サステナビリティ マーケット ダイナミクス 2024年第3四半期

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サステナビリティ マーケットダイナミクス 2024年第3四半期

不動産の環境認証取得動向

• LEED認証の取得件数が前年通年を上回る

• WELL認証は東京都心5区のオフィス3件が取得

• サステナビリティマーケットダイナミクス日本語版では不動産のレジリエンス評価を特集

LEEDの第3四半期の認証取得件数は6件で、 2009年からの累 計件数は287件(前期比+2.1%)となった。当期にプラチナ を取得した事例はみられなかった。2024年第1-第3四半期の 取得件数は33件となり、2023年通年の30件を上回った。

CASBEE-建築の第3四半期の認証取得件数は43件で、当期末 時点で有効な認証を有する物件は461件(前期比+7.0%)と なった。オフィス、リテール、物流施設、ホテル、レジデン シャルなど多用途でCASBEE-建築の取得がみられた。

CASBEE-不動産の第3四半期の認証取得件数は129件で、当 期末時点で有効な認証を有する物件は1,948件(前期比 +6.1%)となった。当期の取得件数は前期比・前年比とも減 少しており、CASBEE-不動産の取得ペースはやや鈍化した。

WELLの第3四半期の認証取得件数は3件で、当期末時点で有 効な認証を有する物件は58件(前期比+5.5%)となった。当 期にプラチナを取得した事例として、東京都千代田区内の不 動産業のオフィス(WELL v2: Office Spaces)が挙げられる。

Fitwelの第3四半期の認証取得件数は0件で、当期末時点で有 効な認証を有する物件は5件(前期比±0.0%)にとどまる。

日本での認知度は未だ低いが、当期末時点で有効な認証は世 界35カ国で1,773件にのぼり、WELL認証より若干多い。

CASBEE-ウェルネスオフィスの第3四半期の認証取得件数は 10件で、当期末時点で有効な認証を有する物件は170件(前 期比+6.3%)となった。当期は東京都心5区、大阪市、福岡 市で各1件の取得がみられた。

特集:不動産のレジリエンス評価

気候変動により甚大化した自然災害が世界各地でみられ、災 害による経済的損失も年々増加傾向にある。不動産の災害リ スクを調査することが当然となりつつある昨今、住所を入力 するだけで気候変動の物理的リスクを評価できるサービスが 投資家の間で利用されている。主流はドイツのMunich REや アメリカのJupiter Intelligenceのレジリエンス評価ツールだ が、地震や洪水が多い日本では、不動産毎の災害対策も考慮 したレジリエンスを評価するResReal認証の進展に期待が寄 せられている。

主要指標

グリーンビル認証(各認証の増加率の平均)

注釈:LEED、WELL、Fitwelは全ランク、CASBEE-建築、CASBEE-不動産、 CASBEE-ウェルネスオフィスはB+以上を対象とする。

出所:USGBC, IBECs, IWBI, Fitwel

グリーンビル認証物件数の推移(認証取得年別)

出所: USGBC, IBECs 公開データをもとにJLL作成

【特集】不動産のレジリエンス評価

• グローバルでは不動産のレジリエンス評価が当然になりつつある

• ドイツMunich REの評価ツールではシナリオ毎の将来リスクの大小を表示

• アメリカJupiter Intelligenceの評価ツールではリスクの数値化や経済インパクトの可視化が可能

• 日本のResRealは現時点で水害リスク評価のみだが、不動産毎の災害対策も考慮した評価に期待

気候変動による自然災害と経済的損失

気候変動により甚大化した自然災害が近年世界中で顕著にみら れ、その規模のみならず頻度にも懸念が深まるばかりである。

2024年5月にはインドの各地で50℃前後の気温が観測され、 ニューデリーで52.9℃を記録したというニュースが世界中で話 題になった。誤計測の可能性も指摘されているが、前後数日の 気温をみると非現実的な話ではない。一方、大雨による災害が、 国内では石川県能登半島、海外ではフィリピン、パキスタン、 タンザニア、ブラジル、イラン、インド、コートジボアールな ど各地で発生し、中国広東省やアフガニスタンでは複数回発生。 これらの大規模自然災害は世界に経済的損失をももたらす。

AONが毎年発表する「気候と大規模自然災害レポート」の最 新版によると、2023年の大規模自然災害による経済的損失は 3,800億ドル、そのうち気候変動が主要因ともいえる熱帯低気 圧、洪水、雷雨等、干ばつによる損失は約2,600億ドルを占め ており、これらの災害による損失は年々増加傾向にある。

大規模自然災害による世界の経済的損失

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シナリオ分析に基づく気候レジリエンス

ゆえに、TCFD提言*では、企業として開示すべき情報として 「ガバナンス」、「戦略」、「リスク管理」、「指標と目標」 の4項目を掲げ、このうち「戦略」においては「2℃以下シナ リオを含む様々な気候関連シナリオに基づく検討を踏まえ、組 織の戦略のレジリエンスについて説明する」と記載されている。

気候変動という長期的かつ不確実な課題に対する経営戦略を評 価するうえでシナリオ分析の実施が推奨されているのである。

*TCFDとは、投資家等に適切な投資判断を促すために、気候関連財務情報開 示を企業等へ促進することを目的とした「気候関連財務情報開示タスクフォー ス(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)」のこと。2015 年に金融安定理事会の下に設置、2023年10月の解散後はIFRS(International Financial Reporting Standards:国際財務報告基準)財団が開示の進捗状況を 監視。TCFDの内容は基本的に引き継がれ、IFRS 財団の下部組織であるISSB (International Sustainability Standards Board:国際サステナビリティ基準 審議会)によるサステナビリティ関連の情報開示基準が今後のグローバルスタ ンダードとなる。

ガバナンス

取締役会による監視体制

経営者の役割

リスクと機会

戦略

(IFRS S2 「気候開示関連」)

ガバナンス機関の監督

経営陣によるモニタリングとマネジメント

気候関連のリスクと機会

ビジネス・戦略・財務計画への影響 ビジネスモデルとバリューチェーン

戦略と意思決定

財務ポジション、財務パフォーマンス、CF

リスク管理

指標・目標

シナリオに基づく戦略のレジリエンスの説明

リスクを評価・識別するプロセス

リスクを管理するプロセス

リスクを評価・識別・管理するプロセスの総合的リスク管理へ の統合

リスクと機会の評価に用いる指標

スコープ1, 2, 3の排出量及び関連リスク開示

リスクと機会の管理に用いる目標と実績

気候レジリエンス

リスク管理

気候関連指標

気候関連目標

出所: 国土交通省「不動産分野における気候関連サステナビリティ情報開示対応のためのガイダンス(不動産分野TCFD対応ガイダンス改訂版)」をもとにJLL作成

災害リスクを確認するツール

災害リスクは今現実にある危機として取り扱う必要があり、今 や、投資前のデューディリジェンスや資産の災害対策は必須と なっている。不動産業界においても、昨今、不動産を保有・取 引するにあたり災害リスクを調査することが当然となりつつあ る。しかしながら、日本では国土交通省が運営するハザード マップをはじめ、災害リスクを確認する手段が広く使われてい る一方、ハザードマップのない国も多くみられる。また、ハ ザードマップを使用した場合でも、異なる性質のリスクを定量 化することは難しい。

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海外のレジリエンス評価ツール

このような状況下、住所を入力するだけで気候変動の物理的リ スクを評価できるサービスが開発され、世界中に不動産を保有 する投資家の間で利用されている。なかでも、ドイツの Munich RE(ミュンヘン再保険)が提供するLocation Risk Intelligenceや、 米国のJupiter Intelligenceが提供する ClimateScore Globalなどが主流となっている。

両者の評価項目には若干の差異があるものの、洪水、大雨、高 潮、山火事、酷暑、干ばつ、土砂崩れ等のリスクを評価するこ とができる。また、Munich REでは、RCPシナリオ*毎に将来 のリスクの大小をVery High / High / Medium / Low / Very Lowと段階表示させることができる一方、Jupiter Intelligence では、各リスクを数値化したり経済インパクトを可視化するこ とができるようになっている。

ただし、いずれも地理的リスク(立地によるリスク)を素早く 評価することはできるものの、不動産毎の取組みによってどの ぐらい減災できるかといった評価はなされない。したがって、 これら海外のレジリエンス評価ツールを使用すると、日本の不 動産は地震や洪水のリスクが高いと判断され、災害対策の有無 にかかわらず低評価となりやすい。

*RCPシナリオとは、将来の温室効果ガスの大気中濃度レベルとそこに至るま での代表的な経路を仮定した代表濃度経路シナリオ(Representative Concentration Pathways)のこと。IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change:国連気候変動に関する政府間パネル)第5次報告書から採 用されている。たとえば、RCP2.6というシナリオは、2100 年頃のおおよその 放射強制力(気候変動を引き起こす因子の強度)が2.6W/m2で、21世紀末ま での気温上昇を2℃未満に抑えるシナリオを示す。

国内のレジリエンス評価ツール そこで期待が寄せられているのが、日本の気候風土に即した評 価指標として開発中のResReal(レジリアル)である。日本不 動産研究所(認証機関)、ERSおよび建設技術研究所(評価機 関)が運営する第三者認証サービスで、2023年1月より水害に 関する認証が開始され、GRESB*における「グリーンビル認 証」項目にもリストアップされた。将来的に高潮、地震、土砂 崩れ、噴火、酷暑に関する認証もリリースされる予定であり、 不動産毎の災害対策も考慮した評価がなされるところに期待が 寄せられている。

*GRESBとは、 不動産・インフラ会社やファンドのESG 配慮の姿勢を測る ツール(Global Real Estate Sustainability Benchmark)のこと。ESGパ フォーマンスデータを検証・採点しベンチマーク評価を提供するものであり、 投資家はESGに関する機会・リスク・影響を確認し投資判断に活用することが できる一方、不動産管理・運用者はESGパフォーマンスデータを提出し評価を 受けることで改善計画の策定に活用することができる。

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Thisreporthasbeenpreparedsolelyforinformationpurposesanddoesnotnecessarilypurporttobeacompleteanalysisofthetopicsdiscussed,whichareinherentlyunpredictable. It has been based on sources we believe to be reliable, but we have not independently verified those sources and we do not guarantee that the information in the report is accurate or complete. Any views expressed in the report reflect our judgment at this date and are subject to change without notice. Statements that are forward-looking involve known and unknown risks and uncertainties that may cause future realities to be materially different from those implied by such forward-looking statements Advice we give to clients in particularsituationsmaydifferfromtheviewsexpressed inthisreport. Noinvestment orotherbusinessdecisions shouldbemade basedsolelyontheviewsexpressed inthisreport.

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