和風ゼミ_日本酒

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和風ゼミ前編 ものから考える和風の仕組み

東京都市大学工学部建築学科 福島研究室 吉川 瑞樹




「和風なものってなんだろう?」 「日本的なもの?」 「その理由って。」 「誰が和風を作ったのか。」 「いつ和の認識になったのか。」 「そもそも和って何。」 「和があるなら洋も調べなくちゃ。」 「言葉をダイヤグラム化。」 「章を区切るページをデザインしよう。」 「ブックデザインも含めてまとまったかなと。」 「戦国武将。兜。日本刀。」 「本質が浮かび上がる。」 「似たようなものが多くないか?」 「和の形が変化したな。」 「透明な接着剤みたい。」 「でもないと物足りない。」 「わざとらしいけどわざとらしくない。」

という

本 をつくりました。


はじめに

この本は「和風」という抽象概 念を 500 円以下の私が「和風」だ と思うものを元にリサーチ・推論 を繰り返した思考の軌跡である。

前編で行ったのは、なぜ「和風」 に感じたかを主観・客観どちらの 視点からも考え「〜風」に見せて いる仕掛けあるいは構造は何かを 探る。その過程と手法を示した。 テーマのもの自体のリサーチから 始まり、なんらかの法則を仮定し 検証し多角的な視点で探っていっ た。言葉の概念の定義や対立概念・ 類似概念のダイヤグラム化によっ て意図的に言葉を具象化し推論の 手助けをした。

リサーチ繰り返すことで私なり の「和風」の構造を考えた。前編 では建築にどのように転用できる かの思考まで触れている。

四年前期の和風ゼミの内容を通 してものの構造を捉え、建築に転 用していくための手法を探す仮定 を描いた試論である。

はじめに | 5



目次 一章 日本酒 − 500 円以内の和風な物

二章 多様性と本質 −表面と内面に見出す和風への手がかり

三章 「和風」と「洋風」 −言葉の由来から定義を探す

四章 透明であり不透明 −和風における「透明感」とは

五章 作為と無作為 −戦国武将に見つける「相半共存」

六章 建築と二面性 −「相半共存」のルールと建築を結びつけてみる

七章 ここまでのまとめ −四年前期の「和風」のまとめ

目次 | 7


500 円以内の

和風 なもの

8 | 日本酒


日本酒 | 9


選定理由

数々のお酒がある中で英語に 直しても 『 S A K E 』 と称 される我が国のお酒だから。

原料は『 米 』 のみながら数 多くの類が存在しその複雑さ に惹かれたから。

世界中のどこにでもある酒。

日本酒をとおすことで、当た り前のように存在する世界の

『基本要素』を探っていく きっかけになると思ったから。

10 | 日本酒


日本酒の作り方

日本酒の違い

日本酒 | 11


多様 本

12 | 多様性と本質


様性 質

多様性と本質 | 13


15706

「今の流行りの日本酒は?」

■1位 獺祭 純米大吟醸 磨き三割九分 「酔うため、売るための酒ではなく、味わう酒を求めて」 今、一番売れている日本酒。クオリティーが高く、コスパ

■6位 澪 ( みお ) /スパークリング 「日本酒の次世代、変わり種」 普段、日本酒をあまり飲まない女性や若者をターゲットにつく

が高いのが特徴。一度は飲んだほうがいいらしい。

られた変わり種の日本酒。アルコール度数も5%と低め。

・一升 5445 円

・750ml 1239 円

■2位 久保田 ( くぼた ) /碧寿 純米大吟醸 「すっきりとした、淡麗辛口の味わい」 日本の酒好きの間では王者扱いされているらしい。

■7位 八海山 ( はっかいさん ) /純米吟醸 「食卓に並ぶ日本酒をより高品質なものにしたい」 地酒ブームを起こしたパイオニア的存在の日本酒。淡麗で辛口

喉越しが軽やかな純米大吟醸。

でありながら口当たりは軽く飲みやすいのが特徴。

・一升 6480 円

・一升 3914 円

■3位 白瀑 ( しらたき ) /山本 亀の尾 「新酒の爽やかさを年間通じて維持する」

■8位 新政 ( あらまさ ) /ヴィリジアンラベル 「日本最古の部類に入る6號酵母発祥の蔵元」

をスローガンに、杜氏の山本氏は夏は農家、冬は醸造家と

現状の日本酒はほとんどが「速醸酒母」という製法を元につく

いう二面性をもち斬新な日本酒を生み出す鬼才と言われて

られているが、伝統的な製法で作り続けることで技術継承と価

いる。

値の再認識を広めるために啓蒙的に作っている。

・一升 3198 円

・720ml 4280 円

■4位 十四代 ( じゅうよんだい )/ 本丸秘伝玉返し 「旨口の日本酒」

■9位 飛露喜 ( ひろき ) /純米大吟醸 「濃密で透明感のある、存在感を持った日本酒」

今の時代の幻の酒。醸造酒は甘口でベタつきやすいらしいが

今の時代の最も手に入りにくい幻の酒。食中酒としては、お酒

このお酒はその固定概念をリセットしてくれるような味がす

の風味が勝ってしまうことから向いてはいないが、逆にどんな

すらしい。

時でも主役になることのできる日本酒。

・一升 25590 円

・720ml 7200 円

■5位 黒龍 ( こくりゅう ) /逸品

■10位 醸し人九平次 ( かもしびとくへいじ )/

「黒龍に惚れて入ってきた蔵人が快適に酒造りに専念できる こと」をテーマに運営されている。

純米大吟醸 山田錦 50% 「日本酒は、もっともっと楽しくなれる。」

普通酒でありながら、フワッと広がり、辛口でしめるという

日本酒では忌み嫌われる酸と向き合うことで、今までにない新

特徴をもった日本酒。

しい日本酒になっている。海外でもっとも注目を浴びている日

・一升 1890 円

本酒。今美味しい日本酒の形を表現しているらしい。 ・一升 4191 円

14 | 多様性

3位

山本合名会社

8位

新政酒造株式会社


水 米 = 多様性 限 り な く 他 の 要 素 を な く し てい る 。 製造の 手 間 や 技 術 の 過 程 さ え も 一 切 感じ さ せ な い 。

米の形を変化させることで

本質を変化 さ せ る 。 変 化 を 水 の よ う な 状 態 に す る こと で 変化した形状は透明な存在となり

本質を際立たせる役 に な る 。 不 要 な 要 素 を 意図的に消し 引き出 し た い 要素を浮き彫り に す る 。

本質が浮き彫りになるために微細な違いを 明確に 施 す こ と で 、 多様性 を 出 し て い る 。

本質 | 15


日本酒 はなぜ

和風?

16 | 「和風」と「洋風」


言葉 の3 定義 そもそも

和って?

「和風」と「洋風」 | 17


言葉の定義「和」

『和』 言葉の変遷

「 倭 」 は 元 々「 我 ら 」 を 意 味 す る

・日本のことを倭と

古代日本語。中国での意味が小さ

称していたものが変

い、背の低いを表していたので「大

化した。

倭」になり、「大和」になった。

その結果、 「 倭」という文字は、 「 和」

・文字だけが変化し、

という文字に変わった。その変化

本来の意味は残っ

の時に意味は残り、「私たちの〜」

た。

という意味がある。

『和』

外国からきたものだが日本に取り

・平仮名

込まれ、日本国内で熟成された結

・木の鳥居

物の変遷

果、他国にはない日本独自の文化

・畳

になったもの。

外国 「和に進化」

18 | 「和」


『和風』

外国の文化を取り入れているが、

・日本酒

その「構成要素」か「形」を日本

・RC の鳥居

の物に置き換えている物。

・和風∼

多様

一様

多様

「表層の和」

多様な素材

「和の直喩」

「本質の和」 「和風」 | 19


言葉の定義「洋」 『洋』

洋食や洋服などの「洋」とは「東洋」 「 西 洋 」 の 省 略 で は な く、 も と も と「洋」。中国語が語源で単に海外・

・本来は中国が自 国以外の国を呼ん だ海外一般のこと。

外国という意味があった。

その後、清朝中期に海外一般から、

・洋の対象区分が

中 国 界 の 外 の 遠 い 海 外( つ ま り

特定の地域をさす

ヨーロッパ)の意味になった。

うに変化した。

近代では「洋」はヨーロッパを意

・中国の言葉が日

味 す る よ う に な っ た。 そ の「 洋 」

本に伝わることで、

が江戸時代に日本語に入った。こ

概念も一緒に入っ

の時に、日本には「洋」とはヨー

て き た。 そ の 対 立

ロッパの物という概念が生まれ

概念が「和」。

た。

西洋 「特定化」

20 | 「洋」


『洋風』

西洋の文化で、日本に入ってきた

素材を複雑に加工

も の を 言 う。 西 洋 建 築 な ど に 見

する。

られる凝ったデザインなど素材を

→ブイヨン

様々な手段で加工を施す。

フランス料理

多様

多様

多様

多様な素材 「洋の直喩」 「重ねの洋」

本質の喪失

「洋風」 | 21


「和」と「和 風」 和風とは、和と和風を比較してみると、〜風と言う言葉があるようにそのものの全て(形や 構成要素)が入れ替わったものではなく、その一部が和のものに置き換えられているもののこ とを言うのではないか。つまり和風とはそのものの本質を見えなくさせるものなのではないだ ろうか。

50%

40%

30%

20%

10%

「洋」と「洋 風」 洋風とは、結果的に西洋風の物の意味が強く、その特徴はシンプルな物を加工を重ねてより複 雑な物へと置き換えているもの。(例:オーダーの柱)機能論では語ることのできない価値を付 加しているような一面もある。つまり洋風とは、素材を複雑に加工し人の手で価値を付加しよ うとしている。加工者の本質を写しているものではないだろうか。

50%

22 | 「和風」と「洋風」

60%

70%

80%

90%


「和風」と「洋風」 和風と洋風を比較してみると、その性質の違いは明らかになった。

洋風とは、様々な手法や工程を踏むことにより完成されたものは、より複雑で多様なものになる。 製作者の痕跡がはっきりと残りやすく、素材の良し悪しはほぼ関係ない。

和風とは、様々な手法や工程を踏むまでは同じだが、完成されたものは洗練されて一様なもの になる。製作者の痕跡すらも見えなくなる。素材の良さを最大限引き出しつつ調和させる。

つまり「和風」とは「透明感」なのではないかという仮説を立てる。以降は「和風」と「透 明感」に焦点を当てて、日本酒を和風に見立てている構造を探る。

しかし「透明」ということだけで言い切ってしまうにはまだ不確定な要素が多い。そのもの全 てが透明になったのではなく 「透明になったもの」 もあるし 「不透明で残っ

たもの」 もひとつの中に要素として存在している。

「透明であり不透明」の相反する概念が両立しているのが和風なのではないかとい う仮説に変化した。

「和風」と「洋風」 | 23


和風=透明感?

24 | 「和風」


和


透明であり不透明 和風における

透 明 感 とは? 透明であり不透明 和風における

透 明 感 とは?

26 | 透明であり不透明


唐風 と4 和風 比較によって 導く

透明感

透明であり不透明 | 27


「唐 風」と「 和風」 表層の透明感について探ることで、風を比較する。見た目の違いに変化が現れているか探る。

唐風

和風

比較してみて ・同じような場所の石段だが手すり の加工具合が違う。そもそも日本に

階段

は手すりがない。しかし唐風の石段 には手すりが付き、オーダーの柱の ように細部までこだわった作り。

・どちらも庭園の中にあるがその設 え方が全く違う。唐風では橋の上に 亭

のせそのものが強く象徴されてい る。対して和風は建築が主張しすぎ ず、自然の中に溶け込んでいる。 ・唐風は縦に長く扉から内部の様子 が伺うことができない。石、鉄。

対して和風は格子の扉で内部の様子 が少し見える。何かを許容している ようなしつらえ。土、木。 ・唐風は六角形の等が多く中には円 の塔もあった。より丸へ近づくデザ

インが多い。和風は四角の塔はほと んどで、唐風に比べて内部の大きさ が狭い。細くて屋根が広い。

・唐風は屋根のそりが必要以上にあ る。そこに象徴性を感じる。加えて 寺

屋根が湾曲している。和風になると 無駄な装飾やデザインはなくなり機 能のみが残っている。 ・唐風は低く横に広く基壇の幅も広 い。基壇の石は加工されたものを使

い、権力の象徴。和風の城は石垣が 高く敵から身を守る機能が主張して いる。線対称と非線対称。

28 | 「唐風」と「和風」


表の分析より

「和風」 とは 「唐風」 のものを 洗練 させたものである。 特に機能面において、洗練を施すことで(必要ない部分を透明にすることで)それ以外を引き 立たせている。

しかし城のような象徴的で洗練とは 違う要素 も出現した。

「和風」の要素 1、機能面において洗練を施した、表面的には 無作為 なもの 2、城のように、意思を持って表面的に 作為 を示したもの

要素の解釈による仮説 1、「和」の直喩によって、 本質が「和」 のものになっているもの。→ 無作為 なもの 2、「和」の直喩によって、 表面が「和」 のものになっているもの。→ 作為 なもの 「唐風」と「和風」 | 29


透明

不透明

無作為

作為

抽象

具象

30 | 作為と無作為


相半する 2つの 概 念 の共存へ

作為と無作為 | 31


5

32 | 作為と無作為


5

作為と無作為 | 33


作 為 的 34 | 作為と無作為

伊達政宗

真田幸村

相半 織田信長

武田信玄


微 細 半共存 存

燭台切光忠

妖刀村正

来国長

銘長光

無 作 為 的 作為と無作為 | 35


戦国武将における「作為的」と「無作為的」 兜と刀の相半共存のルールを探るために、作為と無作為の基準をあきらかする。 多視点で客観的に評価することで、目に見えないルールを探す。

作為的

無作為的 な 日本刀

「個人的」

「洗練」

「要素」

「過程」

が主張される

で生まれるもの

□兜と日本刀を多視点で評価する。 もの

×

機能性

象徴性

×

個性の出しやすさ

×

洗練度

×

機能美

×

様式美

×

評価視点

「形」の装飾性

戦で生き残るために、一定の「型」 (様式) 人を切る。その機能にのみ洗練させた結果 が生まれた。そのベースを装飾的変化で、

刃に模様が生まれた。模様は、完全には

各軍の個性を出している。作為を持って

コントロールできず無作為。

変えている。

36 | 作為と無作為


→ 「二 面 性 」 の発見 客観的に加え主観的な要素で評価した結果、その評価はほとんどが真逆の結果になった。

共通のルールは戦国武将としての様式の「生きるため」というルールがある。 しかし、それは戦国武将としての型であり相半共存のルールではない。

むしろ、ルールがないことがルールであるかのように、その 「二面性」 が存在することが 和風なのではないだろうか。

戦 国 武 将 に お け る「二面性」 1 、「作為」「無作為」によ る 相半共存 2、表層の違いの多種性に よ る 微細共存 この 2 つ の 概 念 が 共存する こ と で 「 和風 」 に 見 え る 。

作為と無作為 | 37


二つの概念 二 面 性 和風?

ふたつの概念を 同時共存させる 二面性を作ると

38 | 建築と二面性


現 代 建 日本古建築 築 建築と二面性 | 39


和 風 と感 じ る 日 本古建築の二面性 → 「 内部 空 間 的 機能」と「外部空間的機能」

戦国武将の分析から発見した、二面性を和風と感じる建築要素に当てはめ、建築に転用可能か さぐる。その後、現代建築にどのように転用できるか探る。

内部空間的機能

外部空間的機能

廊下・内部の部屋の延長

農作業のための場所

縁側

庭と内部との堺

+ 軒下 移動・内部空間の拡大

たまり場・外部空間の拡大

内部との境界 外部の内部貫入

借景 の 窓 室内環境の向上(換気)

40 | 建築と二面性

季節を切り取る窓


「時間」 による機能の使い分け。 各機能空間が 時間軸 によって使い分けられることで、 相半する要素の 境界を曖昧 にしている。 その日1日の時間軸や 1 年を通した季節の時間軸など、

様々な要素によって変化することができる。 その 空間の曖昧さ によって二面性が成り立つ。

現代建築に転用可能か? ↓ 時間軸の喪失によりそのままは不可能。 新たな二面性により実現しているか探る。

建築と二面性 | 41


現 代 建 築 に お け る建築の二面性 → 「 形 態 的 ( 静 的)」と「機能的(動的)」

形態的(静的)

機能的(動的)

ヴィトラハウス

カーサ・ダ・ムジカ

ヘルツォーク&ド・ムーロン

OMA/ レム・クールハース

形の原理・組み合わせのパターン

動線の機能化・周辺のコンテクストによる形態と配置

複雑な平面

グリットによるシンプルな平面

アート的な一面

ディテールの緻密さによる内部空間のシーン変化

□日本にある現代建築でこの二面性を持った建築は? ヘルツォークやレムの 多摩美術大学図書館 伊東豊雄

42 | 建築と二面性

それぞれの特徴を 合わせ持っている。 同時に存在している。


「形態」 のストラクチャー化 によって1つの建築空間として共存する。

時間軸の喪失によって、

内 部 空 間 の 空 間 主 義の 考 え 方 に 建 築 が 変 わ っ て き た 。

「形態」 と 「機能」 の 現代建築において、 相 反 す る 二つ の 要 素 を 共 存 さ せ る 方 法 と は

形の原理が建築を支える構造になり、

空 間 の 骨 格 と し て 存在 す る こ と で 二 面 性 が 共 存 す る 。

建築と二面性 | 43


「和風」の本質とは 相 反 す る 2 つ の 要 素 の 境 界を ある1つの手法によって曖昧にし、 共存(統合)させていること。

44 | ここまでのまとめ


「和風」に感じるものとは 共存 ( 統 合 ) さ れ て 一 様 に な っ たも の が 、 微細な変化によって多様になっているもの。

ここまでのまとめ | 45


和風ゼミ前編 - ものから考える和風の仕組み 発行日 2017 年 9 月 14 日 構 成 吉川瑞樹 編 集 吉川瑞樹 制 作 吉川瑞樹 指導教授 福島加津也 教授 発行所 東京都市大学 工学部 建築学科 福島加津也研究室




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