JAFスポーツ 2019年 夏号(第53巻 第3号 2019年8月1日発行)

Page 1

JAFスポーツ[モータースポーツ情報] JAF MOTOR SPORTS 第53巻 第3号 2019年8月1日発行(年4回、2、5、8、11月の1日発行) 2019 SUMMER JAF MOTOR SPORTS ダートラ“D”新時代 ニューカマー参入のD部門が今アツい! e Sportsが “スポーツ”たる所以
F3戦線、異状アリ ~新たに繰り広げられる日本人vs外国人の激戦!~ 特集
黒船襲来!

Honda F1、6月30日のオーストリアGPで、F1復帰後ついに初勝利! F1、F2、そしてル・マンでも……。6月はニッポンのモータースポーツが世界に輝いた!

帰後のF1初勝利。6月30 日に開催された2019年の FIAフォーミュラ1世界選 手権第9戦オーストリアグ ランプリで、ホンダ製パワーユニットを搭 載したアストンマーティン・レッドブル・ レーシングのマックス・フェルスタッペン 選手が優勝した。

これはホンダとして2015年のF1復帰 以来の初勝利で、通算では2006年8月の ハンガリー・グランプリ以来、13年ぶり 73回目のグランプリ制覇となっている。

土曜の予選でポールポジションを獲得し たのはフェラーリのシャルル・ルクレール 選手。2番グリッドは好調のルイス・ハミ ルトン選手だったが、グリッド降格のペナ ルティを受けたため、3番手タイムのフェ

ルスタッペン選手が繰り上がって、2番手 でフロントローを獲得した。

71周の決勝レースは、フェルスタッペ ン選手が今シーズンのベストタイの位置か らスタートとなったが、何とスタート失敗。

ハミルトン選手やキミ・ライコネン選手な どに抜かれて大きく順位を落としてしまう。

しかし、ここから怒涛の巻き返しを図る フェルスタッペン選手は、トップと同等の ペースを維持しながらオーバーテイクを連 発。レース中盤でピットインしてタイヤ交 換を済ませると、4番手にまでにじり寄った。

続いて、セバスチャン・ベッテル選手、 バルテリ・ボッタス選手をもパスして、ト

ップのルクレール選手がやや足踏みした隙 を狙って、真後ろにまで詰め寄った。

そして69周目、3コーナーの進入でルク

レール選手のインに入ったフェルスタッペ ン選手は、並びながらコーナーを立ち上が ってルクレール選手をパス。そのままフィ ニッシュラインに飛び込んで、オーストリ アGPのトップチェッカーを受けた。 しかし、この69周目のオーバーテイク は審議対象となり、数時間にも及ぶ審議の 結果、「No further action」つまり「お咎 めなし」の裁定を獲得。晴れてフェルスタ ッペン選手の今シーズン初優勝が確定し、 昨年に続く大会2連覇を達成した。 そして、同じレッドブルリンクで6月 29日に行われた、FIAフォーミュラ2選手 権第6戦のレース1では、4番手スタート の松下信治選手が好走。スタート直後はや や出遅れたものの、徐々に順位を上げ、ピ ットインを済ませた後も、事実上の2番手

Headl 復

Headline モータースポーツ話題のニュース速攻Check!
4
フォト/桜井淳雄、益田和久 レポート/JAFスポーツ編集部

急きょ表彰台へ登ることになった HONDA F1テクニカルディレクター の田辺豊治氏は万感の思い。「今日 の優勝により。2015年の復帰以来、 ようやく本当の意味での一歩を踏み 出すことができました。まだまだここ から、さらに戦闘力を上げて戦ってい きます」と決意を新たにした。

FIA-F2選手権に再挑戦している松下信治選手 が、F1第9戦と併催の第6戦レース1で優勝。「マ シンの状態も良く、自分もアグレッシブなレース ができたことが一番嬉しいです」。初優勝は2017 年だが、そのときはレース2。今回はレース1での 優勝ということで、自信を深めたに違いない。

トリシオ・オワード選手が、今年のスーパ ーフォーミュラへ急きょ参戦することも表 明。ダニエル・ティクトゥム選手との劇的 な交代となったが、日本に影響する多くの ニュースが飛び交うグランプリとなった。

フランスのサルト・サーキットで6月16 日に行われた、FIA世界耐久選手権(WEC) 2018-2019年スーパーシーズン第8戦 ル・マン24時間耐久レースでは、TOYO TA GAZOO Racingがル・マン24時間レ ースの連覇を果たしたばかり。

6月16日に行われたル・マン24時間耐久レースでは、すでにLMP1チームチャンピオンを獲得しているTOYOTA GAZ OO Racingが2年連続のワンツーフィニッシュ。優勝した8号車はWEC世界耐久選手権のドライバーズタイトルを獲得 し、中嶋一貴選手は日本人として初めて、サーキットレースでのFIA世界チャンピオンに輝いた。

をキープする。そして35周目、トップを 走るニック・デ・フリーズ選手を1コーナ ーでオーバーテイク。その後も後続を引き 離した松下選手がトップチェッカーを受け た。

e

松下選手は2017年のハンガリー大会レ ース2以来の優勝。ホンダ勢そして日本人 ドライバーの存在を大きく示してみせた。

また、このオーストリアGPの開催期間 中には、レッドブル・ジュニアチームのパ

7号車のトラブルもあって、複雑な優勝 劇を見せた8号車だったが、この結果、乗 車した中嶋一貴選手やフェルナンド・アロ ンソ選手、セバスチャン・ブエミ選手が、 FIA世界耐久選手権(WEC)のドライバー ズタイトルを獲得。中嶋選手は、日本人と して初めて、サーキットレースにおける FIA世界チャンピオンに輝いている。

世界選手権におけるニッポン勢の相次ぐ 台頭。今年の6月は多くのモータースポー ツ関係者にとって記念すべき節目となった。

Headl
5
6

HEADLINE

4 Honda F1、6月30日のオーストリアGPで、 F1復帰後ついに初勝利!

F1、F2、そしてル・マンでも……。6月はニッポンのモータースポーツが世界に輝いた!

SPECIAL ISSUE

8 巻頭特集

黒船襲来! F3戦線、異状アリ

新たに繰り広げられる日本人vs外国人の激戦!

15 特集 ダートトライアル

ダートラ “D” 新時代

ニューカマー参入のD部門が今アツい!

22 特集 レーシングカート

カートで勝利するためのフィジカルトレーニング

今日から即実践! ライバルに負けない肉体改造術!!

36 特集 ラリー

チャンスは舞い降りた

全日本に初めて挑んだラリー女子達は、何を学んだか

42 特集 ジムカーナ

ジムカーナで“勝つ”ための飽くなき探求

48 特集 ドリフト

今さら聞けないドリフト競技の 「ド」

まだ間に合う!“令和=ドリフト元年”のススメ

TOPICS

56 特集 デジタルモータースポーツ

e Sportsが“スポーツ”たる所以

デジタルモータースポーツとリアルの融合…… 「スーパーフォーミュラ・ヴァーチャルシリーズ開幕!」

61 特集 オートテスト

オートテストの育て方

JAF新種競技も5年目に突入!

認知度は上がった!! でも、この先は……!?

SERIES

29 FIA便り Vol.17

INFORMATION

30

2018年度(2018年4月1日より2019年3月31日まで)事業報告ならびに収支報告

35 INFORMATION from JAF

JAF MOTORSPORTS JAFスポーツ[モータースポーツ情報]

監修/一般社団法人 日本自動車連盟 〒105-0012 東京都港区芝大門1-1-30 ☎0570-00-2811(ナビダイヤル) 発行所/㈱JAFメディアワークス 〒105-0012東京都港区芝大門1-9-9 野村不動産芝大門ビル10F ☎03-5470-1711 発行人/西岡敏明 振替(東京)00100-1-88320 印刷所/凸版印刷株式会社 編集/㈱JAFメディアワークス JAF SPORTS制作課(JAFスポーツ編集部)☎03-5470-1712 課長/田代康 編集長/佐藤均 清水健史 大槻聡 デザイン/鎌田僚デザイン室

COVER/2019年FIAフォーミュラ1世界選手権第9戦 PHOTO/桜井淳雄

2019 夏 CONTENTS
強い自分を磨く

新たに繰り広げられる日本人vs外国人の激戦!

黒船襲来!

F3戦線、異状アリ

若手ドライバーたちの登竜門的存在である 全日本フォーミュラ3選手権。

ここでタイトルを獲得した歴代チャンピオンの中には、 今もなお第一線で活躍を見せているベテラン選手もいる。

そんな歴史ある全日本F3の今シーズンは、 外国人選手の台頭で波乱含みの幕開け……。

昨年とは大きく様変わりした

全日本F3の序盤戦を振り返った。

フォト/吉見幸夫、石原康、JAFスポーツ編集部 レポート/はた☆なおゆき、JAFスポーツ編集部

Enaam Ahmed Yoshiaki Katayama Toshiyuki Oyu

新たに繰り広げられる日本人vs外国人の激戦!

黒船襲来!

戦線、異状アリ

Ritomo Miyata
9
Sacha Fenestraz

本のF3レースが40周年を迎え た。基本となるレギュレーショ ンに大きな変化がなく、これだ け長い歴史を持つレースは、後にも先にも 国内には存在せず。最高峰でもなければ、 底辺でもないレースながら、それだけ時代 に求められ続けてきたのは間違いない。

そんな全日本フォーミュラ3選手権に大 きな変化があるのが、今シーズンの特徴だ。

もともとはF3という世界共通のレギュレ ーションとマシンによって日本人ドライバ ーを鍛え、やがて世界へと羽ばたくための 足がかりとして設けられたレースだった。

それが80年代の後半から、結果を求めたチ ームが、すでに実績を残している外国人ド ライバーを招聘するようになり、レースの レベルは飛躍的に向上する。

チームにしてみれば即戦力であるし、外 国人ドライバーにとっては報酬を得られる ばかりか、確たる結果を残せば、翌年は日 本のレースでステップアップが叶うから、 双方にメリットがあったことになる。

もちろん、日本人ドライバーも互角に渡 り合えれば、ほぼ例外なく同じ条件でステ ップアップを許された。

そういった時代が長らく続いたものの、 ここ数年は全日本フォーミュラ3選手権を、 自動車メーカーが若手ドライバーのステッ プアップツールとして積極的に活用する傾 向が強くなり、外国人ドライバーを起用す るケースも激減していった。

また、チームとドライバーの向き合い方 にも変化が生じていた。いつの頃かは明言 できないが、当初はドライバーの力量が8

サッシャ・フェネストラズ選手

【さっしゃ・ふぇねすとらず】1999年7月28日生ま れ。フランス出身。昨年はFIAヨーロピアンF3選手 権に参戦して11位の成績を残したが、同年のマカ オGPでは初挑戦で3位表彰台を獲得。日本へ舞 台を移した今年の全日本F3では初戦で優勝する など、その実力は計り知れない。

割だったとすれば、チームのエンジニア力 が2割。近年ではこれが完全に逆転した。 おそらくデータロガーという文明の利器 が普及したのが、大きなきっかけだと思わ れる。その結果、長年のレース参戦で得た 豊富なデータを持つチームが、大いに強さ を発揮していくようになったのだ。 ここ数年で言うなら、トムスがそういっ た存在だった。特に昨年は、坪井翔選手が 19戦中17勝という圧倒的な勝率でチャン ピオンを獲得。しかも残る2勝もチームメ イトの宮田莉朋選手が優勝し、1チームで全 勝という前人未到の記録が打ち立てられた から、より一層その印象は強くなっていた。

久保田克昭
シャルル・ミレッシ
サッシャ・フェネストラズ #12
大津弘樹 #13
三浦愛 #28
山口大陸
#35
河野駿佑 #36
宮田莉朋 #37
小高一斗
アメヤ・ベイディアナサン #65
Racing with motopark エナム・アーメド JAPANESE FORMULA3 2019 ENTRY LIST
#2 TODA RACING 大湯都史樹 #5 Hanashima Racing
#7
OIRC team YTB #8 OIRC team YTB
片山義章
#11 B-Max Racing with motopark
THREEBOND RACING
THREEBOND RACING TAIROKU RACING #30 B-Max Racing with motopark DRAGON
RS FINE
カローラ中京 Kuo TEAM TOM'S
カローラ中京 Kuo TEAM TOM'S
#51
B-Max Racing with motopark
B-Max
10

常勝トムスを打ち負かす新星 サッシャ・フェネストラズ

ところが、今年はいざ蓋を開けてみると ……。3シーズン目とあって、「勝って当たり 前」とされた宮田選手が、岡山国際サーキッ トでの第3大会を終えて2勝を挙げるに留 まり、ポイントランキングでは2番手に。 その宮田選手を抑え、目下ポイントリーダ ーに就くのが、サッシャ・フェネストラズ 選手だ。間もなく20歳になるフランス出身 のドライバーは、昨年のマカオGPで3位。

所属するB-Max Racing Teamのピットを 見ると、以前とは異なり外国人メカニック が混じっている。それもそのはず、今シー ズンの同チーム名称は、B-Max Racing with motopark。ドイツに本拠を構え、欧 州F3の強豪チーム、モトパーク・アカデミ ーとのジョイントでの参戦であるからだ。

両チームのジョイントは、昨年のマカオ GPから始まり、今やF3だけでなく、スー パーフォーミュラでも実現。昨年は優勝を 飾れなかったB-Max Racingだが、11年に は関口雄飛選手、17年には高星明誠選手を チャンピオンに導い た高度な技術集団で ある。何より日本の サーキットを知り尽 くした強みがある。

宮田莉朋選手

【みやたりとも】1999年8月10日生まれ。神奈川県出身。幼少期か らカートを始め、さまざまなタイトルを獲得してきた。またFIA-F4 では2年連続のシリーズチャンピオンとなった。2017年より全日本 F3に参戦、3年目となる今年は名門トムスの威信を一身に背負っ ており、チャンピオン獲得に強い責任感を抱いている。

これにダニエル・ ティクトゥムを擁 し、昨年のマカオ GPを制したモトパ ークが持つ、マシン のデータが加わった ことで、大幅な戦力 アップがはかれたと 考えるのが、むしろ 妥当だろう。

そこにフェネスト ラズ選手という、伸 び盛りの才能が加わ ったことで、トムス

+宮田選手という、予想された最強のパッ ケージとの差を詰められたのではないか。

ここまで8戦を戦い、鈴鹿ではいきなり 第1戦を制し、続くオートポリスでは3連 勝の上、ポイントをフルマーク。岡山でこ そ1勝を挙げるに留まったが、そこで敗れ た2戦で印象的だったのは、この世代のド ライバーにありがちなガツガツ感……とで も言うのだろうか、そういったものを感じ させなかったことだ。

鈴鹿での第2戦を宮田選手との接触で落 としているから、余計にそういう考えにな っているのかもしれないが、全戦有効のポ イント制度のレースにおいて、無理な仕掛 けは禁物だと考えている様子が強くうかが えた。言うなれば、長期的展望に立ててい るドライバーだとも。実際、「スーパーフォ ーミュラと、GT500へのステップアップが 当面の目標」と語っており、そこに向かう階 段に足をかけているのは間違いない。

周囲のプレッシャーを力に変えて 宮田莉朋は勝ちにこだわる

さて、フェネストラズ選手に30ポイント の差をつけられている宮田選手だが、岡山 大会の印象では焦りの様子は一切感じられ なかった。もともとプレッシャーに強く、 前述の「勝って当たり前」という周囲からの 思いを強く受け止めつつ、先は長いのだか

黒船襲来! F3戦線、異状アリ

ら徐々に差を詰めていって、追いついてか ら勝負……とでも言わんばかりの走りを披 露してくれたからだ。第5戦を終えた直後 に、「これからも自信を失わず、ベストを尽 くしていきたい」と語っていたあたりは、そ の何よりもの証拠だろう。

スピードでも精神力でも、フェネストラ ズ選手に引けを取らないという評価の宮田 選手ながら、ではなぜこれだけの差がつい てしまったのかといえば、オートポリスの 第2大会において、宮田選手は1ポイント しか獲得できなかったからだ。その原因は というと、予選でウェットのセットがハマ らず、下位に沈んでしまったため。

後日談がある。それから1か月後にオー トポリスで行われたゴールドカップレース において、やはり雨の予選でクラッシュが 相次いだ。地元の元GTドライバーによる

片山義章選手

【かたやまよしあき】1993年11月13日生まれ。愛知 県出身。レース開始は19歳と遅かったが、スーパー FJやFIA-F4等の経験を経て、全日本F3はNクラス でデビュー。今年はイギリスのジュニアフォーミュ ラのカーリンと組み、ホームコースの岡山国際サー キットで初優勝を果たした。

大湯都史樹選手

【おおゆとしき】1998年8月4日生まれ。北海道出身。地方選手 権等のカートでドライビングテクニックを磨き、ステップアップ 後はスーパーFJやJAF-F4でシリーズチャンピオンを獲得して きた。昨年の全日本F3ではトムス勢の後塵を拝してきたが、そ の牙城を崩すべく2019シーズンは着実に入賞を重ねている。

と、「熊本地震以降、路面が変わっちゃって いるんです。特に100Rが。あそこだけは 雨が降ると、もう何もできなくなってしま うんです」という証言が。熊本地震といえ ば、2016年の4月に発生。施設にも損傷が あったぐらいだから、路面状態に変化があ ったとしても何の不思議もない。

ただ、その後に行われたオートポリスの フォーミュラ3は、2017年の一度だけで、

この時は終始ドライコンディションが保たれ た。そもそもオートポリスでの全日本F3開 催が2010年以来ということで、どのチーム にもデータは不足していたのは間違いない。

逆にトムスはスーパーフォーミュラやス ーパーGTにも参戦しているから、フィー ドバックは可能だったはずだが、地震後の スーパーGTはコンディションに恵まれ、 逆にスーパーフォーミュラは昨年、予選ま ではドライだったが、決勝は豪風雨のため 中止になっている。

従って、どのチームも地震後の、雨のオ ートポリスを経験せず挑んだことで、トムス の自信が裏目に出たと考えられまいか。逆も また然り。世界中のサーキットを股にかけ る、モトパークの高い適応力がフェネストラ ズ選手にアドバンテージを与えたとも……。

新体制で大きく飛躍した

片山義章の底力は侮れない

さて、B-Max Racing with motoparkに 限らず、外国人選手の姿が全日本フォーミ ュラ3選手権のパドックに目立っている。 昨年はシーズンを通じて参戦していたドラ イバーは存在しなかったが、今年は4人に 増加。そして、片山義章選手を擁する OIRC team YTBもまた、イギリスの名門 チームであるカーリン・モータースポーツ とジョイントし、YTB by Carlinとして挑む こととなったからである。

この背景には、スーパーフォーミュラ同様、 日本のレース環境が優れていることが、海外 からも高く評価されたからに他ならない。 そういった新体制を得たことで、最も飛 躍の機会を掴んだのが片山選手だった。昨 年すでにフォーミュラ・ニッポンやGT500 でチャンピオン経験を持つ、リチャード・ ライアン選手を監督として起用。そのやり とりの中で、既存のスタイルでは殻を破れ ないと判断されたのだろう。開幕からの4 戦は入賞を果たせなかったものの、第5戦 で表彰台まであと一歩と迫る4位に入ると、 実際に殻も破れた感がある。

12

続くホームコースである岡山では、ポー ル目前ながら終盤の逆転を許したことで、 予選は2番手、3番手に留まったが、第6戦 をそのまま2位でゴールしたことで、第3 レースとなる第8戦もフロントローを獲得。

スタート直後のフェネストラズ選手との「肉 弾戦」(アメフト出身の片山選手をよく知る アナウンサーの発言だが、まさに言い得て 妙)を制してからは、絶えず背後につけられ

ながらもミスなく逃げ切っての初優勝をモ ノにしたのだが、その戦いぶりにはとても 初優勝とは思えぬほどの強さがあった。こ の勢いを今後も維持できるかで、真価が問 われることになるだろう。

手堅くポイントを積み上げている 大湯都史樹とエナム・アーメド

その片山選手を6ポイント差で従え、ラ ンキング3番手につけるのが、戸田レーシ ングの大湯都史樹選手だ。初優勝こそ先を 越されてしまったが、安定感は抜群。すで に8戦すべて入賞を果たす唯一の存在とな っている。特にスーパーFJの頃から得意と していたウェットコンディションでは、オ ートポリスで3戦ともに2位につけたほど。

【えなむ・あーめど】2000年2月4日生まれ。イギリス出身。2017年はイギリスF3でチャンピオンを獲 得、翌年はF3ヨーロッパに参戦してルーキーイヤー9位で注目を集めた。今年の全日本F3では不運 が続いているが、序盤戦で表彰台の常連だっただけに、侮れない存在だ。

第5戦はスタートを決めて、一時はトップ も走行した。終盤になってフェネストラズ 選手に逆転を許し、「自分に速さが足りなか った」と自己分析したが、それこそがさらな る躍進の鍵であるのは間違いない。

フェネストラズ選手のチームメイトであ るエナム・アーメド選手は、片山選手とま るで対照的な展開となっている。開幕は4 戦はすべて表彰台に立っていたのに、それ 以降は完全に勢いを切らしているからだ。

発端は第5戦。グリッド試走時にホワイ トラインカットがあり、ドライブスルーペ ナルティを課せられながら、それを消化し なかったことで失格に。岡山に舞台を移し てからは、2戦連続でスタートをミスし、第 8戦はオープニングラップのコースアウトで 早々にレースを落とすなど、非常にもった いない展開が続いている。

昨年、シーズン終盤に全日本F3デビュ ーを果たし、スポット参戦ながら入賞を果 たしている、宮田選手のチームメイト、小 高一斗選手には、これまで戦っていた

FIA-F4以上に、全日本F3に適性も感じら れる。第2戦でいきなり3位表彰台に上が っているのが、その何よりもの証明といえ

よう。ただ、岡山大会を諸事情により欠場 せざるを得なかったことが、今後のランキ ング的にも響いてくるかもしれない。

その小高選手の代役として起用されたの は、意外な感もあった阪口晴南選手。とい うのも昨年まで対局の陣営で将来を託され ていたからだ。それが一転、シートを失っ て失意のどん底にいた中での起用であり、 事前のテストもなく、5位、3位、4位とい う結果は、チームにとっては期待以上だっ たに違いない。

今年はGT300でも2勝を挙げて、目下 ランキングのトップに立つことから、全日 本F3でもリベンジの機会を再び与えてあげ たいと思う者は決して少なくないのでは。 また、日本フォーミュラスリー協会は今 年からマスタークラスを新設。40歳以上の ジェントルマンドライバーと女性ドライバ ーを対象としたが、三浦愛選手は非登録。 結果、山口大陸選手とDRAGON選手、そ して久保田克昭選手の三つ巴となり、最年 少の山口選手が一時はライバルのふたりを 圧倒。しかし、岡山大会では元F3-Nクラ ス王者の貫禄を見せ、DRAGON選手が2勝 を挙げるなど、徐々に差を詰めつつある。

エナム・アーメド選手 黒船襲来! F3戦線、異状アリ

FIA-F3アジア、 鈴鹿初開催!

2018年にスタートしたFIA-F3ア ジア選手権が、鈴鹿サーキット を舞台に日本で初開催された。

使用される車両はドライバー保護を目的 とするHALO(ヘイロー)以外は、デザイン やサイズ的にも全日本フォーミュラ3選手 権で用いられるマシンと比べ、そう違和感 はないものの、実際には同じF3を名乗って いても、まさしく似て非なるものだ。

FIAのカテゴライズとして、現在FIA-F3 アジアで用いられるのは「リージョナルF3」 とされ、全日本F3で用いられているのは、 「ナショナルF3」と分けられる。

FIA-F3アジアのシャシーは、イタリアの コンストラクターで製作された「タトゥース T-318」で、エンジンはアルファロメオの 1742ccターボを搭載。最大出力は270馬 力とされるから、全日本フォーミュラ3の エンジンより30馬力ほどパワフルだ。タイ ヤはシンガポールの「ジーチー」のワンメイ クで、1大会3レースを2セットで賄わなく てはならない。

現在、FIA-F3アジアに参戦し、9戦5勝 でランキングトップに立つ笹原右京選手に、 昨年に乗っていた全日本フォーミュラ3の マシンとの違いを語ってもらった。

「タイヤの幅が広いので、ステアリングが 重たく、ドライバーのフィジカル面を重要

視します。その上、 ダウンフォースの レベル的には少な いので、コントロ ールも大変。あと、 パーツを自由に選 べず、本当に限ら れたものを細かく 煮詰めていくとい う感じなので、物 の差は少ないように思います。エンジンの レスポンスは思ったより良くないんですが、 ストレートスピードはそこそこ速い。タイ ヤはすごくハードな印象で、温まっている のか、温まっていないのか微妙なところが 掴みにくく、内圧をシビアに調整しないと、 意外と作動してくれなかったりするので、 その点は難しいです。正直、全日本フォー ミュラ3のダラーラの方が、乗っていて楽 しいですよね(笑)。車重が軽くて、ダウン フォースもあるから。タイヤが細い割には メカニカルグリップもありますし」

今年からFIA-F3アジア選手権への参戦が急遽決まった笹原右京選手。初戦のセパンで デビューウィンを飾ると、その後のレースでも勝利を重ね、現在ポイントランキングトップ へ躍進。今回、鈴鹿でもレース2で見事優勝した。

絶対的な優遇もある。一方で、従来から用 いられるダラーラも、HALOを備えるアップ デートキットを発表したばかりで、全日本 フォーミュラ3も方向性を模索中。どう舵 をとるのか、気になるところである。

そんな笹原選手のコメントからも、ドラ イバーとしての走り甲斐や、腕を磨くとい う点では現在の全日本フォーミュラ3マシ ンの方が理想的であるのは間違いないが、 リージョナルF3はコスト面に優れ、またス ーパーライセンス獲得に必要なポイントに、

FIA-F3アジア選手権がついに日本に上陸した。全日本 選手権はどういう方向へ進んでいくのだろうか?

笹原右京選手に聞く リージョナルF3の乗り味
14

安全装備を施せば、車両の改造は自在。そんなスピードD車両が戦う 全日本ダートトライアル選手権の最高峰である「D部門」が、今年はアツい。 新車と共に乱入してきたラリースト。そして応戦するダートラドライバー。 それぞれのプライドを賭けた戦いの火蓋が、静かに切って落とされている! フォト/加藤和由、滝井宏之、谷内寿隆、西野キヨシ、JAFスポーツ編集部 レポート/JAFスポーツ編集部

“ ”
新時代 特集ダートトライアル 15
D
D

D部門で走ることができる「スピードD車両」 は、同じナンバーなしの“改造車”と呼ばれ るスピードSC車両と比べても、車両規則の ボリュームは約半分に過ぎない。改造項目は「自由」、 「許される」といった表現が目立っており、要するに、 最低重量や車体寸法を守り、安全装備や排気系の触媒 などをしっかり装着していれば、大幅な改造が許され ている比較的自由なカテゴリーなのだ。

近年の全日本ダートラでは、かつてトラストワーク スドライバーであった谷田川敏幸選手が、長年のノウ ハウを凝縮したWRX STIで連勝・連覇を重ね、D部門

タイトルを6年連続で獲得する「一強」時代を築いてき た。しかし、今シーズンは少し事情が異なり、D部門の 盛時を彷彿とさせる激戦区となっている。

その理由は、田口勝彦選手と炭山裕矢選手、鎌田卓 麻選手という、3名のラリーストが全日本ダートラD部

門にニューマシンと共に殴り込んできたからだ。 迎え撃つのはミラージュR5ベースのD車両を投入し ている炭山義昭選手やランサー・エボⅩをショートホ イールベース化した亀山晃選手、そして、ニューマシ ンを製作中の王者・谷田川敏幸選手を始めとした、長 年ダートラで戦い続けてきたドライバーたち。 新規参入組が近年の「一強」状態を覆すことが予想さ れる今シーズン。その立役者たちに、新時代を迎えよ うとしているD部門への思いを聞いてみた。 まずは、全日本ダートラ出身ながら、海外ラリー参 戦へと舵を切り、FIAアジア・パシフィックラリー選手 権で2度のタイトルを獲得している田口勝彦選手。 全日本ダートラに復活してからは、ランサー・エボ ⅩでSC2チャンピオンを3度獲得。今年は新たにフォ ード・フィエスタでD部門に初挑戦し、第3戦の京都 で、ようやく実戦デビューを果たしている。

1990年代に繰り広げられた、2つのチームによる威信を賭けた戦い。自動車メーカーのサポートを受けて海外ラリー にも挑んできた「モンスター」田嶋伸博選手と、競技系アフターパーツの老舗キャロッセのワークスドライバーだった大 井義浩選手による「二強」バトルだ。この戦いは当時はテレビ地上波で放映された地域もあり、ダートラ会場には、この 2台を目当てに多くのギャラリーが集結していた。いざ走り出すと驚愕のタイムを叩き出して他を圧倒したことから、大 会の最後に走る2台の勝敗を見届けずには帰れない、と感じるほどの「二強」時代を形成していた。そして、2010年代 には谷田川敏幸選手の「一強」時代に。

今できることをやり尽くす!

フィエスタで“高み”に到達

「当初はFIA-R5マシンでラリーをやる構想もあったん ですが、WRCはハイブリッド化するとか、電気になる とか変革期ですよね。せっかく高いお金を出してR5の クルマを買っても、短いスパンでルールが変わってし まうと、こちらは困るわけですよ(笑)。

かといって、いずれダートラ車に転用しようと思っ ても、テンロクターボじゃ勝負にならない。Dクラスは 改造の自由度も高いし、ルールも安定しているから、 ダートラのDクラスに出ることにしたんです。

これまでランサーのグループNに十何年乗り続けて

きましたが、もう限界なわけです(笑)。あの重量級で タイムを出そうとすると、どうしても超えられない壁 がある。それはずっと前から感じていたんです。 WRCを見ていても、軽いクルマだと、ブレーキを もっと奥まで使えたりとか、アシが良く動いてグリッ プが出るとかありますよね。そこで走りたいドライバ ーにとっては、そこのテクニックを磨きたい。その高 みを見てみたいって思うわけです。昨年までの状態だ と現状維持で、クルマは何をいじっても大きくは変わ らない。エボⅩは煮詰まり切ってるんですよ。 フォード・フィエスタを選んだ理由は、天井の低さ です。ロールケージが入ると天井付近の重さが効いて きますからね。あとは4ドアじゃなくて、オーバーハン

新時代 D“ ” ダートラ 〝田嶋 VS 大井〞の「二強」時代から 16

田口勝彦選手

HKS・YH・ テインフィエスタ[MK7]

海外ラリーで使われるFIA-R4仕 様のホワイトボディを取り寄せ て、ランサー・エボⅩのエンジン と駆動系、足回りを組み合わせた 田口選手のフィエスタD車両。こ れまでの黒ベースから明るいカ ラーに変更し、積載するウイング 車も統一カラーとしている。デ ビュー戦ではACDの作動にトラ ブルを抱えながらも2位表彰台を 獲得。「トラブルの割りには上出 来でしょ」と語るのは田口選手。

SC2チャンプ田口勝彦選手が京都で投入 FIA-R4「フィエスタ」ベースのD車両!

グの短い3ドアでやりたかったのもあります。カッコい い、っていう見た目の好みもありましたけど(笑)。

こういうクルマで走れる時代って、あと何年続くか 分からない。2リッターターボのエンジンだって、自動

車メーカーが今後出さないかも知 れませんよね。

だから、今やっておかなければ いけないことを、今、やり尽くそ

4駆ターボのスバルBRZを開幕戦から投入! 第2戦恋の浦で、いきなり初勝利!!

鎌田卓麻選手

itzzオクヤマDL栗原BRZ[ZC6]

2.5リッターではなく、高回転型の2.2リットルターボエン ジンを選択した鎌田選手。パワーは約390馬力、トルクは 約60キロを繰り出す。よく動く足回りが特徴だ。

17

炭山義昭選手のミラージュD 車両を

炭山裕矢選手がダブルエントリー!

「走る実験室」の異名を持つ炭山義昭選手が、2016年にデビューさせたミラー ジュD車両は、欧州のミラージュR5車両をベースに独自のノウハウが注入されて いる。エンジンは2.2リッターの4B11ターボで、パワーは約450馬力、トルクは約 70キロを誇る。この3年で大幅にアップデートされており、WRカーが繰り出す 特徴的な動きを再現するべく、さらなる熟成が続けられている。

炭山裕矢選手 炭山義昭選手

う、というのが今回の大きな狙いです」。

そして、昨年のSA2チャンピオン鎌田卓麻選手が、 ターボ4WD化したスバルBRZを新造して、開幕戦に 間に合わせてきた。WRX STIで全日本ラリーJN1も同 時に追いかけている鎌田選手。今年は2つの全日本カ テゴリーで最高峰クラスを戦うことになった。

ZEAL by TS DLミラージュ[A05A]

も含めて、今のパッケージを進化し続けられれば、新 しいDの領域に到達できるんじゃないかと思ってます。 今はプロドライバーとして、昔から思い描いていた 理想像を行けているので、努力を惜しまず、全力を尽 くします。じゃないと勝てる相手じゃないですから」。

「Dマシンには昔から憧れがありました。ダートラと 言えば、田嶋(伸博)さんや大井(義浩)さんの凄いマシ ンが凄いスピードで走ってるイメージがあって、いつ かはああいうクルマに乗りたいと思ってたんです。

これまでナンバー付き車両で戦ってきて、チャンピ オンも獲れたし、ここでDクラスに移行するいいタイ ミングかなと思って、チームに相談して実現しました。

このマシンは外側はBRZですけど、基本はWRX STIです。僕としては量産車の性能を活かして、その 先に何があるのか、というのを追求したかったんです。

自分の中では100%の仕上がりにしてもらえてます が、まだ量産のものを載せただけの状態です。だから、 ここからは、今まで僕らが経験していない領域を開拓 しなきゃいけない。Dマシンのポテンシャルがどれだけ あるのかは、試してみないと分からないんです。

これは自分のモータースポーツ人生にもプラスにな ってます。このBRZは凄く速くて、その後にラリー車 に乗ったら、凄く余裕があったんです。今まで思わな かったことにも気付けたりしてますからね。

ラリーのグループNは、制約のある中で、人とクル マがどう進化していくかの勝負ですけど、Dマシンは何 でもできる。そこが難しくもあり、楽しいところです。

ドライビングにはまだまだ可能性があって、もっと 進化していくはずだと思うんです。自分の運転スキル

そして昨年、念願のFIAアジア・パシフィックラリ ー選手権のタイトルを手中に収めた炭山裕矢選手。長 年勤めたキャロッセを離れ、炭山義昭選手率いるモー タースポーツショップのマネージャーに就任。心機一 転で全日本ダートラに参戦することになった。

炭山義昭選手は、他のドライバーより先にFIA-R車 両仕様の現行ミラージュをD車両にして、2016年から 熟成を重ねてきていた。今年は炭山裕矢選手とダブル エントリーすることで、さらなる進化を狙っている。

苦しいラリーとの“差分”

「実は、開幕戦の申し込み締め切り2日前まで、今年 の活動は確定してなかったんです。縁あって全日本ダ ートラに社長(父・義昭選手)のミラージュでダブルエ ントリーできることになりました。

でも、なかなか切り替えが難しいんですよ(笑)。こ こ4戦は土曜の公開練習で調子がいいと、日曜の決勝 ではダメな状況が続いてます。土曜はサラッと走るだ けで良くて、日曜はそのプラスαぐらいで走ればいい んですけど、その“差分”がけっこう難しい。

以前1年間だけ全日本ダートラに復活したときもそ うだったんですが、全然勝てなくて。入賞はできるけ ど勝てない。相手がいるものだから当たり前なんです けど、気持ちの持っていき方が、うまくいってない。

ラリーは二人でやる競技だし、一部がダメでもリエ ゾンでリセットされて、トータルでまとめれば良かっ たりもします。でも、ダートラって、技術じゃなくて、

田嶋VS大井時代に憧れて 新しい“Dの領域”を目指す
ダートラをよく知るだけに
18

炭山義昭選手とダ ブルエントリーす る炭山裕矢選手。 タイヤを交換でき ない状況に翻弄さ れつつも、かつて の感覚を思い出し つつある。

鎌田卓麻選手のBRZデビューで話題となった開幕戦 の丸和オートランド那須。炭山裕矢選手や王者・谷田 川敏幸選手を差し置いて優勝したのは、「丸和のヌシ」 亀山晃選手。昨年デビューさせたショートホイールベ ースのエボⅩで、念願のニューカー初優勝を獲得した。

第2戦スピードパーク恋の浦では鎌田選手が気を吐 き、デビュー2戦目にしてニューマシンBRZで初勝利。 そして、第3戦京都コスモスパークでは田口選手のフ ィエスタがデビュー。実戦ではシェイクダウン状態と なったが、いきなり2位表彰台を獲得して、フィエス タが秘めた高いポテンシャルの片鱗を見せつけた。

しかし、第3戦コスモスのウィナーは、ランサー・ エボⅨを駆る中堅ドライバー・川崎勝己選手だった。

無理をしないと勝てない部分もある。気合と自分のコ ントロール。そういった“勝負感”みたいなところが、 ラリーの感覚が抜けてなくて、直せてないんです。

若い頃は勝ててましたけど、別に技術があったわけ じゃなく、いつも頑張って走ってたから、結果が付い てきた感じ。あんまり考えてなかったですからね(笑)。 今は、気持ちの部分をダートラに合わせるのが難しい。 もともとダートラ出身なので、よけい辛い感じです (笑)。まあ、結果を見ててくださいよ」。

続く第4戦オートスポーツランドスナガワで、誰よ りも勝利を渇望していたのは、ニューマシン投入を控 える谷田川選手だった。スナガワは、これまで手塩に かけてきたWRX STIのラストラン。谷田川選手は今 季は一勝もできていないこともあり、WRX STIの最期 を勝利で締め括るべく気合を入れていた。

しかし、このスナガワを制したのは、ランサー・エ ボⅩを駆る宮入友秀選手だった。この結果、今年の全 日本ダートラは、前半4戦で4名のウィナーが誕生す る大接戦。近年では稀に見る混戦模様となっている。

ここで、ダートラ界のベテランに今年の激戦につい て印象を聞いた。かつてパイクスピーク・ヒルクライ ムにも挑戦していた栃木のベテラン亀山選手。ランサ ー・エボⅩには初挑戦ながら、いきなりボディを真っ 二つに切断して、クーペのようなエボⅩを製作した。

亀山 晃選手

ベストDLランサーDS1[CZ4A]

ホイールベースを短縮した亀山選手のランサー・エボⅩ。 4B11の2.2リッターターボは最大で約530馬力、トルクは 約60キロを出力。

“ ” ダートラ
新時代 D
4戦で4人のウィナー誕生 今年は大激戦の全日本ダートラD部門!
苦労を重ねた“エボⅩショート”
開幕戦丸和で、嬉しい初勝利!

今までと同じだったら どんどん追い越される

「昨年ショートホイールベース化したエボⅩは、特別 悪いところはないんだけど、特別いいところもなくて (笑)。昨年は、もっとハッキリした動きになるように、 足回りを見直したり、リアウイングも、ウェットからド ライカーボンに変更したりしてたんだ。

それでも、ギヤ比がぴったり合ったコースでは上位 入賞できていたので、まずは、得意な丸和で勝たない と先に進まないなと思って、とにかく丸和で勝ちたい、 勝って勢いを付けたい! と、今年の開幕戦の丸和に合 わせたセッティングにしていったんです。

このセッティングを乗りこなすためにドライビングも 変えましたよ。クルマを自分に合わせると、どんどん

レベルの低いクルマになってしまうんですよね。 だから、まだドライバーは進化するはずだと思 って、レベルの高いクルマに、自分を合わせる ように努力する方向に切り換えたんです。

新しいコトにチャレンジするのがこのクルマ

谷田川敏幸選手

ADVANトラストクスコBRZ[ZC6]

を作ったときのコンセプトで、今までと同じだったら 後は追い越されるだけだから、ダメモトでも少し変わ ったことをやろう、っていうのが始まりだったんです。 こういう新しい挑戦ができるのもDクラスならでは だから、そこが面白いんだよね。クルマだけじゃなく て、ドライバーも“Dクラス”にならないと(笑)。まだ まだ、やれることはたくさんありますよ!」

ダートラドライバーの プライドを賭けた戦い

3人のラリーストのうち、第4戦までに勝てているの は鎌田卓麻選手のみ。第3戦コスモスは川崎勝己選手、 第4戦は宮入友秀選手が制しており、ともに若い頃か らダートラ一筋で参戦している中堅ドライバー。そん なダートラに対する思い入れが強い二人がラリースト に一矢報いたところが、今シーズンの勝負をかなり面 白くしているとも言えるのだ。

川崎選手は、速さがあるにも関わらず、最近は車両 トラブルで満足に走り切れていなかったが、今回は2 ヒートともベストタイムを計測する完全勝利だった。 「今年は開幕前にドグミッションを壊しちゃって、ノ ーマルミッションで出た2戦は、シフトの入りも渋かっ たんです。オマケに恋の浦ではACD警告灯が全灯し

丸和オートランド那須でのシェ イクダウンを経て、全日本ダー トラ第5戦門前でデビューした 谷田川選手の4WDターボのD 車両BRZ。大雨でのトライと なったが、タイムアップが難し い第2ヒートに自己タイムを1 秒以上更新して2位表彰台を 獲得。マシンと一体となった走 りにはギャラリーも戦慄し、今 後の熟成に期待が持てるデ ビュー戦となった。

「D部門王者」の次期戦闘機!!
4駆ターボのスバルBRZが 第5戦門前でデビュー! D“ ” ダートラ 20
新時代

itzz DLグローバルランサー[CZ4A]

宮入友秀選手

川崎勝己選手

MJトレーディングYHランサー[CT9A]

て走れなかったし……。昨年から車両トラブルがかな り続いたので、心が折れそうになっていたんですが、 こういうタイミングで勝てたりするから、ダートラっ て、なかなか止められないんですよ(笑)。

今年のDクラスは毎回優勝者がバラバラで、すごく “一勝”が大きいです。クルマのご機嫌も良くなったの はラッキーですし、京都は勝てて良かったです」。

宮入選手もダートラドライバーの意地を見せた。 「Dクラス、今年は大変です。ドライバーの技術は向 こう(3人のラリースト)の方が上ですよね。プロの人た ちだから。自分らはダートラ歴が長いので、ラリー屋 さんには絶対負けたくないって思ってるんです。

彼らはスナガワの高速S字で左足ブレーキを使って るでしょうけど、自分は意地でも使いません……とい うか、左足を使えないだけなんですけど(笑)。だから 今回は、半分ホントのハナシなんですが、ブレーキを 踏まずにアクセルのオン・オフだけで曲がるみたいな、 ダートラの王道な走りで勝てたのが嬉しいんです。

今年は早く“一勝”が欲しかったんですよ。実は、第 3戦コスモスの出走前に、川崎(勝己)さんと『今年はみ んなが1回ずつ勝って最終戦でタイトルが決まる、み

第3戦京都コスモスパークと第4戦オートスポーツランドスナガワでは、川崎勝己選手 と宮入友秀選手がそれぞれ優勝。これはラリーストに対する、ダートラドライバーとして のプライドを賭けた勝利でもあり、彼らはD部門を白熱させる欠かせない立役者なのだ。 かつてランサー・エボⅦにコルト のボディを載せたD車両で活躍し た九州の江川博選手が、新たなD 車両をデビューさせる予定。ベー スは何とカローラスポーツで、現 在、自動車ディーラーの支援を受け て鋭意製作中とのことだ。

たいな展開になると面白いよね』って話してたんです。 そしたら川崎さんが先に優勝しちゃって『お先に 〜!』なんて言われたのが、凄〜く悔しかったんです。 だから今回は、ホント勝てて良かったです!」。

そして、WRX STIラストランに華を添えられなかっ た谷田川選手。気持ちはBRZの初勝利に向いている。 「このメンバーなら、これで勝てれば日本一だな、チ ャンピオンだな、っていう感じだよね。高いレベルの選 手やいろんなクルマが集まって、盛り上がっていいと 思う。でも……こっちは必死なんだけどね(笑)」。

これらの流れに呼応するかのごとく、かつてCT9A ランサー・エボⅦに三菱コルトをドッキングさせたD 車両を走らせていた江川博選手が、新たなD車両を製 作中。全日本ダートラD部門に沸き起こった新たな潮 流は、まだ終わりを見せていない。

「谷田川選手ともよく話してるんだけど、今シーズン は、血の気の多い連中が息巻いてきて、受けて立つ方 はたまったもんじゃねえよ、ってね(笑)。でも、そのお かげで、入賞圏内は誰が勝ってもおかしくない大接戦 になった。だから今年は、ホントに疲れるんですよ (笑)。そう言いながらも、みんな、楽しんでるんだけ どね。まだSC2と一緒ぐらいのタイムだけど、今後は それが一段上に行くわけです。今のDクラスは、少し ずつそういう方向で進化してると思います」。

とは亀山選手だ。走行距離も経験も豊富なラリース トをもってしても、簡単には勝たせてくれない。そし て、熟練のダートラドライバーですら、今シーズンは 一筋縄ではいかない戦いを強いられている。

“田嶋VS大井”の「二強」時代、そして谷田川選手の 「一強」時代は終わった。今年の全日本ダートラD部門 は、新たな群雄割拠の時代を迎えているのだ。

江川博選手が新車を投入!? ベースはトヨタのあのクルマ
21
「簡単には勝たせない!」 ニューカマーを迎え撃つ 全日本D部門ファイターズ

フィジカルトレーニング カートで勝利するための 今日から即実践! ライバルに負けない肉体改造術!!

レーシングカートは体力的にハードなモータースポーツである。

その見た目にそぐわず体感速度はF1マシンに匹敵するほどだ。

これを乗りこなすためには強靭な肉体が必要となってくる。

では全日本に参戦している現役選手たちが、日々どのような鍛錬を行っているのか?  “勝つ”ためのフィジカルトレーニングを聞いてみた。

フォト/小竹充、森山良雄、JAFスポーツ編集部 レポート/水谷一夫、JAFスポーツ編集部

ータースポーツを始めた時、多くの人はこう 思ったことだろう。「クルマを走らせるのっ て、こんなに体力が要るの!?」。そう、モー タースポーツはフィジカルな面でもタフな競技なのだ。

数あるジャンルの中で、レーシングカートはとりわ けその側面が強い。ステアリングもブレーキも、アシ ストは一切なし。サスペンションを持たないシャシー からは、路面や縁石の衝撃がダイレクトに身体へと伝 わる。俊敏に向きを変え、加減速するマシンをきちん

とコントロールするためには、縦横の強烈なGにもグ ラつかない身体が求められる。そして、体重の2倍に 満たない軽量マシンを自在に操るためには、身体を駆 使して荷重をコントロールすることも必要になる。 では、国内カートレースの頂点に位置する全日本カ ート選手権のドライバーたちは、この厳しい“フィジカ ル・コンペティション”に立ち向かうために、どんな準 備をしているのだろうか。4月に三重県・鈴鹿サーキッ ト国際南コースで開催されたOK部門第1戦&第2戦/

22

トレーニング

西地域第2戦と、5月に埼玉県・本庄サーキットで開催 されたOK部門第3戦&第4戦/東地域第2戦で、ドラ イバーたちのトレーニング法を探ってみた。

トレーニングは心拍数を高めて レースと同じ状況で行う

全日本カートの最高峰たるOK部門は、ひとつの大 会だけのために作られたスペシャルタイヤの採用によ って、世界最速のスプリントカートレースと呼ばれる

カテゴリーだ。1大会2レース制のレースフォーマット も、体力面の厳しさに拍車をかけている。

2018年に年間ランキング6位となり、今季はFIA -F4にもデビューを果たした野中誠太選手(18歳)は、 身体面もスピード感も「慣れることが大事」だという。 「僕はけっこう身体が細い方なので、参加クラスが上 がって、特に全日本に出るようになってからは(身体 が)キツくなってきました。なので、カートに乗る回数 を多くして身体を慣らして、走りに余裕を持てるよう

23
※各選手の年齢は取材当時のものです。

夏場のレースについて、どの選手

も口を揃えて言うのが適度な水 分補給の重要性ついて。主にス ポーツ系飲料を摂る選手が多く、 脱水症状にならないよう注意を しているのがうかがえる。

居附明利

「いちばん注意するのは水分補給。ノドが乾いていなくても積極的に水分を摂ります。僕は食べ る量が減っちゃうのが嫌。お米を食べたくない時は麺類とか栄養補助食品のゼリーとかにして、 食事は量も時間もルーティンにしています。走っている時も、寒い時期より呼吸を意識して酸素 をしっかり身体に入れるようにしています」

にしています。体力が厳しいと、 走りも安定しませんから。速いカ ートに慣れるためには、それ以上 のものに乗っていないとダメなの で、常に速いスピードのものでト レーニングしておきたい。あまり 機会はなかったけれど、僕もその 時出ているレースより上のクラス のカートでも走りました。そのス

ピードを体感しておくことで(本来のクラスで)余裕が 生まれます」。

カートで走るだけでなく、野中選手はサーキット外 のフィジカルトレーニングも行っている。

「最初はどうトレーニングをすればいいか分からなか ったので、僕はサーキットを走って筋肉痛になったと ころを覚えておいて、そこを鍛えました。乗った後す ぐ、どこが苦しかったのかを忘れないうちにトレーニ ングをするようにしています。クルマをしっかり押さえ るために重要なのは腕。これは自分でやり方を考えな がら、ウェイトトレーニングで鍛えています。それと、

FS-125 West Formula Blue Ash #11

体幹は一番影響するところかなと思います。体幹がし っかりしていないと、変な力が入ったりすることがあり ますから。これはジムでトレーナーさんにやり方を相 談して、道具を使わないでやっています。どちらも大 切なのは、レースの最中と同じ高い心拍数をキープし て行うこと。僕は最初にランニングで心拍数を上げて からトレーニングするようにしています」。 「カートを始めた子供の頃は首がキツかったので、ゴ ムを使って鍛えたりしました。それでもうまく走れな いのが悔しかったですね。身体を鍛える原動力は、悔 しさでした。レースで悔しい思いをしたら、それを忘 れないうちにトレーニングすれば、モチベーションも 保てるでしょう。もし今より早くトレーニングを始めて いたら、もっといいレースができたのに、と思うこと がいっぱいあります。上を目指す人は、絶対に身体を 鍛えておいた方がいい。そうすれば、上に行った時に 早く、速く成長できます。マシンに乗っていない時間 も大切にするべきだと思います」。

全日本に参戦して必要性を痛感! 考案したトレーニングを実践中

「暑い時期のレースでバテない体力をつけるため、特に重視しているのはランニングです。持久 力が必要になるので、ランニングをいつもより多めにやります。精神面でいうと、レースに集中 することが大切なので、前日は早く寝るように心がけています。食事の面では、梅干しとかすっ ぱいものを食べるようにしていますね」

OK ADVAN HIROTEX #6 野中誠太
野中誠太選手が実践している夏の暑さ対策 居附明利選手が実践している夏の暑さ対策
( 18 ( 16 24

#95 綿谷浩明

「私はもともと暑いのに割と強い方なんです。最近の夏は確かに暑くなってはいるんですが、特 別なことをしなくてもなんとかなっていますね。強いていうなら、休める余裕がある時はクルマ の中で身体を休めるようにしているくらいでしょうか。あとは、スポーツドリンクを適度に摂った り、塩アメをなめたりはしています」

2年目のFS-125部門・西地域で飛躍を見せて、目 下ポイントリーダーの座に立っている居附明利選手(16 歳)も、参加クラスが上がるにつれて身体を鍛える必要 性を痛感するようになったという。

「小学生の頃から部活で水泳や陸上、サッカーをやっ て体力作りはしていたけれど、本格的に体力作りをす るようになったのは高校に入ってから。FS-125やフォ ーミュラに乗ると体力が要るだろうと思ったからです。

実際、2018年の全日本の初戦で、初めてハイグリップ タイヤで走った時は、10周くらいしか身体が持たなか ったですから……。一番大事にしているのは体幹トレ ーニング。あと、握力と持久力を鍛えることです」

「トレーニングは基本的にジムでやっています。体幹 を鍛えるのは、両手を曲げた腕立て伏せ。握力は、 30kgのトレーニング用具を使ってゆっくり数回。持久 力はランニングマシンで、毎回3kmは必ず走ります。

特にトレーナーさんはついていないのですが、ジムに いるガタイのいい人がやっているのを参考にしながら、 自分でやり方を考案しています。昨年に比べたら体力 的に余裕が出てきて、考えながらレースできるように なりました。この先OK部門に上がれば首なども疲れ てくるだろうから、今後はその部分も鍛えていきたい ですね。何から始めていいか分からない人は、まずは 握力とか、道具なしで簡単にできることから始めるの がいいんじゃないでしょうか」

ザーとしてチームの後進の指導役も務めている。 「身体はツラいですね、やっぱり。30歳を過ぎてから 実感するようになって、35歳くらいから急激にツラくな りました。体力もそうですけれど、反射神経が以前よ り落ちたなと感じます。仕事があるので、トレーニン グはプロの選手のように自分を追い込むところまでは できないけれど、ジムに行ったりして一応やっていま す。昨年からチームの監督になった番場琢選手を通じ て、トレーナーの方に、チームのジュニアの選手たち と一緒に2時間くらい集中してやり方を教わってきまし た。メニューはそのトレーナーの方 が組み立ててくれて、基本は体幹ト レーニングでした。自重を使うトレ ーニングなんですが、腕立て伏せの時に身体をどう使 うかとかを教わりました。他にはバランスボールを使 うトレーニングとか。特別な道具は使っていません。

カートで勝利するための

全日本カートでは元気のいい若手たちに交じって、 ベテランや年配のドライバーも奮闘している。本業の 傍らのレース参戦で、レースばかりに時間を割くわけ にもいかない彼らは、どのように体力トレーニングを 行っているのだろうか。

OK部門の綿谷浩明選手(39歳)は、かつてワイルド カートのワークスドライバーとしてスーパーKF部門の 国際レースにも参戦。現在はXENON.RTのアドバイ

あと、首は自分なりに、横になっていろんな方向に持 ち上げて鍛えています。これはウェイトはかけず、比 較的回数多めのセットをやっています」。

「これをやるようになってから、比較的マシンをコン トロールしやすくなりました。基礎体力が上がるので、 集中力も維持しやすくなって、長いスティントも余裕 を持って走れます。ただ、OKはどんどんスピードが上 がっているから楽ではないですね。反射神経を補うた めには、メカの人に走りを見てもらって反応が遅れて いるところを教えてもらい、そこを意識して走るよう

マシンにも“夏バテ対策”を

「走り終わってパドックに帰ってきたカートをそのまま にしておくと、キャブレターの中のガソリンが蒸発し て、次にエンジンが始動しないことがあります。だか ら、走行後は目印にインテークサイレンサー(ノイズ ボックス)を外して、次に走る前には必ずガソリンの 呼び込みをします。ヤマハKT100Sは、キャブレーショ ンがよくないとかかりにくいんです。ジュニアはロー ニードルを開ける方向のセッティングですから、特に そうですね」

特別な道具は使わずとも 身体をどう鍛えていくかがポイント
Super Racing Junkie! 代表・田中亮氏。
フィジカルトレーニング
XENON.RT&CHAMP
基礎体力が向上すると 集中力も持続します
( 39 25
綿谷浩明選手が実践している夏の暑さ対策

走行を終えたヘルメットは

FS-125 East K.SPEED WIN #17 橘田明弘

「暑いのはそんなに嫌いじゃないんです。汗をかくことが体温を下げると思うので、レースの日も 水分をたっぷり摂っていますね。カフェインが入っていないものを、1日で2リットルくらい飲み ます。ただ、ヘルメットがびしょびしょになるので、走行後は衣類乾燥用のファンを流用したド ライヤーでヘルメットを乾かしています」

にしています。それと、私は背が 高いのでどうしてもGで体が振ら れてしまうんですが、これはシー トを寝かせたりして(重心を下げ て)補っています」。

炭水化物絶ちで身体を絞り 筋肉はカートに乗って作る!

FS-125部門・東地域の橘田明弘選手(63歳)は、ジ

ムカーナやダートトライアルを経て50代になってから カートと出会い、今も意気揚々とレースに参戦する全 日本の名物ドライバー。そのもうひとつの顔(本来の顔 というべきか)は、電機関連企業の経営者だ。

「今やっているのは週に4回くらい、5分ほどバランス ボードに乗ること。足りないと感じるのは筋力より持 久力なので、筋肉をつけることは何もしていません。 あと、膝に刺激を与えるといいと聞いたので、14階に ある住居までたまに階段で登ったりします。実は歩く ことが大嫌いなんですが、それでもカートを始めて膝 より下がずいぶん太くなりました。カートに乗る筋肉 は、カートに乗ることが一番作りやすいと思います」。

「食事の面でいうと、普段から炭水化物を摂らず、肉 と野菜と豆類を主に食べています。元々は炭水化物が 大好きだったけれど、今は好きなラーメンも嫌いにな っちゃいました。インスピレーションを鋭くしたくて、 酒量も減らしました。仕事絡みの宴会では飲まないわ けにいかない場合もあるけれど、それでも大勢の宴席 では飲まずに済ませちゃうこともあります」。

「子供は放っておくと水分を摂るのを忘れて、ノドが乾く とジュースをごくごく。それではダメなので、ノドが乾く 前に水分を摂るように言っています。水やお茶だと子供 はあまり飲まないので、スポーツドリンクを薄めたものな んかですね。あと大事なのは、一日の流れをイメージさ せること。「これから何をやるの?」とか質問してイメー ジさせています。本当は自分でできるようにさせたいの で、たまに放置してみたりもするんですが(笑)」

「最近、フォーミュラルノーでスポーツ走行を始めま した。この先、体力が落ちてカートに乗れなくなった らフォーミュラエンジョイなんかに乗ろうと思って、そ れに備えてオーバーめのクルマで練習しておこうと思 ったんです。カートはブレーキの踏力以外、4輪より圧 倒的に(体力的に)キツい。Gがかかっている時に好きな ように身体を動かさなきゃいけないし、タイヤのグリ ップがなくなってからが、さらに体力が要るんです。 乗ってると苦しいけれど、やっぱり楽しい。本当に楽 しい遊びを見つけたって思います」。

限界を維持したランニングで 後半ひと勝負できる身体作り

FP-3部門は100cc空冷エンジンとSLタイヤを使用 するカテゴリー。全日本選手権ながら、そのマシンは ローカルレースの初・中級クラスと同等で、参加する 面々もホビードライバーが多い。そんなFP-3部門のド ライバーたちは、どう身体を鍛えているのだろうか。 西地域に参戦する森川貴光選手(29歳)は、地方選手 権として開催されていた2018年の同部門でシリーズ 全勝を果たしてチャンピオンになったドライバーだ。 「西地域は琵琶湖とか中山とか、コーナーが回り込ん でいるコースが多いので、100ccエンジンでも身体がキ ツく感じますね。今は心肺機能を強化したくて、ラン ニングをやっています。逆に筋力トレーニングはして

トレーニングでは補えないところはアイテムを活用! 川福選手はス ノーボード等でも使われるプロテクターをカートでも応用し、身体へ の負担を軽減させているようだ。

ジュニアドライバーの親の“夏の指導法”
橘田明弘選手が実践している夏の暑さ対策 FP-Jr部門・東地域 五十嵐選手の父親・勇大氏。
メンタル的にも気持ちよく
( 63
汗で湿って不快極まりない。
レースに臨むため、このよう な衣類乾燥機を活用してヘ ルメット内を乾かす工夫を する橘田選手。
26

森川貴光選手が実践している夏の暑さ対策

森川貴光

FP-3 West HIRAI PROJECT Ash #35

「最近はやっていないんですが、サウナに長時間入るのは昔やっていました。これは鈴木亜久里 さんがやっていると聞いたのをマネしたんです。それと、夏場の練習ではしっかり走ってロング ランに慣れるようにしています。あとはなるべく日差しを浴びないことと、水分・塩分・睡眠を しっかり取ることでしょうか」

いないんです。ランニングは、だいたい5kmくらいは 走ります。だらだら走るんじゃなくて、始めから限界 まで飛ばして、ツラくなってもその限界をずっと維持 して走るようにしています。最近はその効果を実感す るようになりました。僕はもともと貧血気味だったの で、食生活にも気を付けていて、レバーやサプリメン トで鉄分を摂るように心がけています」。

「地方選手権はローカルレースより周回数が多いので、 レース後半にひと勝負できる体力が必要だと感じまし

た。レースって将棋と同じで“読み合い”なんです。身 体を鍛えることで心にも余裕が出てきます。そういう

意味では、(身体のキツさを感じない)ローカルレース の選手にもプラスになることが多いはず。人によって

腕とか脚とか、弱いところは違うので、自分が弱いと 感じるところを鍛えるのがいいと思います」。

フットサルはカートにも通じる!?

反射神経や動体視力を養う

東地域に参戦する川福健太選手(35歳)は、まずレン タルカートの腕利きとして全国に名を馳せ、今は全日 本カートからハコ車のレースにまで活動の場を広げて

いる、いわば“アマチュアドライバーの星”だ。

「普段は社会人でなかなかトレーニングの時間を取れ ないので、空いている日にフットサルをやっています。

これは反射神経や動体視力を、鍛えるというより衰え させないことが目的。瞬時に状況を判断して首を振っ たり、カートと共通する部分が多いなと思います」。

「自分の姿勢と視点が定まらないと正確な情報を得ら れないので、首から上体にかけての踏ん張りは、間違 いなく速さに響く部分ですね。逆に

フィジカルトレーニング カートで勝利するための

身体が動くことも大切で、どのタイ ミングでどう動かせばタイヤにうま く負荷をかけられるのかも考えます。練習走行に限ら ずレースの時でも、『今は身体を使う練習だ』と意識し

て走れば、最初はちぐはぐでも、だんだん身体とカー トをスムーズに連動させられるようになってきます」。

6名の選手たちの話に共通したのは、体幹を鍛える ことの重要性と、「体力の余裕は心の余裕を生む」とい

うこと。体力不足を感じていないドライバーでも、身 体を鍛えておいて損はない。それがローカルレースか ら全日本までを体験した選手たちの結論のようだ。

間違いなく速さに響く!首から上体の踏ん張りは

#22 川福健太

FP-3 East FLAX motor sports @NSP

川福健太選手が実践している夏の暑さ対策

「水分と塩分の補給を小まめにしています。塩分は摂りすぎるとよくないけれど、水分はお腹 がたぷたぷになるくらい摂ります。それと、暑い日のレースで集中力を爆発させるためには、 合間にリラックスできる時間を取ること。僕は日陰で涼みながら寝転がったりします。こうい うルーティンを作っておくのがいいんじゃないでしょうか」

しっかり鍛えるのがいい弱いと感じる部位を
( 35 ( 29 27
28

の WMSC で先送りされた「the potential rotation of competitions」

6月14日の世界モータースポーツ評議会(WMSC)では、F1やWECの将来を左右する多くの議案が承認された。 しかし、国内の競技関係者が懸案してきたWRC日本ラウンド開催決定に関する決議は先送りされた。 ここでは、フランス・パリのFIA本部で繰り広げられた、各国の「国益を守る」争いの内幕に迫ろう。

2019年の開催を目指していたFIA世界ラ リー選手権(WRC)日本ラウンドだったが、 2018年10月に行われたFIA世界モーター スポーツ評議会(WMSC)では、2019年の 開催が見送られた。そして、WRC日本ラ ウンド開催を2020年にこそ実現するべく、 国内外ではWRC日本招致活動が再スター トしていた。

この、WRC日本ラウンド開催について は、国内モータースポーツ、特にラリー関 係者にとっては、10年ぶりに再び訪れた悲 願でもあり、「今度こそ!」という思いを込め て、2019年のWRCの各大会では積極的 なロビー活動が展開されていた。

消息筋によれば、6月14日にフランス・ パリで行われるFIA世界モータースポーツ

評議会(WMSC)で、2020年WRCのカレ ンダーがある程度確定し、そこに日本の記 述もしっかりと刻まれるはずだった。

WMSCで審議される議題は、定例なら2 週間程度前に各評議員に配布されることに なっている。ところが、今回のWMSCで 議題が配布されたのは会の前々日だった。

しかもその内容は、WRC関連の提案と しては、2022年に導入される新世代WR カーの技術規則と、WRCグローバルプロ モーターの2032年までの契約延長といった 要素に留まり、2020年WRCカレンダーの 提案は議題に含まれていなかったという。

WMSCは、午前と午後の2パートに分 かれて議事が進行する。WMSCを取り仕 切るFIA事務局によれば、会議のいずれか の時間帯にカレンダーに関する補足資料を 配布して審議される予定で、カレンダーは 当日のうちにある程度確定するはずだとい う見立てだった。

実際に、午後のパート2ではWRC委員 会の提案に対する審議が行われ、カレンダ ーについても審議されるところだった。

これまでWRCカレンダーは、10か国に

4月の「モータースポーツジャパン2019フェスティバル イン お台場」 で行われたWRC日本ラウンド招致準備委員会による発表会では、 WRCプロモーターのオリバー・シースラ氏も同席した。

よる10大会までは、ある程度の承認を得て いたが、その補足資料には4戦が加えられ ており、その合計14戦からはフランスとド イツの大会が外れていた。

そして、審議にあたり新規の開催国が追 加された理由とこの2国が外れた理由が求 められたが、選に漏れた開催希望国に対す るフォローも不足していたWRC委員会に よる説明には納得が示されず、評議会の場 に交渉の当事者であるWRCプロモーター を召喚する事態にまで発展した。結局、W RCカレンダーに関する審議をイチからやり 直すような雰囲気となり、再審議を問う多 数決が行われることになった。

この再審議に異を唱えたのは、すでにカ レンダー入りが確定していると事務局から 伝えられていた、ケニヤとオーストラリア、 そして日本だ。それぞれのASN代表は、ゼ ロからの再審議はどうしても避けたい思い が強かった。それは自国の国益を守るため の、勇気ある反対表明でもあった。

しかし、すでにリリースされている今回

のWMSC決議事項にも記されていた「the potential rotation of competitions(競技ロ ーテーションの可能性)」の「will consider」 は、全大陸に亘っての話であるが、特に欧 州域内での話。これまで欧州で開催されて きた歴史ある大会については、それ相応の フォローが必要であり、そのアプローチに 難ありと判断されたのだ。

これにより、前出の3か国以外は賛成多 数ということで、2020年のWRCカレンダ ーについては再審議されることが可決。予 定では6月末までに審議が行われ、電子投 票により改めて採決することになったのだ。

TOYOTA GAZOO RacingでWRC修

業に励んでいる愛知の勝田貴元選手も、 WRカーでWRCにスポット参戦すること が発表されている。その活躍が日本で見ら れる可能性も大いに高まっているのだ。

6
FIA便り v .17 FIA
29

2018年4月1日より 2019年3月31日まで

)事業報告ならびに収支報告

2018年度はフォーミュラ1、WEC(世界耐久選手権)な ど世界選手権競技会の日本開催のための支援を行ったほか、ド リフト競技やWTCR(世界ツーリングカーカップ)、APR C(アジアパシフィックラリー選手権)等のFIA国際大会の 開催に協力しました。

また、モータースポーツファンの裾野を広げるために「モー タースポーツジャパン」等のイベントや各競技会等へのブース 出展・協力を行いました。また2年目となったオリジナルの モータースポーツ情報番組をWEBで月2回配信し、ファンに 向けて情報を提供しました。

「JAFグランプリ」については昨年に引き続き、各種の支 援・協力を行いました。

詳細は以下の通りです。

注)以下のデータのうち*印は、2018年1月〜12月までの1年 間の実績です。

1 国内モータースポーツ活動の充実 (1)選手権競技会の認定

全日本選手権及び地方選手権競技会として認定した合計 358件*の競技会のうち、全日本選手権等60競技*(四輪、 カート合計)に競技会審査委員を派遣し、規則の施行を 徹底した。

【選手権競技会等認定件数*】

(2)競技会の公認

① 合計507件*の競技会を公認した。うち国際格式は、F 1・WEC・WTCR・IDCなど28件*であった。

【競技会公認件数*】

② 「オートテスト」を77回*開催し、述べ2,858名*が参加 した。

(3)車両公認

国内車両公認申請33件*を承認した。

(4)モータースポーツライセンスの発給

① 四輪各種ライセンス65,598件*、カート各種ライセンス 5,463件*を発給した。

② 5月、8月および11月に実施したライセンス更新促進策 (はがきタイプの更新案内)では16,475件を取扱った。

【ライセンス発給件数 カート *】

(5)登録クラブの活性化への寄与

① 合計979件*のJAF登録クラブ・団体の登録を行った。   ③ 全国8地域のJAF登録クラブ地域協議会との連絡会 議を6月、3月の2回開催した。

種    別 内    訳 件 数 レース 全日本選手権 スーパーフォーミュラ 7 F3 8 地方選手権 FIA-F4 7 JAF-F4 14 スーパーFJ 38 ツーリングカー 18 ラリー 全日本ラリー選手権 10 地方ラリー選手権 35 ジムカーナ 全日本ジムカーナ選手権 10 地方ジムカーナ選手権 64 地方サーキットトライアル選手権 13 JAFカップジムカーナ 1 ダートトライアル 全日本ダートトライアル選手権 9 地方ダートトライアル選手権 65 JAFカップダートトライアル 1 カート 全日本カート選手権 16 地方カート選手権 20 ジュニアカート選手権 22 合   計 358 【ライセンス発給件数 四輪 *】 分   類 ライセンス種別 2018年 2017年 前年比(%) ドライバー ライセンス 国際(A・B・C・R) 2,873 2,811 102.2 国際ソーラーカー 167 176 94.8 国 内 A 18,396 18,269 100.6 国 内 B 24,809 24,185 102.5 小 計 46,245 45,441 101.7 エントラント ライセンス 国   際 332 342 97.0 国   内 421 400 105.2 小 計 753 742 101.4 オフィシャル ライセンス 1  級 2,993 2,941 101.7 2  級 5,073 5,100 99.4 3  級 10,527 10,167 103.5 小 計 18,593 18,208 102.1 エキスパートライセンス 7 7 100.0 合    計 65,598 64,398 101.8
分   類 ライセンス種別 2018年 2017年 前年比(%) ドライバー ライセンス 国際(A・B・C) 550 538 102.2 国 内 A 1,172 1,190 98.4 国 内 B 1,910 1,974 96.7 ジュニア国際 17 34 50.0 ジュニア国内(A,B) 199 205 97.0 小 計 3,848 3,941 97.6 エントラント ライセンス 国   際 43 45 95.5 国   内 227 218 104.1 小 計 270 263 102.6 オフィシャル ライセンス 1  級 358 368 97.2 2  級 205 209 98.0 3  級 777 795 97.7 小 計 1,340 1,372 97.6 エキスパートライセンス 5 5 100.0 合    計 5,463 5,581 97.8
種   類 2018年 2017年 前年比(%) レース 88  87 101.1 ラリー 76 82 92.6 スピード競技 284(547) 271(505) 104.8 カート 59(157) 63(175) 93.6 合 計 507(868) 503(849) 100.8(102.2) (  )内は組織許可不要なクローズド競技を含む。
2018年度(
30

(6)FIA Intercontinental Drifting Cupの開催 日本発祥のモータースポーツ「ドリフト」のFIA国際 大会「FIA Intercontinental Drifting Cup」(お台場特 設会場)開催を前年に続いて支援、FIAにおけるドリ フト競技の国際規則制定において中心的役割を担った。 (7)JAFグランプリの開催

10月に三重県の鈴鹿サーキットで開催された全日本スー パーフォーミュラ選手権最終戦「JAF鈴鹿グランプ リ」の開催にあたり、支援・協力を行った。 (8)JAFモータースポーツ表彰式の開催

「2018年JAFモータースポーツ表彰式」を11月30日、 都内のホテルで開催し、全日本選手権カテゴリーおよび FIA−F4シリーズ、スーパーGTシリーズのチャン ピオンと上位入賞者を表彰したほか、ソーラーカーレー ス鈴鹿および、APRC2のチャンピオンへ賞典贈呈を 行った。

また、2018年第86回ル・マン24時間レースで優勝した中 嶋一貴氏、全日本ジムカーナ選手権通算100勝を達成し た山野哲也氏、および2018年全日本ラリー選手権 (WRC)マニュファクチャラーズ部門チャンピオンの TOYOTA GAZOO Racingに「JAFモータースポーツ 特別賞」を、モータースポーツ界で永年にわたり活躍さ れた前田外喜男氏に「JAFモータースポーツ名誉委 員」の称号を、それぞれ贈呈した。

(9)説明会の開催

① 1月に全日本レース選手権に関係する参加者および オーガナイザーを対象に規則説明会を開催した。

② 全日本ラリー選手権オーガナイザー会議を1月に開催 した。

③ 全日本ジムカーナ/ダートトライアル選手権オーガナ イザー会議を1月に開催した。

2 第2次モータースポーツ振興ワーキンググループの答申と、 モータースポーツ振興委員会の設置  前年度に活動を開始した「第2次JAFモータースポーツ 振興ワーキンググループ」は、モータースポーツを広く世間 に知らしめ関心を持つ人を増やし、体感する場を提供するた めに「トップを光らせ、底辺を拡大する」方策を主体とした 「モータースポーツ振興策」を答申としてまとめ、2018年5

月、JAF会長に提出した。

 その答申を受け、JAFは同年9月に会長直属の組織として 「モータースポーツ振興委員会」を立ち上げ、ワーキンググ ループの答申を含めた振興策の具体的な検討および実行や、 他のスポーツ統轄団体の成功事例や取り組みに関する情報の 収集、ならびにそれらの事例に基づくモータースポーツ振興 策および実行プロセスを提案するため、議論を開始した。

3 モータースポーツ各種委員会の開催、運営  モータースポーツ審議会をはじめ各種委員会を合計80回* 開催した。

【委員会開催件数

*】

4 モータースポーツ関係規則の制定、改正  「国内競技車両規則」等、各種モータースポーツ関係諸規 則(17件)を制定又は改正した。

5 安全対策の推進 (1)レーシングコース査察及び許可証の発給 FIAコース査察員による国際レーシングコース査察及 びJAFコース査察員による国内/国際レーシングコー ス査察をそれぞれ実施し、JAF国内モーターレーシン グコース許可証(16件、13ヵ所)*を発給した。 (2)スピード競技コース査察及び許可証の発給 FIAコース査察員による国際ドリフトコース査察及び JAFコース査察員によるジムカーナコース(12ヵ所)*、 ダートトライアルコース(3ヵ所)*の査察をそれぞれ実 施し、JAFスピード競技コース許可証(ジムカーナ48 件、ダートトライアル19件)*を発給した。

(3)救急医療体制の充実

競技会での救急医療体制充実のため、鈴鹿サーキット、 富士スピードウェイ等で医療体制の視察を行った。 (4)ドーピング検査の実施 全日本レース選手権競技会で2名のドライバーに対し、 ドーピング検査を実施した。

*】 分   類 2018年 2017年 前年比(%) 四 輪 特 別 団 体 9 9 100.0 公 認 団 体 6 6 100.0 加 盟 団 体 26 24 108.3 準加盟団体 16 19 84.2 公認クラブ 22 22 100.0 加盟クラブ 370 379 97.6 準加盟クラブ 412 417 98.8 小計 861 876 98.2 カート 特 別 団 体 5 5 100.0 加 盟 団 体 18 15 120.0 公認コース団体 12 12 100.0 加盟コース団体 14 13 107.6 公認クラブ 6 6 100.0 加盟クラブ 38 39 97.4 準加盟クラブ 25 25 100.0 小計 118 115 102.6 合    計 979 991 98.7 31

6 モータースポーツ広報の拡充 (1)JAFホームページにて、オリジナルのモータースポー ツ情報番組「JAF MOTORSPORTS NEWS DIGEST」 を月2回配信し、ファンに向けて様々な情報を提供した。 (2)JAF会員向け機関誌「JAF Mate」に、モー タースポーツに関するコラム記事を毎号掲載した。 (3)4月に開催された「モータースポーツジャパンフェス 委 員 会 名 回 数 モータースポーツ審議会 3 モータースポーツ審査委員会 2 モータースポーツ振興委員会 1 登録部会 9 安全部会 5 メディカル部会 5 技術部会 8 マニュファクチャラーズ部会 10 レース部会 5 ラリー部会 10 スピード競技部会 11 電気・ソーラーカー部会 4 カート部会 9 合     計 82
【JAF登録クラブ・団体の登録件数

ティバル2018」(東京・お台場特設会場)にブースを出 展し、有名ドライバーやタレントによるトークショー等 を通じてモータースポーツの楽しさを積極的にPRした。

(4)女性のモータースポーツへの参加促進を目的とした 「ウィメン・イン・モータースポーツ」活動PRのため、 女性を対象にしたドライビング講習会の開催支援や会員 向けイベント等を実施した。

(5)2018年JAFプレスパスを審査のうえ41名*に発行した。

(6)FacebookなどのSNSを活用し、全日本選手権 競技会の開催情報をはじめ、参加者および観戦者に向け たモータースポーツに関する情報を発信した。

7 国際組織等との国際交流の推進

(1)FIAの活動に参加し、その連携を強化するため、JA Fの役職員、モータースポーツ関係委員が各種会議に出 席した。

8 カート競技における安全対策の推進と開催促進 (1)安全対策の推進

① 国内カートコース(2ヵ所)の査察を実施した。

② FP‐Jr Cadets用シャシー(4件)の公認 (登録)申請の審査を実施した。*

(2)選手権競技会開催の支援

① 全日本、地方、ジュニアカート選手権競技会を認定す るとともに、規則の施行を徹底するため、競技会審査 委員を派遣した。

② オーガナイザー会議を11月に開催し、競技運営に対す る指導を行った。

③ チーフオフィシャル会議を2月に開催し、競技運営に 対する指導を行った。

9 電気・ソーラーカーレースの振興

(1)「ソーラーカーレース鈴鹿」の開催支援 8月、鈴鹿サーキットにおいてFIA代替エネルギー カップ「ソーラーカーレース鈴鹿2018」を共催した。F IA派遣役員と参加車両の国際共通化を図る会議を開催 した。

10 収支報告

 2018年度におけるモータースポーツ業務に直接係わる収入 は約4.1億円(事業収入:クラブ・団体登録料、ライセンス 発給料、競技会組織許可料、車両公認料等)、支出は約5.8 億円(事業費:委員への謝金、委員の出張費、職員の人件費、 出張費、選手権管理用器具の購入等)でした。なお、収支の 差は会費等の収入から充当しています。

(2)FIA幹部との意見交換会や海外のFIA選手権競技会

への審査委員の派遣等を通じ、FIAや諸外国のモー タースポーツ関係者との交流を推進した。

4月 FIAカート委員会委員との意見交換会

8月 FIA電気および新エネルギー選手権委員会委員、 FIA技術代表との意見交換会

12月 FIAマニュファクチャラーズ委員長との意見交 換会

(3)2019年1月に発足したFIAドリフト委員会においてJ AFから派遣した委員が初代委員長に就任した。

11 罰金等の金額について  公認競技会で納められた罰金および没収された抗議料また は控訴料の2018年度末の残高は以下のとおりです。  なお、罰金および没収された抗議料または控訴料は、国内 競技規則11 8(罰金収入の措置)に従ってJAFの特別基 金に繰り入れ、モータースポーツの振興および福祉目的のた めに使用しています。

2018年度末罰金残高 11,043,781円   <内訳> 2017年度罰金等残高 14,535,775円        2018年度罰金等総額 845,112円        2018年度の措置等(支出)総額 4,337,106円 以上
会 議 等 回 数 FIA総会 1 世界モータースポーツ評議会 4 専門委員会 16 作業部会 3 CIK委員会 2 アジアゾーン会議 1 競技会視察 5 その他 3 【海外競技参加出場証明書の発行数
レース 224 ラリー 72 カート 45 スピード 7 数次用(四輪) 122 数次用(カート) 12 合     計 482 32
【FIA会議等への出席*】
*】
34

2019年モータースポーツ公示(WEB)一覧(4月〜6月) 公示(四輪)

日付 公示No. タイトル

2019年04月10日 [2019-WEB019] スーパーフォーミュラ(SF)用触媒装置の承認について

2019年04月12日 [2019-WEB020] JAF「WOMEN IN MOTORSPORT」ロゴ等の使用について

2019年04月18日 [2019-WEB021]

2019年04月26日 [2019-WEB022]

2019年05月14日 [2019-WEB023]

2019年05月14日 [2019-WEB024]

2019年JAF国内競技車両規則 第1編第12章スーパーフォーミュラ(SF)一部改正について

2019年JAFモータースポーツ賞典規定の改正について

2020年日本ジムカーナ/ダートトライアル選手権規定の制定

2020年JAFカップオールジャパンジムカーナ/ダートトライアル規定の制定

2019年05月21日 [2019-WEB025] 2019 FIA GT Nations Cup選考レースについて

2019年06月03日 [2019-WEB026]

公示(カート)

車両公認申請一覧/登録車両申請一覧/ロールケージ公認申請一覧表

日付 公示No. タイトル

2019年04月08日 [2019-WEBK08] FP-Jr Cadets用 JAF登録シャシーの新規登録について

2019年05月21日 [2019-WEBK09] 全日本カート選手権 FP-3部門の振興策について

※上記公示(WEB)一覧の詳細は、JAF MOTOR

SPORTSホームページ内の「公示・お知らせ」で閲覧することができます。

JAF MOTOR SPORTS ホームページの“取扱説明書”です

WEB誌面、動画、カレンダー、講習会日程、オートテスト… などなど、役立つ情報が盛りだくさん!

1 公示・お知らせ モータースポーツの規則や規定の改 正、登録車両や車両公認の申請一覧、 競技会の日程の変更や取消等、ライ センス所持者向けの情報を掲載。

2 JAFスポーツWEB

過去に行われた競技会のレポートは こちら。JAFスポーツ誌そのままに、 読み応えのあるWEB誌面として展 開しているコーナー。

3 NEWS DIGEST 毎月15日頃と30日頃の月2回公開!  モータースポーツのHOTなニュースを お伝えする動画番組。過去放送のバッ クナンバーも充実。

JAF

スポーツ誌は2018年4月 にリニューアルし、年4回 の季刊発行となりました。本誌内容の充実 化のため、また情報の速報性を図るため、 いくつかのコンテンツがJAF MOTOR SP ORTSホームページに移行いたしました。

そこで今回はパソコンやスマホでいつで も気軽にアクセスできるホームページの活 用方法を、主だったバナーを中心に紹介し ていきます。

常に最新の情報を掲載している「公示・ お知らせ」「競技会カレンダー」は競技関係 者なら要チェック。またWEBならではの 動画配信コンテンツ「NEWS DIGEST」や、 競技会等の速報「ニュース&トピックス」、 詳報の「JAFスポーツWEB」も必見です。

その他、競技結果や獲得ポイントのデータ ベースもありますので、上手に活用して、 さまざまなシーンでお役立て下さい。

4 競技会カレンダー

主要モータースポーツを始め、全日本 選手権や国内競技会を「ラリー」「ジ ムカーナ」「ダートトライアル」「レーシ ングカート」のカテゴリーで紹介。

5 ライセンス講習会日程

全国で開催されているライセンス取得 のための講習会を開催日順にご案内。 A/Bライセンス以外に、公認審判員 やカートライセンスも検索が可能。

6 オートテスト

モータースポーツの入門競技・オート テストのルール説明から、直近開催予 定の情報までを網羅。オートテストの 雰囲気がわかる動画も必見!

35
INFORMATION
fromJAF
http://jaf-sports.jp
JAF MOTOR SPORTS ホームページへアクセス
2 3 4 5 6 1

舞い降りたチャンスは︑

今年、女子クルーが多数、参戦し、 盛り上がりを見せている

全日本ラリー選手権JN6クラス。

扱いやすいCVT車をターゲットとした

新しいクラスとあって、 参加するラリー女子達のプロフィールも様々だ。

国内最高峰のラリーに挑んだ 彼女達の姿を追ってみた。

フォト/中島正義、山口貴利、山本佳吾、JAFスポーツ編集部  レポート/JAFスポーツ編集部

36
全日本に初めて挑んだラリー女子達は、何を学んだか

クロエリ選手はその容姿から伺い知れるように本業 は現役のモデル。モータースポーツの世界に入るきっ かけとなったのもレースクィーンを務めたことがきっ かけだった。SUPER GTのほか、スーパー耐久ではレ ースクィーンの傍ら、チームマネジャーも担当した。 ラリーとの関わりは、出身地である群馬に本拠を置 く、国内ラリーの名門、キャロッセのクスコ・ジュニア ラリーチーム(CJRT)のイメージガールである『高崎く

す子ちゃんズ』に選ばれたことに端を発する。

「引退する前にどこか地元のチームに貢献できる仕事 がしたいな、と思ってた時に、くす子ちゃんズを知っ たんです。面接の時に、ラリーに出られる企画もある

よ、と言われたので、これは絶対やりたい、と思って (笑)。父が若い頃、ラリーをやってたんですよ」。

それまでもレース出場の誘いを受けたことがあるが、 チームに迷惑をかけられないということで、断った。

免許はあるが、MT車の運転が大の苦手だったからだ。

「でも、CJRTはTGRラリーチャレンジにCVTのアク アで参戦する体制だったので、これなら乗れるかな、 と(笑)。でも、遊びで乗らせてもらうとは思っていま

せんでした。GTやS耐の世界を経験しているので、『本 気のモータースポーツ』をやりたかったんです」。

2016年は1戦のみスポット参戦したが、本格参戦し た2017年は開幕戦でいきなり優勝を飾って、シリー

ズ2位。昨年は圧倒的な速さでタイトルを獲得した。

モータースポーツの実戦経験のないクロエリ選手の 速さに周囲は驚いたが、クロエリ選手は実はCVTのス ペシャリストだった。レースクィーン時代、レース関 係者に誘われて富士スピードウェイで開催されていた

「Eco Car Cup」に参戦し、トヨタ車のCVTの扱いを 上級者から学んだのだ。

「Eco Car Cupは、これ以上速く走ってはいけないと いうタイムが予め決められている究極の燃費レースな ので、ゆっくり走りながら、CVT車で求められる繊細 なアクセルワークやブレーキングを学べました。アク アも、アクセルを踏んでもドーンと前に出るクルマじ ゃないってことは分かってました」。

2018年シーズンが終わってしばらくした頃、信じら れない話が到来する。キャロッセのバックアップを受 けて全日本ラリーに参戦するという話だった。 「地元のチームに貢献したいという当初の目標は、TGR でチャンピオンを獲ることで、ある意味達成できたの で、ラリーはやめてもいいかなと思ってたんです。全 日本の話をもらった時は、もちろん最初は凄く不安だ ったんですけど、キャロッセという心強いサポートが あることを考えると、凄く大変だろうけど、自分はドラ イバーという与えられた仕事をともかく頑張ればいい んだと次第に思えるようになりました」。

アクアからフィットに乗り換えて臨んだ開幕戦は、 まったくといっていいほど未経験だったスノーロード ながら、「周りは完走しか期待してないという適度なプ レッシャーのなさが良かった」という走りでいきなり2 位に入る活躍を見せる。しかし得意なはずの舗装とな った第2戦新城では、表彰台からはほど遠い順位でラ リーを終えた。第4戦までの舗装3連戦では2度めの 表彰台を射止めることはできなかった。

「アクアに比べフィットは速いので、まだそのスピー ドを扱えてないというのもあるんですが、エンジン特 性やシフトアップのタイミングも違うので難しい。今 でもそれが一番の課題ですね」。

アクアを突き詰めたテクニックが逆に仇になってい るのかもしれない。

「でもアクアでも3年かかったんだから、そんなにす ぐにフィットに慣れないですよね。ラリーは本番が練 習というけど、私はいきなり本番というのは得意じゃ ないので、今はなるべく沢山練習したいんです」。

高校時代の新体操部での経験も、全日本ラリーへの気持ちを後押ししたという。

「全国的にも強豪で知られる高校だったので練習がつらかったんですけど、最後 まで逃げ出さずにやれたんですね。でも大人になったら、全力を出し切れてな かったな、って思えるようになって。だから全日本の話をもらった時に、今度は絶 対最後までやり切ろうと思ったんです。少なくとも今はやめるべきじゃない、と」

クロエリ
37
MTは苦手だからと鳴りを潜めていたモータースポーツスピリットが CVT競技車との出会いで一気に騒ぎ出した

実力でもぎ取ったTGRチャンピオンという肩書を引 っ提げてのステップアップ。周囲は、TGRの一番がど れだけ走れるかという視線も注ぐが、女性だから遅く ともいいという見方だけはされたくなかったという。

「ちゃんと結果を出して、女性からも注目されるとい うのが理想ですよね。男女という言葉は正直、ラリー ではなくしてほしい。女として扱われないなら最後ま で扱われなくていいです」とクロエリ選手は言い切る。

「レース女子も注目されているし、これだけ不景気と いわれる中でも、女子をモータースポーツで積極的に

起用しようというムーブメントみたいなものは感じま すね。

正直、それなら、いっそ乗っかるしかない、という 気持ちもあります(笑)。でもやるからには負けたくな いし、勝つために努力したい。近い将来、モータース ポーツもCVTの時代になってくれるなら、そっちをと ことん突き詰めたいです」。

美貌の陰に潜ませた体育会系の血が、本気のモータ ースポーツの中で騒ぎ出しているのかもしれない。そ れが収まる気配は当分なさそうだ。

第5戦モントレーでは本格 的なグラベルラリーにも挑 戦した。「舗装からスタート したのでまだまだ縦揺れや 横滑りが苦手なんです。要 修業です」と本人。

FFのエコカーと、慣れたFRでふたつのシリーズに参戦。

戸惑いながらも、ドライビングの幅を現在、拡大中

水原亜利沙選手と中村理紗選手のコンビは、今年最 も国内ラリーに参戦しているコンビかもしれない。す

でに全日本ラリーを4戦、TRD RALLY CUPに3戦と、 僅か半年で7戦のキャリアを誇っているからだ。

S13シルビアでドリフトを楽しんでいた水原選手のラ リーデビューは昨年5月に行われたTGRラリーチャレン ジの一戦。クロエリ選手のピンチヒッターとして一戦だ け参戦した。前年に仕事でCJRTの関係者と知り合った

ことがきっかけで、声をかけてもらったのだ。

「その頃、私は偶然、YouTubeで見たラリーフィンラ ンドの映像に感動して、『ラリーをやりたい!』と一人

で盛り上がってたんですよ(笑)。広大な風景の中をド リフトしていくラリー車がカッコよかったんです」。 ラリーに憧れて僅か半年で現実のドライバーシート を射止めてしまう。こんな巡り合わせはそんな滅多に あるもんじゃない。一方のコ・ドライバーの中村選手 は大学自動車部時代に運転免許とBライセンスをほぼ 同時期に取得した根っからのモータースポーツ好き。 ジムカーナ、ダートトライアルの経験はあるが、ラリ ーは社会人になってから。自動車部のOBから、TGRラ リーチャレンジのチームを紹介されたのがきっかけだ った。これもまだ1年ちょっと前の話だ。

「雪の開幕戦で2位に入れたの で、これはひょっとしたら1勝で きるかも、と周りの雰囲気が変 わったのが分かりましたが春に なって蓋を開けてみたら厳しい 世界が待ってました」。サービ スパークでは普段は見せない 厳しい表情も見せる。

38

中村選手は名の知られた自動車専門誌の 編集者を務める。実は二人のラリー活動に は、この中村選手のポジションが大きくもの を言っている。全日本ラリー、TRD RALLY CUPの活動はともに、中村選手の勤務する 編集部とキャロッセのコラボレーション企画 として位置づけられているからだ。

二人の出会いも、中村選手が関係したと あるタイアップ企画の出演候補者として、 仲介役の人物から水原選手を紹介されたこ とに始まる。水原選手のラリーデビュー戦 となった昨年5月のTGRラリーで初めて顔 を合わせた二人は、その年の秋に始まった TRD RALLY CUPのプレシーズンマッチ からコンビを組むことになった。

「2019年の活動はTRD RALLY CUPの方 が早く決まったんですが、全日本は年末に なって、『ノート e-POWER で全日本やる ことになったのでFF練習しといてね』とチ

ームから突然、言われたんです。その時点では、この 先、どんなことが待ち受けているか、まったく想像がつ きませんでした」と水原選手。その僅か1ヵ月後には初 めてのクルマで初めてのスノーラリーそして初めての全 日本という難関に、早速挑むことになったのだ。

「ノート e-POWER は次世代のクルマという感じで難 しいですね。ドリフトはアクセルをガバッと開けます けどノートで同じことをやっても意味がないんです。

今までのように派手に走るという感じではなく、いか にロスなくムダなく走ることを心がけてます。まずは 初心者なので、しっかり最後まで走り切るのが目標で す。その上で同じSSを2回走る時は、必ずタイムを上 げられるよう、頑張ってます」。

プライベーターとして長くドリフトを楽しんできた水 原選手にとって、全日本ラリーという現場は、目にす るもの、触れるものすべての次元が違う、という。

「いま一番感じているのは、ラリーという競技に取り 組む姿勢というか、意識の高さですよね。自分たちは まだまだ遅いんですけど、そんな中でも1秒でも2秒 でも速く走れるようにチームはタイヤの減りやタイム の出方を見て一生懸命、自分たちの走りを分析してく れるんです。 趣味であれば楽しむことが最終目標です よね。でも競技となれば、クルマが難しくても運転が 未熟でも、最大限の結果を残すために努力しなきゃい けない。SSの道が難しいと気持ちが切れそうになるん ですけど、今、自分たちが与えてもらっている環境は なかなかないものだし、これだけラリーに出させても らっているわけだから、気持ちを切らすわけにはいか ないと思って走ってます。つらい時もありますけど、ト ータルに考えれば笑顔でサービスに戻ってこれること がラリーの楽しさなので、それを思えば競技中はつら くとも構わないですね」。

ドリフト娘の水原選手(右)と自動車専門メディア の中村選手(左)という異色のコラボレーションは 2年めのシーズンを迎えた。今年前半はふたつの シリーズを追いかける多忙なラリー生活を送った。

サービスで『走ってこい』と送り出してもらえるのが 今でも不思議な感じがして仕方ない、という水原選手 はその戸惑いを戸惑いとして引き受け、ワークスドラ イバーとしての意識を身に着けようとしているようだ。

一方、編集者でもある中村選手は、ラリーの魅力を 伝えるという発信者の役割もこなしながらラリーを戦 う。どういうスタンスでラリーに臨んだらいいのかとい うことが最近は分かってきたという。

「参戦を重ねるごとに名門チームで走るプレッシャー は大きくなってます。コ・ドライバーが貢献できるこ とって難しくて、いいタイムを出せても自分では納得

水原選手は、舗装はドリフトで散々走り込んでいるが、グリップ走行 でタイムを出すのは、これからの課題。7月の全日本ラリー・カムイで はいよいよ、グラベルにも挑戦する。

水原亜利沙 中村理紗
39

ノート e-POWER 勢は今年、苦 戦を強いられており、昨年、ノー トで優勝を飾った伊藤隆晃選手 でさえ今季の最上位は3位と、 戦闘力の不利は否めない。当面 は同じクルマに乗る伊藤選手と のタイム差が自分たちのスキル アップを図る物差しとなる。

できないってこともあるんですけど、もっと客観的に 見れば、良かった時は全体が噛み合ったからなんだと 思えるようになりました。ラリーについての文章をひと つひとつ書くのも最初は難しかったんですが、編集者

もコ・ドライバーもやっていくしかないんだ、と最近 は覚悟を決めています(笑)。それが、モータースポー ツは継続することが大事なんだ、ということに繋がっ ていく感じがするからです」。

最近はモータースポーツ女子を増やしていくことも、 自分の役割のひとつと考えるようになったという。

「モータースポーツに参加する女子をもっと応援した いし、発信者としても自分が女性であるということを 意識してやっていきたい」。

ラリー女子でしか語れないモータースポーツの楽し さが、言葉というツールを通して多くの女子たちの心 に伝わることを期待したい。

全日本ラリー選手権JN6クラスのシリーズを独走す る大倉聡/豊田耕司組に、時折、迫るスピードを見せ ているのが板倉麻美選手と梅本まどか選手のコンビだ。 クロエリを輩出したCJRTの運営を任されていたウェ ルパインメディアチームが、1年間の休息の後に満を持 して全日本ラリーに投入したヴィッツCVTを駆る。

開幕戦こそスキップしたものの、初参戦となった第2 戦新城では3位をもぎ取り、第4戦唐津、第5戦久万 高原では連続して2位を獲得と、参戦したラリーすべ

てで表彰台を射止めている。コ・ドライバーの梅本ま どか選手は昨年、クロエリのサイドシートを務め、TGR ラリーチャレンジのチャンピオンを射止めた。元 SKE48のメンバーという華麗な経歴の持ち主でもある。

一方の板倉選手は新城ラリーが公認競技会デビュー となった、まったく無名の新人だった。学生時代は、 当時、学生モータースポーツ界で常勝軍団として知ら れた某大学自動車部で2年間、みっちりしごかれたが、 社会人となってからは、オフィシャルとしてモーター

元アイドルという異色の経歴の持ち主の 梅本選手(左)は、昨年、クロエリ選手と ともにTGRラリーチャレンジのチャンピ オンに輝いた。ラリーの経験では板倉選 手(右)の先輩に当たる。「ガッツの塊み たいな人。メンタルの強さは見習ってま す」と板倉は絶大の信頼を寄せる。

板倉麻美
選手 40
林道ドライブ大好き女子があっという間に国内ラリーの最高峰に。 二度とないチャンスにアクセルを踏み続ける

表彰台という結果はもちろんだ が、一戦一戦走り切れたという事 実がいまは自信を与えてくれると 板倉選手はいう。「何かをやり遂げ るという経験が今まで自分の人生 にはなかったんですよね。でもそ れは自己満足で走るのではなく て、本番で力を出し切って皆が待 つサービスに無事に帰ってくると いうことができて初めて、やり遂げ たという自信に繋がるんです」。

スポーツに関わり、競技会参加の経験はない。

昨年の秋、もう7〜8年は走り込んでいる茂原ツイン サーキットのフリー走行に出かけた際に、たまたま自動 車専門誌のロケで訪れていたプロドライバーが板倉選

手のインプレッサを駆ったところ、板倉選手がマークし たタイムを破れなかったことから、そのままそれが企画 として自動車専門誌のDVDに収録されることに。それ を見たウェルパインメディアの関係者が板倉選手をス カウトしたことが全日本へのきっかけとなった。

「チームがTGRラリーチャレンジの実績があったの で、『出られたら、ラッキー』くらいに思ってたんです けど(笑)、いきなり、『全日本出ることになったから』と 言われたんです。話が大き過ぎて最初は100%不安し かなかったですね。ただ色々、葛藤した中で、この先、 ラリーをやるとしても、こんな大きな舞台に立てること は現実的にないだろうな、と思いました。もうスポン サーもクルマも決まってるから、と言われたんで、最 後は、やるしかないな、と腹を括った感じです。でも 出るからには、やっぱり女子だね、と思われるのは嫌 だった。勝ちたいと思える実績も自信もなかったけど、 負けたくはない、という気持は強かったです」。

板倉選手は知らない道を走るのが、とにかく好きだと いう。東京在住の板倉選手は、郷里の和歌山に帰省す る際は、今まで走ったことのない道を地図で林道レベ ルまで探し当てて、下道だけを走って帰る。全国津々 浦々までこの林道ドライブを敢行した結果、板倉選手 のGDAインプレッサは47都道府県をすべて走破し、 その走行距離は現在、44万kmに達しているという。

「狭くて、暗くて、長い林道が好きなんです(笑)。だ から新城で雁峰SSを走った時に思ったんです。私は、 こういう道が走りたいんだ、って」。

オトメチックな容貌の陰にはマニアックな林道大好 き女子が隠れている。だがこれこそが、瞬時に全日本 ラリーに適応できた理由でもあるようだ。

「でも課題が山積みです。私って走ることは好きなん ですけど、林道をドライブする時は、荒れたり、ダー

トがあったりするような悪い道は走らなかったんです ね。でもラリーはそういう所もお構いなしに皆、全開 で行くわけですよね。皆が踏んでいく所をビビリが入 って抑えたような所はやっぱり負けてるんです。そう いうラリーのメンタルをまだ手に入れられていない自 分が悔しいですね」。

コ・ドライバーの梅本選手によれば、板倉選手は「い つも優しくてまったりしているので、スタート1分前で も割とフワッとした空気ですが、3秒前くらいからスイ ッチが入って急に男前な雰囲気でドライビングをする」 という。「私の方が昨年ラリーを経験しているからこ そ、凡ミスでペナルティーを受けないようにしたいし、 常に慌てず落ち着いて、板倉選手の不安を少しでもな くして楽しんでラリーをできるようにしたいですね」。

板倉選手はインタビューの最後に、水原選手とまっ たく同じように『不思議』という言葉を口にした。 「今までただ一人でガムシャラに走ってきた自分が、 いまここにいるというのは不思議な気分なんです」。

ステップアップの階段があまりに急傾斜であったが ために、後ろを振り返ることなく、ただ前ばかりを見 つめているが、彼女達には、その先に何をすべきかが はっきりと見えてもいる。その『不思議』な気分を忘れ るほどに、ひたすら走り続けることができれば、女子 という肩書さえ不要な一人の確固たるラリーストとし て、未来を切り拓いていくことができるのではないか。

全開モードに突入した彼女達の次のステップに注目 していきたい。

41

強い自分 を磨く

ドライバーはマシンの性能を高めながら、自らをも高める試行が続けられている。 トップ選手なら誰でも実行している、勝利を得るための飽くなきチャレンジ。 「常勝ドライバー」という存在になるには、自分に何が足りないのだろうか? 特集 ジムカーナ 42

全日本ジムカーナ S A
部門は、ナンバー付きでは最も改造された車両が争っており、 フォト/滝井宏之、谷内寿隆、 J A F スポーツ編集部 レポート/ J A F スポーツ編集部

員がゴールするまで自分の成績が分からな いジムカーナ競技。「とにかくアクセルを踏 みまくる!」とった運任せの走りでは、一勝 はできても、次につながらないケースも多い。特に全 日本選手権でチャンピオン獲得を狙うならば、自分の ベストを自在に引き出すスキルが求められ、手強いラ イバルを相手に、着実に勝利を重ねていく必要がある。

ここでは、最近の全日本ジムカーナ選手権で頭角を 現して、常勝ドライバーへの道を歩もうとしている選 手にフォーカス。彼らがどんなアプローチで自分を見 つめ、自分を磨こうとしているのかを探った。

SA2 佐藤 巧 選手

YH★M-ARTS★インテグラ[DC2]

2018年は4勝している高江淳選手に対し、何とか2勝でタイトル 争いを最終戦に持ち込んだ佐藤選手。鈴鹿南の“1本勝負”に翻 弄されてタイトルを逃したが、それを契機に発奮。シーズンオフ の膨大な走り込みと意識改革を遂げて、今年こそはとタイトル獲 得を狙う。若手から中堅へ。大きく飛躍する年になりそうだ。

全日本ジムカーナSA2でDC2インテグラを駆る佐 藤巧選手は、いわゆる「JMRC戦」から全日本選手権に 飛び込んで、すぐさまシングルの順位を獲得して頭角 を現している。2017年からはクラスをSA2に移り、昨 年は高江淳選手と激しいチャンピオン争いを展開した 注目の存在だ。

しかし、彼は自他ともに認める“天然系”で、高江選 手からも「彼は何をしてくるか分からないから、凄く怖 い」と言わしめた人物でもある……。

今シーズンの開幕戦筑波1000。今年はどんな戦い を見せてくれるのか、意気込みを聞くために佐藤選手 の元を訪れた。すると、昨年から自分に足りない何か を意識し始め、車両セッティングの重要性やドライビ ング分析の必要性を考え始めたことを明かしてくれた。

勝てるはずだという思い込み…… 「フィーリング頼み」からの脱却

「昨年から、セッティングを変えたらビデオで撮影し て、短い区間を繰り返し走って、別のセットとの違い を全部比較して、タイムで判断するようにしたんです。 そしたらドーンと成績が伸びたので、やっぱりデータ で見ないとダメなんだなと思いました。

それまでは完全にフィーリングです(笑)。タイムも、 コースを1周走ったタイムで速かった、遅かったをや ってました。ビデオも見てましたが、みんなが一生懸 命、区間タイムの分析をしている中で、自分は結構フ ィーリングで(笑)、タイムとのヒモ付けもあまりやって なかったんです。自分はいい加減すぎたなって、今さ

43

らながら思ってます(笑)。

全日本はもう5年になりますが、3年ぐらいはソコソ コの成績でイケてたので、4年目ぐらいに『そろそろ勝て るだろう』なんて、勝手に決め付けてたんです。

でも、フタを開けたら以前とあまり変わらない。こ れじゃイカンと思って、考え直したんです。

昨年の第2戦タマダと第3戦エビス西の違い(第2戦 はトップから1秒差の4位、第3戦はベテラン朝山崇選 手に僅差で優勝)が、まさに境界線なんですよ。

年数も経ってるから『もう勝てるだろ』って、雰囲気 だけで勝手に判断してたので、そんな簡単じゃないわ なって思いました……。みんな真剣ですしね。

操作の仕方は、ぶっちゃけ今まで通りなんですが、 クルマの動きに対する考え方が変わりました。

以前は、FFのクルマは『リアはどっしり、フロントで 曲げていく』というイメージでした。それが、リアのア ライメントをうまくやると、フロントだけじゃなくてリ アを出しながら旋回できるってことに気付いたんです。 今まではリアに無理をさせていたんだということをア タマで理解したので、コーナーの旋回スピードに反映 できるようになりました。

これまでずっと「自分の弱点はターンだ」と思ってま した。ターンが速いセッティングを見付けられたので、 それで走ったら、コース全体も速かった。そこに気付 いたら成績がドーンと伸びたんですよ、なんだか時間 が掛かりましたね(笑)。

メンテナンスは岐阜のスエマツダさんにお願いして いて、できることは自分でやってます。エンジンは一 回オーバーホールしたこともあります。足回りはアジ ュールさんで、スエマツダさんにはLSDを見てもらっ ています。LSDは組み方によって効きが変わってきます よね。そういう重要なところはお任せしてます。

元々めんどくさがりなので、クルマをイジるのはあ んまり好きではないんです(笑)。でも、自分は速くな りたくて、勝負をしたくてジムカーナをやってます。

だから、これをやらないと速くなれないんですよね」。

続いては、DC2インテグラで全日本N1にステップア ップしてきた一色健太郎選手。小清水昭一郎氏率いる 愛媛のレーシングサービスコシミズのサポートを受け、

先輩である朝山崇選手と全日本ジムカーナを転戦して

これから走るコースレイア ウトを徒歩で確認する慣熟 歩行。事前に準備したセッ ティングと、これから走る コースでの感触をイメージ しながら歩いている。攻め られるクルマになっている のか、そしてどう攻めるか。 さまざまな思いが交錯する 出走前の貴重な時間だ。

いるが、2016年にEK9シビックに乗り換えてからも、 SA1で勝てそうで勝てない状況が続いてきた。

それが2017年には入賞争いの常連となり、JAFカッ プジムカーナでは優勝。そして2018年の第6戦みか わでは、地元で自身初の全日本優勝を獲得した。

2019年も第3戦エビス西では後続に大差を付けた 勝利を挙げ、第4戦タマダで連勝。今季はウィナーが 毎戦変わっているSA1で、唯一の2勝を挙げている。 第5戦終了時のシリーズは2位。今年こそのタイトル 獲得に向けて、絶好のポジションを獲得している。

若手から中堅へ、一皮剥けようとしている一色選手 に、好調の原因を自己分析してもらった。

「分かるクルマ」になれば勝てる 限界点を感じられる自分の安心感

「金曜の練習会で、コレだと思えるセッティングが見 つかれば、それを本番までに変えずに走りに集中する 感じですね。コースの特性や自分が思うクルマの動き、 タイヤの状況とかが分かるクルマになれば勝てるとい

う自信が付いたので、そこにクルマを持っていく感じ です。それが実現できれば触りません。

実はこの感覚は最近見つけた方法で、これまで同じ ようにやってきたんですけど、以前はタイムが出る、 出ないを基準にしてました。それが現在は、タイムも 重要なんですけど、自分の中でどういうリズムで運転 するかを決めていて、それに合う、合わないを見てま す。コースによって自分のリズムってありますよね。

それに合うようにクルマを仕上げている感じです。 ターニングポイントは今年の第2戦エビス西で、そ こで優勝できてからです。そういう考え方に変えたら、 自分の中で安心できるようになったんですよ。

最初の一発目のコーナーって、感触は分からないじ ゃないですか。クルマの動きが分かっていれば、走っ ても『ああこう動いてくれたのね』って確認できる。一 つのコーナーを曲がったときに、次にどう動くのか、 そしてタイヤのグリップ感も、もう少し行ってもいいの か、行かなくてもいいのかという限界点。それらが自 分に伝わってきて、細かく感じ取れるクルマになって いたら大丈夫、という安心感があれば攻められるって 感じてます。自分の中で自信があるクルマを作れたら、

44

決勝は大丈夫だなって思えるようになりました。

こういう境地に至る前は、なんでタイムが出ないん だろうって、いろんなことを試してたんです。分から ないクルマでがむしゃらに走ってると、たまにタイム は出ますよね。けど、それじゃダメ。最近では、この セットじゃタイムが出ないとか、このセットなら自分が もう少しうまく運転すれば、もっとタイムが出る、って いう感じがだんだん分かってきたんですよ。

実は最近、自分以外のクルマのセッティングを出す 機会を得ることができて、自分のクルマとの違いとか が見えるようになってきたんです。そうすると自分の センサーが敏感になって、細かいことが凄く分かるよ うになってきたんですよね。それがここ2戦ぐらいで 勝てている要素なのかなって思ってます。

でもエビス西のときには、いいセットで走れたのは確 かなんですけど、なん で勝てたのかは自信が なくて。この出来事を 挟んで第3戦タマダに 出たら、予想と本番の 感覚が一致して、そこ で確信が持てて、この 感覚を信じればいいん

だなって思えるように なりました。 それでも、あえてチ ャレンジすることもあ ります。やらなくて後 悔するより、やってか ら後悔したいタイプな ので(笑)。周りから見 れば少しやりすぎなく らいトライすることも

あります。小清水(昭一郎)さんの影響もあって、挑戦 し続けていかないと止まってしまうかもしれない、だ からトライしないと……というのが自分の中に刷り込ま れてるんです(笑)。もちろん相手も速くなるので、自 分が踏み留まっていたら勝てませんよね。だから少し でも上にいきたい。ここ2戦は凄くハマったので、ラ イバルよりドンと上に行くことができたのかもしれませ んね。

小清水さんには『勝とうと思って勝てる奴なんて、そ ういねえぞ。自分との格闘だから、自分ができる走り をしろ』ってよく言われますが、まさにエビス西は『勝 つ!』じゃなくて『自分の現在の状態で良いと思える状 態がどこにあるのか』を確認する感じで走ったんです。

こう考えると気持ちはすごく楽で「これで負けても仕方 ないよねという心境で挑めるようにもなりました」。

強い自分

SA1 一色健太郎選手

DL.itzz.Lt.RSKシビック[EK9]

2018年は全日本ジムカーナSA1でシリーズ3位を獲得した一色選 手。昨年の第6戦みかわでの全日本初優勝を挙げ、今年の第2戦 エビス西、第3戦タマダでは2連勝している。まだ相対的には若手 ではあるが、中堅と呼ばれる時期に来ており、昨年来存在感を増し ているのは間違いない。

ここで、SA部門の最高峰SA4を戦うベテラ ン・津川信次選手に登場いただく。津川選手 のCZ4Aランサー・エボⅩは、自ら“完成形” と語る仕上がり。

しかし、SA部門は吸排気系や足回り、駆動 系など改造範囲は多岐に渡り、特にターボ4 駆ともなると、駆動系だけでもミッション、 フロント&リアデフなど、それぞれの作動が 複雑に絡み合う。それだけに、セットアップ の効果を判別するのはなかなか困難だ。

そんな津川選手が、どのようにして自分や マシンのセッティングと対話して、全日本タ イトルだけでなく、大会オーバーオールタイ

「分かるクルマ」に仕上がれば … …
45

「調子がいいときこそ試す!」

それをエスカレートしてどんどん煮詰めていくと、 練習会で走ったときは調子良かったのに、本番はうま く走れない、ってコトになる。練習会で完璧を突き詰め ると、実はそれは難しいセッティングになってるって ことだから、また慣れていく必要があるんだよね。

SA4 津川信次選手

DL☆itzz☆URGランサー[CZ4A]

2018年の全日本ジムカーナSA4チャンピオン津川選手。5年連 続チャンピオンを獲得しており、自身8度の全日本タイトルを 持つベテランだ。ジムカーナのキモだと語るブレーキについて は一家言あるが、効果が多岐に影響するターボ4駆のセッティ ングは複雑が故に「面白い」と語る。

ムをも連取する「強い走り」を手に入れているのか。ア ドバイスをもらった。

そして、自分の中に、ある程度の『ベースの仕様』が できたとき、それが『今日は調子いいな』と思えるなら、

そのときこそ、セッティングを色々変えてみるべきな んだ。調子が良いときこそ、ダンパーやバネを換えて みる。ダメかもしれないけど、あえてやっておく。そ うすると新たな発見が得られることも多いんだ。

セッティングは、テストの最後で一番最初のセット に戻してみる。それがダメでも、経験になるからね。

昨年の中盤戦あたりで、『これで良い』と思っていた セットを、ターンのトラクションを上げるために、もう 一度見直してみたの。そしたら、以前試して良くなか った仕様が良かった、という発見があったんだ。

「セッティングは練習会などでやると思うんだけど、 練習会って、何本も走ると自分のドライビングに失敗 がなくなっていくよね。こういうときに、クルマがどう いう動きになるかというと、どんどん硬くなるんだ。

実際、操縦安定性も良くなるので、いい方向が見つ かったように感じる。でも、そのまま本番のジムカー ナで走ると、だいたい失敗するんだよね。

だから、セッティングを試すときには、クルマの動 く量がどれくらいだったら、自分の中で許せるかな、 というのを見極めて、そこまでに留めておく、という のがすごく大事なんだ。このぐらいの動きだったら、 失敗してもリカバリーできるな、といった風にね。

だから、セッティングっていうのは、決まった時点 で万能ってワケじゃなくて、違った条件で試したら違 う答えが出ることも多い。路面だって朝と昼で温度が 変わるから、条件が変わったときに、その仕様が良か ったのかどうかを試していかないと、自分の引き出し が増えていかない。というよりも、引き出しを増やし て、それを確実なものにしていく感じかな。

これらを積み重ねていくと、今日の状況だったら、 あの仕様で走ろうとか、日差しが変わったときに、前 の状況に比べて路面グリップが変わるから、こう対応 しよう、っていうのが分かるようになってくるんだ。

だから、上位を戦う選手ほど、上に行けば行くほど、

「許せる範囲」に留めておく そして、調子がいいなら試す!
46

SA部門はエンジンの吸排気系や足回り、ミッションの ギヤ比を含めた駆動系、制動系など改造できる範囲が 多岐に渡る。車体の出力を路面に伝えるタイヤにもコ ンパウンドの種類があるため、組み合わせを考えるだ けでも、夥しい量のテストデータが必要になる。

こういうことをみんなチャレン ジしてると思う。

調子がいいというのは、自 分の中では、乗れているかど うかだと考えてる。もちろん、 乗れていても、トップタイム で走れるわけじゃない。自分 の中で狙ったとおりに走れて る、というのがいい状態だと 思う。

よくあるのが、うまく走れて調子がいいんだけどタ イムが出てない状態。そういうときこそ、何か試して みると、さらにタイムが出るのか、出ないのかが見え てくるんだ。もちろん周りのタイムも気にするけど、ど ちらかというと、自分の中でイケてるのかイケてない のかを見極めて、自分がイケてる状態を基準にして、 いろいろ変えていくべきだと考えてるんだ。

練習会のときは同じ状態ではまず走らない。本数を 重ねると慣れてくるから感触が良くなるのは当たり前 で、そこで速かった遅かったと考えるのは意味がない。 ランサー・エボⅩはもう9年乗ってるけど、まだま だ新しいことが見つかるので、この『調子がいいときこ そ試す!』は、未だに実践しているよね」。

SA2佐藤巧選手のパドックには 旧式の大型トルクレンチが……

第5戦名阪Cコースのパドッ クで大型トルクレンチを持つ 佐藤巧選手。LSDだけでなく、 足回りやアライメントとの関係 も見直し始めており、天然の速 さに理論が加われば、一層怖 い存在になりそうだ。

に見舞われており、成績が乱高下していた……。

心配になって、第5戦名阪Cのパドックを訪れたと ころ、エンジン修復を終えたDC2インテグラと共に、 旧式の大型トルクレンチが鎮座していた。

「今年のシーズン途中から、LSD、デフのセッティング を自分でやり始めました。あの大きなトルクレンチは そのためです。これまでLSDは、スエマツダさんで2 戦に一回、オーバーホールしてましたが、そのオーダ ーも『とりあえずイニシャルをパンパンにして』って感 じでした。でも、それでは能がないですし、そこを知 った者がまた先の領域に行けるんだろうな、と感じた ので、自分でLSDをやってみることにしたんです。

FFにとってLSDは命なので、どういう構造でイニシ ャルが出てロックするのかを勉強して、新しいセッテ ィングを見付けたいんですよ。モータースポーツは道 具を使ったスポーツなので、道具の部分をキッチリ理 解しないと、ダメだと思うようになりました。

冒頭に登場してくれた、SA2を戦う佐藤巧選手は、 開幕戦こそ2位表彰台を獲得しているが、第2戦もて ぎ南では駆動系トラブル、第3戦エビス西では僅差の3 位表彰台、そして第4戦タマダではエンジントラブル

強い自分

イジるのが嫌いなのは変わらないんですけど(笑)、 やっぱり速くなりたい。そうなるとこういうトライが必 要で、LSDも自分の『やるべきコト』になりました。

今年はすでに11回、ミッションを降ろしてますよ (笑)。これまで自分の中ではイニシャルって「数字」で しかなかったんです。でも、厚みがあって、ケースが たわむから、これだけのキロ数になっている。そして、 厚みを増しすぎて同じイニシャルになっても、それは 違うモノなんだってこととかが見えてきて……。やっ ぱこれは大変だわ! って気付きました(笑)。

練習することも大切ですけど、アタマを使うことも 大事だと思ってるので、そのバランスを取りながら、 速くなる方法を見付けていこうと思ってます」。

ジムカーナは、経験や知識を積み重ね、それを自分 のモノにしていければ速くなる、そして強くなれる。 センスや勢いだけで好調を維持できるドライバーも確 かにいるが、それはごく一握りだと言えよう。

多くのトップ選手が掴んだ「強さ」は、突然身に付く ものではなく、自分から掴みに行くもの。彼らのたゆ まぬ努力が早期に結実することを願ってやまない。

47

まだ間に合う! “令和=ドリフト元年”のススメ

特集ドリフト

今さら聞けない ドリフト競技の

ここ数年でモータースポーツのジャンルとして確立した感のあるドリフト。

峠や埠頭で走るいわゆる「ローリング族」のイメージは少しずつ払拭され、 クローズドされた会場で繰り出されるダイナミックな走りと個性的なマシン、

そして、まるで野外フェスのような雰囲気も相まって、ファンも増加中だ。

しかし、見るより参加するのが楽しいのはどんなカテゴリーも同じ。

では、「ドリフト競技」に出場するにはどうすればいいのだろうか? 元号も変わったということで、今年こそは“日本の国技”とも言える、 ドリフト競技に挑戦する“元年”にしてみませんか!?

フォト/堤晋一、JAFスポーツ編集部 まとめ/川崎隆介(SKILLD)、JAFスポーツ編集部 48

ドリフトはモータースポーツ!?Lesson 1

今やドリフトはサーキット走行がメイン

走れるコースは40か所以上!

「ドリフト」が生まれたのは30年ほど前。

レースの中でときおり見られるドリフト走行を、そ の部分だけ取り出して、パフォーマンス的に峠や埠頭 の一定区間で披露する「走り屋」が現れると、そのウワ サはまたたくまに広がり、週末の有名スポットは、走 り屋とそれを見学するギャラリーで大騒ぎ。メディア が取り上げるようになると数は爆発的に増加。ドリフ トは社会現象になった。

ほどなく自動車雑誌や動画メディアの企画として、 ドリフトのテクニックを競う「ドリフトコンテスト」が開 催されるようになると、その練習のために、その会場 となる「サーキット」に通う者も増えた。

さらにチューニングショップやアフターパー ツメーカーが主催する走行会や、ドリフトコン テストが増加するにつれて、ドリフト愛好家の サーキット指向は増加していった。今や1万人以 上の愛好家たちがサーキットでドリフト走行を楽 しんでいると思われる。

ドリフト人口が増加した背景の一つは、走る場所が 増えたこともある。「モータースポーツ後進国」と言わ れることの多い日本だが、ドリフトに限っては先進国。 なにしろ日本にはドリフト走行が可能なサーキット(広 場を含む)が約40か所も存在しているのだ。

以前のような峠や埠頭での走りは廃れているが、む しろドリフト走行ができる環境は良くなっているとも 言えるため、愛好家にとっては恵まれた環境だろう。

ドリフトの舞台はさまざま

スキー場の駐車場を始めとした、全国各地の広場を使ったドリフトイ ベントも多数開催されている。パイロンでコースを作るため、クラッ シュする危険が少ないのがいい。この写真のとおり、仲間と接近して 走り、ギャラリーに注目を浴びるのもドリフトの醍醐味だ。

走行会や練習会も多数開催 ドリフトを専門に扱う月刊誌「ド リフト天国」には、全国各地で開 催されるドリフト走行会(練習 会)のスケジュールが掲載されて いる。エントリーを事前に申し込 む必要のないサーキット運営の 「フリー走行」だけでも、全国の26 か所以上で行われているのだ。

全国各地のサーキットで、平日・休日を問わず、ど こかの団体が貸し切ったドリフト走行会が開催されて いるし、フリー走行ができるコースも数多い。

現在のドリフトは、合法的であることは間違いなく、 さらに、数あるモータースポーツの中でも、かなり気 軽に走りを楽しめるジャンルとなっているのだ。

今やJAF公認!ドリフト「競技化」への歩み

2001年 「D1グランプリ」シリーズが始まる。

2005年 「D1ストリートリーガル」シリーズが始まる。

2011年 「ドリフトマッスル」シリーズが始まる。

2013年 「ドリフトマッスル」がJAF公認競技となる。

2017年 第1回「FIA Intercontinental Drifting Cup」が 東京・台場で開催。

2018年 「ドリフトマッスル」が「ドリフトキングダム」へと改称。

2018年 「D1ストリートリーガル」が「D1ライツ」に名称変更。 JAF 公認競技となる。

2018年 第2回「FIA Intercontinental Drifting Cup」が 東京・台場で開催。

最高峰はFIA IDC JAF公認ドリフト競技は「D1グランプリ」、「D1ライツ」、 「ドリフトキングダム」の3シリーズ。2017年から開催さ れているFIA Intercontinental Drifting Cup(FIA IDC)は もちろんFIA公認。ウィナーは海外で行われるFIAの年 間表彰にも招待されるのだ。

49

Lesson 2

ドリフトは何を“競技”するのか ドリフトの「審査基準」とは?

ドリフトの原点は、ドリフト走行でギャラリーを沸かせ ることにあるわけだが、それを競技、またはモータースポー ツたらしめているのが、いわゆる「ドリフトコンテスト(=ド リコンと略すのが普通)」の要素だ。この「ドリフトコンテスト」は、ショップ主催のドリフト走行会(練

習会)などにおいても、当日の最後にドリコンタイムを設けて表彰をする場合が多い。

ドリフトをイチから始める場合は、まずはそのドリコンを経験し、自分のドリフト達成度を客観的に 判断することから始めてみるのがオススメだ。走行方式は「単走」と呼ばれる1台ずつの審査と、「追 走」と呼ばれる2台が同時にスタートして、前走車をいかにドリフトで追い詰めるかを審査する方式。 現在の大きな大会では定番となっている。

ちなみに、ドリフトの世界では「競技ドリフト」と「ドリフト競技」という、似ているようでニュアンス の違う用語が流通している。もともと「競技」という概念がなかったドリフト業界では、「ドリフト」の 中でも競技要素だけを行う行為を「競技ドリフト」として区別していて、この競技要素だけを行う大会 が増加してきた昨今では、JAF公認やFIA公認を始めとした、モータースポーツの要素を多分に含ん だドリフトイベントのことを「ドリフト競技」と呼んでいる。

TANSO SOLO RUN 1 単走

「車速」と「角度の大きさ」と「安定感」

ドリフトコンテストの審査基準は「いかにカッコよく コーナーをドリフトしながら駆け抜けるか」だ。

抽象的な基準なので、最初は戸惑うかも知れないが、 ドリコンを見学したり、自分で挑戦していくうちに「カ ッコいい」の基準は少しずつ分かってくるはずだ。

カンタンにいえば、いかにスリリングにコーナリン グするか。オーバースピード&スピン寸前なマシンを 的確な操作でコントロール下に置いて走り切るか。

まず、ドリフトの審査はサーキットの一部の連続し たコーナーを「審査区間」とする。1周すべてではなく、 メインストレートから1コーナー、続く2、3コーナー辺 りまでを区間に指定されることが多い。

ちなみに、ドリフトを「フィギュアスケートのような 審査競技」と例える人も多いが、実は意外なことに、ド リフトの場合は、それぞれが繰り出す走行スタイルに、 バリエーションはほとんどない。

フィギュアスケートは、スピンに回転数や踏み切り 足や着地足にバリエーションが豊富で、技の名前や難 易度も決まっているが、ドリフトにおける、コーナーを カウンターステアを当てながらクリアするという行為 自体が単純明快だからだ。

とはいえ、その単純明快な中にも、走りの優劣を決

参加する大会におけるドリフトの審査基準は、走行前に行われるドラ イバーズミーティングで説明される。同じコースでもドリフトの審判 員が違えば審査基準も変化するのだが、基本的な部分はそう変わら ないと言えるだろう。写真はドリフトキングダム筑波ラウンドのドラ イバーズミーティングで参加選手に審査基準などを説明する土屋圭 市審判員。

める要素がいくつかある。

まずは速さ。ストレートはできる限り加速して、1コ ーナーに対して車体をヨコに向け、その角度や最大角 度に到達するまでの早さ(クイックさ)が、重要視され る。次に角度の安定感、さらにコーナーを脱出して次 のコーナーにアプローチするまでのスムーズさだ。こ れをドリフト的な用語に置き換えると「進入」「立ち上が り」「振り返し」の3セクションとなる。

走行方法は「単走」と「追走」二つ。「単走」とは、個人 で走行することで、ジムカーナやダートトライアルの ように1台ずつスタートする。

単走審査の中には「ルーレット式」と呼ばれる方法も あって、それは10台くらいの参加車両が、10分か15 分といった規定の時間内で同時に走行する中から、審 判員が判断するやり方。ローカルなドリコンでは時間 短縮のためにこの方式を採用する場合もある。

“ドリコン”への参加が第一歩
50

高いスピードでカウンターを当てながらコーナリング するには、タイヤの切れ角が重要となってくる。できる 限りアクセルオンのタイミングを早めてコーナーを脱 出することが高得点に繋がってくるのだ。巻き上げる 白煙の量はパフォーマンスだけではなく「アクセルを 踏んでいる」の判断に繋がっている。リアタイヤを滑 らせるのがドリフトの原点ではあるのだが、近年のドリ フトで重要なのは、実は「トラクション」なのだ。

どちらの走りが高得点!?

B

今さら聞けない ドリフト競技の

車体の横向き加減で 優劣は一目瞭然!

単走において、同じ地点で走りを比較して みよう。高得点を得られるのは「B」。車速 や角度、アクセルオンの状態は写真でも分 かるだろう。ドライバーが睨みつけるク リッピングへの目線が、サイドウインドー かフロントなのか。車体の横向き加減の違 いは明らかだ。

TSUISO BATTLE RUN 2 追走

前後2台が連なって走り その接近距離を審査する

そして、ドリフトの醍醐味が「追走」だろう。D1グラ ンプリ初代審査員長の土屋圭市氏の提唱で生み出され

たこのドリフト競技会の審査方式は、ドリフトに革命 をもたらし、現在では大きな大会のほとんどが採用し ている。世界で開催されるドリフト競技のほとんどが この方式に倣っていることもあり、それがドリフトが 「日本発祥」と言われる所以でもある。

スタートは同時だが「後追い」は「先行」の前に 出ないよう、ドリフト開始地点まで斜め後方に つく。写真はD1グランプリの鈴鹿ラウンド。進 入速度は200km/hに近い。お互いの腕を信用 していなければできない走行スタイルだ。

A
51

追走はトーナメント戦の対決方法で、2台が前後して 同時にスタート。前走する「先行」と「後追い」を入れ換 えて2回走行する。審査の基準は「いかに前走車と同じ アングルで接近するか」だ。そして、ここにもまた「カ ッコいい」という判断が介入してくる。

基本的に先行は、単走で高得点を得られる走りをす る。後追いは、先行が走った角度と車速を合わせて走 る。ストレート区間にあった2台の車間距離が、コー ナーリング中に詰められれば、後追いの高評価となる。 「攻めて追い詰めた」という判断になるワケだ。もちろ ん、抜いてはいけない。ギリギリまで詰めるのだ。

追走の審査基準は複雑だ。先行が、わざと後追いし にくい走行をすればマイナスポイントだし、後追いの プッシング(追突)があった場合は、それがどういった 状況に起因したのかを判断しなくてはならない。

そういった選手同士の駆け引きが存在する中で、ス ポーツマンシップが問われるのだ。追走で勝敗を決め るには、数値で表せないドリフトの本質が判断される。

事実、正々堂々とした追走勝負がドリコンの真骨頂

となるまでには、数年の歳月がかかっている。誤解を 恐れずに言えば、近年のドリフトの進化は、追走の進 化とも言えるのだ。

ちなみに、参加が50台を超えるような大会では、ま ず参加者全員を単走で選抜し、ベスト16以降(24台の こともある)が追走となる。つまり、ある程度の腕がな いと追走を経験できないということでもある。

一歩間違うと大クラッシュとなる危険な追走だけに、 テクニックがおぼつかない選手は対戦することはでき ない。ゆえに、ローカルイベントなどでは、ビギナー やミドルクラスでは追走が設定されず、単走だけで得 点を付けて表彰する流れになることも多い。

D1グランプリの開催初期からドリフトの第一人者として活躍する野村謙選手と 熊久保信重選手の追走対決。前後を入れ替えて2本走行する。野村謙選手は、 D1グランプリに出場する前からドリフトを「飛距離と角度」と表現していた。こ れはまさに言い得ており、飛距離とは「できるだけコーナーの手前からドリフトを 始める」ことを意味しているのだ。

52
前走をいかに追い詰めるか 追走は前後を入れ替えて2本走行

Lesson 3

どんな“ドリコン”に出るのか!?

目指すは、JAF公認ドリフト競技の参加

走行会から大きな大会まで、ドリフトコンテストは数あれ ど、やはり花形は最近流行のJAF公認ドリフト競技と言える だろう。公認競技のD1グランプリやD1ライツ、ドリフトキン グダムには、それぞれ車両規定や服装規定などに制約はあるが、正式なモータースポーツとしての格がそ こにある。それぞれ全国のサーキットを転戦するシリーズ戦だけに全戦出場は大変だが、スポット参戦も 可能だ。出場するために必要な大会ごとの資格にも種類があるため、まずはそれらを取得するところから 始めよう。ここでは各シリーズの概要を改めて解説していこう。

まずはそれぞれの参加資格

ルーツは雑誌社主催のドリコン 今や「競技ドリフト」が主体に

ドリフト大会の最高峰とも言えるD1グランプリシリ ーズが創設されたのが2001 年。世界から注目されて北

米に進出し、その後ロシアや中国でも開催されている。

そんなD1グランプリも、ルーツは1989年に始まっ た「いかす走り屋チーム天国」という「ビデオオプショ ン」が企画した地区別ドリフトチーム対抗戦。

この全国大会こそがD1グランプリの原点であり、出 場者の何名かは現在もD1グランプリに出場している。

その後、下位リーグとしてD1ストリートリーガル (現在はD1ライツ)、D1レディースリーグ(現在はD1 ライツと統合)が生まれ、D1グランプリへの登竜門とし て底辺人口を拡大。そして、新団体「ドリフトマッス ル」が立ち上がりJAF公認競技として開催された。

時を同じくしてD1グランプリも公認競技化したこと で、ドリフトはモータースポーツのジャンルとして確 立。審査方法や車両規則、ドライバーの安全装備など もレース同様に整備されて現在に至っている。

ちなみに、専門誌「ドリフト天国」が夏に主催する学

生限定のドリフト大会は18年目を迎えるが、出場する 大学自動車部の部員は年々増加しているという。

もともとタイムや順位にしばられないドリフトに「ル ール」が定められたことで、ドリフト愛好家は「大会派」 と「エンジョイ派」に二極化した。

競技指向は年々高まってはいるが、自分の好きなク ルマで自由に走りたいと思う人も多い。誰もが車両規 定に合わせられるものではないし、そもそも、勝ち負 けに関係なく、ドリフト走行は楽しいものだ。しかし、 ドリフトに「競技」の要素が加わったことにより、活動 の明確な目標と、テクニックを磨く“意味”が生まれ、 ドリフトがより面白くなったことは間違いない。

D1 GRAND PRIX / D1 Lights

でぃーわんぐらんぷり でぃーわんらいつ

D1グランプリは単走審査に「DOSS」を使用

特長

.D1グランプリ出場にはD1ライツや

D1地方戦の実績が必要

.D1グランプリシリーズ上位は FIA.IDCの参戦権も

全国を転戦しないD1地方戦は

競技ドリコン入門に最適

統括団体はD1グランプリ事務局

国内最高峰のドリフト大会として認知度も高いD1

グランプリに出場するには、JAFが発行する国内 A(もしくは国内B)ライセンスが必要だが、それだけで はなくD1グランプリ独自の資格が必要となる。

これは、大きく分けて「D1-GPドライバーズ」と 「D1-Aドライバーズ」、「D1-Bドライバーズ」の3種類 があり(ほかに「D1-SUPER」もある)、それぞれ参加で きるシリーズが限定されている。

特にD1GPライセンスは、申請すればもらえるわけ

ド今さら聞けない
ドリフト競技の

ではなく、D1グランプリの下位リーグとも言えるD1ラ イツシリーズに出場して上位入賞しないと取得できな い。ということで、ここではまずD1ライツに出場する ための手順を説明しよう。

D1ライツはD1グランプリに比べてマシンの改造範 囲が狭いだけで、トップ選手のテクニックはD1グラン プリのドライバーとそう変わるものでもない。GT500 に対するGT300とでもいえばいいだろうか。

D1ライツから昇格した選手がマシンをレベルアップ して、昇格初年度でいきなり活躍することも多い。

そんなD1ライツも独自の資格を取得するには条件 がある。権利を得るための方法は二つ。「D1地方戦」と 呼ばれるローカル大会に出場してポイントを稼ぐか、 「D1選考会」に参加して合格するか。

遠い道のりにも思えるかも知れないが、これら大会

大会独自資格種別

種別 参加できるシリーズ 取得および参加条件

D1-GPドライバーズ D1グランプリ

D1-Aドライバーズ D1ライツ

D1ライツシリーズで前年に16ポイントを獲得した者 ※D1ライツに参戦できるがD1地方戦には参加不可 ※FIA IDC参加にはD1-SUPERが必要

D1地方戦で前年に16ポイントを獲得した者 D1選考会で合格した者

D1-Bドライバーズ D1地方戦 D1-B仮申請後、D1地方戦に参加した者

「D1-SUPER」は、D1-GPドライバーズとともに「D1国際ドライバーズ」として分類されている。

は練習時間も多く、大会慣れしながら競技向きのテク ニックを磨くにはうってつけ。D1グランプリの選手が 審査員を務めるので、得られるアドバイスは大きい。

この「D1-Aドライバーズ」を得るまでに、ドリフトを 始めて月に1回は走行会(練習会)に参加したとしても、 早くて2年や3年は掛かるだろう。言い方を変えれば、 それゆえ長く楽しめる趣味にもなりえる。

横井昌志選手

S15シルビアに2JZ-GTEエンジンを搭載し、ミッションはシーケンシャルドグ。 D1マシンのスタンダードともいえる組み合わせだ。推定馬力は800馬力くら い。かつてD1ストリートリーガルに出場していて、2012年にはシリーズチャン ピオンを獲得している。

D1ライツシリーズ2018年チャンピオン 石川隼也選手

2015年からD1ストリートリーガルに参戦し始め、昨年は念願のチャンピオン獲得。エンジンパ ワーはタービン交換で450馬力程。今年は車両を乗り換えてD1グランプリにステップアップし ている。数少ない20代の若手ドライバーだ。

D1GPの単走審査には 機械(DOSS)が必要

2012年から運用が始まった「DOSS (ドス=D1オリジナルスコアリング システム)」。世界中で開催されるド リフトコンテストで唯一、ドリフトの 角度や加速度を測定し、独自のプロ グラムで得点化している。追走で は、機械に加えて審判員の判定も重 要視される。

D1GPでは審査区間を 「セクター」で分ける

D1グランプリの審判員は神本寿氏を 中心に、数名が副審的な役割を果た す。審判員にも「D1審判員」資格の 取得が義務付けられている。本番前 に行われるドライバーズミーティン グでは、走行ラインや審査区間のセ クター別の得点割り合いを説明して くれる。

D1-GPドライバーズは126名 D1-Aは206名が取得

D1ライツに出場するためには、JAFの国内Aライセンスの他に「D1-Aドライバー ズ」が必要だ。現在206名が取得しており、「D1地方戦」と呼ばれるローカルイベ ントに参戦して16ポイントを獲得すると昇格になる。別の方法として、不定期に開 催される「D1選考会」で好成績を修めるという方法もある。D1地方戦に出場するた めに「D1-Bドライバーズ」が必要だが、こちらは申請のみで取得できる(競技参加 後に発行)。現在は118名が取得している。ちなみに「D1-GPドライバーズ」を取得 している選手は126名。D1ライツシリーズで前年に16ポイントを獲得すると昇格 することが可能となっている。

D1グランプリシリーズ2018年チャンピオン
54

Drift Kingdom

どりふときんぐだむ

特長

審判員は土屋圭市氏と D1GPドライバーの今村陽一氏

進入スピードを計測して、 審査に加味する

プロクラスとクラブマンクラスが 同時開催

プロクラスは準国内、 クラブマンはクローズド 主催はDKクラブ ドリフトキングダム事務局

ドリフトキングダムは、D1グランプリ系列に比べて

興業としての規模が大きくないため、これから始 める人にとっては親しみやすいだろう。

開催クラスは2種類。クラス毎に格式が異なってお り、一つはJAF公認準国内競技となっている「プロクラ ス」で、出場するにはJAFのBライセンスが必要だ。

D1グランプリ系列とは違って、下位イベントでの戦 績は不問。つまり、テクニックを問わないのだが、車 両規則の改造範囲が広く、ハイレベルなマシンが多数 を占めるため、ドリフト入門者がいきなりここに出場す るケースはないと言っていいだろう。

車速の高さとコーナリングスピードを重視するプロ クラスは、エンジンパワーやタイヤのグリップも重要 になるゆえ、出場コストもかかる。入門にふさわしい のはクローズド競技の「クラブマンクラス」だろう。

D1ライツやD1地方戦と違って、プロクラスと同じ

審査員はドリキン土屋圭市氏 ドリフトキングダムの審判員はドリフトマッスル 時代から土屋圭市氏が務め、今年からD1グラン プリで4度のシリーズチャンピオンを獲得した、

今村陽一選手が加わった。

大会独自のクラスと参加条件

クラス 取得および参加条件

ドリフトキングダム会員は130名 ドリフトキングダムのプロクラスに出場するため にはJAF国内Bライセンスとドリフトキングダム クラブ会員カードが必要。

プロクラス JAF国内Bライセンス(または国内A)取得者で、ドリフトキング ダムのクラブ会員。JAF準国内競技として開催。

クラブマンクラス JAFライセンスは不要だが、ドリフトキングダムのクラブ会員に なること。JAFクローズド競技として開催。

日程で開催され、参加車両もほとんどがナンバー付き 車両で自走組も多い。審査区間や審査方法、審査員も 同じなので、テクニックの研究にはもってこいだ。

ちなみに参戦にあたっては「ドリフトキングダムクラ ブ」の会員登録が必要で、申請資格は18歳以上で普通 免許所持者であれば誰でも可能。現在の会員は約130 名で、40名ほどがプロクラスに出場している。

クラブマンクラス2018年チャンピオン 金田ワグネル宏美選手

クラブマンクラスは入門クラスとはいえ、表彰台を占めるドライバーの車両は、プロ クラスとあまり変わらない仕上がり。ちなみにクラブマンクラスは、フロントウイン ドーのバナーが提供されない。

プロクラス2018年チャンピオン 平岡英郎選手

先行のRX-7が平岡選手。かつてはD1グランプリにも出場していたエキスパート だ。ここ数年はショップの契約ドライバーとしてドリフトキングダムに参戦中。対 戦相手は他のシリーズでも活躍している箕輪慎治選手。

特集デジタルモータースポーツ

e Sports が “スポーツ”たる所以

デジタルモータースポーツとリアルの融合…… 「スーパーフォーミュラ・ヴァーチャルシリーズ」開幕!

SF19デビューに沸く2019年のJAFスーパーフォーミュラ選手権。

6月9日、eスポーツの世界でも新たなトライアルがスタートした。

その名は「スーパーフォーミュラ・ヴァーチャルシリーズ」。

ここでは、デジタルの世界を舞台とした話題のシリーズを徹底解説!

フォト/堤 晋一、JAFスポーツ編集部 レポート/深澤誠人、JAFスポーツ編集部

リアルとデジタル……モータースポーツの明日は!?

6月9日、イオンモール座間で行われた「スーパーフォーミュラ・ヴァーチャルシリー ズ」第1回神奈川大会。65名の参加者が「鈴鹿グランド大会」の出場権を争った。

神奈川県座間市のイオンモール座 間にて「スーパーフォーミュラ・ ヴァーチャルシリーズ」の第1回 神奈川大会が開催された。

このシリーズは、プレイステーション4 用ソフトウェアである「グランツーリスモ SPORT」をプラットフォームとしたeスポ ーツで、今年3月のオンラインアップデー トで収録されたばかりのスーパーフォーミ ュラ「SF19」による、オフラインのワンメイ クレースを一般公開するイベントだ。

いわゆる「eスポーツ」のイベントは、モ ータースポーツだけでなく様々なスポーツ で、オンライン、オフライン問わず開催さ れている。グランツーリスモSPORTにつ

「eスポーツ(esports)」とは、「エレクトロニック・スポーツ」 の略で、広義には、電子機器を用いて行う娯楽、競技、スポー ツ全般を指す言葉であり、コンピューターゲーム、ビデオゲー ムを使った対戦をスポーツ競技として捉える際の名称。 (一般社団法人日本eスポーツ連合による定義)

いても、国内外、公式、非公式を問わず、 数多くのイベントが行われているが、本大 会は「JAF認定」というキーワードが冠され ているところが特徴となっている。

今年の3月には、FIAに「デジタルモータ ースポーツ・ワーキンググループ」が発足し ている。FIAではこれらeスポーツなどを 「デジタルモータースポーツ」と総称してお り、これはタイヤと路面の接触から生まれ るリアルなモータースポーツも、デジタル の世界を無視できない状況になってきたこ との現れと言ってもいいだろう。

デジタルの世界で展開する「eスポーツ」、 そして「デジタルモータースポーツ」とは何 か。この「e」の世界について、リアルモー

タースポーツに関わるユーザーの目線に立 って考察していこう。

「リアル」と「デジタル」の融合

スーパーフォーミュラの運営団体である 日本レースプロモーション(JRP)とグラン ツーリスモのコラボレーションにより、実 車の実戦デビューより先に、グランツーリ スモSPORTに「SF19」が収録された。 欧州におけるスーパーフォーミュラの認 知はすでに上がっているが、デジタルの世 界に参入することで、グローバルにスーパ ーフォーミュラを知らしめられるのだ。 JRPの山本政己氏によれば「この大きな 一歩をバーチャルの世界だけに留めず、リ

えん
56

操るマシンは3月2日にお披露目された、グランツーリスモSPORTに 収録されたばかりの「SF19」。独自のセッティングやBoPはオフとさ れ、オーバーテイクシステムについては20秒間使用可能となった。

リアするまでのタイムアタックといった形 式の競技会や大会は古くから存在したため、 決してその限りではないと言えるだろう。

1970年代末期のアーケードゲーム機に は「ハイスコア」という機能があり、そのゲ ーム機の中には高得点を記録した者のイニ シャル3文字を刻むことができた。

また、それらを提供するゲーム場でもハ イスコア上位者を掲示する風習も見られ、 これらの行為はすでに「eスポーツ」であっ たと言えるのかもしれない。

1990年代になると対戦格闘ゲームが爆 発的な人気を得て、いつしかゲーム雑誌、 ゲーム筐体メーカーといった企業が大会を 開催するようになり、この人気と盛り上が りは海外へも波及。これらの動きが、今日 の「eスポーツ」が定着し始めるキッカケを 作った、と考えて良いだろう。

アルなレースシーンへ足を運んで欲しい」と いう願いがあるという。つまり、デジタル からリアルへのリンクである。

このシリーズの舞台となったのはイオン モールだが、こちらも各店舗への年間数億 台もの来店車両台数を誇っており、「訪れる

お客様に、クルマをもっと知っていただき、 安全に楽しんでいただきたい」という想いを 表現する一つの手段として「モータースポー ツ」があると捉え、このシリーズの会場とし て名乗りを挙げたという。

スーパーフォーミュラとJRP、そしてイ オンモール。そこにJAFという三者が「モー タースポーツの普及」という共通の命題を得 てeスポーツイベントを開催した事実は、 かつてない試みであるし、今後のデジタル モータースポーツイベントの礎となる兆し を感じる大会だった。

よく聞く「eスポーツ」とは?

日本最大のeスポーツ団体である日本e

スポーツ連合の定義によれば、何らかの PC、ゲーム機を使った勝負は、すべからく eスポーツと捉えられるものと考えられる。

一般的には、いわゆる対戦格闘ゲームが イメージされるかもしれない。しかしゲー ムの歴史を遡ると、対戦機能や通信機能の ないゲーム機やゲーム筐体であっても、ク

その後はゲームタイトルのリリースに従 って「スポーツ」のジャンルが増加。現在は、 格闘だけでなく各種球技といったフィジカ ルスポーツ、レースやラリーといったモー タースポーツ、戦略ゲームといったマイン ドスポーツがeスポーツとして認知され、 各種競技会が開催されるに至っている。

FIA「デジタルモータースポーツ ・ワーキンググループ」が発足! グランツーリスモSPORTを使ったeスポーツ大会は、 すでに「FIAグランツーリスモ チャンピオンシップ」と して各国で開催されており、これまで多くのチャンピオ ンがリアルなモータースポーツの世界でシートを獲得 してきたのはご存知の通り。FIAでは3月に「デジタル モータースポーツ・ワーキンググループ」を発足させ、 機運の高まりをさらに加速させる動きを始めている。

リアルとデジタル……モータースポーツの明日は!?
57

6月9日の10時には開店と同時に当日受付の 希望者が列をなした。事前申し込みの50名 に加え、当日申込を含めた60名超の参加者 が、まずは予選タイムアタックへ挑むことに。

会場には旧マシンSF14が展示され、ちびっ 子限定の乗車体験コーナーを設置。富士ス ピードウェイも出張ブースを出展して、買い 物客に「リアル」への誘導をアピールした。

大会の実況アナウンサーは、スーパーフォー ミュラのオフィシャルステージMCでもおな じみの笠原美香氏。ピットレポーターを務め る千代勝正氏がゲスト解説者として登場。

「富士スピードウェイ」を使った予選から上位 12名が選出され、2組に分かれた6名が「東 京エクスプレスウェイ・南ルート内回り」の 準決勝レースを戦い6名に絞られた。

日本におけるeスポーツの社会的認知 と評価は、まだまだ進んでいないと言える だろう。その要因は「テレビゲームはスポー ツと言えないのではないか」といった先入観 にあるのではなかろうか。

「スポーツ」という言葉を紐解くと、日本で はイコール「運動」と捉えるのが常識的だが、 実はこの解釈は、かなり狭義における解釈 になっているとも言えるのだ。

スポーツという単語をラテン語にまで遡 ると「余暇を過ごすアクティビティ」を示す とされ、各種の「運動」はもちろんだが、弁 論やチェスといった「ゲーム」、果ては「読 書」というものまで含まれている。

それが英単語になる時点で、意味合いの 中心は「動的なもの」にシフトしていったが、 そこには「余暇を楽しむアクティビティ」と いう要素は未だに含まれている。

大型モニターとバケットシートが付いたゲー ム筐体。スラストマスターT-GTを装備する。

オルガン式ペダルも装備。スタビリティマネジメ ントやトラコンなどは使用禁止とされた。

スーパーフォーミュラ名物のオーバーテイク システムも装備済み。使用は20秒とされた。

アパレルにもその痕跡は残 されていて、運動着ではない のに「スポーツジャケット」と 呼ばれる服がそれだと言える。

つまり、日本語の「スポーツ」ではe スポーツを理解し得ないということだ。

もう一つの要素として、欧州のチェスに 代表されるボードゲームやカードゲーム。

これらは広義の戦略ゲームとして中世から 普及し、産業革命以前に は、賞金を伴う参加型、 観戦型のゲームとしてあ る程度の形になっていた。

衆人環視の下で競技や大 会を行うフォーマットは、 すでに数百年の歴史を持 っていると言えるだろう。

ここでeスポーツに話 を戻すと、語源としての 「余暇を楽しむアクティビ ティ」という要素、そして マインドスポーツの定義 をも満たしている。名誉

や栄誉、または現金などの副賞を含むプラ イズを賭けて戦う大会も、古来から親しま れたマインドスポーツのフォーマットを満 たしている。

eスポーツとは「スポーツ」という単語か らアスレチックスの要素「だけ」を排した、 これまでにない、全く新しいタイプのスポ ーツと言えなくはないだろうか。

株式会社日本レースプロモーション 山本政己氏

「SF19が世界的に有名なゲームに収録 されたことで、日本のカテゴリーを世 界の方々に見て、プレイしていただく 窓が開きました。そして、国内の方々に は、ここからリアルなサーキットレース に興味をもっていただきたい。それが 本大会の狙いとするところです」

イオンモール株式会社 千葉清一氏 「イオンモールではクルマを安全に楽 しく、気楽に乗っていただくような環境 作りの一環として、これまで多くのク ルマ関係イベントを開催して参りまし た。スーパーフォーミュラを始めとし たモータースポーツも、これらの一つ のキッカケになると考えております」

「所詮はテレビ ゲーム」という先入観
58
イオンモール座間の第1回神奈川大会! 多くのギャラリーを集めて、予選・準決勝・決勝を戦った

イオンモール座間の第1回神奈川大会! 多くのギャラリーを集めて、予選・準決勝・決勝を戦った

準決勝の敗者とゲスト解説の千代選手、そし てイオンモールの千葉清一氏ら6名によるデ モレースも開催。決勝は6名によるレース形 式で、舞台は再び「富士スピードウェイ」。

6周の決勝レースは「カルソニック」こと高橋 拓也選手がポール・トゥ・ウィン。予選で は、リアルなSF19の非公式ベストに近いトッ プタイムをマークする完全勝利となった。

第1回大会の決勝は6周のレース

イオンモール座間で初開催された「スーパ

ーフォーミュラ・ヴァーチャルシリーズ」

は、事前及び当日申し込みを合わせて60 名を超すエントラントと観客を集めた。

大会は「富士スピードウェイ」を舞台とし

た4分間のタイムトライアルで予選を行い、 その上位12名を2組に分けて、首都高速道 路を模した「東京エクスプレスウェイ・南ル ート内回り」をレース形式で4周する準決勝 で各上位3名を選出した。

決勝は再び「富士スピードウェイ」を使っ たレースで、予選上位ドライバーがずらり と並んだ、6名による決勝が争われた。

決勝は、ポールポジションスタートの「カ ルソニック」こと高橋拓也選手を、「くろみ」 こと菅原達也選手がかわしたが、すぐに抜 き返した高橋選手が厳しいブロックで菅原 選手のラインを奪う展開。

この間に、後方で発生していた混乱を尻 目に、先頭集団に追いついたのが「りおね る」こと尾形莉欧選手。ファイナルラップの 1コーナーから2コーナーにかけて、高橋選 手と菅原選手が交錯してしまう。

その間に3番手の尾形選手が2番手に浮 上して、3台がもつれながら最終コーナーに 到達して勝負はここまで。

高橋選手が初代ウイナーの座を獲得し、2 位尾形選手、3位菅原選手となった。

デジタルの世界は、そのシステムに組み 込まれている「ペナルティ」の判定を知り尽 くし、ペナルティを回避する「ギリギリの 線」を熟知することが、上位進出の重要な要 件であることは理解できる。

しかし「ペナルティが出なければ何をして も良い」という発想は、リアルモータースポ ーツで誓約する「自己の責任において誠実か つ適切に競技を遂行する」という内容からも

大きく逸脱していってしまう。 eスポーツと モータースポーツ

eスポーツのメリットとして挙げられる のは「ぶつけてもクルマは壊れないし、怪我 もしない」といったフレーズだ。

コストが掛から ず、人間も絶対的 に安全という部分 は大きなメリット なのだが、その反 面で、実際のクル マを使ったレース なら怖くてできな いような「暴挙」へ の抵抗感も低くな るという弊害も生 じてしまう。

決勝レースの上位2名には10月27日のスーパー フォーミュラ最終戦JAF鈴鹿グランプリで開催される 「鈴鹿グランド大会」への出場権が贈られた。進出した のは、プロ活動にスイッチして初の大会を優勝で制し た高橋拓也選手、そして2位の尾形莉欧選手。

惜しくも3位に終わった菅原達也選手。FIAグラン ツーリスモ チャンピオンシップへの参戦経験もある 選手で、次なる目標は、6月16日に富士スピードウェ イで行われる「ポルシェ Eスポーツ レーシング ジャ パン」決勝ライブイベントへと切り替わっていた。

は、普段とは異なる環境に自分を忘れてし まうこともある。そのため、実車によるレ ースと同等か、それ以上の、より高度なマ ナーが求められることは間違いない。

そこで注目されるのが、JAFやFIAのよう なモータースポーツを統轄する機関の存在 だ。長きに渡ってリアルな世界で運用し、

昨年10月、東京・台場で行われた「FIAグランツーリスモ チャンピオンシップ2018 ネイ ションズカップ アジア・オセアニア選手権決勝」では、主催者からの依頼によりJAFが審 査員の派遣に協力。JAFレース部会の飯田章氏が2日間行われたレースの審判を担当した。

モラルハザード はレースゲームが対戦型へと進化した黎明 期から指摘され続けてきた。厳しすぎるブ ロックや、相手を弾き飛ばすといったよう な、リアルなレースならばペナルティ対象 となる危険行為がそれだ。

グランツーリスモSPORTでは、こうし た行為の自動判定や自動裁定(ペナルティ) がシステムに組み込まれていて、進化を続 けている。そしてプレイヤーのマナー面の 向上も見られてはいる。

しかし衆人環視の下で行われる大会で

洗練させてきたスポーツレギュレーション、 そして、紛争が起きるたびに重ねてきた判 断、その裁定の歴史である。

eスポーツのプラットフォームに組み込 まれたペナルティシステムに加えて、JAFや FIAが長年築いてきた知見を応用したヒュ ーマンジャッジが加われば、デジタルモー タースポーツの「スポーツ性」が大きく向上 し、あらゆる世代に受け入れられる、強力 なモータースポーツコンテンツとなり得る のではないだろうか。

「鈴鹿グランド大会」には 高橋選手と尾形選手が進出
※「PlayStation」、「プレイステーション」および「PS4」は株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメントの登録商標です。 59
60

JAF新種競技も 5年目に突入!

育 て 方 育 て 方

グラスルーツとなり得る、新たな モータースポーツの形を模索す る動きは、現在、世界的なトレ ンドになっていると言えるだろう。

2005年に台湾で産声を上げたインター ナショナル・ジムカーナが、昨年はアジア 各国でシリーズ展開されたり、2017年には ドリフト競技がFIA公認となり、東京・台

場でFIA Intercontinental Drifting Cupが 開催され、多くのギャラリーを集めている。

これらがグラスルーツなのかと言われる と違和感を覚えるかもしれないが、ドリフ トは、巨額の資金と高い技術が必要な「サー キット」というインフラが必要ない点で、開 催のハードルを下げることができる。

また、インターナショナル・ジムカーナ については、日本の“ジムカーナ”とは異な り、都市部の広場を会場にしたスピードレ ンジが低いコース設定で、主催者が用意し

たノーマル車両による、デュアルスラロー ムという形式で行われていた。

ともに、興行として成立させるには、参 加者に高いスキルが求められるが、特別な 場所に行かなくても気軽に観戦できる、ま た、車両がなくても身体一つで参加できる といった点においては、新しいグラスルー ツ・モータースポーツと言えるだろう。

オートテストも、もはや5年目

国内モータースポーツに目を移すと、近 年におけるグラスルーツカテゴリーの大き なトピックは、やはり、新種競技「オートテ スト」の導入だと言えるだろう。

2015年からスタートしたオートテスト は、英国発祥のスタイルを日本流にアレン ジしたもの。200m×200m程度の区画に配 した、最高速度50km/h以下の(最低1回の バックギヤ使用が義務付け)コースで、走行

タイムをポイントに読み替えた、ペナルテ ィの少なさを争う競技形態となっている。

参加車両の公認は問わず、保安基準に適 合していればどんな仕様でも構わない。競 技ライセンスやヘルメット、レーシンググ ローブもいらないため、モータースポーツ の“特別感”が徹底して薄められている。

また、参加料金についても「高額であるこ とで参加を見送ることがないよう配慮して

男性にとっては当たり前でも、女性にとっては勇気のい る“挑戦”とも言えるイベント参戦。オートテストでは 女性ドライバーの参加も当たり前となってきた。

認知度は上がった !! !? 100 J A F スポーツ編集部 J A F スポーツ編集部 イラスト/高梨真樹
61

ファーストカーのミニバンでも、セカンドカーの軽自動 車でも、それぞれに大きな楽しみを見付けられるのが オートテストの特徴とも言えるだろう。

下さい」とガイドラインに規定されており、

クルマやドライバーに特別な装備を必要と せず、低価格かつレジャー感覚で運転操作 を学びながら、モータースポーツの雰囲気 を体験できるようにしているのだ。

オートテストは、すでに全国で多くの大

会が開催されて一定の成果を残している。

リピーターも数多く存在する一方で、未 だに多くの会場で「初めて参加した」という 声が聞かれていることからも、新しい「お手 軽走行イベント」として認知され、定着して きている証だと言えるだろう。

ただし、導入5年目を迎えた現在、考え るべきオートテストの課題も見えてきた。

「オートテストをやりたい」人々

愛知・キョウセイドライバーランドで行 われたオートテスト。この大会は導入初年 度から定期的に開催されており、今大会の 競技長を務めた、JAF登録クラブ・ZEST代 表の増田好洋氏に、まずは状況を伺った。

今大会で出走した参加者は42名で、4ク

ラス構成。オートテストの出場回数により クラス分けがなされていたが、約1/3がオ ートテスト初体験という初心者だった。

「今大会では、1号車をはじめ前半ゼッケン は、オートテスト専門で走っている方々で す。彼らとは、もう顔見知りになるぐらい 参加してくれているのですが、『もっと多 く、定期的にオートテストを開催してくだ さい』といつも要望されてます。

また、公認競技の経験はあるけど、すで に一線を退いている方々からは、『昔のよう に熱を入れてモータースポーツをやるつも りはない。でも、ジムカーナなどをしよう とすれば、やはり勝てるクルマを用意して 勝つための準備をしたくなる。そうなれば、 タイヤ代や改造費が必要になる。対するオ

毎年恒例のキョウセイ大会!愛知の公認コースに44名がエントリー

「始めようモータースポーツ!オートテストinキョウセイ」

開催日:2019年6月2日 開催地:キョウセイドライバーランド(愛知県岡崎市) 主催:ZEST

キョウセイ大会では定番となる レイアウト。スタート後に3本 パイロンと2本パイロンのフル ターンをこなして直進でガレー ジに入り、90度配置の2つ目の ガレージに後退で進入。大きな カーブを描いて4本パイロンを スラロームして、ゴールで完全 停止という構成だ。

コースを下見する「慣熟歩行」では講師が走り方をレクチャー。大会の模様はプロの アナウンサーが実況し、参加者は他者の走りを熱心に研究していた。

Aクラス表彰式。優勝はスズキスイフトの浜屋 雅一選手、2位はホンダビートの日紫喜俊夫選 手、3位はスズキアルトワークスの大塚拓哉選 手(写真左から)。

11名が参加したBクラスの優勝は、写真のス ズキスイフトを駆る佐々木啓二選手。2位はト ヨタ86の児玉正弘選手。3位はホンダシビッ クの今岡健選手。

11名が参加したCクラスの優勝は、写真のトヨ タMR2を駆る夏賀悠二選手。2位はホンダ S2000の見村壮彦選手。3位はスズキアルト ワークスの樋口大輔選手。

Dクラス表彰式。優勝はトヨタ86の小川卓選 手。2位はスバルBRZの柚木崎遥選手。3位は トヨタヴィッツの水谷伸彦選手(写真左から)。

ドライバーランド
6月2日・ 愛知 キョウセイ
62

ートテストは気軽で自由に、楽しみでやれ るからいい。コース設定にバックがあるの で、このクルマじゃないと勝てない、とい ったこともない。この部分が一番いい』とい った話も伺っています」。

オートテストは、単なるクルマ遊びとし ても開催できるパッケージを持っているが、 これがモータースポーツとして開催のルー ルが整備されていることを考えると、やは り、既存のモータースポーツ参戦への足掛 かりにしたい、という狙いはあるだろう。

しかし、オートテストのスペシャリスト は各地に育ちつつあるものの、他のモータ ースポーツにステップアップしているとい う実感は、現場からは感じられない。

増田氏は中部地区独特の状況と前置きし

アルテッツァを操り親子で参戦!

母親の西村八重子さんと

ダブルエントリーした 西村信彦さん。「ミニサーキッ

トは少し走ってますが、オート テストは2年前に友人に誘わ れたのがきっかけです」と話 す。今回、親子での出場と なったのは「こうした走れるクルマ(アル テッツァRS200)があるので、サーキットは 尻込みするでしょうから、オートテストなら と思って誘った」とのこと。八重子さんは 「今日はドキドキしながら会場に来ました。 次があれば頑張りたいですね」と。

て、ステップアップに関する懸念を語る。 「現在、中部地区ではジムカーナなどの初 心者イベントは、クローズド競技として開 催しているんです。競技ライセンスが必要 な大会は中級以上になるので、ビギナーな ら、ライセンス不要でも既存のモータース ポーツ活動へのシフトも可能なんです」。

実際問題として、オートテストを完走し

いつかは親子で オートテスト参戦

大塚拓哉さん/大塚天太くん

久野敬士さん/ 久野優季さん

10歳になる息子の天太くんを助手席に乗

てライセンス申請書に「完走印」をもらい、B ライセンスを取得する手続き自体は簡単だ。 しかし、次のライセンス更新に繋がるモチ ベーションの高さを維持するには、どうす ればいいのだろうか。

モータースポーツの入口は用意された。 そして多くの人々に受け入れられ、楽しん でいる。そして、競技ライセンスを取得す れば、自動的に次のカテゴリーにステップ アップしてくれるのだろうか……?

現在オートテストにハマっている人々は、 実は「オートテストをやりたい」のだ。

茨城では、いよいよ100台規模に

オートテストの隆盛を示す象徴的なイベ ントが茨城中央サーキットで開催された。 茨城県下のGRガレージ3店舗がサポート する「茨城GRガレージ オートテスト in ICC」の今シーズン開幕戦がそれだ。

この大会は、昨年から年間3回行われ、 関東地区では数少ない、同じ会場で定期的 に開催されるオートテストとして人気を博 している。今年の開幕戦は60台の上限に、 何と100台の申し込みがあった。

主催するJAF登録クラブのICC.S代表に して、大会組織委員会の神生恭利氏は、今 回の参加台数について以下のように語った。 「地方選手権のような経験者しか出場しな いイベントなら、ルールに則って60台で制 限できますが、今回は多くの参加者が初心 者ということもありましたので、多くの皆 さんに楽しんでいただけるよう、申し込ん だ全員を受け付けることにしました」。

奥様である久

野優季さん

のアルトラパンで参戦したのは久野敬士さん ご夫妻。敬士さんはJAFメイト誌がきっかけ で、キョウセイのオートテストだけに参戦。今 回で4回目とのことだ。「今回は嫁さんが出て みたいというのでこれで来ました。パイロン スラロームではクルマがこんな動きをするの かぁ」と感動。奥様も「クルマは通勤のときに しか使いませんが、オートテストはアクセル 全開にフルブレーキングと、とても面白かった です」と笑顔だ。

せて参戦している大塚拓哉さんはオー トテスト30戦以上の経験を持つベテラン。若 い頃はジムカーナに打ち込んできたという。 「この歳になってオートテストに出会って、これ なら参加できると感じました。金額的にも手頃 だし、ヘルメットなどの装備も必要ない手軽さ もいい点だと思いま

す。子供を同乗させ ることができるので、 親子で一緒にモー

タースポーツを体験 できるのも大きな魅 力ですね」。

ということで、今回はいつもの練習走行 を中止して、本番2本のみの走行となって しまったが、今回のパドックにはミニバン から軽オープンカーなど、バラエティ豊か な車種が並んだ。そんなパドックでは、主 催者による参加者への配慮があった。 「パドックで困ったことがないか、オフィ シャルから声をかけてくれる心配りが嬉し い」とか「ゼッケンを貼るテープを貸し出し ている旨を丁寧に教えてくれた」など、参加

ZEST  増田好洋氏 ICC.S  赤羽英喜氏
GRガレージ水戸けやき台 田中宏紀氏
おっとっと……!!
63
西村信彦さん/西村八重子さん アルトラパンで

者からの反応は良好なものだった。

ICC.Sの事務局を担当する赤羽英喜氏に よれば、参加者との対話を重ねて、公認モ ータースポーツでは「常識」だった一つ一つ が、初心者にとっては高いハードルになっ ていることも気付いたという。また、若い 世代の参加も多いため、インターネットで の手続きが当たり前の世代と、紙ベースが 当たり前の主催者とのギャップも、小さく していく必要性を感じたそうだ。

この大会は自動車ディーラーの支援があ ることも大きな特徴で、このような企業の サポートは、実はオートテストの継続開催 にとって、最も大切な要素とも言える。

”茨城GRガレージ”を構成するGRガレ ージ水戸けやき台の田中宏紀氏はこう語る。 「GRガレージのポリシーは、クルマ好き のファンを増やすことですので、他社のク ルマにお乗りの方でも歓迎なんです。です

から、フラリと来店される方も多いですよ。

一般の自動車ディーラーですとクルマを 購入されるお客様が来店されるわけですが、 GRガレージには元々クルマ好きな方が来

店されますので、会話の中でオートテスト の話をすると、じゃあ、やってみようかな、 といった方向に、自然となりますよね。

ノーマル車で誰でも参加できるので、身 構える必要がまったくありませんからね」。

オートテストが持つフレンドリーさが、 GRガレージの狙いと親和し、高い相乗効 果をもたらしている好例と言えそうだ。

オートテストの「先の課題」

現状のオートテスト大会を見回すと、カ テゴリーの認知や開催実績の拡大といった

おさらい!

「オートテスト 開催要項(抜粋)」

コペン仲間で走りを楽しむ 安康太朗さん/石塚健太さん

コペンのオーナーズクラブ「コペ ニスタ」に所属している安康太

朗さんと石塚健太さん。今回はSNS で告知をして4台がエントリー。プ チミーティングといったところだ。石 塚さんはモータースポーツ経験はな く「スタート地点ではドキドキでし た」と初のオートテストを楽しんだ 様子。ミニサーキットでの走行経験 がある安さんは「クルマの差があま り影響ないですね。自分で走りを組 み立てられるのは面白かったです」 と発見があったよう。

かつては北海道でミニサーキットでの走行会

古賀亜希子さん

山口大輝さんは2001年1月1日生まれの

18歳! 免許を取得してまだ3か月し か経っていないが、以前からモータースポー ツには興味があったそうだ。「幼稚園の頃か らゲームをやってましたからジムカーナとか は知っていて、オートテストは動画サイトで チェックしてました」とは、さすが現代っ子。 お父さんの哲也さんはモータースポーツ経 験はないそう だが、「やりた いことをする のはいい事だ と思いますよ」 と密かに応援 していた。

にも参加したり、レンタル車両でのオートテ ストの経験があり、「めちゃくちゃ楽しかったの で、今度は自分のクルマで出たい! と思っていま した」と話してくれた古賀亜希子さん。クルマを 購入する際も、旦那さんはミニバン、本人はス ポーティなクルマが希望だった そうだが、その妥協点がこのア クセラスポーツ。納車から2か 月でまだ慣れないクルマだっ たが、レディースクラスでの優 勝を獲得している。

アクセラで久々の“走り”に腕が鳴る 祖父のMTチェイサーで挑んだ18歳!

山口哲也さん/山口大輝さん

●定義:一定区画内に前進、後進、180度ターン等を含む任意に設定されたコースで走行タイムおよび運転の正確 さを競うスピード競技。

●服装および車両装備:自由

●順位:走行タイムおよびペナルティポイントが順位要素。ポイント数が少ない参加者がウイナー。

●コース設定:①レイアウトは大型の乗用車にも十分な余裕をもたせ、ハンドブレーキ(フットブレーキ含む)等を 使用せずに走行できるものとする。②1回以上4回以内の後退ギアを使用する設定とする。③スタート後、最大 でも50m毎にマーカーを設置して方向転換等を行う。④フィニッシュラインの手前25m以内にマーカーを設置 して方向転換等を行う。⑤フィニッシュライン後方には一旦停止ラインを設定する。

ペナルティポイント表

事象

5 (b)スタート指示の不遵守(走行を試みなかった、あるいは即座に走行しなかった)

(a)スタートあるいは再スタートの遅延(1分ごと)

30 (c)下記(d)または(e)に該当しないミスコース、未完走、または反則スタート

30 (d)コースを区画するフェンス等への接触、マーカーの移動・転倒、

または走行境界線逸脱(1つの行為ごと)

(e)設定ラインの不通過あるいは不停止、あるいは特定された位置での不停止(1つの行為ごと) 5 (f) スタートからフィニッシュに要した秒数(秒未満)

点に主眼が置かれているように感じる。 しかし、そろそろ「先の課題」にも一定の 回答を用意する必要が出てきつつある。 オートテストは各主催者の裁量に委ねら れているケースが多く、同じエリアで行わ れる大会は似たような運営方法になるが、 情報共有がなされていない別のエリアでは、 ペナルティの適用基準やフラッグの運用、 走行本数についても異なるケースは珍しく ない。地域をまたいでオートテストを転戦 する選手も増えている現状を踏まえると、 運用方法もしっかり統一するべきだろう。 一方で、ガイドラインで示された参加料

ペナルティ ポイント
1
10
64

A/Tビギナー表彰式。優勝は内山智皓選 手、2位は佐久間航平選手、3位は渡邉恵 一選手、4位は中井川郷選手、5位は木元 徹選手、6位は北条福人選手。

ジムカーナコースとしても有 名な茨城中央サーキットを フルに使ったレイアウト。ス タート後に3本パイロンを大 きく回り、S字を超えて直進 でガレージに入る。二つ目に は90度後退で入り、そこか らやや下りの4本パイロンス ラロームをクリアしてゴール する設定。

Lady's表彰式。優勝は古賀亜希子選手、2 位は目黒真梨選手、3位は中村香代子選 手、4位は宮本真理選手、5位は石川文江 選手、6位は熊澤由美子選手。

M/Tビギナー表彰式。優勝は久保木茂樹 選手、2位は鐙塚巧選手、3位は新井達彦 選手、4位は石川雅之選手、5位は勝又鴻 選手、6位は小瀬誠選手。

M/Tレギュラー優勝はスイフトの浜屋雅一 選手。2位は澤木周選手、3位は村上清賢 選手、4位は尾林明子選手、5位は赤城康 友選手、6位は篠原賢爾選手。

A/Tレギュラー優勝はノートの関根雅美選 手。2位は小野敦史選手、3位は五十嵐靖 智選手、4位は尾原康貴選手、5位は秋元 拓也選手、6位は木村宏幸選手。

朝の慣熟歩行の際には競技で使用されるフラッグの説明も。2本のトライは実 況アナウンサーが解説し、手に汗握る逆転劇をドラマチックに伝えていた。

「茨城GRガレージ オートテスト in ICC」

開催日:2019年6月16日 開催地:茨城中央サーキット(茨城県石岡市) 主催:ICC.S か、はたまたその両立を図るのか。

金の基準は、主催者にとっては継続的な開 催に対する高いハードルとなっている。会

場費や人件費などの開催コストは、既存の モータースポーツのように参加料金で賄う ことは難しい。特に利便性のいい立地の開 催を考えると、到底賄えるものではない。

オートテストを継続開催している大会を 見ると、コースオーナーやそれに近い組織 が主催していたり、スポンサーを獲得した り、他のイベントとの併催によって、辛う

じて主催を続けているケースが多い。しか し、「一度開催してみて、オートテストが有 益であることは理解できたし、必要性の高

さも実感できた。でも、開催コストの問題 で次が開催できない」という声も多いのだ。

そして最も大きな懸念は、オートテスト がモータースポーツのゲートウェイとして 未だに機能していないことだろう。

オートテストはあくまで既存のモーター スポーツへの通過点なのか、それとも独立 したカテゴリーとして育てるべきなのか。

オートテスト発祥地の英国では、スポー ツ性の高い走りができる専用マシンのクラ スも存在しているだけに、英国に習ってこ のような方向へシフトするのも一つの方法 だ。現状維持で常に初心者を対象とするの

そして、既存のジムカーナをも巻き込み、 アジアのマーケットを見据えて、ノーマル 車を使ったインターナショナル・ジムカー ナを上位とする、カテゴリーの共存を図る のも方向性としてはアリかもしれない。

いずれにせよ、100名という参加者を集め る大会が開催され始めたオートテストは、 まだまだ大きなムーブメントとして盛り上 がろうとしている。今こそ、オートテスト の“次の一手”を確立させるべきだろう。

関東唯一のシリーズ開催!春の陣には何と100名エントリー!!
65
6月16日・ 茨城県 茨城中央 サーキット

ニッポンのモータースポーツは JAF 動画サイトで チェックしよう!

全日本選手権のイマを伝えるモータースポーツ・ニュース情報番組

JAF モータースポーツニュースダイジェスト」好評配信中!

ーパーフォーミュラからレーシングカート まで、国内で開催されるJAF全日本選手

権のイマを伝える、インターネット配信を 利用した国内モータースポーツニュース情報番組を 配信中です。番組のナビゲーターは、日本 を代表するレースアナウンサー、ピ エール北川さん。毎月15日頃 &30日頃、月2回の配信です。

JAFモータースポーツホー ムページの特設バナーからご覧 になれますが、YouTube

のJAF公式アカウン

ト「jafchannel」か らも無料で視聴が 可能です。

令和元年、モータースポーツをもっと楽しもう! 締切りはTwitterでフォロー&ツイートキャンペーン実施中! 2019 年 8 月4 日です!

令和元年、あなたはモータースポーツをどんなふうに楽しみたい? 他の人にもおすすめしたい、自分流の楽しみ方や見どころをツイートしよう!

ハッシュタグは「#私流モータースポーツの楽しみ方」

キャンペーン期間中、Twitter「JAFモータース ポーツ」をフォローし、「#私流モータースポ ーツの楽しみ方」をつけてツイートしてくださ った方の中から抽選で10名様に、オリジナル QUOカード3,000円分をプレゼントします。

応募期間:2019年8月4日(日)まで ※応募にはTwitterのアカウントが必要です。 特設ページの応募要項を必ずご覧ください。

■Twitter/JAFモータースポーツ https://twitter.com/jaf_motorsports ■キャンペーン特設ページはこちらから http://jaf-sports.jp/cp/ms_twitter/

NEWS! ス
JAF モータースポーツホームページ http://jaf-sports.jp
オリジナルQUOカード ※イメージ
67
J A F M O T O R S P O R T 第S 53巻 第 3 号 2019 年 8 月 1 日発行(年 4 2 、 5 、 8 、 11 1 日発行) 発行人 西岡敏明 03 5470 ) 1711 (代) 一般社団法人 日本自動車連盟 東京都港区芝大門 1 1 番 30号 0570 ( 00) 2811 (総合案内サービスセンター) 発行所 東京都港区芝大門 1 9 番 9 号 ㈱ J A F メディアワークス 2019 SUMMER 254 円+税

Turn static files into dynamic content formats.

Create a flipbook
Issuu converts static files into: digital portfolios, online yearbooks, online catalogs, digital photo albums and more. Sign up and create your flipbook.