SHU Letter No.145 主体的に活動するGSたち

SHU - No.145 2018.6.20

特集

主体的に活動するＧＳたち

特集

知識と意欲を、実践へつなげる。

グリーンセイバーの主体的な活動

1998 年に創設され、今年 20 年目を迎えたグリーンセイバー資格検定。 これまでに 3500 名以上のグリーンセイバー（ＧＳ）が誕生し、全国で森づく りや里山再生、自然の豊かさ、楽しさを伝える活動などに取り組んでいます。 当協会ではＧＳの皆さんが、自分に合った活動をスムーズに始められるよう、 スタートアップ講座をはじめ、さまざまなスキルアップの場を提供してきました が、最近ではＧＳ自ら発案し、実行する企画が増加。内容にも幅と深みが出て きました。 そこで今回は、ＧＳが主体的に企画・運営した活動の事例として「里山林塾」 「嵐山ふれあいの森 植物相調査」「ＧＳ研修＆勉強会」をご紹介します。 03

里山保全技術を体系化し、技術者を育てる。

Satoyamarinjyuku

2017 年 5 月に里山保全技術者を１年間かけて育成する

「里山林塾」を立ち上げ、第一期生を送り出した鶴田史朗 さんは、リタイア後に活動を始めたＧＳ。自身の経験を

通して、里山保全技術を体系的に習得することの重要性 と難しさを痛感し、ベテランＧＳから座学と実習で基礎 技術を学べる１年間のカリキュラムを作成しました。

町田フィールドの約 1ha の南向き斜面にある放置林（通

称、日向山）を実習林とし、これを再生しながら基本的 な技術を身に付けていきます。全 15 回の講座では、作 業の種類を林床管理技術、林木処理技術、森林活用技

林床管理技術

刈払機操作、下刈り、ササ刈り、ツル伐り、地拵え、筋置きなど 林木処理技術

伐採計画、伐倒、玉切り、枝落とし、3 倍力システム、チルホール技術など 森林活用技術

シイタケ栽培（榾木、菌打ち、伏せ作業）、筍掘り、道造りなど 塾長

鶴田 史朗

講師

久保 重明、広瀬 攻、高玉 力雄

刈払機 講師

石山 昇、土屋 幸雄

術の３つに分類。１年間を通して活動することで、季節に

応じて変わる雑木林の保全作業を体験できる他、さまざ まな植物、生物の実態にふれて、里山林の機能や生物多 様性への理解も深まります。一定の条件を満たした受講

生には、修了時に「里山林マイスター」の称号が授与され、 第 1 期は 4 名の「里山林マイスター」が誕生しました。

里山林塾の活動は「東京ガスおうえん基金」の支援により実施いたしました。

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第1期生の声 脱初心者を達成

里山放置林という、ある意味恵まれた実習場所を持っているとこ

ろが最大の特徴だと思います。間伐する木が１本ずつ受講生に割

り当てられ、各自、伐倒方向と受け口・追い口の位置を決めたり、 退避場所を確認したり、主体的に一連の作業を行ったことは、た いへん貴重な経験となりました。里山林塾を通して、脱初心者を 達成したと思います。（高橋貴子）

1. 初期の刈払機の講習風景。この 頃は何をするにも、まだ遠慮がち だった。

密度の濃い 1 年

ＧＳマスターの資格を取得した当初から「里山に遊んでもらって

いる」というのが率直な思いである。だからこそ、遊ばせてもらう

にふさわしい知識・技術を持つことは、里山に対する礼儀だと思っ

ている。総労働時間にすればわずかであるが、密度の濃い作業で、 内容も多岐にわたり、今後に生きる技術・知識を得ることができ たと思う。（竹見太郎）

子孫に地球を返す

里山の空気が好きで、自然や人とゆったりとふれあうことを心地

よく感じる自分を確認。単発ではなく、一定期間継続する活動に 飛び込み、何かを感じてみようと思った。この 1 年に学んだ知識や

2. 長年放置された里山林の下草刈 り作業を通して、ノコ、ナタの使 い方を習得。

3. きつい傾斜地での山仕事も板に ついてきた頃。この日は危険古木 の撤去作業を経験。

4. 秋頃には下刈り作業、地拵えが 進み、林床にも十分な日光が降り 注ぐように。

技術、チームワーク、貴重な体験をベースに、「与える・感謝する」 行動をとれるように前へ進みたい。「子孫に胸を張れる地球の返し 方」がわかるまで。（冨永良治）

里山活用の可能性

途中からの参加でしたが、フレンドリーな雰囲気のおかげで溶け 込むことができました。実際に作業に参加したのは初めてで、頭で

は知っていたつもりでも、やってみると大違い。体で覚えることと

安全管理の徹底

下草刈りや伐木の仕方、道具の使い方とともに学んだのは、繰 り返し指導していただいた安全への配慮。「ボランティアなのだか

ら、焦らず、安全に」という言葉にハッとしました。予想外だった

危機管理の大切さを学びました。里山の活用は今後の社会の指針 になり、子育て、健康、芸術とのコラボなど、さまざまな可能性 があると思います。 （横井貴広）

のは、どんなにバテバテでも、終わってみると気分がいいこと。皆

5 月から、出席日数不足のため継続受講中の 1 期生も含めた第

一番の成果でした。（新川幹郎）

ので、興味のある方はぜひご検討ください。お申込み・お問合せ

で活動をする楽しさも含めて、活動の喜びを心身で感じられるのは

5. 冬の雑木林で、背だけが伸び た落葉樹と、勢力を伸ばしてきた 常緑樹の間伐計画を立てる。

2 期里山林塾もスタートしています。9 月まで途中参加が可能です は東京事務局まで。

6. 山の作業では各種の仕掛けを 使って作 業の 効 率アップ を図る。 この日はチルホールの仕組みと使 い方を勉強。

7. 冬には各種の作業を一通り経験 し、余裕が出てきたところで山の資 源を生かす活動も体験。写真は椎 茸の菌打ち風景。春には筍掘りも。

8. 修了式では修了論文の発表、修 了証書とバッジの授与がおこなわ れた。

嵐山ふれあいの森

植物相調査 RANZAN Flora survey

山躑躅

Rhododendron kaempferi

ヤマツツジ

草苺

Rubus hirsutus

クサイチゴ

フィールドの希少種を守りたい。

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埼玉県比企郡嵐山町にある「嵐山ふれあいの森」は、花見台

フロラ調査では、クサイチゴ、ヤマツツジなど計 113 種の植物を

工業団地に隣接する約 8ha の丘陵地。当協会が嵐山町と協定を

確認。コアジサイなどを移植対象として検討することになりました。

結び、2009 年より整備活動を行ってきましたが、このたびフィー

同時に実施した生き物調査でも、昆虫類 24 種、鳥類 7 種、爬虫類

ルドの一部が工業地化されることになりました。工事が始まる前に

3 種、哺乳類 2 種を確認しています。 「みんなで頑張って整備を継

そのエリアの植物調査を行い、希少種の移植などの保全措置を検

続した結果、林床に光が当たるようになり、フィールド全体が好変化

討したい。そう声を上げたのは、グリーンセイバー・マスターで嵐

しています。今回の調査範囲以外でも、今年はキンランがたくさん出

山での定例活動に熱心に取り組んでいる仲内ゆかりさん。長池公

てきました。 」 と仲内さん。今後も全体のフロラリスト作成に向けて観

園副園長でＧＳマスターの小林健人氏を講師に迎え、4 月 28 日、

察を続けていくそうです。写真はこれまでに嵐山で確認、撮影され

清水理事長を含む計 10 名の参加者とともに「植物相調査」を実

た植物の一部です。 「見るとホッとするようないい森」という感想も聞

施しました。

かれる嵐山の活動に、皆さんも参加してみませんか。

Corydalis incisa

紫華鬘

ムラサキケマン

破れ傘

Syneilesis palmata

ヤブレガサ

十二単

稚児百合

Ajuga nipponensis

ジュウニヒトエ

Disporum smilacinum

チゴユリ

Vibumum plicatum var. tomentosum 藪手毬 ヤブデマリ

莢蒾

Viburnum dilatatum

Ailanthus altissima

金蘭

Cephalanthera falcata

庭漆

ニワウルシ

ガマズミ

キンラン 08

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! // ! p u skill

ていますが、2018 年度は新たな試みとして研修＆勉強会が スタートしました。 提案したのは、 ＧＳアドバイザー（経験豊富で、各プログ ラムのリーダーをサポートするＧＳ）の高橋まり子さんと岡 本俊彦さん。ひとつひとつのイベントの積み重ねも勉強にな るが、どうしてもリーダーの興味のある分野、集客を意識し た人気のあるテーマに偏ってしまうので、あらためて基礎的 なことを勉強する機会が欲しいというのが提案の理由で、

ホオノキの冬芽の分解

検討の結果、今年度は次のような勉強会を実施することに

ＧＳ研修＆勉強会 さらなるスキルアップのため に。

Phenology

↓

なりました。

生物季節学

01. フェノロジー勉強会

フェノロジー（Phenology、生物季節学）とは、動植物

09

当協会が主催する自然体験プログラム「これからはじめ

の行動や状態の変化と季節の関係を研究する学問のこと。

る自然観察シリーズ」 「自然と親しむ講座シリーズ」 「子ども

参加者が身近で観察できる落葉樹木を決め、それを週一回

ワクワクプロジェクト」は、企画から運営までＧＳ有志から

程度の間隔で定点観察し、記述、写真、絵などの方法で記

なるＧＳ企画チームの皆さんが担当しています。これらは総

録し、その結果を共有するとともに、定期勉強会を実施し

称して「ＧＳ企画」と呼ばれ、ユニークな視点から自然の

ています。

見方、楽しみ方を提案したり、子どもたちが自然とふれあう

3 月に事前ミーティングを行い、観察の仕方や情報共有

機会を提供しながら、 ＧＳ自身がスキルアップを図る場となっ

の仕組みを確認。各自、観察をスタートしました。4 月 23

シュート→茎とそれについている葉のまとまり 日にはミーティングを実施。クロモジ、ホオノキ、コクサギ、

尾山の小仏城山で実施。同じルートをたどることで、高尾

ハナイカダ、コナラ、ソメイヨシノ、メタセコイア、ハナミズ

山の移りゆく自然を肌で感じながら、基本を繰り返し身につ

キなど、各自が選んだ樹木が 3 月上旬から 4 月下旬にかけ

けたいと考えています。

てどのように変化したかを記録した写真やスケッチを持ち寄

この他にも、 8 月19 日 （日） には神代植物園で樹木の種別、

り、報告しあいました。共通の観察対象は「一か所の芽か

特徴などについて交代で講師を務める「ひとり一木活動」

ら出るシュート」で、それがどのように開いて伸びてゆくか

の第 1 回を（10 月、12 月、2019 年 2 月の全 4 回） 、8 月

を 6 月頃まで観察し続けます。また 2019 年の GS はじまり

26 日（日）には長池公園で「植物基礎講座」を実施する

の会で、この活動の成果を発表する予定です。

予定です。内部研修ですが、興味のある方は東京事務局ま

sketch

でお問合せください。

02. 山 登り研 修

これまで「自然と親しむ講座シリーズ」として実施してい た「山歩き講座」を内部研修に変更。 「山歩き講座」で講 師を務めたＧＳマスター、久野眞由美さんに引き続き講師を お願いしました。ウェアや装備、不整地の安全な歩き方、 バテない山の歩き方、疲れないザックの背負い方、ストック の使い方、地図の見方・使い方、インターネット情報の使い 方など、今さら聞けない「基本のキ」から学び、山でのリ スク回避の感覚を身につけ、 「連れて行ってもらう登山者」

meeting

ではなく「自立した登山者」になることを目指します。 年 3 回の計画で、2018 年 3 月 26 日 ( 月）に第 1 回を高

photo by M.Takahashi 10