空間の質の再生産 設計手法の抽出と応用
Reproduction of space quality Extractuion and applicatio of design methodologies
建 築 作品 におけ る空間の 質 や作家 性を抽 出し設計 に応用 するこ と の可能性 の 検証 が本修士設 計の主題であ る。設計に用いる記述方法が作家性に大きな影響を持つという仮説のも と、ノ ー テーションと空間の質に密接な結びつきが見られる建築家 ア ルヴァ ロ・シザの作品を 中 心に そ の設計手法について研究した。
研究によって得られた以下の4つの"シザ"に基づいて1つの建築を設計することを試みる。
視座
1 環境の補助線 ――形態 配置
2 推進力 ――形態 プラン
3 被覆性 ――模型
4 特定の視界 変形
今回 は4「特定の視界 変形」 におけ る空間の知覚とその 存在を同一視す るような映像的 視点 とドローイングを記述方法として定め た。建築 を 表現することがそのまま設計行為と な るよ う なプロセスの実践である。
1】環境の補助線 形態 配置
シザは対象敷地から離れた地点から補助線を引き込むことで、伝統的な街の 在り方や移動体験の中で知覚されるもの、引いては建築を取り巻く環境を建築 に折り込みその土地の慣習や風土を獲得している。
シザは対象敷地から離れた地点から補助線を引き込むこと で、伝統的な街 の 在り方や移動体験の中で知覚されるも の、引いては建築を取り巻く環境を建 築
シザは駐車場やバス停など訪問者の現実的なアクセス方法を重視 し、プラ ン ニングを行う。

大規模建物においてシザは対象敷地から離れた地点から補助線を引き込むこ とで、その街の伝統性や慣習を形態の中に折り込み、環境に適応させている。



a+u2010年 11月臨時増刊号『SIZA AU THORONET ル・トロネのアルヴァロ・
シザ ―経路と作品 』*1 においてシザがに ル・トロネ教会に設置するオブジ ェ の設計プロセスがまとめられている。その中でシザは設計を始める前にまず駐 車場の位置を確認した。近代以降自動車なしでの移動を考えることは不可能に 近いにも関わらず、見どころがなく空虚であるため建築設計における駐車場と はしばしば邪魔者的だが、シザにはこうしたネガティブな感情は希薄だ。例え ば処女作ボア・ノヴァのレストランのアプローチが駐車場から始まることから も訪問者たちがどのようにして建築にアクセスするのかに対するシザの驚くほ ど現実的な姿勢を垣間見ることができるだろう。(fig.1)

a+u2010年11月臨時増刊号『SIZA AU THORONET ル・トロネのアルヴァロ ・シザ̶̶経路と作品』*1 においてシザがにル・トロネ教会に設置するオブジ ェの設計プロセスがまとめられてい る。その中でシザは設計を始める前にま ず 駐車場の位置を確認し た。近代以降自動車なしでの移動を考えることは不可 能 に近いにも関わら ず、見どころがなく空虚であるため建築設計における駐車 場 とはしばしば邪魔者的だ が、シザにはこうしたネガティブな感情は希薄 だ。例 えば処女作ボ ア・ノヴァのレストランのアプローチが駐車場から始まること か らも訪問者たちがどのようにして建築にアクセスするのかに対するシザの驚 く ほど現実的な姿勢を垣間見ることができるだろう。(fig.1)
建築文化5月号『Alvaro Siza Thinking by means of drawing』内の「建築に 関する8 つのこと」のタイトルにて、シザは最初敷地ついて語る中で
建築文 化5月号『Alvaro Siza Thinking by means of drawing』内の「建築 に 関する8つのこと」のタイトルにて、シザは最初敷地ついて語る中で







(fig.1) 場所に は、人がひとりもいないということは決してな い。そこには必ず 誰 か住む人がいる。秩序はおのずとむこうからやってくるのである。*2
中・小規模な建物におい て、敷地境界線や近隣の建物の角などから補助線 を 引いてくることで周辺環境へ形態を適応させている。
と述べた。建築と駐車場の関係に対する姿勢からも窺えることだが、シザが捉 えんとしているのは訪問者たちの振る舞いなのである。またそれらを観察する 場所は対象となる敷地に限らない。敷地へと赴く人、通過する人、彼らは敷地 よりも彼方からやってくるからだ。そうすると彼らの振る舞い、つまり身体の 連続した運動は即ち経路として捉えられる。バス停のベンチも、組積造の街角も、 広場の木も経路(=身体の運動)の元並べて等しく把握される。こうしてシザ はその街の伝統や秩序を把握する。その後街の秩序に倣って建築を設計するわ けだが、秩序を建築に織り込むためシザはプランに多くの補助線を引く。 ポルトガル郊外の街の交差点に建てられたシザの初期 作、ピント&ソッ ト・ マヨール銀行の平面図であ る。(fig.2) シザが敷地境界線の角と隣の建 物 の角 を 結んだ線や隣の建物のファサードから延長された線など細かく補助線を引いて いることが確認できるだろう。もう一点、ポルト大学建築学部のシザのスタディ スケッチであ る。(fig.3) こちらでも先ほどよりやや広域の地点からでは あるが 形態の輪郭のため補助線を引っ張ってきていることがわかる。

た。建築と駐車場の関係に対する姿勢からも窺えることだ が、シザが 捉 えんとしているのは訪問者たちの振る舞いなのであ る。またそれらを観察す る 場所は対象となる敷地に限らな い。敷地へと赴く 人、通過する 人、彼らは敷 地 よりも彼方からやってくるからだ。 そうすると彼らの振る舞 い、つまり身体の連続した運動は即ち経路として捉 え られる。バス停のベンチも、組積造の街角も、広場の木も経路(=身体の運動) の上に知覚されるものとして等しく把握され る。こうしてシザはその街の伝 統 や秩序を把握す る。その後建築を設計するわけだ が、街の秩 序、つまり経路 を 建築に織り込むためシザはプランに多くの補助線を引く。
ポルトガル郊外の街の交差点に建てられたシザの初期 作、ピン ト&ソッ ト・ マヨール銀行の平面図であ る。(fig.2) シザが敷地境界線の角と隣の建物の角 を 結んだ線や隣の建物のファサードから延長された線など細かく補助線を引い て いることが確認できるだろ う。もう一 点、ポルト大学建築学部のシザのスタ デ ィスケッチであ る。(fig.3) こちらでも先ほどよりやや広域の地点からではあ る が形態の輪郭のため補助線を引いてきていることがわかる。
また西沢立衛はシザの魅力につい て、現代的な形態と地域環境や風土とが 見 事に連続していることを挙げ、「現代建築であるのに、なにか昔からなにも変わ らないかのような雰囲気が濃厚にあ る。」と語ってい る。*3 同様 の指摘 は散 見 され、シザの建築ファサードが持つ佇まいと敷地周辺の環境や伝統との親和 性 の高さを否定する人はいないだろう。
ここでマヨール銀行よりもさらに規模が大きく、シザの代表作の1 つである ガリシア現代美術センターについて見てみよ う。シザの描いた平面計画のス タ ディスケッチであ る。(fig.4) 先ほどの銀行と同様補助線を 描 き重ねてい る。次 に縮尺の小さい地図を用い て、建築形態の中に現れている線を逆に拡張して い ってみ る。(fig.5) 現代美術センターは隣接する修道院の敷地内に建てられて い るのだ が、かつて修 道士た ちが利用した階段を 結 んだ軸や墓地への経路 の軸、 近くの大きな交差点の中心点から線を引いてきていることが確認できるだろう。
また西沢立衛はシザの魅力について、現代的な形態と地域環境や風土とが見 事に連続していることを挙げ、「現代建築であるのに、なにか昔からなにも変わ らないかのような雰囲気が濃厚にある。」と語っている。*3 同様の指摘は散見さ れ、シザの建築ファサードが持つ佇まいと敷地周辺の環境や伝統との親和性の 高さを否定する人はいないだろう。 ここでマヨール銀行よりもさらに規模が大きく、シザの代表作の1 つである ガリシア現代美術センターについて見てみよう。シザの描いた平面計画のスタ ディスケッチであ る。(fig.4) 先ほどの銀行と同様補助線を描き重ねてい る。次 に縮尺を下げた地図を用いて、建築形態の中に現れている線を逆に拡張していっ てみ る。(fig.5) 現代美術センターは隣接する修道院の敷地内に建てられてい る のだが、かつて修道士たちが利用した階段を結んだ軸や墓地への経路の軸、近 くの大きな交差点の中心点から線を引っ張ってきていることが確認できるだろ う。
*1 a+u2010年11月臨時増刊号『SIZA AU THORONET ル・トロネのアルヴァロ・シザ―― 経路と作品』,2010 *2 建築文化5月号『Alvaro Siza Thinking by means of drawing』, 1997 , p.28 191p ,7002 ,社国王 ,』うよみてし話ていつに築建『 ,衛立沢西 3* (fig.1)ボア・ノヴァのレストラ(1958-63)の配置図 (fig.2)ピント&ソット・マヨール銀行(1971-74)の平面図 (fig.3)ポルト大学建築学部(1987-93)のスタディスケッチ (fig.4)ガリシア現代美術センター(1988-93)のスタディスケッチ (fig.5)ガリシア現代美術センターにおける敷地図
【siza 2】推進力 形態 プラン

a+u2010年 11月臨時増刊号「SIZA AU THORONET ル・トロネのアルヴァロ・
シザ ―経路と作品 」*1 においてソウ ト・デ・モウラがシザの設計の方法に 言 及している。
―すでに半周したこ と を気 づ かせないように出発点に 戻 らせること で、
帰りはまた新たなる出発点となり、すべての決定を知らないままに新しい 推進力を得ること *2 シザの建築は半周したあたりで、スタートを知らせるしるしがあるとモウラ は述べている。実際にシザのいくつかの建築のプランを見てみよう。
ガリシア現代美術センターであ る。(fig.1) 長形のボリューム が3 つ 重な って 中心にヴォイドをもつ三角形を構成している。斜辺部分の1 階と底辺部分のボ リューム の1,2 階が展示室になってお り、階段を介してぐるりと一周できる よ うになってい る。写真 は2 階の廊下であ る。(fig.2)(fig.3) 一度床が途切れ展 示 室を抜けて先ほどの廊下の延長線上に再び合流するのだがその吹き抜けの端点 には窓がついている。直線を歩く身体の運動は一度途切れ再びその軸上に戻る とき、先ほどまで自分の運動がなされていた空間をフレーミングされて眺める ことになる。運動の記憶を介して時間の感覚は相対化させられ、今までに経過 した時間とともにこれから過ごす時間が予感される。 セラルヴェス現代美術館でも類似した効果が確認でき る。(fig.4) コの接続 部 がエントランスホールになっていて、地階へ降る階段の壁にガリシア同様窓が 開いてい る。(fig.5) 地階はカフェや図書館など展示以外の機能が入っている た め、普通であれば降らずそのまま展示室を巡ることになり、忘れかけた頃ふと その窓から見えていた空間へ至 る。(fig.6) ガリシアよりもフレームを 確 認す る までの時間があくのだが、今回は自分自身ではなくたった今入館してきた人た ちの胸躍らせる表情の中に先ほどまでの自分を重ね見るのだ。 スタートを確認するしるしは美術館2 つにおいては水平方向で行われてきた が、アヴェイロ大学図書館では垂直方向で行われ る。(fig.7) 図面上方に位置 す るエントランス部分に吹き抜けがあるのが確認できる。風除室を抜けてすぐに 現れるこのヴォイドはその控えめなスケール感も相まり、認知に至る前に通過 されてしまう。自習室や閲覧場所などの滞在空間は外周をなぞるように設えら れているので、中央の空間を彷徨っていると突如ヴォイドを通じて先ほどのエ
3 つの プ ランの 異 なる事例 を 眺めた 結果、シザは 確 かにスタ ト地点と それ を知らせるしるしの仕掛けを意識的に設計に組み込んでいることが言える。
またa+u1989年6 月臨時増刊号『ALVARO SIZA 1954-1988』*3 にてシザの 主要な建築形式として4 種類が挙げられている。平屋構成はあらゆる建築形式 の中で最も基本的なものであるとし て、確か に3 層構 成・コの字 型・L 字型 は シザの建築の特徴と言えそうである。上で検討した中間地点において出発点の しるしをもつプランもこの3 つの建築形式の中に見ることができる。三層構成 は垂直方向におい て、コの字 型・L 字型は水平方向の分岐部分において出発 点 を見る機会が設けられていることが多く、逆説的に半周した際に出発点を眺め るための建築形式をシザが好んで用いていると考えることもできる。(fig.9)










シザは途中で出発点を見つめさせるような空間操作を意識的に行う。
(fig.2)(fig.3) (fig.1) (fig.5)(fig.6) (fig.4)
シザの主要な建築形 式(コの字 型・L字型・3 層構成)と出発 点 を見 つめる しるしを設ける操作の親和性は高い。

(fig.8) (fig.7) (fig.9)
*1 a+u2010年 11 月臨時増刊 号『SIZA AU THORONET ル・トロネのアルヴァ ロ・シザ ―経路と作品 』, 2010 *2 同 号,p.57 *3 a+u1989年6 月臨時増刊 号『ALVARO SIZA
1954-1988』 1989
(fig.1) ガリシア現代美術センタ ー(1988-93)の 2F 平面 図 (fig.2)北 側か ら見た廊下 の写 真 (fig.3)南側から見た廊下の写真 (fig.4)セラルヴェス現代美術館(1991-99)の平面図 (fig.5)地階へ降りる階段の写真 (fig.6)展示室にあいたエントランスを覗く窓の写真 (fig.7)アヴェイロ大学図書館(1988-95)平面図 (fig.8)エントランスすぐのヴォイドの写真 (fig.9)コの字型・L字型のプラン・3層構成のタイポロジー(それぞれアヴェイロ大学図書館、 セラルヴェス現代美術館、ガリシア現代美術センター)

【siza 3】被覆性 模型
シザのドローイングの卓越性は言うまでもないが、そのモチーフとしてヌー ドを描くことは意義深いだろ う。『CASABELLA JAPAN856 身体とデッサン 』*1 においてシザの ヌ ードデッ サ ンに関する特 集 が組ま れそ の中だけ でも55点の ヌードデッサンが確認されている。加え前掲書ではシザのヌードとエゴン・シー
レ、グスタフ・クリムト、表現主義の先駆けとなった世紀転換期ウィーンの芸 術家2 人のヌードデッサンとの類似性が指摘されている。*2(fig.1)(fig.2)世紀転 換期ウィーンは、誤解を恐れずに言うならば表層にまつわる問題に芸術、建築、 都市すらも囚われていた時代であ
る。クリムトの生み出す金箔でデコレートさ れた平面的な衣装、シーレの描き出す木の表皮のような人体の皮膚、どれも表 面の装飾に関連する意識の現れだと捉えることができる。ここで反装飾論者と して名高きウィーン同時代の建築家アドルフ・ロースが浮かび上がる。
ロースは「装飾は犯罪である」で知られるスキャンダルな言葉だけが切り取 られた結果、装飾や様式を批判し機能主義、合理主義に傾倒した人物だと誤解 されることが少なくないが、彼が行ったのは総合芸術運動が都市から室内まで 全てをデザインし統一しようとすること、つまり新たな装飾で都市を支配せん とする様式固執への異議申し立てである。
家屋は外に向かっては沈黙 し、内部では豊かさのかぎりを実現するよう に したい。*3
ロースは都市に対しては愛想のないシンプルなファサードを設えた一方、内 部は大理石の艶めきで空間を満たした。これはしばしば男性的/ 女性的と例え られ *4 その強い図式と当時ウィーンで盛んに行われた精神医学に関する議論と 関連づけられロース建築の特質を担う禁欲性や官能性を語る上で主要なトピッ クであるが、ここでは外面/ 内面を隔てる「境界面」という要素だけを抽出し ておく。ロースはゴットフリート・ゼンパーの理論を下敷きにした「被覆の原理」 において壁を絨毯に例え、4 枚の絨毯が立ち現れることで触覚される内部空間 を設計において重要視したことや「ロースの建築衣裳論はもともと、人間を被 覆する界面としての皮膚、それ自体が衣裳にもなりうる皮膚に対して、緊張関 係を孕むものだっ た。」という田中純による指 摘 *5 など、絨毯や衣裳な ど1 枚 の面によって構成された、感覚される被覆的空間を生み出さんとする設計理念 が確認できる。
「装 飾と犯 罪 」に続 く ロー ス の代名 詞 とし て「 ラウ ム・プ ラン」 を 挙げ るこ とができよう。プランを各階ごとに平面的に考えるのではなく、三次元的に計 画する こ とで水 平、垂直方向 に 自在な大きさを獲得しようとする理念であ る。 被覆的な空間を志向する意識が三次元的に空間を捉えようとする態度に繋がっ ている。またロースは触覚を特権視した結果、伝達手段としての平面図やその 寸法に対して懐疑的な態度をとり、内部と外部を同時に操作できる模型を使っ た特殊なスタディ方法をとっていたとされている。*6(fig.3) ところでシザとロースの類似性は度々指摘されている。『ユートピアへのシー クエンス』において鈴木了二 は、ロースは ル・コルビュジ エ、ミー ス、ラ イ トに続 く4 人目のモダニストであるべきだったと賛辞した上でシザをロー ス の継承者だと述べている。*7 またa+u 1989年6 月臨時増刊号『ALVARO SIZA 1954-1988』*8 においは、シザのドゥアルテ邸(1985年 ) とロースのシュタイ ナー邸(1910年) の類似性が指摘されている。2 つの住宅の写真を見てみよう。
禁欲的な白いスタッコ塗りのファサードや、正面のプロポーションやヴォール ト状の屋根など外部形態に類似点が見られ る。(fig.4)(fig.5) プランにおいて 階 段を交流の場あるいは転調の装置として使うような配置、内観に現れている大 理石や黒 っぽ い着色 仕上げ の マホガニー な どの被 膜 感も共通して いる。(fig.6) (fig.7) シザ自身影響を受けた本として『装飾と犯罪』を挙げている *9 ことなど 考慮してもシザとロースが「被覆性」を共有していることが言えそうだ。
加えて、『建築文化5月号 Alvaro Siza Thinking by means of drawing』の「何 も足さない建築、何も引かない建築」10 と題されたテキストにおいて塚本由晴 はシザの建築について
素材の表面性の強調は、素材の分節を単に尺度の問題にとどめるのではな く、「表面が作る空間」といえる次元にまで高めることによって――― と述べ、シザの素材の扱い方とそれによって生まれる表面性の指摘を行なって いる。ロ ースの被覆 の原理の 重要 な要 素と して 素材 の在 り方 が挙 げら れる が、 この点においてもシザとロースの被覆性は通底している。 ガリシア現代美術センター、サンタ・マリア教会などシザの一連の代表作を 思い起こしてもシザは構造主義者だとは明らかに言い難く、人間に感覚される 被覆的な設計思考があると言える。
シザ は世紀 転換期ウィ ーンの芸術家 シーレやクリ ムトに代表さ れるような 表 現主義的なヌードデッサンを行う。
ロースは被覆的な建築空間を志向し、特殊な模型を使ってスタディしていた。
シザの建築作品 は、同じく世紀転換期ウィーンの建築家アドル フ・ロース と の類似が指摘されている。
スーロ・フルドア 築建代近のてしとアィデメスマ 訳強畑松 ナーミロコ・スリトアビ 6*
04.p ,版出LIXIL , 7102 』スンエクーシのへアピトーユ『 ,二了木鈴 7*
701.p ,」8891-4591 ザシ・ロァヴルア「 号刊増時臨月6年9891u+a 8*
*1 『CASABELLA JAPAN856 身体とデッサン』

*2 同号付録p.17

*3 アドルフ・ロース , 伊藤哲夫 訳「装飾と犯罪」, 2021, ちくま 学芸文庫
*4 田中純「建築のエロティシ ズム 世紀転換期ヴィーンにおけ る装飾の運命」, 2011, 平凡

社新 書 p.118
*5 p.159
とル・コルビジェ」, 1996, 鹿島出版社 , p169
*9 in/discipline by Alvaro Siza 」, 2020, SERRAVES, p.263














*10 建築文化5 月号『Alvaro Siza Thinking by means of drawing』, 1997 p.28








(fig.1)シザのヌードデッサン
(fig.2)シーレのヌードデッサン
(fig.3)ロースのルーファー邸におけるスタディ資料
(fig.4)シザのドゥアルテ邸 外観
(fig.5) ロースのシュタイナー邸 外観
(fig.6)シザのドゥアルテ邸 内観
(fig.7) ロースのシュタイナー邸 内観
(fig.1)(fig.2) (fig.3) (fig.4)(fig.5) (fig.6)(fig.7)4】特定の視界 変形
鈴木了二は『ユートピアへのシークエンス』においてロースの理念であった 「平凡さ」の言葉を用いてシザの自己抑制の能力の高さを賞賛している。 *1 シザ 自身もデザインついて語る中でロースの椅子に関する考察を引用しながら凡庸 の重要性を説き、この凡庸性を噛み砕いて「それがそれであるように見えること」
と表現している。*2 この言葉をもう少しだけ掘り下げてみよう。
建築文化5 月号『Alvaro Siza Thinking by means of drawing』にて手塚由晴 はシザの建築を「普通だけど少し違う」と評価しエレメントの扱い方に言及し てい る。*3 手塚によるとシザは近代以降の建築家が行ってきた伝統的な建築 の 要素を排除をせ ず、変形によって再定義しているの だ。抽象的な空間の設計 に おいて、幅木や周り縁などの建築に具体性を帯びさせてしまうエレメントは省 略される傾向にある中、シザは幅木を人の腰の高さまで拡張したりと変形を加 えることで壁-腰壁-幅木のエレメントの階層を揺るがし抽象化している。 シザがエレメントの操作によって「普通だけど少し違う」空間を獲得してい ることを確認した上 で、抽 象化 以外の 効果 につい ても 考えてみよう。 サン タ・ マリア教会の窓の写真であ る。(fig.1) 普通よりもかなり高いラインに設られ た 幅木(腰壁)によって撮影者(筆者)の身長(165cm)から導き出される消失 点よりも高い位置にアイレベルを錯覚する現象が起こっている。シザはエレメ ントの変形を行うことで空間そのものにパースを効かせているのだ。ポルト大 学建築学部の図書館の写真、図面を見ても分かるように画角のみではなく、トッ プライトそのものに角度がついていることが確認できる。(fig.2)(fig.3) 前掲誌において戸室太一は




シザが描くスケッチはパースペクティブが多い。パースはプロポーション を誤りやすいといって避ける人もいるが、シザの場合はプロポーションに はこだわら ず、どちらかというと物のつながり 方、物と物の関係に重点 を おいてい る。パースは1つの焦点を結ぶ物ではな く、面が次から次へと つ なげられていく。*4
と述べてい る。シザは空間そのものにパースを効かせることによって物と 物、 つまり空間同士を次から次へと繋げる映像的な性格を獲得している。このこと が顕著な事例として、ピカソ美術館のコンペに関するスタディにおいては、一 つの空間に対し複数のドローイングを描き、まさに映像的な視点で設計スタディ を行っていることが確認できる。(fig.4)
ま た、 『CASABELLA JAPAN856 身 体とデッサン』におい てシザのドローイ ングと建築の関係性についてモーリ ス・メルロ=ポンティ の『知覚の現象学 』 から「空間の知覚と事物の知 覚、事物の空間性とその存在 は、2 つ別々の問 題 ではない」とポンティの説明を交えながら解説がなされており *5 シザの作品に おいて顕著である、実空間と事物の空間(=ドローイング内の2次元的な空間) の錯覚を起こすような性質は現象学的な側面から説明可能なものであると言え る。例えば、シザはエレメントを変形させパースの効いたドローイングのよう な空間を実際に立ち上げる操作を用いるが、それが映像的、現象学的な効果に 直結する。(fig.5)(fig.6)
シザの作家性とし て「普通だけど少し違う」抽象的な空間が挙 げられ、そ れ はエレメントの変形によるものである。
パースが効いたドローイングのような空間 は、空間の知 覚 とそ の 存在を 同一 視するような映像的視点をもたらしている。
エレメントの変形は空間の認知にも影響を与えている。変形された幅木(腰壁) によって自身のアイレベルとは異なったパースが知覚される。
シザ 特有の パースが 効いたドロー イングがそ のまま 立ち上が ったような空 間 の奥行きを獲得している。
号月5化文築建 1*版出LIXIL 7102 , 』スンエクーシのへアピトーユ『 ,二了木鈴 1*
『Alvaro Siza Thinking by means of drawing』 ,1997 , p.87





*2 a+u2010年 11 月臨時増刊 号『SIZA AU THORONET ル・トロネのアルヴァ ロ・シザ
―経路と作品』,2010 , p.107
*3 建築文化5月号『Alvaro Siza Thinking by means of drawing』, p.151
*4 同号p.86
*5 『CASABELLA JAPAN856 身体とデッサン』別冊付録p.18
(fig.1)サンタ・マリア教会内観写真
(fig.2)ポルト大学建築学部図書館の図面 (fig.3)ポルト大学建築学部図書館の内観写真
(fig.5)サンタ・マリア教会ドローイング
(fig.6)サンタ・マリア教会内観写真
(fig.7)ガリシア現代美術センター内観写真
program : Church
site : Sakurazaka, Fukuoka, JAPAN
date : 2023/02/02~2023/02/19
















































































































































































