2024年版グローバル不動産透明度インデックス
JLL キャピタルマーケット
CEO リチャード·ブロクサムよりご挨拶
このたび2024年版グローバル不動産透明度インデッ クスをお届けできることを喜ばしく思います。初版発 行から25年間を経て、JLLとラサール インベストメ ント マネージメントは不動産投資家や金融機関、テ ナントにとって重要かつ独自の指標となる不動産透 明度について業界唯一のベンチマークを提供してい ると信じています。
2024年版インデックスは、社会経済、テクノロジー、 気候変動、地政学的紛争といった大きな変動が重 なり、不動産環境が新たに進化を続ける時期に発 行を迎えました。過去数十年で最も急激な利上げ サイクルは終わりを迎えつつありますが、新たなサ イクルに移行するに当たって不確実性が高まり、不 動産投資市場では価格決定に時間を要しています。
より一般的には、AIツールの個人や企業への普及 が経済に大きな影響を与え、同時に新たなリスクも 生じます。脱炭素化と気候変動に対するレジリエン スの必要性が経済·社会の長期的展望の基盤とな り、さまざまな国や地域で新たな規制が施行される など重大な転換期を迎えています。そしてこれら全 ては全世界で過去最多の人々が投票を行う歴史的 な年に生じており、ガバナンスの強化や政策の不確 実性が高まる可能性は大きくなっています。
このような規模と相互に複雑に関連する変化が、意 思決定をより困難にしています。2024年版インデック スでは、世界で最も透明度が高い市場が最も進歩し、 次の投資サイクルで利益が得られる優位な位置づけ にあることが確認されました。しかし、他の多くの市
場では過去の透明度改善を維持することが困難になっ たり後退している場合もあり、透明度の改善が継続 すると見込まれているわけではありません。
変化の時代は大きなチャンスをもたらしますが、不 動産業界がこうした課題に対応して優れた結果を達 成するには、全てのステークホルダーがこれまで以 上に力を合わせなければなりません。このような転 換期において、テナントや投資家、金融機関、政府 が情報に基づいた意思決定を行う手助けとなるよう、 透明度の重要性はこれまで以上に高まっています。
2024年版インデックスは、より高度な基準となる不 動産透明度について客観的なベンチマークを提供し、 健全な不動産市場と社会に貢献できるものと確信し ています。
リチャード·ブロクサム
JLL 、キャピタルマーケッツ CEO
目次 主要メッセージ
透明度「高」の市場は最も大きな回復の見通し 14 主要市場がさらに改善する中、シンガポールが透明度「高」 14
透明度が最も改善されたアジア太平洋地域
透明度ランキングがトップの欧州市場
政府の取組でアラブ首長国連邦とサウジアラビアは透明度が向上 19 北米のトップ市場で継続的な改善
サハラ以南アフリカでは透明度改善が停滞
注目すべき透明度のテーマ
拡大する不動産投資ユニバース
デジタル化とAIによる透明度の充実化と新たなリスク
サステナビリティ情報の開示とリスク要件が 重要な段階に達し透明度は向上
マネーロンダリングや受益所有権に関する規制の重要度
透明度に関する過去と将来の考察
透明度
主要メッセージ 不確実性によって不動産透明度は かつてないほど重要に
人口動態からサステナビリティ目標、テクノ ロジーの進化まで、不動産市場に影響を与 える構造的な変化は加速している。こうした
長期的変化は、企業や市場が不動産価格や 成長見通しの急速な調整に迫られているサイ クル的な課題と交差している。2024年は史 上最大の「選挙イヤー」であり、地政学的な
緊張や紛争が継続していることも、世界各国 の政治的不確実性に新たな要素を加えてい る。不動産投資家やテナント、政府が新た な不動産サイクルと都市の次なる成長段階 へ移行する中、こうした全ての要素が不動産 透明度の重要性をこれまで以上に高めている。
最も透明度が高い市場はさらに改善し、 次のサイクルのけん引役に
最も透明度が高い市場は、2024年版グロー バル不動産透明度インデックス(GRETI)で最 も大きく透明度を改善し、テクノロジーの融合、 より詳細なデータ可用性、気候変動関連の報 告について新たなベンチマークを担っている。
米国、カナダ、フランス、オーストラリアは世 界で最も透明度が向上した市場に含まれ、シ ンガポールは特にサステナビリティとデジタル サービスが改善したことで初めて透明度「高」 グループ入りした。これら上位国には、過去2 年間で世界の商業用不動産への直接投資の 80%超となる1.2兆米ドルを超える投資が集
まった。これらの市場はリスクの低さと、成長 不動産セクターでの需要と価格関係の透明度 の高さから、投資市場が活性化する過程でい ち早く流動性が回復している。
透明度「高」以外の市場でも、アジア太平 洋地域のインド、中国の主要都市、韓国、 中東及び北アフリカ(MENA)のアラブ首長 国連邦とサウジアラビア等、いくつかの国で 透明度が改善し、高度な制度化が進んでい ることは、長期的に有望な見通しを示してい る。これらの市場では今後10年間で大規模
な都市インフラの拡大が必要となるが、合計 でも2022年以降の世界的投資のわずか6% しか集めておらず、透明度が向上するにつれ て大きな投資機会が得られることを示してい る。その他の地域では透明度改善は限定的 であり、ランキングが低い国々では透明度の 格差縮小のペースを加速させる必要がある。
AIは透明度を向上させ、 競争優位性をもたらしている 生成AIの普及により、テクノロジーが不動産 に与える影響への期待が大きく高まっている。
AIへの投資は急増しており、その応用はほと んどが研究開発段階にもかかわらず、既に 業界全体の透明度を向上させている。膨大 な法的文書の検証と要約、物件管理の自動 化、インタラクティブな都市·建築デザイン の推進など、かつてない速度で詳細な評価 や分析を可能としている。例えばJLLでは世 界の投資市場での投資機会5件のうち1件 を既にAIプラットフォームが特定している。
しかし、AIがもたらす価値を十分に引き出す ためには、モデルに入力する標準化データ を適切に捕捉する設計とガバナンス構築のた めに相当な労力と投資が必要とされ、多く の企業や政府はまだ実現できていない。こう した能力が確立されるにつれて、AIは生産 性と透明度を大きく改善させる可能性を持っ ている。
サステナビリティの透明度は投資家と テナントにとっての転換点へ パリ協定に即して、2030年までに世界の二 酸化炭素排出量を半減させるという期限が 迫り、より多くの国や都市が長期的な脱炭素 化へ向けた義務付けを拡大する中で、サス テナビリティ透明度の重要性が高まっている。
新たな建物のエネルギー性能基準や、サス テナビリティ情報の開示の義務化、企業のコ ミットメントの増加により、サステナビリティ は2024年版不動産透明度調査で透明度が最 も改善した要素となった。
しかし、これまでの進歩にもかかわらず、サ ステナビリティ指標は依然として世界的に最 も透明度が低い指標になっている。多くの企 業は不動産ポートフォリオの二酸化炭素排出
量の実績値、建物の環境性能、気候変動関 連リスクを把握する初期段階にあり、標準化 された情報や事務手続きの欠如がデータの 質やグリーンウォッシングの懸念につながっ ている。フランス、日本、米国の有力都市、 英国といった環境不動産への長期的な道筋 が明らかな市場が、透明かつ予測可能な環 境を提供することで、低炭素建物の大幅な 供給不足に対応し、テナントが自信をもっ て立地やスペースに関する意思決定を行い、 政府が脱炭素化目標を達成し、投資家が将 来的に安定したポートフォリオを確立するこ とを可能にする。
過去2年間の 不動産透明度に関するハイライト
カナダ
• 受益所有権登記制度の新設
• 地域ごとの建物排出量開示規制の導入 (例)モントリオールとバンクーバー
米国
• 企業透明化法による受益所有権の追跡の進展
• ゼロエミッションビル(ZEB)基準発表
• 気候変動関連開示要件の採用
• オーブンエンド型デットファンドのパフォーマンス 指標新設
• 地域ごとのサステナビリティに関する取り組み (例)ニューヨーク市の地域法��施行、��都市 が建物性能基準にコミット
英国
• 受益所有権の追跡と適用
• TCFDに基づく報告義務の拡大
フランス • 建物レベルのエネルギー性能データベー スの導入
• PLU生物気候規制に基づく生物多様性 基準についての義務導入
• 企業サステナビリティ報告指令(CSRD)の 適用
中国
• 統一された全国不動産登記 制度の完成
• 上場企業にTCFDに基づく 開示義務導入
日本
• 建築物省エネ法改正
• 上場企業にTCFDに基づく 開示義務導入
不動産の受益所有権 登記の一元管理 シンガポール
不動産規制法案の導入
• 監督改善と効率化を目指しアブダビ不 動産センター(ADREC)開設
• AI利用のBIMと計画検証システム
ドバイ
• 不動産改革インキュベーターやドバイ不動産テックグループ等 のテクノロジー主導の取り組み開始
• ドバイRESTインターフェースによるデジタルサービスの改善
• 「デジタル・インド」の取り組みに よる土地登記や情報システムの デジタル化
• 気候変動リスク開示ガイドライン の発行
• 開発および建築物に関する標準 的規制の導入
• ����年不動産業界変革 マップ
• 上場企業にISSBに基づく 開示義務導入 オーストラリア
• 国家建築法の更新
• 受益所有権の公開登記に 向けた進展
• 上場大企業にESG開示を 義務付ける法律の導入
2024年版グローバル不動産透明度インデックス
次の不動産透明度は?
拡大する不動産投資ユニバース
投資家が需要の構造的な成長が見込める不 動産に集中することで、不動産市場は急速 な資本再配分の初期段階にある。人口動態 やテクノロジーの変化が、政府やテナントの 優先項目の変化と重なって、投資家は欧州 やアジア太平洋地域で成長するリビングセク ターの投資戦略から、世界的に拡大するデー タセンターの必要性まで、より広範な投資ユ ニバースを理解しなければならない。データ
センターや最新製造設備といったセクターを 推進する際の主な意思決定において、インフ ラ計画、貿易政策、運用モデルの透明度は ますます重要な要素となるだろう。
不動産デット市場が注目を集める ノンバンク融資が増加して伝統的な資金調 達を補足することで不動産デット市場が拡大 した。2024年から2025年にかけて約2.1兆米 ドルの不動産債務がリファイナンスに迫られ ると見積もられており、その約30%は2024 年上半期に完了した。金融当局は、多くの 市場でプライベートクレジットの融資額や融 資条件についての透明性が相対的に欠如し ていることから生じるリスクを懸念している。
金利の高止まりから借換えコストは高く、投 資家がクレジット戦略による分散投資を進め、 一部の市場で不良債権が増加する中で、デッ ト市場の透明性は今後も課題として残る。
2024年版グローバル不動産透明度インデックス
デジタル化とAIによる 透明度の充実化と新たなリスク AIアプリが業界全体に組み込まれることで、 こうしたツールに関連する規制やコンプライ アンスリスクも高まっている。米国、EU、中国、 カナダ、オーストラリアを含む市場で新たな 法案や指針が制定されつつあり、AI規制は 2024年に重要な段階に来ている。これら多 くの取り組みは基幹となるモデルの透明性や データのセキュリティとプライバシーに特化し ているが、自動評価モデル(AVM)等を対象 とした不動産に特化した規制も進んでいる。
同時に、価格最適化アルゴリズムによって例 えばAIツールが意図せぬ価格操作やその他
の反競争的行為につながる潜在的なリスク についても関心が高まっている。
データ収集やAIモデルのトレーニングと利活 用について、より統一された基準の制定は有 為な一歩となる。企業にとっては、規制改定 の背景とAIツール機能やセキュリティ、コン プライアンスリスクについて包括的に理解す ることが、AIがもたらすリスクを回避しつつ 透明度改善を実現する重要な鍵となる。
サステナビリティ情報の開示と 関連リスク要件が重要な段階に達する中、
透明度は向上
米国、EU、英国、中国、日本、韓国、カナダ、 オーストラリアを含む世界の主要市場で、今 後2年間で企業のサステナビリティ情報の開 示が新たに開始または拡大されて発効する 予定となっている。こうした措置により報告
義務を負う企業の数が大幅に増加し、サス テナビリティ指標や計測方法の確立が広く必 要とされるようになる。これによって、サステ ナビリティ性能、とりわけ排出量や物理的な 気候変動関連リスクについてのより詳細かつ 一貫した見解の形成につながるだろう。より
多くの国の政府が建物レベルのエネルギー消 費量や排出量に関する開示を義務付けており、 より詳細で一貫性のあるデータや、段階的な 基準の厳格化、建物管理の改善の組み合わ せにより進歩が加速するだろう。サステナビ リティがテナントや投資家の意思決定に組み 込まれ、立地や投資を決定するようになる中 で、遅れている市場が競争力を維持するた めには、速やかに高度な基準を採用する必 要がある。
マネーロンダリングや 受益所有権に関する規制の重要度
マネーロンダリングに関する金融活動作業部 会(FATF)の指針改定は、企業の真の所有 権が追跡できるよう各国に要求しており、金 融制裁措置の拡大と合わせてマネーロンダリ ング防止(AML)と受益所有権(BO)規制の 向上が推進されている。
このためここ数年で、AMLやBOの規制変更 を導入する国が増加しており、多くの市場で も更なる改善がみられる。
既存の規制では施行と定義が一致せず、比 較的簡単に回避できることが多いため、依 然として有効性が問われている。しかし、地 政学的な緊張やリスクによって議論が高まり、 多くの国や地域でより厳格な基準が導入され ている。投資家や企業はコンプライアンス確 保により多くのリソースを投入する必要に迫 られ、厳格な規制制度を持ち、評判や財務 リスクの低い市場へ向かうだろう。
2024年版インデックスの 調査対象は世界89の国と地域
透明度「高」
透明度「中高」
透明度「中」
透明度「中低」
透明度「低」
2024年版グローバル不動産透明度インデックス
明るい未来を 切り開く 世界各国の200校を超える大学の学生たちが、 この複雑なセクターについて学び、理解を深め るためにJLLとラサールのグローバル不動産透 明度インデックスを使用しており、学生の勉強を 支援できることを嬉しく思います。
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2024年版グローバル不動産透明度インデックス
透明度「高」の市場が 最も大きな回復の見通し
透明度が高い市場がさらに改善する中、 シンガポールが透明度「高」
2024年版グローバル不動産透明度インデックスでは、 多くの国や地域で透明度が改善しているものの、透 明度「高」のグループの市場が最も改善が進んだこ とで、他の国々をさらに引き離している。英国は透 明度第1位の地位を維持している。最新テクノロジー の採用、サステナビリティ規制·報告の強化、詳細 なデータ可用性、デジタルサービスの提供によって、 米国、カナダ、フランス、オーストラリアはいずれも 最も改善した市場となっている。
世界の不動産投資の80%超が、 透明度「高」の市場に 割り当てられている。
2024年版グローバル不動産透明度インデックス
透明度が最も高い市場を構成する国は、英語圏の市 場から離れつつある。2022年版インデックスで透明度 「高」のグループに加わった日本に続き、より高いサ ステナビリティの基準と不動産業界トランスフォーメー ションマップ等の取り組みを通じてテクノロジーやデ ジタルサービスの統合に集中したことで、シンガポー ルが初めて透明度「高」のグループに入った。
透明度「高」の市場には、合計で世界の収益不動 産の50%以上、グローバル直接投資の80%以上が 集まっている。2024年に新たな不動産投資サイクル に入り、市場力学を最も理解し、価格決定に関す る透明度が最も高く、幅広い資本市場と最大の分 散化が可能な国々が不動産取引の回復をけん引す るだろう。
2022–2020年グループ別の透明度改善
透明度「高」
透明度「中高」
透明度「中」
透明度「中低」
透明度「低」
出所:JLL、LaSalle
透明度スコア
2024年版グローバル不動産透明度インデックス
最も透明度が改善されたアジア太平洋地域
2022年以降、平均的な透明度の改善が最も進んだ のはアジア太平洋地域の国々であり、透明度が最 も高く大きな市場がこれをけん引した。シンガポー ルは2024年版インデックスで透明度「高」の市場に 入った。新たなESGおよび気候情報開示要件、建 築基準、オルタナティブ不動産セクターの詳細なデー タによって日本とオーストラリアのスコアも改善した。
インドは世界で透明度が最も改善し、市場の制度 化が進むことで、インダストリアルからデータセンター までコア市場とニッチ市場の両セクターでデータ収 集の拡大と質の向上が見られた。より積極的な金 融当局、新たな気候変動リスク開示ガイドライン、 建築規制の簡素化、土地登記のデジタル化によって、 インドの主要都市は透明度「中高」に入った。
スコアの変化(改善幅)
2022-2024年、透明度が最も向上した市場 出所:JLL、LaSalle
2024年版グローバル不動産透明度インデックス
韓国も透明度が最も改善した市場に含まれ、REIT 市場の成長と韓国鑑定評価協会の評価基準、特に オフィスとインダストリアルセクターのデータ可用性 の向上や新たなゼロエネルギービル(ZEB)基準が これを支えた。更に、TCFDに基づくサステナビリティ 報告も来年から開始される。
地域内最大の市場である中国は、不動産業界の課 題と、都市によって大きく異なる透明度への対処が 続いている。しかし、新たに統一された土地登記制 度、REITやプライベートエクイティ·ファンド制度が 進化することで、投資環境が多様化、建物のエネル ギー効率要件、上場大企業のESG開示義務に向け た整備、市場データの改善が、主要都市である上 海と北京の透明度を向上させた。
2024年版グローバル不動産透明度インデックス
透明度ランキングがトップの欧州市場 欧州は依然として最も透明度が高い地域であり、 EUがサステナビリティ基準の更なる進歩を促進して いる。例えば、建物のエネルギー性能指令(EPBD) の改定で新たに最小エネルギー性能要件が定めら れ、建物の地球温暖化係数やホールライフカーボン の報告が義務付けられた。更に、EUタクソノミー も発行され、企業サステナビリティ報告指令(CSRD) が施行されている。フランスはサステナビリティ透明 度サブインデックスで1位となった。生物多様性の保 護と修復を義務付けるパリのPLU生物気候規制の 導入や、建物レベルのエネルギー使用量を報告する ためのOperatプラットフォーム、オルタナティブ不
動産セクターや不動産金融市場のデータ充実によっ て、フランスは透明度が最も改善した国に含まれた。
ランキング1位の英国もスコアを改善させており、経 済犯罪および企業透明性(ECCT)に関する法律によ る受益所有権の登記の強化、最小エネルギー効率 基準(MEES)の更新、性能ベースの建築基準を新 たに導入し、TCFDに基づく報告の対象となる企業 数を拡大させた。
2024年地域別不動産透明度
出所:JLL、LaSalle
2024年版グローバル不動産透明度インデックス
政府の取組でアラブ首長 国連邦とサウジアラビアは 透明度が向上
MENA(中東・北アフリカ)地域では、政府が市場 の有効性を重視することで、サウジアラビアと、ア ラブ首長国連邦のドバイとアブダビがいずれも世界 で最も透明度が改善した市場となった。より高い透 明性が、現在サウジアラビアで進行しているいくつ かの世界最大の都市開発プロジェクトの実現に重 要な役割を果たしており、不動産登記による正式な 土地登記制度の導入や、不動産規制庁による売買、 賃貸、開発計画のデジタルデータの公示、データプ ロバイダーによるオンラインサービスの改善や市場 データの詳細化でスコアが向上した。
ドバイとアブダビでは、ドバイRESTとDARI(アブダビ) プラットフォームを通じてマネーロンダリング防止法 のさらなる改善と、既存および新興の市場プロバイ ダーから入手可能な情報の向上によって、データと サービス提供の改善が継続している。
それ以外のMENA地域の市場では、イランとレバノ ンを含むいくつかの国で政治·経済的な課題により 後退し、透明度改善は限定的となった。
北米のトップ市場で継続的な改善 米国とカナダの市場全体で透明度が異なるが、ニュー ヨークやトロントといった主要都市は世界で最も透 明度が改善している。ニューヨークは、厳格な建 築物の排出性能基準を世界でも最も積極的に設定 している市場で、同基準は今年発効された。また、 新たな受益所有権の開示義務や不動産取引業者を 対象としたマネーロンダリング防止法の整備につな がった企業透明化法といった国の施策や、新たな資 産クラスやデット市場にわたる様々なプロバイダー によるデータ範囲の拡大の恩恵も受けている。
カナダでは、コアセクターとオルタナティブセクター 両方でデータの詳細化が進んでおり、モントリオー ルやバンクーバーといった市場での新たな建築物排 出の開示規則を、TCFDに基づく企業報告や受益所 有権登記に向けた政府の動きが補完している。
ニューヨークとトロントは世 界で最も改善した都市に含ま れる
アメリカ大陸の他の市場では、透明度の改善は限 定的となった。ブラジルやメキシコといった一部の 主要市場では、より詳細なデータが入手可能となっ たが、他の多くの国では変化がなく、透明度の低い 一部の国ではスコアが更に低下した。
サハラ以南アフリカでは透明度改善が停滞
サハラ以南アフリカ地域は過去3回の調査と比べて ほぼ安定した結果となっており、今回も透明度にお いて最も進歩が見られなかった。ただし、一部の市 場では改善の兆しが見られており、例えば、ケニア、 ナイジェリア、ガーナにおける市場データの調査対 象とアクセスが改善され、ケニアの不動産規制法案 は不動産業者や開発業者の監督と説明責任を強化 している。
しかし、多くの国では限定的な法規制の枠組み、ガ バナンスの課題、都市インフラ計画と管理経験の欠 如、機関投資家への障壁が重なって進展を妨げて おり、ほとんど変化は見られなかった。同地域は今 後10年間の都市居住人口が世界最大となる見通し であり、透明度のより迅速な改善は、急速で質の 高い都市発展を支援する上で不可欠となる。
2024年版グローバル不動産透明度インデックス
注目すべき透明度のテーマ 拡張する不動産投資ユニバース 不動産投資市場では、過去10年間で分散化が一貫 したテーマとなっており、投資可能なユニバースの 拡大はペースを上げている。人口動態の変化に伴い、 テクノロジーの採用、サプライチェーンの移行、テ ナント優先項目の進化が、あらゆる不動産セクター の成長見通しを再定義しており、新たなアセットク ラスが出現している。投資家はこうした長期的テー マから、最も恩恵を受ける資産の特定に重点を置 いており、これは資本の大幅な再配分につながって いる。インダストリアルとリビングセクターへのグロー バル投資は、10年前の29%から上昇し、過去1年 間でグローバル直接投資の50%を占めた。機関投 資家も主要不動産セクター以外で活発となっており、 2024年版インデックスの調査対象の3分の2以上の 市場で、ヘルスケア施設、冷凍·冷蔵倉庫、研究 施設等の「新興」不動産セクターに対する直接投資 が行われている。
不動産セクターの成熟度は地域ごとに大きく異なる。
例えば、機関投資家が運用する集合住宅は米国で は確立された資産クラスだが、欧州やアジア太平洋 地域の多くの市場ではまだ発展途上であるが成長 余地は大きい。集合住宅、賃貸住宅、学生寮、高 齢者向け住宅、さらに戸建て賃貸や低所得者向け 住宅といったその他の高成長セクターを含むリビン グセクターは、現在世界最大の投資不動産セクター となっており、JLLでは今後5年間で世界のリビング
セクターに1.4億米ドルが投資されると予想している。 データセンターも急速に拡大している投資セクター であり、容量は2027年まで毎年20%以上増加する と見込まれている。
インダストリアルおよびリビ ングセクターが、今や世界の 不動産投資の50%超を占めて いる
2024年版グローバル不動産透明度インデックス
機関投資家の新興セクター投資と入手可能な市場データ 出所:JLL、LaSalle
入手可能なデータ
(逆目盛)
高齢者向け住宅
学生寮
冷凍・冷蔵倉庫
データセンター ライフサイエンス
これら新興セクターの多くは、機関投資家の投資対 象市場で徐々にポートフォリオに組み込まれている が、新たな投資機会も現れ続けている。多くの都 市や企業がよりクリーンなエネルギーソリューション
へと移行しており、再生可能エネルギー不動産に対 する需要は急速に拡大している。電気自動車の利 用拡大によって公共充電ステーションの大幅な増設 や、電池製造施設への投資を通じたインフラをサポー トする必要性も高まっている。さらにロボット工学、 オートメーション、ナノテクノロジー等の高度な製造 業の成長は、研究開発や製造施設への需要を増加 させている。
こうしたニッチ市場の多くは、運用や価格のファンダ メンタルズに関する透明性や情報が高まっているが、 確立された不動産セクターと比較すると依然として
大きく劣っており、3分の1以上の市場で「コア」セ クター以外の信頼できるデータが欠如している。機 関投資家は幅広い市場で、これらセクターに選択的 かつ積極的だが、透明度「高」の国が大部分のストッ クと最高品質のデータを占めており、分散投資によ る恩恵が得られる位置にある。
投資家の新興不動産セクター への注目が高まる
透明度別の機関投資家による新興セクター投資
透明度「高」
透明度「中高」
透明度「中」
学生寮 データセンター
高齢者向け住宅 ライフサイエンス サービスアパートメント セルフストレージ
冷凍・冷蔵倉庫 メディカルオフィスビル
戸建賃貸住宅
駐車場 コリビング
年齢制限付き住宅
病院
教育施設
撮影スタジオ
出所:JLL、LaSalle
機関投資家による投資が活発な市場
機関投資家が投資していない市場
機関投資家による投資が限定的/専門的な投資が行われている市場
こうした新興資産タイプの多くは、機関投資家に様々 な利益をもたらしている。長期的な需要要因の恩恵 を受け、景気サイクルとの相関性が低く、伝統的セ クターとの分散化が可能で、重要なリース事由やテ ナントへの依存を低減できる可能性がある。しかし それらは通常、オペレーションへの注力が必要で、
かつ独自のインフラや政策要因にさらされる場合が 多い。これら相互に関連する要因が、セクターや市
場全体の見通しにどのように影響しているかをより 広範に理解することが、投資ユニバースが拡大を続 ける中で投資機会を特定し、リスクを最小限に抑え る鍵となる。テナントや投資家が市場データ以上に 相対的な成長期待を理解するには、今後ますます 重要となる要因がいくつかある。
規制介入、通商政策、インセンティブ
政府の政策は、急成長している多くの新興セク ターにとって主な推進役であり、テナントや投 資家は改正が続き不確実性が高まる規制環境 に対処する必要がある。米国のインフレ抑制法 (IRA)やCHIPSおよび科学法などの法律によ り、クリーンエネルギーと半導体製造に対する 政府の奨励金は4,700億米ドルを超えると現在 予想されている。EUのグリーンディール産業 計画やネットゼロ産業法などの取り組み、ある いは中国、日本、韓国を含む国での投資プロ グラムと、地域レベルのインセンティブプログ ラムの組み合わせにより、先進的な製造施設 やサプライチェーンの世界的な構図は再構築
を迫られている。同時に、現地でのデータ保 管や処理を義務付けたり、データの輸出を制 限するデータローカライゼーション要件は、現 在70%以上の国で導入されており、データセ ンター立地に関する意思決定や運用リスクに 影響を及ぼしている。また、サステナビリティ 政策は再生可能エネルギー資産の成長を促進 するだけでなく、同時にネットゼロカーボン規 則や報告義務の発効に伴って、市場やセクター 全体を通じて建物の運用に重大かつ差別化さ れた変化をもたらすことになる。
運用モデルの詳細な理解
新興の資産タイプの多くは運用に高度な労力 と知識を必要とする。これは、学生寮やコリビ ングなどのリビングセクターでは賃貸契約期間 が短くテナントの回転率が高いことや、ウェット ラボやデータセンターなどの建物では技術的 な機能が必要となることが理由である。
最適な投資機会と運用形態を確立するには、 必要な管理スキル、陳腐化リスク、設備投資 要件など、セクターごとのさまざまな運営モデ ルを詳細に理解することが不可欠である。
計画プロセスとインフラ提供の透明性
多くの新興セクターでは既存ストックが限定的 であり、テナントや投資家が成長市場を求めて 「殺到」することで事態をさらに悪化させてい る。企業はストックにアクセスするべく、フォワー ド・ファンディングや合弁事業、直接開発を行っ ているが、成長促進には計画とインフラ供給 が重要な役割を果たす。電力供給はデータセ ンター運営業者だけでなく製造施設にとっても 重要である。例えばバージニア北部やシンガ ポール、アイルランドなどのデータセンターハ ブでの消費電力急増への対応に苦慮している ことは、インフラ計画に関する政府の透明度の 重要性と事業者の再生可能エネルギー供給へ
の関心を高めており、ソルトレイクシティ、ミラノ、 メルボルンなどエネルギー制約の少ない二次 市場で急速な容量拡大につながっている。
新興セクターへの関心の高 まりから透明度向上が求め られる
2024年版グローバル不動産透明度インデックス
デット市場への注目 過去数十年来で最も急激な利上げサイクルを背景 に、満期を迎える債務の借り換えに際して、より多 くの投資家がクレジット戦略を多様化することで、 多くの市場で不動産債務や資金調達に関する透明 度が欠如していることが浮き彫りになった。
2024年から2025年にかけて世界で3.1兆米ドルの不 動産資産が満期を迎える負債を抱えており、このう ち2.1兆米ドルの負債が借り換えを必要になるとJLL は予想している。そのうち約30%は、2024年上半 期中に借り換えが完了している。
世界の満期予定債務の割合
出所:JLL、LaSalle
商業用不動産融資では従来、多くの市場で厳格な 報告義務を持つ規制対象となる銀行が独占しており、 中央銀行はクレジットフローの主な情報源であった。
しかし、高金利環境がクレジット戦略の相対的な魅 力を高める中で、デットファンド、年金、保険会社 など新たな資金提供者が、従来の金融機関を補完 することで貸し手の幅が広がっている。例えば投資 家は2020年以降、411のクローズドエンド型デットファ ンドを通じて1,290億米ドルを調達している。
この多様化によって、規制や需要によって銀行の融 資が制限される場合でも、プライベートクレジット が介入できるため、よりバランスの取れた市場が形 成されている。同時に、メザニンファイナンス、レス キューキャピタル、その他の仕組みを通じて資本構 成やリスク許容範囲の選択肢を提供している。
ただし、ノンバンクは報告義務が限定的なため、多 くの市場では債務残高の総額、新規発行・融資金 利の推移、信用戦略の相対的なパフォーマンスが不
透明なことを規制当局は懸念している。米国は世界 の不動産融資残高の約77%を占めており、成熟し た不動産融資市場、政府機関の関与、上場CMBS 市場、融資市場をカバーするデータプロバイダーによっ て、最も豊富な情報を有している。しかし、他の市 場ではデット市場のパフォーマンスの透明度が低く、
運用規制もより複雑である。例えば欧州では、国に よって業務手続きが異なるため、貸し手は国ごとの 融資リスクの調査に多大な時間を費やさなければな らず、結果として最も大きな市場に集中することになっ ている。
不動産業界では最近、市況の透明度を向上さ せるための多くの取り組みが行われている。例 えばNCREIFや商業用不動産ファイナンス協議会 (CREFC)は、米国でオープンエンド型デットファン ドのパフォーマンスを追跡する試験的なインデックス を開始し、MSCIは欧州で初のプライベートデットファ ンド・インデックスを発表、フランスやドイツを含む
2024年から2025年にかけて 2.1兆米ドルを超える不動産 債務が借り換えを要する 2024年版グローバル不動産透明度インデックス
いくつかの国で、融資市場や融資条件についてのデー タ収集が開始または拡張されている。それでも満 期時の資本価値の変化次第で、世界的な借り換え ギャップは2025年までに2,700億~5,700億米ドルと 予想されており、満期を迎える債務が増え、市場や セクターごとに条件交渉が多様化する中で、世界の 金融当局、貸し手、投資家にとって不動産デット市 場の透明性はますます注目が高まるだろう。
2024年版グローバル不動産透明度インデックス
商業用不動産デット市場の入手可能なデータ
市場シェア
商業用不動産デット
延滞率とデフォルト率
平均的融資マージン
出所:JLL、LaSalle
満期と組成
最大および典型的LTV
時系列データ公開 一部データ入手可能 データは限定的/不在
2024年版グローバル不動産透明度インデックス
デジタル化とAIによる 透明度の充実化と新たなリスク 引き続きテクノロジーは各市場の透明度向上におい て先導的な役割を担っている。多くの国で記録管理 はオンラインに移行し、情報収集と公開用に統合デ ジタルプラットフォームが作成され、より先進的な デジタル技術的アーキテクチャが使用されることで、 デジタル行政サービスは拡大している。「デジタル・ インディア」政策は大きな進展が見られた注目すべ き事例であり、ドバイやサウジアラビア、ギリシャ、
ドイツの政府も土地情報や都市計画システムへのア クセスを改善させている。シンガポールはとりわけ 積極的に、「不動産業界変革マップ」を使用して、ワ ンストップの開発業者ポータル導入、承認プロセス への「建物情報モデル(BIM)」の統合、モデリング やシミュレーションを活用した都市計画や設計の改 善など、テクノロジーの活用やスキルに注目した様々 なプログラムを実施している。
2024年テクノロジーツールの普及 出所:JLL、LaSalle
普及が進んでいる 普及が進んでいない
2022年の調査以降でテクノロジーにおける最も顕 著な変化は、生成AIの急速な進歩である。従来の AIモデルや機械学習のアルゴリズムとは異なり、生 成AIは非構造化データを処理して文章、画像、音声、 動画を生成することができる。これは、投資モデル に異なるデータを統合することを容易にする。また、 例えばコードによるデータのクエリやレポートでは なくチャットや質問で行うなど、新たな手法でインタ ラクティブにデータを扱うことが可能となる。不動 産業界におけるAIの普及はまだ早期的段階にある が、生成AIと伝統的AIの利用は急速に拡大しており、 不動産のライフサイクルのあらゆる側面に影響して いる。現在、500社超の企業が不動産に特化したAI サービスを提供しており、他の多くの企業も既存の 基盤モデルやAIツールの調整を行って自社データに 組み込んでいる。
AIの利用は既に様々な目的や用途で市場で採用さ れ、透明度を向上させている。早期段階では、例 えば、リース管理、デューデリジェンス、分析など のための賃貸借契約や融資書類といった書面やデー タの翻訳や要約が含まれる。より高度な段階では、 AIツールは例えばサステナビリティ情報の開示のた めのデータ照合や構築、開示書類の作成といったワー クフローの自動化や報告に使用されている。また、 可視化やBIMモデルにも使用され、デベロッパーの 脱炭素化要件に即した設計・エンジニアリングに役 立っている。各国政府もAI利用戦略の策定を進め ており、企業の開発計画の手続きを支援し、土地 登記システムの迅速化、地理空間分析やインフラの 性能モニタリングが実施されている。
早い段階からAIの利用を促進してきた機関や企業は、 市場分析や建物性能の限界が拡大するのを目の当 たりにしており、とりわけ高度な分析手法を用いた 非構造化データの分類・分析による予想や推奨の 作成において顕著である。これには、レンダーによ るローンのモニタリングの合理化、テナントの物件 選定や投資家の投資基準と合致する立地特定のた めの自動評価モデル(AVM)、クラスタリング、レコ メンドエンジンの使用が含まれる。例えばJLLのAI プラットフォームは、世界各地の投資市場における 投資機会5件中1件の特定に関与している。こうし た使用例ではまだ人間による監視が必要であるが、 昨年1年間を通じた急速な価格調整や不確実性の高 まりは、AIのトレーニングには正確性の高いデータ と人間の判断を組み合わせることで市場の動向や機 会について予兆を発見するといった価値を提供して いる。AIは、競争が最も激しい透明度の高い市場 において、投資家にスピードと敏捷性について多く の競争優位性をもたらし、透明度が相対的に低い 市場では、市場の情報量の増大や流動性の向上に 役立つ。
2024年版グローバル不動産透明度インデックス
AIの利用は急速に拡大 市場分析と投資の 意思決定
予測分析、市場動向分析、リード 生成、リスク評価
取得と資金調達
デューデリジェンスの合理化、文書 分析の自動化、資本マッチング、資 金調達手段の最適化、買い手の特定
開発と建設
プロジェクト管理、設計、サプラ イチェーンと資源配分の最適化、
コンプライアンス、ワークフローの 自動化
動的価格決定、賃料予測、サービス 要求自動化、テナントエクスペリエ ンス、カスタマイズされたコミュニケー ション リーシングとテナント管理
販売期間の最適化、売却準備の 調整、買い手と市場のプロファイ ル分析とカスタマイズ 売却
資産運用
パフォーマンス監視、市場ポジショニ ング、可視性と報告、リスクのモニ タリング、債務管理/ヘッジ
出所:JLL、LaSalle
稼働最適化、カスタマイズされた環 境管理、健康とウェルビーイング ワークプレイスエクスペリエンス エネルギー消費量の最適化と管理、 メンテナンス予測、効率的運営 運営とメンテナンス
AIは業界全体の生産性と透明度を高める大きな可 能性を秘めているが、多くの企業はその導入や利用 の拡大に苦慮している。特に生成AIモデルから最 大限の価値を引き出すには、モデルにインプットで きる標準化されたデータを取得するための適切な構 造とガバナンス構築に相当な労力と投資が必要とさ れるが、ほとんどの企業や政府がまだ実現できてい ない。また、データやプライバシーのリスクに対す る認識が高まる一方で、AIモデル自体の透明性に ついても疑問が投げかけられている。
AIモデルの開発、機能、利用についての規制は、 2024年に重要な段階を迎え、世界各国で導入され たことでさらなる法務およびコンプライアンス上の懸 念が生じている。2023年10月末に世界初のAI法と
なる、AIに関する米国大統領令に続き、EU AI法が 承認され、中国、カナダ、オーストラリアを含む国々 が独自の立法を進めている。包括的なAI規制に加 えて、特定の不動産ツールや使用を対象とした新た な規制も制定されつつある。例えば、米国とEUで はAVMや評価基準に関する規制が導入されており、 国際評価基準審議会(IVSC)は新しいAVM基準をリ リースする予定である。
これらの開発により、モデルのトレーニングや機能 の透明度の改善が約束されているものの、AIユー ザーは導入するソリューションを注意深く見なけれ ばならない。企業や政府がリスクを回避し、AI機能 を発展させ、生産性と透明度を高める利点を実現 させるためには、以下のような手順が重要となる。
AIが具体的な付加価値を与える領域の特定 効果的なAI戦略を策定する基盤となるのは、 自動化や意思決定の強化を通じてAI機能がど こに付加価値をもたらすかを判断し、より広範 な事業目的に沿って優先順位を付けることであ
る。社内ツールなど、リスクの低い分野から使 用を始め、他のワークフローや事業モデルをど のように再構成できるか評価するべきである。
AIモデルの開発と使用に関する規制は進化し 続けている。現時点ではほとんどの義務が、 ユーザーではなくAI開発者にあるが、社内ツー ルだけでなく外部ベンダーによる法令遵守の 確保も重要となる。これを怠ると、賠償責任、 さらには刑事罰が科せられる可能性があり、 価格最適化アルゴリズムなどの一部のAIの使 用が価格操作関連の規制や公正住宅法、独 占禁止法などの不動産業界の規制に違反する
急速に変化する規制環境を監視し、リスク管理を組み込む より有意義な結果を得るには、自社固有の独 自データや個別の使用法によるAIモデルのト レーニングが必要となる。そのためにはデータ を利用可能なフォーマットに照合、構築し、適 切な技術インフラを利用する必要がある。現在、 不動産情報の多くがPDF文書などのアナログ 形式、スプレッドシートやサイロ化したアプリ ケーションで保管されており、アクセス可能な
可能性がある。データのセキュリティとプライ バシーの確保も、特に独自のデータを使用す る場合は不可欠であり、確実なデータガバナ ンスの枠組み構築、新しいツールをテストする ために「サンドボックス」環境を採用すること、 責任ある利用に関する方針や研修プログラム の導入などの措置でリスク軽減が可能である。
独自データと技術アーキテクチャに投資する 情報もサービスプロバイダーやプログラム間で 互換性がない場合がある。適切なデータ管理 システムの開発には時間がかかるが、例えば OSCRE業界データモデルといった共通のデー タ形式の指定は進んでおり、これを達成できる 組織はAIのあらゆる能力を活用できる有利な 立場になるだろう。
サステナビリティ関連の報告および リスク要件が重要な段階に達する中、透明度は向上
2022年以降、最も向上した透明度サブインデックス はサステナビリティに関する要素であり、上位の市 場はより実績値を用いた性能基準や、排出量の把握、 気候変動リスクの開示へとシフトし、さらに脱炭素 化を超えて自然を活用した解決策や生物多様性を 含むよう基準の対象を拡大している。
フランス、日本、米国の主要市場では、例えばニュー ヨークで既存および新築ビルに対するエネルギー性 能要件の導入、個別ビルのエネルギー消費量報告や、 生物多様性の保全と再生を義務付けてサステナビリ ティ透明度の上位3か国を占めている。これに英国、 オーストラリア、カナダ、オランダ、ニュージーランド、 デンマーク、スウェーデンが続き、サステナビリティ 透明度の上位10位を構成している。
米国、EU、英国、中国、日本、韓国、カナダ、オー ストラリアを含む主要国で企業に排出量や気候変動 リスクなどについての開示要件が規定または厳格 化される中、今後2年間でサステナビリティ透明度 はさらなる向上が予想される。こうした措置により、 ESG報告書の開示義務を負う企業の数は大幅に増 加するだろう。例えば、EUの企業サステナビリティ 報告指令(CSRD)は、これまで非財務情報開示指 令(NFRD)の域内の適用対象が11,000社であった のに対して、域内の約50,000社に拡大し、EU域外 を拠点とするが域内で相当な事業を営む企業にも 報告義務が課される。
また、建築物の排出量削減を直接義務付ける政策 も増加している。例を挙げると、米国の40以上の都 市が、2026年以前に建物のエネルギー消費量また
は排出量の削減を求める建築物性能基準(BPS)の 適用を予定している。EUも、建物の排出量とエネ ルギー消費量を削減する最低エネルギー性能基準 を策定中であり、東京のキャップ&トレード制度は 省エネ対策またはクレジット取得による建物の排出 量削減を義務付けている。
こうした着実な改善にもかかわらず、サステナビリ ティ関連指標は依然として改善の余地が大きく、今 回の調査でも平均スコアが最も低い。建物の性能 基準の遵守義務や、個別不動産のエネルギー消費 量実績の公開、生物多様性に関する要件、レジリ エンス改善計画は、いずれも透明度が最も高い市 場以外では限定的である。環境不動産の需要は供 給を大きく上回っているものの、例えば2030年まで に世界の主要市場における低炭素オフィススペース への需要はわずか30%しか満たされない見通しであ り、JLLではカーボンニュートラルの達成には既存 ビルの脱炭素改修の割合が現在の3倍に増加する必 要があると予想している。不動産業界が2030年の
目標達成に軌道を乗せるにはサステナビリティ透明 度向上の加速が必要であり、より持続可能な不動 産に向けた長期的な道筋を最も明確に示せる市場 が、企業や投資家、市民に最も魅力的な環境を提 供する。サステナビリティに関する要素がテナントや 投資家の意思決定に組み込まれ、立地や投資に関 する意思決定を牽引する要素となる中で、出遅れた 市場は競争力を維持するためにはより高度な基準 の採用を加速させなければならない。
パリは世界で最も不動産サス テナビリティについて透明度 が高い都市である。
2024年版グローバル不動産透明度インデックス
今後2年間で、サステナビリティ透明度の向上が期待され、かつ企業、投資家、政府による実行を 必要とする3つの重点分野。
ESG報告の義務 世界の主要国でESG情報の開示が義務付けさ れるにつれて、企業はますます複雑で詳細な 報告制度や指標に対応しなければならなくなる。
多くの大企業は既に何らかのサステナビリティ 情報の開示を行っているが、今や企業は事業 を営む全地域における義務を調査し、長期計 画を策定して独自に設定した計測手法を確立 し、例えばバリューチェーンのスコープ3排出 量の算定のような、より厳格な非財務指標の 推移を継続的に把握しなければならない。よ り大きな調和に向けて進展の兆しは見られおり、 気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)
の枠組みに基づいて発足した国際サステナビリ ティ基準審議会(ISSB)の基準と一致するESG 報告書の策定計画している国は多い。しかし、
代表的な報告基準の間にも対象範囲、指標、 目標に相違があることを念頭に置く必要がある。
企業は行動計画を策定し、現行の報告基準の 違いを特定するとともに、重要性を評価し、サ ステナビリティ目標を定め、排出量計測、認証、 改善する措置を講じる必要がある。
物件情報の開示や現行の性能基準への注目が高まる
各国政府が段階的に建築物のライフサイクル カーボンの算定や現行のネットゼロエネルギー ビル(NZB)要件適合へと移行する中で、個 別不動産の実際の排出量の計測が優先事項と なっている。米国は2024年6月にゼロエミッショ ンビルの定義を発表し、また英国、フランス、 スウェーデンを含む国が独自のNZB基準の確 定を進めている。これらの定義は、ゼロエミッ ションビルについてより一貫した計測可能な基 準を提供し、統一的な枠組みを求める業界の 声に応えるものである。NZBの性能の定義が 明確化され、取得可能なデータが増えることで、 テナントは特定のビルが脱炭素化に向けてど
のような位置付けにあるかをより良く理解でき るようになり、こうした要素を物件選択の意思 決定に組み込むことが可能になる。性能に関 するデータや基準の透明度と互換性は依然と して一貫性を欠いており、対応が求められる 急務の課題となっている。ビルのオーナーやデ ベロッパーは、保有物件やポートフォリオにつ いて、NZCに向けた取り組みに沿った脱炭素 化戦略を策定し、排出量の計測と管理のため の技術に投資し、テナントや政府に面積あたり の排出量を報告または提供する準備を進める 必要がある。
2024年版グローバル不動産透明度インデックス
レジリエンスと適応を実現する 異常気象による自然災害の頻度と深刻度が高 まる中で、都市や建築物の気候変動に対する レジリエンス確保の重要性が増している。都 市計画における生物多様性基準の引き上げ や、自然に根ざした解決策への注目が高まっ ていることは、気候変動の影響の軽減に役立 つが、気候変動リスクを取り込んだ詳細な都 市計画や、温度、雨量、洪水について予想さ れる変化を考慮した建築基準は世界的にも限 定されている。このため、投資家やテナントに、
物理的リスクと移行リスクに対するエクスポー ジャーを検証し、気候変動リスクのデータや現 地の防災・減災のインフラ整備を立地に関す る意思決定に含め、気温の上昇や風害、水害 のリスクがビル運営に与える影響を反映した物 件レベルのレジリエンス計画を策定する努力が 求められる。
2024年版グローバル不動産透明度インデックス
マネーロンダリングや受益所有権に関する 規制の重要度
金融制裁措置の継続と金融活動作業部会(FATF) の改訂版ガイドラインにより、マネーロンダリング防 止(AML)と受益所有権(BO)規制の改善が進んで いる。インド、インドネシア、アラブ首長国連邦な ど多くの国は過去数年でAMLまたはBO規則を変更 しており、米国でも2024年に新たな受益所有権報 告規制が施行されている。米国では不動産業者に 対するAML規則の厳格化が提案されており、シンガ ポール、スイス、カナダ、オーストラリアでも進展 がみられる。EUでは第6次マネーロンダリング対策 指令で新たなAML当局が設立され、EU議会は域 内で不動産を所有する全ての外国法人のBO登記簿 作成を計画している。
こうした進展にもかかわらず、既存の規制では実際 の運用と定義に一貫性がないことが多く、信託や ペーパーカンパニーを通じて比較的容易に迂回でき るため、依然として有効性が問われている。EUで は、BO登録簿の公開を無効にする欧州連合司法裁 判所(CJEU)の判決によって域内の対応がばらつい ており、多くの国の当局は提出された情報の検証が 困難になっている。英国は、不動産を所有する国内 企業、信託、海外法人の登録簿が公開されており、 受益所有権について世界で最も開かれた市場だが、 直近でもこれまで収集された情報の追跡や確認する 能力を向上させる措置が導入された。
最も緊密に連携している市場間でもアプローチに大 きな差があり、透明度に大きな格差がある。透明度 「中低」と「低」の市場では改善が限られており、 地政学的な緊張やリスク対応が優先されることで、 投資家や企業は安定した規制制度を備え、風評や 金融リスクの低い市場に向かうだろう。
既存の政策と適用の有効性に ついては疑問が残る
2024年版グローバル不動産透明度インデックス
グループ別の公開された受益所有権登録簿の有無 出所:JLL、LaSalle
限定的アクセス 入手不能
2024年版グローバル不動産透明度インデックス
透明度に関する 過去と将来の考察 ジャック・ゴードン マサチューセッツ工科大学不動産センター エグゼクティブ・イン・レジデンス
不動産透明度インデックスは、世界中の不動産慣 行の多様性を実証するツールとして1999年に発表さ れました。このスコアリングシステムは、クロスボー ダー投資家が情報の流れ、投資や賃貸借のプロセス、 規制制度の違いに備える手段を提供するよう設計さ れています。透明度スコアの低い国でクライアント が事業活動を妨げるのが目的ではなく、現地のアド バイザーを通じて現地の知識や経験を得ることで透 明度リスクを管理することの重要性を強調しています。
このアプローチは、JLLが新興市場、特に国境を超 えた投資家やテナントにとって最も関心のある市場 に国際慣行を導入する動機にもなりました。
25年を経て、この素朴なアプローチがいかにうまく 機能したかが分かります。十数カ国が透明度「高」 の市場に達し、他の多くの国が透明度「低」から「中 低」や「中」へと移行しています。これは、透明度 の格付けを達成する要件が、現在はるかに厳格になっ ていることを考えると非常に優れた結果といえるで しょう。エネルギー消費の報告、サステナビリティ要 素、特殊な不動産アセット、テクノロジーの役割に 関する新たな項目が追加されています。このため、 2024年に透明度「高」、「中高」、「中」のスコアを
達成することは、1999年よりもはるかに困難となっ ています。
透明度の向上には、おそらくこのインデックス自体 も貢献しているでしょう。長年にわたって、多くの政 府機関がグローバルランキングを向上させる方法を 模索するために、JLLのグローバルリサーチ・チー ムと協議してきました。より重要なのは、新たな都 市や国へ進出する前に、基本的な市場情報と不動 産権利の明確な理解を必要とするグローバルテナン トや投資家が急速に拡大することで一貫性ある国際 慣行が普及されたことです。
2024年には、人工知能(AI)や機械学習(ML)、デー タ分析などを使用したオンラインツールを通じて、 国境を超えた不動産について蓄積された知識に容 易にアクセスできるようになりました。賃貸借契約 やその他契約書の翻訳は現在日常的に行われてい ます。道路や建物のデジタルマッピングも、都市部 ではごく一般的になっています。さらに多くの土地登 記制度がデジタル化されています。つまり、ハードデー タとソフトデータへのアクセスがはるかに容易になり、 毎年新たな不動産情報がオンラインになっています。
新たな課題は、このすべてのデータをどのように処 理して理解するか、つまり信頼できるかどうかです。
何か欠けている点があるか?場合によっては、リア ルタイムのメタデータのノイズによって変化の根本的 な要因を見失うこともあるでしょう。データの収集 や発信にどのようなバイアスがかかっているか? 新規参入者が特定の国の法律や紛争解決制度の違 いをどのように評価すればよいか?エネルギー消費 量や二酸化炭素排出量のデータは収集され報告さ れているか、規制当局はこの情報をどのように使用 しているか?さまざまな規制制度において「移行リ スク」はどのように評価されているか?こうした疑問 はいかに透明度が高く、ボラティリティが明らかになっ たとしても、それを排除するものではないことを示 しています。
透明度インデックス発表から25年を経て、不動産業 界はデータ不足から大量データへと移行してきました。
しかし、こうした情報すべてが物件価格や賃料水準 の大きな変動を防ぐことはできませんでした。周期 的および長期的トレンドが、特殊なセクターへの需 要を高める一方、従来の不動産が適切であり続け ることが困難になっています。
要約すると、透明度インデックスのスコアやランキン グは、直接的な経験や取引、現場の観察を通じて 市場を学ぶことに代わるものではありません。しかし、 さまざまな国や都市に初めて参入する際に、何を期 待すべきかについて素晴らしい出発点となるでしょう。 2020年版で述べたことは今でも真実です。「投資家 やテナントは日常的に国境を越えていますが、世界 各地の不動産慣習は依然として多様です。透明度イ ンデックスはこの多様性を明確にし、実務家がそれ に備えることに役立ちます。」
不動産教育における
透明度インデックスの価値向上
“ 大学院プログラムでの不動産教育は、少し意 外ではあるものの、2年ごとに発行される透明 度インデックスの重要なユーザーグループになっ ている。世界中で不動産修士課程が急速に増 加したことは、過去25年間のインデックス発 表と重なっている。不動産教育は様々な面で 多国籍化し、1990年代と比較すると、学生や 講師の出身国が多様化している。優れた不動 産の教科書には「国際的」項目に特化した章 が含まれ、不動産透明度インデックスはさま ざまな国の不動産市場がどのように運営され ているかを迅速に評価するためのツールとし て頻繁に引用されている。
オーストラリア、カナダ、フランス、ドイツ、日本、 香港、オランダ、シンガポール、英国、米国では、 不動産学部の教授が透明度インデックスを必読 資料に指定することもよくある。透明度スコアは、 リスク分析や資本市場の資産価格設定モデルで
の「加重平均資本コスト(WACC)」手法の学習 と関連付けることができる。このインデックスは 見知らぬ国の不動産の評価や収益計算を行う ために必要な全ての知識を学生に教えてくれる ものではないが、投資家やテナントが賃貸、所有、 投資の意思決定を行う前に何を理解しておく必 要があるのか役立っている。
1999年以降、複数の国で事業を営む企業の 数は大幅に増加した。投資責任者、企業テ ナント、小売業者、サプライチェーン管理者、 法律/金融サービス会社、建設会社は現在、 特定の国や都市の「現状」を把握するために このインデックスを活用している。このため、 学生もインデックスを使用して、多くの雇用主 が採用決定で求めるクロスボーダースキルを 身に付けることが可能となる。
2024年版グローバル不動産透明度インデックス
透明度のグラフ 2024年、透明度サブインデックス別上位20市場 パフォーマンス測定 市場ファンダメンタルズ
出所:JLL、LaSalle
出所:JLL、LaSalle
取引プロセス
サステナビリティ 出所:JLL、LaSalle
2024年版グローバル不動産透明度インデックス
2024年度トピック別平均スコア
1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 4.5
5.0 土地収用 テナントサービス 売買取引 土地・建物登記不動産鑑定評価 財務情報開示不動産ローン規制コーポレートガバナンス
上場不動産指標 市場ファンダメンタルズ現物不動産インデックスのデータ サステナビリティ 非上場 ファンドインデックス
出所:JLL、LaSalle
2024年度要素別スコア分布
透明度スコア(改善幅)
1.0 1.5
土地収用 テナントサービス 売買取引 土地・建物登記不動産鑑定評価 財務情報開示不動産ローン規制コーポレートガバナンス 上場不動産指標 市場ファンダメンタルズ現物不動産インデックスのデータ サステナビリティ 非上場
出所:JLL、LaSalle
2024年度サブリージョン別スコア分布
透明度スコア(改善幅)
出所:JLL、LaSalle
2024年版グローバル不動産透明度インデックス
テクニカルノート 不動産透明度インデックス JLLグローバル不動産透明度インデックスは、世界 89の国と地域、151都市にわたる定量的な市場デー タとJLLとにラサール インベストメント マネージメン トが有するグローバルネットワークを活用して収集し た情報に基づいています。各市場について、定量的 データとアンケート調査を含む256要素を用いて総 合スコアが算出されている。アンケート調査と定量 的手法は、相互補完的な関係にある。例えば、あ る国の現物不動産インデックスの市場カバレッジと 調査対象期間の長さを知ることは、目的の半分に 過ぎない。全容を理解するためには、投資家がそ の指標を実際に信頼して使用しているか否かについ
ての定性的データも収集している。現地のリサーチ 部門が、各市場のビジネスリーダーや不動産専門
家と協議の上で調査を完成させている。当インデッ クスの背景となる要素をまとめた表を、テクニカルノー トの末尾に掲載した。
2024年版インデックスでは、一般的な質問をより具 体的で細かな項目に分け、新しい要素を加えている。 例えば、サステナビリティの調査対象項目を改め、 建物のエネルギー消費量の報告とベンチマーク、仕 様規定型建築基準、エネルギー性能基準、気候変 動リスク報告に関する新たな質問を追加した。こう した変更により、市場ごとの違いを深掘りし、総合 スコアの特定要素への依存度を低下させて測定エ ラーを減少させることが可能となった。
2024年版グローバル不動産透明度インデックス
定量的要素 256項目のうち53項目が、全体の27%を占める定量 的要素である。これらの定量的要素は主に2012年 にインデックスに追加されたもので、ファンダメンタ ルズに関するデータ(空室率等)が入手可能な年数、 不動産リターンインデックスの市場カバレッジ、上場 不動産証券市場における浮動株比率等が含まれる。
定量的要素は「1.00」を非常に高い透明度とする「1」 から「5」までの範囲で評価される。不動産リターン インデックスの市場カバレッジ等のパフォーマンス測 定指標のデータについては、2012年の90%値を最 高スコアである「1」としている。市場が透明度「高」 に分類されるための必要スコアは2012年の水準に 固定しており、各市場が時間の経過と共により高い 区分へ移動することが可能となっている。オフィス 空室率に関する時系列的データの期間等、市場ファ ンダメンタルズのデータについては、最高スコアで ある「1」を、JLLが「ゴールドスタンダード」とみ なす30年以上の期間としている。
JLLとラサールのリサーチ担当者は、オフィス、リテー ル、インダストリアル、住宅、ホテルの5種類の不 動産セクターにおける市場ファンダメンタルズの入 手可能な時系列的データについて情報を収集した。
JLLが作成したものに限らず、入手可能な時系列デー タは全て含まれている。市場ファンダメンタルズのデー タは、各国で最もスコアが高い都市の状況に基づ いている。
不動産レベルのリターンインデックスに関するデー タは、MSCI、NCREIF、及びその他の業界団体か ら入手している。上場不動産に関するデータは、 European Public Real Estate Association(EPRA)、 Bloomberg、NAREIT及びラサール インベストメ ント マネジメント証券部門から入手している。ファ ンドのインデックスに関するデータは、INREV、 NCREIF、MSCI、ANREVから入手した。
定性的調査要素
残る203項目は定性的な質問調査によるもので、世 界各国のJLLとラサールのチームが採点した。それ ぞれ現地リサーチ担当者には「1」を透明度「高」、 「5」を透明度「低」とする5つの詳細で注釈のつい た項目が与えられ、自国市場がどの選択肢に該当 するかを現地の専門家が採点した。回答者は、会計、 ファイナンス、アセットマネジメント、法律に関する 質問の回答を、各分野における現地JLLの専門家 と協議した。
地域内のスコアは、各地域で検証され、その後グロー バルの調査担当者によって客観性と正確性が担保さ れている。グローバルと各地域の検証者は各国チー ムの回答について質問し、前回調査からのスコア変 更の正当な理由についての説明を求めた。検証プ ロセス、より詳細な回答の選択肢、より具体化され た質問により、採点時における主観的な先入観が 排除され、全ての関係者が公正な回答を行うよう配 慮した。
透明度インデックスの作成 透明度に関する異なる256要素は14のトピックスにまと められ、本テクニカルノートの末尾の表に掲載している。
これらのトピックスをグループ化し、ウェイト付けして大 きく6つのサブインデックスに分類した。
• パフォーマンス測定 ‒ 25%
• 市場ファンダメンタルズ ‒ 16.5%
• 上場法人のガバナンス ‒ 10%
不動産透明度インデックスは、1から5の範囲で採点 されている。スコアが満点の1.00の国・市場は、透 明な不動産市場であり、スコアが5.00の国・市場は、 不透明な不動産市場である。そして各市場は、次 の5段階の透明度に分類される。この5段階の分類 は、Jenksの自然分類法に基づき決定されている。 2012年のスコアによって段階が決定されており、各
• 規制と法制度 ‒ 23.5%
• 取引プロセス ‒ 15%
• サステナビリティ ‒ 10%
市場は相対的に順位が変化しない場合であっても前 回からの透明度の変化に応じて各段階の間を移動 できるようになっている。このアルゴリズムはグルー プ内の分散を最小化し、グループ間の差を最大化す ることを可能にしている。この手法を用いて10のグ ループを作成し、これらを以下の必要スコアを用い た5つの段階にまとめている。
段階1:透明度「高」
段階2:透明度「中高」
段階3:透明度「中」
段階4:透明度「中低」
段階5:透明度「低」
総合スコア:1.00–1.96
総合スコア:1.97–2.65
総合スコア:2.66–3.50
総合スコア:3.51–4.16
総合スコア:4.17–5.00
不動産透明度インデックス時系列 2024年はJLLのグローバル不動産透明度インデック ス第13版となる。1999年の調査開始以来、透明度 インデックスは日々変化する海外投資家や法人テナ ントの要望を反映するべく進化し、改良を続けている。
後から追加された要素については、適用可能な場 合には過去データを含めている。過去データが入手
不能な場合には、要素が追加された年のデータを加 えることで当該要素の追加が過去のスコアを変動さ せることのないようにしている。インデックスに追加 された質問の概要は、以下の通りとなっている。
サブインデックス 14のトピックス 要素数(合計256)
現物不動産 インデックス
上場不動産証券指標
非上場
不動産ファンド指標
パフォーマンス 測定
不動産鑑定評価
現物不動産インデックスの有無 インデックスの信頼度とベンチマークとしての普及度 インデックスの種類(鑑定vs取引価格) 国レベルの現物不動産リターンインデックスの時系列の長さ 国レベルの不動産投資市場の規模 現物不動産インデックスの市場カバレッジ 都市レベルの現物不動産リターンインデックスの時系列の長さ 都市レベルの非上場不動産インデックス公表頻度 都市レベルの不動産投資市場の規模 主な上場不動産証券(長期不動産保有、建設業者やコングロマリット等) 不動産市場における上場不動産証券データの普及度 不動産会社が初めて上場してからの年数 上場不動産会社の時価総額のGDP に対する比率 国内上場不動産インデックスの有無とベンチマークとしての普及度 海外上場不動産インデックスの有無とベンチマークとしての普及度 上場不動産インデックスの時系列の長さ 国内ファンドインデックスの有無とベンチマークとしての普及度 海外ファンドインデックスの有無とベンチマークとしての普及度 非上場ファンドインデックスの時系列の長さ 投資戦略別の非上場ファンドインデックスの有無(コアとハイリターン等) 第三者鑑定人の独立性と質 市場性に基づいた鑑定評価 鑑定評価サービスを巡る市場競争 鑑定評価プロセスへのESGリスクの組込み 第三者による不動産鑑定の頻度 入手可能な不動産鑑定の前提条件
サブインデックス 14のトピックス
要素数(合計256)
市場ファンダ メンタルズ
市場ファンダメンタル ズのデータ
不動産賃料の時系列(オフィス、リテール、インダストリアル、住宅、ホテル) 実質賃料の時系列(オフィス、リテール、インダストリアル、住宅、ホテル) 稼働率/需要の時系列(オフィス、リテール、インダストリアル、住宅、ホテル) 空室率の時系列(オフィス、リテール、インダストリアル、住宅、ホテル) 利回/ キャップレートの時系列(オフィス、リテール、インダストリアル、住宅、ホテル) キャピタルバリュー(価格)の時系列(オフィス、リテール、インダストリアル、住宅、ホテル) 投資総額の時系列(オフィス、リテール、インダストリアル、住宅、ホテル) ホテル1 室当たり収益(RevPar)の時系列 時系列データプロバイダーの充実度(オフィス、リテール、インダストリアル、住宅、ホテル) 時系列データの更新頻度(オフィス、リテール、インダストリアル、住宅、ホテル) オフィス回帰率/ 実際の使用率のデータの有無 個別物件の総合データベースの有無(オフィス、リテール、インダストリアル、住宅、ホテル) 賃貸事例の総合データベースの有無(オフィス、リテール、インダストリアル、住宅、ホテル) 売買事例の総合データベースの有無(オフィス、リテール、インダストリアル、住宅、ホテル) 賃貸条件の総合データベースの有無(オフィス、リテール、インダストリアル、住宅、ホテル) 総合データベースの個別物件カバレッジ(オフィス、リテール、インダストリアル、住宅、ホテル)
総合データベースの賃貸事例カバレッジ(オフィス、リテール、インダストリアル、住宅、ホテル) 総合データベースの売買事例カバレッジ(オフィス、リテール、インダストリアル、住宅、ホテル)
総合データベースの賃貸条件カバレッジ(オフィス、リテール、インダストリアル、住宅、ホテル)
新興セクターの投資市場(駐車場、高齢者向け住宅、セルフストレージ、メディカルビル、病院、ライフサイエンス、 データセンター、冷凍・冷蔵倉庫、教育施設、学生寮、コリビング、サービスアパートメント、戸建て賃貸住宅、年齢制 限付き住宅、撮影スタジオ)
新興セクターの不動産データベースの有無(駐車場、高齢者向け住宅、セルフストレージ、メディカルビル、病院、ラ イフサイエンス、データセンター、冷凍・冷蔵倉庫、教育施設、学生寮、コリビング、サービスアパートメント、戸建て賃 貸住宅、年齢制限付き住宅、撮影スタジオ)
財務情報開示
上場法人の ガバナンス
コーポレート ガバナンス
会計基準の厳格性 財務諸表の詳細度 財務諸表の頻度 上場法人の情報開示 英文財務諸表の有無 経営陣の報酬とインセンティブ
社外取締役や国際水準のコーポレート・ガバナンスの採用 利害の一致/株主の権利
上場不動産会社の株式市場における浮動株比率
2024年版グローバル不動産透明度インデックス
サブインデックス 14のトピックス
要素数(合計256)
規制と法制度
規制
土地・建物登記
国内投資家に適用される税法の一貫性 国内投資家への不動産税率の予測可能性 外国人投資家に適用される税法の一貫性 外国人投資家への不動産税率の予測可能性 土地利用規制やゾーニングの有無 土地利用規制やゾーニングの変更の予測可能性 土地利用規制やゾーニングの強制力 計画プロセスや要件の明確性 建築基準法や建物に関する安全基準の有無 建築基準法や建物に関する安全基準の強制力 契約法の主な規定の簡潔さ 法的手続きの効率性
国内投資家の契約執行力
外国人投資家の契約執行力 土地登記制度の有無 土地登記簿の取得容易性
土地登記情報の正確性
土地登記簿の所有権情報の完全性 取引価格に関する公開情報の完全性
抵当権、地役権等に関する公開情報の完全性 不動産受益権の記録の有無
受益所有権の記録の取得容易性 受益所有権開示法の適用
土地収用の際の通知期間
土地収用
不動産ローン規制
土地収用時の土地所有者への対価の公正性 土地収用に対する訴訟の有無 商業用不動産の債務残高の時系列の有無と長さ 不動産ローンの満期と組成の時系列の有無と長さ 商業用不動産ローンの延滞とデフォルト率の時系列の有無と長さ 商業用不動産ローンの融資比率のデータの有無 商業用不動産ローンの利益率のデータの有無 不動産の担保価値・キャッシュフローに関するレンダーの監視義務 レンダーによる鑑定評価の実施義務 義務違反の罰則
サブインデックス 14のトピックス
要素数(合計256)
売買の事前情報の量と質
入札プロセスの公正性
売買取引
入札プロセスの秘密性
取引プロセス
テナントサービス
不動産業者の職業・倫理基準の有無 不動産業者の職業・倫理基準の強制力 マネーロンダリング防止法の有無 マネーロンダリング防止法の執行 専門的な第三者ファシリティ及びプロジェクト管理会社の有無 テナントによるプロパティマネジメント(PM)会社の認識 テナントに対するPM 会社によるサービス内容の明確化 テナントとPM 会社の利害一致 共益費見直しの頻度
共益費内訳の正確性と詳細度 テナントによる不動産所有者への会計監査・異議申立の機会の有無 調達や入札手続きの品質と透明度 不動産測定基準の一貫性
サステナビリティ サステナビリティ
不動産の環境性能評価システムの有無 建築物のエネルギー性能データベースと報告義務の有無 建築物のエネルギー消費量ベンチマーク制度の有無と入手可能な情報 既存建築物の仕様規定型建築基準の有無 新築建築物の仕様規定型建築基準の有無 既存建築物の性能規定型建築基準の有無 新築建築物の性能規定型建築基準の有無 気候変動リスク報告要件
自然関連リスク報告要件
生物多様性および自然を活用した解決策についての建築基準の有無 建物の気候変動レジリエンスについての建築基準の有無 健康とウェルネス認証制度の有無とカバレッジ グリーンリース条項の有無と利用
2024年版グローバル不動産透明度インデックス
グローバル不動産透明度インデックス担当チーム
JLL日本 お問い合わせ先
⾚城 威志 リサーチ事業部
事業部長 takeshi.akagi@jll.com
大東 雄人 リサーチ事業部 シニアディレクター yuto.ohigashi@jll.com
岩永 直子 リサーチ事業部 シニアディレクター naoko.iwanaga@jll.com
グローバル
Matthew McAuley JLL ロンドン matthew.mcauley@jll.com
Jeremy Kelly JLL ロンドン jeremy.kelly@jll.com
Eduardo Gorab ラサール ロンドン eduardo.gorab@lasalle.com
Scott Homa JLL ワシントンDC scott.homa@jll.com
Mehtab Randhawa JLL ラレー mehtab.randhawa@jll.com
欧州
Grant Steppe JLL ロンドン grant.steppe@jll.com
アジア太平洋地域
Lee Fong JLL 香港 lee.fong@jll.com
中東・北アフリカ
Faraz Ahmed JLL ドバイ faraz.ahmed@jll.com
Zenah Al Saraeji JLL ドバイ zenah.alsaraeji@jll.com
Mieke Purnell JLL ヨハネスブルク mieke.purnell@jll.com
JLLとラサール インベストメント マネージメントの2024年版グローバル不動産透明度インデックス発刊にあたり、 ご協力いただいた下記企業および個人の皆様に謝意を表します。
• Abacus, Angola – www.abacusangola.com
• Akershus Eiendom AS, Norway – www.akershus-eiendom.no
• Athens Economics, Greece – www.athenseconomics.gr
• EDC, Denmark – www.edc.dk
• H&A Properties, Ivory Coast – www.ha-propeties.com
• Iris Property Consulting, Bulgaria – www.ipc.bg
• iO Partners, Czech Republic, Hungary, Romania, Slovakia – www.iopartners.com
• Moma Consulting, Croatia, Serbia, Slovenia – www.moma-consulting.com
• PwC, Malta – www.pwc.com/mt
• Value Solution Partners, Turkey – www.valuesolutionpartners.com
JLL 日本拠点 東京本社
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JLL(ニューヨーク証券取引所:JLL)は、不動産に関わるすべてのサービスを グローバルに提供する総合不動産サービス会社です。オフィス、リテール、イン ダストリアル、ホテル、レジデンシャルなど様々な不動産の賃貸借、売買、投 資、建設、管理などのサービスを提供しています。フォーチュン500®に選出さ れているJLLは、世界80ヵ国で展開、従業員約108,000名を擁し、2023年の売 上高は208億米ドルです。企業目標(Purpose)「Shape the future of real estate for a better world(不動産の未来を拓き、より良い世界へ)」のもと、お 客様、従業員、地域社会、そして世界を「明るい未来へ」導くことがJLLの使命 です。JLLは、ジョーンズ ラング ラサール インコーポレイテッドの企業呼称及 び登録商標です。jll.com
JLL Researchについて JLLのリサーチチームは、今日の商業用不動産力学を照らし出し、明日の課題 や機会を特定し、市場を率先するレポートやサービス、インテリジェンス、分 析、洞察を提供します。グローバルリサーチの550名超のプロフェッショナル は、60カ国を超える国々の経済及び不動産のトレンドを追跡調査分析し、将 来的な状況を予想して他社の追随を許さないグローバルな視点を提供しま す。当社の詞査と専門知識は世界各地のリアルタイム情報と革新的思考に支 えられており、お客様に競争上の優位性、成功する戦略、不動産に関する最適 な意思決定を提供し ます。
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