私について (Livro Memórias - versão Japonês)

Memórias 出逢いで築かれた歴史

メモリーズ 出逢いで築かれた歴史

発行者

協賛

発行者

デザイン・編集

DIÁRIO DO COMÉRCIO

22 Graus Comunicação & Marketing

編集

グラフィックデザイン

Yvan Muls、Denise

Botelho、

Melissa Perete

Cecilia Kruel、Maria Carmen Lopes、 Roselena Nicolau

印刷 Gráfica Formato - 50冊

インタビュー・文章 Maria Carmen Lopes、 Roselena Nicolau

謝辞 ミナス・ジェライス州のヴァーレ・ド・アッソ

校正

地方の歴史、人々、写真を保管して下さった歴

Denise Werneck

史家のジョゼ・アウグスト・デ・モラエス氏に 感謝申し上げます。

写真＆編集 Carlos Hauk、Ígor Silva、

スポンサー

Rodrigo Zeferino、José Augusto de Moraes、

新日鐵住金株式会社

各章の証言者の個人ファイル 協賛 南米新日鐵住金

目次 読者へ贈る言葉 ........................................ 共に歩み、もっと遠くへ – 江川和宏

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プロローグ ........................................... 確かな記念碑 – Luiz Carlos Motta Costa

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第1章 ................................................. 嚢中の物を探る – Valério da Silva Fusaro 第2章 ............................................... ウジミナスに捧げた人生 – Antônio Pedrosa da Silva 第3章 .............................................. 歓迎 – Maria de Lourdes Costa/Antônio de Pádua Costa

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第4章 ............................................... 覚悟と勇気 – Dinah Rezende de Macedo

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第5章 ................................................. 友好関係 – Otoni Vicente Ferreira

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第6章 ................................................. 明るさを失うことなく – Osvaldo Cunha

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第7章 .................................................. ウジミナスは学びの場 – Elísio Cacildo Vieira

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第8章 ................................................. 人生の哲学として – Júlio Olguin

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第9章 ................................................ 二つの愛情 – Flávio Márcio Porto de Lima 第10章 ................................................ 郷土愛 – Carlos Alberto Calazans 第11章 ................................................ ウジミナスと夫に捧げた愛情 – Maria da Conceição Soares 第12章 ................................................. 日本的なミナス気質 – Rômel Erwin de Souza

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第13章 ................................................. 限りない情熱 – Ramoni Valadares Toledo

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第14章 ................................................. スポーツに導かれた人生 – Nardyello Rocha

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エピローグ ............................................ 歴史の番人 – José Augusto de Moraes

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メモリーズ - 出逢いで築かれた歴史

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メモリーズ - 出逢いで築かれた歴史

読者の皆様へお贈りする言葉

共に歩み、もっと遠くの高みへ 江川和宏 今から110年前に、笠戸丸がサンパウロ州のサント ス港に入港し、ブラジルに初めて日本人移民者が入 国しました。その時日本から到着したのはわずか 165世帯でしたが、それは時の経過と共に高まる移 民ブームの始まりに過ぎませんでした。後に、ブラ ジルは日本国外で最大の日系コミュニティーとな り、現在では、国内全土に150万人以上の日系人（ 日本人とその子孫）が、ブラジルの文化に溶け込ん だ生活を送り、この土地の人間として、経済・美 術・スポーツといった全ての分野で活躍していま す。ブラジルの人口の約1％は、日本人の名字を受 け継いでいると言われています。

ないでしょうか。 いま歴史を振り返ってみますと、ウジミナス誕生の 第一歩となった1957年6月3日の「ラナリー・堀越協 定」のその壮大な内容には、大変驚かされます。 当時、新日鐵住金から技術者や幹部社員をウジミナ ス製鉄所建設のためにブラジルへ送り出すことは、 会社や従業員、そして日本国にとっても、歴史上の 象徴的な決断であったと言えます。当社の第二次世 界大戦後初の海外投資案件として、約500世帯の日 本人が地球の裏側にあるブラジルのイパチンガへと 赴きました。

移民の方々のブラジルという新たな土地での生活へ の順応の歴史の過程で、感動的で興味深い数多くの 人生の物語が生まれました。しかし、あまたの物語 がある中で最も心を打たれるのは、物造りの歴史が ない、よく訓練された労働者もまばらで、鉄の文化 もない人里離れた土地に、製鉄所を建設するという 大きな任務を抱え、日本を旅立った人々の物語では

日本政府にとっても、国の再建という重要な時期で ありながら、日本が再び世界の表舞台に立つための 第一歩として決断した、海外における初の投資案件 となりました。これは、未来への希望であり、新た なスタートを意味するものでした。 9

メモリーズ - 出逢いで築かれた歴史

本書「メモリーズ」は、ウジミナスの歴史におけ る数百にも及ぶ出来事や、新たな土地での苦悩、 努力、人々の人生の証を記録しているだけでな く、異なる文化・習慣を持つ人々が、同じ目的に 向かって努力することで、共存し、途切れること のない友情の絆を築くことが可能であることの証 左でもあります。

ブラジルにとり、そして製鉄所建設に携わったブラ ジル人にとり、両国民が力を合わせて一所懸命努力 したことがウジミナスを成功へと導きました。それ はブラジルと日本、そして新日鐵住金やミナス・ジ ェライス州民が待ち望んだ夢の実現であり、このよ うな経緯があるからこそ、お互いにとって「我々 の」や「私たちの」ウジミナスという存在であり続 けるのではないでしょうか。ワールドクラスの製鉄 所を、正にゼロから、共に築き上げたのです。

パートナーシップの下に「一緒に取り組む」という 志が、ウジミナスプロジェクトの当初からの方針で した。そのようなことから、「世界のクロサワ」こ と黒澤明監督の映画「七人の侍」に倣い、まずは10 名のブラジル人が新日鐵住金に派遣され、必要とさ れる知識を修得した後に、日本人と共に製鉄所建設 を指導するためにブラジルに帰国しました。本書で は、その10名のグループの一員として日本に渡った ヴァレーリオ・ダ・シウバ・フザロ氏と、アントニ オ・ペドローザ・ダ・シウバ氏の 2名に当時のこと を語っていただきました。当時の生き証人であるお 二人に敬意を表します。

ブラジル人と日本人には、もう一つ誇らしいことが あります。製鉄所を建設する傍ら、一つの町を築き 上げたことです。イパチンガ市は、新日鐵住金の社 員とミナス・ジェライス州民が一緒に育んできた、 「協力する、共有する」といった文化の賜物であ り、人類の大胆な試みの中でも最も美しい功績の一 つではないでしょうか。 このような思いが胸にあるからこそ、ミナス・ジェ ライス州民や新日鐵住金にとって、ウジミナス、ブ ラジル、そしてイパチンガ市と共に歩む一日一日 は、極めて重要な意味を持ちます。

建設初期を振り返ると、「容易ではなかった」とい うのが共通の思いではないでしょうか。製鉄所を 建設するということは極めて大きな挑戦でした。現 在76歳のオズヴァウド・クーニャ氏とエリージオ・ カシウド氏の証言からも御理解いただける通り、建 設中の町は快適な生活とは程遠く、必要な施設も皆 無の状態でした。両国民にお互いを思いやる気持ち があったとはいえ、ブラジル人と日本人とでは、言 語、宗教、習慣、伝統など、文化的に大きな違いが

1956年、ミナス州での製鉄所建設 の可能性を調査すべく、日本の調 査団がブラジルに到着。

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1958年、調査団は後にイ パチンガ製鉄所が建設さ れる土地を訪問。

ありました。困難を極めた時代でしたが、ウジミナ スの社員向けに様々な倶楽部が設立され、ブラジル 人と日本人とが、役職や仕事上の立場を超えて、共 通点を見出し、関係を築き、お互いを受け入れるこ とで、状況は改善へと向かいました。家族同士の付 合いも改善されました。医師のカルロス・カラザン ス氏は、その当時に青春時代を送っており、自由で 素晴らしい幼少期の思い出を語ってくれました。 時間の経過と共に文化交流が深まり、時代を超える 絆が生まれました。マリア・デ・ロウルデスさん の御子息のアントニオ・デ・パードゥア・コスタ氏 は、当時の「盆踊り大会」を懐かしそうに語ってい ます。日本の伝統である「盆踊り大会」は、今でも 在イパチンガ日伯協会により引継がれています。そ の他にも、日本の文化に深く影響を受けた人がいま す。その一人が、イパチンガ市でも名高いジューリ オ・オルギン氏です。51歳、空手の師範で黒帯で す。18歳の柔道家 、ハモーニ・ヴァラダレス・ト レド選手は、ウジッパスポーツクラブにその将来性 を見込まれた一人で、新日鐵住金がスポンサーとな り、日本で強化練習を行いました。 イパチンガ市は、当時はコロネル・ファブリシアー ノ市の一地区でしたが、製鉄所の活動により著し

1958年、安東義良ブラジル大使 がミナス･ジェライス州ビアス・ フォレチス知事を訪問。

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く発展し、1964年に市として独立しました。町とし ての魅力は日に日に高まり、多くの人が魅了され、 国内各地から集まってきました。それは熱狂的な時 期であり、騒動や様々な緊張に満ちあふれていた時 期でした。その中で、恐らくウジミナスの歴史の中 でもかなり衝撃的なエピソードを、ウジミナス医療 センターの最初の看護師となったジナ・ヘゼンジ・ デ・マセードさん（現在83歳）が勇気を振り絞って 語ってくれました。

新日鐵住金にとって、諸先輩方がウジミナスという 夢の実現に貢献されたことは誇り高いことです。ブ ラジル人の皆さま、特にミナス・ジェライス州の 皆さまも同じ気持ちであると思います。しかし一方 で、今後は更に身を引き締め、未来に目を向け、次 世代のために、より良い企業に育てていかなければ ならないという思いで一杯です。そのための道筋は 明白です。日本人とブラジル人が共に歩んできた歴 史に学び、過去がそうであったように、今を生きる 我々も、ウジミナスファミリーとして、家族のよう に歩み続ける必要があります。

本書の中には、ロマンチックなストーリーも綴られ ています。ウジミナスの整備士兼運転手であったオ トニ・フェヘイラ氏と、中央事務所に勤めていたネ リー・モラトさんは、イパチンガ市で最初に結婚式 を挙げた夫婦の一組です。会社への愛情という点で は、常識では語ることのできない物語があります が、こちらはウジミナス、及び日本人と特別な関係 を築き上げた伝説のヒナウド・カンポス・ソアレス 元社長の未亡人である、マリア・ダ・コンセイソ ン・ソアレスさんに語っていただきました。

我々は共に歩むことを学びました。今後も共に歩む ことで、更に遠い高みに達することができると堅く 信じています。p

本書がお届けする数々の物語を通じて、鉄鋼生産や 経済活動とは異なる視点から見たウジミナスの姿が 浮かび上がってきます。個人であれ集団であれ、人 々が生んだ数千もの物語が、強いウジミナスとして 存続する上での礎です。過去60年間で、犠牲を伴う 苦渋の決断に迫られながらも、数多くの苦境を乗り 越えることで、ウジミナスという偉大な会社が生ま れました。その根底には常に、ウジミナスを築き上 げた人々、そして築き続けている人々の覚悟がある のではないでしょうか。

1958年、ジュセリーノ・クビチェック大 統領を初めとする政府高官がウジミナス 建設の起工式に参加した。

本書はウジミナスの歴史そのものです。ブラジル人 と日本人が一緒に決断し、経験を分かち合い、技 術・文化交流を通じて共に知識を深め、特にお互い が尊重し合ったことで成功を収めた産業プロジェク トの歴史です。

イパチンガ製鉄所の第 1、第2、第3高炉。

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プロローグ

ルイス・カルロス・モッタ・コスタ Luiz Carlos Motta Costa

確かな記念碑

現在ミナス・ジェライス州に相当する地域が植民地化される発端となった のは、その地に宝石や貴金属が存在したためです。サンパウロ出身の探険 家であるフェルナン・ジアスが率いる奥地探検隊の遠征が、そのスタート となりました。これは、ポルトガルの探検家であるペドロ・アウバレス・ カブラウの艦隊がバイーア地方に到着した約200年後の、1674年以降の出 来事です。植民地化の初期の頃は、ポルトガル人の関心は南部のプラッタ 地方に向けられ、スペインによる鉱物資源発掘の成功に注目していまし た。しかし、言うまでもなく同様のルートでは抵抗に合って進めなくなっ たため、進行方向をサンパウロの北部へと変更しました。黄金郷の噂は、 バイーア地方からきた探検隊が初めて、ミナス・ジェライス州のサバラブ ス地方で金を採掘したことで、部分的にその事実が証明されることになり ました。 ミナス・ジェライス州で安定的に金の採掘が行われた最初の記録は、1698 年になります。その採掘が百年続くことはありませんでしたが、ポルト ガルと世界経済を変えるには十分であり、イギリスで始まった産業革命を 資金面で支えました。1750年に金漂砂鉱床が枯渇して生産が減少しました が、ポルトガル王室は税収が少ないのは脱税が原因だと決め付け、徴収さ れなかった20%と同規模の付加税徴収をするという圧力行為に出ました。

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デ・イタビラ・ド・カンポ」）に、エスペランサ製 鉄所が南米で初めて、鉄製の高炉を建設しました。

採掘活動、そしてその活動を支える商売に従事して いた現地の人々は、短期間で富裕と貧困を経験しま した。このことに対する不満が、1789年に頓挫した 「ミナスの陰謀」として知られる反乱を引き起こし ました。この反乱に参加したのは、ブラジルの独立 と共和国化を願った人々で、国内で鉱物を精錬し、 付加価値を創出することを夢見た商人、農民、知 識人、及び聖職者でした。 「ミナスの陰謀」の記録に は、当時のミナス・ジェラ イス州には、鉄と鋼の生産 を可能とする産業の存在が 記載されています。

20世紀に入り、ミナス・ジェライス州の州都が、オ ウロ・プレット市からベロ・オリゾンテ市へ移さ れ、地域の経済発展が加速し始めました。第一次世 界大戦の後のことです。同時にミナス・ジェライ ス州の人々の間には、鉄鉱 石の採掘に依存した経済に 甘んじてはいけないという 意識が広がりました。ヴィ トーリア・ミナス鉄道によ る、イタビラ地方とエスピ リット・サント地方を繋げ る工事の完了も間近に迫っ ていました。イタビラ地方 には、高品位の鉄鉱石が膨 大に眠っており、沿岸地の エスピリット・サントと繋 がったことで、ミナス・ジ ェライス州を中心に、国内 鉄鋼業が拡大する条件が揃 っていったのです。

上記のストーリーは、本書 が語る物語をより深く理解 するためには不可欠です。 イパチンガ市（ヴァーレ・ ド・アッソ地方）で、ウジ ミナスという形で実現した 「夢」は、本書にて語られ る出来事よりも遥かに昔か ら存在していたということ を理解していただく必要が あるからです。実に長い道 1940年代には、米国からの のりでした。宣教師のジョ 資金・技術提供により、リ ゼ・デ・アンシエタ氏は、 オ・デ・ジャネイロ州ヴォ 遠い昔の1587年に、サンパウ ウタ・ヘドンダ市にナショ 新しい日系製鉄所、日本ウジミナス株式会社 ロのソロカバ市周辺に鉄鉱 の設立を報じるジアリオ・ド・コメルシオ紙 ナル製鉄（CSN）が建設され の記事。 石による銑鉄生産と、ブラジ ることが決まりました。ミナ ル初となる鍛造工場が存在し ス・ジェライス州は、製鉄所 ていたことを記録しています。そこから長い年月が は鉄鉱石の埋蔵地に近い方が合理的・経済的である 流れ、1815年にミナス・ジェライス州にブラジル初 と主張しましたが、沿岸に近い方がよいと主張す の製鉄所、「モーホ・ド・ピラール製鉄所」が操業 る、当時の首都リオ・デ・ジャネイロ市の政治力が を開始し、1888年には「エスペランサ製鉄所」が建 勝ったのです。 設されました。1910年には、現在のイタビリト市（ オウロ・プレット市の隣町で、旧称「フレゲジア・ しかし、夢が消えることはありませんでした。大切 16

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に温められ続けたのです。その結果、ミウトン・カ ンポス元ミナス州知事（1956～1961年）の要請の下 に、1947年に政治方針として発表された検討要綱に織 り込まれたのです。それ以降、官・民・学が連携し、 産業拡大を主な目的として結束し始めます。民間分野 では、商業協会、工業連盟、小売業協会、ミナス・エ ンジニア協会等の、州の各分野の団体が動きをリード しました。ミナス・ジェライス州は、付加価値のない 鉄鉱石の輸出者というステータスに甘んじてはいけな かったのです。「鉄鉱石は二度収穫できない」、と言 われていました。遂には、鉄鉱石よりもペレットを販 売する方が良い、ペレットよりも鋼材を販売する方が 良い、そして鋼板よりも自動車を販売した方が良い、 という考えが広がったのです。

1955年に、5年間の任期中に50年の発展を遂げるこ とを公約としたクビチェック大統領が誕生します。 ミナス・ジェライス州では、マンネスマン製鉄所（ バローレック）の操業が開始し、ベロ・オリゾンテ 大都市圏のコンタージェン市には工業団地が建設さ れ、ミナス州電力公社が誕生しました。そしてクビ チェックの盟友であるビアス・フォルチス州知事が 彼の方針を支持・推進することで、ようやくウジミ ナスの構想が形を帯びていきました。地元の企業家 （最初は50名）が集い、資金を調達し、ウジミナス

ジアリオ・ド・コメルシオ紙でも関連記事が紙面を 飾るようになり、業界団体や学界で広がりを見せる ことで、注目を集めていきました。そしてこのよう な雰囲気の中、1940年～1945年に市長として素晴ら しい功績を残したジュセリーノ・クビチェック元大 統領が、1951年にミナス・ジェライス州知事に就任 しました。掲げられた政策が州の発展と産業化とい うこともあり、鋼板の生産を構想とした国内第2位 となる大型製鉄所の建設議論に勢いがつきました。 その後、ミナス・ジェライス州での盛り上がりは増 していきました。イタビラ市（中央部）における鉄 鉱石の採掘は、ヴァーレ（旧称「コンパニア・ヴァ ーレ・ド・ヒオ・ドーセ」）によってその規模が拡 大し、ヴィトーリア・ミナス鉄道は拡張・近代化を 遂げていました。つまり、鉄道を使ってヴァーレ・ ド・アッソ地方まで石炭を運び、復路には鋼材をヴ ィトーリアの沿岸まで運ぶ体制が整ったのです。地 域産業の近代化に繋がる製鉄所建設が実現味を帯 び、「ミナスの陰謀」で既に描かれていた夢の現実 味が増してきたのです。

大勢の招待客がイパチンガ製鉄所の設 備を埋め尽くし、アマロ・ラナリ氏の 開所式の演説に耳を傾けた。

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を創設するための会社が興され、技術的な検討が進 められた結果、建設地が確定しました。 クビチェック大統領とフォルチス州知事の政治的な 支援に加え、プロジェクトの検討が進んでいたこと もあり、設立間もない国家経済開発銀行（BNDE）が 製鉄所建設を開始する上で必要となる十分な資金を 約束しました。一方で、技術、設備、更に必要とな る資金を提供することができ、且つウジミナスプロ ジェクトに興味を持つ海外パートナーがまだ決まっ ていませんでした。その時に技術・資金の提供者、 そしてパートナー候補として浮上したのが、新日鐵 住金率いる日本企業連合でした。 協定は1957年に署名され、翌年新日鐵住金参加の下 に、ウジミナスの構想が最終的に固まり、イパチン ガ市にて製鉄所の建設がスタートしました。オウ ロ・プレット市の大学を卒業した冶金エンジニア のアマロ・ラナリ氏がブラジル側の指揮を執り、 その後ウジミナスの初代社長となりました。同氏の 他にも、事業家のリージオ・ルナルジ氏、 ファー ビオ・デ・アラウジョ・モッタ氏、ジェルソン・ジ アス氏、ヘナト・ファウシ氏、オゾーリオ・ダ・ホ ッシャ・ジニス氏、ガブリエル・ジャノト・パシェ コ氏、ヴィセンチ・アスンプソン・ジョゼ・コスタ 氏、加えてサウロ・ジニス州議会議員や、経済学者 のフェルナンド・ホケチ・ヘイス氏やジャイミ・ペ コニク氏がプロジェクトチームのメンバーに名を連 ねました。その他にも多くの方がプロジェクトに関 与しましたが、今回は最も印象に残っている名前の みを挙げています。 私は当時10歳か11歳でしたが、当時のことを鮮明に 憶えています。週末に工事の進捗を確認するために 父（前述のジョゼ・コスタ氏）や、その他のメンバ ーと共にコロネル・ファブリシアーノ市を訪問して いました。夜行列車で金曜日に出発し、ノヴァ・エ

起工式でのジュゼリーノ・クビチ ェック大統領とウジミナス初代社 長アマロ・ラナリ氏 。

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ラ市で目覚め、建設地まで移動するためのトラック やジープに乗り継ぐというものです。第1高炉が完 成した際にも製鉄所を訪れました。その他にも、日 本人と初めて出会った時の思い出も、記憶から消え ることはありません。日本人も同じく建設工事に立 ち会っており、特設ホテルに住んでいました。そこ には、ミナス・ジェライス州の人々にはとても珍し い、サウナと浴槽がありました。

ナスはミナス・ジェライス州の産業の発展及び近代 化のシンボルとなりました。ウジミナスの歴史はジ アリオ・ド・コメールシオ紙によって語り継がれて きましたが、同紙は、時には登場人物として、又は ナレーターとしての重要な役割を果たしたと思いま す。それ故に、敬意を表します。ウジミナスの成功 例は、未来構築に必要となる最高の手本であると確 信します。

ウジミナスの建設という「冒険」は、イパチンガ市と いう地球の反対側まで来た日本人にも感慨深いものと なったのではないでしょうか。今となって特に思うこ とは、ミナス・ジェライス州とブラジルが世界で初め て戦後の日本を受け入れたことで、日本の国際化の扉 が開かれ、経済や投資活動が世界に広がったのです。 パートナーシップとしては、最初から順調でした。大 きく異なるように見えますが、驚くほど共通する点も あったのです。根気強さや、規律正しい点は、両国民 に共通するもので、相互理解を後押ししました。異 なる人種が誠実さを持ち、お互いをよく理解したこと が、成功を生んだと言えます。

本書のそれぞれのストーリーを読むと、ウジミナス の建設の歴史や、当時はコロネル・ファブリシアー ノ市に属する貧困地区であったイパチンガ集落に巨 大な製鉄所がどのような影響をもたらしたのか、そ の記憶を呼び覚ますことになるでしょう。激動の時 代を生きたブラジル人の中でも、主にミナス・ジェ ライス州の人々の体験談となります。本書の最終章 は、独自に研究を進め、ウジミナスの元社員でもあ る歴史家のジョゼ・アウグスト・デ・モラエス氏の インタビューが記載されています。同氏は1963年に イパチンガに移り住み、過去20年にわたり4冊の著 書を上梓しており、町の歴史や、ウジミナス建設の 歴史の普及活動に取り組んでいます。

当時は多くの難題があり、スムーズに進まないこと もありましたが、ブラジル人と日本人が協力し合 い、お互いを理解することで、建設は大きな遅延な く進められました。その後製鉄所の操業がスタート し、ウジミナスは早々と南米最大の鋼板メーカーと なりました。国際的にも卓越したその品質レベルが 認められ、国内トップメーカーとなり、海外でも強 い存在感を示しました。

本書では特に、未知の文化との遭遇についての思い 出が語られています。製鉄所建設のために訪れた日 本人と、仕事を通じて、または偶然の出会いを遂げ た方々の物語となります。日伯間のパートナーシッ プにより、素晴らしい製鉄会社が生まれました。サ ンパウロ州から新しい夢やチャンスを求めてイパチ ンガへ移住した移民者と、その子孫も重要な役割を 担いました。内容が異なるそれぞれの経験談に共通 しているのは、相手を理解し、相手との違いを尊重 し、相手を思いやる気持ちが大切であるということ です。日本人との繋がり、そして友情が、地域社会 の生き方・考え方・行動に影響を与えたのではない でしょうか。本書を通じてそのような思いがより強 いものとなりました。p

先駆者として活動した方々の信念と努力があったか らこそ、様々な困難を乗り越えることができ、この ような結果を生み出したという思いが、60年以上が 経過した今になってより強くなっています。その信 念や価値観は、現在も生きており、見本とすべきで す。理想を常に高く掲げ、維持することで、ウジミ

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第1章

ヴァレーリオ・ダ・シウバ・フザロ Valério da Silva Fusaro

嚢中の物を探る

1958年に日本で研修するグループが、オウロ・プレ ット連邦大学を卒業して間もない冶金エンジニア によって結成された。ヴァレーリオ・ダ・シウバ・ フザロ氏は、アマロ・ラナリ教授より訪日グループ への参加の誘いを受けた。ブラジル陸軍の経験を持 つ同氏にとって、日本流の規律に則った厳しい生活 は特に目新しいことではなかった。日出ずる国への 訪問は、ブラジル・日本の両国政府及び投資家によ って進められる大規模製鉄所の建設プロジェクトに て、必要となる全ての知識を習得するためのもので あった。

で担当することになる製鋼工程について勉強した。 「七人のサムライ」という呼称が定着し名を馳せる ようになったが、先に大学を卒業していた3名が後 から加わり、実際には10名のエンジニアによるグル ープであった。 日本では同僚との初めての共同生活が1年4か月続い たが、公私において変化をもたらすには十分な期間 となった。ヴァレーリオ氏は、独身としてブラジ ルを後にしたが、既婚者として帰国したのだ。ブラ ジルに残した婚約者のイネース・マリア・セナさん への愛しさが募り、委任状を通じて1959年6月20日 に、ミナス・ジェライス州のウバー市に残した婚約 者と、地球の裏側にいた同氏は結婚した。他にも同 じ方法で結婚した「サムライ」が2名いる。イネー ス夫人含め妻となった女性たちは共に訪日し、それ ぞれの夫と合流した。日本の生活は女性陣の到着に より、華やかで軽やかなものとなった。それから11 年後の1970年、ヴァレーリオ氏は再び日本へと旅立

ヴァレーリオ氏は日本で、規律正しく、他人を尊重 し、上下関係を重んじる生活を実際に体験したが、 特に困ることはなかった。88歳を迎えた今でも、地 球の裏側で経験したライフスタイルに共感し、大事 にしているという。6人の同僚と共に、1954年に上 映された黒澤明監督の映画「七人の侍」にちなんで 結成されたグループの一員となり、後にウジミナス

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った。ウジミナスの東京事務所の管理者として、東 京に2年間駐在したが、その際もイネース夫人と、 まだ幼かった3人の子供を帯同した。

補者は皆無の状況であった。ブラジル全土から労働 者が駆け付けたが、ほぼ全員が農家出身、製鉄所経 験はなく、正に全てがゼロからの出発であった。

ヴァレーリオ氏は製鉄所の建設が進むイパチンガに て、社員の採用にも参加した。選考で重視されたの は、成熟度、責任感、そして特に勇気であったとい う。誰一人として、ウジミナスのような大規模製鉄 所を見たことがなく、必要とされる教育を受けた候

同氏は、苦しい時期の思い出の一つとして、日本人 上司と衝突したエピソードを話してくれた。当時 の部下に、製鋼工場で最大かつ最も危険なクレーン の操作を得意とするブラジル人オペレーターがいた が、文盲であった。日本流の厳しい安全基準に鑑み ると看過できる状況ではなく、事態を懸念した日本 人上司は、天井クレーンのオペレーターを日本人に 入れ替えたのだ。しかし、不幸なことにその日本人 が勤務初日に不測の事態に陥ったため、日本人上司 は翻意し、文盲のブラジル人を残すこととしたとい う。ブラジル人オペレーターはそれ以降、長年に渡 り天井クレーンのオペレーターとして勤めていたと いう。 ウジミナスで日々仕事をする中で、ヴァレーリオ氏 は様々な課題を乗り越えていった。そして一致団結 して結果を出していったことで、製鋼工場は社内全 体から「素晴らしい家族」と認められるまで成長し たが、同氏の貢献が大きかったことは言うまでもな い。

1959年、別府にて日本の伝統的着物を着 用して写真撮影を楽しむ新婚のヴァレリ オさんとイネスさん。

1958年、第1次計画において日本で の会議に参加するヴァレリオ氏。

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日本へ到着してすぐに都内を観光する「サムライたち｣。

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ウジミナスで多くのことを学び、人生における教訓 を数多く得た。同氏はいまだに、頼れる部下が何名 いたかを記憶している。総勢56人の部下の内51名は 技師、アシスタント、そして管理職であり、残る5 名は据付工事の立会要員だった。「全員が積極的に 仕事をしました。レベルの高い同僚たちで、私を大 きく支援してくれました。」と語る。

熱意と同じくらい大きい、責任重大な任務でした」 と当時を振り返った。ある時、日本からではなく、 唯一ヨーロッパから輸入したオーストリア製の転炉 の据付責任者が、操業用の取扱説明書はブラジル人 にしか渡さないと通告した。つまり、転炉の操業方 法を知っているのはブラジル人のみということにな った。同氏は、このことを可能な限り丁寧に日本人 に報告したところ、サプライヤー側の事情を理解し てもらえたという。

ヴァレーリオ氏にとり、記憶を思い起こすことは過 去との遭遇である。感謝の気持ちも忘れない。責任 重大の任務であったとし、「私たちを動かしていた

ウジミナスプロジェクトに参画していた複数の日本 企業間の考え方や、行動の違いを調整することもヴ ァレーリオ氏の役割であった。製鉄所の大部分は当 時国営企業であった新日鐵住金が担当していたが、 製鋼工場だけは民間企業である日本鋼管（NKK）が 担当していた。両社は日本では鉄鋼生産を競い合う

イパチンガでは、日本人とブラジ ル人との家族ぐるみでの懇親会が よく行われていた。

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ライバル関係にあり、競争関係がウジミナスの中に も飛び火していたのだ。「サムライ」と呼ばれた同 氏は、「日本が損失を被らないということであれ ば、両社は競争関係を維持していました。しかし共 通の目的の下に進められたウジミナスプロジェクト の中では、常にウジミナスにとって最善の決断が取 られていました」と明らかにした。

ヴァレーリオ氏とアントニオ・ペドローザ・ダ・シウバ 氏は「サムライたち」の内の二人。オウロ・プレット鉱 山学校工学部以来、長年友情を育んできた。

残っており、同氏の日本人に対する尊敬の念はより 高まったという。 ヴァレーリオ氏は、「誠実にそしてプロ精神の下 に、ウジミナスの技術スタッフを献身的にそして根 気強く教育してくれた日本人に対し、心から感謝し ています。」と声を詰まらせた。既に他界した方や ブラジル人の同僚に対しても感謝の言葉を述べる傍 ら、当時は多くの人々が祖国や家族と長期間離れて 生活し、困難に立ち向かったことを決して忘れな い。最後に、建設当初の主要通訳の一人であった「 ショウさん」に対しては、特別な思いを込めて感謝 の意を表した。p

ヴァレーリオ氏は、戦後の特徴であった日本人の愛 国主義的な感情や行動に、日本での研修時から感銘 を受けていた。当時、サムライたちは再建真っ只中 であった日本を訪問し、幾つかのショックを受けた と証言する。その一つは、バスで女性労働者が男性 に席を譲っているのを見たことで、もう一つは1945 年8月に米国の原子爆弾で破壊された長崎への訪問 である。とはいえ、日本人の国家再建に向けた献身 的な姿勢や、情熱的な愛国心は未だに鮮明に記憶に

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第2章

アントニオ・ペドローザ・ダ・シウバ Antônio Pedrosa da Silva

ウジミナスに捧げた人生

人生がどう進むかを決める道筋は、現在と明確な接 点を持たずに描かれていくのが常だ。時間の経過だ けが、人生の中で起こる種々の出来事が、その時に 何を意味していたかを明らかにするのではないか。 若き冶金エンジニアのアントニオ・ペドローザ・ ダ・シウバ氏 は、前章のヴァレーリオ・ダ・シウ バ・フザロ氏と同様に、オウロ・プレット連邦大学 を卒業後すぐに、日本での研修の話を受け、「は い」と回答した。アントニオ氏は綺麗に舗装された 道路を進むように、ウジミナスを退職する1984年ま で、急カーブのない安全かつスムーズな道のりを歩 んでいった。

配置された。イパチンガ市で建設される製鉄所と類 似性があったが、当時のブラジル国内では大規模ミ ルであったナショナル製鉄（CSN）、アセジッタ、 ベウゴ・ミネイラを知っていた同氏にとり、全てが 新鮮だった。60年前の日本での研修は、現在に至る まで高い評価を得ているが、更に驚くべき経験であ ったことがここで明らかになる。 新たに建設される製鉄所では、圧延工程を担当する ことになったペドローザ氏は、日本の研修で全てを 学ぶ必要があった。プロセス導入のために訪伯準備 を進めていた日本人と、ブラジル人の操業チームの 間の架け橋としての役割を果たすために、可能な限 り多くのノウハウを蓄積する必要があったのだ。研 修を通じてスタートした日本人たちとの関係は研修 後も続いた。イパチンガ製鉄所の最初の数年間は業 務上の付き合いから、多くのケースでは職場外での 交友関係へ広がっていき、生涯に渡って維持される 友情の絆を築くこととなった。

大きな期待を胸に、そして自分の判断が正しかった という確信の下に、ペドローザ氏は「七人のサムラ イ」の一人として、日本へと旅立った。目的地は本 州（訳注：原文のまま）にある、当時の日本の主要 製鉄所の一つである八幡製鉄所であった。それぞれ が、将来ウジミナスで担当することになる各工程に

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ペドローザ氏を含むサムラ イたちは、日本に到着後す ぐに製鉄所に向かったわけ ではなく、先ずは日本の文 化の習得に勤しむこととな った。観光地、寺院、首都 東京や歴史的な都市、そし て設備の供給元となる日 立、東芝、石川島、三菱の 本社を訪問して回った。第 二次世界大戦の再建からわ ずか13年後の日本だった が、まだまだインフラが不 十分であったブラジルから 来た若きエンジニアグルー プにとっては、全てが驚き の連続であった。日本は全 てが完璧で、時刻表通りに 動く路面電車や列車、街並 みにゴミは見当たらず、日 本人の習慣や規律正しい生 活に感服した。 研修期間中は、ブラジル人 と日本人技術者の間で強い 連帯感を持つことが重要と なった。ペドローザ氏は、 「研修では、日本人の皆さんが、操業開始に必要不 可欠となる知見を全て共有する準備を整えて、我々 を受け入れてくれました。」と当時のことを鮮明に 憶えている。同氏にとって、その後数年間で何度も ブラジルへ足を運ぶことになる経験豊富な技術者イ カワ氏の存在はとりわけ大きかったという。日本で は、見たこともない新たな操業方法の習得に加え て、製鉄所内の整理整頓、清掃に驚かされ、特に安 全に対する厳格な姿勢や、明確な上下関係による序 列構造が強く印象に残っている。このような日本流

1958年、日本にてアントニオ・ペドロ ーザ・ダ・シウバ氏（写真右 濃色ス ーツと眼鏡）と「サムライたち｣。

イパチンガ製鉄所の開所式。ここでは 日本人から学んだ組織と安全への配慮 が常に大事にされた。

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新婚の同僚を祝福するミサに参加するアントニオ・ペドローザ・ダ・シウバ 氏。写真に写っていないのは彼が式の「公式」カメラマンであったため。

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の考えは、イパチンガ製鉄所にも操業初期から導入 された。

必要があった。 日本人にとっては、故郷から遠く離れたイパチン ガ市での生活であったが、伝統は守り続け、お祭 り等の催し物を開催し、そこには町の住民も参加 することができた。（ブラジル人にとっては）全 てが斬新であった。日本人と職場外で接すること で、友情はより一層深まっていった。ペドローザ 氏は当時を振り返り、日本人から得た支援や教え に対して深く敬意を表し、「確かに、日本人の参 加なしでは、ウジミナスの建設及び企業としての 成功は不可能であったでしょう。」と感服する。 操業開始後も、イパチンガ製鉄所は定期的に日本 から技術協力を受けながら、ブラジル人の手で着 実に操業されていった。そして時の経過と共に、 ウジミナスのプロセスや製品は市場のニーズを捉 え、世界へと羽ばたいていった。p

ペドローザ氏は、1年4か月の研修を経て、マニュア ル、各種書類のコピー、そして蓄積した多くの経験 を抱えて、ゼロからのスタートとなる製鉄所建設を 行うイパチンガ市に赴いた。「サムライたち」は、 研究所とエンジニアリング部がある事務所にデスク を構えた。今では大企業へと成長したが、無人の荒 野にウジミナスが誕生した瞬間に居合わせた証言者 たちにとっては、感無量の出来事であろう。イパチ ンガ製鉄所の最初の社員の一人として同氏は、妻の マリア・デ・ロウルデス夫人と家族を築き、5人の 子宝に恵まれた。子供たちは全員ベロ・オリゾンテ 市で生まれたが、その内3人はイパチンガに住んだ こともある。 日常生活においても、日本人とブラジル人はお互い に誠意をもって付き合う関係にあったという。日 本人は重要任務に従事する一方で、ブラジル人側の 若い技術者も、経験は浅いが、ウジミナスにおける 自分たちが置かれた重要な立場を十分に理解してい た。ペドローザ氏にとって最も印象深い日本人技術 者は、操業スタッフを何度も助けたトガシ氏だ。緊 急時には常に最初に呼び出された人物で、操業計算 の疑問を払拭してくれた。このような局面では、日 本での研修がいかに効果的であったかを実感するこ とができたという。 工事が進捗するにつれて、日本からの技師・設 計士・エンジニアの数も増加し、巨大な設備が立 ち並ぶようになった。設備の太宗は組立前の状態 で出荷されたが、エスピリット・サント州のヴィ トーリア港から、ミナス・ジェライス州のヴァー レ・ド・アッソ地方を繋ぐ国道381号線で運ぶには 大きすぎるパーツばかりであったため、イパチン ガ製鉄所まで運ぶには道路やトンネルを拡張する

日本人社会が開くイベントに、イパチンガ市 民は興味を示し積極的に参加した。

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第3章

マリア・デ・ロウルデス・コスタ Maria de Lourdes Costa

アントニオ・デ・パウダ・コスタ Antônio Pedrosa da Silva

歓迎 マリア・デ・ロウルデス・コスタさん（93歳） が自身の思い出を語る姿からは、質素で落ち着い た、且つ平穏無事な生活を送ってきた人生が想像 される。しかし、注意深く優しい口調で、約1世紀 にも及ぶ記憶を簡単に呼び起こす小柄な老婦人の 話を聞くにつれ、その第一印象が間違っていたこ とに気が付く。想像以上に波乱万丈な人生に対し て、明るく向き合ってきたのだ。ヴァーレ・ド・ アッソ地方のイパチンガ集落に1959年に移り住ん だ当時、おびただしい埃に包まれた光景を目の当 たりにしたが、子供たちと一緒に、オルト地区の 木造レンガ造りの家の天井裏の穴から覗いた星空 には、ロマンスを感じた。

中央部のバロン・デ・コカイス市に住んでいたが、 イパチンガ製鉄所の建設担当のチーフエンジニアで あるルイス・ヴェラーノ氏の招待で、夫で会計士で あるジョゼ・ジューリオ・ダ・コスタ氏がウジミナ スに入社したのに合わせ移住した。ヴェラーノ氏か らの「秘密の手紙」の存在を明かし、夫に対して「 イパチンガでは苦難の生活となるであろう」と事前 に警告があったという。しかし、夫婦ともに、その 誘いを断る気は毛頭なかった。 1967年に副市長に選出された夫のジューリオ氏 は、その後もウジミナスの社員と副市長という二足 のわらじを履き続けたが、44歳で心臓発作により夭 逝している。しかし既にイパチンガ市の生活に馴染 んだ未亡人は、故郷へ戻ることを考えなかった。主 婦としての生活を続けながら、手作りの軽食をバス ターミナルで販売した。更に彼女はいくつかの場所 でベロ・オリゾンテ行きのバスのチケット販売も行 っていた。

新しい出来事が絶えない毎日だったが、マリア氏は 特に子供たちの教育に時間を費やした。イパチンガ 市に移り住んだ際には、彼女の10人の子供の内、5 人は既に生まれていたが、2人は未熟児で死亡、最 後の3人は自宅で出産した。ミナス・ジェライス州 33

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1967年のジョゼ・ジュリオ・コスタ氏の労働手帳。 ウジミナス社員でイパチンガ副市長。

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ジミナスに派遣された日本人とはほとんど接するこ とはなかった。彼女は町の催し物に参加するのが苦 手であったこともあり、日本人と触れ合うことはな かった。オルト地区には必要なものが全て揃ってお り、外国人が住んでいた「他の地区への訪問」はし なかったという。「ほぼ毎日子供たちと過ごしてい ました。」と語る。信心深く、建設時点から見てき たオルト地区の教会のミサには欠かさず通った。

当時のオルト地区にはほとんど何もなかった。「ト ラックばかりで、自動車さえ見ることはありません でしたが、とても楽しかったです。」と、配水車に 頼った断水生活の日々の思い出すら、暗い顔せずに 語ってくれた。誕生したばかりの町での質素な生活 にもかかわらず、子供たちのしつけに困ったことは ないと言い切る。とはいえ、しつけのためには「お 尻を叩きました。」と告白するが、自慢の25人の孫 やひ孫たちには同様の扱いをするつもりはないとい う。「母親はとても厳しかったです。」長男のアン トニオ・デ・パードゥア・コスタ氏、通称「トニー ニョ」の言葉だ。

母親とは反対に、息子のトニーニョ氏は、日本人コ ミュニティーと接する機会に事欠かなかった。ベ ロ・オリゾンテ市で神学校に通った同氏は、両親が イパチンガ市に移り住んだ翌年の1960年に、サン・ フランシスコ・シャビエル高校へ入学するために、 家族の後を追うこととなった。「日本人派遣者の子 供は、少人数の日本人学校に通っていました。サ ン・フランシスコ・シャビエル高校には、サンパウ ロ市から来た日本人の子供たちが数人通っていまし

今ではイパチンガ市を故郷と呼ぶマリアさんは、ウ

「盆踊り」とはで太鼓のリズムに乗って踊る祭 りの一部である。その祭りは、今日までイパチ ンガ市の公式行事になっている。

日が暮れると先祖の魂が家に帰 り、お盆の間家族と過ごすと、伝 統的に信じられている。

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け、そこには同氏の妻であるフジタ・ヨカ夫人も働 いていたという。エザキ氏のご両親は1930年代に子 供たちと共に福岡県からブラジルへ移民した。イパ チンガ市には、日本人の需要に応えるために、日本 食材店を2店舗開業する計画を胸に抱き、1960年に 移り住んでいる。

たが、ブラジル人のようでした。」と語る。 トニーニョ氏にとって、製鉄所の建設期間中の日本 人との関係で一番印象に残っている楽しい思い出 は、カリル地区で開催されたお祭りで、特に「盆踊 り」が楽しかったという。日本人がイパチンガにて 日本の最も伝統的な夏のお祭りを披露したことに対 し、「日本人は伝統的な浴衣を身に着け、素敵でし た。父に連れられた私たちは、全くの別世界だが、 素直に綺麗だと思いました。」と昔を振り返る。長 年に渡り盆踊り大会は日本人派遣者が住んでいたカ リル地区で開催されており、今でも2008年に改築さ れた旧日本人学校を本部とした在イパチンガ日伯文 化協会（ANBI）で続いている。ANBIは日本人クラブ として知られ、通称「カイカン」と呼ばれている。

「日本人の畑」もトニーニョ氏の思い出の一つであ る。日本人はミナス州の住民が見たこともない数種 類の野菜を栽培した。「品揃えが豊富で、ブラジル 人も日本人も買いに行っていました。」と述べ、大 根、ナス、アスパラガス、生姜などは、その当時の イパチンガ地域の人々の食生活にとって、目新しい ものであった。その「畑」は、60年代から70年代に かけ、新鮮な野菜を含め、食料品との調達が難しか ったイパチンガ市にとって重要な存在であった。シ バタ家、ミカル家とイマザキ家は、ウジミナスが貸 与した土地を使い農業を行った。カンダンゴランデ ィア地区とマリンガ地区（現在はコロネル・ファブ リシアーノ市のアマロ・ラナリ地区として統合）に あったそれらの土地は、それぞれの家族によってそ の後買い取られることになる。

トニーニョ氏は、父親の日本人の友人で、主にサン パウロからやってきたウジミナス社員、または建設 中の町に新たな事業チャンスを求めてやってきた日 本人との思い出についても語ってくれた。「日本食 品のみではなく、様々な商品を少量ながら揃えてい た食料品店『エザキ』がありました。エザキさんは とてもお喋りで、愛嬌がある人でした。」エザキ・ ナツオ氏は、オルト地区とカリル地区に店舗を設

トニーニョ氏は 鉄鋼製品の出荷と、製鉄所内の整 備作業を請け負った協力会社山九の社員だった80年 代に、日本に2ヶ月間滞在し、新日鐵住金の主な製 鉄所で研修を行い、8つの都市を訪問した。 日本人コミュニティーに対して好感を持っていた若 きトニーニョ氏は、日本での研修を経て更にその思 いが強くなったという。「子供たちは1日を学校で 過ごします。学校では掃除をし、施設を維持するの も学生です。歩道ではゴミのポイ捨てはせず、ゴミ

1960年当時のイパチンガ市オルト地区。日系人 家族が地域で商業を営んでいた。

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マリア・デ・ロウルデスさんはイパチンガ を心の故郷とし、子育てに専念した。子供 たちのうちの一人は日本人社会と接点のあ ったアントニオ･デ・パドゥーア氏である。

席で何とか工夫する習慣があります。例えばドライ バーがない場合はナイフで何とかしますが、日本人 はドライバーじゃないと使いません。」と当時の状 況について語る。更に日本人は、あるビール会社に 働いている社員は競合他社のビールを飲まないとい うほど、働いている会社に尽くし、敬意を表し、強 い思いを持っているとし、「他社では社内での役職 に応じた接客・対応を受けます。」と補足した。p

箱が見つかるまで持ち歩きます。住宅地では、住民 がそれぞれの玄関周りの掃除をします」。トニーニ ョ氏は、高齢者に敬意を払って接する点や、ごみの リサイクルといった環境に配慮した習慣など、日本 文化の様々な側面に感銘を受けている。 一方でトニーニョ氏は、時には機転が利かない職場 の日本人に対して違和感を持った。「我々には、即

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第4章

ジナ・ヘゼンジ・デ・マセード Dinah Rezende de Macedo

覚悟と勇気

83歳を迎えたジナ・ヘゼンジ・デ・マセードさん は、勇敢な人生を送ったと言える。女性にとって多 くの制約があった時代だが、彼女はそれらの困難を 熱意で乗り越えたのだ。ミナス・ジェライス州ゴヴ ェルナドール・ヴァラダレス市の女子修道院を卒業 し、リオ・デ・ジャネイロ州ニテロイ市の看護学校 を卒業。その後、サンパウロ州の首都サンパウロ市 にて産婦人科や小児科を専攻し、大学院に通った。 初めての仕事はパラナ州クリチバ市となったが、「 私はブラジル各地で、色々な経験をすることができ ました。」と語る。

レス市から列車に乗り、当時はまだ荒野だったイパ チンガに向かった。「帰りの列車に乗った時には、 もうウジミナスへの採用が決まっていました。私の 番号は2412でした。」と語る。この番号は、当時「 シャッパ」と呼ばれており、出退勤時の打刻の際に 提示する金属製のプレートに刻まれた社員番号のこ とだ。 数千人にも及ぶ労働者が、他の州や地域、そして海 外からも来ており、建設期間中のイパチンガの町に は数多くの困難があり、その中でも生活面での問 題に特に苦しんだ。女性は指で数えられる程度しか いなかったのだ。最初に住んだ家はオルト地区にあ り、医師、秘書、そして受付スタッフとの共同生活 であった。仕事以外でも日常を共にしていたわけだ が、「町には女性がいませんでした。よそからきた 見知らぬ男性ばかりで、私たちは常に気を張って暮 らしていました。」と昔を振り返る。医療面では 問題が増加する一方で、イパチンガ地域のみなら

28歳の時に、当時は異色の経歴を携えてイパチンガ に降り立ったのは1961年で、ウジミナス中央診療所 の最初の看護師として知られているが、そこで10年 間勤務し、その後は別の人生を歩んだ。当初は連邦 政府の仕事を志望していたが、最終的には、イパチ ンガ市の看護サービスの確立に挑戦することを決め たのだ。従兄弟と共にゴヴェルナドール・ヴァラダ

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ずミナス・ジェライス州 内でもモデルとなるよう な総合病院は、当時のイ パチンガ市には存在しな かった。

いた。特に派遣者を対象 とした日本人コミュニテ ィー向けに様々な施設も 建設された。例えば、イ パチンガ市生まれのウジ ミナス社員第一号となっ た男の子の母であるタハ ラ・ツヤさんが勤めた「 日本食堂」や、ウジミナ スの支援で複数の地区に 設立された9つのスポー ツクラブの1つのウジッ パ（1956年創立 － 訳 注：正しくは1959.2.23 創立）が挙げられる。ウ ジッパには、日本人のお 気に入りのスポーツであ るゴルフ場も設けられて いた。その他にも、カス テロ地区に建てられたグ ランドホテルがある。現 在は営業を終了している が、1960年から1970年代 にかけては日本風に装飾 した高級ホテルとして異 彩を放っていた。

骨身を削るような生活と は裏腹に、大切な思い出 も数多くあり、やり遂げ た全ての仕事に誇りを持 ち、多くの功績を残し た。製鉄所の建設初期、 数年間に渡り工事に参加 し、貢献した日本人につ いても語ってくれた。「 彼らの技術的な指導が無 ければ、ウジミナスに規 律を重んじる文化は育た なかったでしょう。ブラ ジル人はいい加減なとこ ろがありますから。日本 人は製鉄所内外で素晴ら しいお手本でした。」と 語る。ブラジルに派遣さ れた日本人は約1000人に 1955年のジナさんの卒業写真。 上り、その中には日本の 大手鉄鋼メーカー、機械 ジナさんによると、日本人は基本的には「非常に内 設備や電気設備のサプライヤー、それらの関連会社 気」と言えるが、良い関係を築けたという。「日本 の社員と家族がいた。サンパウロ州を中心に、日本 人は親友になれば、とてもオープンです。」と語 人移民とその子孫を含めた約500人の日系ブラジル り、長年に亘り日本人と友好な関係を維持している 人も採用された。 が、特に骨を埋める覚悟でブラジルに移り住んだ日 結婚後は、カリル地区にある集合アパートのJ22A 本人は、ブラジルのことが大好きだという。「安い 棟に入居した。Bブロックは日本人専用となって ビールを飲み、好きなだけ肉を食べて楽しんでいま いた。日本人に対する医療サービスは他とは違 した。」と当時を振り返る。日本人との相性の良さ い、日本から派遣された医師一名と看護師が常駐 は、家族構成からも伺える。娘は日系人と結婚して し、居住地内に日本人専用の診療所が設けられて いるのである。義理の息子の父親は、潜水艦で戦争 40

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ニテロイで学んだジナさん(右から3番目) は特に北東部出身の仲間と過ご した。写真は入学初年度の様子。

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建設中のオルト地区。

から逃れ、後にサンパウロ州に辿り着き、日本人移 民者と共にジャガイモやコーヒーの農園で働いてい た。その後ポルトガル語を習うために学校に通い、 そこで先生に恋をして、やがてその2人は結婚し、 イパチンガ市に移り住んだという。

の3年後にマルシオ・クーニャ病院の誕生に伴い閉 鎖された「サンタ・テレジーニャ病院」へ搬送す るか、もしくはジープにて近くのコロネル・ファ ブリシアーノ市まで搬送する必要があった。「道 路は未舗装で、でこぼこ道を走って1時間はかかり ました。」と当時の苦労を語る。時が過ぎるにつ れ、中央診療所の医療サービスは製鉄所内にも広 げられ、またイパチンガ製鉄所の建設を受けて形 成されていった各地区にも小さな診察所が建設さ れるなど、社員の家族もそのサービスを受けるこ とができるようになった。

ウジミナスで長年勤めた中央診療所は、診察室が4 つ、短期入院や緊急分娩用の病床が複数あり、そ の他には歯科診察室、治療室、受付という簡素な 作りであった。最初は、院長を務める外科医に加 え、ジナさんを含む3人の看護師が勤めていた。そ の後、更に2名の看護師が採用された。患者が特別 な治療を必要とした場合は、1962年に設立され、そ

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イパチンガ市の医療サービスが拡充していくのを間 近で見守ってきたジナさんだが、イパチンガ市に移 り住んだ頃は常に、多くの患者の対応に追われる日 々を送っていた。その中でも特に大きな問題は、マ ラリアの発生だった。中央診療所では妊娠8ヶ月の 女性が、マラリアの媒介蚊であるハマダラカに刺さ れて亡くなったケースもあった。元夫である冶金エ ンジニアのエリオ・マセド氏との交際もまた、マラ リアが蔓延した時に彼が高熱を出し、中央診療所で 看病したことがきっかけとなった。

た。サンタ・モニカ地区にある寮にて、軍警察が約 300人の労働者を逮捕・虐待したことに対するスト ライキが勃発し、その翌日に軍警察との紛争に発展 している。 「診療所は緊急治療室と化し、被弾者、大量出血す る負傷者、そして死亡者が担ぎ込まれてきました。 」という。救急車でさえも、トラックの荷台に乗っ た兵士たちの機関銃やリボルバーの散弾の的となっ た。製鉄所の倉庫につながる門の前では、約6000人 のウジミナス社員や住民の群衆に向かって、少なく とも700発の銃弾が発砲されたと推定される。

中央診療所が最も緊迫した空気に包まれたの は、1963年10月7日に起こった「イパチンガ騒動」 の時であった。結婚後で、妊娠4ヶ月だったジナさ んは、軍警察と、ウジミナスのオペレーター、そし て製鉄所や町の建設を請け負っていた建設会社の労 働者との衝突により負傷した犠牲者の救助に奔走し

ミナス・ジェライス州にて2017年に公表された真相 究明委員会の最終報告書には、負傷者92名、死亡者 8名（その内6名がウジミナスとは無関係）と公式に 記録されている。犠牲者の内、3ヶ月の乳児（エリ アナ・マルチン）は、一命を取り留めた母親に当た った弾丸と同じ弾丸を受けて 亡くなった。赤ん坊は母親に 抱かれ中央診療所に向かう途 中に、逃走していた兵士の銃 撃により死傷したのだ。その 他にも、事件前夜に軍警察と オペレーターが衝突したサン タ・モニカ地区に住んでいた 日系人のハヤカワ・ユキオ氏 は、群衆の中で、負傷したウ ジミナスのオペレーターの側 で両手を挙げて軍警察に銃撃 を止めるよう求めたが、肩を 撃たれてしまった。p

カリル地区でジナさんは、J22A塔 に住んだ。Bブロックは、日本人 家族のみが住んでいた。

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第5章

オトニ・ヴィセンチ・フェヘイラ Otoni Vicente Ferreira

友好関係

「ここは昔、土とほこりしかありませんでした。 朝着た服は、午後になると着替える必要がありま した。」これも心に残る思い出の一つかも知れな い。しかし、機械整備士のオトニ・フェヘイラ氏 のように、イパチンガ市の誕生に加え、各地区の 整備が進み、町として歩みを始めた瞬間に立ち会 った人にとっては、その他にも大切な思い出が数 多くある。78歳を迎えたオトニ氏は、21歳の時 に人生が一変すると感じた当時の気持ちを、今で も鮮明に思い出すことができる。10時間の旅を終 え、バスから降り立った彼の前には、ほぼ何もな い一方で、慌しさに包まれた町が姿を見せた。そ して、その町と共に、ブラジルとは全く異なる文 化を知る機会を得るのであった。

ロ・オリゾンテ市で叔父と一緒に暮らしていた が、州民の夢であった製鉄所の建設開始を機に、 ヴァーレ・ド・アッソ地方で新しい仕事を探すよ う勧められた。彼は、内燃機関エンジンの整備士 資格を持っていたため、トラック運転手としての 仕事ができると考え、イパチンガ市で扉や窓を供 給する会社であるフェヘイラ・フォンセカ社を退 社することを決めた。実際、何一つ苦労すること なく、イパチンガ製鉄所に雇用された。 1961年のイパチンガ市には、何千人もの男性労 働者が汗にまみれ、多くのことを学びながら建設 工事に従事していたが、オトニ氏もその一人だっ た。「楽な暮らしに慣れていた私にとって、容易 なことではありませんでした。」と振り返る。他 の男性3名と一緒に住んでいた部屋には、二段ベッ ドが2台あり、小さな机と椅子がそれぞれの分用意 されていた。ここでの寮生活は良い思い出ではあ ったが、長い間暮らしてきた実家の快適さとは程

多くの困難と発見に溢れ、全てがこれからという 時代に、オトニ氏は運転手という職業を選び、自 分自身も変化に直面した。セッチ・ラゴア市（ミ ナス・ジェライス州中央部）で生まれ、州都のベ 45

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運転手としての勤務もまた長くは続かなかった。 「幹部社員の運転手を任されたとき、少し不安で した。」と打ち明ける。異動する前に他の部署で 働いた際に、製鉄所の建設のために日本から来た 数百人の日本人の内、数人と顔見知りであった程 度だったからだ。

遠い生活を送っていた。「ブラジル全土から来た 人々で溢れ、土木作業員を含め製鉄所建設には2万 人が携わっていました。」と語る。 オトニ氏は、製鉄所での業務で、初めから長時間 労働を余儀なくされた。24時間体制で行われてい た製鉄所建設向けの資材を運搬する作業を担って おり、午後7時から午前6時まで働いていた。この ようなことが3か月間の試用期間中続いたが、社交 的な性格が功を奏し、ブラジル人、そして外国人 と生活していく自信がついた3か月間となった。

オトニ氏は、イパチンガ製鉄所の高炉建設に立ち 会っていた日本人技師やエンジニアたちをジープ に乗せ、仕事のみではなく、銀行に行くといった 私生活の対応にも東奔西走した。「日本人に気に 入られると、本当に好きになってもらえました。 冗談を言い合ったり、よく話をしたりしました。 」とのことで、言葉の壁はあったが、単なる日常 会話であれば、乗り越えられないことはなかった と強調する。

独身生活は長くは続かなかった。オトニ氏と81歳 を迎えたネリ・モラート・フェヘイラ夫人は、イ パチンガ市で初めて正式に結婚した夫婦である。 ネリ夫人は中央事務所に勤めていた女性3名の内の 一人だった。夫婦は結婚後、今でも居住している アレアウ地区に引っ越した。オトニ氏のトラック

そのために、オトニ氏は小さな日ポ辞典を重宝し

1961年にイパチンガに移って 来たとき、オトニさんは多く のトラックを抱えるウジミナ スのトラック運転手 として 勤め始めた。1964年撮影。

1.ウジミナス物流部のサッカーチー ム、サン・クリストーヴォンは多く の大会に参加した。その中でも オト ニ氏 (写真左端)はエース級だった。 2.ウジミナスの運転手仲間。オトニ 氏がイパチンガに来たころの同僚。

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1.第１高炉の建設現場にて。ブラジル人同僚と日本 人の亀家氏と。 2. オトニ氏と運転手仲間のエスペジート・テオド ーロ氏と。彼もまたウジミナス幹部の運転手であっ た。 3.オトニ氏は日本人から写真の良さを学んだ。1962 年10月26日の第１高炉火入れ式で、彼が撮影したウ ジミナス建設に携わった日本人たち。

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たため、日系人シェフが切り盛りしている、専用 のレストランがありました。私は何度も一緒に食 事をしたことがあります。口に合わなかったのは 甘い豆と甘い鶏肉だけです。あとお箸も苦手でし た。」と笑顔で語った。

た。仕事の上で役立った日本語の言葉や挨拶を未 だに憶えており、周囲を魅了した愛嬌を振り撤き ながら、「車を取りに行く指示や待機する指示な ど、日本語でもすぐに理解できました。『おはよ うございます』や『こんばんは』といった挨拶は 当り前となり、ジェスチャーでコミュニケーショ ンを取ることもありました。」と語る。一方で日 本人にとっても、場合によっては、日本語が理解 できない相手の方が都合がよいといって、同行を 断られた日系人の運転手のことを話してくれた。 「機密情報を取扱っていたのではないでしょう か。」と推測する。

物資の調達という点では、不足していたのは日 本の食料品だけではなかった。オトニ氏は、当時 のイパチンガ市民は、全て近隣の町や他の地方か ら物資を調達していたとし、ミナス・ジェライス 州内では、トレース・マリアス市から魚類、セッ チ・ラゴア市から氷、ベロ・オリゾンテ市から野 菜を取り寄せていたという。ゴイアス州からはお 米と豆が届いた。日本の食材の一部は、サンパウ ロ市からの調達とならざるを得なかったが、イパ チンガ市でも、日本人の奥様方の御用達となって いたオルト地区の有名な「日本人の畑」では新鮮 な野菜が買うことができたという。p

観察好きの同氏は、日本人の生活習慣についても 詳細に記憶している。「彼らは写真を撮るのが大 好きでした。常にカメラを持ち歩き、あらゆるも のにシャッターを切っていました。興味深かった です。」と語る。「缶詰のタバコ」についても憶 えており、輸入品のタバ コは、練乳の缶詰のよう だったという。オトニ氏 は、ウジミナスは日本人 を優遇する必要があった とし、「彼らはとても遠 いところから来て、異国 で生活していました。私 たちですら苦しい生活だ ったため、日本人にはよ り一層辛かったことでし ょう。」と述べた。「例 えば、日本人は我々の食 べ物に慣れていなかっ

いつも気配りをするオトニ氏は 今でも日本人たちとの日々のや り取りを覚えている。

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第6章

オズヴァウド・クーニャ Osvaldo Cunha

明るさを失うことなく

初に採用された250名の社員となりました。州内の 色々な町から人が集められました。」と当時を振り 返る。イパチンガ市に到着し、バスを降りた時は驚 きを隠せなかった。「野蛮な人が多く、危険な町だ と聞いていました。」とのことで、正直当時は身が すくむ思いで、夜は強盗や殺人を恐れ、複数人でし か出歩かなかったという。

長身、恰幅のよい体付き、歯は丈夫、そして健康。 加えて、職業訓練校で好成績を収めたオズヴァウ ド・クーニャ氏（76歳）は、機械工からエンジニ アへとキャリアを順調に歩んでいった。人生を変え るチャンスがあれば何でもものにしようと、1961 年、19歳の時イパチンガ市に降り立った。ミナス・ ジェライス州の南東部のジュイス・デ・フォーラ市 には、家族が経営するパン屋があった。オズヴァウ ド氏を後継者として考えていた父親の申し出を断っ て旅立ったのだ。「私は大きな会社で働く運命にあ りました。」と言い切る同氏は、社交的でお祭り好 き、そして陽気な自身の精神が、イパチンガ市の日 本人コミュニティーの中にも存在することに驚いた という。

オズヴァウド氏の最初の住居は、カリル地区ある集 合アパートのJ21棟となり、その他の3名のオペレー ターとの共同生活となった。しかし、そのアパー トが日本人を含む既婚の新規採用者に提供されたた め、すぐにサンタ・モニカ地区の寮へと移った。そ こは1963年に、軍警察と製鉄所・関連会社のオペレ ーターの衝突による悲劇的な紛争があった場所で、 サンタ・モニカの砦とも呼ばれていた。その際のオ ペレーターの一人であった同氏は、死者8名、負傷 者約100名という公式データに触れると、悲痛な面 持ちを隠せない。

職業訓練校SENAIの入試は、ベロ・オリゾンテ市で 行われ、無事合格したオズヴァウド氏は、計装を自 身の専門分野とする過程の第一歩として、制御技術 を専攻した。「我々は、ウジミナスの生産部門に最 51

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お祭り）の盛況ぶりをよく憶えている。

気が抜けない生活で、暴力が存在したことは間違 いないが、同時に娯楽にも事欠くことはなかった ようだ。オズヴァウド氏にとって、スポーツは常 に重要であった。エレトロニカ・スポーツクラブ の設立メンバー の一人となり、 何度もピラシカ バ川に泳ぎに行 った。プレーし たのは、バスケ ットやペテカ（ 羽のついたボー ルを素手で打ち 合うゲーム）の みではなく、日 本人コミュニテ ィーの影響を強 く受けた柔道も 試してみた。

オズヴァウド氏にとっては、仕事がイパチンガ市 に留まる最大の理由であった。より高い地位に上 りつめたかった のだ。そのため に若者や大人が 通うマドゥレー ザと呼ばれる講 習に通い、職業 訓練校に入る資 格を取得した。 外国語を習得す ることが、長い キャリアの中で 有益になること もすぐに理解し た。製鉄所で業 務指導をしてい た日本人は意思 ウジミナスの支 疎通に苦労して 援により様々な おり、ポルトガ 地区に設立され ル語を非常に難 た9つのスポー しい言語だと考 スポーツマンのオズヴァウド氏は 、ウジミナスの計装エリアのメン ツクラブは、市 バーで結成したエレトロニカ・スポーツクラブでプレーした。 えていたと当時 民間の交流を大 のことを振り返 きく促進し、加 る。オズヴァウ えて日本人との距離を縮める重要な役割を果たした ドは、日本人が発音すると「オスヴァド」になって ようだ。「日本人はサッカー、お祭り騒ぎ、飲み しまった。「ほとんどが英語での会話でした。日本 会、サンバに参加していました。故郷を離れている 人はサンパウロの日系二世の通訳を雇いましたが、 という点では我々も同じでした。劣悪な生活環境に 彼らは技術的な内容を訳せませんでした。そのた 送り込まれた者同士、仲間意識は重要でした。」と め、コミュニケーションは常に大変でした。」と語 語る。娯楽はブラジル人のみが考え出した訳ではな る。 かった。日本人も伝統行事を開催し、そこには多く イパチンガ市にはわずかな日本人派遣者しか残って のイパチンガ市民が参加した。同氏は、カリル地区 いなかった1972年に、オズヴァウド氏は訪日グルー のアパートの庭で開催されていた盆踊り大会（日本 独特の踊り、衣装、歌で先祖の魂を祝う日本文化の プのリーダーとして初めて訪日した。その際、英語 52

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日本への初めての出張 は1972年だった。オズ ヴァウド氏は日本での 滞在を楽しみ、地域住 民との交流に努めた。 子供たちの間では人気 者になった。

1972年、日本にて。オ ズヴァウド氏は自分の ライフスタイルと違う ものは全て試すことに こだわった。「日本人 のように床の上で寝る ことにした」と言う。

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1. 1972年、日本での研修時、新日鐵住金社員と撮影。 2. 計装機器管理部署の日本人の同僚、トミタ氏（ボー ドを持っている人）の送別会。この会は、イパチンガを 離れた多くの派遣者に対して行われた。オスヴァウド氏 は右から2番目(座位)。 3. 1986年、オズヴァウド氏は日本へ赴き、新日鐵住金 のいくつかの製鉄所を訪問した。同社の社員と撮影。写 真左は、一緒に訪問した友人のジャシー・マルチンス 氏、右から二人目が通訳のチヤマ氏。

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を話せたことが安心材料になったという。「それ まで海外には行ったことがありませんでした。」 と語る同氏は、3ヶ月間に渡り大分、北九州、そし て名古屋の製鉄所で研修を受け、更に1か月間は東 京のウジミナス事務所にて、設備メーカーの調査 を行った。

オズヴァウド氏は1986年に再度日本を訪問してい る。イパチンガにおける日本人との共に過ごした時 や、1972年の日本での研修の時に、ヒエラルキーに は常に注目していた。その関係は目には見えにくい ものであるが、当時のウジミナスでの自身の地位 や、訪日グループのリーダーを務めた経験から、「 よくコミュニケーションを取り、より高い役職に付 くことは、物事をより円滑に進める上で大いに役立 ちます。」と締めくくった。p

日本での研修は忘れ難い経験となった。研修メンバ ーは訪日前に、会社から衣類購入のための日当の支 給を受けたという。スーツ、ネクタイ、カフスボタ ンを身に付け、申し分のない格好でブラジルを後に した。「かばんを買うためのお金も出ました。」と 冗談交じりに語り、「時間さえ守っていれば」日本 人との関係はとても良好だったという。同氏による と、その時の研修グループは、時間を守ったとして 高い評価を受けたという。 遠い日本では全てが新鮮で、「東洋人と同じように 寝る」ということで、ベッドの代わりに布団で寝た という。受講した研修は価値あるものだと思う一方 で、合意された内容に沿って厳密に進められため、 「日本人はただでは何もくれない」との限界も感じ たという。研修は十分な内容ではあったが、新日鐵 住金側が設定した内容以外について学ぶことができ なかったと述べている。 日本での研修から多くを学び、オズヴァウド氏は「 ぼうっとしていると、ウジミナスが導入する新技術 に対応できない」ことに気がついた。「勉強しなけ れば」と思い、研修後30歳を過ぎてから機械工学の 学士課程を修了した。勉学、そして計装部門の係長 職を両立させ、同僚と共に17時に製鉄所を退社し、 直接ゴヴェルナドール・ヴァラダレス市の大学へと 向かった。帰宅時には時計の針は夜中1時を回って いた。「そのような生活を5年間続けました。」と 語る同氏は、大学卒業後にアシスタントエンジニア となり、後に計装課長に昇進した。

高炉付近、右から2番目のオズヴァウ ド氏。日本人スペシャリスト1人を含 めた計装部署の同僚と撮影。

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第7章

エリージオ・カシウド・ヴィエイラ Elísio Cacildo Vieira

ウジミナスは学びの場

ミナス・ジェライス州の田舎のイパチンガにある大 規模製鉄所が、作業員を募集しているとのニュース が、1960年代にブラジル各地を駆け巡った。200キ ロ離れた小さなピエダーヂ・デ・ノーヴァ市も例外 ではなかった。当時は「良い仕事」として知られて いたウジミナスで働く機会を求め、エリージオ・カ シウド・ヴィエイラ氏は、1965年にイパチンガへや って来た。その年の5月には熱延ラインが完成し、 稼働を始めていた。採用と教育は日本人の役割であ った。その内の一人が同氏を面接し、技術者として 採用し、係長に任命した。

おける31年間は熱延工場に勤めた。 エリージオ氏はウジミナスでのキャリアに誇りを持 つが、謙虚にそれを「人並み」という。ウジミナス では幾つものチャンスに恵まれた。1971年から1975 年まで、ゴヴェルナドール・ヴァラダレス市の現ヴ ァーレ・ド・アッソ大学（UNIVALE）の前身である ミナス工科大学（MIT）にて、会社の奨学生として 冶金学を学んだ。後年になり、同氏はロールショッ プ職場の長として、熱延部長に就任したヒナウド・ カンポス・ソアレス元社長の直属の部下として一緒 に働いた経験を持つ。「予想を遥かに超える知識を 習得することができました。とてもオープンで、対 話を重視する管理スタイルでした。」と振り返る。

ウジミナスの待遇や業務内容が、町そのものよりも 魅力的であったと胸のうちを明かしたが、微塵の魅 力もなかった町の第一印象は少しずつ薄れていった という。イパチンガの成長はあまりにも早く、エリ ージオ氏はここに移り住もうかと考え始めた。期待 を超える成長の虜になってしまったのだ。76歳を迎 え、イパチンガに移り住んで早53年、ウジミナスに

ウジミナスに勤め始めた時代の課長は、日本での研 修を受けたブラジル人のエンジニアに徐々に移管さ れるまで、新日鐵住金の指導の下に日系二世が受 け持っていた。日本人と日々接する中で、「淡々と 57

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手順通り進めていく管理 職」と評されていた彼ら が、傲慢な態度を取った ところを見たことがない という。「時として彼ら は確かに居丈高の態度を 取ったが、それは鉄鋼工 程の経験を持たないブラ ジル人よりもずっと経験 が豊富だったからです。 」と評価する。採用され たエンジニアの太宗は、 卒業したばかりで、工場 勤務は初めてだった。オ ペレーターの一部は、こ の辺りの農家出身であっ た。「偉大なスペシャリ スト」しか研究部門には 配属されなかった。

員に対して同じように教 育するのは、ほとんど義 務のようなものであっ た。人の話をよく聞くこ とや、根気強く接するこ とは、日本人と一緒に仕 事をすることで習得した 新たなマネジメントスタ イルを代表するものであ った。製鉄所の門を一度 出ると、日本人は控えめ な人ばかりであったが、 一緒にいて心地よかっ た。作法や考え方、食事 などに違いはあったが、 同氏にとり日本人は、簡 単に異文化に魅了される 人々である一方で、自身 の文化で周りを魅了する 存在でもあった。

先生と崇められていた日 エリージオ氏は三度訪 本人だが、当人たちはそ 日した経験を持つ。初 のようには受け止めてい エリージオ氏は31年間ウジミナスに勤め、退職後も めて行ったのは1978年 なかった。説明を繰り返 会社との関係を維持した。1977年撮影。 で、19名の技師の1人と す必要があれば、根気強 して、日本の8つの主要 く、チームを信じ、ブラ 製鉄所を、北から南まで90日間で駆け巡った。別の ジル人の創造性を尊重しながら繰り返し説明してく 研修では、経験を積んだ圧延課長として、18人のグ れた。日本人が頭ごなしに物を言うのは稀だった。 ループの責任者として訪日した。技術的・専門的な まずは聞き、考え、そして是非を判断したという。 知識の習得以外にも、日本へ行く度に同氏の生活 「日本人は反対、或いは却下する際には、『ノー』 スタイルに新たな経験や習慣が付け加えられていっ である理由を説明しました。話し合い、議論する余 た。日本食を好むようになり、日本人があまり使わ 地があったのです。ただの主従関係ではありません ない「まけて！」や「いくら？」等の魔法の言葉も でした。」と当時を振り返る。 覚えた。また同氏が感慨深く思い出すエピソードが 日本人と関係することが勉強に繋がると気づいたエ ある。1982年のサッカーW杯で、エウマ夫人と運命 リージオ氏にとって、ウジミナスは大学のようなも のブラジル対イタリア戦をホテルでテレビ観戦した が、周囲は力一杯ブラジルの応援をする社員に囲 のだった。日本人から知識を習得した者は、新人社 58

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右からイデウ・ファンチーニ氏、エリージ オ氏、エジマール・ヒベイロ氏、アントニ オ・ジョゼー・ネーヴェス・ピント氏。

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まれていた。そしてブラジルの敗戦が決まった瞬 間、1人の日本人が悔し泣きをした。

て会話をし、対話や相互理解を必要とする信頼関係 を構築していった。初めての訪日前は、距離（当時 は32時間のフライト）、食事、言語を心配していた

エリージオ氏は、日本人はブラジル人と話すのが好 きだったことをよく覚えており、何としてでも自分 の意思を伝えようとする姿に、同氏はいつも心を打 たれた。ジェスチャーや片言の英語、お互いに笑っ

が、今では日本はそれほど遠くないと感じている。 日本人は何か特別なものを持っており、それで全て が楽になったという。

稼働中の第1製鋼工場。

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エリージオ 氏は3 回日本へ出張し、 国内最大級の製 鉄所を訪問した。 写真は1977年、ブ ラジル人と同行し た日本人たちと。 本人は左から二人 目。

退職した1993年には、エリージオ氏はアルゼンチン で仕事をしていた。同年、イパチンガ市の経済の裾 野を広げ、ウジミナスに対する依存度を低下させる ことを目的として、イパチンガ開発局が発足した。 同氏は局長就任を打診され、それから2017年まで勤 め上げた。現在はイパチンガ市とその周辺地区の実 業家で構成される「グルーポ・ハイス」の会長を務 めている。同グループは毎週著名人を招き、昼食会 を開いているが、その著名人の中には、同市では「 エガワさん」の愛称で知られる新日鐵住金・米州担 当役員の江川和宏氏も名を連ねている。p 勤続20年を迎えた年、イデウ・ファンチーニ氏から 社員に与えられる永年勤務の記念品を手渡された。

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第8章

ジューリオ・オルギン Júlio Olguin

人生の哲学として

「私の人生は、全て日本の文化に基づいています。 」現在51歳になったジューリオ・オルギン氏の信念 には、5歳で始めた空手で、師範として今日まで積 み上げた鍛錬と経験が反映されている。同氏は1970 年代初めに家族が移り住んだオルト地区で、武道の 価値観と行動原理に基づいた日常を送っている。ジ ューリオ氏の両親はオルギン道場を設立したが、約 半世紀にも渡り、イパチンガ市における空手普及の モデル道場として知られている。

がたく思っています。」とし、イパチンガ製鉄所が まだ建設中の時代、父親が33歳の時に、ウジミナス の社員で、日本から派遣されたエンジニアのイシカ ワ氏の指導を通じて空手に出会ったことで、日本人 に対する親近感が尊敬に変わったと語る。 イシカワ氏は、カリル地区の自宅の庭で空手を教え ていた。父親のマチアス氏は、地域で書店を3店舗 経営していたが、製鉄所の社員たちに技術書を販 売していた際に、イシカワ氏と出会っている。同氏 は日本に帰国したが、支えを失った訳ではなく、イ シカワ氏のブラジルの師匠であったヨコヤマ・アキ オ氏を紹介してもらっていた。ヨコヤマ師範は、ベ ロ・オリゾンテ市の天理道場の創設者であり、ブラ ジル空手界における先駆者の一人である。

空手とイパチンガ市とを結びつけると、オルギンと いう名字は、瞬時に日本人の家族ではと思わせる。 スペイン人の父、マチアス・アウベルト・オルギン 氏と、サンパウロ市出身の母、ゼーリア・オルギン 夫人の間に生まれたジューリオ氏は、そのような誤 解を招くことに笑みを浮かべる。だが一つだけ確か なことは、建設中の町の文化形成の一端を担ったオ ルギン一家は、日本人に強い影響を受けているとい うことだ。「日本人との関係は、我々にとってあり

ヨコヤマ師範の指導を受け、マチアス氏も師範とし ての資格を取り、息子に空手道場の後継ぎとなるよ う説得した。ジューリオ氏は21歳にして黒帯を取得

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し、父親の望みは実現した。 現在では黒帯6段であるが、 空手の段位は10段まであり、 最低でも7年間かけて段位を 授かっていく。 オルギン一家と、ヴァーレ・ ド・アッソ地域の日本人コ ミュニティーを近づけたの は、1971年に設立された空手 道場である。「当時は日本人 の生徒が多かったです。イパ チンガ市に移住し、家族を築 いた日本人移民の人たちでし た。日本人の生徒が多かった のは、武道の文化が日本から 来ていることにあります。日 本では、空手が1922年から学 校で教えられています。イパ チンガ市では、空手は新しい スポーツで、ケガを恐れる人 が多かったです。」とジュー リオ氏は説明する。

ゼリア・オルギン氏はオルギンアカデミー を設立し、クラッシックバレーを教えた。 彼女はイパチンガにおける文化を推進した 一人で、多数のバレーダンサーや役者を、 アカデミーに設置された舞台に受け入れ た。写真は独身時代、サンパウロにて。

夫が空手を教え、更に芸術や 文化活動を行う空間として理 想的だと感じた。ジューリオ 氏によると、既に空手の生徒 数は累計1万人を超え、クラ シックバレーは2万人を超え たという。数年間は、ジュ ーリオ氏と、母親同様にバレ リーナで妹のサレチ氏は、柔 術といった他のスポーツも取 り入れることを余儀なくされ た。イパチンガ市における空 手の人気が低迷した時期を乗 り越える手段であった。しか しながら、空手の最盛期に は、ミナス・ジェライス州 やブラジルチャンピオンを 輩出している。同氏による と、空手の人気が低下したの は、MMAなどの新しい格闘技 の台頭が理由だとという。

それでも、オルギン道場は活 動を続けており、二回目の改 築が進められている。第1回 目の改築は1980年に行われ、 ウジミナスと新日鐵住金の支援の下に実施された。 ジューリオ氏は、ブラジルで開催された2016年のオ リンピック期間中に空手が五輪の正式種目として承 認されたこともあり、イパチンガ市や周辺地域で も、昔の盛り上がりを取り戻すであろうと確信して いる。日本人選手が数年に渡り、ヨーロッパや北米 の選手に勝てなかったことを思い出す。しかし最後 の世界選手権で、「鍛錬と意志の力」で上回り、日 本は他国を圧倒した。同氏は「その信念を私の人生 に取り入れました。」と語る。

オルギン道場は、母親のゼー リア・オルギン夫人の夢か ら生まれたものだ。ウジミナス文化財団が1994年に イパチンガ市に劇場を建設し、その名前にはゼーリ ア・オルギンと名付けている。オルギン夫人は夫と 息子の三人でサンタ・モニカ地区を散歩していたと ころ、イパチンガ製鉄所の建設期間中に労働者向け の食堂として使用されていた建屋が目に映った。オ ルギン一家は、ウジミナスの財政的な支援の下に、 その場所をスポーツ施設として改造し、既に活動は 47年にも及ぶ。 ゼーリア夫人は、自分がクラシックバレーを教え、

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ジュリオ氏は、ブラジルで著名な空手家ヨコ ヤマ アキオ師匠の下で何年も学んだ。写真： 生徒のエリック・ジョルジ氏と師匠。

1998年9月7日の独立記念日パレードで、 ジュリオ氏はイパチンガで有数の美しさ を誇るイパネマ公園で演武を披露した。

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マチアス・オルギン氏(左から三人目) 、生徒たちと。彼は空手の厳しさと遊 びを両立する先生として有名だった。

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日本人と接することで、オルギン家には日本の習慣 が取り入れられた。「我が家の食事で2番目に多か ったのは和食です。一家全員が和食を知り、試し、 食べる必要がありました。」とし、家では玄関で靴 を脱ぐ日本人の習慣を未だに維持していると断言す る。人生の哲学は、特に集中力、忍耐力、そして学 習を要求される空手道から来ており、生活する上で のルールにもなっている。「2018年のブラジル大会 はベロ・オリゾンテ市で開催されます。選手だけで はなく、私も参加します。メダルを獲得することが 全てではないことを身につけてもらうためにも、遠 征して子供たちをこのような大会に参加させること はとても良いことです。空手の目的は人格形成で す。」と説明する。

ベロ・オリゾンテ市の稽古に出向いた際にはいつも 付いていったが、「当時は、師匠と同じテーブルで 食事をとるには、黒帯でなければ許されませんでし た。稽古の後、皆で出かけましたが、空手について 話をしたくても、同席することは許されなかったの です。」と語る。 ジューリオ氏と、妹のサレチ氏は、家族がイパチン ガ市に移住した際に入居した家に今も住み続けてい る。引っ越すことは考えていない。オルト地区の大 半の住宅がビルに姿を変え、オルギン兄弟の幼少期 の風景を完全に変えてしまった不動産投機に果敢に 抵抗しているのだ。「移り住んできた当時のオルト 地区は、非常に綺麗でした。」と回想する。昔のオ ルト地区からの変化を語る際、懐旧の情に堪えない 同氏は、「最初は住宅全てが木造でしたが、時の経 過と共に改築されました。私たちは自分たちの考え を貫いています。私たちの家は歴史的建造物であ り、絶対に売りたくありません。伝統を守っていき ます。」とその意思を伝えた。p

ジューリオ氏にとり、父親の生徒であった幼少期か ら、日本人とブラジル人の子供に対するしつけの違 いは明白であった。マチアス氏はドッジボールや鬼 ごっこなどの遊びを稽古に取り入れ、道場で子供た ちのやる気を高めた。しかし、マチアス氏は師匠の 教えに則り、メリハリをつけた。「練習とゲームで は指導方法に大きな違いがあります。日本人の子供 たちは集中力が高く、規律正しかったです。一度の 注意ですぐに言うことを聞いてくれました。ブラジ ル人の子供たちには3回注意する必要があります。 父は常に『空手は遊びではない、稽古の初めはゲー ムをするが、空手の稽古が始まったら真剣に取り組 むように』と言っていました。」と当時のことを語 ってくれた。 ジューリオ氏は、厳しく律する精神を自身の生活に 取り入れている。父親がヨコヤマ師範の弟子として

依然としてイパチンガに住み、 空手の稽古を続けるジュリオ・ オルギン氏。彼は、この町で 空手の代名詞となっている。

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第9章

フラーヴィオ・マルシオ・ポルト・デ・リマ Flávio Márcio Porto de Lima

二つの愛情

「私の妻は、『あなたが一番大事にしているのはウ ジミナスで、私は二番目だ』と言います。」、電気 エンジニアで69歳のフラーヴィオ・マルシオ・ポル ト・デ・リマ氏は、冗談交じりにこう述べた。同じ くウジミナスの元社員で、化学エンジニアの妻、カ ルラ・ガゾラ・デ・リマさんの発言であることか ら、納得できる指摘であろう。43年間に亘り、会社 と「結婚」生活を送っていた。学生時代に初めて就 職した会社であり、勤めた唯一の会社である。だか らこそ、ある意味では、日本人の働き方を見ながら 社会人として成長していったと言える。

ロ・オリゾンテ本社のチームを強化する必要があっ た。1962年10月26日には、第一号高炉の火入れ、そ の24時間後に初出銑と、イパチンガ製鉄所の生産プ ロセスはスタートした訳であるが、彼が入社したの は、その10年後のことであった。 当時、ルールジス地区にあった簡素な本社は、苦悩 と楽しみが共存する場所であった。雨が降ると、フ ラーヴィオ氏の事務所（かつて工場だった建物のガ レージ）は冠水した。机や椅子の足元を紙の船が流 れていた。しかしウジミナスは数年に亘り大きく躍 進していた。「ブラジル経済の奇跡」と呼ばれた時 期で、GDPの成長率が直に反映する形で、10年間で 飛躍的な成長を記録し、本社の社員数もそれによっ て膨らんでいった。「2階建ての机ができると良く 冗談を言っていました。」とフラーヴィオ氏は思い 返す。

1972年にフラーヴィオ氏は、英語ができたおかげ で、ウジミナスに研修生として入社することがで きた。そして採用された際には、医療部門に言わ れて、親知らずを一本抜くはめになった。フラー ヴィオ氏が入社した当時は、生産量240万㌧までの 能力拡張を目指しており、サプライヤーの技術提 案、見積もりを検証するためのサポートとして、ベ

1970年代初頭、まだ研修生として勤めていた頃、同

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た。新日鐵住金は、ウジミナスに対して設備技術に 関する技術協力を続けた。「彼らの指導によって学 んだことは、確実にものになりました。」と語る。

僚として初めて日本人と接することになった。ウ ジミナスでは、日本人主導からブラジル人主導へ のバトンタッチの時期であった。1960年代のイパ チンガ製鉄所の建設時期とは違い、日本人のエン ジニアや技師の数は減っていた。ベロ・オリゾン テ本社に勤めていた多くの日本人は、イパチンガ での生活を経て、故郷には戻らないと決めていた 人たちであった。

1975年、大学を卒業して2年後に、フラーヴィオ氏 はその後複数回訪れることとなる日本を初めて訪問 した。旅は長かった。乗り継ぎ地では期待を膨らま せた。リオ・デ・ジャネイロ、リマ（ペルー）、ロ サンゼルス（米国）、アンカレッジ（アラスカ）で 乗り継いでようやく日本の首都、東京に着いた。8 名の訪日グループで、製鉄所やサプライヤーを訪問 した。「全てが違っていました。道が綺麗なことに 驚きました。会議では、上下関係の序列を感じまし た。私たちの社会で言い換えると、軍隊に近いもの でした。」とフラーヴィオ氏は言う。「日本人は規 律正しく、目的がぶれることはありません。非常に 誠実です。」と語る。

設備調達部門の仕事では、情報の取扱いに注意する 必要があった。入札の際の技術提案の検討を行う部 門には、ブラジル人だけしかおらず、上司は長年ブ ラジルに在住していたイタリア人であった。確か に、近くに日本人がいることは気になったが、日系 企業も他のサプライヤーと同等の立場で入札に参加 していたこともあり、職場は秘密厳守のムードに覆 われていた。ウジミナスの株主構成により、日本人 に特別扱いしていると非難されるような状況ではな かった。「事務所内での日本人とは、良好で円滑な 関係でした。インフォーマルな会話や、日常的なや り取りは心地よいものでした。日本人からは、よく 夕食や飲み会に招待されました。」とフラーヴィオ 氏は語る。

主にサプライヤーや設備メーカーを訪問した。コミ ュニケーションは英語だったが、義務的に通訳が付 いていたこともあり、ミーティングは長時間に及ん だ。緊張をほぐすための懇親会や、会食が定期的に 催されたが、その場でも厳しい上下関係は守られて いた。「初めて参加した会食で、私はテーブルの端 に座りました。しかし最後の会食では真ん中に座っ ていました。」とフラーヴィオ氏は面白そうに話 し、座る位置は役職ではなく、その人がプロジェク トの中で重要な役割を担っているかで決められてい たと説明する。

飲み会ではビールだけではなく、「ビール、日本 酒、ウィスキーを同時に飲みました。」と語る。あ る日、「あなたは私の友人ではない。」と日系二世 の友人に言われて驚いたという。困惑したフラーヴ ィオ氏は、その理由を訊いたところ、「あなたは私 と一緒に酔っ払ってくれない。」という回答が返っ てきたという。フラーヴィオ氏は、友人と飲むこと はあったが、違う種類のお酒をちゃんぽんすること はなかったと述べた。

日本への出張は知識の源となり、興味をひかれる ことばかりであった。「私たちブラジル人にとっ て、常に最良の選択肢を考えました。」と語るフ ラーヴィオ氏によると、訪問先は馴染み深い新日 鐵住金だけに限らなかったという。初めての訪日 で感じたのは、日本とブラジルの技術面での深い 溝であった。「例えば電子分野での技術の差は

大学を卒業して、正式にウジミナスへ入社したフラ ーヴィオ氏は、製鋼設備の技術・調達部門で様々な 役職を経験した。日本人との関係はより緊密になっ

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1. 東京のウジミナス事務所、1980年。 2. フラヴィオ氏と同僚との週末の京都観光、1980年。 3. 日本のウジミナス事務所でのブラジル人社員と日本人社員。 4. 1996年、電子部品工場視察。

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1996年、日本での新日鐵住金 メンバーとの夕食会。

1996年、京都金閣寺にて。フラヴィオ氏と ブラジル人・日本人グループメンバーと。

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とても大きく、全てが新しいものとして理解する 必要がありました。しかし、興味をひいたのは技 術面のみではありません。各都市でそれぞれ違い がありました。ホテルのチェックインの際に、冷 蔵庫の水を飲んだことを告げると、フロントの女 性から既にシステムに表示されていると言われ驚 きました。」と当時を振り返る。フラーヴィオ氏 は、日本への複数回の出張を通じて、40年で日 本社会が変遷を遂げたと感じている。当初道を歩 いていると、女性は皆同じような服装を着ていた が、「今では短パンを履き、髪を染めています。 」と比較する。

同氏は、日本人のプロフェッショナルな態度がウジ ミナスとその社員を育て、その優位性が認められる に至ったと評価する。「ウジミナスは、元はとい えば日本の会社であり、人材育成や、素晴らしい設 備を保有することで、高い品質が生まれました。」 ブラジル人が日本人の教えからしっかり学んだこと で、1970年代末に実施された350万㌧化を目的とし た生産能力の拡張プロジェクトは、全てブラジル人 の知見に基づいて遂行されたという。「日本人は能 力拡張案件には参加しませんでした。なぜか？それ は私たちブラジル人が、日本人から得た知識を十分 に吸収したからです。」と締めくくった。p

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第10章

カルロス・アウベルト・カラザンス Carlos Alberto Calazans

郷土愛

大きな感謝の気持ちを抱え、62歳の医師のカルロ ス・アウベルト・カラザンス氏が1982年にイパチン ガ市へと戻って来た。戻って来たとは言うものの、 イパチンガ市に先に移り住み、既に6年を経過して いた父親と一緒に生活するために、1968年に母親と 兄弟と共にイパチンガ市に引っ越して以降、この町 との繋がりが途絶えたことはなかった。「私はイパ チンガと強い絆があります。ここで素晴らしい青春 時代を過ごしました。」と喜しそうに語る。カラザ ンス氏によると、イパチンガ市には日本人のコミュ ニティーの価値観が残されている。

目まぐるしいものであった。少年だったカラザンス 氏にとって、イパチンガ市は魅力的な町であり、の どかで楽しく自由な場所だった。「イパチンガはと ても住みやすい町です。」と語る同氏は、当時住居 していたオルト地区には、プール付き裕福な住宅が 並び、町は安全で、治安の心配はなかったという。 カラザンス氏は、隣町のコロネル・ファブリシアー ノ市へレジャー施設やダンスパーティーに出かけた り、スポーツや遊びをしに行ったりした。女性との 出会いもあった。「イパチンガには多くの労働者が いましたが、女性の数は少なかった」とし、コロネ ル・ファブリシアーノ市で過ごした健全な思春期の 思い出にふける姿が印象的だ。州立ジョアン23世高 校に2年間在籍し、その後サン・フランシスコ・シ ャビエル高校を卒業した。後者にはウジミナスの社 員の子供も数多く通っていた。同氏は、「青春時代 は素晴らしかったです。」と当時を振り返る。

現在は、マルシオ・クーニャ病院の人工透析センタ ーの課長及び、腎臓移植外科のコーディネーターを 務めている。元々カラチンガ市に家族と共に住んで いたが、地域の発展に合わせて、父親が100キロも 離れていないイパチンガ市で、運送関係に投資する ことを決意した。イパチンガ製鉄所が生産開始して から6年が経過した当時のイパチンガ市の発展は、 75

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カラザンス氏にとって強く思い出に残っているの 学校は宣教師が運営していたが、知識の習得や、ア は、日本人とその子孫たちがイパチンガ市で興し イデンティティの確立という点で重要なことを学 たビジネスに関するものだ。カステロ地区のグラ んだ。当時、日本人や日系人の友人と触れ合う機 ンドホテルの一 会は多かった。 部は、装飾が全 単身の日本人 て日本風であっ 派遣者もいた。 た。同じくカス イパチンガ市の テロ地区の丘の 若者は、主にブ 上には1960年か ラジルで既に生 ら1970年にかけ 活をしていた日 て若者を熱狂さ 系人コミュニテ せたナイトクラ ィーの子供たち ブ「ニショ・テ と接する機会が イ」があった。 多かったとい そのオーナーで う。2018年6月 あるセシリア・ 18日にブラジル エグチ氏は、カ 日本移民は110 リル地区の写真 周年記念を迎え 館「ムイト・ボ た。1908年4月 ン」も経営して 28日に日本の神 いた。ナイトク 戸港から出港し ラブは4人席の低 た移民船「笠戸 イパチンガは大きな遊び場だった。「とても幸せな幼少期でした｣とカ いテーブルが仕 丸」は、サンパ ラザンス氏（右）。ゲヒーニャ氏（中央）、ジャシント・マリオ氏（ 切りで区切られ ウロ 州のサント 左）とジュリーニョ氏 (下)。地元のオルト地区にて、1969年撮影。 ており、伝統的 ス港に到着し、 な焼きアーモン 農業移民として ドを嗜むことができた。娯楽としては、「ウジピー 781人の日本人が初めてブラジルに入植した。 ニャ」は仲間が集う場所としてダンスパーティーを カラザンス氏によると、サン・フランシスコ・シャ 開催していた。「町の人々は娯楽を求めてウジピー ビエル高等学校の日本人生徒は、他の生徒と違いは ニャに行っていました。」と言い、ダンスパーティ なかったという。「日本人との関係は平穏で、落ち ーは午後8時までやっていたとカラザンス氏は説明 着いたものでした。ユニークな教育方針で、神父さ する。 んの教育への取り組み方が面白く、教会の中では近 イパチンガ市に馴染み、幸せに暮らしていたが、カ 代的なアプローチであり、知性に溢れる神父さんば ラザンス氏は、17歳の時に大学入試のためにベロ・ かりでした。」と語る。しかし、日本文化はあらゆ オリゾンテ市に引っ越すことになった。それ以降、 る場所に存在しており、例えば、柔道の稽古や、伝 同氏の人生は医療が中心となっている。医学生時代 統となった盆踊り大会などが挙げられる。 76

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両親のオルランド、ジウダ夫妻と カラザンス氏。

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1965年、マルシオ・クーニャ病院開院式。

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もイパチンガ市との絆は強かった。バルバセナ市で はイパチンガ市役所から奨学金を受けて勉学に勤し んだ。休暇の際には、ウジミナスが建設したマルシ オ・クーニャ病院でインターンを行った。数年後 に、腎臓疾患の専門医として大成し、カラザンス氏 は、一度離れていたが、ずっと故郷だと思っていた イパチンガ市に、最終的に舞い戻ってくることにな ったのだ。

会に大きな柱を残しています。」と言う。 まだ学生だったが、医者としての第一歩を踏み出し た、同じマルシオ・クーニャ病院で、カラザンス氏 は次のような柱があると感じている。「日本人の価 値は、彼らの中にある思いやりの心であり、それは 非常に根付いています。」と断言した。この病院は 常にウジミナスと直接的に結びついているので、彼 らと同じように日本人の作法や働き方がそこにあっ たからこそ、このような構造ができあがったと彼は 考えている。p

時間の経過と共に、イパチンガの社会のあり方は変 わっていったとカラザンス氏は述べた。町やウジミ ナスの建設の頃には、派遣者やブラジルの他州から 来た日本人と子孫の存在が目立っていたが、今はそ うではない。「この町の入植地としての特徴は変化 してきました。しかし、日本の文化構造は、地域社

マルシオ・クーニャ病院人工透析センター課長で、腎臓 移植コーディネーターのカラザンス氏は、日本文化がイ パチンガ住民に深く根付いていると感じている。

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第11章

マリア・ダ・コンセイソン・ソアレス Maria da Conceição Soares

ウジミナスと夫に捧げた愛情

ミナスでの仕事を通じて、日本人と触れ合う機会は 数え切れないほどあった。ソアレス元社長は、研究 所のコーディネーターとして、ウジミナスでのキャ リアをスタートさせている、その後、圧延工場の工 場長となり、所長も務めた。1990年には社長に就任 し、2008年に引退するまでトップとして会社の指揮 をとり続けた。

ウジミナス元社長の未亡人のマリア・ダ・コンセイ ソン・ソアレスさんは、ミナス・ジェライス州のオ ウロ・プレット市で生まれた。同市の鉱山学校（訳 注：後のオウロ・プレット連邦大学）で学んでいた ウジミナス元社長、ヒナウド・カンポス・ソアレス 氏と出会い、1965年に結婚した。それ以降、彼女は 夫の人生の一部となり、夫の仕事に人生の多くを捧 げることとなった。結婚前はオウロ・プレット市で 教師として勤め、数年後ヴァーレ・ド・アッソ地方 のイパチンガ市でも教師としての仕事を続けた。コ ンセイソン氏にとって、人の歴史というものは、人 々の人生に常に寄り添っているものであり、決して 忘れてはならないと信じている。従って、ウジミナ スでの経験した思い出について語ることは大きな喜 びだという。

コンセイソン夫人は1970年代に初めて日本を訪問し た。ソアレス元社長と、他にも二組の夫婦が旅の友 として同行した。約1か月間の滞在となったが、そ のことを「冒険」と表現する。男性陣が技術的なミ ッションとして新日鐵住金の全製鉄所を訪問して いる間、女性陣3人は日本人の友人に同行してもら い、旅行及び買い物をして過ごした。その他にも、 伝統的で魅力的な寺院、ユニークな料理、日本人の 規律面や文化について見て回った。その後も何度も 日本を訪問しているが、日本人とは常に良好な人間 関係を築いてきたという。

彼女にとって、新日鐵住金の日本人との関係につい て語ることは、造作もないことである。日本語は 「ありがとう」以外は話せなかったが、夫のウジ 81

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ある特別な機会を使って、コンセイソン夫人は 日本人に対してサプライズを計画した。それ は、1986年に開催されたウジミナスの設立30周 年記念イベントに参加するために、日本から招待 客グループが訪伯した時のことであった。同夫人 は、日本の伝統的な着物を身にまとったのだ。着 物を着付けが難しいため、着付け師を招いて準 備した。計画したサプライズは大成功を納めた。 日本人とは自然体で親密な関係を維持してきたコ ンセイソン夫人だが、日本人の招待客を驚かすこ とに見事成功した。自分自身を「金髪の日本人女 性」と名付けた同夫人の着物姿を見て、日本人が 非常に喜んでくれたと当時を振り返る。 別の機会でソアレス元社長と訪日した際は、日本人 の友人に誘われ、茶会に参加した。お茶を単に飲む のではなく、セレモニーの参加者に抹茶を振る舞う 儀式である。「サドウ」と呼ばれ、集中力を必要と し、決められた所作や挨拶があり、日本では人生の 哲学と見なされている。 ブラジル料理は日本人に大人気であったという。特 に肉料理が人気で、訪伯する日本人にとってシュラ スコ料理は欠かすことのできないメニューである。 日本人は、特にソアレス夫妻のようなパーティ好き のブラジル人と相性がよく、親密で和気藹々とした 関係を通じて友情を育んできたという。ソアレス元 社長は2004年に、日本政府から在ベロ・オリゾンテ 名誉総領事に任命され、権威ある旭日中綬章を受章

ウジミナス30周年記念式 典で日本からのお客様を 着物姿で歓迎するコンセ イソンさん。

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1992年、有馬 温泉のホテル でくつろぎの 時間。

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ヒナウド・コンセ イソン夫妻とアデ マール・デ・カル ヴァーリョ・バル ボーザ氏。ウジミ ナス30周年記念式 典にて。

ヒナウド・カンポス・ ソアレス氏は日本で天 皇陛下から旭日中綬章 を授かった。

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ベートオフィスを訪れ、コンセイソン夫人と、娘の ハケウさんと共に故人を悼んだ。その際には、日本 の友人からの手紙や、既に他界した友人の家族が書 いた手紙が数多く届けられたという。その数か月後 には、当時ウジミナスの監査役を務めていた二宮正 人弁護士から一冊の本を受け取った。そこにはソア レス元社長の功績が48ページに渡り綴られていた。 日本で実施されたセレモニーでは、新日鐵住金の元 社長、日本ウジミナスの元社長、元ウジミナス経審 委員、そして国際協力銀行の元役員ら計9名の友人 が、ソアレス元社長の死を弔い、同氏との思い出を 語ってくれた

した。名誉総領事としては、逝去する2011年4月ま でその任務を勤め上げている。 周囲からは「先生」と呼ばれていたソアレス元社 長が逝去した4月21日はチラデンチスの日であった が、日本人からの追悼メッセージが絶えなかった。 初七日の4月27日の午後には、複数の日本人の仲間 がベロ・オリゾンテ市のソアレス元社長のプライ

明るく、前向きな生き方を貫き、温厚篤実なコンセ イソン夫人は、経営者である亡き夫の妻として、煩 雑なやり取りや、時には駆け引きを必要とする様々 な事態にも遭遇したが、冷静に対処してきたとい う。「夫は仕事に追われる生活で、気を緩める暇も なく、心配事も多かったため、妻として陰から常に 支えてきました。」と語る同夫人は、最善を尽くし たと自負する。それは1968年にオウロ・プレット市 からイパチンガ市に移り住み、「成功に満ちた冒 険」の旅路へとスタートして以降、夫が不治の病を 抱え、天命を全うするまで続いた。同夫人は、亡き 夫が参加する全てのイベントや式典に積極的に参加 し、出張にも同伴するなど、よき伴侶としての任務 を全うした達成感に満ち溢れている。 イパチンガで開催されたウジミナスの創立55周年記 念式典に招かれたコンセイソン夫人が、亡き夫への 感謝の気持ちを込め、自身とソアレス元社長の思い として伝えたメッセージを綴り、本章を締めくくる こととする。「日本人、新日鐵住金、そして何より もウジミナスやヴァーレ・ド・アッソ地方が私たち の源です。私たちの人生の大部分が、そして亡き夫 の会社人生の全てがここイパチンガ市にあります。 計り知れない愛情で一杯です。」p

ヒナウド・カンポス・ソアレス氏、 ミナス・ジェライス州ベロオリゾン テ市ウジミナス本社前にて。

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第12章

ホーメル・エルヴィン・デ・ソウザ Rômel Erwin de Souza

日本的なミナス気質

ホーメル・エルヴィン・デ・ソウザ氏は、ウジ ミナスの社員として42年間勤め、会社の全ての 階層を登りつめた。イパチンガ製鉄所で事務所 アシスタントとしてスタートし、後に12年間同 製鉄所長を務めた。2009年の世界経済危機に際 しては、営業担当役員を務めると共に、ウジミ ナス社員年金基金の理事長と、経営審議会委員 の職を兼任した。

常に考えていた。 新日鐵住金は、各工程のニーズに対する指導、 修正、あるいは調整を行うために、ブラジルへ の技術者派遣制度や、ブラジル人の日本での研 修といった活動を継続的に進めた。日本での研 修は、長年鉄鋼業界をリードしてきた日本人か ら新たな知識を吸収し、それらをブラジルの現 実に適応させることが目的であった。ホーメル 氏は、焼鈍の研究にあたって、同プロセスがど のように適用されているかを間近で見るために 日本へ出張した。

2012年から2014年の間に技術・品質担当副社 長、そして2014年から2017年3月まで社長の職 に就いた。冷間圧延部での経験もあり、鋼の 焼鈍工程に関する特許権3件の出願人となった 経歴もある。全てが、予定通りに進むスイス 製の時計のように機能する会社で、ホーメル 氏は現場に存在感を示すリーダーとして製鉄 所のマネジメントを行った。同氏は、社員が 仕事にやりがいを感じるために、自分が何を 実行しているのかを理解することが重要だと

ホーメル氏が日本人と一緒に最初に仕事をした のはブラジルで、新日鐵住金が技術協力を行っ た時であった。傍らに通訳を置きながら、問題 点が浮き彫りにされていき、対策は定着してい った。ブラジル人たちは良く学び、他社に対し て技術サービスを提供できるほどの知識を身に 87

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1. 木の日の記念としてイパチンガの学生と河畔林で植林。 2. イパチンガ製鉄所内での式典。 3. 1999年イパチンガで、ウニガル開所式に招かれた当時のミナス州知事のイタマール・フランコ氏を握手で出迎え るホーメル氏。中央は元市長のシコ・フェハメンタ氏。 4. 1999年、第3高炉改修後の火入れ式にて。ヒナウド氏、ホメル氏、マルシオ・ジャノッチ氏、アデマール氏。

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つけた。ウジミナスは、新日鐵 住金に支払う1ドルに対して、3 ドルを南米各国へのノウハウ提 供により回収していたという。 日本人が残したノウハウを基に 計画・建設された研究所をウジ ミナスは維持しており、そこに は日本人からの技術指導書が数 多く保管されている。「これら の資料があれば素晴らしい製鉄 所のマニュアルを作ることがで きます。」と評価する。 同氏によると、ウジミナスに植 え付けられた品質・技術・規律 の文化は、日本人から学んだも のであり、几帳面で規則正しい ミナス人は容易にそれを取り入 れた。ウジミナスは、ミナス気 質と日本スタイルの融合から生 まれた独自の文化を有している という。片や人間関係と家族を 重んじる文化。片や終身雇用、 階級を重んじ、品質とチームワ ークを大切にする文化。「この コンビネーションが上手くい き、ウジミナスはそのおかげで 多くの物を得ました。」と見て いる。

イパチンガ製鉄所での新日鐵住金の内田氏との会議。

人間関係では、日本人は大変親しみやすかっ た。言葉の壁があるにもかかわらず、通訳の存 在もあり、ホーメル氏には日本人との関係で問 題を感じたという思い出は一つもない。「日本 人は、ブラジル人が催すイベントには必ず参加 した。それがシュラスコであれ、カイピリーニ ャであれ、または日本人が良く言っていた『ち

ょっと一杯』であれ、彼らを誘うのが楽しみで した。」と語る。 日本への最初の旅では、新日鐵住金の製鉄所の 中で、焼鈍工程を持つ冷延工場がある君津製 鉄所と名古屋製鉄所を選んだ。2ヶ月の研修と

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なり、不安は生魚の味に慣れることや、ブラジ ル人には違和感がある左側通行、非常に厳格な 歩行者ルールなどに馴染むことであった。しか し、決められた通りに行えば、全てがうまくい くことをすぐに理解したという。「私が滞在し ている間、日本人は非常に親切であることが分 かりました。常に他人を助けようとする姿勢が ありました。」タイミングにも恵まれ、日本国 民の誇りである桜の素晴らしさを満喫できる桜 満開の春と重なったこともあり、様々な公園で 桜を満喫する喜びを実感した。 ホーメル氏は、日本人は丁寧で控えめだが、商 談ではとても厳しいと語る。「商談をするため には、しっかりとした下準備が必要です。日本 人は深く分析し、落としどころがはっきりして おり、一歩一歩着実に進んでいきます。一歩進 み、一歩下がっては、検討します。納得しても らうのは安易ではありません。」と評価する。 同氏は、様々な交渉の場に立ち会ったが、怒っ ている日本人を見たことがないという。不満 は表すが、怒りは表さない。取り乱すことは絶 対になかった。「日本人がしつこく主張するの で、怒ってしまうのはブラジル人の方でした。 」と思い出して笑う。だが、それは必要なこと だと認め、「その結果、疑問がなくなり、全て が明白となった不備のない契約に繋がりまし た。」と結論付けた。 それ以外にも、ウジミナスにて様々な状況を経 験したホーメル氏にとって、日本人は干渉も 批判もせずに、常に近くで見守ることを優先す る。「見方の違いから、合理的な意思決定では ないと不満があっても、日本とは違う、他の国 でのビジネスであることを理解してくれまし た。」と締めくくった。p

2014年、新日鐵住金社長進藤孝 生氏のイパチンガ訪問。

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1. イパチンガ市イパネマ公園にてボランティアデーの開会式参加。 2. シェリンバボ環境教育プロジェクトの開会式。 3. 在ブラジル日本総領事と随行者の方々。ウジミナス社長室にて。 4. ホーメル氏の家族がウジミナス勤続40年記念式典に参加。2015年イパチンガ市ウジミナス文化協会にて。

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第13章

ハモーニ・ヴァラダレス・トレド Ramoni

Valadares

Toledo

限りない情熱

それは畳の上だけでなく、家庭や学校、人と の付き合いにも表れている。2016年に黒帯に昇 段したハモーニ選手は、幼い頃から日本人との 付き合いがあった。1975年にウジッパクラブに 柔道部が創設された当時のコーチは、全員日本 人だった。一緒に稽古をしていたわけではない が、ウジッパのOBイベントで、日本人の先生た ちを遠くから羨望の眼差しで見ていたという。 彼女は、同クラブの全員が尊敬する、ある友人 のことを特別に懐かしんだ。それは、既に日本 に帰国した元ウジッパ柔道ダイレクター、山下 雅之氏、通称「山下先生」のことである。

ハモーニ・ヴァラダレス・トレド選手の柔道の 才能が開花したのは、2009年、イパチンガ市の ウジッパクラブであった。彼女が8歳の時であ る。ハモーニは水泳もやっていたが、畳の上に 自分の生き甲斐があり、彼女曰く「自分のすべ て」を見つけたのだという。彼女が獲得した数 多くのメダルは、学び、感動、そして何より汗 と技術の結晶である。 落ち着きがなく、学校では売られた喧嘩を買わ ずにはいられない少女であったハモーニ選手 は、今では、これまでの多くの勝利に感謝す る、穏やかで自信に満ちた女性へと成長した。 新日鐵住金の支援で国内外の多くの場所に赴 き、2018年初頭には、新しい技の修得のために 日本を訪れた。

ハモーニ選手が表舞台に登場するきっかけとな ったのは、ウジッパクラブ内の大会や、地元の ヴァーレ・ド・アッソ地域の大会であった。成 長するにつれ、徐々に競技の面白さを覚え、一 位を目指すようになった。2011年に初めてミナ ス・ジェライス州選手権に出場して準優勝し、

異常なまでに活発であったが、柔道とその教え である自他共栄の精神との出会いによって、落 ち着きや規律、礼儀を重んじるようになった。 93

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ランキングではミナス・ジェライス州では1 位、全国3位に付けた。

その翌年には、エスピリト・サント州で開催さ れたブラジル選手権の地方大会で、60キロ強の 体重で124キロの相手を倒し、チャンピオンと して表彰台に上がった。柔道は力だけではな く、技も大事という師範の教えを証明したの だ。更に重要な教えは、相手を怖がらない、そ して好機に適切な技を使うということであっ た。

2018年の1月から2月にかけてハモーニ選手は、 柔道で名を馳せる東京の大学で稽古を行うため に、日本に渡った。その数か月前に、日本から ウジッパクラブに柔道の指導に来ていたオリン ピックメダリストの西山将司氏に対して、日本 で新しい技を身に着けたいという願望を打ち明 けていたのだ。年の始め、日本の冬に、ハモー ニ選手は柔道女子チームの仲間から、早速「さ むい」という言葉を教わった。それ以上に印象 に残ったのは、食事の前に感謝の気持ちを表す 「いただきます」と、若い女子選手が素晴らし い技を目の当たりにする度に発する「すごい」 という2つの言葉である。

地域大会や全国大会で素晴らしい成績を残すこ とが、心地よい循環となっていったが、彼女は それ以上を求めた。2014年はハモーニ選手にと って飛躍の年となった。14歳の彼女は、15歳以 下のカテゴリーに出場し、ミナス・ジェライス 州で優勝、全国大会でも準優勝を飾ることで、 初めて国際大会出場の切符を手に入れたのであ る。同年、ハモーニ選手はペルーの首都リマで この「すごい」環境の中でハモーニ選手は、新 開催された南米選手権（15歳以下）で優勝し 日鐵住金の広畑製鉄所の柔道部を訪れ、京都で た。海外でのデビュー戦としてはまずまずなも は山下先生と再会した。先生宅に宿泊し、先生 のであった。同選手はこの勝利を、技術的な基 がポルトガル 礎固めに繋が 語の勉強を続 った日本人の けた努力が実 コーチや、金 り、ウジッパ 銭的な支援を にいた当時よ 提供する日本 りもポルトガ 人の方々、特 ル語がはるか に全てをサポ に上達してい ートしてくれ たことに感動 た山下先生に した。更に、 捧げたいと語 今までは名前 る。2016年度 しかしらない の18歳以下の ウジッパクラ 大会で全国優 ブの昔の指導 勝するなど、 者である丸谷 次々と勝利を 先生と水谷先 重ね、18歳以 1970年代末のウジッパ建設現場の航空写真。体育館 の建設完了していた。 生にも会うこ 下70キロ級の 94

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とができた。 日本では、大学女子チー ムとの激しいトレーニン グの他に、日本の国内大 会を見学し、完璧な「一 本」を次々と目にした。 そして、日本流の最高 の戦い方を目の当たりに し、感動した。言葉の壁 も、英語、翻訳アプリ、 ジェスチャーを使い、ま た日本人特有の心遣いも あり、少しずつ乗り越え ることができたという。p

日本滞在中、ハモ ーニさんは校内大 会で技を磨いた。

日本の選手たちと親睦 を深めるのに言語は障 害ではなかった。

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第14章

ナルジエロ・ホッシャ Nardyello Rocha

スポーツに導かれた人生

れ、町のほとんど全員が「よそ者」であったイ パチンガ市で、父のザルズレン氏と、妻で教師 のマリア氏の新しい生活がスタートした。1960 年代の初めに、父は物流部門に配属され、第1 高炉の火入れ式にも参加した。若かりしザルズ レン氏にとり、火入れを祝うパーティは忘れが たいものとなった。大量の肉を直火で焼くため に道には溝が設けられ、大規模なバーベキュー が催された。イパチンガ製鉄所で勤務し、年金 受給資格を取得した後も、息子がサッカー選手 として雇われるのを見届けるまで退職すること はなかった。しかし、サッカー選手が何の目的 で製鉄所に入社したのか？

ワールドカップが開催された1966年は、祝いの 年となった。ナルジエロ・ホッシャ・デ・オリ ヴェイラ氏が産声を上げたのだ。父親のザウズ レン氏は、アルゼンチンのサッカー選手の「ナ ルジエロ」にちなんでその名を選び、息子のサ ッカーに対する情熱を育んだ。このような生い 立ちから、ナルジエロ氏の最初の職業はサッカ ー選手となり、スパイクを通じて様々なチャン スに巡り合うこととなった。 ナルジエロ氏はサッカーが得意ということで、 ウジミナスにオペレーターとして採用された。 製鉄所のオペレーターからなる強豪チームのレ フトウィングとして抜擢されたのである。数年 後、スポーツ解説者として活躍し、その後政治 の道に進んだ。4期に渡りイパチンガ市議会議 員を勤め、2018年6月に、同市出身の初の市長 となった。

ナルジエロ氏は、ミナス・ジェライス州ポッ ソ・デ・カウダス市のプロサッカーチームであ る、カウデンセFCと、サンパウロ州のボタフォ ーゴ・デ・ヒベイロン・プレートFCでプレーし た後、膝の怪我から、当時アマチュアスポーツ が盛んだったイパチンガ市に戻った。機械技術

ウジミナスプロジェクトにより計画・建設さ 97

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製鋼部サッカーチームがナルジエロ氏のウジミナス入社のきっかけとなった。前列の左から2番目。

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球の試合で、ボール拾いを任されていました。 日本人が話すことは何も分かりませんでした が、時間が経つにつれ、『ありがとう』を日本 語で言えるようになりました。するとポルトガ ル語を覚えた日本人は、『ジ・ナーダ』と返し てきました。」と面白がる。

高専を卒業し、ウジミナスに入社。そこでは、 製鋼工場とウジッパの2チームから誘いを受け た。両チームは、ベロ・オリゾンテ市の強豪チ ームであるアトレチコ・ミネイロFCとクルゼイ ロFCのように、ライバル意識が強く、「両チー ムの主将は、お互いに口を利かないほどでし た。」と当時を振り返る。

同氏にとって、最も印象深いのがこのような日 本人との思い出であり、スポーツ選手になるき っかけになったと信じている。サッカーを始め る前は、野球同様に、日本人により持ち込まれ た柔道も習ったというが、ウジッパクラブの有 段者のオズヴァルド・イチカワ先生との思い出 は、あまり楽しいものとは言えなかった。「彼 はすごく怖かったです。私たちがはしゃぎ回っ たりすると、 竹刀でたたか れました。」 と 苦 笑 い す る。

製鋼工場に係長として採用された後は、同工場 のサッカーチームのレギュラーとなり、背番号 10番を背にサポーターたちを熱狂させた。「ス ポーツが全ての扉を開いてくれました。」と繰 り返す。ただ、ナルジエロ氏がウジミナス内や イパチンガ市で日本人コミュニティーと最初に 接した機会は、サッカーではなかった。 「凛として、 お洒落な日本 人」と初めて 接したのは、 イパチンガ市 のブラジル人 にとって見慣 れないスポー ツである野球 の試合であっ た。「私たち は、日本人を アスリートと して見ていま した。太った 日本人を見た ことがなかっ たのです。私 は、カリル地 区のグランド で行われる野

日本人とのパートナーシップが、試合終了後に観客席のごみ回収を手 伝うクリーンサポーター・プロジェクトに繋がった。

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子供の頃の思 い出に浸り、 笑みを浮かべ るナルジエロ 氏にとって、 日本人はウジ ミナスの建設 と町の発展に おいて重要な 存在であった が、その他の 分野でも、そ の存在感は常 に 大 き か っ た。特にスポ ー ツ 文 化 で

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は、日本人や日系人の存在は重要であった。ウ ジミナスにはいくつもの運動部が設けられ、単 なるレジャーとしてではなく、スポーツへの興 味を市民に植え付けた。そして、大会開催・出 場に向けて、それぞれのチーム体制を整え、特 に柔道とサッカーに力を入れた。

と冗談交じりに語る。「日本人は未だにコミュ ニティーと深く関わっています。」と同氏は話 し、新日鐵住金の役員やその社員たちが町の各 種イベントに参加していることに喜びを表す。 2017年にイパチンガサッカークラブが、ホーム 戦でミナス州選手権2部リーグ（訳注：正確に は2部リーグの第2グループであり、実質3部リ ーグ）の優勝を決めた時、イパチンゴン（ジョ

ナルジエロ氏が製鋼サッカークラブの役員を務 めていた時代に、チームのスポンサーでもあっ た新日鐵住金と提携し、計15名のサッカー留学 生を迎え入れた。約2ヶ月間のトレーニングを 通じてブラジル流のサッカーを学んだ留学生に ついては、「あの青年たちには、みんな興味津 々でした。数名は国内のチームのテストを受け ました。彼らは注目とからかいの的でした。」

今でも家族は多いが、市長は更に増えるかもしれな いと言う。写真：先頭に末娘のアナちゃん、ナル ジエロ氏と妻のアリーニさん、そして5人の子供た ち：ルジミーラさん、サミーラさん、ナルジエロ・ ガブリエルさん、ナルジエリ さんとイリーさん。

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アン・ラメゴ・ネット市営スタジアムの愛称） は満員だった。新日鐵住金の役員が、マイクで 「勝つぞ、チグロン」と日本語なまりでエール を送ったエピソードは有名になった。サポータ ーがその言葉がチームのマスコットの「チグレ （＝虎）」のことを指していることに気づき、 大興奮したという。その後、日本人も優勝パ レードの消防車に乗り込み、勝利を共に祝っ た。2014年のW杯で日本人サポーターが試合後 に観客席のごみ拾いをした姿に触発され、新日 鐵住金の支援の下、イパチンガ市で「クリー ン・サポーター」運動がスタートした 実はナルジエロ氏は行政学を修了しているの だが、彼を行政・政治の分野に導いたのは スポーツである。組合や政党で活動した同 氏は、サッカー選手として、また地元ラジオ 局・新聞社のスポーツ評論家として活躍した ことが、市議会議員初当選に繋がったと自認 している。更に、2018年の市長選挙まで、市 議会議員に3期連続で見事に当選した。「私は イパチンガ生まれの初の市議会議員であり、 現在はイパチンガ生まれの初の市長でもあり ます。」とアピールした。 p

製鋼アスレチッククラブの右中盤としてナル ジエロ氏はイパチンガ・アマチュアサッカ ー大会で87年と88年に優勝。更に、ヴァレ・ ド・アッソ地域の大会でも優勝している。

88年の二冠達成時に行ったサ ンパウロジュニアチームとの 親善試合で、製鋼チームは、 ナルジエロ氏のゴールで、2 －1で勝利した。サンパウロ チームには、2002年W杯でキ ャプテンとしてブラジルを5 度目の優勝に導いたカフー選 手がいた。

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エピローグ

ジョゼ・アウグスト・デ・モラエス José Augusto de Moraes

歴史の番人

1963年からイパチンガの住民であるジョゼ・アウグスト・デ・モラ エス氏ほど、この町を知る人はいない。コロネル・ファブリシアー ノ市の行政区であった小さな集落が、市制が施行されてイパチンガ 市として生まれ変わった時代から、彼はこの町に住んでいる。時と 共に、イパチンガ市の様々な映像や、過去から現在にかけて語り 継がれる数え切れないエピソードの番人となった。それらのエピソ ードの登場人物でもある同氏は、ウジミナスの操業開始に立ち会い （7年間ウジミナスに勤務した）、ブラジル全土から訪れた人々の姿 や、市の成長と発展を見守ってきた生き証人である。本書のインタ ビューを受け、イパチンガ市の発展と、充実したインフラや生活水 準の高さを詳しく語ってくれた。同氏は加えて、日本人への感謝の 意を示すことも忘れない。その友好的な共存の歴史や、ウジミナス 及び町の建設に貢献したことは、否定しがたい事実である。

長年に亘り、住民への聞き取りを続け、そのエピソードを上梓し、 イパチンガ市の歴史の保存に献身されています。あなた自身が1960 年代初頭から始まったこの物語の登場人物として、この街の発展を どのように見ていますか？

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1962年10月26日にウジミナスが操業を開始した 翌年で、1964年4月29日にイパチンガ市が誕生 する前年の1963年に、私はこの町にやって来ま した。小さな村のような存在であったイパチン ガ集落に、コロネル・ファブリシアーノ市から 独立するというニュースが駆け巡った日を、直 接目にしました。それ以来、全市長と市議会議 員の選挙や就任を見てきました。

私は町の発展の生き証人です。市制移行54年と いう短期間で、イパチンガ市は成長し、基盤整 備が進められましたが、ブラジル国内に同じよ うな都市は存在しないと言っても過言ではあり ません。イパチンガ市は、都市部周辺でアスフ ァルト舗装が進み、農村地区には多くの道路が 簡易舗装されています。町の全ての家屋に電気 が引かれており、上下水道が備わっています。

市制前にイパチンガと呼ばれていた現在の町の 中心部は、混沌としていました。インフラは皆 無で、「黄金郷」を夢見て多くの人々が訪れま したが、十分な仕事はありませんでした。他の 地区とは違い、そこには貧民街が形成されまし た。通常は丘に沿って貧民街が広がっていきま すが、穴だらけ道路の沿道に、穴蔵の貧民街が 形成されていったのです。未舗装で電気もな く、上下水道もありませんでした。水は、住民 が入浴や洗濯をする近くのイパネマ川から汲ん できていました。

1960年の貧民街はもうありません。そこには新 市街が建設され、当時の住民は他の地区に移さ れました。そして幸いなことに、私たちは住民 1人当たり127m²の緑地面積という最大の財産を 持つことができています。住民一人ひとりが貢 献したことで、今日のイパチンガ市があると言 えます。

ウジミナスの建設に伴って誕生したイパチンガ 市ですが、旧住民や新住民に大きな負担がかか ったのでしょうか？ いいえ。新しい町の建設は、旧住民や新住民の 関与はないまま、ウジミナスによって瞬く間 に行われ、新住民を迎え入れたのです。実際に は、古くからの住民は、ウジミナスによって町 の中心地の整備が進むことを望んでいました が、その願いが叶いませんでした。ウジミナス はウジミナスのための町を建設したのです。 1965年に旧住民は、ウジミナス社員であるフェ ルナンド・ドス・サントス・コウラ氏を最初の 市長に担ぎました。放置されていた中心地の整 備を再び試みたのです。ウジミナス社員が市長 になることで、住民が望む中心地の整備を進め るための支援を容易に得られるという思いがあ ったのですが、その願いが実現することはあり ませんでした。

豚は商店街の真ん中でバナナの葉の上で屠殺さ れ、その場で売られていました。その後、発電機 が私設され、数件の家屋には明かりが灯されまし た。またウジミナスによって給水所が作られ、そ の水が飲み水として使用されました。 1960年代初め、ウジミナスは市を横切る鉄道の 反対側に、オペレーター村を建設し、町づくり が始まりました。イパチンガ市は、建築家のハ ファエル・アルジー・フィリョ（1917年1月24 日～2005年2月6日）が設計し、ルシオ・コスタ （都市計画の専門家で、ブラジリア・プロジェ クトのオスカール・ニーマイヤーのパートナ ー）の指導の下に、国内各地から集まった労働 者とその家族の生活に必要な全てインフラを備 えた町へと生まれ変わりました。

現在の中心地はというと、1993年の大洪水によ 104

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って、街並みを一から作り直すのに匹敵 する再開発の機会を得ました。この大洪 水により、穴だらけの道路だった貧民街 の解体が始まり、市役所や商店街の人々 の活動によって再建が進み、店舗の外観 も改善されました。道路がアスファルト 舗装された「ウジミナスの町」とは異な り、道路はセメントブロックで舗装され ました。

イパチンガ市は、1950年代にブラジリア を誕生させた近代建築の概念をベースに 設計されました。空間の占有方法を明確 に定めた設計モデルですが、住民同士 や、住民と町の関係に何らかの影響を及 ぼしたと思いますか？ 今では、私たちは一切の問題なくイパチ ンガ市で生活を送っていると言えます。 しかしながら、最初の数年間は、住民同 士の共存関係は難しいものでした。旧住 民とその子孫たちは、現在のセントロ地 区でその生活スタイルを維持していまし た。新住民とは、ほとんど混じり合うこ とはありませんでした。「ウジミナスの 町」は、かなり複雑な階層社会で成り立 っていました。居住地区は、社内の役職 に応じて分かれていました。カリル地区 に住んでいた私や他の地域の住民は、製 鉄所の幹部社員が住んでいたカステロ地 区に頻繁に出入りすることはできません でした。私たちが立ち入ると、会社の警 備員に呼び止められ、直ぐにその場から 追い出されました。

ボンヘチロ 地区、1963年

1965年、オルト地区の旧バスターミナルと売店。

カステロ地区、カリル地区、オルト地 区、ボン・ヘチロ地区、アレアウ地区、 106

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旧住民と、新しいイパチンガ市で生まれた世代 との間に、町への帰属意識に違いはあるのでし ょうか？

ヴィラ・イパネマ地区、ウジッパ地区、サン タ・モニカ地区といったウジミナス社員の居住 地区に、公共サービスが導入されるのには長い 年月がかかりました。排水溝や下水道の詰ま り、街灯の電球切れ、でこぼこのアスファル ト、蚊の異常発生など、様々な問題を解決した のはウジミナスでした。通常これらのニーズ は、社内災害予防委員会（CIPA）の会議で取り 上げられ、ウジミナスが修繕のために人と機械 を用意しました。電線の修理や停電の復旧、そ の他の住宅家屋での不具合を修理する、いわゆ る「便利屋」もいました。私は、労働者の生活 における会社の存在感を示すために「便利屋」 という言葉を使いましたが、このような状況か ら「ウジミナスが母親」という表現が生まれた のかもしれません。確かに、長い間ウジミナス が公共サービスを担ってきました。水道水は同 社の水処理部門から届けられていました。私が 家族とカリル地区に移り住んだ際、家賃や水道 料金、電気料金は一切支払っていません。ウジ ミナスが無料で提供していたのです。

はい。私が住民へのインタビューを始めたと き、私が研究対象とした多くの人々に実際に 会うことになるとは思ってもいませんでし た。1948年に旧住民として生まれたマリア・ダ ス・グラッサス・シウバ・ロペスさんは、道路 は泥だらけだったと言います。彼女は、母親が インディアンと一緒に暮らしたことや、娯楽は 物語を聞くために他の村人との会合に参加する ことであったと言います。ミランダと呼ばれる 年配の黒人男性のことを憶えており、母親から は彼が奴隷だったと聞いたと語ってくれまし た。住民は、現在のプリメイロ・デ・マイオ広 場に集まり、周りに散らばっている丸太に腰を 下ろし、ミランダ氏の話に耳を傾けました。 当時のイパチンガ市はどのような町だったので しょう？マリアさんのように、多くはウジミナ ス建設の数十年前に生まれた人々や、移り住ん できた人々です。幸いなことに、多くの皆さん が健在で、彼らの証言を基に、当時のお粗末な インフラにもかかわらず、先駆者たちが誇りを 持って語るイパチンガのことを知ることができ ました。

例えば軍警察ですら、カリル地区やカステロ地 区をパトロールすることはできませんでした。 私や周囲の人間は、イパチンガ市に住んでいた のではありません。「ウジミナスの町」に住ん でいたのです。1970年代に入り、ジャミウ・セ リン・デ・サレス氏が市長に就任し、素晴らし い取り組みを行ったことで、住民の市政に対す る意識を高め、行政への参加が強まっていきま した。同市長が「ウジミナスの町」を、イパチ ンガ市に変えた一番の功労者であり、イパチン ガ市周辺で初めて植林活動が行われたのも、サ レス元市長のおかげです。この頃から漸く、私 たちは「イパチンガ市」に住み始め、「ウジミ ナス」で働くようになったのです。

市制移行後の1964年以降イパチンガで生まれた 人々は、「ウジミナスの町」を故郷と感じる 住民です。全く違った現実の下で生まれ、最初 からインフラの整った都市生活を享受したので す。 製鉄所建設時にイパチンガ市に移り住んだ大勢 の人々は、中心地に行く時は未だに「イパチン ガ」に行くと言います。「ウジミナスの町」か 107

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ら分断された昔の村であるかのように、「私は イパチンガに行く」と言うのです。旧住人が語 る話には、ウジミナスが言及されることはあり ません。町の強豪サッカーチームとして挙げら れるのは、イパミナス、コメルシアウ、イタジ ュバ、フア・ド・ブラコなど、全てセントロ地 区で誕生したチームです。セントロ地区の住民 の娯楽は、シネ・イパネマで開かれていた新入 生向けプログラムや運動会でした。古くからの 住民の頭の中には少しですが、今でもこの町の 境界線が残っているようです。

いにも、過半数の民意によって、緑地帯全体が 法的に保護されることになりました。最終審の 判決であり、町の中での伐採は許されません。

町と製鉄所が建設された当初、イパチンガの社 会・文化・経済が、日本からの派遣者や国内 各地から訪れた日系移民の影響を強く受けまし た。大多数とは異なる文化でしたが、その関係 はどうでしたか？ バベルの塔でした。多様性という点では、ウジ ミナスが築き上げた地域や、製鉄所の中の方 が影響は大きかったです。カリル地区には日本 人が大勢いましたが、少数ながらイタリア人、 ポルトガル人、フランス人、ドイツ人、シリア 人、アラブ人、イギリス人、その他の外国人も いました。例えば、ドイツが1970年のワールド カップで優勝した際には、大きなジョッキでビ ールを飲むドイツ人に冷やかされましたが、文 句は言えませんでした。

イパチンガ市内には豊富な緑地帯が残っていま す。環境保全の考えは、全住民に共通する価値 観なのでしょうか？ 私がイパチンガに移り住んだとき、ここは地獄 のような暑さでした。12月には、アスファルト を踏むと足が沈みました。強烈な日差しに加え て、イパチンガ製鉄所による汚染により、気温 は更に増加しました。1970年代に都市周辺に最 初の植林が行われ、ウジミナスもそれに追随し ました。

広大な入植地であったとはいえ、日本人は密接 な共存関係の構築を求めていました。派遣者の 滞在期間は長期間となり、多くの人が日本や国 内の出身地に戻ることはなかったからです。我 々ブラジル人は、国籍に関係なく皆と仲良く暮 らしました。ミナス人は訪問者に対し寛容で、 温かさを持ち合わせているためでしょう。

緑地帯の増加とともに、気候が変わったことを 感じ始めました。今でも暑いですが、あの頃 に比べると大分良くなりました。前回の測定 では、住民1人当たりの緑地面積は127㎡でした が、個人的には既にそれ以上になっていると思 います。住民と行政が緑地帯の大切さを認識 し、保護しています。町の樹木を切るには、市 役所で大変煩雑な手続きが必要となります。

今日のブラジル人のアイデンティティについ て、移民者がその形成過程に大きな影響をもた らしたと言われています。イパチンガ市のブラ ジル人のアイデンティティの形成において、日

昨今、ビル建築業者との問題が大きな頭痛の種 でした。無秩序な住宅の高層化を擁護する動き を受け、激しい議論が巻き起こり、マスタープ ランの策定を推し進めることになりました。幸

1970年代に始まったイパチンガの 植林は、住民一人当たり127m2 の緑地をもたらしている。

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上：ホベルト・ブルリ・マルキス氏が設計したイパネマ公園。面積約1.1 km2。 下：バレリーナの ゼリア・オルギン氏を記念した劇場。イパチンガとその周辺住民に様々なイベントを提供する。

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本人の存在が何らかの影響を与えたのでしょう か？

在イパチンガ日伯文化協会（ANBI）では、ブラ ジル人を対象とした日本語レッスンが始まりま した。私は筆記を習い始めましたが、あの「複 雑怪奇な文字」を見て諦めました。

いいえ、アイデンティティを構築する上で大き な影響は受けていません。しかし、勤労、規 律、年配者へ配慮、歴史の保存など、文化面で は強い影響を受けています。当時のイパチンガ 市の住民の生活は慌しいものでした。仕事と学 業の両立しようにも、時間的な余裕がありませ んでした。カリル地区の日本人集落では、派遣 者もその中で一緒に暮らしていたため、日本人 との関係が他の地区に広がることはありません でした。1970年には派遣者の人数は大きく減少 し、今でもその家族がイパチンガ市に残ってい るケースは稀です。

友情が芽生えると、私たちはお互いの家を行き 来するようになりました。そこでもまた、カル チャーショックがありました。家に入るために は、靴を脱ぐ必要がありました。食べる物と言 えば生魚でした。私が父親と釣りに行った後に よく食べていた、コブナの揚げ物はありません でした。フォークとスプーン？そんな物はあり ませんでした。彼らは2本の棒を使って食べま した。私はそれを見て、その器用さに驚きまし た。その光景が頭の中に染み付いていますが、 今でも箸でご飯を食べることができません。

イパチンガ市に日本人がいることを個人的にど う感じましたか？あなたの生き方や考え方を変 えるに至ったのでしょうか？

イパチンガ市は、ラテンアメリカ最大の製鉄所 と、この町の建設を支援した日本と日本人と に感謝しています。日本人から多くのことを学 び、今でも学び続けています。気力、仕事や 再生のための能力、規律、歴史や環境保全を重 視する点、知的な態度、等々、全てが尊敬と称 賛に値します。

最初は、全てが非常に「奇妙」なものでした。 男性も女性も、また子供たちも。酷暑の中で着 物を着用し、木製のサンダルを履いて歩いてい る・・・。日本人は、私たちのようにグループ で固まり、話しながら歩くことはありませんで した。一列に連なって歩いていました。夫が先 頭に立ち、続いて妻、そして子供たちが年齢順 に並んでいました。小さな子は、母親の背中の 「バッグ」に潜り込んでいました。そして、そ の列が、別の列と遭遇すると、握手はせずに、 頭を下げて挨拶をしていました。

私たちは、イパチンガ市とウジミナスの建設に おける日本人の価値観を尊重・感嘆・賞賛し、 そして高く評価します。とはいうものの、私の 考え方や生活スタイルに変化をもたらすことは ありませんでした。私たちブラジル人、特にミ ナス・ジェライス州の人間は、独自の生活様式 を持っています。逆に私たちが彼らの生き方に 影響を与えたと思います。

しかしながら、日本人はブラジル人と日本の文 化・スポーツの考え方を分かち合えるように、大 きな努力をしていました。盆踊り、野球、柔道、 ソフトボールなど、ブラジル人は各種のスポーツ イベントに招かれ、とても歓迎されました。

イパチンガ市は、国内外の経済の影響を受ける 産業プロジェクトによって設立された町です が、その独立性を担保する独自の道筋を見出す

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ことはできたのでしょうか？もしそうであれ ば、それは何でしょうか？

た。このことは、旧住民にとっては否定するこ とのできない事実です。一方で水力発電所の建 設では、必要な資材の全てがイパチンガ駅に列 車で到着し、荷揚げされ、トラックで建設現場 まで運ばれました。これが、より大きなビジネ スチャンスとなり、地域の商業を拡大し、多く の民宿もできていきました。このような歴史も 記録として残す必要があります。勿論、イパチ ンガ市はウジミナスの建設と共に成長し、発展 しました。イパチンガ製鉄所の建設・操業によ り、この美しい町があります。それは否定でき ない事実です。p

初めに、イパチンガ市は、産業プロジェクトが 生んだ訳ではないと理解することが重要です。 イパチンガ市には、ウジミナスの建設前から住 んでいる人々が守り続けている歴史があり、そ の歴史に誇りを持っています。 ウジミナスが建設される前に、2つの経済サイ クルがありました。ジョアン・モンレバージ市 とサバラ市の製鉄所向けの木炭生産、そしてサ ウト・グランジ市の水力発電所の建設です。 当時は、60棟の住宅と300人の住民からなる小 さな集落でした。イパチンガ製鉄所の建設のた めの多くの建設資材と労働者の往来によって、 町の商業が活性化し、町に収入をもたらしまし

相互理解、尊敬、そして、お互いを認め合うことが ミナス人と日本人との文化の融合を可能にした。

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上空から撮影したイパチンガ製鉄所。

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2017年イパチンガでの堀越・ラ ナリ協定60周年記念式典。この 地域の更なる発展のために日本 人とブラジル人が団結。

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ブラジル人と日本人の出逢いの歴史はイパチン ガ市の建設と南米有数の製鉄所であるウジミナ スの発展にかかわってきた人々の記憶に残され ていた。本書は、ミナスの地での最初の出会い から現在までの、大きく異なる二つの文化の共 存の歴史を綴っている。互いに学びながら、日 々深まっていく調和の歴史である。

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