誰にとっても、何が起きるか予測不能。 国内最長の耐久レースに挑むワケ
宿命の好敵手
カート界を牽引するトップドライバーの情熱の源
2022 SUMMER JAF MOTOR SPORTS JAFスポーツ[モータースポーツ情報] JAF MOTOR SPORTS 第56巻 第3号 2022年8月1日発行(年4回、2、5、8、11月の1日発行) 特集
24時間、 走り切る!
所属するアルファタウリの本拠地にも近いイモラ・ サーキットで開催された第4戦エミリア・ロマーニャ GP。12番グリッドからスタートした角田裕毅選手は 着々と順位を上げて、7位入賞を果たした。
Headline モータースポーツ話題のニュース速攻Check!
F1角田裕毅選手、2022シーズン前半は“底力”と“成長した姿”が光る 苦戦するグランプリでもチームと力を合わせて挽回、2季目の成長を見せる
PHOTO/Red.Bull.Content.Pool REPORT/吉田知弘[Tomohiro.YOSHITA]、JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS] 2
022年もFIAフォーミュラ1世 界選手権(F1)で奮闘するアル ファタウリの角田裕毅選手。開 幕戦のバーレーンGPでは、1年目で得た 経験を存分に活かし、8位入賞を飾った。
この勢いで快進撃を期待されたが、そう 簡単にいかないのがF1の難しいところ。 それでも、1年前の角田選手にはなかった “底力”と、“成長した姿”があった。
第2戦のサウジアラビアGPでは、金曜 日のフリー走行で2回ともトップ10圏内 と、好調な滑り出しを見せた。しかし土曜 日の予選、Q1開始直後に冷却系のトラブ ルが発生。さらに日曜日の決勝ではなん と、駆動系のトラブルでスタートさえでき ずに、GPウィークが終了してしまった。
続く第3戦は、2019年以来の開催とな ったオーストラリアGP。角田選手は初挑
戦のアルバート・パーク・サーキットに苦 戦したが、予選ではQ2に進出。入賞も狙 える13番手からスタートしたが、決勝で はペースを上げることができず、15位でフ ィニッシュした。
「今日はペースがなく、レースを通して苦 戦しました。こうしたことが、また起こら ないように、原因を突き止める必要があり ます。今回は全てにおいてパフォーマンス が不足していましたが、これが現状です。
次のレースで改善できるように前を向いて 進んでいきたいです」と決勝後に角田選手 はコメントを残した。
思えば、1年前は少々興奮した発言や無 線内容が物議を呼び、時に厳しい評価を受 ける場面もあった。2シーズン目を迎えた 今季は、冷静に状況を判断して常に前を向 こうという姿勢が伝わる、彼の成長を感じ
るコメントが増えている。
問題をチームとともに解決、ホームの イモラで2度目の入賞を果たす そのような地道な努力が実ったのが、第 4戦のエミリア・ロマーニャGP。昨年か ら導入された予選レース『スプリント』が今 季初めて導入されたGPで、フリー走行1 回目は9番手と角田選手は好調だった。 しかし、予選ではわずか0.004秒差で Q1敗退。今季の中団グループの争いは熾 烈で、わずかの差でQ3進出が狙える力を 発揮できないまま、予選を終えることもあ る。今回の角田選手がまさにそうだった。 それでも、角田選手はこの悔しさを力に 変えた。スプリントでは終盤にアストンマ ーティンのセバスチャン・ベッテル選手を 追い抜く見せ場もつくって12番グリッド
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第9戦カナダGP、角田選手はパワーユニット交換によって最後尾 スタート。2度目のタイヤ交換前は入賞圏内目前の11番手まで追い 上げたが、ピットアウト直後のミスでレースを終了している。
を獲得。その勢いで決勝で はさらに順位を上げて、7 位入賞を勝ち取った。
その舞台となったイモ ラ・サーキットは、角田選 手が初めてF1に乗った地 で、チームの本拠地からも 近い。さらに彼も本拠地の 近くに活動拠点を置くとい う、まさに“ホームコー ス”でのGPだった。 「今回はファクトリーから 多くの人が応援に来てくれ て、アルファタウリのフラ ッグもたくさん見えて、そ れが僕にとっても力になり ました。ここまで一生懸命 に頑張ってくれたチーム全 員に感謝しています」とは 決勝後の角田選手。地元で の挽回劇が角田選手やチー ムにひとつのキッカケをも たらした。
続く第5戦は初開催とな るマイアミGP。滑りやす い路面に各チームとも苦労
し、角田選手もフリー走行1回目で18番 手と、苦戦している様子だった。しかし、 しっかりとデータを分析して、フリー走行 を重ねるごとに順位を上げていくと、予選 では9番グリッドを獲得した。 「今日の予選の結果はとてもうれしいで す。当初はQ3進出を目標に掲げていまし たが、週末の走り出しで苦労をしているこ とを考えると、達成するのは簡単ではない な、と思っていました。今日は良い挽回が できて、予選では最大限のパフォーマンス を出せたと思います」と、角田選手も入賞 を狙える位置につけたことに、手応えをつ かんでいる様子だった。
2戦連続での入賞も期待されたが、決勝 では新たな課題も露見した。一時は気温 35度、路面温度50度を超える暑さの中 で、ペースを上げることができず、スター ト直後に順位を落とし、その後も苦しい展
開を強いられて12位フ
ィニッシュとなった。
実は、15位に終わった 第3戦も、気温30度に 達していた。気温が上が った時にライバルと比べ てペースを発揮できない ところも、現状でのチー ムの課題のひとつだ。
それでも何とか対応して結果につなげる のがドライバーの役割。第6戦スペイン GPも、週末を通して気温30度を超え、 金曜のフリー走行では車両のバランスが合 わせられず、苦戦した。
角田選手はチームとともにデータを分析 してセットアップを改善。予選で13番手 に食い込むと、決勝でも粘り強く順位を上 げて、10位入賞を果たした。 「ものすごくタフなレースでした。クルマ の中はすごく暑かったですし、その状況下 でポイントをかけて、ずっとバトルをして いた感じでした。すごくプレッシャーもあ りましたが、今日の自分のパフォーマンス と、獲得できた順位には満足しています。 今週末は、マシンのフィーリングが良くな かったので、こうしてポイント争いに加わ れたことは良いステップになりました」。 ポイント獲得に至らない 我慢のGPが続く試練
一進一退だが、着実に入賞をかけて争う 実力を発揮している角田選手。しかし、前
半戦も終盤にさしかかる3つのGPでは、 チームとともに空回り気味となった。
第7戦モナコGPは11番グリッドを獲 得するも、決勝は雨絡みの展開に翻弄され て17位でフィニッシュ。第8戦アゼルバ イジャンGPでは昨年同様、予選から速さ を見せて、決勝でも6番手を走行。しか し、リアウイングのトラブル修復で緊急ピ ットイン、結果は13位となった。
そして、第9戦カナダGPでは、最後尾 スタートから一時は11番手まで挽回。し かし2度目のタイヤ交換後、コースに復帰 する際にコースオフ、リタイアとなった。 第6戦で課題はありながらも手応えをつ かんでいたのだが、その後歯車が噛み合わ ないことが続き、角田選手に焦りが出てい たのではないだろうか。第9戦のリタイア は、今季の彼らしくないミスだった。 とはいっても、まだ前半戦の真っ最中。 日本GPを含めて残りは13戦と、チャン スはまだまだある。これから地に足をつけ て金曜からレースを組み立てて、上位入賞 を狙う角田選手の活躍に期待したい。
レッドブルとフェラーリが競うチャンピオン争い は、レッドブルのマックス・フェルスタッペン選手 が9戦中5戦で勝利を獲得、ドライバーズとコンスト ラクターズの二冠を目指してリードしている。
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ワークス勢ではTOYOTA GAZOO Racingのカッレ・ロバンペラ選手が3連勝!
PHOTO/TOYOTA.GAZOO.Racing、Red.Bull.Content.Pool REPORT/廣本.泉[Izumi.HIROMOTO]、JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS]
TOYOTA GAZOO Racing WRC チャレンジプログラムにて、コ・ ドライバーのアーロン・ジョンス トン選手とFIA世界ラリー選手権(WRC)に 挑む日本人ドライバー、勝田貴元選手。
第2戦のラリー・スウェーデンではGR YARIS Rally1を武器に4位入賞を果たし たが、その後も素晴らしいパフォーマンス を披露している。
まず、今季初のフルターマックラリーと して4月21~24日に開催された第3戦ク ロアチア・ラリーで勝田貴元選手は「グリ ップ感がなく、いいペースがつかめません でした」と語るほか、SS8でのタイヤトラ ブルで、ウェットコンディションのデイ1 は7番手。
雨上がりのデイ2、スリックタイヤを選 んだ勝田貴元選手はウエット路面に苦戦し たほか、SS15で再びタイヤトラブルに見舞 われたが、それでも6番手に順位を上げた。
勝田貴元選手はコ・ドライバーのアーロン・ジョンスト ン選手とともに第4戦ポルトガルでは3位争いを展開。 最終SSでライバルに逆転を許して2度目の表彰台登壇 は果たせなかったが、週末を通して速さを見せ続けた。
そして、ドライコンデ ィションで争われたデイ 3でも勝田貴元選手は SS19で突然のスコール によりペースダウンを強 いられたほか、パワース テージのSS20でも路面 が泥だらけになっていた ことから、ポジションキ ープに終始した。
それでも「クロアチア の路面は特殊なんです けど、今年は雨が降っ たことで難しかった。 ドライビングもセッティングもいいバラン スが見つからずに、手応えのないラリーで したが、完走したほうが次につながると冷 静に考えられるようになりました」と語る ように勝田貴元選手はクレバーな走りを披 露し、6位で完走を果たした。
雨にも翻弄された第3戦クロアチア。変化する天候と路面状況に合わせたタイヤ選択や セッティングに苦労しながら、辛抱強く我慢の走りで6位完走、ポイントを獲得した。
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今季のグラベルラリー初戦では 自身2度目の表彰台獲得に挑む このように勝田貴元選手にとって第3戦 はストレスが溜まるラリーだったが、今季 初のグラベルラリーとして5月19~22日
WRC勝田貴元選手が第4戦で今季2度目の4位、成長の軌跡を見せる!
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第5戦のイタリアでは、デイ3
に開催された第4戦のラリー・ポルトガル では、その鬱憤を晴らすかのように素晴ら しい走りを披露した。
勝田貴元選手の快進撃は、デイ2より始 まった。デイ1のSS1こそ7番手タイム だったが、「Rally1で初めてのグラベル戦 でしたが、昨年までのWRカーと比べる と重さもあってかなり違う挙動でした。と くにセンターデフがなくなったので、左足 ブレーキを多用することでグリップを稼ぐ ようにしていました」と語るようにドライ ビングでアジャスト。
デイ2の勝田貴元選手はSS3とSS7、 SS8で3番手タイムをマーク。さらにSS9 では2番手タイムを叩き出し、4番手で終 えた。
この勢いはデイ3でも続き、計4回に渡 って3番手タイムをマーク、3番手に浮上し た。ポルト市街地を舞台にしたこの日最後
走行順や思わぬトラブルを乗り越え、 開幕からポイント獲得を継続
それだけに6月2~5日に開催された第 5戦のラリー・イタリア・サルディニアで も勝田貴元選手の躍進が期待されていたの だが、序盤から厳しい戦いを強いられた。
両を修復したデイ4ではSS19で4番手タイ ムをマークするなど好タイムを連発し、総 合6位で貴重なポイントを獲得した。
のSS16は路面が急変し、不利なコンディ ションで出走した勝田貴元選手はタイムロ スを強いられたものの、それでも4番手に つけるヒョンデi20
N Rally1を駆るダニ・
ソルド/カンディド・カレーラ組を5.7秒 差で抑えて、3番手でデイ3を走破した。
そして最終日のデイ4では勝田貴元選手 とソルド選手が激しい3番手争いを展開し た。猛追を披露したソルド選手が最後の SS21で逆転に成功し、勝田貴元選手はわ ずか2.1秒差の4位。最終ステージのフィ ニッシュでは、接戦を制したソルド選手が 勝田貴元選手を激励する姿も見られた。
2021年の第6戦、サファリ・ラリー・ ケニアでの2位以来、自身2度目の表彰台 が目前に迫っていただけに「デイ1から路 面が荒れていたので焦らずにペースを上げ ていくなか、最終日に3番手争いをしてい ましたからね。チームに対して仕事を成し 遂げたいという気持ちが強かっただけに悔 しかったですね」と勝田貴元選手は心境を 語った。
その一方で、「4日間を通して安定した 走りができた。自分の力不足も感じました が、僅差の戦いをしながらフィニッシュで きたので自信になりました」とのことで、 勝田貴元選手は今季初のグラベルラリー で、大きな手応えをつかんでいた。
このラリーで苦しめられたのが出走順 で、ランキング3番手に浮上した勝田貴元 選手は、路面の掃除役を強いられることに なったのである。
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スーパーSSとして開催されたデイ1の SS1こそ2番手タイムをマークした勝田貴 元選手だが、デイ2で本格的なラリーが始 まると失速した。「サルディニアは地盤が硬 いので出走順の影響が大きかった。簡単に 言えば、アスファルトの上にビーズが転が っているような状態で、トラクションもグ リップもありませんでした」と語った勝田貴 元選手はSS5で6番手タイムをマークした が、デイ2を7番手で終えた。
出走順が5番目となったデイ3ではSS13 での4番手タイムなどペースアッ プを実現したが、「ターマックのエ ッジにフロントバンパーをひっか けて破損したんですけど、ダメー ジが悪化して、ウォータースプラ ッシュの水圧でカーボンパネルが ラジエターに突き刺さってしまい ました」と語った勝田貴元選手は SS14でトラブルに見舞われた。
勝田貴元選手はなんとか同ステ ージを走り切って車両の応急処置 を行うが、ペースダウン。それで も6番手でデイ3を終えると、車
「今回のサルディニアはいろんなことが起 こりうると予想していました。ラジエター のトラブルはあったけれど、ドライビング 面で大きなミスはなかったし、トラブルを 乗り越えてフィニッシュできたので良かっ た」と勝田貴元選手。さらに「グラベルでは ターマックよりいいフィーリングで走れま すが、まだリスクを負えていないので底上 げをしていきたい」と語っているだけに、今 後も勝田貴元選手の躍進に期待したい。
なお、第2戦を制したTOYOTA GAZ OO Racing World Rally Teamのカッレ・ ロバンペラ/ヨンネ・ハルットゥネン組が 第3戦と第4戦も制し、三連勝を達成した。 第5戦では勝田貴元選手と同様に苦戦を強 いられたが、それでもロバンペラ/ハルッ トゥネン組がGR YARIS Rally1勢の最上 位となる5位でフィニッシュし、ランキン グ首位を堅守している。
第4戦の優勝で三連勝を決めて喜ぶ、左からヨンネ・ハルットゥネン選 手とカッレ・ロバンペラ選手。第5戦では5位に終わり連勝は途絶えた が、ポイントランキングではトップを堅守した。
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でラジエター破損もあったが 6位入賞。ポイントをつかみ取 る粘り強さを見せた。
FIA.F2選手権は1大会で2レースが開催され、土曜には予選順 位の上位10台がリバースグリッドとなる「スプリントレース」、 日曜には、予選順位でスタートして途中でタイヤ交換が義務付 けられている「フィーチャーレース」が行われる。.
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そして、WRCチャレンジプログラムでは2期生の3名がフィンランド選手権デビュー
PHOTO/Red.Bull.Content.Pool、TOYOTA.GAZOO.Racing REPORT/廣本泉[Izumi.HIROMOTO]、JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS]
ンダ・フォーミュラ・ドリーム・ プロジェクト(HFDP)のドライ バーとしてDAMSからFIA F2 選手権に参戦する岩佐歩夢選手。角田裕毅 選手に次ぐ日本人F1パイロットとして期待 が寄せられているが、5月21日のFIA F2第 4戦カタルニア大会・スプリントレースで、 自己最上位の2位表彰台を獲得した。
予選6番手タイムを計測した岩佐選手は、 リバースグリッドのスプリントレースでは5 番グリッド。カラン・ウィリアムズ選手が ピットスタートとなり、ポール不在でレー
スが始まると、岩佐選手は1コーナーで2 番手を獲得する。セーフティカーが入る展 開でも順位をキープしつつ、後半もトップ を狙ったものの届かず2位に終わった。
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今季の岩佐選手は、前半戦では後方グリ ッドから順位を上げるドッグファイトを披 露。常に積極的なスタンスには海外のレー スファンからも高い評価を得ている。最近 では予選アタックの成功率も高まっている ため、岩佐選手には熱視線を送りたい。
そして、FIA世界ラリー選手権(WRC)で の活躍を見据えた育成プログラム、TOYO
TA GAZOO Racing WRCチャレンジプロ
勝田貴元選手を輩出した「TOYOTA.GAZOO.Ra cing.WRCチャレンジプログラム」では、全日本 ラリーJN3チャンピオン大竹直生選手を始めと した3名の日本人が選出され、4月からフィンラ ンドでラリートレーニングに明け暮れている。
グラムの2期生がついに実戦デビューした。 今年2月にフィンランドで行われたセレ クションで選出され、4月から本格的なトレ ーニングを開始した日本人ドライバーの大 竹直生選手と小暮ひかる選手、山本雄紀選 手。6月17~18日のフィンランドラリー選 手権第5戦「ポフヤンマー・ラリー」で欧州 でのラリーデビューを果たした。 この大会は8SSからなる高速グラベルラ リーで、金曜のSS1とSS2はドライ、土曜 のSS3~SS6は激しい雨という難しい状況 の中でも、3名の日本人はFWDのルノー・ クリオRally4で安定した走りを披露した。 序盤で好調だったのがマルコ・サルミネ ン選手とコンビを組んだ大竹選手で、SM4 クラスの6番手に付けていた。しかし、SS5 でテクニカルトラブルが発生してリタイア。 ミイカ・テイスコネン選手とコンビを組ん でいた山本選手がクラス4位、トピ・ルフ ティネン選手とコンビを組んだ小暮選手が クラス5位でフィニッシュした。
岩佐歩夢選手がFIA F2選手権カタルニアで自身初の2位表彰台!
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Headline モータースポーツ話題のニュース速攻Check!
PHOTO/JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS] REPORT/JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS]
「新
型コロナウイルス感染症防止対 策に係る対応についてのお知ら せ(2022年6月6日)」がJAFモ ータースポーツサイトに掲載され、2021 年の“8月3日版”から約10か月ぶりに「モ ータースポーツに関わる新型コロナウイル ス感染症防止対策に係る対応について(6 月6日版)」が明らかにされた。
昨年は、夏場でも緊急事態宣言実施期間 の延長や区域の追加が発令されていたが、
最近では感染から重症化に至る事態は落ち 着きを見せている。それらの情勢を踏ま え、かつこれから迎える夏場の熱中症対策 を加えた、最新情報の発信となった。
述も変更されており、これまでは第6章 「カテゴリー毎の対策」に「全カテゴリーに 共通して、競技車両等降車時ならびに目、 鼻および口を覆うバラクラバおよびフルフ ェイスヘルメット非装着時には他者との対 人距離を確保(できるだけ2m、最低1m 空ける)するとともに常時マスクを着用す ること」とされていたが、Ver.6からは「マ スク着用については、厚生労働省が発出す る『マスク着用の考え方』に従うものとし、 天候、気温や湿度に応じた熱中症対策を講 じていただく」という内容に変更された。
催は、開催地や会場が所在する都道府県の 所管部局や衛生部局への確認や、開催地域 の感染状況などを踏まえることが大前提 で、特に全国規模の大会の主催者は、地域 に対して様々な配慮をしつつ細心の注意を 払って開催に漕ぎ着けているという点だ。
そもそも、モータースポーツは身体的接 触を伴う競技ではなく、基本的にはPPE (ヘルメットやバラクラバ)を装着している から、他のスポーツより感染拡大しにくい というロジックから、比較的早い段階で活 動再開が実現している事情もある。
示された基本的な感染拡大防止対策は、 「1.身体的距離の確保、2.マスクの着用、 3.手洗いや三密(密集、密接、密閉)を避 ける」ことを挙げており、国内モータース
ポーツ活動における感染拡大防止対策ガイ ドラインといえる「基本的な感染対策のあ り方の例」も「Ver.6」に更新された。
このVer.6では、マスク着用に関する記
また「(9)閉会式・表彰式等」の項には 「式典撮影に限りマスクを外す場合は、会 話・発声をしない」という記述も加わり、 これまでの、競技車両の乗車時やヘルメッ ト・バラクラバ装着時以外は常時マスク着 用という縛りから緩和されている印象だ。
すでに全国規模の大会は続々と再開さ れ、一部の大会ではマスク非装着による表 彰式のフォトセッションも実施されている。 しかし、ここで注意すべきは、競技会の開
熱中症対策という点では自身の判断が優 先されるものの、6月6日版の趣旨は、条件 が合致すれば一律でマスクを外していいと いう内容ではない。主催者がまだまだ地域 事情へ配慮する必要があると判断すれば、 マスク常時着用を含めた感染拡大防止策を 公式通知で示す場合も十分にある。これら の判断は主催者に委ねられているため、今 後も主催者が示す感染拡大防止策を遵守し ながら活動に臨むことが求められている。
5月20日付けの厚生労働省・事務連絡 などに基づき、6月6日に更新された、 国内モータースポーツの感染対策ガイ ドラインといえる「基本的な感染対策 のあり方の例.-Ver.6-」。厚労省の「マ スク着用の考え方」が採用されている。
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6月6日、JAF「基本的な感染対策のあり方の例」がVer.6に更新 内容が大幅アップデートされ、厚生労働省「マスク着用の考え方」を採用
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4 F1角田裕毅選手、2022シーズン前半は“底力”と“成長した姿”が光る
6 WRC勝田貴元選手が第4戦で今季2度目の4位、成長の軌跡を見せる!
8 岩佐歩夢選手がFIA F2選手権カタルニアで自身初の2位表彰台!
9 6月6日、JAF「基本的な感染対策のあり方の例」がVer.6に更新
SPECIAL ISSUE
12 巻頭特集
24時間、走り切る!
誰にとっても、何が起きるか予測不能! 国内最長の24時間耐久レースに挑むワケ
20 特集
運命の回り道
貴重なチャンスをつかみ取り、自分のラダーでステップアップ!
28 宿命の好敵手
長年にわたってカート界を牽引するトップドライバーの情熱の根源を探る 40
“コ・ドラ”の心得
ナビシートからラリーを操る立役者「コ・ドライバー」の素質とは!? 46 なぜ舞台は全日本?
全日本ジムカーナに若手が続々挑戦中 教えて!アナタが全日本に挑むワケ 51 勝利へのブレイクスルー
チャンピオントライアラーに聞くダートトライアルを制するメソッド
56 ドリフト「こだわり」考察
名物選手がドリフト競技で“敢えて”固執するその理由とは?
TOPICS
25 “白虎”と“赤虎”で開発が進む スーパーフォーミュラ未来形
日本から次世代を創造する! 国内モータースポーツの試行
63 オートテスト倶楽部
「もっと、オートテストを……!!」経験者も心から楽しめる大会とは
INFORMATION
35 モータースポーツ公示・JAFからのお知らせ(WEB)一覧 (2022年4月1日~2022年6月30日)
36 2021年度 事業報告ならびに収支報告 (2021年4月1日~2022年3月31日まで)
39 JAFモータースポーツサイトのススメ
JAF MOTOR SPORTS JAFスポーツ[モータースポーツ情報]
監修/一般社団法人 日本自動車連盟 〒105-0012 東京都港区芝大門1-1-30 ☎0570-00-2811(ナビダイヤル) 発行所/株式会社JAFメディアワークス 〒105-0012 東京都港区芝大門1-9-9 野村不動産芝大門ビル10F ☎03-5470-1711(代) 発行人/日野眞吾
振替(東京)00100-88320 印刷所/凸版印刷株式会社 編集長/佐藤均 田代康 清水健史 大司一輝 デザイン/鎌田僚デザイン室 編集/株式会社JAFメディアワークス メディアグループ(JAFスポーツ) ☎03-5470-1712
COVER/ENEOS スーパー耐久シリーズ2022 Powered by Hankook 第2戦 PHOTO/吉見幸夫[Yukio YOSHIMI]
本誌の記事内容は2022年6月30日までの情報を基にしております。また、社会情勢等によって、掲載した情報内容に変更が生じる可能性がございます。予めご了承ください。
2022 夏 CONTENTS
「JAFモータースポーツサイト」も要チェック!
https://motorsports.jaf.or.jp/
時間、 走り切
誰にとっても、何が起きるか予測不能!
国内最長の24時間耐久レースに挑むワケ
2018年から富士スピードウェイに復活した24時間耐久レース。
国内随一の比類なき超ロングレースは、5回目を数えた今年も多くの参加者を集めた。 年に一度とはいえ、様々な苦難が待ち受けるであろう“未知”との格闘は、 ドライバーだけでなく、チームやサプライヤーにとってもイバラの道だと言えよう。 ここではそんな24時間耐久レースに挑む猛者たちに、その狙いを聞いた。
PHOTO/遠藤樹弥[Tatsuya.ENDOU]、廣本泉[Izumi.HIROMOTO]、 吉見幸夫[Yukio.YOSHIMI]、TOYOTA.GAZOO.Racing、 JAFスポーツ編集部[JAF.SPORTS] REPORT/廣本泉[Izumi.HIROMOTO]、JAFスポーツ編集部[JAF.SPORTS]
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る! 24
[特集]耐久レース/ENDURANCE.RACE
る!
5年前に復活した日本の24時間耐久レース
富士では約50年ぶりの開催に!
毎年6月に開催されるル・マン24時間レースを頂点に、海外にはデイトナ24時 間、ニュルブルクリンク24時間、スパ24時間など、誰もが知るような長時間に渡 る四輪耐久レースが開催されている。かつては日本でも定期的に開催されてい て、古くは1967年に富士スピードウェイで国内初の公式戦開催がなされ、1994 年から2008年までは北海道の十勝スピードウェイで毎年開催されていた。
1967年4月に開催された「第1回富士24時間耐久自動車 レース大会」。翌年2月にも第2回大会が行われ、約50年 ぶりとなる2018年に富士で復活することになった。
1994年から2008年まで開催された「十勝24時間レー ス」はスーパー耐久シリーズの一戦でもあった。2009年 は第16回が予定されていたがやむなく中止となった。
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ーパー耐久シリーズは、1991年から量産ツ ーリングカーによる耐久レースとして始ま り、独自の発展を遂げた現在は、“国内最大 級の参加型レースシリーズ”とも言われている。
数多くのクラスが設定されているこの“S耐”では、 国内外の様々なマシンの参戦を受け入れ、ドライバー
もスーパーフォーミュラやスーパーGTで活躍するプ ロドライバーから、レースを楽しむジェントルマンド ライバーなど、多彩な顔ぶれで戦われている。
近年では「ST-Qクラス」が設定され、自動車メーカ
ーが開発中のコンセプトモデルの投入も行われている ことから、国内だけでなく海外からも注目を集めるシ リーズとなっている。そして、このシリーズで特別な 一戦と位置づけられているのが通称・富士24時間レ ース、今季は第2戦として開催された「NAPAC 富士 SUPER TEC 24時間レース」だと言えるだろう。 この大会は、2018年から富士スピードウェイで“復 活”した24時間の耐久レースで、国内の24時間レー スとしては、2008年の十勝24時間レース以来10年 ぶり。富士の24時間レースとしては1968年以来、 約50年ぶりに開催されたことで多くの注目を集めた。 以来、富士24時間レースはスーパー耐久の名物イ ベントとして定着し、各クラスで名勝負が展開。5回 目の開催となる2022年の大会にも9クラスに56台、 280名以上のドライバーが集結し、各クラスで激し いバトルが繰り広げられた。復活して以来、熱い注目 を浴びている富士24時間レースだが、この大会は何 が特別なのだろうか。そして、24時間レースを戦うこ とで何が得られるのか? ここでは、2022年大会に 参加した参加者たちにその思いを聞いてみた。
夜間走行はチャレンジング 1周でも多く走るための戦術
「やっぱり24時間レースは夜間走行が特殊ですよね。 ナイトセッションはスピード感覚が違うので集中力が 必要ですし、2スティントを続けて走るとかなり疲労し てくる。その一方で、夜間は気温が低いので、慣れて
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“24時間”を戦い抜くことの難しさ… それは得難き経験と達成感のため!
2022年の「NAPAC富士SUPER TEC 24時間耐久レース」は曇天の富士 スピードウェイを6月4日(土)の15時にスタート。56台がエントリーした。
くるとタイムも上がって来るんです。だから、ドライ バーとしてはチャレンジング(笑)。十勝24時間レー スと比べると、富士24時間レースは照明設備がしっ かりしているのでかなり走りやすいですが、やっぱり
夜間走行は昼間の走行以上に気を遣いますよ」と語る のは、スーパーGTでは新田守男選手と12年ぶりに コンビを組むことになったベテラン高木真一選手。今 大会ではGrid Motorsport AMG GT3で参戦する。
「長い耐久レースでは、1周でも多く走れるように燃 費走行を意識すると同時に、クルマに衝撃を与えたく ないので、縁石を使わないようにクルマを労わりなが ら走ります。それに、タイムも追いかけません。これ
は24時間レースだけですね。同じスーパー耐久で も、6時間レースはスプリントレースと変わらないし、
同じFIA GT3車両を使ったスーパーGTの場合もス プリントレース状態ですから、ブロックしてでもポジ
ションを守ります。対して24時間レースでは、夜明 けまでは後続車が来たらすぐにウインカーを出して先 行させています」と語る高木選手。24時間レースなら ではのドライビングを心がけているという。
24時間レース終了後の達成感も大きいそうで「メカ
ニックが寝ることなく整備してくれたおかげでチェッ カーを受けることができる。1台のクルマをチームが 皆でつなぎながら導くので……やっぱり涙もろくなっ ちゃいますよね(笑)。24時間を走り切ってゴールする 過程は、6時間レースなどと比べても違います。やっ ぱり達成感はあるし、面白いですね」とも語る。
24時間レースは登頂困難な山登り チェッカーではその達成感に感動
スーパーGTではRUNUP SPORTSからFIA GT3 車両のGT-Rを走らせる青木孝行選手。スーパー耐久 ではDAISHIN GT3 GT-Rをドライブし、富士24時
高木真一選手
Grid Motorsport[888号車]
Grid Motorsport AMG GT3
青木孝行選手
GTNET MOTOR SPORTS
DAISHIN GT3 GT-R
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「“24時間”は 未踏峰の山登りに 挑戦するようなもの」
「“24時間”に比べれば スーパーGTも スプリントレース」
時間、 走り切る!
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[特集]耐久レース
隣接するホテルの照明を利用
山野哲也選手
日本自動車大学校[72号車]
OHLINS Roadster NATS
とで、やはり様々なレースをこなしてきたベテランで あっても24時間レースは特別な存在のようだ。
担当スティントに掛かる時間を いかに短くするかが勝負のキモ
間レースも参戦したベテランドライバーだ。
「レースを登山に例えるなら、24時間レースは困難と されている山に登る感じですね。なので、山頂、つま りゴールへ到達した達成感は特別なものがあります。
普通のレースを例えると、誰が山頂に早く辿り着くの かをモチベーションに戦っていますが、24時間レース はそのプロセスが長く、色々なトラブルを克服しなが らチェッカーを受けるので、登り切ったという達成感 だけで感動を得られるレースです」と語る。
さらに青木選手によれば「同じような車両でも、ス ーパーGTのような感覚で走るとブレーキや燃料を消 耗するので、長持ちさせる走り方になっています。そ れでも、ラップタイムとしては1秒か2秒を落とす程 度ですけどね。そして、走行距離も長いので普通のレ ースよりも疲れます(笑)。展開によっては一睡もでき ないこともありますしね。しかも、夜間の走行はスピ ード感が高く感じるので、昼間以上にオーバーテイク に気を遣います。それでも、ドライバーとしては24 時間レースはチャレンジングで面白いですね」とのこ
そして、富士24時間レースには、普段は他のカテゴ リーを戦うドライバーも多く参戦している。全日本ジ ムカーナ選手権で21回のタイトル獲得を成し遂げ、全 日本GT選手権、スーパーGTでもタイトル獲得経験 を持つマルチドライバー山野哲也選手もその一人だ。 「耐久レースはあらゆるものが“変化”していくんで す。レース自体がそうですが、例えば自分が担当する スティントが50周あったとしたら、その50周に掛か る時間をいかに短くするかが自分の仕事だと考えてい ます。クルマというものは、タイヤやブレーキ、トラ ンスミッション、クラッチなどの変化する要素が色々 あります。それらは周回数を重ねるごとに状況が変わ っていきますし、同じコースを速いクルマや遅いクル マと一緒に走るわけなので、変化する環境に対して自 分をいかに合わせ込めるかが大事になってきます」。 「レースでは『山野の走りはつまらない』と言われるこ とが多いんですが(笑)、それはその通りで、バトルし ないことが大切だと思っているからです。理由は、そ のクルマにとってベストなラインを取れなくなるから で、操舵角やブレーキングポイントが変わってしまう と、特にタイヤにダメージを与えてしまうんです。そ れは自分のスティントの時間を長くしてしまうだけな ので、まったく意味のない行為だと考えています。こ れを公言すると、ちょっと考え方がおかしいと思う人 もいるかも知れませんが、特に耐久レースでは、自分 が速く走ろうとか、ライバルを抜いてやろうとか考え ることが間違いで、自分のスティントをいかに短くす るかが最大のメリットだと考えています」と語る山野 選手。しかし、耐久レースでは得られることが多く、 ライバルと同じコースを共有するからこそ相対的な自 己評価につなげられるとも語る。
ライバルと自分との差が リアルタイムに明確化される
「ジムカーナで培った技量が他のカテゴリーで通用す るものなのかを試したくてレースの門を叩いたんです が、最初の頃に出たレースでは色々な発見がありまし た。金曜はドライで土曜はウェットという状況で、土 曜の予選ではクルマがどうしても曲がらなくて、ウェ ットのラインがあることも当時は知らなかったので、 予選の限られた時間の中で、違うラインやブレーキン グ、アクセルオンなどのタイミングを色々と試したん です。そこでは多くの発見があって、未だに忘れられ ないぐらい大切な時間でした。そしてレースでは、ラ イバルが同じコーナーで自分より早く立ち上がってい るとか、自分に迫ってきているといったことがリアル タイムに解ります。これは、特にタイムトライアル出
して表示された“24h”。天候に 恵まれドライ路面を維持でき た今大会では、キャンプサイト での観戦も定着してきた印象。
「耐久レースは ドラテク修練には 最適なフィールド」
身の人間にとってはありがたい状況でした。ライバル と自分との差がリアルタイムに解る競技ってレースし かないんですよ。それが耐久レースともなれば、許さ れる範囲で何度でも明確になりますからね。かつて、 耐久レースにCドライバーとして迎えてくれたチーム があって、そのチーム監督に『好きなように走って来 い』と言われたことがありました。その機会を利用し て、例えば、タイヤがタレて止まらない、曲がらない、 インに付けないといった状況では、大きなラインで速 度を上げるのか、速度を落として小さく回ってタイム を詰めるのかといった課題について、自分なりに試さ せてもらうことができたんです。このときが一番勉強 になった耐久レースでしたね」。
富士24時間レースでは日本自動車大学校と共にOH LINS Roadster NATSを駆りST-5クラスを完走した 山野選手。「変化に対して強くなれる」耐久レースへの 挑戦はあらゆる選手にオススメしたいとも語った。
ていなければならないんですよ」と気苦労を語る。
24時間レースはドライバーだけでなく、メカニッ クやエンジニアとっても過酷な一戦だ。 「ウチは普通のレースと同じ人数で24時間の全ての 作業をやっているので、まずメカニックは大変です。 エンジニアも一人で無線を聞きながら、ラップタイム を見て、ライバルチームの動きを見ないといけないの で、かなりキツイと思います」とは鈴木氏。
さらに「24時間レースはスペアパーツも多いし、キ ッチンカーやキャンピングカーも必要になってくる。 それにタイヤの本数も多い。単純計算で6時間レース の4倍の経費が掛かるわけですから、プライベーター チームにとっては大変です(苦笑)」とのことだ。
富士24時間レースはチームにとっても特別な一戦 となっているようで、2022年から活動を開始した FKS team FukushimaでフェアレディZを走らせ る、ドライバー兼チーム監督の鈴木宏和氏に、24時間 耐久レースにおけるチーム運営の難しさを聞いた。 「4時間レースならドライバーの順番もシンプルです が、24時間レースはドライバーの割り振りを考えるの が大変です。夜を得意とするドライバーもいれば、苦 手なドライバーもいますし、プラチナドライバーは走 れる時間が制限されています。長丁場なので、メンバ ーの休憩時間も確保しなければならないんですが、例 えば雨が降ったり、赤旗が出たりすれば、展開が変わ ってくるので、結果的にずっと状況を見ながら対応し
その一方で「スーパー耐久の富士24時間レースは 多くのポイントを獲れるので、チャンピオンシップを 考えると出ないわけにはいかない。他のレースで勝て なくても、富士24時間レースで勝てばタイトル争い に加われますし、チームとしても勉強になることが多 いので、チーム自体が成長できると思います」とも語 る鈴木氏。4人の若手ドライバーとつないだ311号車 は、ST-3クラス4位で完走を果たしている。
鈴木宏和監督/選手
FKS team Fukushima[311号車]
Team Fukushima Z34
24時間、 走り切る! [特集]耐久レース 24
プライベーターにはキツイけど チームは確実に“成長”できる!
「24時間耐久の挑戦はチームが大きく成長できる」
昨年までST-Zクラスを戦ってきたENDLESS AMG GT4は、今年か らST-Qクラスにスイッチ。これまでできなかった自社製品のブレー キシステムを装備して、耐久レースで鍛錬する試行を開始した。
ENDLESS SPORTS 花里功会長
十勝24時間レースがなくなり 24時間レースの大切さに気付いた
富士24時間レースは参加者にとって特別な存在で あるが、車両やアフターパーツの開発、という観点に おいても重要なレースであると位置付けられている。 スーパー耐久にはそういう狙いで参戦する企業に対し て「ST-Qクラス」を設定して門戸を開いている。
ここにはトヨタ自動車やマツダ、SUBARUに加え、 今年から日産自動車が参戦して、多くの自動車メーカ ーがクルマを鍛える場として活用しているが、アフタ ーパーツメーカーのエンドレスも今年からST-Qクラ スでの参戦を開始。ENDLESS SPORTSを率いる花 里功会長にその背景と狙いを聞いた。
「2018年に富士24時間レースが復活しましたが、6 時間レースの4倍のコストが掛かるし、色々なサポー トが必要なのでスタッフも増えるから、チームとして 24時間レースを戦うことは大変なんですよ。そして、 24時間レースを開催するためには夜間の騒音の問題 も出てきますが、触媒を付けたり、マフラーで音量を
ENDLESS SPORTSではST-2クラスに自社のブレーキキャリパー を装着したGRヤリスを投入。富士24時間レースでは若手ドライバー を積極起用する布陣だが、同じく若手を起用する225号車に惜敗。
下げたりと、エントラントも工夫しています。富士ス ピードウェイも花火を打ち上げたりして、地元のお祭 りにすることで地域の理解を得られたと聞いていま す。そうやって、いろんな関係者の情熱で富士24時 間レースが復活できたんだと思っています」。 「十勝24時間レースがなくなって初めて、日本にお ける24時間レースの大切さが分かったんですよ。昔 は、ポルシェといった欧州のクルマでないと24時間
復活5回目の富士24時間総合優勝は62号車GT-R! 富士24時間レースの総合優勝は、鳥羽豊/平木湧也/平木玲次 /ショウン・トン組が760周を走破した62号車HELM MOTORSP ORTS GTR GT3で、ST-Xクラスも制覇している。ST-Zは720周の 5ZIGEN AMG GT4、ST-TCRはTeam Noah HONDA CIVIC TCR、ST-QはENDLESS AMG GT4が優勝。ST-1クラスはシン ティアム アップルKTMが733周で優勝。ST-2はKTMS GR YAR IS、ST-3は埼玉トヨペットGBクラウンRS、ST-4はTOM’S SPIR IT GR86、ST-5はDXLアラゴスタNOPROデミオが優勝した。
「24時間レースがあったからこそ、国産車でも戦えるようになった」
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富士24時間レースのST-Qクラス優勝は今季2連勝となるENDLESS.AMG.GT4。今 大会には2台の新型Zもデビューして、業界の“最先端”が見られるレースに。
社製品に変更することが可能になった。そして、新た な仕様で挑んだAMG GT4は開幕戦から勝利を挙げ、 富士24時間レースでもブレーキ無交換でST-Qクラス を制覇。規定の部品を装着したST-Zクラスの車両を凌 駕する周回数を刻んでみせた。
レースは走り切れなくて、ノーマルから改造した日本 車はトラブルが出ることが多かったんです。それが、 どうやったら走り切れるかをチームもドライバーも考 えるようになり、国産車でもきちんと戦えるようにな ったと考えています。そういったことは、24時間を走 れる場所がないと分からないんですよね」。
「ウチはN1耐久時代を含めると、30年以上、スーパ ー耐久に関わってきてるけど、レースの現場で製品を 開発することがユーザーサポートにつながるし、後発 だけど欧州のパーツに負けないものを作れば、他のチ ームも当社の製品を選んでくれると考えています。他 のパーツメーカーもそうだと思いますが、常にパーツ を進化させないとユーザーさんに選んでもらえない。 そういう意味で、富士24時間レースはパーツメーカ ーにとって重要なレースだと捉えていて、実際、富士 24時間レースがなければ当社のブレーキシステムは ここまで進化しなかったと思います。逆に富士24時 間レースで開発を続けてきたからこそ、他のカテゴリ ーでもその技術が生かされているんですよね」。
ENDLESS SPORTSでは、それまでのST-Zクラス からST-Qクラスに変更することで、制動系パーツを自
花里氏は富士24時間レースについて思いを語る。 「欧州のようにキャンプを楽しみながら観戦するよう になったりして、復活5年目にして大会が定着してき たと感じます。それに近年はスーパー耐久にトヨタが 水素エンジン搭載モデルを投入したり、スバルがカー ボンニュートラル燃料、マツダがバイオディーゼル燃 料モデルを投入していますよね。今年の富士24時間 レースには日産も新型Zで参戦して、時代の“最先 端”が見られる舞台になっています。これは大会にと ってもシリーズにとってもいいことだと思います。も ちろん、富士24時間レースはまだ“過程”であり、こ れがベストという状態になるまで継続する必要がある と感じています。富士24時間レースが独自の文化と して定着するように協力していきたいですね」。
24時間レースではドライバーだけでなく、その走 りを支えるチームスタッフ、そして、レースを運営す るオーガナイザー、コースを管制するオフィシャルや マーシャルなどなど、様々な関係者が一丸となって 24時間を走り切ろうとしている。国内唯一にして最 大の長距離レースとなる富士24時間レースは、関係 する全ての人にとってプレミアムな一戦なのだ。
富士山の麓で争われるこのロングレースが、近い将 来、ル・マン24時間やデイトナ24時間、ニュルブル クリンク24時間、スパ24時間と並ぶような耐久レー スとして発展、定着することを期待してやまない。
24時間を走り切ることで 欧州に負けないモノができる
国産車でも戦えるようになった」 24時間、 走り切る!
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[特集]耐久レース
今、レーシングドライバーとして大成する
には、幼少からカートレースを始め、しっか
り成績を残した後、フォーミュラカーレー スでステップアップし続けるという“ラダー”がある。
最終目標をどこに定めるかはそれぞれではあるもの の、問題はどうその段階をたどるかだと言える。
例えば、FIAフォーミュラ1世界選手権(F1)で2年 目を迎えた角田裕毅選手は、4歳からカートに乗り始 めて16歳で限定Aライセンスを取得し、スーパーFJ 地方選手権の岡山シリーズでデビューウィンを達成。
併せてホンダのレーシングスクール、SRS-F(現・ HRS鈴鹿フォーミュラ)を受講した後、FIA-F4地方選 手権にステップアップする機会を与えられた。
また、今年のル・マン24時間ウィナーに輝いた平 川亮選手は、カートの乗り始めは13歳とやや遅めだ が、天賦の才があったのだろう。2年目にはジュニア
カート選手権でデビューウィンを遂げ、タイトルも獲 得した。そして16歳になると限定Aライを取得し
て、スーパーFJ岡山シリーズでもデビューウィンを 飾っている。併せてレーシングスクールを受講してい
るが、平川選手はトヨタのFTRS(現・TGR-DC RS) で、現在のFIA-F4に相当するフォーミュラチャレン ジ・ジャパン(FCJ)に出場の機会を与えられている。
角田選手は2018年には欧州に渡り、平川選手は 2012年から全日本フォーミュラ3選手権にステップ
[特集]レース/RACE
アップ。ここから先のキャリアは、今さら触れるまで もないだろう。この二人はまさに王道を歩み、日本を 代表し、将来を嘱望されるレーシングドライバーとし て活動しているわけだ。
ただ、彼らのラダーも一本道だったかというと、そ うでもなく、角田選手はFIA-F4と同時にフォーミュ ラ4地方選手権(JAF-F4)にも挑み、平川選手は全日 本F3参戦の年にポルシェカレラカップジャパン (PCCJ)にも挑戦して、ともにチャンピオンを獲得し ている。機会が与えられるなら、“掛け持ち”も“寄り 道”も、もちろんアリということだ。
運命の回り道
貴重なチャンスをつかみ取り、自分のラダーでステップアップ!
自動車メーカーが支援するドライバー育成プログラムでは、各種フォーミュラ経験を通じて 国内または世界の頂点にステップアップするラダーが構築されている。
しかし、そんな機会をモノにできるドライバーはごく少数。その他のドライバーは 自分のゴールに進む道を自分で切り拓く必要がある。ここでは、回り道をしながらも、
“自分の道”で目標に突き進むレーシングドライバーたちの紆余曲折を聞いた。
PHOTO/石原康[Yasushi.ISHIHARA]、遠藤樹弥[Tatsuya.ENDOU]、はた☆なおゆき[Naoyuki.HATA]、吉見幸夫[Yukio.YOSHIMI]、 TOYOTA.GAZOO.Racing、JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS] REPORT/はた☆なおゆき[Naoyuki.HATA]、JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS]
昨
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しかし、彼らのように自動車メーカーの育成枠に入 らなければ、ここまで王道を歩めないのでは、という
疑問も生じてくる。実際、そのようなスカラシップを 得られるドライバーは年に数人に過ぎず、本当にそう
であれば、かなりの狭き門と言えるだろう。
前置きが長くなってしまったが、ここからが本題で ある。レーシングドライバーは、その一握りだけが頂 点につながるラダーをつかむことができるが、圧倒的 多数を占める他のドライバーたちは、彼らなりの進む 道を自ら構築して、彼らなりの貴重なチャンスを得よ うとしている。ここではそんな試行を紹介したい。
中嶋一貴選手に次ぐ次世代の牽引役を期待される平川亮選手。FIA世界耐久選手権(WEC)本格 参戦初年で、伝統のル・マン24時間レースを制するなど、着実な進化を遂げている。スクーデリ アアルファタウリで活躍する角田裕毅選手は、FIA-F4と並行してマルチメイクでパワーのあるJA F-F4にも挑戦して経験値を高めていた。FIA.F3時代にもEuro.Formula.Openに参戦し、冬季には TOYOTA.Racing.Seriesにも挑むなど、走れる機会を貪欲に引き寄せつつ、主戦場ではしっかり と成績を残して規定のスーパーライセンスポイントを獲得した。
2戦目の富士でいきなりGT300初優勝! 先輩の助言でつかんだハコ車への道
最初のドライバーは、今年からスーパーGTにステ ップアップを果たし、GT300クラスで富田竜一郎選手 とともにTANAX GAINER GT-Rを駆る、大草りき 選手だ。大草選手はわずか2戦で優勝を果たし、3戦目
には、幻に終わったものの、自らの手でポールポジシ ョン・タイムをたたき出している。
「カートを始めたのは小学校3年生の頃で、ちょっと 遅めでしたが、そのままステップアップできて、最高 峰の全日本カートKF部門に出たのが16歳の時でし た。2016年にランキング6位になって限定Aライセ ンスが取れました。実は、その当時から安田裕信さん にお世話になっていて、それは今にも至っています」。
そして2017年、17歳の大草選手はスーパーFJに ステップアップ。オリジナルマシンの開発を託されて 参戦を開始する。その結果、富士シリーズと菅生シリ ーズで二冠を達成。成果も残したことで、そのままフ ォーミュラ路線を突き進むものと思われた。しかしそ の頃、大草りき選手は挫折を味わっていたという。
「16歳の時にFTRSの受講を勧められたんですが、オ ーディションに受からなくて。それも2年連続で。そ
れでフォーミュラはしんどいのかなと思い始めていた
んです。そんなときに、運転免許を取ったタイミング で、安田さんから『お前はフォーミュラじゃなくて、ス ーパー耐久で行こう』って話をしてもらったんです。こ
のチャンスをいただいたのがキッカケ……というか、 自分の中ではフォーミュラから一区切り付けることが、 できました。やはりオーディションを落ち続けてめっ ちゃ悔しかったんですよ。練習もあんまりできていな かったし、僕は“緊張しい”なので、本番ではまったく 力を出せずに終わっちゃってましたから。でも、思い 返せば、そこで落ちたことが今につながっているので、 結果的には正解、とは言わないまでも、僕にとっては いい選択だったのかな、と感じています」。
安田選手の見立ては正しかった。2019年にはスー パー耐久ST-3クラスでチャンピオンを獲得する。
「ここに来るまで、今も昔も、安田さんには何から何 までお世話してもらいましたから、すごく感謝してい
ます。昨年はフォーミュラリージョナルにスポット参 戦させてもらい、勝つこともできました。その時も、 安田さんについて行って良かったなぁ、と。安田さん が寄り添ってくれたことでメンタル的にもすごく支え になりましたし、もう何を言われてもついていこうと 思っていたので、信頼できる人が近くにいたからこ そ、自分はここまでやって来られたと思っています」。 一時は諦めたフォーミュラ路線。信頼できる先輩の 導きで前向きになれてビッグチャンスも転がり込む。 「フォーミュラリージョナルで結果を残せたことで、 GAINERさんのオーディションに呼んでもらえまし た。あのレースに出なかったら、そして勝てなかった ら、今年の自分はなかった。正直、ここまで来られる とは思っていませんでしたから。安田さんを始め、皆 さんには感謝しかありません。チャンピオン獲得とい う形で恩返しをしたいのですが、速さは示せているか も知れませんが、まだまだ足りていません」。 大草選手は、こんな力強い言葉で締めてくれた。 「僕みたいな道を歩むドライバーって、他にもたくさ んいると思います。それこそ限られた道に進めなかっ たとか、まさに僕はそうなんですけど、そういうドラ イバーでもここまで来られるんだぞ、ってところを見 せていきたいと思います!」。
日本の頂点を目指すなら、やはり スーパーフォーミュラ・ライツで
今年から全日本スーパーフォーミュラ・ライツ選手 権(SFL)に挑むこととなった、菅波冬悟選手と川合孝 汰選手もまた、貴重なチャンスを必死につかもうとし ているレーシングドライバーだ。 ともにレーシングカート出身で、菅波選手は大阪ト ヨペット(OTG)とダンロップによるスカラシップで、 一足飛びにFIA-F4参戦の機会を得たのに対し、川合
スーパーGT第2戦富士で GT300初勝利を挙げた大 草りき選手。安田裕信選手 の勧めで挑戦した2019年 のスーパー耐久ST-3クラ スでチャンピオンを獲得 し、2021年のフォーミュラ リージョナル第2大会レー ス4で勝利を挙げた。この “回り道”が結果的に自身の モチベーションを高め、道 が拓かれる契機となった。
FIAインターナショナルシリーズスーパーGT GT300クラス
TANAX GAINER GT-R
… … 運命の 回り道 [特集]レース
大草りき選手
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選手はスーパーFJを経て、もてぎS-FJシリーズでチ ャンピオンを獲得した後、FIA-F4に駒を進めている。
デビューは川合選手の方が一足早く2016年で、菅波 選手はその翌年。卒業は同時で、2019年までFIA-F4 を戦っていた。
チャンピオンこそ獲得できなかったものの、秘めた
る才能や努力の積み重ねは大いに評価されていたのだ ろう。菅波選手はシーズン途中に、そして川合選手も
2020年からGT300のシートを得る。併せてスーパ
ー耐久シリーズやTOYOTA GAZOO Racing 86/ BRZレースにも参戦して、ともに結果を残して評価を 高めていたが、彼らにとっての「あがり」はそういった
境遇ではなかった。彼らの目標は、全日本スーパーフ ォーミュラ選手権であり、GT500クラスだったのだ。 その国内最高峰にたどり着くための模索が始まる。 「自分の現状より“先”というのは、本当にこのSFL
というカテゴリーなくしては進めないと思うので、こ こで結果を出すことで、関係者にアピールできると思 ったんです」とは菅波選手。そして、川合選手も「本当 はFIA-F4を卒業した時点でSFLをやりたかったんで
すが、資金的な問題もあって……。そこから色々あっ てGT300に乗れるチャンスをいただいたんですが、 やっぱりメーカーのドライバーになりたいという目標 があったんです。SFLの結果とGT300の結果があっ
て、初めてGT500のテストとかに呼ばれるという話 も聞いたことがあったので、お願いして今年はSFL で乗せてもらえることになりました」と語る。
もっとも、SFLレベルとなると、志願したからとい
って、おいそれと乗れるわけではない。この二人はシ ートを与えられた時点で一つ目の関門を突破したが、
菅波冬悟選手や川合孝汰選手が選んだ全日本スーパーフォーミュラ・ラ イツ選手権を軸とした再チャレンジ。このシリーズは全日本スーパー フォーミュラ選手権への登竜門的な存在として明確化されているが、 スーパーGTで戦うプロドライバーたちも、全日本フォーミュラ3選手権 時代を含めて、切磋琢磨を重ねた末に限られたシートを獲得してきた。
二つ目の関門が、なかなかの難物となっている。
SFLでは菅波選手も川合選手も、後半戦に突入し た段階で、まだ一度も表彰台に上がることを許されて いない。テストは好調なのだが、なぜか本戦に差し掛 かると、展開に恵まれずにいる。
富士スピードウェイの開幕大会を振り返ると、予選 を前にして菅波選手はこう語っていた。「やっぱり2 年ちょっとフォーミュラから離れて、ブランクを感じ ていたんですが、エンジニアの方ともよく話をして、 いろいろ理解しつつ、もっと行けるはずなのに……と いうのがあるんです」と。そして、川合選手も「練習で はセクターベストをつなぐとトップタイムだったりし て、ホントに“あとコンマ何秒”のところにまでは来 ているんです。けど、いかんせんまとま っていないのと、走り方も探り探りになっ
ていて……」と、SFLに苦悩する状況を、 二人とも隠そうとしなかった。
自らが課した回り道では、もがき続け ることになったものの、積極的につかみ に行ったチャンスを、しっかり手にする ことを期待せずにはいられない。
菅波冬悟選手
JAF全日本スーパーフォーミュラ・ライツ選手権
Byoubugaura B-MAX Racing 320
川合孝汰選手
JAF全日本スーパーフォーミュラ・ライツ選手権
Rn-sports 320
這い上がるための再挑戦!やはり〝ライツ〞は外せない
運命の 回り道
[特集]レース
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西村和真選手
FIA-フォーミュラ4地方選手権 HFDP RACING TEAM
F I A - F 4
レーシングカート経験は現代のラダー では必須とされているが、西村和真選手 は少年期を野球に費やし、18歳になって からモータースポーツの世界に入った。
飄々とした雰囲気ながらもVITAやスー パーFJで実績を重ね、臥薪嘗胆でついに FIA-F4に参戦する道を得た。
レーシングカート経験なしで 四輪レースのラダーを駆け上がる
最後に取り上げる西村和真選手は、まだ「途上」にい るものの、レーシングカート経験なしで、王道への “はじめの一歩”を踏み始めた貴重なドライバーだ。
「高校まで野球をやっていて、最後の夏の大会では大 阪でベスト4まで行ったんです。自分はベンチ入りで きませんでしたけど(笑)。私立でしたが毎日練習があ るような環境だったので、小さい頃からカートに、と いうわけにはいかなかったんです。僕は覚えていない んですが、親がカートコースに連れて行ってくれたと きに、僕はエンジン音を怖がったらしくて(笑)」。
キッカケは与えられたものの、食い付かなかった西 村選手。それがなぜレース参戦に結び付いたのか。
「野球の練習が休みの時は、家でグランツーリスモと かゲームをやっていたんですね。それを脇で見ていた からなのか、18歳で運転免許を取ったらすぐに、『SR S-Fっていうのがあるけど、どう?』って父に言われ たんです。『じゃあ、行ってみる!』となったんです が、練習もなしに受講したらカート経験者と1秒ぐら いしか差がなくて。それなら、ちゃんと練習してみよ うと調べていたら、ウエストさんのスーパーFJドラ イバー募集を見つけて、挑戦することにしました」。
ここで言うSRS-Fとは、いわゆるSTEP1と呼ば れる「お試し」にも匹敵するクラスである。いずれにせ
よ、この経験が西村選手を一気に目覚めさせた。 「でも、それが4月だったので、スーパーFJのドラ イバーはもう決まっていたんです。その時に『こうい うのがあるよ』とVITAレースを勧めてもらって。恐 らくカート経験がないので、いきなりスーパーFJに 行くよりVITAで練習した方がいいって思ってくれた んでしょうね。もっとも、今思うと、何の経験もなし にSRS-Fを受けたこと自体が、勇気あることだった と言うか、知らないというのは強いですね」と笑う。 VITAレースには6月からの参戦となったため、全 戦出場とはならなかったが、シリーズ2位を獲得する。
「その翌年、2019年にもSRS-Fを受講し て、STEP2まで行けましたが、フォーミュ ラの動きが分からなかったので、その先には 進めませんでした。VITAだけでは難しいか なという思いが僕の中にもありましたし、 2020年は鈴鹿サーキットで知り合ったオー ナーさんのご厚意で『オートポリスに行こう』 と言ってもらえて、スーパーFJを戦う機会 をいただきました。そこでチャンピオンを獲 得できたのは良かったですね」。
少年期を野球に捧げただけにフィジカル面のコント ロールは上手かったのだろう。そして、実戦の中で重 ねていた努力が実を結んで、西村選手に「三度目の正 直」を果たすチャンスが訪れた。2022年にはHonda フォーミュラドリームプロジェクト(HFDP)への加入 が認められ、FIA-F4参戦が決まったのだ。
シリーズ4戦を終えた段階で、まだ表彰台に立てて はいないが、四輪脱輪で採用されなかった「幻のポー ル」も経験し、早くも存在感を示している。
「最初にSRS-Fを受けた時から、まず最終選考に残 ることを意識してやってきたので、それが何とか叶っ て、とりあえず一安心という感じです。それと、よう やくスタートラインに立てたという気持ちもあるの で、これからも頑張っていきたいと思っています。 “カートの経験がなくても……!”という思いはあり ますね」と語る西村選手だが、続けて「でも、やはりレ ーシングカートの経験はあった方がいいのは間違いあ りません。今の僕にはレースの組み立て方とかが足り ない部分ですから。でも、これから僕がステップアッ プしていけたなら、“カートをやっていなくても、ハ ンデなくやっていける”ことを示していけるんじゃな いかと、勝手に思っています(笑)」。
FIA-F4のシートを得て、新たな道を切り拓く可能 性をも嘱望される西村選手。パイオニアになるために は、激戦シリーズでのまず一勝が欲しいところだ。
運命の 回り道 [特集]レース
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973年の全日本F2000選手権 を皮切りに、国内トップフォー ミュラカテゴリーが始まって50 年を迎えようとしている。そしてその節目 に、今後の50年をどうしていくのかを模索 すべく、現在、国内の頂点に位置する全日 本スーパーフォーミュラ選手権を統括する JRPでは、来年以降を見据えて「SUPER FORMULA NEXT50(ネクストゴー)」プロ ジェクトを立ち上げ、ソフト/ハードの両 面でさまざまなトライを開始した。 中でもプロジェクトの柱のひとつとなっ ているのが、「カーボンニュートラルの実 現に向けた素材・タイヤ・燃料の実験」と、 「ドライバーの力が最大限引き出せるエア ロダイナミクスの改善」。その実現を目的 とした開発テストが、2022年のシリーズ戦 前後に各サーキットで行われている。
「IMPULでんき」を代表とする再生可能エネルギー事 業を行う、伊藤忠エネクス株式会社とのパートナー シップを締結した。その伊藤忠エネクス執行役員 カーライフ部門長の茂木司氏を紹介する、日本レー スプロモーションの上野禎久代表取締役。
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REPORT/貝島由美子[Yumiko.KAIJIMA]、JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS]
PHOTO/日本レースプロモーション[JRP]
開発が進む 日本から次世代を創造する!国内モータースポーツの試行
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「SUPER.FORMULA.NEXT.50」プロジェクトでは、 カーボンニュートラルの実現に向け、横浜ゴムによる 次世代タイヤの開発をはじめ、素材や燃料まで幅広く 実験を行っている。また、ドライバーのポテンシャルを 最大限に発揮できるようにエアロダイナミクスを改善。 そしてエンターテインメントの向上につながるような 車両を開発している。これらはすべて次の50年の持続 可能なモータースポーツを目指しての取り組みである。
テスト車両のドライバーを務めているの は塚越広大選手と石浦宏明選手。ホンダエ ンジン搭載車両とトヨタエンジン搭載車両 の、2台のテスト車両を用いて、シリーズに 参戦している各チームが持ち回りでメンテ ナンスを担当しながら、毎回2日・計8時 間のセッションが設けられている。
これまでテストが行われたのは、開幕戦 と第2戦が行われた富士スピードウェイ、 第3戦が行われた鈴鹿サーキット、第4戦 が行われたオートポリス、第5戦が行われ たスポーツランドSUGOの4か所。今後、 さらに富士、もてぎ、鈴鹿と3回のテスト が予定されている。
この開発テストでは、いずれのサーキッ トでも、まずは次期型エアロパーツを開発 する上での空力のテストが行われている。 そのために、現行車両が各サーキットで使 用しているリアウイングの仰角と、そこか ら削った状態での走行を行っているだけで なく、2台のマシンが前後を入れ替えなが
業界コラボで戦い抜く!
まさにクルマを鍛える場 時間レース〞でも
開発ドライバーを担うのは塚越広大選手と石浦宏明選手。通称「白虎」、「赤虎」と呼ばれる開発車 両で、さまざまなテーマを元にテストを進めている。ドライビングから得られた各種データを通し て、見えてきた課題点を次につなげ、カーボンニュートラル化に向け熟成させていく重要な役割だ。
ら追走テストをしてデータを採取。来年以 降のエアロパッケージでは、よりオーバー テイクが可能になることを目指している。 これに関しては、毎回テスト後にイタリア のダラーラ社にデータを送り、ダラーラ社 側でもシミュレーションを実行。そろそろ 形もまとまってきているそうだ。
タイヤについては横浜ゴムの協力により、 カーボンニュートラル素材を使用して構造 やコンパウンドのテストが行われて、初回 の富士では構造4種類、コンパウンド4種
類をテストし、その後、オートポリスや SUGOでは、さらに改良したコンパウンド もテストされた。ダウンフォースを削った 状態で、ショートラン/ロングランとタイ ヤテストすることで、次期型エアロパッケ ージとなってからも予選やレースに対応で きるよう開発が進められている。
3つめの項目としてテストしているのは、 カーボンニュートラルフューエル。これに 関しては、これまで製造会社が違う3種類 のものをテストした。中でも2番目にテス トしたものと3番目にテストしたものに関 しては、従来のレース燃料とほぼ同等のパ フォーマンスがあると、ドライバーたちも 評価している。
さらに2回目の鈴鹿テストからは、スイ
スのBcomp社が開発したバイオコンポジ
ット素材とカーボンを組み合わせたサイド ポンツーンやエンジンカウルのテストを開 始。いきなり100%バイオコンポジットの パーツを使用するには、まだまだ強度や耐 久性の問題があるとのことで、ハイブリッ ド型のものをテストしているが、将来的に バイオコンポジットの割合を増やしていけ ればという狙いもあるという。 そして4回目のSUGOからテストを開 始したのが、エンジンサウンド。現在使用 されているターボエンジンは4気筒だが、 長さや形状の違うメインエキゾーストパイ プと、ウェイストゲートパイプとの組み合 わせによって、8気筒の音が再現されるよ うにすることで、レースの迫力を増そうと いう狙いがある。SUGOでは、まずトヨタ がこのサウンドテストを実施。次回、富士 にはホンダも自社設計のパーツを持ち込ん でテストする予定で、今後どんどん改良さ れていくことになっている。
フォーミュラカーレースにおいて、タイ ヤ、燃料、ボディ素材と、これだけ同時に カーボンニュートラル素材をテストしてい るカテゴリーは、世界的にも他に例を見な い。それだけ革新的ということで、注目に 値するものと言える。
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2021年のスーパー耐久シリーズに参戦して一躍話題となった「ORC.Rook ie.GR.Corolla.H2.Concept」。今年はTOYOTA.GAZOO.Racing.WRTのヤリ -マティ・ラトバラチーム代表も参加し、活動をグローバルにアピールした。
れるばかりか、航続距離が飛躍的に伸びる のは間違いない。
ーパー耐久シリーズのST-Qは メーカー開発車両を対象とした クラスであり、富士24時間レー
スが行われた第2戦には最多となる7台の エントリーが集まった。これは同レースがシ リーズの大一番であることが影響している。
中でも販売前の「Nissan Z Racing Conce pt」をNISMOとMax Racingがこのレース に投じたことで、より一層の注目を集めた。
この2台の新型Zは当初、単純にデモン ストレーション的要素での参戦と思われて いた。しかしレース当日になって、NISMO は230号車のボディに「Carbon Neutral Fuel」と記し、バイオ燃料を使用しているこ
とを発表。予選では、ガソリンを使用してい る244号車のMax Racingとほぼ遜色のな いタイムを記録し、性能も同等であること をアピールした。
一方、昨年の富士24時間でデビューした
水素カローラこと「ORC Rookie GR Corol la H2 Concept」も、1年の実戦参加を経て 大きな進化を遂げた。まず予選においては 1分58秒867と、2021年のレース中のベス トラップタイム2分04秒059と比較すると 約5秒以上の短縮。さらに周回数も358周 から478周と大きく伸ばしている。
これにはエンジンの性能向上が大きく貢 献しており、出力は20%、トルクは30%以上 も上がった。こういった数字上では、もはや ガソリンエンジンにも匹敵する性能を獲得 できるようになったと言える。またシャシー
においても10kgの軽量化、そしてエアロ パーツの改良も効果として挙げられていた。 また水素の充填時間は、約5分かかって いたものが1分半にまで短縮され、航続距 離も20%伸ばされた。だが、ピットストップ 回数はというと……。これが実に41回にも 及んでおり、ST-5クラスで優勝を飾った 「DXLアラゴスタNOPROデミオ」が最小回 数の13回。つまり、連続して走れるのは時 間にして30分強、周回数としては13周程度 でしかないわけだ。
もちろんこのあたりも今後の課題として 見据え、液体水素の使用が計画されている ことも新たに発表された。ちなみに水素を 液体化すると、体積を800分の1にまで圧 縮可能だという。これにより、車体後部の大 部分を占める水素タンクの大幅な縮小を図
しかし、ほかにもまだ課題は残り、水素を 液化するには摂氏マイナス235度まで冷却 せねばならず、なおかつ常にキープしてい かなくてはならない点が挙げられる。もは やロケットレベルの技術領域にも及ぶわけ だが、このたった1年での水素カローラの進 化を見る限りにおいて、本当に近い将来、実 現可能なのではないかと思えてならない。 「MAZDA SPIRIT RACING MAZDA2 Bio Concept」による、使用済み食用油+ ユーグレナを原料とする次世代燃料のテス トは、価格が1リッター約1万円と極めて高 価だそう。だが、2025年には現在の2000 倍製造可能なプラントが完成予定とのこ と。そうなれば250円程度にまで価格は下 がる計算で、市販車での使用も一層現実味 を帯びてくる。
今や“走る実験室”を地で行くST-Qクラ スから、徐々に具現化されていく「未来」が 創造されていくと考えると、これからのレー スがますます楽しみになってきた。
新型Zがついに登場 ST-Qで熟成が進む
日産とNMCは今後のモータースポーツでの可能性を探るべく、新型 Zをスーパー耐久の富士24時間に投入。開発テストの一環として、 主にカーボン・ニュートラル・フューエルのデータ収集を行った。
このレースに
〝富士 24
ス 27
PHOTO/遠藤樹弥[Tatsuya.ENDOU] REPORT/はた☆なおゆき[Naoyuki.HATA]、JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS]
宿命の 好敵手
「アイツに勝ちたい!」と思うライバルの存在が自分を強くしてくれる。現在、全日本カート選手権の最高峰OK部門で競い合い、ともに高め合う関係を築いている佐々木大樹選手と三村壮太郎選手は、 ジュニア時代から続く宿命のライバルといっても過言ではない。彼らを突き動かす、カートに賭ける想いとはなにかを聞いてみた。
佐々木大樹
ささきだいき/埼玉県出身/30歳。2003年、 ジュニアカート選手権FP-Jr部門でデビュー。 2007年、全日本カート選手権の最高峰たる FA部門に初参戦。以降、2007年/2008年 /2019年/2021年と4度のチャンピオンに 輝く。2009年から四輪レースにも参戦を始 め、スーパーGT・GT500クラスで活躍中。
2
022年の全日本カート選手権OK部門、そ こにはモータースポーツの頂点へのステッ プアップを夢見て、切磋琢磨している若手 ドライバーが数多く参戦していた。その一方で、そん な若手の壁となりながら、己のスキルを追求し続ける ベテランドライバーも存在する。
彼らの名は佐々木大樹選手と三村壮太郎選手。とも に1991年生まれと同い年で、30歳を超えてもなおト ップコンテンダーとして最高峰部門に君臨している。 さかのぼることジュニアカート時代から戦ってきた、 気心の知れた2人だが、これまでどのようなカート人 生を歩んできたのだろうか。
東地域で唯一の黒星を付けた三村選手 ガチンコで佐々木選手から一勝を奪った 三村選手との関係性を聞きたいと佐々木選手に話を 投げかけると、彼の口からは真っ先に“あのレース” の話が出てきた。
「その年、僕は5戦3勝でチャンピオンを獲ったんで すが、東西統一競技会の一戦を除いて、東地域の4戦 のレースで唯一負けた相手が壮太郎だったんです」。
三村壮太郎
あのレースとは今から18年前、 2004年のジュニアカート選手権 FP-Jr部門でのことだ。2003年に このカテゴリーで全国区のレース デビューを飾った佐々木選手は、 たちまち勝利を重ねてその名を広 く知らしめた。そして同部門2年目の2004年も、東 地域で開幕戦から2連勝を遂げ、圧倒的な速さを見せ つけていた。だが、千葉県・茂原ツインサーキットで 開催された第3戦で、その目の前に立ちはだかったの が三村選手だった。
佐々木選手はこの一戦のことを、今もよく覚えていた。
「最終ラップに抜いたり抜かれたりがあって、最終的に 壮太郎に負けちゃったレースでした。そのころは自分も 若かったので、誰にも負けないって思っていたんですけ ど、ガチンコで戦って負けたレースが久しぶりで……。
壮太郎とは、このときのイメージが強いかな」。 三村選手も、このレースの記憶は鮮明だった。
「東地域で大樹が連勝していて、僕は2位とかそうい う順位が多かったんですけど、茂原で大樹と1対1の レースで勝つことができたんです。大樹は多分そこで 僕に一目置いてくれたのかなって思います。僕は大樹 と平峰君(現GT500ドライバー・平峰一貴選手)と最 終戦までチャンピオン争いをしていて、結局は僕と平 峰君ともうひとりがぶつかっちゃってチャンピオンを 獲れなかったんです。大樹はちっちゃいころから強か ったですね。レースを組み立てる力がずば抜けてい
PHOTO/長谷川拓司[Takuji.HASEGAWA]、JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS] REPORT/水谷一夫[Kazuo.MIZUTANI]、JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS]
みむらそうたろう/茨城県出身/30歳。2004 年、ジュニアカート選手権FP-Jr部門にデ ビュー。2009年、全日本カート選手権の最高 峰たるKF1部門に初参戦。2010年、2011年、 2013年〜2021年にはヨコハマタイヤ・ユー ザーとして参戦し、2015年には同社の初優勝 を達成、2018年の初戴冠にも貢献した。
[特集]カート/KART
た。いろいろ刺激になる相手でしたね」。
この2004年のジュニア選手権東地域第3戦茂原大 会が、佐々木選手と三村選手が今に至るまで紡ぎ続け るライバルストーリーの始まりだった。
現役ドライバーたちのライバルストーリーは 四輪レースでも続いているが……
レーシングドライバーのライバルストーリーは、レ ースのドラマを語る上で欠かせない重要なエピソード と言えよう。その戦いの歴史は、少年期のカート時代 までさかのぼることも少なくない。
例えは阪口晴南選手と宮田莉朋選手は、2013年の 全日本カート選手権KF2部門で熱いチャンピオン争 いを繰り広げて注目を浴びた。このふたりの戦いは 今、スーパーフォーミュラやスーパーGTに舞台を移 して続いている。
また、笹原右京選手は2006年に全国区のスカラシ ップレースにデビューするや、一躍この世代のジュニア レースをリードする存在となったのだが、重要なレース でたびたびその足元をすくったのが、ひとつ年上の山 下健太選手だった。その後、山下選手はひと足先に国
元全日本ドライバーから見た佐々木大樹選手×三村壮太郎選手
チーム代表・佐藤奨二氏
「僕は26歳でトップカテゴリーに上がったんですが、30代にな ると動体視力とかがガックリと落ちてくるんです。そういう中 で彼らが今もトップカテゴリーで走り続けているのはすごいと 思います。大樹は僕がマネジャーだったチームに加わったとき (2013〜2014年)にも、ストイックな姿勢に感銘を受けまし た。彼らの活躍は全日本に限らず、ローカルレースのドライ バーの励みにもなっていると思います」。
2004年ジュニア選手権第3戦の表 彰台に立つ三村選手(中央)と佐々 木選手(左)。この年、飛ぶ鳥を落と す勢いだった佐々木選手に「ガチン コの戦い(佐々木選手談)」で三村選 手が土をつけたことで、ふたりのラ イバル関係がにわかにクローズ アップされることとなった。
内の四輪レースで注目の存在に。一方、笹原選手は海 外のジュニアフォーミュラやポルシェカレラカップとい った、王道のステップアップルートとはやや毛色の異な る道を歩んだ。そしてふたりは今、スーパーフォーミュ ラとスーパーGTで再び相まみえる存在となった。 海外に目を移せば、ルイス・ハミルトン選手とニ コ・ロズベルグ選手は、2000年にMBM.comなる謎 めいたカートチーム(後にそれはマクラーレンのジュ ニア育成チームだと知れることになる)のドライバー として国際カートレースでデビューを飾り、ふたりで この年のフォーミュラAヨーロッパ選手権を席巻。 その後、F1でもチームメイトとしてチャンピオン争い を繰り広げたのはご存知のことだろう。さらに言え ば、2000年の同期生の中にはロバート・クビサ選手 の名前もあった。
佐々木選手と三村選手のライバルストーリーがやや 特殊なのは、それが発端から18年経った今も、カー トレースを舞台に続けられていることだ。
佐々木選手は2007年に全日本カート選手権の最高 峰であった当時のFA部門にデビューすると、2年連続 で最高峰部門のチャンピオンを獲得。その活躍が認め られてニッサン・ドライバー・デベロップメント・プ ログラム(NDDP)のメンバーに加わると、2008年に はフォーミュラカーレースでデビューを飾り、プロフ ェッショナルレーシングドライバーへの道を駆け上が っていく。
そして、佐々木選手は2009年を除いてカートレー スへの参戦も継続。全日本では最高峰部門に出場し続 けて実に4度ものチャンピオンに輝き、四輪レースと カートレースの双方のトップカテゴリーで同時に活躍 を続ける稀有な存在となった。佐々木選手のカート活 動においては、最高峰部門の初年度から今まで続くブ
宿命の
TOKAI DENSO DSM
30
※2008〜2012年にKF1部門/SuperKF部門で対戦
リヂストンのタイヤ開発ドライバーとしての功績も忘 れてはならないものだ。
一方で三村選手はローカルレース参戦の年をはさ み、佐々木選手から2年遅れて2009年に全日本の最 高峰だったKF1部門でデビュー。この年の最終戦で 20台抜きの末に初優勝を飾り、才能を証明した。
ここからの三村選手は佐々木選手とは対照的に、一 般の社会人として働きながらカートレースひと筋の道 を歩んでいく。2010年には横浜ゴムのタイヤ開発ド ライバーとなって、全日本の最高峰部門への参戦を継 続。2015年にはついに、タイヤメーカー3社が参入 する最高峰部門において、最後発だったヨコハマタイ ヤに初勝利をもたらした。
ふたりは異なる道を進みながら、2010年の全日本 の最高峰部門で再び刃を交えることに。そしてともに 30歳を超えた2022年、そのフィールドでトップコ ンテンダーとして勝利を競い合っている。四輪レース
へのステップアップを目指す何人もの若手ドライバー たちがデビューと卒業をひんぱんに繰り返すこのカテ ゴリーにあって、ジュニア時代からの同期がふたりそ ろって参戦を続け、さらには優勝争いの常連として活 躍し続けているのは、異例と言っていいことだ。
宿命のライバルたる存在になっている
佐々木選手は現在の三村選手をこう評する。 「今のOK部門は以前の最高峰に比べると、タイヤも 含めて進化しているし、重量も軽くて、すごく速くな っています。スーパーGTの現役ドライバーでも、パ ッと乗ってまともに走れるカテゴリーではなく、30歳 を過ぎて生半可な気持ちで出られるレースじゃありま せん。僕は毎週のようにスーパーGTなどのレースに 出ているけれど、壮太郎は普段、普通に仕事をしてい て、レースになるとサーキットに来てパッとマシンに 乗る立場ですよね。体力的にも厳しいはずなのに、首 がツラいとか何とか言いながら、そこをうまく合わせ 込んでちゃんと走っている。そういう技術とか体力の
使い方とかはすごいと思います」。 「壮太郎は僕に似ていて、しっかり考えてレースを組 み立てていくドライバー。攻めなきゃいけないときと攻 めどころじゃないときとのメリハリが効いてますよね。 でも、壮太郎は今までチャンピオンを獲っていない。 チャンピオンを目の前にしてプレッシャーがかかったと きに壮太郎の真価が分かるんだろうし、僕としてはそ こを突いていくしかないのかな、とも思います」。
対して三村選手は、佐々木選手の存在感の大きさを 口にする。
「中山君(現GT500ドライバー・中山雄一選手)も平 峰君も、僕らの世代は明らかに、大樹に引っ張られて きたんだと思うんです。ちっちゃいころからずっと大 樹を目標にしてカートを続けてきた感があります。30 歳を過ぎた今も、同じレースに大樹がいて、結果を出 しているから、僕も年齢を言い訳にできない状況をつ くってもらっていますし、大樹にしても僕の存在が刺 激になっているのかなって思います。向こうがどうか は分からないけれど、僕はずっと大樹をライバルだと 思っているんで、こういう関係を長く続けられている ことはうれしいですね」。
「大樹が飛び抜けているのは、レースへのストイック な取り組み方。彼は勝つために自分のできることは全 部、徹底的にやるタイプなので、だからこそプロにな れたんだろうなって思います。それと、マシンが最速 じゃないときでもしっかり結果を出して、捨てレース をつくらないところは彼の凄味でしょうね」。
元全日本ドライバーから見た佐々木大樹選手×三村壮太郎選手
BirelART Access Racing メカニック・梅垣博至氏
※2007〜2012年にFA部門/KF1部門/SuperKF部門で対戦
「今のふたりの活躍は、ただすごいとしか言えないですよね。ふ たりとも30歳でしょ。それに若い子たちが太刀打ちできない ですからね。大樹にしても壮太郎にしても速いし、メンタルが 強い。あの力を維持することは大変だと思います。ふたりがい ることで、OK部門だけでなく日本のカートレースの実力が上が るし、彼らに勝とうって意識が若い子たちを成長させるだろう し、カート業界にとってもいいことでしょうね」。
相手をリスペクトしているからこそ
全日本の最高峰に参戦を始めて十余年。デビュー当時より「感性は落ちてい る(佐々木選手)」し「首と目は辛くなっている(三村選手)」そうだが、それ をたゆまぬ努力で克服して、ふたりは今も熱い優勝争いの渦中にある。
「壮太郎の体力やテクニックはすごいけど、 それに打ち負かされないように頑張ります」
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佐々木大樹
年齢を重ねるごとに身体は変化していくが 長くカートを続けるには柔軟性が必要
そんなふたりは、なぜ最高峰の厳しい世界で長く活 躍を続けてこられたのだろうか。その答えは、両者共 通するものだった。
「やっぱり頭の柔軟性ですよね。昔速かった走り方が 今でも速いわけではないし、昔は良かったセッティン
グが今もいいわけではない。やっぱりカテゴリーもタ イヤもどんどん進化して、刻々と状況が変わっていく ので、乗り方にしても何にしても、そこにフレキシブ ルに対応できるかどうかなんです。むしろ、昔はこう
だったとかの固定観念がない一年目の子には、知らな いことの強みがあるんじゃないですか。いきなり今の 状況から走り始めるから、新しい考えが生まれるかも しれない。だから若い子の概念も取り入れて、いかに 頭をリセットして今のレースに毎年対応していくかっ ていうことですよね」と佐々木選手。
「長く最前線で戦うためには、いろんなドライバーを 見て吸収することですね。自分たちの常識から外れた 乗り方が出てきて、しかもそれが速いとなったときに、 それをどう受け止めるのか、ということです。最近の 自分でいうと、2018年に蓮(現スーパーフォーミュラ ドライバー・佐藤蓮選手)と一緒にヨコハマタイヤでレ ースをしたときに、走りのコンセプトは僕と近いけれ どカートに関するセンサーが優れている彼と、ロガー を並べて互いの走りを比べて研究できたのは、すごい 刺激になりました。あと、昨年はもてぎ北でSenior MAXのローカルシリーズに出ていたんですが、そこ
元全日本ドライバーから見た佐々木大樹選手×三村壮太郎選手
に小島風太選手っていう速いドライバーがいたんです。 正直なところ僕は、もてぎ北の走り方に関しては直す ところはないと思っていたんですが、彼を見てその考 えが変わって、昨年はひたすら小島選手の走りを研究 していました。一年間楽しかったですね。そういうこ とを続けてきたから、年齢を重ねても時代遅れの走り 方にならずに済んだのかなって思います」と三村選手。 年齢を重ねるにつれて身体面が変化してくることに ついては、佐々木選手が興味深い話をしてくれた。 「体幹トレーニングは大事ですね。今は子供のころよ り体が大きくなって、筋肉も増えて、上半身が重くな っている。そうなるとカートでは(横Gで)振られる 量が増えて、フィジカルに関してはキツい場面が多く なってくるんです。だから、体幹を昔よりもっと意識 して鍛えないと走れないなって感じます」。
さらに、勝てる環境でレースができる体制を維持す るための努力も必要だと佐々木選手は説く。 「若い子たちやレースを観ている人たちに、いいレー スをしているって思われることも重要ですよね。それ があるから、まだ大樹を乗せようと思ってくれるチー ムがあるし、チームのスタッフも僕のために頑張ろう と思ってくれる。これが10番手争いしかできない佐々 木大樹だったら、誰も興味を持ってくれないですよね。 やっぱりベースはレースの速さや巧さ。そこがダメに なったら、もう長くは続けられないかなと思います」。 三村選手は、佐々木選手と同じく結果を出し続ける ことの重要性を語った上で、こんなことを言った。 「レースを本当に好きになることが大事だと思います。 好きじゃないと速くならないだろうし、向上心も生ま れないでしょうから。それと、家族の協力は大切です よね。ウチの妻は、数年前までレースのことなんてま ったく知らない人だったけれど、今では僕に喝を入れ てくれたり背中を押してくれたりします。家族がレー スに興味を持ってくれるのはうれしいですね」。 同メーカーのタイヤでイーブンの2022年 ふたりの果てしない戦いに注目!
今や全日本OK部門を象徴するような存在となった
「彼らが今なお現役で走り続けているだけじゃなく、みんなの尊 敬を集めてトップで戦っていることは、純粋にすごいなと思い ます。かつて一緒に走っていた者として尊敬と憧れを感じま す。佐々木選手は常にアグレッシブで速くて手の届かない存在 だったし、三村選手はタイヤのハンデを覆す結果を残していま した。OK部門が光って見えて、30台以上のエントリーを集め ているのは、ふたりがいるおかげでしょう」。
今季の開幕となるもてぎ北大会では、三村選手が第1戦で2位を獲得、一方の 佐々木選手はマシンの不具合に苦しめられた。しかし、次は佐々木選手が得 意とするSUGO西でのレースだ。ふたりが静かな火花を散らすことだろう。
Paddock Gate 編集長・藤松楽久氏
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※2010年にSuper KF部門で対戦
エンジン・タイヤともワンメイクのジュニアカート選手権でふたりが白熱のレー スを繰り広げた2004年(写真上)。あれから18年を経て今年、両者は再びマテリア ル面がほぼイーブンの条件で戦うこととなった(写真右)。長きにわたったライバ ルストーリーの最終章は、幼いころと同じ“ガチンコ”での真っ向勝負だ。
ふたりの、同朋意識とライバル心が入り混じった戦い
は今季、新たな局面を迎えている。
ヨコハマタイヤの顔というイメージが強い三村選手 だが、2009年と2012年はブリヂストンを履いて戦 った。ところがこのふたつの年は、ブリヂストン陣営 の佐々木選手が四輪レース専念と世界選手権シリーズ 参戦のため全日本を欠場。つまり、これまで両者が同 じメーカーのタイヤで対峙した年はなかった。スーパ ーGTと同様に複数のタイヤメーカーが参入し、ひと
つの大会、ひとつのコースだけに照準を絞って開発さ れたスペシャルタイヤを使用する全日本OK部門で は、タイヤがマシンの戦闘力をもっとも大きく左右す る要素になるのだが、その点においてふたりがイーブ
ンの条件で戦ったことはなかったのだ。
それが今季、三村選手がタイヤをブリヂストンにス イッチしたことで、イーブンに近い条件でのガチンコ 対決が実現。この決断の理由を、三村選手が語る。
「僕はモノにドライビングを合わせられるタイプで、自分の乗り 方っていうものがない。その点、大樹は僕と違って、何に乗っても 佐々木大樹」と三村選手は語った。強いライバル意識の裏側には、 同じ時代を戦い抜いてきた者同士の同朋意識が透けて見える。
「今年をカート人生の集大成にしようと思っていま す。僕はこれまでのシリーズを通して大樹に勝ったと 思える年がないんですよ。今年はカートタイヤから撤 退するブリヂストンの最後の年だから、その最後に大 樹と同じモノを使って、彼を倒したいんです。これは 長年の夢なんです」。
ジュニア時代から18年にわたって続いてきたライ バル対決の最終章を迎えて、「全部のレースで自分の 力を出し切って、大樹を打ち負かしたい」と目を輝か せる三村選手。その言葉を伝えると、「まあ、打ち負 かされないように頑張ります」と不敵に笑った佐々木 選手。ふたりの闘志にも煽られて、OK部門2022シ リーズは今、熱く燃えさかっている。
宿命の 好敵手
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INFORMATION from JAF
モータースポーツ公示・JAFからのお知らせ(WEB)一覧(2022年4月1日~2022年6月30日)
公示
日付 公示No. タイトル
2022年04月05日 [2022-WEB028]
2022年04月05日 [2022-WEB029]
2022年04月05日 [2022-WEB030]
2022年04月06日 [2022-WEB031]
2022年04月08日 [2022-WEB032]
2022年04月08日 [2022-WEB033]
2022年04月08日 [2022-WEB034]
2022年04月18日 [2022-WEB035]
2023年日本ジムカーナ/ダートトライアル選手権の制定
2023年JAFカップオールジャパンジムカーナ/ダートトライアル規定の制定
JAF認定eモータースポーツイベント開催ガイドラインの制定について
2022年JAF国内競技車両規則第10章「スーパーフォーミュラ・ライツ(SFL)」第4条エンジンに基づく仕様変更に係 るJAF承認について
2023年FIA世界選手権カレンダー申請について
2022年JAF国内カート競技車両規則第12章EVカート特別規定各種構成品のJAFへの登録方法について
2022年全日本カート選手権OK部門適用車両規定における特例措置について
登録車両申請一覧表
2022年05月10日 [2022-WEB036] 【募集終了】2022 FIA Girls on Track – Rising Stars 参加者募集について
2022年05月19日 [2022-WEB037]
2022年05月26日 [2022-WEB038]
2022年日本ダートトライアル選手権の開催場所変更について
登録車両申請一覧表・ロールケージ公認申請一覧表
2022年06月02日 [2022-WEB039] 自動車競技に関する申請・登録等手数料規定、及びカート競技に関する申請・登録等手数料規定の一部改正について
2022年06月10日 [2022-WEB040]
2022年06月15日 [2022-WEB041]
2022年06月24日 [2022-WEB042]
2022年06月27日 [2022-WEB043]
JAFからのお知らせ
日付 タイトル
2022年04月05日
2022年04月05日
2022年04月12日
2022年国際格式ラリーの開催内容変更について
2022年日本ダートトライアル選手権の開催場所変更について
2022年日本ジムカーナ選手権の開催場所変更について
新規公認スピード競技コースについて
競技関係者へ向けてのアンチドーピングウェビナーについて
15歳以下の方におけるカートライセンス申請について
故高橋国光氏が旭日小綬章を受章
2022年05月13日 モータースポーツジャパン2022開催のお知らせ
2022年05月31日 2022年 JAFモータースポーツイヤーブックの内容に関するお詫びと訂正
2022年06月06日
新型コロナウイルス感染症防止対策に係る対応についてのお知らせ(2022年6月6日版)
2022年06月13日 クローズド競技への障がいのある方の参加について
2022年06月21日 自動車技術会フォーラム開催について
2022年06月23日 国内Bライセンス講習会に係る対応について ※上記公示・お知らせ(WEB)一覧の詳細は、JAFモータースポーツサイト(https://motorsports.jaf.or.jp/)内の「>公示・JAFからのお知らせ」で閲覧することができます。
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2021年度 事業報告ならびに収支報告
(2021年4月1日より2022年3月31日まで)
コロナ禍の影響により、F1、WEC、WRCという各FIA 世界選手権競技会の国内開催が昨年に続き中止に追い込まれ たものの、FIAインターナショナルシリーズスーパーGTや 全日本選手権競技会など各種国内競技については、オーガナ イザーやサーキットと感染拡大防止対策などを連携し、安全な 開催の支援に努めた。
また、新たなファン層獲得に向けてWEBサイトをリニュー アルするとともに、その年最も輝いた競技参加者を表彰する 「ドライバー・オブ・ザ・イヤー」を新たな顕彰として設定し、モ ータースポーツの盛り上げを図った。
JAFグランプリについては昨年に引き続き各種の支援・協 力を行い、同会場ではファン向けイベント「モータースポーツ ジャパン2021 in JAF鈴鹿グランプリ」をJAFとして初め て主催した。
詳細は以下の通り。
注)以下のデータのうち*印は、2021年1月〜12月までの1年 間の実績である。
1 国内モータースポーツ活動の充実
(1)選手権競技会の認定
全日本選手権および地方選手権競技会として認定した 合計296件*の競技会のうち、全日本選手権等48競技*(四 輪、カート合計)に競技会審査委員を派遣し、規則の施行を 徹底した。
【選手権競技会等認定件数*】
① 合計403件*の競技会を公認した。うち国際格式は18 件*であった。なお、予定されていた3つのFIA世界選 手権競技会(F1、WEC、WRC)は新型コロナウイル ス感染拡大の影響により中止となった。
(3)車両公認
国内車両公認申請14件*を承認した。
(4)モータースポーツライセンスの発給
① 四輪各種ライセンス67,088件*、カート各種ライセン ス5,100件*を発給した。
② ライセンス更新促進策(はがきタイプの更新案内送付) を、6月および11月に実施した。
【ライセンス発給件数 四輪*】
① 合計957件*のJAF登録クラブ・団体の登録を行っ
種 別 内 訳 件 数 レース 全日本選手権 スーパーフォーミュラ 7 スーパーフォーミュラ・ライツ 6 地方選手権 FIA-F4 6 JAF-F4 7 スーパーFJ 27 フォーミュラリージョナル 5 ツーリングカー 11 ラリー 全日本ラリー選手権 8 地方ラリー選手権 26 ジムカーナ 全日本ジムカーナ選手権 8 地方ジムカーナ選手権 60 地方サーキットトライアル選手権 13 ダートトライアル 全日本ダートトライアル選手権 8 地方ダートトライアル選手権 56 カート 全日本カート選手権 11 地方カート選手権 26 ジュニアカート選手権 11 合 計 296 ※レースおよびカートについては、大会数を件数として記載。
(2)競技会の公認
種 類 2021年 (クローズド含む) 2020年 (クローズド含む) 前年比(%) (クローズド含む) 四輪 レース 81 64 126.5 ラリー 60 38 157.8 スピード競技 218(420) 151(331) 144.3 カート 44(117) 32(104) 137.5 合 計 403(678) 285(537) 141.4(126.2) ② 「オートテスト」を81回*開催し、延べ2,992名*が参加
【競技会公認件数*】
した。
分 類 ライセンス種別 2021年 2020年 前年比(%) ドライバー ライセンス 国際(A・B・C・R) 3,104 2,958 104.9 国際ソーラーカー 150 84 178.5 国内A 18,617 18,494 100.6 国内B 25,168 24,531 102.5 小 計 47,039 46,067 102.1 エントラント ライセンス 国際 301 267 112.7 国内 458 406 112.8 小 計 759 673 112.7 オフィシャル ライセンス 1級 3,077 3,061 100.5 2級 4,956 4,987 99.3 3級 11,251 10,721 104.9 小 計 19,284 18,769 102.7 エキスパートライセンス 6 7 85.7 合 計 67,088 65,516 102.3
分 類 ライセンス種別 2021年 2020年 前年比(%) ドライバー ライセンス 国際(A・B・C) 539 528 102.0 国内A 1,136 1,155 98.3 国内B 1,717 1,748 98.2 ジュニア国際 15 17 88.2 ジュニア国内(A・B) 170 188 90.4 小 計 3,577 3,636 98.3 エントラント ライセンス 国際 46 41 112.2 国内 200 217 92.1 小 計 246 258 95.3 オフィシャル ライセンス 1級 327 330 99.0 2級 200 196 102.0 3級 745 769 96.8 小 計 1,272 1,295 98.2 エキスパートライセンス 5 5 100.0 合 計 5,100 5,194 98.1 (5)登録クラブの活性化への寄与
た。
【ライセンス発給件数 カート*】
36
② 全国8地域のJAF登録クラブ地域協議会との連絡会
議を6月、11月に開催した。
【JAF登録クラブ・団体の登録件数*】
か、大型モータースポーツイベントである「モータースポー ツジャパン 2021 in JAF鈴鹿グランプリ」をJAF主催 のもと開催した。これらの施策については2022年も引き続 き行われる予定である。
(2)モータースポーツ未来委員会の設置
モータースポーツ振興策に関する事項を検討する「モー タースポーツ振興委員会」を発展的に解消し、2022年から モータースポーツ全般の環境整備に関する事項を検討する 「モータースポーツ未来委員会」を設置することとした。モ ータースポーツ全般の環境を次世代に向けて整備し、国内 のモータースポーツ振興における戦略的な取り組みを進め るための方針策定を目的としている。
(3)カーボンニュートラル分科会の設置
モータースポーツにおけるカーボンニュートラル促進の ための技術的な対応について、カテゴリーを横断的に実施 することを目的とし、2022年から「電気・ソーラーカー部 会」を発展的に解消の上、「モータースポーツ審議会」の傘下 に「カーボンニュートラル分科会」を設立することとした。
(6)JAFグランプリの開催
10月に三重県の鈴鹿サーキットで開催された全日本ス ーパーフォーミュラ選手権「JAF鈴鹿グランプリ」の開催 にあたり、支援・協力を行った。
(7)JAFモータースポーツ表彰式の開催
2021年JAFモータースポーツ表彰式は新型コロナウ イルス感染症拡大防止のため、招待者を制限の上、オンライ ン/オフラインのハイブリッド形式による施策を実施し、 開催した。
表彰式では、全日本選手権カテゴリーおよびFIA-F 4シリーズ、スーパーGTシリーズ等のチャンピオンと上 位入賞者を表彰した。
また、佐藤琢磨氏に対し 、2021年より新設されたその年 に最も輝いたドライバーを投票にて決定し、表彰する「ドラ
イバー・オブ・ザ・イヤー」を贈呈するとともに、2021年FI A世界耐久選手権ハイパーカー・ドライバーズチャンピオ ンを獲得した小林可夢偉氏、FIA世界選手権として設定 されている5種目のうち、2種目のマニュファクチャラーズ タイトルを獲得したTOYOTA GAZOO Racing、FIA国際
ラリー競技会を20年連続で開催し国内ラリー競技の普及、 発展に貢献したAG.メンバーズスポーツクラブ北海道に 「JAFモータースポーツ特別賞」を贈呈した。
(8)説明会の開催
① 全日本ラリー選手権オーガナイザー会議、オーガナイ ザーセミナーを2月に開催した。
② 全日本ジムカーナ/ダートトライアル選手権オーガナ イザー会議を1月に開催した。
2 各種モータースポーツ振興策の推進
(1)モータースポーツ振興委員会の活動
モータースポーツ振興策についての検討を行うため立ち 上げられたモータースポーツ振興委員会は、2021年度にお いてモータースポーツの認知度向上のための施策として、 「ドライバー・オブ・ザ・イヤー」の顕彰を新たに設定したほ
参加型モータースポーツにおける環境対応車両参入促進 策や、競技会における炭素排出実態調査および削減施策の 検討を行う。
(4)eスポーツ部会の設置
「デジタルモータースポーツ部会」は2022年よりFIA の委員会名称が改められたことに合わせて、「eスポーツ部 会」へ名称を変更した。
3 モータースポーツ各種委員会の開催、運営 モータースポーツ審議会をはじめ各種委員会を合計71回* (各部会に属する作業部会の開催数を含む)開催した。
4 モータースポーツ関係規則の制定、改正
「国内競技車両規則」等、各種モータースポーツ関係諸規則 (10件)を制定または改正した。
5 安全対策の推進
分 類 2020年 2019年 前年比(%) 四輪 特別団体 9 9 100.0 公認団体 6 6 100.0 加盟団体 30 28 107.1 準加盟団体 14 14 100.0 公認クラブ 22 22 100.0 加盟クラブ 355 355 100.0 準加盟クラブ 401 399 100.5 小 計 837 833 100.4 カート 特別団体 4 4 100.0 加盟団体 17 16 106.2 公認コース団体 12 11 109.0 加盟コース団体 10 11 90.9 公認クラブ 6 6 100.0 加盟クラブ 40 37 108.1 準加盟クラブ 31 25 124.0 小 計 120 110 109.0 合 計 957 943 101.4
【委員会開催件数*】 委員会名 回 数 モータースポーツ審議会 3 モータースポーツ審査委員会 0 モータースポーツ振興委員会 3 登録部会 9 安全部会 4 メディカル部会 4 技術部会 4 マニュファクチャラーズ部会 6 レース部会 4 ラリー部会 11 スピード競技ターマック部会 6 スピード競技ダート部会 5 電気・ソーラーカー部会 4 カート部会 4 デジタルモータースポーツ部会 4 合 計 71
(1)レーシングコース査察および許可証の発給 37
JAFコース査察員による国内/国際レーシングコース 査察をそれぞれ実施し、JAF国内モーターレーシングコ ース許可証(16件、13ヵ所)*を発給した。
(2)スピード競技コース査察および許可証の発給
JAFコース査察員によるジムカーナコース(2ヵ所)*の 査察を実施し、JAFスピード競技コース許可証(ジムカー ナ51件、ダートトライアル17件)*を発給した。
(3)救急活動訓練の実施
競技参加者および競技役員を対象としたラリー救急活 動訓練を8回(実技5回、オンライン3回)実施した。
6 モータースポーツ広報の拡充
(1)JAF会員向け機関誌「JAF Mate」に、モータースポ ーツに関するコラム記事を毎号掲載した。
(2)「一人ひとりのモータースポーツライフをサポートし、新た
な楽しみ方や、モータースポーツへのかかわり方を提案す る」ことを目的として、WEBサイトを大幅リニューアルし た。
(3)動画配信サイトでオリジナルのモータースポーツ情報番組
「JAF MOTOR SPORTS NEWS DIGEST」を月2回配信し、 ファンに向けて様々な情報を提供した。
(4)Twitterのモータースポーツ専用アカウントを活用し、全日 本選手権競技会の開催情報をはじめ、参加者および観戦者
に向けたモータースポーツに関する情報を発信した。
(5)モータースポーツファン向け大規模イベント「モータース ポーツジャパン 2021 in JAF鈴鹿グランプリ」をJAF として初めて主催した。
(6)女性のモータースポーツへの参加促進を目的とした「JA
Fウィメン・イン・モータースポーツ」活動PRのため、イベン トへの協力等を実施した。
(7)2021年JAFプレスパスを、審査のうえ37名に発行した。
7 国際組織等との国際交流の推進
FIAの活動に参加し、その連携を強化するため、JAFの 役職員、モータースポーツ関係委員が各種会議に出席した。
【FIA会議等への出席*】
8 カート競技における安全対策の推進と開催促進 (1)安全対策の推進
国内カートコース(3ヵ所)の査察を実施した。
(2)選手権競技会開催の支援 ① 全日本、地方、ジュニアカート選手権競技会を認定する とともに、規則の施行を徹底するため、競技会審査委 員を派遣した。
② チーフオフィシャル会議を2月に開催し、競技運営に 対する指導を行った。
(3)ゴーカートライセンスの新設
2022年1月より、カート競技の振興を図るため、レンタル カートやレジャーカート用に年齢制限のないゴーカートラ イセンスを新設した。
9 収支報告
2021年度におけるモータースポーツ業務に直接係わる収入 は約3.6億円(事業収入(ライセンス所有者の会費を除く):クラ ブ・団体登録料、ライセンス発給料、競技会組織許可料、車両公 認料等)、支出は約6.0億円(事業費:委員への謝金・出張費、選手 権管理用器具の購入・管理費、JAFスポーツ誌製作費、WEB 製作費等)であり、収支差額約2.4億円の赤字となった。
11 罰金等の金額について
公認競技会で納められた罰金および没収された抗議料また は控訴料の2021年度末の残高は以下のとおりである。 なお、罰金および没収された抗議料または控訴料は、国内競 技規則11-8(罰金収入の措置)に従ったJAFの特別基金に繰 り入れ、モータースポーツの振興および福祉目的のために使用 している。2021年度は競技会の安全性向上を目的として、全日 本ラリー選手権でのトラッキングシステムテストを実施した。
会議等 回 数 FIA総会 1 世界モータースポーツ評議会 4 専門委員会 25 作業部会 1 CIK委員会 2 その他 2
レース 13 ラリー 5 カート 24 スピード 0 数次用(四輪) 32 数次用(カート) 5 合 計 79
【海外競技参加出場証明書の発行数*】
2021年度末罰金残高 10,679,001円 <内訳>2020年度罰金等残高 12,514,104円 2021年度罰金等総額 924,897円 2021年度の措置等(支出)総額 2,760,000円 以上 38
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ドライバーとコ・ドライバーの二人で戦うラリーでは、 主催者が示したルートを正確にトレースする以外にも、 クルーを勝利に導くためにはあらゆる素質が必要だ。ここでは助手席に座る「コ・ドライバー」にフォーカス。
ドラ〞にどんな資質やスキルが必要なのかを聞いた。
[特集]ラリー/RALLY
コ ・ ドラ 〞の 心得
・
ナビシートからラリーを操る立役者 ・
!?
ドライバー」の素質とは
40
PHOTO/遠藤樹弥[Tatsuya.ENDOU]、中島正義[Tadayoshi.NAKAJIMA]、廣本泉[Iz umi.HIROMOTO]、山口貴利[Takatoshi.YAMAGUCHI]、JAFスポーツ編集部[JAFSP ORTS] REPORT/廣本泉[Izumi.HIROMOTO]、JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS]
主催者が指定した区間を提示された平均速度で走行し、その所要時間の正確さを競う 「アベレージラリー」。海外で採用される「スペシャルステージラリー」開催が一般的に なった国内では、ドライバーの走りを支援する「ナビゲーター」の名称も「コ・ドライバー」 へと変更されている。指示速度の変化に対する補正といった仕事は、ステージを速く駆け 抜けるためのペースノート作りへと変化したものの、ラリー中の“ナビ”と“コドラ”は、と もに相変わらず膨大な仕事量を受け持ち、ラリーの勝敗を握る重要な役割を担っている。
ライバーと二人三脚でラリーを 戦う「コ・ドライバー」の業務
は多岐に渡る。かつては「ナビ ゲーター」と呼ばれていたが、スペシャル ステージラリー全盛の現代では、競技ルー トの道案内やタイムスケジュールの管理だ
けではなく、ペースノートのメイキングや リーディングに加え、ドライバーのリクエ ストをチームに伝達したり、ライバルチー ムの動向を分析して次のステージの戦略を 立てるなどなど、コ・ドライバーは様々な 業務や役割を同時進行でこなしている。
当然、国内最高峰の全日本ラリー選手権 では、コ・ドライバーの業務には高いスキ ルと精度が求められるが、そもそもコ・ド ライバーという役割にはどのような資質と スキルが求められるものなのだろうか? 「資質という部分では、やはり“冷静さ” が必要になってくると思います」と語るの は、これまで全日本ラリー選手権で14回 のタイトルを持つ井上裕紀子選手だ。
天野智之選手とのコンビで活躍する井上 選手は「ドライバーのパフォーマンスを引 き出すためにも、コドラはチェスや将棋の 盤面みたいに、ラリーの全体的な状況を把 握しなければならないんですが、ミスもあ るし、色々なハプニングもあり
ますので、その時にパニックに ならないためにも冷静さが必要
松本優一選手
全日本ラリー選手権JN1クラス WinmaX.DLシムスWRX.STI[VAB]
だと思っています」と語る。
「私自身、2004年のラリージャパンに参 戦した時はやることがたくさんあったし、 ロードセクションでの渋滞もあって、かな りパニックになりました(笑)。でも、その 経験のおかげで心に余裕ができたんです。
ドライバーがどう感じているかは置いてお いて(苦笑)、ミスは付き物だと思っている ので、経験を重ねることで冷静になれるよ うになってきましたね」と語る。
また井上選手と同様に必要な資質として 冷静さを挙げたのが、中平勝也選手を助手 席からサポートしている島津雅彦選手だ。 「どうしてもミスはありますが、そこで動 揺すると次のミスを誘発してしまうので、 動揺しないことですね。仮にミスをしても、 それを引き摺らないように、すぐ平静にな れるようにすることが大切です」と語る。
そのためのコツとしては「やはり場数を 踏んで慣れるしかないと思います(笑)。あ
島津雅彦選選手
全日本ラリー選手権JN2クラス
DL.SYMS.R-ART.86.R3[ZN6]
とは色々なドライバーと組んでみることも 勉強になりましたね。自分はまだ完璧では ないので、常に冷静でいられるように気を つけています」とのことだ。
井上裕紀子選手
全日本ラリー選手権JN5クラス
豊田自動織機・DL・GRヤリスRS[MXPA12]
全日本ラリーで12年連続ナビゲーター&コ・ドライバー チャンピオンに輝く井上選手。今季も天野智之選手とコン ビを組み、自身15回目かつ13年連続タイトル獲得が間近。
2012年全日本ラリー旧JN3クラスで初チャンピオンに輝いた 島津選手。2021シーズン中盤からGT86.CS-R3を駆る中平勝 也選手とコンビを組み、今季はJN2タイトル獲得に挑む。
全日本ダートラも戦うマルチドラ イバー鎌田卓麻選手のWRX.STIの ナビシートを2021年から預かる松 本選手。全日本ナビゲーターの世界 では次世代を担う第三の“ユウイ チ”として注目を浴びている。
コ
ド
「ナビゲーター」と「コ・ドライバー」
41
木村裕介選手
全日本ラリー選手権JN1クラス GR.YARIS.GR4.Rally[GXPA16]
藤田めぐみ選手
全日本ラリー選手権オープンクラス. RSS.YHヌタハララリースクール86[ZN6]
TOYOTA.GAZOO.Racing.WRCチャレンジプログ ラム2期生に抜擢された大竹直生選手と2021年 JN3チャンピオンに輝いた藤田選手。今季は平川真 子選手のコ・ドライバーを担当する。
佐野元秀選手
全日本ラリー選手権JN5クラス カヤバDUNLOP.YARIS.CVT[MXPA10]
2021年全日本ラリーJN6クラスで吉原將大選手と共に自 身初の全日本チャンピオンに輝いた佐野選手。昨年終盤 からJN5クラスにステップアップして、今季もCVT車のヤ リスを駆る吉原選手と共にラリー修業中。
マルチタスクと協調性 ラリーは“煩雑”な“情報戦”
一方、必要なスキルとして“マルチタス ク”を挙げたコ・ドライバーも多かった。
JN1クラスを戦う鎌田卓麻選手とコン ビを組む松本優一選手は「道案内をしなが ら、時間の管理をして、ステージタイムを 把握したりと、コドラは同時に様々なこと をやらなければならないので、マルチタス クの能力が必要だと思っています。自分は 若い頃からラリーオフィシャルをやってい て、ラリー現場の色々な裏方仕事を手伝っ ていたので、自然に身に付いた感じです ね」と分析する。
さらに勝田範彦選手をサポートする木村 裕介選手も「きっちりと準備をしておけば
ミスを減らせるので、事前の準備が大切だ と思っています。でも、そのための作業は 大変なので、資質としては飽きずにコツコ ツと作業できることが求められると思いま す。そして、スキルとしてはマルチタスク が必要だと思います。それこそ、ペースノ ートを書きながら、ステージ内でタイヤ交 換できる場所を探したり、リエゾン中に時 間調整できる場所を探したりと、レッキの 時からラリー本番まで色々とやらなければ ならないんです。これらは自分の失敗から 学んでいて、まだ100%完璧にこなせた ラリーはないですから、まだまだ経験が必 要ですね」と語る。
ちなみに木村選手が語る「事前準備」も コ・ドライバーにとって大切な要素で、
他カテゴリーと比べても、競技期間中にライバルと接 触する機会が多いのがラリーの特徴でもある。ラリー は路面や環境との勝負でもあるため、必ずしも直接の ライバルを意識することだけが有益であるとは限ら ない。幅広くアンテナを張ることが重要だ。
2021年から全日本ラリーの最高峰クラスで 勝田範彦選手のコ・ドライバーを務めること になり、同年に自身初のコ・ドライバータイト ルを獲得した木村選手。今季も勝田範彦選手 とコンビを組み、GRヤリスをラリーで鍛える 取り組みをサポートする。
JN5クラスの吉原將大選手とコンビを組む 佐野元秀選手は、「チームからは“ドライバ ーが運転だけに集中できるように全体のバ ックアップをして、コドラがラリーをコン トロールすべし”と言われていますので、 全日本に出るようになってからは、スター トからフィニッシュまで、しっかり事前の 準備をするようになりました」とのことだ。 そのほか、コ・ドライバーに求められる スキルとして“協調性”と答えたのが、2021 年に大竹直生選手とのコンビでJN3タイト ルを獲得したほか、今季は平川真子選手と 全日本ラリーを戦う藤田めぐみ選手だ。 「コドラに必要なのは“人見知りしないこ と”だと思います。スキルとしては、ラリ ーは自分のチームや主催者、ライバルチー ムなど、色々な人と接するので、もちろん ドライバーともそうなんですが、やはり協
ラリー中の情報収集なしには
!?
勝負どころか完走も危うい
42
り目立ってしまうんです。でも、その時は 素直に謝って、次につなげられるようにし ないと成長できないと考えています。ミス
はスキルアップのきっかけになるので、そ う考えられるように、メンタル面で打たれ 強い方がいいと思っています。全日本に出 始めた頃はうまくいかなかったり、壁に当
くると思います。タイミングについても “今はドライバーが集中しているから、立 ち上がった時に読もう”とか、ドライバー の気持ちを想像していますし、レッキの時 も、“ドライバーは何も言わなかったけれ ど、このコーナーは次のコーナーまでセッ トで読むと、2つ目のコーナーでアジャス トしてくれるだろうな”などと想像しなが らノートを作っていってます。ペースノー ト・リーディングの良し悪しは“想像力” で決まると思います」。
このペースノートにまつわる想像力につ いては、2021年に西川真太郎選手とJN4 クラスチャンピオンに輝いた本橋貴司選手
北川紗衣選手
全日本ラリー選手権JN1クラス
たることもありましたが、そのミスをプラ スに捉えていくようにして、現在につなが っていると思っています」。
調性がないと、すべてのことがうまくいか ないと感じています。全日本に出始めた頃 は一生懸命で周りが見えてませんでした が、協調性を持って情報交換しているうち に、ナビゲーションやノートリーディング だけでなく、ラリー全体を大きな範囲で見 られるようになりました」と語ってくれた。
損な役回りでもへこたれず
プラス思考でバックアップ
また、2021年にヘイキ・コバライネン 選手とJN2クラスのチャンピオンに輝き、 今季はコバライネン選手とJN1クラスに ステップアップした北川紗衣選手は、コ・ ドライバーには“打たれ強さ”と“想像力” が必要であることを挙げてくれた。
「ドライバーと違って、コドラは“減点”
で評価されるので、ミスをしたら思いっき
「ノートリーディングで大事なことは、想 像力だと思います。例えば“この情報を伝 えておかないと、今日の路面状況でこの車 速ならブレーキが間に合わないかな”と か、“この情報があれば、立ち上がりで全 開にできるかな”とか、ドライバーの気持 ちを想像したリーディングが必要になって
本橋貴司選手
全日本ラリー選手権JN4クラス スマッシュDLモンスター itzzスイフト[ZC33S]
2021年全日本ラリーJN4クラスで自身初の全日本コ・ ドライバーチャンピオンを獲得 した本橋選手。ドライバーは西 川真太郎選手で今季も同じコン ビでJN4クラス連覇を目指す。
草加浩平選手
全日本ラリー選手権オープンクラス. 日本ヴューテックダンロップGRヤリス
[GXPA16]
AICELLOラックDL速心FABIA[ABCUFX11] 海外ラリー経験も豊富な大ベテ ラン“ナビゲーター”。著書「ラ リーナビゲーター入門」はラリー ストのバイブルとして広く愛読 された。ドライバーはこちらも大 ベテランの松波登選手。
2010年全日本ラリー旧JN1クラスで初チャンピオンに輝 き、2021年はヘイキ・コバライネン選手と共にJN2のタイ トルを獲得。語学も堪能で新興チームの牽引役でもある。 クルーの勝敗を担うコ・ドライバーは、いかに早く正 確かつ有益な情報を掴み、チームと次なる戦略を検討 し、ドライバーをうまく導くかが勝負。ラリーは“生き 物”。常に流動する現場の事象に対して、どれだけ真摯 に向き合い、対応できるかが大切になってくる。
〝 コ ・ ドラ 〞の 43
ドライバーのフィーリングも大切だが、サービス パークで待ち受けるメカニックにとっては、コ・ドラ イバーからの冷静な評価も大切な情報源。クルマの 異変を感じ取り、不運なクラッシュでも完走に導け るような、メカニカルな知識も欠かせない。
も指摘している。もともとドライバー出身 の本橋選手は「ドライバーは視野が狭くな るし、一緒に乗っているコドラにしか気付 けないことも多いんです。なので、僕はド
ライビングについて客観的な事実をフィー ドバックすることも、コドラに必要なスキ ルだと思っています」と独自の見解を語る。 「ドライバーは視覚に頼ることが多いと思 いますが、コーナーの見た目に惑わされな いように、ドライバーがイメージしやすい ノートを作ることも重要だと思います。レ ッキでドライバーが表現できなかった情報
をどのように足していくのか? 自分もま だまだできていませんが、ペースノートの 作り方はやはり重要だと思います。あとは そのノートを信じてくれるような、ドライ バーとの関係性を作れるかどうかもポイン トですね」とのことだが、このスキルも想 像力と経験に基づいたものだろう。
集中力と計算能力だけでなく
生き残る術も知っておくべき
まさにコ・ドライバーに求められる資質 とスキルは千差万別だが、ベテラン松波登
選手と全日本ラリー選手権に参戦し、ナビ ゲーター/コ・ドライバーとして約49年 のキャリアを持つベテラン草加浩平選手は どのように考えているのだろうか?
資質やスキルについて、草加選手がまず 挙げたのが“体力”だった。
「日本のラリーは短いので不要ですが、国 際ラリーになると走行距離も時間も長いの で、コドラもずっと集中していられるよう に体力が必要になってきます。そういう意 味では、スペシャルステージラリーで求め られる役割の他に、距離の補正をする必要 があるアベレージラリーは、ナビゲーター はずっと集中して補正作業をしなければな らないので、コドラにはいいトレーニング になると思いますよ」と草加選手。さらに、 資質として挙げたのが“声”で、「よくドラ イバーからは聞き取りやすい声と言われま す。そこは両親に感謝ですね」と語る。
そして、必要なスキルとして草加選手が
挙げたのが“計算能力”
だ。「ラリーは時間に 縛られた競技なので、
時間の感覚や計算とい う要素は、スペシャル
ステージラリーにもあ
あらゆる情報を分析しつつ正 確にゴールへ導き、それがもし 勝利につながれば大きな達成 感を得られるもの。しかし、ラ リーは最終TCまでが勝負。歓 喜のセレモニアルフィニッシュ の後ですら気を抜けない、かな り因果な役回りではあるのが コ・ドライバーなのだ。
ります。具体的には、“あと何km走るのに 何分かかるから、これくらいの余裕がある” といったことを、すぐに暗算してドライバ ーに提示できることも重要です。仮にトリ ップメーターが壊れたとしても、スピード メーターを見て経過時間を測ればだいたい の距離が分かるし、計算能力があれば、ガ ソリンの燃費計算にも役立つんです。自分 もラリーを始めた頃には一生懸命、訓練し ましたよ」とのことだ。
ちなみにペースノートのリーディングも 訓練で上達できるスキルだと考えている。 「僕の場合、これまで色々なドライバーと 組んできましたが、もちろん、人によって ペースノートの読み方が違うのでかなり勉 強になりました。あとは若いドライバーと 組んだりすると、最近では英語のペースノ ートなんですよね。若い割に言葉の種類が すごく豊富なんですが、それはゲームで身 に付けたみたいなんです。ラリーのゲーム はコドラにとって、リーディングのタイミ ングの参考になると思うので、スキルアッ プには効果的だと思います」とも語る。 そのほか、草加選手は“メカニカルな知 識”も必要な要素だと考えている。 「サービスパークを出た後に車両トラブル が起きた場合は、ドラとコドラで応急処置 をしなければなりません。でも、最近の選 手たちはその辺りの知識が弱いように感じ ますね。過去に一度、ラリー中にクラッシ ュして足がもげたことがあって(笑)、その 時にドライバーは諦めていましたが、スペ アタイヤを止めていたタイダウンベルトで リアアクスルを引っ張る応急処置をしたん です。それで何とか自走して、ラリーを完 走することができたので、自動車の構造に ついては、ある程度知っておいた方がいい と思いますね」と付け加えた。
なお、今回取材したコ・ドライバーたち に、“クルマ酔い”について尋ねてみたとこ ろ、まったく酔わないという選手もいれ ば、最初は酔っていたが自然に慣れた選 手、酔い止めを飲みながら参加している選 手まで様々だったことを追記する。
このように、ドライバーのスキルに合わ せつつ自分をしっかり保ち、かつ一人で何 役も業務をこなさなければならないのが コ・ドライバーで、その資質やスキルは “天賦の才”というよりは、あらゆる未知の 状況を受け入れて、かつ物事を前に進める 能力と“努力”が求められると言えそうだ。
〝 コ ・ ドラ 〞の 44
45
アナタが全日本に挑むワケ
Bライセンス競技の入門といえば、ジムカーナが定番だった。
現在ではオートテストやナンバー付きワンメイクレースなどがあり、 モータースポーツの入口も多様化してきている。
しかし、全日本ジムカーナ選手権には若手の挑戦が相次いでいる。
なぜ舞台は全日本
ここでは、国内最高峰のジムカーナシリーズにチャレンジした
若手ドライバーたちに、全日本ジムカーナの魅力について聞いた。
全日本ジムカーナに若手が続々挑戦中
PHOTO/鈴木あつし[Atsushi.SUZUKI]、廣本泉[Izumi.HIROMOTO]、JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS] REPORT/廣本泉[Izumi.HIROMOTO]、JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS]
教えて!
46
[特集]ジムカーナ/GYMKHANA
スピード競技ではイキのいい若手が増殖中?
日本
Bライセンス競技の全日本や地方選手権で活躍する若者をサポートする企業活動もあり、 今年の全日本ダートトライアル選手権第3戦では支援を受ける大須賀智史選手がJD8ク ラスで2位を獲得。全日本ジムカーナ選手権ではJG8クラスで小野圭一選手が3位表彰台 を立て続けに獲得するなど、若手ドライバーたちがチャンスをモノにしようとしている。
カーナの魅力が浮き彫りになってきた。
レースが大好き“日産党”一家 e POWERが活きるのはココ
?
まず、今シーズンのビギナー代表とも言 えるのが、今年から全日本ジムカーナ選手
権に挑戦する黒崎澪音選手で、日産ノート e POWER NISMOで話題の2ペダルクラ ス「JG10」に開幕戦から参戦した。
その理由について黒崎選手は「もともと 家族全員がレース好きで、僕の兄も全日本 ジムカーナに参戦していたので、モーター
非日常のピリピリとした バトルの世界が楽しい♪
黒崎澪音選手
全日本ジムカーナ選手権JG10クラス DLクスコWinmaXノート.[HE12]
坦な舗装路に設定された任意の コースを1台ずつ走行してタイ ムの優劣を決めるジムカーナ。
かつてはBライセンス競技の入門カテゴ リーの決定版として知られていたが、現在 ではオートテストを始め、ナンバー付きワ ンメイクレースなども参入障壁の低いカテ ゴリーとして認識されており、必ずしも 「モータースポーツはジムカーナから始め る」という時代でもなくなっている。
マイカーを持たなかったり、運転免許す ら取得しない世代が台頭する昨今だが、全 日本ジムカーナ選手権では、この最高峰シ リーズに挑戦する若者たちの姿が目立ち始 めている。なぜニューカマーたちは全日本 ジムカーナに挑むのか? 切磋琢磨する若 手たちにその理由を尋ねると、改めてジム
小野圭一選手
全日本ジムカーナ選手権JG8クラス DLクスコWm軽市ロードスター.[ND5RC]
運転がうまくなりたい 公式な競技でウデ試し!
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攻めすぎて失敗するのはビギナーの通過儀礼。しかし、 業界では「攻めることができるなら、後は抑え方を学べ ばいい」とか「記録よりも記憶」などと言われることも ある。考えなしに飛び込むのは避けたいが、元気のいい 走りは、必ず誰かが見てくれているものだ。
スポーツが身近でした。それに家族全員が “日産党”ということもあって、僕も2021 年にこのクルマを買って、EVレースに2戦 ぐらい参戦したんです。でも、このクルマ は50秒ぐらいしかパワーがもたなくて、
筑波サーキットのコース2000でも、バッ クストレートでパワーダウンしたりと、レ ースには向いてないのかなと思うようにな っていたんです」と語る。さらに「そんな時
にタイヤメーカーが主催するドライビング レッスンに参加したんですが、ジムカーナ はレース以上に面白く感じたんです。時期 を同じくして全日本にJG10クラスが設定
されたので、2022年から全日本ジムカー ナを追うことにしました」とのことだ。
こうして全日本ジムカーナへのチャレン ジを始めた黒崎選手だが「遠征費やタイヤ 代やら、何かとお金が掛かるので大変さは ありますが、やっぱり面白いですね。ゲー ムでもそうなんですけど、昔からタイムで 争うことが好きだったので、日常では味わ えないピリピリしたバトルの世界が楽しい んですよ。それにこのクルマは、ジムカー ナの走行距離ならパワーも十分使えるので チャンスはありそうなんですよ。そういっ たところも魅力的でしたね」と語る。
その一方で「やはりジムカーナはドライビ ングの基礎が学べると感じていて、上達し てきた気もするんですが、まだまだスキル が足りなくて、けっこう苦労しています。 サイドターンがなかなか決まらなくてイメ ージ通りに走れないんですよね」とのこと だ。それでも黒崎選手は「まだ経験不足で、 運転も上手くいきませんが、そこがまた面 白いところだと思っています。元全日本ド ライバーの兄も応援してくれているので、
今後も続けていきたいですね」と語る。
2021年のオートスポーツランドスナガ ワで全日本ジムカーナ選手権にデビューし た小野圭一選手も、今年フル参戦を開始し たばかりのルーキーで、今シーズンはND ロードスターでJG8クラスにチャレンジし
ている。とはいえ、小野選手は完全なビギ ナーではなく、すでに数年のモータースポ ーツ経験を持っている。しかも、ジムカー ナドライバーであると同時に、“ユーチュー バー”でもある小野選手は、独創的なアプ ローチでドラテクを極めようと我が道を歩 んできた求道者なのだ。
「北海道にいた頃、軽トラックでブイブイ 言わせていました(笑)。最初は北海道のオ ートテストでMTクラスのタイトルを獲っ
て、その後はスノーチャレンジカップとい うクローズドラリーに挑戦して、そこでも 二輪駆動部門のタイトルを獲れました。そ の翌年は中部地区で開催された”軽トラ世 界一決定戦”という草レースで優勝して “三冠”を達成したんです(笑)」と語る。 しかし「僕の根本にあるのは“運転が上 手くなりたい”という思いなんです。なぜ 軽トラだったかというと、自分の環境でウ デを磨くなら軽トラでやるしかない、とい うところから始まっています。ユーチュー バーというのは後付けで、軽トラで走って いたら動画がバズっちゃったというだけで すから。軽トラを買った時はBライ競技の 存在を知らなくて、調べていくうちにラリ ーやジムカーナ、ダートラのことを知った 感じでしたね」と小野選手は振り返る。 そして「走るうちに、公式の競技に出て 速い人と一緒に走って結果を残さないと評 価されないと思うようになりました。で、 競技に参戦するにあたっては、あまり古い クルマではなく、現行モデルでチャレンジ
全日本選手権ともなれば、先輩ドライバーだけでは なく、アフターパーツメーカーの開発担当者や一流 エンジニアなどなど、多くのノウハウを持った人々 に出会えるもの。一人だけの戦いになりがちなス ピード競技でも、道が拓けるキッカケはたくさん転 がっている。
軽トラで始めたドラテク修業 その成果を公式戦で確かめる!
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攻めの姿勢が上位進出のカギ 元気の良さは記憶にも残る!
小倉輝選手
全日本ジムカーナ選手権JG8クラス
HAL.SPロードスター.[ND5RC]
ワンメイク状態で判りやすい 「答え合わせ」の面白さ
SHUN 選手
全日本ジムカーナ選手権JG8クラス
BS.itzz.NTLロードスター[ND5RC]
す」と語る小野選手。その成長ぶりには目 を見張るものがあり、近いうちに何かを起 こしてくれそうな期待の新人なのだ。
一度はやめたモータースポーツ ベテランと一緒に再挑戦
このように全日本ジムカーナに至った経 緯はドライバーによって異なるが、中には 大学の自動車部がきっかけとなったドライ バーも少なくない。今シーズンから全日本 ジムカーナ選手権に参戦を開始した小倉輝 選手もその一人で、「大学時代の自動車部 でジムカーナとダートラを経験しました。 でも、社会人になって一度モータースポー ツ活動を止めたんですよ」と語る。
その一方で「クルマで走ったり、タイム を競うことは好きだったので、群馬サイク ルスポーツセンターのタイムアタックをし たりしていました」と語る。そして、この タイムアタックが小倉選手のターニングポ イントとなったようで、「”群サイ”でHAL スプリングの畑野賢明社長と知り合って、 “もう一度競技をやってみないか”と誘って 頂きました。自分としても公式戦にチャレ ンジしてみたいという気持ちがあったの で、HALスプリングに入社してジムカーナ へ参戦することにしたんです」と、今季の 全日本ジムカーナ参戦のキッカケを語る。 しかも、小倉選手は同時期にHALスプ リングへ入社したジムカーナのベテラン川 北忠選手とダブルエントリーで参戦すると いう充実した体制を得ているのだ。
したくて、その中で一番乗りたかったクル マがロードスターだったわけです。そして ロードスターが活躍できるBライ競技を調 べたらジムカーナだったので、これしかな いなぁ……と思いました」とのことだ。
こうしてNDロードスターで第二のジム カーナ人生がスタートした小野選手は、東 海北陸シリーズのミドル戦、JAF中部およ び近畿の地方選手権を経て、前述の通り、 昨年のスナガワで全日本にデビューした。
今シーズンはフル参戦1年目で「スポット 参戦した昨年はビビりながら走ってました し、今年の開幕戦の筑波サーキットでも緊 張して撃沈しました」と語るように、開幕 戦ではJG8クラスで13位に終わっている。
「これまで無茶して失敗することが多かっ たので、次の第2戦エビスサーキット西コ
ースでは頭を空っぽにして、気負いすぎず に9割5分くらいの力で走ったら3位に入 賞することができたんです」と語る小野選 手。続く第3戦スポーツランドタマダはド ライビングミスが祟って22位に撃沈した が、第4戦名阪スポーツランドCコースで は再び3位表彰台を獲得。そして、かつて のホームコースでもある第5戦スナガワで も3位表彰台を獲得して、ビギナーズラッ クとは言わせない力量の片鱗を見せている。
「今は走るたびに発見があるので、とても 楽しいですね。軽トラ時代はお手本がいな くて我流でしたが、全日本ジムカーナは速 い人が多いので、皆さんから学ぶことが多 いんです。軽トラはエンタメ要素が強かっ
たですが(笑)、ジムカーナはスポーツ性が 高くて、他では味わえない楽しさがありま
「ジムカーナをやるのは大学以来なので4 年ぶりですし、学生の大会と違って全日本 ジムカーナはコースも難しい。それに周り のドライバーもレベルが高いので大変で す。けど、経験豊富な川北選手と同じクル マで参戦できるなんて全日本ならではだと 思いますので、すごく勉強になってます」。
小倉選手は「ジムカーナはセットアップ に対するクルマの変化が分かりやすくて面 白いですね。現在はターンの出口など低速 コーナーの立ち上がりで差が開いているの で、アクセルの踏み方など修正すべき課題 は多いです。でも、川北選手と比較できる ので色々な発見がありますから、今はそこ が魅力だと感じてますね」と語っているだ けに、今後も試行錯誤を繰り返しながら、 進化を重ねていくことだろう。
以上、3名の若手ドライバーを紹介して
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確かな開発そして評価のため ベテランと挑む全日本の世界
JAF近畿 ジムカーナを主戦場とする菱 田真也選手は、本来なら昨年の 鈴鹿サーキット国際南コースで全日本デビューを果 たす予定が、中止となったため、今年の第4戦名阪ス
ポーツランドCコースで全日本デビューとなった。 今年はスポット参戦の予定で、地元の一戦というこ とで気合を入れて金曜の練習会から参加した。「金曜 はすべて一人で作業したので、疲れてマトモに走れ ませんでした。そもそも、すべてが初めてで、朝6時 からサーキットに入るのもなかなか経験できませ ん。なんて思っていたら、ブリーフィングや慣熟歩行 では、有名な選手が真剣な眼差しで歩いているわけ ですよ。それを見て『アカン、勝負はもう始まってる んや。自分ももっとちゃんと考えないと』と気合を入 れ直しました。公開練習は緊張で走りが小さくなっ ていて、2本目はペナルティがあったり、操作も後手 後手になりました。自分の走りはまだまだできてま せんが、本番に向けて合わせていくことがドライ バーの仕事なので、”心作り”をしっかりしないとな と思いました。全日本戦は1本1本の重みが違いま す。そして、地区戦に比べると観る人も関係者も多い ですよね。たった2本でも、観られて走ると思うと、こ んなに疲れるものなのかと初めて感じました」。
堀 隆成選手
全日本ジムカーナ選手権JG1クラス
DLクスコWM・SDヤリス犬[GXPA16]
1本の重みの違いを痛感! 「勝負はもう始まってる」
菱田真也選手
全日本ジムカーナ選手権JG6クラス 来夢DLクスコWM・STR86[ZN6]
GRヤリスに乗り換えて 自身初の全日本フル参戦
JAF中部 ジムカーナを戦いつつ全日本 戦にはスポット参戦していた 堀隆成選手。昨年は中部チャンピオンを獲得したこ とから、今季は全日本にステップアップして、自身初 の全日本フル参戦に挑戦した。昨年まで4年間乗っ たランサー・エボXからGRヤリスに乗り換え、初めて づくしの挑戦が始まった。「エボXからの乗り換えな ので、ドライビングの切り替えが難しいですね。GR ヤリスは独特なので、まだまだ練習不足です。父の影 響でモータースポーツにハマり、遊びでスノートラ イアルの経験もあるんですが、4速全開でひっくり 返した経験もありまして……めちゃくちゃ怖かった ので、安全なジムカーナをやっています(笑)。地元が 富山で、周りにジムカーナをやられている方が多い んです。先輩方にたくさん面倒をみてもらって、イチ から走りを教わりました。JAFカップジムカーナで は飯坂忠司さんに次いで2位に入れましたが、その ときに全日本のレベルってすごいなと感じて、自分 も全日本で揉まれて、もっと速くなりたい、そのため には全日本しかないと思って戦っています。クルマ を自分仕様に作り上げることが今の課題ですが、環 境は整っているので、あとは自分しだい。クルマを仕 上げて上位に食い込めるようになりたいです」。
きたが、最後にSHUN選手を紹介したい。 もはや中堅ドライバーといえる存在ではあ るが、大学の自動車部でジムカーナを始め た次世代ドライバーの一人である。
シビアな全日本にこそ
課題解決のヒントがある
「自動車部でジムカーナとダートトライア ルをやってましたが、ダートラは恐怖感が 強くて(笑)上手く走れませんでした。それ で自分はジムカーナの方が向いているのか なと思いました。学生の大会で1位になり たかったので、自分でDC2インテグラを 買って大学4年の時に学生の大会と並行し ながら地方選手権に出てました。卒業する 2016年には岡山国際サーキットの全日本 戦にデビューしたので、全日本はもう7年 目になりますね」。
学生時代から一貫してジムカーナを続け
てきて、今年はロードスター・パーティレ ースにも挑戦するなど、活動の幅を広げつ つある。なぜSHUN選手は全日本ジムカ ーナを続けてきたのだろうか? 「やっぱり『面白いから』に尽きますね。ジ ムカーナは慣熟歩行で自分のドライビング の予想を立てて、すぐにその答え合わせが できる。しかも、クルマと対話しながら走 るので、クルマと一体となったような爽快 感が味わえます。1分間程度の時間でそう いう感覚を味わえるのはジムカーナの醍醐 味ですよね。それが体験できるから続ける ことができたと思っています」と語る。
加えて「セットアップなどに苦戦するこ ともありますが、それを突き詰めながら答 え合わせをしていく面白さもあります。特 に一昨年から乗り換えたNDロードスター は、小さなセッティング変更が敏感に伝わ ってくるんですよ。DC2インテグラの時は
バネレートを1キロ変更しても劇的には変 化しないこともありましたが、ロードスタ ーでは車高やアライメントを少し変えただ けで良し悪しが解ります。PN車両は改造範 囲が限られていますが、そこで勝負するこ とも面白いし、全日本ジムカーナのJG8ク ラスはNDロードスターのワンメイク状態 ですから、レベルの高いライバルとの差を すぐにチェックできますよね」とのことだ。 しかし、全日本ジムカーナJG8クラスは ベテランも参戦する激戦区であり、毎戦の ようにコンマ差のバトルが展開されている が、「全日本ジムカーナはワンミスすると 入賞圏外になる厳しさはありますが、ドラ イバーとしてレベルアップできるヒントが たくさん詰まっています。これからも多く のことを吸収していきたいですね」とモチ ベーションは高い。SHUN選手がどのよう な変革を見せるのかに期待したい。
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勝利への ブレイクスルー
不確定要素が多いダート路面であり、かつコースレイアウトの再現性も少ない ダートトライアルでは、勝利を挙げられたとしても、勝ち続けることは難しい。 そのために必要なファクターは何なのか? 上位争いを繰り広げるトップ選手に、 全日本選手権で勝利を得るためのブレイクスルーのキッカケを尋ねてみた。
PHOTO/遠藤樹弥[Tatsuya.ENDOU]、加藤和由[Kazuyoshi.KATOU]、中島正義[Tadayoshi.NAKAJIMA]、廣本泉[Izumi.HIROMOTO]、 JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS] REPORT/廣本泉[Izumi.HIROMOTO]、JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS]
ダートトライアルを制するメソッドチャンピオントライアラーに聞く
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[特集]ダートトライアル/DIRT.TRIAL
舗装路のタイムトライアルで勝 敗を競うダートトライアル競 技。その最高峰シリーズ、全日本
ダートトライアル選手権では、常に僅差の ベストタイム争いが展開されている。
刻々と変化するダート路面を制するポイ ントはどこにあるのか。ここでは、全日本 ダートラの上位選手たちに、自身の活動か ら得られた気付きなど、勝利につながるブ レイクスルーを伺った。そこには、レベル アップへのヒントが隠れていた……!?
ムダを減らして繊細な操作に…!
全日本ダートラにおいて、昨年来、急激 に“何かを掴んだ”ドライバーとしてイメ ージされるのが、JD9クラスで活躍する太 田智喜選手だと言えるだろう。2012年に 全日本へデビューした太田選手は、昨年の JD9クラスで初の全日本タイトルを獲得。
参戦9年目にして掴んだチャンピオンへの ターニングポイントは何だったのか? そ の問いに対して、2020年10月に開催され た全日本第2戦での成績を挙げた。
太田選手が乗るデミオは小規模なコーナ ーが連続する、輪島市門前モータースポー ツ公園のようなコースに分があると言われ てきた。実際、勝利を挙げている相性のい い場所なのだが「門前以外で初めて勝てた ので自信が持てるようになったんです」と 太田選手は語る。そして、スピードパーク 恋の浦大会で勝利へ導いた要因が、ドライ ビングのブラッシュアップだったという。 「競技ではなく一般走行レベルの速度域の 走りだったんですが、その走行中に色々と 気付きを得られたんですよ。2020年はド ライビングの悪い所を見直していて、例え
をデータで確認して、ムダな操舵を減らし たり、ブレーキなども繊細な操作をするよ うに心がけていたんです」とは太田選手。
そして「これらのドライビングの見直し の積み重ねが、2020年の恋の浦で結果に つながったので、運転の方向性は間違って いないし、ちゃんとタイムが出せるという ことが確認できたんです。そのおかげで、 2021シーズンを上手く走ることができた と考えています」と太田選手は語る。
こうしたドライビングの改良でブレイク スルーを果たし、JD9クラスのタイトルを 獲得した太田選手だが、「今シーズンはリ アの動きを改善したかったのでスプリング を変更しました。ドライビングに関しては 自分のイメージに近い走りができつつある 印象なんですが、今後はセッティングに関 しても煮詰めていきたいですね」と語るだ けに、太田選手の進化は続くに違いない。
ターをやっていて、その後にドライバーと してジムカーナを始めたんです。そういっ た意味では、僕の走りの基礎はジムカーナ なんですけど、ダートトライアルを始めた 時に、色々な人の走りを見て、闇雲にそれ を真似していたんですよね。ハッキリ言え ば北村和浩さんの走りにトライしたんで す。けど、当然できないから撃沈しますよ ね(笑)。だから、自分の走りというか、極 端な話、ジムカーナ的な走りに切り替えた んです」と北條選手は振り返る。
また昨年のJD6クラスでタイトルを獲 得した北海道のベテランドライバー北條倫 史選手も、自身のドライビングスタイルを 変更することによってブレイクスルーを果
たしたドライバーで、 「過去を思い返すと、 “自分の走り”に戻し てから結果が出るよう になりましたね」と語 っている。
具体的には「僕は最 初にラリーでナビゲー
北條倫史選手
全日本ダートトライアル選手権JD6クラス
DL☆MJT☆NTランサー[CZ4A]
この変更がプラスに働いていたようで、 「硬質路面であればタイムが出るようにな ったし、ダートラは成績を出せば出走順は 後ろの方になっていくので、いい感じの硬 質路面で、今まで以上のタイムが出せるよ うになったりと、だんだんダートラでも噛 み合っていきましたね」とは北條選手。 「僕は師匠がいないんですけど、ラリーで ナビゲーターをやっている時に色々なドラ イバーを見てきたので、こうやって走れば 速くなるんじゃないか、ということを学ん でいた感じですね。自分の運転操作の基礎 はジムカーナで学びましたが、ナビとして 体感した色々なドライバーの走りと、ジム カーナで培った走りが融合して、ダートト ライアルに活かされたんだと思います」と のことで、他のカテゴリーを含めた豊富な
太田智喜選手
全日本ダートトライアル選手権JD9クラス
DL.Moty's.クスコS+デミオ[DJLFS]
ば、それぞれのコーナーでステアリングを 切りすぎてロスしているとか、ブレーキも オーバーに踏んでいるとか、そういう要素
見つめ直した“自分の走り”
未
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全日本ダートラの花形”Dクラス” に、自身の憧れから挑戦してきた目 黒亮選手。”Dクラス”にはダート ラ黎明期から活躍する改造車スペ シャリストがひしめく激戦区でも あった。目黒選手は発想と体制を変 えたことで、待望の全日本タイトル をモノにすることができた。
ふっきれた第2ヒートへの挑戦の末に自身初勝利を得て、”勝ちパターン” をモノにした坂田一也選手。2017年の全日本ダートラ恋の浦大会のパル クフェルメでは、坂田選手が”何かを掴んだ”、満面の笑みがこぼれていた。
経験が北條選手の“安定感”を支えている。
“勝ちパターン”に出会えた!
タイムトライアル競技は、ドライビング テクニック以上に、それらを引き出すメン タルの大切さが語られることも多い。2本 という限られた走行機会をモノにするには 高い集中力がリザルトを左右するだけに、 メンタル面の変化でブレイクスルーを果た したドライバーも少なくない。
2021年のJD3クラスでチャンピオンに 輝いた坂田一也選手もその一人で、「自分 はメンタルの部分が大きいと感じてます。 最初の頃はイケイケに走っていたと思うん ですが、チカラを抜いて走った方が結果に つながることに気付いたんです」と語る。
2008年に全日本デビューを果たしたも のの「2位、3位には入れるけど勝てない ……という状態がずっと続きました」と語 る坂田選手。そんな彼のターニングポイン
坂田一也選手
全日本ダートトライアル選手権JD3クラス itzz.DLグローバルアクセラ[BK3P]
[特集]ダートトライアル/DIRT.TRIAL 勝利へのブレイクスルー
トが2017年の恋の浦 で、坂田選手は待望の 初優勝を得たのだが、 この一戦がメンタル面 を見直すキッカケとな ったという。
「そのときは1本目が2番手ぐらいで、2 本目ではタイムを上げにくいコンディショ ンになっていました。これじゃダメかも知 れないと思って、超硬質ドライタイヤを選 択して賭けに出たんですが、意外と落ち着 いて走ることができて、タイムアップして 勝つことができたんです。この時に、気を 張り詰めて一生懸命やるだけじゃダメなん だな、ということが分かりました。僕は一 生懸命になると目の前にあるコーナーを意 識して、突っ込みすぎることが多いので、 それ以降は、肩の力を抜いて走るようにな りました」と坂田選手は語る。
このメンタル面の変化は大きなメリット をもたらしたようで、「おかげで1本目の 走りを修正して、2本目でタイムを上げら れるようになりましたし、荒れた路面を見 ながらどこをどう走るのか、などを考えな がら走れるようになりました。“勝ちパタ ーン”が分かってからは、余裕が出てきま したね」とのことで、坂田選手はメンタル 面の気付きが好成績につながっている。
自分に“いい環境”を創ること
そして、環境や体制を変えることもブレ イクスルーのきっかけになるようで、昨年 のJD2クラスで待望の初チャンピオンを 獲得した目黒亮選手は「僕の場合は、2021 年からのクラス変更でした」と語る。
2013年に全日本選手権デビューを果た して以来、それまでのDクラスで戦って きた目黒選手は、翌2014年のモーターラ ンド野沢で全日本初優勝を獲得した。 「割と早いタイミングで勝つことができた
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んですが、その後は成績が出ない状態が続 きました。そして、そんな自分を見たカツ さん(田口勝彦選手)から『まだタイトルを 獲っていないならクラスを変更してみた ら?』というアドバイスも頂いていたんで す。今までは憧れもあってダートラの華で あるDクラスにこだわっていましたが、 やっぱり自分のようなプライベーターには 厳しかったようで、自分に見合ったクラス に変更することにしたんです」と語る。
こうして目黒選手は2021年からJD2 クラスへの参戦を開始。同時に新しい体制 で、新開発のマシンを投入したのだが、実 はこのクラス変更と体制変更が目黒選手の メンタル面にも大きく影響したという。
「今までは一人でセッティングしていたん ですが、新体制ではチームと一緒にクルマ を開発したことで、いい仕様にすぐ仕上げ られました。クルマが仕上がれば自信も出 てくるので、不思議とプレッシャーも減っ てきたんですよね。最高峰クラスのときは プレッシャーが強くて、追い詰められるよ うな感じだったんですが、JD2クラスでは 余裕を持って走れるようになりました。こ れまでDクラスで揉まれてきましたから、 それがいい方向に作用してるのかも知れま せんね」とは目黒選手。クラス替えと体制
変更をきっかけに、自分のいい環境を見つ
目黒亮選手
全日本ダートトライアル選手権JD2クラス クスコDLグローバルランサー[CZ4A]
けられた目黒選手。次世代を担う存在だけ に、さらなる躍進に期待したい。
一心不乱にとにかく走り込む
このようにドライビングやメンタル面の 変化に加え、クラス替えや体制変更などチ ャンピオンたちのブレイクスルーのきっか けは様々だが、いずれにしても絶え間ない 努力が前提にあることは言うまでもない。
2021年のJD4クラスでタイトルを獲 得したベテラン北村和浩選手は、“キタム ラ走り”と言われる、豪快かつベストタイ ムが出る走りにこだわり続け、ダートラ走
りの求道者として自問 自答を重ねてきた。 「自分の場合、何かを キッカケに急に結果が 出るようになったわけ ではないからね。ドラ イビングを変えたわけ
ではないし、セッティングを変えたわけで もないんですけど、自然と勝てるようにな った感じです。でも、一つ言えるのは、と にかく走り込んだことが大きかったと思い ます」と語る。
さらに「昔はダートの道も多かったから、 毎日のように走っていました。練習のため というよりは楽しいから走ってたんですが、 そうやって走るうちにクルマの動かし方や ドライビングの仕方が身に付きました。そ
テクニックステージタカタの通称ギャラリーコーナーへ 進入する太田智喜選手のデミオ。ムダを排して繊細な操 作を心がけた結果、車速も上がり、昨年の最終戦では自他 共に認める会心の走りに至っている。そして京都コスモス パークでタイトコーナーをクリアする炭山裕矢選手のミ ラージュ。低速コーナーの走らせ方は「”正解”しかない」 と表現。このように差がつかないコーナーではなく、他の 差が付くコーナーを勝負どころと見極めている。
太田智喜選手[DJLFSデミオ].テクニックステージタカタ
炭山裕矢選手[A05A(ミラージュ)].京都コスモスパーク
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北村和浩選手
全日本ダートトライアル選手権JD4クラス MJT☆HKサービス☆DLランサー[CZ4A]
ういう経験の積み重ねが結果に結び付くよ うになったんだと思っています」と北村選手 は自己分析する。この、ひたむきに走り続 ける姿勢こそが、ブレイクスルーにつなが る最大の武器だと言えるのかもしれない。
ラリーで知り得た“攻めどころ”
そして、2021年のJD1クラスでチャン ピオンに輝いた炭山裕矢選手は、様々な経 験を経てドライビングスキルを磨いてきた ドライバーで、中でもラリーの経験が自分 の“引き出し”を増やしてくれたと語る。
「僕は、小さい頃からダートラ場に連れて 来られていて、最初は改造車でダートラを 始めました。その後に国内外でラリーを経 験させてもらい、再びダートトライアルに 戻ってきたという経歴なんです。このラリ ーを経験したことがドライビングの幅を広 げてくれたと思っていて、ここで引き出し を増やせたことが今のダートラ活動に活か せていると考えています」と語る。
さらに「ラリーを経験したことで、攻める ポイントと抑えるポイントが分かってきま した。例えば低速コーナーはタイヤの依存 が大きいので、必要以上に頑張っても速く 走ることはできません。言わばそのコーナ ーには“正解”しかないので、ミスをしない ように減点方式で走るんですよ。対する高 速コーナーは、ドライビングスキルの差が 付きやすいので加点方式で走っています。 だから、昔はコーナー進入時に入口でのク ルマの向きや姿勢変化のポイントなど、細 かい部分を気にしていたんですが、今で は、手前はあまり意識せず、立ち上がりの 最後のイメージだけを意識して、そこに合 わせ込むようになりました」と解説する。
もちろん、ダートト ライアルにはラリーに はない難しさがあるよ うで、「ラリーの方が 走る期間も距離も長い ので肉体的には疲れる んですが、ダートラは たった2回のアタック でも、自分の100%に
炭山裕矢選手
全日本ダートトライアル選手権JD1クラス ZEAL.by.TS.DLミラージュ[A05A].
近い力を発揮しないといけないので、メン タル的には疲れます。ラリーは100%以上 で走ることはなくて、95~99%ぐらいか ら、いかにマージンを削るかでタイムが変 わってくる感じなんですよ。でも、ダート ラは常に100%に近い走りをしないと勝て ないし、中には谷田川敏幸さんみたいに 100%を超えてくるドライバーもいますか らね。そこは自分にはできない所だと思っ ているので、未だにダートラも難しいと感 じますね」と炭山選手。
さらに「実は、自分の中で、レーシング スーツを着るタイミングなどのルーティン を大切にしてるんです、ラリーはアイテナ リーやスタートリストで走る時刻が決まっ てますが、ダートラは競技進行の具合で、
自分の出走のタイミングが変わってきます よね。ダートラは意外と自分のルーティン を作るのが難しいんです」とのことだ。
ドライバーの役割はたった“25%”
そして、メンタル面においてもラリー時 代の経験が役に立っているようで、ラリー でお世話になったエンジニアに言われた言 葉が、メンタルコントロールにおけるブレ イクスルーのきっかけになったという。
「当時のエンジニアに『クルマが25%、タ
イヤが25%、エンジンが25%、ドライバ ーが25%。いくらドライバーが頑張って も25%しかないから、足りないところは 別の部分で補えばいい』と言われたんです。 この言葉でラクになったというか、冷静に 考えられるようになりました」と語る。 「それまではドライバーが50%ぐらいだ と思い込んでいたので、がむしゃらに走っ た結果、行きすぎてコースアウトしたり、 その反省から抑えすぎて結果が出なかった りと、成績が不安定だったんです。でも、 その言葉を聞いてからは、ドライビングを 変えてダメなら、セッティングを変えてみ るとか、全体のバランスを考えるようにな りました。それから少しずつ右肩上がりで 成長していくことできたので、その言葉が 自分を大きく変えたきっかけだったと思い ます」と炭山選手は付け加える。
このようにファクターは千差万別なが ら、頂点を極めたチャンピオンは何らかの ブレイクスルーを果たし、トップタイムを 叩き出すための必勝法を習得している。 「自分の特性を理解して、本番でどうアジ ャストするのか。そこが大きいですね」と は炭山選手の言葉だが、自分に合った攻略 のヒントを見つけられときこそが、勝利へ のブレイクスルーへとつながるのだろう。
[特集]ダートトライアル/DIRT.TRIAL
勝利へのブレイクスルー
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年で22年目を迎える国内最大規模のドリ フト競技「D1グランプリ」は、2014年か らJAF公認式競技として開催され、世界的 にも類を見ない独特なモータースポーツに成長したの はご存知のとおり。2022年6月現在、シリーズ独自の 「D1ライセンス」を保持する選手は134名。選手の年 齢層も24歳から50歳オーバーと幅広い。そんなバリ エーションに富んだ現役D1ドライバーの中で、勝敗だ けではない“どうしても譲れない気持ち”を持ちながら 参戦する、個性的な選手たちを紹介しよう。
初年度から一度も休場がなく
D1GPフル出場連続150戦の鉄人!
D1グランプリの長い歴史の中で、初年度から一度 も欠場することなく参戦している唯一の選手が、現在 レクサスRCを駆る上野高広選手だ。正確には初年度 から参加している選手はほかに2名いるが、初期に開 催されたアメリカラウンドに参加した選手まで絞り込 むと彼ひとり。その出場回数、なんと150回。まさ にD1グランプリの「鉄人」と呼ぶに相応しい人物だ。
上野選手が搭乗するマシンは現在3車種目で、常に 重量級の2ドアクーペをチョイスする。初期はJZZ 30ソアラ、のちにBMWの3シリーズE92クーペ、
そして現在のレクサスRC。自身がデザイナーであ り、代表も務めるエアロパーツメーカーT&EのPR を兼ねた参戦ではあるが、ドリフトの人気要素のひと つであるビジュアル面を重視しつつ、常にラグジュア リーさを感じさせるスポーツモデルを愛機とし、ほか の選手と被らないマシンチョイスが信条だ。
さらには話題性やドリフトの認知度アップも重視し ていて、獲得するスポンサーは異業種のコラボが多
い。かつては円谷プロダクションとタッグを組み、ウ ルトラマンのPRも担っていた。
惜しむらくは未だチャンピオンが獲得できていない ところ。優勝経験は2001年の第4戦エビス大会の1 回のみ。そしてこの年のシリーズランキング3位が現 在までの最上位だ。これまで決勝戦に進出して敗退し た回数は3回。長期間の選手活動ゆえに、優勝しない
ドリフト 「こだわり
[特集]ドリフト/DRIFTING
今
名物選手がドリフト競技で“敢えて”固執するその理由とは?
ドリフトの認知度アップのために 自分は“なにができるか”を意識!
最長記録の保持者にもなっており、「もう一度優勝す るまでは絶対に引退しない」と公言するあたり、不休 の鉄人たるこだわりが垣間見える。
ちなみに初年度のチャンピオンを獲得した、現在ス ーパーGTドライバーの谷口信輝選手とは親友であ り、ともに初年度から誰も着用していなかったレーシ ングスーツ姿で参戦(ほかは作業ツナギ姿がほとんど
だった)。ドリフトをモータースポーツとして確立さ せようという意識が高かった選手と言える。
安定した成績を残せない理由のひとつがマシンチョ イスだろう。改造の手法が確立した定番車種を選ばな
いがゆえ、第一線で戦えるまでに時間がかかっている のが現実だ。しかしそれは彼のチャレンジングスピリ ットの現れであり、困難に打ち勝とうと努力を続けな がらも、一度もラウン
ドを欠場しない姿勢に 感銘を受けるファンは 数多い。また、3車種の マシンで決勝戦まで進
出している稀有なドラ イバーだという点も追 記しておこう。
こだわり」考察
TMAR × TEAM VERTEX
#1
ニックネームは「ウエチン」で、北海道生まれ 神奈川県育ち。かつてはヴィッツレースなどに も挑戦していた。今年の参戦体制は斎藤太吾選手 をサポートするチームTMARにジョイントしている。
22年間 不休の鉄人
JZZ30、E92と重量級2ドアを乗り継ぎ、2019年からレクサスRC に変更。車重は参加車両の中でもっとも重い1500kg台だ。エアロ パーツは自身が立ち上げたブランド「VERTEX」を装着し、昨年までは サイルン、今年はD1GPのスポンサー企業のひとつに復帰した横浜ゴムの アドバンA052(20インチ)を履いて参戦している。年々アジアンタイヤ率が 高まるD1GPにおいて、数少ない国産ユーザーなのだ
マシンやチューニング手法、走らせ方に至るまで、 その時々でさまざまなトレンドが生まれている ドリフト界において、それらに左右されずに敢えて 我を通す“こだわり”を持った名物ドライバーがいる。 ドリフト競技のトップカテゴリー、D1グランプリで 活躍する彼らは何を追い求めているのか? そのワケを探っていく。
PHOTO/SKILLD、藤原伸一郎[Shinichirou.FUJIWARA] REPORT/SKILLD、JAFスポーツ編集部[JAF.SPORTS]
名物選手がドリフト競技で“敢えて”固執するその理由とは?
上野高広選手
上野選手に次ぐ参戦回数記録を持つ選手は、初年度 の第3戦からエントリーする田所義文選手だ。台数制 限でポイント獲得者のみが参加できたスペシャルラウ ンドと海外ラウンド以外はすべて出場している。
そんな田所選手の偉業は、22年間、同じ車種で参加 している唯一の存在だということ。今のハチロク= AE86は通算4台目となっており、搭載エンジンはこ れまで6種類を数える。初期は4A-Gターボ、次にそ の排気量アップ版の7A-Gターボへと変更し、さらな るハイパワーを求めて13B-T、そして3ローターの 20B-Tへと進化させる。ほかのエントラントが800 馬力を超えるようになってきた2018年には同様に 2JZをチョイス、しかしトルクがありすぎて乗りづら くなったことで2021年からは現在のSR20DET(VE ヘッド+2.2リットル化)に変更した。これがファイ ナルアンサーとなる予定だ。ちなみに初年度の2001 年はランキング10位のうち6台がAE86だったが、 生き残っているAE86使いは彼ひとりである。
「もしも車両規則でAE86の参加が禁止になったら、 そのときはD1GP参戦を止める」と断言するほど AE86にこわだる理由は、ドリフトを覚えたのが AE86だからであり、ファンの期待も年々高まってい るからだという。AE86で優勝して欲しいと思い、田 所選手をサポートする企業も少なくないのだ。
「ドリフトは例えGT-Rを相手に戦ってもAE86なら
勝負になる、勝てるという唯一のジャンルです。応援 してくれる皆さんもそこに夢を抱いてます。それが自 分にとってのモチベーション。これはもう意地と言う よりもロマンの追求ですよね。初期のころはそこそこ いたAE86も、今やボクがやめたらゼロ。AE86ファン のためにも止めるわけにはいかないんですよ」と語る。
あるラウンドの2日前にエンジンブローしたことが あり、そのときは急遽車両を購入し、エンジンを載せ 換えて「ノーマルエンジンでもいいからスタートライ ンに並べよう」と最後まで諦めなかったこともある。
これまでの戦績は、2015年のシリーズランキング 10位が最高。また最高順位は2016年の第5戦エビ ス南大会で追走4位、単走では2011年の第5戦お台
搭載したエンジンは6種類 常にハチロクの進化に挑む!
頑固一徹「ハチロク=AE86じゃなければD1に参加する意味がない!」
#2 孤高の AE86使い
ドリフト 「こだわり」考察 58
RS WATANABE SPEED MASTER BUY NOW JAPAN
田所義文選手
場大会で2位。
20年以上の歳月を経て進化してきたAE86ではあ るが、サスペンションの構造そのものはスタンダー ド。「ドリフトはホーシングの方が向いているのでは ないか」との考えもある。出場車両最軽量の990kgを アドバンテージに、今年は足回りのセットアップをさ らに見直して念願の1勝を狙う。
AE86の改造方法ではマルチリンク化がメジャーだが、田所選手はホー シングの優位性を信じている。強度の高いエスティマ用を流用しつつ、 トレッドを変更するなど小加工してドリフトにマッチさせており、現在 で4作目。ミッションはTTiのシーケンシャルドグで20B-T、2JZ、SR20 と、3エンジンに対して1基を使い回しているそうだ。
SR20DETをベースに2.2リットルにボアアッ プ。ヘッドはエクストレイルに搭載されてい たVE型を合体した。ロッカーアームが省かれ て高回転に強くなる。なお、この写真は昨年の マシンで、そのとき装着していたトーヨータイ ヤのステッカーが貼ってあるが、今年は中国 製ハビリードタイヤを履いて参戦している。
不滅のシルビア×SR20DET魂
D1グランプリ初年度から今に至るまでもっとも多い台数が出場しているシルビア だが、搭載されているSR20DETエンジンをそのまま使っているケースは少ない。
1000馬力も珍しくないこの世界では、ほとんどが排気量が大きく、強度も高い2JZエ ンジンに載せ換えるのが常識だ。
しかし、頑固なまでにSR20DETにこだわって今シーズンを戦い、何度も予選を突 破しているドライバーが2名存在する。
村上満選手はD1初年度から出場していた選手で、数年のブランクを経て2017年 に復帰。波紫聖和選手はD1ライツからのステップアップで、2020年からフル参戦し ている。ともにシリンダーヘッドはVE型に変更した2.2リットル仕様だ。とくに村上 選手は予選通過だけでなく追走でも勝利し、未だSR20SETのポテンシャルの高さを 証明している。
村上選手のS15シルビアは、唯一の生き残りのSR20DET搭載シルビアというだけでなく、リアラジ エター仕様に変更するのが定番である中で、唯一のフロントラジエター仕様でもある。
村上満選手 Team C.M.Feeling.
波紫聖和選手 SHIBATA RACING TEAM SHIBATIRE
2021年成績 第8戦/第9戦/第10戦 予選通過 2022年成績 第2戦/第3戦 予選通過
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2021年成績 第7戦/第8戦 予選通過 2022年成績 第2戦/第3戦 予選通過
D1SLからともにステップアップ
好敵手に勝つにはゼロクリアランスが必須
超接近の追走は「アイツには負けない」というライバルへの強い想い #3
ダブル主役の ライバル
ここ数年でもっともシリーズを賑わせているのが中 村直樹選手と横井昌志選手のふたり。ともにシルビア を愛機としてD1グランプリ下部リーグのD1ストリ ートリーガル(以降D1SL、現在はD1ライツと改名) のシリーズチャンピオンを経てステップアップ。年齢 も一緒だ。このふたりが対戦すれば、決勝戦レベルの “ゼロクリアランス”追走の激戦地と化す。
決勝トーナメント前の選手紹介のマイクパフォーマ ンスでお互いに「あいつには負けない!」と煽り合うこ ともあり、自他ともに認める宿敵同士だ。
D1デビューの時期は違えど、早い時期に一度D1 グランプリにスポット参戦し、まだ時期尚早と知るや 翌年は下部リーグのD1SLで修行してチャンピオンを 獲得、その後にD1グランプリに本格参戦を始めると いう経歴も同じ。D1SL時代を振り返れば、中村選手 が2009年と2010年で連続チャンピオンを獲得する
と、横井選手は2012年 にチャンピオンを獲得し てD1グランプリにステ
ップアップした。中村選手はD1SLに残留して2014 年にふたたびチャンピオンを獲得。諸事情により競技 ドリフトへの参加ができない時期もあったが、2019 年にD1グランプリに復活するや、ふたりの対決は激 化することとなった。これまでの戦績をまとめると、 追走の直接対決は7回で、中村選手が5勝している。 D1グランプリで2018年と2019年に2度のチャ ンピオンに輝き、これまでの優勝回数9回を誇る横井 選手の参戦スタイルは、ほかと一線を画している。横 井選手のチームはドリフトを得意とするパーツメーカ ーのD-MAX。自身で経営するショップを背負ってい るセルフプロデュース型ではなく、パーツメーカーの 開発兼PRドライバーとして抜擢されている。 D-MAXの狙いはもちろんワンオフパーツの宣伝な のだが、D1グランプリ向けに特化した特殊なパーツ ではなく、市販品を使っているのがこだわりだ。主力
横井昌志選手
D-MAX.RACING.TEAMは2019年より2台体制。僚機は 2018年のチャンピオンマシンで末永正雄選手が駆る。と もに2JZエンジン搭載の3.6リットル仕様だ。
直近4年間の成績は、2018年が単走1位/追走8位、 2019年が単走1位/追走1位、2020年が単走1位/ 追走2位、2021年が単走2位/追走2位。マシントラ ブルも少なく、ノーポイントはたったの1回というの も称賛に値する。また、シリーズを連覇したドライ バーは横井選手を含めてD1GP史上2人しかいない。
D-MAX RACING TEAM
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超接近の追走は「アイツには負けない」というライバルへの強い想い
製品のエアロパーツはもちろん、サスペンションアー ムやナックルなど、機能パーツも市販品そのまま。し かもこれらはリーズナブルなプライス。中には自動車 メーカーが生産中止にしたパーツのリプロダクト品も 含まれ、それらの強度耐久テストの場としてもドリフ ト活動は活かされている。結果、多くのシルビアユー ザーが参考にし、救われていることだろう。 対する中村選手の参戦スタイルはとことん自己のア ピールに徹する。ボディカラーは自分の好みでレース マシンにはあまり存在しないツートーングラデーショ ンのラメ塗装。スタート前でも目立つために、敢えて アンチラグを空ぶかし重視で効かせていたり、その存 在感は悪役レスラーのようだ。中村選手いわく「ドリ
ドリフト 「こだわり」考察
フトは常に目立つことが重要」というのが信条で、 2021年に念願のチャンピオンを獲得するや、今年か らエンジンをシボレーのV8に変更してさらに独自路 線を強めている。
ふたりがともに持つ感情は、D1SL卒業組が持つ先人 (創成期組)に対する下克上。そして現在は、ステップ アップの目覚ましいD1ライツ卒業組に負けられない 意地。彼らが見せる接触覚悟のゼロクリアランス追走 は、D1GPのメインイベントとも言える。そして、どち
らが最後まで舞台に立ち 続けるのかを常に意識し 合っているのである。
昨年のチャンピオンマシンはS15シルビア。今年は自身の 原点であるS13シルビアを新造し、コルベットのLSXエン ジンにスーパーチャージャーを組み合わせて1000馬力 オーバー。デビュー戦の奥伊吹大会でいきなり2連勝した。
2019年にS15シルビアでD1GPに復帰し2JZ改3.6 リットル仕様を搭載するもエンジンブローが多く、単 走9位/追走6位、2020年が単走4位/追走5位と 100%の実力を発揮できなかった。2021年は3.1リッ トルに変更するとこれが大成功。単走2位&追走1位 と文句ない好成績で初チャンピオン獲得となった。
中村直樹選手
TMAR × TEAM紫
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オート テスト 倶楽部
AUTO TEST CLUB
ートテストは2015年から始まった JAFの新たなモータースポーツカテ ゴリーで、同年7月には栃木県のドライビ ングパレット那須で体験版「Be-とる」、北 海道のオートスポーツランドスナガワでは 「第1回オートテストチャレンジ2015」、奈 良県の名阪スポーツランドでは「オートテス トお試し会」が開催され、記念すべき一歩 を刻んだ。以降、北海道から沖縄まで、多 くの地域で開催され、既存のライセンス所 持者以外にも広く認知が進んでいる。
一方で、他地域に遠征して自分なりの全 国シリーズを組んで参戦するような選手も 増えてきた。こうなると、オートテスト走 行に長けた“スペシャリスト”も生まれるも ので、最近では、そういった選手とオート テスト初心者との間で経験の格差が広がり、 参加者同士の心の分断が懸念されている。 「初めて参加しましたが、かなりホンキの 方が多くて驚きました」とはオートテスト 初参加の選手からよく聞かれるセリフだ。 主催者によっては、経験者と初心者を別ク ラスで棲み分けることもあるものの、多く は、車形やトランスミッション形式による
「もっと、オートテストを……!!」
経験者も心から楽しめる大会とは
北海道から沖縄まで全国での開催が実現して、すっかり認知が広まったオートテスト。 導入から7年が経過し、オートテスト走行に長けたスペシャリストも多く誕生した。 しかし、気軽に参加できてモータースポーツとしての面白さも併せ持つことから、 経験者たちはもっと勝負したいと思う一方で、参加へのためらいも生じているという。 ここでは、そんなオートテストの面白さにドハマりしている選手たちの声を聞いた。
PHOTO/宇留野潤[Jun URUNO]、遠藤樹弥[Tatsuya ENDOU]、JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS] REPORT/JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS]
クラス分けに留まっている。そのため、経 験者と初心者が混走するクラスに参加する と、こんな素直な感想に至るものだ。 これらの理由には、参加費が低く抑えら れたオートテスト独特の、主催者の手間と コスト負担を軽減する事情もあるだろう が、どちらかというと、参加者の経験値を 申し込みの時点で把握することが難しいと いう本質的な問題もある。
現在は大会数も増え、表彰台の常連にな る選手を特定できるデータも入手可能では ある。実際、地域内の参加傾向を分析して クラスの割り振りを行っている主催者もい る。しかし、遠い過去に競技経験がある人 や遠隔地からの遠征者などの判定は難し く、経験者と初心者の棲み分けの厳格化は 一筋縄ではいかないものだ。
こういった課題について、スポーツラン ドSUGOのように、前年のシリーズ入賞 経験者は、翌年は自動的にエキスパートク ラスに組み込まれるといった対応をしてい る大会もあるが、今年の春には、ついに JAFの競技ライセンス所持者のみを対象と したオートテストが、富士スピードウェイ
でシリーズ戦として始まることになった。
富士のカートコースで始まった Bライ所持者向けの“シリーズ”
今年の3月から開催されている「JAFオ ートテストシリーズ in 富士スピードウェ イ」は、VICICが主催、PMC・Sが後援す る地方格式のオートテストで、富士のカー トコースで昨年から行われてきたオートテ ストの発展版と言える大会だ。
今年の開幕戦は、土曜にクローズド格式 の「JAFオートテスト in 富士スピードウェ イ」、日曜に地方格式の「JAFオートテスト “シリーズ” in 富士スピードウェイ」を実 施し、第2戦以降は日曜にそれぞれ同日開 催されるカレンダーが発表されている。
もともと毎戦多くの台数を集めていた大 会だけに、地方格式で開催された第1回大 会には43名ものエントリーが集まった。
この地方格式の“シリーズ”の開催につい てVICICの今宮眞代表がその経緯を語る。 「モータースポーツの世界は厳しくて、速 い人が偉くて、遅い人はやめていってしま うのが常です。でもこれは、業界の受け皿
オ
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のソフトウェア作りができておらず、新し い人が入ってきても活動する場がないこと も影響していると感じていました。昨年来、 この大会を通じてライセンスを取ってくれ た人が増えましたが、Bライを取った人は現 実的にやれることは少ないわけですよ」。
PMC・Sの関根基司代表はこう語る。
「ライセンス所持者とない人が一緒に走る のでは同じになってしまうので、ライセン ス所持者だけのイベントを作ろうというの がキッカケでした。これまでは、Bライを 取ったらジムカーナで、“その道”の上級者 がひしめく大会に出る感じでしたよね。そ うじゃなくて、オートテストでライセンス を取っても、走れるイベントが他にもある
んだよということを広めたかったんです。 底辺を拡大するという意味ではちょうどい い大会なのではと考えています」。
土曜の“通常版”が盛況に終わり、日曜 には“シリーズ”大会が開催された。この大 会の走りの様子を見た今宮氏はこう語る。 「皆さん上手ですよね。真剣さが違いま す。公式戦の雰囲気にも慣れがあるようで すし、雰囲気を楽しむ感じもあります。オ ートテストはこういうやり方のほうがスム ーズに安定していくような気がしました。 この“シリーズ”では年間の日程を出して います。基本的な話ですが、それも大切だ と思っていて、参加者の皆さんは仕事の休 みや家庭との調整もありますから、たとえ 草レースでもブレずにいきたいですね」。
「この大会は、トランスポンダを使って、ピ ットレーンからスタートしてコントロールラ インでゴールします。そうすると、電光掲示 でリアルタイムに計測結果を表示できるん です。現代の皆さんはせっかちですから
(笑)、草レースでも最新の設 備でスムーズに運営して、本 格的にやるということを心が けています」。
この大会にロードスターで 参加した日紫喜俊夫選手は、 土曜と日曜の両方に参加した ツワモノ。そもそもオートテス ト黎明期から参戦を続け、自 ら全国を転戦しているスペシ ャリストとして知られている。
「やっぱりロードスターは安 定してますよね。昨日はお借 りしたプレマシーで、今日は 自分のロードスターで走っ
て、いろいろ試せたので楽し かったです。今日のコース は、パイロンスラロームも奥 に行けば行くほど間隔が狭く なっていて、考えて走らなけ ればいけませんでした。今ま
2022 JAFオートテストシリーズ第1戦
TCクラス 日紫喜俊夫選手[ロードスター]
2022 JAFオートテストシリーズ第1戦
TCクラス 大塚拓哉選手[スイフトスポーツ]
で1回目で良いタイムが出ても、2回目は だいたい遅くなっちゃうので、あまり気負 わず走りたいんですけどね(笑)。土曜は新 しい人がたくさんいて、走りを楽しみまし ょうという雰囲気でした。自分も同じよう な気持ちでしたが、今日は皆さんの目が血 走ってますね(笑)。おかげで走り甲斐はあ るんですが、その分、勝てなかったときの ショックも大きいですよ」。
そして、日紫喜選手とともに長いオート テスト経験を持つ大塚拓哉選手は、スイフ トスポーツで息子さんの同乗で参戦した。 「今日は2位とコンマ02秒差だったので、 かなり悔しいですね。何とかメダルを獲れ てホッとしています。33スイフトは速い人
ばかりなので、負けないようにライバル意 識を持って気合を入れています。日紫喜さ んはオートテスト立ち上がりの頃から一緒 に走ってきたので、師匠みたいな人です。 そんな日紫喜さんと、最近になってようや くいいレベルで戦えるようになったかなと 感じています。主催者の方々は気軽なモー タースポーツって言ってますけど、ボクら は始めたらガチでやっていますし、クルマ も作り込んじゃってますよ」。
近いレベルの参加者同士が、目標に近付 き追い越すために切磋琢磨する様子が、パ ドックの随所から感じられる大会だった。 市街地での開催にこだわる
奈良の老舗オートテスト
奈良県では、オートテスト導入初年度か ら、衆目の集まる会場でのオートテストが RC.NARAの主催により毎年定期開催され
富士のカートコースで今年から始まったライセンス所 持者向けの“シリーズ”。トランスポンダを使用して計 測した走行タイムがゴール直後に電光掲示される。
開催地:富士スピードウェイ・カートコース(静岡県小山町)
2022 JAFオートテストシリーズ in 富士スピードウェイ第1戦
開催日:2022年3月13日 主催:VICIC 後援:PMC・S
富士スピードウェイのオートテストで Bライ所持者対象のシリーズ戦を開始
今日は本番車で昨日はミニバン
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煮詰めちゃうやはり真剣に
ている。今年も商業施設「アピタ大和郡山 店」駐車場を舞台に、奈良トヨペットの協 賛によるEVカートの体験コースが併設さ れ、JAF WOMEN IN MOTORSPORT共 催も相まって、華やかに開催された。
この大会は、車形やトランスミッション 形式でクラス分けがなされていて、会場の 収容台数の関係もあり上限台数を決めてい る。そして、オートテスト経験者も初めて の参加者もバランス良く受け入れ、特定の 属性に偏らないようなエントリーリスト構 築がなされている。
また、JAF WOMEN IN MOTORSPORT 共催ということで、近年では参加台数の半 数程度を女性専用クラスに振り分けている。
女性参加者の数は全国でもトップクラスで、 この大会でつながり、この大会だから安心 して出られるという参加者の声も多い。
この大会に旧車のCR-Xで参加する山本 雪選手は、奈良の大会の常連組で、かつて ジムカーナを経験したことがある。
「私としては、このゆるい雰囲気が好きで 出ています。ジムカーナをやめた理由が、 お金が掛かりすぎることと、朝も早いし、 タイヤも傷めるし、クルマが古くなると、 パーツも出ないから壊せなくなります。ジ ムカーナ時代の私は“底辺”にいて、つまら なくなっていました。でも今の私は、自分 の持っている好きなクルマでゆるく遊べる 大会を見つけられたので、ホント、オート テストはピッタリなんですよ。仲間も増え るし、クルマの話をするだけで楽しい。正 直、私は順位は関係なくて、他の人の走り を見たりして、ゆる~い時間を味わうのが 楽しいんです。だからこの大会をもっと開
催して欲しい! と思っています」。 そして、この大会の男性陣には、富士ス ピードウェイの“シリーズ”にも参戦した 選手が参加。アツい戦いを繰り広げて表彰 台を獲得したそれぞれ二人の声を聞いた。
「JAFオートテスト in 富士スピードウェイ」を主催する VICICの今宮眞代表と、大会を後援するPMC・Sの関根 基司代表。富士スピードウェイ本コースのレイアウトを 模したカートコースを舞台に昨年からオートテストが 定期開催され、多くの参加を集めている。そして、今年 はついにライセンス所持者向けのオートテスト“シリー ズ”が年間5戦で始まった。
は気軽に参戦できますし、ボクは割と本気 で、バックを使うところが面白いと感じて います」。
ロールケージを装着した三菱ミニカで参 戦した古川和樹選手。オートテストでモー タースポーツの世界に触れてから、現在で はジムカーナやサーキット走行など、毎月 のように走る場を求めて活動している。 「多いときには月2回とか走ってます。最
初にオートテストを経験して から、自分のクルマを操って タイムを競うことが面白いと 感じました。その後、ワンラ ンク上が気になり出して、ジ ムカーナやミニサーキット走 行なども、遊びレベルで始め ました」。
「ボクのミニカはロールバーを付けたり内 装を剥がしたりしていますが、ジムカーナ だとまず勝負になりません。NAでパワー がないし、オープンデフだしLSDもない。 そもそも、クルマの選択を間違えてますが (笑)、このクルマで最大限、互角に楽しめ るのは、やはりオートテストなんですよ。 ターボ付きミッドシップのS660を相手に しても、オートテストならドライバーの技 量しだいで互角の勝負ができますからね」。 そして、最近ではオートテストに参加す るにあたり、気になることがあるという。 「そろそろオートテストには出ない方がい
ジムカーナに挑戦オートテストから
これを節目に……!
「オートテストは速度域が低 いので、ハンドルやバックの 操作を丁寧にやらないと速く 走れません。そこが意外とシ ビアなので、一つひとつの動 作を確認しながら運転する練 習、という意味でも面白いと 感じています。ジムカーナは 参加料が高かったり、タイヤ がけっこう減ったりするの で、なかなか金銭的な折り合 いを付けることが難しいんで すよ。その点、オートテスト
クラス通算 10
オートテスト2022
オートテスト2022
今のクルマで互角に楽しめる やっぱりオートテストがいい!
IN アピタ大和郡山 Bクラス 古川和樹選手[ミニカ]
IN アピタ大和郡山 Cクラス 藤塚伊織選手[SAI]
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オートテストを幅広い層にアピールする
恒例の奈良・大和郡山大会が今年も開催!
オートテスト2022 IN アピタ大和郡山・JAFウィメンインモータースポーツオートテスト
いのかなとも思い始めています。ボクが始 めたときも、うまくてクルマも速くて、毎 回表彰台に上がる常連さんがいました。日 紫喜(俊夫)さんとか篠原(賢爾)さんとか (笑)。舞洲に2年ぐらい出ていたときは日 紫喜さんがずっと1位で、なかなか上位に 行けず『もうええでしょ』と思うくらいで (笑)。でも、現在はボクらも上位争いがで きるようになったので、今度は自分がそう
言われる側なんだろうなと感じています。 ですが、ようやく上位争いができるように なったので、ボクらとしても勝負が楽しい んですよ……。始めた頃から表彰台に上が りたいと思っていましたからね」。
「そういう意味で、ボクらが楽しくても、 これからやりたい人の意欲を潰してしまっ ていないだろうかと、負い目を感じてしま うんです。こういう思いをしている人は他 にもいると思います。日紫喜さんもそう思 ってるんじゃないですかね(笑)。ボクも日 紫喜さんを超えられたら“次”を考えよう と思ってますが、未だに勝たせてくれませ ん。主催者の方々にお願いしたいのは、他 の競技にステップアップさせるんじゃなく て、オートテストはオートテストとして楽 しい競技だと感じているので、ぜひオート テストにエキスパートとか、ライセンス所 持者クラスなどを作って欲しいんです」。
セダンでもここまでやれる!
ステップアップに悩む日々
そして、この大和郡山のオートテストで
クラス優勝を果たした藤塚伊織選手は、テ レビCMで一目惚れした黒塗りセダンのト ヨタSAIを駆り、富士の“シリーズ”にも 挑戦。今回は、地元の大会に参加した。 「今日の走りは納得いくものではありませ
んでしたが、結果的に優勝が付いてきたの で良かったと思います。実は今回、個人的 には節目の大会だったんです。2018年か らオートテストを始めて、今回の勝利で通 算10勝目になりました。そして、これを 機に他のカテゴリーへの挑戦も考え出そう かなと思っているんです」。
「学生時代に一目惚れしたSAIを、高卒で 社会人になってお金を貯めて、ようやく中 古で買えました。当時はモータースポーツ にはまったく縁がなくて、その後、スマホ のゲームをキッカケに自動車のことを調べ 始めたら、地元でオートテストというもの があることを知って、そのときは試乗車で 参加できたので出てみました。そしたら、
これは面白い! と思って、Bライセンス も申請しちゃって、自分のクルマで走るよ うになったんです。これまでフルノーマル のセダンでも速く走れることを示したくて やってきましたが、オートテストはあくま で入門編で、その後はステップアップして ねという意味もあるわけですよね。自分も そろそろ、そういう役目を果たしたほうが いいのかなと思うようになりました」。
「オートテストがいろいろ開催されて、経 験がある人とない人が一緒に走ると、どう しても経験者の方が成績上、有利になりま
奈良県の市街地で毎年定期的に開催されているRC.N ARAのオートテスト。初心者大歓迎の賑やかなイベン トで、女性限定部門が設定されている。
すよね。表彰式も同じ顔ぶれですし、SNS でもそれが話題になることがあります。オ ートテストをやる層がこれから増えていく 中で、事情があって他のカテゴリーに挑戦 しにくい人もいて、ボクもその一人です。 なので、経験者とビギナーでクラス分けを していくことなどが、長いスパンで考える と必要になるのかなと感じています」。 「もちろん、クラス分けを増やすと、主催 者さんの手間も増えますし、オートテスト は参加費が安いので、その負担が主催者さ んに行ってしまうという話や、トントンじ ゃなくて赤字やねんという話も聞いていま す。主催者側の苦しさというのもボクらは 感じていますし、経験者としては、それを 理解するべきだろうなとも思っています」。 「オートテストからジムカーナに行く人も いますが、自分も含めて難しいと感じる人 も多いです。その中で、どうやってステッ プアップできるかを現在模索中です。オー トテストは奥が深いですけど、まずは楽し むことが大切。もっと多様性が広がれば ……ですかね。主催者と参加者にとってポ ジティブな環境になれるといいですよね」。 オートテストの主催者向けガイドライン には、参加者の参入障壁を徹底的に低く、 一般的なアミューズメント並みに身近なも のにするための指南がなされている。その 狙いは見事に当たったと言えるだろう。そ して、車両の性能に依存しがちなモーター スポーツの世界に、後退セクションを設け ることで、ウデの勝負に持ち込みやすい条 件を埋め込むことにも成功している。 多くの人々にオートテストを認知させ、 気軽に参戦できるイベントは継続しつつも、 オートテスト経験者たちの心の叫びに応え る新たなステップアップの方向を構築する 必要性……。導入8年目を迎えようとして いる現在、オートテストのポテンシャルを 再検証すべきタイミングが来ている。
開催地:2022年5月22日 主催:RC.NARA 開催地:アピタ大和郡山店 駐車場(奈良県大和郡山市)
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J A F M O T O R S P O R T 第S 56巻 第 3 号 2022年 8 月1日発行(年 4 2 、 5 、 8 、 11 1 日発行) 発行人 日野眞吾 ☎ 0 3 ( 5470 1711 (代) 一般社団法人 日本自動車連盟 東京都港区芝大門 1 1 番 30号 0570 00 2811 (総合案内サービスセンター) 発行所 東京都港区芝大門 1 9 番 9 号 ㈱ J A F メディアワークス 定価279円 2022 SUMMER