Edmund_Special_Supplement_Sample

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高レーザ損傷しきい値の 超高速コーティング設計と製造の最適化

マティアス・メンデ レーザの耐損傷性と群遅延分散の要件との適正なバランスを取る方法とは?

超高速レーザとそのさまざまな用途 のために、高品質な光学系の需要はこ こ数年で高まっている。連続波(CW) レーザや長パルスレーザに適用される光 学系とは対照的に、光学系がフェムト 秒(fs)範囲のパルスを処理する必要が ある場合、さらに分散仕様を満たす必 要がある(1)。特に100フェムト秒未満 の範囲では、要求されるスペクトル帯 域幅が広くなるため、コーティングの設 計および製造がさらに困難になる。

このようなコーティングのレーザ損 傷しきい値(LDT)を最適化するには、

通常、すべての光学仕様を満たすよう、 コーティング材料の選定と多層膜内の 電界分布の調整において妥協点を見出 す必要がある。波長920nmを中心と した低群遅延分散広帯域ミラーの例に 基づき、有望な3種類の材料によるア

プローチについて考察する。

レーザ光学系は一般的に、コーティ ング、界面、基板から構成される。レ ーザビームが光学素子に照射される と、これらの各部分に損傷が生じる可 能性がある。薄膜コーティングに注目

表1 低群遅延分散広帯域ミラーの仕様(上) とLDT試験パラメータ(下)

光学仕様

反射率 99.5%以上

波長範囲 830~1010nm

入射角 45°

群遅延分散 ±50 fs2 以下

偏光 垂直

LDT試験パラメータ

試験プロトコル 100-on-1

パルス幅 25 ± 5 fs2

繰り返し周波数 5Hz

ビーム径 350μm(1/e2 )

波長 880nm、920nm、940nm

すると、以下の3つの競合する損傷メ カニズムが観察される(2) 。

1つ目のメカニズムは熱損傷だ。こ れは通常、CWレーザで顕著であり、 層膜材料の吸収と熱伝導によって引き 起こされる。

2つ目のメカニズムは欠陥誘起損傷 だ。これは非超高速パルスレーザに最も 関係しており、粒子や汚染に起因する。  3つ目のメカニズムは電子的損傷だ。 これは超高速レーザで顕著であり、多 層膜内の電界分布および層膜材料の紫 外線(UV)吸収端に左右される。薄膜 のしきい値フルエンス「Fth 」は、パル ス幅「τp 」とコーティング材料のUV 吸収端「Eg 」に対して、次の式を適用 して導出できる。

図1 は、波長800nmで測定した複 数のパルス幅における、一般的な純材

しきい値フルエンス

料および二酸化ハフニウム・二酸化ケ イ素(HfO2 /SiO2 )混合材料のしきい値 フルエンスを示している(4)。35フェム ト秒のパルス幅では、五酸化タンタル (Ta2 O5 )のしきい値フルエンスは、 0.5J/cm2 であるのに対し、HfO2 のし きい値フルエンスは0.8J/cm2 である (SiO2 を少量含む混合物では1.0J/cm2 に達することもある)。一般的な低屈 折率材料であるSiO2 のしきい値は 1.6J/cm2 であり、これは高屈折率材料 であるTa2 O5 とHfO2 の結果の2倍以上 である。

超高速コーティング設計における レーザ損傷しきい値の最適化  これらのしきい値フルエンスの各値 は、多層膜コーティングのLDTを推定 するために使用できる。この計算は多 層膜内の電界分布に基づいており、こ の分布は独OptiLayer社製「Opti Layer」や独LZH社(Laser Zentrum Hannover)製「Spektrum」のような 市販の光学薄膜設計ソフトウエアで算 出できる。LDTを最適化するには、 1/4波長多層薄膜の屈折率プロファイ ルを変更する。そのためには、 図2 の 赤色で示すように、しきい値フルエン スが高く、かつ屈折率が低い第3の純 材料または混合材料を追加する。

この最適化アプローチを、2023年 SPIE損傷コンペティションの要件に基 づいた低群遅延分散広帯域ミラーの例 に、以下のように適用する。 表1 は、 光学素子の仕様とLDT測定パラメー タをまとめたものである(5) 。

LDTの推定に使用するしきい値フル エンスは、試験条件がわずかに異なる 1-on-1測定によるものであるため、実 験的な100-on-1の結果は低くなること が予想される。本研究では、米ビーコ 社(Veeco)製SPECTORイオンビーム

物理膜厚〔nm〕

第3の純材料 または混合材料 図2 Ta2 O5、HfO2、 SiO2 を用いた3種類 の材料コーティングの 屈折率プロファイル × GDD +/- 50fs 仕様

設計1: HfO2/SiO2

設計2: Ta2O5/SiO2

設計3: Ta2O5/HfO2/SiO2 (1 layer HfO2)

設計4: Ta2O5/HfO2/SiO2 (2 layer HfO2)

設計5: Ta2O5/HfO2/SiO2 (3 layer HfO2)

波長〔nm〕

a)

設計2

設計2

設計4

設計4

設計5

図5 設計2、4、 5のコーティングで 測定した群遅延分 散曲線

スパッタリング(IBS)装置の分散デー タを使用して、5種類の1/4波長設計 を算出した。

設計5

設計4

図6 設計2、4、 5のIBSコーティ ングによる100on-1 LDT結果 (a)、および設計 4の100-on-1損 傷確率曲線(b)

設計1および2は、基準設計として 2種類のコーティング材料で構成され る。設計3から5は、最適化アプロー チを実証するために3種類のコーティ ング材料で算出している。設計3から 5の相違点は、Ta2 O5 /SiO2 多層膜の上 部に、それぞれ1層、2層、3層の HfO2 /SiO2 層ペアを配置したことだ。 図3 に示すように、群遅延分散(GDD) 仕様は、5種類の多層膜コーティング を最適化する上で追加の制約要因とな る。HfO2 と SiO2 で構成される設計1は、 仕様を満たさないため採用しない。

残りの設計2から5については、 880nmにおける電界分布をOptiLayer ソフトウエアで計算し、 図4 に示して いる。さらにLZH社製Spektrumソフ トウエアを用いてLDTを推定し、各 設計において損傷が生じる層を図4に 示している。

b)

設計2は、0.92J/cm2 で最上部の Ta2 O5 層に損傷が生じる。設計3は、 しきい値フルエンスが低く、電界強度 がかなり高いことより、3層目の Ta2 O5 層に損傷が生じてしまうため、 好ましくない。設計4が最適であり、 1.42J/cm2 で最上部のHfO2 層に損傷が 生じる。設計5も同様に、1.42J/cm2 で HfO2 層に損傷が生じるが、これは、層 を追加してもさらなるLDTの改善が得 られないことを示している。

表2 コーティングされていない基板と比較した、設計2、4、5の表面粗さの値

設計2

表面粗さ(Å)

設計4

設計5 コーティングされていない基板

図7 2023年SPIE損傷コンペティションにおける100-on-1 LDT結果

低群遅延分散広帯域ミラー コーティングの実験結果

3種のコーティングは、日本のエドモ ンド・オプティクス(Edmund Optics) の施設にてイオンビームスパッタリング (IBS)手法で製造し、その層厚は光ブ ロードバンドモニタリングにより精密に 制御した。 図5 は、独UltraFast Inno vations社製「GOBI」(実線)と米KM Labs社製「Chromatis」(四角形+実線) という2種類の装置で測定した設計2、 4、5の群遅延分散(GDD)曲線を比較 したものである。

3種類の設計には、すべて超研磨基 板上にコーティングし、その表面粗さ を白色光干渉法で測定した。その結果 は表2 の比較通りであり、自社製の超 研磨基板の表面粗さが3種類の設計す べてで再現されていることは注目に値 する。

適用した最適化アプローチを実証す るため、3種類のIBSコーティングに ついて、100-on-1のLDTをリトアニ アのリダリス社(Lidaris)製「LID ARIS」で測定した。これは、2023年 SPIE損傷コンペティションとはわずか に異なるパラメータで行った。

図6 は、その測定結果と、設計4の

100-on-1損傷確率曲線を示している。

予想通り、測定されたLDTは推定値 よりも低くなっており、この結果は、 基準設計2と、最適化設計4および5 との間で予測された改善を裏付けてい る。損傷確率曲線は、フェムト秒範囲 のパルス幅におけるLDT測定では典 型的に見られる非常に急激な遷移領域 を示しており、これによって誤差範囲 が小さくなっている。測定誤差の範囲 内では、HfO2 /SiO2 層ペアを追加して も、さらなる改善が得られないことを 示している。

考察した最適化アプローチを確認す るため、設計2および4のIBSコーテ ィングを2023年SPIE損傷コンペティ ションに提出した。

図7 には、同コン ペティションの結果を、使用したコー

ティング材料の関数として、さまざま なコーティング技術ごとにグループ化 して示している(5) 。

高屈折率層としてTa2 O5 とHfO2 を 使用した3種類の材料によるアプロー チは、複数の参加者に採用されため、 本アプローチによって(受賞者の匿名 性を損なうことなく)最高のLDT結果 を達成できたと指摘できる。IBSコー ティングの場合、2種類の材料の Ta2 O5 /SiO2 基準コーティングと比較し て、最大75%のしきい値上昇が観察 された。これらの結果は、光学コーテ ィングメーカーが高性能コーティング を開発するための指針として有益であ る。このようなコーティングにより、 超高速レーザの応用分野がさらに拡大 されるだろう。

参考文献

(1)O. Wheeler, “Basics of ultrafast lasers: Parts 1-3,” Laser Focus World(2023); see www. laserfocusworld.com/14291054, www.laserfocusworld.com/14292432, and www. laserfocusworld.com/14294148.

(2)D. Ristau, M. Jupé, and K. Starke, Thin Solid Films, 518, 1607-1613(2009).

(3)M. Mero, J. Liu, W. Rudolph, D. Ristau, and K. Starke, Phys. Rev. B, 71, 115109(2005).

(4)L. Jensen et al., Proc. SPIE, 784207(2010). (5)R. Negres et al., Proc. SPIE, 1272606(2023).

著者紹介

マティアス・メンデ(Mathias Mende)は、独エドモンド・オプティクス社(Edmund

分光法

排出ガスモニタリングの大手となる

UV分光法

コーリー・ボニー、サマラ・ゴメス

分光法は広範囲な応用が可能な強力なツールであり、大気汚染のモニタリング や規制によって環境保護にも利用できる。

デンマークの多国籍企業であるダン フォスIXA社(Danfoss IXA)は、紫 外線(UV)吸収分光法に利用して、貨 物船から排出される窒素酸化物 (NOx)、二酸化硫黄(SO2 )、アンモ ニア(NH3 )をモニタリングする海洋排 出ガス分析装置を開発している。光学 デバイスは船舶の排気システム内に設 置され、極端な温度、振動、腐食環境

などの過酷な環境にさらされるため、 分光システムには独自の環境要件が求 められる。これにより、輸送船はすべ ての環境規制を確実に遵守できる。

なぜ煙突排出を モニタリングするのか

国際間を行き交う船舶の煙突からの 排出ガスは、世界中の人々の肺障害や

心血管疾患の早期死亡の原因となって いる(図1 )。船舶の排出ガスに起因する 心肺死亡と肺がん死亡は、世界で年間 6万人以上になると推定されている(1) 。 これは図2 のように、自然災害と暑さ・ 寒さによる死者を合わせた推定年間死 者数を上回る。人間の健康に影響を及 ぼすだけでなく、海洋や陸上の生態系 にもダメージを与える深刻な問題だ。

図1 国際間の海運は温室効果ガスと大気汚染物質の主要な排出源であり、気温上昇、気候変動、心肺および肺がんによる早期死亡の原因となって いる

世界の死因(2019年) 70,000

自然災害 暑さ・寒さ

船舶に起因する 心肺・肺がん

紛争・テロ

図2 2019年における世界の死因では、船舶の排出ガスに起因する死者数は自然災害と暑さ・寒さを合わせた死者数を上回る(1, 2)

国際海事機関(IMO)と米国環境保 護庁(EPA)は多くの国の周辺海洋で 排出規制区域(ECA)を指定し、厳し い排出規制を設けている。これらの地 域を通過しなければ、多くの主要港に アクセスすることは不可能だ。

例えばダンフォスIXA社が開発した ような分析装置以外に、当局が船舶の 排出ガスを監視して規制を強化するた めの便利で信頼できる方法は他にな い。多くの地方や地域では、船舶から の大気排出を制限するように設計され たイニシアティブが存在する一方で、 これらの政策を実施することは困難 だ。分光法をベースとした海洋排出ガ ス分析装置は、リアルタイムで船舶の 排出ガスを正確に測定する強力なツー ルである。

UV分光法システム

分光法の基本原理は、物質には固有 の吸収スペクトルがあり、原子や分子 の組成に基づいて異なる光の波長を吸

収するというものである。ダンフォス IXA社のUV分光法システムは、高強 度のUV光源とUV分光器、ファイバ

やレンズやミラーなどのUV強化光学 部品で構成されている(図3 )。異なる 波長がどのように吸収されるかを見て

図3 ダンフォスIXA社のガス分析装置は船舶の煙突に直接挿入される(画像出典: ダンフォス IXA社)

回折格子

回折格子

検出器

図4 分光器のテスト波長は、広帯域放射を1次元センサアレイに分離したり、モノクロメータ内部の回折格子やプリズムの角度を変えたりするこ とで、ここに示すように細かく調節できる

排出ガスの組成を決定するために、分 光計は光源からの広帯域放射を1次元 検出器アレイ上に空間的に分離し、全 UVスペクトルを同時に測定する。

同社のシステムではモノクロメータ を波長分離を目的に使用していない が、多くの分光システムは使用してい る。このような場合、UV光源からの 光はモノクロメータの入射スリットに 入射し、回折格子やプリズムなどの分 散素子を用いて成分波長に分割する (図4 )。

モノクロメータの出口スリットは、 デバイス内を移動する排気サンプルを 通過した狭帯域を除く、すべての波長

を遮断する。回折格子やプリズムの角 度を変えると出口スリットを通過する 波長が変わるため、テスト波長帯域を 細かく調整できる。サンプルを通過し た光は検出器に照射され、発生した吸 収を測定する。こうして、排出ガスの 分子組成を算出する。

回折格子を用いるモノクロメータの 場合、回折格子の格子周波数は通常 1mmあたりの溝の数として算出され る。格子周波数が高いほど光学分解能 は向上するが、使用可能な波長範囲は 狭くなる。一方、格子周波数が低いほ ど使用可能な波長範囲は広くなるが、 分解能は犠牲になる。

環境要求事項  このようなシステムの開発は、非常 に困難である。なぜなら、極めて高い 温度と圧力が要求されるためだ。温度 が高いと、光学部品の溶融や熱ストレ スによる故障の原因となり、使用でき る光学材料の種類が著しく制限され る。また、高温は光学アセンブリ内の 接着剤のガス放出を引き起こし、シス テムを汚染する可能性がある。このシ ステムは、500℃もの高温にさらされ るため、高い圧力が要求され、光学シ ステムの密閉性が決定的に重要にな る。光学系は、UV光をほとんど吸収 せずに通過する必要があるため、利用

図5 コーティングされていない石英ガラス窓へのUV暴露による汚染の例。しかし、この画像は 3W未満のUVレーザ照射を6週間行った後に撮影されたもので、ダンフォスIXA社のガス分析 装置とは異なる使用例だが、発生しうるUV汚染の種類を表現するのに役立つ(3)

できる光学材料も限られている。

光学系のUV劣化

このプロジェクトが直面するもう1 つの課題は、UV光学系は寿命が限ら れる傾向にあることだ。その主な原因 は、環境と相互作用する高出力のUV 光子による汚染と、光学系のコーティ ングや基板を破壊するUV光である。

どちらも、時間とともに光学部品の性 能を劣化させる。

高出力のUV光がシステム内にある 微粒子、水蒸気、有機物、その他の汚 染物質と相互作用すると、光学系の表 面に不要な物質が堆積する可能性があ る。排出ガスやその他の空気中に浮遊 する分子汚染物質は、一般的に光学系 表面に炭素ベースの堆積物を引き起こ す。 図5 に、UVが原因の汚染物質の 樹脂状成長の例を示す。

光学系を取り囲むガスとの相互作用 も汚染物質の堆積につながるため、シ

ステムに流入する排気はすべて汚染源 となる。波長400nm以下のUVの光子 エネルギーは、周囲の分子の結合エネ ルギーと同じスケールで近づくため、 UVはこれらの結合の一部を破壊する。

これにより、光学系表面を汚染するイ オンや分子が生成される。

UV光学系のコーティングや基板材 料自体も、高出力のUV光にさらされ ると光疲労による経時的な劣化の影響 を受けやすい。長時間にわたって使用 すると故障の原因となり、材料の変色

参考文献

やその他の変化を生じさせることにな る。屈折率が変化して、局所的に強度 が増加するレンズ効果を生み出すこと がある。また、自己トラップされた励 起子が形成され、吸収中心が蓄積され ることもある。

これらの影響により、UV光学系は 時間経過とともに交換が必要になるこ とがある。しかし、密封、除去、洗浄 を適切に行うことで、これらの影響を 軽減できる。

ダンフォスIXA社のガス排出分析装 置に対する厳しい環境は、システムの 光学系および光学機械設計に多くの課 題をもたらした。しかし、デバイスは 成功を収め、現在では世界中の何千も の船舶の排出ガスのモニタリングに活 用されている。

これは環境に対して大きな勝利であ り、国際海運で排出されるNOx、 SO2、NH3 を最小限に抑えるための一 歩である。このような汚染が減少すれ ば、海運の排出ガスが原因とされる心 肺および肺がんによる年間死者数を減 らすことができるだろう。

要求の厳しい環境で動作する光学シ ステムを設計する際には、特定の環境 要求事項について、光学部品の製造業 者と議論すべきである。製造業者は、 主要な検討事項を案内して、トレード オフを明確に説明し、必要なシステム の性能を保証してくれるだろう。

(1)M. Dwortzan, “Smarter regulation of global shipping emissions could improve air quality and health outcomes,” MIT News(Aug. 17, 2021); https://tinyurl.com/yt4sxr2a. (2)H. Ritchie, F. Spooner, and M. Roser, “Causes of death,” Our World in Data(Dec. 2019); https://ourworldindata.org/causes-of-death. (3)B. Arnold, C. Rashvand, L. Willis, and M. Dabney, Proc. SPIE, 12300(Dec. 2, 2022); doi:10.1117/12.2638404.

著者紹介 コーリー・ボニーは米エドモンド・オプティクス社(Edmund Optics)の主任技術マーケティングエ ンジニア、サマラ・ゴメスはダンフォスIXA社のマーケティング・コーディネータ。 e-mails: cboone@edmundoptics.com、samara.gomes@danfoss.com www.edmundoptics.com、www.danfoss-ixa.com

フェムト秒レーザとナノ秒レーザの 損傷しきい値

オリビア・ホイーラー

フェムト秒レーザとナノ秒レーザの損傷メカニズムの違いを理解することが、 レーザシステムの効率と寿命の向上につながる。

レーザ技術が進化し続ける中で、高 精度用途で求められる厳しい仕様を満 たすために、光学部品も進化する必要 がある。医療処置、微細加工、基礎科 学研究など、その他多くの分野に、超 短パルスレーザ技術の力によって大き な変革がもたらされている。これまで ナノ秒レーザが主に使われてきた業界 や用途で、超短パルスレーザを採用し ようとすると課題が伴う。その1つは、 光学部品に対するレーザ損傷しきい値 が全く異なることである。レーザシス テムの効率と寿命を確保するには、ナ ノ秒とフェムト秒のパルス持続時間全 体で、レーザ損傷しきい値にどのよう

な理由でどのような違いがあるかを理 解することが不可欠である。

レーザ誘起損傷しきい値(Laser Induced Damage Threshold:LIDT) とも呼ばれるレーザ損傷しきい値 (Laser Damage Threshold:LDT)は、 すべてのレーザシステムにおいて光学 部品を選択する際に評価すべき重要な パラメータである。ISO21254の中で LDTは、「光学部品にレーザ照射した 際に損傷確率がゼロであるレーザ放射 の最大値」と定義されている(1)。この 定義は明快に見えるかもしれないが、 実際のLDT値は、光学部品そのもの の性質以外のさまざまな要因に依存す

る。特に、光学部品のLDTは、ナノ 秒(10 -9 s)とフェムト秒(10 -15 s)のどち らのパルス持続時間で評価するかによ って、数ケタもの差が生じる可能性が ある。このような大きな違いが生じる のは、それらの異なる時間スケールで 生じるレーザ損傷のメカニズムが著し く異なるためである(図1 )。

ナノ秒レーザの損傷メカニズム  フェムト秒パルスと比べて、ナノ秒 レーザの長いパルスは、主に熱メカニ ズムによって、光学部品に損傷を引き 起こす。レーザはかなりの量のエネル ギーを光学部品の材料に印加し、それ

キャリア励起

キャリア緩和

非線形効果

キャリア-キャリア散乱

キャリア-光子散乱

構造的および 熱的事象

パルス持続時間〔s〕

絶縁破壊 熱効果

図1 レーザ誘起損傷のメカニズムは、パ ルス持続時間の長さによって大きく異な る。ナノ秒など、パルス持続時間が長い場 合は、損傷は主に熱効果によって引き起こ される。パルス持続時間がフェムト秒単位 まで短くなると、キャリア吸収や非線形効 果が支配的な損傷メカニズムになる(2)

がレーザスポットの局所的な加熱を促 進する。この加熱は、直接的に溶融を 引き起こしたり、熱膨張とそれに伴う 機械的応力によって何らかの構造的な 変化を引き起こしたりする可能性があ る。また、この応力によって亀裂が生 じたり、層間剥離というプロセスによ ってコーティングが基材から完全に剥 離したりする場合もある(3) 。  ナノ秒レーザの照射下にある光学部 品は、コーティング材が直接加熱され るだけでなく、コーティング内の欠陥 に特に敏感である。これらの欠陥は、 その周囲よりも吸収がはるかに高くな りやすいために、光学コーティング内 の小さな避雷針のように機能する。そ の結果、その欠陥領域は他の部分より も早く加熱し、壊滅的なレーザ損傷の 場合は、コーティングを破裂させる。 この激しい損傷メカニズムは多くの場 合、表面にクレーターを残すだけでな く、損傷事象直後にさらなる微粒子を 再堆積させることになる(図2 )。  これらの欠陥箇所は、レーザ損傷の

誘発源となるため、特定の光学部品に おいて、欠陥が多いほど一般的に LDTは低くなる。そのため、ナノ秒レ ーザとともに使用する光学部品の表面 品質は、非常に重要である。また、ナ ノ秒時間スケールのLDT試験は、か なり統計的なプロセスである。光学面 上の任意の箇所の損傷確率は、入射ビ ームのサイズ、欠陥箇所の分布と密度、 本質的な材料特性など、多数の関連要

図2 ナノ秒パルス を出力する532nm のレーザによるレー ザ損傷。この損傷は、 表面上のクレーター と再堆積した微粒子 からわかるように、 欠陥のクラスタによ って引き起こされて いる(4)

因に起因する。寄与要因が多様である ことは、ナノ秒のLDT値が、コーテ ィングが同じでもバッチによって大き く異なる可能性があることの理由でも ある。LDTは、基材の研磨や前処理 のばらつき、実際にコーティングを塗 布する間の変動、さらにはコーティン グ後の保管条件の変化によって、影響 を受ける可能性がある。このように、 ナノ秒のLDT値にはさまざまな要因

図3 4ns(左)と48fs(右)のパルス条件下で得られたLDT試験結果。ナノ秒の損傷曲線は、測定の性質が確率的であるために勾配が緩やかなのに 対し、フェムト秒レーザの損傷曲線では、メカニズムが確定的であるために、損傷確率100%への遷移が急峻である。試験結果はリトアニアのリダ リス社(LIDARIS)提供

が寄与するのに対し、フェムト秒レー ザの損傷を引き起こす主要なメカニズ ムの要因は、塗布されたコーティング 材に主に内在している(3) 。

フェムト秒レーザの 損傷メカニズム

フェムト秒レーザの超短パルスは、 異なるメカニズムで損傷を引き起こ す。生成するピーク出力が非常に高い ことが、その理由の1つである。ナノ 秒レーザとフェムト秒レーザのパルス エネルギーが同じだったとしても、フ ェムト秒レーザパルスのほうが、パル ス持続時間が短いために、ピーク出力 は約100万倍高くなる。この高強度の レーザパルスは、価電子帯から伝導帯 に電子を直接励起することができる。

入射レーザパルスの光子のエネルギー がこの遷移幅(材料のいわゆるバンド ギャップ)よりも低い場合でも、超短 パルスレーザパルスのピークフルーエ ンスは非常に高いため、電子は一度に 複数の光子を吸収する可能性がある。 この非線形メカニズムは、多光子イオ ン化と呼ばれ、超短パルスレーザ光学 部品における一般的な損傷経路である。  トンネルイオン化も、フェムト秒レ ーザ照射時の損傷経路になる可能性が ある。この現象は、超短パルスレーザ パルスによって生成される非常に強力 な電界の下で生じる。入射電界が非常 に強いために、伝導帯のエネルギーが 歪み、トンネル効果によって電子が価 電子帯から伝導帯に遷移する。十分な 電子が伝導帯に遷移すると、その自由 電子の海に入射光が直接エネルギーを 結合し始め、それがコーティング材の 崩壊を引き起こす(3) 。

このような損傷経路に基づき、フェ ムト秒のLDTは、ナノ秒のLDTより もはるかに確定的である。レーザ損傷

は基本的に、フェムト秒レーザからの 特定の入力フルーエンスで「作動」す る。そのフルーエンスの大きさは、塗 布された誘電体コーティング材のバン ドギャップに比例する。これは、それ よりもはるかに確率的な性質を持つナ ノ秒レーザの損傷とは、非常に対照的 である(図3 )。

ナノ秒レーザの損傷経路と比べてさ らに対照的な点として、フェムト秒の 時間スケールでは、熱効果が光学部品 のLDTを左右しないことに注意する ことが重要である。超短パルスレーザ パルスの持続時間が、材料構造内の熱 拡散の時間スケールよりも短いことが その理由である。その結果、フェムト 秒パルスは、コーティング材にエネル ギーを熱として蓄積せず、ナノ秒レー ザパルスのような熱膨張や機械的応力 は生じない。まさにこのような理由に より、超短パルスレーザは、心臓血管 ステント製造(6)など、高精度の切断や マーキング(5)を必要とする多くの用途 に非常に有効である。

スケーリングに注意

パルス持続時間と同様に、ナノ秒パ ルスとフェムト秒パルスの一般的なLDT 値は、数ケタ異なる可能性がある。一 般的なレーザミラーのLDT値は、100fs のパルスで測定すると約0.2J/cm2 だが、 5nsのパルスで測定すると同じ光学部

品のLDTが10J/cm2 近くになる可能 性がある。この値の違いにまずは警戒 すべきかもしれないが、これは、両方 の時間スケールで生じる損傷メカニズ ムが全く異なることを示している。同 じ理由により、LDTスケーリング計算 機を大きな時間スケールで使用する場 合は、注意が必要である。一般的に、 パルス持続時間が長いほどLDTは大 きくなるが、フェムト秒パルスとナノ 秒パルスの間でLDT値のスケーリング を行うと、ほぼ必ず光学部品の損傷に つながる。最善策は、波長、繰り返し 周波数、パルス持続時間を含めて、用 途にできるだけ近い条件下で得られ た、適切なLDT定格値を持つ光学部 品を選択することである。

適切な光学部品の選択  精度の向上に対する要求を満たすた めに、レーザ技術は発展し続ける。新 しい技術が具体化するにつれて、レー ザ損傷メカニズムの違いと、どのメカ ニズムが特定の時間スケールにおいて 支配的なのかを理解することが、対象 用途に適した光学部品を選択するため にますます重要になってくる。そうし た違いに留意することは、現在のレー ザシステムの効率と寿命を向上させる だけでなく、将来のより高度なレーザ システムへのシームレスな適応を可能 にする。

参考文献

(1)See www.iso.org/standard/43001.html. (2)S. S. Mao et al., Appl. Phys. A, 79, 1695(2004). (3)D. Ristau et al., Thin Solid Films, 518, 1607(2009). (4)N. Carlie and K. Firestone, Laser Focus World(2019); www.laserfocusworld.com/14035451.

(5)S. Lei et al., J. Manuf. Sci. Eng., 142, 1(2020).

(6)A. G. Demir and B. Previtali, Biointerphases, 9, 029004(2014).

著者紹介

オリビア・ホイーラー博士(Olivia Wheeler, Ph.D.)は、米エドモンド・オプティクス社(Edmund Optics)の超短パルスレーザ光学エンジニア。

e-mail: owheeler@edmundoptics.com URL: www.edmundoptics.com LFWJ

光干渉断層撮影

眼科と皮膚科を対象とした 適切な光干渉断層撮影システムの開発

レベッカ・シャボニュー、エミリー・ビショップ、シャイバル・ブーフ

本稿では、スペクトル領域OCTの概要を説明し、システムに対する適切な光

学系と照明光源を選択する方法を、システム設計者がより適切に理解できる ようにする。

光干渉断層撮影(Optical Coherence Tomography:OCT)は、低コヒーレン ス干渉法の原理を活用することによ り、一般的に最大で数mmの深さの深 度分解画像を非侵襲的に生成する。こ の非侵襲イメージングは、眼科から皮 膚科に至るまでの生物医学分野におい て非常に有益である(図1 )。

新しい種類のOCTであるスペクト ル領域OCT(SD-OCT)は、取得時間 が非常に短く、技術的に優れているこ

とから、利用が拡大している。ライフ サイエンスシステムの設計者にとっ て、どのOCT手法を使用するのが適 切で、正しい照明光源と光学部品をど

のように調達すればよいかを理解する ことは、商業的に成功する高性能な OCTシステムを開発する上で極めて重 要なことである。

OCTの基本原理

システム設計者はまず、OCTシス テムの動作の基本原理を理解する必要 がある。レーダーやソナーなど、広く 使われている他の深度マッピング技術 とは異なり、OCTは、反射信号(また は「エコー」)が検出される時間の測定 に依存するものではない。OCTは、2 つのビームが通過する光路長がコヒー レンス長の範囲内にある場合に干渉す

図1 OCTによって臨床医は、視界がぼやけるという症状を引き起こす、加齢性黄斑変性症 (AMD)などの眼疾患を、より適切に診断できるようになった

る、時間コヒーレンスの低い光の性質 を利用し、「コヒーレンスゲート」とし て知られるものを生成する。

この結果は一般的に、低コヒーレン ス光源からの光を、リファレンスビーム とサンプルビームに分割し、両方のア ームの反射ビームをマッハ・ツェンダー (Mach-Zehnder)構造の中で干渉させ ることによって、実現される。これに よってリファレンスビームは、上述のコ ヒーレンスゲートを生成するため、ユー ザーはサンプル内のさまざまな深さか ら反射した光を解像することができる。

OCTは1990年代に考案されて以来(1) 、 非侵襲の深度イメージングを必要とす るさまざまな分野で広く利用されてい る。最初にこれが適用されて、今でも 最も一般定な用途となっているのが、 眼科用の網膜イメージングである。

OCTの一般的な種類

30年以上の間に、OCTを使用して サンプルから深度情報を取得するため の複数の方法が開発されている。しか し、2つの主な種類は、時間領域OCT (TD-OCT)とフーリエ領域OCT(FDOCT)で、両者は深度情報の収集方法 が異なる。

TD-OCTでは、リファレンスミラー を少しずつ動かすことによって、コヒ ーレンスゲートの位置をシフトさせる ことにより、深度スキャンが行われる。 続いてポイント検出器によって、光源 帯域幅全体の干渉信号が取得される。 FD-OCTでは、リファレンスとサンプ ルを固定に保ったままで、光の異なる

スペクトル成分が個別に検出される。

FD-OCTでは光のスペクトル成分 を、広帯域光源と分光器/リニア

CCDアレイの組み合わせを検出に使用 して空間領域で分割するか、掃引レー ザ光源とポイント検出器の組み合わせ を使用して時間領域で分割することが できる(前者をスペクトル領域OCT、 後者を掃引光源OCTと呼ぶ)。

各手法の長所と短所は、検出器や光 学機械部品の能力など、複数の要因に 依存する。一般的に、FD-OCTの方が TD-OCTよりも信号対雑音比(SNR) と検出速度が高くなるため、ほとんど の商業的用途で好ましい手法となって いる(2) 。

スペクトル領域OCT

スペクトル領域OCT(SD-OCT)は、 取得時間がより短く、技術的に優れて いることから、古くからあるTD-OCT システムに取って代わりつつある。 SD-OCTシステムでは、光の異なるス ペクトル成分を1次元または2次元の 検出器アレイ上で同時に検出すること により、単一点に沿った深度情報が、 リファレンスまたはサンプルを動かす ことなく取得される(図2 )。検出され たスペクトルをフーリエ変換すること によって、Aスキャンと呼ばれる、サ ンプル内の深度情報が得られる。隣接 するAスキャンを取得することによっ て、Bスキャンと呼ばれる、2次元画 像を形成することができる。体積情報 が必要な場合は、複数のBスキャンを 取得してつなぎ合わせることができ る。これをCスキャンと呼ぶ。

SD-OCTシステムの分解能  任意のOCTシステムにおいて、重要 な指標は、深度(軸方向)分解能、横方 向分解能、SNRである。理想的なSD-

リファレンス

単一処理: 深度情報の抽出と ノイズの低減

広帯域光源 格子 リニアまたは2Dのセンサアレイ

図2 SD-OCTの構成図

OCTシステムの軸方向分解能は、光源 のみに依存する。一定の仮定の下では、 光源のコヒーレンス長(lc)に等しいと 大まかに仮定することができる(2)。lc は式(1)で定義される。

サンプル ビーム分割/ 結合 検出

OCTシステムの横方向分解能は、 光をサンプルに集光するために用いら れる光学系の開口数(Numerical Aperture:NA)によって主に決まる。 NAが大きいほど横方向分解能は高く なる。しかし、サンプルのより深くま でのイメージングを可能にするには、 横方向分解能に加えて、焦点深度が大 きいことも重要である。そのため、多 くの実用的なOCTシステムにおいて、 横方向分解能やイメージング深度など のシステム性能を最適化するために、 NAが低めの光学系が用いられている。

SD-OCTシステムに対する 正しい光学系の選択

SD-OCTシステムに用いられる光学 系の多くは、TD-OCTのものとほぼ同 じである。TD-OCTと同様に、SDOCT設定においても光源は、リファレ

ンスアームとサンプルアームの2つの 経路をたどる。 図3 に示すように、光 源から照射された光はビームスプリッ タによって、各光路アームに分割され る。平凸レンズや非球面レンズなどの 光学レンズによって、サンプルとイメ ージセンサへのコリメートと集光が行 われる。リファレンスアームのミラー は、TD-OCTでは可動であるのに対し てSD-OCTでは固定となっており、こ れによってより高速な取得が可能であ る。リファレンスミラーとXY走査ミ ラーに対して誘電体コーティングを選 択すると、金属ミラーコーティングの 場合よりもシステムのスループットは 高くなる。

SD-OCTシステムの主な相違点は、 回折格子がイメージセンサの前に追加 されていることである。回折格子は、 干渉信号を波長に基づいてその周波数 成分にスペクトル分散する。周波数成 分はその後、リニアイメージセンサに よって検出され、周波数成分をフーリ エ変換することによって、画像が生成 される。広帯域光源を使用する場合は ロングパスとショートパスのフィルタ を重ねることにより、異なる用途に対 して必要な波長を微調整することがで

光干渉断層撮影

リファレンスミラー

ロングパス+ショートパス フィルタ

光源

コリメーティングレンズ

図3 SD-OCTのビーム経路図

きる。

SD-OCTの光源に関する考察  SD-OCTシステムを開発するシステム 設計者は、分解能、安定性、スペクト ル特性、サンプルの材料特性、安全性 という5つの重要な基準を使用して、照 明光源の選択肢を評価する必要がある。

分解能。 式(1)は、帯域幅が広く中 心波長が低い光源ほど、軸方向分解能 が高いことを示している。例えば、中 心波長830nm、帯域幅100nmの光源と、 中心波長500nm、帯域幅300nmの光 源を比較してみよう。

光源1:

λ0 =830nm,Δλ=100nm àlc=3.04μm  光源2:

λ0 =500nm,Δλ=300nm àlc=0.38μm

この比較は、表面下形状を解像する 能力に、光源の選択が大きな影響を与 えることを示している。入力光源スペ クトルを変更することが、SD-OCTシ ステムの分解能を上げるための最も効 果的な手段である。

安定性。 光源からのすべてのノイズ が、振幅ノイズか周波数ノイズかにか かわらず、システムノイズに寄与する。

そのため、イメージング対象となる表

走査ミラー

コリメーティングレンズ

集光レンズ

集光レンズ

面下形状の屈折率がバルク媒体とあま り変わらない場合(光学部品の表面下 欠陥の非破壊試験など)は特に、低ノ イズの光源を選択することが必要不可 欠である。

スペクトル特性。使用可能な帯域幅 全体における光源のスペクトル特性 は、システム性能に影響を与える。一 般的に、平坦なスペクトル特性が望ま しい。各スペクトルチャネルの出力を できるだけ大きくすることによって、 SNRが向上するためである(2)。従って、 光源を選択する際には、使用可能な帯 域幅において、強い照射ラインが存在 したり、スペクトル形状が非対称にな っていたりしないかを、検討する必要 がある。

サンプルの材料特性。 理論的には、 SD-OCTシステムで解像可能な深度は、 イメージング光学系(より深いイメージ ングには高い焦点深度が必要)と検出器 (感度は深度とともに低下する)の選択 に大いに依存する。しかし、材料にお ける吸収(波長に依存する)と分散(屈 折率は波長に依存する)によって、分 解能とSNRは深度とともにさらに低下 する。従って、光源を選択する前に、 材料の光学特性について考察すること

が非常に重要である。例えば、網膜の イメージングでは水の吸収ピークを避け るために、830nmと1050nmの中心波 長が一般的に使用される。

安定性。OCTが最も一般的に使用 される分野の1つが、生物医学イメー ジング(眼科や皮膚科など)である。そ のような用途では、組織の損傷や怪我 のリスクがあるため、一般的に許容光 出力が厳しく制限される。その制限を 満たすには通常、入力光源の減衰が必 要で、OCTシステムを設計する際に はこれを検討する必要がある。

その他の考察事項。

光学系と検出器 が所望の波長で使用できるかといった その他の制約も、与えられた任意の用 途に対して最適なSD-OCTシステムを 設計する際の光源の選択における、重 要な項目である。

光源の種類。

生物医学分野のOCT において一般的に用いられる光源の1 つが、スーパールミネッセントダイオ ード(superluminescent diode:SLD) である。分解能を上げるためにより広 い帯域幅の光源が必要な場合や、商用 のSLDが提供されていない波長を使用 する場合は、スーパーコンティニュー ム(supercontinuum:SC)光源が一般 的に使用される。SC光源などの広帯 域光源は、短いパルスを使用するため、 安定性の維持が容易ではない。輝度が 高く、帯域が広く、スペクトルが平坦 で、安定した光源は、低いノイズを維 持しつつ、可視域と紫外域の波長を使 用する必要のある用途に対して、多大 なメリットを与えることができる。そ の一例が、光学部品またはセラミック 部品の製造における欠陥の非破壊検出 である。

眼科:SD-OCTの応用  SD-OCTによって眼科医は、緑内障

や加齢性黄斑変性症(Age-related Macular Degeneration:AMD)などの眼 疾患の診断を補助するための目のイメ ージングや、眼科手術中の in situ イメ ージングを行うことができる。目を通 したイメージング経路は光学的にクリ アであるため、OCTによって目の組織 層を簡単にスキャンすることができる。

市場で提供されている多くのSDOCT装置が、網膜と前眼部の疾患の イメージングに使用されている。例え ば、SD-OCTは、緑内障の検出に用い られている。緑内障は、眼球内の房水 が増加することで眼圧が上昇し、視神 経に損傷が生じる眼疾患である。

SD-OCTを使用すると、 図4 に示す ように、網膜神経線維層の厚さマップ が形成されて、緑内障の重症度や進行 度合いを把握することができる(1) 。

SD-OCTを、レーザ眼科手術や超音波 水晶体乳化吸引術などの外科用プラッ トフォームと組み合わせることによっ て、リアルタイム画像を執刀医に提供 することもできる。

今後の開発:皮膚科

SD-OCTは、皮膚科の分野で多大な 注目を集めている。1300nmの波長帯 を使用することにより、SD-OCTは皮 膚の奥深くに到達して、0.4〜2.00mm の深さまでの詳細な断面画像と「en face」画像を、卓越した光学分解能で 取得することができる。

SD-OCTでは、反射共焦点顕微鏡 (Reflectance Confocal Microscopy: RCM)や超音波検査など、皮膚科にお ける従来の手法で提供される深度と分 解能の間のバランスが図られる。SDOCTは、超音波検査よりも高い光学 分解能が達成可能で、真皮網状層の毛 包、汗腺、血管、結合組織など、皮膚 内の構造のより正確で詳細な画像が取

得できる。

またSD-OCTは、RCMよりもさら に皮膚の奥深くまでのイメージングが 可能である。この深度は、メラノーマ (悪性黒色腫)以外の皮膚悪性腫瘍 (Non-Melanoma Skin Cancer: NMSC)や炎症性皮膚疾患など、より 深い皮膚層に影響を与える疾患の診断 と観察に特に有効である。ただし、細 胞分解能に関してはRCMのほうがや はり優れている(3)。細胞分解能は、メ ラノーマなどの特定の皮膚状態の評価 に不可欠である。

図4 視神経の OCT画像

偏光OCTのように、SD-OCTに追加 の機能を組み込むことにより、血液かん 流に関する情報を得ることができる(4) 。 この手法は、コラーゲンの複屈折性を利 用して、皮膚内のコラーゲン分布を評価 する。高NAの光学系が必要になるが、 火傷の管理とコラーゲン関連の皮膚状 態の理解に有効である。この機能によ って、特定の皮膚損傷部における血管 とその分布を評価することも可能であ る。いくつかの制約やコスト上の問題 はあるものの、SD-OCTは進化と改良 を続けており、皮膚科イメージングの 未来に大きな可能性をもたらす。  OCTは、医療分野において病気の 診断や治療のモニタリングを行うため の強力な手段であり、特定の臓器のリ アルタイム画像を取得して、組織構造 を直接可視化することが可能である。 特にSD-OCTを使用すれば、高いスル ープットと性能を達成する非侵襲イメ ージングシステムを構築することがで きる。

参考文献

(1)D. Huang et al., Science, 254, 1178?1181(1991). (2)J. A. Izaat and M. A. Choma, Theory of Optical Coherence Tomography, Springer(2008). (3)B. Wan et al., Br. J. Dermatol., 184, 6, 1014-1022(Nov. 2020); doi:10.1111/bjd.19553. (4)J. Olsen et al., J. Biomed. Opt., 23, 4, 1 (Apr. 2018); https://doi.org/10.1117/1. jbo.23.4.040901.

著者紹介

レベッカ・シャボニュー(Rebecca Charboneau)とエミリー・ビショップ(Emily Bishop)はそれぞ れ、米エドモンド・オプティクス社(Edmund Optics)の光学エンジニアと製品サポートエンジニア で、シャイバル・ブーフ(Shaival Buch)は、米エナジェティック・テクノロジー社(Energetiq Technology)のプリンシパルサイエンティスト。e-mail: rcharboneau@edmundoptics.com、 ebishop@edmundoptics.com、sbuch@energetiq.com URL: www.edmundoptics.com www.energetiq.com. LFWJ

SWIRイメージングの進歩

SWIRイメージングシステムは、果物や野菜の水分含有量やボトルの液面レ ベルを検出するなど、従来のシステムでは不可能だったマシンビジョン処理 を達成する。

短波赤外(SWIR)波長を使用したマ シンビジョンは、従来のイメージング システムでは困難か、あるいは不可能 でさえあった独特の処理を達成するこ とができる。例えば、可視光に対して 不透明なプラスチック容器を透過して その内容量を測定することができる (図1 )。SWIRカメラセンサは近年、 進歩によってコストが大きく低下し、 SWIRマシンビジョンアプリケーショ ンの新たな波を生み出している。しか し、最新型SWIRセンサの中には、解 像度を最大化するためにピクセルサイ ズを縮小することを優先し、そのため にコストが以前の水準まで戻ってしま っているものもある。SWIRイメージ ングは、従来のイメージングでは得ら れなかった情報を抽出するための強力

な手段だが、SWIR波長を利用するこ とで、これらのシステムに使用される 光学系に新たな課題をもたらす。

本稿では、SWIRイメージングのそ うしたトレンドと、それがマシンビジ ョンの展望にどのような影響を与えて いるかについて解説する。

SWIRイメージングの 利用拡大を促進する、

新世代のセンサ

SWIRイメージングセンサ製造の最 近の進歩により、0.4~1.7μmの可視 域とSWIR域の波長帯をカバーする、 手頃な価格の新世代センサが開発され ている。しかも、これらの新しいセン サは、低いノイズと高い量子効率を兼 ね備えている。量子効率とは、入射光

が電気信号に変換される効率を表す用 語である。可視波長用に設計されたセ ンサでは、何年も前から低いノイズと 高い量子効率が実現されているが、 SWIR波長でそれが実現されるように なったのは、より最近になってからの ことである。

SWIRアプリケーション用の従来の センサは、インジウムガリウム砒素 (InGaAs)をベースとしており、長年 にわたって、SWIR波長で高い性能を 達成するために使用されてきた。しか し、これらのセンサは製造が難しく、 そのために高額である。提供されてい るどのタイプのSWIRセンサよりも高 い効率と感度を達成するが、製造コス トが高いために、価格が法外に高くな る場合が多い。それよりも新しい世代 コーリー・ブーン、ニック・シシュカ

図1 SWIRカメラとレンズは、この白いボトルのような可視光では不透明な物体を透視して、その中に隠された物質を明らかにすることができる(本 稿の写真と画像はすべてエドモンド・オプティクス社提供)

シリコンの透過率

シリコンの透過率 (コーティングなし、厚さ5mm)

透過率

波長〔nm〕

図2 シリコンの透過率グラフ。1100nm以上の波長の透過率が高いことが示されている

図3 水はSWIR光を吸収するため、SWIRイメージングは、水分検出に最適で、果物検査に有 用である。他の手段では検出が非常に難しい水分を可視化することができる

の手頃な価格のSWIRセンサは、 InGaAsセンサほど高い性能は達成し ないが、多くのイメージングシステム に対して十分以上のレベルの解像度、 ノイズ、効率を、格段に低いコストで 提供する。

SWIRイメージングの

主な検討項目

アプリケーションに最適なSWIR波 長を最初から把握するのは難しい。人

間の目はSWIR波長を検出できないた めである。SWIRイメージングに関し ては、強い直感を働かせることはでき

ない。可視波長を使用する場合は、例 えば、赤色光源を使用すれば赤色成分 が強化されてコントラストが強調され ることや、青色照明を使用すれば背景 が暗く見えることを推測するのは、一 般的に容易である。SWIRマシンビジ ョンシステムを構築する場合は、 SWIR光との相互作用はそのように直 感的ではないため、システム設計者は、 検査対象となるすべての物質の分光特 性を事前に確認しなければならない場 合が多い。

アプリケーションに必要となる正し いSWIR波長を見定めるための1つの

方法は、イメージング対象の物質の既 存文書を見つけることである。吸光度 や透過率のグラフを見れば、どの波長 が明るくまたは暗く見えるかや、どの 波長で最大限のコントラストが得られ るかがわかる。

例えば、シリコンは、1100nmより も長いSWIR波長を透過することが知 られている(図2 )。そのため、SWIR イメージングは、亀裂検出、ボンディ ング検査、ウエハ自体の内部欠陥検出、 シリコン基板上に異なる材料で形成さ れた回路の欠陥検出など、さまざまな 種類のシリコン欠陥検出に利用される ことが多い。

SWIRハイパースペクトルカメラと 広帯域光源も、システム開発段階で注 目すべき最適な波長を見定めるために 使用することができる。これによって、 さまざまな波長をカバーする画像に加 えて、各ピクセルのスペクトルシグネ チャが得られる。この情報を基にシス テム設計者は、1つまたは複数の対象 波長に、マシンビジョンシステムのコ ントラストを最大化して処理を達成で きるだけの強い吸収または透過ピーク があるかどうかを確認することができ る。「SWIRイメージングのアプリケー ション」のセクションで、その例を紹 介する。

ハイパースペクトルカメラと広帯域 光源もおそらく高額になるが、重要な 対象波長を特定することができる。そ の後、最終的なシステムを量産する際 には、その特定の波長用に最適化され た、よりシンプルなSWIRカメラと光 源が使用されるため、最終的なシステ ムは、より費用対効果の高いものにな るのである。

ハイパースペクトル光源とカメラを 使用して製品開発を行うときに、1つ の波長、または、少数の波長を使用す

図4 イソプロパノール、水、アセトンは可視光の下では基本的に同じに見えるが、SWIRイメ ージングではそれらの間に高いコントラストが生じるため、簡単に区別することができる

ることによって、コントラストを最大 化することができない場合がある。そ のような場合は、最終システムにおい ても、より複雑なハイパースペクトル システムを使用しなければならないか もしれない。そうすると、カメラと光 源がより高額になるだけでなく、使用 するイメージングレンズのコストと複 雑さも増す。しかし、プラスチックの リサイクル、食品の品質検査、異物検 出のような一部の材料選別アプリケー ションでは、これが必要である。

SWIRイメージングの

アプリケーション

マシンビジョンにおけるSWIRの一 般的なアプリケーションの1つが、水 分検出である(図3 )。水は1450nm付 近に吸収ピークがあり、SWIRイメー ジングシステムでは非常に暗く現れ る。これは、果物検査、食品加工、ボ トル充填レベル検査、農業アプリケー ションにおける水分検出など、多くの アプリケーションで有用である。

すべての液体が水と同じように SWIR波長を吸収するわけではないた め、可視光検査では同じに見える液体 を、SWIRイメージングでは簡単に区 別することができる(図4 )。

SWIRイメージングレンズの 固有の課題

可視光で使用するように設計された 多くのイメージングレンズアセンブリ が、一部のSWIR光も通すが、この波 長範囲用に特別に設計されたレンズを 使用することで、SWIRシステムの性 能を大幅に向上させることができる。

これによって、レンズ設計が最適化さ れる波長帯、SWIR光のスループット を最大化するために使用されるガラス の種類、レンズ素子に適用されるコー ティングが変わる。

ゲルマニウム、シリコン、サファイ ア、セレン化亜鉛などの材料は、 SWIR波長に対する透過率が高く、 SWIRイメージング性能を向上させる ことができるが、従来のイメージング レンズに使用されているガラスよりも 高額である。

最新型SWIRセンサで、 コストは以前の水準に逆戻り  市場に投入されている最新型SWIR センサは、SWIRアプリケーションの 利用拡大を促進するトレンドに逆行し ている。これらのセンサは、提供され ている他のセンサよりもピクセルサイ ズが小さく、システムの解像度を向上

させるが、その分、コストは以前の水 準に逆戻りしている。これによって、 SWIRカメラが高額になるだけでなく、 SWIRカメラに搭載されるイメージン グレンズも、要件が高くなって高額に なる。これらの新しいセンサの利点を 最大限に生かせるだけの高い解像度を 達成するために、光学設計はさらに複 雑になり、公差は厳しくなる。

SWIR光学系には独特の材料が必要 であるため、そのコストは既に高い。 このように、最新型SWIRセンサを採 用しようとするとSWIRシステムのコ ストが二重に増加することから、最新 型センサは、SWIRアプリケーション の利用拡大を促進した1つ前の世代の SWIRセンサほど、マシンビジョンの 展望に大きな影響を与えることはない 可能性が高い。

SWIRイメージングは、従来の可視 光イメージングでは実現できなかった 素晴らしい偉業を成し遂げることがで き、近年、SWIRセンサの価格が低下 したことで、SWIRイメージングはか つてないほど利用しやすくなった。し かし、ピクセルサイズがさらに小さく なった最新型のSWIRセンサは、最高 性能のSWIRシステムにメリットがあ るものの、多くの人々にとっては、 SWIRイメージングはコストが高すぎ て手が出せないという状況に逆戻りし ている。そのため、最新型センサは、 多くのマシンビジョンシステム設計者 に敬遠されて、より手頃な価格の SWIRセンサが巻き起こした1つ前の 波を上回る波を生み出すことはないか もしれない。

著者紹介 コーリー・ブーン(Cory Boone)は、米エドモ ンド・オプティクス社(Edmund Optics)の技 術マーケティングマネージャー、ニック・シシ ュカ(Nick Sischka)は、同社イメージング製 品開発担当ディレクター。

イメージングレンズの基礎

クリストファー・ラッゼ

正しいレンズを選択することは、マシンビジョンシステムの開発における重 要なステップである。

マシンビジョン、またはイメージン グは、成長著しい分野である。ファク トリ・オートメーション、自律型システ ム、ライフサイエンス、航空宇宙、ロ ジスティクスなど、さまざまな分野の エンジニアが、自動化という目標の達 成を支援するためにビジョンシステム を開発している。

正しいレンズを選択することは、マ シンビジョンシステムの開発における重 要なステップである。本稿では、この 作業を正しく導くことを目的に、適切 なレンズを選択する方法を解説する。

マシンビジョンシステムの 要件定義

マシンビジョンシステムのレンズ選 択における最初のステップは、アプリ ケーションの要件を定義することであ る。選択を左右する2つのパラメータ は、作動距離と視野である。これらの パラメータの具体的な定義は以下のと おり。

・ 作動距離(Working Distance:WD) −レンズの前面または第一面から検 査対象物体までの距離

・ 視野(Field of View:FOV)−検査 対象物体の撮影可能領域。物体の この部分が、カメラのセンサの視界 を占めることになる。この領域は一 般的に、計算を容易にするために、 水平視野(HFOV)または垂直視野

(VFOV)の寸法に制限して算出さ れる。

全体的なFOV(水平×垂直の寸法、 HxV)を規定する際には、一般的なマ シンビジョンセンサのアスペクト比(縦 に対する横の比率)が4:3になることに 注意してほしい。(水平か垂直かにか かわらず)FOVという重要なパラメー タを定義して、それを本稿で説明する 計算に使用しなければならない理由 は、そこにある。

WDとFOVを定義したら、次に規 定するパラメータは、センササイズと 必要解像度である。

センササイズ

カメラセンサのアクティブ領域のサ イズは、1/1.1インチ、2/3インチ、 1.2インチなど、インチ単位の分数ま たは小数値で規定される。

この用語体系が、アナログ真空管の センサに相当するものに基づいている ことは特筆すべき点である。アナログ 真空管はもう使われていないが、大多 数のセンサメーカーが今でもこの仕様 を採用している。センサのアクティブ 領域の重要な項目は、水平方向と垂直 方向の寸法(FOVを求めるため)とセ ンサの対角寸法(対応レンズを判断す るため)である。

解像度

解像度とは、イメージングシステム で判別可能な、物体の最小フィーチャ

サイズである。解像度は、1mmあたり のラインペア(LP/mm)を単位とする 空間周波数としてより正確に表される。

適切な解像度を決定するには、アプ リケーションで解像する必要のある最 小フィーチャのサイズを定義してから、 そのフィーチャのピクセル数を定義す る。この値は、アプリケーションの目 的によって異なる。フィーチャあたり のピクセル数を選択する方法について 具体的な定義は存在せず、定めた解像 度で十分かどうかを知るにはそれを試 してみるしかないが、いくつかの一般 的なベンチマーク値を以下に示す。

フィーチャあたりのピクセル数

3 検出

4 向きの検出

10 認識

は必要ないが、特定のアプリケーショ ンに必要なレンズの品質を決定するた めに使用される。

考察が必要なその他のパラメータ は、被写界深度(Depth Of Field: DOF)と、IP等級、振動耐性、アサー マル化などの環境的要件である。被写 界深度とは、許容可能なフォーカスを 完全に維持できる最大物体深度のこと で、+/-X.Xmmの形式で一般的に表さ れる。

上記の要件と

レンズパラメータの関係  以上で、レンズに必要なすべての仕 様が揃ったので、次は、必要な焦点距 離(Focal Length:FL)を計算する。こ の値は、以下の式で近似できる。

意してほしい。例えば、FLの概算値 が19.7mmであったとすると、それと 全く同じ値のレンズはおそらく見つか らないので、システムの柔軟性に応じ てその値を大きくまたは小さくする必 要がある。

16 識別 F値 回折限界 解像度 被写界 深度 光スルー プット 開口数

これを使用して最小ピクセルサイズ を求め、以下の式でLP/mmに変換す ることができる。

この情報は、レンズのサイズの決定に

ここで、Hはセンサの水平寸法、 WDは作動距離、HFOVは視野の水平 寸法である。垂直寸法を重要な測定値 として使用する場合は、水平寸法の部 分を単に垂直寸法に置き換えるとよい。  これによって、規定したHFOVと WDに対して必要なFLの概算値が得 られる。FLは、さまざまなメーカーの 間で比較的標準化されていることに注

上記の式に示されているように、FL とFOVは互いに反比例の関係にある。 例えば、上記の式で使用したHFOVを、 ビジョンシステムの最小要件とみなす のであれば、概算値よりも一段階小さ なFLを選択してFOVを広げるのがよ い。つまり、ここでは19.7mmの代わ りに、より標準的な16mmのレンズを 選択する。

以上の手順で、アプリケーションに 使用するセンサをカバーするための、 必要なFLを持つレンズを選択するこ とができる。そのレンズでセンサのど れだけの大きさがカバーされるかに注 意してほしい。大きすぎるものを選択 すると、必要以上のコストを費やす可

図2 レンズのMTF 曲線の例。異なる空 間周波数、すなわち、 撮影対象物体のフィ ーチャサイズにおい て、達成可能なコン トラストのレベルを 示す(提供:エドモン ド・オプティクス社)

主要なレンズパラメータ  以上の手順でレンズを選択したら、 アプリケーションの要件を満たしてい ることを確かめるために、性能曲線を 参照する。まず確認する最も重要な曲 線は、変調伝達関数(MTF)曲線で、 その定義は次のとおりである。

変調伝達関数。 変調伝達関数 (Modulation Transfer Function: MTF)は、空間周波数(解像度)の関 数として、レンズがコントラストをど のように再現するかを表す、情報密度 の高い指標である。

能性がある。しかし、小さすぎるもの を選択すると、センサがカバーされず、 ビネット(口径食、定義は以下のとお り)が発生する。

・ ビネット−個々のレンズ素子の縁や 機械的絞りによってレンズシステム の外側を通る光線が遮られ、センサ に到達しない結果として生じる現象。

ここで、仕様表を分析して、1つ前

のステップで定義したパラメータにレ ンズが対応するかどうかを確認するこ とができる。WD/FOVの要件に関連 する情報が、提供されている仕様の中 に見つからない場合は、メーカーに問 い合わせてそれらのグラフを入手する か、光学ソフトウエアが自分で使用で きる場合は、ソフトウエアに入力する 数値を問い合わせるとよい。

図3 レンズの被写 界深度曲線。レンズ の作動距離のずれが イメージの焦点に与 える影響を、コンス トラスト(パーセント 単位)で表している (提供:エドモンド・ オプティクス社)

図2 は、センサチップの任意の箇所 におけるコントラストと空間周波数の 関係を表している。マシンビジョン目 的で必要となるおおよその最小コント ラストは、20%である。これに基づき、 20%のコントラストにおける空間周波 数として、レンズ性能を大まかに定義 することができる。このグラフから、 イメージ領域(すなわちイメージセンサ 上)において最も性能が低いフィール ド(ここではチップの中心から8mmの コーナー部)は、20%のコントラスト で約175lp/mmであることが、外挿に よって推定できる。レンズ倍率をこれ に乗算するだけで、これを物体領域に 変換することができる。

被写界深度。 アプリケーションの要 件によっては、所定のWDとF値にお けるレンズのDOFも知りたい場合が ある。レンズのDOF曲線の例を 図3 に示す。

MTF曲線と同様に、Y軸はコント ラストである。ただし、DOF曲線のX 軸は、作動距離のずれである。このグ ラフにおいて、0.0のポイントは最良フ ォーカスを表し、X軸に沿った+/-の 距離は、イメージのフォーカスが維持 される深度を表す。これは、特定の解 像度要件(この例では20lp/mm)で定

義され、一般的には20%のコントラス トにおいて定義される。

与えられたDOFが十分でない場合 は、レンズのF値(f/#)を大きくする ことによってその値を大きくすること ができる。このパラメータの定義は以 下のとおり。

・ F値−全体的な光スループット、 DOF、所定の解像度におけるコン トラストを生成する能力を制御す る、レンズの設定。

F値を変更することの影響を、p15の 表にまとめて示す。上の行はF値が大 きくなった場合( Ʌ )、下の行は、F値が 小さくなった場合( V )に、各パラメータ が増加/改善するか( Ʌ )、それとも減 少/悪化するか( V )を示している。

F値が小さなレンズほど高速で、よ り多くの光をシステムに通すことがで き、F値が大きなレンズほど低速で、 光スループットは低いと考えられてい る。

図4 は、先ほどと同じレンズを f/2.8の代わりにf/8.0で使用した例で ある。

このグラフでは、作動距離のずれの シミュレーション値が先ほどのグラフ よりもかなり大きい(DOFは2〜3倍)。

しかし、解像度はやや低くなっている。

F値をさらに大きくしていっても、 同じ傾向が観測される。解像度と DOFの適切なバランスは、アプリケー ション毎に見定める必要がある。

陥りがちな落とし穴  ビジョンシステム設計において最も 陥りがちな落とし穴の1つは、レンズ とカメラに十分なスペースを用意しな いことである。一般的に、大半のレン ズの最小作動距離は、中程度の焦点距 離(8〜25mm)に対して100mm、焦 点距離がそれよりも長い場合は最大で 750〜1000mmである。WD:FOVを

4:1とするのが一般的な経験則である。 これは万能の解決策ではないが、これ を基準として採用することで、将来的 な頭痛の種を回避することができる。

良いマシンビジョンレンズは高価かも しれないが、フルカスタムのソリュー ションほど高価ではない。

結論

レンズの選択は、出発点がわからな ければ気が重い作業かもしれない。微

図4 図2および図 3と同じレンズを f/2.8の代わりに f/8.0で使用した場 合の被写界深度曲線 (提供:エドモンド・ オプティクス社)

図5 図2および図 3と同じレンズを f/2.8の代わりに f/8.0で使用した場 合のMTF曲線(提供: エドモンド・オプティ クス社)

妙な判断が必要で、実験室環境での試 行錯誤が必要になる場合もある。正し いレンズソリューションの選定に悩む 場合は、イメージングレンズのメーカ ーにガイダンスやアドバイスを求めて ほしい。

著者紹介 クリストファー・ラッゼ(Christopher Razze) は、米エドモンド・オプティクス社(Edmund Optics)のマシンビジョンセールスエンジニ ア。

アサーマルマシンビジョンレンズとは何か

レベッカ・シャボニュー

アサーマルイメージングレンズは、耐久性に優れ、極端な温度変化に耐え、 標準的な市販レンズで起こりがちな性能の変化を最小限に抑える。

マシンビジョンやイメージングシス テム向けに開発された、標準的な市販 のイメージングレンズは、温度制御さ れた環境や、温度変化がわずかな用途 において、適切に機能する。しかし、 温度の極端な変化や広範囲な変化にさ らされる高性能ビジョンシステムにお いては、温度依存の性能変化を最小限 に抑えることのできる、アサーマル化 したイメージングレンズが、良い選択 肢である。

アサーマル化とは  アサーマル化とは、オプトメカニカ ルシステムに極端な温度や温度変化に 対する十分な耐久性を持たせるための プロセスを指す。また、そのプロセス を施したオプトメカニカルシステムを 表す語でもある。

物質は、温度変化に応じて膨張/収 縮する。この物質の大きさの変化(図1) は、熱膨張係数(CTE)によって表すこ

とができる。

式1 は、線形熱膨張係数 (CLTE)である。これとは別に、面積 膨張係数や体積膨張係数が存在する が、そのすべてをCTEと呼ぶ。CLTEは、 最も一般的に使用される形式である。

メージングレンズが必要である理由が わかる。

イメージングアセンブリは、一連の ガラス素子を配置した複数の集合体 が、より大きな金属鏡筒の中に収納さ れた構造をとるため、極端な温度変化 にさらされるマシンビジョンシステム を設計する際には、その他の影響も考 察する必要がある。

式1 線形熱膨張係数は、物質の長さ (L)と、その代表長さに沿った温度勾 配の逆数( dL/dT)に依存する。

各変数は以下のとおりである。

・ CTLEは、一般的に記号αL で表記 され、温度の逆数の単位(1/℃)で 規定される

・ Lは、物質の長さ ・dL/dTは、長さに対する温度勾配 の逆数

この式により、温度の極端な変化や 広範囲な変化にさらされる高性能ビジ ョンシステムに、温度依存の性能変化 を最小限に抑えるためのアサーマルイ

図1 温度(T)が変化すると、物質の長さ(L)は、その物質の線形熱膨張係数(CLTE)に基づい て変化する(本稿の図はすべて、エドモンド・オプティクス社提供)

熱デフォーカスは、レンズシステム の動作温度範囲における屈折率の変化 と物質のサイズ変化の両方に直接関係 する。

例えば、加熱されたレンズ鏡筒は膨 張し、素子の頂点と頂点の間隔が離れ るため、いくらかのディセンター(中 心ずれ)やロール(回転)が生じる。こ れによってガラス物質の屈折率が変化 し、そのすべてが組み合わさって、温 度変化に伴うレンズシステムの焦点位 置に影響を与える(図2 )。その他の要 因としては、光学収差、焦点距離、チ ップ、チルト、ディセンターの変化な どがある。

アサーマル化の種類

温度による焦点距離の変化を最小化 するためのアサーマル化は、アクティ ブまたはパッシブに行うことができる。 これらの用語は、許容可能な動作条件 を維持するための調整を行うために必 要な、補償操作の種類を指す。

パッシブなアサーマル化は、熱光学 効果(Thermo-Optic Effect:TOE)と、 物質のCTEの差の両方を利用し、屈 折率とサイズの両方の変化を補償する ように物質を光学系の設計に組み込む ことによって、行われる。異なる物質

を組み合わせることにより、ユーザー の介入や外部の電気機械的支援を加え る必要なく、特定の温度範囲において 温度が変化しても焦点距離を固定させ ることができる。パッシブなアサーマ ル化は、技術的要素が少ないため、一 般的にスペースや重量に制約のある用 途により適した製品が製造される。

アクティブなアサーマル化では、補 助的なハードウエアや筐体の追加が必 要になる可能性がある。それらは、レ ンズシステムの焦点を「アクティブ」 に補償または修正するか、あるいは、 設計焦点距離にレンズシステムを維持 するための加熱または冷却機能を提供 する。前者の場合は所望のシステム焦 点位置で、後者の場合は温度設定点で、 光学素子を安定化させるために、アク ティブシステムに対するフィードバッ ク制御ループが必要である。アクティ ブなアサーマル化には、より一般的な 光学物質が使用され、動作温度範囲の 広いアプリケーション環境での使用に 対するより高い耐久性が得られるが、 一般的にサイズはより大きく、実装コ ストはより高くなり、また、何らかの 形で電力を供給する必要がある。

性能確認方法

アサーマルレンズの性能の確認に は、米ゼマックス社(Zemax)の「Zemax OpticStudio」や米シノプシス社 (Synopsys)の「CODE V」などのレ ンズ設計ソフトウエアに、CADソフト ウエアを組み合わせて、イメージング レンズの光学機械性能と光熱性能のシ ミュレーションまたはモデル化を行う のが一般的である。熱効果のシミュレ ーションを行えば、レンズ設計の熱変 化に対する反応について、いくらかの 知見が得られるが、これらのシミュレ ーションは範囲がかなり限られていて、

図2 温度変化によってレンズの屈折率と位置が変化することで、レンズの焦点距離が変化する

図3 焦点距離150mmのアサーマルイメージングレンズの-10℃と+50℃におけるMTF性能

不正確である場合が多い。

所定の温度範囲における性能指標を 規定するイメージングレンズメーカー は、最先端の熱性能テストチャンバの 中でのレンズ試験で収集したデータに よって、その性能を保証することがで きるはずである。テストチャンバの環 境温度を変化させながら、1つ以上の 重要な動作パラメータの変化を、テス トベンチで記録する。固定焦点距離の レンズを含む、ほとんどのイメージン グレンズに対して、取得できる最も有 用なパラメータは、変調伝達関数 (Modulation Transfer Function: MTF)である。MTFは、レンズが生 成する画像のコントラストの変化を、 空間周波数または解像度の関数として 表す、光学伝達関数である。製造工程

図4 商用提供されている独トライオプティクス社(TRIOPTICS)のMTFテストステーションにお けるイメージングレンズの試験

図5 宇宙分野で使用されるイメージングレンズは、広範囲の温度変化に耐えられるようにアサー マル化する必要がある

におけるイメージングレンズのMTF の測定には、 図4 のようなテストステ ーションが使用される。MTF曲線か らエンドユーザーは、指定範囲の任意 の温度におけるレンズ性能を予測する ことができる。他の種類のレンズに対 しては、その他のパラメータの解析が 必要になる場合がある。例えば、テレ セントリックレンズの場合は、主光線 角度の変化を解析する必要がある。

アサーマルイメージングレンズの 応用分野

アサーマルイメージングレンズが最 適となる応用分野としては、無人航空

機(Unmanned Aerial Vehicle:UAV) やドローンによる航空宇宙イメージン グ、監視、過酷な工場環境における製 造などがある。例えば、UAVは、大 気圏の高い高度を飛行して調査を行う ため、激しい温度変化にさらされる可 能性がある。UAVドローンは農業に おいて、作物の健康状態と生産量の調 査を目的とした利用が増加している。

ファクトリオートメーションはこれ まで常に、マシンビジョンが最も多く 利用される市場の1つで、中には、標

準型のイメージングシステムコンポー ネントを損傷する恐れのある環境因子 を含む製造施設もある。そのような因 子としては、極端な温度以外に、衝撃、 振動、ウォッシュダウン用の高温/高 圧洗浄水などがある。溶接やレーザ材 料加工の検査においても、イメージン グシステムが過酷な温度にさらされる 可能性があるため、アサーマル化した システムを、専門家は推奨する。

過酷な環境におけるイメージングシ ステムの需要は高まっており、それら のシステムには、さらに厳しい性能要 件が課される。極端な温度や変化する 温度に対応するには、温度変化に対し て設計補償によって感度が抑制されて いるか、シールドされているビジョン システムが必要である。このようなア サーマル化要件は、標準の市販イメー ジングレンズの限界を超えており、カ スタムソリューションが必要であるこ とを意味する場合が多い。アサーマル 化は、さまざまな保護等級のイメージ ングレンズに適用可能で、その中には、 他よりもコストのかかるものや、標準 のレンズよりも長い試験時間を要する ものもある。そのため、一から設計さ れたカスタムイメージングレンズに対 してアサーマル化を検討するほうが、 標準または市販のイメージングレンズ を改良するよりも一般的に容易であ る。どのようなアプリケーション環境 においても、エンジニアが、すべての システムレベルのアプリケーション要 件を理解し、レンズメーカーと緊密で 明確なコミュニケーションを維持する ことが重要である。そうした手順に従 うことで、性能仕様を満たすカスタム レンズを確保することができる。

著者紹介 レベッカ・シャボニュー(Rebecca Charboneau)は、米エドモンド・オプティクス社(Edmund Optics)の光学エンジニア。

後記

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