JAFスポーツ 2023年 夏号(第57巻 第3号 2023年8月1日発行)

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2023 SUMMER JAF MOTOR SPORTS

カッレ・ロバンペラ選手が聖地・エビスを席巻した! “ 合わせる” 走り

耐久レースはどう走る? 24時間を戦い抜く極意とは

特集 WRC王者のドリフト
スポーツ[モータースポーツ情報] 第 57 巻 第 3 号 2023 年 8 月 1 日発行(年 4 回、2、5、8、11 月の 1 日発行)
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第4戦アゼルバイジャンGP以降は入賞圏内のトップ 10フィニッシュができていない角田裕毅選手(アル ファタウリ)。しかし、2023シーズン開幕当初は車 両由来の苦戦も見られたが、チームが懸命にアップ デートを繰り返して戦闘力も向上。角田選手の成長 と相まって、常に入賞圏内を争う奮闘を続けている。

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3シーズン目の正念場。角田裕毅選手は悔しいレースでも前を向く

ホンダRBPTのPUを積むレッドブルは第8戦まで全てのGPを制する圧倒的な強さを見せる! PHOTO/Red.Bull.Media.House..REPORT/吉田知弘[Tomohiro.YOSHITA]、JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS]

ーズンも中盤戦に突入してきた 2023年FIAフォーミュラ1世界 選手権(F1)。フル参戦3年目に 突入したアルファタウリの角田裕毅選手だ が、開幕前から車両の戦闘力でライバルを 上回ることができず、苦しいシーズンスタ ートを切ることとなった。それでも、第1戦 のバーレーンGP、第2戦のサウジアラビア GPでは、車両のポテンシャルを100%以上 発揮するような走りで、シーズン序盤から 連続で11位に入る好走を見せた。

今シーズンはチームメイトも代わり、自ら がチームを引っ張る立場として、成長を見せ ている角田選手。それが第1戦から顕著に現 れているレース運びを見せてくれていたのだ が、第3戦オーストラリアGPでは、ついに 努力が結果につながるシーンが訪れた。

予選では惜しくもQ3には届かず、12番手 からスタートすることとなった角田選手。決 勝は序盤から大荒れの展開になるも、しっ かりとポイント圏内を見据えて走行。残り2 周で行われた赤旗中断からの再スタートで 多重クラッシュが発生したのだが、その混 乱に乗じて5番手に浮上。自身最上位の4

位も見える位置につけたが、そこで再度赤 旗が提示され、残り1周の再スタート時に は、中断前の順位に戻される形となった。11 番手まで下がってチェッカーを受けた角田 選手だが、フェラーリのカルロス・サインツ 選手のタイムペナルティにより10位に繰り 上がり今季初入賞を果たした。

それでも「5番手を失ったのは残念」と語る 角田選手。後味がすっきりしない形での今 季初ポイントとなったが、レース内容を見 てもトップ10に食らいついていけるだけの パフォーマスを見せていた。

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続く第4戦アゼルバイジャンGPは、今季 初のスプリントレース形式が導入された。 さらにスプリントレース用と本レース用の予 選を各日に行うなど、今季はフォーマットが 若干変更された。その分、フリー走行の時 間が減り、車両のセットアップに影響が出 ることも懸念されたが、角田選手は金曜日 に行われた予選(日曜日の決勝グリッドを決

角田選手は第3戦オーストリアGPで10位に入 り、今季初ポイントを獲得。初のF1フル参戦 となるニック・デ・フリース選手の加入、そし てF1での3シーズン目を迎えて、チームを牽引 するような走りを見せる成長を遂げている。

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ホンダがサポートし、ホンダ・レッドブル・パワートレインズのパワー ユニットを積むレッドブルは、第8戦までマックス・フェルスタッペン 選手が5勝、セルジオ・ペレス選手が2勝でシリーズを席巻している。 めるもの)でQ3に進出し8番手を獲得。こ こは比較的相性の良いコースということもあ り、またひとつ自信を深める結果となった。

土曜日のスプリントシュートアウトでは 18番手に終わり、決勝ではチームメイトと の接触で車両にダメージを受けリタイアと なってしまったが、日曜の決勝レースでは、 スタートでポジションを落とすも、最後まで 入賞圏内を守り抜き、10位でフィニッシュ。 2戦連続のポイント獲得となった。

「ひとつでもミスをすればポイントを失う状 況でした。かなりの集中力が必要でしたが、 最終的に今回もポイント圏内でフィニッシュ することができました」とは角田選手。

続く第5戦マイアミGPでは、予選で17番 手に沈むも、決勝では粘り強く順位を上げて いき、最終的に11位でフィニッシュし、着実 にポイント争いに顔を出す走りを見せている。

今季に入って、レースでの力強さが確実 に上がってきている印象なのだが、成長し ているのはレースでのパフォーマンスだけ ではない。第6戦エミリア・ロマーニャGP では、こんな光景が見られた。

レースの開催に入ってからイモラ・サーキ ットのあるイタリア北部で大規模な洪水が発 生。サーキットの裏にある川も氾濫寸前のと ころまで水位が上がったほか、降り続く雨の 影響でサポートレース用のパドックは水が溢 れかえっている状態だった。この状況を鑑み て、F1はエミリア・ロマーニャGP開催の見 送りを発表。代替開催の有無については、 今のところ明らかになっていない。

サーキット近くのファエンツァにファクト リーを構えるアルファタウリだが、洪水で道 路が封鎖されてしまい、チームメイトのニッ

奮闘し9番手フィニッシュも バトル中のペナルティに泣く

気遣いや感謝の言葉も欠かさないようになっ ている。角田選手の温かみを垣間見ることが できたシーンだった。

思わぬ形での1戦スキップがあった中で、 第7戦モナコGPでは予選Q3に進出。9番 グリッドを獲得する快進撃を見せてくれた。

決勝もポイント圏内をキープしていたが、 後半に降り始めた雨の影響でブレーキに問 題が発生したこともあって順位を下げ、最 終的に15位でレースを終えた。

「特にドライコンディションでは良いペース をみせ、コントロールできていただけに、厳 しい結果になりました。今週はずっとブレー キの問題を抱えていましたが、雨が降った ことで、その影響が大きくなってしまいまし た。でも、インターミディエイトに交換する タイミングは完璧で、チームは良い仕事を してくれました」と、悔しそうな角田選手。

そして、第8戦スペインGPでは、またひ とつ違った角田選手の表情を垣間見ること となった。15番グリッドから着実にポジショ ンを上げながら周回を重ねていった角田選 手。9周目には9番手に上がり、今季最上位

岩佐歩夢選手がFIA F2で王座争いを展開! ダムスからFIA F2に参戦中の岩佐歩夢選手は、第2戦のスプリントレースで今季初優 勝を達成。ランキング3番手につけてオーストラリアでの第3戦を迎えた。予選で今季初 のポールポジションを獲得したが、スプリントレースでは13位でノーポイントに終わる。

しかし、フィーチャーレースでは「一番と言っていい」という走りを披露。見事ポー ル・トゥ・ウィンを果たし、ランキングトップに立った。

チームとの足並みが乱れ、予選17番手に沈んだアゼルバイジャンでの第4戦は、2レー スとも入賞できず、ランキング3番手に後退。予選9番手となった第6戦モナコでは、リ バースグリッドで2番手スタートとなったスプリントレースで今季3勝目を獲得、フィー チャーレースでは10位で1ポイントをもぎ取った。

スペインでの第7戦ではスプリントレースで8 位、フィーチャーレースは4位とポイントを積み重 ねた岩佐選手。ランキングトップから28ポイント 差の3番手と、堂々のチャンピオン争いを展開し、 念願のタイトル獲得に向けて健闘している。

第3戦のフィーチャーレースを制して喜ぶ岩 佐歩夢選手(ダムス)は「チームのチャンピオ ンシップを考えていけば、おのずとドライ バーの結果はついてくるということを感じ ました」と語る。チーム一丸で戦っているこ とが、王座争いにつながっているようだ。 ク・デ・フリース選手は一時立ち往 生するなど、チームの活動にも影響 が出ていた。そんな中、角田選手は 天候が落ち着くと、被害を受けたフ ァエンツァの清掃を手伝うシーンが 公開されて話題となった。F1デビュー 当時は、チームラジオでの過激な発 言で物議を醸したが、今では自分の ためだけではなく、周囲の人々への

も狙えるパフォーマンスを見せていた。し かし、レース終盤のターン1で、背後から 抜きに来たアルファロメオの周冠宇(ジョ ウ・グアンユー)選手にアウトから並びかけ られてターン1に進入。その時、周選手が 接触を回避するためにコースオフしたのだ が、これに対してスチュワードは角田選手に 非があるとして5秒のタイムペナルティを与 え、結果は12位となった。

その事実を知り、レース後は力なく座り込 んでしまった角田選手。ペナルティに対する 意見というよりも、一番手応えがあったレー スで結果がついてこなかった悔しさや、上位 を目指して粉骨砕身の努力をしているのに、 それが叶わなかった無念さが、その表情か ら伝わってきた。逆に言えば、現状に満足 せず、角田選手は常にトップを目指している 気概の現れだったようにも感じた。 「心の底からがっかりして、悔しい。ペナ ルティはとても厳しいものだったと思いま す。でも、これを受け入れなければなりま せん」とは角田選手。この想いが中盤戦で花 開き、9月に開催される第17戦日本GPでは 多くの観衆の前で、前半戦で感じた悔しさ を力に変えた、強いレースを魅せてくれる ことを期待したい。

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WRC勝田貴元選手、欧州でのグラベルラリー連戦は苦しい戦いに

6戦中4勝を挙げたTGR-WRTは3季連続の3冠達成に向けて、チャンピオン争いをリード!

PHOTO/TOYOTA.GAZOO.Racing REPORT/廣本泉[Izumi.HIROMOTO]、JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS]

田貴元選手は2023年FIA世界ラ リー選手権(WRC)に、日本人唯 一のフルタイムWRCドライバー として、コ・ドライバーのアーロン・ジョン ストン選手とともに参戦している。ターマッ クラリーの第4戦「クロアチア・ラリー」に は、TOYOTA GAZOO Racing World Ra lly Team(TGR-WRT)の4台目として、GR YARIS Rally1 HYBRIDで挑んだ。

シェイクダウンでは5番手タイムをマーク した勝田貴元選手だが、「レッキの時から降 っていた雨の影響により、路面が半乾きでグ リップ不足に悩まされていました」と語った。 「それに後方からのスタートだったので、イ ンカットでライン上に砂が出ていてペースを 上げられませんでした」とのことで、本格的 なラリーが始まったデイ1では苦戦の展開。

さらにセカンドループでは「チームからは スリックタイヤで行くべき、という情報があ ったんですが、スピンでタイムを失ってい

過去2季連続で4位につけた「ラリー・ポルトガル」に挑んだ 勝田貴元/アーロン・ジョンストン組。今季の第5戦では、ス タート直後のSS1で発生したトラブルで早々に上位争いから 離脱するも、トラブルを抱えたままSS2で3番手タイム、再出 走後のSS16ではベストタイムを叩き出す速さを見せた。

たので、雨が降っている可能性に賭けてレ インタイヤを選択しました。でもそれは、 結果的にミスチョイスで、路面が乾いてい たのでタイムロスになりました」と、賭けが 外れた勝田貴元選手のデイ1は総合6番手 だった。

デイ2でも「ファーストループでダンパー にトラブルを抱えていました。昼のサービス でダンパーを交換したんですけど、いつも 使っているものとは違うダンパーだったので

苦戦しました」と勝田貴元選手は我慢の走り を強いられ、デイ2は総合6番手のまま。

2日間にわたって思うような走りができな かったが、デイ3ではいつものダンパーに 戻したことでペースアップを実現。その勢 いはボーナスポイントがかかった最終のパ ワーステージSS20でも健在で、4番手タイ ムをマークした。

「本当はもう少し上を目指したかったんです けど、完走を意識しながら最後まで走り切

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れたので悪くないラリーでした。 インカットが多くて難易度の高 いラリーでしたが、グラベルク ルーとのコミュニケーションを

直前にHYUNDAI SHELL MOBIS WORLD RA LLY TEAMのドライバー、クレイグ・ブリーン 選手の訃報に揺れた第4戦。ブリーン選手へ の追悼の意を示すステッカーが貼られたGR YARIS Rally1 HYBRIDで戦った勝田貴元選手 は、トラブルなどの困難に苦しみながらも6位 入賞を果たした。

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含めて昨年よりも良くなっていました」と、 デイ3で復調した勝田貴元選手は総合6位 で第4戦を終えた。

昨季好調だったグラベルラリーで 2戦連続のデイリタイアを喫す

第5戦「ラリー・ポルトガル」は2021・ 2022シーズンと2季連続4位入賞中で、勝 田貴元選手が得意なグラベルラリー。第2 戦以来となる今季2度目のワークスノミネー トを受け、3台目として参戦した。

第6戦ではウォータースプ ラッシュに飛び込む際のミス が原因でデイリタイアとなっ た勝田貴元選手。今季はグラ ベルラリーで3戦連続のデイ リタイアを喫しているが、 WRC初表彰台を獲得した第 7戦「サファリ・ラリー・ケニ ア」で今季のグラベルラリー 初完走に挑む。

とかパスしたかった んです。マニュファ クチャラーズポイン トを獲るために、タ イヤを温存せずに1本目から走りました」と 語るように猛追を披露した。

SS16でベストタイムを奪ったほか、SS18 では3番手タイムをマークするなど、勝田 貴元選手は好タイムを連発。

た。

「窪みの深いウォータースプラッシュだった ので、ブレーキングをしてからスロットルを 開けたんですけど、そのタイミングが遅くて フロントが沈み込んだ状態で入ってしまい、 マシンを破損させることになりました。小さ なミスで、大きな代償を払いました」と勝田 貴元選手の車両はウォータースプラッシュ の水圧でバンパー及びラジエター、インタ ークーラーが破損し、デイ3続行を断念す ることになった。

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「テスト段階からフィーリングが良くてタイ ムも僅差でした」と語り、好感触でポルトガ ルを迎えた勝田貴元選手。しかし「SS1でデ ィスプレイにオルタネーターのトラブルが表 示されていました。本体の問題で電気が供 給されていない状態でした」と、オープニン グステージでいきなりトラブルが発生。

それでも勝田貴元選手は最低限の電力だ けで走行するセーフティモードでSS2に挑 み、3番手タイムをマーク。しかし、「SS3へ 向かう途中で完全に電気が止まってエンジ ンもかけられない状態となりました」という ことで、デイリタイアを決断した。

「2日目は砂っぽいSSが多かったし、自分 のパフォーマンス的にもいいところで戦えた と思うので、デイ1でいい位置に着けること ができれば、いい結果を得られたと思いま す。SS1の電気系トラブルが全てでした」と デイ1早々に上位争いから脱落した無念を 語った。

勝田貴元選手はデイ2で再出走を果たし たが、先頭スタートで路面の掃除役を強い られる。それでもSS15で2番手タイムをマ ークするなど、光る走りを披露した。

さらにデイ3でも「前につけていたMスポ ーツの選手(ピエール=ルイ・ルーベ選手) と1分ちょっとの差しかなかったので、なん

「Rally2車両が走行した後とはいえ、轍の 大きさが違うのでかなり滑る路面でした。 前にいた選手をパスできなかったけど、ポ イントを持ち帰れたので最低限の仕事はで きたと思います」と語る勝田貴元選手は、総 合33位に終わった。しかし、パワーステー ジの最終SS19で4番手タイムをマークし、 貴重なボーナスポイントを獲得した。

第6戦「ラリー・イタリア・サルディニア」 では、勝田貴元選手は4台目としてエントリ ーした。

「基本的にグリップレベルが低い上に道幅 が狭いので、思い切ったトライができない」 と語るように、サルディニアは勝田貴元選 手が苦手意識を持つグラベルラリー。しか し、SS1ではTGR-WRTでは最上位となる 4番手タイムをマークするなど、順調な滑り 出しを見せていた。

山岳エリアを舞台にした デイ2でも勝田貴元選手の 好調が続き、SS3でベスト タイムをマークして総合3 番手まで上げた。しかし、 このラリー最長、49.9kmの SS4でオーバーシュート、 トップから27秒遅れの6番 手タイムと失速し、総合5 番手でデイ2を終えた。

一進一退のラリーを繰り 広げていた勝田貴元選手 は、デイ3のオープニング ステージとなるSS8で予想 外のハプニングに見舞われ

再び悔しい展開となった勝田貴元選手は デイ4で再出走。総合40位に終わったもの の、パワーステージSS19での3番手タイム でボーナスポイントを重ねた。

「苦手意識のあったサルディニアでベスト タイムを出すことができた」と振り返った勝 田貴元選手には、結果以上に多くの収穫を 得たようだ。次に控える2季連続で表彰台 に上がっている第7戦「サファリ・ラリー・ ケニア」での活躍が期待される。

ロバンペラ選手がついに今季初優勝 TGR-WRTはランキング首位を走る

チャンピオン争いでは、第4戦まで未勝 利ながらも全戦でトップ4入りを続けてい た、ディフェンディングチャンピオンのカッ レ・ロバンペラ/ヨンネ・ハルットゥネン組 が第5戦で待望の今季初優勝。第6戦でも 3位を獲得し、ドライバー/コ・ドライバー ランキングの首位を守っている。

マニュファクチャラーズランキングでも、 第4戦をエルフィン・エバンス/スコット・ マーティン組が制したTGR-WRTが首位。3 季連続で3部門全てのチャンピオン獲得を目 指して、シリーズを牽引している。

TOYOTA GAZOO Racing World Rally Teamのカッレ・ロバンペラ/ヨンネ・ ハルットゥネン組は第4戦で3戦連続の4位、そして第5戦ではついに今季初 優勝。第6戦は3位と、確実に上位入賞を果たし、王座争いをリードしている。

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記念すべき100周年大会は、TOYOTA.GAZOO.Racingの 8号車(セバスチャン・ブエミ/ブレンドン・ハートレー/ 平川亮組)が2位に惜敗。7号車(マイク・コンウェイ/小林 可夢偉/ホセ・マリア・ロペス組)は8時間を経過した直後 に後続車による追突でリタイアを喫している。

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ル・マン24時間100周年!

大荒れのレースはフェラーリ51号車が制覇

TOYOTA GAZOO Racingは7号車がリタイア。8号車は2位に惜敗しル・マン6連覇ならず PHOTO/TOYOTA.GAZOO.Racing、遠藤樹弥[Tatsuya.ENDOU] REPORT/貝島由美子[Yumiko.KAIJIMA]、JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS]

界三大レースの一つに数えられ るル・マン24時間レースが6 月10〜11日に開催された。

第1回大会が行われた1923年から100 周年の節目にあたる今年、FIA世界耐久選 手権(WEC)第4戦の同大会には、現在の トップカテゴリーであるハイパーカー及び LMDhのクラスに多くのメーカーが参入 を再開し、華やかなグリッドとなった。

昨年まで、トップカテゴリーで優勝を争 えるコンテンダーはTOYOTA GAZOO Racing(TGR)のみだった。しかし、シー ズンの後半にはプジョーが10年ぶりに WECへ復帰して、約1年の準備期間を経 てル・マンに登場した。また、今季からフ ェラーリが50年ぶりにワークスとしてト ップカテゴリーに参戦。オペレーション は、長くGTEクラスで活動してきたAF コルセということで、初年度ながら、開幕 戦から高いポテンシャルを発揮してきた。

ポルシェとキャデラックも「次期LMP2 車両をベースにメーカー色を出す」という 特徴を持つLMDh車両を仕立てて、今季

はWECとIMSAウェザーテック・スポー ツカー選手権(IMSA)の両シリーズに参戦。 ポルシェはマルチマチック、キャデラック はダラーラをベースに昨年からマシン開発 が進められ、ポルシェはカスタマービジネ スとしてJOTAスポーツがWECに参戦。 その数は今後さらに増えていく見込みだ。

さらに、プライベーターながらハイパー カーで戦ってきたグリッケンハウスや、新 車をシリーズ投入したフロイド・ヴァンウ ォールなどの多彩な顔ぶれが揃った。

ル・マン最高峰クラスに16台ものマシ ンが参戦したのは、21世紀に入ってから初 めてのことだろう。来年以降は、ランボル ギーニとBMW、アルピーヌもLMDh車両 で参入し、イタリアのクラシックカーメー カーであるイソッタ・フラスキーニがハイ パーカーでの参戦を予定している。それら のオペレーションは、今年LMP2を走らせ るイタリアのプレマやベルギーのWRT、 イギリスのベクタースポーツなどで、彼ら はチームとしてトップカテゴリーにステッ プアップすることが予定されている。

フランス西部自動車クラブ(ACO)によ る今年の記者会見では、来年からWECが ハイパーカーとGT3の2カテゴリーによ るシリーズになることを正式発表。LMP2 クラスは廃止されてしまうが、ル・マン 24時間レースだけは、来年以降もLMP2 がトップカテゴリーを担うヨーロピアン・ ル・マン ・シリーズ(ELMS)から15台の LMP2車両が参加できるとしている。

伝統、そして技術革新の実験場 100周年となった今大会は、シリーズ やカテゴリーの変化を踏まえた、新たなス タートの年という印象で、それは将来的な 技術面での様々な発表にも現れていた。

特筆すべきは、今後期待される水素燃料 に関するもの。今年のサルト・サーキット には「ヴィラージュ・ハイドロジェン(通 称・水素村)」というスペースが設けられ、 水素技術に関する展示が行われていた。

ル・マンでは数年前からACOが主体と なり、グリーンGTやトタル・エナジーズ、 ミシュランといったパートナー企業と共

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に、水素と空気中の酸素を反 応させて電力を作り出す、燃 料電池車“Green GT H24” のデモランを行ってきた。そ うした動きを今後拡大させ、 数年以内(予定では2026年) に燃料電池車や水素内燃機関

搭載車両のための「水素クラス」を創設する と明言している。

大会期間中には、リジェとボッシュが水 素内燃機関を搭載した水素技術実証車両を 発表。トヨタも水素エンジンを搭載したハ イパーカーをACOの会見内で発表した。 将来のル・マン像を象徴するべく、事前イ ベントでは、いわゆる水素カローラや H24、リジェなどがデモランを行っている。

ル・マンは、1923年の開催初年度から 「技術革新」を標榜してきたレース。今では 「伝統の一戦」でもあるが、100年前から続 く“新しモノ好き”の心意気は忘れていな い。タイヤに関しても、ミシュランは今年 もメディアセンター内に「ミシュラン・カ フェ」と呼ばれる報道関係者のための懇談 スペースを設けたが、その開所式では今後 のタイヤ開発についても触れていた。

H24にタイヤを供給するミシュランによ ると、この車両が装着するタイヤは初年度 は45%、2年目には53%、今年は63%の再 生可能材料を使用しているそうで、2025年 からは、その技術を投入したタイヤを実戦 投入する予定ということだ。また、今年は タイヤ1セットで3スティント連続走行と いう運用だったが、将来的にはセット数を 削減するために、1セットで6スティントの 走行を可能にするタイヤも開発予定である

TOYOTA.GAZOO.Racingは今大会のACOによるプレスカンファレンスで水素エンジン車両 「GR.H2.Racing.Concept」を発表。5月末のスーパー耐久第2戦富士24時間レースではACOの ピエール・フィヨン会長が来日して水素エンジンカローラなどを視察している。今大会には 1991年大会で日本車として初の総合優勝を果たしたマツダとTGRが、日本政府観光局の呼び かけにより「Japan..Endless.Discovery.」というPRブースを場内に出展した。

とのこと。グッドイヤーもLMP2のタイヤ に関しては、すでにスリックを1スペック に絞っており、今回、彼らが今後GT3の タイヤを担当することも発表されたが、や はり環境技術を採り入れたタイヤ開発に取 り組んでいくことになりそうだ。

性能調整が絶妙なレース展開に

100周年の記念レースではル・マンな らではの動きもあった。テストデーの4日 前になって性能調整(BoP)が変更された のだ。TGRは37kgの重量増となり、1ス ティント当たりのエネルギー使用量が4メ ガジュール(MJ)増加。フェラーリにも 24kg、2MJの増加とされた。キャデラッ クは11kg、1MJ増で、ポルシェは3kg増 だがエネルギー使用量は変更されず、プジ ョーやグリッケンハウス、フロイド・ヴァ ンウォールは、3月に公表したBoPが維持 された。

レースでは、この性能調整が絶妙な演出 となった。それは、どのマシンもトップを 窺える力を見せる展開となったからだ。

結果、優勝はフェラーリ499Pの51号 車。TGR 7号車はレース前半で不運のリタ イアを喫したが、8号車はフェラーリに対 して速さの面で苦戦し、作戦面におけるタ イムロスもあったため僅差の2位に終わっ ている。また、大きなミスなく走り切った キャデラックの2号車が3位表彰台を獲得 する一方で、ポルシェやプジョーは信頼性 不足に泣かされた。プライベーターながら グリッケンハウスの2台がテクニカルトラ ブルなしに6位、7位に入ったのは、称賛 に値する結果だったと言えるだろう。

来年以降はさらに戦いが激しくなりそう なル・マン24時間レース 。グループC時 代以上の盛り上がりとなるか? 新技術の 将来も含め、今年は約32万人が詰めかけ たビッグイベントの今後に期待したい。

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安全そしてモータースポーツ振興、次世代に向けた課題解決のために モータースポーツ未来委員会が新たな小委員会を設置。施策の審議・検討がより具体的に PHOTO/遠藤樹弥[Tatsuya.ENDOU]、長谷川拓司[Takuji.HASEGAWA]、山口貴利[Takatoshi.YAMAGUCHI]、JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS] REPORT/JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS]

幕と前後して、新型コロナウイ ルス感染症の感染拡大が落ち着 きを見せた2023シーズン。5 月8日には新型コロナウイルス感染症の位 置付けが「5類感染症」に移行した。

これに伴い、これまで競技関係者に対し て周知がなされてきた「基本的な感染対策 のあり方の例 -Ver.6-」について、今後は 一律に求めるのではなく、参加者個人やオ ーガナイザー、クラブ、団体、関係者それ ぞれの状況に応じた、自主的な判断と取り 組みを基本とした対応へと改められた。

そして、時代はいわゆる”アフターコロ ナ”と呼ばれるフェーズとなり、コロナ禍 前になされてきたあらゆる社会的活動が再 開。2023年はあらゆるモータースポーツ 活動も正常化し、水際対策の撤廃により、

外国人の往来も盛んになってきた。

しかし、生活様式に大きな変化がもたら される時期においては、盛時を取り戻そう と、あらゆる営みにおいて急激な変動が起 こり、それが歪みとなって、予期せぬイン シデントに繋がることもある。

そのため、かつての日常を正しく取り戻 すためにも、特に重視すべき”安全”に係 る講習会が重点的に実施されている。4月 の全日本ラリー選手権第3戦・唐津大会と 6月の第5戦丹後大会では、FIA基金助成に よる救急救出講習会が行われ、6月下旬の 全日本カート選手権のSUGO西大会では、 救助活動の技術と知識を修得する、JAFカ ート競技役員セミナーが開催された。

このセミナーは日本カート選手権に携わ る競技役員を対象としたもので、JAF加盟 クラブ、グラベルモータースポーツクラブ の吉田恵助救命士が講師を担当。JAFメデ ィカル部会の原田俊一部会長とJAFカート 部会の植田敏明部会長を評価委員に迎え、 座学と実技で各種活動を学ぶ場となった。

そして、今季からはモータースポーツ振 興を検討する組織がリニューアルされてい る。旧モータースポーツ振興委員会から、 モータースポーツ未来委員会に継承され た、振興に資する施策検討の領域は、新た に設置された「振興小委員会」と「プロフェ ッショナルモータースポーツ小委員会」に より、仔細かつタイムリーに実行施策を検 討できる体制が整備されることになった。

この振興小委員会は稲垣和也氏を座長と して6月上旬に、プロフェッショナルモー タースポーツ小委員会は、柿元邦彦氏を座

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2023年JAFカート競技役員セミナー

6月24日、スポーツランドSUGO国際西コースにおいて、 日本カート選手権に携わる競技役員を対象とした、事故発 生時に迅速かつ安全な救助を行うための技術と知識を修 得する座学と実技を組み合わせたセミナーが行われた。

モータースポーツ未来委員会の新組織 「振興小委員会」の第1回会合が開催

6月1日、JAF本部において、2023年第1回モータースポーツ未来委員会・ 振興小委員会が行われた。また、6月29日には同じく新設されたプロフェッ ショナルモータースポーツ小委員会の第1回小委員会が開催されている。

スポーツ庁と外務省、入管庁による 国内主催者に向けた説明会が開催

6月7日、JAF本部において、スポーツ庁と外務省、出入国在留管理庁の担 当者による、国内で開催されるF1やWEC、WRCのオーガナイザーが出席 した、入国査証区分および在留資格の変更に関する説明会が行われた。

長に6月下旬に第1回会合が開催された。

また、昨年は厳しい水際対策が敷かれる 状況下で、スポーツ庁や外務省などの協力 によりFIA世界耐久選手権(WEC)とFIA フォーミュラ1世界選手権(F1)、FIA世界 ラリー選手権(WRC)が開催された。

今シーズンは水際対策の撤廃に加え、新 たな世界選手権の開催も含めて、さらなる 規模拡大が予想されている。そのため、外 国人の入国時に必要な手続きについて、入 国査証区分および在留資格は、外務省およ び出入国在留管理庁(入管庁)における事案 ごとの個別判断ではなく、オーガナイザー による入国手続の負担軽減を図る、新たな 取り扱いが設定されることになった。

6月には上記の取り扱いについて「モー タースポーツ国内大会における入国査証区 分及び在留資格の変更について」という、 スポーツ庁と外務省、入管庁によるオーガ ナイザー向けの説明会が行われた。

このように、安全を確保するための実践 的な周知徹底と、さらなるモータースポー ツ振興に繋がる体制変更、そして、世界選 手権対応における省庁と一体となった受け 入れ体制の整備・強化などが行われており、 国内モータースポーツの適正な開催に向け た、各種の準備が着々と進められている。

全日本ラリー第3戦唐津と第5戦丹後で FIA助成によるJAF救急救出講習会を開催

全日本ラリー選手権第3戦唐津、第5戦丹後のラリーウィーク初日 には、参加者とオフィシャルを対象に、FIA基金助成によるJAF.Sa fety.Programとして、スペシャルステージラリーにおける救急救出 講習会が行われた。

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全日本ダートラ第4戦と 全日本ジムカーナ第3戦で 中村善浩氏を追悼

JMRC九州運営委員長を務めたRASCAL の中村善浩氏が5月に逝去され、全日本競 技会では黙祷が捧げられた。また、全日本 ラリー選手権審査委員グループのリー ダーを務めたGRAVALの七田定明氏が6 月に急逝され、九州を拠点に国内モーター スポーツ振興に寄与された方々が相次い で亡くなる悲しい事態となった。

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初開催のポートランド、日産フォーミュラEチームがポイントを獲得 シーズン9の第12戦は、スーパーフォーミュラ2019王者・N.キャシディ選手が今季3勝目

PHOTO/日産自動車[Nissan.Motor.Co.,.Ltd.]、FIA.Formula.E REPORT/JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS]

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9戦モナコE-Prixでは、サッシ ャ・フェネストラズ選手が予選 で速さを見せ、決勝では4位を 獲得した日産フォーミュラEチーム。フェ ネストラズ選手は第11戦ジャカルタE-Pr ixでも4位に入り、今シーズンの後半戦は、 チームメイトのノーマン・ナトー選手とと もに日産フォーミュラEチームの上位進出 の機会が増えている。このFIAフォーミュ ラE世界選手権のシーズン9では、エンビ ジョン・レーシングに所属する2019年ス ーパーフォーミュラ王者のニック・キャシ ディ選手も好調ぶりを見せており、日本に 縁の深い選手たちの活躍が光っている。

第12戦ポートランド優勝はキャシディ選手。終盤の 激しい攻防を制して今季3勝目を獲得。

今季3回目のデュエル進出を果たしたフェネストラズ 選手。決勝では接触があり15位に。

6月24日にはシーズン9の第12戦が北 米・ポートランドで開催され、シリーズ初 開催となったこのサーキットで、日産フォ ーミュラEチームは再び予選から速さを見 せた。準決勝となるデュエルでは、フェネ ストラズ選手とナトー選手のチームメイト 対決となり、フェネストラズ選手が2番手、 ナトー選手が3番グリッドを獲得した。

決勝ではフロントローのフェネストラズ 選手がスタート直後から激しい上位争いを 展開。しかし、接触により脱落しかけたノ ーズコーンの交換が必要となり、積極的な

3番グリッドからスタートしたナトー選手は、一時は首 位を走るものの、9位に終わった。

追い上げを見せるも、最終的には15位に 終わった。一方のナトー選手は、9周目に はトップに立ったものの、2回目のアタッ クモード使用時に順位を下げてしまう。そ れでも9位でフィニッシュし、自身とチー ムに2ポイントをもたらした。

第12戦の優勝はニック・キャシディ選 手。2度目のセーフティカー導入直前にナ トー選手から首位を奪い、アントニオ・フ ェリックス・ダ・コスタ選手やジェイク・ デニス選手との激しいバトルを制してトッ プフィニッシュ。今季3勝目を挙げた。

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11月開催のFIA世界ラリー選手権・日本ラウンドの概要が明らかに

観戦チケット販売概要を発表。豊田スタジアム内にはスペシャルステージを設定!

PHOTO/遠藤樹弥[Tatsuya.ENDOU]、小竹.充[Mitsuru.KOTAKE]、中島正義[Tadayoshi.NAKAJIMA]、TOYOTA.GAZOO.Racing、JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS]  REPORT/JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS]

知県と岐阜県で11月16〜19

日に開催されるFIA世界ラリー 選手権(WRC)の日本ラウン ド。今年はJAF加盟団体の豊田市がオー ガナイザーとして加わり、新たな体制で開 催されることになった。6月28日には、そ の新体制となって初めてのPRイベントが 愛知県で開催され、観戦チケット販売概要 などを発表。それにより今年のスペシャル ステージの概要も見えてきた。

今回のPRイベントには、実行委員会会 長として豊田市の太田稔彦市長、副会長と

昨年はドライバー、コ・ドライバーとして参戦した勝田範 彦選手と梅本まどか選手も駆けつけた。

して恵那市の小坂喬峰市長が参加。昨年の 大会に参戦した勝田範彦選手と梅本まどか 選手もゲストで登場し、ピエール北川氏に よる司会でトークショーなども行われた。

ージが設置されることも明らかとなった。

このイベントではWRCワークスチームのイメージ色をモ チーフとした新ビジュアルも初公開された。

今年のラリージャパンは、昨年同様、愛 知県豊田市と岡崎市、新城市、設楽町、岐 阜県恵那市、中津川市にスペシャルステー ジが設置され、豊田スタジアムにサービス パークが置かれることも発表された。ま た、豊田スタジアムには特設コースを設定 し、16〜18日の3日間、スペシャルステ 気になる観戦チケットについては、抽選 販売がメインとなる。販売スケジュールは 6月30日から開催地域限定の先行販売が 始まり、オフィシャル先行、ふるさと納税 受付に続いて、8月1日からぴあセブン-イ レブン先行、ぴあプレリザーブ先行販売が 行われ、一般販売は8月25日から。この 一般販売については先着順となっている。 観戦チケット販売方法などの詳細は、ラ リージャパン公式サイトを参照のこと。

PRイベントの壇上には、地元テレビ局の女性アナウンサーも集結 し、今大会のサポーターを務めることも発表された。

勝田貴元選手

WRCを戦う勝田貴元選手は 「世界で戦いたいという夢を 持てる大きなプログラムなの で、自分の挑戦したい気持ち を、強い意志とともにこのセ レクションにぶつけてくださ い。その思いは結果で返って くると思うので、これをきっ かけに、色々なことに積極的 に挑戦してほしいと思いま す」と、三期生募集にあたり 応援コメントを寄せている。

e世界の道で修業する勝田貴元選手に続け! WRCチャレンジプログラム三期生を募集中

6月27日、TOYOTA GAZOO Racingは、世界へ羽ばたくラリードライ バー育成のため、WRCで活躍できる日本人若手ドライバーの発掘・育成 を目的とした、今回で三期生となる「TGR WRCチャレンジプログラム」 の育成ドライバー募集を開始した。

今季ワークス昇格を果たした勝田貴元選手を初代として、2022年には 二期生の大竹直生選手と小暮ひかる選手、山本雄紀選手が選出され、現 在、二期生は欧州でラリー修業に励んでいる。

三期生の募集は8月27日(日)12時(日本時間)までで、最大150名の先着 順。一次選考は9月18~20日のいずれか1日で、二次選考は9月21日、とも に富士スピードウェイで実施される。最終選考はチームの本拠地フィンラ ンドに場所を移して行われる予定だ。募集対象は2024年3月に中学校を卒 業予定の人から1999年生まれの人で、レーシングカートを始めとした、 モータースポーツ経験者であれば、運転免許のない人も応募できる。

■応募方法は下記リンクから。情報を記入して提出のこと。 URL:https://tgr-wrt.com/index.php/application/

小暮ひかる選手 大竹直生選手 山本雄紀選手
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4 3シーズン目の正念場。角田裕毅選手は悔しいレースでも前を向く

6 WRC勝田貴元選手、欧州でのグラベルラリー連戦は苦しい戦いに

8 ル・マン24時間100周年! 大荒れのレースはフェラーリ51号車が制覇

10 安全そしてモータースポーツ振興、次世代に向けた課題解決のために

12 初開催のポートランド、日産フォーミュラEチームがポイントを獲得

13 11月開催のFIA世界ラリー選手権・日本ラウンドの概要が明らかに

16 WRC王者のドリフト

カッレ・ロバンペラ選手が日本のドリフト大会に緊急参戦! 世界ラリー選手権チャンピオンが聖地・エビスを席巻した!!

22 王者の躓き

最速ドライバー野尻智紀選手が失速! 混迷する最高峰・スーパーフォーミュラ前半戦

26 ルーキーたちの初陣

今季の“SFライツ”には5名のドライバーが初参戦。フォーミュラマシンに載せたそれぞれの想いとは

37 新たな感触

全日本ジムカーナPE1で広がる次世代を見据えたトライアル

48 “合わせる”走り

車両をシェアする耐久レースはどう走る? 24時間を戦い抜くドライバーたちの極意

TOPICS

42 カート戦線、新時代の幕開け

さまざまなシリーズが選べるようになり選手権もクラス再編で魅力が増したレーシングカートの“イマ”を深掘り!

55 教えてダートラ必需品

未舗装路で待ち受ける“想定外”に対応せよ!ダートトライアルで生き残る必携アイテムズ

60 “学ドリ”で高みを目指せ!

学生たちの競演!ドリフトが育むモータースポーツの一歩 INFORMATION

32 2022年度 事業報告ならびに収支報告(2022年4月1日より2023年3月31日まで)

36 INFORMATION from JAF

モータースポーツ公示・JAFからのお知らせ(WEB)一覧(2023年4月1日~2023年6月29日) 66 JAFモータースポーツサイトのススメ

JAF MOTOR SPORTS JAFスポーツ[モータースポーツ情報]

監修/一般社団法人 日本自動車連盟 〒105-0012 東京都港区芝大門1-1-30 ☎0570-00-2811(ナビダイヤル) 発行所/株式会社JAFメディアワークス  〒105-0012 東京都港区芝大門1-9-9 野村不動産芝大門ビル10F ☎03-5470-1711(代)

発行人/日野眞吾

振替(東京)00100-88320 印刷所/凸版印刷株式会社 編集長/佐藤均 清水健史 大司一輝 デザイン/鎌田僚デザイン室 編集/株式会社JAFメディアワークス JAFモータースポーツチーム(JAFスポーツ) ☎03-5470-1712

COVER/ENEOS スーパー耐久シリーズ 2023 第2戦 PHOTO/遠藤樹弥[Tatsuya ENDOU]

本誌の記事内容は2023年6月29日までの情報を基にしております。また、社会情勢等によって、掲載した情報内容に変更が生じる可能性がございます。予めご了承ください。

HEADLINE
SPECIAL ISSUE
2023 夏 CONTENTS 「JAFモータースポーツサイト」も要チェック! https://motorsports.jaf.or.jp/
特集 世界ラリー選手権/WORLD RALLY CHAMPIONSHIP WRC王者のドリフト カッレ・ロバンペラ選手が日本のドリフト大会に緊急参戦! 世界ラリー選手権チャンピオンが聖地・エビスを席巻した!! PHOTO/堤晋一[Shinichi TSUTSUMI]、小竹充[Mitsuru KOTAKE]、 Red Bull Media House、MSC株式会社、JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS]  REPORT/深澤誠人[Masato FUKAZAWA]、JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS] 16

TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team カッレ・ロバンペラ選手

2022年WRC王者にして自身の“KR69”を冠したドリフトチームを持つカッレ・ ロバンペラ選手。緊急参戦したFDJ第2戦エビス西大会では、競技ドリフトを知る ラリーストとして、他を圧倒する単走、そして追走を見せた。

ッレ・ロバンペラ選手。御存知の通り、22 歳にして2022年のFIA世界ラリー選手権 (WRC)のドライバーチャンピオンに輝い たフィンランドの若き世界王者だが、彼がこのたび緊 急来日することとなり、TOYOTA GAZOO Racingと CUSCO Racing、HKS、横浜ゴムらの協業で制作され たGRカローラのドリフト車両を駆り、エビスサーキ ットで開催されるフォーミュラドリフトジャパン (FDJ)第2戦に参戦することになったのだ。

その結果は、すでに多くのメディアが報じた通り、 正確無比な“速いドリフト”で予選となる単走での優勝 を決め、決勝の追走では驚愕の超接近戦を演じてエビ ス西大会を席巻。何と日本の“競技ドリフト”初参戦 で、初優勝を飾ってしまうという圧倒的なものだった。

ロバンペラ選手が繰り出した走りは会場の誰もが 「さすが世界チャンピオン」と手放しで称賛するものだ

「ラリーの世界王者が、ドリフトを楽しむために来日したんだろう……」 そんな予想は、1台のGRカローラがスライドを始めた瞬間に一蹴された。 目撃した誰もが圧倒された、カッレ・ロバンペラ選手のエビス西での走り。 ここでは、若きWRC王者が魅せたドリフト走行の“すごさ”を検証する。

った。ここでは彼の走りがどう“すごかった”のか、 そして、その走りがもたらしたものを検証したい。

その前に、ラリーストを父に持ち、幼少の頃からラ リーに親しんできたロバンペラ選手は、世界の頂点を 極める一方で、ドリフト界でも地位を築きつつあるこ とを押さえておきたい。実は、すでに自身の“KR69” を冠したドリフトチームを結成しており、2022年に はGRスープラを駆り、欧州の「ドリフト・マスター ズ・ヨーロピアン・チャンピオンシップ(DMEC)」の アイルランド大会に参戦しているのだ。

この大会では追走トップ16に進出してワンモアタ イムの末に敗退しているが、2023年は全6戦で争われ るDMECに、WRCとバッティングしない4戦への参 戦を表明。つまり、今回のFDJ参戦は「WRCドライ バーのゲスト参戦」ではなく、“競技ドリフト”を知るド リフターによる日本遠征だったと捉えるべきであろう。

WRC王者のドリフト

単走は先頭走者! 驚愕の「97点」を計測!!

FIA.Intercontinental.Drifting.Cup筑波大会にも参 戦したFDJドライバーのマッド・マイク選手。ロバ ンペラ選手と親密に意見交換を行っていた。

出来立てのGRカローラのセッティングや接触によ る修復などはCUSCO.Racingの精鋭メカニックが 国際ラリー仕込みの迅速な作業で対応していた。

練習走行から見せた精度の高い走り

土曜の単走は合計2回の走行だが、午後の2本目で 叩き出されたのは何と97点。解説の谷口信輝氏は 「こんな点数見たことない」と驚愕した。

見守ることになったが「進入速度が高い」、「恐ろしく 正確」、「ミスを完璧に修正」と口を揃えていた。

エビスサーキットは、世界のドリフト界に“EBI SU”として名を轟かせる聖地。ここでは参加型イベン ト「ドリフト祭り」が開催されており、ロバンペラ選手 も過去に3回も参加している。本人も「KITA(北コー ス)がチャレンジングで一番好きだ」と語るほどで、今 大会の会場である西コースも初めてではない。

参戦車両はGRカローラ。今大会のためにCUSCO Racingがプリペアしたもので、GRカローラをベース に国内で制作されたドリフト車両としては第1号とな る。そしてもちろん、ロバンペラ選手はレースウィー クになって初めて、出来立ての車両に乗車している。

単走で際立つ前代未聞の正確さ

ウェット路面での精緻な走りを見れば、単走はきっ ちりアジャストしてくることが予想できた。土曜は予 報通りの雨。ロバンペラ選手は残された練習走行枠の 2本を、前日と寸分違わぬ走りで消化した。

木曜のプライベートテストを経て、金曜からの公式 日程に入っても積極的に練習走行を重ねるロバンペラ 選手。金曜と土曜に設けられた合計12本の練習走行 枠のうち、8本を金曜午前に充ててセットアップを進 めていた。あいにく、午後は強い雨に見舞われ、多く の選手が走行を見合わせることに。しかし、土曜の天 気を考慮して、ロバンペラ選手はコースインした。

ヘビーウェット路面の1本目は、ハーフスピンを喫 するも何とか立て直して姿勢を維持して完走。続けて 走った2本目には、ウェット路面でほぼ完璧なドリフ ト走行をつなげてドライバーや関係者を唸らせた。こ の雨により多くの選手がロバンペラ選手の走りを直に

午後には天候が回復する予報だったが、今大会のロ バンペラ選手は1番出走だったため、予選となる単走 1本目は小雨が降る濡れた路面での走行となった。そ して、練習走行と同様に正確な走りを披露して89点 をマークする。路面状況が変化していったものの、1 番手のロバンペラ選手が叩き出した得点は、結局、誰 も上回ることができないという事態となった。

その後、天気が急速に回復し、単走2本目はドライ 路面に恵まれた。1番出走のロバンペラ選手は、読め ない路面をものともしないイニシエーションで、1コ ーナーから白煙を上げて進入する。指定されたゾーン 通過もすべてクリアして、何と「97点」を計測。これ がこの日の最高得点となり、単走優勝を果たした。

金曜と土曜の走行で明確になったのは「再現性の高 さ」と「ライン取りの正確さ」だ。「ライン取りをミスっ たら即コースアウト、というシビアなラリーで世界チ ャンピオンを獲った選手にとっては、このくらいは容

単走
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追走 Top32

追走 Top16

蕎麦切広大選手

SHIBATA.Racing.YOKOHAMA [ZN8.GR86]

追走1回目は単走32位との戦い 玉川選手は「ワンモアタイム」の激戦に! 玉川艶哉選手

追走2回目でスイッチが入る!? 蕎麦切選手が魅せた接近戦! 易いのだろう」と語るのは、海外のドリフトにも精通 する益山航選手や日比野哲也選手らのベテラン勢。

CAR.GUY.Racing[JZA80スープラ]

そして、ライブ中継の解説者として訪れていた谷口 信輝氏は「どんな状態でもクルマを自分の支配下に置 いているところがすごい」と評するが、「クルマができ たばかりで、乗ったばかりだから、できることはまだ あるように見える」とも指摘した。ロバンペラ選手は 単走で完璧なパフォーマンスを見せた。しかし、決勝 は「相手ありき」の追走だ。

「追走」で問われた真価

晴天に恵まれ、完全なドライ路面となった日曜。今 大会の決勝となる追走がスタートする。追走は単走の 上位32名によるトーナメント方式で争われ、その組 み合わせは、単走1位と32位、2位と31位というよ うに、単走得点の高い選手と低い選手が対戦する。

追走トーナメントの1回戦は、単走1位のロバンペ ラ選手と32位の玉川艶哉(よしちか)選手の対戦だ。

そして、この組み合わせについて解説の谷口氏は「ロ バンペラが負けるならこの1回戦」と指摘していた。

そして、ロバンペラ選手はこの1回戦で躓いた。先

行では後続を振り切る勢いを見せたが、中盤で複数輪 の脱輪を喫してしまう。代わって玉川選手の先行では、 ピタリとサイドに張り付いたが、先行車の速度が急変 した際に挙動が乱れ、角度も不安定になっていた。

両者にあった落ち度は審査員を悩ませ、1回戦から 「ワンモアタイム」に持ち込まれた。取り直しの先行で は、ロバンペラ選手は1回目の走りをしっかり修正し てきた。続く後追いでは、やや先行車との距離を置 き、玉川選手が大きく減速する箇所でも安定して追 従。3名の審査員が「ロバンペラ勝利」に票を投じた。 「ロバンペラは、進入の速度はそんなに高いワケじゃ ないんです。ただ、振り出した後、速度が高いまま奥 まで行くので、そこで離れちゃう。加速しながら合わ せていく走りは自分の課題でもあるので……」とは対 戦直後の玉川選手。玉川選手は振り出しから角度をつ けて進入するも、次のアクセルオンまでに車速が落ち ていく状況。対するロバンペラ選手は、振り出した後 にも車速を高く維持する走りだった。「対戦としては 惜しかったのでは?」と水を向けると「いえ、もう全っ 然違うので満足です。次の蕎麦切(広大)選手にも彼の 走りについて伝えましたから、2回戦は頑張って欲し

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いですね」と蕎麦切選手にエールを送った。

トップ16蕎麦切広大選手との接戦 「日本のドリフトへのアジャストは、自分がカッレに 細かく伝えているので問題ありません。自分はDVD や動画サイトで20年以上も日本のドリフトを見てき てますから、特徴もよく理解しているつもりです」と 語るのは、彼のスポッターとして来日したヤニ・ヴェ ルタネン氏。しかし、1回戦を終えたロバンペラ選手 のパドックでは、ヴェルタネン氏がこれまで見せなか った厳しい表情になっていた。

トップ16の対戦相手は蕎麦切広大選手。玉川選手 からのアドバイスや、DMECと日本との違いといった 情報に触れ、すでにロバンペラ選手を分析していた。

振り出した先で加速していく走りについて蕎麦切選 手は「自分もそこで加速していきたいので、自分と近 しいスタイルだと思います」と語る。「あわよくば勝て る?」との不用意な質問に対しては「何を言ってるんで すか、当然、勝ちにいきますよ」との回答。その言葉 通り、蕎麦切選手は1本目の後追いでロバンペラ選手 のインサイドにピタリとつける接近戦を披露した。

追走 Top4

ドステップが外れるほどの強烈な接近ぶりを見せ、1 回戦に続いてワンモアタイムに持ち込んだ。

仕切り直しの対戦ではそれぞれが軽くコンタクトす る激戦となったが、2台の距離感に微妙ながら明確な 差が見られ、ロバンペラ選手に軍配が上がった。 「速度域というかライン取りも含めて走り方がすごく 似てますね。後追いなのに単走で走っているように、 自分の走りでもピタッと合ってました。負けてすっご く悔しいんですが、めちゃくちゃ楽しかったです。ゾ ーンを通る車両感覚はもちろんですが、トラクション のかけ方なのか、クルマが常に、次のコーナーに向け た加速体制や姿勢が作れているんですよ。そこはホン トにすごいと思いました。自分が目指している完成形 です」と分析する蕎麦切選手。対戦が終わるとロバン ペラ選手のパドックへ走り、握手を交わしていた。

この走りがロバンペラ選手に火を点けたのか、はた また、寄せにいける、信頼できるドライバーと思わせ たのか、2本目はロバンペラ選手が蕎麦切選手にサイ

追走でのロバンペラ選手は、単走までで見せていた 正確無比な走りから、脱輪や接触を厭わないスタンス となっていた。もちろん、先行車の走りに合わせるた めに、持てる技術を総動員して角度や速度の維持に務 めていたことも見て取れた。追走は、特に後追いで は、先行者の走りに合わせ切ることが重要で、多くの 選手は、実際に対戦を重ねて傾向を掴むか、あらゆる 映像を参照して、相手の走りを研究して挑んでいる。

当日のロバンペラ選手は、詰めかけた多くのメディ

箕輪大也選手

CUSCO.Racing

[GXPA16.GRヤリス]

箕輪選手はロバンペラ選手と親 交があるそうで、ロバンペラ選手 から「速くなりたければ四駆に乗 れ」とアドバイスを受けたとい う。当日の箕輪選手はロバンペラ 選手の走りを分析し、自分の走り に活かしていた。

開幕戦ウィナー箕輪大也選手 次世代対決はロバンペラ選手に

地元エビスの小橋正典選手と 白熱した追走になるはずが…

追走 Top2

小橋正典選手

LINGLONG.TIRE.DRIFT.Team.ORANGE[DB“A90”スープラ]

KANTA選手とのトップ4対決で車両トラブルに見舞われた小橋正典選手。KANTA 選手の修復が5分の制限時間に間に合わず小橋選手がロバンペラ選手とのファイナ ルに進出した。先行のロバンペラ選手に対して接近戦を披露するも、小橋選手の先 行ではリアタイヤのビード落ちからのコースアウトを喫して勝負がついた。

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KR69でメカニックを務めるアンシ・タルヴァイネン氏 (左)とスポッターのヤニ・ヴェルタネン氏が来日。

単走に続き追走も制したロバンペラ選手。追走の2位は 小橋正典選手(右)、3位はKANTA選手(左)に。

アの取材に真摯に対応し、パドックに訪れたファンの 申し出にも気さくに応えていた。正直なところ、走行 後の印象を聞くこともはばかられるほど、自分の時間 が失われている様子だった。パドックでは大会のライ ブ映像をリアルタイムに観られる環境だったが、それ を材料に研究する時間も取れなかったと思われる。

そうなると、フィンランドから来日したスポッター やメカニックから得られる情報を元に、実戦でアジャ ストすることになろうが、1回戦から未知の先行車の 懐に飛び込んだ走りを見る限り、自身のマシンコント ロールに絶対的な自信を持っていることが窺えた。

その後、トップ8の久保和寛選手の対戦では、後追 いで久保選手のペースに完璧に合わせる超接近戦を展 開し、その真髄が垣間見えた。続くトップ4で実現し たCUSCO Racingのチームメイト対決では、GRヤ リスを駆る箕輪大也選手が先行時に姿勢を崩したもの の、そのトリッキーな動きにもしっかり合わせた。フ ァイナルは、小橋正典選手のコースオフにより勝負が 決してしまったため、ロバンペラ選手による「頂上決 戦」は、やや不完全燃焼に終わってしまっている。

追走の前に「ロバンペラ参戦は黒船来襲なのか」とい う問いを少なからぬ選手にぶつけてみたが、その答え

は、練習走行や単走の走りを「WRCで鍛えられた素 晴らしいもの」として評価しつつ、ドリフトのスタイ ルとしては「速さを求める世界と、こっち(ドリフト) は、求められる走らせ方が全然違うから。これからど うなっていくのか楽しみ」というものだった。 若きWRC王者が残した爪痕とは 日本人選手からすると、異次元のコントロール精度 を見せつけられたことで、具体的な目標が密かに刻ま れたことだろう。チームメイトの箕輪選手は週末を通 じてロバンペラ選手の走りを研究し、追走ではきっち りと合わせて懐に飛び込む好走を見せていた。今回、 ロバンペラ選手との直接の対戦が叶わなかった実力派 達も「あの精度は凄い」と認めており、一方でスポッタ ーのヴェルタネン氏も、欧州に連れて帰りたいドライ バーに、日比野哲也選手の名前を挙げてもいた。

日本がこれまで培ってきたプロドリフト・エンター テイメントは完成形の域にあるが、ロバンペラ選手 は、再現性が高く、かつ高い精度で、どんな状況でも クルマを支配下に置く技術を、WRC仕込みのプロフ ェッショナル・ドライビングとして見せつけた。

6月25日に筑波サーキットで行われたD1グラン プリ第4戦では、蕎麦切選手と日比野選手による決勝 が行われ、蕎麦切選手が参戦31戦目にして初優勝、 単走と追走のパーフェクトウィンを達成した。若き WRC王者がエビス西に刻んだ走りは、10月に予想さ れる再来襲を前にして、その作用が現れ始めている。

2022年D1グランプリ王者の中村直樹選手が 欧州ドリフトマスターズ第2戦スウェーデンで表彰台! 2023年から欧州ドリフトマスターズに参戦し ているD1グランプリチャンピオンの中村直樹 選手が、6月9~10日にスウェーデンのドライブ センター・アリーナで開催されたシリーズ第2戦 で3位表彰台を獲得した。この大会にはKR69か らロバンペラ選手もGRスープラで参戦したが、 トップ32の対戦中に排気系トラブルに見舞わ れ敗退することになった。

松山北斗選手と金田義健選 手、草場佑介選手、そして箕輪 大也選手を擁するCUSCO.Ra cing。GRカローラを短期間で 仕上げ、初参戦のロバンペラ 選手を見事優勝に導いた。

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PHOTO/石原.康[Yasushi.ISHIHARA]、 遠藤樹弥[Tatsuya.ENDOU]、 鈴木あつし[Atsushi.SUZUKI]、 吉見幸夫[Yukio.YOSHIMI]  REPORT/貝島由美子[Yumiko.KAIJIMA]、 JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS]

昨年のJAFドライバー・オブ・ザ・イヤーに輝いた スーパーフォーミュラ2年連続王者が失速している。

FIAF2をよく知るリアム・ローソン選手の台頭、 そして、勢いに乗る宮田莉朋選手の追い上げ……。 ここでは、SUGO大会までの前半戦を振り返る。

アロパッケージが新しくなり、 シャシー名称を「SF23」とした スーパーフォーミュラ。昨年末、 開発テストが繰り返されてきたSF23が、 ついに実戦投入されることになったわけだ が、ストーブリーグから注目されたのは、や はり、野尻智紀選手がスーパーフォーミュ ラで3連覇なるか、という点だ。

一昨年、国内トップカテゴリーで初戴冠 を果たした野尻選手は、そのまま圧倒的な 強さを見せて2度目のタイトルを獲得。直 後の記者会見では、今季の3連覇に向けて 早くも“兜の緒をしめる”姿が印象的だった。

国内トップフォーミュラにおける3連覇 は、1980年代の中嶋悟氏以来、誰も成し 遂げていない記録。JAFドライバー・オ ブ・ザ・イヤーにも輝いた野尻選手の肩に は、その重圧がのしかかっていただろう。

3月初頭の合同テストでは、野尻選手が 総合トップタイムをマークする。エアロパ ッケージの変更により、セットアップを煮 詰める作業は簡単ではなかったようだが、 それでも“一発”をまとめてくるあたりは、 流石の実力というところだった。

2連戦の富士では最高の滑り出し 野尻選手は、その速さを開幕戦から見せ つける。この富士大会は2レース制で、金 曜にフリー走行が設定されていたが、あい にくの暴風雨に見舞われた。そのため、各 選手はまったく走行していない状況で土曜 朝の予選を迎えることになってしまう。 そこで、予選はノックアウト方式から計 時方式に変更。最後はトラフィックでタイ ム更新が難しい状況だったが、野尻選手は セッション中盤という早目のタイミングに 計測したタイムでポールポジションを獲得 した。合同テストの後に多くの準備を重ね て富士に入り、先手を取った形だ。

だが、決勝レースは別のストーリーとな る。ポールの野尻選手は、スタートを決め て前半はトップを堅守。しかし、今季のチ ームメイトであるリアム・ローソン選手に アンダーカットを決められてしまった。 昨年、FIA F2で4勝を挙げてシリーズ3 位を獲得したローソン選手は、レッドブ ル・ジュニアドライバー。リザーブドライ バーとしてF1のレッドブル・レーシング

エ つまず 22 特集 スーパーフォーミュラ/SUPER.FORMULA

に帯同しており、スーパーフォーミュラ参 戦ドライバーの中で、最もF1に近い存在 だ。そのローソン選手が、決勝で力強い走 りを見せただけでなく、作戦もピタリと的 中させ、デビュー戦でいきなりの初優勝を 飾る。野尻選手は2位となり、記者会見で は時折悔しそうな表情を見せていた。

その雪辱とばかりに、翌日の富士第2戦 では、野尻選手が予選でも決勝でも完璧な 走りを見せた。ノックアウト方式で行われ た予選Q2では、ニュータイヤで真っ先に コースに出た野尻選手。上手いトラフィッ クマネジメントを見せてクリアなアタック を決め、開幕戦から2戦連続のポールを獲 得してみせる。これに宮田莉朋選手と大湯 都史樹選手、ローソン選手が続いた。

午後の決勝では、スタートを大湯選手が 決めてトップに立ち、野尻選手は追う展 開。しかし、コース上の至る所で勃発した バトルによって、8周目の1コーナーでア クシデントが発生する。セーフティカーの 導入によりピットウィンドーが開いた。

このタイミングで、ステイアウトを選択 した平川亮選手を除く全車がピットイン。

TEAM MUGENのクルーは、素早い作業 で野尻選手をトップへ押し上げることに成 功した。そして、リスタート後には野尻選 手が好ペースで走り切り、今季初優勝を遂 げている。この開幕大会で、2度のポール に加えて、2位、優勝とポイントを荒稼ぎ。 今年もタイトル獲得に向けて最高の滑り出 しを見せたと言っても過言ではなかった。

まさかの事態と宮田選手の初勝利 鈴鹿サーキットに舞台を移した第3戦で は、新たなヒーローが誕生する。予選でア ウトラップからすぐにタイムアタックに向 かう走りを披露した大湯選手が、チーム移 籍後初、自身2度目のポールポジションを 獲得したのだ。2番手は富士の第2戦で2 位を獲得した坪井翔選手で、大湯選手とフ ロントローを獲得した。野尻選手は、Q1

2023年JAF全日本スーパーフォーミュラ選手権(全

9戦) Pos. No. ドライバー ①富士 ②富士 ③鈴鹿 ④AP ⑤菅生 ⑥富士 ⑦もてぎ ⑧鈴鹿 ⑨鈴鹿 合計 1 37 宮田莉朋 2+6 2+8 20 15 2+20 75 2 15 リアム・ローソン 1+20 6 8 2+20 6 63 3 1 野尻智紀 3+15 3+20 1+0 1+15 58 4 38 坪井 翔 0 15 2+15 3+11 4 50 5 20 平川 亮 11 0 11 6 0 28 6 3 山下健太 0 11 6 8 3 28
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今季はTGM Grand Prixから参戦することになった大 湯都史樹選手。鈴鹿とSUGOではポール獲得ながらも 決勝では苦しい戦いが続き、シリーズは9位。

を6番手でギリギリ通過。それでもQ2で は立て直し、3番手に滑り込んできた。

しかし、決勝では予想できない展開が待 っていた。スタートではポールの大湯選手 がトップを守り、順当に坪井選手と野尻選 手、予選4番手の山下健太選手が続いたも のの、その後方に迫ったのはローソン選手 で、山下選手と野尻選手らをオーバーテイ クしてポジションを上げていった。

さらに、この上位集団のドライバーたち の多くは、鈴鹿では早目のタイヤ交換作戦 に出る。まずアンダーカットを狙ったロー ソン選手と山下選手が、10周を終えたとこ ろでピットイン。続いて坪井選手と野尻選 手が翌周でピットに入った。トップを走っ ていた大湯選手は、序盤から「タイヤが厳 しい」と無線で訴えていたが、タイヤ交換 を終えた中で一番前にいた坪井選手との差 を見ながら、19周を終えたところでピット に入った。それでもコースに戻った時に は、坪井選手とローソン選手に先行され、 後方からは野尻選手にも迫られた。

ここで、何とかポジションを死守したか った大湯選手と、どうしても前に出たかっ た野尻選手が交錯する。S字コーナー2つ 目の立ち上がりで、野尻選手のフロントが 大湯選手のリアに接触。スピン状態となっ た大湯車とバランスを崩した野尻車は、そ のままスポンジバリアに激突し、2台とも リタイアすることになってしまったのだ。

SUGO終了後、ジュリアーノ・アレジ選手に代わり36 号車を任された巧者・笹原右京選手。スーパーGTでは アレジ選手と組むだけに心中は複雑だろう。

近年の野尻選手はリタイア自体が珍し く、こういう形でのクラッシュは、ほぼ見 たことがない。歯車が少しズレてしまった かのような、誰もが目を疑うシーンだった。

このアクシデントでセーフティカーが導 入され、タイヤ交換を引っ張った選手たち が、一気にピットロードに雪崩れ込んだ。 そして、コースに戻って、トップの坪井選 手と2番手のローソン選手の後方に滑り込 んだのが、予選12番手だった宮田選手だ った。4番手には、こちらもタイヤ交換を 引っ張っていた平川選手がつけた。

リスタートが切られると、ニュータイヤ のグリップを活かして、宮田選手と平川選 手が猛ダッシュを見せる。特に宮田選手 は、リスタートから約3周でローソン選手、 その3周後には同じ1コーナーで坪井選手 をかわす勢いを見せ、そこからは独走して スーパーフォーミュラ初優勝をもぎ取った。

坪井選手は連続表彰台ながら悔しい2 位。平川選手もローソン選手をかわして3 位表彰台に立った。初優勝の宮田選手は 「チェッカーを受けた途端に泣いていまし た」と、目を潤ませながらのウィニングラ ン。会見でも"まだ実感が湧かない"と語 ったが、この勝利で一気に弾みをつけるこ ととなる。

九州でローソン選手が今季2勝目 続く第4戦はオートポリスが舞台。ここ

で再び不運に見舞われたのが野尻選手だ。 レースウィークの金曜に熊本空港に降り立 った野尻選手は、そこで体調不良に見舞わ れ、すぐさま病院に向かうと、診断は「肺 気胸」。そのため、第4戦は欠場を余儀な くされ、代役として大津弘樹選手が招聘さ れた。この大会では「手術はせず、安静に」 という診断を受けた野尻選手は、コースサ イドで大津選手とローソン選手の走りを見 守るため、オートポリスに留まった。

この大会で自身初ポールを奪ったのは坪 井選手。ここまで、勝てそうなレースが続 いていた彼にとって、このポール獲得は会 心の一撃だった。続く2番手はローソン選 手。予選よりはレースでの強さが光ってい たが、オートポリスでは速さも見せてい る。さらに、坪井選手のチームメイト、阪 口晴南選手が予選3番手、鈴鹿で初優勝を 遂げた宮田選手も4番手に滑り込んだ。

決勝レースでは、坪井選手が先行して阪 口選手が続く。スタートでポジションを落 としたローソン選手は3番手での走行だ。 レースは膠着して、なかなかコース上での 順位の入れ替わりは起きなかった。

タイヤ交換のウィンドーが開くと、7番手 の牧野任祐選手がアンダーカットを狙っ て、10周を終えたところでピットイン。そ の牧野選手のピットアウト後のペースを見 て、上位集団ではローソン選手が動いた。 13周を終えたところでピットに入ると、牧 野選手の前でコースに戻ることに成功。阪 口選手も呼応して翌周ピットに入ったが、 ローソン選手の後方で戻ることになった。

一方のローソン選手は、まだタイヤ交換 を終えてない前方のトラフィックに遭遇す るも、それをグイグイとかわし、まだピッ トに入っていなかった坪井選手を上回る好 タイムを連発した。引っ張る作戦に出てい た坪井選手は、25周を終えてようやくピッ トイン。コースに戻るとローソン選手の後 ろだったが、交換後のニュータイヤの威力

Rd.1 富士 Rd.2 富士 Rd.3 鈴鹿 予選1位:野尻智紀選手 決勝1位:リアム・ローソン選手 予選1位:野尻智紀選手 決勝1位:野尻智紀選手 予選1位:大湯都史樹選手 決勝1位:宮田莉朋選手 24

王者の躓き

でローソン選手の背後に迫っていく。

しかしその後、ジェットコースタースト レート先の右コーナーでアクシデントが発 生。アウトから阪口選手をかわそうとした 大湯選手の右フロントが、阪口選手の左サ イドに接触して大湯選手はコースアウト。 ここで再びセーフティカーが導入される。

鈴鹿と同じくタイヤ交換を遅らせる作戦 だった宮田選手や平川選手はここでようや くピットイン。宮田選手は、ローソン選手 と坪井選手の後方3番手でコースに戻った。 そして、リスタートが切られると、宮田 選手は坪井選手を猛追し、残り4周で2番 手に浮上。さらに首位のローソン選手を追 った。だが、ここはわずかに届かず、ロー ソン選手がシーズン2勝目をマーク。野尻 選手が第3戦リタイア、第4戦欠場という こともあり、ここでローソン選手がシリー ズランキングでトップに浮上した。

東北SUGOは宮田選手の一人旅 そして、シリーズ折り返しとなる第5戦

TOM'S宮田莉朋選手がついに首位 笹原右京選手の加入で混戦必至に

ローソン選手と宮田選手が2勝を挙げた前半戦は、不運に見舞われながらも3番手 につける野尻選手、伏兵・坪井選手らがシリーズをリードする。宮田選手のチーム メイトとして笹原右京選手が抜擢されたことで、後半戦は混戦必至が予想される。

スポーツランドSUGO。この東北大会は、 九州大会を欠場した野尻選手にとって復帰 戦となり、3年連続タイトルに望みを繋ぐ ためにも、良い結果が必要な一戦だった。

SUGOで今季2度目のポールを獲得し たのは大湯選手で、流れに乗る宮田選手が フロントローに並ぶ。野尻選手はオートポ リス後、すでにスーパーGTでは復帰を果 たしており、「普通の生活以上に体を動か さず安静にしていた」とのことだったが、 ここ一発の力を振り絞って3番手を獲得。 ここまで悔しい思いが続いている坪井選手 は4番グリッドを獲得している。

決勝前のフリー走行で抜群の仕上がりを 見せていたのは宮田選手だった。迎えた決 勝レースは、スタートでは大湯選手がトッ プを守ったが、宮田選手は12周目に大湯 選手をかわしてトップ浮上。また、スター トで宮田選手に続いた坪井選手も大湯選手 をオーバーテイク。一方の大湯選手は坪井 選手との攻防の中で、1コーナーでオーバ ーランを喫してポジションを落とした。

その結果、坪井選手に続いたのはローソ ン選手と山下選手、平川選手。野尻選手は 早目のピットインを選択し、タイヤ交換組 のトップに立っていた。大湯選手をかわし て”見た目”のトップに立った宮田選手は、 野尻選手のペースを見て、17周を終えたと ころでピットイン。アウトラップでは互い にオーバーテイクシステムを稼働させなが らの攻防となったが、野尻選手を抑えて宮 田選手がポジションを死守した。

これに対して、ピットインを引っ張って いたのは坪井選手とローソン選手、平川選 手ら。しかし、坪井選手のペースはタイヤ 交換後の宮田選手に及ばなかった。結局、 坪井選手は35周まで引っ張ってピットイ ン。そこで前が開けたローソン選手や平川 選手はペースを上げたものの時すでに遅し。 全車がタイヤ交換を終えたところで、大幅 なリードを築いていたのは宮田選手だった。 宮田選手が2勝目を挙げ、2位の野尻選 手との差は何と22秒。それでも復帰戦を 表彰台で締めたのはさすがのひと言。上位 集団では真っ先にピットに入った牧野選手 が3位に入り、今季初表彰台を獲得した。 この結果、宮田選手が合計75ポイント を獲得してランキングトップに浮上した。

2番手には63ポイントのローソン選手、3 番手に58ポイントの野尻選手、4番手に 50ポイントの坪井選手と続く。5番手以降 との点差があるため、後半戦のタイトル争 いはこの4人に絞られそうだが、残る4戦 も目が離せない展開となりそうだ。

Rd.4 オートポリス Rd.5 SUGO 予選1位:坪井 翔選手 決勝1位:リアム・ローソン選手 予選1位:大湯都史樹選手 決勝1位:宮田莉朋選手
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特集 スーパーフォーミュラ・ライツ/SUPER FORMULA LIGHTS

今季の“SFライツ”には5名のドライバーが初参戦 フォーミュラマシンに載せたそれぞれの想いとは

ルーキーたちの初陣

2023年の全日本スーパーフォーミュラ・ライツ選手権にデビューした二人の日本人は、 レーシングカートが原点であること以外は、実に対照的な道程を歩んでいる。

そして海外からも、今年は3名のルーキーがこのシリーズに挑戦してきている。

ここでは、彼らがどんな道程をたどって初レースに臨んだのかを紹介したい。

PHOTO/吉見幸夫[Yukio YOSHIMI] REPORT/はた☆なおゆき[Naoyuki HATA]、JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS]

シーズンの日本人ルーキーであ る小出峻選手と堤優威選手は、 対照的なモータースポーツ人生 を歩んできた。1995年生まれの堤選手が カートを始めたのは5歳からで、きっかけ は「父親が富士でハチロクのレースを趣味 でやっていて、僕をレーサーにしたかった みたいです」とのこと。1999年生まれの小 出選手は12歳からカートの世界に入った。 「今どきでは遅い方ですよね。ウチは普通の 家庭でしたし、ゲームなどでモータースポ ーツを知ったので、乗ったのもホントに普 通のカートでした」と、始まりからして対 照的なのだ。堤選手はカートから四輪への ステップアップをこう振り返る。

「周りが四輪のスクール受ける中、僕は 18歳までカートをやってました。最後は 日本代表として海外にも行けたので、一つ の区切りというか、自分に目標がなくなっ

今 26

2022年チャンピオンの小高一斗選手とシリーズ2位の太田格之進選手が卒業 し、今シーズンは木村偉織選手と野中誠太選手、平良響選手、古谷悠河選手が正 念場を迎えている。開幕大会は木村選手が圧勝で一歩リードした。

小出

峻選手

堤 優威選手

Rn-sports/Rn-sports F320

TODA RACING/HFDP WITH TODA RACING

たんです。そんな時にカートでお世話にな った方から、マツダでS耐のドライバーを 探していて、パーティレースで速かったら 乗れるという話を聞いたんです。その前 に、スーパーFJに乗れたんですが、ほと んどぶっつけ本番状態で、ロガーとかもよ く分からないまま、シリーズ2位になれた んです。でも、1回も勝てなくて自分はセ ンスがないなと思って、親からも、あとは 自分でやれという感じになって……。実は FIA-F4に誘っていただけたんですが、実 現が難しくてハコの世界に進みました」。

一方、スタートは遅かったものの、やは りレーシングカートを18歳まで続けた小 出選手。SRS-Fでスカラシップを獲得し て、FIA-F4に参戦することになった。王 道の流れとも言えそうだが、「自分として は順調とは思っていなくて、ホントにこの 業界がどういう世界なのかが分からなかっ たので、思い返すと、けっこう時間がかか

ったと思っています」と小出選手は語る。

やれることをやり尽くす

そして、堤選手のその後である。

「S耐を経て、マツダさんの支援でグロー バルMX-5カップという海外のレースに参 戦しました。86/BRZレースにも出ること ができて、いきなりプロフェッショナルシ リーズで優勝することができたので、多く の人々に知ってもらうことができました」。

「スーパーGTは、タイのチームから、コ ロナ禍の影響でドライバーが来られないか ら、ということでデビューできました。こ こでレクサスRC Fを経験して、その繋が りからか、最終戦ではMAX RACINGか ら代打の声がかかり、翌年からレギュラー で乗せていただけることになりました」。 「本当に、チームや周りの皆さんのおかげ でここまで来られましたが、自分として も、与えられた環境で常にベストを出すこ

とができたかな、という印象はあります」。 その間、8年。これはこれでシンデレラス トーリーではあるが、一方で、フォーミュ ラで「やり残した」思いも強くなっていった そうだ。堤選手はスーパーFJも経験してい るが、「走らせ方が分からなくて、最初の 走行では、カートのようなブレーキングで 飛び出しまくってました。結局、独学で慣 れていきましたが、コーチもいなくて、た だ乗るだけでしたから……」と振り返る。 そして「フォーミュラでは、今までちゃんと レースをできていないので、自分に足りな いものを見つけるため、出させていただい たんです」と、スーパーフォーミュラ・ライ ツに挑んだ理由を語ってくれた。

小出選手はFIA-F4で2022年チャンピ オンを獲得したが、このカテゴリーで3年 を要している。1年目はスカラシップを獲得 したものの、HFDPとしてではない体制で の参戦となった。「1年目はコロナ禍の影響 ですよね。2年目は、チームメイトとは差を 感じていたので、自分の中では一年を通し て、色々と課題を洗い出せたと思います。 それを踏まえたHFDPでの2年目は、それ らの課題を修正してやってきたので、結果 としてはそこそこ満足できていますね。な ので、自分としてはやっぱり順風満帆な感 じではなかったですね」と小出選手。

これだけ道程の違う二人が同時期に同じ カテゴリーにたどり着いた。ステップアッ プに正解はない、ということなのだろう。

激変した初陣のコンディション さて、初陣の様子に話を切り替えよう。

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5月下旬の開幕大会。舞台となったのは大 分県のオートポリスだ。ここは雨や霧に見 舞われやすく、木曜と金曜に行われた走行 はすべてウェット路面となった。しかし、 土曜になると晴れ渡り、予選は週末を通じ て初めてのドライ路面に恵まれた。

ルーキーには難しいコンディションの変 化だが、小出選手はQ1こそ5番手なが ら、Q2では2番手。対する堤選手は、Q1 で最下位、Q2で9番手に甘んじてしまう。 「走りもマシンもまだまだです。自分とし ては結構外してます。Q2はある程度アジ ャストできましたが、この路面と全然合っ

てないんです。ぶっつけ本番状態だったの で、致し方ないんですが……」とは小出選 手。そして、堤選手は深刻だ。

「ジェットコースターの先で、左リアを縁 石に乗せて大スピンでした。セクター1、2 の手応えは悪くなかったんですけどね。Q2 では置きに行っちゃったのと、セクター3 は1回も全開できてないままのアタックだ ったので……。Q1がちゃんと計測できて いれば、Q2に向けてアジャストできたと 思うので悔しいです」と肩を落とす。

第1戦の決勝では、堤選手は1周目のう ちに8位まで順位を上げたものの、そのま

第3戦の堤選手はスタート後の混乱に巻 き込まれたもののすぐに順位を戻し、前 のペースに食い下がる走りを披露。スー パーフォーミュラ・ライツ初陣で得られ たものは大きかったようだ。

まフィニッシュ。それでも「大きなミスは なくて、ドライビングとか色々なことを試 せたし、無事に帰って来られたので、ここ から徐々に上げられたらと思っています」 と前を向いた。小出選手もグリッド順と変 わらぬ5位のままレースを終えた。「無難 というか無事に、といった感じでしたね。 ただ、初レースだったので、レースでしか 起こり得ないことを経験できて、多くの課 題が見つかりました。明日のレースに反映 させていかないと、です。2レース目は2 番手スタートなので、力むつもりはないで すが、そこは重要なのでしっかりとやりた いです」と、同様に前向きではあった。

第2戦の小出選手は、2番手から好スタ ートを決めて先頭に迫る勢いを見せるも、 「ポテンシャルをしっかり把握しておらず、 自分にもまだ余裕がないので、勢い良く1 コーナーに飛び込めませんでした」と、前 に出ることはできなかった。後続は離した ものの、そのまま2位に終わり、それでも 「1レース目の改善点を次にしっかり活か

2年目の木村偉織選手が好スタート

フルマークで開幕大会を完全制覇! スーパーフォーミュラ第4戦と併催された開幕大会オートポリス。晴天に恵まれ た開幕3レースを制したのは木村偉織選手で、3戦連続ポール・トゥ・ウィンを 達成。それぞれ最速タイムを奪取してフルポイントをマークした。

木村偉織選手

B-MAX RACING TEAM/HFDP WITH B-MAX RACING 「相手が誰だろうと、自分のベストな走りができたら結果が着 いてくると思っていましたし、それで負けたら相手が凄かった というだけだと思っています。そう割り切って、これまで自分 のベストな走りをすることに集 中していたので、開幕戦について は、その結果が週末を通じて出せ たと思います。僕の目標はチャ ンピオン! それだけです」

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せたので、1戦目より2戦目、2戦目より3 戦目と、さらに成長していきたいと思って います」と、収穫があったようだ。

堤選手は、スタートで出遅れた車両をか わしたもののポジションは変わらず8位に 終わった。「ニュータイヤを第3戦に残し たので、キツいタイヤで走りました。それ でもトップ集団から1秒ぐらいは……。で も、改めたセットはいい方向に動いたの で、それを第3戦に活かして、ニュータイ ヤで何とか前に行けたらいいですね」と、 ウィーク最後のレースに賭けていた。

それぞれの収穫とチームの評価 その第3戦のグリッドは、第1戦の結果 に基づいて決められる。小出選手は5番手、 堤選手は8番手から。小出選手は好スター トを切って一つ順位を上げるも、抜いた車 両に1周目の第2ヘアピンで追突されてし まう。「後続に押されて浮いちゃいました。 走行中に足回りのダメージは感じませんで した」と語るも、この間に先頭からは離され てしまい、防戦一方となってしまう。

しかし、「あれだけ後ろに張り付かれて も、順位を守り切れたことはプラス要素か と思いますが、内容は良くなかったです ね。反省点をしっかり修正して、次に臨み たいですね」と、小出選手は振り返る。

平良 響選手

TODA RACINGの加藤寛規監督は、初 陣の小出選手をこう評価した。

「まるでドライを走れてない上に、Q1の 時点ではセットアップも全然分からなかっ たですから。それでも、レースのインター バルではなかなかのコメントをしてきて、 ちゃんとタイム上げてきたところはすごい と思いますね。スピードはあるし、あとは このカテゴリーの詰めるべきところを経験 すれば、表彰台や優勝争いは普通にできる でしょう。彼は知識や物事を吸収しよう と、すごく貪欲に聞いてきます。ポテンシ ャルがある上で、そういう姿勢を持てるの は大切なので、近いうちに優勝争いに加わ るような気がします」と太鼓判を押した。

堤選手は1コーナーで軽い混乱があり、 接触をかわすため、いったん順位を落とし たが、2周目には2台をまとめてパス。前 から離されることなく最後まで走り続け た。最終的に8位という結果ではあった が、展開的には大きな自信につながったよ うだ。

「予選をミスらずにちゃんとできていれ ば、もっと高次元な領域で、色々なことが 考えられたと思うと悔しいです。次の SUGOでは予選でタイムを出せるように、 ドライビングもセットも頑張ります。この 週末でだいぶ経験して、ドライビングも試

TOM'S/モビリティ中京TOM'S 320 TGR-DC 「僕の初年度はスタートに慣れるのが遅かった ので、ルーキーにとってスタートは厳しいだろう と感じます。小出選手はFIA-F4で実績があり、 実力あるドライバーなので、どんどん来るなと 警戒しています。堤選手はスーパーGTでチー ムメイトなので、移動中は加藤監督を交えてい つもライツの話をしているんですよ。オートポ リスでは苦労していたようですが、問題なく速 いので、いずれ近い所に来るはずです。今年は チャンピオンを獲らなきゃいけない選手しかい ないと思うので、もちろん僕もチャンピオンを 狙います!」

せる幅が増えたし、セッティングの方向も 若干見えてきたので、次は持ち込み状態を チームと相談して、いいところへ持ってき たいです。ライツではSUGOは初めてで すが、頑張って結果を出したいと思ってい ます。スタートは低い方が……ね?」と苦 笑する堤選手。きっと今後は上がっていく 一方のはずだ。

Rn-SPORTSの植田正幸代表はこう語 る。「今年からタイヤメーカーが変わった ので、しっかりしたデータがない中で、レ ースごとにセットを大きく変えていきまし た。本当にぶっつけ本番状態で、最後のセ ットアップは、タイヤがフレッシュという のもありましたが、本人も一番良かったよ うなので、本人もクルマも戦える方向には 進んでいるのかなと思います。このシリー ズは予選でいかにパフォーマンスを出せる かで決まるので、Q1のスピンは痛かった ですね。でも、彼はすごく器用なドライバ ーなので、僕はすごく期待しています。フ ォーミュラ経験がほぼない状態で、初めて だらけのデビュー戦でしたから、全然大丈 夫だと思っています。次回に期待です」と、 堤選手同様、右肩上がりであると評価して いた。

野中誠太選手

TOM’S/PONOS Racing TOM’S 320 TGR-DC 「ライツまで来る選手は、皆さん速いですし経験 もあるので、今年はタイヤも変わってますから、 結構イコールに近いかなと思います。そういう

部分では一切油断できませんね。レギュラー2年目として、昨年の経験も 活かしながらチャンピオンを目指します。昨年はスーパーフォーミュラの ルーキーテストを受けさせていただいて、より乗りたい気持ちが強くなって います。まずはライツでしっかり結果を残すことが大事だと思っています」

古谷悠河選手

TOM’S/Deloitte. HTP TOM'S 320 「ライツは、前走車について行った時のダウンフォースの抜け方が、下のカ テゴリーより大きいので、そこに苦戦すると思います。でも、ルーキーとは いえ、色々なカテゴリーで経験を積んでいるので差は少ない し、これから上がってくると思うので、警戒しています。も ちろん今年もチャンピオン狙ってやっていきます。まず勝 ちたいですね!」

ルーキーたちの初陣特集  29

海外経験豊富な若きチャレンジャーが初陣  苦しい展開ながら3名ともポイントを獲得!

日本のフォーミュラ界におけるスーパーフォーミュ ラ・ライツの役割は、FIA F4に続くステップアップ カテゴリーであると同時に、日本の最高峰であるスー パーフォーミュラに繋がるラダーの一部でもある。 今季のスーパーフォーミュラ・ライツには海外から 3名の新たな挑戦者が登場。ここでは、彼らの参戦理 由とともに今季にかける意気込みを聞いた。

PHOTO/吉見幸夫[Yukio YOSHIMI]、遠藤樹弥[Tatsuya ENDOU]  REPORT/貝島由美子[Yumiko KAIJIMA]、 JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS]

エンツォ・トゥルーリ選手

TOM’S/モビリティ中京 TOM'S 320

「僕のキャリアにとって、とても大きなステップ」

「今年の始めに初めて来日して富士でテストをしたんだ。それはオーディション的なもので、その 時からポテンシャルを見せられたし、チームも好感触を持ってくれたということで、今年このシ リーズに参戦できる機会を得たんだ。日本は家から遠く離れているし、新しいコースやチーム、 人々と一緒にレースをするわけだから、僕のキャリアにとって、とても大きなステップだよ。でも、 父(ヤルノ・トゥルーリ氏)から日本の人々や、どんな国かということを聞いていたし、この機会を くれたトムスに感謝している。僕らは、これから一緒に成長していけると思っているよ。もちろん、 まだまだやらなければいけないことも多いけどね。このシリーズは2年前からフォローしていて、 来日する前から、いい選手権だし、いいサーキットがあると感じていた。台数はそう多くないけど、 その分、危険性は高くないし、セーフティカーが出る機会も少ない。そういう面でも、この選手権 が好きなんだ。僕は日本語が喋れないから、チームとのコミュニケーションは難しい部分もある よ。でも、何人かは英語を喋れるし、一緒に解決方法を見つけていきたいね。目標は勝つことだ し、タイトルを争うこと。でも、毎回初めてのコースで走るから学んでいかないとね。来年にはチャ ンピオン争いの準備が整うと思うし、その後はスーパーフォーミュラやスーパーGTにも出場し たい。そして、トヨタでWECに出るのも一つの夢なんだ」。

Enzo TRULLI Igor OMURA FRAGA David VIDALES
特集
ルーキーたちの初陣
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イゴール・オオムラ・フラガ選手

B-MAX RACING TEAM/FANATEC 320

「欧州では減っているコーナリングが速いマシン」

日本に活動拠点を移したイゴール・オオムラ・フラガ選 手は、スーパーフォーミュラのアンバサダーを務めつつ SFライツへの参戦を果たした。スーパーGTのGT300ク ラスでもシートを獲得し、ANEST IWATA Racing with Arnageから古谷悠河選手、小山美姫選手と参戦する。

「昨年の終わりにGT300のオファーがあって、それは確定状態でした。同時期にスーパーフォーミュラ・ ライツ(SFL)に関しても参戦したい気持ちを持っていましたが、費用確保のためにスポンサーを探して いる段階でした。B-MAXとはテストをしていて、チームも僕に興味を持ってくれていましたが、まだ参 戦のパッケージができていなかったんです。でも、グランツーリスモさんなどがスポンサーを探してくれ て、ファナテックというeスポーツのステアリングコントロールやペダルを作る企業が支援して下さる ことになって参戦が実現しました。SFLは、日本の育成ドライバーが集まるハイレベルなカテゴリーで、 欧州では減っているライトウェイト&ハイダウンフォースでコーナリングが速いマシンで戦えるという イメージがありました。日本のチーム関係者の皆さんはプロフェッショナルですし、同じ方向を見て努力 をしていると思います。僕自身、子供の頃は日本で育って 文化を知っていますし、言語のバリアがないのでやりや すいですね。日本はF1レベルのサーキットだけでなく、 色々な種類のコースがあって楽しいです。シーズン中盤 までにパフォーマンスアップして、常にトップ争いでき るようになりたいです。将来はプロドライバーになりた い。来年以降、スーパーフォーミュラやGT500を目指し たいですね。その先にチャンスがあれば、インディカーや F1にも行ってみたいです」。

「日本はレースに対する“哲学”が違うよね」

「昨年はFIA F3に出ていて、今年は日本で走ることに決めたんだ。僕のマネージメントはア レックス・パロウも面倒を見ていたから、彼が日本で走った時期に状況を見ていた。それで、 結果が良ければ、日本では多くの機会を得られるということを理解したんだ。だから、将来的 にはスーパーフォーミュラのチャンスがあると思ったし、そもそも日本のモータースポーツは とてもレベルが高い。ホンダやトヨタ、日産など多くの自動車メーカーや、複数のタイヤメー カーも関わっている。ドライバーにとってもオープンで、多くのチャンスがあると思うんだ。こ のクルマはFIA F3より軽くてダウンフォースが大きい。コーナーの中でとても速いから、運転 していて楽しいよ。エアロの影響とパワーが少ないからストレートは少し遅いけど、ラップタイ ムはほぼ同じだと思うし、とにかく乗っていて楽しいんだ。また、日本はレースに対する“哲学” が違うよね。レース前にテストがあって、多く走ることができるし、クルマもいろいろ試せるの で、ドライバーとして成長できる。欧州ではできないことが日本ならできるんだ。チームもベス トを尽くそうと頑張ってくれるし、みんなが勝利を達成するために努力している。本当に素晴 らしいと思うし、一緒に仕事をしていて楽しいよ。日本のサーキットも好きだよ。エスケープが 少なくてミスは許されないから。全てのサーキットが本来そうあるべきだと思う。目標は毎年 同じだけど、チャンピオンを獲ること。もちろん才能あるドライバーが多いし、日本での経験は 僕よりあるから簡単ではない。だから、よりハードに仕事しないとね。今後も何年かは日本で レースしたいと思っているし、来年はステップアップできたらいいよね」。

デビッド・ビダーレス選手

B-MAX RACING TEAM/B-MAX RACING 320

ユーロフォーミュラオープン第3戦ハンガリーで EFOルーキー・野田樹潤選手が3位表彰台を獲得! 6月17~18日にハンガロリンクで開催されたユーロフォーミュラオープン (EFO)第3戦で、今季からシリーズ参戦する野田樹潤選手が好成績を挙げた。

レース1では5位ながら、レース2では3位表彰台、そしてルーキークラス1位のト ロフィーを獲得した。

レース3では野田選手 が激しい優勝争いを 展開するも、ファイナ ルラップではジョ シュ・メイソン選手の 後部に接触して惜しく も逆転ならず、9位に 終わっている。

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2022年度 事業報告ならびに収支報告 (2022年4月1日より2023年3月31日まで)

2年に及ぶ感染症の流行や原油、原材料価格の高騰など、 モータースポーツ界にとってもネガティブな状況が継続す る中で、ライセンス発給数は前年に比べてわずかに減少し たものの、感染症対策を施して開催された公認競技会件数 は前年より大きく増加し、コロナ禍で中止されていた3つの FIA世界選手権競技会が久しぶりに開催されたこともあ って、全体的にはコロナ禍以前の状況に戻りつつある兆し が感じられた一年であった。JAFとしても、ゴーカートラ

(1)競技会の公認

① コロナ禍における感染症対策を実施しながら、合計 798件*の公認競技会が開催された。うち国際格式 は18件*であった。また、コロナ禍において中止され ていた3つのFIA世界選手権競技会(F1、WE C、WRC)も有観客で開催された。

② 入門者向け競技「オートテスト」を112回*開催し、の べ3,085名*が参加した。

【競技会公認件数*】

種 類

四輪

(2)選手権競技会の認定

全日本選手権および地方選手権競技会として、300件* の公認競技会を認定した。

【選手権競技会等認定件数*】

種 別 内 訳

全日本選手権

スーパーフォーミュラ・ライツ 6 地方選手権 FIA-F4 7 JAF-F4 8 スーパーFJ 24 フォーミュラリージョナル

全日本ジムカーナ選手権 9 地方ジムカーナ選手権 61

地方サーキットトライアル選手権 13

イセンスの発給開始や環境対応車両によるモータースポー ツ競技の普及促進、大規模イベントの主催など、新たな多く の施策に積極的に取り組んだ。

詳細は以下の通り。

注)以下のデータのうち、*印は2022年1月~12月までの1 年間の実績である。

(3)車両公認

国内車両公認申請18件*を承認した。

(4)モータースポーツライセンスの発給

四輪各種ライセンス67,031件*、カート各種ライセン ス4,972件*を発給した。

【ライセンス発給件数 四輪*】

ドライバー

合 計 300

※レースおよびカートについては、大会数を件数として記載しています。

【ライセンス発給件数 カート*】

① 合計958件*のJAF登録クラブ・団体の登録を行った。

2022年 (クローズド含む) 2021年 (クローズド含む) 前年比(%) (クローズド含む)
レース 93 81 114.8 ラリー 67 60 111.6 スピード競技 254(497) 218(420) 116.5 カート 41(141) 44(117) 93.1 合 計 455(798) 403(678) 110.4(117.6)
件 数 レース
ツーリングカー
全日本ラリー選手権
スーパーフォーミュラ 7
6
16 ラリー
8 地方ラリー選手権 27 ジムカーナ
ダートトライアル 全日本ダートトライアル選手権 8 地方ダートトライアル選手権 57 カート 全日本カート選手権 12 地方カート選手権 20 ジュニアカート選手権 11
ライセンス種別 2022年 2021年 前年比(%)
分 類
ライセンス 国際(A・B・C・R) 3,311 3,104 106.6 国際ソーラーカー 17 150 11.3 国内A 18,595 18,617 99.8 国内B 25,074 25,168 99.6 小 計 46,997 47,039 99.9 エントラント ライセンス 国際 301 301 100.0 国内 461 458 100.6 小 計 762 759 100.3 オフィシャル ライセンス 1級 3,076 3,077 99.9 2級 4,929 4,956 99.4 3級 11,261 11,251 100.0 小 計 19,266 19,284 99.9 エキスパートライセンス 6 6 100.0 合 計 67,031 67,088 99.9
分 類 ライセンス種別 2022年 2021年 前年比(%) ドライバー ライセンス 国際(E・F) 533 539 98.8 国内A 1,126 1,136 99.1 国内B 1,655 1,717 96.3 国際(G) 16 15 106.6 ジュニア国内(A・B) 166 170 97.6 小 計 3,496 3,577 97.7 エントラント ライセンス 国際 42 46 91.3 国内 197 200 98.5 小 計 239 246 97.1 オフィシャル ライセンス 1級 321 327 98.1 2級 199 200 99.5 3級 713 745 95.7 小 計 1,233 1,272 96.9 エキスパートライセンス 4 5 80.0 合 計 4,972 5,100 97.4 (5)登録クラブの活性化への寄与
32

② 全国8地域のJAF登録クラブ地域協議会との連絡会 議を、4月、7月、12月に開催した。

【JAF登録クラブ・団体の登録件数*】

分 類

四輪

準加盟団体

公認クラブ

加盟クラブ

特別団体

加盟団体

準加盟クラブ

(6)各種専門部会・委員会の開催

11種類のモータースポーツ専門部会および各部会に 属する作業部会を合計81回開催した。

【委員会開催件数*】

委員会名

登録部会(WIM作業部会(4回)含む)

(7)競技会審査委員の派遣 全日本選手権競技会に対し、45競技会に90名を派遣し た。

【競技会審査委員の派遣*】

種 別

合 計

※派遣競技会数で記載しています。

(8)オートテストの促進  モータースポーツ入門者向け競技「オートテスト」は、 競技会が112回(前年同期81回)開催され、参加者数は 3,085名(同2,992名)であった。

また、オートテストの認知度向上、モータースポーツ 活性化を目的とした「全国一斉オートテスト」を11月3日 に全国8ヵ所で開催し、322名が参加した。

(9)オンライン国内Bライセンス講習会の恒久化  コロナ禍における暫定措置として実施していた、イン ターネットを活用した国内Bライセンス講習会を規則と して新たに定め、オンラインでのビデオ教材の視聴およ び確認テストによる講習会を、9月1日より本部で一本化 して運用を開始した。

(10)ゴーカートライセンスの促進

カート競技の普及および振興のため、2022年1月より レンタルカートやレジャーカートを対象として、JAF の入会や年齢を問わず取得可能なゴーカートライセン スの発給を開始した。

7月5日にはスポーツ庁の室伏広治長官へのゴーカー トライセンス贈呈セレモニーをJAF関東本部で実施 し、マスコミにも取り上げられた。12月末現在、ゴーカー トライセンス発給を委託するカートコース場は13コー ス、ライセンス発給数は222件であった。

(11)環境対応車両によるモータースポーツ競技の普及促進  自動車メーカー提供の市販無改造EVおよびFCVで運 転の正確さと電気消費量を競うエキシビジョンイベン ト「JAF Eco Rally Tokyo Demonst ration」を、FIAの同様のイベント運営を参考に して、11月に東京・お台場で開催した。

また、11月24日に開催された第5回モータースポーツ 未来委員会および第3回モータースポーツ審議会にて、 2050年までにモータースポーツイベント全体のカーボ ンニュートラルを達成すること、2030年には2013年に 対して炭素排出量を半減させることを目標とした環境 対応ロードマップが承認された。

(12)大規模イベント「JAF MOTORSPORT JAP AN 2022」の主催  モータースポーツ振興イベント「JAF MOTORS PORT JAPAN 2022」を、JAF主催のもと 11月19~20日に東京・お台場特設会場青海地区NOP街 区で開催した。同会場での開催は2019年以来3年ぶり であった。

会場では従来のモータースポーツ車両の展示に加え て、前述の「JAF Eco Rally Tokyo Dem onstration」の他、全日本カート選手権EV部 門最終戦、フォーミュラE車両のデモンストレーション 走行など、環境対応をテーマとしたコンテンツを展開 し、2日間でのべ72,756人が来場した。

(13)JAFモータースポーツ表彰式の開催  2022年に国内トップカテゴリーで優秀な成績を収め

2022年 2021年 前年比(%)
特別団体 10 9 111.1 公認団体 6 6 100.0
34 30 113.3
加盟団体
15 14 107.1
22 22 100.0
354 355 99.7
398 401 99.2 小 計 839 837 100.2
準加盟クラブ
カート
4 4 100.0
18 17 105.8
12 12 100.0 加盟コース団体 10 10 100.0 公認クラブ 6 6 100.0 加盟クラブ 41 40 102.5
公認コース団体
28 31 90.3 小 計 119 120 99.1 合 計 958 957 100.1
回 数 モータースポーツ審議会 3 カーボンニュートラル分科会 3 モータースポーツ審査委員会 0 モータースポーツ未来委員会 5
3
モータースポーツ振興小委員会
8 安全部会 4 メディカル部会 4 技術部会 7 マニュファクチャラーズ部会 6 レース部会 5
9 スピード競技ターマック部会 8 スピード競技ダート部会 4 カート部会 8 eスポーツ部会 4 合 計 81
ラリー部会
回 数 レース 8 ラリー 8 ジムカーナ 9 ダートトライアル 8 カート 12
45
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たチャンピオンおよび上位入賞者の栄誉を称え、11月 25日に「JAFモータースポーツ表彰式」を東京都港区 のイベントスペース、ステラボールで、新型コロナウイ ルス感染拡大への対策を講じながら、各カテゴリー6位 までの入賞者、およびチームチャンピオンなど、合計271 名を招待して開催した。表彰式の模様はYouTube で同時配信を行った。

また、プレゼンターとして、室伏広治スポーツ庁長官 が登壇した。

(14)ドライバー・オブ・ザ・イヤー2022の実施  モータースポーツの認知向上を目的として、その年最 も輝いたモータースポーツ競技運転者をファンの投票 によって決定するドライバー・オブ・ザ・イヤー2022 を、2021年に続き実施した。

最終候補者選定のための1次投票および受賞者決定 のための2次投票の結果、野尻智紀選手がドライバー・オ ブ・ザ・イヤー2022に輝き、2023年1月に開催された 東京オートサロン会場(幕張メッセ)で表彰セレモニー を実施した。

(15)ウィメン・イン・モータースポーツ活動

女性のモータースポーツへの参加促進を目的とした オートテストを4月から12月までに6回開催した。同活 動としては、これからもモータースポーツに携わる全て の女性たちの活躍しやすい環境づくりを目指していく。

(16)モータースポーツにおける安全性向上への取り組み  9月に北海道で発生したゴーカート体験イベントにお ける死亡事故を受け、スポーツ庁を通じて内閣官房こど も家庭庁設立準備室および消費者庁から関連施設等へ の安全点検要請があり、調査結果を両庁に報告した。点 検依頼の対象はカート登録クラブ・団体、スピード競技 コース、国内における二輪モータースポーツ統轄団体で ある加盟クラブ(計177団体)であった。

その一方で、12月2日には「ゴーカート等の乗り物体験 等を含むイベントに係る当面の安全対策(推奨事項)」に ついてWEBサイトを使って広く公表し、2023年3月27 日には「ゴーカート等の乗り物体験等を含むイベントに 係るガイドライン」を策定して公開した。

また、モータースポーツ安全性向上策の取り組みに対 するFIAの助成を活用し、ラリー競技のスペシャルス テージにおける安全性向上を目的としたトラッキングシ ステムの講習会や、次世代自動車を用いた講習会を開催 し、約400名のラリー競技関係者が参加した。 (17)新型コロナウイルス感染症対策

日本国政府の指針や発令内容、国内感染状況およびJ AF専門部会であるメディカル部会からの助言にもと づき、モータースポーツイベントにおける新型コロナウ イルス感染防止対策にかかる特例措置や感染対策を講 じたうえでのイベント開催のお願いについて、「基本的 な感染対策のあり方の例」の最新版を6月に公開した。

(18)3年ぶりのFIA世界選手権開催

9月9~11日に富士スピードウェイでFIA世界耐久 選手権(WEC)「富士6時間耐久レース」が、10月7~9 日には鈴鹿サーキットでFIAフォーミュラ1世界選手 権シリーズ「F1日本グランプリ」が、いずれも2019年以 来3年ぶりに開催された。

また11月10~13日に愛知県、岐阜県でFIA世界ラ リー選手権(WRC)「フォーラムエイト・ラリージャパン 2022」が開催された。国内でのWRC開催は2010年 の北海道以来12年ぶりであった。

これらの競技会について、開催支援の一環として関係 者の入国をサポートした。

(19)「第21回JAF鈴鹿グランプリ」の開催

「JAFグランプリ」のタイトルが全日本スーパーフォ ーミュラ選手権の最終戦にかかり、10月29~30日に鈴 鹿サーキットで「第21回JAF鈴鹿グランプリ」として 開催された。本大会の大会名誉会長には坂口正芳JAF 会長が就任した。

(20)収支報告

2022年度におけるモータースポーツ業務に直接係わ る収入は約4.1億円(事業収入(ライセンス所有者の会費 を除く):クラブ・団体登録料、ライセンス発給料、競技会 組織許可料、車両公認料等)、支出は約7.7億円(事業費: 委員への謝金・出張費、選手権管理用器具の購入・管理 費、JAFスポーツ誌製作費、WEB製作費等)であり、収 支差額約3.5億円の赤字となった。

(21)罰金等の金額について

公認競技会で納められた罰金および没収された抗議 料または控訴料の2022年度末の残高は以下のとおりで ある。

なお、罰金および没収された抗議料または控訴料は、 国内競技規則11-8(罰金収入の措置)に従ったJAFの 特別基金に繰り入れ、モータースポーツの振興および福 祉目的のために使用している。2022年度はFIAの基 金助成を受け、競技会の安全性向上を目的として、ラリ ー競技会における救急活動についてのセミナーを開催 した。

2022年度末罰金残高 7,275,270円 <内訳> 2021年度罰金等残高 10,679,001円

2022年度罰金等総額 1,205,769円

2022年度の措置等(支出)総額 4,609,500円

34
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INFORMATION from JAF

モータースポーツ公示・JAFからのお知らせ(WEB)一覧(2023年4月1日~2023年6月29日) 公示

日付 公示No. タイトル

2023年4月3日 2023-WEB032

2023年4月3日 2023-WEB033

2023年日本レース選手権規定の一部改正について

2023年全日本スーパーフォーミュラ・ライツ選手権統一規則の一部改正について

2023年4月7日 2023-WEB034 2023年地方/ジュニアカート選手権カレンダー

2023年4月7日 2023-WEB035

2023年全日本カート選手権統一規則の誤記訂正について

2023年4月13日 2023-WEB036 ロールケージ公認申請一覧表

2023年4月27日 2023-WEB037

2023年5月2日 2023-WEB038

2023年日本ダートトライアル選手権の開催日程および開催場所変更について

2023年JAF地方ラリー選手権競技会の開催日程および競技会名称、開催場所の変更について 2023年5月12日 2023-WEB039

2023年日本ダートトライアル選手権の開催日程変更について 2023年5月15日 2023-WEB040

2023年5月17日 2023-WEB041

2023年5月17日 2023-WEB042

2023年5月17日 2023-WEB043

2023年地方カート選手権カレンダー追加について

2023年JAF国内競技車両規則の一部改正について

2023年日本レース選手権規定一部改正について

2023年全日本スーパーフォーミュラ・ライツ選手権統一規則一部改正について

2023年5月19日 2023-WEB044 ロールケージ公認申請一覧表

2023年5月31日 2023-WEB045

2023年JAF地方ラリー選手権競技会の開催日程変更について

2023年6月6日 2023-WEB046 フェラーリ・ドライバー・アカデミー(FDA)アジア太平洋・オセアニア選抜プログラムについて

2023年6月15日 2023-WEB047 2023年JAF地方カート選手権新潟シリーズ第1戦及び第3戦の開催日程の変更について JAFからのお知らせ

日付 タイトル

2023年4月3日 モータースポーツ公示・JAFからのお知らせ一覧(2023年3月1日~ 3月31日)

2023年4月3日 モータースポーツに関する問い合わせについて

2023年5月2日 モータースポーツ公示・JAFからのお知らせ一覧(2023年4月1日~ 4月30日)

2023年5月8日 モータースポーツに関わる新型コロナウイルス感染症防止対策に係る対応について(2023年5月8日版) 2023年5月15日 自動車技術会フォーラム開催について

2023年5月19日 「FIA ハラスメント防止および差別禁止の方針」について

2023年6月1日 モータースポーツ公示・JAFからのお知らせ一覧(2023年5月1日~ 5月31日)

2023年6月8日 2023年JAFモータースポーツ表彰式について

2023年6月8日 ドライバー・オブ・ザ・イヤー 2023 開催決定!

2023年6月29日 2023 FIA Girls on Track – Rising Stars参加者募集について

※上記公示・お知らせ(WEB)一覧の詳細は、JAFモータースポーツサイト(https://motorsports.jaf.or.jp/)内の「>公示・JAFからのお知らせ」で閲覧することができます。

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特集 ジムカーナ/GYMKHANA

ムカーナ競技の全日本選手権で は、2021年からオートマチッ ク限定免許証で運転できる“2 ペダル”車両の専用クラスが新設された。

この変更により、幅広い経歴を持った選 手たちが欧州のグランドツーリングで参戦 するなど、これまでにない次世代性を感じ させる動きが加速した。しかしその一方 で、パーキングブレーキレバーが装着され ていない車両も多かったことから、各全日 本競技会では、いわゆる“サイドターン” をしなくとも攻略できるレイアウトが検討 され、別途設定されるようになった。

これらの動きを踏まえて、2023年には、 電動パーキングブレーキ装着車を対象とし た「PE1」、自動変速機付きの2輪駆動車を 対象とした「PE2」クラスへと整理され、 特にPE1クラスにはさらなる“次”を感じ させるユニークな車種の参入が始まった。

モビリティリゾートもてぎ南コースでの 今季開幕戦。PE1クラスというより、ジムカ ーナ界にとって大きなトピックスとなった、 電気自動車の参戦が話題をさらった。ハイ ブリッドやレンジエクステンダーといった 車両の参戦はあったが、深川敬暢選手によ

全日本ジムカーナ P E 1 で広がる PHOTO/大野洋介[Yousuke OHNO]、小竹 充[Mitsuru KOTAKE]、鈴木あつし[Atsushi SUZUKI]、長谷川拓司[Takuji HASEGAWA]、JAFスポーツ編集部[JA FSPORTS] REPORT/廣本 泉[Izumi HIROMOTO]、JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS]
感触
新たな
ジ 37

全日本ジムカーナ選手権PE1 角岡隆志選手

ADVANトラップA45[176052]

昨年はパーキングブレーキレバーが装着さ れたルノー・ルーテシアでJG10に参戦した角 岡選手。今季は4WDのA45で挑戦。

長く全日本に参戦する角岡選手は、今年は家族で楽しむこと もテーマとしており、家から履いてきたタイヤで走って帰る 参戦スタイルを貫き、新たなジムカーナライフを提案する。

りテスラ・モデル3が持ち込まれたことで、 ついにバッテリーEVが全日本ジムカーナ に登場することになったのだ。

パーキングレバーを持たない2ペダルモ デルでどこまでジムカーナを楽しめるの か? そして、新たな時代を切り拓く先駆 者たちにとって、ドライビングや走りの組 み立てなどをどう切り替えているのか? 6月に奈良県の名阪スポーツランドで開 催された全日本ジムカーナ選手権第3戦 「まほろば決戦 ALL JAPAN GYMKHANA in 名阪」でPE1クラスに参戦した選手に話 を聞いてみると、新設クラスには大きな期 待が寄せられていることが見えてきた。

新しいクルマで新しい競技生活 全日本ジムカーナに2ペダル車両をいち 早く投入したドライバーの一人が角岡隆志 選手だ。今シーズンはメルセデスAMG A45に乗り換えてPE1に参戦してきた。

全日本には2004年にデビューした角岡 選手はRX-7で旧SA2クラス、ランサー でPN4クラスに参戦。2021年にJG10ク ラスが設立されると、いち早くポルシェ・ ケイマンで参戦を始め、2022年にはルノ ー・ルーテシアに変更した。そして今年は

全日本ジムカーナ選手権PE1 大橋政哉選手 DLμG-LFW A110S[DFM5P4]

一昨年はアバルト124スパイダーでJG7、昨年は ロードスターRFでJG6クラスに参戦した大橋選 手。今年はPE1クラスで“2ペダル”ジムカーナ初 体験となる。

四輪駆動のA45を投入し、この2ペダル クラスで積極的なトライを行っている。 「最近のスポーツカーは2ペダルが多いで すよね。子供たちがジムカーナを始める頃 にはそれが主流になるだろう、と思ったの で、クラスが新設された時にいち早くチャ レンジしてみました。ただ、ハイグリップ ラジアルにはサイズ的な選択肢がなかった ですし、競技用パーツもなかったので、そ の点で苦労しました。昨年はルーテシアに 換えましたが、それはタイヤサイズに選択 肢があり、パーキングレバーがあったから ですね。今年はパーキングレバーのない車 両のクラスができたし、アルピーヌA110S が増えそうだったので、A110Sに勝てるク ルマは何だろうと考えた結果、あえて四輪 駆動のA45にしました。余談ですが、MT 車では前輪駆動と後輪駆動、四輪駆動に乗

今年の大橋政哉選手は大橋政人選手との 親子ダブルエントリーでシリーズ参戦する。

って、2ペダルでも昨年までに後輪駆動と前 輪駆動を経験しました。今年は四駆にした ことで全制覇を果たしました(笑)」。

さらに角岡選手は「サイドターンなしで走 るために、色々なアプローチを試した結果、 “どこで軸を作るのか”を慣熟歩行から意識 するようになりました。LSDもありません から、インリフトさせずにきちっとタイヤ を接地させる走り方を学ぶこともできまし た。突っ込みで頑張りすぎずに、立ち上が りで縦方向を意識した走らせ方になります が、これはMT車の走りでも活かせますよ ね」という収穫もあったという。

「車両重量はあるんですが、ウェットなど の低μ路なら四輪駆動を活かして十分に勝 負できると思います。サイドターンができ ないことに否定的な意見もありますが、サ イドターン以外はMT車と変わらないし、 サイドが使えないと、かえって攻めるのが 難しくなったなと感じています。そういう 意味では、十分にジムカーナを楽しめてい ますね」とハンデを逆手にとっている。

「このクルマはタイヤとホイール、バケッ トシートぐらいしか換えてませんし、今年 はあえて、家から履いてきたタイヤで競技 に出て、そのタイヤで帰ることにしている んです。今選んでいるタイヤだと、それが

38

できるんですよね。今のうちに子供たちに はジムカーナを見せておきたいので、家族 旅行を兼ねて全日本に遠征しています。せ っかくの新クラスなので、そういう関わり 方もいいんじゃないかと思ってます」と語る 角岡選手。これまでの競技人生を見直して、 新しい視点でジムカーナに臨んでいる。

ホントによくできたクルマ 一方で、2022年のJG10クラスでは山野 哲也選手が投入したアルピーヌA110Sが 席巻した。コンパクトなミッドシップマシ ンは、レイアウトによっては他クラスを凌 駕することもあり、昨年後半から、新たな “勝てるジムカーナベース車”として注目を 浴びていた。今季のPE1クラスの主力車種 との想定から、開幕戦では牧野タイソン選 手ら有力選手も乗り換えてきている。

アバルト124スパイダーやロードスタ ーRFを経て今季からアルピーヌA110S に乗り換えた大橋政哉選手もその一人で、 「山野選手の走りを見て2ペダル車両に興 味を持ちました」と変更理由を語る。

「A110Sはホントによくできたクルマで、 買ってきた状態で、そのまま競技に参戦で きると言ってもいいと思ってます。自分は サスペンションとブレーキパッド、シート とタイヤ&ホイールを換えてますが、純正 状態でも十分に戦えると思います。車両重 量が軽くてパワーもあるので、感覚的には

全日本ジムカーナ選手権PE1 深川敬暢選手 GEPARDエナペWMモデル3[3L23P]

モデル3の調整式サスペンションを展開するGEPARD とのコラボで足回りを煮詰める深川選手。強烈な加速を 支えつつアンダーステアを低減するための苦悩が続く。

RX-7に近いですかね。キビキビ走るの で、MT車からも違和感なく乗り換えるこ とができました」との印象を語る。

モデル3は様々なモードを選べるため、特にトラック モードでは、ハンドリングバランスやスタビリティアシ スト、回生ブレーキなどの割合をそれぞれ変更できる。

パーキングブレーキレバーのない車両で のジムカーナについては、「アルピーヌは 回転半径が大きいので、コーナー出口を意 全日本ジムカーナ選手権PE1 大川 裕選手

テスラモデル3

パフォーマンス[3L23PT]

昨年は第7世代のゴルフGTIでJG10クラスに参戦した 大川選手。25年ぶりのジムカーナ復帰は、A110Sとテ スラ・モデル3の使い分けで新世代を満喫する。

モデル3の各種操作は中央のタッチス クリーンに集約され、バッテリーやモー ター、タイヤ、ブレーキなどの状況情報 が把握できるようになっている。

識したアプローチの仕方やライン取りを考 えるようになりました。ターン以外はこれ までのMT車と走りは変わらないし、ター ンがあっても楽しいです。実際、タイム的 にもPN3クラスと遜色がないんですよね。

PE1クラスは車種も豊富で、車種のキャラ クターが濃いところも魅力だと思います」と のことで、大橋選手は新天地での新たなジ ムカーナを満喫している。

話題の2車種で復帰戦に挑む

そして、大橋選手と同様にアルピーヌ A110Sに高いポテンシャルを見出してい たのが大川裕選手だ。1992年に全日本ジ ムカーナ選手権にデビューした大川選手 は、GA2シティやシビックで旧A車両クラ スを戦っていたが、1997年で活動を休止。 このたびジムカーナに復活したのだが、そ のきっかけが、JG10クラスだったという。 「25年間ぐらいジムカーナを休んでまし たが、2ペダルのクルマで出られるクラス の設立が復帰を後押ししてくれました。こ れならできそうでしたし、乗ってみたら面 白かったんです。久しぶりの競技での緊張 感も良かったですからね」とのことで、大 川選手は第7世代のゴルフGTIを選び全日 本選手権へ復帰した。 「ゴルフGTIで3戦だけ出場しましたが、 制御があまりナチュラルには感じられず、 山野哲也選手の走りを見ていると、やはり A110Sの方がピュアスポーツで戦闘力が 高そうだったので乗り換えました」と語る 大川選手。今季はアルピーヌA110Sで開 幕戦もてぎ南、第2戦スポーツランドTA

新たな感触 特集 39

MADA大会に参戦している。車両につい ては、「スクールでFIA-F4の車両に乗っ たことがあるんですが、A110Sはそれに近 い感覚がありました。実際、少し前のF4 マシンとアルピーヌのパワーウェイトレシ オは似ていて、パドルシフトの感覚にも違 和感がなかったですね。ブレーキは A110Sの方がいいぐらいでした(笑)。パ ワーは加速にしか使えませんが、軽さは 色々な所で武器になります。A110Sの軽さ は加減速と旋回の両方で活きていますね」 と印象を語る。

そして「以前からテスラ・モデル3の“パ フォーマンス”が圧倒的な速さを持ってい ることも知っていたので、関東の地方選手 権にモデル3で出ることにしたんです。今 回の名阪では、A110Sにトラブルが出たの で、テスラで参戦することになりました」 ということで、深川選手に続いて、全日本 戦にモデル3を持ち込むことになった。

テスラ・モデル3について「車両重量は あるけど加速がすごい。内燃機関の場合 は、どんなに速いクルマでもアクセルを開 けてから過給がかかるまでラグがあります よね。EVはそれがリニアなのでジムカー ナでは武器になります。トルク配分も前輪 や後輪に100%で配分できるところも魅 力で、スタビリティコントロールも制御で きるので、A110Sとはまた違った楽しみ方 ができるんですよね」とは大川選手。

もちろん、2ペダル車両でのドライビン グには戸惑いもあったそうで「走りを組み 立てる際に、サイドターンをするイメージ がどうしても離れなかったんですけど、サ イドターンができないなら、それはそれで

どうすればいいのかを考えられるようにな りました」と語る。さらに「活動を休止して いた間にタイヤが進化したこともあって、 ジムカーナの走らせ方のセオリーが変わっ てきたように感じました。昔はコーナーの 出口が見えなくてもアクセルを踏んでいく ような走らせ方でしたが、現在では出口が 見えてから直線的に走った方が速い。それ はA110Sもテスラも同様で、2ペダルのク ルマに乗り始めたことで、いかに速度を殺 さずに走らせるかをテーマとしています」 と新たなスタイルを確立したようだ。 「最近はスポーツカーも2ペダルが多いで すし、最近はオートマ限定免許しか持って ない人も多いですよね。2ペダルでも競技 ができるし十分に楽しいし、勉強にもなっ ています」と大川選手は進化を重ねている。

EVで描く将来のジムカーナ

2023年全日本名阪大会に “VALINO”タイヤがデビュー

第3戦名阪には、ドリフト業界では多くのユーザーを持つ 「VALINO」タイヤを引っ提げて厚海貴裕選手が参戦した。ク ルマはPN車両状態のGR86なのだが、未登録タイヤという ことで、BC2クラスにテスト参戦となった。

そして、全日本ジムカーナ にバッテリーEVを持ち込ん だパイオニアが、開幕戦にテ スラ・モデル3で参戦した深 川敬暢選手である。昨年まで ロードスターでJG8クラス

ジムカーナの鉄人・山野哲也選手が投入したアルピーヌ A110Sは諸戦から好成績を挙げ、またたく間に“勝てるジ ムカーナベース車”として認知され、かつ、2ペダルマシン でのジムカーナが広まるきっかけを作った。

に参戦していたが、モデル3のデビュー戦 ではいきなりPE1クラスで入賞。しかも、 トップと同秒台の2位というリザルトを叩 き出し、まさに黒船来襲を思わせた。

「欧州では、もはやEVは無視できない存 在なので、今のうちからモータースポーツ におけるEVの“景色”を見ておきたかっ たんです。EVの特性はジムカーナのゼロ スタートに有効だと思いましたし、ジムカ ーナも競技会なら走行本数も少ないので航 続距離は問題ないですね。テスラの選定に あたっては、EVレースの情報も参考にし ました」と、投入した経緯を話してくれた。 「このクルマは“パフォーマンス”というモ デルで、四輪駆動なんですがトラクション 制御の変更で前輪駆動や後輪駆動傾向にで きます。基本は50対50にしていますが、 名阪スポーツランドはテクニカルなコース なので前輪駆動を強くしました。リアを流 し気味にして向きを変えた方が速そうなレ イアウトなら後輪駆動を強くしています」。

「ボディ剛性も高くて低重心ですし、フロ

大学自動車部が頂点を目指す 新たなジムカーナ大会が誕生

大学生がジムカーナで覇を競 う「Formula Gymkhana」が6 月25日にエビスサーキット 西コースで開幕した。翌週に は西日本予選が行われ、9月 下旬には東西予選の進出校 による決勝大会が奥伊吹ス キー場で行われる。

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ントに何も載ってないので、スラロームな どはクイックに頭が入ってくれます。で も、重いクルマなので、なにせロードスタ ー2台分ですから(笑)。一定の領域を超え ると曲がらないというか、行き過ぎてしま いがちなんですよね。そこは足回りのセッ トアップと自分の運転で対策中です。それ でも、実は、鈴鹿サーキット国際南コース では、以前乗っていたランサーのタイムを 暫定仕様で抜いてしまいましたし、皆さん はエラーを心配されてますが、それがなく て、ある程度の仕様を決められれば、誰が 乗っても速く走れるんじゃないかと感じて います。トラックモードも優秀で、僕がカ ウンターを当てるよりも先にカウンターを 止めてくれたりするんです(笑)。日本車に あるような失速感がないですし、そのまま 踏めば前に出てくれます。すごく賢い制御

だなと感じてます」と付け加える。

やはり深川選手もライン取りを意識して いるようで「このクルマに乗り換えてから 学んだことも多くて、スムーズにコーナー を立ち上がって、トラクションをかけてや る走りを意識しています。実は、トラクシ ョンがかかった状態でアクセルを開けない とクルマが制御を入れてしまうんです。で も、これはMT車でも同じで、雑なアクセ

ルワークだとクルマが暴れますからね。EV に乗り換えてから、かなり丁寧なドライビ ングを心がけるようになりました」と運転 に関する新たな気付きもあったようだ。 「競技走行するとバッテリーは4〜5%減 る感じで、フル充電してくれば、全日本ジ ムカーナの金土日の10本ぐらいは、往復 も含めて可能だと思います。今後は台数が 増えて、競技会場に移動給電車が来てくれ

2022年に行われた全日本ジ ムカーナ第4戦名阪大会の JG10クラスには、上位争いを 展開した河本晃一選手のZD8 BRZや安木美徳選手の ZC33Sスイフトスポーツのほ か、VWポロやプリウスPHV、 レクサスISなどもエントリー して、新たな「オートマ・ジム カーナ時代」を予感させた。

自動変速機付きの2輪駆動を対象とした PE2クラスも、第4戦・第5戦オートスポ ーツランドスナガワ大会で初めて成立して いる。新世代を見据えた新たなクラスの可 能性が、着実に広がりつつあるようだ。

全日本ジムカーナ北海道では“2戦連続”開催! それぞれ111台が参戦し、PE2クラスが初成立

金曜の公開練習、土曜の 第4戦、日曜の第5戦と3 種類のコース図が発行さ れたスナガワ大会。炎天 下となった当日、3日間と も異なるコースでシビア なジャッジを担当した コースマーシャルの皆さ んに敬意を評したい。

今シーズンの全日本ジムカーナ選手権では、クラス再編というトピッ クスの他に、第4戦と第5戦が北海道のオートスポーツランドスナガワ で連続開催されるという初の試みにも注目が集まっていた。6月23 ~ 25日の3日間開催となった本大会は、土曜に第4戦、日曜に第5戦が行 われ、金曜に両戦の公開練習が行われるという日程。受理については両 戦ともに参加する参加者が優先され、100台の枠を超える111台が参加 することになった。今大会で初成立したPE2クラスには河本晃一選手 の他、地元の帷子浩義選手と水野洋選手がAE111スプリンター、伊藤 大将選手と高野一徳選手がZD8 BRZで参戦。結果は2戦とも河本選 手が優勝し、AT車のZD8 BRZに全日本初勝利をもたらした。 るようになるといいですよね。ジムカーナ でも環境を考えることは大切ですし、ジム カーナ車両って日本にかなりの台数がある と思うんです。そこが変わると環境への負 荷もかなり軽減できるんじゃないかと考え ています。余談ですが、乗り換えを検討す る際に、家族から『テスラならいいんじゃ ない』と言われまして(笑)。普段乗りをし ていてもウケがいいんですよ。世間には 『テスラ好き』という層もかなりいらっしゃ るので、そういった方々がジムカーナに興 味を持ってもらえるとうれしいな、とも思 っています」。

昨年はJG10クラスを戦った河本選手だ が、今年はPE2不成立が続きPN3クラス に参戦。第3戦名阪ではMT車がひしめく 中で10位に入り殊勲のポイントを獲得 した。

第5戦スナガワPE2の表彰台。優勝は第4 戦から連勝した河本晃一選手。2位はBRZ の伊藤大将選手、3位はBRZで伊藤選手と ダブルエントリーした高野一徳選手。

新たな感触 特集
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カート戦線、 新時代の 幕開け

さまざまなシリーズが選べるようになり 選手権もクラス再編で魅力が増した レーシングカートの“イマ”を深掘り!

2023年のレーシングカート界は大きく変わり、新たなフェーズに入った。

中でもカートレースの花形・最高峰のOKカテゴリーは、

1つの選手権と2つのシリーズが開催され、より細分化されたと言える。 ここではそれぞれの特色をレビューしていこう。

PHOTO/長谷川拓司[Takuji HASEGAWA]、JAPANKART、 JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS]  REPORT/水谷一夫[Kazuo MIZUTANI]、 JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS] GPR

CHAMP KARTING SERIES

カテゴリーは国際カートレース にも採用されている、スプリン トカート(変速機を持たないカ ート)最高峰だ。無改造ワンメイクエンジ ンの規定がごく一般的なカートレースにあ って、OKカテゴリーでは公認を取得したも のの中からエンジンを選ぶことができ、さ らにエンジンチューニングも可能。その高 度なエンジンパフォーマンスとハイグリッ

プタイヤの優れたグリップ力が生み出す運 動性能は驚異的で、異次元のコーナリング Gに体が悲鳴を上げて、泣き言交じりの称 賛の声を漏らすドライバーもいる。

そんなOKカテゴリーが今季、日本では 3つも行われることになった。とは言え、3 つのOKカテゴリーがどれも同じものとい うわけではない。それぞれの違いや特色 を、レースに参加したドライバーの声とと もに解説していこう。

ダンロップタイヤのワンメイク化 スーパーヒート導入の全日本OK部門 国内でOKカテゴリーを最初に採り入れ たレースが、2017年スタートの全日本カ ート選手権 OK部門だ。これは日本のモ ータースポーツ統轄団体であるJAFが認 定するカートレースの選手権の中で、もっ とも上位に位置するもの。日本一のドライ バーを公式に名乗れるのは、この選手権で チャンピオンを獲得した者だけに許される

特集 カート/KART
KARTING SERIES
OK 42

全日本カート選手権

ものだ。

そんな全日本OK部門が今季、大きく姿 を変えた。その要因のひとつがタイヤだ。 全日本OK部門では、2022年までタイヤ はマルチメイクで、そのタイプにも制限が なかった。そこに3社のタイヤメーカーが 参入し、ひとつの大会だけ に的を絞って開発された、 非市販のスペシャルタイヤ を投入、激しいタイヤ開発 競争を繰り広げていた。

ところが、参入メーカー 3社の中から、ブリヂストン とヨコハマタイヤが2022 年末をもってカートタイヤ 事業から撤退することに。 そこで2023年の全日本OK 部門は、ダンロップ(住友ゴ ム工業)製市販ハイグリップタイヤのワン メイクになったのだ。

ら、今季は4大会/全8戦に変わった。

てシリーズポイントはSH予選ポイントと 決勝各々の成績に対して付与される。

最低重量(車両とドライバーを合わせた 重量)が145kgから150kgに引き上げら れたことや、他部門への重複出場が認めら れたことも、全日本OK部門の2023シリ ーズの改変ポイントだ。

プロモーターが新シリーズを開始 GPRならではのスカラシップも用意 一方、OKカテゴリーの中でもっとも新 しいシリーズ戦が、今季スタートしたばか りのGPR KARTING SERIES OKだ。こ のGPRは、ドライバーの年代別に設けら れたカデット/ジュニア/OKの3クラス と、ホビーレースのハイエンドに位置する シフターの計4クラスから成り、1大会2 レース制で5つのサーキットを転戦する5 大会/全10戦のシリーズ戦。OKは、言わ ばその中の頂点に位置するクラスだ。

GPRの最大の特徴は、その名も「GPR」 なる組織がプロモーターとして シリーズ全戦を運営すること。 その代表を務めるのは、10代の ころにドライバーとして全日本 カート選手権や国際カートレー スで活躍し、その後に自らのチ ームを設立、長年にわたって全 日本のトップカテゴリーに参戦 した松浦佑亮氏だ。

OKカテゴリーはカートレースの最高峰。そこの表彰台に登壇してチャンピオンを 獲ることは、頂点を目指すドライバーたちの大きな夢であり、目標でもある。

全日本OK部門の変更点はそれに留まら ない。1大会2レース制で全国各地のサー キットを転戦するスタイルに変わりはない ものの、2022年までの5大会/全10戦か

また各大会のレースフォーマットにも大 きな改変が加えられた。今季の各大会では、 予選の後にスーパーヒート(SH)と呼ばれる セッションが設けられ、予選のポイントと SHのポイントを合計したSH予選ポイント でスターティンググリッドが決まることに なった。1大会で2ヒート分走行が増え、ド ライバーの身体面やタイヤ磨耗の面ではよ り厳しいレースになったと言えそうだ。

SHの新設に伴い、出場台数がコースの 最大出走台数を上回った場合に行われてい たセカンドチャンスヒートは廃止に。そし

GPRの独自性は、まず大会の フォーマットに表れている。レー スウィークは金曜日から日曜日ま での3日間をGPR統一スケジュールとし、 参加者には走行日がこの3日間で完結する ことを提案。なお、この3日間に渡ってラ イブタイミング配信が実施される。また別 途、各大会では事前に開催コースを占有し ての合同テスト日を設け、その計測タイム

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全日本カート選手権 OK部門

も公表するといった、GRPならではのフッ トワークの軽さで参加者の利便性向上と参 戦費用の削減を図っている。

そしてシリーズ全戦で共通のレースディ レクターとテクニカルディレクターを擁立 してオーガナイザー側の判断基準を統一 化。さらに、違反行為とそれに対するペナ ルティ例を列挙した「GPRペナルティカタ ログ」を明示して、参加者から審査員の判 断基準への不信が起きづらいような策が採 られている。

もうひとつの特色は、充実したシリーズ 賞典。例えばGPR OKでチャンピオンに なると、翌年のフォーミュラカーステップ アップスカラシップ、またはカート活動ス カラシップ等の活動費が支援される。これ は予算難に苦しむドライバーの救いとなる 支援となるだろう。

各大会のレースフォーマットでは、予選

(タイムトライアル)の上位 8名による「スーパーポー ル」が独特で、この順位に よってRace1(決勝第1レ ース)のスターティンググ リッドが決まる。そしてドライバーだけで なくチームにもシリーズ賞典が設けられて いるのも、GPRのユニークな点だ。

大会名称 JAF全日本カート選手権 OK部門 競技の格式 国内格式 参加資格 国際E、国内A(要実績) ※1 年齢 15歳(誕生日を迎える当該年)以上 シャシー CIK-FIA公認またはJAF公認を取得している製造者 によって製造されたもの 2台 エンジン 「JAF国内カート競技車両規則」および当該年の全日 本選手権OK部門適用車両規定に合致したCIK-FIA またはJAF公認エンジン 2基 タイヤ 住友ゴム工業株式会社 <ドライ>DGM CIK(PRIME)/ <ウェット>KT14 W14 CIK 1セット/1戦 競技の方式 公式練習→タイムトライアル→ 予選ヒート1→スーパーヒート1→決勝ヒート1 予選ヒート2→スーパーヒート2→決勝ヒート2 レース数 1大会2レース制(年間4大会・8戦) 最低重量 150kg

5月27〜28日に三重県鈴鹿市・鈴鹿サ ーキット南コースで開催されたGPR KAR TING SERIES第1回大会には、スーパー フォーミュラを運営する日本レースプロモ ーション(JRP)の上野禎久代表取締役も 来場。カートでのレースプロモーションに 乗り出したGPRに対して、「カートレー

スの盛り上がりはレース業 界全体の活性化にとって大 事なこと。ノウハウやリソ ースを共有したり人的な交

流を進めたりして、私たちもぜひGPRを サポートしたい」とエールを送っていた。

大会毎にタイヤメーカーが変わる OK CHAMPはシリーズ3年目に突入 GPRに先立つこと2年前、2021年にス タートしたのがOK CHAMPだ。これは カートレース運営組織のKRPがプロデュ ースするシリーズ戦で、今季はホビードラ イバー対象のKT CHAMPと共に「CHA

大会名称 AUTOBACKS GPR KARTING SERIES OK 競技の格式 国内格式 参加資格 国際E、国際F、国内A 年齢 当該年度14歳以上 シャシー CIK-FIA公認(Group2)のものとする。なお「JAF国 内カート競技車両規則」第5条に従い、公認の有効期 限が満了した後、2年間の使用を認める 1台

エンジン 「2023 全日本カート選手権 OK 部門適用車両規 定」に合致した CIK-FIA 公認エンジンとする。なお 「JAF 国内カート競技車両規則」第 29 条 2)に従 い、公認の有効期限が満了した後、2 年間の使用を 認める 2基 タイヤ 住友ゴム工業株式会社 <ドライ>DGM/<ウェット>KT14 W14 各1セット/2戦 競技の方式 公式練習→予選(タイムトライアル)→ Super Pole→Race1→Race2 ※1 レース数 1大会2レース制(年間5大会・10戦) 最低重量 150kg

※1 ①当該年の前年の全日本選手権のOK部門に出場。②過去の全日 本選手権SuperKF部門、KF1部門あるいはKF部門で、年間総合順位が 10位以内。③当該年の前年の全日本選手権FS-125部門で、年間総合順 位が10位以内、または前年の全日本選手権FP-3部門で、年間総合順位 が3位以内。④JAFによってとくに認められた者(海外での実績等) ※1 Race2のスターティンググリッドはRace1のベストラップタイ ム順

GPR KARTING SERIES OK
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CHAMP KARTING SERIES OK CHAMP

大会名称 EXGEL OK CHAMP SERIES

競技の格式 国内格式

参加資格 国内A、国際F(TRMC-S/SMSCが必要) ※1

年齢 当該年度14歳以上

シャシー 自由

1台

エンジン 2022年までの公認エンジンも使用可能。全日本 カート選手権OK部門適用車両規定に合致した CIK-FIA⼜はJAF公認エンジン

2基

タイヤ 第1大会:<ドライ>AEM/<ウェット>ADW 第2大会:<ドライ>YLR/<ウェット>YLP 第3大会:<ドライ>DGM/<ウェット>W14 1セット/2戦 競技の方式 公式練習→タイムトライアル→ 決勝ヒート1→決勝ヒート2 ※2 レース数 1大会2レース制(年間3大会・6戦) 最低重量 148kg

※1 日本国外で同等のライセンスを保持している場合、JAFが特 例で全日本カート選手権への出場を認めている場合など、大会総合 事務局が適格と認めるドライバーについては、特別にエントリーを 認めることとする。※2 決勝ヒート2のグリッドは決勝ヒート1の ベストタイム順。

MP KARTING SERIES」を形成するレー スのひとつとなった。

トップカテゴリーのレースながら、パド ックの雰囲気は比較的和やか。参加年齢を 全日本OK部門より低く設定し、参加ドラ イバーの年齢は上下ともに幅広い。OKカ テゴリー未経験のドライバーにとっても挑 戦しやすい環境ができている。賞品をたっ ぷり用意してにぎやかな表彰式を行うなど の工夫や、ロニー・クインタレッリ選手や 安田裕信選手らのプロドライバーがスポッ ト参戦していることも、OK CHAMPの注 目ポイントと言えるだろう。

シリーズのフォーマットは1大会2レー

ス制で、3大会/全6戦。タイ ヤはKRP指定のものをワン メイクで使用するが、大会ご

とにそのタイヤメーカーが替わるのもユニ ークな点だ。シリーズチャンピオンにはヨ ーロッパで行われる国際カートレース参戦 への招待が用意されていることも、参加者 たちの大きなモチベーションになっている。

今季、全日本カート選手権、 GPR、OK CHAMPの3つの OKカテゴリーすべてに出場し た落合蓮音選手は、それぞれの 特色をこう評している。

「全日本カート選手権は本格的 な真剣勝負って感じで、雰囲気 もピリッとしている。GPRは合 同テストに参加した印象で言え

「参加者たちが満足して帰れるレースを」 自身の経験もふまえて新シリーズ立ち上げへ 「レースで何かのビジョンを達 成するためは、プロモーターの ような組織が必要だというこ とは、かなり前から感じていま した。最終的な目標は、レース で勝った人も負けた人も、ひと りでも多くの人が一定の満足 感を得て笑顔でサーキットを 後にしてもらうこと。どうして も外せなかったのは表彰式で、とくにトロフィーなんです。自分がヨー ロッパのレースでトロフィーをもらったときは、それを胸に抱えたまま飛 行機に乗るくらいうれしかったので、選手がもらってうれしくなるような、 『あれを絶対に獲りたい』と思ってもらえるようなトロフィーを準備した かったんですよ。お金で買えないような何かを提供するべきじゃないか なというのは、自分の考えのひとつです」。

ば、みんなで楽しみながらバトルも真剣に 楽しもうって感じですね。OK CHAMPは もうちょっと柔らかい雰囲気で、レースを 楽しみながらOKカテゴリーの経験を積め るレースだと思います」。

OKのレースは今や、ドライバー個々の スキル、年齢、志向などによって、参加す るシリーズを選べる時代になったのだ。

次代のOKドライバーの入口をつくりたい 経験者のセカンドチャンスにもさせたい

「翌年の全日本の最高峰を狙う選手のための レースをつくりたかったんです。開催コースが 1か所ならトライしやすいだろうし、チャンピオ ンをヨーロッパのOKに参戦させるにあたって も、早いうちからエンジンに慣れておかないと キャブレターの調整もできないでしょうから。 ホビー層の選手にも積極的に参加してもらっ たりして、そういう子が目立てるレースにした かったんです。それと、全日本を卒業した後で、 その先に進むチャンスを失ったドライバーって 結構いるじゃないですか。例えばチャンピオン を獲ってスーパーFJに行ったものの資金難と か。そういう芽が出なかった選手にも、もう一 回チャンスを与えられるレースにもしたいんで す」。

GPR代表 松浦佑亮氏
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KRP代表 河本卓也氏

全日本カート選手権 FS-125CIK部門

FS-125部門は東西2地域制を廃止 CIKとJAFの2つの選手権に細分化

2022年まで全日本カート選手権FS125部門として行われていた大会も、今季 は大きな変貌を遂げている。まず、2022年 まで東西2地域で行われていた形式を、全 国1シリーズのスタイルに刷新。その上で、 FS-125CIK部門とFS-125JAF部門という ふたつの選手権を設け、それぞれ1大会2 レース制のシリーズ戦を行うことになった。

FS-125CIK部門は、OK部門との同時開 催で4大会/全8戦のシリーズ戦を実施。 2022年までのFS-125部門は1大会1レ ース制だったので、大会数は減ったがレー ス数は増えた形だ。各レースではOK部門 と同様にスーパーヒートも行われる。使用 できるタイヤは1レース1セット。つまり、 1大会で2セットを投入することになる。

ひとつの大会で各ドライ バーが走るセッション数

大会名称 JAF全日本カート選手権 FS-125CIK部門

競技の格式 国内格式 参加資格 国内A以上、国際F 年齢 当該年度14歳以上 シャシー CIK-FIA公認またはJAF公認を取得している製造者 によって製造されたもの

2台

エンジン 「JAF国内カート競技車両規則」および当該年の全日 本選手権FS-125部門適用車両規定に合致したJAF 登録エンジンで、JAFが指定したIAME PARILLA X30エンジン

2基

タイヤ 住友ゴム工業株式会社 <ドライ>SL6/<ウェット>SLW2 1セット/1戦 競技の方式 公式練習→タイムトライアル→

予選ヒート1→スーパーヒート1→決勝ヒート1 予選ヒート2→スーパーヒート2→決勝ヒート2 レース数 1大会2レース制(年間4大会・8戦)

最低重量 155kg

は、ワンデイ開催の場合、2022年までが 公式練習を含めて4セッションだったのに 対して、今季は8セッションへと倍増。ド ライバーたちはタイトなスケジュールの 中、体力的にもハードな戦いをこなしてい くことになる。

長年にわたりFS-125部門の最年長ドラ

イバーとして参加を続けてきた橘田明弘選 手は、67歳になった2023年、このシリー ズに参戦する。

FS-125JAF部門のエンジンの排気側に装着される22.7mm径のエキゾーストマニホールド(右の写真は通常版 マニホールドとの比較)。これを装着することで、最大出力は8HPほど抑えられるという。

全日本カート選手権 FP-3部門

「上を目指す人たちが多くいるだろうと思 って、FS-125CIK部門を選びました。僕は そういう人たちのレースを内側から見たい もので。それと僕は山形県に住んでいるの 全国1シリーズ化+1大会2レース制に 刷新された全日本のファーストステップ

全日本カート選手権のFP-3部門は、他の部門が水冷125ccエ ンジンを採用しているのに対して、ローカルレースの定番とも言 える空冷100ccエンジン(ヤマハKT100SEC)を使用する、いわ ば全日本の入門編だ。このシリーズ戦にも今季、大きな改変が加 えられた。

最大の変更点はシリーズ戦の形式。昨年のFS-125部門と同様 に、東西2地域制から全国1シリーズ制の選手権へと生まれ変わ り、1大会2レース制も採り入れられた。今季のチャンピオン争 いは5大会/全10戦での戦いだ。

この変更について、ドライバーの間からは歓迎の声が聞かれた 一方で、「遠くのコースの大会には参加できない」と東西2地域の 廃止を嘆く人もいた。

シリーズ成績もFS-125JAF部門と同じく、有効50%でポイン トを集計して最終ランキングが決定される。これならフル参戦し なくてもチャンピオンを獲れる可能性がありそうで、スポット参 戦組には励みになることだろう。

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全日本カート選手権 FS-125JAF部門

大会名称 JAF全日本カート選手権 FS-125JAF部門

競技の格式 国内格式

参加資格 国内A以上、国際F

年齢 当該年度14歳以上

シャシー CIK-FIA公認またはJAF公認を取得している製造 者によって製造されたもの 1台

エンジン 「JAF国内カート競技車両規則」および当該年の 全日本選手権FS-125部門適用車両規定に合致 したJAF登録エンジンで、JAFが指定したIAME PARILLA X30エンジン ※1 1基

タイヤ 住友ゴム工業株式会社 <ドライ>SL6/<ウェット>SLW2 1セット/2戦

競技の方式 公式練習→タイムトライアル→ 予選ヒート1→決勝ヒート1 予選ヒート2→決勝ヒート2

レース数 1大会2レース制(年間5大会・10戦)

最低重量 155kg

※1 IAME X30 Junior Manifold-22.7mm Restrictor (部品番号X30125370J)取り付け

で、西日本の大会が多いFS-125JAF部門 には参加できませんでした。実際のところ 1日2レースなんてやったことがないです から、楽しそうですよね」と橘田選手。

一方のFS-125JAF部門は、FP-3部門お よびジュニアカート選手権との同時開催 で、5大会/全10戦のシリーズ戦が実施さ れる。シリーズ成績は、FS-125CIK部門が 2022年までと同じく有効75%で全獲得ポ イントを集計するのに対して、こちらは有 効50%の集計でランキングが決定される。

レースフォーマットもFS-125CIK部門と は差別化されていて、こちらにはスーパー ヒートがない。使用できるタイヤが1大会 で1セットというところも、FS-125CIK部 門との相違点になっている。それに加えて、

エンジンにもFS-125CIK部 門との違いがある。どちらの 選手権でもエンジンはIAME

PARILLA X30の無改造ワンメイクなのだ が、FS-125JAF部門のエンジンは、径の小 さい排気マニホールドによってパワーを抑 制されているのだ。

両方の部門を経験したドライバーに各々の 印象を聞くと、伊藤聖七選手は「FS-125CIK 部門には速い人とか上手い人が集まってい る印象。FS-125JAF部門も速い人はいるん ですが、どちらかといえば全日本に上がって きた人や地元からのスポット参戦が多いイメ ージがあります」と分析してくれた。

エンジンの違いについて、春日龍之介選 手は「初めてFS-125JAF部門のエンジン で走ったときは『なんだかストレートが遅 くない?』って思いました」と口にする。ま た、塩田惣一朗選手は「FS-125JAF部門

のエンジンだと、パワーがない分、ミスを したときにロスが大きくて取り返しがつか なくなっちゃうんで、滑らかに運転するよ うに心がけています」と走らせ方の違いを 語ってくれた。

両方のシリーズに参加しているドライバ ーもいて、一方のシリーズを今季のレース 活動のメインとして捉えている人もいる。 しかし、そんな中で13歳の塩田選手は、 「限定Aライセンスを取ることを目指して いるので、FS-125CIK部門もFS-125JAF 部門も、事情が許す限りなるべく多くのレ ースに出たい。どちらがメインということ はありません」と口にしていた。

多くのレース経験を積みたいドライバー にとって、ふたつのFS-125部門に出場で きることは(もちろん予算が許せばの話だ が)朗報になっている模様だ。

“マイエンジン”規定と2レース制を採用 コースシリーズも各地でスタート

ジュニアカート選手権は今季、歴史的な転換点を迎えた。これ までのエンジンデリバリー制を廃止し、自己所有のエンジンを使 うレースへと回帰したのだ。さらに各部門の名称も、2022年ま でのFP-Jr部門がジュニア部門へ、FP-Jr Cadets部門がジュニア カデット部門へと改められた。

エンジンは、一定のパワーウェイトレシオ数値を有するものの 中から、オーガナイザーがワンメイク指定するエンジンを選べる ことに。全日本FS-125JAF部門/FP-3部門と併催されるジュニ ア部門/ジュニアカデット部門では、2022年と同じヤマハKT10 0SECがワンメイク指定された。また、このシリーズ戦では、ジュ ニア選手権史上初の1大会2レース制が採用されている。

加えて今季は、ひとつまたは複数のコースでひとつのシリーズ

を構成する“コースシリーズ”も実現。全国各地で5つのコースシ リーズがスケジューリングされ、各々で独自のエンジンがワンメ イク指定されている。

ジュニアカート選手権 ジュニア部門  ジュニアカデット部門 47

車両をシェアする耐久レースはどう走る?

24時間を戦い抜くドライバーたちの極意

異なるスキルを持つ者が車両をシェアして戦い抜く耐久レース。セットアップは どう合わせる? そして、自分に最適化されていないマシンをどう操る?  富士の24時間を戦う猛者たちに、耐久レースを乗り切るためのアプローチを聞いた。

PHOTO/今村壮希[Souki IMAMURA]、遠藤樹弥[Tatsuya ENDOU]、吉見幸夫[Yukio YOSHIMI]  REPORT/廣本泉[Izumi HIROMOTO]、JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS]

特集 耐久レース/ENDURANCE RACE
走り 48

数のドライバーが1台のマシン を乗り継ぎながら、チェッカー を目指す耐久レース。予選はと もかく長き決勝では、エースドライバーに よる速さだけを追求した走行ではなく、登 録ドライバーたちによる、それぞれのステ ィントの安定性がリザルトを左右する。

自分に100%最適化されたわけではな いマシンで基準のラップタイムを刻み、あ わよくば勝利に繋がるドライビングが求め られる。プロドライバーたちは、そんな耐 久レースのドライビングについて、どのよ うに対応しているのだろうか? ここでは、5月26〜28日に富士スピー ドウェイで開催されたENEOSスーパー 耐久シリーズ2023 第2戦「NAPAC 富士 SUPER TEC 24時間レース」に参戦したド

ライバーたちに話を伺い、彼らが限られた 時間にどのような対応で耐久レースを戦っ ているのか、そのアプローチを探った。

慣れないクルマへの接し方

「昨年からロードスターで富士24時間レ ースに参戦していますが、今年は昨年とは 別のチームです、タイヤもハンコックのス リックタイヤからブリヂストンのハイグリ ップラジアルになったので、環境がまった く変わりました。当然、このクルマに合わ せたドライビングが必要ですが、実は、僕 はあまり特別なことをしていません」と語る のが、88号車「村上モータースMAZDAロ ードスター」のEドライバーとしてST-5ク ラスに参戦した岡本大地選手だ。

「慣れないクルマでレースをする場合、僕

の場合は、まずレコードラインをトレース して、チームメイトのオンボード映像やデ ータロガーがあれば、その走りをコピーす るところから始めます。特にオンボードで はブレーキングポイントをチェックして、 それを参考に、少しずつ実際の走行でアジ ャストしていく。それでタイムが出ないよ うなら、データロガーを分析して、ブレー キの抜き方やステアリングの舵を入れるタ イミングなど、細かい部分にフォーカスし ていきます」と岡本選手は最初のアプロー チを解説してくれた。

「スーパーFJやシミュレーターを通して、 そういった考え方が身に付きましたが、心 がけているのは、クルマの“ミソ”を早め に見つけることですね。そして、一番やっ ちゃいけないのは、クルマの限界を超える

複 49

ことです。いきなり100%を引き出そう とするのではなく、80%ぐらいから少しず つ詰めていくことがポイントだと思いま す」と、慎重なアプローチを心がけている という。

同様に、13号車「ENDLESS GR YAR IS」のCドライバーとしてST-2クラスに 参戦した伊東黎明選手もブレーキから詰め ていくようで、「初めてドライビングする クルマは、まずブレーキングポイントを見 極めるところから始めます」と語る。

その次のステップとしては「コーナリン グの際には、ターンインからクリップに付 くまで、どれくらいクルマの向きを変える のか、どこまで荷重を乗せるのか、といっ た点を頭の中で理解しながらドライビング しています」と語っており、「タイヤからの インフォメーションを感じつつ、チームメ イトのインプレッションを参考にしなが ら、少しずつ攻めていきます」と、こちら もかなり慎重なアプローチだ。

気にするべきはタイヤ

また、3号車「ENDLESS GR86」のD ドライバーとしてST-4クラスに参戦し た元嶋佑弥選手も同様の考え方を持っ ており、「基本は行き過ぎないことです ね。例えばブレーキングにしても、い きなり100点を狙って行き過ぎちゃっ たら、リカバリーできないじゃないで すか。逆に余る分にはブレーキを早く リリースすればリカバリーできるし、その 方がボトムスピードを上げられたりもしま す。そもそも、100点を狙おうとしてもコ ースの風向きや気温などの不確定要素があ るから、100点を出せるわけじゃありませ ん。なので自分は、点数で表現するなら 95点を狙っています」と語る。

車両のセットアップについても「予選で 完璧なセッティングができたとしても、決 勝で状況が変われば、セッティングは変わ ってきますからね。耐久レースは特にロン

今年の24時間レースはこれまでと大きな変更があり、韓 国のハンコックタイヤ工場火災の影響により、2024年か ら公式サプライヤーとなるブリヂストンが前倒しでタイ ヤ供給を担当した。

クルマの“ミソ”を見つけて 少しずつ限界を見極める!

「慣れないクルマで走る場合、まずレコードラインをトレース して、チームメイトのオンボード映像やデータロガーがあれ ば、その走りをコピーすることから始めます」

グランが重要なので、セッティングを突き 詰めるよりも、ある程度妥協して、タイヤ の空気圧はどれくらいがいいのか、といっ た要素の方を意識していますね」とのこと で、耐久レースのドライビングではタイヤ の状態にフォーカスを当てているようだ。 「クルマの動きを支配するのはタイヤなの で、タイヤがどう動いているのか、アンダ ーステアだったらタイヤに何が起きている のか、といったことを考えながら走ってい ます。同時にクルマの特性も意識します ね。駆動方式によってもそれぞれ特性が違 ST-5 岡本大地選手

村上モータースMAZDAロードスター [ND5RC] ST-4 元嶋佑弥選手 ENDLESS GR86[ZN8]

ENDLESS GR YARIS [GXPA16]

「初めて運転する場合は、ブレーキングポイントを見極めて、 タイヤからのインフォメーションとチームメイトのインプ レッションを参考に、少しずつ攻めていきます」 チームメイトの印象を参考に 頭の中で理解しながら走行

刻々と変わるコンディション 基本は“行き過ぎない”こと

「耐久レースは特にロングランが重要なので、セッティング を突き詰めるより、ある程度は妥協して、タイヤの空気圧は どれくらいかといった要素を意識していますね」

ST-2
伊東黎明選手
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っていて、コーナリングでフロントが入る タイミングが変わったりするので、アクセ ルを踏み始めるタイミングを変えたりして 調整しています」と元嶋選手は付け加える。

“ポジ”の部分を活かす走り

クルマの特性については、少し違ったア プローチで見極めている選手もいる。41号 車「エアバスターWINMAX GR86 EXE DY」のBドライバーとしてST-4クラスに 参戦した冨林勇佑選手は、自身のeモータ ースポーツでのキャリアがドライビングの アジャストに役立っているという。 「ゲームでは、F1マシンはもちろん、最高 速が600km/hも出るクルマから20馬力 のバンまで、色々なクルマに乗れますから ね。それこそ、ブレーキを踏んだら横転し たり、加速したらウィリーするマシンもあ って(笑)、そんな幅広いクルマに乗ってき たので、そのシミュレーション経験がリア ルなモータースポーツでも活きています。 もちろんリアルの方も、大学生の時に多く

特集 耐久レース/ENDURANCE RACE

“合わせる” 走り

の走行会に参加して、4WDやFF、FRなど 色々なクルマに乗ったので、そこでeスポ ーツと実車の答え合わせができたんです。 なので、僕の場合はeスポーツで得た情報 がベースになっていますね」と冨林選手。

その上で、リアルレースの走りについ て、冨林選手は以下のように語る。

「初めて乗るマシンの場合は、事前にクル マの弱い部分を聞いておいて、ブレーキが どのぐらい効くのか、そのチェックから始 めています。自分に合ったセットアップが できていないクルマなら、例えばアンダー ステア傾向だった場合、コーナーを曲がれ ずに他のマシンと接触したり、フロントタ イヤを壊してしまうリスクがありますよ ね。なので、まずは自分の制御できる範囲

「事前にクルマの弱い部分を聞いておいて、ブレーキがどの ぐらい効くのかをチェックすることから始めます。自分が制 御できる範囲内で走ることを心がけていますね」 F1“以上”からバンまで!? eスポーツの経験を活かす

エアバスターWINMAX GR86 EXEDY[ZN8]

内で走ることを心がけています。アンダー ステアといっても、曲がらないけれど、逆 に加速には有利な部分があると思うので、 ネガな要素は無理をせず、最小限で我慢す る走りをして、ポジの部分を最大限に活か すような走りをしています」と解説する。

一方、複数名のドライバーが1台をシェ アする耐久レースでは、セットアップにも 独自のノウハウが必要となるものだ。

26号車「raffinee 日産メカニックチャレ ンジZ GT4」のBドライバーとしてST-Z クラスに参戦した富田竜一郎選手によれば 「クルマを“どこ”に合わせるのかが重要な んですが、全員が乗りやすいクルマに仕上 げられるわけではないですよね。ドライバ ーの経験やスキルは色々なので、妥協点を 見つけることが必要になります。速さを競 う耐久レースでは、経験値の少ないドライ バーが乗りやすいクルマにすればいいわけ ではなく、ある程度ベースを高めておい て、ピークを出せるマシンにしておかない と戦えない。だから、速いドライバーが、 一緒に走るドライバーそれぞれのスキルを 理解した上で、主導してセッティングして いく必要があると思います」と解説する。

頑張っちゃいけないところ このように、耐久レースではドライビン グおよびセッティングにおいて独自のアプ ローチが必要で、特にプロドライバーたち は限られた時間で最大のリターンを求めら れるものだが、経験豊富なアマチュアドラ

ST-4 冨林勇佑選手
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ST-Z 富田竜一郎選手

raffinee日産メカニックチャレンジZ GT4 [RZ34]

速いドライバーが理解して

全員の妥協点を見つけること 「クルマをどこに合わせるのかが重要なんですが、全員が乗 りやすくできるわけではなく、ドライバーの経験やスキルは 色々なので、妥協点を見つけることが必要ですね」

イバーはまた別の考え方で合わせている。

6号車「新菱オートDIXCEL夢住まい館 エボ10」のDドライバーとしてST-2クラ スに参戦した後藤比東至選手は、これまで スバルWRXでスーパー耐久を戦ってきた ベテランだが、今大会では初めてランサー をドライブするという挑戦が待っていた。

「プロドライバーはブレーキングのポイン トをどれだけ詰められるか、というところ から探るし、それができると思うんです。

でも、僕みたいなアマチュアドライバーは そんなリスクは負えないので、ブレーキは マージンを取っています。代わりにクルマ のいいところ、ランサーで言えば、コーナ ー出口で最高の立ち上がりができるような アプローチを探すことを心がけました」と いう後藤選手。そのポイントをこう語る。

「ブレーキだけでなく高速コーナーの攻め 方も、詰めすぎるとリスクが高まるので、

まずは最短距離のラインで 少しずつラップを重ねる

「昔はやっぱり『速いタイムを出さないといけない』という気 持ちが強かったんですが、今ではロングランで安定したラッ プタイムを刻むことが重要だと理解しています」

ST-2 後藤比東至選手

新菱オートDIXCEL夢住まい館エボ10[CZ4A]

耐久レースはミスをせずに 次の走者に繋げる走り

「レースだから、速く走りたいとか、抜きたいという気持ちは もちろんあると思うけど、耐久レースの場合は、ミスをせず に次のドライバーに繋げる走りが大切なんです」

ST-Z 新田守男選手

シェイドレーシングGR SUPRA GT4 EVO[DB]

そういったリスキーな場所は攻めないよう にしています。代わりに、コーナーはなる べく最短距離で走るようにして、少しずつ 自分のラップを重ねていくんです。当然、 最速タイムは出ませんが、自分の実力以上 の走りはできないですからね。昔は、やっ ぱり『速いタイムを出さないといけない』と いう気持ちが強かったんですが、今ではロ ングランで安定したラップタイムを刻める ことの方が重要だと理解しています。そう いう意味では、メンタル の領域においても、チー ムが目指す方向性に合わ せる走りが必要になると 思います」。

後藤選手はレースを“早 く”理解するためにデータ ロガーが有効だと語る。

っちゃいけない、といったことがよくわか るんですよ。レースって、他のスポーツに 比べると練習時間が圧倒的に短いですよ ね。なので、レースではドライバーが『早 く速く』なる必要があるんです。そのため に、ここ数年はデータロガーが役に立って います」とのことだ。

24時間レースともなると、走行距離や乗車時間が増えるだけではなく、夜間走行も加 わってくる。これらの要因により、いつもはできることができなくなることもあるた め、ドライビング以外の要素にも細心の注意を払う必要がある。

その理由としては「速い人 との違いがわかるし、同 じタイムでも、走らせ方 のいい部分と悪い部分が データ上で可視化される ので、ここは頑張る必要 があるとか、ここは頑張

「自分のスティントを走っているときに、 フロントタイヤが減ってきたら自然とアン ダーステアになるので、ドライビングで対 応しないといけないですよね。僕の場合は、 アンダーステアを感じたらブレーキをちょ っと残して、クルマが曲がるまでアクセル オンを待つようにしていますし、逆にオー バーステアの場合はブレーキを直線で終わ らせるようにしています」ということで、後 藤選手は基本操作を大切にしている。

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取り返そうとしてミスるもの 最後に大ベテランにまとめてもらおう。

885号車「シェイドレーシングGR SUP RA GT4 EVO」のDドライバーとして ST-Zクラスに参戦した新田守男選手に、 耐久レース・ドライビングの考え方とその 極意について伺った。

「耐久レースは、みんなが平均的に乗れる クルマを目指してセットアップしていま す。そして、24時間レースでは昼と夜でコ ンディションが大きく違います。燃料が満 タン状態と減った状態でもマシンのバラン

スが変わってくるので、タイヤと路面がど う接地しているのかを常に感じながら、ド ライビングで対応することになります。で も、最も重要なのはメンタルだと思いま す」とした上で、そのポイントを説明する。 「レースだから速く走りたいとか、抜きた いという気持ちはあると思うけど、耐久レ ースの場合は、ミスをせずに次のドライバ ーに繋げる走りが大切なんです」。

「例えば、トラフィックで引っ掛かって、 ラップタイムやポジションを落としたりし ますよね。そこで、それを取り返そうとし てミスをするんです。焦って走ってブレー

労りながら、ときにはムチを入れ て、1台のクルマをフィニッシュラ インまで運ぶこと。それが耐久 レースを戦うドライバーに課せら れた使命となる。その行き着く先 が表彰台であったなら、労苦を共 にした戦友との祝杯は格別なもの になるだろう。

キを使ってしまい、次のドライバーが走れ なくなるようでは耐久レースでは戦えな い。そういう意味で、運転スキルは二の次 で、メンタルが重要なんです。ドライビン グの技術はいきなりレベルアップしないの で、タイムを出すことよりも、余計なロス をしないことがポイントです」とのこと。

さらに新田選手は、「タイムを出したい、 勝ちたいという強い気持ちでドライビング に集中していると、黄旗区間で追い越しを したり、ピットレーンで速度違反するとか、 そういうレースの基本的なところを見落と すものなんです。例えプロドライバーであ っても、こういうミスはやります。ポジシ ョンをキープして長いレースをしっかり走 り切るためには、もったいないペナルティ を受けないようにすることと、これは当然 ですが、他のクルマと接触したりすること を避けることも重要です」と付け加えた。

耐久レースのドライビングは、ドライバ ーのスキルや車両セッティングだけではな く、自然環境の変化やあらゆる装備の消 耗、そして競い合う他者の動向などなど、 刻々と変化する因子に対して、自分の持て るドライビング技術やメンタリティなどを “合わせる”ことが求められる。

そして、これらをうまく合わせ込めたチ ームこそが長時間の耐久レースを走破し、 栄光の勝利の表彰台を獲得できるのだ。

〝 合わせる 〟 耐久レース/ ENDURANCE.RACE 53
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ダートラ 教えて

未舗装路で待ち受ける“想定外”に対応せよ! ダートトライアルで生き残る必携アイテムズ

舗装路でベストタイムを競い合 うダートトライアルは、全日本 選手権ともなると、競技会場に 持ち込むアイテムはかなりの量になる。

特に、超硬質ドライ路面と一般ドライ路 面、軟質路面など、路面状況に最適化され た複数種類のダート専用タイヤを始め、万 が一の車両トラブルやクラッシュに対応す るためのスペアパーツ、そしてある程度の 工具は必須とされる。また、車体についた 土や泥は車両のバランスを狂わせる原因と もなるため、それらを洗い流す洗車道具 も、意外な必須アイテムとなっている。

車両運搬車などで競技車両を輸送する改 造車ユーザーなら、より多くのアイテムを

全国を転戦する全日本ドライバーたちは、 必要なアイテムをどう選択・運搬している のか? 全日本ダートトライアル選手権第 3戦の舞台、丸和オートランド那須で選手 たちを直撃して、それぞれが考えるダート トライアルに必須のアイテムを教わった。 意外と積めるコンパクトカー 「必ず持って行くものはタイヤで、ドライ 4本、ウェット4本です。出走順的にスー パードライ(超硬質ドライ路面用タイヤ)を ダートトライアル競技では路面状況に適した専用タイヤを始め、 他カテゴリーと比べても、現地に持ち込むべきアイテムが数多くある。 ここでは全日本選手権を戦うダートトライアラーたちに、 それぞれの“ダートラ必須アイテム”を聞いてみた。

持ち込めるが、ナンバー付き車両で参戦す る選手は、その多くが“自走”であるため、 現地に持ち込むアイテムをある程度取捨選 択する必要がある。

特集 ダートトライアル/DIRT.TRIAL 55 PHOTO/大野洋平[Youhei.OHNO]、廣本泉[Izumi.HIROMOTO]、JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS]  REPORT/廣本泉[Izumi.HIROMOTO]、JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS] 未

スペアパーツ

七つ道具としては、複数種類の競技用タイヤに始まり、工具(ハンドツール)、電動インパクトレンチ、 トルクレンチ、ジャッキ、リジッドラック、スペアパーツ(駆動系)などが挙げられそうだ。足場が悪い ダートラ特有の装備としては、長靴や整備時の作業着を始め、小型の洗車用ポンプや、水場からパドッ クに持ち帰る水タンク、泥を掻き出すヘラ、車体をジャッキアップする際に路面に置く敷板、そしてク ラッシュ時に小規模の鈑金ができるレベルの工具の持参も見られた。

使うことはないので、そもそも持ってすら いません」と語るのが、ZC32Sスイフトス ポーツでPN1クラスに参戦する森元茜選 手。北海道から全国を転戦している。

他の必須アイテムとしては「自走で会場 に来ているので、もし、会場で壊れても帰 れるようにドライブシャフトを必ず持って いきます。交換作業に必要な工具とジャッ キも持ってきていますが、フロアジャッキ は重くて積めないので、タイヤの交換の際 もパンタジャッキを使用しています」と語 る。もちろん、インパクトレンチ、トルク レンチもタイヤ交換の際に必要なアイテム で、洗車用のバケツやガソリン携行缶、慣 熟歩行で履く長靴や雨対応のカサ、レーシ ングスーツの他に作業着なども持参する。 「丸和には洗車場があるので今回は置いて きましたが、洗車用の高圧洗浄機も全日本 に出るようになってからは持ってくるよう になりました。あと、参加台数が多い全日 本では待ち時間も長いので、イスやテーブ ル、アイスボックスも必要ですね」と森元 選手。コンパクトカーにすべてを積み込む にはコツがあるようで、「スイフトの場合、 前席シートを前に出すと後ろに6本が並び、 その後ろに2本入れられます」とのことで、 パズルのようにアイテムを搭載している。

いる場合は、ドライとスーパードライの組 み合わせです」と語る。インパクトレンチ やトルクレンチ、工具類のほか、助手席の 下にゴムの緩衝材を敷いてフロアジャッキ を積んでおり、パドックのテントや木製ラ ックなど様々なアイテムを搭載する。そし て、サービス員も同行しているので、身の 回り品も2名分を持参しているという。

「僕は地区戦の頃から、色々な荷物を持っ てきている方なんです。今は持ってきてま せんが、全日本に参戦してからはドライブ シャフトなどのスペアパーツを持ってきた いと思うようになりました。それと、全日 本では1本目が終わった後にかなりの時間 があるので、自分の車載動画や走行データ をチェックするために、パソコンも持って きたいと思います」とのことで、今後はま た荷物が増えることになりそうだ。

同じスイフトスポーツでも、PN2クラス に参戦するZC33Sを駆る増田拓己選手 は、より多くのアイテムを持参している。 「タイヤはドライとウェットを4本ずつ持 ってきていますが、天候が晴れだと判って

純正部品

ジ、膝をついて作業が行える膝パッドなん かも必需品です。86に換えてからは洗車用 バケツやクーラーバックも小さくできるも のを選ぶようになりました。ホイール裏側 の空間に何かを入れたりと、色々なスペー スを活用しています」と崎山選手。

その一方で、パーツ類を持ち込むことは 少ないそうで「今回はテストのためにダン パーやアライメントゲージを持ってきまし たが、普段、持ち込んでいるのはブレーキ パッドぐらいです。バランスが悪い時に別 のタイプのパッドに変更していますが、ド ライブシャフトやロワアームなどのスペア パーツは持ってきていません。他力本願に なりますが、何か起きたらお借りします (笑)」とのことで、チーム員や中部地区の 仲間たちの機転をアテにしている。

2ドアクーペの苦悩……

積載量が制限される2ドアクーペでは、 さらなるノウハウが必要となるようで、中 部地区を拠点に、旧型86でPN3クラスに 参戦するパッション崎山選手は「車内に6 本、ルーフに2本、コースに合わせて2種 類のタイヤを選んでます」と語るように、 ルーフキャリアを活用している。

必須アイテムとしては、フロアジャッキ とリジッドラック、インパクトレンチ、ト ルクレンチ、工具、高圧洗浄機、長靴、雨 具、着替えなどを挙げている。 「細かいものとしては、泥を落とすシャモ

自走の場合は車型によって積めるアイテ ムの規模が変わるが、同じクーペでもミッ ドシップとなると、さらなる工夫が必要と なる。愛知県からSW20 MR2でSA1クラ スに参戦する横内由充選手は、「ルーフキャ リアを使っても、積めるタイヤ本数には限 界があります。ドライかスーパードライが 基準ですが、本番で雨が降ったらリアにウ ェットタイヤを履きたいので、移動すると きに履くタイヤも本数に含めて、何とかウ ェットタイヤも持ち込んでいます」と語る。 そのほか、インパクトレンチやトルクレ ンチ、リジッドラック、工具セット、イス やテーブル、テントなどを持参している が、「フロアジャッキは入らないので、パ

ダートラ
タイヤ
敷板 工具 水タンク シザーズジャッキ 56

全日本ダートトライアル選手権PN1 森元 茜選手

itzz DL SCENEスイフト[ZC32S]

後方視界を確保しながら必須アイテムを 整然と車内に搭載しており、土系ドライ バーとは思えない細やかな収納テクニッ クが光る。またダート競技では珍しく、す べての搭載タイヤにカバーを装着。車内へ の泥砂の進入を防いている。

地区戦時代から 今後はパソコンがいろいろ持参 要りますね!

全日本ダートトライアル選手権PN2 増田拓己選手

オクヤマYH☆FAスイフトμ[ZC33S]

今季から全日本にステップアップして開幕戦でいきなり優勝 してみせた有望株の増田選手。助手席下のスペースをうまく活 用してガレージジャッキを載せている。パドック用の収納とし て木製ラックを持ち込み、独特の価値観も披露する。 たくさん収納できるマツダスピードアクセラ

全日本ダートトライアル選手権PN3 パッション崎山選手

DL☆LOVCA☆RR 86 PS[ZN6]

全日本ダートトライアル選手権SA1 横内由充選手 e'Tune☆YH久輿MR2[SW20]

現役のダート系競技車両ではもっとも 積載量が少ないであろうSW20で全国 を巡る横内選手。トランクは奥行きが ないので寸法の合うアイテムを選び、 旧車ということでボルトナットといっ た基本的な純正パーツも持参する。

教えて 特集

全日本は
から86に乗り換えた崎山選手。蛇腹式で畳め るバケツと泥かき用のシャモジ、ルーフキャリ アにタイヤを裏返しに載せ、ホイール裏の空間 に水タンクを載せるなどの小技に注目。
クーペの 86に 乗り換えてから 道具もコンパクト化 しました
積む順番を誤ると諦めてます(泣)タイヤはもはや 載りません(泣)
必需品 ダートラ

全日本ダートトライアル選手権SA2 黒木陽介選手

MJT五十嵐クスコKDLヤリス[GXPA16]

以前のCT9Aランサー時代から車両 運搬車での全国転戦に切り替えた黒 木選手。コンパクトなGRヤリスなら 荷台にも余裕がありそうだ。

黒木選手が持ち込むフル装備。

車室内を物置にできるメリッ トがあるが「このクルマはあん まモノが載らないんスよ」とは サービス員の嘆き。

「維持費も安いし移動もラク」改造車を載せてトレーラ移動

右のクルマが松田選

手の競技車両を載せ たトレーラを引く牽引

車であり、会場での休 憩スペースを兼ねてい るアテンザワゴン。

大型のワゴン車ということで、会場に持ち込めるアイテム も、スペアパーツの種類と量を含めてご覧の通り豊富。

60w序盤戦は僕のレベルが低い上にすごく速い人 (佐々木孝太選手)がいたのでやられちゃっていたん ですけど、終盤戦では僕が連勝してい

低床ガレージジャッキとリジット ラック、そして、それらのサイズや可 動範囲に合わせた金属製の敷板が ラグジュアリーでおしゃれ。

ダート競技では路面変化のチェックも勝利の秘訣。広い会 場を効率よく回るためのバイクは、自走組の憧れの品。

全日本ダートトライアル選手権SC1 松田宏毅選手 キャッツDL itzzシビック[EK9]

悩みのタネは競技車両をワイド化した こと。ウェットタイヤを履かないとト レーラに載らないそうで、積み方もあ る意味で職人技。

トレーラの「スネーキング現象」を避ける搭載方法や運転にはノウ ハウがある。「乗用車の運転で、新しく学ぶことって少なくなります よね。トレーラをうまく走らせるにはコツがいりますし、うまく走れ ると楽しいので、長距離運転でも飽きないんです」とのこと。

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ンタジャッキを使ってます。リジッドラッ クやテーブル、クーラーボックス、水タン クなどは、すべて折り畳めるものじゃない とクルマに入らないんですよ」とのこと。

さらにスペアパーツも必需品で「ほかに MR2の参加者がいないので、ドライブシ ャフトは必ず持参します。クルマも古いの で、よく使うサイズのナットやボルトも持 ってくるようにしています」と語る。

「それでも、諦めているのはタイヤぐらい で、ひと通りのものは載せてきてます。以 前は助手席に子供を乗せてましたから、う まく工夫すればそれなりに詰めます。ま あ、積み込む順番を間違えると入らなくな るので、慣れるまでは苦労しましたね (笑)」というように、トライ&エラーを繰 り返しながら、2シーターでも自走で遠征 し、競技参加を満喫しているのである。

“積車”なら我慢せずに持ち込める

そして、車両運搬車で移動する選手はど うしているのだろうか? 当然、車両運搬 車を買ったり借りるコストが必要になるが、 それ以上に大きなメリットがあるという。

自走か積車か陸送か? クルマがなければ始まらない!

す」とのこと。加えて「地区戦と違って全日 本はタイヤの種類が増えますからね。メカ ニックと一緒に移動しているので、GRヤ リスにこれだけの量を積んで自走するのは 難しいですし、積載車にはウィンチが付い ているので、競技車両の積み下ろしもラク なんです。積載車を使うようになって、移 動や積み込む荷物に悩まなくなりました」 とのことで、かかるコストに見合うだけの メリットがあると語っている。

「DC2インテグラの頃は自走でしたが、 トラブルが起きた時に帰れないという状態 を避けたかったので、ランサーになってか ら積載車で移動するようになりました。最 初は万が一の保険という意味合いでした が、載せたクルマを荷物入れとして使える のでラクになりましたね。今では必要なも のは我慢せずに持って来られるようになり ました」と語るのはGRヤリスでSA2クラ スを戦う岡山県の黒木陽介選手だ。 「タイヤの持ち込みは4本だけ。ドライを 競技車両に装着している場合は、ウェット 4本をラックに積載しています」とした上 で、以下のアイテムを持ち込んでいる。

教えて

地域の仲間が大型の車両運搬車に競技 車両を混載して高速道路を移動する姿 は全日本ダートラの名物でもある。ダー トを走る専用装備をフル装備した競技 車両自体が、ダート走行に一番必須な アイテムだと言えるのかもしれない。

車両運搬車には競技車両と原付バイク、 大型テントを積み、競技車両の中にはイン パクトレンチとトルクレンチ、リジッドラ ック、工具のほか、フロアジャッキ、発電 機、高圧洗浄機を積んでいる。イスやテー ブル、ガソリン携行缶や消火器に加え、ス ペアパーツ関連も持参。仕様の違うダンパ ーやスプリング、ブレーキパッドのほか、 予備パーツとしてロワアームも搭載するな ど、競技用アイテムにも余念がない。

黒木選手によれば「夏は扇風機やクーラ ーボックス、あとはシルバーのレジャーシ ートも風除けや日除けになるので便利で

メリット多きトレーラ輸送

近年では、乗用車で牽引するトレーラに 競技車両を載せて移動する選手も少なくな い。トレーラには牽引免許が必要で、トレ ーラ自体にも車検が必要だが、車両運搬車 を使うケースに対して、乗り越えるべきハ ードルを加味してもメリットがあるという。

「トレーラを使い始めて16年目になりま すが、本当にラクになりました。最初は積 載車をレンタルしてましたが、借りたり返 したりが意外と手間ですし、タイミングに よっては借りられないこともありますから ね。買おうと思っても自分の地元は排ガス 規制の関係もあって、新車じゃないと車庫 証明が出ないのでコスト的に難しいんで す。そこでトレーラを引くことにしまし た」と語るのは、SC1クラスにEK9シビッ クで参戦する兵庫県の松田宏毅選手だ。 トレーラのメリットとして松田選手が挙 げたのがコストと乗り心地で、「自動車税 や自賠責保険、重量税、車検費用も小型ト ラックより安いし、トレーラに競技車両を 積んでおけば駐車場も1台分で済むわけで す。トレーラを引くのは普通車なので燃費 も良く、自分のクルマはディーゼルなの で、牽引してもリッター14kmぐらい走

ります。何より乗り心地がいいし、オート クルーズを使えるので、九州まで遠征して も疲れなくなりました」と語る。さらに「パ ドックでもクルマの中で休めるので、テン トがいらなくなりました。家族や友達を連 れて来られるので、そういった面でもメリ ットがありますよ」とのことだ。

気になる積載量も、競技車両内と乗用車 のルーフキャリアと荷室を使えば、最大で 12本のタイヤを搭載可能だという。「基本 は8本を持ってきていますが、それに加え て工具やケミカル類、ガソリン携行缶、消 火器、高圧洗浄機、ミニバイク、インパク トレンチ、トルクレンチなども持ってきて います。土曜の公開練習で何かあってもひ と通り修理できるように、全日本に参戦す るようになってからは、ドライブシャフト やアーム類のほか、オルタネーターやボル トとかプラグとかの純正部品も持って来る ようになりました」とのことだ。

「積載車と比べると競技車両の積み下ろし に少し時間はかかりますが、維持費が安い し、移動がラクなので、自分にはトレーラ が最適でした。自走ではこれだけの物は運 べませんからね」と松田選手は語る。

未舗装路のタイムトライアルは“勝負の 場”である以上、全開走行が進めばクルマ の各部が痛むもの。しかし、第1ヒートで 起きたトラブルを修復して、第2ヒートで 逆転できることもあり得るし、「家には帰 れる」という“保険”があれば、より純度の 高い勝負に挑めるかもしれない。そんなダ ートトライアルでは、それぞれのメリット やデメリットを天秤にかけて、万が一に備 えながら自分の勝負に臨んでいるのだ。

特集
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ダートラ必需品

特集 ドリフト/DRIFTING

22年続く学生たちの モータースポーツ“甲子園”

通称「学ドリ」と呼ばれるドリフトコンテ ストは国内唯一のドリフト専門月刊誌『ド リフト天国』が主催するイベントで、2002 年に初開催され、以降、年に一度の開催で 今日まで継続している。これまでこのイベ ントを経てトップカテゴリーの“競技ドリ フト”に進んだ者も多く、まさにドリフト の登竜門的存在と言える。

出場資格は普通自動車免許を取得してい る24歳以下の学生のみとし、特別なライ センスは不要。学生であればテクニックの レベルを問わず誰もが挑戦できるのだ。現 在までの参加者は延べ5000名を超え、同

学生たちの競演!ドリフトが育むモータースポーツの一歩

ドリフト界にも「甲子園」が存在することを知っているだろうか? 学生たちが頂点を目指す、年の一度のドリフトコンテストで 通称“学ドリ”と呼ばれるこの大会は、22年もの歴史を持っている。 そんな学ドリが持つ特有の魅力と可能性について、 イベントフォーマットから紐解いてみよう。

COOPERATION/ドリフト天国編集部[DRIFT TENGOKU]  REPORT/SKILLD、JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS]

じタイトル、同じレギュレーションで開催 されるドリフトコンテストとしては世界に 類を見ない規模だと言えるだろう。

この学ドリは常に募集定員をオーバーす

る応募が殺到するため、事前に書類選考が あるのも特徴のひとつとして挙げられる。

さらに走行審査も個性的。予選から決勝ト ーナメントまでの道のりは、一般的なドリ

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“ ”

学ドリの変遷

ドリフトが育むモータースポーツの一歩

文部科学省認定の学校に通う学生 普通自動車免許取得者 大会当日に満24歳以下であること

フトコンテストとはまるで違う。

勝つためにひたすら努力する者もいれば、 仲間との思い出を残すために出場する者も いる。会場の盛り上がりは、まるで文化祭 と体育祭が融合したかのような、独特 の雰囲気を醸し出している。つまり学 ドリとは、ドリフトに青春を賭けた学 生たちの“存在証明の場”なのである。

2002年・第1回大会

・三栄書房主催「パワーツアーin富士スピード ウェイ」の1コンテンツとして開催。

・ドリフト天国が主催し、会場は改修前のNコース。 ・参加人数は個人戦54名、団体戦5チーム。

2003年・第2回大会

・参加希望者多数により東西に分けた2大会開催。 ・以降、東大会は日光サーキットに固定。 ・応募多数により事前書類選考を導入。

2005年・第4回大会

・パイロン卍予選が初めて施行される。

2009年・第8回大会

・出場できる年齢が24歳以下に決定。

・参加者増加により東大会が2日間開催。 ・東西ベスト4による統一戦が初開催。

2010年・第9回大会

・映画「ガクドリ」製作のためクルーが視察に。

2020年・第20回大会

・西大会応募人数の減少により東西2大会制を廃止。 ・会場が富士スピードウェイマルチコースに。

参加車両でタービン交 換まで施したハイパ ワーチューンは少ない。 ピークパワーは300馬 力から400馬力あたり が多いと思われる。

協力企業は多くないものの、 フェデラルタイヤやヴァリノ タイヤは賞品としてタイヤを 提供。またアップガレージは商 品券を用意。学生ドリフターに とって大きな励みとなる。

ベース車両は近年の中 古FRターボ車の価格高 騰により、ここ数年は手 頃に入手できるロード スターやアルテッツァ も増えている。

イベントの模様は『ドリフ ト天国』に掲載され、参加 者全員が紹介される。 勝った者だけでなく、個 性的な改造が施された車 両も大きく掲載されるた め、車両づくりも楽しみの ひとつとなる。

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学ドリの1日の流れ

予選

「方式は当日発表」としながらも、20年間 ずっと同じパイロン卍方式が採用されて いる。この予選により参加者は約半数に 絞られる。

本戦

1回戦、2回戦と人数を絞りながら決勝進出 者を選出。ベスト8によるトーナメント、ベ スト10による1本勝負、追走方式など、その 年のレベルによって決定されるため、常に同 じではない。

審査員は第2回から古口美範氏&今村隆弘氏の2 名が担当。かつてD1選手として活躍した両名は 「若者らしさ」に重点を置いて審査する。ドライビ ングミスがあっても「それがどういった気持ちから 生じたのか」を考慮し、単なる減点にしない。また、 車両の性能を使い切っていない走りは厳しく減点 するため、アンダーパワーでも勝ち目があるとされ る。これがいわゆる「学ドリ審査」である。

学ドリの起源は雑誌企画から! 継続は特異なイベントだからこそ

今年で22年目を迎える学ドリの記念す べき第1回は、三栄書房(現:株式会社三 栄)が企画したパワーツアーというイベン トの1コンテンツとして開催されたのが発 端だ。「富士スピードウェイ全域を借りた ので、『ドリフト天国』も何かイベントを 行ってください。Nコースなら無料で貸し 出します」とのオファーを受け、これまで にないイベントを……と、学生に限定した ドリフトコンテストを実施した。

これはドリフト天国の誌面づくりの一環 のイベントゆえ、収益を一切考える必要が

なかった。また開催協力費を集めず、賞品 協賛のみで催されたのが好都合だったよう で、これが22年間同じスタンスを貫くこ とができた理由である。

イベント終了後には「来年もぜひ開催を」 との声が想像以上に多く集まり、翌年から 『ドリフト天国』が単独で開催するように なった。そして開催を重ねるごとに誌面で の扱いも大きくなり、学ドリの規模も共に 大きく成長していったのだ。

参加条件から生まれる

参加者同士のシンパシー

学ドリの参加資格は18歳以上、24歳以 下の学生であることを前提に、普通自動車 免許取得が必須だ。免許取り立てでクルマ を入手したばかりのドリフト好きにとっ て、現代においては、練習する場を確保す るだけでもひと苦労だ。当然、学生ゆえに 資金調達はアルバイトがメイン(なかには 仕送りや奨学金に手をつける者も)だ。 そういった厳しい環境下でドリフトの技 術を磨き、年に一度の晴れの舞台に備える のが学ドリである。ゆえに参加者は似たよ うな境遇が多く、互いに共感心が湧き、勝

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予選 本戦 62
特集

書類選考

募集枠以上の応募があるため、書類審査にて出場の可否が決まる。編集部と審査員がすべての 応募書類に目を通し、出場への熱意を判断するのだ。その基準は明確でないゆえに出場希望者は さまざまな方法で自己アピールを送付する。用紙の形態も十人十色、まさにオーディションのよ うなものだ。『ドリフト天国』川崎隆介編集長によると「上手、下手や過去の戦績ではなく、学ドリ や誌面を盛り上げてくれるであろう存在を優先します」とのことだ。

パイロン卍予選

開催コースの近くで活動する者は練習回数にアドバンテ―ジがあるため、公平を期して考 案された予選方法。ストレートにパイロンを4本(もしくは5本)並べて低速振り返しドリフ トターンの連続による技術を審査。1台ずつの走行になるため、参加者の緊張感は想像を超 える。予選トップ通過者は「パイロン王子」として表彰され、誌面でも紹介される。第4回大 会の予選直前に突然この方法を発表。今も直前まで「予選方法は未定」とされている。

2022年開催第21回大会の参加者データ(全参加者125名)

者を讃える気持ちも芽生え、同時に敗 者は後悔や反省の念を深める。

しかしながら、学ドリは挑戦できる 回数に限りがある。卒業すれば当然そ こで終わり。留年しながら頂点を目指 す者も中にはいるが、25歳になったら 出場できない。いつか出られなくなる

ドリフトコンテストだからこそ、そこに 数々のドラマが生まれるのである。

ちなみにこれまで21回のイベントのう ち、実はそのほとんどが夏休み期間の平日 に開催されてきた。ゆえに夏の高校野球に なぞらえ、学ドリが「ドリフト甲子園」と言 われるイベントの所以とされているのであ る。

初参加が圧倒的に多く、回 数を重ねるごとに減少傾向 となっている。5回という強 者も……。

2022年優勝 矢野歩夢選手(20歳)

180SX 栃木県立県央産業技術専門校

年齢の内訳は大学生が62名 を占め、次いで専門学校の42 名。中には大学院生や高校生 も含まれる。

シルビア&180SXの人気が 根強い。クルマの性能を使い 切れるNA車両も増加傾向と なっている。 シルビア 180SX 34% ロードスター 11% ツアラーV

女子学生の予選突破はこ れまでに5名弱と数えられ る中、かつて優勝を果たし た者も存在する。なお、 2007年西大会優勝の坪 井江利子選手は、現在でも 走行会やD1地方戦出場な どドリフトを趣味のひと つとして楽しんでいる。

参加回数 参加年齢 参加車両
10% アルテッツァ 9% スカイライン 8% フェアレディZ 6% 86/BRZ 5% その他 17% 18歳 5% 19歳 17% 20歳 35% 21歳 28% 22歳 21% 23歳 12% 24歳 7% 初参加 73% 2回目 37% 3回目 12% 4回目 1% 5回目 2%
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学ドリ成績:2012年東大会2位。日本自動車大学校出身。

学生時代の好敵手の存在が 現在のドリフトの原動力に 高橋和己選手 田口和也選手とは日本自動車大学校 出身同士で同窓生だ。2012年の学ド リでは決勝で対決するも高橋選手が 敗れている。だが、卒業後もそのライ バル関係は続いており、D1グランプリ ではともに若手旋風を吹き込んだほ ど。将来は渡米してFormula Drift USAの舞台で田口選手と対決したい という夢を持つ。

学ドリの連鎖は メジャードリフト大会も席巻する 学ドリを制した者の一部は、新たなステ ージとして国内トップのドリフトイベント 「D1グランプリ」などに進出している。年 齢制限による、期間限定の勝負の中で培っ

D1グランプリの名物男も 実は2003年の学ドリ王者だった! 岩井照宣選手

東西2大会制となった2003年に4A-G 搭載のKP61スターレットで優勝。“出 戻り学生”の25歳でも圧倒的な勝利を 挙げた。この状況を鑑みて年齢条件が 改変されることに。とはいえ、13イン チのNAマシンでの勝利はこれ以降な い。D1グランプリには2013年からフ ル参戦している。

学ドリ成績:2003年西大会優勝。広島高等技術専門校出身。

た目標達成への努力と情熱は、世界へ羽ば たく原動力となっている。そして、これか ら学ドリを目指す者の目標にもなっている のである。

このところ「学ドリ出身」という言葉を、 メジャードリフトコンテストの場でよく耳 にするようになった。かつて学ドリの頂点

に立ち、いまやプロドリフト選手として名 を馳せる益山航選手や、Formula Drift USAにフル参戦している田口和也選手ら の活躍あってのことだろう。

それに続けとばかりに、学ドリ優勝経験 者が続々とD1グランプリなど各種ドリフ トコンテストに進出。早い段階で決勝トー ナメントに残る存在感を見せつけ、周囲を 驚かせている。そんな彼らのモチベーショ 学ドリではパーフェクトウィンの快挙も 益山航選手

参加人数の多い東大会を予選トップから制覇、東西統一で も優勝を遂げた唯一のパーフェクトウィンを達成。卒業後 はFormula Drift USAにも2年間フル参戦するなど、“世 界のマスー”の呼称どおりに国内外問わず活躍の場を拡大 している。

学ドリ成績:2016年東大会優勝、東西統一優勝。帝京大学出身。

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学ドリ成績:2011年東西統一王者。 阪和鳳自動車工業専門学校出身。

D1グランプリ参戦2年目ながら ベスト4進出の実力を持つ ヴィトー博貴選手

1年目はマシントラブル、2年目は大会 直前に大クラッシュ。そして3度目の 正直となる3年目は西大会に出場が叶 うも、優勝を逃して3位に終わる。だ が、その後の東西ベスト4が対決する 統一戦でリベンジを果たして優勝した。

D1ライツ参戦で2021年に総合優勝 し、2022年よりD1グランプリへステッ プアップ。

ンとなっているのは「多くの学ドリ参加者 の頂点に立ったがゆえに、皆の想いを背負 ってさらに飛躍しなければいけない」とい う責任感だったり、または「学ドリの場で 勝てなかったライバルをいつかもっと大き なステージで破る」というリベンジの気持 ちかもしれない。現にそのような言葉を本 人たちから聞いたことがある。そして彼ら が揃って口にするのは「学ドリ以上に真剣

S15シルビアを武器に 2021年からD1グランプリ出場中 秋葉瑠世選手

D1ストリートリーガルの出場権を獲得 した2015年、学ドリ2年目の挑戦にし て優勝、続く東西統一戦では3位の成 績を収める。なお、そのときの東大会2 位が翌年優勝の益山航選手だった。 2021年はスポット参戦ながらD1グラ ンプリ第6戦で初の追走進出を果た し、その翌年よりフル参戦。

学ドリ成績:2015年東大会優勝。目白大学出身。

に取り組めるドリフトコンテストはない」 という言葉だ。

学ドリは彼らにとってわずか数年間の出 来事にすぎないのだが、そこで培ったファ イティングスピリットはその先も消えるこ とがないのであろう。そして今、活躍中の

2022年Formula Drift USA の最終戦に出場していた田 口選手と益山選手に、学ドリ 2022の参加者が先輩のため に書いた寄せ書きを持って 行ったときの様子。学ドリは 彼らにとって忘れることの ない原点なのだ。

彼らだけでなく、これまで参加したのべ 5000名の学ドリOBたちのうち何割かは、 いつか自分が……と虎視眈々とその技術を 磨き、D1ライツなどに参加して下剋上を 目論んでいるのである。今度も増える学ド リ参加者の動行にも注目していきたい。

単身渡米してFormula Drift USAに挑戦中! 田口和也選手

18歳、19歳の2年間で東大会を連覇した記録は、いまだ 並ぶ者がいない大記録として語り継がれている。卒業後 はD1グランプリ等を経て渡米し、Formula Drift USAに 挑戦中だ。2022年第5戦では、日本人4人目となる優勝 を遂げた。

学ドリ成績:2011年、2012年東大会優勝。日本自動車大学校出身。

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“ ” 特集

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第3回

「ドライバー・オブ・ザ・イヤー2023」開催決定!

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「ドライバー・オブ・ザ・イヤー」はその年にもっとも輝いたモータースポーツ競技 運転者(ドライバー)を投票で決める、2021年から始まったJAFの新たなアワード です。2021年は米国インディカー・シリーズに挑む佐藤琢磨選手、2022年はJAF全 日本スーパーフォーミュラ選手権2連覇の野尻智紀選手が受賞しました。3回目とな る2023年は11月24日に開催される「2023年JAFモータースポーツ表彰式」で受賞者 を発表します。投票方法などの詳細はWEBサイトなどで随時発表していきますの で、今回も、皆さまが応援する“推し”のドライバーへの投票をお願いいたします!

自動車の走行原理

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発行.グランプリ出版.... 価格.¥2,860(税込) 自動車書籍情報 ホンダのF1参戦第1期に 車体設計で関わり、現在は JAFモータースポーツ中央審査委員会の委 員を務める佐野彰一氏が、便利で楽しく快適 に自動車を扱うための、走行原理などを分か りやすく解説した一冊。紙の書籍で書店や電 子書店などで販売されています。

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