風水により形成された集落形態と空間特性に関する研究‒ 中国兪源村における風環境と住環境の調査を通して‒

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■ 目次

半透明空間研究

風水により形成された集落形態と空間特性に関する研究 ‒ 中国兪源村における風環境と住環境の調査を通して ‒

1X08A132-1 符 珊珊

1X08A133-4 福井 貴英

第一章 序論

第二章 風水によって形成された集落について

第三章 調査地概要

第四章 調査内容と結果

第五章 風環境と集落形態に関する考察

第七章 立体角量の比率分析による集落の空間構成に関する考察

1-1. 研究目的と背景

2-1. 風水の思想と起源

3-1. 調査対象地と選定理由

4-1. 調査対象住居と選定理由

5-1. 風環境と集落配置

7-1. 中庭空間における開放性と閉鎖性

1-2. 既往研究と位置づけ

2-2. 風水の定義と基本概念

3-2. 兪源村の歴史と文化

4-2. 調査内容

5-2. 風環境と住居形態

7-2. 門前空間からみる集落景観の比較

1-2.1. 半透明空間の定義

天地人一体の原則

3-3. 兪源村の経済と産業

4-3. 調査結果

5-3. 小結

7-2.1. 集落景観の比率分析

1-2.2. 半透明空間を形成する要素

陰陽平衡の原則

3-4. 兪源村の自然環境

4-4. データシート

1-2.3. 半透明空間の性質

五行相生相克の原則

集落と山脈

配置図

第六章 ものの溢れ出しにみる中庭空間と住まい方に関する考察

1-2.4. 既往研究と本研究

2-3. 風水の流派

集落と気象

連続断面図

6-1. 中庭空間の機能的特徴

過去の半透明空間の研究から

形勢派

集落と川

平面図

6-2. 中庭空間におけるものの溢れ出しと風環境の関係

第八章 結論

過去の風水の研究から

理気派

集落と森林

中庭に溢れ出したものプロット

6-2.1. ものの溢れ出し方と風環境の関係

過去の集落の環境に関する研究から

命理派

3-5. 兪源村の住居と住居形態

断面図

6-2.2. 季節による中庭空間の使われ方の比較

参考文献

2-4. 風水と集落

3-6. 兪源村の都市計画

魚眼写真

6-3. 小結

謝辞

3-6.1. 給水・排水計画

アンケート

3-6.2. 保護計画

風速・風向

7-2.2. 視野角内に占める建物壁面の開口率と外部干渉  7-3. 小結

3-6.3. 観光開発

第一章 序論

第四章 調査内容と結果

第五章 風環境と集落形態に関する考察

■ 研究背景と研究目的

■ 調査対象住居と選定理由

■ 風環境からみる集落配置

本論で取り上げる中国兪源村は、風水の思想に基づいて形成された集落であるが、この村は

兪源村の伝統住居は文化的価値が認められて中国全国重点保護単位 51 戸が指定されたが、それらの

600 年という長い年月、大きな自然災害が起こってないと言われており、今でも人が住み続け

中でも星宿派の思想に基づいて形成された集落という視点から見たときに、最も重要であると考えられ

ている。

る 28 星宿の中から現存する 25 戸を対象とする。

■ 風環境からみる住居形態 □ 調査目的

ダイアグラム

本節では、対象集落の配置方法に着目し て、住民達が風環境をいかに生かしている

本研究は、自然に囲まれ、本来なら人が住むことは難しいような場所において、いかに自然 と共存しながら人間が生活できるか、ということに着目した風水の思想に基づいて形成された

集落断面図 A

兪源村を対象として、風環境と住環境の2つの視点から調査を行い、長期にわたって、その特 異な自然環境の中で、人がいかに整合性をとって生活してきたかを明らかにすることを目的と

冬場: 開口を閉じる事による風の流れ方

夏 場 :  壁と屋根による風の流れ方

開口による風の流れ方のアクソメ図

:  壁と屋根による風の流れ方

証明する事を目的としている。今回の調査

住宅形態による、風環境を有効的に利用しているかについて分析と考察を

対象となる集落は、風水で形成された集落

行う。そこで、風水理論は、集落の配置のみ関わらず、集落住宅の向き、配置、

である。具体

住環境について考慮していることを明らかにすることを目的としている。

的には、集落の住宅の配置

□ 選定した住宅の位置と選定理由

12

住宅単位の解析対象として、NO.5,11,20

10 11

の 3 つの住宅を解析した。

13

第二章 風水によって形成された集落について

冬場

□ 調査目的

が風水思想で決められている。

する。

夏場:  開口による風の流れ方

かを、風実測と解析という科学的な数値で

16 25

17 9

■ 風水思想についての研究

14

15

■ 風水によって形成された集落事例

NO.11

・住宅エリア

8

18

・異なる住居形式

□ 分析方法 7

NO.20

6

1950年∼1980年

第三章 調査地概要

NO.5

清明時代

アンケート・ヒアリング、風向・風速の実測データ、およびシミュレーションソフ

・正面の向き

20

1981年∼1999年

5

武義県

21

金華市

トによる解析の三つの結果から分析を行う。

19

■ 調査対象選定

♦中国における武義県

シミュレーションは夏条件と冬条件で二回分けて、解析を行う。

♦武義県における金華市 22

4

23

集落地形レベルで、山、川、道という三つの要素を抽出し、シミュレーションを実行する。

本論文においては、調査対象を中国浙江省武義県の兪源村としました。

2 1 24

兪源村は、古い文化と伝統住居を持ち、歴史的な保護価値があると認められ、2001 年6月 25

◆開口をポイントとして、夏季と冬季の解析を行う。

兪源村を中国において先頭の歴史文化名鎮(村)に選定された。

0

集落断面図 B

■ 調査対象選定理由

成された集落が数多く存在するが、 その多くは風水の八卦派の理念をも とに建物を配置している。兪源村は 風水の思想をもとにつくられた集落 であり、星宿派の思想も取り入れら れている。兪源村は星宿派の七星塘、

集落断面図 C

20

集落配置図

50

100

200m

SCALE

→ 開口と風環境の関係に関する分析

N

1:2000

◆壁と屋根をポイントとして、夏季と冬季の解析を行う。   → 住宅の壁と屋根と風環境の関係に関する分析

■ 調査内容

◆ 集落全体範囲でみた夏場と冬場の風量風速断面分布図(シミュレーション)

調査対象地である中国兪源村について、文献による調査と 2011 年 9 月 3 日から 9 月 10 日におい

集落を含む全体の地表面の風量風速の分布図

て現地調査を行った。調査対象住居の 25 戸すべてにおいて以下の項目について調査を行った。

◆ 集落全体範囲でみた夏場と冬場の風速風向流跡線図(シミュレーション) 古い建築物に当たる風を図化したもの

1)実測調査、各戸平面図・断面図の作成 2)風速・風向計による計測 平面形・断面形からの考察にあたり、実測調査をもと 集落内部における風環境を考察するにあた に各戸についての平面図、及び断面図を作成した。ま り、 風速・風向計を用いた計測を行った。川風、

によって建物配置がなされている中

NO.5

NO.5

平均風速

0.9

最大風速

2.3

最小風速

0

解析結果

と最小風速と集落の風環境の解析を比

2.4

実測データ

B点 GL ± 7400

平均風速

0.8

最大風速

3.2

最小風速

0

解析結果

較する。解析値は、実測点の高さに従

1.6

実測データ

国で唯一の太極星象集落である。

解析結果

D点 GL ± 13500

実測データ 平均風速

1.2

最大風速

3.4

最小風速

0

解析結果 実測データ

A点

3.3

± 6800

兪源村は中国の伝統集落の中で建築物の保存状態が最も良いと言われている集落の一つである。

平均風速

0.9

最大風速

3.4

最小風速

0

解析結果

GL ± 20000 実測データ 平均風速

1.3

最大風速

4.3

最小風速

0

解析結果

風速値を出した。

第一段階(山)…集落南東部の二つの谷によって風の速度が増し、その風

実測値と結果値を比較した結果、A 点

が集落に流れ込む

において、実測と解析結果に特に差異

第二段階(川) ・第三段階(道)…川沿い、また川沿いの小道によって、

0.8

ら、A 点での差異は解析の範囲制限に

3.2

よるものではないかと考えられる。

兪源村の建物の配置は劉伯温によって風水の思想に基づいて計画されたものであるが、約 600 3)中庭に溢れ出したもののプロット 生活の基盤となって いる中庭の使われ方 ■ 上、下、前宅について  上・下・前宅の 3 つのエリアに属 する建物は、それぞれに異なる特徴

下宅

上宅

を考察するにあたり、 中庭に溢れ出した家 具や生活用品などを

を持っている。上宅の建築は、山形

平面図にプロットし

に従って建てられ、個体建築は現状

た。

も良好で、住居形態も数多く存在す

5)アンケート・ヒアリング調査

る。下宅の建築は、六峰堂を除いた

各住居のより詳細な情

前宅の建築は明の時代に建てられた

係から、以下四つの段階を経て、集落全体に流れている。

20

4)8mm 魚眼レンズによる撮影

第一段階(山)…集落の北と西北側にある山が、北から来た強い風を遮断

15

道・広場

10 5 0

本研究の調査対象空間である中庭、及び門前

川場 35

小道

し、強風を弱める

寺院前

この小道では、商人と住民が座って会話をはずませる。

(人)

30

の空間構成を考察するにあたり、8mm 魚眼

第二段階(川)…風は集落北部の S 字の川沿いに流れる際に弱められ、穏

また、祭りのときにはここが集合場所となる。

25 20 15

レンズを用いて撮影を行った。

やかに集落に流し込まれる

10

□ 棒グラフは、アンケートとヒアリングを統計したものである。

5

質問項目は「集落の中夏は涼しい場所がどこにありますか」

0

川場

小道

寺院前

現地調査の際に、以上にまとめた四つの場所が顕著的に大勢の人が集まって

兪源村入口付近にある広場と橋は仕事帰りの住民のたまり場となっている。

コミュニケーションをとる姿が見られた。その四つの場所以外には、小道、商店

男性を中心で、女性はあまり来ない。

や食材販売店の前なども人がある程度集まっていた。

前宅

第四段階(住宅)…対象集落の住宅の向き、開口と屋根などの特性から、 冬の風を調節している

35

(人)

25

30

20

25 20

ト・ヒアリングを行っ

道の幅も狭い。

た。

分析内容をまとめると、夏と冬季節の変化を応じて、山、川、道、住宅と

15

10

10

5

5

0

建築が多く、敷地面積が小さく、街

第三段階(道)…集落の道も曲線となっている為、集落に入って来た風は 道沿いに再度分解される

35

15

を得るためにアンケー

落の間に、風のネットワー クを形成し、夏季の風を調節している  一方冬季では、この集落の風向は北と西北からの風である。地形図との関

30

30

報、および住人の情報

第四段階(住宅)…住宅の開口により、住宅と住宅、住宅と町、住宅と集

35

(人)

中・小型民宅が数多く存在している。

集落全体に風が流れこむ

(人)

25

大きな災害に見舞われていないと記されている。

夏季では、集落の風向は南と東南からの風である。地形図との関係から、 南から吹く風が、以下四つの段階を経て、集落全体に流れている。

果にそれほど大きな差異がないことか

E点

に保存された建築物は 52 戸、1072 間にも至り、その中の 51 戸が 2001 年から中国全国重点保

ている。また、この集落は風水の思想に基づいて計画されてから、現在まで 600 年という長期間、

NO.5

■ 考察

い再度シミュレーションをかけ、最大

があることがわかる。B ∼ E 点では結

兪源村は 800 年の歴史を持ち、宋代から民国時期までの建築物が保存されている。構造的に完全

年の間、建物の配置はほとんど変わっておらず、現在も計画された当時の状態に近いかたちで残っ

NO.5

実測点における平均風速、最大風速 実測データ

C点

た、風環境を考察するために、集落すべての建物の階 山風、街路を抜ける風をそれぞれ調べた。 数、街路、集落断面図の作成のための実測も行った。

護単位となっている。

NO.5

□ 実測と解析結果の比較による解析誤差の評価について考察

GL ± 12000

十二星宮、二十八星宿などの考え方

集落全体シミュレーション結果から、解析対象住宅における風速 X、Y、Z 軸のデータを書き出し、それを用いて住宅の解析を行う。

3

日に中国国家国務院の批准で国家級文物保護単位となった。2003 年、建設部門、国家文物局が、

中国には風水の思想に基づいて形

□ 分析方法

川場

小道

寺院前

0

川場

この小道には、女性や子供達を中心に集まって枝豆などの農産物を処理をする。

小道

寺院前

いう四つのフィルタで、通せると通せないものを分別しながら、自然環境を

寺院付近は村内で一番涼しいところで住民のたまり場となっている。 ただし、村の西側の住民は遠いからあまりここまでは来ない。

利用していると言える。


第六章 ものの溢れ出しにみる中庭空間と住まい方に関する考察 ■ 中庭空間における機能的特徴

第七章 立体角量の比率分析による集落の空間構成に関する考察 ■ ものの溢れ出し方と風環境の関係

積極的

れ出し

そこにあることに意味がある

れ出し

環境、物質的に良好な場所だと思われる 机

椅子

石の腰掛け

石のベンチ

■ 中庭空間における開放性と閉鎖性

■ 視野角内を占める建物壁面の開口率と外部干渉

兪源村における住居の空間性は中庭から外部を見たときに視界に入ってくる情報に依存する

風水では、他の住居に面する壁には極力開口部を設けないようにするという決まりがあ

と考えられる。ここでは、中庭の開放度による空間の特性を解明するとともに、その空間性を

る。

獲得するために住居の形態にどのような工夫がなされているかを明らかにする。

ここでは、風水の思想に基づいて建てられた伝統住居と風水の思想を無視して建てられた

と思われる新築が集落景観にどのような影響を及ぼすかについて比較分析する。

時 間

□分析方法

便 農具

干し物

洗濯物

生活用品

流し

兪源村の上宅・下宅・前宅の空間性について比率分析を行うため、中庭から 8mm 魚眼レンズ

□分析方法

で撮影した写真に写っている要素を

8mm 魚眼レンズで撮影した門前の写真から、左の図のように塗り分けを行い、門前にお a.住居内部

ける人間の視野角内を占める建物の壁面に対する開口部の割合を以下の式より算出する。

中庭を取り囲む撮影した住居の

物置と同化したもの

リアカー

木材

石瓶

自転車

割合。

消極的

・滞在時間の大小

れ出し れ出し

その溢れ出しがそこにあることで、人がどれだけの時間滞在できるかを3段階に分け

滞在時間

前節で分類した溢れ出しについて、それらを総合的に見るためにグラフを作成

b. 住居外部の人工物

は大となるが、自転車や石瓶があることで人がその場所にとどまるとは考えにくいの

した。縦軸を利便性、横軸を滞在時間のグラフをつくり、その2つの評価軸の交

c. 遠景の自然

わるところにものをプロットする。

d. 天空

で、滞在時間は小となる。

撮影した住居の外の建物や電柱

a. 住居内部

る。例えば、椅子や食事用の机は、長時間、人がその場所に滞在できるから滞在時間

などの人工物の割合。

伝統住居の開口率 =

樹木などの自然が占める割合。

塗り分け後

内部

d.天空 3.2 %

自然

0.7 %

天空

16.3 %

合計

100 %

天空が占める割合。

新築の開口率 =

算出した門前における視野角内の開口率を伝統住居と新築について比較分析を行う。

一方で、左下には、人が集まることもなく、便利でもないものが位置すること

性 干し物

洗濯物

生活用品

石の腰掛け

自転車

流し

新築の開口部の立体角量 新築壁面の立体角量

椅子

便

になり、場所の不足などネガティブな理由によって仕方なくそこに置かれている

開放度を高める要素を視覚内に占める遠景の自然の立体角

もの、つまり消極的なものの溢れ出しだと言える。

量と天空の立体角量、閉鎖度を高める要素を視覚内に占め る住居内部の立体角量と住居外部の人工物の立体角量とし

6-3 合計 夏

開放度を高める要素

6-3 合計   夏

6-3 合計

て、開放度と閉鎖度を以下のように定義する。

c. 遠景の自然 d. 天空

閉鎖度を高める要素

a. 住居内部 b. 住居外部の人工物

開放度 = 自然の立体角量 + 天空の立体角量

閉鎖度 = 住居内部の立体角量 + 住居外部の人工物の立体角量

木材

自転車

石瓶

物置と同化したもの

リアカー

可動 A 大

その溢れ出しがその場所にあることでどれだけ便利であるかを3段階に分ける。例え ば室内に置いても良いような食事用の机や椅子が中庭に溢れ出すのはその場所にあっ て便利だからである。したがって利便性は大きくなる。

風 速

B

不動 C

a 大

b

不動 c 大

伝統住居

a

b

c

15

3

2

2

3

5

2

1

2

4

3

3

3

0

1

0

0

1

4

2

4

3

0

0

0

0

1

4

3

2

2

0

8

0

1

0

7

2

7

1

0

10

2

0

0

4

2

3

2

1

4

4

1

6

0

0

1

2

0

3

1

0

5

1

2

2

3

1

5

4

2

9

5

1

2

1

2

9

2

2

18

風 速

風 速

新築

伝統住居の開口部

新築の開口部

8mm魚眼レンズで撮影した門前の写真

集落断面図 B

移 机

椅子

自転車

リアカー

木材

干し物

洗濯物

ものの

生活用品

れ出しの積極性

ものの

れ出しの積極性

ものの

塗り分け後

20

農具

・利便性の大小

・門前の視野角内を占める新築壁面に対する開口部の割合(新築の開口率)

79.8 %

人工物

の4つに分け、その比率から中庭空間の閉鎖性・開放性について考察する。

ると言える。

伝統住居壁面の立体角量

撮影した住居の外に見える山や 8mm魚眼レンズで撮影した中庭の写真

と言える。つまり、その場所が環境的に良好だから積極的にものが溢れ出してい

伝統住居の開口部の立体角量

c.遠景の自然

このグラフの右上に位置するものは、人が長時間滞在し、尚かつ便利なものだ

・門前の視野角内を占める伝統住居壁面に対する開口部の割合(伝統住居の開口率)

b.住居外部の人工物

主に場所不足によっての

SCALE

1:700

■ 考察

第七章では、8mm 魚眼レンズ写真を用いた立体角量の比率分析により、中庭空間では

れ出しの積極性

プライバシーを確保すると同時に、開放的な空間を獲得することに成功していることが分

夏場と冬場の表を比較すると、夏場の不動かつ積極的な溢れ出しは、風通しの比

かった。一方、外部空間では視野角を占める建物壁面に対する開口部の割合に着目するこ

較的良い場所に多く分布しているが、冬場になると、その場所はあまり風が通らな

とで、プライバシーの確保という点で、伝統住居と新築された建物の間に差異があること

・移動性の大小

い場所となることが分かる。したがって、不動かつ積極的な溢れ出しは、その場所

がわかった。それらをまとめると、

その溢れ出しを簡単に移動できるものとそうでないものの2段階に分ける。

が夏場も冬場も快適な場所になっていると考えられる。

例えば木製の椅子は持ち運ぶことが出来るが、石のベンチは動かすことが困難である。

また、夏場に風通しが良く、可動かつ積極的な溢れ出し方をしていた場所は、冬

農具

石瓶

物置と同化したもの

石の腰掛け

自転車

流し

集落断面図 A

場においても、風が比較的良く通る場所だということが解析結果より示されたため、  生活の基盤となっている中庭の使われ方を考察するにあたり、中庭に溢れ出したモノから

可動かつ積極的な溢れ出しは、冬場について、日光があたり、風があまり通らない ■ 集落景観の比率分析

風環境と住人の住まい方の関係を分析する。

中庭の中心部に移動するのではないかと考えられる。 ■ 考察

□分析方法  中庭空間のもつ性格を知るため、中庭に溢れ出したモノを以下に示す3つの評価軸をたて て分類する。

SCALE

1:700

◆連続断面図

に成功していると言える。  兪源村には、重点保護対象建築に指定された伝統住居の他に、風水を無視して建てられた現 代建築が数多く存在し、集落の景観に多大な影響を与えていると思われる。

れらを以下にまとめると、

・利便性の大小

・また、伝統住居については、建物が密集してプライバシーを確保することが困難だと考 えられる前宅の外部空間においても、開口部を小さくすることで近接する住居、及び敷地

村の上宅・下宅・前宅の空間性について比較する。

外部に対して十分なプライバシーを獲得することに成功していると言える。 ・一方で、隣接する住居との関係を十分に考慮せずに建てられた高層の現代建築は、中庭

することで、中庭空間における風環境と住まい方の関係を知ることが出来た。そ

・滞在時間の大小

密集した環境においても、上宅や下宅のような大きな敷地面積を持つ住居とほとんど同等 の開放的な空間を獲得しながらも、プライバシーを確保した良好な住環境を形成すること

ここでは、住居門前から撮影した 8mm 魚眼レンズ写真から、異なる歴史的背景をもつ兪源  第六章では、ものの溢れ出しを滞在時間、利便性、移動性の3つの要素に分類

・建物の高さを周囲の建物と合わせることで、前宅のような住居前の道幅が狭く、建物が

空間と外部空間のどちらにおいても、プライバシーの観点で、周囲に悪影響を及ぼしてい □分析方法

ると考えられる。

兪源村の上宅・下宅・前宅の空間性について比率分析を行うため、8mm 魚眼レンズで撮影し

・移動性の大小

・夏場は風通しの良い場所は涼しく快適な環境になることから、その場所には木

これら3種類の溢れ出しをプロットした平面図を一つの住居に対してそれぞれ一面ずつ作 成する。さらに、 、それらの溢れ出しをグラフに置き換え、外部空間と半外部空間の性格の 違いを考察する。

た門前の写真に写っている要素を a.自分の住居、門前

製の椅子や食事用の机のような積極的な溢れ出しが見られ、住人はその場所を中

した住居の割合。

心に活動していることが分かった。 b.伝統住居

・一方、石のベンチや石の腰掛けのような不動ではあるが積極的な溢れ出しが多

a. 自分の住居・門前

く見られるのは、夏場は風が比較的良く通り、冬場は冷たい風が通らない場所で

b. 伝統住居

ある。したがって、夏場も冬場も快適な環境が形成されている場所だと言える。

c. 新築

・また、夏場も冬場も風通しが悪い場所には、農具や使われなくなり物質化した

d. 遠景の自然

伝統住居の割合。集落の景観を 保持する要素。

なお、対象住居の選定においては、この集落において一般的な南向きで中庭を一つ持つ住

第八章 結論

撮影した門前の空間および撮影

以上のことから風水の思想により形成された集落の立地、及び建物の集合の仕方と地形 や風などの自然環境の関係を明らかにし、それが住環境に影響を及ぼしながら、その中で 人が住まい方をいかに対応させているかを明らかにした。

c.新築

伝統住居以外の建物および電柱 などの人工物の割合。

机などの不動かつ消極的なものが溜まりやすい傾向にある。これは、その場所を 小

e. 天空

集落の歴史性を低める要素。

8mm魚眼レンズで撮影した門前の写真

d.遠景の自然

塗り分け後

門前空間に含まれない遠景に見

人が物置のように使っていると言える。

風速

る割合。

門前

66.5 %

伝統

2.5 %

新築

9.9 %

自然

0.5 %

e.天空

天空が占める面積の割合。

現代では、人が生活するところには空調機器が取り付けられ、人工的に風の流れ 風向

風向

No.11 0

2

1F PLAN 5

SCALE = 1:300 10

20M

N

形に関わるレベルから、ものの溢れ出しという住まい方に関するレベルまでのさまざまな

える山や樹木などの自然が占め

風速

兪源村において、風水によって定められた立地や集合の仕方は、集落の配置といった地

No.24 0

2

1F PLAN 5

SCALE = 1:300 10

天空

20.6 %

合計

100 %

スケールで整合性をとりながら、人が生活しやすい環境をつくりあげていると言える。    今日では、近代に始まる自然環境と生活環境を切り離すことによって都市での生活は成

が作られており、逆に倉庫などには空調機器は取り付けられておらず、風の流れ

の 5 つに分け、その比率から門前空間の閉鎖性・開放性、及び集落景観について比較する。

り立っているが、それによって資源の枯渇や公害などの様々な問題が生じているのも事実

は作られていない。兪源村のような集落では、空調機器は見当たらなかったが、

その際、撮影する時間によって変化する車や人、生活物などの可動物は分類の対象から外すも

である。本論では特異な自然環境の中にあるにも関わらず、600 年という長期にわたって

人は風環境の微細な変化を感じ取って適切な場所の使い方を発見していると考え

のとする。

人間が生活を営み続けてきた兪源村を取り上げ、そこでの自然環境と住環境の関係を考え

N

20M

◆夏の風速の解析結果と冬の風速の解析結果

られる。

ることは、将来、都市における生活はどう在るべきか考える上で極めて重要である。


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