NichigoPress (NAT) May.2019

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2019年5月 35

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Web版

特集/インタビュー

19 豪州で活躍する女性 20

「不可能はない」という思いで新たな道を切り拓き続ける

「JUAN Bowl & Tea」オーナー・シェフ

石黒アンナさん

シドニーで人気の丼カフェ・レストランと聞いて、真っ先にその名が挙がるのは市内南東部のレッドファーン にある「JUAN Bowl & Tea」だろう。2017年10月にオープンして以来、連日行列ができている同店。また、昨 年11月から今年3月末の期間には、長野県白馬村でポップアップ・レストランも営業し大盛況だったという。さ まざまな挑戦を続ける石黒アンナさんに、現在に至るまでの心境や、白馬村での経験について話を伺った。

――「JUAN Bowl & Tea」では、なぜ 「丼」を提供しようと考えたのですか。 また、メニューにあるマッチング・ティー を取り入れた経緯を教えてください。 一番最初に店をオープンしようと決め た時、実は大好きなすしレストランを開 きたかったんです。しかし、日本からすし シェフを連れてくるには言葉やビザなどの 問題があり、また、私がすしシェフのバッ クアップをするのは難しいなと思いまし た。それまでケータリングのメイン・キッ チンやカフェで働いてはいましたが、すし は握れないと思い、他の誰かに頼る店で はだめだなという結論に至りました。 そこで、自分でできることは何かと考 ひらめ えた時に「丼をやろう!」と閃 きました。 丼なら“ちらしずし”も作れますし、魚以 外にも肉や野菜など何でも使えます。そ して、店がオープンまでの約1年間、 「や りたかったすしレストラン」の経験を積 みたくて、元「華樹林」のすしシェフ・松 谷さんの下で勉強させて頂きました。 丼もの屋を始めるに当たって、シンプ ルかつお洒落な丼にしよう! と考えまし た。日本で丼と言えば牛丼やカツ丼、親 子丼などですが、どれもカラー・イメージ は茶色や黄色などです。私は、それらと は違う丼を作りたいと考え、また店はカ フェのようにしたいなと思っていました。 ただ、私はコーヒーも大好きなのです が、丼とコーヒーは合わないし、レッド ファーンには人気のカフェが多く点在し ており、あえてそこに参入する必要はな いと考えました。また、お茶の専門店は 少なく、丼とも合い、ワインと同じように さまざまな組み合わせがあると考え、日 本茶を始め、中国、台湾、オーストラリア の高級茶から厳選して提供するスタイル にしました。 ――「丼×お茶」にはどのような反響が ありましたか。 お 客 様 の 5 0 % 以 上 が マッチング・ ティーを注文されます。ワインと同じで、

長野県白馬村で、期間限定オープンさせた「JUAN Wagyu Steakhouse」

「JUAN Wagyu Steakhouse」で提供した牛肉

人によって好き嫌いや感じ方が違うと思 いますが、お茶の提供はオーストラリア では珍しいこともあり、好評です。 例えば、WAGYU丼と共にお薦めしてい る「Jin Jun Mei(金俊眉)」――。これは 中国紅茶の最高峰として知られています が、飲んだ後に程良いうまみと甘さが口 の中に広がります。丼ソースにタマネギと ニンニクを使用しているので、この紅茶 を飲むことで口の中がクリーンになりま す。そうすると、丼のふた口目もまた、ひ と口目と同じおいしさを味わえます。 ――2017年10月にオープンした「JUAN Bowl & Tea」ですが、ローカル・サイトで のアワードの受賞など地元民からの人 気も非常に高いです。オープンから現在 までを総括すると、どのような思いがあ りますか。 ご と 「光陰矢の如し」で、本当に一瞬でした。 丼もの屋をやる! と決意し、元々更地 だった場所を店舗場所に決めてからオー プンまで、実に1年7カ月掛かりました。 先の見えない、何も分からないゼロから のスタートですごく重いプレッシャーと 闘っていたことは鮮 明に覚えているの ですが、なぜだか 不安は全くなかった です。当時はレストランで働きながら、 開店 準 備を着々と進めました。店 舗 設 計、DA(Development Application)、 「Food Safety Supervisor(FSS)」の 取 得など分 からないことだらけでした が、1つひとつクリアしていきました。 オープン当初は週6日営業で、キッチ ンは私とキッチン・ハンド1人だけでし た。そしてある時、著名なブロガーやイ ンスタグラマーが来店されたことをきっ かけに、2週間後の週末には大行列が出 来上がっていました。そのころから運営 が全く回らなくなり、完全予約制に変更 しました。食 材の仕込みもほとんど1人 でしていたため、毎日朝8時から日付が 変わった午前2時まで働いていました。 その後、メニューを8品から5品に減らし ましたが、それでも追い付かなくなりま した。2017年12月末まで頑張りました が、自分自身に限界がきていると感じま した。一度、仕切り直そうと正月から3週 間、店を閉めました。 再 開してからは、ありがたいことに シェフ仲間が入れ替わりで店を手伝って くれることになり、何とか今までやって こられています。気持ちが落ち着くのに 1年掛かりました。その1年を通して、ス タッフの存在がどれだけ大切なのかを身 に染みて理解しました。現在、店では多 くの日本人スタッフが働いていますが、 皆の時間や意見を尊重して、なるべく意 向に沿うようにしています。 常に思うことは「不可能はない」とい うことです。可能にするためにどうするか を考え、それを行動に移すだけだと思う んです。 「無理かな?」は、私の中にはな いです。努力すれば、何事であっても不 可能はないと思います。それが、今まで の私の人生、これからの人生でもありま す。全ての経験が、今の自信につながっ

プロフィル◎「JUAN Bowl & Tea」オーナー・シェ フ。17歳で芸能事務所に所属し、 歌や芝居、ラジオDJなどの仕事の傍 ら、ウェブ・デザイナーとしてもキャリア を積む。来豪後、ローカルのレストランや カフェのキッチンで働き、2017年10月にシ ドニー・レッドファーンに「JUAN Bowl & Tea」をオープン。18年12月から19年3月 末まで長野県白馬村で、レストラン 「JUAN Wagyu Steakhouse」 を営業した

ているのは間違いありません。 まだまだチャレンジしてみたいことは たくさんあります。いろいろな壁がありま すが、これからも1つずつ乗り越えて、目 指すべき所に辿り着きたいと思います。 ―― 昨 年 11 月 か ら今 年 3 月 末 ま で、 長 野 県 白 馬 村 で「 J U A N W a g y u Steakhouse」というポップアップ・レスト ランをオープンしていたと伺いました。 自分を仕 切り直すために2018年1月 から3週間、店を閉めていた間、シドニー にあるホテル内のレストランが長野県白 馬村でポップアップ店を出しており、そ の手伝いをさせて頂きました。 白馬に着いてビックリしたのが、オー ストラリア人や訪日外国人だらけだった ことです。ホテル・スタッフも皆、白人か バイリンガルの日本人でした。日本なの に海外にいるかのような感覚に、本当に 驚きました。 その後、泊まっていた白馬のホテル・マ ネージャーがシドニーに来てくれ、久々 に会うことになりました。彼はホテルを 辞めており、 「何か一緒にできたら面白 いね!」という話になりました。彼の帰国 後、実際に話を持ちかけ、すぐに物件探 しを始めました。18年10月末にようや く借りられる物件が見つかり、11月2日 には白馬に飛び、住民票を入れ、事業届 けを出し、物件の契約を5日間で終わら せ、シドニーに戻りました。慌ただしい準 備期間となりましたが、皆が助けてくれ たからこそ、実現できたポップアップ・レ ストランでした。 本当に良いタイミングで、あの時だから こそできたことだと思います。シドニーで 店をオープンさせてから1年で海を渡った 日本で、ポップアップ・レストランを開店で きたことには自分でも驚いています。私の 人生のテーマは「挑戦」なんです。子ども のころからそうやって生きてきたので、一 生変わることはないと思います。 ――「JUAN Wagyu Steakhouse」は、 どういったコンセプトで運営されたので すか。 日本でウィンター・スポーツを楽しもう と海外から来る人たちのために、おいし い炭火焼きの和牛を食べて欲しい! とい うコンセプトで、メニューはただ1つ「おま かせ」のみでした。和牛ステーキ3~4部 位のカットを楽しめるプレートに、グリル 野菜とサラダ、ポテト2種盛りというセッ ト・メニューです。客層は、落ち着いた人 たちが多く、家族連れにもたくさん来て 頂きました。 また、インテリアとして大 活躍してく れたのが盆栽です。 旧友である盆栽師・ ひ ら お ま さ し 尾成志が、 わざわざ埼玉から白馬まで 平 彼の盆栽を10点ほど持ってきてくれまし た。お陰で、店の雰囲気がグッと良いもの となりました。そして、ヘッド・シェフを務 めてくれたゴウやカナダ生まれの日本人マ ネージャーとそのお兄さんが店をしっかり と切り盛りしてくれたこともあり、お客様 からのレビューは9割片5つ星でした。

フライヤーを配ったり、口コミやホテ ルからの紹介で、シーズン中は安定して お客様に来て頂けました。また、本当に すばらしいレビューも頂き、3カ月限定の 営業では、もったいないなと思う店にな りました。 ――最後に石黒さんの、今後の展望など について教えてください。 今年はやりたいことが1つあり、それが 今の目標です。それも現状を維持しなが らの挑戦になりますが、実現できるよう 先を見据えた準備をしたいです。また3 年以内には、オーストラリア以外のアジ アでも店をオープンさせることを漠然と ですが、視野に入れています。 とにかく、今やりたいことをやる! 今 を楽しむ! 日々を楽しくハッピーに生き ていきたいです。

丼、マッチング・ティー、デザートなどメニューもバラエティー に富む

ふんわりとした卵をまとった「UNAGI HITSUMABUSHI」

「JUAN Bowl & Tea」の店内。すっきりとシンプルだ JUAN Bowl & Teaオーナー・シェフ・石黒アンナ(いしぐろ あんな) ■住所:Shop 5, 94A Pitt St., Redfern NSW ■営業時 間:【ランチ】木~日12PM~3PM、【ディナー】水~日 6PM~10PM、月・火休 ■Facebook: www.facebook. com/juanbowlandtea ■Instagram:「juan.redfern」 で検索 ■備考:フェイスブックやインスタグラムから予 約するのがお勧め


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