NichigoPress (NAT) Dec.2016

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24 2016年12月 税務&会計

税務&会計 REVIEW EY パートナー/ジャパン・ビジネス・サービス オセアニア/アジア太平洋地域統括 菊井隆正

Web版

マネー/法律/不動産

プロフィル◎アジア・パシフィックおよびオセアニア地域日系企業担当部門 代表。常に監査、会計、税務から投資まで広範囲にわたる最新情報を提供す ることで、オセアニアで活躍する日系企業に貢献できるよう努めている。

オーストラリアの再生可能エネルギー動向 オーストラリアは広大な土地と日照環境や安定的な風に恵まれ、再生可能エネルギー資源が豊富な国です。独立した気候変動の研究機関のレ ポートによると、現在未利用の再生可能エネルギー源のポテンシャルは同国の電力需要の500倍の供給能力があると言われています。有利な自然環 境を保有する傍ら、オーストラリアの発電電力量における再生可能エネルギーの利用率は国際エネルギー機関加盟28カ国のうち下から7番目です。 今月号では、シドニー日本商工会議所(JCCI)発行の「オーストラリア概要2016/17」に寄稿した記事を紹介します。

2014年における発電形態は下表の通り です。化石燃料の全体の比率が縮小してい るのに対して、再生可能エネルギーはここ 10年で6.8%成長しています。 オーストラリアの発電形態 種別

割合(%)

石炭

61.2

ガス

21.9

石油

2.0

再生エネルギー

14.9

(出展:Depar tment of Industr y and Science,‘Australian Energy Update 2015’)

世界各国において、再生可能エネルギー の導入は政府の気候温暖化対策やさまざ まな公的支援に支えられて拡大するのが 一般的ですが、オーストラリアも例外では ありません。 オーストラリアでは80年代から地球温 暖化対策に対応したさまざまな施策が導 入されましたが、その後の政府の予算カッ トやプロジェクトの見直し、更に政策変更 などにより廃止されたものも少なくありま せん。直 近では労働党時 代に導入した炭 素価格制度が保守政権に変わってまもな く廃止され、代替策として現保守連合政権 が15年にDirect Action政策(※)を導入 しました。 一方、再生可能エネルギー源による発電を 促進する目的で導入した再生可能エネルギー 目標(Renewable Energy Target、RET)は、 超党派の支持を得ておりオーストラリアにお ける再生可能エネルギーの普及を後押しする 政策の柱となっています。 RET制度 R ET制度の起源はハワード内閣にさか のぼり、10年までに再生可能エネルギー による発電を2%に増やすことを目指し、 01年 にスタートしました 。また、その 後 の 労 働 党 政 権 に替 わってからは、2 0 年 までに国内電力の20%以 上(または4万 5,000GWh)を再生可能エネルギー源で 賄うべく、09年に同政策を拡大しました。 11年に発 電 規 模に応じて大 規 模 発 電 (L R E T)と小 規 模 発 電(SR E S)に分割

し、大規模発電(風力、商業用太陽光及び 地熱)で4万1,000GWh、残りを小規模発 電(家庭用太陽光発電など)で達成すると しました。 これらの目標を達成するため、小 売電 力事業者などに対しては、購入電力量の一 定割合について、再生可能エネルギー証書 (REC)の取得が義務付けられています。 同事業 者は、再生可能エネルギー電力 の年間取引の申告において、法定責任を果 たしたことを証明するため、規制当局にこ の証書の提出が求められます。法定の責任 を果たすことができなかった時は、課徴金 が課されるという仕組みです。 一方、再生可能エネルギー事 業 者は発 電量に応じて発行された証書を小売電力 事 業 者などに販売することができます。 従って、再生可能エネルギー事業者は発電 した電力と共に証書の販売も採算性の観 点から重要な役 割を果たしており、同政 策の継続性及び確実性は再生可能エネル ギー業界の成長を後押ししている構造と なっています。 実際、R ET制度の導入により、風力・太 陽光などの大規模再生可能エネルギー発 電 設備が400件設置され、また家庭用の 屋根上設置型太陽光パネルでは140万基 以上の設置が促進されました。これらは再 生可能エネルギーによる発電の割合を8% (01年)から14.9%(14年)まで引き上げ たことに貢献し、その結果二酸化炭素排出 においては01年から14年の間で電力発電 による年間排出量の10%を削減したという レポートがあります。 RETの見直し 屋根上設置型太陽光パネルが普及し電 力ユーザーの節電意識の拡大で電気料金 と共に電力需要は年々低下しており、この まま進むと法制化した4万1,0 0 0GW hの 達成目標値は直近の20年には予想電力需 要量の27%くらいを占めるレベルとなり、 RETのコストとその必要性に疑問の声がそ の後生じるようになりました。 その 影 響で14 年2月、アボット内閣は R E Tの見直しを図り、主な変更 点は大規 模発電(LRET)の目標値を実需に合わせ

て引き下げる方向で検討を開始することを 発表しました。これを受け、見直しが発表 されてから15年の半ばくらいまで再生可能 エネルギーへの投資意欲が消失し関連プ ロジェクトへの資金調達も凍結しました。 総額150億米ドルの大規模再生可能エネ ルギー・プロジェクトも一時中断となり、世 界最大の集光型PV太陽光発電所(ビクト リア州、ミルデュラに100M W規模)の建 設計画も卸売価格の低さとR ETの見通し 不透明性から中止されました。その後、15 年5月にターンブル政権は再生可能エネル ギーによる大規模発電(LRET)目標値を3 万3,000GWhに引き下げることで野党と合 意し、同月末には新目標値を含むR E T制 度の改正法案が上院を通過しました。 風力・太陽光に注目 改 正法 案の通 過により、1年以 上 続 い たR ET制度の不確実性が取り除かれ、ま たターンブル政 権に変わってからの政 治 的コミットメントをもって再生可能エネル ギーへの再投資が期待されます。20年ま でに新目標値の3万3,000GW hの再生可 能エネルギー発電を確保するために、例え ば風力のみでその目標値を達成するには 5,000MWの新規の設備が必要となり、投 資額にすると80~120億ドルに相当します (コスト競争上、実際のところ風力で賄わ れる比率が高いと予想される)。 小売電力事業者と再生可能エネルギー 事業者間の長期電気購入契約も、これま でのRET不確実性によって見送られてきま したが、同契 約が再び締結される様相を 見せており、再生可能エネルギー事業を活 発化させることが期待されます。例えばク イーンズランド州のエロゴン・エネルギー 社が15年8月に実施した入札案件には多 数の再生エネルギー事業者からの強い関 心が示されました。 ただ、これまでの投資へのブレーキで大 型の再生エネルギー・プロジェクトは大幅 に不足しており、現在、20年に目標値を達 成するための新規の設備が3分の1しか確 保されていません。 一方、オーストラリアは他の先進国と同 様にインフラが老朽化しておりインフラ投

資を大規模に実施する必要性が高まって います。政府の対策として資産リサイクル・ イニシアチブを導入しており、非中核的ま た老朽化した資 産を売 却し、その売 却収 入が新たな生産性の高い経済インフラに 再投資されています。 政 府の政 策に引き寄 せられ 既に20本 くらいの世界のインフラ・ファンドがオー ストラリアでの投資活動を行なっており、 インフラ事業に投資を求める資金は総額 1,400億ドルにまで達すると言われていま す。今後、インフラ・ファンドも再生エネル ギー分野に資金を振り向けることが予想さ れ、再生エネルギー導入に拍車がかかるこ とが期待されます。 ※Direct Actionとは現保守連合政権が導入 した気候 変 動 政 策 。「飴と鞭 」を組み合わせ た政 策であることが特 徴である。排出を削減 した企業に資 金を提 供する排出削減ファンド (Emissions Reduction Fund、ERF)と一 定の排出量を超えた企 業にペナルティーを課 すセーフガーディング(Safeguarding)メカニ ズムが柱となっている。 シドニー日本商工会議 所(JCCI)発行 の「オーストラリア概要2016/17」の詳細 についてはこちらのリンク(Web: www. jcci.org.au/oz-gaiyo2016-17.pdf)をご 参照ください。 ※この記事は出版時の時点で適用される一般的な情報を掲載 しており、アドバイスを目的としたものではありません。この情 報を基に行動をされる際には、専門家のアドバイスを受けるこ とをお勧めいたします。 菊井隆正(ナショナル) Tel: (02)9248-5986 Email: takamasa.kikui@au.ey.com

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