サステナ第44号

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ともとは電力会社の社員で、島出身の 奥さんと島ではないところで出会って 結婚し、新婚旅行にパリに行ったのだ そうです。奥さんがアクセサリー店を 見ている間に、旦那さんは「あなたは どこかで暇をつぶしていなさい」と言 われて、たまたまジャム屋さんに入っ たのです。いろいろな香りの芳醇な感 じのジャムが店に並んでいて、そこで ジャムをたくさん買い込んで日本に帰 ったのですが、そうこうしているうち に、 「俺はジャム屋をやる」って言い出 したのです。電力会社の社員で生活が 安定していたのに、そんなことを言い 出したので、夫婦の間はすごく険悪に なったそうです。それでも奥さんの地 元である周防大島に戻り、島の経済が どん底に落ち込む原因になったミカン を使ったジャムづくりを始めたのです。 松島さんご夫婦は全部手作りでいろ いろな種類のジャムを少しずつ作るよ うになりました。ミカンを仕入れに農

家に行くと、農家の人は「自分の子ど もにもうミカンは継がせられない。い つまでミカンを作っていられるだろう か」みたいなことでいたのですが、ジ ャムを作りますという松島さんがくる と、いろいろな話をするのです。たと えば、みかんは青い実のときにだけ放 つ独特の香りがあるということを農家 の人が言うのです。松島さんはそれを 聞いて、その香りを生かしたジャムを 作ってみましょうということになって、 ジャムのネタになるようなアイディア がたくさん出てきたのです。また、あ る種類のミカンは青い状態から黄色く なったころに市場に出すのだけれど、 木の上にずっとならしておくと、どん どん味とか風味が変わっていくという ようなことがあります。松島さんがそ れを聞くと、それを活かしたジャムが 作れないかということになるのです。 カキでも誰も取らないで木になりっぱ なしにしておくと、味がずいぶん違っ

てくるということがありますが、ミカ ンでもそのようなことがあるのだそう です。ミカンにはいろいろな種類があ って、同じ種類のミカンでも時期によ って香りが異なるということなので、 少しずつたくさんの違う種類のジャム ができるのです。島ではブルーベリー もできれば、島独特のサツマイモがあ って、それらを使ったジャムも作られ ています。 ここのジャムは一つの種類が30個 ぐらいしかできなくて、その1個を8 00円とか1000円とかで売ってい ます。これは戦後ずっと続けてきた、 できるだけたくさん作って、できるだ け単価を下げて売るという大量生産の 経済とは真逆です。島の経済をかつて は引っ張ってきたものが一度だめにな って再びエースに返り咲いたというよ うなストーリー性があります。周防大 島は広島から車で1時間ぐらいで行け るところで、休みの日になるとひっき

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