宇宙素粒子物理学へのいざない(第2版)

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宇宙素粒子物理学への いざない

横浜国立大学 理工学部 宇宙素粒子物理学研究室 中村研究室 Presents



宇宙素粒子物理学への いざない

横浜国立大学 理工学部 宇宙素粒子物理学研究室 中村研究室 Presents


ダークマター 暗 ( 黒物質 )

ダークマター (暗黒物質)

ダークエネルギー (暗黒エネルギー)

星を構成している原子 や宇宙線など

宇宙の内訳

今から約 138 億年前,ビッグバンと呼ばれる大爆発のもとで,宇宙は超高温 かつ超高密度の物質と光の熱いスープとして突如生まれました。その後,宇宙 は絶え間なく膨張を続け,徐々に冷めていく中で,様々な物質が作られ,星が 作られ,銀河が作られて,私たちが知っている現在の宇宙となったと考えられて います。  しかし,まだ多くのことが分かりません。宇宙の組成を調べると,星などを 作る通常の物質は宇宙の全エネルギーの4%しかなく,残りは,光を出したり 吸収したりしない未知の物質の「ダークマター」が約1/4,物質でない未知 のエネルギーの「ダークエネルギー」が約3/4も占めています。それでも, 宇宙の大部分を占めているこれらが, 「ダークマター」は宇宙膨張を減速させ, 「ダークエネルギー」が膨張を加速させるという綱引きのもとで,私たちの 宇宙を進化させてきたと言えるのです。


ダークマター って、なんだろう?

宇宙線 : 宇宙空間を飛び交っている,

極めて小さな粒子, 原子核や 素粒子のことです。


最近は,  最近は, ビッグバン以前に「インフレーション」 ビッグバン以前に「インフレーション」 と呼ばれる と呼ばれる 宇宙の急速膨張があったことが有力視されていますが, 宇宙の急速膨張があったことが有力視されていますが, その その 証証 拠拠 はまだ見つかっていません。そもそも,ビッグバンは はまだ見つかっていません。そもそも,ビッグバンは なぜ なぜ 起きたのでしょう?これまでどのような歴史をたどって 起きたのでしょう?これまでどのような歴史をたどって 現在の我々があるのでしょうか? 現在の我々があるのでしょうか?


膨張 急速

急速 膨張

宇宙の大きさ

インフレーション期

無 ー38

10

100 秒

38万年

138 億年

宇宙の年齢

宇宙の年齢


いったい 「ダークマター」って何でしょう ? 「インフレーション」って本当に起きたのでしょうか?



その謎を解き明かす研究をしています。

線 宇宙

岐阜県神岡鉱山     ︵池の山︶

ター クマ ︶ ダー 黒物質 ︵暗


宇 宙 マ イ ク ロ 波

Lite BIRD 衛星計画

▼大 気圏 内

「インフレーション」       と呼ばれる宇宙の急速膨張の証拠を観測で見 つけることを目的とした人工衛星の計画に参加しています。ビッグバンの頃 に超高温だった宇宙は盛んに光を放っていましたが,その光は現在もなお, マイクロ波と呼ばれる電波として宇宙を飛び交っています。この電波の偏光 と呼ばれる性質を人工衛星を用いて高精度で観測すれば, 「インフレーション」 が 本当にあったことを証明できると期待されています。

液体キセノンの研究 「ダークマター」 の信号を見つけようと する実験は様々な方法により世界中で進められて いますが,中でも最も規模が大きく高感度な方法 が,XMASS 実験のように液体キセノンを用いる ものとなっています。  しかし,液体キセノンには良く理解されていな い基本特性が以前からあることから,中村研究室 ではその解明に長らく取り組んできました。これ までに,紫外線に対する屈折率や紫外線の発光 波長を正確に測定し,さらに赤外線の発光も確認 して,現在は,積年の課題である紫外線の散乱

XMASS 実験 「ダークマター」 の正体は未知の素粒子 であるとの有力な仮説を確かめるため,ニュー トリノ研究でも良く知られている,岐阜県神岡 鉱山の地下において,冷やしたキセノンの液体 を大規模に用いた XMASS(エックスマス)実験 に参加しています。これは,ダークマターにより 液体キセノンがかすかに紫外線を発する現象を 高感度で観測しようとする実験ですが,それら しい信号は残念ながらこれまでに見つかってい ません。現在,次の手を検討中です。

特性の研究に取り組んでいます。 ▼キセノンの研究装置


XMASS 実験

タンクの中は 液体のキセノン

▼ XMASS 実験装置の外観


Xe Xe Xe Xe Xe Xe Xe Xe Xe Xe Xe Xe Xe Xe Xe Xe Xe Xe Xe Xe Xe Xe Xe Xe Xe

Xe Xe Xe

ダークマターがキセノン原子にぶつかります。 そしてキセノン原子がぶつかり合い光を放ちます。

…ダークマター ( 暗黒物質 ) …キセノン原子 (Xe)

原子番号 : 54

キセノン

Xenon ( 希ガス元素 ) 原子量 131.293

空気中の

1 10000000

¥200

¥2800

キセノンは気体1Lで¥2800


宇宙の謎を解き明かそうとする研究室の活動風景。

多くの参考書に囲まれ,最大限の自由な雰囲気にあふれた研究室。

大学構内は,深い緑と明るい日差しにあふれています。  (

場所 : 横浜国立大学 )


神岡鉱山内の地下の実験場へは,許可を得た特殊なディーゼル車で入坑します。  外国人研究者も居るため書かれた英語のタグに綴りミスがあるのはご愛嬌!

学外の研究所で最前線の研究者に解説を伺うこともあります。 (

場所 : 東京大学宇宙線研究所付属神岡宇宙素粒子研究施設 ※左下のみ 高エネルギー加速器研究機構 )


高エネルギー物理学実験室 ( 学生の部屋 + キセノンの実験室 ) 手前右側

中村教員室

横浜国立大学 総合研究棟 W6階


「ビッグバン」という宇宙誕生にまつわる用語が,世間でも漠然と広く 使われるようになって久しいと思います。以前は,宇宙論と言えば定量 的な議論は出来ず,ひと桁くらいのずれは許容されるような大まかな 議論が普通の学問分野でした。しかし,最近の20年ほどの間に高精度 な観測がいくつも行われ,また素粒子や原子核の理解も進んだことで 宇宙論は劇的に発展し,以前には考えられなかったような精度で宇宙 の生い立ちが語られるようになりました。そして今では,宇宙の物質 やエネルギーの大部分が正体不明であるという予想もしていなかった 大きな謎に,私たちは直面しています。  大きな謎があるということは,大きな発見,すなわちかけがえのない 大きな喜びのチャンスもまたあるということです。この小冊子との出会い をきっかけに,夢多き宇宙素粒子物理学の分野にとび込んで人類共通 の謎解きにチャレンジしてくれる若者がひとりでも多く現れてくれる ことを心から期待しています。 横浜国立大学 理工学部 宇宙素粒子物理学研究室


宇宙素粒子物理学への いざない

2018 年 2 月 5 日 第 2 刷発行

ディレクション    中村正吾 デザイン       宇都宮里梨子(京都工芸繊維大学大学院 工芸科学研究科) 協力         横浜国立大学

© 2018 Shogo Nakamura

理工学部 宇宙素粒子物理学研究室 中村研究室




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