Outdoor Japan Traveler - Issue 50 - Winter 2014

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「あ

れかな?」。2ヶ月分の遠征の装備を満載し

た双発機ツインオッターの窓から、私は眼 下に広がるグリーンランドの凍てつく大地

に、ポツリと建つ小さな小屋と氷で覆われた滑走路を見つ めてつぶやいた。それはグリーンランドで最北にある飛行場 というだけではなく、地球上でもっとも大きなこの島の北東 エリアで唯一アクセスが可能な玄関口でもある。 私は、文明から隔絶されたこの場所へオーストラリア地 質調査隊による遠征メンバーのひとりとして招 聘された。 経験豊富なガイドとして、またカメラマンとして2ヶ月におよ ぶ撮影という任務を課せられていた。飛行機はすでにその 氷で覆われた小屋に向かい急降下を始めているというの に、私にはこれから起こることへの心の準備がまだできてい なかった。 その私たち6 名は、遠征の準備を整えるためにやってき た。ベースキャンプ・マネージャー、スノーモービルのメカニッ ク、ガイドをまとめるリーダーとガイド3人、そのうち私を含む2 人は撮影班としての任務も兼ねていた。それは遠征隊の、 北極圏での毎日を映像として残すことだった。飛行機が氷 の滑走路を滑り降りたとき、私の人生でもっとも過酷で挑戦 しがいのある任務が始まりを告げた。

ザ・ミッション (ある任務) この地域での1ヶ月にわたる準備と探査ののち、私たちは 今回の予定でもっとも長距離の任務に遂行することになっ た。早朝、ナーレリットイナート飛行場近くに設けたベース キャンプから燃料や装備を積んだ4台のスノーモービルに4 人のスタッフがそれぞれ乗り出発。その後には250kg近くの 荷物を積んだトレーラーが牽引されている。 このメンバーたちはすでに過酷な冬を経験していた。リー ダーのフィル・ポールはグリーンランドでの生活を何年か経 験していたし、グニーラ・リンドウは厳しい冬のスウェーデン で育った。ダレン・ハリスはフランスアルプスのベテランス キーヤーだ。私はオーストラリア育ちだが、過去7回の冬を 北海道で過ごし、その地でフォトグラファーとして、またよく知 られたバックカントリーでの、撮影のガイドとしても働いた経 験があった。 この任務の目的は100km先のシドカップ小屋に、将来の 遠征に備えて備蓄燃料を届けることだった。その場所はス コースベリースンド峡湾の上にある。当初の計画では午後 の早い時間に小屋に到着し夜をそこで過ごし、翌日はマイリ ンランドまで遠征して未踏の峡湾 (フィヨルド)へのルートを 可能ならば捜しだす。そして夕食までにはベースキャンプに 戻るというものだった。 悪天候に加えて北極圏の厳しい風と雪、そして氷の状 況に陥った私たちは、山越えのルートからやむなくスコース ベリー峡湾をトラバースすることにした。しかし、この判断が 悲惨な結果を招くことになった。しばらくすると、氷の海原に ある氷山と腰までつかる新雪のなかに私たちはいた。この ルートは距離が2 倍になり、私たちとスノーモービルに過大 な負担を課してしまった。 午後 9 時を過ぎても太陽はまだ山の上にあった。すでに

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