、マス向けのテレビ番組にも引っ 張りだこになるという、ある種の逆転現象が見られたのも興味深い変化でした。  私なりにコロナ禍で工夫した情報の取り方ですが、まず中国はオンライン化がすで にかなり進んでいるので、情報収集自体は正直そんなに難しくはなかったです。オン ライン番組はどこからでも視聴できましたし、トレンドも基本的にはそうしたオンラ イン番組からつくられていたので、情報のギャップはそこまで生じなかったように思 います。

である LINE

とはいえ、もう少しコアな情報収集や取材については、直接会えなくなったことで 面倒になったかもしれません。もともと中国では、 ︵もちろん信頼関係がある前提に は な り ま す が ︶ 取 材 相 手 と は マ ネ ー ジ ャ ー 等 を 介 さ ず に、 中 国 版 の

というサービスなどを使って、直接やり取りするケースが多いです。また、 WeChat 誰が今ホットで、その人とどうやってコンタクトを取るのか、ということについても、 のタイムラインで﹁この人を 変わらずアナログな伝手が重要になりますが、 WeChat 紹介してほしい﹂とか﹁今こういう情報がほしいのですが、誰か知り合いはいません か﹂とか、そういう投げ掛けが以前より活発に行われるようになったように思います。  私にとってのコロナ禍の課題というのは、やはり中国に行けないということです。 現地に行けないことで一番困ったのは、ユーザーの声や現場の声が拾えないというこ とかもしれません。現地に足を運んで取材をすると、やはり偶然の出会いや気付きが 生まれます。そこから新たな取材対象が見つかったり、取材の内容が生まれたりとい うことがありましたが、今はその機会がなかなか得られない。そこにもどかしさがあ ります。足を運べないことで、関係者や友人に会って雑談をすることができないのも 痛手でした。その雑談から取材対象やトピックが生まれるので、それができないのは 非常に残念です。

82 83 カルナラ! イベントシリーズ 文化と集団のアーバン・リサーチ


「コロナ禍における 『自由』 な音楽の行方」 遠山啓一

コロナ禍における自由な音楽の行方ということで、自由と身体化みたいなところが 大きなテーマになると思います。僕らは、パーティ=音楽が身体化される場所として 定義しています。音楽ってデータとして配られている中で、それをどうやって自分の 生活に紐づけていくのかがすごく重要だと日頃から考えています。コロナ禍において 現場が無くなり、リスナーとコミュニケーションが取れなくなりました。  音楽って最終的にはボーカルブースに入って録音するだけかも知れないけど、その 過程に友達との時間とかクルーとのノリみたいなもの、身体的な経験とか感情の動き があって、それが音楽になる。リスナーはそのデータを音楽として聴くわけですが、 ただプラットフォームだけで聴く音楽は消費されやすい。身体化されないと音楽はい い形で消費されないと基本的に思っています。リスナーの生活の中に音楽をどういう 風に配置するのかという問題です。ヘッドホンからしか音楽が流れてこないという状

況だと、たとえばMCの内容だとか、ライブに上がる前の動作だとか、そういう表現 が出来なくなっている。クラブに行けないからその曲で踊れない。その曲で踊ってい る人たちというコミュニティの可視化ができないという問題ですね。  福井一喜﹃自由の地域差 ネット社会の自由と束縛の地理学﹄という本が、今の状 況を捉える上で大変参考になりました。ざっくりと整理すると、インターネットやS NSが出てきて情報流通が柔軟になると、人々の間に﹁消極的自由﹂が生じます。要 するに、どこに住んでいても地域性に縛られずにいろんなコンテンツや情報に触れら れるということですね。ただ、そうなると代わりに﹁広域な空間スケールにおける束 縛﹂が生じます。これは例えば、システムのアルゴリズムに束縛されるといったこと です。そこから次の段階に行くには、地域という制約を再編成することで﹁積極的自 由﹂を獲得しなければならない。この積極的自由の段階に至る契機であるローカルな 束縛には、身体性をともなった現場の交流が不可欠という内容なんですが、その機会 がこのコロナ禍で奪われてしまいました。

84 85 カルナラ! イベントシリーズ 文化と集団のアーバン・リサーチ


これを好みの問題に還元することもできますが、それはアーティストに寄り添う立 場の人間としては無責任だと考えています。それは最初の方で述べたように、やはり 音楽を消費ではなく生活の中で体験してもらったり、リスナーが自分の体験や価値観 とその作品を紐付けたりすることで、初めて音楽やコンテンツは価値を生み出すと思 うからです。そうした身体的な、ローカルな束縛を再編成することでしか、本質的に は自由になれない。つまりこれはコンテンツ産業の問題という以上に、今生きている 人々の自由をめぐる問題だと思います。 ディスカッション プラットフォームに対峙するアジアのカルチャー

まずお伺いしたいのは、プラットフォームが前面化していく中で、ローカル性   とか身体性というのをどう確保していくか。ツルツルしたプラットフォームに

松本

ザラザラを取り戻す仕掛け、そういったマイナーなもの、ローカルなものの行

き場所みたいなものについて伺いたいなと思っています。 んが言っていたことと一緒ですね。大きな事務所だと自社でプラットフォーム

プラットフォームでは現場の空気感とかは作れないというのは、先ほど遠山さ Erinam を作って全部回収することができるんですけど、まだ売れていない人たちがい くらテレビに出ないプラットフォームで頑張ってもなかなか芽が出ないという ところがあると思います。そこで差が広がっているとは思います。中国だと個 人がすごく強いんですが、韓国でもそういう風に個人が力を持っていく、イン フルエンサー的存在は増えていくんじゃないかと思います。 今までは個人がプラットフォームとか事務所より強いということってなかった   ですもんね。

松本

配信サービスが普及したことによって、芽は出やすくなっていると思います。 Erinam  中国のマーケットは大きいので、一つのオンライン番組でデビューできなくて も、他のプラットフォームの同じような、あるいは全く別の番組でデビューす

小山

86 87 カルナラ! イベントシリーズ 文化と集団のアーバン・リサーチ


るというチャンスはあると思います。 個人の持っている人格とかパワーで突破していくという点はある種パワフルな   ところでもあるし、未整備なところでもある。今後どうなるのかわからないと

松本

ころではありますね。

れば聞いてみたいです。

プラットフォームって実際は結構使うわけじゃないですか。遠山さんが言って     いたプラットフォームミュージックにならないような使い方みたいなことがあ 遠山

難しいですね。日本の方がまだ手触りっぽいものの力があるかなとは思います。 松 本 中国や韓国だとプラットフォーム以外のものがかなり厳しい。日本はどちらか   というとマスシーンに乗れなかった人が趣味や副業で続けたりする土壌が、ま だ残っているように思います。現場っぽいもののやり方にフォーカスして工夫 してみれば活路はあるんじゃないかという。  アメリカのヒップホップとか理想的に語られますが、本当に消費サイクルが早

遠山

くて、優秀なマーケターやリサーチャーがいるはずなんです。 松 本 最後に、これからのアジア文化についてお伺いしたいです。中国発のサービス   が日韓で普及したり、日韓のアイドル文化を中国が受容したりと、個々の国で

生まれた文化が相互に影響を与え合うフェーズに入っているように思うのです が、それが今後どうなっていくのかを考えてみたく。 中国に関しては、おっしゃったように TikTok やライブコマースが代表例ですね。   中国国内で必要とされて出てきたサービスが、日本やアメリカに広がっていく

小山

というケースが増えています。とにかく若い人の人口が多くて勢いがあるので、 ユースカルチャーや若者の生活に紐付いたサービスは今後もたくさん出てくる と思います。 バーを入れてグローバルで対応できるようにしようという方向性が主流でした。

がわかりやすいと思いますが、今まではグループに何人か外国人メン Erinam K-POP

ただ最近はコンテンツ単体ではなく、その仕組みやビジネスモデルを輸出する

88 89 カルナラ! イベントシリーズ 文化と集団のアーバン・リサーチ


という方向に舵を切っていますよね。日本でも

がありましたが、育成方 NiziU

というひとつのシステムをそれぞれ 法やプロモーションの展開など、 K-POP の国にローカライズするという形が今後も増えていくと思います。国際情勢も 日々変化するので、そこで影響を受けづらい方法を模索しているという側面も あるんでしょうね。 遠 山 日本は相対的にグローバル文脈でのビジュアルコミュニケーションが下手だと   感じています。コンテクストがそぎ落とされることに抵抗感があるのかもしれ

ないですが。逆に、そうした今っぽくない部分が、今カッティングエッジなこ とをやっている上海や台北のクラブの主催者たちに評価されたりもしていて。 松 本 なるほど。今の自分たちにとってはむしろ乗り越えの対象であるようなものだ   けど、外から見るとそれがある種現状のシーンにはない魅力をもっているよう

に感じられるということですね。  セッション の議論を聞いていても思ったんですが、オープンとクローズドの

遠山

バランスをどうとっていくかについて、日本固有の事情をもう少し理解した上 で検証や議論を重ねていくべきなのかなと。たとえば、日本の相互監視的な態 度とプラットフォームは相性が悪いと思っています。そのあたりは中国・韓国 とは事情が違っていて、必ずしもその成功事例をそのまま持ち込めるわけじゃ ないのでは、と感じています。 オープンとクローズドを対立的に捉える前に、それぞれのグラデーションを意   識したほうがいいということですね。実際、各国の文化がそれぞれの国にロー

松本

カライズされたり輸出されたりするときに、そのグラデーションの微妙なずれ で摩擦が生じるというケースは今も起きていると思います。その背景にはマク ロな国際情勢の影響もあれば、あるいは単純にそれぞれの国の業界慣習の違い があったりもする。他国のケースを深く知ることで、単純に今﹁プラットフォ ーム﹂としか呼べていないものの認識の解像度があがっていけば、プラットフ ォーム一元化に抵抗する実践の余地も見出していけるのかなと思います。

90 91 カルナラ! イベントシリーズ 文化と集団のアーバン・リサーチ

1


カルチュラル・ コミュニケーターを 育てる


今年度の人材育成プログラム﹁カルチュラル・コミュニケーターを育てる﹂では、 学生と社会人を対象にした人材育成ワークショップと、地域における学びを考えるワ ーキング・グループをホストした。  人材育成ワークショップについては、フィールドワークの場として考えていた六本 木アートナイトが開催延期となったことで、当初の企画内容と開催形態から変更して の実施となった。元々は、学生などの若年層を対象とした育成プランを準備していた が、文化活動の実施が制限される状況の下で、ボランティアガイドなど、地域で文化 に関わる活動を継続的に行っている社会人に対する働きかけと支援をする必要がある と考え、学生対象のワークショップ﹁六本木イメジャリ﹂と社会人対象のワークショ ップ﹁カルナラ・コレッジ﹂の2部構成を取ることにした。本章では﹁六本木イメジ ャリ﹂の活動内容について、チューターからのフィードバックも含め紹介している。  地域における学びを考えるワーキング・グループは2種類ある。一つは、住民や学 生など、地域の様々な主体が専門家とともに地域文化資源について学び、その学びに

︶を実践する実務者が、そ 基づいて文化資源に働きかけてゆく相互学習︵ co-learning れぞれの現場での課題を共有し検討するミーティングである。  もう一つは、社会人による継続的な学びを可能にするプログラムを設計するために、 ︵大 ﹁隙間時間の活用﹂ ﹁途中離脱の低減﹂ ﹁受講生同士の学び合い﹂を重視する MOOCs 規模オープンオンラインコース︶のデザイン手法を参照するワーキング・グループだ。 の開発を早期から進め 、また地域連携に このワーキング・グループでは、 MOOCs も積極的に取り組む東京工業大学の実践について、クロス・ジェフリー・スコット教 授に伺った。 の位置付け﹂ ﹁特徴的な取り組み﹂ ﹁継続的な開発 ﹁同大学での MOOCs  本章では、 を促す仕組み﹂などのトピックをカバーするクロス・ジェフリー・スコット教授への インタビュー内容について詳しく取り上げている。

94 95 カルチュラル・コミュニケーターを育てる


地域の文化を学び続けていくための仕組み作り のデザイン手法を参照した検討 MOOCs 報告執筆/大島 志拓 (慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科)

﹁都市のカルチュラル・ナラティヴ﹂では、港区の様々な文化機関と連携しながら、 展覧会やイベントの背後にある調査研究や文化資源の存在を学外へ紹介していくこと を目指している。このプロジェクトの一環として、地域の文化資源とアカデミックな リソースを結びつけながら社会へ発信できる人材を育むために、学生を対象とした ﹂や港区民を対象とした﹁カルナラ・コレッジ﹂と ﹁ Cultural Communicator Workshop いった学びのプログラムを展開してきたが、特に社会人による学びは受講者の年齢構 成や学習動機が多様であることから、プログラムの運営が容易ではない。 歳前後に

多くの人々が学びを終える今日の社会では、大学での教育手法を生涯学習の場にその まま持ち込むだけでは受講者の理解を促しにくく、また﹁まとまった時間を確保しに くい﹂ ﹁モチベーションの継続が難しい﹂といった要因から継続性の面でも課題がある。 ︵ 大規模オープンオンラインコース ︶   これらの解決の糸口を得るために、 MOOCs は﹁隙間時間の活用﹂ ﹁途中離脱の低減﹂ ﹁受講 のデザイン手法に着目した。 MOOCs 生同士の学び合い﹂といった要素を意識しながら日々発展を続けており、その手法に

関する知見はプロジェクトが展開する社会人向けプログラムの設計にも示唆をもたら

MOOCs ︶ にて複数 Future Learn (https://www.futurelearn.com

すことが期待できる。プロジェクトの中核館である慶應義塾大学においても プラットフォームの一種である

の開発を進め、 のコースを広く一般向けに展開しつつあるが、より早い時期から MOOCs また地域連携にも積極的に取り組んでいる東京工業大学の取り組みに関して、クロス・ の位置付け﹂ ﹁特徴的な取り組み﹂ ジェフリー・スコット教授より﹁同大学での MOOCs ﹁継続的な開発を促す仕組み﹂などについてお話を伺った。

96 97 カルチュラル・コミュニケーターを育てる 地域の文化を学び続けていくための仕組み作り

22


ク ロス・ジェフリ ー・スコット 教 授への インタ ビュー(要約)

プラットフォームの一つである MOOCs

︵ https:// edX

日 時/2021年 月 日(火) 時半 ─ 時半 場 所/オンライン 参加者/クロ ス・ジェフリー・スコット(東京工業大学 教授) 所員/慶應義塾ミュージアム・コモンズ 専任講師) 本間友(慶應義塾大学アート・センター 宮北剛己(慶應義塾大学DMC統合研究センター 研究員) 大島志拓(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科) 11

の位置付け MOOCs

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なお、社会人向けには従来から田町キャンパスにて対面の講義を行っており、その 内容をオンライン化したいという構想はある。しかしながら、制作リソースの限度も

社が提供するAPIを使用して英語に変換し、英語版のコースとして提供す Google るなどの効率化を図っている。

を手掛けるチームがオンラインコースだけでなく映像制 ムが無いことから、 MOOCs 作など他の業務にも携わる場合がある。そのため、最近では日本語で行われた講義を

要があり、制作上の負担は少なくない。また東京工業大学にはメディア制作の専任チー

とから、オンラインコースの開発にあたっては英語版と日本語版の双方を用意する必

スの受講者には英語話者が多いが、学内向けコースの受講者には日本人学生が多いこ

また、現在では学外向けだけでなく学内向けのオンラインコースも設置しており、 電気電子系の学内向けコース受講者は400人にも上っている。なお、学外向けコー

方々が余剰時間に受講するなど、特に海外からの利用者数が増加傾向であるという。

ようになり、最近では新型コロナウイルスの影響で一定期間の待機を余儀なくされた

ことを目指していたが、次第に日本国内の高校生に対する広報的な意義も見出される

︶ のメンバーに加わった2014年以来 MOOCs のコース開発を手掛け www.edx.org ている。当初は著名な教員による講義を広く世界に発信し、海外での知名度を高める

クロス教授は、東京工業大学が

東京工業大学における

2

あり、現時点では社会人向けに特化したコース開発の優先度は高くないという。

98 99 カルチュラル・コミュニケーターを育てる 地域の文化を学び続けていくための仕組み作り

3


特徴的な取り組み

クロス教授が手掛けたオンラインコースの中には、映像内に登場させるためにオリ を使ってキャラクターが喋る仕掛けな ジナルキャラクターを用意し、 Text-to-speech どを施したものがある。このキャラクターは日本のポップカルチャーを感じさせるも のとして、主に海外の受講者を意識して生み出されたものだが、このようなキャラク ターを上手く活用することで、社会人による学びを対面での講義以上に効果的なもの に出来るかもしれない。例えばキャラクターを適度な距離感を持ったチューターのよ うな存在として位置づけ、いわば架空の﹁先輩﹂のように振る舞わせながら、その背 後では複数名の実在するチューターが受講者のモチベーションを支えるような運用も 考えられる。架空のキャラクターを利用した講座運営というアイデアは対面の講義で

100 101 カルチュラル・コミュニケーターを育てる 地域の文化を学び続けていくための仕組み作り

ならではの取り組みとして検討に値する。 は実現が難しく、 MOOCs では現場を訪れることが難しい内容を教材として扱いやすい。文化  また、 MOOCs

カルナラ・コレッジでのワークショップ


資源に関するものとして、例えば学内向けコースには﹁日本刀の制作﹂を扱うものが あり、刀の鋳造の様子など、多くの人々にとっては滅多に見る機会が無い光景を教材 として利用しているという。このようなコースが学外向けに展開されれば、特に彫刻 などの造形を専門とする芸術系の学生や研究者にとっては有益なものになるだろう。

ではないかという示唆を与える。実際にアメリカ国内の複数の大学には、単一のコー スに﹁卒業生向け﹂や﹁一般向け﹂といった幾つかのトラックを用意し、ディスカッ ションパートにおいて、それらの人々が相互に議論できるような仕組みがある。母校 である大学が卒業生の学びを継続的にサポートし続ける仕組みを用意することが出来

102

東京工業大学では豊富な陶磁器コレクションを持つ学内ミュージアムと連携したオン を通じて、理工系以外の分野につい ラインコースの開発も検討されており、 MOOCs ても多様な知の発信が期待できる。

継続的な開発を促す仕組み

東京工業大学には新たなオンラインコースを開発するための申請書が存在し、開発 を希望する教員が自主的に提出する仕組みがある。また、オンラインコースの開発は、 教授、准教授、特任専門職員、事務スタッフに加え、 名程度の学生によるチームに

よって取り組まれるが、受講者に対するファシリテーションは学生が担当しており、 の開発を行うためには、このような仕 MOOCs

ファシリテーションのトレーニングを受けた学生を卒業後に雇用する仕組みの導入も 視野に入れているという。継続的に 組みの整備も肝要である。

∼ 歳代になっ  さらに、アメリカやインドなどからの留学生の中には、卒業後に を使って学び直す事例も多く見られると てから、東京工業大学が提供する MOOCs を活用して学び続ける姿は、大学が社会人向けの学び MOOCs

いう。卒業生たちが

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を活用する際、広く一般の利用を前提として開始 の機会を提供するために MOOCs するのではなく、まず卒業生を対象として段階的に土台を固めていくことが有効なの

30

103 カルチュラル・コミュニケーターを育てる 地域の文化を学び続けていくための仕組み作り

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れば、 MOOCs はビジネスとしても高い価値を持つことになるかもしれない。 ﹁都  社会人を対象とした学びは受講者の年齢構成や学習動機が多様であることから、 市のカルチュラル・ナラティヴ﹂においてもプログラムの運営について試行錯誤を重 ねてきた。コロナ禍によってオンラインでの学びが注目を集めているが、東京工業大 学がその実践を通して積み上げてきた取り組みや仕組みは、従来から大学が培ってき による学びが単なる対面授業の代替に留まら た手法とは異なる部分も多く、 MOOCs ないことを感じさせるものであった。今後もクロス・ジェフリー・スコット教授との 継続的な情報交換を行いながら、その知見を﹁都市のカルチュラル・ナラティヴ﹂が

104 105 カルチュラル・コミュニケーターを育てる 地域の文化を学び続けていくための仕組み作り

展開する社会人向けプログラムの設計に活用していきたい。

六本木イメジャリより、六本木でのフィールドワーク


) 」 Roppongi Imagery

六本木アートナイト連携ワークショップ

「六本木イメジャリ (

2020年の六本木アートナイト連携企画は、新型コロナウイルス感染症をめぐる困難 な状況の中、運営スタッフと参加する学生がみなで試行錯誤しながら作り上げるワークシ ョップとなった。 昨年度のプログラムでは、六本木アートナイトに出品される作品自体についての掘り下 げが足りなかったのではないかという反省から、今年は、参加する作家や作品により焦点 を当てたプランを準備していた。 事前に、参加する作家とその作品、そして六本木という都市についてリサーチを行った 上で六本木アートナイトに参加し、他者と体験を共有する。このプランでは、最終的なア ウトプットとして、事前のリサーチと当日の体験をまとめたムードボードが作成される計

画だった。企画者としては、このムードボードが、開催前後の時間も含んだ参加者による

106 107 カルチュラル・コミュニケーターを育てる 六本木イメジャリ

アートナイト体験のアーカイヴ(ナラティヴ・ボード)として機能するとも考えており、 都市型アート・フェスティバルを参加者によってアーカイヴしていく、一つの方法を試行 する機会でもあった。 しかし、新型コロナウイルス感染症への対応から、六本木アートナイトの 月開催が見 送られ、大学の授業もすべてオンラインに移行するという状況の中で、ワークショップも

ワークショップはオンラインとリアルのハイブリッド形式で実施したが、感染拡大を防 ぐため、参加者全員が対面で集まる機会は街歩きのフィールド・ワークと最終プレゼンテ

と副題をつけた。

」 街のイメージがどのように変容するのかを考えるというプランで、 「 Roppongi Imagery

チャーを通じて構築した六本木アートナイトの姿を街に重ね合わせ、現代アートによって

なざし」 。フィールド・ワークを通じて六本木の街を体験し、レファレンスの収集やレク

開催時期とプランを大幅に見直すことになった。あらたに設定したテーマは、 「街へのま

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ーションの2回のみに限定した。学生やチューターは、5月から7月にかけて、オンライ ン授業を体験して(くぐり抜けて)おり、オンラインでの学びに慣れつつあったものの、 オンラインでの「ワークショップ」はまた新しい試みだった。この挑戦をサポートするた めに、各ワークの振り返りや、個別ワークのアウトプットを参加者同士で共有し、コメン トをつけ合うオンライン・ワークショップ・ノートを設置し、またチューター 名によっ てさまざまな角度からのフィードバックを行った。メディア・デザイン、パフォーミング・ アーツ、西洋近代美術、日本中世美術とそれぞれに異なる研究的バックグラウンドを持つ チューターからのコメントは、学生に大きな刺激を与えた。 また、今回の参加者は、異なる大学からも参加があったのは勿論のこと、年代は1年生 から 年生まで、学部も商学部、法学部、経済学部、文学部、理工学部にわたり、チュー ターにとっても普段の講義とは異なる経験となった。

108

4

以下に、プログラムの概要と各チューターからのフィードバックを掲載する。(本間友)

六本木イメジャリより、最終プレゼンテーション

109 カルチュラル・コミュニケーターを育てる 六本木イメジャリ

4


時半 オンライン

ワークショップ プログラム概要 ①オリエンテーション

9月 日(水) 時

③都市の顔つき/街歩きセッション

時 六本木 9月 日(火)9時 講師・協力/東京スリバチ学会 皆川 典久

地形的な観点に基づく都市の変容と歴史の痕

概要について説明した。

9月 日(日)

日(土) 六本木

②個別ワーク/街を記録する

参加学生が事前の街歩きを行い、講師からの レクチャーの前に六本木の街のイメージを各 自で構築した。

時半 オンライン

⑤ インターネットにおけるイメージの拡散

月9日(金) 時

9月 日(水) 時半 時 オンライン 講師/三戸 和仁 (六本木アートナイト実行委員会

介した。

時半

オンライン

性豊かな発表が行なわれた。

起されたのか、それぞれの関心に合わせた個

ヴィジュアルイメージの採集を行った。

と後の街の捉え方の違いを可視化するための

これまでの記録・メモ・関心をもったことか

六本木の街に対してどのようなイメージが喚

月 日(金) 時 新橋区民協働スペース

⑧ 最終プレゼンテーション

の作業を確認した。

ットのイメージをチューターに共有し、今後

最終プレゼンテーションに向けて、アウトプ

月 日(水) 時

⑦アラインメント

時半

これ までの六本木アートナイトの取組をエリ アマネジメントと芸術文化の2つの視点で紹

事務局長)

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19

19

講師/洞田 貫晋一朗 (六本木アートナイト広報/ 森美術館広報)

14

18 18

六本木アートナイトの広報担当者から「イン

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14

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ターネットにおけるイメージの拡散」をテー マにレクチャーを実施した。 ⑥ 個別ワーク/六本木の街を記録する

日(木) 六本木

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ら各々でテーマを定め、レクチャーを聞く前

月 日(日)

④ 六本 木アートナイト レクチャー/ 街への仕掛けを知る

跡を、実際に街を巡りながら探った。

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イン トロダクションとして六本木アートナイ トと慶應義塾大学アート・センター「都市の

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カルチュラル・ナラティヴ」プロジェクトの

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26 18

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111 カルチュラル・コミュニケーターを育てる 六本木イメジャリ

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石本華江 (慶應義塾大学アート・センター)

チューターからのフィードバック

大学という教育機関では担いきれない﹁現場﹂の声を聞く、貴重な機会となった。 特に六本木アートナイトという大きな企画を仕掛け、広報戦略を考え、実際に動か している方々のお話は、学生にとって大きな刺激となったのは間違いない。 ﹁アート﹂ や﹁街づくり﹂という漠然としがちな分野を、 具体的な事例を通じて学んだ機会は、﹁大 学生﹂ という人生設計を考えざるを得ない大切な時期に有効な視点を与えたと考える。   具体的なキャリアデザインを思い描くための、一つの事例になってくれたのではな いか。加えて就職活動という採用する/しない、というパワーバランスのない、また 授業として単位を取る/取れないといったストレスもない﹁学び﹂の場は非常に重要 である。特に今年はオンライン授業の弊害として、学生たちは課題提出に追われた。

大島志拓 (慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科 後期博士課程)

だからこそ、自主的な学びの場となった今回の企画は有意義であったと考える。

六本木アートナイトは産官学の多様な構成員によって組織されているが、本ワーク ショップでは、その運営の最前線で活躍する方々から具体例を交えてお話しを伺うこ とができた。今回の参加者は多くが写真サークルに所属する学部生であったが、特に 文化芸術分野において、このような学びの場は限られているため、学生にとっては学 外のリアルな現場を知ることができる貴重な機会になったのではないか。  また、2020年はパンデミックの影響があらゆる領域に波及した年でもあった。 本ワークショップにおいてもほとんどのクラスをオンラインにて実施したが、限られ た回数ながらフィジカルに対面する機会を持つことができた点は、関係者同士の交流 という観点からも有意義だったと感じる。 今回のプログラムに携わるまで、六本木は私にとって未知の街であり、どちらかと   いえば近づき難かった。しかし華やかな街区の裏には、幾多の時代を生きた人々の温 もりが残る様々な建造物や遺構が在ることを知り、多くの学生がそう述べたように、

112 113 カルチュラル・コミュニケーターを育てる 六本木イメジャリ


鈴木照葉 (慶應義塾大学アート・センター/慶應義塾大学大学院文学研究科 後期博士課程)

私自身も六本木という街の多面性に密やかな親しみを覚えるようになった。

本ワークショップでは、およそ1ヶ月のなかで、フィールドワークや、都市開発の レクチャーを受けることを通し、六本木という場をイメージすることをテーマとして 掲げた。これらの作業を通し、参加学生の﹁きらびやか﹂ ﹁華やか﹂ ﹁上流階級の街﹂ とある種一本調子であった六本木へのイメージが、徐々に変化していく様子が手に取 るようにわかった。  最終日に行われたプレゼンテーションでは、参加した学生の多くが、六本木という 街を﹁表﹂と﹁裏﹂という言葉で捉えた。しかし、その表現方法はバラエティに富ん でおり、写真や地形図を用いて、自ら思う六本木を語った。発表後のフィードバック において、東京スリバチ学会の皆川典久氏は、以下のように語った。 ﹁影があるから こそ、アートが生まれる。東京も丘の上だけではなく谷底があって、そこに自分たち

が思い描いていた東京のイメージとまた違う東京があることによって、東京の奥深さ が生まれる﹂ 。この言葉に本ワークショップのエッセンスがあるように感じた。  物事を捉えようとするときに、その対象を凝視することで見えてくるものがある。 表面だけを解釈するのではなく、よく観察し、自分の言葉で表現するように努める。 この一連の作業は、本ワークショップに限らず、人生を豊かにするためのエッセンス

森山緑 (慶應義塾大学アート・センター)

としても捉えられるのではないだろうか。

六本木アートナイトの特徴はパブリックに対してオープンであり、個々人が楽しむ ことができ、 アート作品に気軽に触れる機会の創出といった点が挙げられるであろう。 今年度はやむなく延期となったが、ワークショップへの学生の参加を得てじっくりと ある一定の期間、 ﹁六本木アートナイト﹂のこうした特質、目的、実績とその効果を 共に理解できたことは、六本木という街を中心に﹁街づくり﹂ ﹁地域の再発見﹂の観

114 115 カルチュラル・コミュニケーターを育てる 六本木イメジャリ


点を学生に与えることができたと考える。  アートを機軸とした戦略的経営方法の一端を知ること、つまり目的の一つとして挙 げている﹁総合的な都市開発とアート﹂を学生はレクチャー等を通じて体感したはず で、そのことが個別ワークの制作にも反映されたと思う。一方の六本木アートナイト 側にとっては、イべント性の強いアートナイトを契機として、人材育成や地域のブラ ンディング戦略にも学生に関心を持ってもらうことができたのではないか。複数回に 渡るワークショップを通じて、アートナイトを軸に多角的側面から学生に体験・分析・ 考察・表現を促すことで、学生の新鮮な視座を企業側にも提供できたと考えている。  参加学生らのアウトプット︵最終プレゼン︶は期待以上に素晴らしく、コロナ禍で 制限の多くある中、 真摯に取り組んだことが伺える内容であった。特筆すべきは、 ワー クショップ初回で彼らが示していた﹁六本木﹂像と最終プレゼンで表現された﹁六本 木﹂が良い意味で乖離したものになっていた点である。  本ワークショップはレクチャー、フィールドワーク、個人ワークを織り交ぜた形式

で進められたが、そのすべての過程がチューター、事務局、学生間で共有されてい た。 その中で学生たちの考えが時々刻々と変遷を遂げてゆくのを目撃することができ、 チューターとしてワクワクしながら最終プレゼンを心待ちにする状態であった。地形 や建造物という目の前に存在するモノと、人間が築いてきた文化や歴史、その中を縦 横に行き来しながら、どの学生も新鮮なパースペクティヴを獲得したようだった。

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都市のカルチュラル・ナラティヴ 活動記録 5月 日(水) 連携のための協議(港区) 時︲ 時 オンライン 出席者/吉村未来子・小貫智之︵港区産業・地 域振興支援部地域振興課 文化芸術振興係︶ 、本 間友 5月 日(水) 都市のカルチュラル・ナラティヴ アカウント 開設( @810oslpg ) LINE オンライン・イベントの情報やツールの使用方 法などをより分かりやすく伝えるため、対話型 のメッセージ配信が可能な LINE プラットフォ ームを試験的に導入することとし、アカウント を開設した。

7月 日(土) ドキュメンタリー映像 オンライン 上映会 「港画 都市と文化のビデオノート」 時︲ 時 オンライン︵ YoutubeLive ︶ 登壇者/阿部理沙、藤川史人、大川景子 モデ レーター/本間友 参加者/184名︵視聴回数︶ 7月 日(金) プロジェクト企画会議 時︲ 時 オンライン 出席者/内藤正人、渡部葉子、本間友 8月 プロジェクトのモデル化のための外部評価 今年度活動内容についての打合せ 外部評価コーディネーターとして、 熊谷薫氏 ︵ Artmingle ファウンダー︶ を選任。 今年度の 活動を評価の対象とした場合、新型コロナウイ

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2020年

4月 日(水) 「文化と集団のアーバン・リサーチ ──いま、都市のコミュニティは どうなっているか?」企画打合せ 4月 日(月) プロジェクト企画会議 時︲ 時 オンライン 出席者/内藤正人・渡部葉子・松谷芙美・本間 友︵慶應義塾大学アート・センター︶ 新型コロナウイルス感染症が拡大する状況下で、 プロジェクトの活動をどのように展開していく か、今後の計画について打合せを行った。

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7月 人材育成ワークショップのテーマおよび 開催形態についての検討 当初は、六本木アートナイトでのフィールドワ ークを中心としたワークショップを計画してい たが、新型コロナウイルス感染症をめぐる状況 を踏まえ、人材育成ワークショップの開催形態 について改めて検討を行った。その結果、学生 を対象に六本木の街とアートについて考えるフ ィールドワークとオンラインレクチャーを組み 合わせたハイブリッド型ワークショップ︵ 「六 本木イメジャリ」 ︶を設定し、地域の在住・在 勤者を中心とする社会人を対象に対面を基本と するアカデミック・スキルズとデザイン思考を 組み合わせたワークショップ︵ 「カルナラ・コ レッジ」 ︶を設定することとなった。

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ルス感染症への対応というある意味特殊な状況 下での評価となり、プロジェクト全体に対する 評 価 と 見 な し が た い。 そ の た め、 今 年 度 は、 2021年度以降にどのような方法で外部評価 を行っていくか、またその外部評価がどのよう にモデル化されうるかを検討することとした。 8月3日(月) 「港画 都市と文化のビデオノート」

https://bit.ly/3cJ6Bdq

記録映像 公開 都市のカルチュラル・ナラティヴの YouTube チ ャンネルで、 ﹁港画 都市と文化のビデオノー ト﹂の記録映像を公開した。上映したフィルム は、 Vimeo 上で公開。字幕付。英語版も用意し た。

8月 日(土) 文化資源ドキュメンタリー映像制作/ キックオフミーティング 短編ドキュメンタリー映像を担当する監督との ミーティングを開催。 参加者/大川景子、阿部理沙、藤川史人 2019年度に製作した作品や上映会でのフィ ードバックを元に、今年度の企画を改めて検討 した。新型コロナウイルス感染症をめぐる状況 を踏まえ、今年度制作可能な映像のテーマ、取 材対象の文化機関の検討を行った。 9月 文化資源紹介テキスト作成・翻訳検討 地域の文化資源を紹介するためのコンテンツに ついて、プロジェクトメンバーと検討した。今 年度は、オンラインでの情報提供が中心となる ことから、ウェブサイトに掲載するテキスト、 またオンライン・イベント等記録映像の字幕作

牟田賢明︵泉岳寺︶ 、米田竜介・磯部昌子︵草 月会︶ 、松永博超︵増上寺︶ 、丸山良・中山圭子 ︵虎屋文庫︶ 、川辺みどり︵東京海洋大学︶ 、内 藤正人、渡部葉子、本間友、松谷芙美

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成と翻訳を中心に進めることとした。また、一 部のテキストの執筆には、人材育成の観点から、 学生を参加させている。

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「建築プロムナード」の 開催形態および発行物に関する検討

9月4日(金) カルナラ・コレッジ / 地域文化資源再発見ワークショップ ♯1 時半︲ 時半 芝区民協働スペース︵芝コミ ュニティはうす︶ 講師/宮北剛己︵慶應義塾大学DMC統合研究 センター 研究員︶ 、大島志拓︵慶應義塾大学大 学院メディアデザイン研究科︶ 、本間友 参加者/ 名︵他/港区1名、事務局1名︶

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建築公開イベント﹁建築プロムナード﹂の開催 形態について検討。新型コロナウィルスの感染 症をめぐる状況を鑑み、オンラインでのリアル タイム中継を試みる。あわせて発行予定の英語 による解説冊子を、紙媒体ではなくPDFで制 作し、オンラインで共有することとした。 9月3日(木) 「都市のカルチュラル・ナラティヴ」全体会 時︲ 時 オンライン 出席者/小林顕彦︵味の素食の文化センター︶ 、 村上聖一︵NHK放送文化研究所︶ 、 横田茂・ 藤井由有子︵ Japan Cultural Research Institute ︶ 、

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参加者/ 名︵他/チューター6名、六本木ア ートナイトスタッフ4名︶ 9月 日(水) 六本木イメジャリ ♯4 六本木アートナイト レクチャー ─ 街への仕掛けを知る 時半︲ 時 オンライン 講師/三戸和仁︵六本木アートナイト 実行委 員会 事務局長︶ 参加者/ 名

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9月 日(水) 六本木イメジャリ ♯1 オリエンテーション 時︲ 時半 オンライン 講師・ チューター/本間友・ 石本華江・ 森山 緑・ 鈴木照葉︵ 慶應義塾大学アート・ センタ ー︶ 、大島志拓、宮北剛己、戸塚愛美︵六本木 アートナイト 事務局︶ 参加者/ 名 9月 日(日)│ 9月 日(土) 六本木イメジャリ ♯2 街を記録する 個別ワーク 六本木 参加者/ 名 月 文化資源ドキュメンタリー映像制作 テーマ決定 本年度のテーマとして、 ﹁地域の歴史と新しい 生活様式﹂ ﹁都市の風景﹂を設定。港区郷土歴 史館や区内の公園、地域の町並みなどに取材し、 外出が制限された状況下で獲得された都市への 新しいまなざしを表現することを試みる。

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月 日(金) 六本木イメジャリ ♯8 最終プレゼンテーション 時︲ 時半 新橋区民協働スペース︵きらき らプラザ新橋︶ 講師・チューター/本間友、石本華江、森山緑、 鈴木照葉、大島志拓、宮北剛己、戸塚愛美 参加者/ 名︵発表者9名、ゲスト4名︶

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9月 日(火) 六本木イメジャリ ♯3 都市の顔つき(街歩きセッション) 9時︲ 時 六本木     講師/皆川典久︵東京スリバチ学会︶

月 日(水) 六本木イメジャリ ♯7 アラインメント 時︲ 時半 オンライン 講師・チューター/本間友、石本華江、森山緑、 鈴木照葉、大島志拓、宮北剛己、戸塚愛美 参加者/ 名

月 六本木イメジャリ ♯5 トーク ─インターネットにおけるイメージの拡散 時︲ 時半 オンライン  講師/洞田貫晋一朗︵森美術館︶ 参加者/ 名 カルナラ・コレッジ / 地域文化資源再発見ワークショップ ♯2 時半︲ 時半 芝浦区民協働スペース︵みな とパーク芝浦︶ 講師/宮北剛己、大島志拓、本間友 参加者/ 名︵他/港区2名、事務局1名︶ 月 日(日)│ 月 日(木) 六本木イメジャリ ♯6 六本木の街を記録する 個別ワーク 六本木 参加者/ 名

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月 文化資源ドキュメンタリー映像製作開始 講師/宮北剛己、大島志拓、本間友 参加1名、他/港区 参加者/ 名︵うち Zoom 2名、事務局1名︶

月 日(水) 「慶應義塾三田キャンパス 建築プロムナード オンライン 建築特別公開日」

https://bit.ly/3cJ6Bdq

記録映像 ウェブ公開 チ 都市のカルチュラル・ナラティヴの YouTube ャンネルで、 ﹁慶應義塾三田キャンパス 建築プ ロムナード オンライン﹂の記録映像を公開した。 視聴回数/481回

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「プロトコルを探るダイアログ カルチュラル・レジスタンスをめぐって」 登壇者決定

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文化資源テキスト 作成・翻訳開始

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月 日(火) 「プロトコルを探るダイアログ」登壇者打合せ

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月 日(日) 地域で文化活動を展開する コミュニティについての調査 区の地区ごとに発行されている地域情報紙、ボ ランティアガイドや街歩き団体の周辺を中心に、 文化活動に関わる地域のコミュニティについて 調査を行った。

月 日(水) 、 月 日(土) 建築公開イベント 「慶應義塾三田キャンパス 建築プロムナード オンライン 建築特別公開日」 時半︲ 時  ︵ 日︶ 、 時︲ 時半  ︵ 日︶ ウェビナー︶ オンライン︵ Zoom 講師/新倉慎右・森山緑︵慶應義塾大学アート・ 14

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月 日(火) 「文化と集団のアーバン・リサーチ」企画打合せ 登壇者を決定、解説パンフレットの内容を固め、 登壇者へ登壇および執筆の依頼を行った。 月 日(金) カルナラ・コレッジ / 地域文化資源再発見ワークショップ ♯3 時半︲ 時半 芝区民協働スペース︵芝コミ ュニティはうす︶

センター︶ 参加者/ 名︵ 日︶ 、 名︵ 日︶ 月 日(日) 地域の文化資源に関する調査 2019年に発見された鉄道遺構﹁高輪築堤﹂ を中心に、区内の遺跡についての資料調査を行 った。

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月 日(金) カルナラ・コレッジ / 地域文化資源再発見ワークショップ ♯4 時半︲ 時半 芝浦区民協働スペース︵みな とパーク芝浦︶ 講師/宮北剛己、大島志拓、本間友 参加者/ 名︵うち Zoom 参加6名、他 港区 3名、事務局1名︶ 20

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2021年 1月 日(金) トークイベント 「プロトコルを探るダイアログ カルチュラル・レジスタンスをめぐって」 時半︲ 時半 オンライン︵ Zoom ウェビナ ー︶ 登壇者/山田健二、山峰潤也 モデレーター/長谷川紫穂︵慶應義塾ミュージ アム・コモンズ︶ 参加者/ 名

1月 日(日) トークイベント 「文化と集団のアーバン・リサーチ── いま、都市のコミュニティはどうなっているか?」 時︲ 時半 オンライン︵ Zoom ウェビナー / YoutubeLive ︶ 発壇者/小林えみ、米澤慎太郎、さのかずや 、 遠 山 啓 一、 Erinam 、 小 山 ひ と み、 瀬 下 翔 太、

3月1日(月) 「文化と集団のアーバン・リサーチ」記録集発行 生涯学習を支援する オンライン・ラーニング・プログラム WG(検討編 2) 時︲ 時 慶應義塾大学 出席者/本間友、大島志拓 3月2日(月) 生涯学習を支援する オンライン・ラーニング・プログラム WG(設計編 1) 時半︲ 時半 オンライン 出席者/クロス・ジェフリー・スコット︵東京 、本間友、宮北剛己、大島志拓 工業大学 教授︶

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月 生涯学習を支援する オンライン・ラーニング・プログラム WG内容の検討および出席者依頼 1月 日(土) 生涯学習を支援する オンライン・ラーニング・プログラム WG(検討編 1) 時︲ 時 オンライン 出席者/本間友、宮北剛己、大島志拓

松本友也 同時視聴者数/153名 アーカイヴ視聴回数/704回 2月 日(月) プロジェクトのモデル化のための外部評価 打合せ 出席者/熊谷薫︵ Artmingle ファウンダー︶ 、 本間友 2月 日(土) 地域のコミュニティおよび文化資源に関する 調査 報告会 時半︲ 時 慶應義塾大学 報告者/長谷川紫穂 3月 文化資源ドキュメンタリー映像、 文化資源紹介テキスト翻訳完成

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3月3日(水) プロジェクトのモデル化のための外部評価 講義「アート・プロジェクトの評価方法の現在」 時︲ 時半 オンライン 講師/熊谷薫  モデレーター/本間友 出席者/石本華江、森山緑、長谷川紫穂 3月7日(日) カルナラ・コレッジ / 地域文化資源再発見ワークショップ ♯5 時︲ 時 芝浦区民協働スペース︵みなとパ ーク芝浦︶ 講師/宮北剛己、大島志拓、本間友、前川マル コス貞夫︵慶應義塾大学大学院メディアデザイ ン研究科︶ 、鈴木照葉 参加者/ 名︵他/港区3名、事務局1名︶

おわりに

3月 日(月) 地域における相互学習実践のための協議 時︲ 時 オンライン 出席者/河野博・片野俊也・川辺みどり︵東京 海洋大学︶ 、本間友

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図版もモノクロにした。

ことをひとつコンセプトに据えた。新書サイズで、縦書き。目にうるさくないように、

見いだされたようにも思う。そこで今回の報告書では、アナログの読書体験をなぞる

続いた。そのおかげで、アナログ・ツールの持つ間合いや手触りの重要性が、改めて

多くがオンラインに移行して、パソコンやモバイル端末を常に見つめるような生活が

今年はおどろくほどの勢いでデジタル・トランスフォーメーションが進んだ。イベ ントやワークショップ、仕事の会議から飲み会にいたるまで、人と会い、話す機会の

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パラパラと紙のページをめくって、行きつ戻りつしながら、ゆっくりとプロジェク トの 年を辿っていただければ幸いである。

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発行日

2021年3月 日

都市のカルチュラル・ナラティヴ

執筆

発行

協力

表紙絵

利根章浩

﹁都市のカルチュラル・ナラティヴ﹂プロジェクト

石本華江、大島志拓、鈴木照葉、千葉夏彦、本間友、森山緑

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ィヴ in 港区 大学ミュージアムを核とする地域 文化資源の連携・国際発信・人材育成事業﹂

助成/令和2年度 文化庁 博物館を中核とした文 化クラスター形成事業︵地域と協働した博物館創 造活動支援事業︶ ﹁都市のカルチュラル・ ナラテ

http://art-c.keio.ac.jp/-/artefact

〒一〇八 八三四五 東京都港区三田二 一五 四五 電話 〇三 五四二七 一六二一 FAX 〇三 五四二七 一六二〇

慶應義塾大学アート・センター

﹁都市のカルチュラル・ナラティヴ﹂プロジェクト実行委員会

篠律子、長谷川紫穂

デザイン 福田敬子︵ボンフエゴデザイン︶

編集

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思いもよらない形で過ぎていった2020年は、 プロジェクトのゆくさきを すこし立ち止まって考える年にもなった。 この機会に、都市のカルチュラル・ナラティヴの これまでの活動を振り返り、 これからの計画を描いたペーパーを作って、 この冊子に挟み込んだ。 プロジェクトのあらましや 活動記録の英語版も掲載しているので、 あわせてご参照いただきたい。



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