和風ゼミ_麹

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和風ゼミ

東京都市大学工学部建築学科 福島研究室 吉田菜々子


東洋にのみ存在する有用微生物 麹そのものを食することはないが、古くから清酒、味噌、醤油、鰹節などの 発酵製造に利用され、日本人の食生活には欠かすことのできない存在 2006年、日本醸造学会は麹菌を「我々の先代が古来大切に育み、使っ てきた貴重な財産」であるとして、「国菌」に認定

微生物は「呼吸」も「発酵」もする 自分の 周りに空気があるとき(好気的条件下)…「呼吸」 空気がないとき(嫌気的条件下)…「発酵」

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日本酒 焼酎

麹菌

味噌 米麹 発酵

大豆

醤油

豆麹 みりん

麦麹 酢 漬物 鰹節

etc...

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発酵

微生物の働きによって、分解・変化させて、 人間の体にとって「有益なもの」を作り出すこと

味噌・醤油・酒

麹菌

チーズ・ヨーグルト

乳酸菌

牛乳

納豆

納豆菌

大豆

酵母菌

パンの

EM

生ゴ

パン

有機肥料

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抗 酸 化 ︵ 発 酵 ︶

新品に近い状態

抗酸化物質

サビにくい

抗酸化物質

米・麦

コンクリー

金属


麦・大豆

腐敗

微生物の働きによって、分解・変化させることで毒素を生み、 人間の体にとって「有害なもの」を作り出すこと

腐敗菌

悪臭

腐敗菌

悪臭

腐敗菌

悪臭

酸 化 ︵ 腐 敗 ︶

の生地

腐敗菌

ゴミ

腐敗菌

悪臭

酸化物質

劣化

酸化物質

サビ

ートセメント

悪臭

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発酵微生物の分類

発酵微生物

細菌 (1μm 以下 )

乳酸菌、酢酸菌、納豆菌 etc

酵母 (5~10μm)

アルコール発酵 ( ワイン、パン、

カビ (4~8μm)

麹カビ

青カビ

白カビ

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、ビール etc)

黄麹菌

米麹

米味噌、日本酒、みりん、酢、甘酒

白麹菌

麦麹

麦味噌、焼酎

黒麹菌

豆麹

豆味噌

紅麹菌

カツオブシ菌

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麹菌の種類

黄麹菌 主に「味噌」「醤油」「清酒」の製造に用いられる。 胞子の色は黄、黄緑、黄褐色。

黒麹菌 主に「泡盛」の製造に用いられる。 胞子の色は黒褐色。

カツオブシ菌 鰹節の製造に用いられる。 鰹節内部に残った水分の吸収や、旨味成分の生成、 油脂成分の分散効果を持つ。

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白麹菌 主に「焼酎」の製造に用いられる。 胞子の色は褐色。

紅麹菌 「豆腐よう」「紅酒」「老酒」の製造に用いられる。 鮮やかな紅色をした麹をつくる。

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黄麹菌の菌おこし

稲穂に麹菌が良い状態でつくと、 黒い菌の塊ができる(稲麹)

蒸した米に木炭を振るう →アルカリ性に傾き他の菌の働き が抑えられ、黄麹菌のみ起こす

温度が上がり、白い菌が確認できる ようになり、匂いも発生する 10


ここに稲麹を加え、よく混ぜた後 タオルをかけて寝かせる

4~5 日後、黄色から黄土色に変化

完成

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麹の外国との違い

日本で使われる麹

黄麹菌のみを選り分けて繁殖させたバラバラの形状

穀物を蒸してから、その上に麹菌を繁殖させる 穀物(主に米)をそのまま使うことから「ばら(散)麹」と呼ばれる

一度蒸すことで付着していた菌を殺菌し、そこへコウジカビを加えることで 米麹をつくる

コウジカビはタンパク質を分解する力が強く、さらに蒸すことによって 米のタンパク質が変化し、消化されにくくなる

蒸された米にはコウジカビが優先的に繁殖する

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中国などアジア諸国で使われる麹

クモノスカビや毛カビなど様々な微生物が混在

穀物を粉にして練って固めて置いておくことで穀物を繁殖させる 粉体状にするため「餅麹」と呼ばれる

原料の穀物(米や小麦など)を蒸らさずに使うため、収穫の際に付着していた クモノスカビが増えていく

クオノスカビはタンパク質を分解する力が非常に弱い

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外国の発酵菌の使われ方

ある原料を混ぜて発酵させたものからは、一つのものしか作り出せない

麹菌 そら豆

豆板醤

唐辛子

麹菌

甜麺醤 小麦粉

乳酸菌 生乳

チーズ

レンネット

乳酸菌 ヨーグルト 生乳

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日本の発酵菌の使われ方

ある原料を混ぜて発酵させると、多様なものを作り出すことができる

米味噌 醤油 米麹

日本酒

麹菌 みりん 米

黄麹菌 酢

木炭 豆麹

麦味噌 焼酎

麦麹

豆味噌

etc...

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仮説

「和風」とは、多様なものから単一的なものを造りだし、 それが多様なものに変化できることである

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外国

多様

多様

多様

多様

一様

多様

日本

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和・洋・中での食の違い

日本料理

中華料理

フランス料理

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1. 味覚

味の感じ方

しょっぱい 甘い 隠し味

甘じょっぱい

隠し味がメインの味覚を引き立てる (海外では味を隠すことはない)

甘い しょっぱい 隠し味

甘い しょっぱい

しょっぱい

同時に 2 つの味覚を感じない または そのような味付けをしない

海外では一種類の味付けで一つの ものしか造れないが、

しょっぱい 甘い

甘い

日本では細かい味付けの操作で 多様なものを造り出している

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2. 視覚

食事のスタイル

皿の数

細かく料理が分けられ、皿の数が多い 多種類の料理が一度に置かれ、 各料理を少しずつ食べていく

中央に置かれた大皿からとり 分けることで交流を深める

→食材の味を引き出した料理なので、 それぞれの料理の味が混ざらないように

小皿が用意され、各自好みの分だけ取って いくため、皿の数は注文したものの数とほぼ 変わらない(日本ほど小皿の交換をしない)

決められた順に一食ずつ料理が 運ばれてくる

残ったソースや肉汁をバケットやパンで 綺麗に拭って食べるため、ほとんど皿は 変えずに食べることが多い(コースは除く)

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料理の盛り付け

「飾り切り」や「あしらい」が存在

それ自体は料理ではないが、料理を美しく 見せる脇役となる(けん、つま等)

見た目や色に比較的無関心で、口に入れてから評価する 日本語に翻訳できない食感の表現がいくつかあり、「柔らかい」の中にも 崩れるような柔らかさ、若い柔らかさ、クリームのような柔らかさなど、 それぞれの漢字が存在する 日本ほど季節感などは重視していない

「おいしそう」より「美しさ」を重視する

ソースによる皿上のデザインや色彩の調節 がなされる

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3. 触覚

皿の種類

和食器のほとんどは「陶器」( 粘土 ) で作られる

皿を持って食べる文化があるため、独特の質感や温かみが感じられ、 なお且つ、軽さや口触り良さも考えられている

料理によって異なる皿を使い、様々な器の表情を見て楽しむ

中国では「陶器」と「磁器」を使う ( 陶磁器 ) 器を手で持つことを嫌うため、汁気のあるものの時は蓮華をもち、 受け皿として使う

洋食器のほとんどは「磁器」( 陶石と呼ばれる石の粉と粘土を 混ぜたもの ) で作られる

フォークとナイフで食べるのに器が傷つきにくい

セットで統一感のある食器

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4. 嗅覚

料理の並べ方

左から順に味が薄いものを並べ、その順に食べ ていくことで、全ての料理の香りを感じること ができる

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仮説に当てはめる

味噌汁

昆布

煮物料理

しいたけ

出汁

おひたし

カツオブシ

炊き込みご飯

煮干し

大豆

魚介

小麦 麹

まぐろ 醤油

サーモン 寿司

塩 米

たい あじ いくら

麹 種酢

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建築につなげる

無作為なものが集合した日本料理を統合させる “ナニカ (order)”の存在 → あしらい・出汁・麹

アンビギュアスが存在する茶室における order を探る

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妙喜庵待庵

千利休の作とされている二畳の狭小空間 「直心の交」(亭主と客とが直に心を通い合わせる空間) を目指した 露地と茶室が一体化した茶の湯の場が成立

書院へ

三 重 吊 棚

勝手の間

次の間 下地窓

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炉 下 地 窓

茶 道 口 連子窓

躙口


利休の待庵に潜む謎

1. 壺中天効果

2. ブリコラージュ

3. 「目の床」と「体の畳」

4. 書院造りの美を隠す造り

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1. 壺中天効果

「小さな壺の中に狭い入口から入ってみると、 そこには外にも劣らぬ天地が広がっている」

「躙口」による狭い茶室が広く感じられる視覚的効果、 中と外が別世界であることを示す心理的効果

入室の際、狭い枠に体のどこかが引っかからないよう

五感は触覚に収束し、視覚は消え目は自然に閉じる → 人の「身体」が人の「意識」にもたらす一瞬の断絶 意識の空白化

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一般的に考える壺中天

この世とは 別の世界

利休の極小茶室

力、富、欲望などの 充満する都市から断ち切り 離された田園風景

内外関係に変化が起きる

内外が反転し、 力、富、欲望は外へ はじき出される 躙口

力、富、

力、富、

欲望

欲望 田園風景

田園風景

草庵 欲望

仮設的で柔らかいもの

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2. ブリコラージュ

寄せ集めて自分で作る

エンジニアリング

「器用仕事」

土と竹…誰でも使え、どんな形でもやろうと思えばできる

ありあわせの材料

場当たり

古材の再利用

無頓着

粗い仕上げ

粗雑

現場のデザイン

思いつき

できたものは統一感に欠けるのでは…?

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仮設性の奥に隠された微妙な「器用仕事」により アンビギュアスな空間を生み出している 必然的偶然性(=作為的無作為)

ex) 4尺の床、日差しの扱い、素材感 etc...

利休の待庵は “仮設性”と“必然的偶然性” から成っていると言える

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3. 「目の床」と「体の畳」

壁面の高さも構成も、全ては畳を基準として展開 →畳には手をつけないのが暗黙のルール

待庵が正式な4畳半から2畳に縮小する際に残したもの ① 床の間…棚と付書院は捨て、床のみ残した 畳の 3 尺に合わせず 4 尺に広げている →小さい面積が膨らむ感覚 ② 畳 …当時の贅沢品 隅を切り取って炉をはめた

人の視線と身体が喜ぶ部分を最低限残した

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利休は茶室を超えて建築(住まい)の 極小単位を探りたかったのでは?

古代ギリシャ人:原子(アトム) 待庵=実現した建築のアトム

Leonardo da Vinchi (1452~1519)

千利休 (1522~1591)

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4. 書院造りの美を隠す造り

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勾配天井と平らの天井を組み合わ

角、端、終わり、境界

せて空間の広がりを感じさせる

を 消す、見せない、ぼかす

元々外にあった 土壁で仕上げた床の間

田園風景(自然)を

側面と背面の境界がわからない

そのまま取り込んだ結果

奥行き感が消え、掛け軸が浮いて いるように見える ”狭いけど広い”空間 空間に変化をつける腰壁

中と外の境界を曖昧にする 中に点在する要素同士の境界を曖昧にする

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ここまでのまとめ

和食

“甘いのにしょっぱい”etc... 日本人は多様な味を同時に感じることができる

order : 出汁、麹

アンビギュアス(ambiguous)

建築で考える

茶室(待庵)=建築のアトム

“狭いけど広い”etc... →4尺の面取られた床、腰壁、天井、壺中天

order : 空間の終わりを見せない造り

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現代建築に置き換える

アルヴァロ・シザ (ポルトガル)

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食で考え直してみると…

中華料理

フランス料理

和食

味と食感に特化

見た目に特化

味と見た目、両方に特化

一つの料理ずつ独立したもの

ほぼ全ての料理に出汁を使うことで、 それぞれの料理の境界を曖昧にしている 微細な味の変化を感じられるからこそ 全体として統一感のあるものに

和食にも壺中天が存在する

四季・自然 四季・自然

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四季・自然


和風とは

別世界として存在する囲いの中にある多様な要素同士の 境界を曖昧にし、全体として統合されていること

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タイトル

発行日 2017/9/21 著者 吉田菜々子 発行所 東京都市大学福島研究室





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