愛してますか!子どもたちを

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の手は真っ赤に腫れ上がっている。少年にとって松葉杖は一心同体であり、これがなけれ ば生活そのものが成立しないと言っても過言ではない。少年、金属の補装具、松葉杖、こ の三つが一体となり少年の歩行が許されているのであった。 この親子の生活がどの程度のものかは、服装によっておおよその見当が付けられる。子 ど も は 、布 製 の 靴 、コ ー ル テ ン の ズ ボ ン 、色 あ せ た ブ ル ゾ ン 、毛 糸 で 編 ん だ 帽 子 。母 親 は 、 如何にも古そうな革靴、所々染みの滲んだ古いコート、そして、頭から首に巻いた赤いマ フラー。この二人の服装はどれをとっても着古した物であり貧しい生活の様子がうかがい 知れた。 母親は、しばらく門の前で立ち止まっていたが急に子どもの方へ振り向くと、松葉杖を 取り上げ門の中へ投げ入れた。子どもは、大事な支えを奪われ雪の地面に倒れていった。 まだ、5歳前後の幼い子どもであった。 何故自分が冷たい雪の上に倒れたのか一瞬間、少年には理解できなかった。だが、目の 前にある松葉杖を見て、少年は、現在の状況を把握することができた。自分の唯一のより 所である母がこのような仕打ちをしたのであった。少年は、驚愕し不安を感じた。 寒い、酷寒と雪の冷たさ、それら外部から襲う寒さと、内部から迫りくる寒さが相乗作 用を起こし少年は、気を失いそうなくらいであった。 少年は、気を取り直し母親の方へ振り向いた。ところが、そこには鬼のような形相をし た母の姿があった。優しかった母の姿は微塵の欠片も残っていなかった。 「 こ の 役 立 た ず 。 お 前 な ん か 死 ん じ ま え 。 生 き て い て も 仕 様 が な い だ ろ う 。」 母親は、自分の子どもに罵声を浴びせると同時に子どもの横腹の辺りを蹴った。何とも 悲惨な光景であった。 しばらく沈黙があり母親は、急に優しい表情になった。 「生きたいか…」 「うん…」 幼い少年にとって、まだ生きるか死ぬかの概念は乏しかったのだか、少年の本能が「う ん」と答えさせた。 ところが母親は、再び豹変して険しい表情になったやいなや少年に罵声を浴びせた。 「お前が生きていることが… その事が罪なんだ… や っ ぱ り 、 お 前 は 、 死 ん だ 方 が い い ん だ 。」

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