UCARY & THE VALENTINE, 2021 by LIFT

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UCARY & THE VALENTINE, 2021 PHOTOGRAPHY BY SHIORI IKENO STYLING BY MIHO MIYAKAWA EDIT & WORDS BY HIROAKI NAGAHATA



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メルカリで購入した 90 年代 Silas の赤いスウェットカーディガン , 原宿の Penguin Tripper で購入した 00 年代 Comme des Garçons Homme の T シャツ、メルカリで購入した Levi's のリメイクデニムショーツ、メルカリで購 入した Ugg+Eckhaus Latta のファーサンダル。


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メルカリで購入した See By Chloé のファーコート、明大前の Tempo で購入した 00 年代 Supreme の T シャツ、ス タイリストがカスタマイズした Gap のスウェットパンツ、Ucary 私物の Dr.Martens。


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UCARY のヒストリー、 そして現在地点。 UCARY & THE VALENTINE は、高校 1 年生のときに結成したパンクバンド・THE DIM のヴォーカリストとして、自身の音楽キャリアをスタートさせた。音符を読 むことも歌詞を覚えることも苦手だったため、当時好きだった CSS やヤー・ヤー・ ヤーズのようなバンドの楽曲をうまくコピーする自信がなかったし、そもそも本 家がすでに超絶かっこいいのに自分たちがわざわざカバーする意味もよく分から なかった。そこで彼女は、自作の曲であればライブは何とでもなるだろうと思い、 独学で曲を作りだした。 「当時まわりのバンドたちは、普段は海外の音楽を聴いているのにも関わらず、バ ンプ・オブ・チキンみたいな流行りの日本のバンドをカバーしていて。私は、素 直にやりたい音楽をやればいいのに、って疑問に感じていました」 そうして始まった THE DIM は、高校生バンドが集うイベント「SCHOOL SMASH ’10」の “ デモムービー撮影用 ” ライブで、すぐにレーベル担当者から声をかけら れるなど順調な滑りだしとなった。当時の映像を観返してみると、ダークな雰囲 気の中にもメロディが立っていて、たしかに大器の片鱗を感じさせる。ちなみに そこでは女王蜂と共演しており、UCARY は精神性のところでひそかに共鳴して いたという。 本人はバンドの楽曲について、「ライブで暴れられるかどうか」だけを強く意識し ていた。その作り方といえば、まず UCARY が鼻歌でメロディラインを作り、そ れにあわせて “ 可能な限りシンプルな ” ギターとベース、四つ打ちのドラムを合 わせる、というもの。ここに彼女の音楽的なルーツがある。 「私はそれが “ パンク ” だと思っていたんですが、シンセサイザーを取り入れてい たこともあって、 周りの大人からはニューウェーブだと。ヴォーカリストとしては、 元クリスタル・キャッスルズのアリス・グラスのような、浮世離れしてクールな 女性アイコンを目指していて。一方で、プライベートでは家の門限を必ず守るよ うな真面目な高校生だったので、ライブハウスでステージが終わったあとは直帰っ ていう(笑) 。だから自然と、 『あのヴォーカルは誰?』という謎めいたイメージ が広まっていました」

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UCARY は実際に会ってみると、びっくりするくらいに穏やかな雰囲気の持ち主で、 話し方ものほほんとしている。当時は今よりもシャイで、初対面の人とうまく話 せなかった。一方で、演奏中の格好はミニスカートにライダースか、全身ボディ コン。さらにステージ上では暴れ回って機材を壊すこともあった(本人は内心ヒ ヤヒヤ) 。そんなパンクの印象を保つために、他メンバーからの要望もあり、自分 の素が表に出ないように気をつけていたそうだ。 バンドは動員を増やし続けて、メンバーが高校 3 年にあがった 2010 年には初の音 源集『THE DIM』を発表。そのころには東京のライブハウスやメジャーレーベル からも声がかかるようになっていたが、UCARY 自身は、パンクスとしての自分 は 18 歳までに終わらせるべきだと直感していた。彼女なりの美学である。2011 年、 THE DIM は突如解散を発表。そこから彼女のソロキャリアが始まる。 さて、彼女が UCARY & THE VALENTINE を名乗るようになってからファースト アルバム『Human Potential(2017 年)』が発表されるまでには、実に 6 年あまり の期間が空いている。高校卒業後、ソロとして某メジャーレーベルで新人発掘を 担う部門に所属したのだが、まもなく彼女が懇意にしていた担当者が異動となっ てしまい、レーベルのなかでしばらく宙ぶらりんの状態が続いたのだ。 「レーベルに所属するミュージシャンの中で一番歳下だったし、周りからは『飼 い殺しだよ』って言われたりもしたんですけど、まあ仕方ないかなって。楽曲 はずっと作っていたし発表できないモヤモヤはあったんですが……そんなとき QUATTRO や ART-SCHOOL のようなバンドたちからコーラスの依頼をいただく ようになったんです。そこからまた the HIATUS のツアーに参加させてもらった りして、歌い手としてお仕事をするケースが増えました」 近年ではくるりや LISACHRIS の楽曲でもゲスト参加しているが、彼女のように、 声だけで幅広いジャンルの作品に関わるミュージシャンも珍しい。どんなサウン ドにも華を添える、いや “ 華そのものになる ” 彼女のヴォーカルはまちがいなく スペシャルな才能だ。 同じころ、本人のファッションに注目が集まりはじめ、次第にモデルの仕事も増 えていった。だが、いつだって自分にとって一番重要なのは、ミュージシャンと しての UCARY & THE VALENTINE である。2015 年には、レーベルに説得して EP 『NEW DANCE』を発表し 1000 枚を即完させるところまで漕ぎつけたものの、そ のあとフルアルバムを出すまでには至らなかった。ファッションや MV の撮影で 快く協力してくれるヘアメイクやカメラマン、スタイリストにも、自らのアート を発信することで恩を返したい、という思いが日に日に強くなっていった。

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もう、独力でやるしかない。2016 年、彼女は会社からの独立を決意し、自主レー ベル『ANARCHY TECHNO』を立ち上げる。今でこそインディペンデントで事務 所を立ち上げるミュージシャンも少なくないが、まだ新人といえる段階で会社を 抜けることはやはり常識外れの行動だった。 「フリーになることを周りの人たちに伝えたら全員に反対されました。ただ、レー ベルに所属していたときも仕事のオファーは直接連絡がきていたから、一人でやっ てみようと踏ん切りがついたんです。フルアルバム(『Human Potential』)を制作 しようと思ったのは、大きな会社でやれなかったことも一人だったらやれるんだ ぞ、ということを証明したかったから。なめるなよ、って」 2017 年、完全自主制作のもと、念願のファーストアルバム『Human Potential』 を発表すると、今度は AAAMYYY や LISACHRIS などをゲストに招いた自主企画 のライブを積極的に仕掛けていく。ここが、それまで歌声やファッションの印象 の方が強かった UCARY & THE VALENTINE の音楽世界が広まっていく起点とな り、CM 音楽やファッションブランドのタイアップ仕事も一気に増えた。無事、 ミュージシャンとしての独り立ちを果たしたのだ。 フリーになって以降、リアクションが直接本人に返ってくるようになり、作品 でオーディエンスの期待に応えたい気持ちが強くなったという。とくにコロナ 禍の時期はオーディエンスの気持ちに寄り添うことを意識して、インスタライ ブでのコミュニケーションを元に作った EP『Rescue』をリリース。本作に関し ては、イントロをのぞく全収録曲の MV を、本人がその当時知り合ったばかりの PERIMETRON が手がけており、UCARY を取り巻くコミュニティをも現前させた。 2021 年に入ると、UCARY が一部のサウンドを手がけた銀杏 BOYZ のニューアル バムが話題に。中でも、キラキラが爆発して舞うかのような「GOD SAVE THE わー るど」では、彼女の確固たる音のシグネチャーが刻み込まれている。そしてこれ を書いている今日、2 月 12 日には、本人名義の新曲「Who Cares」がファッショ ンブランド・Little Sunny Bite のテーマソングとして発表された。荒っぽいと同 時に夢見がちなロックナンバーは、 『Rescue』にあった内省的で静かなモードと 対照的だ。 「テーマに合わせて、いまやれる最大限の音楽を出している感覚なので、サウンド の振り幅に対しては無意識的なんです。最近の音源はサポートミュージシャンを つけずに自分で作っているから、余計素直にそのときのテンションが反映される のかも。自分で弾くのはギターとベース、シンセで、ドラムは打ち込み。そこでチー プなオモチャっぽい印象がつくことで全体の雰囲気が私らしいものになる。リズ

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ムはヨレヨレだけど “ 縦の線 ” がしっかりしているものに聴かせたくて」 選択肢は可能性と同じだけ広がり続けるの-これは、先述の「Who Cares」で 歌われる印象的なラインだ。彼女が目指すのは、心動かされて死にたくなりました、 よりも、もっと生きたくなった、と思われるような音楽。あるいは、誰かの背中 を押すと同時に自分の背中も押してくれるもの。UCARY が発するメッセージの根 本にある矢印は、 途中でメランコリックなムード(不協和音)を通過したとしても、 最終的には前向きに転じるのだ。 「最近、新しくハードコアバンドを組んだところです。去年は他人のためにたくさ ん音楽を作ったから、今年は自分のために別名義のアルバムを 3 枚作ろうと考え ていて。内容はそれぞれ打ち込みとピアノと、バンド。すべて等しく広がるかは さておき、私にとってそれを実行すること自体が重要なんです」 どんな状況でも UCARY はあらゆる活動を止めない。今度は、かつて彼女が CSS のラヴフォックスから受けたような感動を、彼女がオーディエンスに与える番だ。 ゆけゆけ、UCARY & THE VALENTINE、この深い夜空を突き抜けるように。

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