公共美術館の価値に関する研究

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公共美術館の価値に関する研究

第2章 美術館の動向

これまで見てきたように、美術館・博物館は殖産興業の推進や文化の啓蒙をめざし て日本でスタートした。したがって、それがきわめて国家的指向の強い空間を生み 出す契機となり、それらの建築はあるときは「西欧」を、またあるときは「日本」を 強く指向する空間のスタイルを時代の中で体現していた。戦後を経てそうした潮流 は変化したが、美術の収蔵・展示という文脈から離れた「空間」としての美術館建 築が出現するまでになった。それは、ある意味では「国家」の意志に代わる「建築 家」の意志の強烈な表明でもあった。しかし現代に至って、そうした状況は徐々に 変化しつつある。特にバブル経済期を境に美術館や博物館は氾濫状態にあると一般 的にいわれているが、はたして本当に必要悪なのであろうか。大局で漠然ととらえ ずに、美術館の現状を伝えている資料から読み取りたい。

さまよえる美術館 1 - 下降線たどる客足 -(日経新聞 1999 年 11 月 1 日付) 「ゴールデンウイーク人出総括表」と記された調査がある。静岡県伊東市内にある各 観光施設に、1997 年の連休期間中、何人が訪れたかを、東京都台東区の総合美術研 究所が比較調査した一覧だ。来年で開館 25 年を迎える「池田 20 世紀美術館」は、ピ カソからアンディ・ウォーホル、さらに鶴岡政男、池田満寿夫ら今世紀に活躍した 内外の著名芸術家の作品を数多く収蔵する。地域でも有数の観光拠点だったが、同 連休中の入館者は約 3,400 人。 一方、 「伊豆デディベア・ミュージアム」の入館者は、同じ地区内の美術館で最多の 約10,800人を記録した。あのぬいぐるみのデディベアを収蔵・展示する施設である。 池田 20 世紀美術館によると、入館者数は年間約 17 万人を記録した 91 年以来、減少 の一途をたどり、98 年度には 65,000 人にまで落ち込んだ。90 年代に入って人形や ガラスなど様々な美術館が、周囲に乱立したあおりを受けた格好だ。 美術館離れは全国的な現象だ。文部省の調べでは全国の国公立・私立美術館の入館 者数は 90 年の約 3200 万人をピークに下降線をたどり、96 年には約 2500 万人まで 減った。文化施設の調査などを手掛ける丹青研究所の調べでは、美術系博物館の1年 間での開設数は、95 年度の 84 館から 96 年度には 105 館に伸び、その後も微増を続 けてきたが、98年度には減少に転じた。 「建設計画や構想の凍結も相次いでおり、今 後さらに減少することも考えられる」と里見親幸・文化空間研究本部長は指摘する。

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

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