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公共美術館の価値に関する研究 −文化価値を加味した収支モデルによる評価−

A Study on the Value of Public Museum - Evaluation by the Income-and-Outgo Model Considering Cultural Value -

2001 年 2 月

早稲田大学大学院理工学研究科 建設工学専攻建築学専門分野 渡辺仁史研究室  織田 直憲


はじめに 「衣食住」という言葉がある。 建築はこのうちの「住」に入るのであるが、普段人々は、 「衣」や「食」については、あ らゆる分野に興味を持ち気軽に語るのに、 「住」については家をつくる時ぐらいしか、ほ とんどといってよいほど身近な話題にせず、興味を持たない。街中に建っている建築があ まり興味の対象とならないのは、その建築が魅力的でないのではなく、その魅力を測る評 価あるいは価値基準が曖昧だからではないだろうか。 多額の資金を注ぎ込んで著名な設計 者によって建てられた建築だけが一般の人々の興味をひきがちであり、一時的にせよ話題 にあがる。しかしそういうものだけが価値ある建築ではないはずだ。その建築がどのよう に使われ、いかにその利用者にとって価値あるものとなっているかが、あるべき建築の評 価基準ではなかろうか?特に公共建築であれば、運営者側の立場からはもちろん、利用者 側の立場からも評価し、 総合的に見て価値ある建築でなければならないというのが理想だ ろう。ただ、現状においては竣工費やランニングコストのみで評価されるケースが多い。 文化施設である美術館も例外ではない。 私は美術館が好きだ。美術館は誰もが気軽に利用することができる現世から隔離された空 間であり、活力や癒しを与えられる空間ではなかろうか。 マスコミを中心に「公共美術館は財政を圧迫しているだけで、必要悪だ」という内容の記 事を見るたびに「どうして一方向の視点だけでしか見ないんだ、それは違うんじゃない か」と心の中で反発し、悲しくもなっていた。たしかに、日本において運営上赤字でない 美術館は、私が知るところほとんど皆無なのである。ランニングコストのみで評価した場 合には、価値のある美術館が日本にはほとんどないということになる。 「100年を超えて生き残る建築というのは、機能性を超えた文化的な価値または 精神的な価値のあるものでなければならない」 谷口吉生

幼少より親しんだ地元の美術館、訪れることによって心に落ち着きを与えてくれる美術 館、存在するから街のイメージがあがった美術館、その他様々な理由で人それぞれの心の 中にランニングコストだけでは測れない美術館の存在価値があって当然のはずだ。 美術館の価値を評価するにあたって、 心理的指標とでもいうべき価値基準を加えた一指標 を構築することによって、 運営上の問題だけで判断をしている現状に一石を投じられれば 幸いである。


目次 第 1 章 序論 1.1 研究目的                         1 1.2 研究背景                         2 1.3 研究有用性                        4 1.4 価値と評価                        6 1.5 語句の定義                        9 1.6 研究概要                        13 1.7 研究方法                        15 第 2 章 美術館の動向 2.1 世界の美術館                      17 2.2 日本の美術館                      20 2.3 東京都の美術館                     33 第 3 章 決算書からみた美術館の経済的評価 3.1 東京都の決算内容                    41 3.2 美術館の決算内容                    50 3.3 経済的評価                       64 第 4 章 CVM を用いた美術館の文化的評価 4.1 調査方法                        69 4.2 アンケート結果                     76   4.2.1 負担金額                     76   4.2.2 価値の度合いと負担想定金額            77   4.2.3 重要度と満足度                  84 4.3 文化的評価                       90 第 5 章 文化価値を含めた美術館の収支モデル 5.1 モデルの考え方                     95 5.2 文化価値を含めた収支モデル               98 第 6 章 結論 6.1 美術館の価値                     110 6.2 今後の展望                      114   おわりに   謝辞   参考文献、参考資料   全国の美術館・博物館一覧


第1章 序 論


公共美術館の価値に関する研究

第1章 序論

1.1 研究目的 東京都は都の抱える資産、負債などを明確化する貸借対照表(バランスシート)を 作成する方針を固めたが、建築資産である美術館はその文化的な必要性などから必 ずしも営利を目的としないため、単なる収支計算だけでは評価ができないはずであ る。コスト計算等の経済価値だけでなく、利用者側の重要度や満足度といった心理 的指標ともいうべき価値(文化価値)も織り込んでいかなければならないのではな いだろうか。 本研究では、公共美術館に求められる価値の多様化に着目し、経済価値と文化価値 の評価を融合した収支モデルを用いることにより、東京都が保有する美術館の価値 を評価する手法を構築することを目的とする。

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

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公共美術館の価値に関する研究

第1章 序論

1.2 研究背景 これまでは公共建築においては建てることが目的であり、建ててから後のことまで はあまり真剣に問題とされてこなかった。いわゆる「ハコモノ行政」に象徴される ように、バブル経済が崩壊する少し前までは、多かれ少なかれ「つくること」に行 政の力点がおかれてきたように思われる。しかし、これからは今までのように施設 などを次々と「つくる」時代から、既存のストックをメンテナンスやリニューアル しながら「長く使いこなしていく」方向にシフトさせていく必要がある。また、仮 に「つくる」としても、エンドユーザである住民に愛着と親しみをもって「使いこ なしてもらう」ように仕掛けていくことが大切であろう。 「ただのハコ」から「中身や魂のあるハコ」にしていくこと、すなわち、施設や空間 の価値を高めていくためには、そこにどれだけの住民の思いや気持ちを入れ込める のか、その量と質が重要である。 単年度決算の弊害もあると思われるが、行政は今まで建設費にだけは十分な予算を つけ、建ててからのメンテナンスやリニューアルの予算までは十分な考慮に入れて いなかった。そのために、各施設の管理を預かる現場では毎年の維持費にかかる予 算獲得は必死である。そもそも企画をした行政側の責任は重大であるにもかかわら ず、重要な部分である長期の保全計画をいまもって具体的に公表するに到っていな い。建ててからのメンテナンスやリニューアルといった重要かつシビアなマネジメ ントは業務委託という形で現場に背負わせ、見て見ぬふりをしていたと捉られても 仕方のない事なのである。 近年、環境問題が大きく取り上げられ、建築業界も今まで以上に無関心できめこむ ことは非常に困難になってきている。地球温暖化の原因ともなっているCO2の排出 量に関して平成 9 年版環境白書総説によると、日本の CO2 排出量は米国の 22.4%、 中国の 13.4%、ロシアの 7.1%に次ぎ、第 4 位で 4.9%(約 3 億 1,850 万 t)を占め る。南米全体で 3.1%、アフリカ全体で 3.4%という割合からも、いかに日本の排出 量が多いかがわかる。このうち、日本国内で建築関連の産業が排出している CO2 の 量は 36%(住宅運用エネルギーは 13%、業務ビル運用エネルギー は 11%)。必然 的に保存や維持管理の重要性が問われはじめ、多くの専門家が言うように21世紀が いままでの資産をいかに守っていくかという「保存の世紀」にするべく強く意識し なければならないことは間違いない。ただ、やみくもに全ての施設を保存しようと

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公共美術館の価値に関する研究

第1章 序論

いう考えはあまりにも短絡的で、膨大なコストがかかってしまう。どうやってそれ を見分けるのかが難しいのであるが、利用者側から価値があると思われる建築を保 存していくことに労力をかけるべきであるし、美術館もまた、これまで以上に存在 価値が問われている。特に公共の美術館は、より地域に根付き住民に密着したもの でなければならない。しかし、残念ながら多くの公共美術館では、運営費のかさみ 過ぎを指摘され、本来美術館が持っている多くの価値を人々は忘れかけているので はないだろうか。いや、そもそも美術館の正当な評価自体がなされていなかったの である。 バブル経済の時代に文化・芸術の発信源として多大な貢献をしたはずの企業の美術 館や劇場ホールが閉鎖に追い込まれ、公立の文化施設が予算面から活動縮小を強い られる現在、心の豊かさを失わないためにも、価値ある美術館を維持していくため には正当な評価をしなければならない。 2000 年 7 月 1 日現在、日本全国の美術館・博物館総数は私設も含め 3,054 館あり、 ※1

東京都内だけでも 242 館ある

。一時期より新設のペースは落ちてきてはいるが、

それでも毎年着実に 20 前後数の美術館・博物館が誕生している。 これらの施設において修繕時点、耐用年数及びランニングコストなどをもとにして ※2

計算された LCC(Life Cycle Cost)

による経済性の評価を行おうとする動き

※3

が出始めているが、施設の供給者側、利用者側双方の立場から施設を評価する手法 や既往研究は、ほとんどない。

※ 1 

全国博物館総覧(財団法人日本博物館協会刊行)の統計資料より参照

※ 2 

建物のライフサイクルコストを指し、その生涯費用を意味する。

※ 3 

「時間・建築・環境」、日本建築学会、ライフサイクルマネジメント基本問題特別研究委員会

  報告書、1998

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公共美術館の価値に関する研究

第1章 序論

1.3 研究有用性 これまで日本の公共建築においては施設の価値を定量的に評価しようとする動きは 一部の議論のみにとどまっており、公共美術館に到っても同様であった。本研究と 平行する形で、ようやく 2000 年 10 月には社団法人公共建築協会より VMS(Value Management System)※4 という公共建築のアプローチ方策が提案された。しかし、 VMSは「より価値の高い公共建築をつくりたいと考える行政担当者をサポートする ための仕組み(システム) 」と発足書の中でも謳われているようにあくまでも行政側 の利用を目的に考えられたものである。 本研究では、VE(Value Engineering)※ 5 や FM(Facility Management)※ 6、建 設等のプロジェクトを所期の目的通りに効率的・円滑に推進するマネジメント業務 である CM(Construction Management)※ 7 や PM(Project Management)※ 8 と いったマネジメントとは別のバリューマネジメントといった観点に立ち、評価主体 を利用者や住民におき公共美術館の評価指標を示す。 また、評価モデルを行政や公共美術館に携わる人々に示すことで、今後の改修計画 や保存の問題に対する指針となることを望む。

  ・既存美術館の評価(公共美術館計画の参考)   ・利用者、住民への美術館評価指標の提供   ・行政が行う改修計画や保存の際の指針   ・竣工後の設計者へのフィードバック

VMS(Value Management System)

※ 4 

 バリューマネジメントシステムとは「価値ある公共建築の実現」を目指し、住民、利用者、当  事者などにとって満足度・納得度の高い施設を計画するための仕組み(システム)である。こ  こでは一連の活動およびその体制のあり方について提案を行っている。 ここで提案するVMS   は、現在自治体で推進されている公共建築の計画・建設過程を念頭に置き、自治体担当者がVM  の概念を導入しやすいように配慮した仕組み(システム)となっている。

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公共美術館の価値に関する研究

第1章 序論

VE(Value Engineering)

※ 5 

 目的物の機能を低下させずにコストを低減する、または同等のコストで機能を向上させるため  の手法。公共工事の VE 方式は事業の実施段階に応じて、設計 VE,入札時 VE,契約後 VE 等  に分類される。 FM(Facility Management)

※ 6 

 企業などの組織が、自ら使用するファシリティー(土地、建物、設備、からなる施設と地域環  境や執務空間などの環境)を経営戦略的視点から総合的に企画し、管理する経営活動とされて  いる。 CM(Construction Management)

※ 7 

 民間あるいは公共の建設工事において、発注者の代理人あるいは補助者として、発注者の利益  を確保する立場から事業全体にわたって、設計管理,品質管理,工程管理,費用管理を行う方  式。 PM(Project Management)

※ 8 

 建設やエンジニアリン���事業のため有期限、単一目的のために機能統合的に編成された特別組  織の管理手法。欧米諸国においては、PM の対象は建設、国防、航空宇宙などプロジェクトを  はじめ、ほぼ全産業への広がりをみせている。

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公共美術館の価値に関する研究

第1章 序論

1.4 価値と評価 価値 価値という言葉には多くの質的な要素が含まれ、様々な使い方がされている。同じ モノを対象にしても、主観的な側面からの価値と客観的な側面からの価値がある。 「価値」  1. 物事の役に立つ性質・程度。経済学では商品は使用価値と交換価値とを持つとす   る。ねうち。効用。  2.「よい」といわれる性質。 「わるい」といわれる性質は反価値。広義では価値と反   価値とを含めて価値という。    イ . 人間の好悪の対象になる性質。    ロ . 個人の好悪とは無関係に誰もが「よい」として承認すべき普遍的な意味。                          (岩波書店「広辞苑」第四版)

特に本研究で取り扱う公共美術館は、公共施設であるという大前提のもと多くの 人々にとって恩恵を享受できる価値がなければならないのではないだろうか。例え ば東京都の美術館であるならば、やはり税金を払っている都民にとっての価値が優 先して考慮されなければならないのであろう。公共美術館の価値について議論を展 開する前に、建築界の中では建築の価値というものをどのように捉えているのか、 ここで建築の価値について扱っている既往研究の中からいくつかその価値分類につ いて概観してみる。 閑野高広氏らは超高層住宅の価値を左右する眺望価値とそれを形成している眺望対 象について明らかにしているし※ 9、小林靖樹氏らは歴史的な建造物に対する保存意 識は、認知することによって価値観が形成され保存意識につながっていると考察し ている※ 10。広松猛氏は新しい市場経済の考え方として、集合住宅における価値創出 「ライフサイクル価値」 (環境的価値、社会的価値、生活価値の 3つの要素を含む)を 提案している※ 11。同じようにライフサイクルの観点から、公共施設のもつ効用・価 値を明らかにしようと意図した有川智氏らは美術館を事例にし、仮想価値評価法に よって公共美術館の評価を行っている※12。一般に公開されている唯一ともいえる公 共美術館の価値評価の研究と思われ、価値分類を利用価値(実際の利用価値、オプ ション価値)と非利用価値(遺産価値、代理価値、存在価値)とに設定している。 以上をふまえ、本研究では運営における価値「経済価値」と文化的な影響や周辺の 環境形成に貢献していると思われる「文化価値」の大きく 2 点に分けて公共美術館

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公共美術館の価値に関する研究

第1章 序論

の価値をとらえる(表 1-1)。 表 1-1 公共美術館の価値分類  経済価値

 収支決算や総工費、維持管理費からみた価値

 文化価値

 文化的側面や周辺環境に与える影響からみた価値    利用価値 :利用することにより得られる価値    非利用価値:利用はしないが得られる価値

評価 価値を算出することによって、評価が可能になる。 「評価」  1. 品物の価格を定めること。また評定した価格。  2. 善悪・美醜・優劣などの価値を判じ定めること。特に高く価値を定めること。                          (岩波書店「広辞苑」第四版)

通常、行政の文化事業は収支を度外視した行政サービスとして予算が組まれ施行さ れる。そのため、公共建築は建物だけとしての評価はあまり問題ではなく、サービ スとしての事業の評価が重要視されている。つまり、行政サービスを行うのに適し ている建物なのかどうかだけなのである。 公共建築の中でもとりわけ公共美術館は、 行政サービスの評価という点で重要度・満足度といった評価が行われている。残念 ながら、一般的に評価が高いといわれる行政サービスは多くはない。であるならば、 どういったサービスを行うかを決める企画段階から評価を行えばいいのではないか と思われるが、この点については後ほど述べてみたい。 ここで、建築の評価について興味ある著 書を紹介したい。1996 年に発行された 「建築批評講座」 (日経アーキテクチュア 編)であるが、美術館建築では、東京都 現代美術館が取り上げられている。著者 は「名建築の条件」とは何であるか探ろ うとして、建築家と一般の人たちとの建 築に対する価値判断がかなり違っている ことに気付き、そういう状況の下で、建 図 1-1 チャート「ひまわり」

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公共美術館の価値に関する研究

第1章 序論

築を理解し批評する共通の手がかりを求めるべく「ひまわり」と呼ばれる指標を 作った(図 1-1)。「ひまわり」について著書から一部抜粋する。 「私は、建築を評価するものさしは、大きくふたつあると思っている。<名建築>とい う考え方と、<良い建築>という考え方である。良い建築とは、例えていえば、ひま わりの各項目をきちんと満たしているような建築である。建築家は、極端にいえば、夏 に猛烈に暑く冬に極めて寒いと感じる建築でも、名建築と判断することがあり得る。 しかし、社会の側にとっては、これは名建築でもないし、良い建築でもない。要は、バ ランス感覚が問題になるわけで、ひまわりの作成に際して、私が最も留意したのがこ の点である。  また、ひまわりには、なるべく難しい言葉を使わないように、意識して簡単なキー ワードを並べてある。一般的にいって、建築家や批評家の言葉は難しすぎて、結果と して建築批評の敷居を高くしてしまっていた、という反省からである。」

本書では、巻末に磯崎新氏との対談も掲載されている。 『今でも記憶している対談の 内容として、その建築の持つ意味や目的によって、評価の仕方が違ってくるのでは ないか、つまり小さなあずまやのような単純な建築と、他人数・多目的利用を目的 とした複雑な建築を比較する際に、この「ひまわり」の評価は有効ではない』と言 われたことだ、と直接著者から話を伺える機会が持てた。 「ひまわり」を全用途の建 築に当てはめようとするのは難しいが、公共建築のしかも文化施設である美術館に 限って言えば、評価項目を考えるにあたって、有効な参考となる。 公共美術館の価値をどのように引き出し評価していくのか、その手法や結果に関し ての詳細は第 3 章以降に述べるとする。

※ 9 

「超高層マンションからの眺望価値に関する研究」 、閑野高広、横内憲久、桜井慎一、日本建

  築学会大会学術講演梗概集、1997 「札幌市における歴史的建物の変化と歴史的環境の整備に関する研究 - その 2-」 、小林靖樹、

※ 10 

  野口孝博、森下満、日本建築学会大会学術講演梗概集、1997 ※ 11 

「集合住宅におけるライフサイクル価値(LCV)の提案」 、広松猛、日本建築学会大会学術講

  演梗概集、1999 ※12 

「仮想価値評価法による公立美術館施設の評価-美術館施設の維持保全に関する研究その3-」 、

  有川智、工藤勝仁、三橋博三、日本建築学会大会学術講演梗概集、2000

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公共美術館の価値に関する研究

第1章 序論

1.5 語句の定義 対象施設 東京都が保有する 5 施設に、世田谷区の世田谷美術館を合わせた下記 6施設を指す。   ・東京都庭園美術館(港区白金台)   ・東京都美術館(台東区上野公園)   ・江戸東京博物館(墨田区横網)   ・東京都現代美術館(江東区三好)   ・東京都写真美術館(目黒区三田)   ・世田谷美術館(世田谷区砧公園)

美術館・博物館 日本では1951年に定められた博物館法により、展示資料の種類によって博物館を分 類している(表 1-2)。本研究にあたって、江戸東京博物館は歴史博物館に属される が他の 5 美術博物館と同様に美術館と呼ぶこととする。 表 1-2 博物館法による博物館の分類

人 文 科 学 系 博 物 館

美 術 系

歴 史 系

美術博物館 (美術館)

自 然 史 系

 絵画博物館、東洋美術博物館

 西洋美術博物館

 彫刻博物館、工芸博物館

 近代美術博物館  歴史博物館

 演劇博物館  文化史博物館  古文書博物館

歴史博物館 (歴史資料館)

自然史博物館 自 然 科 学 系 博 物 館

 古美術博物館

 民俗学博物館

 民家園

 考古学博物館

 貝塚博物館

 地質博物館

 化石博物館、鉱物博物館

 動物博物館

 昆虫博物館

 植物博物館

飼育栽培博物館

 動物園

 モンキーセンター

 植物園

 万葉植物園

 水族館 理 工 系

理工学博物館 (科学技術博物館)

天文博物館

−  産業博物館

 農業博物館

経済価値 竣工費(イニシャルコスト)やランニングコストのように直接建築にかかった金額、 支払う税金によって測る価値。

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第1章 序論

文化価値 一般に文化とは衣食住、芸術・学問・技術・宗教・道徳・政治など生活形成の様式 と内容を含んでいるが、ここではさらに重要度や満足度、親しみやすさといった心 理的な尺度も含めた価値と定義する。同様の視点でとらえる評価を「文化的評価」と する。

仮想価値評価法(CVM) アンケート等を用いて評価対象の財等に対する支払意思額を住民や利用者等に尋ね ることで、その価値を貨幣額で評価する方法。本研究では CVM(Contingent Valuation Method)を用いて、美術館利用者や非利用者に対して美術館を維持する ために払っても構わない金額(負担金額)を尋ねて美術館の価値を金額で評価する。 もともと市場のないものに対して、仮想的に市場を作って考えようとする手法で、 環境や行政サービスの内容を評価対象者に説明した上で、その水準を向上させるた めに支払ってよいと考える金額(WTP:Willingness to Pay)、あるいは環境や行政 サービスを悪化してしまった場合、元の効果を得るのに補償してもらう時に必要な 金額(WTA:Willingness to Accept Compensation)を質問し、その解答として 得られた金額をもとに評価対象者の数に乗じて総額としての環境や行政サービスの 価値を評価するものである。 CVMの特徴は実存する環境や行政サービスばかりでなく、 仮想的な事についても経 済効果を測ることが可能である。CVMはもともとレクリエーションの価値を評価す る方法として誕生し、アメリカを中心に研究が進められていたが、1980年代に入っ てから環境問題に対する社会の関心が高まったことを背景に、環境保全政策の社会 的効果を評価するために本格的に環境政策に導入された。国内では、海外に比べる と導入は遅れたが政策的な必要性から1990年代に入ってから研究が本格的に進めら れてきている。

ヘドニック法 環境条件の違いがどのように地価の違いに反映されているかを観察し、それをもと に環境の価値の計測を行う手法である。理論的には、ヘドニック法が有効であるた

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第1章 序論

めには、①生産者や家計の地域間の移動が自由で移動コストがかからない、②土地 市場が競争的である等の条件が成立している必要がある。これらの条件は現実には 必ずしも成立していないと考えられるものの、近似的に成立しているものも多い。

費用便益分析(Cost-Benefit Analysis) 施策等の実施に伴い発生する社会的費用や社会的便益を推定又は測定し、これを貨 幣価値で表示し、その比較を行うことにより、当該施策等を実施することの妥当性 を判断する一要因とする手法である。社会的便益とは事業の結果もたらされる社会 構成員にとっての効用の増大であり、社会的費用とはその事業を行うために政府、 民間を問わず社会として投入する資源を指す。したがって、社会的費用や社会的便 益は、財務的又は財政的な便益や費用よりも広い概念で、収益や予算支出額等だけ ではなく、市場では取引されない様々なものを含む。建設省「社会資本整備に係る 費用対効果分析に関する統一的運用指針」 (平成 10 年 6 月)によれば、費用便益分 析において便益を測定・推計する代表的な手法として代替法(評価対象の財等と同 等な効果を有する他の市場財により、代替して供給した場合に必要とされる費用に よって評価する方法)、消費者余剰計測法(事業実施によって影響を受ける消費行動 に関する需要曲線を推定し、事業実施により生じる消費者余剰の変化分を求める方 法)、ヘドニック法、CVM、トラベル・コスト法(対象とする非市場財を訪れて、そ のレクリエーション、アメニティを利用する人々が支出する交通費などの費用と、 利用のために費やす時間の機会費用を合わせた旅行費用を求めることによって、そ の施設によってもたらされる便益を評価する方法)の 5 つを挙げている。これらの うち、代替法、消費者余剰計測法、CVM は、土地や建物と直接関連しない分野にも 応用可能性があると考えられる。

負担金額 美術館を維持するために、美術館利用者や非利用者が自分の税金の中からいくらま でなら出費���ても構わないかと聞いた、その負担の金額。 本研究における美術館の価値を金額という「ものさし」で仮想して評価するもの。

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公共美術館の価値に関する研究

第1章 序論

負担想定金額 美術館利用者に対して、美術館の各効用に対していくらか負担することを想定して もらい、負担しても構わないと回答した金額。 アンケート票の Q1 ∼ Q10 の項目で使用し、施設全体の仮想の負担を示す「負担金 額」とは区別する。

価値収支 通常の収支決算に文化価値を加味した収支計算

ハコモノ行政 高度成長期からバブル経済以後も各都道府県の地方自治体は公共建築の計画にあた り、まずはハコとしての建築をつくることだけを目的としていた。建物を用意して から中身は後で考えればいいといった行政の対応を揶揄して、一般的にこのように 呼ばれている。

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公共美術館の価値に関する研究

第1章 序論

1.6 研究概要 第 1 章 序論 「1.1 研究目的」において、経済価値と文化価値の評価を融合した収支モデルを用 いることによって、 公共美術館の価値を評価する手法を構築することを目的とした。 「1.2 研究背景」においては、これまでのように施設を次々と「つくる」時代から、 既存のストックをメンテナンスやリニューアルしながら「長く使いこなしていく」 方向にシフトさせていく時代に移行することを適格に読み取り、今まで論議されて いなかった公共美術館の存在価値について評価する必要性を認識するに到る経緯を 述べた。 「1.3 研究有用性」では、評価主体を行政だけではなく利用者や住民にお き、有用性を示した。 「1.4 価値と評価」では、価値や評価の意味をさぐるととも にそれぞれに関する既往研究をあげた。 「1.5 語句の定義」では、本研究で使用さ れる語句を定義し、 「1.7 研究方法」で一連の流れを示した。

第 2 章 美術館の動向 「2.1 世界の美術館」、 「2.2 日本の美術館」においては、美術館の動向について明 らかにし、 「2.3 東京都の美術館」においては東京都や関連団体へのヒアリングも 踏まえた調査を行った。

第 3 章 決算書からみた美術館の経済的評価 「3.1 東京都の決算内容」においては、東京都と世田谷区の財政状況を分析して 「3.2 美術館の決算内容」においては、東京都の 5 施設及び世田谷区の美術館の決 算内容を読み解いた。 「3.3 経済的評価」では、財務分析の結果から経済的評価を 行った。

第 4 章 CVM を用いた美術館の文化的評価 「4.1 調査方法」において、CVMを用いた調査方法に触れ、 「4.2 アンケート結果」 にて、美術館の利用者及び非利用者のアンケート結果を示した。 「4.3 文化的評価」 では、アンケート結果から文化的評価を行った。

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

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公共美術館の価値に関する研究

第1章 序論

第 5 章 文化価値を含めた美術館の収支モデル 「5.1 モデルの考え方」 において、公共美術館を評価するにあたってのモデルフロー を示し、 「5.2 文化価値を含めた収支モデル」において、実際の収支計算において 美術館の文化価値を組み込んだモデルのシミュレーションを提示した。

第 6 章 結論 「6.1 美術館の価値」においては、前章までの結果をふまえて 6 施設の美術館の価 値について評価し、 「6.2 今後の展望」において、公共美術館のさぐるべき方向性 について言及した。

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

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第1章 序論

1.7 研究方法 文献調査 過去に発表された建築論文の他に、費用便益分析の視点から行う価値評価の研究で は先進である環境分野の手法を参考にする。

訪問調査 東京都の施設管理を総括している東京都の財務局営繕部をはじめ、下記部署及び各 美術館を訪問し、ヒヤリングを行う。  ・東京都財務局営繕部コスト管理室  ・東京都生活文化局  ・財団法人東京都歴史文化財団  ・財団法人東京都生涯学習文化財団  ・世田谷区建設・住宅部施設保全課  ・江戸東京博物館管理課  ・東京都写真美術館管理課   ・東京都庭園美術館管理係  ・東京都現代美術館管理課  ・東京都美術館管理係

アンケート調査 プレ調査を行ってから、各美術館の出口付近で利用者へのアンケートを行い、学校 や街頭において非利用者へのアンケートを行う。

決算書分析 東京都及び世田谷区から一般に情報公開されている決算書をもとに、別途東京都か ら協力していただいた一部施設の維持管理のデータと合わせ読み取りを行う。

モデル作成 調査をもとに求められた結果から、実際の収支計算において文化価値を組み込んだ モデルを作成する。

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

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公共美術館の価値に関する研究

第1章 序論

シミュレーション 施設毎にモデルのシミュレーションを行う。

評価 シミュレーションの結果から、各美術館の価値を評価する。

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第2章 美術館の動向


公共美術館の価値に関する研究

第2章 美術館の動向

2.1 世界の美術館 美術館・博物館は、18 世紀ヨーロッパの啓蒙主義期の産物である。それまでの王族 や貴族の私的コレクションは権力の象徴としての機能を果たしていたが、啓蒙主義 期に至ってそれらが公開されることで、世界や文化への歴史的認識を民衆に開眼さ せる機能を果たすことになった。さらには、世界や文化を体系化する思想の一環と しての美術館や博物館の企画の延長上で、その対象を広げて同時代の「もの」を展 示し、観賞の対象とする博覧会が19 世紀に至って生まれるまでになる。この最初の 博覧会が 1851 年にロンドンで開催された万国博覧会であった。 そんな英国では今、知の産業革命として「ミュージアム産業」がさまざまな分野に 波及している。1970 年代後半の英国は、失業率は 10%を超え、GDP はシンガポー ルにも抜き去られ、世界中から「英国病」とさえ揶揄されるほど、危機的経済状況 に直面していた。その間に誕生したサッチャー政権によって、国家規模の大リスト ラが断行されたことは多くのところで取り上げられているとおりである。そういう 環境にあった英国で、赤字を累積する一方のミュージアムが、今日のわが国の比で はない大胆な予算の削減や補助の打ち切りのターゲットとなった。 ところが、リストラされたはずのミュージアムは、その集客を右肩上がりに増大さ せ、1983 年にはミュージアムへ行った人は、映画館へ行った人を上回ってしまう。 英国のミュージアムは、人々を集客し消費させることで、自らが雇用を生みだし、地 域に富をもたらす原動力となり、新たな産業として期待され、全国各地に設立され ていくことになる。すなわち、この間にミュージアムは資金を消費する機関から、資 金を生みだす機関へその体質を転換することを実に見事にやってのけたのである。 そして、英国で起きたミュージアムの活況は、ミュージアムにとどまることはなく、 あらゆる産業に波及していく。遊園地、スポーツ観戦、名所旧跡のパック旅行が主 流を占めていた観光は、教会・聖堂、史跡・建物そして博物館、美術館や歴史的な 町で、個人の知的な満足を満たす観光にとってかわられるようになる。 英国では歴史や文化との出会いや老舗の味や地域のオリジナリティなど、ミュージ アム的な要素を付加価値として組み込んだ商品開発があらゆる分野で試みられるよ うになり、いわば「ミュージアム産業」ともいえる新しい産業が創造され、富が生 みだされていったのである。 サッチャリズム後の英国は、世界中からモノとカネを集めて「規模の経済」によっ

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第2章 美術館の動向

て富を生みだす「工場産業」 「工場社会」に代わるものとして、世界中から人を集客 することで知や楽しみを生みだし、それを消費してもらい人々を幸福にして、その 結果として富を生みだしていく「ミュージアム産業」を新たなリーディングインダ ストリーとして創造したのである。 英国のように美術館・博物館を産業にまで発展させた国は珍しいが、世界的にみて も企業化の流れは止められない。 美術館運営の改革は世界中で進んでいる。このほど文化庁が民間のシンクタンク、 CDIに委託して、世界の国立博物館・美術館の現状と文化政策の実情をまとめた。米 国、英国、フランス、ドイツ、イタリアの五カ国を調査したこのリポートからも意 識改革の実態が浮かび上がる。 「館長並びに館幹部は現代の経営学の基礎を研修する」と、ドイツでは 95 年、各州 文化大臣常設会議が州立美術館の効率的な運営のため、9つの改善策を提示した。ラ イプチヒ現代美術館では、ザクソン州とライプチヒ市、民間が資本金を分担して有 限会社を設立するなど、新しい運営方式の模索が続く。州や自治体主導型が多いド イツや、国への依存度が低く、美術館の独立心が強い米、英だけではない。大型館 はすべて国公立で「美術館は官の事業」とされるフランスでも「補助金の効率的な 使い方を考え、さらには官立の美術館という根幹を残しつつ私的経営形態を取り入 れるようになっている」とキュレーターの清水敏男氏は指摘する。たとえばルーブ ル美術館は 92 年に、ベルサイユ美術館は 95 年に美術館の運営の一切をとりしきる 「公共企業体」を設置した。いわば業務の「外部委託」といえるが、美術館長が企業 体の理事長を兼ねることで、美の殿堂としての伝統と、民間の力による合理性を両 立させようとしている。 米国の調査を担当した林容子武蔵野美術大学講師は「日本の美術館がこれから始め ようとしている試行錯誤を、米国などは 20 年前から繰り返してきた」と指摘する。 米国で唯一の国立組織として16の博物館、美術館などを擁するワシントンのスミソ ニアン研究所が、97 年に発行した一般向けのクレジットカードもその一例。カード 会社と提携、カード会員を獲得するごとに、さらにカード使用のたびに、一定額が 研究所に寄付される仕組みだ。一方で、 「資金集めに奔走するあまり、美術館本来の 役割が等閑視されてはいないか」という声は米国でも上がりつつある。岩渕潤子氏

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第2章 美術館の動向

(美術館運営・管理学)は、 「館長や学芸員が美術館を離れて大学など別の機関に流 出している。研究がなおざりにされていることへの“反動”ではないか」と語る。 美術館が大競争時代に入ったことは間違いない。しかしこれまで築き上げてきた美 の研究機関としての役目と効率化のバランスをどうとるのか。その課題は依然、未 解決のままだ。

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第2章 美術館の動向

2.2 日本の美術館 美術館・博物館は 19 世紀末の日本に突然移入された。 例えば、 「帝室博物館」 (1881 年竣工、関東大震災で焼失)は、18 ∼ 19 世紀の西欧 の博物館と博覧会の二つの試みが一つにクロスして実現した建築である。新たに整 備された上野公園がその建設地となったが、1877年に最初の内国勧業博覧会が開催 された土地でもある。その直後に起工されて実現した「帝室博物館」は、2 階建ての 煉瓦造で、外国人建築家ジョサイア・コンドルによる設計であった。その建築は、殖 産興業推進のための象徴的空間としてその後の勧業博覧会でもしばしば活用された。 つまり、国家の火急のプログラムである「近代化」あるいは「西欧化」の極めて具 体的なシンボルとして建設されたのが、上野の「帝室博物館」であり、それを実現 したのが外国人建築家であったという点でも象徴的である。 西の都の京都にも、 「帝国京都博物館」 (1897 年竣工、現・京都国立博物館)が実現 する。この博物館を設計した片山東熊は、のちに東宮御所としての「赤坂離宮」を 設計するが、その博物館は日本人建築家による建築の西欧化の典型的な例であり、 まさに和魂洋才の具現化であった。片山は、宮内省匠寮のいわゆる宮廷建築家とし て皇室関係の建築という限られた世界で空間を実現していた人物であるが、彼がそ の博物館を京都という地で西欧建築の様式で実施したことは象徴的である。皇室の 空間を、西欧的な様式で埋め尽くしたのと同様に、彼は新たな国家の建築的スタイ ルの指針としてその博物館を設計した。博物館はまさに産業文化を体現する国家の 要となる空間であった。 そうした西欧的な様式からの脱却が明瞭になるのは第一次世界大戦後である。関東 大震災で焼失した上野の帝室博物館の再建のために、1931 年に開催された「東京帝 室博物館」のコンペでは、渡辺仁の設計案が勝利を収める(1937 年竣工、現・東京 国立博物館) 。それはいわゆる「帝冠様式」と呼ばれる日本趣味的建築様式で、当時 の国家の建築のスタイルを代弁することになる。第���次世界大戦に突入するまで、 帝冠様式は隆盛をきわめるが、そうした意味でも戦前の「「東京帝室博物館」は、時 代の要請、あるいは国家の要請をきわめて建築的に表現した作品であった。 終戦後、社会が一変したのと同様に建築もまた転換する。 ル・コルビジュの基本設計による「国立西洋美術館」 (1959 年竣工)の実現を契機 として、60 年代以降各地に博物館以上に美術館建設が推進されることになった。

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第2章 美術館の動向

戦後の日本社会において博物館は、 「モノが遺ってしまったので、博物館にでもしよ う」という経緯かもしくは、たまたま美術や歴史に理解がある首長がいて記念碑的 につくられたものがほとんどであり、それは娯楽の対象でもなければ教育の対象と なりうることもなく、専門家のための閉ざされたコミュニティにすぎなかった。こ れは、1948 年の博物館法で登録された博物館は 238 館であったが、20 年後の 1968 年にもわずか338 館と 100 館増大したにすぎなかったというデータにも見事なまで にあらわれている。 閉ざされたコミュニティにすぎなかった美術館・博物館が、より多くの人々から認 知され、急増しはじめるようになるのは1970年に大阪で開催された国際万国博覧会 (大阪万博)以後のことである。大阪万博でもっとも脚光をあびたのは、アメリカ館 に展示されたアポロ 11 号が持ち帰った月の石である。それがきっかけとなり、 「異 界にある珍奇なモノを見る」という行為がもてはやされるようになっていった。そ ういうブームを背景に「美術館や博物館は、珍奇なモノを見せてくれる娯楽施設」と して注目されるようになり、徐々にではあるが全国の自治体で建設されるように なった。 この動きを加速させたのが、山梨県立美術館であるといえるだろう。1979 年にミ レーの「種まく人」を 1 億 7000 万円で購入・公開した山梨県立美術館は、10 年間 の入館料で10億円を超える収入をあげ地域に多大な経済効果をもたらすことになっ た。これにあやかり、有名絵画を目玉に集客を目指し、それで地域を活性化してい こうという美術館が宮城、福島、埼玉など全国各地に建設され、美術館・博物館は、 「人々を集客し、地域に富をもたらす場」、すなわち地域活性化の原動力となる経済 施設の第一歩を歩みだすことになった。 エポックメイキングとされている国公立の美術館を中心に歴史をまとめた(表2-1、 表 2-2)。

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第2章 美術館の動向

表 2-1 日本の美術館の歴史(その 1) 年代

開館年

1900年以前

1881

広島平和記念資料館

1938

1980年代

備考

1955

1908 1930

1970年代

設計者名

1951

1897

1950∼60年代

所在地

ジョサイア・コン 関東大震災で焼失 ドル 奈良国立博物館 奈良 片山東熊 帝国奈良博物館として開館。1952年に奈良国立博物 館となる。 京都国立博物館 京都 片山東熊 帝国京都博物館として1897年に開館。1952年に京都 国立博物館と改称して現在に至る。 東京国立博物館表慶館 東京 片山東熊 大正天皇御成婚を記念して設立され、大震災は免れ た。 大原美術館本館 岡山 薬師寺主計 分館は1960年、工芸館は1962年、東洋館は1970 年、1991年に本館増築 東京国立博物館本館 東京 渡辺仁 昭和天皇の即位を記念して1938年に開館。1952年に 東京国立博物館と改称。 神奈川県立近代美術館本館 神奈川 坂倉準三 日本初の公立近代美術館。

1895

1900∼40年代

美術館名 帝室博物館

広島

丹下健三 今井兼次 碌山・荻原守衛の彫刻とゆかりの作家の作品。近代 彫刻を収蔵。 基本設計:ル・コ 1959年に本館、1979年に新館が増築され、現在増築 ルビジュ 新館: 計画が進行中。ル・コルビジュの美術館構想が初め 前川國男 て実現した、また日本に建った唯一の建築。コルビ ジュの基本設計を日本の三人の弟子(前川國男、坂 倉準三、吉阪隆正)が協力して、実施設計を担当。

1958

碌山美術館

長野

1959

国立西洋美術館

東京

1960

大和文華館

奈良

吉田五十八

1960

五島美術館

東京

1961

玉堂美術館

東京

本館:吉田五十八 天平時代から近世の美術。 別館:野村加根夫 吉田五十八 日本画家・川合玉堂の個人美術館。

1966

山種美術館

東京

谷口吉郎

1968

東京国立博物館東洋館

東京

谷口吉郎

1969

東京国立近代美術館

東京

谷口吉郎

1969

島根県立博物館

島根

菊竹清訓

1969

大阪

川崎清

1970

日本万国博覧会美術館 (現・国立国際美術館) 兵庫県立近代美術館

兵庫

村野藤吾

1970

遠山美術館

埼玉

今井兼次

1970

北九州市立美術館

1971

埼玉県立博物館

埼玉

前川國男

1972

奈良国立博物館陳列館新館

奈良

吉村順三

1972

栃木県立美術館

栃木

川崎清

1973

熊本県立美術館

熊本

前川國男

1974

群馬県立近代美術館

群馬

磯崎新

1975

東京都美術館

東京

前川國男

1975

小諸市立小山敬三美術館

長野

村野藤吾

1977

国立民族学博物館

大阪

黒川紀章

1979

福岡市美術館

福岡

前川國男

1979

田部美術館

島根

菊竹清訓

1980

原村歴史民俗資料館・八ヶ 岳美術館 軽井沢セゾン現代美術館

長野

村野藤吾

1981

長野

菊竹清訓

1981

渋谷区立松涛美術館

東京

白井晟一

1982

日本浮世絵博物館

長野

篠原一男

1983

東京都庭園美術館

東京

宮内省内匠寮工務 1933年に朝香宮邸として建てられたもので、アー 課/アンリ・ラパ ル・デコの装飾形式をほぼ完全な形で現在に伝える ン 貴重な建物。1983年より美術館として一般に公開。

1983

国立歴史民俗博物館

千葉

芦原義信

1983

釧路市立博物館

釧路

毛綱毅曠

東洋美術を収蔵。

近・現代の日本画。

日本や中国の絵画・工芸品など。

北九州 磯崎新

茶道に関わる書画、陶磁器を中心とする。

1991年にセゾン現代美術館と改称。

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第2章 美術館の動向

表 2-2 日本の美術館の歴史(その 2) 年代

開館年

1980年代

1983

1990年代

美術館名

所在地

設計者名

備考 写真家・土門拳の作品を収蔵。

1983

土門拳記念館・酒田市写真 山形 谷口吉生 展示館 岩崎美術館 鹿児島 槇文彦

1983

谷村美術館

新潟

村野藤吾

彫刻家澤田政廣の個人美術館。

1984

埼玉県立近代美術館

埼玉

黒川紀章

1984

伊豆の長八美術館

静岡

石山修武

1986

岩崎美術館工芸館

1986

世田谷区立世田谷美術館

1986

田崎美術館

1986

京都国立近代美術館

1988

茨城県立近代美術館

茨城

吉村順三

1988 1988

ハラ・ミュージアム・アー 群馬 磯崎新 ク 川崎市民ミュージアム 神奈川 菊竹清訓

1988

岡山県立美術館

1989

横浜美術館

1989

飯田市美術博物館

長野

原広司

1989

広島市現代美術館

広島

黒川紀章

1990

水戸芸術館現代美術セン ター 川村記念美術館

茨城

磯崎新

1990

千葉

1990

浦添市美術館

沖縄

海老原建築設計事 務所 内井昭蔵 沖縄県初の美術館。

1991

石川県能登島ガラス美術館

石川

毛綱毅曠

1991

香川

谷口吉生

熊本

伊東豊雄

八代地方の歴史資料。

1992

丸亀市猪熊弦一郎現代美術 館 八代市立博物館未来の森 ミュージアム 海の博物館

三重

内藤廣

海と人間の歴史の総合博物館。

1992

奈良市写真美術館

奈良

黒川紀章

1992

郡山市立美術館

福島

柳澤孝彦

1993

江戸東京博物館

東京

菊竹清訓

1994

奈義町現代美術館

岡山

磯崎新

1994

香川

安藤忠雄

大阪

安藤忠雄

1995

直島コンテンポラリーアー トミュージアム サントリーミュージアム天 保山 東京都現代美術館

東京

柳澤孝彦

1995

東京都写真美術館

東京

久米設計

1995

植田正治写真美術館

鳥取

高松伸

1996

豊田市美術館

岐阜

谷口吉生

1996

高知

古谷誠章

1997

香北町立やなせたかし記念 館アンパンマンミュージア 安曇野ちひろ美術館

長野

内藤廣

1997

福井市美術館

福井

黒川紀章

1997

宇都宮美術館

栃木

岡田新一

1997

酒田市美術館

山形

池原義郎

1991

1994

左官職人・入江長八の個人美術館。

鹿児島 槇文彦 東京

内井昭蔵

内井の美術館に対する理想の表現で「健康な建築」 という建築に対する理念が実現。エントランスホー ルの壁に金文字で「芸術は自然と一体となって健康 に導く」というローマの格言が刻まれている。

長野

原広司

田崎廣助の個人美術館。

京都

槇文彦

1963年近代美術館京都分館として発足、1967年に京 都国立近代美術館となり、1986年に新館に。

岡山

岡田新一

神奈川 丹下健三

我が国初の公立の現代美術館。

写真家・植田正治の作品を収蔵。

絵本画家・いわさきちひろの個人美術館。

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第2章 美術館の動向

また、こうした美術館・博物館建設の背景には多くの財界人の趣味が嵩じた公共精 神が大きく影響を与えた。メセナ活動と呼ばれるものだが、特筆すべきは大原美術 館を創設した大原孫三郎であろう(表 2-3)。西洋美術を日本人に紹介するため画家 の児島虎次郎に委嘱して西洋絵画などを収集させ、息子の総一郎もコレクションの 充実に努めた。ブリジストン美術館の石橋正二郎も光る。小学校の恩師、坂本繁二 郎から青木繁の作品収集を頼まれたのがきっかけである。米国を旅行して有名な美 術館が文化向上の貴重な存在であることを知り、 「コレクションを一人で愛蔵するよ り、多くの人に見せるため美術館を作り、文化の進歩に尽くしたい」と決意した。案 外知られていないのが東京国立近代美術館の造営寄贈だ。ほかに根津嘉一郎の根津 美術館、出光佐三の出光美術館、五島慶太の五島美術館も有名だが、スケールが度 はずれたのが松方コレクションの松方幸次郎である。造船業で得た莫大な資金をも とに、日本に西洋美術を紹介しようと欧州で数千点を集めた。日本に送られたもの はほとんど散逸したが、戦後、フランスに残された絵画 308 点、彫刻 63 点が仏政府 の好意で日本政府に寄贈され、受け入れのため国立西洋美術館が新設された。 表 2-3 財界人と美術館

【大倉喜八郎】

 大倉商業学校(現東京経済大学)設立。東洋美術品を収集し大倉集古館に

【安田善次郎】

 東京帝国大学へ講堂寄付。東京市政調査会館(日比谷公会堂)原資を寄付

【根津嘉一郎】

 旧制武蔵高校を開校。美術品コレクションは没後、根津美術館(東京)に

(東武鉄道)

【横河 民輔】

 東京国立博物館の横河コレクション

(横河グループ)

【松方幸次郎】

 1万点を超える美術品コレクションが国立西洋美術館誕生のきっかけに

(川崎重工業)

【大原孫三郎】

 大原美術館(倉敷市)設立。大原社会問題研究所(法政大学内)設立

【五島 慶太】

 邸宅が五島美術館(東京)に。東横学園を設立

(東急グループ)

【出光 佐三】

 出光美術館(東京)を設立

【佐治 敬三】

 サントリー美術館(東京)を設立

(サントリー)

【石橋正二郎】

 ブリジストン美術館(東京)を開館。東京国立近代美術館を寄贈

(ブリジストン)

【山本為三郎】

 陶芸コレクションは大山崎山荘美術館(京都)に

(アサヒビール)

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第2章 美術館の動向

これまで見てきたように、美術館・博物館は殖産興業の推進や文化の啓蒙をめざし て日本でスタートした。したがって、それがきわめて国家的指向の強い空間を生み 出す契機となり、それらの建築はあるときは「西欧」を、またあるときは「日本」を 強く指向する空間のスタイルを時代の中で体現していた。戦後を経てそうした潮流 は変化したが、美術の収蔵・展示という文脈から離れた「空間」としての美術館建 築が出現するまでになった。それは、ある意味では「国家」の意志に代わる「建築 家」の意志の強烈な表明でもあった。しかし現代に至って、そうした状況は徐々に 変化しつつある。特にバブル経済期を境に美術館や博物館は氾濫状態にあると一般 的にいわれているが、はたして本当に必要悪なのであろうか。大局で漠然ととらえ ずに、美術館の現状を伝えている資料から読み取りたい。

さまよえる美術館 1 - 下降線たどる客足 -(日経新聞 1999 年 11 月 1 日付) 「ゴールデンウイーク人出総括表」と記された調査がある。静岡県伊東市内にある各 観光施設に、1997 年の連休期間中、何人が訪れたかを、東京都台東区の総合美術研 究所が比較調査した一覧だ。来年で開館 25 年を迎える「池田 20 世紀美術館」は、ピ カソからアンディ・ウォーホル、さらに鶴岡政男、池田満寿夫ら今世紀に活躍した 内外の著名芸術家の作品を数多く収蔵する。地域でも有数の観光拠点だったが、同 連休中の入館者は約 3,400 人。 一方、 「伊豆デディベア・ミュージアム」の入館者は、同じ地区内の美術館で最多の 約10,800人を記録した。あのぬいぐるみのデディベアを収蔵・展示する施設である。 池田 20 世紀美術館によると、入館者数は年間約 17 万人を記録した 91 年以来、減少 の一途をたどり、98 年度には 65,000 人にまで落ち込んだ。90 年代に入って人形や ガラスなど様々な美術館が、周囲に乱立したあおりを受けた格好だ。 美術館離れは全国的な現象だ。文部省の調べでは全国の国公立・私立美術館の入館 者数は 90 年の約 3200 万人をピークに下降線をたどり、96 年には約 2500 万人まで 減った。文化施設の調査などを手掛ける丹青研究所の調べでは、美術系博物館の1年 間での開設数は、95 年度の 84 館から 96 年度には 105 館に伸び、その後も微増を続 けてきたが、98年度には減少に転じた。 「建設計画や構想の凍結も相次いでおり、今 後さらに減少することも考えられる」と里見親幸・文化空間研究本部長は指摘する。

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第2章 美術館の動向

バブル期までの計画で各地に誕生したものの、景気の冷え込みとともにパイの奪い 合いが始まり、展示の先進性や芸術上の価値を追求するだけでは立ち行かなくなっ てきたのである。 「美術館という名前はいらない」。山梨県河口湖畔にある「河口湖オルゴールの森」 は、今年 9 月の開館後まもなく施設の名称から「美術館」という言葉を取り払った。 「閉ざされたイメージだから」というのが理由だ。オーナーで東京都八王子市などで 和洋飲食店を経営する鵜飼貞男・うかい社長は、 「サービス業の目で見ると今の美術 館のありようは信じがたい」と語る。河口湖オルゴールの森には 10 月の 3 連休中、 8,200 人の来館者があった。その運営は昨年、約 80 万人が訪れた箱根ガラスの森の ノウハウを受け継いでいる。どちらも入り口は、避暑地に立つ別荘のようなたたず まいだ。 「女性客に“私の美術館”という意識を持ってほしいからです」と鵜飼社長 は明かす。 「私の場所だと感じた女性は、次は恋人と、その次は家族と一緒に何度も きてくれる」 。 丹青研究所の里見本部長によれば、米国ではここ数年、こうした美術館の「パーソ ナライゼーション(自分化)」の研究が進んでいるという。美術館の大小を問わず、 米国では来館者の教育レベルや年収までも調査し、サービス向上にしのぎを削る。 オルゴールの森の試みは、はからずも日本の美術関係者の意識の遅れを浮き彫りに している。

さまよえる美術館 2 - 宙に浮くコレクション -(日経新聞 1999 年 11 月 2 日付) 岡本太郎の「太陽の塔」が目の前にそびえ立つ大阪モノレールの万博記念公園駅。駅 舎の片隅に、大きな現代彫刻が点々と並んでいる。大阪府所蔵の作品で、昨年 5 月 からモノレールの計 16 駅に設置された 41 点のうちの一部だ。多くの府民に鑑賞し てもらうという狙いながら、通行の妨げにならないように置かれており、人目にと まりにくい。理想的な展示空間とは言い難いこの光景、実はある美術館の建設計画 の凍結が、大きな影を落としている。 大阪府は 87 年、 「世界に誇れる文化拠点に」と美術館を核にした現代芸術文化セン ター(仮称)の建設を構想、これまでに約 8 億円を投じて約 7,000 点の美術作品を 収集した。しかし 90 年代に入って財政危機が深刻化し、建設は凍結。購入作品のほ

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第2章 美術館の動向

とんどは、大阪市内の民間企業の倉庫に“お蔵入り”となった。倉庫代は年間 4,400 万円かかる。駅での設置は、作品を生かし、倉庫代を浮かすための、いわば苦肉の 策。この措置で 400 万円軽減できた。ただし展示作品の作者の一人、彫刻家の森口 宏一氏は「作品が日の目を見たのはうれしい。でも戸惑いもある。外での展示を前 提に制作した訳ではなく、作品が生きていない」と複雑な心境を語る。 コレクションは形成したのに、肝心の常設展示場が財政難で新設できない。大阪府 と同じ事態が大阪市でも起きている。構想中の市立近代美術館(仮称)の開館は、当 初予定の今世紀中から大幅に遅れ、早くても2006年以降にずれ込む見通しだ。所蔵 品 725 点には、約 19 億円で購入したモディリアーニの「髪をほどいた横たわる裸 婦」をはじめ、ダリ、佐伯祐三ら著名作家の作品が多数含まれる。 「死蔵は避けたい」 (市教委)と展覧会を年一回、1 カ月程度の期間で開いているが、 会場は中心街から離れた大阪・南港のアジア太平洋トレードセンター(ATC)。一日 の賃貸料は 70 万円だ。ATC は市の第三セクター。 「これで赤字運営の穴を埋めるつ もりでないか」という声が美術関係者から出るなど、不況下での文化行政運営の難 しさが浮かび上がっている。 既存の美術館でも、財政ひっぱくの影響は顕著だ。6億円の購入基金をもつ愛知県美 術館は99 年度、緊縮政策を掲げる県の方針で基金を使えない状態だ。岡山県立美術 館では、99 年度の予算が昨年度の半分に減り、作品購入も昨年度からストップして いる。 「良いものがあっても、目の前を通り過ぎていくのを指をくわえてみているし かない」(上西節雄学芸課長)と担当者からは、ため息がもれる。 元セゾン美術館館長の難波英夫氏は、 「日本の美術館は建物と作品収集ばかり重視し ている」と指摘する。 「美術館は美(作品)、術(展示や普及活動) 、館(建物)の総 合体のはずだが、日本は術の意識が薄い」という。美と館にとらわれた運営側の都 合が先行し、鑑賞者本位の意識が忘れられてしまう。宙に浮いたコレクションから は、日本の美術館文化が抱える空洞が見えてくる。

さまよえる美術館 3 - 作品購入に不信の目 -  (日経新聞 1999 年 11 月 3 日付) 1 枚が縦 8.7 m、横 14 m。巨匠シャガールが 1942 年、あるバレエ上演のために描 いた 3 枚の巨大な作品が今、波紋を広げている。

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第2章 美術館の動向

この舞台背景幕「アレコ」は、2003 年に完成予定の青森県立美術館(仮称)の呼び 物にするため、県が 94 年、総額 15 億円を支払って購入した。ところが、その購入 の経緯に対し、市民が疑問の声を上げた。 今年 4 月、 「情報公開を求める青森県民の会」と「青森市民オンブズマン」が、 「購 入経緯に不審点が多い」として12 項目にわたる問題点を記した文書を、県に提出し た。購入価格は適正だったのか、画商を通じた取得経過に問題がなかったか、購入 決定までの審議は公正になされたか、などについて問いただしたものだ。これを受 けて 6 月に青森県教育委員会の職員 9 人による調査チームが発足。さらにその調査 結果を審議する目的で、9 月に民間の有識者ら 11 人を集めた「アレコ問題懇話会」 なる県のチェック機関までできた。4日には第二回の会合が開かれる予定で、小野行 信美術館整備・芸術パーク構想推進室長は「県職員による調査結果を、懇話会で客 観的に判断してもらう。審議の結果が出た段階で公表していく」と語る。美術館の 構想段階では青森、弘前、八戸の三市で市民らの意見を聞く懇話会を開くなど「県 民のニーズをくみ取った美術館作り」 (小野室長)を目指していただけに、にわかに 沸き起こった論争にとまどいを隠せない。 美術館の運営・管理に詳しい岩渕潤子氏は「日本では作品の購入一つにもコネや人 脈が影響し、 公正さが保たれていないという懸念を市民が持っているのではないか」 と指摘する。岩渕氏によると、ほとんど民間の非営利団体が運営する米国の美術館 の場合、理事会が作品の購入を決定した後に助成金や寄付などの資金集めを始める ことが多い。「資金があるから買う」のではなく、市民も寄付、寄贈という形で自 らの意思を美術館の活動に反映させるシステムができている。 日本の公立美術館にも作品の購入価格や収集の是非について審議する仕組みはある。 美術関係者など専門家で構成する委員会が設けられ、 さらに高額な作品については、 議会承認というチェック機能もある。しかし、公立美術館と取り引きの多いある画 商は「購入の決定にかかわる人たちがあまりに美術マーケットのことを知らなさす ぎる」と批判的だ。 「作品の来歴や価格の情報を徹底的に調べるのは画商の義務。行 政側はなぜそれを求めないのか」と自省も込めて語る。一方では美術館を支えるは ずの市民の意識が成熟していないという指摘もある。 「美術館ブームとか地方文化の 充実など結局は幻想だった」。関東地方にある公立美術館の学芸員がつぶやいた。そ

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第2章 美術館の動向

の県では 4 年前、地域に根差した美術館を目指し、地元の美術家や愛好者の強い要 望も取り入れて地元作家の作品を収蔵する美術館が誕生した。しかし開館後も住民 の入館者は全体の 1 割以下。「美術館を支えていく気持ちがまるでない」と嘆く。 個人で美術展の企画を手掛けているキュレーターの清水敏男氏は公立美術館を設立 する前に「地域の住民が何を求めているのかをもっと真剣に議論すべきだ」と語る。 さらに「税金でまかなう美術館である以上、作品の購入を審議する委員会の審議内 容は公表すべきだ。こうしたルール作りを徹底しなければ、美術館が地域の住民に 見放されても当然」という。 ブラックボックスの作品購入とあなたまかせの住民意識−。公立美術館は一体だれ のものだろう。   さまよえる美術館 4 - 迫る独立行政法人化 -(日経新聞 1999 年 11 月 4 日付) 東京・上野に“地下都市”を建設する構想がある。東京国立博物館、西洋美術館な ど国公立の美術館・博物館、東京芸大や東京文化会館などの各文化施設と JR・京成 の上野駅を地下で直結、商店やレストランを併設した地下プロムナードをつくり、 上野全体をひとつながりの文化拠点にするという壮大なプランだ。 キャッチフレーズは「上野の山を、ルーブルに」 。地元商店街や台東区などを巻き込 み、数の力で「フランスのルーブル美術館にもひけをとらない巨大なナショナル ミュージアムの創出」 (パンフレットから)を目指す。西洋美術館など 22 団体で構 成する上野の山文化ゾーン連絡協議会(平山郁夫会長)はこれまでに 3 回、実現に 向けてトップ会議を開いた。 構想を提案したのは国立西洋美術館の高階秀繭館長。その脳裏にあったのは、2001 年 4 月に予定されている国立美術館・博物館の独立行政法人化だ。行政改革の一環 として実施される独立行政法人化は、国立の美術館・博物館などに国とは別の法人 格を持たせ、業務の効率化を目指す政策。独立採算性ではないが、企業会計原則を 採用、国の予算の代わりに交付金を受け、民間からの寄付金などと共に美術館が独 自に運営する。業績の評価では外部期間のチェックも入る。 入場料など収入が運営費の 1 割程度しかないといわれる日本の国立美術館は、厳し い運営を迫られる。高階氏はそうした新時代の美術館運営に際し、集客のために地

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第2章 美術館の動向

下を有効活用しているルーブル美術館が手本になると考えた。 「企画展を開く時だけでなく、常に人が来るようにしておかないといけない。 それも、 見学者の問いかけに即座にこたえられる双方向型の美術館を目指す必要がある」 。 独立法人化は、今後、国立機関ごとに法律をつくり、具体化に動き出す。組織上は、 全国に 3 つある博物館が 1 つに、同じく 4 つある美術館が 1 つに統合される見通し だ。美術館、博物館とひとくくりにしたところで、生い立ちも、扱う時代やテーマ も違う者同士が一緒になって本当に円滑な運営ができるのか。生き残りをかけて吹 き荒れる金融界の合併ではないが、統合までに少しでも自己に有利な状況をつくり 出そうとの思惑もうかがえる。 奈良国立博物館は10月、韓国の国立慶州博物館と学術交流協定を結んだ。共同研究、 シンポジウムや展覧会の共同開催、文化財の相互貸借などを進めるという内容。海 外とのこの種の協定は珍しい。奈良博は東京、京都の国立 2 館と比べると陣容は小 さく、収蔵品も少ない。3 館が一緒になれば、規模で劣る奈良の不利は否めない。そ こで、かねて親しい関係にある韓国の有力博物館と提携し、 「仏教文化に強い博物館」 を強くアピールし独自の存在感を示そうとしていると言える。海外との提携は国立 機関に限らない。いずれ独立法人化の影響が及びそうな公立美術館・博物館にも動 きがある。名古屋市博物館はこれまでの実績を踏まえて、ウィーン市立博物館との 提携を模索中だ。 「相互に作品を貸借するなど企画展のコストダウンも可能」と井上 光夫学芸課長は言う。 こうした内外の文化施設との提携は、国や自治体に守られて生きてきた美術館が、 荒海にこぎ出そうとする際の不安と焦燥を、象徴しているようだ

はく製触って、粘土こねて新鮮体験 (日経新聞 2000 年 1 月 20 日付) 展示物に直接触ったり、自然環境を疑似体験できる「体験型」の博物館や美術館が 人気を呼んでいる。 幼い子供でも遊び感覚で楽しめるとあって親たちの評判も上々。 文部省が体験学習普及の一環として後押ししていることもあり、こうしたタイプの 博物館や美術館は今後も増えそうだ。 東京・上野の国立科学博物館の新館 3 階の「たんけん広場・発見の森」は、展示室 全体に雑木林を再現した。時間とともに鳥・虫の鳴き声や照明の明るさが変化し、30

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第2章 美術館の動向

分ほ���で林での一日を疑似体験できる。 「展示品には触れないでください」の注意書 きはなく、林の中でシカやイノシシ、キツネなど野生動物のはく製に直接触れるこ とも可能。同博物館普及課は「自然の中には面白いことがいっぱい詰まっているん だということを自分で発見してもらう」という。 昨年 6 月にオープン、宇宙飛行士の毛利衛さんが名誉館長を務める福井県児童科学 館「エンゼルランドふくい」 (福井県春江町)は、展示物を触ったり動かしたりする ことができる体験型施設が売り物。最も人気を集めているのが、重力が地球の 6 分 の 1 という月面世界を疑似体験できる「ムーンウォーカー」という装置。世界各地 の衣装で色々な民族に変身できる「世界の民族ファッションショー」も人気があり、 同館は当初年間 20 万人の来館者を見込んでいたが、昨年 10 月にこれを上回った。 美術館でも作品を見るだけでなく、体験できる施設が増えている。横浜美術館(横 浜市)は、日曜日の午前 10 時から 11 時 30 分まで毎月 3 回、紙や粘土や絵の具を自 由に使って遊べる「親子のフリーゾーン」を設けている。小学校高学年までの子供 が対象で、保護者同伴ならばだれでも参加が可能。1 回当たり平均で 300 人以上の 親子連れが訪ねる人気コーナーとして定着している。 島根県浜田市の世界こども美術館の「フリー・ふりー」コーナーでは親子一緒に木 や石、粘土に段ボールといった身近な素材で作品をつくることができる。 文部省は地域の博物館や美術館を利用した体験学習活動の普及に乗り出しており、 「体験型」の施設は一段と身近な存在になりそうだ。

あすへの話題(中村稔) - 美術館の個性 -(日経新聞 2000 年 12 月 2 日付) うらわ美術館で開催中のシャガール作ラ・フォンテーヌ『寓話』の挿絵展の前期を 観て、感動した。前期に 20 点、来年 1 月下旬からの後期に 20 点を展観するという。 私はシャガールの油彩の色彩に魅惑されがちだが、黒白の銅板画による挿絵から受 ける感銘は違っていた。 「年をとったライオン」という作品があった。黒い雲のかか る地平の方へ狼が駆けている。画面手前に年老いたライオンが陰鬱そうによこた わっている。牛が去っていく。ロバにのしかかられたライオンが、お前から攻撃さ れるとは二度死ぬようなものだ、と呟いている。シャガールの暗い情念がほとば しっていた。

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第2章 美術館の動向

去る 4 月、浦和市にブックアートを中心とする美術館が開館されたとき、私はその 構想に共鳴した。町田市立の版画美術館はその一例だが、これからの美術館は専門 的な個性をもつべきだと思う。私がブックアートという言葉を知ったのは『駒井哲 朗ブックワーク』を手にしたときであった。私は駒井の銅版画と安東次男の詩によ る詩画集『人それを呼んで反歌という』をわが国における詩と絵画の婚姻の稀有の 成果と思っていたが、駒井がこれほど書物に託して彼の造形を多様に展開していた ことは知らなかった。書物を媒体として画家がその個性を発揮することも確かに美 術の重要な一分野なのである。実際、多くの画家がその情熱を書物の装釘、挿絵、詩 画集等に注いでいる。この分野のためのわが国で唯一の美術館としてうらわ美術館 は有意義な施設である。 8 月ころ、某新聞の埼玉版にうらわ美術館で「閑古鳥が鳴いている」といい、来館者 が予想の半分以下だという冷笑的な記事を読み、私は記者の無理解を慨嘆した。来 館者数は美術館の質、意義とは関係ない。文化の定着・成熟には時間もかかる。辛 抱づよく浦和に芽生えた文化を育てる姿勢を私はジャーナリズムにも行政にも市民 にも期待している。

日本博物館協会によると、全国の博物館数は 1997 年度で約 3,500 と 10 年前に比べ て約 1,000 館増えた。バブル景気に乗って全国の自治体などが次々と博物館を新設 したためで、建て替えなどの更新も活発だった。しかし景気低迷に伴う自治体財政 の悪化などで、近年は新設数が減少。博物館は「新設や更新から 3 年ぐらいたつと 目新しさがなくなり、入館者が減る」 (同協会)。一館当たりの平均入館者数は 97 年 度が 78,000 人と 10 年前より 2 割以上減った。自治体の博物館は全国的に「入館者 の減少につれて予算も減らされる」という状態で四苦八苦。各階とも 1 回訪れた入 館者を再び呼び込むために、各種セミナーや講演会、ワークショップを展開するな ど“営業活動”に力が入ってきた。国立の主な美術館、博物館 8 施設の場合は 2001 年 4 月から独立行政法人に移行する。国の交付金と民間からの寄付金などを基に各 独立法人が独自に運営し、業績を外部機関がチェックする。従来以上に厳しい運営 を迫られる。

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第2章 美術館の動向

2.3 東京都の美術館 本研究の対象となる美術館の建築概要を示す(図 2-1)。   開館年

東 京 都 美 術 館

東 京 都 庭 園 美 術 館

江 戸 東 京 博 物 館

東 京 都 現 代 美 術 館

東 京 都 写 真 美 術 館

 1975年(旧館は1926年に開館)

  所在地

 東京都台東区上野公園 8丁目36番

  設計者

 前川國男建築設計事務所

  竣工年

 1975年

  敷地面積

 16,519.53㎡

  建築面積

 6,796.44㎡

  延床面積

 31,983.98㎡

  展示面積

 10,827㎡

  建物高さ

 最高高さ15.6m 地下15m

  階数

 地下3階・地上2階

  構造

 RC造

  建設経費

 50億円

  開館年

 1983年

  所在地

 東京都港区白金台5丁目21番9号

  設計者

 宮内省内匠寮工務課/アンリ・ラパン

  竣工年

 1933年

  改修年

 1983年、1995年

  敷地面積

 35,358.28㎡

  建築面積

 1,048.29㎡

  延床面積

 2,100.47㎡

  展示面積

 650㎡

  建物高さ

 最高高さ16m

  階数

 地下1階・地上2階

  構造

 RC造

  建設経費

 不明

  開館年

 1993年

  所在地

 墨田区横網一丁目4番1号

  設計者

 菊竹清訓建築設計事務所

  竣工年

 1993年

  敷地面積

 29,293㎡

  建築面積

 17,562㎡

  延床面積

 48,512.95㎡

  展示面積

 8,934㎡

  建物高さ

 最高高さ62.2m

  階数

 地下1階・地上7階

  構造

 SRC造 S造 RC造

  建設経費

 590億円

  開館年

 1995年

  所在地

 江東区三好四丁目1番1号

  設計者

 柳澤孝彦+TAK建築・都市計画研究所

  竣工年

 1994年

  敷地面積

 23,780.56㎡

  建築面積

 8,072.89㎡

  延床面積

 33,515.01㎡

  展示面積

 7,427.38㎡

  建物高さ

 最高高さ22.6m

  階数

 地下3階・地上3階

  構造

 SRC造 S造

  建設経費

 415億円

  開館年

 1995年

  所在地

 東京都目黒区三田 1丁目13番3号

  設計者

 久米設計

  竣工年

 1994年

  敷地面積

 3,227㎡

  建築面積

 2,001㎡

  延床面積

 7,500㎡

  展示面積

 1,492㎡

  建物高さ

 最高高さ28m

  階数

 地下1階・地上5階

  構造

 SRC造

  建設経費

 71億円(うち東京都負担は設備/内装費41億円、 建築費30億円はサッポロビール㈱より寄贈)

世 田 谷 美 術 館

  開館年

 1986年

  所在地

 東京都世田谷区砧公園一丁目2番

  設計者

 内井昭蔵建築設計事務所

  竣工年

 1985年

  敷地面積

 19,000㎡

  建築面積

 5,240㎡

  延床面積

 8,577.27㎡

  展示面積

 1,808㎡

  建物高さ

 12.8m 最高高さ15m

  階数

 地下1階・地上2階

  構造

 RC造

  建設経費

 38億円

図 2-1 建築概要

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第2章 美術館の動向

各美術館の設立当初からの歴史や現状を簡単に述べる。

東京都美術館 大正 15 年(1926 年)5 月 1 日に東京府(都)美術館として開館。半世紀にわたって 新作発表の場として都民に「上野の美術館」と親しまれ、戦前には回顧展や名作展 などの様々な企画展や新しい美術の動向を伝える外国美術展が開催され、美術の殿 堂としての役割を担ってきた。1943 年に都制施行により東京都美術館と名称変更 し、その後 50 年間旧美術館は風雪に耐えてきたが、建物の老巧化が進み、一方では 利用団体・出品作品・入場者数の増大により、手狭さ、機能低下が顕著となってき た。そこでこれらの問題を解消し、あわせて東京都の美術館としての本来的な役割 を果たすためにも、旧美術館を新たに建て直すことになった。1968年度に東京都美 術館建設準備委員会が設置され協議の結果、 「現代美術の常設展示場」 「現代作家の 新作発表の場(公募展示場)」 「社会教育活動の場」としての機能をもつ美術館をめ ざすことになった。建設地については、旧美術館の場所に新築するまで代替施設を 設けることも検討されたが、1971 年 5 月、隣接野球場に新館の建設が決定された。 1972年に前川國男建築設計事務所に設計を委託し、大林組によって建築工事が着工 され、総工費 50 億円をかけて 1975 年 3 月 31 日に完成した。旧美術館は取り壊すこ とになり、跡地は公園となった。 都民の美術鑑賞の場、社会教育の場、そして新しい憩いの場として1975年9月1日、 東京都美術館新館が開館した。これまで貸館が中心であった美術事業も自主事業と して、 「企画展覧会の開催」 「美術文化事業活動」 「美術図書室の運営」を行い、また、 貸館事業として、 「公募展示室」 「アトリエ・講堂」のように美術館の名に相応しい 機能を持つことになった。 1995 年 3 月 18 日に東京都現代美術館が開館するにあたり、収蔵作品及び美術図書 資料はすべて移管され、東京都美術館の機能の一部が現代美術館へ移されることに なった。こうした運営分化により、東京都美術館では公募団体への貸館事業、報道 機関等との共催による企画展示事業、文化事業、広報・作品管理事業等を実施して いる。また、管理運営に関しては 1996 年 4 月 1 日から㈶東京都教育文化財団に委託 されている。なお、1999 年 4 月 1 日、㈶東京都教育文化財団は㈶都民カレッジとの

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第2章 美術館の動向

統合により、名称を㈶東京都生涯学習文化財団に変更した。 特筆すべきは、1975 年の竣工から大規模な改修がまだ一度もされていないことだ。 これには、3 つの原因があると考えられる。  ①外観は煉瓦仕上げなので、外見上の老朽化が見て取れない。  ② 3 年先まで展示計画が埋まっており、大改修となると事前の告知が利用団体や   都へ必要となり、承認を受けなければならない。小規模な改修は随時行われる   が、多少時間を要するものは 7月下旬の 11日間の定期休館中まで待たなければ   ならない(昨夏の定期休館中は、厨房の改修にとどまっただけである)。  ③大規模な改修にあたって、都への予算請求が通らない。 以上の理由から大規模な改修が行われないのであるが、外見上は問題なくても設備 面では、かなり老朽化が進んでいる。現に、偶然に水漏れが起きた箇所の配管を調 べた際に管の中身はびっしりと茶色い腐食がこびり付いており、配管の役目を果た していないのは素人目にも明らかであった。この部分だけ腐食が発生していたとは 思われず、美術館の長期保全のためにも東京都へ適切な対応と一刻も早い修繕計画 を望むものである。

東京都庭園美術館 東京都庭園美術館は、昭和 8 年(1933 年)に朝香宮(あさかのみや)邸として建て られたもので、1920 年代から 30 年代にかけてヨーロッパで流行したアール・デコ の装飾様式を、ほぼ完全な形で現在に伝える貴重な建築である。建築設計は宮内省 内匠寮工務課が担当、主要な室内デザイン、壁画はパリ生まれの画家であり室内装 飾家でもあったアンリ・ラパンが手掛けた。また、ガラス工芸家ルネ・ラリックに よる正面玄関を飾るガラスレリーフ、客間のシャンデリアなどが配され、建物自体 が美術品となされている。いってみれば、この美術館は建築・庭園・美術を一体と なって鑑賞してもらうための「場」といってもいいのだろう。それは近来、とみに 隔たりつつある建築と庭園と、美術の距離を近づけるとともに、1つの建築(庭園) 空間のなかで一級の美術品を味わうことのできる美術館なのである。 東京都庭園美術館として開館したのは、昭和 58 年(1983 年)10 月。それまでは、 一般公開されず、専門家のあいだでは“幻の建築”と称されてきた。

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第2章 美術館の動向

アール・デコ様式の室内装飾は、昭和初期の日本の芸術思潮と建築・インテリアを 考えるうえで、貴重な文化財といってもいいものである。それは久しく、日本の伝 統的な建築や欧米の機能的な建築を見続けてきた者にとって、不思議な空間体験を させてくれる建築といってもいいであろう。しかし、この建物を一巡して、さらに 細部の意匠や装飾を眺めてゆくと、そこにはフランス仕込みの建築様式を観賞でき るとともに、 「和風」、あるいは和洋折衷ともいえるような意匠が随所に垣間見るこ とができることである。建物の室内装飾に関してい���が、各部屋の照明、把手、ラ ジエーター・カバーなどの意匠は一部屋ごとに異なり、各室の性格やイメージを明 確にさせている。建築の内装材は家具、調度にいたるまで大半をフランスから輸入 し、アール・デコの粋を尽くした建築であった。日本では、この様式が住宅に用い られたものは比較的少なく、おそらくここが唯一の例だとされている。 したがって、この美術館は建築史上において、文化財的な価値を有するとともに、東 京における明治以来の洋風建築の活きた宝庫ともいえるのであろう。 この東京庭園美術館の前身である旧朝香宮邸と、隣接する国立科学博物館附属自然 教育園の用地は、主に高松藩主松平讃岐守の下屋敷があった所で、往時は遊園をか ねた松平公の別邸が構えられ、風雅な地として知られていた。昭和 24 年には、隣地 一帯が「史跡及び天然記念物」に指定され、同年、自然教育園として公開された。土 地・建物ともに完全な姿で現存する旧皇族の邸宅としても我が国で唯一のこの旧朝 香宮邸は、往時の先端をいく建築技術、優雅な調度品、室内装飾、そして白金台周 辺の良好な自然環境を背景とし昭和初期の歴史と文化を物語る貴重な文化財として、 近年とみにその評価が高まっている。昨年、外壁の改修が終わったばかりであるが、 日頃から比較的メンテナンスには配慮されており、特に設備面には費用がかかって しまっているようである。

江戸東京博物館 江戸と東京に関する歴史・文化を幅広く多面的にとらえるとともに、江戸東京の失 われゆく文化遺産を次代に継承する拠点として、平成 5 年(1993 年)3 月に開館し た博物館である。本館は、 “高床の倉”をイメージした地上7階、地下1階のひろい 空間に、徳川家康が入府してから東京オリンピックに至る約 400 年を中心に、それ

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ぞれの時代によって異なる文化や生活様式の変貌を鮮明に描き出している。江戸時 代は、開放的な町人社会により、演劇・浮世絵・版画・絢爛たる着物の模様などの 芸術文化が幅広く展開していた。その後、西欧近代化の影響を受け、これらを積極 的に吸収し、同化しながら日本独自の文化を生み出したのが今日の東京である。 日本の首都・江戸と東京で育まれた二つの文化が、どれほど創造的でユニークなも のであったか、それらが海外にどれほどのインパクトを与えたか、また江戸から東 京に受け継がれた伝統の連続性など、いろいろな資料や作品にふれながら、新しい 文化を創出する情報文化のコアとしての役割を目指している。 学生や外国人の人気も高く1998年度の入場者数は1,317,000人。都によると全国の 主要博物館の中で大阪城天守閣、上野の東京国立博物館などを引き離しトップだそ うだ。だが、入場者数は 1 年目の 300 万人強からじり貧が続いている。 江戸東京博物館には、本館と分館(江戸東京たてもの園)があるが、ここでは本館 のみを取り上げる。展示内容として、常設展示は、江戸ゾーンと東京ゾーンの2つ の部分を中心に構成されているが、江戸から東京への歴史的転換や両者の関連性も 配慮してある。また、通史ゾーンを設けて、原始・古代から現代に至る江戸東京の 歴史を通観できるようになっている。他に、最近滋賀県立博物館で有名になった「ハ ンズオン」と呼ばれる展示方法の一種で、手で触れることのできる展示がある。主 に視覚障害者を対象に、触察による展示を行っている。大型模型の形容を把握でき るよう、日本橋・中村座・鹿鳴館などの縮小模型を配置し、自由に触れることがで きる。また、浮世絵の画面を手で読み取るよう加工したレリーフや、実物資料に触 れるコーナー、 「職の音」、 「近代のしらべ」を聴くコーナーも設置されている。企画 展示は、平成 11 年度においては6件行われた。 江戸東京博物館も修繕については経年対応の必要性を認識しているものの、都の予 算がつかないというのが現場の悩みのようである。

東京都現代美術館 東京都現代美術館は、1995 年 3 月江東区の都立木場公園内に開館した。東京都美術 館の説明の際にも触れたが、東京都美術館の収蔵作品及び美術図書資料すべてが移 管され、東京都美術館の機能の一部が現代美術館へ移されることになったものであ

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第2章 美術館の動向

る。木場公園の木々の緑を背景とする建物は、光と水による演出を効果的に取り入 れ、石と金属と木の素材感を巧みに生かした、現代美術の殿堂にふさわしい趣であ る。世界を代表する国際都市といえば、ニューヨーク、ロサンゼルス、パリ、ロン ドンなどがあげられ、これらの都市には、必ずといっていいほど本格的な現代美術 館がある。6 年前に開館した東京都現代美術館は、国際都市 TOKYO がようやく持 つことのできた、初の本格的現代美術館である。設計は郡山市立美術館や第二国立 劇場を手掛けた柳澤孝彦氏。設計に当たっての基本的な考え方は、 (1)シンボル性、 (2)地域との調和、 (3)親しみやすい開かれた美術館、 (4)十分な展示空間の確保、 (5)変化に対応できる弾力性の確保、となっている。 国内外の現代美術の状況が体系的にわかる美術館として、東京で唯一といえる東京 都現代美術館。常設展示では、約 3,600 点もの収蔵作品から第 2 次大戦後の美術史 をテーマに「現代美術の流れ」を展開。企画展示では、世界と日本の戦後美術史を 基軸に多彩な展覧会を催している。美術情報センターは、作品・文献など様々な美 術関連情報を収集、分類、蓄積し、多様なメディアを駆使して最新の美術情報を提 供。また美術図書室も充実し、近・現代美術を中心に様々な印刷メディアを収蔵し ている。現代美術の宝庫として、戦後から現代に至る美術史を知る上で欠かせない 存在となっている。 しかし、敷地の不便さから「陸の孤島」とも揶揄され、交通アクセスの問題が利用 者を遠ざけていることは否めない。美術館の収支も芳しくはなく、美術館運営に民 間の経営感覚を持ち込むべく石原都知事の任命により、つい先頃アサヒビール名誉 会長樋口廣太郎氏の館長就任が決まった。 設備面では、ガラスで囲われたエントランスの温度管理に空調費用がかかってしま うそうだ。また、19m の吹き抜けのアトリウムがあるが、上層が温度が高く、下層 は低くなりがちで、こちらの温度管理にも費用がかかってしまっているようだ。ま た、修繕計画に関しては短期はあるものの、まだ長期はない。長期の修繕は投資的 経費と見られ、都より押さえられているということだ。

東京都写真美術館 東京都写真美術館は、我が国初めての写真と映像に関する総合的な専門美術館とし

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第2章 美術館の動向

て、日本における写真と映像文化の充実と発展をもとめ、1995 年(平成7年) 1 月 に恵比寿ガ−デンプレイス内に総合開館した。館内には企画展示室、常設展示室及 び映像展示室の三つの展示室を設け、内外の写真及び映像の作品・資料・情報を収 集・展示・保存・調査研究・普及などを含めた総合的な活動を行っている。更に東 京都写真美術館は日本における写真文化のセンタ−として役割を果たすとともに、 国際的な交流の拠点となることをめざし、 ワ−クショップなど参加型の機能をもち、 写真と映像表現の可能性に挑戦する創造的精神を支援している。 サッポロビールが開発した恵比寿ガ−デンプレイス内にあるからか、もともと美術 館を設置することが義務付けられていたのか不明であるが、およそ71億円の建設費 のうち、建築費約30 億円はサッポロビールより寄贈された形で、東京都の負担はそ の他の設備費や内装費など 41 億円で済んだ。 新規の作品購入費は今年度からゼロ。来年度予算では企画展への補助金も全廃され る情勢だ。昨年度まで年 5 回開いてきた企画展を今年度は 3 回に制限されたことも あり、入館者数は 15 万∼ 16 万人と 2 割程度減る見通しという。また、利用者から 「すばらしい施設だが、どこにあるか分からない」との批判を多く受け、それに対し 同館は10月に案内看板も設置したが、入館者数はそれほど増えてはいないようであ る。このように運営上の問題を少しでも解消するためには今後は、恵比寿ガ−デン プレイス内の施設を利用する他の利用者も上手く取り入れていく工夫をすべきであ ろう。東京都現代美術館に先がけること 2 年前に、東京都写真美術館の館長に徳間 書店・徳間康快氏が就任されたが、その手腕を発揮される前に昨年亡くなられたの は残念であった。在命中に企画された写真美術館初の試みとしての映画公開「式日 SHIKI-JITSU」を昨年末より独占して放映している。 設備面に関しては、特に目立った修繕が必要な箇所がないとのことから、短期的に も長期的にも修繕計画をたてる予定もないとのことであるが、今の時期にこそ予防 的に考慮しなければならない問題である。

世田谷美術館 世田谷美術館は、昭和 61 年(1986 年)3 月末の開館以来、四季折々の変化が美し い、緑豊かな東京都立砧公園の一画という恵まれた環境、多様な企画による展覧会

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第2章 美術館の動向

や教育普及活動などを展開してきた結果、 区民をはじめとして多数の来館者を数え、 その活動は各方面から注目を集めている。 設計は浦添市美術館や新湊市博物館を手掛けた内井昭蔵氏。内井氏の美術館に対す る理想の表現で「健康な建築」という建築に対する理念が実現しているといわれて いる。開館以来、先史美術から、現代美術まで、幅広い分野の芸術を紹介する展覧 会を開催したり、素朴性に注目した内・外の美術作品や、世田谷区という、他の地 域に類を見ない程芸術家が多く在住している特殊性をいかした、在住作家の作品の 調査研究、収集活動を通し、それらの作品を紹介するといった活動を続けている。ま た音楽、映像といった芸術全般にわたる創造活動の紹介や、もっと積極的に芸術に かかわりたい人へ、様々な各種講座を開催するなど、芸術と多角的に触れ合う機会 を多く用意している。

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第3章 決算書からみた美術館の経済的評価


第 3 章 決算書からみた美術館の経済的評価

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3.1 東京都の決算内容 一昨年、石原慎太郎氏が東京都知事に就任以後、めまぐるしく東京都の意識が変わ ろうとしている。当初、辣腕ともいえる采配で政策を打ち出し、様々な分野から非 難が噴出したが、次々とそれを実現している現状では、もはや今後の東京都の運命 を握っているのはこの人を置いて他にはいないといわれるほどのカリスマ的な存在 である。2000 年 11 月 1 日現在の東京都の人口は 1,204 万 1,119 人(うち外国人登 録 30 万 4,230 人)、男女別でみると男 600 万 2,505 人、女 603 万 8,614 人で全世帯 数は 538 万 4,365 世帯である※ 13。ここで、東京都保有の美術館を含む公共建築のと らえられ方を各局・委員会がまとめた資料から経過を順にみていく。

「東京都における公共建築コストについて」(平成 8 年 3 月 29 日) 平成 7 年 4 月 12 日、東京都公共建築コスト検討委員会が都財務局より諮問を受け、 適正なコスト管理に向けて検討した報告書である。公共建築の総合的なコスト管理 のあり方について述べられており、基本的な考え方として、  ①都民ニーズに的確に応える公共建築を建設し、納税者である都民に還元する。  ②公共建築に求められる機能及び品質を経済的・効率的に確保する。  ③建築物のライフサイクルに視点を置き適切な計画により効果的なコスト管理を   行う。 があり、具体化の目標として下記を述べている。  ①費用対効果を十分考慮し、工事予算の効率的な執行を図る。  ②工事予算見積りの一層の充実を図る。  ③ライフサイクルコストの低減を図る。  ④適切な保全により施設の有効活用を図る。

「東京都の建築工事における設計 VE ガイドライン」(平成 10 年 3 月) 上記、東京都公共建築コスト検討委員会からの答申を踏まえ、総合的なコスト管理 手法のあり方の一手法として、VE を実施しすることの有効性を示している。平成 10 年度から、設計 VE を実施するに当たり、過去の試行等から得られた諸問題を解 決し、設計 VE を円滑に実施するため設定されたガイドラインである。 広報東京都」2001 年 1 月 1 日発行第 660 号参照

※ 13 「

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東京都建築コスト管理 98 実施計画(平成 10 年 7 月) 財政健全化計画実施案や新たな循環型社会づくりのための第 1 次実行プログラム等 の施策が発表され、今まで以上に建築コスト管理に対する取組が要請されていると いう背景の中、東京都公共建築コスト検討委員会答申から既に2年以上を経過し、確 実な成果を求められている。以上の状況から、公共建築のコスト管理につ���て、こ れまでの具体策及びスケジュール等を見直し新たな展開を図るため、東京都建築コ スト管理 98 実施計画が策定された。特に、コスト管理に係る指針類やデータベース の整備の重要性を謳っている。

財政再建推進プラン(平成 11 年 7 月) この年の 4 月より都知事になった石原慎太郎氏が取り組む、財政構造の転換を通じ ての自主的な財政再建に向けて道筋を明らかにした 12 年度から 15 年度までの 4 か 年計画。財政構造改革に取り組む中で、第 1 に、 「財政再建団体」への転落を回避す るとともに、15 年度までに巨額の財源不足を解消すること。第 2 に、 「経常収支比 率」を 15 年度までに当面 90%以下の水準に引き下げること、と目標設定している。 中でも画期的な取り組みとして注目されるのが、都の資産と負債の全体像を明らか にするために、都独自のバランスシートをとりまとめたことである。今後、その内 容についてさらに精査を重ね、財務体質の分析など有効活用を図っていくものとさ れている。また資産と負債の差額の取扱いについて、公会計において、資産と負債 の差額(「資本」又は「正味財産」 )は過去の税や国庫補助金等が蓄積された部分で あると考えられるが、地方自治体には企業会計における「資本」という概念がなじ まないため、今回はあえて項目を設けず、 「資産の部」と「負債の部」の対照にとど めることとしたと但し書きされている。

租税負担と行政サービス(平成 11 年 10 月) この資料は、 「東京都生計分析調査」 「予算説明書」 「決算説明書」など既存の資料に 基づき、都民の租税負担と行政サービスについての計数データを取りまとめたもの である。作成にあたっては、個人としての都民に着目し、個人(家庭)による負担、 個人(家庭)に対する行政サービスを中心に、一人あたりの負担額や、サービスの

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第 3 章 決算書からみた美術館の経済的評価

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対象者一人あたりの還元額(経費)を算出した。別紙御参照。

平成 11 年度包括外部監査結果報告書(平成 12 年) 地方自治法第 252 条の 27 第 2項に基づく包括外部監査であり、監査の対象は公の施 設等の管理についてである。対象部署は江戸東京博物館、東京都現代美術館、東京 武道館、東京国際フォーラム、東京国際展示場があげられている。各施設の問題点 を挙げ改善を求めているものの単なる指摘にすぎない感がある。特に、各施設に共 通する事項として長期修繕計画の必要性は認識されているものの、ほとんどの施設 において基礎的計画は策定段階にあるか、ようやく完成した段階であり、それに基 づく対策実行の仕組みは未完成である。現在、東京都においては「10 財営コ第 93 号」 (平成 11 年 3 月 26 日付)により長期保全計画を策定中であるが、 『それ以前は 施設に関する長期修繕計画は作成しなければならないものとはなっていなかった。 また施設建設時の契約において、竣工後の施設設備の維持管理に関する計画の提出 までは求められていなかった』という文中を見る限りでは、指示されたから仕方な くやるといった態度が感じられ、計画に対し危惧してしまうのは杞憂であろうか。

機能するバランスシート(中間報告)  (平成 12 年 5 月) さきの「財政再建推進プラン」には、実行計画の組織とステップごとのコスト意識 及び責任のありかが明確に描かれていないことを指摘し、 本報告ではストック情報、 キャッシュの流れ、行政コスト情報を毎期的確にとらえた「機能するバランスシー ト」の作成を具体的に目標としている。

平成 12 年建設白書の概要(建設大臣官房政策課総括計画官室) 白書の「住宅・社会資本整備の現況」の中で我が国が積み重ねてきた公共投資で急 速に社会ストックが形成された点に触れ、今後は、 「整備した結果、利用者のニーズ をどれだけ満足させたか」という利用者の立場に立ったアウトカム指標※14の確立の 必要性を示唆している。 ※ 14 

アウトプット:ある施策等の対象者に直接的に提供された金銭、モノ又はサービスの量や提

  供された数。   アウトカム:ある施策等によりサービス等(= アウトプット)を提供した結果として生み出   される成果なり効果等。 早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

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25 年後の公共投資 維持・更新費が半分占める (日経新聞 2000 年 7 月 20 日付) 建設省は公共投資総額に占める維持・更新投資の割合が 2025 年には 4 ∼ 5 割を占 め、新規投資とほぼ同額になるとの試算結果をまとめた。1995 年の実績の 2 ∼ 3 倍 となり、欧州の主要国とほぼ同水準になる計算だ。国、地方を合わせた巨額の債務 残高を背景に中長期では公共投資の縮小が避けられないなかで、同省は 21 世紀を 「ストック・メンテナンス(社会資本の補修)の世紀」と位置づけている。 試算は月内に閣議決定する 2000 年の建設白書に盛り込む。1995 年の道路、河川、 下水道、公営住宅建設など建設省所管の公共投資総額のうち、維持投資は 15%、更 新投資は 2%。総額が毎年 1%ずつ減少すると仮定した場合、2025 年の維持投資は 37%、更新投資は同 14%と合わせて 51%となる。 公共投資総額が 95 年から同額で推移すると想定すると、維持投資 31%、更新投資 11%の計42%に達する。日本の公共投資は先進国の中で新規投資の比率が突出して 高いが、25 年後には現在でも維持・更新投資が全体の 4 割以上を占める英国やドイ ツと肩を並べる。

都外郭団体の有料施設 料金収入、独自で管理(日経新聞 2000 年 10 月 12 日付) 東京都は2002年度をメドに、外郭団体が運営する有料施設に独立採算制度を部分的 に導入する。これまで都が管理していた料金収入を、施設側が直接やりくりする方 式に変更。都が支出する運営委託費と料金収入の目標額を施設ごとに設定し、収入 が目標を下回った場合は施設側の赤字とする。外郭団体に経営意識を浸透させ、効 率的な運営体制への転換を促す。新制度は有料で運営している施設の大半に導入す る方向。東京都写真美術館や江戸東京博物館、駒沢総合運動場など文化施設と体育 施設合わせ16施設前後が対象になる見通しだ。これらの施設は東京都生涯学習文化 財団や東京都歴史文化財団などが管理している。新制度導入の狙いはコスト意識の 徹底だが、各施設が料金の値上げに踏み切る可能性もある。都は料金設定には施設 に一定の裁量を認める方針だが、条例などで上限を設け利用者の負担が大きくなら ないようにする。料金収入が目標を上回った場合は、施設側が事業や企画の充実に 利用できるようになり、運営の柔軟性が高まるという。同様の制度は横浜市が1998 年度から全施設で、埼玉県も 2000 年度から 7 施設で採用している。横浜市の場合、

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98 年度に導入した 86 施設の利用料金収入は総額 25 億円だったが、99 年度は 29 億 円。 「すべてが新制度の効果ではないが、運営努力などで増収効果が出た」 (総務局) とみている。外郭団体による施設運営は都が運営委託費を支払うが、利用料金は都 の収入になる。こうした仕組みのため施設の実質的な赤字が明確にならず、外郭団 体の経営意識を希薄にしているとの指摘があった。新制度を導入予定の文化施設の 場合、8 施設合計で 99 年度の料金収入は約 19 億円。一方、都からの支出は約 120 億円で、差額の 101 億円が都の持ち出しだ。都は主要な 62 の外郭団体に対し、一般 財源からの支出を 2003 年度までに 99 年度比で 30%削減する方針を示している。金 額ベースでは約 500 億円の削減目標で、都によると「各施設を一律に考え単純計算 すると、有料施設は利用料収入が現在の 1.5 倍近く必要になる」という。

都が省エネ作戦 大規模施設の管理費削減(日経新聞 2001 年 1 月 23 日付) 大規模施設の運営経費削減の一環として、東京都は民間で普及しつつある省エネル ギーサービス(ESCO)事業の手法を参考に、総合的な省エネ対策に取り組む。こ れまで各施設の現場に対応を任せていたが、 「専門家の目でみると削減の余地が大き い」 (財務局)と判断。専門チームを設けて所有施設を診断し、冷暖房や照明などの 改善策を指導する。東京国際フォーラム(千代田区)と江戸東京博物館(墨田区)か ら始め、5 年後をめどに延べ床面積 10,000 平方メートル以上の 194 施設に広げる。 都によると、年間の光熱水費は東京国際フォーラムが 11 億 5,000 万円、江戸東京博 物館は 2 億 3,000 万円に上る。それぞれ最大で年間 3,000 万円前後の削減を見込ん でいる。都は外郭団体などが運営する施設も含めた行財政改革に取り組んでおり、 抜本的な省エネ策により経費削減を進める。ESCO はオフィスや工場などの運営状 況を調べ、省エネの技術的な対策を総合的に指導するサービスで、1996年度から旧 通産省がサービス事業者の育成、支援に着手している。都は施設の保守・営繕関連 の技術者 10 人強で専門チームを作り、保有施設を対象に取り組み始めた。第一弾と して適用する 2 施設の運営財団には、電球を長持ちする蛍光管に替える、空調の設 定温度を夏・冬とも一度ずつ緩和するなどの対策を提案。さらに国際フォーラムの 場合は、電気とガスを併用し省エネ効果の高いコージェネレーションシステムの稼 動率向上、ガラス面に遮熱フィルターを張り日射による温度上昇を抑えるといった

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指導をした。ESCO の対象施設は 3 月までにさらに 2 つを加え、2001 年度は指導に あたる専門チームの人員を増強して 20 ∼ 30 施設に増やしたい考えだ。

公共建築トータルコスト管理指針(平成 10 年 世田谷区) 平成 8 年度末には世田谷区の建物の延床面積は約 100 万㎡となっており、防災機能 の強化、高齢社会への対応、地球環境保全など、さらには多様化する行政需要への 対応が求められている。良質で、使いやすい公共建築の施設提供、管理運営を行っ ていくために、トータルコスト管理推進の重要性を謳っている。  ①計画的施設整備の推進  ②良質なストックの確保と保全の充実・強化  ③災害に強い安全な公共建築  ④環境に配慮した公共建築  ⑤人にやさしい公共建築  ⑥良好な都市景観に寄与する公共建築

ここで、決算を含む簿記について簡単に触れたい。 通常、一般企業やその他の団体・個人のいずれであっても、その活動にともなって、 必ず金銭の収入・支出やその他の財産の増加・減少が発生する。したがって、合理 的な活動を行うためには、金銭の収入・支出やその他の財産の増加・減少を、一定 の方式によって、整然と記録・計算・整理しておくことが必要となる。このような 記録・計算・整理が簿記である。 簿記は、いろいろな観点から分類することができる。最も重要なのは、複式簿記と 単式簿記という分け方である。これは、簿記がどのような原則にしたがって行われ るかを基準とした分け方である。東京都の簿記はつい先頃までは、金銭の収入・支 出を記録するだけの単式簿記であったが、平成 11 年に発表された「財政再建推進プ ラン」において、金銭の収支やその他の財産の増減などを例外なく二面的に記入す るというルールをもった複式簿記にシフトしていくことを明らかにしている。これ をバランスシートともいう。 簿記のもう一つの分け方は、簿記を用いる者の違いを基準とした、企業簿記と非企

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業簿記という分け方がある。企業簿記は、各種企業で行われている簿記のことであ る。企業は営利を目的とする経済的組織体であるが、その営利のために用いられる 手段の全体が資本と呼ばれるものであり、利益は資本の運用の結果である。そのた め、企業簿記は、このような資本の大きさと構成、ならびに、その増加部分として の利益を計算することを基本的な目的として構成されることになる。 非企業簿記は、 官庁・家庭・その他の非営利団体・個人など、企業以外の者によって用いられる簿 記をいう。非企業簿記にも複式簿記を用いることは可能であるが、通常は単式簿記 によって行われる。前述のとおり、非企業である東京都は従来単式簿記であったが、 バランスシートを資産・負債等の状況を明らかにするとともに財政状況の分析に活 用することを目的として「財政再建推進プラン」をきっかけに複式簿記を併用して いる。都のバランスシートには、公会計における資産と負債の差額である「資本」の 項目がないが、地方自治体には企業会計における「資本」という概念がなじまない ため、今回はあえて項目を設けず、 「資産の部」と「負債の部」の対照にとどめるこ ととしている。 東京都の平成 11 年度一般会計決算(見込み)がまとまったが、実質収支は 881 億 円の赤字となった(表 3-1)。

表 3-1 東京都の決算及び都税収入の推移 (1) 決算の推移(平成2年度∼平成11年度) (単位:億円)

3 67,067 66,351 716 0

4 69,202 68,712 490 0

5 69,922 69,449 473 0

6 66,146 65,803 343 0

7 68,257 68,009 248 0

8 68,146 67,804 342 0

9 64,214 63,847 367 0

10 65,069 64,935 134 △1,068

3 48,494 23,979 1,330 △247 2.8 △1.0

4 43,768 19,312 △4,725 △4,667 △9.7 △19.5

5 40,572 16,254 △3,196 △3,058 △7.3 △15.8

6 38,601 14,356 △1,971 △1,898 △4.9 △11.7

7 39,887 14,464 1,286 108 3.3 0.8

8 43,817 18,642 3,930 4,178 9.9 28.9

9 42,091 16,973 △1,726 △1,669 △3.9 △9.0

10 42,563 16,277 472 △696 1.1 △4.1

2 3 2,341 3,873 1,257 2,402 うち 減収補てん債 500 都 債 現 在 高 16,669 17,764 (注) 減収補てん債の金額は、発行ベース(額面)である。

4 9,383 7,806 3,500 24,540

5 12,177 10,555 4,000 33,690

6 9,406 8,007 1,500 40,627

7 10,207 9,092 2,370 48,969

8 7,306 6,210 54,462

9 5,571 5,001 58,751

10 8,200 7,042 1,350 65,148

歳 歳 形 実

区 入 出 収 支 収 支

式 質

2 64,777 64,282 495 0

11見込 64,405 64,207 198 △881

(2) 都税収入の推移(平成2年度∼平成11年度) (単位:億円、%)

区 額

分 うち 法人二税

対 前 年 度増 減額 うち 法人二税 対 前 年 度増 減率 うち 法人二税

2 47,164 24,225 △580 △2,575 △1.2 △9.6

11見込 40,259 13,958 △2,304 △2,319 △5.4 △14.2

(3) 都債の推移(平成2年度∼平成11年度) (単位:億円)

区 都 債 計 上 額 収 入 済 額

11見込 8,436 7,249 1,500 71,711

(注) 各表の計数は、原則として端数を四捨五入している。

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第 3 章 決算書からみた美術館の経済的評価

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東京都の一般会計の決算見込をみてみる(表 3-2)。見込といっても、ほぼ決算内 容と同じと考え、美術館にかかる費用をそれぞれ歳出の中の管轄区分に組み込む。 なお美術館費用は財政再建推進プランの中の平成 11 年度歳出額を記載している。

表 3-2 平成 11 年度一般会計決算見込 (単位:百万円)

区 一

予算現額

入 都 地 方 譲 与 助 成 交 付 特 別 交 付 分 担 金 及 負 担 使 用 料 及 手 数 国 庫 支 出 財 産 収 寄 附 繰 入 諸 収 都 繰 越 地 方 特 例 交 付 合

区 一

税 税 金 金 金 料 金 入 金 金 入 債 金 金

議 総 徴 生

A 6,707,134 3,989,800 3,618 18 4,762 27,760 219,101 609,065 113,656 130 371,629 475,009 843,594 13,388 35,604

B 6,440,503 4,025,859 3,568 18 4,744 18,512 199,697 559,530 53,929 82 326,055 475,803 724,881 13,388 34,437

6,707,134

6,440,503

予算現額

出 会 務 税 文

費 費 費 費

決算見込

C 5,394,251 6,924 197,083 95,927 22,353

決算見込 D 5,115,434 5,971 186,902 90,551 20,201

うち江戸東京博物館費 うち東京都庭園美術館費 うち東京都写真美術館費

都 環 福 労 住 衛 清 土 港 教

市 境 働

計 保 祉 経 宅 生 事 木 湾 育

画 全 済

費 費 費 費 費 費 費 費 費 費

務 察

消 諸 予

防 支

出 備

公 債 費 特別区財政調整会 計 繰 出 金 等 合

△266,631 翌年度 繰越額 E 91,270 604

不 用 額 C-D-E 187,547 953 9,577 5,376 2,152

4,291 368 1,097

241,461 17,756 563,819 428,080 354,591 150,940 234,213 567,751 117,778 836,195

229,363 15,601 538,782 400,878 284,625 139,051 217,796 531,022 103,426 822,711

うち東京都美術館費 うち東京都現代美術館費

学 警

差   引 B-A △266,631 36,059 △50 △1 △18 △9,248 △19,404 △49,535 △59,727 △48 △45,574 794 △118,713 0 △1,167

988 261 57,222

22,336 9,859

12,098 2,155 24,049 26,941 12,744 11,889 16,417 14,393 4,493 13,484

720 2,030

費 費

160,923 626,550

157,920 611,885

3,003 14,665

249,805

245,600

4,205

金 費

521,046 1,056 433,069

513,148 0 431,371

7,898 1,056 1,698

879,814

873,903

5,911

6,707,134

6,420,707

91,270

195,157

(注1) 各計数は、端数四捨五入のため、合計等に一致しないことがある。 (注2) 諸支出金は、特別区財政調整会計繰出金等を含まない。

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

48


決算額

2,003,868,000

4,552,832,000

2,000,000,000

4,100,000,000

 02 自動車取得税交付金

 03 地方譲与税

147,055,000

20,409,583,000

1,709,654,487

143,712,000

20,100,000,000

1,682,797,000

 07 使用料及手数料

2,378,544,175

11,351,951,393

9,048,774,817

3,355,109,006

2,213,167,000

9,602,937,000

3,245,364,000

 09 都支出金

 10 財産収入

49

6,514,930,000

5,600,000,000

6,890,730,809

473,901,986

0

227,473,391,385

6,914,390,000

473,902,000

70,173,000

239,051,630,470

不用額

   歳 出 合 計

 12 予備費

9,752,110,876

46,714,357,501

48,257,391,000

 09 職員費

 10 公債費

 11 諸支出金

57,395,133,803

23,248,759,357

61,110,000,470

24,257,028,000

4,965,872,830

1,393,423,383

5,187,021,000

1,530,709,000

 05 衛生費

 06 産業経済費

 07 土木費

829,865,689

905,590,000

 08 教育費

60,645,044,259

63,604,118,000

 03 民生費

     うち文学館維持運営

731,629,782

0

731,629,782

 04 環境費

801,087,000

0

     うち美術館維持運営

     うち美術館改修

801,087,000

24,114,007,823

25,924,743,000

 02 総務費

    美術館費

802,293,945

△ 1,826,128,209

237,225,502,261

816,565,000

239,051,630,470

 01 議会費

Ⅱ 歳出

予算に対する収入の増減額

   歳 入 合 計

 18 地方特例交付金

 17 地方消費税交付金

24,500,729,894

16,811,000,000

25,009,428,000

16,830,000,000

 14 諸収入

 15 特別区債

9,273,148,673

9,273,148,470

 13 繰越金

 16 利子割交付金

297,873,042

10,705,763,849

56,454,000

11,417,700,000

 11 寄付金

 12 繰入金

 08 国庫支出金

12,019,233,000

 05 特別区交付金

 04 交通安全対策特別交付金

 06 分担金及負担金

 01 特別区税

Ⅰ 歳入

114,164,684,925

1993年度

予算額

115,757,690,000

予算額

229,317,704,000

26,517,000

1,771,536,000

8,247,354,000

49,625,078,000

25,435,273,000

48,278,154,000

1,213,327,000

5,388,799,000

865,002,000

63,192,845,000

733,338,000

0

733,338,000

24,460,208,000

813,611,000

229,317,704,000

6,300,000,000

27,910,600,000

19,364,666,000

9,752,111,000

16,026,481,000

197,974,000

2,180,333,000

8,775,708,000

14,429,539,000

2,363,874,000

1,688,489,000

13,800,000,000

136,629,000

5,100,000,000

2,000,000,000

99,291,300,000

決算額

7,081,393,801

219,504,827,245

0

1,760,765,564

8,146,041,834

48,536,814,039

24,564,516,146

45,112,248,212

1,099,236,395

5,232,739,892

800,118,049

60,340,123,563

683,342,701

0

683,342,701

23,133,538,630

778,684,921

△ 2,731,482,954

226,586,221,046

7,492,161,000

27,839,600,000

19,117,971,685

9,752,110,876

13,675,818,522

377,247,876

2,545,673,503

8,315,609,732

13,832,023,763

2,498,758,998

1,741,445,483

13,670,178,000

144,788,000

4,578,929,000

2,155,000,000

98,848,904,608

1994年度 予算額

241,625,617,000

67,808,000

2,427,663,000

9,589,460,000

49,711,576,000

22,656,581,000

57,759,900,000

1,036,088,000

5,703,671,000

942,804,000

63,864,736,000

676,106,000

874,250,000

0

1,550,356,000

27,017,537,000

847,793,000

241,625,617,000

6,500,000,000

20,255,000,000

20,464,891,000

7,081,394,000

24,322,136,000

125,308,000

2,623,019,000

10,073,748,000

17,319,013,000

2,512,192,000

1,782,656,000

18,900,000,000

143,460,000

5,116,000,000

2,065,000,000

102,341,800,000

決算額

6,002,340,602

232,655,421,790

0

2,427,663,000

9,505,267,490

48,703,672,526

21,730,764,881

56,182,892,454

914,675,202

5,463,915,702

860,047,517

60,476,071,765

621,176,017

862,655,574

0

1,483,831,591

25,587,092,641

803,358,612

△ 2,967,854,608

238,657,762,392

7,503,388,000

19,741,400,000

19,896,982,963

7,081,393,801

21,804,810,195

146,622,556

3,047,736,197

10,656,003,797

16,008,526,676

2,662,473,725

1,856,878,936

19,198,016,000

144,857,000

4,668,618,000

2,255,112,000

101,984,942,546

1995年度 予算額

231,343,851,320

29,029,000

1,549,324,000

10,908,477,000

50,371,928,000

19,961,955,000

43,326,467,320

1,038,576,000

6,156,043,000

945,782,000

67,374,252,000

683,943,000

809,606,000

0

1,493,549,000

28,853,343,000

828,675,000

231,343,851,320

3,400,000,000

23,926,000,000

19,392,211,000

6,002,340,320

15,339,583,000

16,495,000

2,436,861,000

9,503,667,000

16,622,268,000

2,882,603,000

1,899,100,000

24,000,000,000

144,000,000

4,948,000,000

2,200,000,000

98,630,723,000

決算額

5,864,768,334

224,351,581,573

0

1,549,317,867

10,861,578,156

49,805,252,960

19,161,357,644

42,106,024,525

915,637,615

5,972,772,462

905,914,952

64,497,590,824

659,844,848

782,079,038

0

1,441,923,886

27,767,747,922

808,386,646

△ 1,127,501,413

230,216,349,907

3,658,544,000

23,885,000,000

18,885,454,199

6,002,340,602

13,089,072,601

37,414,791

2,294,836,700

9,895,842,473

16,638,326,910

2,995,559,600

1,985,912,157

24,911,073,000

147,810,000

4,676,003,000

2,259,132,000

98,854,027,874

1996年度 予算額 決算額

224,698,192,786

100,000,000

1,545,518,000

13,425,966,000

50,541,352,000

19,540,167,000

32,174,635,786

1,018,984,000

5,873,579,000

1,216,367,000

75,442,792,000

677,945,000

800,730,000

0

1,478,675,000

23,008,391,000

810,441,000

224,698,192,786

9,454,640,556

215,243,552,230

0

1,545,265,492

13,333,292,537

49,591,409,080

18,650,274,786

30,640,840,195

904,864,843

5,648,254,942

1,075,995,705

71,575,515,783

658,610,720

771,032,242

0

1,429,642,962

21,499,754,244

778,084,623

△ 2,999,384,017

221,698,808,769

1,714,205,000

1,780,000,000 −

3,300,303,000

12,005,000,000

23,883,304,613

5,864,768,334

4,094,436,984

70,622,094

1,684,176,963

9,861,731,957

15,716,912,405

2,838,760,151

2,120,483,858

24,019,643,000

145,181,000

2,507,601,567

2,068,762,000

109,802,915,843

3,000,000,000

12,021,000,000

24,507,071,000

5,864,767,786

8,576,775,000

20,224,000

1,756,746,000

9,623,741,000

15,780,132,000

2,853,123,000

2,093,923,000

22,800,000,000

145,000,000

2,233,440,000

2,266,000,000

109,376,250,000

予算現額

232,614,612,630

100,000,000

2,551,488,000

15,495,074,000

50,729,550,000

21,858,737,500

34,182,326,150

1,186,479,000

5,163,566,000

1,239,924,000

75,732,304,980

667,168,000

791,565,000

0

1,458,733,000

23,599,436,000

775,727,000

232,614,612,630

7,501,000,000

2,930,000,000

15,167,000,000

22,261,782,000

6,455,256,530

8,142,180,000

101,060,000

871,169,000

11,053,749,100

20,922,528,000

3,337,474,000

2,307,964,000

22,700,000,000

148,000,000

1,360,400,000

1,720,000,000

105,635,050,000

収入済額

11,097,604,680

221,517,007,950

0

2,551,486,329

15,425,759,642

49,799,789,880

20,843,168,738

31,880,552,775

1,100,265,611

5,054,583,846

133,359,085

73,650,577,689

634,844,327

756,126,452

0

1,390,970,779

20,331,280,585

746,183,770

△ 3,183,321,588

229,431,291,042

7,501,669,000

2,887,986,000

15,134,000,000

21,985,899,369

6,455,256,539

3,691,898,087

97,296,546

1,140,240,594

11,281,971,925

20,011,753,012

3,282,521,467

2,442,521,855

24,126,301,000

145,168,000

1,352,195,000

1,758,150,000

106,136,462,648

予算現額

239,236,006,481

87,384,000

2,186,265,000

16,218,697,000

50,074,662,000

16,978,761,500

37,540,566,000

1,176,378,000

5,284,385,000

1,208,829,000

86,245,688,500

644,523,000

726,247,000

19,040,000

1,389,810,000

21,452,580,481

781,810,000

239,236,006,481

7,713,000,000

7,000,000,000

2,500,000,000

9,887,000,000

28,308,279,000

6,914,283,000

11,854,265,000

190,362,000

1,808,649,000

10,496,884,000

25,292,847,481

3,357,822,000

2,401,729,000

19,600,000,000

150,000,000

1,350,986,000

1,720,000,000

98,689,900,000

10,402,845,600

228,833,160,881

0

2,186,066,607

16,059,502,927

49,507,841,240

16,008,185,065

34,856,373,388

1,110,744,574

5,185,707,335

1,040,090,622

82,161,349,795

634,252,972

674,865,627

16,716,500

1,325,835,099

19,956,721,762

760,577,566

△ 5,479,292,050

233,756,714,431

7,713,433,000

6,980,511,000

2,733,015,000

9,364,000,000

27,156,619,307

6,914,283,092

6,426,010,224

220,795,394

1,734,718,953

10,606,535,008

24,719,099,829

3,449,966,630

2,758,288,842

20,221,004,000

146,509,000

1,381,625,000

1,548,197,000

99,682,103,152

収入済額

(単位:円)

公共美術館の価値に関する研究 第 3 章 決算書からみた美術館の経済的評価

世田谷区の一般会計の決算をみてみる。東京都の決算と同様に歳出の中に美術館

費を組み込むが、世田谷区の場合は総務費用に含まれる(表 3-3)。 表 3-3 世田谷区の決算推移

Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文


第 3 章 決算書からみた美術館の経済的評価

公共美術館の価値に関する研究

3.2 美術館の決算内容 平成11年度における東京都と世田谷区の決算内容から、美術館が占める費用は下記 のとおりであった。ここでいう美術館費という名称は決算項目としてあるわけでな く、散在している項目の中から美術館費としてまとめたものである。 東京都庭

表 3-4 平成 11 年度の歳出に占める美術館費の割合(東京都) 項目 一般歳出 美術館費 うち江戸東京博物館費 うち東京都現代美術館費 うち東京都写真美術館費 うち東京都美術館費 うち東京都庭園美術館費

金額(百万円) 6,420,707 8,138 4,291 2,030 1,097 720 368

割合(%) 100.00 0.14 0.07 0.03 0.02 0.01 0.01

東京都美 園美術館 4% 術館 8% 東京都写 真美術館 13% 東京都現 代美術館 24%

江戸東京 博物館 51%

図 3-1 美術館費の内訳(東京都)

表 3-5 平成 11 年度の歳出に占める美術館費の割合(世田谷区) 項目 一般歳出 美術館費 うち世田谷美術館費 うち文学館費

金額(百万円) 228,833 1,326 692 634

割合(%) 100.00 0.58 0.31 0.27

文学館 48%

世田谷美 術館 52%

図 3-2 美術館費の内訳(世田谷区)

東京都の歳出 6 兆 4,201 億円のうち 5 美術館の費用を合わせた美術館費として占め る割合は 0.14%と、およそ 81 億円である。このうち、江戸東京博物館が 5 割近い 43 億円であり、次いで東京都現代美術館の 20 億円、東京都写真美術館の 11 億円、 東京都美術館の 7 億円、東京都庭園美術館の 4 億円となる。一方、世田谷区の歳出 2,288億円のうち2美術館の費用を合わせた美術館費として占める割合は0.58%と、 およそ 13 億円である。このうち、世田谷美術館が 7 億円と 5 割を占める。 東京都が5美術館に力を入れて文化事業を発展させていくという方針であるならば、 歳出に占める美術館費の割合は、 世田谷区と比較してもかなり少ないことがわかる。 以下、東京都の美術館に関する決算の話題と各美術館が公表している決算内容を個 別にみていく。

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

50


第 3 章 決算書からみた美術館の経済的評価

公共美術館の価値に関する研究

江戸東京博物館の 1998 年度の人���費を含めた維持管理費は約 22 億円。一方、入館 料などの収入は約 5 億円で、 “独立採算”どころではない。しかも「清掃や警備員を 減らすといった管理コストの削減は限界に達しつつある」と岡部恒雄副館長は日経 新聞紙上でコメントしている。 江戸東京博物館はこれまで企画展を年4回程度開いてきた。規模にもよるが、1回 の企画展に 6,000 万∼ 7,000 万円程度の経費がかかり、 「10 万人は入らないと採算 が取れない」 (岡部副館長)。しかし昨年度の「元禄繚乱展」や「伊能忠敬展」など のヒット企画を除くと大半が数万人規模にとどまる。 追い打ちをかけるように来年度予算では、入場者数を大きく左右する企画展に定額 補助制が導入される。従来は収入が開催経費を下回っても都が全額補填したが、来 年度からはあらかじめ決めた一定額しか補助金が出ない。 「財政支出を削減すると同 時に、緊張感を持ってもらう」と都生活文化局の担当者。補助金の定額制は江東区 の東京都現代美術館でも来年度から導入される予定である。また恵比寿ガーデンプ レイス内にある東京都写真美術館の場合、新規の作品購入費は今年度からゼロ。来 年度予算では企画展への補助金も全廃される情勢だ。昨年度まで年 5 回開いてきた 企画展を今年度は 3 回に制限されたこともあり、入館者数は 15 万∼ 16 万人と 2 割 程度減る見通しという。 「すばらしい施設だが、どこにあるか分からない」との批判に対し東京都写真美術館 は 2000 年 10 月に案内看板も設置したが、入館者数はそれほど増えてはいない。 何とか財源を確保しようと、江戸東京博物館や東京都写真美術館を運営する東京都 歴史文化財団は2000年秋から新たな寄付金制度を導入し、一口5万円で個人と法人 から幅広く寄付を募る。さらに各館別に「友の会」などのサポーター制の導入を検 討中。企業から企画展の協賛を得ることも必要とみて、江戸東京博物館などは「営 業部門の強化など組織の見直しも検討している」(岡部副館長)とのことだ。

江戸東京博物館 公共施設という性質から当然かも知れないが収支計算書をみて受ける印象として、 収支は都からの補助金等の収入でほぼまかなわれているということである (表3-6) 。 つまり、入場料収入や出版収入といった事業収入は過去 5 期ともに 1 億円前後を行

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

51


第 3 章 決算書からみた美術館の経済的評価

公共美術館の価値に関する研究

き来した値で、その 40 ∼ 50 倍もの金額を補助金収入として計上している。支出を みると歴史事業推進費や受託事業費といった事業費が大半を占めている。受託事業 費の内訳は記載されていないが、平成 11 年度(1999 年度)に限っていえば 27.3 億 円のうち施設に関する管理運営費としておよそ 12 億円、残り 15 億円は分館である 江戸東京たてもの園管理運営費や関連の諸経費にかかっている。また、管理費の中 の事務局費 6.7 億円は人件費が占めており、人件費を含めた維持管理費は約 19 億円 かかっているとみなされる。また貸借対照表(バランスシート)もしめす(表 3-7)。

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

52


57,529,183 10,129,767 30,318,216 17,081,200

9,810,000

15,400,000

13,050,000

   出版等収入

   駐車場収入 3,587,272,000 624,203,000 2,963,069,000 9,257,672 7,120,352

3,837,272,000

724,203,000

3,113,069,000 0 0

   東京都受託料収入

 4. 雑収入

   雑収入

53

0 8,122,000 8,122,000 3,662,180,855 0 3,662,180,855

14,880,000

1,000,000

1,000,000

3,895,912,000 0

3,895,912,000

   退職給与引当預金取崩収入

 6. 繰入金収入

   繰入金収入

2,396,892,334 376,547,634 9,296,338 9,460,000

2,917,165,000

434,189,000

30,610,000

11,005,000

 2. 管理費

   役員費

   管理費

    (B)-(C)

   次期繰越収支差額

   当期収支差額(A)-(C)  

   当期支出合計(C)

   繰入金支出

0

0

0

0

467,457,429 3,662,180,855

0

3,895,912,000

   東京都補助金返還支出

4,726,000 3,928,746

1,575,382 3,928,746

3,613,000

   退職給与引当預金支出

 5. 繰入金支出

467,457,429

1,575,382

3,613,000

 4. 特定預金支出

0

6,817,971

10,300,000

   什器備品購入支出

4,726,000

6,817,971

10,300,000

 6. 東京都補助金返還支出

357,791,296

392,574,000

 3. 固定資産取得支出

   事務局費

   受託事業費

408,961,359

525,919,000

   歴史事業推進費

 1. 事業費

Ⅱ 支出の部

   収入合計(B)

   前期繰越収支差額

   当期収入合計(A)

2,805,853,693

0

3,443,084,000

2,137,320

0

14,880,000

   受取利息等

 5. 特定預金取崩収入

 3. 補助金等収入

   東京都補助金収入

   入場料等収入

 2. 事業収入

38,260,000

0 0

4,500,000

決算額

4,500,000

予算額

 1. 基本財産運用収入

   基本財産運用収入

Ⅰ 収入の部

1995年度

− −

0

0

6,102,881,000

0

8,891,000

8,891,000

1,769,000

1,769,000

10,300,000

10,300,000

707,550,000

22,007,000

729,557,000

4,481,475,000

870,889,000

5,352,364,000

6,102,881,000

0

6,102,881,000

1,000,000

1,000,000

19,306,000

19,306,000

0

1,000

1,000

4,865,222,000

1,128,201,000

5,993,423,000

26,101,000

41,800,000

21,250,000

89,151,000

予算額

− −

31,055,400

44,822,043

27,551,120

103,428,563

決算額

0

0

6,144,464,423

914,235,820

914,235,820

8,138,413

8,138,413

1,769,000

1,769,000

4,177,680

4,177,680

647,238,144

15,660,600

662,898,744

3,835,284,988

717,959,778

4,553,244,766

6,144,464,423

0

6,144,464,423

8,122,000

8,122,000

2,534,700

2,534,700

5,817,948

31,138,212

36,956,160

4,865,222,000

1,128,201,000

5,993,423,000

1996年度

− −

0

0

5,698,454,000

0

7,913,000

7,913,000

8,102,000

8,102,000

5,150,000

5,150,000

731,941,000

20,565,000

752,506,000

4,119,986,000

804,797,000

4,924,783,000

5,698,454,000

0

5,698,454,000

1,000,000

1,000,000

24,905,000

24,905,000

1,000

0

1,000

4,527,280,000

1,045,028,000

5,572,308,000

34,140,000

34,400,000

31,700,000

100,240,000

予算額

− −

27,307,400

37,328,046

26,795,285

91,430,731

決算額

0

0

5,718,225,060

564,895,508

564,895,508

7,913,000

7,913,000

4,722,952

4,722,952

4,792,725

4,792,725

682,870,624

19,311,340

702,181,964

3,733,134,381

700,584,530

4,433,718,911

5,718,225,060

0

5,718,225,060

8,122,000

8,122,000

2,557,800

2,557,800

5,131,130

38,675,399

43,806,529

4,527,280,000

1,045,028,000

5,572,308,000

1997年度

− −

0

0

5,067,741,000

0

13,884,000

13,884,000

8,102,000

8,102,000

5,150,000

5,150,000

752,232,000

20,565,000

772,797,000

3,553,954,000

713,854,000

4,267,808,000

5,067,741,000

0

5,067,741,000

8,122,000

8,122,000

28,039,000

28,039,000

1,000

0

1,000

3,969,936,000

964,208,000

4,934,144,000

33,218,000

33,550,000

30,667,000

97,435,000

予算額

− −

22,470,800

54,531,979

33,725,741

110,728,520

決算額

0

0

4,940,344,173

580,712,857

580,712,857

13,122,534

13,122,534

3,541,829

3,541,829

5,140,800

5,140,800

672,705,427

11,350,350

684,055,777

3,028,914,923

624,855,453

3,653,770,376

4,940,344,173

0

4,940,344,173

8,122,000

8,122,000

1,028,074

1,028,074

2,905,890

25,780,689

28,686,579

3,849,936,000

941,843,000

4,791,779,000

1998年度

− −

0

0

4,461,410,000

0

14,044,000

14,044,000

11,336,000

11,336,000

5,150,000

5,150,000

791,096,000

12,640,000

803,736,000

3,035,598,000

591,546,000

3,627,144,000

4,461,410,000

0

4,461,410,000

8,122,000

8,122,000

35,660,000

35,660,000

1,000

0

1,000

3,456,126,000

849,299,000

4,305,425,000

32,667,000

52,350,000

27,185,000

112,202,000

予算額

− −

0

0

4,266,487,055

342,601,847

342,601,847

13,122,359

13,122,359

9,313,697

9,313,697

3,945,606

3,945,606

666,740,559

9,890,000

676,630,559

2,733,278,854

487,594,133

3,220,872,987

4,266,487,055

0

4,266,487,055

8,122,000

8,122,000

0

0

962,802

30,363,082

31,325,884

3,327,810,000

816,015,000

4,143,825,000

25,842,500

30,820,471

26,551,200

83,214,171

決算額

(単位:円)

公共美術館の価値に関する研究 第 3 章 決算書からみた美術館の経済的評価

表 3-6 収支計算書(江戸東京博物館)

Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文


第 3 章 決算書からみた美術館の経済的評価

公共美術館の価値に関する研究

表 3-7 貸借対照表(江戸東京博物館) (単位:円)

1995年度

1996年度

1997年度

1998年度

1999年度

 Ⅰ 資産の部   1. 流動資産 1,877,174,892

2,367,842,189

1,884,259,863

1,409,656,792

    立替金

2,557,800

    未収金

21,985,122

30,883,420

30,132,254

19,176,955

18,190,917

    貸付金

805,600

284,870

501,530

479,470

355,100

    仮払金

22,722,048

13,171,741

    現金預金

1,011,073,697

194,000 11,159,150

    前払金 流動資産合計

1,899,965,614

2,421,732,527

1,930,623,188

1,429,313,217

1,040,972,864

657,387,475

490,484,804

369,266,522

252,423,364

184,853,733

1,963,241

1,336,967

910,475

620,033

422,242

15,924,550

15,158,850

17,324,002

19,837,757

29,151,454

  2. 固定資産    その他固定資産     什器備品     車両運搬具     退職給与引当預金     電話加入権 その他固定資産合計

299,936

299,936

299,936

299,936

299,936

675,575,202

507,280,557

387,800,935

273,181,090

214,727,365

675,575,202

507,280,557

387,800,935

273,181,090

214,727,365

2,575,540,816

2,929,013,084

2,318,424,123

1,702,494,307

1,255,700,229

    未払金

1,899,380,644

2,421,519,793

1,930,215,097

1,428,948,716

1,040,454,778

    預り金

584,970

212,734

281,420

242,810

298,227

    仮受金

126,671

121,691

25,859

1,899,965,614

2,421,732,527

1,930,623,188

1,429,313,217

1,040,778,864

16,552,836

20,543,970

17,324,002

19,837,757

29,151,454

16,552,836

20,543,970

17,324,002

19,837,757

29,151,454

1,916,518,450

2,442,276,497

1,947,947,190

1,449,150,974

1,069,930,318

固定資産合計 資産合計

 Ⅱ 負債の部   1. 流動負債

流動負債合計   2. 固定負債     退職給与引当預金 固定負債合計 負債合計

 Ⅲ 正味財産の部     正味財産    (うち当期正味財産増加額) 負債及び正味財産合計

659,022,366

486,736,587

370,476,933

253,343,333

185,575,911

(659,022,366)

(△172,285,779)

(△116,259,654)

(△117,133,600)

(△67,767,422)

2,575,540,816

2,929,013,084

2,318,424,123

1,702,494,307

1,255,506,229

東京都現代美術館 東京都現代美術館と東京都美術館に関しては一般公開されている会計資料は予算 ベースの資料のみになるが、決算時点と大きく変わらないと判断し他の美術館と同 等に扱う(表 3-8)。また、平成 11 年度(1999 年度)の年間利用者は明らかでない ため、1998 年度の利用者を代替して用いる。歳入と歳出に差があるが、その差額は 都からの補助金、つまり我々の税金から補われているものであり、本研究で経済的 表 3-8 予算概要の推移と来館者数(東京都現代美術館) (単位:千円)

1995年度

事項名

1996年度

1997年度

1998年度

1999年度

歳  入

616,492

450,052

511,602

265,111

266,143

歳  出

2,271,502

2,120,608

2,091,351

1,788,715

1,483,051

来館者(人)

279,974

469,927

514,766

222,837

来館者一人当たりの運営経費

8,113

4,513

4,063

8,027

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

54


第 3 章 決算書からみた美術館の経済的評価

公共美術館の価値に関する研究

評価を行う場合にはこの差額を委託金・補助金として利用する。 平成 11 年度(1999 年度)でみると、歳出額 14.8 億円のうち、管理運営におよそ 3.7 億円、建物維持管理におよそ 5.8 億円と人件費も含め 10 億円近くの維持費がかかっ ていることになる。特に、エントランス部分がガラスで囲まれていたり、19m もの 吹き抜けとなったアトリウム空間があるため、温度管理に気を使い必然的に光熱費 がかかってしまう。また観覧料は 2 億円であり、歳入のほとんどを占めている。 修繕計画に関しては、短期の計画はあるものの竣工後10年以内ということもあり長 期の計画は立てられておらず、また投資的な予算は承認されないため現状は難しい ようである。 表 3-9 予算概要(東京都現代美術館) 財団委託経費(予算額)

事項名

(単位:千円)

1995年度 35,257

1996年度

1997年度

1998年度

1999年度

22,555

78,528

13,086

24,135

  1. 刊行物売払収入

16,674

72,923

7,877

18,307

歳   2. 光熱水費・利子 入

5,281

4,482

3,909

4,241

  3. コピーサービス

600

1,123

1,300

1,587

35,257

22,555

78,528

13,086

24,135

1,166,419

1,081,655

1,024,220

839,144

476,686

650,953

646,666

524,206

410,357

24,793

20,673

11,503

10,998

317,280

289,099

256,859

13,531

64,450

45,479

38,217

34,215

 雑収入

歳入合計  美術普及事業   1. 展覧会の開催   2. 美術館教育   3. 美術情報センターの運営   4. 美術図書室の運営   5. 美術資料の収集・管理

歳  管理運営 出

202,512

24,179

22,303

8,359

7,585

175,776

158,350

141,794

367,705 45,239

  1. 建物維持管理用品等

69,009

55,534

49,258

  2. 総合案内受付等委託

36,371

37,077

32,442

32,442

  3. OA機器等の賃借等

70,396

65,739

60,094

290,024

 建物維持管理

898,851

  1. 施設・設備の管理委託 歳出合計

2,267,782

859,432

755,160

669,715

581,550

859,432

755,160

669,715

581,550

2,116,863

1,937,730

1,650,653

1,425,941

教育庁所管経費(予算額)

事項名  使用料及び手数料

(単位:千円)

1995年度 581,235

1996年度

1997年度

1998年度

1999年度

427,497

312,574

252,025

242,008

400,800

289,200

221,152

219,040

162

162

145

94

20,617

18,908

26,390

18,536

4,304

4,338

4,338

 物品貸付収入  雑入   1. 使用料

歳 入   (1)観覧料   (2)施設使用料   (3)目的外使用料

5,918

  2. 財産収入

120,500

  3. 雑入 歳入合計

581,235

427,497

433,074

252,025

242,008

1,333

1,356

1,352

1,666

1,666

2,387

2,389

2,269

1,396

1,444

150,000

135,000

54,000

153,621

138,062

57,110

 運営審議会

歳  収集委員会等 出  美術作品購入

3,720

歳出合計

3,745

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

55


6,435,201

10,050,000 −

5,066,396

0

840,000

840,000

 3. 雑収入

   雑収入

56

0

0

815,780,396

0

815,780,396

1,862,000

813,416,000

0

813,416,000

   退職給与引当預金取崩収入

   財政調整引当預金取崩収入

   当期収支差額(A)-(C)  

    (B)-(C)

   次期繰越収支差額

0

0

0

0

   東京都受託料返還支出

45,818,888

0

815,780,396

45,818,888

   財政調整引当金支出

 4. 東京都受託料返還支出

0

677,000

677,000

   退職給与引当預金支出

813,416,000

677,000

677,000

 3. 特定預金支出

   当期支出合計(C)

   管理費

212,878,807

212,878,807

224,467,000

224,467,000

   写真美術館費

 2. 管理費

   事務局費

   ミュージアムショップの運営

   作品資料収集

357,055,048

375,661,000

   第一次開館施設管理運営

   総合施設管理運営

556,405,701

199,350,653

588,272,000

212,611,000

 1. 事業費

Ⅱ 支出の部

   収入合計(B)

   前期繰越収支差額

   当期収入合計(A)

5,066,396

0

1,862,000

 4. 特定預金取崩収入

   受取利息等

810,714,000

810,714,000

   東京都補助金収入

   東京都受託料収入

810,714,000

810,714,000 335,008,000

695,142,000 560,747,307

10,280,701

0

0

0

1,617,169,000

83,542,680

83,542,680

1,551,330,959

364,071,081

364,071,081

0 0

1,723,000

12,003,701

560,747,307

1,723,000

1,723,000

695,142,000

73,755,227

355,523,954

571,340,000 74,383,000

185,229,689

614,508,870

1,634,873,639

0

1,634,873,639

0

0

7,947,391

4,065,547

12,012,938

274,581,000

920,304,000

1,617,169,000

0

1,617,169,000

2,908,000

2,908,000

1,000

1,680,000

1,681,000

1,257,100,000

335,008,000 1,257,100,000

1,592,108,000

1,592,108,000

24,317,500

決算額

30,752,701

1994年度

10,422,000

予算額

20,472,000

0

   販売等収入

   出版等収入

決算額

 2. 補助金等収入

0

1993年度

予算額

   入場料等収入

 1. 事業収入

Ⅰ 収入の部

1995年度

4,150,122

443,308,000 354,673,000

0

0

2,040,981,000

0

0

1,467,000

1,467,000

775,090,000

699,339

▲ 82,843,341

1,726,127,699

265,283,463

265,283,463

631,000

631,000

625,117,666

625,117,666

835,095,570

1,264,424,000 775,090,000

835,095,570

1,726,827,038

83,542,680

1,643,284,358

0

0

1,895,625

4,700,696

6,596,321

1,230,315,000

1,264,424,000

2,040,981,000

0

2,040,981,000

4,375,000

4,375,000

1,000

1,680,000

1,681,000

1,490,979,000

1,584,988,000

19,718,000 1,934,287,000

15,523,475

32,026,440

51,700,037

決算額

40,150,000

40,770,000

100,638,000

予算額

19,528,502

29,212,140

48,740,642

403,981,000

0

0

1,846,697,000

0

0

10,281,000

1,308,000

11,589,000

750,694,000

750,694,000

1,084,414,000

1,084,414,000

1,846,697,000

0

0

0

1,813,542,460

310,701,484

310,701,484

0

1,024,830

1,024,830

646,383,979

646,383,979

855,432,167

855,432,167

1,813,542,460

0

1,813,542,460

0

10,281,000 1,846,697,000

0

0

893,233

4,176,585

5,069,818

1,355,751,000

5,683,000

15,964,000

1,000

1,680,000

1,681,000

1,355,751,000

403,981,000

1,759,732,000

28,550,000

40,770,000

決算額

1,759,732,000

1996年度

69,320,000

予算額

(単位:円)

0

0

1,652,575,000

0

0

3,616,000

0

0

1,629,669,973

210,959,835

210,959,835

3,566,773

3,566,773

12,940,855

13,930,000 3,616,000

623,945,636

636,886,491

778,256,874

778,256,874

1,629,669,973

0

1,629,669,973

0

0

0

629,060

13,721,503

14,350,563

1,203,396,000

367,240,000

1,570,636,000

16,841,570

27,841,840

44,683,410

決算額

702,778,000

716,708,000

932,251,000

932,251,000

1,652,575,000

0

1,652,575,000

10,281,000

9,139,000

19,420,000

1,000

1,680,000

1,681,000

1,203,396,000

367,240,000

1,570,636,000

19,140,000

41,698,000

60,838,000

予算額

0

0

1,326,491,000

0

0

1,539,000

1,539,000

13,889,000

671,026,000

684,915,000

640,037,000

640,037,000

1,326,491,000

0

1,326,491,000

10,281,000

10,676,000

20,957,000

1,000

1,680,000

1,681,000

921,682,000

321,971,000

1,243,653,000

14,460,000

45,740,000

60,200,000

予算額

0

0

1,273,201,421

88,363,812

88,363,812

1,391,200

1,391,200

12,859,240

620,142,387

633,001,627

550,444,782

550,444,782

1,273,201,421

0

1,273,201,421

0

0

0

413,362

6,048,278

6,461,640

896,349,000

314,649,000

1,210,998,000

17,551,071

38,190,710

55,741,781

決算額

0

0

1,160,947,000

0

0

4,048,000

4,048,000

13,859,000

651,727,000

665,586,000

491,313,000

491,313,000

1,160,947,000

0

1,160,947,000

10,281,000

14,393,000

24,674,000

1,000

1,680,000

1,681,000

846,814,000

250,202,000

1,097,016,000

8,700,000

28,876,000

37,576,000

予算額

(単位:円)

0

0

1,096,986,607

59,439,366

59,439,366

204,440

204,440

12,904,744

615,795,940

628,700,684

408,642,117

408,642,117

1,096,986,607

0

1,096,986,607

0

0

0

196,882

7,406,892

7,603,774

812,941,000

240,194,000

1,053,135,000

15,477,543

20,770,290

36,247,833

決算額

公共美術館の価値に関する研究 第 3 章 決算書からみた美術館の経済的評価

表 3-10 収支計算書(東京都写真美術館)

Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文


第 3 章 決算書からみた美術館の経済的評価

公共美術館の価値に関する研究

東京都写真美術館 平成 11 年度(1999 年度)でみると、支出額 11 億円のうち、管理費に 6.3 億円、事 業費に 4 億円かかっている。このうち、事業費に含まれる総合施設管理運営費を調 べ実質の維持費を求めたかったのだが、公表されていないために明らかにすること が出来なかった。 表 3-11 貸借対照表(東京都写真美術館) (単位:円)

1993年度

1994年度

1995年度

1996年度

1997年度

1998年度

1999年度

 Ⅰ 資産の部   1. 流動資産 239,566,416

982,446,668

424,143,406

515,334,619

    未収金

19,466,965

322,070

1,124,773

1,107,343

4,031,203

817,554

    商品

15,189,631

15,246,257

23,362,864

17,521,431

    現金預金

    仮払金

7,000

    前払金 流動資産合計

10,274,628

388,907,153

3,638,121

223,473,384

190,390,775

5,586,465

5,158,496

5,158,496

5,158,496

239,566,416

1,001,920,633

439,655,107

532,320,485

414,057,370

256,025,947

213,888,256

  2. 固定資産    その他固定資産 8,807,603

10,198,803

10,403,243

10,280,701

10,280,701

10,280,701

10,280,701

10,280,701

その他固定資産合計

1,862,000

3,585,000

14,496,701

15,521,531

19,088,304

20,479,504

20,683,944

固定資産合計

1,862,000

3,585,000

14,496,701

15,521,531

19,088,304

20,479,504

20,683,944

241,428,416

1,005,505,633

454,151,808

547,842,016

433,145,674

276,505,451

234,572,200

    未払金

239,566,416

908,097,252

422,132,524

531,329,210

397,400,413

231,501,793

196,366,825

    預り金

0

1,633,613

991,275

1,410,700

1,161,290

239,566,416

908,097,252

423,766,137

532,320,485

398,811,113

232,663,083

196,366,825

1,862,000

3,585,000

4,216,000

5,240,830

8,807,603

10,198,803

10,403,243

1,862,000

3,585,000

4,216,000

5,240,830

8,807,603

10,198,803

10,403,243

241,428,416

911,682,252

427,982,137

537,561,315

407,618,716

242,861,886

206,770,068

0

93,823,381

    退職給与引当預金     財政調整引当預金

資産合計

1,862,000

3,585,000

4,216,000

5,240,830

 Ⅱ 負債の部   1. 流動負債

流動負債合計   2. 固定負債     退職給与引当預金 固定負債合計 負債合計

 Ⅲ 正味財産の部     正味財産    (うち当期正味財産増加額) 負債及び正味財産合計

241,428,416

1,005,505,633

26,169,671

10,280,701

25,526,958

33,643,565

27,802,132

(△67,653,710)

(△15,888,970)

(15,246,257)

(8,116,607)

(△5,841,433)

454,151,808

547,842,016

433,145,674

276,505,451

234,572,200

東京都美術館 貸館事業が中心のため、歳入の中心は賃貸としての使用料となる。平成 11 年度 (1999 年度)でみると、歳出額 5.5 億円のうち、管理運営費に 0.3 億円、建物維持管 理費に 5.1 億円かかっている(表 3-12)。 歳入と歳出の差額 3.5 億円が委託金・補助金で補われているが、他の美術館に比べ 歳出は歳入の2倍弱の値であり、公共美術館としては経済的であると考えられる。し かし、竣工後 25 年が経っていながら毎年建物維持管理費にかかる費用は、5 ∼ 6 億 円のレンジで推移しているところをみると、経年に見合った改修をしているとは読 み取れない。実際に、予算がつかない等の理由で大規模な改修は見送られているが、 長期的視野をもって大切に使っていくためには、新設の美術館にかける規模の費用 を東京都美術館にもかけなければならないのではないだろうか。

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

57


事項名

58 1,242

1,596

2,208,726 309

2,125,668

314

来館者(人)

来館者一人当たりの運営経費(円)

197,011 683,361

194,633

1990年度

666,514

1989年度

1,242

159,204

148,970

1,596

1,151

1,151

歳  入

事項名

歳出合計

歳入合計

158,053

147,819

1990年度

682,119

664,918

1990年度

67,362 67,200

68,267

歳  出

予算ベース

歳  施設整備 出

歳出合計

事項名

 運営審議会

歳  財産収入 入  諸収入

 使用料

都予算分

 諸施設整備

75,629

55,468 492,089

54,527

 管理運営

466,495

9,807 37,807

10,663

45,663

 建物維持管理

歳入合計

0 28,000

0

1990年度

35,000

1989年度

歳  美術普及事業 出

  3. 雑収入

歳   2. 施設使用負担金収入 入

  1. 受取利息収入

 雑収入

財団予算分

0

358

2,251,755

806,118

196,762

1991年度

1,396

1,396

159,241

760

158,481

1991年度

804,722

155,700

69,321

533,841

45,860

37,521

9,521

28,000

1991年度

0

365

2,181,647

795,346

211,078

1992年度

1,395

1,395

173,394

737

172,657

1992年度

793,951

116,000

72,269

557,695

47,987

37,684

10,244

27,440

1992年度

0

358

2,141,031

767,122

222,284

1993年度

1,388

1,388

184,452

737

183,715

1993年度

765,734

77,000

69,635

571,849

47,250

37,832

9,832

28,000

1993年度

0

0

370

2,067,026

764,692

191,626

1994年度

1,388

0

1,388

182,087

489

181,598

1994年度

763,304

92,000

37,252

587,393

46,659

9,539

9,539

1994年度

0

0

340

2,077,541

705,645

189,796

1995年度

1,333

0

1,333

180,101

593

179,508

1995年度

704,312

64,000

9,428

584,860

46,024

9,695

9,695

1995年度

0

0

351

2,013,048

707,274

206,518

1996年度

35,253

34,000

1,253

187,259

876

186,383

1996年度

672,021

24,000

9,161

593,281

45,579

19,259

19,259

1996年度

1

318

1,978,690

628,809

212,479

1997年度

1,253

0

1,253

196,396

845

195,551

1997年度

627,556

13,000

1,896

573,131

39,529

16,083

7,876

8,206

1997年度

1

307

1,913,340

586,672

255,211

1998年度

1,666

0

1,666

238,796

895

237,901

1998年度

585,006

26,000

1,709

521,614

35,683

16,415

9,106

7,308

1998年度

300

1867686

559,949

212,280

1999年度

(単位:千円)

1,666

0

1,666

194,833

850

193,983

1999年度

(単位:千円)

558,283

13,000

1,899

509,426

33,958

17,447

9,323

8,123

1

(単位:千円)

1999年度

公共美術館の価値に関する研究 第 3 章 決算書からみた美術館の経済的評価

表 3-12 予算概要(東京都美術館)

Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文


94,919,080 34,973,700

30,426,000

59 752,628,000 0

585,480 0 0 465,732,237 29,654,355 495,386,592

3,000,000 1,452,000 1,452,000 496,654,000 − 496,654,000

   受取利息等

 4. 特定預金取崩収入

   退職給与引当預金取崩収入

29,654,355 29,654,355 465,960,345 ▲ 228,108

0 0 496,654,000 0

   退職給与引当預金支出

 5. 東京都補助金返還支出

   東京都補助金返還支出

    (B)-(C)

   次期繰越収支差額

   当期収支差額(A)-(C)  

0

981,000 981,000

981,000 981,000

 4. 特定預金支出

   当期支出合計(C)

   什器備品購入支出

29,426,247

   事務局費

 2. 管理費

   管理費

153,267,205 153,267,205

161,598,000 161,598,000

   庭園美術館費

 3. 固定資産取得支出

282,057,785 282,057,785

334,075,000 334,075,000

 1. 事業費

Ⅱ 支出の部

   収入合計(B)

   前期繰越収支差額

   当期収入合計(A)

562,645

198,000

   雑収入

0

0

752,628,000

0

0

1,437,000

1,437,000

159,150,000

159,150,000

592,041,000

592,041,000

752,628,000

2,946,000

2,946,000

3,000,000

198,000

3,198,000

1,148,125

3,198,000

669,347,000

331,778,000

331,778,000

   東京都補助金収入

669,347,000

5,562,000

23,010,000

48,565,000

77,137,000

予算額

777,536,326

29,426,247

29,426,247

1,437,000

1,437,000

155,259,055

155,259,055

591,414,024

591,414,024

778,740,432

29,426,247

749,314,185

0

0

3,162,263

222,120

3,384,383

669,347,000

669,347,000

9,937,808

5,766,600

60,878,394

76,582,802

決算額

1,204,106

▲ 28,222,141

1994年度

 3. 雑収入

2,913,332 331,778,000

11,330,000 331,778,000

   販売等収入

 2. 補助金等収入

   出版等収入

132,806,112

160,226,000

決算額

118,470,000

予算額

 1. 事業収入

   入場料等収入

Ⅰ 収入の部

1993年度

0

0

578,958,000

0

0

1,209,000

0

▲ 1,204,106

562,636,446

14,781,325

14,781,325

609,485

609,485

5,819,468

6,020,000 1,209,000

− 5,819,468

154,833,172

154,833,172

386,592,996

386,592,996

562,636,446

1,204,106

561,432,340

0

0

342,515

1,201,379

1,543,894

412,977,000

412,977,000

14,242,046

17,666,100

115,003,300

146,911,446

決算額

6,020,000

158,910,000

158,910,000

412,819,000

412,819,000

578,958,000

0

578,958,000

4,156,000

4,156,000

3,000,000

198,000

3,198,000

412,977,000

412,977,000

8,424,000

36,648,000

113,555,000

158,627,000

予算額

1995年度

0

0

529,797,000

6,020,000

0

0

481,813,455

29,527,468

29,527,468

5,974,380

5,974,380

6,399,965

8,496,000 6,020,000

166,575,810

172,975,775

273,335,832

273,335,832

481,813,455

0

481,813,455

0

0

134,358

1,484,641

1,618,999

381,249,000

381,249,000

9,526,760

10,381,706

79,036,990

98,945,456

決算額

171,366,000

179,862,000

343,915,000

343,915,000

529,797,000

0

529,797,000

4,591,000

4,591,000

3,000,000

198,000

3,198,000

381,249,000

381,249,000

5,398,000

36,353,000

99,008,000

140,759,000

予算額

(単位:円)

公共美術館の価値に関する研究 第 3 章 決算書からみた美術���の経済的評価

表 3-13 収支計算書(東京都庭園美術館その 1)

Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文


第 3 章 決算書からみた美術館の経済的評価

公共美術館の価値に関する研究

東京都庭園美術館 東京都に委託される前は、持ち主が転々と替わっていたために竣工当初の建設費も 途中の管理費も明細が確認されていない。東京都庭園美術館の収支計算書は、1993 年度から見ることができる(表 3-13)。どの美術館もそうであったが、詳細な維持 管理費の帳表は保存期間の 3 年を過ぎてしまうと基本的には破棄してしまうとのこ とであった。東京都庭園美術館も詳細な履歴は整理されていないようであった。 平成 11 年度(1999 年度)の収支計算では、支出額 5.7 億円のうち、事業費に 2.8 億 円、管理費に 2.5 億円かかっている(表 3-14)。残年ながら建築にかかわる建物維持 管理費が明らかではないので収支計算書からは読み取れないが、東京都美術館と同 様に毎年の維持管理費用はかけられていないようである。こちらは、竣工後68 年が 経ち、昨年 2000 年の事業として外壁改修工事が行われた。 表 3-14 収支計算書(東京都庭園美術館その 2) (単位:円)

1997年度

1998年度

予算額

決算額

予算額

 1. 事業収入

171,460,000

102,142,120

131,942,000

   入場料等収入

131,570,000

77,346,600

100,034,000

34,650,000

17,317,170

27,180,000

1999年度 決算額

予算額

決算額

94,743,783

143,153,000

107,803,130

69,927,870

109,145,000

82,470,133

17,494,850

27,980,000

16,296,860

Ⅰ 収入の部

   出版等収入    販売等収入

5,240,000

7,478,350

4,728,000

7,321,063

6,028,000

9,036,137

 2. 補助金等収入

463,986,000

463,986,000

424,064,000

412,585,000

406,611,000

390,346,000

   東京都補助金収入

463,986,000

463,986,000

424,064,000

412,585,000

406,611,000

390,346,000

1,318,000

4,784,990

1,318,000

10,037,511

1,318,000

16,429,377

318,000

4,624,563

318,000

9,865,749

318,000

16,346,569

   受取利息等

1,000,000

160,427

1,000,000

171,762

1,000,000

82,808

 4. 特定預金取崩収入

5,396,000

0

0

0

5,092,000

0

   退職給与引当預金取崩収入

5,396,000

0

0

0

5,092,000

0

642,160,000

570,913,110

557,324,000

517,366,294

556,174,000

514,578,507

 3. 雑収入    雑収入

   当期収入合計(A)

0

0

0

0

0

0

642,160,000

570,913,110

557,324,000

517,366,294

556,174,000

514,578,507

 1. 事業費

343,312,000

276,635,371

302,514,000

263,554,117

290,099,000

254,193,326

   庭園美術館費

343,312,000

276,635,371

302,514,000

263,554,117

290,099,000

254,193,326

 2. 管理費

279,089,000

246,678,678

249,810,000

204,180,481

260,521,000

244,114,893

   事務局費

270,593,000

239,603,278

241,284,000

197,174,841

251,995,000

237,192,173

8,496,000

7,075,400

8,526,000

7,005,640

8,526,000

6,922,720

 3. 固定資産取得支出

18,900,000

18,900,000

5,000,000

4,932,600

5,000,000

4,966,750

   什器備品購入支出

18,900,000

18,900,000

5,000,000

4,932,600

5,000,000

4,966,750

 4. 特定預金支出

859,000

0

0

554,000

554,000

   退職給与引当預金支出

859,000

0

0

554,000

554,000

28,699,061

0

44,699,096

0

10,749,538

   前期繰越収支差額    収入合計(B)

Ⅱ 支出の部

   管理費

 5. 東京都補助金返還支出    東京都補助金返還支出    当期支出合計(C)    当期収支差額(A)-(C)  

28,699,061

0

44,699,096

0

10,749,538

642,160,000

570,913,110

557,324,000

517,366,294

556,174,000

514,578,507

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

   次期繰越収支差額     (B)-(C)

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

60


61

  2. 固定資産

 Ⅱ 負債の部

負債合計

43,063,186 (23,222,141) 275,891,241

66,285,327

(6,547,872)

145,405,560

負債及び正味財産合計

232,828,055

79,120,233

    正味財産

3,928,000 3,928,000

2,491,000

   (うち当期正味財産増加額)

 Ⅲ 正味財産の部

固定負債合計

    退職給与引当預金

2,491,000

228,900,055

76,629,233

  2. 固定負債

136,890

9,750

609,674,789

(493,737,979)

536,801,165

72,873,624

4,537,485

3,928,000

68,336,139

68,199,249

228,890,305

76,629,233

    未払金

609,674,789

524,102,243

524,102,243

4,537,485

36,315,280

483,249,478

85,572,546

    預り金

  1. 流動負債

流動負債合計

45,787,080 275,891,241

39,350,080

145,405,560

固定資産合計

資産合計

45,787,080

39,350,080

その他固定資産合計

3,928,000

2,491,000 −

    電話加入権

    退職給与引当預金

    什器備品

    建物附属設備

   その他固定資産 41,859,080

230,104,161

106,055,480

294,936

1,065,096

36,859,080

14,860,908

16,954,615

17,236,407

− −

− −

    商品

    仮払金 −

520,201

508,896

247,901,972

(386,774,380)

150,026,785

97,875,187

4,537,485

4,537,485

93,337,702

42,100

93,295,602

247,901,972

137,609,655

137,609,655

72,800

4,537,485

41,220,808

91,778,562

110,292,317

182,945,345

(63,811,944)

86,214,841

96,730,504

4,537,485

4,537,485

92,193,019

38,900

92,154,119

182,945,345

75,891,418

75,891,418

145,600

4,537,485

56,724,876

14,483,457

107,053,927

1,549,470

2,721,577

87,409

11,221,435

    現金預金

    未収金

87,627,036

1997年度

10,684,631

80,530,970

1996年度

1,724,374

57,142,612

1995年度

228,292,378

1994年度

1,724,374

1993年度

104,331,106

流動資産合計

    立替金

  1. 流動資産

 Ⅰ 資産の部

203,064,929

(3,446,715)

89,661,556

113,403,373

4,537,485

4,537,485

108,865,888

63,980

108,801,908

203,064,929

84,018,508

84,018,508

145,600

4,537,485

56,076,966

23,258,457

119,046,421

177,750

10,180,533

268,910

0

108,419,228

1998年度

(単位:円)

215,838,454

(26,991,225)

116,652,781

99,185,673

5,091,485

5,091,485

94,094,188

45,348

94,048,840

215,838,454

102,680,123

102,680,123

145,600

5,091,485

60,750,794

36,692,244

113,158,331

194,000

19,064,143

529,828

0

93,370,360

1999年度

公共美術館の価値に関する研究 第 3 章 決算書からみた美術館の経済的評価

表 3-15 貸借対照表(東京都庭園美術館)

Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文


第 3 章 決算書からみた美術館の経済的評価

公共美術館の価値に関する研究

世田谷美術館 世田谷区の決算の中で、美術館費用がどのくらいの割合を占めているかを世田谷区 の決算推移(表 3-3)として記載したが、平成 5 年(1993 年度)から平成 11 年度 (1999 年度)まで、一般財源・特定財源と合わせてみてみる(表 3-16)。 平成 11 年度(1999 年度)に改修をしているものの、美術館維持運営を含む美術館 費としては大幅な増減は見られない。一方、財源では特定財源の使用料及び手数料 表 3-16 美術館費用の内訳(世田谷美術館) (単位:円)

1993年度

目 予算額

決算額

801,087,000

 美術館費

1994年度 予算額

731,629,782

1995年度 決算額

733,338,000

予算額

683,342,701

1996年度 決算額

874,250,000

予算額

862,655,574

決算額

809,606,000

782,079,038

0

0

0

0

0

0

0

0

801,087,000

731,629,782

733,338,000

683,342,701

874,250,000

862,655,574

809,606,000

782,079,038

 特定財源

34,217,000

56,211,920

36,173,000

42,510,099

33,637,000

43,053,927

36,229,000

47,809,610

  使用料及手数料

26,152,000

39,324,095

22,632,000

29,537,925

22,982,000

28,126,085

22,553,000

28,576,360

  諸収入

8,065,000

16,887,825

13,541,000

12,972,174

10,655,000

14,927,842

13,676,000

19,233,250

 一般財源

766,870,000

675,417,862

697,165,000

640,832,602

840,613,000

819,601,647

773,377,000

734,269,428

  うち美術館改修   うち美術館維持運営

 総入館者数(人)

154,242

440,506

397,754

337,054

4,743

1,551

2,169

2,320

 入館者一人当たりの運営経費

(単位:円)

1997年度

目 予算額

 美術館費

1998年度 決算額

1999年度

予算現額

収入済額

予算現額

収入済額 691,582,127

800,730,000

771,032,242

791,565,000

756,126,452

745,287,000

0

0

0

0

19,040,000

16,716,500

  うち美術館改修

800,730,000

771,032,242

791,565,000

756,126,452

726,247,000

674,865,627

 特定財源

35,494,000

34,035,115

35,899,000

31,618,686

30,079,000

24,356,041

  使用料及手数料

20,318,000

19,716,645

15,831,000

13,848,570

13,684,000

10,227,100

  諸収入

15,176,000

14,318,470

20,068,000

17,770,116

16,395,000

14,128,941

 一般財源

765,236,000

736,997,127

755,666,000

724,507,766

696,168,000

650,509,586

  うち美術館維持運営

 総入館者数(人)

436,132

413,392

258,512

1,768

1,829

2,611

 入館者一人当たりの運営経費

表 3-17 収支計算書(世田谷美術館) (単位:円)

予算現額

Ⅰ 収入の部

    2. 事業収入       展示事業収入       出版収入       区委託料収入       展覧会企画収入

予算現額

決算額

Ⅱ 支出の部

  一般会計     1. 基本財産収入

決算額

  一般会計 3,600,000

2,644,074     1. 管理費

357,246,000

344,683,254

384,002,000

362,438,988       人件費

284,353,000

279,667,858

27,653,000

29,460,163       交際費

600,000

132,200

6,772,000

5,976,226       会議費

19,000

0

349,576,000

327,002,599       需用費

72,274,000

64,883,196

82,795,000

79,404,480

1,000

0     2. 自主事業費

    3. 補助金収入

283,871,000

279,186,458       会議費

0

0

      区補助金収入

283,871,000

279,186,458       需用費

82,795,000

79,404,480

108,717,000

96,642,973

    4. 寄付金収入

1,000

    5. 負担金収入

10,200,000

8,558,472       会議費

0     3. 受託事業費

34,000

13,500

      負担金(レストラン収入等)

10,200,000

8,558,472       需用費

108,683,000

96,629,473

181,886,000

177,510,821

4,628,000

4,628,000

    6. 特定預金取崩収入

5,110,000

5,109,400     4. 施設管理費

    7. 雑収入

2,780,000

2,700,056     5. 特定預金支出

    8. 特別会計繰入金

10,000,000

   当期収入合計(A)

699,564,000

   前期繰越収支差額    収入合計(B)

38,736,000 738,300,000

10,000,000     6. 予備費 670,637,448    当期支出合計(C) 38,735,706    当期収支差額(A)-(C)    709,373,154    次期繰越収支差額(B)-(C)

0

0

735,272,000

702,869,528

▲ 35,708,000

▲ 32,232,080

3,028,000

6,503,626

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

62


第 3 章 決算書からみた美術館の経済的評価

公共美術館の価値に関する研究

表 3-18 貸借対照表(世田谷美術館) (単位:円)

金額

 Ⅰ 資産の部

 Ⅱ 負債の部

  1. 流動資産

  1. 流動負債

    現金預金

119,748,049     未払金

    未収入金

8,802,137     預り金

911,205

    貯蔵金

金額

91,873,728 32,443,343 流動負債合計

124,317,071

2,584,278   2. 固定負債

    仮払金

132,045,669     退職給与引当預金

流動資産合計

固定負債合計

  2. 固定資産    基本財産

負債合計

35,350,537 35,350,537 159,667,608

570,000,000  Ⅲ 正味財産の部

    基本財産引当預金

30,000,000     正味財産

    投資有価証券

    退職給与引当預金

607,728,598

   (うち基本金)

(600,000,000)

35,350,537    (うち当期正味財産減少額)

(40,828,369)

   その他の固定資産 635,350,537

固定資産合計

767,396,206

資産合計

負債及び正味財産合計

767,396,206

の科目が年々減少しているのがわかる。1993 年度には 39 百万円あった使用料及び 手数料が、1999 年度には 10 百万円まで落ち込んでいる。これには、利用者の入場 料収入が含まれていないので、収支計算書を確認すると展示事業収入としてまとめ られていることがわかる(表 3-17)。支出額 7 億円のうち、事業費に 1.8 億円、管理 費に 3.4 億円、施設管理費に 1.8 億円かかっている。収入額においては、6.7 億円の うち区からの委託金・補助金収入を除く収入、つまり一般企業でいうところの営業 収入は 52 百万円である。

以上、各美術館の決算内容を見てきたが、同じ東京都の美術館にもかかわらず、管 理する財団によって科目の表記が異なっていたり、収支計算としての予算・決算の 扱いが統一されていないために、擦り合わせる作業が非常に困難であった。また、光 熱費や清掃・警備等のランニングコストに関わる費用については各館対応が異なり、 公開してくれる美術館が少なく、資料不足から深く掘り下げて分析出来なかったの は残念である。経済的な視点で言えば、都が財政再建推進プランを推し進めるにあ たって都の資産・負債を真剣に把握したいと考えているならば、都民にとって身近 な存在である美術館の収支計算書の形式をよりわかりやすく統一させるように意識 を浸透させることが先決ではないだろうか。

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

63


第 3 章 決算書からみた経済的評価

公共美術館の価値に関する研究

3.3 経済的評価 美術館運営は一般の事業収入だけではまかなえていないので、経済原則にしたがえ ば東京都の 5 美術館と世田谷美術館の経済価値は悪いということになる。美術館の 収支計算書からもわかるとおり、公共美術館の運営においては、都や区からの委託 金・補助金は大きな財源である。しかし、財源となっているその委託金・補助金は、 言い換えれば我々が支払う税金収入の一部が支払われているのである。はたして一 年間、各美術館の維持に対して都民一人がいくら税金を負担しているのだろうか。 各美術館への委託金・補助金から都民の人口を単純に割って換算してみる(表 319)。なお都民の人口は、2000 年 11 月 1 日現在 1,204 万 1,119 人である。 表 3-19 委託金・補助金と都民一人当りの支払い税金

項 目

平成11年度の委託金・補助金 (円)

各館維持に対する都民一人当り の支払税金額(円)

  東京都美術館

347,669,000

29

  東京都庭園美術館

390,346,000

32

  江戸東京博物館

4,143,825,000

344

  東京都現代美術館

1,216,908,000

101

  東京都写真美術館

1,053,135,000

88

639,777,810

53

  世田谷美術館

一番多く支払っていることになるのは江戸東京博物館の 344 円、逆に一番少なく支 払っていることになるのは東京都美術館の 29 円となる。委託金・補助金の額の大き さから相当な高さの金額を想像しがちであるが、4 つの美術館は100 円に満たない。 であるから反面、他の 5 美術館と比較すると江戸東京博物館に対して支払っている 税金は高いといえるであろう。また、世田谷美術館は東京都の税金が一部と世田谷 区民の税金でまかなっているのであるので、この換算では正確ではないかもしれな いが、今後も同条件で比較していくためこのままの評価とする。現実には所得の違 いなどから一律の税金を支払うわけではないのだが、一つの指標となるであろう。 次に、イニシャルコスト(建設経費) ・ランニングコスト(維持管理費)と建築面積 や展示面積等の関係をみてみる(表 3-20)。ランニングコストの詳細の公開は美術 館毎によって見解が異なるため、今回はランニングコストの総和で比較する。また、 前述したように、東京都庭園美術館は所有者が何代にも替わっているため建設経費

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

64


第 3 章 決算書からみた経済的評価

公共美術館の価値に関する研究

は不明であり、東京都写真美術館は建設経費のうち、設備・内装費を負担している だけなので算入しない。また、東京都美術館のイニシャルコストは 25 年前の金額で あることを考慮してあえて選択しない。各項目の相関を調べる(表 3-21)。 表 3-20 イニシャルコスト・ランニングコストと各種面積 イニシャルコス ト+ランニング コスト(億円)

イニシャルコス ト(億円)

ランニングコス ト(億円)

 江戸東京博物館

590

12

 東京都現代美術館

415

6

38

7

45

館 名

 世田谷美術館

敷地面積(㎡)

建築面積(㎡)

延床面積(㎡)

展示面積(㎡)

602

29,293.00

17,562.00

48,512.95

8,934.00

421

23,780.56

8,072.89

33,515.01

7,427.38

19,000.00

5,240.00

8,577.27

1,808.00

表 3-21 相関分析 イニシャルコスト イニシャルコスト ランニングコスト +ランニングコス ト

敷地面積

建築面積

延床面積

展示面積

イニシャルコスト

1

ランニングコスト

0.617796181

1

0.99996091

0.62472473

1

敷地面積

0.969099201

0.792672883

0.971242354

1

建築面積

0.872483938

0.923255774

0.876770347

0.966057648

1

延床面積

0.997856166

0.667933785

0.998395817

0.983165064

0.902592796

1

展示面積

0.993573598

0.52482198

0.992533967

0.934951166

0.811568543

0.984035936

イニシャルコスト+ランニン グコスト

1

は、重相関Rが0.7以上のものである

この結果から、 「イニシャルコスト」及び「イニシャルコスト+ランニングコスト」 が各種面積と相関が高いことがわかる。東京都の公共美術館設計にあたっては、こ のような基準のもとに企画されていると思われたが、世田谷美術館がこの中に含ま れていることを考慮すると各種面積あたりにかかる「イニシャルコスト」及び「イ ニシャルコスト+ランニングコスト」は、公共美術館の設計において今まではかか らざるを得ないとされていた費用といえるのであろう。 「イニシャルコスト+ランニングコスト」と各種面積との分布図を作成する(表 322)。 分布図から得た江戸東京博物館、東京都現代美術館、世田谷美術館 3 館のモデル式 に、検証としてそれぞれ東京都美術館、東京都庭園美術館、東京都写真美術館の各 種面積を代入してみると、

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

65


第 3 章 決算書からみた経済的評価

江戸東京博物 館

600 500 東京都現代美 術館

400 300 200 100

世田谷美術館 0 0

10,000

20,000 敷地面積(㎡)

30,000

40,000

y = 0.0386x - 41.357 R2 = 0.7687 600 江戸東京博物 館

東京都現代美 術館

400 300 200 100 世田谷美術館 0 0

5,000

y = 0.0141x - 68.788 R2 = 0.9968

700 600

江戸東京博物 館

500 400

東京都現代美 術館

300 200 100 世田谷美術館

0 0

10,000

20,000

30,000

40,000

50,000

60,000

延床面積(㎡)

700

500

イニシャルコスト+ランニングコスト(億円)

y = 0.0536x - 931.06 R2 = 0.9433

700

10,000

15,000

20,000

イニシャルコスト+ランニングコスト(億円)

イニシャルコスト+ランニングコスト(億円)

イニシャルコスト+ランニングコスト(億円)

公共美術館の価値に関する研究

y = 0.0751x - 98.863 R2 = 0.9851

700 600 500

江戸東京博物館

400 東京都現代美術 館

300 200 100 世田谷美術館

0 0

2,000

4,000 6,000 展示面積(㎡)

建築面積(㎡)

8,000

10,000

図 3-3  「イニシャルコスト + ランニングコスト」と各種面積の分布(3 美術館)

(1) 「イニシャルコスト+ランニングコスト」と敷地面積:y=0.0536x-931.06   東京都美術館   C=0.0536・16519.53-931.06=-46 億円   東京都庭園美術館 C=0.0536・35358.28-931.06=964 億円   東京都写真美術館 C=0.0536・3227.00-931.06=-758 億円   なお、C:イニシャルコストとランニングコストの和

(2) 「イニシャルコスト+ランニングコスト」と建築面積:y=0.0386x-41.357   東京都美術館   C=0.0386・6796.44-41.357=221 億円(有効)   東京都庭園美術館 C=0.0386・1048.29-41.357=-1 億円   東京都写真美術館 C=0.0386・2001.00-41.357=36 億円

表 3-22 東京都美術館、東京都庭園美術館、東京都写真美術館の各種面積 館 名

敷地面積(㎡)

建築面積(㎡)

延床面積(㎡)

展示面積(㎡)

 東京都美術館

16,519.53

6,796.44

31,983.98

10,827.00

 東京都庭園美術館

35,358.28

1,048.29

2,100.47

650.00

 東京都写真美術館

3,227.00

2,001.00

7,500.00

1,492.00

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

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第 3 章 決算書からみた経済的評価

公共美術館の価値に関する研究

(3) 「イニシャルコスト+ランニングコスト」と延床面積:y=0.0141x-68.788   東京都美術館   C=0.0141・31.983.98-68.788=382 億円(有効)   東京都庭園美術館 C=0.0141・2100.47-68.788=-39 億円   東京都写真美術館 C=0.0141・7500.00-68.788=37 億円

(4) 「イニシャルコスト+ランニングコスト」と展示面積:y=0.0751x-98.863   東京都美術館   C=0.0751・10827.00-98.863=714 億円(有効)   東京都庭園美術館 C=0.0751・650.00-98.863=-50 億円   東京都写真美術館 C=0.0751・1492.00-98.863=13 億円

と、以上の結果になる。 敷地面積が「イニシャルコスト+ランニングコスト」費用と相関しつつも、実際に 影響するとは考えられないため、 (1)は除外する。 (2)、 (3)、 (4)において東京都庭園美術館は全て負となり、東京都写真美術館は 71 億円(イニシャルコスト)より少額であることから無効とする。しかし、東京都美 術館は最低でも 221 億円、最高でも 714 億円と、25年前の物価を考慮しても平成 11 年度の「イニシャルコスト+ランニングコスト」費用55億円を大幅に上回っている。 つまり、江戸東京博物館、東京都現代美術館、世田谷美術館において有効なこのモ デル式を東京都美術館においても有効とするならば、かけているランニングコスト は他の施設に比べても圧倒的に少額であり経済的と捉えられるかもしれない。しか し、現状として東京都美術館の建築・設備に大改修が必要であると知る今は、楽観 視できない。 東京都美術館に限っては、このままランニングコストに投資しないで施設を運用し ていく状況が続くと、ますます老朽化を早めるものと思われる。このモデル式と現 状の「イニシャルコスト+ランニングコスト」費用 55 億円の差額である最低 166 億 円以上の経済的価値を失うものと論理付けが可能である。

経済的評価にあたっては、敷地の問題も重要であると考え公示地価や路線価をもと にヘドニック法の利用を試みた。公示地価はバブル経済崩壊を挟んで急降下し、現

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

67


第 3 章 決算書からみた経済的評価

公共美術館の価値に関する研究

在は落ち着いているものの下降気味だ。今回取り上げた 6 つの美術館のうち、駅に 隣接、もしくは駅から 1km 圏内の美術館は 4 つあり、ヘドニック法が有効に機能し ないことがわかり採用しなかった。しかし、最近では浦和市にある埼玉県立美術館 周辺のマンションが急騰しているという情報もあり、美術館が地価に与える影響は 大きいのではないかと仮定した。㈶不動産流通近代化センターが「住宅地の値づけ 法」という土地価格査定マニュアルを発行している。多くの不動産業がこのマニュ アルを参考に価格を設定しているのであるが、基本的には減点法で周辺環境が加味 されることは少ないようだ。 加味される例としては公園が隣地している時ぐらいで、 後は迷惑施設と呼ばれるゴミ処理場や火葬処理場があって減点されたりする。公共 施設で加味されるとしたら、役所くらいのようだ。 不動産業界に「地位(ちぐらい) 」という言葉がある。住んでいる住民の所得レベル であったり、知識レベルであったりして、いわば土地の持つブランドの事を指すの であるが、土地や建物の価格を決定する際に厳然と拭いきれない事実としてある。 例えば、田園調布や成城学園といった地域は地位が高いと言っていいのだろう。し かしそれだけではなく、埼玉県立美術館の話を聞いた際にも感じたのだが、美術館 があることによって周辺住民の美術館に対する感心が高まって、その地域の文化価 値があがれば美術館が果たす役割は非常に大きいのではないだろうか。

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

68


第4章 CVM を用いた美術館の文化的評価


第 4 章 CVM を用いた美術館の文化的評価

公共美術館の価値に関する研究

4.1 調査方法 美術館に対して利用者や非利用者が持っている心理的価値を測るにはどうすればよ いのだろうか。建築分野ではあまり馴染みのない評価方法であるが、心理的評価を 試みる手法として以下の方法が考えられる。  1.CVM(仮想価値評価法)   アンケート等を用いて回答者に評価対象の財等に対する支払意志額や補償受容額を尋ね   て、その価値を貨幣額で評価する方法。  2. コンジョイント分析   マーケティングリサーチの分野で発展した手法で、商品の好みを尋ね、商品の選好を属   性ごとに評価することができる。  3.AHP(Analitic Hierarchy Process:階層化意志決定法)   複雑な問題を評価目的、評価構造と代替案によって階層構造に分解し、一対比較行列を   作ることによって得られる意志決定手法の一つである。

本研究の主旨と照らし合わせてみると、人々が潜在的に持っている価値を直接貨幣 額で評価することが可能である 1 の CVM が最適であると判断した。CVM はもとも と環境経済学の分野で研究されてきた手法である。環境には価格が存在しないこと から、社会では環境は「タダ」同然に扱われて環境破壊が深刻化してきた。このよ うな現象は、 「市場の失敗」※ 15 と呼ばれており、市場の失敗を是正するためには環 境の価値を評価し、環境がタダではないことを示すことが不可欠であった。環境の 持っている価値を金額で評価する方法は「環境評価」と呼ばれている。仮想的な環 境変化を回答者に示し、環境を守るためにいくら支払っても構わないかを尋ね、こ の金額に世帯数をかけることで環境の価値を金額で評価している。これまでに評価 された様々な環境の価値から、評価額は数百億円∼数千億円、場合によっては数兆 円以上にも及び、環境対策が高い価値をもっていることを示している。 表 4-1 代表的な CVM 調査の評価額 評価対象

評価額

森林生態系

世界遺産屋久島の保全

2,483億円

河川環境

吉野川下流の自然環境

2,648億円

湿原景観

釧路湿原の景観

集計範囲 全国 全国

148億円

北海道

7億円

横浜市

水源林保全

横浜市上流の水源林保護

干潟保全

藤前干潟の保全

2,960億円

地球温暖化対策

温暖化対策の社会的効果

7,795億円

全国

農地保全

全国農地の保全

4.1兆円

全国

リサイクル製品

浄水器のリサイクル価値

245億円

購入者

全国

※ 15  市場メカニズムが適正に機能しない現象のこと。環境には価格が存在しないため、価格を中   心に需要と供給の調整が行われる市場メカニズムは、環境に対しては適正に機能せず環境破   壊が生じる。

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

69


第 4 章 CVM を用いた美術館の文化的評価

公共美術館の価値に関する研究

プレ調査 本格的なアンケート調査を行うにあたり、評価項目を明らかにするためにプレ調査 を実施する。プレアンケート票(図 4-1)を作成し、美術館の価値として考えられ るものやその理由などを街頭にてヒヤリングを行うものとする。

プレアンケート票 早稲田大学院渡辺仁史研究室修士2年 織田直憲 

江戸東京博物館は、平成5年3月に開業し今年で7年目となりました。 江戸東京博物館の価値について、下記アンケートにお答え下さいますよう宜しくお願い致します。 なお、このアンケートの結果は研究のためだけに利用するものであります。 年齢 (     )才    、 性別 ( 男 ・ 女 )  、 住所 自宅からの交通機関   ( 電車、バス、車、徒歩、その他      )  、 所要時間 当博物館訪問回数(本日も含め)(    )回 、他の博物館・美術館の訪問回数(    )回

当博物館訪問回数が0回の方はQ0へお進み下さい。1回以上の方はQ1へお進み下さい。 Q0. Q 0 - 1 . この博物館を知っていましたか?  ( はい 、いいえ ) は い と答えた方にお聞きします。何故行ったことがなかったのですか?  は  遠いから、興味がないから、入館料が高いから、その他(    ) Q 0 - 2 . 今度行ってみたいですか?   ( はい 、いいえ ) は い と答えた方にお聞きします。何故行ってみたいのですか?  は  勉強になるから、興味があるから、楽しそうだから、有名だから  その他(       ) い い え と答えた方にお聞きします。何故行ってみたくないのですか?  い  遠いから、興味がないから、入館料が高いから、その他(    ) 訪問回数が0回の方でも、答えられる設問がある方はQ1以降へお進み下さい。 Q1.

鑑賞・創作活動等により得られる価値と想定金額はどのくらいですか?

(         都道府県         市区町村 ) (     時間     分) また、そのうち好きな館の名称を2、3あげて下さい。 (               )

以下、訪問された方のみ各項目毎の価値と値する想定金額をお答え下さい。 満足度

重要度

愛着度

魅力度

サービス度

利便性

想定金額

Q6.

立地

(1、2、3、4、5)

(     円)

Q7.

建物の外観

(1、2、3、4、5)

(     円)

Q8. Q9.

駐車場、駐輪場

(1、2、3、4、5)

(     円)

アプローチ

(1、2、3、4、5)

(     円)

Q 1 0 . 館内の歩行(動線)

(1、2、3、4、5)

(     円)

Q 1 1 . 施設案内

(1、2、3、4、5)

(     円)

Q 1 2 . トイレ・水道

(1、2、3、4、5)

(     円)

Q 1 3 . 開館(営業)時間帯

(1、2、3、4、5)

(     円)

Q 1 4 . 部屋の広さ

(1、2、3、4、5)

(     円)

Q 1 5 . 展示内容

(1、2、3、4、5)

(     円)

Q 1 6 . 職員の応対

(1、2、3、4、5)

(     円)

Q 1 7 . ミュージアムショップ

(1、2、3、4、5)

(     円)

Q 1 8 . 資料

(1、2、3、4、5)

(     円)

Q 1 9 . 建物内のスペース配置

(1、2、3、4、5)

(     円)

Q 2 0 . くつろぎの場(   ) (1、2、3、4、5)

(     円)

Q 2 1 . ロビー

(1、2、3、4、5)

(     円)

Q 2 2 . 備品

(1、2、3、4、5)

(     円)

Q 2 3 . 開催講座

(1、2、3、4、5)

   (1、2、3、4、5)       想定金額(         円)

Q2.

また、それはどのような理由からですか?  (                           ) 鑑賞・創作活動等以外の利用で得られる価値はどのくらいですか?

Q3.

また、それはどのような理由からですか?  (                           ) 将来、利用する事を前提とした場合の価値はどのくらいですか?

   (1、2、3、4、5)       想定金額(         円)

   (1、2、3、4、5)       想定金額(         円)

Q4.

また、それはどのような理由からですか?  (                           ) 遺産として、将来この建物を保存していく価値はどのくらいですか?    (1、2、3、4、5)       想定金額(         円)

Q5.

また、それはどのような理由からですか?  (                           ) 利用しなくても、ただ存在するだけの価値はどのくらいですか?    (1、2、3、4、5)       想定金額(         円)

また、それはどのような理由からですか?  (                           )

(     円)

御協力ありがとうございました。

図 4-1 プレアンケート票

プレ調査の結果であるが、以下の点が反省点として挙げられ今後の調査に活かして いくものとなった。  ①対面形式でアンケート行ったが、一人当りヒヤリングの目安である 5 分を大幅   に超え 10 ∼ 12 分かかる。  ②各項目の価値がわからず、金額を想定しにくい。  ③重要度、満足度までは答えやすいが、愛着度、魅力度となると評価しづらい。   また、金額も選択肢が記載されている方が選択しやすい。 その他、自由回答として「赤字とはいえ、行ってとても気に入っている人もいるわ けなので、その人達のためには残した方がよい」、 「利用されないと意味がない」、 「刺 激やインスピレーションを与えてくれるから大事」、 「興味ある企画展示等あれば行 く」といった回答が目立った。東京都保有の美術館ではないが、好きな美術館とし て世田谷美術館を挙げる回答が多かったため調査対象施設に加えた。

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

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第 4 章 CVM を用いた美術館の文化的評価

公共美術館の価値に関する研究

本調査 東京都内の6施設の美術館の利用者を対象に、 出口にて対面形式の聞き取りアンケー ト調査を実施。また、美術館の非利用者に対してのアンケートは学校及び街頭等に おいて聞き取りアンケート調査を実施。主に 2000 年 11 月 25 日(土) 、26 日(日) に行ったが、企画展の開催を考慮して、世田谷美術館は 2000 年 12 月 2 日(土) 、東 京都現代美術館と非利用者に対しては 2000 年 12 月 16 日(土)に行った。 表 4-2 調査日とアンケートの有効サンプル数 (人) 11月25日(土) 11月26日(日)

名称

12月2日(土)

12月16日(土)

有効回答

 東京都美術館

23

36

0

0

59

42

 東京都庭園美術館

41

60

0

0

101

67

 江戸東京博物館

29

42

0

0

71

58

 東京都現代美術館

17

0

0

14

31

31

 東京都写真美術館

16

18

0

0

34

34

 世田谷美術館

0

0

31

0

31

31

 非利用者

0

0

0

37

37

34

126

156

31

51

364

297

合  計

表 4-3 調査日の開催展示名 名称  東京都美術館

展示名

展示形式

開催期間

企画展

2000.8.5∼2000.12.3

第31回 元陽展

企画展

2000.11.25∼2000.12.1

第27回 日象展

企画展

2000.11.25∼2000.12.1

第25回 新芸術展

企画展

2000.11.25∼2000.12.1

第26回 太陽美術展

企画展

2000.11.25∼2000.12.1

第22回 大洋展

企画展

2000.11.25∼2000.12.1

第25回 日本新水墨派展

企画展

2000.11.25∼2000.12.1

世界四大文明−インダス文明展−

第41回 日本版画会展

企画展

2000.11.25∼2000.12.1

第27回 近美展

企画展

2000.11.25∼2000.12.1

第23回 日本きりえ美術展

企画展

2000.11.25∼2000.12.1

第32回 新院展

企画展

2000.11.25∼2000.12.1

第14回 日本書画展

企画展

2000.11.26∼2000.12.1

第28回 サロン・デ・ボザール展

企画展

2000.11.26∼2000.12.1

第23回 JAG展

企画展

2000.11.25∼2000.12.1

 東京都庭園美術館

ルネ・ラリック1860-1945展

企画展

2000.11.11∼2001.1.31

 江戸東京博物館

秘蔵カピタンの江戸コレクション

企画展

2000.10.3∼2000.12.3

常設展

常設 2000.12.16∼2001.4.8

 東京都現代美術館

ギフト・オブ・ホープ

企画展 常設展

常設

 東京都写真美術館

写された国宝展

収蔵展

2000.11.21∼2001.1.28

津田明写真展

企画展

2000.11.3∼2000.12.3

3D@スペクタクル2000

常設展

常設

世界四大文明−メソポタミア文明展−

企画展

2000.8.5∼2000.12.3

 世田谷美術館

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

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第 4 章 CVM を用いた美術館の文化的評価

公共美術館の価値に関する研究

アンケート票 アンケート票は A4 版用紙、表裏への記入とする(図 4-2)。 アンケート調査票 早稲田大学理工学部建築学科渡辺研究室

江戸東京博物館は、平成5年3月に開業し今年で8年目となりました。 江戸東京博物館の価値について、下記アンケートにお答え下さいますよう宜しくお願い致します。 なお、このアンケートの結果は研究のためだけに使用させていただきます。 年齢(     )才 、  性別( 男 ・ 女 ) 住所(        都道府県         市区町村           丁目 ) 自宅からの交通機関( 電車、バス、車、徒歩、その他     )、 所要時間(    時間    分) 年収( なし、∼99万円、100∼299万円、300∼499万円、500∼699万円、700∼999万円、1000万円以上 ) 当博物館訪問回数(本日も含め)(     )回 、他の博物館・美術館の年間訪問回数(     )回 また、訪問した中で好きな館の名前をあげて下さい。(複数可)(                          ) 将来、建築そのものの劣化・機能劣化・予算不足等により維持保全が困難な状況になり当館存続の危機(閉館も含む)に追い込まれて いることを想定します。 いま、その存続のための計画が実施されるとして、この博物館の価値について伺います。 各項目それぞれ、価値の度合いとその価値に対してご自分で負担しても良いと思われる想定金額をお選び下さい。 Q1.

この博物館の「保有芸術作品の価値」の度合いと負担想定金額はどのくらいですか?  度合い  想定金額    5 ・ 4 ・ 3 ・ 2 ・ 1 0円、500円、1,000円、1,500円、2,000円、3,000円、5,000円、 7,000円、10,000円、15,000円、20,000円、     円 この博物館の「建築的な価値」の度合いと負担想定金額はどのくらいですか?  度合い  想定金額    5 ・ 4 ・ 3 ・ 2 ・ 1 0円、500円、1,000円、1,500円、2,000円、3,000円、5,000円、    (高)     (中)      (低) 7,000円、10,000円、15,000円、20,000円、     円 この博物館が「街のイメージアップに貢献している価値」の度合いと負担想定金額はどのくらいですか?  度合い  想定金額    5 ・ 4 ・ 3 ・ 2 ・ 1 0円、500円、1,000円、1,500円、2,000円、3,000円、5,000円、    (高)     (中)      (低) 7,000円、10,000円、15,000円、20,000円、     円 この博物館が「周辺の景観を形成している価値」の度合いと負担想定金額はどのくらいですか?  度合い  想定金額    5 ・ 4 ・ 3 ・ 2 ・ 1 0円、500円、1,000円、1,500円、2,000円、3,000円、5,000円、    (高)     (中)      (低) 7,000円、10,000円、15,000円、20,000円、     円 この博物館が「人の交流を形成するのに役立っている価値」の度合いと負担想定金額はどのくらいですか?  度合い  想定金額    5 ・ 4 ・ 3 ・ 2 ・ 1 0円、500円、1,000円、1,500円、2,000円、3,000円、5,000円、    (高)     (中)      (低) 7,000円、10,000円、15,000円、20,000円、     円 この博物館を「将来にわたって保存していく価値」の度合いと負担想定金額はどのくらいですか?  度合い  想定金額    5 ・ 4 ・ 3 ・ 2 ・ 1 0円、500円、1,000円、1,500円、2,000円、3,000円、5,000円、    (高)     (中)      (低) 7,000円、10,000円、15,000円、20,000円、     円 この博物館を「他の用途(例えば、飲食店等)に転用できる価値」の度合いと負担想定金額はどのくらいですか?  度合い  想定金額    5 ・ 4 ・ 3 ・ 2 ・ 1 0円、500円、1,000円、1,500円、2,000円、3,000円、5,000円、    (高)     (中)      (低) 7,000円、10,000円、15,000円、20,000円、     円 この博物館を「大切に利用する価値」の度合いと負担想定金額はどのくらいですか?  度合い  想定金額    5 ・ 4 ・ 3 ・ 2 ・ 1 0円、500円、1,000円、1,500円、2,000円、3,000円、5,000円、    (高)     (中)      (低) 7,000円、10,000円、15,000円、20,000円、     円 この博物館が「好奇心を満たしてくれる価値」の度合いと負担想定金額はどのくらいですか?  度合い  想定金額    5 ・ 4 ・ 3 ・ 2 ・ 1 0円、500円、1,000円、1,500円、2,000円、3,000円、5,000円、    (高)     (中)      (低) 7,000円、10,000円、15,000円、20,000円、     円 この博物館を「訪れることによって癒される価値」の度合いと負担想定金額はどのくらいですか?  度合い  想定金額    5 ・ 4 ・ 3 ・ 2 ・ 1 0円、500円、1,000円、1,500円、2,000円、3,000円、5,000円、    (高)     (中)      (低) 7,000円、10,000円、15,000円、20,000円、     円    (高)     (中)      (低)

Q2.

Q3.

Q4.

Q5.

Q6.

Q7.

Q8.

Q9.

Q10.

裏へ

存続のための計画を実現するために、毎年いくらの負担金額(税金の中から出費されます)までならお支払いいただけますか? 下記、条件01から条件12の中からお選び下さい。 Q11.

博物館が存続するための負担金は、  条件01. 0円/年間   条件05. 2,000円/年間  条件02. 500円/年間   条件06. 3,000円/年間  条件03. 1,000円/年間    条件07. 5,000円/年間  条件04. 1,500円/年間   条件08. 7,000円/年間

 条件09. 10,000円/年間  条件10. 15,000円/年間  条件11. 20,000円/年間  条件12.     円/年間

入館料について伺います。 現在、常設展は一般600円(高校生は350円、都内小・中学生は無料)、企画展は一般900円(小・中・高校生は450円)です。 Q12.

一般料金はそれぞれいくらなら妥当と思われますか?   常設展(        円)  企画展(        円)

この博物館における各項目の重要度と満足度の度合いについてお選び下さい。

重要度

��� 設 ︵ ハ ー ド ︶ 面

サ ー ビ ス ︵ ソ フ ト ︶ 面

Q13.

立地

Q14.

建物の外観

Q15.

駐車場、駐輪場

Q16. Q17.

敷地の外から入口までの アプローチ 館内の歩行(動線)

Q18.

施設案内・サイン

Q19.

トイレ・水道

Q20.

展示空間

Q21.

ロビー

Q22.

レストラン・喫茶店

Q23.

展示内容

Q24.

展示方法

Q25.

ミュージアムショップ

Q26.

資料・ライブラリ

Q27.

休憩スペース

Q28.

開館(営業)時間帯

Q29.

職員の応対

Q30.

開催講座

満足度

  重 要 で あ る

  や や 重 要 で あ る

  ど ち ら で も な い

  や や 重 要 で は な い

5

4

3

2

5

4

3

2

5

4

3

2

1

5

4

3

2

5

4

3

5

4

5

  重 要 で は な い

  満 足 で あ る

  や や 満 足 で あ る

  ど ち ら で も な い

  や や 不 満 で あ る

  不 満 で あ る

1

5

4

3

2

1

1

5

4

3

2

1

5

4

3

2

1

1

5

4

3

2

1

2

1

5

4

3

2

1

3

2

1

5

4

3

2

1

4

3

2

1

5

4

3

2

1

5

4

3

2

1

5

4

3

2

1

5

4

3

2

1

5

4

3

2

1

5

4

3

2

1

5

4

3

2

1

5

4

3

2

1

5

4

3

2

1

5

4

3

2

1

5

4

3

2

1

5

4

3

2

1

5

4

3

2

1

5

4

3

2

1

5

4

3

2

1

2

これで、アンケート終了です。御協力、どうもありがとうございました。

図 4-2 本調査アンケート票 早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

72


第 4 章 CVM を用いた美術館の文化的評価

公共美術館の価値に関する研究

属性分類 本調査における各美術館の主要な属性分類を行う。 (1)年齢   各美術館ともに、10 代、70 代、80 代は少ない(図 4-3)。東京都現代美術館と   東京都写真美術館では20代が半数近くを占めるものの、他の施設については年   代による偏りは特にみられない。 2.4 東京都美術館

16.7

東京都庭園美術館

19

19.4

16.7

35.7

26.9

7.1

19.4

29.9

2.4

3 1.5

1.7 15.5

江戸東京博物館

24.1

15.5

31

10.3

1.7

3.2 東京都現代美術館

45.2

東京都写真美術館

5.9

世田谷美術館

22.6

41.2

12.9

8.8

19.4

0%

16.1

20%

16.1

11.8

14.7

19.4

40%

3.2

11.8

5.9

3.2 3.2

25.8

60%

9.7

80%

100%

構成比(%) 10代

20代

30代

40代

50代

60代

70代

80代

図 4-3 年齢の属性

(2)性別   東京都現代美術館と世田谷美術館は女性がおよそ 7 割を占めるが、他の施設に   おける男女比は、ほぼ等しい(図 4-4)。 東京都美術館

45.2

東京都庭園美術館

54.8

55.2

44.8

44.8

江戸東京博物館

東京都現代美術館

55.2

29

71

東京都写真美術館

50

世田谷美術館

50

35.5

0%

10%

20%

64.5

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

構成比(%)

図 4-4 性別の属性

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

73


第 4 章 CVM を用いた美術館の文化的評価

公共美術館の価値に関する研究

(3)住所   周辺地区とは、当該美術館のある区および隣接する区とする(図 4-5)。周辺地   区と東京都を合わせた人数が都民と認識すると、ほぼ 6 割が都民利用者である   ことがわかる。

17.1

東京都美術館

41.5

14.6

14.6

2.42.44.9

0 2.4

1.5 29.9

東京都庭園美術館

31.3

12.1

江戸東京博物館

東京都現代美術館

41.4

東京都写真美術館

38.7

29.4

世田谷美術館

29.4

16.1

14.7

25.8

20%

30%

40%

4.5

8.8

60%

3

1.7

9.7

3.2

2.9 2.9 5.9

6.5

70%

3

10.3

0 3.2

19.4

50%

3

6.9 1.7 1.7 3.41.7

9.7

35.5

10%

13.4

19

19.4

0%

10.4

2.9

9.7

80%

90%

千葉県 中国・四国

関東 九州

2.9

0 3.2

100%

構成比(%)

周辺地区 北海道

東京都 東北

神奈川県 中部

埼玉県 関西

図 4-5 住所の属性

(4)交通機関   世田谷美術館は徒歩が 5 割を占めるが、他の施設は圧倒的に電車の利用が多い   (図 4-6)。 1.5 1.5 62.7

東京都美術館

9

9

9

3

4.5

3.4 3.4 3.4 1.7 87.9

東京都庭園美術館

3.8 3.1 70.9

江戸東京博物館

6.5

67.7

3.1

8.4

0.8

3.2

3.2

東京都現代美術館

1.5 1.1 1.5 5.7

3.2 16.1 2.9

東京都写真美術館

76.5

6.5

25.8

世田谷美術館 0%

20%

電車 電車と車

8.8

9.7

40%

バス 電車と飛行機

45.2

60% 構成比(%)

車 電車とバス

0 5.9

5.9

12.9

80%

徒歩 自転車

100%

飛行機 その他

図 4-6 交通機関の属性

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

74


第 4 章 CVM を用いた美術館の文化的評価

公共美術館の価値に関する研究

(5)所要時間   各美術館ともに、31 分∼ 1 時間内で来ている利用者が多い(図 4-7)。東京都現   代美術館は 1 時間以上かかる利用者が 5 割以上である。 2.7 東京都美術館

0

21.6

43.2

16.2

8.1

8.1 2.8

東京都庭園美術館

5.6

22.2

36.1

16.7

11.1

5.6

3.4 6.9

江戸東京博物館

6.9

41.4

20.7

10.3

16.1

東京都現代美術館

10.3 3.2

3.2 25.8

29

9.7

12.9 2.9 2.9

東京都写真美術館

8.8

20.6

38.2

26.5 3.2

世田谷美術館

12.9

0%

19.4

10%

20%

38.7

30%

40%

12.9

50%

60%

70%

12.9

80%

90%

100%

構成比(%)

∼0:15 1:31∼2:00

0:16∼0:30 2:00∼3:00

0:31∼1:00 3:01∼

1:01∼1:30

図 4-7 所要時間の属性

(6)年収   ある程度予想していたが、有効回答が少なかった項目である(表 4-8)。東京都   庭園美術館では、年収がある人が 8 割を占めており、東京都写真美術館、世田   谷美術館では、年収のない人が 5 割以上である。

27.8

東京都美術館

5.6

13.9

13.9

16.7

13.9

8.3

2 20

東京都庭園美術館

16

35.9

江戸東京博物館

24

10.3

10

15.4

15.4

19

14.3

12

16

5.1

17.9

4.8 33.3

東京都現代美術館

9.5

60.9

東京都写真美術館

8.7

19

8.7

13

8.7

3.3 53.3

世田谷美術館 0%

20%

20 40%

60% 構成比(%)

0円

1∼99万円

100∼299万円

500∼699万円

700∼999万円

1000万円以上

6.7

6.7

80%

10 100%

300∼499万円

図 4-8 年収の属性

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

75


第 4 章 CVM を用いた美術館の文化的評価

公共美術館の価値に関する研究

4.2 アンケート結果 4.2.1 負担金額 CVM には、寄付金・税金等、何種類かの支払形態があり、美術館のような施設であ れば入館料という選択肢も考えられる。本研究では「負担金」という表現で、税金 という支払方法を選択した。理由として、寄付金という制度に関して被験者があま り馴染みがないと考えられ、過小評価となる恐れがあるため不採用とした。入館料 については別途、他の項目で現在の入館料の価格設定について質問を試みる。 利用者、非利用者ともへ、 「建築そのものの劣化や予算不足等で、当該美術館が存続 困難な状況に追い込まれていると想定してもらい、存続のための計画を実現するた めに、毎年いくらの負担金額(自分の税金の中から出費されます)までなら支払可 能か」と聞き、設定した 12 段階の条件から選択してもらう。 利用者、非利用者から得た美術館毎の負担金額の平均値をしめす(表 4-4)。平均に おいては、極端な値は与える影響が大きいので、事前に有効回答から除外している。 なお、参考までに前述した「仮想価値評価法による公立美術館施設の評価」 (日本建 築学会大会学術講演梗概集、2000)で得られている山梨県立美術館と新潟市立美術 館の平均値を記載する。 「利用者の負担金額が高い=価値が高い」と考えると東京都 庭園美術館の 4,597 円を筆頭に、世田谷美術館の 4,194 円が続き他の施設より抜き ん出ている。東京都現代美術館、東京都写真美術館、江戸東京博物館の値はほぼ変 わらないものの、江戸東京博物館は、利用者、非利用者ともに最安値となった。ま た、都内の美術館に比べ山梨県立美術館と新潟市立美術館の値が高いのは、県内の 美術館が少ないことから利用者の持っている価値が高いものと考えられる。

表 4-4 美術館毎の負担金額

(円)

施設名

利用者

非利用者

 江戸東京博物館

1,940

931

 東京都写真美術館

2,003

952

 東京都現代美術館

2,145

1,141

 東京都美術館

2,821

1,031

 世田谷美術館

4,194

938

 東京都庭園美術館

4,597

967

 山梨県立美術館

2,640

 新潟市立美術館

3,190

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

76


第 4 章 CVM を用いた美術館の文化的評価

公共美術館の価値に関する研究

4.2.2 価値の度合いと負担想定金額 4.2.1では、美術館の総体的な負担金額を示したが、実際には様々な価値があると思 われる。そこで、プレ調査を参考に当該施設利用者に、持っていると思われる価値 を 10 項目抽出し(表 4-5)、その価値の度合いと負担しても構わないと想定する金 額を回答してもらう。なお、統計上の作業においては 10 項目の価値は省略した語に 置き換える。 別紙アンケート票からわかるように、度合いは低い方から高い方へと順に1から5ま での 5 段階評価、負担想定金額は 0 円から 20,000 円までの選択肢(自由回答も可能 とする)を 12 段階設ける。ここで負担する金額の呼称は、前節の「負担金額」とは 区別し、「負担想定金額」とする。

表 4-5 10 項目の価値と省略語

10項目の価値

省略した語

保有芸術作品の価値

保有芸術作品

建築的な価値

建築的

街のイメージアップに貢献している価値

街のイメージアップ

周辺の景観を形成している価値

周辺の景観形成

人の交流を形成している価値

人の交流形成

将来にわたって保存していく価値

将来への保存

他の用途に転用できる価値

他の用途に転用

大切に利用する価値

大切に利用

好奇心を満たしてくれる価値

好奇心を満たす

訪れることによって癒される価値

癒される

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

77


第 4 章 CVM を用いた美術館の文化的評価

公共美術館の価値に関する研究

価値の度合い 全体的に東京都庭園美術館、世田谷美術館が他の施設よりも高い度合いを示してい る(図 4-9)。また項目別にみると、総体的に「将来にわたって保存していく価値」 や「大切に利用する価値」が高く、 「他の用途に転用できる価値」が 6 施設とも極端 に低い。調査の際に選択の理由も聞いていたのだが、これは他の用途に転用できる 価値がないというよりも、 「転用する意味がない」、 「転用しては困る」といった意見 が強く影響しているものと思われる。

東京都美術館 保有芸術作品

東京都庭園美術館 江戸東京博物館 東京都現代美術館 東京都写真美術館

建築的

世田谷美術館

街のイメージアップ

周辺の景観形成

人の交流形成

将来への保存

他の用途に転用

大切に利用

好奇心を満たす

癒される

0.00

0.50

1.00

1.50

2.00

2.50

3.00

3.50

4.00

4.50

5.00

度合い

図 4-9 価値の度合いの比較

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

78


第 4 章 CVM を用いた美術館の文化的評価

公共美術館の価値に関する研究

価値の負担想定金額 負担想定金額の比較では、度合いの比較よりも施設毎の差に開きがある(図 4-10)。 特に、東京都庭園美術館がほとんどの項目において高い金額を示しており、 「将来に わたって保存していく価値」に対しては4,823円、 「建築的な価値」に対しては4,470 円の負担を想定しているものとみなされる。そんな中、 「人の交流を形成している価 値」が低いのは、一般団体に対して行っている貸館事業という特異性が原因の一つ であると思われる。

東京都美術館 東京都庭園美術館

保有芸術作品

江戸東京博物館 東京都現代美術館 東京都写真美術館

建築的

世田谷美術館

街のイメージアップ

周辺の景観形成

人の交流形成

将来への保存

他の用途に転用

大切に利用

好奇心を満たす

癒される

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

金額(円)

図 4-5 価値の想定金額の比較

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

79


第 4 章 CVM を用いた美術館の文化的評価

公共美術館の価値に関する研究

施設毎の価値の度合いと負担想定金額をそれぞれ表にあらわす(表 4-6、4-7)。東 京都美術館の各項目毎の価値の度合いや負担想定金額は、江戸東京博物館や東京都 現代美術館、東京都写真美術館のそれらよりも低い傾向がある。 「保有芸術作品の価値」や「将来にわたって保存していく価値」は、美術館の評価と しては一般的であるので、 美術館によっては高い値が得られることが予想できるが、 「建築的な価値」や「街のイメージアップに貢献している価値」、 「周辺の景観を形成 している価値」という一般の利用者にとって普段意識することは少ないであろう馴 染みのないと思われる価値も、値は決して低くはないことを示している。次に価値 の度合いと負担想定金額を美術館毎にみてみる。

表 4-6 価値の度合い 項 目

東京都美術館

東京都庭園美術館

江戸東京博物館 東京都現代美術館 東京都写真美術館

世田谷美術館

保有芸術作品

3.43

3.98

3.55

3.57

3.38

3.74

建築的

3.21

4.20

3.14

3.94

3.41

3.65

街のイメージアップ

3.60

4.29

3.52

3.77

3.24

4.16

周辺の景観形成

3.66

4.24

3.21

3.77

3.26

4.16

人の交流形成

3.51

3.33

3.02

2.87

3.03

3.57

将来への保存

4.29

4.48

3.64

3.81

3.45

4.40

他の用途に転用

2.43

2.67

2.64

2.77

2.50

2.70

大切に利用

3.95

4.41

3.59

3.65

3.58

4.23

好奇心を満たす

3.71

3.74

3.34

3.71

3.48

3.83

癒される

3.62

4.27

3.12

3.35

3.36

4.00

表 4-7 価値の想定金額 (円)

項 目

東京都美術館

東京都庭園美術館

江戸東京博物館

東京都現代美術館 東京都写真美術館

世田谷美術館

保有芸術作品

1,458

4,379

2,491

2,017

2,618

4,500

建築的

1,976

4,470

1,741

2,097

2,029

3,224

街のイメージアップ

1,375

3,423

1,914

1,807

2,221

3,768

周辺の景観形成

1,410

3,359

1,560

1,971

2,235

3,875

人の交流形成

1,263

1,839

1,810

1,726

1,939

3,089

将来への保存

1,550

4,823

2,535

3,000

2,367

3,786

750

2,074

1,250

1,213

1,188

1,589

大切に利用

1,645

4,054

2,164

2,210

2,515

4,086

好奇心を満たす

1,550

3,344

1,862

2,436

1,730

3,304

癒される

1,500

4,262

1,345

2,226

1,636

3,724

他の用途に転用

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

80


第 4 章 CVM を用いた美術館の文化的評価

公共美術館の価値に関する研究

東京都美術館 5.00

価値の度合いと負担想定金

4.50

額の分布表において、対角

将来への保存

4.00

に線を引くことでどちらの

大切に利用

周辺の景観形成

好奇心を満たす

イメージアップ

3.50

方へ傾いているか、価値の

癒される 人の交流形成

保有芸術作品

建築的

傾向がわかる(図4-11)。こ の表からわかる特徴な点は、

価値の度合い

3.00

2.50

他の用途に転用

2.00

唯一「建築的な価値」が負担 1.50

想定金額の方に比重が傾い

1.00

ており、価値の度合いが

0.50

3.21であるのに、1,976円も

0.00 0

の負担を想定されているこ

500

1,000

1,500

2,000

2,500

負担想定金額(円)

とを示している。

図 4-11 価値の度合いと負担想定金額の分布(東京都美術館)

東京都庭園美術館 5.00

全ての価値が、価値の度合

大切に利用 将来への保存

4.50

いの方へ片寄っているが、

周辺の景観形成 イメージアップ

癒される

建築的

4.00

価値の度合いが高くなるほ

保有芸術作品

好奇心を満たす

3.50

ど負担想定金額も高くなっ

相関があると思われる(図

価値の度合い

ており、両者の間には強い

人の交流形成

4-12)。 「将来にわたって保

3.00 他の用途に転用

2.50 2.00

1.50

存していく価値」の度合い

1.00

が 4 . 4 8 、負担想定金額が

0.50

4,823 円と共に高い。また、

0.00 0

「他の用途に転用できる価

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

負担想定金額(円)

値」の度合いが 2.67、負担

図 4-12 価値の度合いと負担想定金額の分布(東京都庭園美術館)

想定金額が 2,074 円と一番 低い。

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

81


第 4 章 CVM を用いた美術館の文化的評価

公共美術館の価値に関する研究

江戸東京博物館 4.00

価値の度合いが高くなるほ

大切に利用

イメージアップ

ど負担想定金額も高くなる

将来への保存

3.50 好奇心を満たす 保有芸術作品

周辺の景観形成

建築的

癒される

傾向にある(図 4-13)。 「将

3.00 人の交流形成

来にわたって保存していく

担想定金額が 2,535 円と共

2.50

価値の度合い

価値」の度合いが 3.64、負

他の用途に転用

2.00

1.50

に高い。また、 「他の用途に 転用できる価値」の度合い

1.00

が 2 . 6 4 、負担想定金額が

0.50

1,250 円と一番低い。

0.00 0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

負担想定金額(円)

図 4-13 価値の度合いと負担想定金額の分布(江戸東京博物館)

東京都現代美術館 「将来にわたって保存してい

4.5

く価値」が、対角線上の真上

4

建築的

将来への保存

周辺の景観形成 好奇心を満たす イメージアップ

3

価値の度合い

高いが、度合いに限っては

保有芸術作品 癒される

(表 4-14)。度合いが 3.81、 負担想定金額が 3,000 円と

大切に利用

3.5

にありバランスしている

他の用途に転用

2.5

2

「建築的な価値」の方が3.94

1.5

と上回っている。 「建築的な

1

価値」が一般に認められて

0.5

いることを示しているので

0 0

はないだろうか。

人の交流形成

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

3,500

負担想定金額(円)

図 4-14 価値の度合いと負担想定金額の分布(東京都現代美術館)

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

82


第 4 章 CVM を用いた美術館の文化的評価

公共美術館の価値に関する研究

東京都写真美術館 4.00

「保有芸術作品の価値」が負

大切に利用 好奇心を満たす

担想定金額の方に比重が傾

3.50

いており、価値の度合いが

3.00

3.38、負担想定金額は2,618

2.50

に限っては「大切に利用す

周辺の景観形成 保有芸術作品 イメージアップ 人の交流形成

価値の度合い

円である(図4-15)。度合い

将来への保存

建築的

癒される

他の用途に転用

2.00

1.50

る価値」の方が 3.58 と、上

1.00

回っている。また、 「他の用 途に転用できる価値」の度

0.50

合いが 2.50、負担想定金額

0.00 0

500

1,000

が 1,188 円と一番低い値を

1,500

2,000

2,500

3,000

負担想定金額(円)

示している。

図 4-15 価値の度合いと負担想定金額の分布(東京都写真美術館)

世田谷美術館 5.00

「保有芸術作品の価値」が負

将来への保存

4.50

担想定金額の方に比重が傾

大切に利用 イメージアップ

4.00

好奇心を満たす

いており、価値の度合いが

人の交流形成

に限っては「将来への保存」

価値の度合い

3.00

円である(図4-16)。度合い

「大切に利用する価値」の方

癒される 建築的

3.50

3.74、負担想定金額は4,500

周辺の景観形成

保有芸術作品

他の用途に転用

2.50 2.00

1.50

が3.58と、上回っている。ま

1.00

た、 「他の用途に転用できる

0.50

価値」の度合いが 2.50、負

0.00 0

担想定金額が 1,188 円と飛

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

負担想定金額(円)

び抜けて低い値を示してい

図 4-16 価値の度合いと負担想定金額の分布(世田谷美術館)

る。

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

83


第 4 章 CVM を用いた美術館の文化的評価

公共美術館の価値に関する研究

4.2.3 重要度と満足度 各館の重要度と満足度をそれぞれ平均した値を施設(ハード)面とサービス(ソフ ト)の両側面の項目に分けて、表と分布図で表わす。 東京都美術館 表の見方は、濃いマス目が上位 3 項目、薄

表 4-8 重要度と満足度の対応表 重要度

満足度

立地

4.45

4.31

建物外観

3.83

3.57

駐車場、駐輪場

3.00

2.82

アプローチ

3.93

2.90

館内動線

4.07

2.60

施設内サイン

4.02

3.00

トイレ、水道

3.83

2.71

展示空間

4.39

3.24

ロビー

3.95

2.88

レストラン・喫茶店

3.42

2.61

展示内容

4.52

3.64

展示方法

4.45

3.29

ミュージアムショップ

3.26

2.97

資料・ライブラリ

3.75

2.89

いマス目が最下位を示す。満足度の項目 は「立地」が一番高く、 「展示内容」 、 「建 物外観」と続く(表4-8)。 「展示内容」 、 「立 地」は重要度も高い。重要度が一番低いの は「駐車場、駐輪場」で、満足度が一番低

施 設 ︵ ハ ー ド ︶

いのは「館内動線」である。館内のサイン もわかりづらいとの声もあり、何かしら の工夫が必要であろう。また、5 段階評価 で得られた分布図をそのまま記載すると 狭いレンジに集中するため、把握しやす くするために拡大表記する(図 4-17)。

サ ー ビ ス ︵ ソ フ ト ︶

休憩スペース

4.12

2.78

開館時間帯

4.17

2.88

職員の応対

3.85

3.27

開催講座

3.63

3.26

施設 ・ハー ド面の 項目

5

サー ビス・ ソフト 面の項 目

展示内容 展示 方法 休憩 スペ ース

開館 (営 業) 時間帯

4

館内 の歩 行( 動線)

展示 空間 トイ レ・ 水道

施設 内サ イン

職員 の応 対 ロビ ー 立地

資料 ・ラ イブ ラリ

重 要

敷地 の外 から のアプ ロー チ 駐車 場・ 駐輪 場 レス トラ ン・ 喫茶店

3

開催 講座

建物 の外 観

4.55

ミュ ージ アム ショッ プ

度 2

立地 4.05

1 2

3

4

5

満  足  度

展示内容 建物外観

3.55

満足度

1

展示方法 開催講座

職員の応対 展示空間

3.05

ミュージアム ショップ ロビー 駐車場、駐輪場

2.55 2.55

レストラン・喫茶 店 3.05

3.55

施設内サイン アプローチ 開館時間帯 資料・ライブラリ 休憩スペース トイレ、水道 館内動線 4.05

4.55

重要度

図 4-17 重要度と満足度の分布(東京都美術館)

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

84


第 4 章 CVM を用いた美術館の文化的評価

公共美術館の価値に関する研究

東京都庭園美術館 重要度は、 「展示内容」 、 「展示方法」 、 「展

表 4-9 重要度と満足度の対応表 重要度

示空間」の順に高い(表 4-9)。満足度の 項目は「立地」が一番高く、 「アプローチ」、 施 設 ︵ ハ ー ド ︶

「展示内容」と続く。重要度、満足度とも に一番低いのは「駐車場、駐輪場」である。 分布図からも、 「立地」と「アプローチ」の 重要度と満足度がバランスしていること がわかる(図 4-18)。他の項目に比べ、付

サ ー ビ ス ︵ ソ フ ト ︶

帯施設である「ミュージアムショップ」や 「レストラン・喫茶店」の重要度と満足度 が低い。

満足度

立地

4.26

4.27

建物外観

4.28

4.01

駐車場、駐輪場

3.08

2.80

アプローチ

4.15

4.15

館内動線

4.12

3.61

施設内サイン

3.94

3.58

トイレ、水道

3.97

3.58

展示空間

4.37

3.74

ロビー

3.74

3.25

レストラン・喫茶店

3.53

3.29

展示内容

4.52

4.08

展示方法

4.34

3.82

ミュージアムショップ

3.39

3.14

資料・ライブラリ

3.69

3.08

休憩スペース

3.97

3.43

開館時間帯

3.92

3.38

職員の応対

3.98

3.39

開催講座

3.45

3.13

4.70

立地 4.20 アプローチ 展示内容 建物外観

満足度

展示方法 展示空間

3.70 館内動線 施設内サイン

トイレ、水道

休憩スペース レストラン・喫茶 店 3.20

開館時間帯 ロビー

ミュージアム ショップ 開催講座

職員の応対

資料・ライブラリ

駐車場、駐輪場 2.70 2.70

3.20

3.70

4.20

4.70

重要度

図 4-18 重要度と満足度の分布(東京都庭園美術館)

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

85


第 4 章 CVM を用いた美術館の文化的評価

公共美術館の価値に関する研究

江戸東京博物館 表 4-10 重要度と満足度の対応表

重要度は、 「展示内容」 、 「展示方法」 、 「展

重要度

示空間」の順に高い(表 4-10)。満足度の 項目は「立地」が一番高く、 「展示空間」 、 施 設 ︵ ハ ー ド ︶

「展示内容」と続く。重要度、満足度とも に一番低いのは「レストラン・喫茶店」で ある。他の項目からの乖離幅を見ても、江 戸東京博物館においてはレストラン・喫 茶店が上手く機能していないことがわか

サ ー ビ ス ︵ ソ フ ト ︶

る。分布図からは、 「立地」の満足度が重 要度を上回っていることがわかる(図 419)。相対的にハード面は低く、ソフト面 は高い度合いを示している。

満足度

立地

3.78

3.90

建物外観

3.64

3.47

駐車場、駐輪場

3.48

3.26

アプローチ

3.66

3.38

館内動線

4.02

3.62

施設内サイン

3.95

3.33

トイレ、水道

4.07

3.69

展示空間

4.21

3.79

ロビー

3.88

3.66

レストラン・喫茶店

3.33

2.98

展示内容

4.29

3.78

展示方法

4.22

3.74

ミュージアムショップ

3.41

3.31

資料・ライブラリ

3.91

3.50

休憩スペース

3.95

3.67

開館時間帯

3.93

3.48

職員の応対

3.98

3.66

開催講座

3.69

3.24

4.40

4.00 立地

満足度

展示空間

展示内容

トイレ、水道 展示方法 休憩スペース 職員の応対 ロビー

3.60

資料・ライブラリ 建物外観

ミュージアム ショップ

館内動線 開館時間帯

アプローチ 施設内サイン

3.20

開催講座

駐車場、駐輪場

レストラン・喫茶 店

2.80 2.80

3.20

3.60

4.00

4.40

重要度

図 4-19 重要度と満足度の分布(江戸東京博物館)

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

86


第 4 章 CVM を用いた美術館の文化的評価

公共美術館の価値に関する研究

東京都現代美術館 表 4-11 重要度と満足度の対応表

重要度は、 「展示空間」 、 「展示内容」 、 「展

重要度

示方法」の順に高い(表 4-11)。満足度は 「建物外観」と「展示空間」が一番高く、 「ト 施 設 ︵ ハ ー ド ︶

イレ、水道」といった水周りが高く評価さ れている。重要度が一番低いのは「駐車 場、駐輪場」、満足度が一番低いのは「レ ストラン・喫茶店」である。分布図では、 唯一「建物外観」の満足度が重要度を上

サ ー ビ ス ︵ ソ フ ト ︶

回っていることを示している(図 4-20)。 これは、4.2.2 で得られた「建築的な価値」 の度合いや想定金額が高いことを裏付け ている結果であると読み取れる。

満足度

立地

3.61

3.11

建物外観

3.89

4.14

駐車場、駐輪場

3.16

3.00

アプローチ

3.75

3.64

館内動線

4.04

3.50

施設内サイン

4.21

3.54

トイレ、水道

4.07

4.00

展示空間

4.64

4.14

ロビー

3.93

3.86

レストラン・喫茶店

3.48

2.96

展示内容

4.50

3.96

展示方法

4.36

3.68

ミュージアムショップ

3.78

3.56

資料・ライブラリ

4.20

3.68

休憩スペース

3.96

3.50

開館時間帯

4.07

3.46

職員の応対

4.07

3.50

開催講座

3.74

3.22

4.70

4.40

展示空間 建物外観

4.10

トイレ、水道

展示内容

満足度

ロビー 3.80 アプローチ

展示方法

施設内サイン ミュージアム 館内動線 ショップ 職員の応対 休憩スペース 開館時間帯

3.50

開催講座

3.20 立地

駐車場、駐輪場 2.90 2.90

資料・ライブラリ

レストラン・喫茶 店 3.20

3.50

3.80

4.10

4.40

4.70

重要度

図 4-20 重要度と満足度の分布(東京都現代美術館)

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

87


第 4 章 CVM を用いた美術館の文化的評価

公共美術館の価値に関する研究

東京都写真美術館 重要度は、 「展示内容」 、 「展示空間」 、 「展

表 4-12 重要度と満足度の対応表

示方法」の順に高い(表 4-12)。満足度は 「立地」が一番高く、 「職員の応対」、 「展示 施 設 ︵ ハ ー ド ︶

空間」と続く。重要度が一番低いのは「駐 車場、駐輪場」、満足度が一番低いのは「レ ストラン・喫茶店」。分布図では、 「立地」 の満足度が重要度を上回っており、 「建物 外観」も重要度と満足度の値が近い(図4-

サ ー ビ ス ︵ ソ フ ト ︶

21)。 「ミュージアムショップ」や「レスト ラン・喫茶店」は低く、 「展示内容」 、 「展 示空間」、 「展示方法」が高い値を示してい るのは、4.2.2 で得ら���た「保有芸術作品

重要度

満足度

立地

3.91

4.00

建物外観

3.76

3.62

駐車場、駐輪場

3.03

3.07

アプローチ

3.79

3.09

館内動線

4.31

3.19

施設内サイン

4.09

3.30

トイレ、水道

4.03

3.59

展示空間

4.79

3.64

ロビー

4.00

3.38

レストラン・喫茶店

3.26

2.94

展示内容

4.82

3.61

展示方法

4.67

3.61

ミュージアムショップ

3.58

3.06

資料・ライブラリ

3.84

3.28

休憩スペース

4.21

3.24

開館時間帯

3.97

3.32

職員の応対

4.18

3.79

開催講座

3.68

3.32

の価値」の想定金額が高いことを裏付け ている。 4.90

4.40

満足度

立地 3.90 職員の応対 展示空間 展示方法

建物外観

トイレ、水道

3.40 開催講座

開館時間帯 資料・ライブラリ

ミュージアム ショップ

駐車場、駐輪場

2.90 2.90

展示内容

ロビー

アプローチ

施設内サイン 休憩スペース 館内動線

レストラン・喫茶 店 3.40

3.90

4.40

4.90

重要度

図 4-21 重要度と満足度の分布(東京都写真美術館)

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

88


第 4 章 CVM を用いた美術館の文化的評価

公共美術館の価値に関する研究

世田谷美術館 重要度は、 「展示内容」 、 「展示空間」 、 「展

表 4-13 重要度と満足度の対応表

示方法」の順に高い(表 4-13)。満足度の

重要度

項目は「展示内容」が一番高く、 「展示空 間」、 「職員の応対」と続く。重要度、満足

施 設 ︵ ハ ー ド ︶

度ともに一番低いのは「レストラン・喫茶 店」である。分布図からも、付帯施設であ る「ミュージアムショップ」や「レストラ ン・喫茶店」の重要度と満足度が低いこと

サ ー ビ ス ︵ ソ フ ト ︶

がとれる(図 4-22)。世田谷美術館に限ら ず、他の美術館においてもこれらの値は 低く、これまで美術館において必要とさ れてきた付帯施設は、実は利用者にとっ

満足度

立地

4.10

3.74

建物外観

4.13

3.87

駐車場、駐輪場

3.67

3.48

アプローチ

4.10

3.84

館内動線

4.13

3.60

施設内サイン

4.13

3.65

トイレ、水道

4.23

3.57

展示空間

4.58

3.90

ロビー

3.94

3.52

レストラン・喫茶店

3.14

2.97

展示内容

4.65

4.03

展示方法

4.42

3.52

ミュージアムショップ

3.29

3.19

資料・ライブラリ

4.10

3.39

休憩スペース

4.27

3.77

開館時間帯

4.13

3.30

職員の応対

4.23

3.90

開催講座

3.80

3.44

て機能していないことを浮き彫りにした。

4.70

4.40

展示内容

4.10

満足度

職員の応対 建物外観 休憩スペース

3.80

展示空間 アプローチ

立地

3.50

駐車場、駐輪場

施設内サイン 館内動線 トイレ、水道 展示方法 ロビー 開催講座

資料・ライブラリ

ミュージアム ショップ

開館時間帯

3.20

レストラン・喫茶 店 2.90 2.90

3.20

3.50

3.80

4.10

4.40

4.70

重要度

図 4-22 重要度と満足度の分布(世田谷美術館)

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

89


第 4 章 CVM を用いた美術館の文化的評価

公共美術館の価値に関する研究

4.3 文化的評価 アンケート結果には得られた特徴的な結果を記載したが、他の結果についても追記 する。なお、詳細なデータは参考資料を参照されたい。

平均訪問回数 各美術館の利用者へ聞いた当該美術館の訪問回数と他の美術館・博物館への年間訪 問回数から、それぞれの平均訪問回数を求める(表 4-14)。 表 4-14 平均訪問回数と年間訪問回数 項 目

平均訪問回数 (回)

平均年齢(才)

年間平均訪問回数 (回)

負担金額(円)

利用者(万人)

 江戸東京博物館

43.98

2.12

3.95

1,940

131.7

 東京都写真美術館

39.26

2.18

7.71

2,003

19.3

 東京都現代美術館

34.16

3.06

7.90

2,145

22.2

 東京都美術館

44.05

6.60

7.79

2,821

110.5

 世田谷美術館

39.32

7.16

7.39

4,194

24.6

 東京都庭園美術館

41.73

7.24

9.21

4,597

15.8

ここで、平均訪問回数と先に求めた負担金額との関係に注目してみたい。 まず東京都の保有施設である 5 美術館の分布図を作成する(図 4-23)。次に平均訪 問回数を目的変数、負担金額を説明変数とする単回帰分析を行う(表 4-15)。

y = 391.84x + 1039.8 2 R = 0.7608 5,000 東京都庭園美術館

4,500 4,000 負担金額(円)

3,500 東京都美術館

3,000 2,500

東京都写真美術館

2,000

東京都現代美術館

江戸東京博物館

1,500 1,000 500 0 0

2

4

6

8

平均訪問回数(回) 図 4-23 平均訪問回数と負担金額の分布(東京都の 5 美術館)

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

90


第 4 章 CVM を用いた美術館の文化的評価

公共美術館の価値に関する研究

表 4-15 平均訪問回数と負担金額の回帰分析(東京都の 5 美術館) 概要

目的変数:平均訪問回数、説明変数:負担金額 回帰統計

重相関 R

0.872248393

重決定 R2

0.760817259

補正 R2

0.681089679

標準誤差

1.403307247

観測数

5

分散分析表 自由度 回帰

変動

分散

観測された分散比

18.79218631

18.79218631

残差

3

5.907813692

1.969271231

合計

4

24.7

切片

-1.004775384

1.810093513

-0.555095842

0.617533986

-6.765306 4.7557554

-6.765306 4.7557554

0.001941646

0.000628542

3.089127876

0.053750324

-5.87E-05 0.0039419

-5.87E-05 0.0039419

係数 負担想定金額(円)

標準誤差

t

9.542711037

有意 F

1

P-値

0.0537503

下限 95%

上限 95%

下限 95.0%

上限 95.0%

単回帰分析を行った結果、自由度調整済み寄与率(表中の「補正 R2」)は 0.681 とな る。東京都の 5 美術館の平均訪問回数と負担金額は正の相関があるといえる。 さらに、東京都の 5 美術館に世田谷美術館を加えて分布図を作成する(図 4-24)。 そして先ほどと同様に平均訪問回数を目的変数、負担金額を説明変数とする単回帰 分析を行う(表 4-16)。 今度の自由度調整済み寄与率は 0.768 となり、5 美術館の時よりも高い相関が得ら れ、平均訪問回数が多いほど利用者の負担金額は高いといえる。 y = 418.51x + 971.83 2 R = 0.8142 5,000 東京都庭園美術館

4,500

世田谷美術館

4,000 負担金額(円)

3,500 東京都美術館

3,000 2,500

東京都写真美術館

2,000

東京都現代美術館

江戸東京博物館

1,500 1,000 500 0 0

2

4

6

8

平均訪問回数(回) 図 4-24 平均訪問回数と負担金額の分布(6 美術館)

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

91


第 4 章 CVM を用いた美術館の文化的評価

公共美術館の価値に関する研究

表 4-16 平均訪問回数と負担金額の回帰分析(東京都の 6 美術館) 概要

目的変数:平均訪問回数、説明変数:負担金額

回帰統計 重相関 R

0.902353598

重決定 R2

0.814242016

補正 R2

0.76780252

標準誤差

1.215328619

観測数

6

分散分析表 自由度

変動

回帰

1

残差 合計

切片

観測された分散比

4

5.90809461

1.477023652

5

31.80533333

-1.012728105

1.457706576

-0.694740713

0.525460979

-5.059979 3.0345226

-5.059979 3.0345226

0.001945558

0.000464634

4.187289664

0.013836709

0.0006555

0.0006555

標準誤差

17.53339473

有意 F

25.89723872

係数 負担想定金額(円)

分散

25.89723872

t

0.0138367

P-値

下限 95%

上限 95%

下限 95.0%

0.0032356

上限 95.0% 0.0032356

都民支払い税金 3.3の経済的評価において、各美術館に都

表 4-17 負担金額と都民一人当りの支払い税金

民一人当りがいくら税金を支払っている

負担金額(円)

各館維持に対する都民一人当 りの支払税金額(円)

 江戸東京博物館

1,940

344

 東京都写真美術館

2,003

88

 東京都現代美術館

2,145

101

 東京都美術館

2,821

29

 世田谷美術館

4,194

53

 東京都庭園美術館

4,597

32

施設名

かを試算した。この支払い税金額と美術 館利用者の負担金額の関係をを比較して みる。アンケートにより負担金額が1,940 円と一番少ない江戸東京博物館に対して、

都民一人当り 344 円と他の施設に比べ何倍もの税金を支払っている(表 4-17)。ま た、負担金額が 4,597 円と一番多い東京都庭園美術館に対しては、都民一人当りが 32 円と、江戸東京博物館に比べ 10 分の 1 の金額を支払っている計算となる。さら y = -0.0195x + 122.21 R2 = 0.5084 120

一人当り支払い税金額(円)

100

東京都現代美術館 東京都写真美術館

80 60 世田谷美術館

40 東京都美術館

東京都庭園美術館

20 0 0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

負担金額(円)

図 4-25 負担金額と都民一人当りの支払い税金の分布

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

92


第 4 章 CVM を用いた美術館の文化的評価

公共美術館の価値に関する研究

に、負担金額と都民一人当りの支払い税金の分布図を作成する(図 4-25)。この分 布図から負担金額が多い美術館ほど、一人当りの支払い税金は少ないという逆相関 が生じていることが読み取れる。

入館料 各美術館の利用者へ開催されている常設展、企画展の入館料を提示し、回答された 妥当と思われる入館料との比較を示す(図 4-26)。あらかじめ入館料を提示した場 合に、被験者は提示額より低い金額を答えるケースがほとんどである。しかし、常 設展において世田谷美術館は提示額より 192 円増である。企画展では、東京都庭園 美術館が提示額より 77 円増、東京都写真美術館が提示額より 75 円増である。また、 東京都現代美術館の常設展では提示額と妥当な額に差はないものの、企画展は 846 円もの乖離がある。 2,500 常設展料金 妥当な常設展料金 企画展料金

金額(円)

2,000

妥当な企画展料金

1,500

1,000

500

0 世 田 谷 美 術 館

東 京 都 写 真 美 術 館

東 京 都 現 代 美 術 館

江 戸 東 京 博 物 館

東 京 都 庭 園 美 術 館

東 京 都 美 術 館

図 4-26 常設展入館料と企画展入館料の妥当性

表 4-18 常設展と企画展の入館料比較 常設展料金 (円)

妥当な常設展 料金(円)

現状との差 (円)

現状との比較 (%)

 東京都美術館

1,300

1,086

△ 214

84

 東京都庭園美術館

700

777

77

111 81

項 目

企画展料金 (円)

妥当な企画展 料金(円)

現状との差 (円)

現状との比較 (%)

 江戸東京博物館

600

566

△ 34

94

900

725

△ 175

 東京都現代美術館

500

498

△2

100

2,000

1,154

△ 846

58

 東京都写真美術館

500

483

△ 17

97

500

575

75

115

 世田谷美術館

200

392

192

196

1,300

1,087

△ 213

84

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

93


第 4 章 CVM を用いた美術館の文化的評価

公共美術館の価値に関する研究

好きな美術館 評価ではないが、比較という意味から利用者に過去訪問した中で好きな美術館を自 由回答してもらった。多く選ばれた施設順に挙げる(表 4-19)。東京都庭園美術館 が選択回数 17 で 2 位、僅差で世田谷美術館が選択回数 16 で 3 位となり、4.2.1 より 得た負担金額が高い順と同じである。なお、1位は選択回数21の東京国立博物館(上 野)となる。 表 4-19 好きな美術館ランキング 順位

美術館名

1 2 3 4 5 6 7

東京国立博物館 東京都庭園美術館 世田谷美術館 国立西洋美術館 東京都現代美術館 東京都美術館 原美術館 大原美術館 横浜美術館 10 東京都写真美術館 上野の森美術館 ルーブル美術館 13 五島美術館 東京国立近代美術館 神奈川県立近代美術館

選択数 21 17 16 10 9 8 6 6 6 4 4 4 3 3 3

順位

美術館名

19 エルミタージュ美術館 29 大田記念美術館 アカデミア美術館 福島県立博物館 からくり記念館 箱根生命地球の星 芸大美術館 京都国立博物館 松柏美術館(奈良) 佐川美術館(彦根) 江戸東京博物館 久米美術館 大阪府立博物館 大和文華館 目黒区立美術館

選択数 2 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1

順位

美術館名

選択数

29 ボストン美術館 東山魁夷記念美術館 ザ・ミュージアム 山種美術館 大阪市立東洋陶磁美術館 川崎市民ミュージアム 平塚美術館 しおとたばこ博物館 新宿歴史博物館 モントリオール美術館 バチカン美術館 グッゲンハイム美術館 セゾン美術館 ICC 国立歴史民俗博物館

1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1

国立科学博物館

3

ブリジストン美術館

1

川村美術館

1

メトロポリタン美術館

3

いわさきちひろ美術館

1

和歌山県立近代美術館

1

オルセー美術館

3

オランジェリー美術館

1

東武美術館

1

19 京都近代美術館

2

東村立富弘美術館

1

小海町立美術館

1

埼玉県立近代美術館

2

東京都近代文学博物館

1

資生堂アートハウス

1

笠間日動美術館

2

豊田市美術館

1

サントリー美術館

1

東京駅ギャラリー

2

MOMA

1

根津美術館

1

ワタリウム美術館

2

池田20世紀美術館

1

静嘉堂

1

成川美術館

2

神奈川県立近代文学館

1

カルナバレ美術館

1

大英博物館

2

スミソニアン博物館

1

ポリディペッオーリ美術館

1

イギリス自然史博物館

2

札幌近代美術館

1

ウフィッチ美術館

1

ウフィッツイ美術館

2

松濤美術館

1

合  計

201

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

94


第5章 文化価値を含めた美術館の収支モデル


第 5 章 文化価値を含めた美術館の収支モデル

公共美術館の価値に関する研究

5.1 モデルの考え方 本章では第 3 章で明らかにした決算資料の歳入歳出額から、第 4 章で算出した利用 者と非利用者の文化価値を加減することで、経済価値と文化価値を融合させた収支 モデルを作成する。今回は、直近の決算である平成 11 年度の予算・決算資料を用い ているが、同様な手法で各年度の収支モデルを作ることが可能である。 次に東京都美術館を例に、東京都民利用者の文化価値を加えた収支モデル作成の手 順を示す。

モデル作成の手順 ①前述したように、東京都保有の施設でありながら生活文化局主管の施設と教育庁  主管の施設によって収支決算書の形式が異なるために、それぞれ収入・歳入の中  から都の委託金・補助金を差し引いた純粋な事業収入等を「営業収入」 、支出・歳  出を「営業支出」として統一し、 「営業収入」から「営業支出」を引いた値を「営  業収支」とする。これは、都の委託金・補助金がない「営業収支」として実体を  明らかにするために表すものである。 (円) 科目

金額

備考

212,280,000

 営業収入

559,949,000

 営業支出

△ 347,669,000

営業収支

図 5-1

②「営業収支」に都からの「委託金・補助金収入」を加えたものを「経常収支」と  する。ここまでが、都が公表している通常の予算・決算内容である。 (円) 科目

金額

備考

 営業収入

212,280,000

 営業支出

559,949,000 △ 347,669,000

営業収支

347,669,000

 委託金・補助金収入

0

経常収支

図 5-2

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

95


第 5 章 文化価値を含めた美術館の収支モデル

公共美術館の価値に関する研究

③都民の利用者の年間の負担想定金額を出し、利用人数分掛け合わした金額を「文  化価値(見えない価値)」とする。都が公表している通常の予算・決算内容に、こ  の「文化価値」を加算する。なおこの場合の「文化価値」は、利用者に含まれる  都民の割合を抽出し、負担想定金額をかけた値である。表 5-1 にて、根拠を参照。 (円) 科目

金額 212,280,000

 営業収入

559,949,000

 営業支出

△ 347,669,000

営業収支

347,669,000

 委託金・補助金収入 経常収支に 文化価値を加味

備考

0

経常収支

3,082,214,191

 文化価値(見えない価値)

2,821円×1,867,686人×58.5%=3,082,214,191

図 5-3

④「文化価値」を加えた収支から、都の委託金・補助金を削減した値を「価値収支」  とする。 「価値収支」がプラスの値であれば、委託金・補助金が無くても十分に心  理価値で収支をまかなえることを意味する。東京都美術館の場合、価値収支は約  27 億 3 千万円となる。 (円) 科目

金額 212,280,000

 営業収入

559,949,000

 営業支出

△ 347,669,000

営業収支

347,669,000

 委託金・補助金収入

0

経常収支

3,082,214,191

 文化価値(見えない価値) 文化価値から 委託金・補助金を削減

備考

2,821円×1,867,686人×58.5%=3,082,214,191

△ 347,669,000

 委託金・補助金

2,734,545,191

価 値 収 支

図 5-4

⑤同様に以上の手順で、1. 都民利用者のみ、2. 都民利用者と都民以外の利用者、3.  都民(都民利用者と都民非利用者)、4. 都民と都民以外の利用者(都民利用者と都  民非利用者と都民以外の利用者の計)の 4 モデルのシミュレーションを行う。

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

96


第 5 章 文化価値を含めた美術館の収支モデル

公共美術館の価値に関する研究

負担想定金額の低い順に各データを示す(表 5-1)。各施設の「都民の割合」と「都 民以外の割合」はアンケート調査の際に得た結果をもとに割り出したものである。 江戸東京博物館を除いては、6 割前後の利用者が都民であると読み取れる。 表 5-1 利用者における都民の割合 施 設 名

負担想定金額(円)

利用者(人)

都民の割合(%) 都民以外の割合(%)

江戸東京博物館

1,940

1,217,624

53.4

46.6

東京都写真美術館

2,003

136,350

58.8

41.2

東京都現代美術館

2,145

222,837

58.1

41.9

東京都美術館

2,821

1,867,686

58.5

41.5

世田谷美術館

4,194

258,512

61.3

38.7

東京都庭園美術館

4,597

228,275

61.2

38.8

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

97


第 5 章 文化価値を含めた美術館の収支モデル

公共美術館の価値に関する研究

5.2 文化価値を含めた収支モデル 東京都美術館 収支モデル 1 においては、都民利用者の文化価値は高く、価値収支は約 27 億 3 千万 円となる。これは、文化価値に比べ委託金・補助金の削減金額が少ないためである。 文化価値が高い理由として、一人当りの負担想定金額が 2,821 円と極端に高いわけ ではないが、年間の利用者が 1,867,686 人と他の美術館に比べ圧倒的に多いことが 挙げられる。 収支モデル 2 においては、モデル 1 の都民利用者の文化価値に都民以外の利用者の 文化価値を加える(つまり、東京都美術館利用者総数になる)ことによって、価値 収支は約 49 億 2 千万円となる。

●収支モデル1(都民利用者のみ) (円) 科目

金額

備考

212,280,000

 営業収入

559,949,000

 営業支出

△ 347,669,000

営業収支

347,669,000

 委託金・補助金収入

0

経常収支  文化価値を加味  委託金・補助金      を削減

3,082,214,191

 文化価値(見えない価値)

2,821円×1,867,686人×58.5%=3,082,214,191

△ 347,669,000

 委託金・補助金

2,734,545,191

価 値 収 支

●収支モデル2(都民利用者+都民以外の利用者=利用者合計) (円) 科目

金額

備考

212,280,000

 営業収入

559,949,000

 営業支出

△ 347,669,000

営業収支

347,669,000

 委託金・補助金収入

0

経常収支  文化価値を加味

 委託金・補助金      を削減

 都民利用者の文化価値

3,082,214,191

2,821円×1,867,686人×58.5%=3,082,214,191

 都民以外の利用者の文化価値

2,186,528,015

2,821円×1,867,686人×41.5%=2,186,528,015

△ 347,669,000

 委託金・補助金

4,921,073,206

価 値 収 支

図 5-5

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

98


第 5 章 文化価値を含めた美術館の収支モデル

公共美術館の価値に関する研究

収支モデル 3 においては、モデル 1 の都民利用者の文化価値に都民の非利用者の文 化価値を加える(つまり、東京都民になる)ことによって、価値収支は約 74 億 2 千 万円となる。なお、ここでいう非利用者とは、非利用の世帯と定義する。非利用者 の文化価値は、アンケートから得られた非利用者の負担想定金額に非利用世帯数 (非利用者から世帯係数 2.24 を割る)をかけて求めたものである。 収支モデル 4 においては、モデル 3 の都民の文化価値に都民以外の利用者の文化価 値を加えることによって価値収支は約96億円となり、モデル1に比較しておよそ3.5 倍もの値となる。

●収支モデル3(都民利用者+都民非利用者=都民) (円) 科目

金額

備考

212,280,000

 営業収入

559,949,000

 営業支出

△ 347,669,000

営業収支

347,669,000

 委託金・補助金収入

0

経常収支  文化価値を加味

 委託金・補助金      を削減

 都民利用者の文化価値

3,082,214,191

2,821円×1,867,686人×58.5%=3,082,214,191

 都民非利用者の文化価値

4,682,504,207

1,031円×10,173,433人÷2.24=4,682,504,207

△ 347,669,000

 委託金・補助金

7,417,049,398

価 値 収 支

●収支モデル4(都民利用者+都民非利用者+都民以外の利用者=都民+都民以外の利用者) (円) 科目

金額

備考

212,280,000

 営業収入

559,949,000

 営業支出

△ 347,669,000

営業収支

347,669,000

 委託金・補助金収入

0

経常収支  文化価値を加味

 委託金・補助金      を削減

 都民利用者の文化価値

3,082,214,191

 都民非利用者の文化価値

4,682,504,207

2,821円×1,867,686人×58.5%=3,082,214,191 1,031円×10,173,433人÷2.24=4,682,504,207

 都民以外の利用者の文化価値

2,186,528,015

2,821円×1,867,686人×41.5%=2,186,528,015

△ 347,669,000

 委託金・補助金

9,603,577,413

価 値 収 支

図 5-6

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

99


第 5 章 文化価値を含めた美術館の収支モデル

公共美術館の価値に関する研究

東京都庭園美術館 収支モデル 1 においては、都民利用者の文化価値は高く、価値収支は約 2 億 5 千万 円となる。これは、文化価値に比べ委託金・補助金の削減金額が少ないためである。 文化価値が高い理由として、年間の利用者が 228,275 人と極端に多いわけではない が、一人当りの負担想定金額が4,597円と他の美術館に比べ高いことが挙げられる。 収支モデル 2 においては、モデル 1 の都民利用者の文化価値に都民以外の利用者の 文化価値を加える(つまり、東京都美術館利用者総数になる)ことによって、価値 収支は約 6 億 6 千万円となる。

●収支モデル1(都民利用者のみ) (円) 科目

金額

備考

124,232,507

 営業収入

514,578,507

 営業支出

△ 390,346,000

営業収支

390,346,000

 委託金・補助金収入

0

経常収支  文化価値を加味  委託金・補助金      を削減

642,220,667

 文化価値(見えない価値)

4,597円×228,275人×61.2%=642,220,667

△ 390,346,000

 委託金・補助金

251,874,667

価 値 収 支

●収支モデル2(都民利用者+都民以外の利用者=利用者合計) (円) 科目

金額

備考

 営業収入

124,232,507

 営業支出

514,578,507 △ 390,346,000

営業収支

390,346,000

 委託金・補助金収入

0

経常収支  文化価値を加味

 委託金・補助金      を削減

 都民利用者の文化価値

642,220,667

4,597円×228,275人×61.2%=642,220,667

 都民以外の利用者の文化価値

407,159,508

4,597円×228,275人×38.8%=407,159,508

△ 390,346,000

 委託金・補助金

659,034,175

価 値 収 支

図 5-7

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

100


第 5 章 文化価値を含めた美術館の収支モデル

公共美術館の価値に関する研究

収支モデル 3 においては、モデル 1 の都民利用者の文化価値に都民の非利用者の文 化価値を加える(つまり、東京都民になる)ことによって、価値収支は約 53 億 5 千 万円となる。 収支モデル 4 においては、モデル 3 の都民の文化価値に都民以外の利用者の文化価 値を加えることによって価値収支は約 57 億 6 千万円となり、モデル 1 に比較してお よそ 23 倍もの値となる。

●収支モデル3(都民利用者+都民非利用者=都民) (円) 科目

金額

備考

124,232,507

 営業収入

514,578,507

 営業支出

△ 390,346,000

営業収支

390,346,000

 委託金・補助金収入

0

経常収支  文化価値を加味

 都民利用者の文化価値  委託金・補助金      を削減

 都民非利用者の文化価値

642,220,667

4,597円×228,275人×61.2%=642,220,667

5,099,562,566

967円×11,812,844人÷2.24=5,099,562,566

△ 390,346,000

 委託金・補助金

5,351,437,233

価 値 収 支

●収支モデル4(都民利用者+都民非利用者+都民以外の利用者=都民+都民以外の利用者) (円) 科目

金額

備考

124,232,507

 営業収入

514,578,507

 営業支出

△ 390,346,000

営業収支

390,346,000

 委託金・補助金収入

0

経常収支  文化価値を加味

 都民利用者の文化価値  都民非利用者の文化価値  委託金・補助金      を削減

 都民以外の利用者の文化価値

642,220,667

4,597円×228,275人×61.2%=642,220,667

5,099,562,566

967円×11,812,844人÷2.24=5,099,562,566

407,159,508

4,597円×228,275人×38.8%=407,159,508

△ 390,346,000

 委託金・補助金

5,758,596,741

価 値 収 支

図 5-8

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

101


第 5 章 文化価値を含めた美術館の収支モデル

公共美術館の価値に関する研究

江戸東京博物館 収支モデル 1 においては、価値収支は約マイナス 27 億 8 千万円である。これは、文 化価値に比べ委託金・補助金の削減金額が多いためであり補えていない。年間の利 用者が 1,217,624 人と他の美術館に比べ多いものの、文化価値が低い理由として一 人当りの負担想定金額が 1,940 円と極端に低いことが挙げられる。平均訪問回数は 2.12 回と、負担想定金額とともに他の 5 施設も合わせた中では一番低い値である。 年間利用者のうち、企画展利用者は 383,538 人と 3 割弱であるので、負担想定金額 が訪問回数に相関しているという結果から企画展に集客効果を持たせれるよう、よ り魅力をあげる必要があると考えられる。 収支モデル 2 においては、モデル 1 の都民利用者の心理価値に都民以外の利用者の 文化価値を加えることになり、価値収支は約マイナス 16 億 8 千万円となる。

●収支モデル1(都民利用者のみ) (円) 科目

金額

備考

 営業収入

122,662,055

 営業支出

4,266,487,055 △ 4,143,825,000

営業収支

4,143,825,000

 委託金・補助金収入

0

経常収支  文化価値を加味  委託金・補助金      を削減

1,360,621,763

 文化価値(見えない価値)

1,940円×1,217,624人×53.4%=1,261,409,759

△ 4,143,825,000

 委託金・補助金

△ 2,783,203,237

価 値 収 支

●収支モデル2(都民利用者+都民以外の利用者=利用者合計) (円) 科目

金額

備考

 営業収入

122,662,055

 営業支出

4,266,487,055 △ 4,143,825,000

営業収支

4,143,825,000

 委託金・補助金収入

0

経常収支  文化価値を加味

 委託金・補助金      を削減

 都民利用者の文化価値

1,360,621,763

1,940円×1,217,624人×53.4%=1,261,409,759

 都民以外の利用者の文化価値

1,100,780,801

1,940円×1,217,624人×46.6%=1,100,780,801

△ 4,143,825,000

 委託金・補助金 価 値 収 支

△ 1,682,422,436

図 5-9

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

102


第 5 章 文化価値を含めた美術館の収支モデル

公共美術館の価値に関する研究

収支モデル 3 においては、モデル 1 の都民利用者の文化価値に都民の非利用者の文 化価値を加えることによって、ようやく価値収支は約 19億 5千万円とプラスに転じ る。 収支モデル 4 においては、モデル 3 の都民の心理価値に都民以外の利用者の文化価 値を加えることによって価値収支は約 30 億 5 千万円となる。

●収支モデル3(都民利用者+都民非利用者=都民) (円) 科目

金額

備考

 営業収入

122,662,055

 営業支出

4,266,487,055 △ 4,143,825,000

営業収支

4,143,825,000

 委託金・補助金収入

0

経常収支  文化価値を加味

 委託金・補助金      を削減

 都民利用者の文化価値

1,360,621,763

1,940円×1,217,624人×53.4%=1,261,409,759

 都民非利用者の文化価値

4,734,346,138

931円×11,390,908人÷2.24=4,734,346,138

△ 4,143,825,000

 委託金・補助金

1,951,142,901

価 値 収 支

●収支モデル4(都民利用者+都民非利用者+都民以外の利用者=都民+都民以外の利用者) (円) 科目

金額

備考

 営業収入

122,662,055

 営業支出

4,266,487,055 △ 4,143,825,000

営業収支

4,143,825,000

 委託金・補助金収入

0

経常収支  文化価値を加味

 委託金・補助金      を削減

 都民利用者の文化価値

1,360,621,763

 都民非利用者の文化価値

4,734,346,138

1,940円×1,217,624人×53.4%=1,261,409,759 931円×11,390,908人÷2.24=4,734,346,138

 都民以外の利用者の文化価値

1,100,780,801

1,940円×1,217,624人×46.6%=1,100,780,801

△ 4,143,825,000

 委託金・補助金

3,051,923,702

価 値 収 支

図 5-10

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

103


第 5 章 文化価値を含めた美術館の収支モデル

公共美術館の価値に関する研究

東京都現代美術館 収支モデル 1 においては、価値収支は約マイナス 9 億 4 千万円である。これは、文 化価値に比べ委託金・補助金の削減金額が多いためであり補えていない。年間の利 用者が 222,837 人、負担想定金額が 2,145 円と他の 5 美術館の平均値に近い。平均 訪問回数は3.06回である。また文化価値は営業収入よりやや多い値となったことも 特徴である。年間利用者のうち、企画展利用者は 165,972 人と 8 割近く占めている ものの敷地までの交通の不便さが多くのリピーターの足を遠のかせていることは否 めないであろう。近隣の交通ターミナルとの無料定期運行等のサービスに力を入れ られないだろうか。 収支モデル 2 においては、モデル 1 の都民利用者の文化価値に都民以外の利用者の 文化価値を加えることになり、価値収支は約マイナス 7 億 4 千万円となる。

●収支モデル1(都民利用者のみ) (円) 科目

金額

備考

 営業収入

266,143,000

 営業支出

1,483,051,000 △ 1,216,908,000

営業収支

1,216,908,000

 委託金・補助金収入

0

経常収支  文化価値を加味  委託金・補助金      を削減

277,709,497

 文化価値(見えない価値)

2,145円×222,837人×58.1%=277,709,497

△ 1,216,908,000

 委託金・補助金

△ 939,198,503

価 値 収 支

●収支モデル2(都民利用者+都民以外の利用者=利用者合計) (円) 科目

金額

備考

 営業収入

266,143,000

 営業支出

1,483,051,000 △ 1,216,908,000

営業収支

1,216,908,000

 委託金・補助金収入

0

経常収支  文化価値を加味

 委託金・補助金      を削減

 都民利用者の文化価値

277,709,497

2,145円×222,837人×58.1%=277,709,497

 都民以外の利用者の文化価値

200,275,868

2,145円×222,837人×41.9%=200,275,868

△ 1,216,908,000

 委託金・補助金

△ 738,922,635

価 値 収 支

図 5-11

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

104


第 5 章 文化価値を含めた美術館の収支モデル

公共美術館の価値に関する研究

収支モデル 3 においては、モデル 1 の都民利用者の文化価値に都民の非利用者の文 化価値を加えることによって、ようやく価値収支は約 50億 8千万円とプラスに転じ る。 収支モデル 4 においては、モデル 3 の都民の文化価値に都民以外の利用者の文化価 値を加えることによって価値収支は約 52 億 8 千万円となる。

●収支モデル3(都民利用者+都民非利用者=都民) (円) 科目

金額

備考

 営業収入

266,143,000

 営業支出

1,483,051,000 △ 1,216,908,000

営業収支

1,216,908,000

 委託金・補助金収入

0

経常収支  文化価値を加味

 都民利用者の文化価値  委託金・補助金      を削減

 都民非利用者の文化価値

277,709,497

2,145円×222,837人×58.1%=277,709,497

6,019,937,394

1,141円×11,818,282人÷2.24=6,019,937,394

△ 1,216,908,000

 委託金・補助金

5,080,738,891

価 値 収 支

●収支モデル4(都民利用者+都民非利用者+都民以外の利用者=都民+都民以外の利用者) (円) 科目

金額

備考

 営業収入

266,143,000

 営業支出

1,483,051,000 △ 1,216,908,000

営業収支

1,216,908,000

 委託金・補助金収入

0

経常収支  文化価値を加味

 都民利用者の文化価値  都民非利用者の文化価値  委託金・補助金      を削減

 都民以外の利用者の文化価値

277,709,497

2,145円×222,837人×58.1%=277,709,497

6,019,937,394

1,141円×11,818,282人÷2.24=6,019,937,394

200,275,868

2,145円×222,837人×41.9%=200,275,868

△ 1,216,908,000

 委託金・補助金

5,281,014,759

価 値 収 支

図 5-12

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

105


第 5 章 文化価値を含めた美術館の収支モデル

公共美術館の価値に関する研究

東京都写真美術館 収支モデル 1 においては、価値収支は約マイナス 8 億 9 千万円である。これは、文 化価値に比べ委託金・補助金の削減金額がかなり多いためであり補えていない。年 間の利用者 136,350 人は他の 5 美術館と比べ一番少なく、負担想定金額も 2,003 円 と低いため総じて文化価値が低いものの、委託金・補助金の削減金額が11 億円弱も あり、価値収支に大きく響いている。これは支出科目のうち、建物のメンテナンス 以外にかかる管理費が 6 割以上占めていることも要因である。管理費には人件費も 含まれており、収入を増やさない以上建物規模からみても管理費の見直しが必要で あると思われる。恵比寿ガーデンプレイスという大きな集客施設と同じ敷地内にあ りながら、上手く複合利用されていないのは営業努力の不足といえるのではないだ ろうか。

●収支モデル1(都民利用者のみ) (円) 科目

金額

備考

 営業収入

43,851,607

 営業支出

1,096,986,607 △ 1,053,135,000

営業収支

1,053,135,000

 委託金・補助金収入

0

経常収支  文化価値を加味  委託金・補助金      を削減

160,588,121

 文化価値(見えない価値)

2,003円×136,350人×58.8%=160,588,121

△ 1,053,135,000

 委託金・補助金

△ 892,546,879

価 値 収 支

●収支モデル2(都民利用者+都民以外の利用者=利用者合計) (円) 科目

金額

備考

 営業収入

43,851,607

 営業支出

1,096,986,607 △ 1,053,135,000

営業収支

1,053,135,000

 委託金・補助金収入

0

経常収支  文化価値を加味

 委託金・補助金      を削減

 都民利用者の文化価値

160,588,121

2,003円×136,350人×58.8%=160,588,121

 都民以外の利用者の文化価値

112,520,929

2,003円×136,350人×41.2%=112,520,929

△ 1,053,135,000

 委託金・補助金

△ 780,025,950

価 値 収 支

図 5-13

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

106


第 5 章 文化価値を含めた美術館の収支モデル

公共美術館の価値に関する研究

収支モデル 2 においては、モデル 1 の都民利用者の文化価値に都民以外の利用者の 文化価値を加えることになり、価値収支は約マイナス 7 億 8 千万円となる。 収支モデル 3 においては、モデル 1 の都民利用者の文化価値に都民の非利用者の文 化価値を加えることによって、ようやく価値収支は約 41億 7千万円とプラスに転じ る。 収支モデル 4 においては、モデル 3 の都民の文化価値に都民以外の利用者の文化価 値を加えることによって価値収支は約 42 億 8 千万円となる。

●収支モデル3(都民利用者+都民非利用者=都民) (円) 科目

金額

備考

 営業収入

43,851,607

 営業支出

1,096,986,607 △ 1,053,135,000

営業収支

1,053,135,000

 委託金・補助金収入

0

経常収支  文化価値を加味

 都民利用者の文化価値  委託金・補助金      を削減

 都民非利用者の文化価値

160,588,121

2,003円×136,350人×58.8%=160,588,121

5,059,526,825

952円×11,904,769人÷2.24=5,059,526,825

△ 1,053,135,000

 委託金・補助金

4,166,979,946

価 値 収 支

●収支モデル4(都民利用者+都民非利用者+都民以外の利用者=都民+都民以外の利用者) (円) 科目

金額

備考

 営業収入

43,851,607

 営業支出

1,096,986,607 △ 1,053,135,000

営業収支

1,053,135,000

 委託金・補助金収入

0

経常収支  文化価値を加味

 都民利用者の文化価値  都民非利用者の文化価値  委託金・補助金      を削減

 都民以外の利用者の文化価値

160,588,121

2,003円×136,350人×58.8%=160,588,121

5,059,526,825

952円×11,904,769人÷2.24=5,059,526,825

112,520,929

2,003円×136,350人×41.2%=112,520,929

△ 1,053,135,000

 委託金・補助金

4,279,500,875

価 値 収 支

図 5-14

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

107


第 5 章 文化価値を含めた美術館の収支モデル

公共美術館の価値に関する研究

世田谷美術館 収支モデル 1 においては、都民利用者の文化価値は高く、価値収支は約 5 千万円と なる。これは、文化価値に比べ委託金・補助金の削減金額がほぼ同額のためである。 文化価値が高い理由として、年間の利用者が 258,512 人と極端に多いわけではない が、一人当りの負担想定金額が4,194円と他の美術館に比べ高いことが挙げられる。 収支モデル 2 においては、モデル 1 の都民利用者の文化価値に都民以外の利用者の 文化価値を加える(つまり、東京都美術館利用者総数になる)ことによって、価値 収支は約 4 億 4 千万円となる。

●収支モデル1(都民利用者のみ) (円) 科目

金額

備考

 営業収入

51,804,317

 営業支出

691,582,127 △ 639,777,810

営業収支

639,777,810

 委託金・補助金収入

0

経常収支  文化価値を加味  委託金・補助金      を削減

664,614,188

 文化価値(見えない価値)

4,194円×258,512人×61.3%=664,614,188

△ 639,777,810

 委託金・補助金

24,836,378

価 値 収 支

●収支モデル2(都民利用者+都民以外の利用者=利用者合計) (円) 科目

金額

備考

 営業収入

51,804,317

 営業支出

691,582,127 △ 639,777,810

営業収支

639,777,810

 委託金・補助金収入

0

経常収支  文化価値を加味

 委託金・補助金      を削減

 都民利用者の文化価値

664,614,188

4,194円×258,512人×61.3%=664,614,188

 都民以外の利用者の文化価値

419,585,140

4,194円×258,512人×38.7%=419,585,140

△ 639,777,810

 委託金・補助金

444,421,518

価 値 収 支

図 5-15

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

108


第 5 章 文化価値を含めた美術館の収支モデル

公共美術館の価値に関する研究

収支モデル 3 においては、モデル 1 の都民利用者の文化価値に都民の非利用者の文 化価値を加えることによって、価値収支は約 49 億 6 千万円となる。 収支モデル 4 においては、モデル 3 の都民の文化価値に都民以外の利用者の文化価 値を加えることによって価値収支は約 53 億 8 千万円となり、モデル 1 に比較してお よそ 217 倍もの値となる。

●収支モデル3(都民利用者+都民非利用者=都民) (円) 科目

金額

備考

 営業収入

51,804,317

 営業支出

691,582,127 △ 639,777,810

営業収支

639,777,810

 委託金・補助金収入

0

経常収支  文化価値を加味

 都民利用者の文化価値  委託金・補助金      を削減

 都民非利用者の文化価値

664,614,188

4,194円×258,512人×61.3%=664,614,188

4,933,966,681

938円×11,782,607人÷2.24=4,933,966,681

△ 639,777,810

 委託金・補助金

4,958,803,059

価 値 収 支

●収支モデル4(都民利用者+都民非利用者+都民以外の利用者=都民+都民以外の利用者) (円) 科目

金額

備考

 営業収入

51,804,317

 営業支出

691,582,127 △ 639,777,810

営業収支

639,777,810

 委託金・補助金収入

0

経常収支  文化価値を加味

 都民利用者の文化価値  都民非利用者の文化価値  委託金・補助金      を削減

 都民以外の利用者の文化価値

664,614,188

4,194円×258,512人×61.3%=664,614,188

4,933,966,681

938円×11,782,607人÷2.24=4,933,966,681

419,585,140

4,194円×258,512人×38.7%=419,585,140

△ 639,777,810

 委託金・補助金

5,378,388,199

価 値 収 支

図 5-16

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

109


第6章 結 論


第 6 章 結論

公共美術館の価値に関する研究

6.1 美術館の価値 試算したモデルをまとめるとモデル 1 の段階で文化価値によって価値収支が補えて いる美術館群< A>、モデル1で価値収支がプラスマイナスゼロの美術館群<B >、 モデル 1 で価値収支が補えていない美術館群< C >と、計 3 グループに分けられる。 それぞれ東京都美術館、東京都庭園美術館は< A >に、世田谷美術館は< B >に、 東京都写真美術館、東京都現代美術館、江戸東京博物館は< C >に含まれる(図 61)。試算では、モデル 3 とモデル 4 において全 6 美術館の価値収支はプラスである が、これは都民の非利用者の文化価値を加味した値であり、都民全体の価値収支は 決算上大幅黒字といえるであろう。しかし、直接利用する利用者の文化価値を加え たモデル1やモデル2の段階で価値収支がプラスに転じることが健全であるだろう。 モデル 1 の段階で、東京都美術館は 2,735 百万円、東京都庭園美術館は 252 百万円、 世田谷美術館は 25 百万円と、価値収支はプラスであり、委託金・補助金を決算上か ら削減してもまかなえることがわかる。特に東京都美術館は、高い値をしめしてい る。また、江戸東京博物館がモデル 1 の段階で大幅赤字であるのは、文化価値が低 いことが原因であるが、その理由として一人当たりの負担金額が1,940円と低く、ま た平均訪問回数も 2.12 回と低いためである。 公共美術館は、委託金・補助金に大きく依存している体質であると言われてきたが、 価値収支という概念で収支計���を行うことにより、文化価値も含めた複合的な価値 を美術館に見い出すことができ、実体に近い価値を表しているものと思われる。

12,000

A

モデル1

モデル2

モデル3

モデル4

10,000

B 8,000 価値収支(百万円)

C 6,000 4,000 2,000 0 -2,000 -4,000 東 京 都 美 術 館

東 京 都 庭 園 美 術 館

世 田 谷 美 術 館

東 京 都 写 真 美 術 館

東 京 都 現 代 美 術 館

江 戸 東 京 博 物 館

図 6-1 価値収支の試算

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

110


第 6 章 結論

公共美術館の価値に関する研究

表 6-1 価値収支の試算詳細

<A> 東京都美術館の価値収支

(円)

都民利用者

都民以外の利用者

2,734,545,191

 都民以外の利用者

4,921,073,206

-

-

 都民非利用者

7,417,049,398

-

-

-

-

-

都民非利用者

都民

-

9,603,577,413

7,417,049,398

都民

 都民利用者

 都民

4,921,073,206

都民非利用者

9,603,577,413

東京都庭園美術館の価値収支

(円)

都民利用者  都民利用者

251,874,667

 都民以外の利用者

659,034,175 5,351,437,233

 都民非利用者

-

 都民

都民以外の利用者 659,034,175

5,351,437,233

-

-

-

-

-

-

-

-

都民非利用者

都民

5,758,596,741

5,758,596,741

<B> 世田谷美術館の価値収支

(円)

都民利用者 24,836,378

 都民利用者

444,421,518

 都民以外の利用者

4,958,803,059

 都民非利用者

-

 都民

都民以外の利用者 444,421,518

4,958,803,059

-

-

-

-

-

-

-

-

都民非利用者

都民

5,378,388,199

5,378,388,199

<C> 江戸東京博物館の価値収支

(円)

都民利用者  都民利用者

△ 2,783,203,237

 都民以外の利用者

△ 1,682,422,436

 都民非利用者

1,951,142,901 -

 都民

都民以外の利用者 △ 1,682,422,436

1,951,142,901

-

-

-

-

-

-

-

-

都民非利用者

都民

3,051,923,702

3,051,923,702

東京都現代美術館の価値収支

(円)

都民利用者

都民以外の利用者

 都民利用者

△ 939,198,503

 都民以外の利用者

△ 738,922,635

-

-

5,080,738,891

-

-

-

-

-

都民非利用者

都民

 都民非利用者

-

 都民

△ 738,922,635

5,281,014,759

5,080,738,891

5,281,014,759

東京都写真美術館の価値収支

(円)

都民利用者  都民利用者

△ 892,546,879

 都民以外の利用者

△ 780,025,950

 都民非利用者  都民

4,166,979,946 -

都民以外の利用者 △ 780,025,950

4,166,979,946

-

-

-

-

-

-

-

-

4,279,500,875

4,279,500,875

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University

111


第 6 章 結論

公共美術館の価値に関する研究

以上をふまえ、今まで評価を行ってきた項目を単純ではあるが、評価の高い順に三 ツ星を与え、評価を行った(表 6-2)。換算基準は別表のとおりである(表 6-3)。な お、元となる各種詳細もしめす(表 6-4)。支払い税金は、当該美術館を維持するの に対して都民一人当りが支払っている税金であり、税金額が低い美術館を税金額が 高い美術館より高く評価し、この表においては経済価値を測る指標とした。このよ うに、文化価値を測る指標として「負担金額」 、経済価値と文化価値を融合した指標 として「価値収支」 、というように種別毎に項目を決めて評価を試みる。 見てもわかるように、A、B グループに正を意味する黒星が多く、C グループは負を 意味する白星が多い。 ここで、結果として星にかなりの差が生じる東京都美術館と江戸東京博物館を比較 する。 「利用者数」はお互いに多いものの、 「維持に対する支払い税金額」と「価値 収支」では、東京都美術館は価値収支が高いにも関わらず支払い税金額が低く、反 対に江戸東京博物館は価値収支が低いにも関わらず支払い税金額が高く、現状とし て、価値あるものに投資するという経済原理に反していると言えるのではないか。 表 6-2 美術館の星取り表 グ ル ー プ

種 別

アンケート結果

統計結果

経済価値

文化価値

経済価値+文化価値

項 目

平均訪問回数

利用者数

維持に対する支 払税金額

負担金額

価値収支

 東京都美術館

★★

★★★

★★★

★★★

 東京都庭園美術館

★★

★★★

★★★

★★★

★★

★★

★★★

 東京都写真美術館

★★

☆☆

 東京都現代美術館

☆☆

 江戸東京博物館

★★★

☆☆

☆☆

A

B  世田谷美術館

C

表 6-3 星取り表の換算基準 利用者平均訪問回数 (回)

評価

8.01∼ ★★★

利用者数(万人)

評価

40∼ ★★★

各館維持に対する都民 一人当たりの支払税金 額(円)

評価

0∼50 ★★★

利用者負担金額(円)

評価

4001∼ ★★★

モデル1の価値収支 (百万円)

評価

201∼ ★★★

6.01∼8

★★

30.1∼40

★★

51∼100

★★

3001∼4000

★★

101∼200

★★

4.01∼6

20.1∼30

101∼150

2001∼3000

0∼100

2.01∼4

10.1∼20

151∼200

1001∼2000

-100∼0

0∼2

☆☆

0∼10

☆☆

200∼

☆☆

0∼1000

☆☆

-200∼-101

☆☆

※各項目の評価が高いものから順に、★★★、★★、★、☆、☆☆とする。

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112


第 6 章 結論

公共美術館の価値に関する研究

表 6-4 美術館の各種データ 利用者平均訪問回数 (回)

利用者数(万人)

各館維持に対する都 民一人当りの支払税 金額(円)

  東京都美術館

6.60

110.5

29

2,821

2,735

  東京都庭園美術館

7.24

15.8

32

4,597

252

  世田谷美術館

7.16

24.6

53

4,194

25

  東京都現代美術館

3.06

22.2

101

2,145

△ 939

  東京都写真美術館

2.18

19.3

88

2,003

△ 893

  江戸東京博物館

2.12

131.7

344

1,940

△ 2,783

項 目

利用者負担金額 (円)

モデル1の価値収支 (百万円)

以上、経済的評価、文化的評価という視点で美術館を分析してきたがそれぞれの積 み上げが、この評価となった。この星取り表に含まれる項目が十分条件であるとは いい切れないが、必要条件であることは間違いないであろう。 マスコミ等、一般に運営が悪く決算は赤字だと叩かれている都の美術館には、価値 収支というモデルで試算した場合には大きく 2 つに分かれることがわかった。モデ ル 1 の段階で価値収支がプラスになっている美術館は何故良いのかというと、東京 都美術館は貸館事業を中心に箱に徹して中身を順次変えていることで価値を高めて おり、東京都庭園美術館は名建築を転用することによってイニシャルコストをかけ ずに、ランニングコスト等のメンテナンスの部分に力を入れて、価値をあげている からだ。 利用者のみの文化価値を加味した価値収支が悪い東京都写真美術館、東京都現代美 術館、江戸東京博物館の 3 つの美術館は、偶然にも過去 10 年以内に新設された建築 である。このことからも、新しい施設だから価値があるという訳ではなく、価値を 持っているとされる美術館は、それぞれが独自の特徴を出して運営を行っている。 今後、美術館が歴史を重ねリピーターを取り組む努力をしていくならば、近い将来 に価値収支がプラスに転じる可能性があると考えられる。 プラスアルファの文化価値は増幅するはずだ。 存在そのものに、価値がないわけではないのであるから。

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113


第 6 章 結論

公共美術館の価値に関する研究

6.2 今後の展望 公共の美術館は、経済価値だけからみてその建築が問題視されているが、実はその 建築が十分な文化価値を生んでいないことの方が問題なのである。ただ存在するだ けで利用客が来るわけでもなく、ましてや利用客が多いことだけで価値収支が上が るわけではなかった。実際価値収支が大きくプラスになっている、すなわち大きな 文化価値を生んでいる美術館があり、今後も価値を創造することができる美術館建 築の重要性は高い。 東京都は今後この得られた評価の結果をどのように活用してくれるのか、 あるいは、 全く関心を示さないのか?どちらにしても東京都の各美術館が、弱いと評される価 値の部分を認識し、それを補えるように援護の意味も込めて、以下 5 つのテーマを 公共美術館の今後の展望として挙げたい。

1. 企画段階における価値評価の重要性 2003 年の完成を目指して、現在建築準備中の金沢市現代美術館。 建築家の妹島和世氏と西沢立衛氏の手がける現代美術館である。21世紀の美術館像 は「バリアフリーで円形」と、そのコンセプトが注目されるが、実はプロジェクト における企画段階の経緯をもっと取り上げるべきだと思う。通常美術館運営につい ては、ハードに合わせて設計されることが多いが、金沢市現代美術館の場合は設計 に先立って美術館の建設事務局がまずあって、プロジェクトの初期段階からキュー レーターや建物を使う人々と設計者が打ち合わせを行えているそうだ。このような システムはまだ珍しいのだが、東京都の公共美術館の新築や増築の設計にあたって も企画段階から利用者も巻き込んだ評価をしていくべきであろう。もちろん企画段 階だけでなく、建築後も価値評価に配慮する必要ががある。評価の中で設計する価 値がないという結果になった場合は、潔く企画の中止やもしくは、他の用途への転 用も考えなければならないだろう。これが建築の維持や保存といった問題にもつな がっていく。

2. 長期修繕計画の必要性 フランスとイギリスの航空機メーカーが協力して開発した超音速旅客機「コンコル ド」が誕生したのが 25 年前。絶対的な安全性と利便性によって信頼された技術も、

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第 6 章 結論

公共美術館の価値に関する研究

構造面の不具合から取り返しのつかない大惨事を招いた。同時期に竣工された東京 都美術館も充分な配慮のもと設計されており、外観上劣化が散見されないため、大 規模な改修や修繕は行われていない。しかしコンコルド同様、外からは見えない部 分の設備周りに関しては相当老朽化が進んでいるのは事実である。飛行機に比べ大 惨事を招く可能性が低いから比較するのはナンセンスだと思われるが、大間違いで ある。この現状を知りながら都が放置している理由の一つに、貸館事業が中心であ る東京都美術館の性質上、一般の芸術団体に広く賃貸しているため 3 年先までは長 期の休館期間がとれないということがある。さらに、改修のための予算もつかない という事が大きな要因であることは述べた。しかし、都の美術館は他にもあるのだ から、長期改修中は企画展の吸引力が弱い江戸東京博物館や東京都現代美術館、東 京都写真美術館の展示空間を一部借りて対応することが可能ではないか。本研究に おける東京都美術館の価値評価は価値収支が他の美術館を圧倒して高いことからも、 他の施設も含め、全館の長期修繕計画の前倒しを望みたい。無論、全館闇雲に長期 修繕計画を立てればよいというのではなく、価値収支に見合った修繕が必要である ことを、重ねて言いたい。

3. 他用途からの転用 利用者へのアンケート結果から、美術館の他の用途への転用価値は低いことがわ かっている。これは転用する価値がないというのではなく、転用してほしくないと いう要因が強いためと思われる。逆に、他の用途の建築から美術館へ転用できる可 能性があるということである。これは、東京都庭園美術館のように他の用途から変 更したものが立派に美術館として通用する例もあるからだ。絶対的に転用が良いと は限らないが価値を生む仕掛けの一手法としては有効であり、昨今の不況のあおり を受けて、やむなく手放さなくならなくなった企業の建築や存続の岐路に立つ建築 を活かしていくという方法もあるだろう。参考までに存続が危ぶまれている有名建 築や 97 年以降に取り壊された建築について記載する(表 6-5)。

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115


第 6 章 結論

公共美術館の価値に関する研究

表 6-5 東京の存続の岐路に立つ有名建築、97 年以降に取り壊された建築 竣工年

建物名

設計者

状況

保存要望書

横河工務所

一部保存

学、家

超高層を背景に一部を保存

解体済み

学、家

耐震性の不安を理由に解体

同潤会

解体が確定的

学、家

安藤忠雄氏の設計で再開発

石本喜久治

解体済み

東京大学生産技術研究所・

旧陸軍第一

解体が確定的

学、史

物性研究所(東京都港区)

師団経理部

交詢社

横河工務所

未確定

学、家

1920年

日本工業倶楽部会館

1923年

丸ノ内ビルヂング

(東京都千代田区)

(松井貴太郎) 三菱合資会社地所部

(東京都千代田区) 1927年

備考

同潤会青山アパート

(桜井小太郎)

(東京都渋谷区) 1928年

東急百貨店日本橋店

売上げ減少で、オフィスに建て替え

(東京都中央区) 1928年

1929年

(東京都中央区) 1933年

外務省研修所

「2・26事件」の舞台ともなったが、現建物は解体され 跡地には文部省がナショナルギャラリーを建設する 伊藤滋委員会が検討中

(横河時介) 内田祥三

未確定

酒井久五郎

未確定

芦原義信

解体済み

大蔵省に返還後、売却

(東京都文京区) 1936年

協働会館

花街の象徴、都は解体の方針

(東京都港区) 1956年

中央公論ビル (東京都中央区)

1958年

晴海高層アパート (東京都中央区)

所有者が交代して建て替え

建築設計研究所 前川國男建築

解体済み

「S・I」の思想も再開発には勝てず

建築設計研究所

 学:日本建築学会が保存要望書を出した建築物、家:日本建築家協会が保存要望書を出した建築物、史:建築史学会が保存要望書を���した建築物

4. 運営における経営感覚 美術館運営の改革は世界中で進んでいる。元ユーロディズニー会長の職にあったロ バート・フィッツパトリック氏は、現在シカゴ現代美術館の館長である。「ディズ ニーのゲストへの尊敬とホスピタリティーから世界中の美術館が学ぶことは多い。 ディズニーランド化の行きすぎを懸念する声があることも確かだが、美術館は人々 の娯楽の時間とお金を獲得する競争にすでに巻き込まれている」と、就任後まもな く、館長を含む職員全員が一日、受付や館内の監視係を務める制度を始めたのも、意 識改革のためである。 「館長並びに館幹部は現代の経営学の基礎を研修する」と、ドイツでは 95 年、各州 文化大臣常設会議が州立美術館の効率的な運営のため、9つの改善策を提示した。ラ イプチヒ現代美術館では、ザクソン州とライプチヒ市、民間が資本金を分担して有 限会社を設立するなど、新しい運営方式の模索が続く。州や自治体主導型が多いド イツや、国への依存度が低く、美術館の独立心が強い米、英だけではない。大型館 はすべて国公立で「美術館は官の事業」とされるフランスでも「補助金の効率的な 使い方を考え、さらには官立の美術館という根幹を残しつつ私的経営形態を取り入 れるようになっている」とキュレーターの清水敏男氏は指摘する。たとえばルーブ ル美術館は 92 年に、ベルサイユ美術館は 95 年に美術館の運営の一切をとりしきる

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第 6 章 結論

公共美術館の価値に関する研究

「公共企業体」を設置した。いわば業務の「外部委託」といえるが、美術館長が企業 体の理事長を兼ねることで、美の殿堂としての伝統と、民間の力による合理性を両 立させようとしている。美術館側から外へ直接足を運ぶことも必要だ。企画展の企 画事体が美術館独自の売りとして重要であるので、誇れるように充実させ、広く宣 伝していくことが不可欠である。 マネジメントの視点からも、美術館に限らず運営が行き詰まっている公共サービス は経営感覚がある民間にシフトしていくという方向性も十分考えられる。 折しも、東京都現代美術館の新館長にアサヒビール名誉会長の樋口廣太郎氏が任命 された。その手腕に期待したい。

5. 私の美術館 - パーソナライゼーション オーナーの鵜飼貞男社長は、 「サービス業の目で見ると今の美術館のありようは信じ がたい」と、 「河口湖オルゴールの森」は、開館後まもなく施設の名称から「美術館」 という言葉を取り払った。閉ざされたイメージだからというのが理由だそうだ。河 口湖オルゴールの森には 1999 年 10 月の 3 連休中、8,200 人の来館者があった。そ の運営は 1998 年度、約 80 万人が訪れた箱根ガラスの森のノウハウを受け継いでい る。 “私の美術館”という意識を持った女性客は、次は恋人と、その次は家族と一緒 に何度も来てくれると鵜飼社長は明かしている。 米国ではここ数年、こうした美術館の「パーソナライゼーション(自分化)」の研究 が進んでいるという。美術館の大小を問わず、米国では来館者の教育レベルや年収 までも調査し、サービス向上にしのぎを削る。オルゴールの森の試みは、はからず も日本の美術関係者の意識の遅れを浮き彫りにしている。 このような「私の美術館」とも呼べる美術館がもっと増えて、周辺住民を取り組む 努力をすべきであろう。私設も含め東京都内には 242 館もの美術館がある。多いと 思われがちであるが、人々の価値の多様化が進むと、小規模なもので図書館のよう に気軽に行けて心落ち着く空間をもったもの、あるいは逆に専門性をもったもので 学びに行きたくなる場所等、特徴のある美術館が増えないといけないのではないだ ろうか。計画段階において、もっと利用者の声を反映させるべきであって地域の美 術館を育てていくという考えが重要である。

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おわりに 謝  辞


おわりに

「建築はこれからは FM の時代だよ」  5 年前、銀行在勤中に建築業界への転職を希望し ていた私に、銀行の中で行えるFMという建築的な業務があることを教えて下さったの は元株式会社安井建築設計事務所の松原伸介さん。 「建築は君の夢を叶えられる仕事の一つだよ」  同じ頃、 銀行の仕事に悩んで退職を考え ていた私を救って下さったのが大阪市立美術館の蓑豊館長。 友人である安藤忠雄氏の話 などして下さり、中学時代から持っていた建築への夢がふくらんでいった。 「建築って面白いらしいね、 頑張って」  私が銀行を退職するという知らせを社員から聞 いて、取引先の株式会社藤田商店副社長の藤田完氏 (日本マクドナルド社長藤田田氏の 息子さん)がはなむけに下さった言葉。 早稲田大学理工学部建築学科に学士入学して、5年間学び修士論文を書けるようになっ た今、思い出すのは、お世話になった方々の暖かい言葉です。 卒業論文ではレジャー施設の複合利用のされ方から FM を捉えようとしました。 3年経ったいまもFMの全容を把握するには到っていませんが、 「建築の使い方・使われ 方」の事だと勝手に定義しています。 「一体、建築の価値って何だろう?」という疑問 が本研究を始めるそもそものきっかけとなりました。 「建築の価値」を今の私が論じるのは、例え一部の建築に対してであっても、ある意図 のもとに多くの人々の努力の結果、形となって生まれた建築に対して、失礼なことのよ うに思います。しかしながら、この論文で提唱した価値の評価手法が東京都の公共美術 館だけにとどまらず、 全国の美術館はたまた美術館の枠を超えて全国の公共建築にも適 応されてグローバル・スタンダード的なマネジメントの指標となることを願います。


謝 辞

学部時代から4年間お世話になり、修士研究を進めるにあたり適切なご指導・ご鞭撻を いただいた早稲田大学理工学部建築学科渡辺仁史教授に深く感謝申し上げます。 毎週のゼミの中で個人的に時間をかけてアドバイスいただいた理工学総合研究センター 中村良三客員研究員に厚く御礼申し上げます。 帰国中のお忙しい時間を割いてご指導下さった、カナダ・ラバール大学中島高史教授に 心より感謝致します。 卒業論文の面倒をみていただき、 本研究の当初からも適格なアドバイスをして下さった 理工学総合研究センター山口有次客員研究員、本当にありがとうございました。 鎌倉女子大学短期大学部川口和英助教授、武蔵野女子大学短期大学部林田和人助教授、 日頃からゼミでお世話になっている理工学総合研究センター助手木村謙さん、 複合領域 助手山久瀬健さん、 建築学科助手長澤夏子さんを始め調査を手伝って下さった研究室の 皆様に厚く御礼申し上げます。高柳英明さん、今井志帆さん、葛島知佳君、丹羽洋一君、 松本深君を始め 9 階プロジェクト室の皆様、大変お世話になりました。 美術館の価値評価について、ご自身の研究と重なるにも関わらずご協力して下さった、 建設省建築研究所第二研究部有川智先生、ありがとうございました。 株式会社竹中工務店FM 推進本部山口潤二本部長、島貫専門役、研究の初期に評価より も価値を見い出す方が大切であるとおっしゃって下さった広松猛さん、今井祐輔さん、 大変お世話になりました。 大阪市立美術館蓑豊館長、松原伸介さん、あらためて御礼申し上げます。 各種資料の提供や調査にご協力して下さった東京都財務局営繕部建築一課松村進さん、 東京都生活文化局コミュニティ文化部坂本孝男さん、 東京都財務局営繕部コスト管理室 山本康友さん、古川智康さん、東京都美術館管理課谷貝秀子さん、東京都庭園美術館管 理課石井英正さん、江戸東京博物館管理課小林久司さん、奈良部浩武さん、東京都現代 美術館管理課渡辺聡さん、東京都写真美術館管理課高野幸雄さん、世田谷区建設・住宅 部施設保全課門脇博さん、他各施設・団体の関係者の皆様に謝意を表します。 ここに書ききれませんでしたが、支えて下さった多くの皆様ありがとうございました。 最後に、物心両面で支えてくれた家族に深く感謝します。

2001 年 2 月 5 日 織田 直憲


参考文献 参考資料


公共美術館の価値に関する研究

参考文献

参考文献 「建築批評講座」 、日経アーキテクチュア編、日経 BP 社、1996 「建築設計のクオリティマネジメント」 、建築設計 QM 研究会編、日本規格協会、1997 「都心の美術館 旅先の美術館」 、光文社、1999 「社会アセスメント」 、三菱総合研究所、東洋経済新報社、1999 「環境評価と環境会計」 、栗山浩一、日本評論社、2000 「ミュージアム国富論」 、塚原正彦+デヴィッド・アンダーソン、日本地域社会研究所、2000 「美術手帖」1998/5 月号、美術出版社 「日経アーキテクチュア」2000/1/10 号・2000/6/26 号・2000/12/25 号、日経 BP 社 「簿記の理論と実際」 、安平昭二、第三出版、1990 「東京都における公共建築コストについて」 、東京都公共建築コスト検討委員会、東京都、1996 「社会資本整備に係る費用対効果分析に関する統一的運用指針」 、建設省、1998 「東京都建築コスト管理 '98 実施計画」 、東京都財務局、東京都、1998 「公共建築トータルコスト管理指針」 、世田谷区、1998 「財政再建推進プラン」 、東京都、1999 「事業実績報告及び収支決算書」 、財団法人東京都歴史文化財団 「東京都美術館年報」 、財団法人東京都生涯学習文化財団 「東京都現代美術館年報」 、財団法人東京都生涯学習文化財団 「超高層マンションからの眺望価値に関する研究」 、閑野高広、横内憲久、桜井慎一、日本建 築学会大会学術講演梗概集、1997 「札幌市における歴史的建物の変化と歴史的環境の整備に関する研究 - その 2-」、小林靖樹、 野口孝博、森下満、日本建築学会大会学術講演梗概集、1997 「集合住宅におけるライフサイクル価値(LCV)の提案」 、広松猛、日本建築学会大会学術講 演梗概集、1999 「日本における美術館施設の現状 -美術館施設の維持保全に関する研究 その1-」 、有川智、 工藤勝仁、三橋博三、日本建築学会大会学術講演梗概集、1999 「美術館施設における維持保全の諸問題 - 美術館施設の維持保全に関する研究 その 2-」 、工 藤勝仁、有川智、三橋博三、日本建築学会大会学術講演梗概集、1999 「仮想価値評価法による公立美術館施設の評価 - 美術館施設の維持保全に関する研究 その 3-」 、有川智、工藤勝仁、三橋博三、日本建築学会大会学術講演梗概集、2000

早稲田大学渡辺仁史研究室 2000 年度修士論文 Master Thesis 2000, Hitoshi WATANABE Lab., Waseda University


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「日本のミュージアムの変革は内部の意識改革から人を集めるための工夫と努力が必要」 大阪市立美術館館長 蓑豊 (2000.9 月刊レジャー産業)

 いまのミュージアムというのはどこかマンネリ化しているところがあって、どこへ行ってもあまり変  化がないですね。 −特色を出すためにはどうすればよいですか?   その地域で特色ある美術館をつくろうという、精神がまずなければならないでしょうね。建物や   ディスプレイにいくら特色をもたせたところで、 そこに精神がなければうまくいくはずがないですね。  小学生、中学生からはじまってまず地元の人にわかりやすく伝えていこうという姿勢からはじめなけ  ればならないでしょう。  それと美術館でいえば、名品を集めようとすることばかりになってしまうことが問題です。印象派だ  からといってモネからルノアールまでなんでも集めようとする発想は必要ないわけです。たとえ一点  でもいいから、これはという作品をもつこともひとつの特徴づくりだと思いますし、地域のなかで生  きていこうという心があれば、もっと変わるのではないかと思います。   仮にセザンヌの絵を購入したとしたら、単にセザンヌの絵があることが価値なのではなく、たとえ  ばセザンヌの生まれ育ったプロバンスと姉妹都市契約を結ぶとか、100年くらいかけてもいいからセ  ザンヌとその地元との関係をつくっていくといったことを行ってはじめて価値が出てくるのです。 そ  ういう関係をつくっていけば、それが地域の価値にもなっていくはずです。 −それでこそ地域のミュージアムという意味が出てくるのですね   人を集める努力をして、文化を発信していくことでそのまちの活性化に役立っていくということで  すね。ただ、展示をしているだけでは人は来ません。人を呼べるような企画と努力をしていかなけれ  ばなりません。ミレーを購入したのなら、それに合わせてミレー祭をやるとか、そういうまちづくり  の発想で取り組んでいけば、市民にも理解され、人も集まってくるようになります。 −日本のミュージアムの問題はどんなところにあるのでしょう   日本の場合、コレクションに比べると建物が大きすぎるのです。身の丈に合ったものでいいのです  よ。私の長く務めていたシカゴ美術館でも16回増築を重ねていまの大きさになっているわけですし、  メトロポリタン美術館もそうです。最初から、物もないのに建物ばかり大きなものをつくる傾向があ  るのが一番の問題ですね。   100 億円の予算が合ったら 100 億円の建物を建ててしまうでしょう。半分の 50 億の建物でいいで  すから、あとの 50 億を運営で使えるような仕組みができていけば、日本の美術館は変わるでしょう

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 ね。そういう予算の使い方ができない日本のシステムは問題があります。 −社会のなかでのこれからのミュージアムの役割は大切だと思いますか?   たしかに立派な美術館が日本各地にありますが、外国に比べると、子どもたちで賑わっているとい  う光景を見ることは少ないですね。そこには、やはり何か問題があるわけでして、これはいまの日本  の教育制度とも関係してくるのですが、それだけの余裕がないわけですね。感受性の強い若いうちか  ら本物に触れるというのはとても大切なことなのです。今回、私ども市立美術館でフェルメール展を  やりましたが、非常にたくさんの人が来られて本物に触れることができた。これは本当に貴重な体験  です。そういう機会が日本では少ないのです。受験一辺倒で子どもにそういう大事な時間をつくって  あげないからです。人は千差万別で個性のある存在ですから、たとえ勉強はできなくても美的感覚に  優れているという子もいる。その子にはそういう道を選べる選択肢をもっと与えてあげないといけま  せん。美術館はそういう意味でもこれから大事な存在であると思いますし、そういう子どもたちに   もっと美術館を利用してもらいたいですね。それには、美術館の中の人間がそういう感覚、意識をも  たなければなりません。   現在の美術館は、雰囲気が閉鎖的で行きにくいところがありますが、まずそれを払拭することです  し、そのためにはやはりスタッフの意識から変わっていかないといけない。美術館は、子どもたちだ  けでなくあらゆる世代に対して豊かな創造性を育むという使命を担っているわけですから。   また、いい作品をいいセンスで見せるという工夫も必要ですし、わかりやすく解説していく姿勢も  必要でしょう。ただ、こういういい作品なのだから見なさいと押し付けるようなことがあってはだめ  です。見た人に自分で考える機会を提供するということですね。引き出すことは大事ですけど押し付  けることはよくない。そういうことでお客さんのほうが逃げていってしまいます。 −いまは見てもらうためのセンスが欠如しているといえますか?   作品によって展示が違っていて当然でしょうね。それも学芸員の仕事です。日本では業者に任せて  しまうところがありますが、それは問題ですね。だからどこに行っても同じような展示になってしま  うのです。やはりその美術館で特徴のあるディスプレイをしていくべきでしょう。   ハードは立派なものがあるのですから、あとはやはりソフトです。お客さんと対話ができる美術館  にしていかないといけない。いまはあまりにも市民と美術館の距離がかけ離れていますから。それが  地元を大切にするということにつながっていく。だから、まず意識改革ですね。 −かなり時間のかかる問題ですね   でも、自分の夢をしっかりもてば、それは必ず実現します。問題なのは夢がないということです。  自分の研究さえしていればいいという態度が問題ですよ。 −資金調達をどうしていくかということも、独立行政法人法とも絡んで課題でしょうね。

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  企画展でも美術館のあり方でもそうですが、そこでもやはり企業の方々に自分の夢を理解してもら  うという努力が必要です。ただ企業に行ってお願いするというだけではどうしようもないです。自分  でどのような展覧会をやりたいと思っているのかその確たる意義をもって、それにはどの企業にお願  いするのが適切なのかといったことまで理解していなければなりません。ひとつひとつ企画も意図も  違うはずですから、それに合った企業を選び説得できるだけのものをもっていなければだめですよ。 −アメリカではそれが普通なのですね   そうです。各館とも何らかの形で運営費を集めてこなければならないわけです。  ミュージアムショップやレストランの売上げ、個人や企業の寄付といったことですね。そのうえで各  学芸員が、自分の展覧会のための資金を調達するわけです。そうやって、それぞれが展覧会などのた  めの資金を集めてくる。それが学芸員の仕事でもあるわけです。日本もそういう時代になっていくで  しょうね。いつまでも国の資金に頼っているわけにはいかないでしょうから。その第一条件として、  まず税制を変えないといけませんね。企業がそれだけの資金を提供するのであれば、それだけの優遇  措置も考慮すべきでしょう。企業にとっては出しにくい環境になっているわけですからね。 −プロデューサー能力が問われ