NichigoPress (NAT) Jan.2018

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14 2018年1月 新年展望

三菱東京UFJ銀行 オセアニア総支配人兼シドニー支店長

豪ドルの底堅い動きは継続

為替

谷村昌彦

プロフィル◎1989年4月三和銀行(現三菱東京UFJ銀行) 入行。ストラクチャード・ファイナンス部、アジア投資銀行 部(香港)、アジアCIB部(シンガポール)、欧州CIB部(ロ ンドン)、トランザクションバンキング部などを経て、2016 年10月より現職。東京大学、ニューヨーク大学ビジネス・ス クール卒業

EY ジャパン・ビジネス・サービス オセアニア・アジア太平洋地域統括 /パートナー

菊井隆正

プロフィル◎豪州国内で約20人の日本人スタッフを抱え る世界4大会計事務所の1つEYのアジア・パシフィック及び オセアニア地域日系企業担当部門代表。在豪20年を超え る。常に監査、会計、税務から投資まで広範囲にわたる最 新情報を提供することで、オセアニアで活躍する日系企業 に貢献できるよう努めている

コンプライアンス意識の浸透を図る取り組み

会計・税務

2017年、世界はトランプ米大 統領の政治・経 済・外交政策に大きく揺さぶられる年となった。 国際 政 治では極 端な右傾化は回避されたもの の、反グローバリズム、反移民を公 約に掲げる 政党による政権獲得、勢力拡大の事例が相次い だ。米国のTPP及びパリ協定離脱も顕著な事例 と言える。経済では米国の景気拡大は9年目を迎 え、米株価は史上最高値を更新、その余波が豪 州含め世界の株価を押し上げた。中国も底堅い 成長を維持し、特に貿易量回復を通じてアジア太 平洋地域の景気底入れに貢献した。 こうした中、豪州の景気拡大も継続した。豪ド ルは軟調な米ドルの動きに加えて、R BAが次の 一手は利上げと明言し、そのタイミングを図る姿 勢を見せたこともあり、総じて底堅く推移してい る。以下17年の豪ドル相場を振り返りつつ、18年 の相場動向を展望する。 17年、豪ドルの対米ドル相場は0.72ドル台で 取引を開始した。年初から米ドルが対主要通貨 で軟調に推移すると豪ドルは上昇し、0.77ドル台 まで上昇した。しかし上値の重さを確認すると下 落し、しばらく横ばい圏での取引が続いた。7月 に入ると欧州、英国、カナダの中銀総裁が相次い で金融緩和の巻戻しや金融引き締めの可能性に 言及した。これが豪州を含めたグローバルな協調 利上げ機運の醸成につながり豪ドルは急上昇、 米国の追加利上げ期待が後退すると米ドルが急 落、この結果豪ドル買いが殺到し、約2年2カ月ぶ りに0.78ドルを突破した。 その後RBAが景気について明るい見通しを示 したことや、米国の追加利上げ期待が一層後退し たことで豪ドルは一段高となり0.80ドルの大台を 突破、9月には15年5月以来となる0.81ドル台まで 上昇した。しかしRBAが米国を中心とする金融引 締めの潮流に追随しない意向を示したうえ、イン フレ率が予想を下回ると豪ドルは下落に転じた。 二重国籍問題による議員辞職で、与党の下院議席 数が過半数を割り込むと政治不安も加わり急落、 0.75ドル台まで値を崩している(11月末現在)。 対円相場は年初84円台で寄り付き、年前半はドル

円に追随する動きとなった。7月以降の豪ドル上昇局 面では、一時15年12月以来となる90円を突破したが、 その後84円台まで値を下げている(11月末現在)。 18 年は、海 外情 勢では引き続き米国景 気 動 向が鍵を握る。足元は株価が史上最高値を更新 するなど堅調だが、市場の注目はその持続 性に 移っており、その命運を握るのは金融政 策であ る。15年12月に始まったFRBの利上げは3年目に 入り、通常2年強程度とされる引き締め期間を勘 案すれば、サイクルは終盤に近い。イエレンFRB 議長の後任としてパウエル現FRB理事が就任す るが、今後は微妙な舵取りが要求されるだけに、 新議長の市場との対話力が注目されよう。 豪州経済を俯瞰すれば、景気拡大は26年間に 及び、一時期に比べれば力強さに欠けるが底 堅 さは不変だ。石炭や鉄鉱石など主要輸出資源価 格が中期的に見れば底入れしていること、財政・ 金融政策両面において景気をサポートする方策 が取られていることから、本年も景 気拡大が持 続すると見る。豪ドルはファンダメンタルズが良 好な点、米国の利上げサイクルが終盤に入り米ド ルが買い進めにくい点を踏まえれば、今後も底堅 い値動きが続くと見込まれ、上値を試す展開を 予想する。政策金利は16年8月に史上最低となる 1.5%に引き下げられたまま据え置きが続いてい る。減速する内需、低いインフレ率に加え、この ところ住宅市場が調整色を強めていることから、 足元で利上げを急ぐ必要は見当たらない。しかし 景気が再加速する兆候が見えれば、金利先高観 が高まり豪ドルは敏感に反応すると予想する。 一方で、米国、欧州、英国などの主要先進国と 比較すると、豪州金利の相対的な魅力が低下して いることは事実であり、早ければ本年前半にも豪 米政策金利は逆転する。これは00年以来の事象 であり、当時は金利差逆転を契機に豪ドル安が 進行しただけに注意を要する。 対円相場は、日豪金利差、両国の金融政策の 方向性に着目すれば豪ドル優位な状況は不変で あろう。下落しても75円近 辺では買い意 欲が強 く、大きく値崩れすることはないと見る。

回顧と展望 2018 メルボルン・カップが開催された2017年11月7日 にオーストラリア株式市場の動向を示す代表的な 株価指数であるS&P/ASX200指数が08年以来、 約10年ぶりに6,000ポイントを超えた。株高の背 景には好調な企業業績、良好な展開を示している 世界経済と資源価格の上昇があり、EYが17年10 月に実施したグローバル調査の結果でも大半のエ グゼクティブが、企業のビジネス環境は金融危機 以来では最もポジティブになったと回答した。 オーストラリアにおいて一番大きなニュースの1 つとして挙げられるのは457ビザの改定である。 17年4月に政府は特定のスキルや経験を持った 人材(駐在員など)を海外から派遣する際のビザ の条件を厳格化することを発表した。17年7月に 発表された2度目の改正で揺り戻しという形で概 ね要件が緩和されたが、移民局は半年ごとに労 働市場のニーズに合わせて職 業リストやその他 要件を見直すと発表しており、今後の動向が引き 続き注目される。 一方、税務面では他国と同様、オーストラリアで も「多国籍企業は課税逃れで十分な税金を払っ ていない」というイメージが国民に浸透しており、 豪州税務当局(ATO)は質・量共にコンプライアン ス意識を浸透させるための取り組みを強化した。 「質」としては、租税回避行為を防止する新しい 法律とそのコンプライアンス実務指針(Practical Compliance Guidelines)の導入や、税務リス クが高いとされる企業に対し、法人所得税の申 告と併 せて 税 務上の取り扱いが 不 明 確な取引 や重要な取引に関わる情報(Repor table Ta x Position)提出の義務化を提案した。 「量」の面 からはトップ1,000企業を対象にしたレビュー・プ ログラムで、売上げが2億5,000万豪ドル以上の多 国籍企業に対する税務レビューが行われることを 発表した。更に、そのレビューの過程でこれまで 低リスクとしてATOがサイン・オフしていた税務ポ ジションを見直すとしている。 ATOが導入した国別報告書に関する規定によ り、ローカル・ファイルという移転価格に関連する 書類の作成及び提出が今年から必要になった(決

算期によっては18年初めから開始の会社もあり)。 オーストラリアの規定はOECDの規定より広範囲で あるため、通常全ての関係会社間の契約書も一緒 に提出することが求められるので注意が必要であ る。更に、日系企業など該当する会社はローカル・ ファイルと共に一般目的財務諸表(GPFS)もATO に提出することになったが、未だ不明瞭な点が 残っておりATOの迅速な対応が待たれる。 オーストラリアの税制改 正の目玉の1つとして 法人税減税が挙げられる。30%の税率を段階的 に27.5%に引き下げ最終的には25%まで下げる という方針だ。ただし、実際に減税が法制化され ているのは売上げが5,000万豪ドル未満の企業 に限られている。ここ最近の政治家の市民権問 題をめぐる議論で政治は宙に浮いたままで、全企 業に減税の恩恵が行きわたるのは先の話であろ う。米国を含む世界的な法人税減税のトレンドに 乗り遅れることになる。 一方、昨 年は年々高騰している国内のガス料 金や電気料金が注目を浴びた。混沌としている オーストラリアのエネルギー・温暖化政策をめぐ る動きの中、16年に起きた南オーストラリアでの 大規模な停電により同州の再生可能エネルギー への過剰な依存というリスクが顕在化した。政府 から安定供給と低コストが両立する電力市場整 備に向けた調査と提案を委託されたチーフ・サイ エンティストであるアラン・フィンケル氏は、現行 の再生可能エネルギー目標(Renewable Energy Target)に取って代わるクリーン・エネルギー目標 (Clean Energy Target)を推奨したが、政府は 再生可能エネルギーへの補助金を撤廃し、その 代替案として電力供給の安定化と温暖化ガス排 出量の目標設定をうたう国内エネルギー保証政策 (National Energy Guarantee)を導入する方針 だ。これは、電気小売事業者に対し、石炭、ガス、 蓄電システムなどの安定した発電源による電力調 達を強制しつつ、低排出の再生可能エネルギーを 組み合わせることで一定の平均排出目標レベルを 達成するよう保証させるようだが、労働党や各州 政府からの同意は得ておらず詳細もこれからだ。


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