サステナブル不動産への道:エネルギー編

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サステナブル

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不動産への道:
エネルギー編

サステナブル不動産への道:エネルギー編

日本は2030年度にGHG(Greenhouse Gas:温室効果ガス) 排出量を2013年度から46%削減することを目指している。

すでに半ばに差し掛かっているのに、不動産関連の排出削減 量は目標の半分にも届いていない。不動産のCO2排出削減ひ いてはネットゼロカーボンを追求するには、建築物のエネル ギー効率の改善や化石燃料からの転換も重要な要素であるこ とから、本レポートでは建築物のエネルギー性能を評価する制 度や関連動向について概観する。

本レポートは既発行「サステナブル不動産への道:ビル認証編」 に続くJLL日本 サステナビリティレポート第2弾である。

• 不動産のCO2削減目標

1. BELS

• BELSの制度概要

• BELSの認証取得状況

2. ZEB

• ZEBの制度概要

• ZEBの認証取得状況

• オフィスビルのZEBの認証取得状況

3. エネルギー性能とビル認証制度

• LEEDにおけるエネルギー評価

• LEED v4 Energy Updateでエネルギー評価が厳格化

• CASBEE-建築におけるエネルギー評価

• CASBEE-不動産におけるエネルギー評価

おわりに

• ZEBからネットゼロカーボンへ

• グリーンリースで賃貸ビルの省エネ化を推進

• 日本が取り残されないために

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Contents エグゼクティブサマリー(要旨) はじめに 6
日本のCO2排出削減目標と遅れる実態
8
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建築物のエネルギー性能を評価する日本の制度

BELS

制度

概要

根拠

評価方法

出所:JLL

ランク

(Building-Housing Energy-efficiency Labeling System )

建築物全体の設計時の 省エネルギー性能を示す制度

非住宅建築物に係る 省エネルギー性能の表示のための 評価ガイドライン(通称:省エネ基準)

地域・建物用途・室使用条件 などにより定められている

「基準一次エネルギー消費量」に対する

「設計一次エネルギー消費量」

5段階の星(☆)表示

サステナブル不動産への道:エネルギー編

ZEB

(Net Zero Energy Building)

建築物のネットゼロエネルギー 到達状況を示す制度

第4次エネルギー基本計画 (2020年までに新築公共建築物等で、 2030年までに新築建築物の平均で ZEBの実現を目指す)

「省エネ」のみでの 一次エネルギー消費量削減率と 「創エネ」を含めた正味の 一次エネルギー消費量削減率

『ZEB』、Nearly ZEB、 ZEB Ready、ZEB Oriented 備考

建築物省エネ法の2022年改正により、 2025年4月から原則すべての 新築住宅・非住宅に省エネ基準適合が 義務付けられる

グリーンビルディング認証制度におけるエネルギー性能評価

認証

CASBEE-建築 (新築・既存・改修)

基本的には BELSの5つ星の建築物について、 再生可能エネルギーの導入の 程度に応じた評価が与えられる

CASBEE-不動産

使用国 アメリカ→世界各国 日本 日本

評価内容

• 統合プロセス

• 立地・交通

• 敷地

• 水

• エネルギー・大気

• 材料・資源

• 室内環境

• 革新性

• 地域性

• 室内環境

• サービス性能

• 室外環境

• エネルギー

• 資源・マテリアル

• 敷地外環境

• エネルギー・GHG

• 水

• 資源利用・安全

• 生物多様性・敷地

• 屋内環境

※CASBEE-建築(既存)と 比べて評価項目が簡易

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LEED 出所:JLL、USGBC、IBECs

サステナブル不動産への道:エネルギー編

エグゼクティブサマリー

不動産関連のCO2排出削減量は パリ協定の目標の半分も未達

日本は2030年度にGHG排出量を2013年度比で46%削減することを目標として掲 げ、NDC(Nationally Determined Contribution:パリ協定に基づき各国が5年毎 に提出・更新する温室効果ガスの排出削減目標「国が決定する貢献」)では2030年 度の「業務その他部門」のCO2排出量目標値を2013年度実績値比で-51%に設定 している。しかし、同部門の2021年度のCO2排出量は2013年度比-20%にとどまっ ていることから、残り7年でCO2排出削減対策を加速させなければならない。

2025年4月の省エネ基準適合義務化を見据えて BELSへの注目が高まるか

BELS(ベルス)は建物のエネルギー性能を一次エネルギー消費量に基づいて評価 する日本の制度である。BELSで最高ランクの星5つを取得することは、後述のZEB 認証取得にもつながる。建築物省エネ法の2022年改正により、2025年4月から 原則すべての新築住宅・非住宅に省エネ基準適合が義務付けられることとなり、 BELSへの注目が高まるとみられる。

省エネと創エネによるZEB化で 既存建物のグリーン化に期待

ZEB(ゼブ)はビルのネットゼロエネルギー到達状況を省エネと創エネによる一次 エネルギー消費量削減率に基づいて示す日本の制度である。認証物件のなかに は1990年以前に竣工したオフィスも散見され、築古のオフィスでも環境性能の向 上が可能であることを示唆している。カーボンニュートラルを実現するうえで既存 建物のZEB化による脱炭素化が期待される。

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LEEDでは2024年3月以降の登録物件から エネルギー性能の評価を厳格化

世界で最も普及しているグリーンビルディング認証制度であるLEED(リード)に おいては、9カテゴリーの評価項目のうち「エネルギーと大気」の配点が約3割を 占める。2024年3月以降の登録物件に適用されるLEED v4 Energy Update版で は、同項目の「最低限求められるエネルギー性能」の基準が引き上げられたほ か、「エネルギー性能の最適化」をエネルギー性能改善率とGHG排出量改善率 の両面で評価することとなった。

CASBEEでも エネルギー分野の評価を重視

日本のグリーンビル認証制度であるCASBEE(キャスビー)-建築においては、「建築 物の環境品質」3分野および「建築物の環境負荷低減性」3分野で建築物の環境効 率を評価するが、その1分野として「エネルギー」があり、なかでも「設備システムの 高効率化」が重視されている。また、CASBEE-不動産においては、5つの評価分野 のうち「エネルギー/GHG」の配点が約3割を占め、なかでも「エネルギー使用・排 出原単位(計算値)」が重視されている。

グリーンリースで 賃貸ビルの省エネ化を推進

賃貸ビルの省エネ化を実現するには、省エネ性能の高い建物と、入居テナントの 環境に配慮した運用姿勢の両輪がそろう必要がある。グリーンリース*は、建築物 の省エネ改修等を実施するためのイニシャルコストを一部回収できるオーナーと、 光熱費等のランニングコストを低減できるテナントの双方にメリットがあることか ら、賃貸ビルの省エネ化を推進する強力なツールとなる。

*グリーンリース:ビルオーナーとテナントが協働して環境に配慮した改修や運用を行なうために自主的に結ぶ契約

不動産関連のCO2排出削減量はパリ協定の目標の半分も未達である。建築物のエネル ギー性能評価やグリーンビルディング認証は、排出削減に向けて第一歩を踏み出すため の有効なツールといえる。しかし、実効性を高めるためには、グリーンリースの導入等に よりオーナーとテナントが協働して建築物の省エネ・創エネに取り組む必要がある。さら に、日本が世界から取り残されないよう、建築物の運用時CO2の先を見据えたライフサイ クルCO2の概念の浸透にも注力推進していかなければならない。

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はじめに
日本のCO2排出削減目標と遅れる実態

2021年度のCO2排出量の32.5%は不動産関連

2023年も気候変動に伴う異常気象が世界各国で見られ、国連 のグテーレス事務総長は「地球温暖化(global warming)の時代 は終わり、地球沸騰化(global boiling)の時代が来た」と警鐘を 鳴らした。

気候変動の緩和・軽減に関しては、GHG排出量の削減目標を設 定するSBTi(Science Based Targets initiative)、事業活動で使 用するエネルギーの100%再エネ化をめざすRE100(Renewable Energy 100%)などのイニシアティブがあり、日本企業の参加率 は極めて高い。しかし、CO2排出量に目を向けてみると、「2050年 カーボンニュートラル」の実現にはほど遠い。

温室効果ガスインベントリによると、2021年度の日本のCO2排 出量は10億6,400万トンで、そのうち不動産関連と捉えられる排 出量は電気・熱配分後で業務その他部門1億9,000万トン (17.9%)、家庭部門1億5,600万トン(14.7%)の計3億4,600万トン (約32.5%)だった。

不動産関連の排出削減量は目標の半分も未達 日本はパリ協定の目標達成に向けて、2030年度にGHG排出量 を2013年度から46%削減することを目指すとして、NDCに具 体的な目標値を掲げている。NDC(2021年)によれば、2030年 度のCO2排出量目標値は、業務その他部門で1億1,600万トン (2013年度実績の2億3,800万トンから51%削減)、家庭部門で 7,000万トン(2013年度実績の2億800万トンから66%削減)と なっている。

一方、2021年度のCO2排出量をみると、業務その他部門は 2013年度比で-20%、家庭部門は同-25%にとどまる。2021年 までの8年間でこれだけの削減であるのに、2022年からの9年 間でそれぞれさらに31%、41%も削減しなければならない。し かも、コロナ禍における経済活動の停滞により、業務その他部 門の排出量が減少し家庭部門の排出量が増加するという特異 な状況がみられた2020年度は例外として、2021年度に排出削 減が進んだ家庭部門に対し、業務その他部門では2021年度の 排出量がコロナ禍前の2019年度を上回っており、今後の進捗 が懸念される。

エネルギー起源CO2の部門別排出量(電気・熱配分後)

※棒グラフ内の数値は����年度比を表す。

出所:温室効果ガスインベントリをもとにJLL作成

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排出量(Mt CO�) � ��� ��� ��� ��� �,��� �,��� �,��� ���� ���� ���� ���� ���� ���� ���� ���� ���� ����目標
エネルギー転換部門(電気熱配分統計誤差を除く) ■ 産業部門 ■ 運輸部門 ■ 業務その他部門 ■ 家庭部門
-��% -��% -��% -��% -��% -��% -��% -��% -��% -��% -��% -��% -��% -��% -�% -��% -�% -�%

不動産のCO2削減目標

CRREMのPathway

不動産や不動産ポートフォリオの気候変動リスクを分析する ツールとして、CRREM(Carbon Risk Real Estate Monitor、クレ ム)がある。CRREMでは、パリ協定の1.5℃目標に整合するGHG 排出量、CO2排出量、エネルギー消費量の2050年までのPathway (削減経路)を国・セクター毎に公開している。CRREMのリスクア セスメントツールを用いて保有物件のデータとPathwayを比較 し、Pathwayを上回る場合に支払う経済的負担や座礁資産化*さ せないために必要な改修工事等の時期や程度を確認すること ができる。

CRREM(v.2.02)によると、日本はアメリカ、ドイツ、韓国、中国、フ ランスといった国々よりも大幅にCO2の排出原単位を削減しな ければならない。たとえば、日本のオフィスセクターでは、2020 年に91kg CO2/m²/yrだったCO2排出量を2030年に34kg CO2/ m²/yr、2040年に5kg CO2/m²/yr、2050年に1kg CO2/m²/yrま で削減しなければ、その不動産価値が失われる可能性が高い。

*座礁資産化:市場環境や社会環境の変化により、価値が大きく毀損した資産とな ること

IEAのNet Zero by 2050

国際エネルギー機関(IEA:International Energy Agency)が 2021年5月に発表した「Net Zero by 2050: A Roadmap for the Global Energy Sector」には、2050年ネットゼロエミッション (NZE)に向けた業種別のロードマップが描かれている*。建築部 門がNZEを達成するには、エネルギー効率の改善や化石燃料か らの転換が必須であり、2050年までに85%以上の建物をzerocarbon-readyビルにする必要があるという。そのためには、2030 年までに全世界のすべての新築建物をzero-carbon-readyとし、 既存建物の20%をzero-carbon-readyになるよう改修しなけれ ばならないとされている。

ここでいうzero-carbon-readyビルとは、エネルギー効率が高く、 再生可能エネルギーまたは2050年までに完全に脱炭素化され るエネルギーを使用するビルで、建物や設備に手を加えなくても 2050年にはネットゼロカーボンビルになる建物を指す。

*IEAは2023年10月にロードマップの改訂版「Net Zero Roadmap: A Global Pathway to Keep the 1.5℃ Goal in Reach」を発表している。

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■ OFFICE ■ RETAIL HIGH-STREET ■ SHOPPING CENTRE ■ RETAIL WAREHOUSE ■ DISTRIBUTION WAREHOUSE WARM ■ DW COOLING ■ HOTEL ■ RESI MULTI-FAMILY � �� �� �� �� ��� ��� ��� CO� emission (kgCO�/㎡*yr) ���������������������������������������������������������������������������������������������������������������������������� �� �� � � CRREM CO2 Intensity Pathways (v.2.02) – Japan 出所:CRREM Global Pathways をもとにJLL作成 サステナブル不動産への道:エネルギー編

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BELS

Building-Housing Energy-efficiency Labeling System 1

BELSの制度概要

建築物のエネルギー性能を示す制度 不動産のCO2排出削減ひいてはネットゼロカーボンを追求する

には、建築物のエネルギー効率の改善や化石燃料からの転換が 重要な要素である。

建築物等のエネルギー性能を評価する制度としては、アメリカ のEnergy Star、イギリスのEPC(Energy Performance Certificates)、日本のBELS(Building-Housing Energyefficiency Labeling System )などがある。

BELSは、2013年10月に国土交通省により制定された「非住宅建 築物に係る省エネルギー性能の表示のための評価ガイドライン (2013)」(通称:省エネ基準)に基づき、一般社団法人住宅性能 評価・表示協会により開始された建築物省エネルギー性能表示 制度である。

アメリカのEnergy Starは実績値ベースであり既存建物のみを 対象としているのに対し、BELSは計算値ベースであり新築・既 存建物ともに適用可能である。また、BELSの評価対象は住宅、オ フィス、学校、工場、ホテル、病院、百貨店、飲食店、集会所等と、 ほぼすべてのセクターが含まれる。

一次エネルギー消費量により5段階評価

評価は、実際に建築する建物の「設計一次エネルギー消費量」 を地域・建物用途・室使用条件などにより定められている「基 準一次エネルギー消費量」で除したBEI(Building Energy Index)の値により、5段階の星表示で行われる。評価基準は建 物用途により異なるが、BEIの数値が小さいほど省エネ性能が 高く、たとえばオフィスの場合、BEIが0.6以下(基準一次エネル ギー消費量より40%以上削減)で星5つ、0.7以下(同30%以上 削減)で星4つ、0.8以下(同20%以上削減)で星3つ、1.0以下で 星2つ(省エネ基準)、1.1以下で星1つ(既存の省エネ基準)とな る。省エネ基準に適合しない場合は表示しない。

なお、改正建築物省エネ法(2022年6月公布)により2024年4 月から建築物の販売・賃貸時の省エネ性能表示制度が強化さ れる。これに伴い、BELS制度も新しくなり、BEI=0.5以下で星6 つ、BEI=1.0で星1つとなる。また、省エネ性能ラベルには再エ ネ設備の有無や、太陽光発電の売電分も含めてエネルギー収 支がゼロ以下を達成した場合には「ネット・ゼロ・エネルギー」 であることも表示される予定である。

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BELSの認証取得状況

2023年12月末時点で4,439件

2016年4月1日から2023年12月末までにBELS認証を取得した建 築物(非住宅・複合、未竣工を含む。)は全国で4,439件、そのうち 星5つが2,697件(全体の61%)、星4つが388件(同9%)、星3つが 472件(同11%)、星2つが773件(同17%)、星1つが109件(同2%) となっている。星5つを取得するには、オフィス、学校、工場等にお いては基準一次エネルギー消費量より40%以上の削減、ホテル、 病院、百貨店・飲食店、集会場等においては基準一次エネルギー 消費量より30%以上の削減が必要であるが、BELS取得物件の

約6割がこれをクリアしており、いまや必要最低限の基準となり つつある。

認証件数は2020年以降増加が続いており、2020年は前年比 +35%、2021年は同+62%、2022年は同+45%、2023年は同+31% となった。建築物省エネ法の2022年改正により、2025年4月から 原則すべての新築住宅・非住宅に省エネ基準適合が義務付けら れることとなり、BELSへの注目は高まるものとみられる。

BELS認証取得年別件数(非住宅・複合)

出所:住宅性能評価・表示協会公開データをもとにJLL作成

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■ ☆� ■ ☆� ■ ☆� ■ ☆� ■ ☆� � ��� ��� ��� ��� �,��� �,��� �,��� ���� ���� ���� ���� ���� ���� ���� ���� ※����年は�月~��月

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星5つはオフィスで6割、リテールで1割

セクター別ではオフィスが最多の2,029件(全体の46%)で、工場 (主として物流施設)655件(15%)、病院646件(15%)、百貨 店・飲食店等421件(9%)、学校275件(6%)、ホテル250件 (6%)、集会所123件(3%)と続く。このうちオフィス、工場、学 校、集会所等は星5つが過半を占め省エネが比較的進んでい るのに対し、百貨店・飲食店等では省エネがあまり進んでいな いことがわかる。

都道府県別では東京が最多の793件(全国の18%)で、神奈川 304件(7%)、大阪302件(7%)、埼玉263件(6%)、千葉238件 (5%)と続く。最高位の星5つを取得した件数についても東京、 神奈川、埼玉、千葉、大阪が上位5都府県となっている。

BELS認証セクター別ランク別割合

百貨店・飲食店

レジデンシャル

病院

集会所

出所:住宅性能評価・表示協会公開データをもとにJLL作成

BELS認証取得件数上位県

東京都

神奈川県

大阪府

埼玉県

千葉県

愛知県

福岡県

兵庫県

北海道

静岡県

出所:住宅性能評価・表示協会公開データをもとにJLL作成

10 ■ ☆� ■ ☆� ■ ☆� ■ ☆� ■ ☆�
学校
工場
ホテル
オフィス � ��% ��% ��% ��% ���% ■ ☆� ■ ☆� ■ ☆� ■ ☆� ■ ☆� � ��� ��� ��� ���
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サステナブル不動産への道:エネルギー編

ZEB

Net Zero Energy Building 2

ZEBの制度概要

ビルのネットゼロエネルギー到達状況を示す制度

ZEB(Net Zero Energy Building)は、「第4次エネルギー基本計画 (2014年4月閣議決定)」において掲げられた「建築物について は、2020年までに新築公共建築物等で、2030年までに新築建築 物の平均でZEBの実現を目指す」という政策目標の実現に向け て開始されたビルのネットゼロエネルギー到達状況を示す制度 である。設備システムの高効率化等によりエネルギー消費量を 最大限に削減(省エネ)しつつ、太陽光発電等の再生可能エネル ギーを導入(創エネ)し、建築物のエネルギー収支をゼロにする ことを目指すにあたって有用な指標となる。

評価項目は年間の一次エネルギー消費量(空調、換気、照明、給 湯、昇降機等)である。ZEBの評価もBELSと同様にBEIを用いて おり、基本的にはBELSの5つ星の建築物について、再生可能エネ ルギーの導入の程度に応じた評価が与えられる。ZEBの基準を 満たしている場合、BELSの星表示に加えてZEBの表示をするこ とができる。

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省エネと創エネの程度により4段階評価

評価は「省エネ」のみでの一次エネルギー消費量削減率および 「創エネ」を含めた正味の一次エネルギー消費量削減率によっ

て4段階に分けられる。省エネのみで50%以上かつ創エネを含 めた正味で100%以上削減すると『ZEB』、省エネのみで50%以 上かつ創エネを含めた正味で75%以上100%未満削減すると

省エネのみの削減率

Nearly ZEB、省エネのみで50%以上かつ創エネを含めた正味 で50%以上75%未満削減するとZEB Readyとなる。また、オ フィス、学校、工場等については省エネのみで40%以上の削減 ができる場合、ホテル、病院、百貨店、飲食店、集会所等につい ては省エネのみで30%以上の削減ができる場合、更なる省エ ネ措置をとることでZEB Orientedとなる。

なお、住宅については同様に、年間の一次エネルギー消費量の 収支ゼロを目指したZEH(Net Zero Energy House、ゼッチ)、 さらには建設時、運用時、廃棄時のCO2排出にも配慮したLCCM (Life Cycle Carbon Minus)住宅もある。

再エネ電力の調達方法

敷地内での 太陽光発電の導入

※BELSでは敷地内(オンサイト)の再エネのみ対象(自家消費に加え売電も可)。

①購入方式

②リース方式

③オンサイトPPA方式

④自営線方式

敷地外での 太陽光発電の導入

再エネ電力の購入

⑤自己託送方式

⑥オフサイトコーポレート PPA方式

⑦小売電気事業者の再エネ 電力メニューへの切り替え

⑧J-クレジット(再エネ由来)

再エネ電力証書の 購入

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オフィスの場合

『ZEB』

Neary ZEB

ZEB Ready ☆�

ZEB Oriented ☆� ☆� ☆� ☆�

創エネを含めた削減率

電力需要家が自社所有の建物屋根や敷地に発電設備を設置

リース事業者が電力需要家の建物屋根に発電設備を設置 電力需要家はリース事業者に対して月々のリース料金を支払う

発電事業者が電力需要家の建物屋根に発電設備を設置 電力需要家は電力購入契約(Power Purchase Agreement)により電力を購入

電力需要家または発電事業者が電力需要施設の敷地外に太陽光発電を設置 専用の送電線を整備して発電電力を受給

電力需要家または発電事業者が電力需要施設の敷地外に太陽光発電を設置 一般送配電事業者の送配電網を利用して発電電力を受給

発電事業者が電力需要施設の敷地外に太陽光発電を設置 電力需要家は電力購入契約(Power Purchase Agreement)により小売電気事 業者を介して電力を購入

電力需要家が小売電気事業者から再エネ電力調達の契約により電力を購入

電力需要家がJ-クレジット(再エネ電力の環境価値)を購入 購入は制度事務局が実施する入札、または保有者との相対取引で

⑨グリーン電力証書 電力需要家がグリーン電力証書(再エネ電力の環境価値)を購入 購入は日本品質保証機構の認証を得た証書発行事業者から

⑩非化石証書 小売電気事業者が非化石証書(化石燃料を使わない電力の環境価値)を購入 購入は日本卸売電力市場の入札で

出所:環境省資料を参考にJLL作成

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区分
手法 概要
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ZEBの認証取得状況

2023年12月末時点で2,100件

2016年4月1日から2023年12月末までにZEB認証を取得した建 築物(未竣工を含む。)は全国で2,100件、そのうち『ZEB』が352件 (全体の17%)、Nearly ZEBが320件(同15%)、ZEB Readyが 1,338件(同64%)、ZEB Orientedが90件(同4%)となっており、 ZEB Readyの割合が圧倒的に高い。一次エネルギー消費量の削 減率が省エネのみで50%以上かつ創エネを含めた正味で75% 未満というのが主流といえる。

認証件数は2019年以降増加が続いており、2019年は前年比 +17%、2020年は同+60%、2021年は同+80%、2022年は同+74%、 2023年は同+54%となっている。なお、2017年はミニストップが全 国各地の店舗100件の認証を取得しており、認証件数が多くなっ ている。

ZEB認証取得年別件数(非住宅・複合)

※����年は�月~��月

■『ZEB』  ■ Nearly ZEB ■ ZEB Ready ■ ZEB Oriented

出所:住宅性能評価・表示協会公開データをもとにJLL作成

� ��� ��� ��� ��� ���� ���� ���� ���� ���� ���� ���� ����
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サステナブル不動産への道:エネルギー編

東京228件のうち『ZEB』は13件のみ

セクター別ではオフィスが最多の1,078件(全体の51%)で、工場 (主として物流施設)363件(17%)、百貨店・飲食店212件 (10%)、学校160件(8%)、病院157件(7%)、集会所73件 (3%)、ホテル56件(3%)と続く。このうち、オフィスや工場は 『ZEB』の割合がそれぞれ20%、24%を占め省エネに加えて創 エネが比較的進んでいるのに対し、ホテルや病院では創エネ があまり進んでいないことがわかる。

都道府県別では東京が最多の228件(全国の11%)で、神奈川 131件(6%)、千葉127件(6%)、埼玉111件(5%)、大阪109件 (5%)と続く。最高位の『ZEB』は神奈川と千葉が最多の24件 で、長野21件、埼玉20件、茨城17件と続く。東京はZEB Ready が78%を占め、『ZEB』は13件にとどまる。

ZEB認証セクター別ランク別割合

オフィス

集会所

出所:住宅性能評価・表示協会公開データをもとにJLL作成

ZEB認証取得件数上位県

神奈川県 東京都

千葉県

埼玉県

福岡県 大阪府

茨城県

出所:住宅性能評価・表示協会公開データをもとにJLL作成

■『ZEB』  ■ Nearly ZEB ■ ZEB Ready ■ ZEB Oriented � ��% ��% ��% ��% ���%
学校 病院 工場 ホテル 百貨店・飲食店
■『ZEB』  ■ Nearly ZEB ■ ZEB Ready ■ ZEB Oriented
北海道 静岡県
愛知県
� �� ��� ��� ��� ��� 15
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サステナブル不動産への道:エネルギー編

オフィスビルのZEBの認証取得状況

2023年12月末時点でオフィスは1,078件

2016年4月1日から2023年12月末までにZEB認証を取得したオ フィス(未竣工を含む。)は全国で1,078件、そのうち『ZEB』が214 件(全体の20%)、Nearly ZEBが199件(同18%)、ZEB Readyが 619件(同57%)、ZEB Orientedが46件(同4%)となっており、 ZEB Readyが過半数を占める。

認証件数は年々増加傾向にあり、2020年は前年比+61%、2021年 は同+94%、2022年は同+81%、2023年は同+53%となっている。

都道府県別では東京が最多の141件(全国の13%)で、北海道59 件(5%)、大阪59件(5%)、愛知58件(5%)、神奈川57件(5%)と 続くが、最高位の『ZEB』は長野が16件、静岡15件、茨城13件、兵 庫11件、福島10件と続き、東京は6件にとどまる。

ZEB認証取得年別件数(オフィス)

出所:住宅性能評価・表示協会公開データをもとにJLL作成

ZEB認証取得件数上位県(オフィス)

出所:住宅性能評価・表示協会公開データをもとにJLL作成

■『ZEB』  ■ Nearly ZEB ■ ZEB Ready ■ ZEB Oriented
埼玉県 静岡県
大阪府
東京都 � �� �� �� ��� ��� ■『ZEB』  ■ Nearly ZEB ■ ZEB Ready ■ ZEB Oriented � ��� ��� ��� ��� ��� ���� ���� ���� ���� ���� ���� ���� ���� ※����年は�月~��月 16
茨城県 宮城県 福岡県
神奈川県 愛知県
北海道

築古のオフィスでも環境性能の向上は可能 欧米の多くの主要都市では、カーボンニュートラル達成目標年で ある2050年時点で使用されていると予想される建物の約8割は すでに竣工済みであると推計されており、既存建物の改修によ るネットゼロ化が重要な課題となっている(詳細はJLL「都市と 不動産の脱炭素化」参照)。

日本においても既存建物への対応は課題であり、国土交通省・ 経済産業省・環境省の「脱炭素社会に向けた住宅・建築物にお ける省エネ対策等のあり方・進め方」とりまとめにも「既存ストッ ク対策」が挙げられている。

2016年4月1日から2023年12月末までにZEB認証を取得したオ フィスについて竣工年別の認証件数を見ると、1980年代や1990 年代に竣工した建物も少なくない。また、1970年代に竣工した産 業技術総合研究所ゼロエミッション国際共同研究拠点西–4A棟 が省エネ(省エネ性能の高い空調設備の設置、全熱交換器の採 用、外壁・ガラス面の断熱改修、照明のLED化)と創エネ(太陽光 発電パネルの設置)により『ZEB』を取得したという事例もある。 築古のオフィスでも省エネや創エネに取り組むことにより環境 性能を向上させることは可能であり、今後ますます既存建物の グリーン化が進むことが期待される。

ZEB認証竣工年別件数(オフィス)

■『ZEB』  ■ Nearly ZEB ■ ZEB Ready ■ ZEB Oriented � �� ��� ��� ��� ��� ��� ����年以降 ����年 ����年 ����年 ����年 ����年代 ����年代 ����年代 ����年代 ����年代 ����年代以前 17
サステナブル不動産への道:エネルギー編
出所:住宅性能評価・表示協会公開データをもとにJLL作成

サステナブル不動産への道:エネルギー編

エネルギー性能と ビル認証制度 3

LEEDにおけるエネルギー評価

「エネルギーと大気」の配点が3割以上

世界で最も普及しているグリーンビルディング認証制度である

LEED(Leadership in Energy & Environmental Design)は、アメ リカの非営利団体である米国グリーンビルディング協会USGBC (U.S. Green Building Council)が開発・運用し、GBCI(Green Business Certification Inc.)が認証の審査を行っている、Built Environment(建築や都市の環境)の環境性能評価システムで ある。認証システムの種類として、BD+C(建物設計と建設)、ID+C (インテリア設計と建設)、O+M(既存建物の運用-保守)、ND(近 隣開発)、HOMES(ホーム)などがあり、最新版はv4.1となって いる。

LEEDの評価は、①統合プロセス、②立地と交通手段、③持続可 能な敷地、④水の効率的利用、⑤エネルギーと大気、⑥材料と資 源、⑦室内環境品質、⑧革新性、⑨地域における重要項目の9カ

テゴリーにおいて取得したポイントの合計により、プラチナ(80ポ イント以上)、ゴールド(60-79ポイント)、シルバー(50-59ポイン ト)、標準認証(40-49ポイント)が付与される。認証システムによ り配点に多少の差異はあるが、いずれも⑤エネルギーと大気の 配点は大きく、たとえば、LEED v4のBD+C(NC)は110ポイント 満点のうち33ポイント、ID+C(CI)やO+M(EB)は110ポイント満 点のうち38ポイントを占める。

▲ 詳細はJLL「サステナブル不動産への道:ビル認証編」

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サステナブル不動産への道:エネルギー編

LEED v4「エネルギーと大気」の項目と配点

出所:USGBC LEED scorecard をもとにJLL作成

19 BD+C (NC) ID+C (CI) O+M (EB) 基本コミッショニングと検証 必須 必須 NA エネルギー効率管理のベストプラクティス NA NA 必須 最低限求められるエネルギー性能 必須 必須 必須 建物レベルのエネルギー計測 必須 NA 必須 基本的な冷媒管理 必須 必須 必須 拡張コミッショニング 6 5 NA 既存建物のコミッショニング — 分析 NA NA 2 既存建物のコミッショニング — 実践 NA NA 2 運用中のコミッショニング NA NA 3 エネルギー性能の最適化 18 25 20 高度なエネルギー計測 1 2 2 デマンドレスポンス 2 NA 3 再生可能エネルギーの創出 3 3 5 冷媒管理の強化 1 1 1 グリーン電力とカーボンオフセット 2 2 NA 配点ポイント合計 (全体ポイントにおける割合) 33 (30%) 38 (35%) 38 (35%)

サステナブル不動産への道:エネルギー編

LEED v4 Energy Updateでエネルギー評価が厳格化

LEED v5 の前にエネルギー評価を厳格化

LEED v4の⑤大気とエネルギーのうち最も配点の大きい「エネル ギー性能の最適化」については、「最低限求められるエネルギー 性能」に従いベースラインとの比較で求めたエネルギー性能の 改善率に応じてポイントが定められている。しかし、ひっ迫する気 候危機に対応するためには建物運用時の脱炭素化を一刻も早 く実現することが不可欠であることから、LEED v5の開発・試運 用が進められる一方、エネルギー効率の向上とGHG排出量の削 減に焦点を当てたLEED v4 Energy Update版が3月1日以降に 登録の物件より適用されることとなった。

LEED v4 Energy Update版では、「最低限求められるエネルギー 性能」の基準が引き上げられたほか、「エネルギー性能の最適 化」のポイントがエネルギー性能改善率(コスト指標)に応じたポ イントから、エネルギー性能改善率(コスト指標またはソースエ ネルギー指標)に応じたポイントとGHG排出量改善率に応じた ポイントの合計に変更された。

LEED v4:BD+C(NC)の「エネルギー性能の最適化」ポイント

出所:USGBC LEED guide をもとにJLL作成

GHG排出量改善率︵%︶
��� �� �� �� �� �� �� �� �� �� �� �� �� �� �� �� �� �� �� � � � �� �� �� �� �� �� �� �� �� �� �� �� �� �� �� �� �� �� ��� ※エネルギー性能改善率�%、�%、�%、��%、��%、��%、��%、��%、��%、��%、��%、��%、��%、��%、��%、��%、��%、 ��%、��%で�ポイントから��ポイント付与される。 20
エネルギー性能改善率(%)

サステナブル不動産への道:エネルギー編

エネルギー性能とGHG排出量の双方で評価

LEED v4 Energy Update版の「エネルギー性能の最適化」で付与 されるポイントは、たとえば、BD+C(NC)ではエネルギー性能改 善率が9ポイント満点(必須基準の15%で0ポイント、60%以上で 9ポイント)、GHG排出量改善率が9ポイント満点(必須基準の 15%で0ポイント、85%以上で9ポイント)となる。また、ID+C(CI) ではエネルギー性能改善率が13ポイント満点(必須基準の6%で 0ポイント、40%以上で13ポイント)、GHG排出量改善率が12ポイ ント満点(必須基準の6%で0ポイント、50%以上で12ポイント)と なる。

これにより、たとえばBD+C(NC)において、エネルギー性能の改 善率が10%の場合、従来は3ポイント獲得できたが、現在は必須 条件を満たさない。同改善率が50%の場合、従来は満点の18ポ イントを獲得できたが、現在は7ポイントにしかならず、18ポイン ト獲得するためにはエネルギー性能の改善率を60%以上に高 め、かつ、GHG排出量の改善率を85%以上に高めなければなら ない。

LEED v4 Energy Update:BD+C(NC)の「エネルギー性能の最適化」ポイント

※GHG排出量改善率��%以上で�ポイント付与される。

出所:USGBC LEED guide をもとにJLL作成

GHG排出量改善率︵%︶
��� �� �� �� �� �� �� �� �� �� �� �� �� �� �� �� �� �� �� � � � �� �� �� �� �� �� �� �� �� �� �� �� �� �� �� �� �� �� ���
エネルギー性能改善率(%)
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サステナブル不動産への道:エネルギー編

CASBEE-建築におけるエネルギー評価

環境負荷の評価分野に「エネルギー」

日本のグリーンビルディング認証制度であるCASBEE-建築 (Comprehensive Assessment System for Built Environment Efficiency for Buildings)は、国土交通省住宅局の支援のもと産 官学共同プロジェクトとして開発され、一般財団法人住宅・建築 SDGs推進センター(IBECs)が運用する建築環境総合性能評価 システムである。延床面積が300㎡以上の建築物(戸建て住宅を 除く全ての用途)について、CASBEE-建築(新築)、CASBEE-建築 (既存)、CASBEE-建築(改修)の評価ツールのいずれかで評価す るもので、最新版は「2021年SDGs対応版」となっている。

CASBEE-建築の評価は、室内環境(Q1)、サービス性能(Q2)、 敷地内の室外環境(Q3)の3分野で構成される「建築物の環境品 質(Q:Quality)」と、エネルギー(LR1)、資源・マテリアル(LR2)、 敷地外環境(LR3)の3分野で構成される「建築物の環境負荷低 減性(LR:Load Reduction)」から「建築物の環境効率BEE(Built Environment Efficiency)」を求め、S(素晴らしい、BEE≧3.0かつ Q≧50)、A(大変良い、BEE≧1.5)、B+(良い、BEE≧1.0)、 B-(やや劣る、BEE≧0.5)、C(劣る、BEE<0.5)が付与される。

▲ 詳細はJLL「サステナブル不動産への道:ビル認証編」

設備システムの高効率化を重視

CASBEE-建築の評価はLEEDのようなポイント加算制ではなく、 各項目について設定された採点基準により1点~5点の5段階評 価を行い(建築基準法等の最低限の必須要件を満たすと1点、一 般的な技術・社会水準に相当すると3点)、これをもとにBEE=Q/L (Q:建築物の環境品質 Quality、L:建築物の環境負荷 Load)を 求めてランク分けする。したがって、建築物の環境負荷が小さい ほどBEEが大きくなりランクは高くなる。

BEEを算出する際には、項目間および分野間の重み付けを行う。

たとえば、LR1の項目は①建物外皮の熱負荷抑制、②自然エネ ルギー利用、③設備システムの高効率化、④効率的運用の4項目 で構成されており、その重み付けは①が0.2、②が0.1、③が0.5、 ④が0.2となっており、③設備システムの高効率化がやや重視さ れている。なお、エネルギー消費に伴って発生するCO2排出量の 低減については敷地外環境(LR3)のなかの「地球温暖化への配 慮」として評価される。

CASBEE-建築の評価方法 各項目を5段階で評価

Q1:4項目、Q2:3項目、Q3:3項目 LR1:4項目、LR2:3項目、LR3:3項目

分野別の総合得点(加重平均)を算出 SQ1、SQ2、SQ3 SLR1、SLR2、SLR3

QとLの得点(加重平均)を算出 SQ SLR ▼

BEE = Q/L を算出

Q = 25 ×(SQ–1) L = 25 ×(5–SLR)

出所:IBECs CASBEE 評価マニュアルをもとにJLL作成

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サステナブル不動産への道:エネルギー編

CASBEE-不動産におけるエネルギー評価

評価分野に「エネルギー/GHG」

CASBEE-不動産(Comprehensive Assessment System for Built Environment Efficiency for Real Estate)は、一般財団法 人住宅・建築SDGs推進センター(IBECs)が運用する建築環境総 合性能評価システムである。竣工後1年以上経過したオフィス、 店舗、物流施設、集合住宅およびこれらの複合用途を対象として

CASBEE-不動産で評価するもので、最新版は「2021年SDGs対 応版」となっている。

CASBEE-不動産の評価は、①エネルギー/GHG、②水、③資源 利用/安全、④生物多様性/敷地、⑤屋内環境の5分野21項目 エネルギー使用・排出原単位(計算値)を重視

CASBEE-不動産の評価分野のうち①エネルギー/GHGは最も 配点が大きく、100ポイント満点中35ポイント(集合住宅は30ポイ ント)を占める。このうち「エネルギー使用・排出原単位(計算 値)」が最大の25ポイントとなっており、基準となる年間エネル ギー消費量に対する年間消費エネルギー量の割合に応じて加 算ポイントが定められている。なお、省エネ基準のクリア、エネル ギー消費量の目標設定、モニタリングの実施、運用管理体制の 構築の4項目は必須項目となっており、運用管理体制について はビルオーナーと居住者やテナントが共同して運用エネルギー 削減に取り組んでいる場合に1点が加点される。

において取得したポイントの合計により、S(5つ星、78ポイント 以上)、A(4つ星、66ポイント以上)、B+(3つ星、60ポイント以上)、 B(2つ星、50ポイント以上)が付与される。従来のCASBEE-建築 よりも評価項目が少なく簡易な一方、LEEDやBREEAMなど世界 で普及している建物環境性能評価システムに採用されている指 標と評価項目が類似しており、不動産評価に活用しやすいこと から認証取得が進んでいる。

▲ 詳細はJLL「サステナブル不動産への道:ビル認証編」

「エネルギー/GHG」の項目と配点

オフィス 店舗 物流施設 集合住宅 省エネ基準のクリア エネルギー消費量の目標設定 モニタリングの実施

出所:IBECs CASBEE 評価ツールをもとにJLL作成

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運用管理体制の構築 必須 必須 NA 1.1 エネルギー使用・ 排出原単位(計算値) 25 25 25 1.2 エネルギー使用・ 排出原単位(実績値) 5 5 5 1.3 省エネルギー(仕様評価) NA 5 5 1.4 自然エネルギー 5 5 5 配点ポイント合計 (全体ポイントにおける割合) 35 (35%) 35 (35%) 30 (30%)

サステナブル不動産への道:エネルギー編

おわりに

ZEBからネットゼロカーボンへ

建築物のライフサイクルで考える

ZEBは不動産のネットゼロカーボンに向けた第一歩ではある が、評価の対象は建築物の一次消費エネルギーであり、建築物 の運用時のネットゼロエネルギーあるいはCO2排出削減をめざ すにとどまる。

一方、欧米では、建築物の製造・建設から解体・廃棄まで建築物 のライフサイクル全体を通じて発生するLCCO2(Lifecycle CO2) の削減に向けた取り組みが進んでいる。特に、LCCO2のうちエネ ルギー消費や水消費など建築物の運用時に発生するCO2を除

いた「エンボディドカーボン」への関心が高く、エンボディドカー ボンを算定・評価するさまざまなツールも開発されている。 欧米の動きを受けて、日本でも国土交通省が2022年12月に「ゼ ロカーボンビル推進会議」を設置し、IBECs(一般財団法人 住 宅・建築SDGs推進センター)の主導のもと、LCCO2を実質ゼロに する建築物「ゼロカーボンビル」の評価手法を整備し、普及促進 を図ろうとしている。

建築物のライフサイクルで発生するCO2

中間処理 (C�)

廃棄物の 輸送 (C�)

解体・撤去 (C�)

改修 (B�)

解体段階

廃棄物の処理 (C�)

原材料の調達 (A�)

エンボディド カーボン

使用段階※ (資材関連)

交換 (B�)

工場への輸送 (A�)

資材製造 段階

アップ フロント カーボン

製造 (A�)

現場への 輸送 (A�)

施工段階

施工 (A�)

使用 (B�)

修繕 (B�)

維持保全 (B�)

※「エネルギー消費(B6)」および「水消費(B7)」など建築物の運用時に発生するCO2(オペレーショナルカーボン)は含まない。

出所:令和4年度ゼロカーボンビル推進会議報告書を参考にJLL作成

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サステナブル不動産への道:エネルギー編

国産木材の利用や躯体の再利用も効果的 ライフサイクルという観点は日本にも以前からある。たとえば、 日本建築学会は1999年以来改訂を重ねながら「建物のLCA指 針」を発行している。2022年には三井不動産と日建設計が同指 針をより実務的に活用しやすいようにアレンジした「建設時GHG 排出量算出マニュアル」を策定するとともに、三井不動産は2023 年度中に全ての施工者に対し「建設時CO2排出量算出ツール」 を用いた排出量算出を義務化すると発表した。同マニュアルは 検討会での議論を経て、2023年6月に一般社団法人不動産協会 から「Scope3算定を行う建築工事発注事業者のための『建設時 GHG排出量算定マニュアル』2022 年度版」として会員に展開さ れている。

また、一般社団法人不動産協会らが2021年に発表した「不動産 業における脱炭素社会実現に向けた長期ビジョン」では、建物 の設計・企画、施工、運用、解体の各段階における具体的なCO2 削減手段が提示されており、設計・企画段階での国産木材利用 の促進、建物の長寿命化、既存施設や緑地の再利用、施工段階 での建設資材や重機・車両の脱炭素化、解体段階での地下躯体 の再利用、建物の改修、建設資材のリサイクルなどが挙げられて いる。

なお、海外では使用量と同等の植林を行うことでCO2削減効果 があると見做す、という主張もある。

国産木材を利用したオフィスビルの事例

建物・計画名 竣工年 特徴

Port Plus 2022年

(仮称)日本橋本町 一丁目3番計画 2026年

東京海上グループ 新・本店ビル 2028年度

日本初の高層純木造耐火建築 物。地上11階建て。大林組の自 社研修施設。

国内最大・最高層の木造賃貸オ フィスビル。地上18階建て。三井 不動産。

世界最大規模の木材使用量。地 上20階建て。LEED v4 BD+C: NCでプラチナ予備認証を取得。

既存躯体を再利用したオフィスビルの事例

建物・計画名 竣工年 特徴

(仮称)太子堂一丁 目計画 2023年

(仮称)博多駅前 三丁目プロジェクト 2025年

築44年の旧耐震基準のオフィス ビルを一棟丸ごと再生。東急不 動産。

地下~地上2階の既存躯体を新 築建物に再利用。地上13階建 て。中央日本土地建物。

出所:大林組、三井不動産、東京海上グループ、東急不動産、中央日本土地建物

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サステナブル不動産への道:エネルギー編

グリーンリースで賃貸ビルの省エネ化を推進

建物の省エネ性能と運用が両輪

不動産オーナーの努力によりBELSやZEBで高評価を得た建築 物であっても、入居テナントの運用姿勢によっては省エネ性能が 十分に発揮されない可能性がある。一方、入居テナントが環境に 配慮していても、建築物の設計や設備によっては削減できるエ ネルギー消費量に限界がある。これを解決する手段として注目 されているのがグリーンリースである。オーストラリア、イギリス、 アメリカ、フランスなどで先行してきたが、日本においても国土 交通省が2016年に「グリーンリース・ガイド」を発表するなどして 普及しつつある。

同ガイドによると、グリーンリースとは「ビルオーナーとテナント が協働し、不動産の省エネなどの環境負荷の低減や執務環境の 改善について契約や覚書等によって自主的に取り決め、その取 り決め内容を実践すること」と定義されている。最大の特徴は、 建築物の省エネ改修等を実施するためのイニシャルコストを一 部回収できるオーナーと、光熱費等のランニングコストを低減で きるテナントの双方にメリットがあることだ。このほか、執務環境 の改善、オフィスワーカーの健康・快適性の向上、テナントの満足 度向上、企業の社会的責任の向上といったメリットもある。

テナントの費用削減効果(イメージ)

テナントの 費用削減効果

光熱費削減

光熱費

テナントが 負担する グリーンリース料 光熱費

グリーンリース導入前 グリーンリース導入後

建物状況により運用改善か改修を選択

グリーンリースは「運用改善のグリーンリース」と「改修を伴う グリーンリース」に大別され、建物設備の対応状況やテナント の入居状況により有効な方法を選択するのがよい。

前者はオーナーとテナントが省エネ・環境配慮・原状回復に関 して協力して取り組むもので、グリーンリース契約や賃貸借契 約のグリーンリース条項で明文化するのが通例である。協力内 容として、環境配慮や利用者の快適性向上に関する協力、エネ ルギー消費量データなどの共有、エネルギー消費量削減など の目標設定、環境認証の取得、省エネ・環境協議会の設置、原 状回復義務の免除などが挙げられる。

後者はオーナーが実施した省エネ改修投資によりテナントが 享受する便益の対価(グリーンリース料)をオーナーへ還元す る取り組みで、賃貸借契約の特約として規定するのが通例であ る。特約にはグリーンリース料の対象期間や設定方法(定額 制、削減連動性、従量制)を明記する。また、オーナーはテナン トに削減実績報告を行うとともに、想定どおりのパフォーマン スを確保しているかを検証し、必要に応じて改善を図る。

グリーンリース(GL)の選択目安

建物に環境配慮型 設備を設置済み

建物に環境配慮型 設備を未設置

テナントが 入居済み

テナントが 未入居

運用改善のGL グリーンリース契約を 締結し、設置済みの 設備の効用を最大限に 発揮させる

運用改善のGL 新規契約時に 賃貸契約書にグリーン リース条項を追加し、 運用改善に取り組む

出所:国土交通省資料を参考にJLL作成 出所:国土交通省「グリーンリース・ガイド」

改修を伴うGL オーナーとテナントの 経済的利益配分を 適正化する改修を 行う

運用改善のGL オーナー負担で環境 配慮型設備を導入後、 新規契約時にグリーン リースを導入する

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日本が取り残されないために

CBDの存続・繁栄に必要な既存ビルの改修

コロナ禍の発生から3年が経過し、都市は転換点を迎えている。

ハイブリッド型リモートワークの浸透、ビルの老朽化、新興サブ マーケットとの競合、通勤時間の長さ、居住人口が少ないことに よる賑わいの欠如が、CBD(中心業務地区)の短期的な見通しに 影を落としている。老朽化する不動産に関しては、稼働率と価格 の維持が大きな課題となっているほか、エネルギー効率やGHG 排出基準が厳格化するなかサステナビリティ要件も追加的な課 題となっている。ネットゼロカーボン目標を達成するには、現存 するオフィスビルの80%のうち年3.0%~3.5%が改修されなけれ ばならない。CBDが将来的に存続し繁栄するためには、バランス の取れた複合用途化やサステナビリティ志向のデザインが求め られている。

▲ 詳細はJLL「CDBの未来」

連携強化がカギとなるグリーンリース2.0

エネルギー市場が不安定ななか、グリーンリースにより省エネに 取り組むことは、サステナビリティだけでなく、運営管理の安定 性やコスト負担の観点からも重要である。グリーンリース2.0は、 賃貸借契約期間全体を通じてオーナーとテナントの双方が連携 を強化する新たな協調体制を築き、両当事者間の調整を図って 共通の価値を生み出すことを目指している。グリーンリースの実 現には、①建物オーナーとテナント双方が共通の価値観・行動・ 相互利益について理解する姿勢、②信頼できる確かなパート ナーシップによる連携強化、③費用分担や透明性を担保した利 益の公正分配などの条項を含んだ公平な契約がカギとなる。ま た、契約を遂行するためにデータを適切かつ効率的に測定する ことが可能なテクノロジーが欠かせない。

▲ 詳細はJLL「グリーンリース2.0」

サステナブル不動産への道:エネルギー編

27

ジョーンズ ラング ラサール株式会社

東京本社

〒102-0094

東京都千代田区紀尾井町1-3 東京ガーデンテラス紀尾井町

紀尾井タワー

03 4361 1800

福岡支社

〒812-0011

福岡県福岡市博多区 博多駅2-20-1 大博多ビル

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お問い合わせ先

松本 仁

エナジー & サステナビリティ サービス事業部長 jin.matsumoto@jll.com

⾚城 威志 リサーチ事業部長 takeshi.akagi@jll.com

関西支社

〒541-0041 大阪府大阪市中央区 北浜3-5-29 日本生命淀屋橋ビル 06 7662 8400

名古屋オフィス 〒450-6321 愛知県名古屋市中村区 名駅1-1-1 JPタワー名古屋21階 052 856 3357

渡部 まき エナジー & サステナビリティ サービス事業部ディレクター maki.watanabe@jll.com

剣持 智美 リサーチ事業部マネージャー tomomi.kemmochi@jll.com

JLLについて

JLL(ニューヨーク証券取引所:JLL)は、不動産に関わるすべてのサービスを グローバルに提供する総合不動産サービス会社です。オフィス、リテール、イ ンダストリアル、ホテル、レジデンシャルなど様々な不動産の賃貸借、売買、 投資、建設、管理などのサービスを提供しています。フォーチュン500®に選出 されているJLLは、世界80ヵ国で展開、従業員約106,000名を擁し、2023年の 売上高は208億米ドルです。企業目標(Purpose)「Shape the future of real estate for a better world(不動産の未来を拓き、より良い世界へ)」のもと、 お客様、従業員、地域社会、そして世界を「明るい未来へ」導くことがJLLの 使命です。JLLは、ジョーンズ ラング ラサール インコーポレイテッドの企業呼 称及び登録商標です。jll.com

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JLLリサーチについて JLLリサーチは、世界のあらゆる市場、あらゆるセクターにおける最新の不動 産動向並びに将来予測を提供します。全世界450名超のリサーチエキスパー トが、60ヵ国を超える国々の経済及び不動産のトレンドを日々調査・分析し、 世界のリアルタイム情報と革新的考察を発信しています。グローバル、リージョ ン、そしてローカルの不動産市場におけるエキスパートが集結する精鋭リサー チチームは、今日の課題、さらに将来の好機をも特定し、競争上の優位性、 成功のための戦略、不動産に関する最適な意思決定へとお客様を導きます。 JLLリサーチは、適正な市場メカニズムが機能する公正・透明な不動産市場 の形成に寄与することを使命とし、より良い社会の実現に貢献します。

This report has been prepared solely for information purposes and does not necessarily purport to be a complete analysis of the topics discussed, which are inherently unpredictable. It has been based on sources we believe to be reliable, but we have not independently verified those sources and we do not guarantee that the information in the report is accurate or complete. Any views expressed in the report reflect our judgment at this date and are subject to change without notice. Statements that are forward-looking involve known and unknown risks and uncertainties that may cause future realities to be materially different from those implied by such forward-looking statements. Advice we give to clients in particular situations may differ from the views expressed in this report. No investment or other business decisions should be made based solely on the views expressed in this report

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