Architecture Portfolio / 建築ポートフォリオ / Ryoya Ishii

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Portfolio

RYOYA ISHII

石井 涼也

Ishii  Ryoya

横浜国立大学大学院 建築都市スクール Y-GSA

野性的な建築

自らの身体とモノを通じて主体的・発見的に空間を秩序づけていくことや、自らの行動によって他者と の距離感を規定することこそ人間的な暮らしであり、生きることの豊かさだ。動物としての人間がその 内側に孕んでいる野性や身体性を刺激する建築をつくり、未来に希望を投げかけたい。

¦経歴¦

2001.5

2020.3

2020.4

2024.3

2024.4

2025.4

¦資格¦

岡山県倉敷市に生まれる

岡山県立東岡山工業高等学校 設備システム科 卒業

広島工業大学 環境学部 建築デザイン学科 入学

広島工業大学 環境学部 建築デザイン学科 卒業

広島工業大学 環境学部 建築デザイン学科 研究生

横浜国立大学大学院 建築都市スクール Y-GSA 入学

2021.12 二級建築士 合格

¦受賞歴¦

2021.12

2022.11

2024.3

Camps Design Competition 2021 優秀賞 第49回五三会建築設計競技 優秀賞 かってに卒制展2024リアル展 あさぎ賞、若林賞

1 裸貸しの野性的再編

¦目次¦ -歴史的都市軸の可視化と連関の結び-

2 -アフォーダンスによる都市の「地」の再編集避難階段革命

3 地御前のリヴァイヴァル

4 -情報の再編集による場所の生成創造的建築のレシピ

5 歴史を解き、未来を積む

6 表情は境界のあるところに -象徴的エレメントの解体と再構築による新しい公共生の創造-

7 木漏れ傘

8 おおきな部屋/ちいさなモノが築く暮らし

裸貸しの野性的再編

課題:

住民がインフィルを挿入していくことで生まれる新しい共同体と暮らし方の提案

敷地は「NEXT21」。近世の裸貸しという概念を手掛かりに、住民が設計の一部に参加することで、 住宅の壁を越えて、他者とのゆるやかな距離感やなわばりを形成する関係性を生み出す。公私の境 界があいまいになる暮らしの中では、家族という従来の血縁関係は解体され、動的に生活が変化し ていくなかで新しい共同体のすがたが立ち現れてくる。

ダブルグリッドなので インフィルの互換性が高い

裸貸しからスケルトンインフィルへ

裸貸しの文脈を継承して設計されたNEXT21はシステマティックなスケルトンイ ンフィルという概念を構築し、裸貸しのバトンを受け継いだ。

しかし、近世の裸貸しで営まれてきた住民による能動的な生活は継承されていな かった。作り手と使い手が明確に分離した今日の社会では 人間の野性的感性も失 われつつある。

建物で見られた住民の豊かな一面

NEXT21では自分のなわばりを主張するように、住民の私物が共用部にはみ出さ れていたり、住民同士のコミュニケーションが存在する。そこにはただの集合住 宅には無い、集落のような、この場所に対する帰属意識や豊かさが存在しており、 生き生きとした暮らしが営まれていた。

はみ出されている物たち

野性的な暮らしを再編する

近世では人々が道具を用いて、身体を投じて住まいを作っていた。そんな暮 らし方を参考に、住民が自らの身体とモノを通じて空間から自分の居場所や 他者との距離感、なわばりを規定していくなかで、暮らしが混ざり合うあた らしい住まい方を提案する。

それは、人間が己の内側に孕んでいる野性や身 体性が刺激される野性的な暮らしと言える。

他者によるモノの操作から なわばりを感覚する

樹間の広いところに集まる 樹木に寄り添う 樹木に操作を行う

森に見る身体的・野性的な暮らし

設計範囲について

設計はケーススタディとして、住居部分である5階の西半分に限定し て実験的に行う。

角に椅子を置く

洗濯物を干す

日向でごはん

柱に治具を取り付ける

風が抜ける

みんなのリビング

植栽に水やり

建物中を走り回る

柱に傘を引っ掛ける

壁を活かして浴室を作る

共用部に置かれた傘を差す

5階平面図

設計者による操作

設計者はNEXT21に存在するダブルグリッドという規則に従って生活 の拠り所となる柱・床・壁を身体スケールな空間となるように配置し ていくことで森のような環境をつくる。

計画の意図が読めない空間と住民の主観的な解釈のあいだに野性的な 生活が育まれるのである。

テーブルを共有する

床が椅子になる

柱に鍋を吊る

住民のギャラリー

柱に寄り添う お花に水をやる

すれ違い際にちょっと立ち話

まったりおしゃべり ちいさな読書会

お風呂から外を眺める

料理を振る舞う

生活音が筒抜ける

住民による操作

2階に、住民や一般市民が自由に使うことのできる工房とインフィルのデータや実物を展示・ 売買することのできるインフィルョップを計画する。住民は工房で作ったインフィルを建築的 なフレームに挿入することによって暮らしをカスタマイズする。これらは り、生きた住まいへと移ろっていく。

建築的なフレームと住民の操作が溶けあうあいまいな空間の中で動的な暮らしが営まれていく のである。

住民が工房で作るインフィルの例

自分で作った蔀戸を開け、外の心地よい風に吹かれながら読書をする。開けた蔀戸の屋根面積だけなわばりはひろがる。

ある住戸の暖カーテンが開く。月に一度行われる読書会の合図だ。

みんなで傘をシェアする。

床に敷いた座布団に座って机を囲む。机は既存の柱に合わせて作ったお手製のもの。 揺らめく暖簾は頼りないが、大丈夫。我々は境界を認知する感性を持っているのだから。

橋を渡っていると蔀戸を開けた住民と目が合う。他愛のないおしゃべりの始まりだ。

柱にフライパンを吊るすお父さん。住民によって建築的フレームは上書きされていく。

避難階段革命 -アフォーダンスによる都市の「地」の再編集-

課題:

都市を構成する「地」の空間をオブジェクトとして捉え、その可能性を見出す

避難階段や駐車場やビルの屋上といった都市にあふれる「地」の存在。「図」であるビルに尽くす 装置として扱われているこれらをオブジェクトとして捉え、モノが秘めている可能性を引き出す。 小さな「地」での計画は大きな都市へと波及していく。

都市における図と地

都市には「図」であるビルとそれを支える「地」である避難階段などの雑多なものが 存在する。雑多なものはビルの機能を補うために生まれてきたものであり、基本的に 装置的な存在である。

装置は単一の機能や意味しか持たず、モノが内在している可能 性を押しとどめていると私は捉える。

連続する環境の中で生まれる新たな価値

避難するための装置である避難階段は一方で、周辺環境によって使われ方や別の価値が 生まれる。単体で設計したものが 相互に作用しながら連続する環境ユニットとなる ので ある。都市のスポンジ化によって駐車場が増え、ウラだった場所がオモテへとひっくり 返るオセロのような今日の都市環境において、避難階段をはじめとする地の空間にどの ような可能性があり得るだろうか。

単体で設計された空間

環境ユニットの例

避難階段 ×ビルのすき間

避難階段 ×ビルの屋上

単体が集まって連続する環境ユニットとなる

避難階段 ×駐車場

避難階段 ×看板

避難階段密集地域を探る

屋内避難階段、屋外避難階段、特別 避難階段のうち、最も多く設置され

ている 屋外避難階段を具体的な対象

として取り上げる。

そして屋外避難階段が密集している

広島県広島市八丁堀をケーススタ ディの敷地として計画を行う。

▽地上15階

屋内・屋外避難階段

特別避難階段

▽地下2階

△地下3階

3種類の避難階段とその設置基準

広島県広島市の中心市街地

モノには与えられた名前や機能を越えて、周辺の環境からの影響に よって別の意味や価値が生まれる可能性があると分かった。避難階段 「地」の可能性を探求する

原爆ドーム

避難階段という記号を剥がす オブジェクト化する

「地」の存在をオブジェクトとして捉えるにあたり、文化や 歴史といったコンテクストではなく、物理的・地形的なコン テクストに着目することで形にフォーカスし、その場から何

開放的な屋上 狭い ビルのすき間

周囲に囲われた ビル跡地の駐車場

都市を物理的・地形的に観察する

都市のアイデンティティ蒐集

都市を物理的・地形的な観点から観察し、都市を構成す る要素、ここでは避難階段とそれ以外という分類でそれ ぞれのアイデンティティを分析し、「建築のたね」として まとめた。

2R+T=55~65

キーワード|法規 寸法 プロポーション

避難階段は法規により階段幅や踊り場の最小寸法が定められており、作りたくてつ くられるわけではない避難階段は決まって法規上の最小寸法で設計される。また階 段は人間が昇り降りするため、2R+Tという身体的な寸法が部材に刻み込まれてい る。これらから、避難階段の大まかな形やプロポーションはどれも似たものになる のである。

寸法やプローションが同じであれば何かを付加する際に汎用性が高いともいえる。

「建築のたね」

種別:Aから始まる番号は避難階段について。 Bから始まる番号は避難階段以外について。

ネーミング:アイデンティティとなる要素のこと。 ② ドローイング:アイデンティティとなる要素を分かりやすく 図化したもの。 ③

キーワード:アイデンティティを端的に示すワードを挙げる。 ④

説明:アイデンティティとなる要素が生まれるきっかけや それを認知する仕組みを示す。 ⑤

キーワード|エレメント ファサード

屋外避難階段は耐火性や施工性などを考慮して鉄骨で作られることが多い。そして 鉄骨で作られた避難階段は様々なパーツの接合によって成り立っているため、階段 のもつガタガタした形状や線の多い手すりと相まって非常に複雑な形状をしている。 のっぺらぼうのようなビルの立面のなかでこの複雑な避難階段はホクロのような存 在として認知される。 これを魅力的と捉えるか見にくいものと捉えるかが提案にかかっている。

A007 天と地の仲介者

キーワード|つなぐ ヒエラルキー

階段は各階において水平方向に展開する人間の活動を上下につなぐ垂直性のある存 在である。その空間体験は動的で数階上がるだけで見える景色は大きく変化する。 また、垂直性のある存在は視覚的な観点から外部からよく目立つ。 階段はその垂直性からか劇場的な舞台装置として捉えられることが多い。位を表現 するための装置、出会いと登場を演出する装置など避難階段が孕んでいる内的なも のを活かした操作はできないだろうか。

キーワード|法規 屋上 平面性

建築基準法34条二項より、高さ31mを超える建築物には非常用エレベーターを設 置しなければならない。非常用エレベーターには通常のエレベーターとは異なる特 殊な設備や構造が必要なため、この法規にかからないように高さ30m前後、10階 建て程度の建築が多く建てられる。 凹凸の激しい都市において密集するこれらのビルの屋上は連続する平面となるので ある。

キーワード|構造 独立

避難階段は工場製作された鉄骨製の避難階段を現場で接合することが多い。その支 持形式は片持ち梁形式のものもあれば4本の柱梁のラーメン構造によって自立して いる避難階段も存在する。

建物に依存しない避難階段は自我を持ち歩き出すことだって可能かもしれないし手 たものが解体されてもそのまま保存することも可能かもしれない。

キーワード|反復 空間体験 リズム

階段は、段と踊り場という各階でのレベルと、踏面と蹴上という段でのレベルで二 つの反復性を内在している。反復が生み出す外観のリズムや空間を体験する身体的 なリズム。これらを活かして反復する関係性を階段に取り入れることはできないだ ろうか。

Sキーワード|マテリアル 鉄骨

避難階段は耐火性の観点から鉄骨で作られることが多い。防火系の法規によって縛 られた存在である避難階段であるが、逆手にとれば火災が起きる可能性が低いとも いえる。この場所でタバコを吸うことはむしろ推奨されるべき行為なのかもしれな い。鉄骨の持つ薄さや繊細さ、温度や季節の変化による部材の温度の変化なども活 かすことができるかもしれない。

A009 裏の主人公

キーワード|裏 陰

避難階段は作られるべくして生まれた存在ではないためビルの狭い裏側に設置され る。建築的な空間性を孕む立派なエレメントが暗く人気のない場所で佇んでいる様 子はまさに裏の主人公である。そんな裏の主人公である避難階段はその暗さや静か さからタバコを吸ったり昼休みに休憩する場所として利用されている。 このような活動を助長させるような工夫をすればウラの魅力をもっと発揮できるは ずである。

キーワード|法規 すき間 プロポーション 谷 フレーミング

法規的・施工的な観点からビルとビルの間にはすき間が作られることがほとんどで ある。ビルの奥に作られる避難階段から避難する唯一の経路としても存在するこの すき間はビル正面あたりでふさがれがちである。 避難安全の確保と避難経路であることに着目して何かできないだろうか。

キーワード|スポンジ化 駐車場 図と地

都市では人口減少に伴い空き地が増加する『スポンジ化」が進んでいる。これにより、 裏手に配置されがちであった避難階段は、路上から空き地を介して観測される顕在 的な存在となった。現在は不動産的な理由から駐車場が作られているが人口が進む 今後、その経営は破綻することが目に見えている。 駐車場に代わる新しい土地活用方法が求められる中、空き地のヴォイドと避難階段 とのあいだにどのような関係性を構築できるだろうか。

キーワード|交差点 信号待ち 眺望

交差点は道路が交わることで動線のノードとなる。信号待ちでスマホを注視してい る人が多いが、交差点は景色が開ける場所である。角地は特に目立つ場所であり、 その特徴を生かして広告のスクリーンが設けられていることが多い。資本主義的な 公告が取り付いている建築そのものをもっと街に開いていくことを考えてみる。

キーワード|平面的 折り畳み 自動車の家

都市にあふれる立体駐車場は紙パックのような単純な形態をしており、分解すれば 薄っぺらい面になりそうである。その壁面には広告が掲示されることが多いが、大 きな面を活かしてもっと人間のための場所にすることはできないだろうか。

キーワード|構造 構法

避難階段は防火系の規定が厳しいため鉄骨がむき出しになっている。それは例える なら人間の骨のようなものであり、服はおろか肉もついていない。人間の骨格は皆 ほとんど同じだが、鉄骨避難階段は多様な骨格が存在する。指示形式で言えば、片 持ち形式、2本の柱と建物によって支持する形式、4本の柱で独立する形式。この ように、特徴的な骨格を活かしたり新たな骨格をつくったり、骨格に肉付けするこ とで新たな可能性を拡張することができるかもしれない。

キーワード|空間体験 シークエンス 連続

避難階段は転落防止のため法規上、高さ1100mm以上の手すりを設けることが義務 付けられている。手すりは子どもの転落防止の観点から縦長い棒の連続した形状と なることが多く、その間隔はJISにより110mm以下にする事となっている。 避難階段の下から上まで連続する内的な条件はどのように活かせるだろうか。

キーワード|シークエンス 空間体験 視覚体験

階段は動的な空間であり、そこに垂直性が加わることで空間体験は立体的なシーク エンスを描く。また、水平移動ではなかなか変化しない景色も垂直移動では少し上 がれば見える景色が大きく変化する。都市ならではのこの空間体験を活かした建築 的提案が日常の体験を大きく変えるだろう。

キーワード|法規 ファサード 面

容積率いっぱいに建築物を建てようとした結果、前面道路ギリギリまでボリューム が押し寄せたファサードが連なり鉄壁が生まれてしまった。都市に見られるこの形 は上空から見ると人工的な谷のようである。 街を歩く人たちから最もよく見えるファサードと避難階段にはどのような関係性を 構築できるだろうか。

鉄壁ファサード 喫煙できる場所が限られ、一か所の喫煙所に群がる光景が増えていると感じている。 灰皿を求めて集まる人たちは同じ目的を共有する関係であり、一種のコミュニティ を形成する可能性を持っている。 他者とのかかわりが減る現代、喫煙所を単位とするコミュニティは貴重な存在であ る。

キーワード|ふるまい コミュニティ タバコ

キーワード|すき間 出入口 異世界 B009 裏の世界への玄関

密集するビルのすき間は不審者の侵入を防ぐため・ごみを捨てられるのを避けるた め塞がられがちである。しかし、ただ壁を作るのではなくドアを設けられることが 多い。これはビルの奥まった場所に設置される避難階段から前面道路に逃げる人の ために存在していると考えられる。 賑やかな都市に紛れ込んでいる不思議なドアはまるで裏の世界に通じる玄関のよう である。

A001 避難階段テンプレート
A010 立体的シークエンス
B001 天空高原
B007 よりしろ
B008 ペラペラ立駐
B003 スポンジシティ

S,M,Lスケールの計画は都市全体に増殖することによってXLスケール となり、「地」の空間が「地」のまま「図」になることによって都市に 新たなレイヤーを生むのである。

S scale 踊り場エスケイプ

ビルの裏側、都市の喧騒とは対照 的な静寂、RCのラーメンフレーム に押し込められた階段といった地 形に着目し、茶室を都市的・現代 的に読み替え3つ計画する。

梁という躙り口をくぐった先は3 種類それぞれの空間が広がってお り、風景を切り取るような開口を 通じて薄暗い中降り注ぐ光や遠く から微かに聞こえる都市の喧噪を 感じる体験をもたらす。

都市のさびれた風景を切り取る窓。

7F―8F
6F―7F

M scale

すきまライブラリー

ビルのすき間でみつけた直階段型

の避難階段とその谷のような地形 に着目し、図書館を計画する。

上から降り注ぐ光は避難階段階段

のバルコニー部分に計画した本棚 と階段の間を落ちていき、垂直方 向に明暗のグラデーションを生み 出す。また、地層のように下階か ら順に古い本を配架することで、 利用者は避難階段を介して暗い空 間を探索しながら思いがけない本 との出合いを果たす。

L scale

都市の毛細血管

密集するビルの裏に設置された避 難階段相互を街区単位で連結する 毛細血管のような路地空間を計画 する。

3層あるこの空間は敷地境界線を 越えて共有されるコモンの空間と なり、街区単位で建物のオーナー が組合を結成し、維持管理してい く。また、日常的利用を図ること で避難動線の認知と確保につなが る。犯罪を減らすための監視カメ ラやビルのすき間に施された板や フェンスは、使われてこなかった 空間が使われることによって人々 が監視の目に代わるのだ。

この計画は資本主義的都市社会か ら失われてしまった人間関係性を 取り戻すきっかけとなり、死んだ 裏側の空間に生き生きとした血を 巡らせていくのである。

コンビニ劇場

交通量の多い交差点からよく見え る、建物がつくるコの字型の地形、 何も使われていないコンビニの屋 上、赤く象徴的な避難階段。これ らの地形に着目し、舞台となる空 間を計画する。

地形を生かしておもむろに演技を 繰り広げはじめる演者に対し、広 場で鑑賞する人たちや、外の様子 が気になってベランダから下を窺 うアパートの住民やオフィスの労 働者。歩道には広場への階段の軸 線上でスポットライトを浴びる演 者に目を奪われ足を止める通行人 たち。

何気ないこの広場は向かいの歩道 を行く人を含め、見る・見られる 関係を生み出し、この空間に機能 としても現象としても劇場が立ち 現れるのだ。

このあたり一帯が劇場となる

11階建てアパート

M scale

短手断面パース オフィス

階段オフィス M scale

7階平面図 N 隣の建物が壊されてつくられた駐 車場によって裏の雰囲気を醸し出 すオフィスビルのファサードに対 し、内部での人々の活動が外部に にじみ出るような操作を行う。

本来ありえなかった避難階段を上 り下りしたり、たむろする姿はま ちの新たな表情となるのである。

M scale

都市の櫓

たった5分歩くだけで街を一望で きる物見櫓を計画する。

階段道中は囲われているため暗く、 31mを超えたあたりと最上部で景 色が開ける。階段を能動的に登る 行為は登山そのものであり、本提 案ではそれを都市的に読み替える ことでEVでは得ることのできな い喜びを我々に与えるのである。

避難階段独立宣言

交差点からオフィスを見る。

駐車場に避難階段のハブとなる、 建築スケールの避難階段を計画す る。

スラブのような階段のようなこの 空間は日常的にはギャラリーや フォリーとしてはたらき、非常時 には壁に開けられた開口を通じて 避難階段としてはたらく。

最上階から広島の街並みを見下ろす

13階から外を見る。景色は一気に開ける。

外の見えない階段を上る。光が漏れる。

外部は日常活動の一部となる。 屋上には都市的な庭園が広がる。

正面から見る。 上まで視線が抜ける 普段、内部はギャラリーとなる。

L scale 空の大地

八丁堀に緑や広場が少ないことや、 法規的な理由から 31m程度に高さ が揃ったビルの屋上を第二の大地 として捉え、ビル相互・避難階段 を屋上で連結する回遊式庭園のよ うな緑化した広場を計画する。

この空間は避難階段相互を頂部で 面としてつなぐことで避難時の経 路確保につながる。

地御前のリヴァイヴァル -歴史的都市軸の可視化と連関の結び-

課題: 主な用途: 制作期間: キーワード:

宮島から伸びる歴史的都市軸のリノベーション

宮島の弥山から厳島神社とその外宮である地御前神社を貫く都市軸を見つけ、聖性が薄れた現在の 地御前神社に着目しサーベイを行った。サーベイをしていく中で見つけた管弦祭の存在を手掛かり に、地御前神社と厳島神社に対する遥拝の場・舞台の場を計画することで隠れている都市軸を可視 化させ、バラバラに分断された地御前の連関を結ぶ。

隠れてしまった歴史的都市軸

地御前神社の拝殿。参拝客など人の姿は見かけない。

神社周辺から発見した3つのこと

拝殿の正面 線路への扉線路への扉

地御前神社(外宮)

地御前神社周辺

正面の踏切越しに地御前神社を見る。

土木インフラによって分断された様々な連関 宮かつて、厳島神社の外宮である地御前神社では厳島神社に対する遥拝がなされていた。瀬戸内海を越えた都市軸が存 在するのである。しかし、宮島が観光地となった現在、元々遥拝のためにつくられた地御前神社との関係性は失われ、 都市軸は隠れてしまった。

厳島神社(本宮)

厳島神社(奥宮)

1

拝殿

本殿 客人殿

かつては厳島神社と同じように海に面して配置していた地御前神社は現在、土木インフラの普及により、軌道や道路 や堤防によって海から隔絶されている。

地御前神社

2

海と神社をつなぐ階段 東西軸を可視化させる土木 宮地御前神社の本殿から伸びる東西軸上 には鳥居をはじめ、堤防の水門や階段、 線路に設けられた両開き扉といった ゲー ト(フレーム)のようなものがたくさん 見つかった。

神社全面の海に面して設けられた堤防に は3カ所ほど海に続く階段があることが 分かった。

インフラによって隔絶された海との関係 をつなぐ存在である。

3

年に一度のハレ舞台「管弦祭」

年に一度大潮で満月の夜に、厳島神社と 地御前神社を海上渡航し儀式を行う「管 弦祭」というお祭りが存在する。

この日は瀬戸内海を越えた都市軸が浮か び上がり、人々と自然が結びつく関係性 が立ち現れるのである。

連関を結び直す建築

建築の力で隠れてしまっている都市軸を可視化させる。そして、バラバラになってしまったこの土地に宿る関係性 (管弦祭という人間スケールの文化から月の満ち欠けによる潮の満ち引きといった宇宙スケールまで) としての建築を設計する。

建築 管弦祭

風土

時間の流れ

この地に宿る関係性を建築で結ぶ

遥拝建築for 遥拝建築

地御前神社は厳島神社に対する遥拝の場である。そこで 地御前神社に対する遥拝の場となる と共に都市軸を結ぶ建築 を海の上に計画することで既存のヒエラルキーを編集する。計画は 大きく以下の三つである。

遥拝

遥拝

厳島神社 地御前神社 提案

返り墨を打つことで隠れていた都市軸を可視化させる

1

都市軸の返り墨を打つ

4つのフレームを計画する

鳥居に見立てた「フレーム」について

管弦祭の行われる2023年8月3日の 夜、地御前神社に船が到着する20:20 の潮位を基準に、管弦祭時における厳 島神社の大鳥居の内法寸法をAフレー ムの寸法に設定する。そして、厳島神 社の本殿と大鳥居との距離196.4mを 引用し、この敷地でも軸の交点から南 側196.4mの位置にAフレームを配置 する。

管弦祭が行われる日の潮位グラフ。 船の地御前神社到着時間の潮位は約240㎝

Cフレーム

平面図 S=1:300

拝々殿

舞台-200 舞台

道路 舞台+1000

遊歩道 舞台+1500

南立面図 S=1:300

拝殿の拝殿となる「拝々殿」について 2 Aフレーム B フレーム

拝々殿の壁柱は45°振ることで軸線を結ぶ強い中心をつくりだす。 そして、壁柱と深い軒は中心からも周囲からも絵画のように風景 をトリミングする。

Aフレーム とBフレーム は拝々殿の中心からのみ同じ大きさのも のとして目に映る。そして、Aフレームは管弦祭の夜の潮位で正 しいプロポーションとなり、厳島神社と地御前神社が等価な存在 となる。

中心をつくる楔のような拝々殿

拝々殿からのフレームの見え方

拝々殿へ架かる「橋」について

拝々殿に続く橋は参拝時のシークエンスを意識して計画する。金属の ヴォールト状のフレームを連続させることで空間の連続性と切断性を 生み、明暗のグラデーションが参拝者の気持ちの切り替えに作用する。

高さを落とし海との関係を作る。重層する結界は心理的距離を生む。

東西軸

返り墨を打つ

Dフレーム

橋は東西軸から少しずれた位置に計画する。

東西軸に対する返り墨とすることで東西軸の存在を高める。

Dフレーム側から拝々殿、地御前神社側を見る。

参拝者は真下に迫る瀬戸内海と潮風を感じながら、時に宮島に思いを馳せ、拝々殿に歩みを進める。奥行きが異なるフレームによって明暗が空間の連続 /切断を生み、参拝する人の気持ちに寄り添う。

拝々殿では地御前神社と厳島神社に対し日常的に遥拝がなされ、ハレの日、 管弦祭の夜には月の満ち欠けや潮のリズム、この場で行われる管弦祭という 文化・時間や土木インフラによる地形といったこの地に宿る 連関が建築に よって結ばれることでこの場は完成するのである。

潮位:拝々殿-1300 満潮

管弦祭

潮位:拝々殿-3800

普段は自由にアクセス可能な拝々殿は、管弦祭の日は儀式の舞台となり、周辺から人々が眺める彫刻的な関係が生まれる。

干潮

潮位:拝々殿-5300

管弦祭の夜、橋は沈没することでアクセス不可能となり、 周辺から儀式を眺める劇場となる。

宇宙スケール

月の満ち欠けと大潮の周期

建築スケール

Aフレーム=Bフレームとなる瞬間

人間スケール

管弦祭の周期

年に一度の管弦祭の夜にすべてのスケールが結われる。

創造的建築のレシピ

-情報の再編集による場所の生成-

課題:

壁によって空間が仕切られた今日の複合施設は閉じており、複合することによるメリットや相乗効 果を引き出せていない。本提案では複合される機能を情報レベルまで解体し、壁ではなく柱を単位 として情報を再構築することで新しい機能や人の関係性を生み出す、開かれた複合施設を提案する。 機能(情報)を再編集することでモノと人の新たな関係性を生み出す

柱を中心に広がる複合施設

今日の複合施設は各用途が壁によって分断されており、複合することによる相乗効果 を生み出せていない。

柱を中心に磁場のように領域を作り出す建築をつくることで各 用途が関係し合い、相乗効果を生み出すような関係性を構築することはできないだろ うか。

新しい情報体系を構築する

機能を中心としてつくられた情報体系はモノ、コトなどすべてがまとまりすぎている。 従来とは異なるルールで再構築することによって様々な情報の間で機能という現象が生じる ような、新しい情報の体系を生み出すことはできないだろうか。

既存の情報体系を解体し、解体した要素を柱に当てはめ、スラブ 上でそれぞれの要素が混ざり合うことで新たな情報体系や空間体 験をもたらすあらたな複合施設を提案する。 あたらしい複合施設のすがた

敷地は広島工業大学のキャンパスの一角、周辺は360° 開かれている。敷地周辺でのサーベイを通して感じた 特徴をキーワードでいくつか挙げ、3つに分類した。

広島工業大学

大学正門

配置図 S=1:3000 N 計画道路

東側:市街地

動的、アクティブ、大きい、大きくうねる、 招く、他人、街スケール

北側:自然

静的、なめらか、穏やか、連続、森、風、

心地よい、落ち着いた、一人

西側:住宅

低い、小さい、井戸端会議、住宅スケール、

知人、細かい、長閑

住宅スケール

2階平面図(GL+5800) S=1:400

01. グリッドと柱のルールを決める

すべての基準となる三角グリッドを敷地に配置し、 柱を図のようにグリッドに沿って立てる。

ように柱は配置されており、柱は数本で1つの ユニットとしてそれぞれの要素を担う。

02. 取り扱う情報を選定する

課題の与条件に関する「つくる」というキーワードや「つくる」 にまつわるマテリアルのほか、諸機能を満たすことのできそうな 概念・コト・オノマトペを取り上げた。

3階平面図(GL+8500~12000) S=1:400

03. 情報を柱に当てはめる

04. スラブを挿入する

最も重要な「つくる」という要素は敷地の中心の柱ユニットに当 てはめ、学生の通学路となる部分には活気を生み出す「わちゃわ ちゃ」を当てはめる。

柱を中心に広がる秩序は磁界のように遠心するほど弱く なり、中間部では方向性のない家具が置かれ、どちらと もいえない領域となる。

柱は無限に広がる世界に中心をつくりだし、精神的・身体的・ 機能的な拠り所となる。三方向に広がるこの柱は、求心性・ 方向性・領域性をはじめとする秩序を生み出す。  柱が生み出す秩序

求心性 領域性 方向性

1階の本が置かれてる空間。人々は柱に寄り添いながら本を読む。

部分詳細図

① 創作衣装工房

Tシャツのデザインをオリジ ナルで製作できる。実際に制 作したデザインデータは商品 として販売し共有することが できる。

②ウッディな美術館

「飾る」と「木」が混ざるこ の空間は学生が製作した木工 作品を中心に展示され、通行 するための道が美術館とな る。

③要素が混じる”あいだ”

スラブは重なり合い、スラブ がもつ個性さえも複合されて いく。ここでは布を材料に作 られたものが作品として展示 されている。

大きな屋根から吊るされた多 種多様な布を眺めながらゆっ くりと時間を過ごすことので きる場所。 ④布見テラス

木を見上げる

木にもたれる

樹間に集まる

上から見下ろす

駆け降りる

森のような建築

森の地形のようにゆるやかに高低差をつなぐスラブは、天井が高くなったところで は劇場のような用途として展開し、2階から1階を眺めるという垂直の関係性が生ま れる。オープンに広がる建築の中で人々は大きくそびえたつ樹木のような柱に寄り添 い、柱と柱の間の空間に集う。

この建築は人々に森の中で自分の居場所を見つけだすような原始的な体験をもたらす のである。

敷地南東より全体を俯瞰する。大樹のような柱はまちの象徴となる。

1階のメインストリートを歩く。一歩進むごとに左右から多様な活動が目に飛び込んでくる。

3階より吹き抜けを見下ろす。枝の上から大地を見下ろすような立体的な関係性が生まれる。

生み出した空間(一部)

歴史的遺構を舞台に市民自らの手でつくり上げる公共性の提案 歴史を解き、未来を積む

課題: 主な用途: 制作期間: キーワード: 賞歴: コンペ 「第49回五三会設計競技」 広場 住宅 3年後期(共同制作) 公共性 遺構 広場 レンガ 利活用 主体性 第49回五三会建築設計競技 優秀賞 -象徴的エレメントの解体と再構築による新たな公共性の創造-

今日の公共は政府が維持管理して一般市民に「提供される」空間となっている。しかし本来の公共 とは住民が参加してつくり上げていくものではないだろうか。本提案では、広島の被爆建物である 広島旧陸軍被服支廠を舞台に、その象徴的なレンガを住民自らの手で再構築することによって築か れる新たな公共を提案する。

建物に刻まれた8月6日の記憶

計画対象の旧広島陸軍被服支廠(以下:被服支廠)は1913 年に、組積造 と当時では珍しかった鉄筋コンクリート造のハイブリットとして建築された。

被服支廠は1985

年8 月6 日に原爆の被害を受けたが、躯体は大きな損傷 を受けることなく現在も当時のまま保存されている。しかし、現在は敷地に 立ち入ることはできず、敷地外から眺めるという彫刻的な扱いとなっている。

歴史的遺構として保存されてる被服支廠をはじめ、現在の公共は行政が管理して おり、公共の場は行政によって提供されているという印象が強い。しかし、本来 公共とは市民の能動的なはたらきかけによって生まれるものである。いま再び本 来の公共性を取り戻し、市民の手でつくり上げていくことに意義があると考える。

爆心地

被服支廠 2.6Km N 爆心地との距離

自分事として捉える公共 01. 地域に開くため通りに面したレンガ壁の解体 03. 象徴的エレメントの再構築 02. 新しい都市グリッドに沿った住宅の挿入 既存短手断面図

…鉄筋コンクリート …レンガ

公共とは目の前の場所を自分事として捉え、個の集積が全体となって生まれる現象で あると考える。現在誰のものでもない被服支廠を自分事として捉え、この場所を変えて いく人のための住宅群と広場を提案する。歴史を象徴する遺構を解体し、住民自らの手 によってより象徴性をもたせた形で再構築し直す。

政府が管理するこれまでの公共

みんなの手でつくりあげるこれからの公共

2階平面図 S=1:600

レンガは花壇や菜園の縁に用いられたり、住宅の内装や外装をはじめとして様々な場面で活用される。 住民は一定の期間が過ぎると退去し入れ替わる。そして、新たに住み始めた住民は以前住んでいた住民のレンガの利活用方法

表情は境界のあるところに

日本人は鳥居のように精神 的な境界を認識する力に長 けており、門型フレームは 精神的な境界を生み出すカ タチだと言えよう。

精神的な境界を作り出すカ タチ=フレームによって表 情を引き出し、住民の豊か な生活の表情による対話を 誘発させる。

個室と都市をつなぐ

集合住宅は、住民一人ひと りの小さな関係が段階的に 大きくなることで全体のあ らわれになっている。そこ で、住民である個から都市 までのパブリック性/プラ イベート性を6段階に分け、 それぞれのレベルにフレー ムを配置していくことで段 階的に個と都市をつなぐ。

6段階

パブリック

都市

敷地

アネックス

共有部(パブリック)

共有部(プライベート)

個室

プライベート

暮らしのあらわれしろを計画する

境界は床・フレームの操作 によって領域が膨らんだり しぼんだりする関係性を生 み出し、場所を共有する人

それぞれが主観的に自分の 領域を決めながら暮らして いく。

お互いの領域の解釈のずれ

は主張と譲り合いを引き起 こし、コミュニケーション へと発展する。

表情は境界のあるところに

課題: 主な用途: 制作期間: キーワード:

住民の暮らしが表れる境界に着目することで生き生きした集合住宅の表情をつくる提案

人が他者との関わりあいの中で豊かな表情を得るように、他者と生活の表情を読みあいながら暮ら すこと、さらにはその豊かな表情の集まりとして都市と関係を築くことができないだろうか。日本 に生きる私たち特有の境界に対する意識に着目し、記号的なフレームを計画することで人々の主体 的な暮らしぶりを引き出す。

都市とアネックス

課題:

膜を介して豊かな周辺の自然現象を利用者に知覚させるトイレの提案

山や川といった豊かに自然に囲まれた広島県福山市府中町に、こどもをはじめ大人も利用する公共 のトイレを計画する。周囲のありふれた自然を膜を媒介として利用者に伝えることで心地よい空間 体験をもたらし、おおきな稜線を描く屋根は周囲の山々に呼応する風景を生み出す。

存在が独立したエレメントを用いて空間、 物と人や人と人の関係性を生み出す。

エレメントは巨大なワンルームに離散配置する。 物と物の間で起こる偶発的な関係性を狙う。

この建築はすべてが共有部。住民は個人のロッカーを 持ちバスケットにモノを入れて行動する。

他者との関係性は自らの身体とモノを通じて決定 していく。私物や小物はなわばり表示物となる。

おおきな部屋/ちいさなモノが築く暮らし

日本の建築は大きな屋根の下で建具や調度という弱い存在によって状況に応じたフレキシブルで多様 な生活を営んできた。大きな屋根の下全体が共有部分となったこのシェアハウスでは住人は状況に よって居場所を変えるようにして暮らす。住民は大きな屋根の下、思い思いの地図を描いていくなか で他者やエレメントとの関係性が生まれ、影響を与え/与えられながら豊かな価値観を形成していく。 モノを中心に生まれる身体的距離によって30人がワンルームに住まう新しい暮らし方の提案

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