SDGs Design School
Exploration 1.0
目次
はじめに
一般教育におけるデザイン
5 7
SDGsについて
13
福翔高等学校における「総合的な探究の時間」
19
SDGsチャレンジプロジェクト 総合的な探究の時間での実践
28
SDGsチャレンジプロジェクト 総合的な探究の時間 生徒の振り返り
34
SDGs教育をすべての人へ
2019年度 SDGsチャレンジプロジェクトグローバル経営プログラムでの実践 SDGsチャレンジプロジェクト 総合的な探究の時間 教員の振り返り 高校生にSDGs意識を浸透させる デザイン教育の導入
「問題」の発見から始まる 高校生の主体性を伸ばすデザイン教育 SDGs教育プログラムのためのツールデザイン
16
23
31
39
43
49
STEAM教育としてのSDGsチャレンジプロジェクト
53
謝辞
59
おわりに
57
はじめに
気候変動、高齢化、絶滅危惧種、食糧不足などの問題は、世界中で、そ
して我々の地域社会でも、重要な課題となっています。次の世代により明る
い未来を残すために、持続可能な開発目標はかつてないほど喫緊の課題 となっています。この課題に取り組むには、一部の人だけではなく、人類全 体の協力が必要です。
我々は、若い世代が世界の持続可能な発展に貢献する能力と創造性を
持っていると信じています。教育は、生徒を持続可能な開発問題に触れさ せ、彼らの視点から解決策を考えさせる、重要な役割を担っています。
九州大学大学院芸術工学研究院SDGsデザインユニットは、2019年か
ら福岡市立福翔高校と連携し、17名の生徒を対象とした「SDGsチャレン ジプロジェクト」という短期ワークショップを実施しました。2021年には、 福翔高校の高校三年生全員を対象とした、半年間にわたる全校プログラム
に発展しました。SDGsチャレンジプロジェクトの参加者は、ごく限られた
時間の中で、創造力と想像力を駆使し、持続可能な開発問題の解決に向 けて、たくさんの興味深いアイデアを提案しました。
このハンドブックを通じて、2019年から2021年にかけて、SDGsチャレ
ンジプロジェクトを企画し、設計し、実施したこれまでの過程と経験を共 有したいと思います。教育や学術関係の方々など、身近なコミュニティであ
なた自身のSDGsチャレンジプロジェクトを実施する際に、このハンドブッ クが少しでもお役に立てることを願っています。
一般教育におけるデザイン Leon Loh
はじめに 21世紀を生きる生徒は、複雑で不確実な未来に直面しています。世界
情勢が不透明な中、日本の高校教育では新たな方向性として、① 社会と地 域とのつながり、② 思考力・判断力・表現力の育成、③ 道徳教育・体験学習
の充実、という三つの教育目標が重視されています。デザイン教育は、上記
の三つの重要な教育目的を達成するのに適しています。海外では、デザイ ン教育を中学・高校の一般教育の一科目として、 「デザインと技術」や「技
術教育」の科目の中で実施しています。しかし、日本では、主に高等教育で
デザイン教育が行われています。 「技術教育」は日本の中学校でも実施さ
れていますが、技術的な知識や技能を中心とした科目であり、海外と比較 すると、デザインに関する学習は多くありません。本章では、一般教育とし てのデザイン教育がどのように提供され、デザイン活動を通じてどのように 思考力が養われるのかを紹介したいと思います。
一般教育としてのデザイン教育 デザイン教育についての一般的な既成概念は、生徒をデザインの専門
家として育成するための専門教育に関するものでしたが、Nigel Crossは
『Designerly Ways of Knowing』で、デザインの価値を万人のための
一般教養として正当化しました1)。また、Crossは、生徒がデザインを通し て、一般的に自然科学や人文科学で明確に定義されている問題とは異なっ
た、明確に定義されていない問題を解決する能力を育成することができる
とも説明しました。ある意味デザインは、明確に定義されていない現実問題
への取り組みの一形態ではありますが、すべての問題解決にデザインが含 まれるわけではありません2)~3)。
デザインを通じて現実問題に取り組む学習活動として、 「デザインと技
術」と「技術教育」があります。 「デザインと技術」と「技術教育」は、工芸 教育が起源ですが、近年では工芸教育から離れ、21世紀型スキルを育成
する科目としてデザイン活動の割合が徐々に増しています4)。 「デザインと 技術」や「技術教育」は、欧米、オセアニア、アジア等の世界各国では一般 教育科目ですが、一般的には政治的・社会的・学校的・個人的文脈によっ
て、教育の焦点が異なります5)~9)。 「デザインと技術」や「技術教育」では、 生徒はコミュニケーションデザイン、プロダクトデザイン、テキスタイル・フ ァッションなどのデザイン分野に触れることができます。一方、一般教育で
は、最終的な成果物よりも、プロトタイプなどの、デザインプロセスにおけ
る学習効果を重視しており、職業訓練を目的としたものではなく、思想力 や21世紀型スキルを身につけるアプローチが中心となります10)。最終的な
成果物よりもプロセスに焦点を当てて評価します11)。 「デザインと技術」と
「技術教育」に関するさまざまな研究によると、一般教育におけるデザイ ン教育の本質を以下のように示すことができます。
• デザイン活動を学ぶことを通して、批判的思考力、創造的思考力、シ
ステム思考力、問題解決力などの高次の思考力を養うことができま す12)~16)。また、企画力、実行力、評価力を養うことができます17)。
• 議論や会話を通して社会文化的な学習を促進します18)。
• 明確に定義されていない現実問題を解決することは、自然科学、数 学、計算機科学などの他科目のカリキュラムの学習を強化します。さら
に、実際の問題を解決することで、知識やスキルを現実世界での応用
に結びつけることができます。このように、問題とニーズを結び付ける ことで、 「社会性と情動の学習」を発展させることができます19)~20)。
• 学習に対する生徒を中心とした構成主義的アプローチ21)が可能とな ります。
デザイン活動を通じて、デザイン思考をはじめとする思考力 を養う デザイン思考という言葉を聞いたことがあるでしょうか?デザイン思考
の語源を辿ると、1960年代後半に登場しています22)。Georgiev23)によれ ば、デザイン思考の概念はLawson24)によって明示的に用いられ、Cross25) とSchön26)によって発展させたものであると言われています。デザイン思考
は、少なくとも、① デザイナーの分析と ②人間中心の問題解決、という二つ の視点に区別することができます27)。前者は活躍中のデザイナーの実践に
関する研究に対して、後者は意思決定者が難解な現実問題を解決するた めに用いる、人間中心の「開放的」な問題解決プロセスと言えます28)。歴 史的な観点から見ると、デザイン思考には多様な理解があります。デザイン
思考を決定的に定義付けすることは難しいのですが、デザイン思考には以 8
下のいくつかの観点が含まれています29)。
• 理解力としての応用
• 内省的思考アプローチ
• 多様な思考法や媒体の使用 • 難解な問題へのアプローチ
• 問題解決の枠を超えた活動 • 多様なスキルや知性の包含
• 情報処理の構造化された実践 • 情報処理の認知方式
• 明確でない問題(「厄介な問題」とも呼ばれる)に対処するための 戦略
デザイン思考を身につけるためには、問題発見とソリューションを展開す
る発散プロセスと、発散したアイデアをまとめたり評価する収束プロセスを
繰り返します30)。例えば、 「デザインと技術」の演習授業は、デザイン思考を
発展させる良い機会となるでしょう。ここでは主に、理由づけと内省的思考 力を育てます。それでは、理由づけと内省的思考力は一つ一つの活動を通
してどのように養われるのでしょうか?この活動は、デザインプロセスに従っ て常に発散と収束の思考プロセスを行います。デザインプロセスを経ること で、デザイン思考のスキルを身につけることができます
図1は、デザインプロセスを示す概念図で、一般的に以下の項目で構成
されています。
a. 問題発見
b. アイデアの概念化 c. デザイン開発
d. プロトタイプ(現実化)
e. 問題の解決策に対する評価
図1 デザインプロセス
9
問題発見のプロセスでは、生徒はマインドマップや問題をリスト化する
ことで、さまざまな問題を探索します。その後、なぜその問題が最重要の問 題なのか合理的に説明するためのリサーチを行います。このリサーチ段階
では、さまざまな質問をすることで、生徒は合理的な理由づけをできるよう になっていきます。
問題を定義する際に、あらゆるデザインプロセスの最初のステップは質
問することから始まります31)。問題を定義する際になされる議論が、正しい 前提に基づいているか、論理的に破綻していないかを判断するためには、
批判的思考で考える必要があります32)。リサーチを通して、生徒は自分の 主張に根拠を示すことができます。ButterworthとThwaitesによると、生
徒は理由づけのプロセスを習得することで、既に知っている知識を用いる
段階から、新しい知識と理解を得る段階へ進み、その理解を用いて、確信 を持って決定と判断を行うことができるようになります33)。理由づけは批 判的思考の重要なプロセスなのです。
批判的思考、問題解決、意思決定はすべて内省的思考の一部と言える
でしょう34)。内省的思考に取り組む際、生徒は衝動的に決定を下すのでは
なく、代替案を慎重に検討し、結果を吟味し、利用可能な根拠を比較し、
結論を導き出し、仮説を検証するなどの作業を行う必要があります。デザイ ンプロセスでは、生徒は評価と意思決定をするための、内省的思考を修得 します。
デザインプロセスにおける理由づけと内省的思考力の修得は、主
に最 終的に提 案される解 決 策を研ぎ澄ますために行われる、発散と 収束の反復プロセスによって完成されます。任意のテーマを設定し、そ
のテーマに関する問題を発見する際に、生徒はまず「どのような問題 がこのテーマに関連しているのか?」という問いに答える必要がありま す。この問いかけから始まり、テーマに関連している問題と関連してい
ない問題が混在している状況の下で、問題 探索を行うことが一般的で す。Dym、Agogino、Eris、Frey、Leiferは、デザイン活動で問われる質
問には、真偽に関わらず複数の既知の答えと、未知のあり得るかもしれな い答えが存在すると言います35)。質問者が既知の答えから、それらを統合
した未知の答えを導き出そうとする時、発散型思考では質問をすることで 既知の事実から新たな未知の可能性を引き出します。
同様に、デザインプロセスの中のアイデアの概念化プロセスでは、生徒は
「求められる機能に合った形、技術、色、製造方法、プロセスなどはどのよ うなものか?」という問いかけから探索を始めます。それぞれの発散型思考
プロセスの間に、生徒は収束させるための質問を通して、取捨選択しなが
ら最重要の問題やソリューションを導き出します。Dymらは、収束型思考 の特徴は、収束に向かう質問を繰り返しながら答えを導くことで事実が明
らかになると説明しています36)。収束させるための質問に対する答えは、検 証を重ねて確からしさを持つことが期待されます。このように、生徒はデザ 10
インプロセスのリサーチを通して、さまざまな手法を用いて事実を明らかに
したり、検証しながら自らの提案の正当性を確信することで、仮定や仮説 を更新することができます。デザイン活動においてデザイン思考力を育む
には、発散と収束のための質問を展開しながら、理由づけと内省的思考力 を身につけることが不可欠です。
参考文献 1). Cross, N.: Designerly ways of knowing. Design Studies, 3(4), pp.221-227 (1982) 2). Jonasson, D.H.: Instructional Design Models for Well-Structured and Ill-Structured Problem-Solving Learning Outcomes, Educational Technology Research and Development, 45(1), pp.65-94 (1997) 3). Jonasson, D.H.: Towards a design theory of problem solving. Educational Technology, Research and Development, 48(4), pp.63-85 (2000) 4). Marc. De Vries: Technology Education: An international history, Handbook of Technology Education, Springer international handbooks of education, pp.73-84 (2018) 5). Chia, S.C., Tan, S.C.J.: Teaching design & technology to develop students as persons: A Singapore vision. PATT Sessions at ITEEA Annual Conference 2012 proceedings, 26 (2), pp.1-6 (2012) 6). Lin, K.Y., Chang, L.T., Tsai, F.H., Kao, C.P.: Examining the gaps between teaching and learning in the technology curriculum within Taiwan’s 9-year articulated curriculum reform from the perspective of curriculum implementation, International Journal of Technology and Design Education, 25(3), pp.363-385 (2015) 7). Rasinen, A.: An analysis of the technology education curriculum of six countries, Journal of Technology Education, 15(1), pp.31-47 (2003) 8). Banks, F., Williams, J.: International perspectives on technology education, Debates in Design and Technology Education, pp.31-48 (2013) 9). Wakefield, D., Owen-Jackson, G.: Government policies and design and technology education, Debates in design and technology education, pp.7-20 (2013) 10). Roberts, P.: The aims of design education, Design Education: a vision for the future, UK: Loughborough Design Press Ltd., pp.34-50 (2013) 11). Stables, K.: Assessment in design and technology: Authenticity and management issues, Issues in Design and Technology Teaching, pp.129149 (2002) 12). Dow, W.: The role of implicit theories in the development of creative classroom, Data International Research Conference 2004, pp. 61-66 (2004) 13). Feng, W.W., Siu, K.W.M.: Meeting the challenges of education of education reform: Curriculum development of technology education in mainland China and Hong Kong, International conference on technology education in the Asia Pacific Region conference proceedings: Less if more, pp.447-457 (2009) 14). Middleton, H.: Creative thinking, values and design and technology education, International Journal of Technology and Design Education, 15(1), pp.61-71 (2005) 15). Rutland, M., Barlex, D.: Perspectives on pupil creativity in design and technology in the lower secondary school curriculum in England, International Journal of Technology and Design Education, 18(2), pp.139165 (2008) 16). Barak, M.: Teaching and Learning Technology in different domains: tradition and future developments, Handbook of Technology Education, Springer international handbooks of education, pp.283-287 (2018)
11
17). 前掲 7), pp.43-44. 18). Fox-Turnbull, W.: Learning in technology, Technology Education for Teachers, The Netherlands: Sense Publisher, pp.55-92 (2012) 19). 前掲 16), pp.284 20). 前掲 18), pp.55-89. 21). 前掲 19) 22). Hassi, L., Laakso, M.: Conceptions of design thinking in the design and management discourse: Open questions and possible directions for research, Proceedings of the IASDR 2011, the 4th World Conference on Design Research, 31 Oct.-4 Nov, (2011) 23). Georgiev, G.V.: Design thinking: An overview, Special Issue of Japanese Society For The Science of Design, 20(1), pp.70-77 (2012) 24). Lawson, B.: How designers think: The design process demystified, London: Architectural Press, (1980) 25). 前掲 1), pp.221-227. 26). Schön, D.A.: The reflective practitioner: How professionals think in action, New York: Basic Books, (1983) 27). 前掲 23), pp.70-77. 28). Melles, G.: Curriculum design thinking: A new name for old ways of thinking and practice?, Proceedings of the 8th Design Thinking Research Symposium (DTRS8) Interpreting Design Thinking, Sydney, 1920 October, pp.299-308 (2010) 29). 前掲 23), pp.70-77. 30). Lindberg, T., Meinel, C., Wagner, R.: Design thinking: A fruitful concept for IT development, Design Thinking: Understand-Improve-Apply, Understanding Innovation, Springer-Verlag Berlin Heidelberg, pp. 3-18 (2011) 31). Dym, C.L., Little, L.: Engineering design: A project-based introduction (2nd ed.), New York: John Wiley, (2003) 32). Huges, W., Lavery, J., Dorn, K.: Critical thinking: An introduction to the basic skills (6th ed.), Canada: Broadview Press, (2010) 33). Butterworh, J., Thwaites, G.: Thinking skills: Critical thinking and problem solving (2nd ed.), Cambridge University Press, (2013) 34). 前掲 33) 35). Dym, C.L., Agogino, A.M., Eris, O., Frey, D.D., Leifer, L.J.: Engineering design thinking, teaching, and learning, Journal of Engineering Education, 94(1), pp. 103-120 (2005) 36). 前掲 35)
12
SDGsについて 張 彦芳
デザインは教育課題に対して何ができるのか 21世紀、環境や気候の変動による大規模な自然災害、高齢化社会、少
子化問題、社会の不平等などさまざまな社会的課題があるなかで、子ども たちはこの複雑で不確実な未来にどう直面すべきでしょうか。この時代に
合わせた、適切に改善された主体的・能動的な教育プログラムを作らなけ ればなりません。多くの高等学校が実施する総合的な探究の時間では、
このような新しい教育プログラムを開発しています。私たちの高大連携 SDGs教育プログラムも同じ取り組みです。長期視点でさまざまな分野の 教育者が協力して、子どもたちが社会的視点、創造性、コミュニケーション
スキルなどの21世紀型スキルを身につけ、自発的に提案できるような教育 イノベーションを促進する教育プログラムの開発を目指しています。
SDGsは何でしょうか SDGsは、Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)
の略語で、2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のた めの2030アジェンダ」に記載された2016年から2030年までの目標です。
“地球上の誰一人として取り残さない”を合言葉に、持続可能な世界を実現
するために、17のゴールから構成されています(図1)。それぞれのゴールの 中にはさらに細かいターゲットが設定されており、全部で169のターゲット
があります。詳細内容については、国連開発計画のウェブサイト1)から確認 できます。
SDGsが定められたことで、世界の共通目標として、さまざまな背景の人
が分野の枠を超えて連携して、このSDGsの目標に向かって取り組み始め ています。このハンドブックの目的は、SDGs教育プログラムを作ることに よって、高校生の社会課題の理解や行動力などに繋がる教育に貢献するこ とです。
図1 Sustainable Development Goalsの17のゴール
なぜSDGsが必要でしょうか 私たちの住む世界では、実際にどのようなことが起こっているか知って
いますか?地球はどのような非常事態に直面しているか知っていますか?こ こで少し例をあげてみましょう。
• 8億人以上の人々が既に気候変動による被害(干ばつ、洪水、異常気 象など)に晒されています。
• 海面上昇率は年平均3ミリという、3,000年で最大の速度で上昇して います。
• 全世界の野生生物の数は、人類の影響により過去40年間で60%減
少しました。100万もの動植物の種が数十年以内に絶滅に瀕すると 言われています。
• 世界の熱帯林は驚異的な速さで減少し、1分間に30のフットボール 競技場に相当する面積を失っています。
• 7億人以上の人々が1日に2米ドル未満という極端な貧困状態で暮ら しています。
• 全世界で1億5,200万人以上が児童労働を強いられています。
14
このように大規模な社会課題は山積みの状態です。日本でも同様に、
生産消費は増加傾向にあり、過度な消費や大量のゴミ、フードロスなどの 課題は非常に深刻になってきています。地球人にとっては他人事ではない
緊急事態です。いち早く世界の人々が一丸となり、連携してSDGsに取り組 まないと、私たちの地球は未来がないでしょう。
どのようにSDGsに取り組むのでしょうか SDGsの目標はそれぞれ非常に大きいもので、容易に達成することは難
しいですが、みんなの力を合わせて一緒に課題に向き合って、ともに解決 策を模索することが大事です。
九州大学大学院芸術工学研究院は得意とするデザイン思考を活かし
て、さまざまな取り組みを行っています。例えば、Global Goals Jam2)と
いうワークショップを2016年から毎年行なっています。このワークショップ
は、SDGsの達成に向け、グローバルな視点で持続可能性を考え、ローカル な課題解決のアイデアを生み出す2日間の国際的な市民参加型ワークショ
ップです。2日間のグループワークを通じて、SDGsへと繋がるサービス・プ
ロダクト・アイデアを作っていきます。これまでに200回以上のワークショッ プが開催され、7000人以上が参加し、1000以上のアイデアが生み出され
ています。デザイナー、プログラマー、エンジニア、研究者、市民など、さま ざまな人がクリエイティブな発想や力を持ち寄り、SDGsへ貢献する世界規 模の取り組みです。他にもSDGsデザインスクールやSDGsデザインインタ ーナショナルアワードなど多くの取り組みを行なっています。
SDGsは、国、企業、学校などの組織の取組みだけではなく、生活者一
人ひとりの日常生活の中でもできることがたくさんあります。例えば、不要
な電気をつけっぱなしにしない、食事をする際に食べ残しをしないなど、普 段の生活の中で工夫すれば、フードロス、ゴミ問題など大きい社会課題に 貢献することができます。
大事なのはTHINK BIG, START SMALL, MOVE FASTです。 一緒に取り組みましょう。 SDGsを。
注および参考文献 1). 国連開発計画(UNDP)駐日代表事務所ウェブサイトhttps://www.jp.undp.org/ content/tokyo/ja/home/sustainable-development-goals.html (最終閲覧 日:2022.218) 2). Global Goals Jam公式サイト https://globalgoalsjam.org (最終閲覧 日:2022.218)
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SDGs教育をすべての人へ 下村 萌
楽しく、クリエイティブにSDGsを知ることから始めてみま せんか? 九州大学SDGsデザインスクール1)は、SDGsを知らない方や、SDGsに
向けてこれから何か始めたいと思う方、これからの社会をつくる子どもや 若者に、デザインの考え方を使いながらSDGsを学び、実践する教育プロ グラムを提供しています。
このスクールは、2019年に設立した九州大学大学院芸術工学研究
院SDGsデザインユニットが行う教育活動です。子どもから大人までさ
まざまな人を対象に地域の学校や公民館、オンラインなどで活動してお り、SDGsに対して、デザインの領域で貢献することを目指しています。
私たちは2019年からケーススタディとして小学生、高校生、大学生向け
のSDGsデザインスクールを開講してきました。そこでは、生徒が社会課題 を発見し、解決策を考えるというプロセスを経て、自分の身近なことから
SDGsに貢献できると気づくことができるようになります。具体的には教 育、健康、貧困、労働環境、気候変動、環境保護など社会で起きているさ
まざまな課題を見つけ、その課題の核心が何であるか深く知るための調査
を行います。次にグループでアイデアを出し合いながらその課題をどうやっ て解決するか考えます。
他の科目と違い、ここでは正解の解答はありません。教員が生徒のディ
スカッションを促したり、違う視点を与えたり、共に考える伴奏者として寄
り添い、さまざまな角度から実践的もしくはスペキュラティブな解決策を
生み出します。生徒は、こうしたプログラムを通して、21世紀型スキルと呼
ばれる、コミュニケーションスキル・創造性・批判的思考・社会性と情動の 学習(Social Emotional Learning)を身につけます。
SDGsデザインスクールのメリットは生徒のためだけではありません。生
徒を指導する教員にとっても、地域の多様なニーズや社会の急激な変化に 合わせたSDGsの新しい授業を実施できる利点があります。SDGsデザイン
スクールの授業に登壇した教員は「生徒が積極的に意見を述べたり興味を 持って課題を進めている様子を見て、これからの学びは答えを教えるのでは なく、今回のような(正解のない)形なのかもしれない」と振り返りました。
SDGsデザインユニットのメンバーは教壇には立ちません。私たちの役
割は、創造性を育むSDGs教育を実践するためのサポートです。SDGs教育
を実現するために、カリキュラムの構築、授業で使用するツールの開発、創 造的なアイデアを引き出すための教員へのアドバイスなどを行います。
これまでに実施したケーススタディから得られた知見や成果を誰でも使
えるオープンソースの教育パッケージとして世界に発信する予定です。教育
パッケージには教育プログラムのガイドブック、生徒が使用するワークシー ト、教員が使う指導ツール、参考資料などが入ります。教育関係者だけで
なく、地域のプロジェクトや企業などでもぜひSDGsデザインスクールの教
育パッケージを使ってみてください。そして、さまざまな視点からのご意見や
17
事例をお寄せください。SDGsに向かってさまざまなアクションが生まれる ことを期待しています。
注および参考文献 1). 九州大学SDGsデザインスクール,九州大学SDGsデザインユニット ht t p s : /w w w. s d g s . d e s i g n . k y u s hu - u . a c . jp / 2 019/11/01/ % E 4 % B9%9D%E5%B7%9E%E5%A4%A7%E5%AD%A6sdg s % E 3% 8 3% 87 % E 3% 82 % B 6% E 3% 82 % A4% E 3% 8 3% B 3% E 3% 82B9%E3%82%AF%E3%83%BC%E3%83%AB/ (最終閲覧日: 2022.3.7)
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福翔高等学校における 「総合的な探究の時間」 手島 政則
吉井 宏平
はじめに 「総合的な探究の時間」という科目をご存じですか?この科目は2018
年の学習指導要領改訂により高等学校の「総合的な学習の時間」が名称
変更した科目です。この科目は「探究の見方・考え方」を働かせ、横断的・
総合的な学習を行うことを通して、自己の在り方生き方を考えながら、課題
を発見し解決していくための資質・能力を育成することを目的としています 1)
。このような授業が行われる背景には、凄まじい勢いで発展するAI技術
の進歩やグローバル化の進展に伴う社会構造の変化があります。近い将 来、Society5.0と呼ばれる超スマート社会が到来するとも言われており、
今まであった多くの仕事がAIに代替されるようになると指摘されています2)
。変化の激しい予測困難な社会の中で学校教育には、子どもたちがさまざ まな変化に積極的に向き合い、他者と協働して課題を解決していくことや、
さまざまな情報を見極め、知識の概念的な理解を実現し、情報を再構成す るなどして新たな価値につなげていくこと、複雑な状況変化の中で目的を
再構築できるようにすることが求められています3)。その中で、日ごろ学ん でいる科目の学習の深化はもちろん、それらを総合的、横断的に活用して
主体的に物事を捉え探究する態度の育成が必要になります。 「総合的な探 究の時間」はそうした形での授業の展開に適した科目であると言えます。
福岡市立福翔高等学校について 福岡市立福翔高等学校(以下福翔高校)は1900年に福岡市商業学校
として設立されました。福岡商業時代は、明治・大正・昭和・平成と激動の
中、100年に亘り、常に進取の気性と自由闊達の気風に富み、国際的な視
野を持つ産業人育成を牽引してきました。2000年、社会情勢の変化や進
路希望の多様化に応え、21世紀を支える人材育成を視野に商業科・情報 処理科・普通科から総合学科へ改編し、校名も福翔に変更し新たなスター
トを切りました。2020年度までに卒業生は約3万6千人を数え、福博の街 を支える政財界人を多数輩出しています。
2000年度より福岡都市圏初の総合学科高校として生まれ変わった福
翔高校は、2006年度にコース制を導入した「セカンドステージ」をスタート し、さらなる進化を目指し、進学型の総合学科として「サードステージ」を
2013年度よりスタートさせています。そして2019年度より「サードステージ 第2章」として従来のコースに加えて、3つの進学支援プログラム(特別文 理・スポーツ文化・グローバル経営)を導入しました。
福翔高校では10年以上前からコミュニケーションプログラムと称し、行
事や授業において学校生活でインプットした知識をアウトプットする取り組 みを行っています。この取り組みは、単にコミュニケーション能力の育成と
いうだけではなく、課題解決のために意見交換をし、意思決定を図り、課 題に対する最適解を求めるといった実践的な内容を取り入れています。
その中の代表的な活動としてSCP(Student Company Program)4)とい
う会社経営について実践的に学ぶプログラムがあります。この取り組みで は経営のスキルを学びながらコミュニケーション能力や課題解決能力を身
につけることができます。また、これ以外にもさまざまな取り組みを実践し ており、社会の変化に対応した人材育成に努めています(図1)。 導入年度
取組内容
H12 H18 H19 H29 H31 R2 ~ H24 科目「日本語コミュニケー ション」 ジュニア・アチーブメントプ ログラムジョブシャドウ, MESE,SCP
JS,MESE SCP:H20~
ロジカルシンキング講座 SDGsチャレンジプロジ ェクト R80(一部の科目)
目指す育成能力 ① ① ② 思考力・判断力・ ③
表現力
④ ⑤
目指す育成能力:① コミュニケーション能力,② 課題解決能力,課題分析 能力,③ 論理的思考能力,④ 課題発見能力,課題探究能力,⑤ 読解力 図1 キャリア教育(コミュニケーションプログラム)の変遷について
「総合的な探究の時間」と「21世紀型スキル」 福翔高校が取り組んできたキャリア教育は、総合的な探究の時間が導
入されるまで、問題解決能力の育成を主としており、問題を発見する力の育 20
成についてはあまり取り組んでいませんでした。 「21世紀型スキル」という
グローバル社会を生き抜くために必要とされる能力がありますが、この能 力の中核を担う力に「人間関係形成力」 「問題解決力」そして「問題発見 力」があります5)。これらの力は、現状を分析し目的や課題を明らかにする
点において有益であり、今後社会で求められる力であると言われています。
こうした力を福翔高校の学習にも取り入れ、生徒に身につけさせることが できないかと考えていたところ、デザイン思考を用いて問題解決能力や問 題発見能力、さらには成果発表といったアウトプットまでを実践的に育成す
ることができる、九州大学大学院芸術工学研究院SDGsデザインユニット
の教育プログラム「SDGsデザインスクール」を知りました。このプログラム はデザイン思考を用いて個人の探究活動とグループ活動を組み合わせる内 容になっており、生徒がさまざまな知恵を出し合い、アイデアに深みを増す
ことを可能にしています。このプログラムでは上記に示したような力「21世 紀型スキル」を身につけさせることができる取り組みであるといえます。
このプログラムの導入にあたってはSDGsデザインユニットと協議を
重ね、福翔型のカリキュラムに内容を改良しました。このカリキュラムは 「SDGsチャレンジプロジェクト」という名称をつけ、2019年度からグロー
バル経営プログラムの生徒を対象に実践を開始しています。これにより、
デザイン思考を使って問題を発見し社会問題を解決するプロセスを学ぶこ
とができます。また、このプロジェクトを全校的に取り組むことができるよ うに内容を改良し、2021年度からは「総合的な探究の時間」において3学 年すべての生徒に向け実践を始めています。
総合的な探究の時間「SDGsチャレンジプロジェクト」が もたらしたもの 福翔高校で「総合的な探究の時間」の授業がスタートし、2019年に入
学したグローバル経営プログラムの生徒は3年間SDGsチャレンジプロジ
ェクトを実践しました。この生徒たちは2年次に福翔高校のコミュニケーシ ョンプログラムのひとつであるSCPに参加するのですが、その活動におい て生徒の様子に大きな変化が見られました。
SCPとは、生徒が学校の中に資本金2万円(2015年度までは1万円)で
模擬の株式会社を設立し、商品の開発・生産・販売などを行って株主総会 で経営成果を発表するプログラムです。福翔高校では2009年度から導入 し、2016年度からは2年生の教育課程の中で「SCP経営演習」という名称
で授業として実施しています。このプログラムは、教師が一方的に教え進め
ていくのものではなく、生徒たちが協働で主体的に行っていかなければな りません。そのため、正解を教師から学ぶのではなく、最適解を生徒たち 自身で導き出す必要があります。SCPでは、実際に社長・副社長をはじめ
生産・販売(営業)・経理・人事の部門を置いて会社を経営します。経営を
行いながら企業の仕組みや経営の知識を学ぶことができるとともに、課題 分析や問題解決能力・コミュニケーション能力などを身につけることがで
きます。さらに、校内で行われる中間決算の発表会や株主総会発表会に
おいて、決算書類や販売実績など活動の成果を発表する機会もあります。
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年度末には会社を清算して1年間のプログラムが終了します。 この活動において、SDGsチャレンジプロジェクトを受講した生徒たち
は、設立する会社の企業理念にSDGsの内容を盛り込むようになり、環境 に配慮する商品開発や持続可能性を意識した会社運営など、これまでには 見られなかった取り組みを行うようになりました。社会課題に対しても高い
意識を持つようになり、企業としてどのようにそうした課題に向き合ってい
くかを真剣に考えていました。こうした変化はSCPだけに留まらず、学校の
さまざまな場所で起こり始めています。今後も、SDGsチャレンジプロジェ クトが学校に大きな変革をもたらしてくれることでしょう。
注および参考文献 1). 文部科学省:「第1章 総 説 第2節 総合的な探究の時間改訂の趣旨及び要 点 2 改訂の要点 (2)目標の改善」 『【総合的な探究の時間編】高等 学校学習指導要領,(平成30年告示)』, https://w w w.mext.go.jp/content/1407196_21_1_1_2.pdf (最終閲覧日: 2022.3.7) 2). Frey, C. B., Osborne, M. A.: The future of employment: How susceptible are jobs to computerisation? (2013), https://www.oxfordmartin.ox.ac. uk/downloads/academic/The_Future_of_Employment.pdf (最終閲覧日: 2022.3.7) 3). 文部科学省:「第1章 総 説 第1節 改訂の経緯及び基本方針 1 改訂の経緯」 『【総合的な探究の時間編】高等学校学習指導要領(平成30年告示)』,https:// www.mext.go.jp/content/1407196_21_1_1_2.pdf (最終閲覧日: 2022.3.7) 4). 公益社団法人ジュニア・アチーブメント日本が提供する教育プログラムhttps:// www.ja-japan.org/programs/studentCompanyProgram.html (最終閲覧 日: 2022.3.7) 5). 国立教育政策研究所:「教育課程の編成に関する基礎的研究 報告書7 資質や 能力の包括的育成に向けた 教育課程の基準の原理[改訂版]」 平成 26 年, (2014)https://www.nier.go.jp/05_kenkyu_seika/pdf_seika/h25/2_1_ allb.pdf (最終閲覧日: 2022.3.7)
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2019年度 SDGsチャレンジプロジェクト グローバル経営プログラムでの実践 手島 政則
吉井 宏平
はじめに アクティブラーナーとは何でしょう?日本語では「能動的学習者」と言い
換えることができるのではないでしょうか。文部科学省も新学習指導要領
において「主体的で対話的で深い学びの実現」1)の重要性について言及し ています。私たち教員にとって、学習に対してアクティブで協働的で多角的 な視点を持った生徒を育成することが理想であることは言うまでもありま せんが、実際、教育現場において主体性をどのように育んでいくかは大きな 課題と言えます。この章では、そうしたアクティブラーナーを育成する教育 の取り組みを紹介していきます。
SDGsチャレンジプロジェクトのはじまり SDGsチャレンジプロジェクトは2019年度からアクティブラーナーの育
成を目指してスタートしました。このプロジェクトの導入の背景には、福翔高
校の生徒たちが社会問題について、興味関心が希薄であると言った点があ り、そのような問題に興味関心を持ってもらいたいという教員側の強い思い
がありました。社会問題に対し、生徒が自分のこととして捉えられるように
なり、論理的・批判的な思考力を用いながら課題発見・解決を行うことが できれば、生徒一人ひとりの将来に向けた生き方や在り方を考えるきっか けになり、生徒の社会へ参画する精神や能力を身につけることにつながり ます。社会問題を考えるうえで、特に、SDGsについてはこれからの社会で
最低限必要な知識、考え方であり、日本だけでなく全世界で共通の社会問 題であるため、これを柱に取り組むことが最適であると考えました。
こうした学習の機会を模索していると、さまざまな企業や学校がSDGs
を題材とした学習に取り組んでいることを知りました。そこで九州大学大 学院芸術工学研究院のSDGsデザインユニットにおいてSDGsデザインス
クールといった素晴らしい取り組みを行っているということを知り、同ユニ ットの張先生に相談したところ、福翔高校の取り組みや熱意に共感しても らうことができました。その後、福翔高校と九州大学で連携してチームを
組み、 「SDGsチャレンジプロジェクト」をスタートすることができました。こ れは当初、思いもかけなかった大きなプロジェクトへと発展しました。
グローバル経営プログラムにおける実践のはじまり SDGsチャレンジプロジェクト導入当初は、福翔高校グローバル経営プ
ログラムに所属している17名の生徒を対象として「産業社会と人間」2)とい
う授業を活用して実践されました。このプロジェクトは2年後の2021年に「 総合的な探究の時間」の2単位で実施することを想定し、この授業のプロ
トタイプとして始まりました。当初はSDGsという言葉は現在ほど一般的に は使われておらず、生徒はもちろん高校の教員でさえも、聞いたことはあっ ても説明できる人は少ない状況でした。そこで、まず九州大学の先生から
SDGsの知識と指導のノウハウについてレクチャーを受け、福翔高校のカリ
キュラムにおいてどのように実践すればよいか模索していきました。その後 も、何度も打ち合わせを重ねながら教材の開発や指導案の作成など準備 を重ね、授業の実践を行いました。授業後には、現場の状況を九州大学に
フィードバックし、指導内容の検証と改善、ワークシートの共同制作などを 行いました。
SDGsチャレンジプロジェクトの実践実績について、以下のようにまとめ
ています。 ①
実践
2019年度
2020年度
2021年度
②
受賞
1年生:グローバル経営プログラム1期生
17名
1年生:グローバル経営プログラム2期生
20名
2年生:グローバル経営プログラム1期生
17名
3年生:国公立大学進学希望者
27名
2年生:グローバル経営プログラム2期生
20名
3年生:グローバル経営プログラム1期生
17名
3年生:総合的な探究の時間
314名
2021年SDGsデザインインターナショナルアワード高校生特別賞受賞
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福翔高校グローバル経営プログラム グローバル経営プログラムは、2019年度より「福翔高校総合学科サー
ドステージ第2章」として導入した三つの進学支援プログラムのうちの一つ です。高校3年間で「簿記」や「情報処理」など経営に必要なビジネススキ
ルを身につけながら、英語だけでなくアジア言語(韓国語または中国語) を学習します。また、東南アジアの高校生や大学生との交流やさまざまな プロジェクトを通じて異文化を理解できる機会を設けることで、豊かな国
際感覚と広い国際的視野を身に付け、21世紀をリードする高い「志」をもっ
て、広い視野から自らの目指すべきキャリア像を描き、将来世界を舞台に 活躍する高校生を育成することを目的としています。 ◆目指す生徒像 グローバルな視点を持ち ◇ 広い視野を持ち、様々な情報を処理し分析できる ◇ 英語やアジア言語を活用し、コミュニケーションがとれる ◇ 多様な価値観を共有できるようになる ◇ 経営感覚をもっている
このプログラムは「経営」 「英語」 「アジア」の三つをキーワードにしてお
り、それぞれ以下のような目標を設定しています(図1)。 【経営】
1年 次から「簿 記 」を学習し、企 業の 経営状態などを理解・分析する能力を 身につけ、さらに、2年次から「情報処 理」を学習し、情報を主体的、実践的に 活用する能力を身に付け、経営リテラシ ーを学びます。
【アジア】 中国語や韓国語などの「アジア言語」を学 習し、外国人とのコミュニケーションを通し て、実践的な語学力や異文化への理解を深 めます。
【英語】 1年次から「英語」の学習をして、大学 入試に対応できる能力を身に付けなが ら、外国人とのコミュニケーションを通 して、実践的な語学力や異文化への理 解を深めます。また、ビジネス英語も学 習します。
◆特色
◇異文化体験研修
◇高大連携による留学生との交流 ◇外国語による研究発表 図1
グローバル経営プログラムの概要
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「指導する」から「導く」へ 導入初年度の授業では、生徒に「ごみ問題」と「気候変動」の二つの課
題を与え、5名から7名のグループを編成しました。その後、生徒はワークシ
ートを用いて、その問題に関する日常の疑問や困っていることについて、そ の理由も含めて記入し、課題設定への意識を高めました。そして、グループ
内で生徒が感じた問題を付箋に書き出させ、模造紙に貼り付けながら共
有し、議論を重ねながらグループで課題を一つ設定しました。それから、何
を用いて誰に向けて課題が解決できるのかを考え、コンセプトボードの作 成と課題解決に向けてのアイデア展開を行いました。最終的にはグループ
でアイデアを一つに絞り、アイデア検証シートで他者の視点を加えながらア
イデアの改良を行いました。アイデア決定後はポスターを作成し、アイデア がSDGsのどのゴールに該当するかを考えました。ポスター作成の際には、
色彩やイラストなどを用いると分かりやすいポスターになるということを伝 え、生徒も工夫を凝らしていたようでした。最後に、クラス内でプレゼンテ
ーションを行い、グループや自分の考えを述べ、聞き手の生徒はコメントカ ードに批評や感想を記入し、発表者にフィードバックしました。 ■授業の実践のプロセス
テーマの提示
→
問題発見の共有 ポスターの作成
グループ編成 →
→
→
個人による問題発見
課題解決のためのアイデア出し プレゼンテーション発表
→
→
→ アイデアの改良
→
フィードバック(他者評価)
このプロジェクトで生徒のグループはそれぞれ「幸せになるゴミ箱プロ
ジェクト」 「Power generating school」 「#ポイ捨てを減らすために」と いうアイデアを考え出しました。生徒はアイデアを考える過程で、付箋にア
イデアを書き出しながら模造紙に貼り、意見を集約していくブレインストー
ミング3)とKJ法4)を使いました。最初は苦戦しながらも、自分自身のアイデ アを考え出し、グループで議論を深めていました。グループワークの際に印
象的だったのは、議論が進むにつれて「ゴミ問題はなぜ起こっているのか」
「現在の制度はどのようになっているのか」など教員が誘導せずとも自然
と課題の本質や社会問題について議論するようになっていたことです。生 徒にとっては課題解決を行うことで、日常では気がつかなかった問題に目
が向くようになったのでしょう。また、授業後半になると生徒の中でさまざ
まな意見が飛び交い、私たち教員が思っていた以上に、生徒は学習に主体
的に取り組むようになっていました。生徒が考え出したアイデアは、まだ粗 削りな点も多く見えるものの、高校1年生ということを考えると、とても独 創的で楽しいアイデアに仕上がっていました。中でも目に留まったのは「幸
せになるゴミ箱プロジェクト」です。このアイデアはロボット型のゴミ箱が地 域を掃除して回り、地域住民や通行人もゴミを捨てることができるというア
イデアです。ゴミを捨てると音声で「ありがとうございました。」とお礼を言 26
う仕組みを考えており、通勤時間帯などでは「おはようございます。いって
らっしゃい。」と言葉を変えるなど、楽しくゴミを捨てる為の仕組みを考え
ていました。また、ロボットと子どもが接触しても痛くないように、クッショ ン性のある素材をゴミ箱に使ったらよいのではないかというアイデアも魅 力的でした。
このプロジェクトを始める前は、私たち教員も初めて取り組む授業で、
うまくいくのか?、生徒は理解できるのか?といった不安が多くありました。 しかし、実際に取り組んでみると、生徒は懸命に努力し、最後には時間が足
りなくなるほど議論を重ね、考え出したアイデアも九州大学の先生方から
もとても高い評価を受けるほど充実した成果を上げることができました。 生徒主体の学習では教員側は少なからず不安があるものですが、 「指導す る」という発想から「導く」という思考に切り替えて授業を行うことで、授
業の成功に繋げることができたと感じています。大切なのは「生徒を信じ る気持ち」ではないでしょうか。
注および参考文献 1). 文部科学省 「高等学校学習指導要領(平成30年告示)」 2). 主に総 合 学 科で 開 設されている授 業 の名称 文 部 科 学 省 「総 合 学 科に ついて」 ht t ps://w w w.mext.go.jp/a _ menu /shotou /ka ika ku /seido/1258029.htm (最終閲覧日: 2022.3.7) 3). ブレインストーミングとはアレックス・F・オズボーン氏により考案された会議方式。 集団でたくさんの意見を出し合いながら議論していくことで創造的な発想を生み出 すことを期待する技法。 4). KJ法とは、文化人類学者の川喜田二郎氏によって考案された情報の分析法。ブレ インストーミングにより発案された意見をグループ化し、系統別にまとめ整理して いく事により、意見を可視化し論理的に考え、問題点を整理する際に活用される。
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SDGsチャレンジプロジェクト 総合的な探究の時間での実践 吉井 宏平
授業を円滑に進めるために 福翔高校では2019年度の入学生から総合的な探究(以下、総探)の授
業をカリキュラムに組み込んでおり、2021年度の3年生の総探の授業にお いては前章で述べた「SDGsチャレンジプロジェクト」の内容を改良し実施 しました。この授業は314名の生徒を5~6名のグループに分け、国語科、
英語科、数学科、理科、社会科、保健体育科、家庭科、芸術科から27名の
教員が一人当たり2、3グループを受け持つ形で実践されました。指導に当 たる教員の多くがこうした形式の授業に参加するのは初めてであり、指導 に対して不安を持っている教員も少なくありませんでした。また、生徒にお
いても高等学校の授業で課題発見、解決型の学習に臨むのは初めてとい った生徒も多くいました。
私は進路部キャリア教育課の総探担当としてカリキュラム作成と全体
運営に携わりましたが、今回は前章で述べたような少人数での授業ではな
く、また、初めて関わる教員も多くいるため、どのように授業全体の運営を
行っていくか非常に頭を悩ませました。なぜなら、総探には他の教科のよう に検定教科書1)がないため、授業を実践する際に基準となる教材がなかっ
たからです。そこで、教科書に代わるワークシートを作成することにしまし
た。これまで行ってきたSDGsチャレンジプロジェクトでは、いくつかのワー クシートはあったものの、それらを体系化したものがありませんでした。授
業での用語解説や生徒が調べた内容を記入するワークシートを作成し、体 系化し、冊子にすることで、教員にとっても授業を進めるに当たっての指標
となり、生徒も体系化されたプロセスで学習を進めることができると考え
ました。その結果、授業の大筋はワークシートで示すことができ、授業にお いても流れに沿って学習を進めることができました。
授業を実践して 2021年度のSDGsチャレンジプロジェクトは4月から10月までの7ヵ月と
いう長期間に亘る授業であったため、ワークシートの内容は細かくセクシ ョンを区切り、個人作業とグループによる協働作業を組み合わせて展開す
る形にしました。まず、生徒は身の回りにある困りごとから課題を考え、グ ループで共有し、取り組む課題を明確化しました。前章でも述べたように
共有の際はブレインストーミングとKJ法を使ってデザイン思考を意識するよ うに指導しています。次に、その課題の背景について歴史的視点と社会的 視点から調べ学習を行いました。福翔高校には2020年度の冬から一人一
台のICT端末(iPad)が配備されており、生徒が調べ学習を行う際には主
にインターネットを利用し、同時に図書館も活用しました。それから課題解 決のターゲットを決め、先行事例の調査を行いました。その上で、個人で課
題解決のアイデアを出し、それをもとにグループで話し合いながらアイデア を集約し、その内容をスライドやポスターにまとめました。ここまで進んだ
段階で7月を迎えており、1学期の終わりでもあることから、生徒が考えた アイデアを発表する中間発表会を企画しました。中間発表会には大学、専
門学校、高等学校、行政機関や企業など、学外から約50名の講師をお招き し、生徒発表に対して質疑や講評をして頂きました。生徒は学外の講師に
緊張しながらも自分たちの考えたアイデアを堂々と発表していました。中間 発表ということもあり、多くの指摘を受けたグループもあったようですが、
この取り組み以降、生徒のモチベーションが格段に上がり、2学期からの 活動では、より主体性を持って学習に取り組む姿が見られました。9月から は中間発表を受けてのアイデアの改良、プロトタイプの作成を経て、最終 発表会を行いました。最終発表会でも学外から40名程度の講師をお招き
し、発表を聞いて頂きました。最終発表会後のアンケートでは、高校生なら
ではの独創的なアイデアや探究へ向かう姿勢、プレゼンの内容などについ て肯定的な意見を多く頂くことができました。
授業を振り返ってみると、1学期にはなかなか学習が進まなかった生徒
も、6月頃からデザイン思考や探究のプロセスを理解し始め、中間発表を経
て、2学期には主体的に学習に取り組むことができていました。中間発表
会や最終発表会で指摘やアドバイスを頂いた事が、生徒の主体性の伸長に 大きな影響を与えたように思います。正直なところ、私も生徒がここまで素
晴らしいアイデアを出せるとは思っていませんでした。実施初年度にここま での成果を挙げられたことは大変うれしく思うと共に、高校生の持つポテ ンシャルの高さを改めて感じました。ただ、同時に、生徒の課題設定の甘さ
や、アイデアの実現可能性のなさなど、さまざまな課題も見つかったため、
授業プロセスを改めて見直していきたいと思います。教員の世界では「授 業は生き物」と言われますが、正にその通り。毎年授業をブラッシュアップ していくことが大切だと思います。
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注および参考文献 1). 文部科学省 『教科書検定制度について』 学校教育法により、小・中・高等 学校等の教科書について教科書検定制度が採用されている。教科書の検定と は、民間で著作・編集された図書について、文部科学大臣が教科書として適切 か否かを審査し、これに合格したものを教科 書として使用することを認めるこ とができる。https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/tosho/003/gijiroku/08052214/001.htm (最終閲覧日: 2022.3.7)
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SDGsチャレンジプロジェクト 総合的な探究の時間 教員の振り返り 吉井 宏平
プロジェクトに携わった教員 SDGsチャレンジプロジェクトがスタートした2019年、指導を行った教
員は商業科、英語科、美術科(筆者)の3名でした。3名それぞれの役割と
して主幹教諭である商業科の教員が九州大学との連絡窓口、受講する生 徒のクラスの担任である英語科の教員が生徒との連絡調整、美術科の教 員が授業の実践を行いました。元々、2年後にはこのプロジェクトを学年の
授業に組み込んで実践することも計画していた為、授業は公開授業とし、 授業には毎回4、5名の教員が参観に来ていました。次年度の2020年には
1年生から3年生の小規模クラスでプロジェクトを実施し、教員も英語科か ら1名教員に参加してもらい授業を担当してもらいました。そうした準備段 階を経て、いよいよ2021年には3学年「総合的な探究の時間」において生 徒314名がSDGsチャレンジプロジェクトを行い、それに伴い、教員も英語
科、国語科、数学科、理科、社会科、家庭科、芸術科、保健体育科から総勢 27名の教員が授業担当者として加わり、授業を実践しました。
授業を行っての課題 授業の後、担当教員に向けて振り返りのアンケートを行いました。その
中では以下のような課題が挙げられていました。 振り返りアンケート(抜粋)
• 気になったのは、話し合いや作業がスムーズにいったグループと時間が
かかったグループがあり、若干時間を持て余していた生徒もいたことです。 • どこまで生徒に指示を出すべきか、アドバイスを出すべきか、判断に迷 う時もありました。 • 生徒たちが課題を決め、その解決に向けた取り組みを模索していくわけ ですが、iPadが常に手元にあるため、どこかのwebサイトから引用して いるのではないか、この道筋が本当に生徒のオリジナルな内容なのかも 声掛けに困りました。
「生徒の考え出したアイデアに対してどの程度、教員が意見するべき
か?」と言った課題は上記以外にも見られ、授業を実践していた際にも多 く寄せられた質問でした。これは生徒主体の学習において、とても難しい
点だと言えます。生徒たちは一生懸命に考え、アイデアを出しているのです が、時に生徒の出したアイデアに多くの問題点がある場合があります。そう
した点に気が付いた教員が指摘してしまう事により、生徒が自ら考える機 会を奪ってしまうことにもなりかねず、時には生徒のモチベーションを下げ てしまう場合もあります。しかし、指摘せず問題点をそのままにしておくと
アイデアを展開していく際に行き詰まり、アイデアが表層的なものになって
しまうことも考えられます。この課題について明確な答えを出すことは非常 に難しいですが、大切なことは教員が「生徒と同じ目線で共に考える」と言
った考え方ではないでしょうか。特にSDGsを取り扱った社会課題は子ども
たちだけではなく、私たち教員も直面している問題です。もちろん課題に対
して明確な答えなどなく、生徒と一緒に悩み考え、現状を的確に捉え、最
適解に近づけてあげることが必要なのではないでしょうか。また、福翔高 校では生徒が一人一台のiPadを持っており情報収集などさまざまな場面
で活用してきました。しかし、安易にインターネットに頼ってしまい、インター ネットの情報が正しいかを判断しないまま活用してしまった生徒がいたこと
も事実です。また、インターネットにより簡単に情報収集ができてしまう事
から自分の足や目で見た体験などを行わないまま活動をしていた生徒もお り、課題に対して当事者意識が薄くなってしまうことにもつながりました。
インターネットは大変便利なツールですが、そうした情報と同時にフィール ドワークを行うなど、生徒に実体験を多く積ませることにより、より良い課 題解決に導けるのではないでしょうか。
授業を行っての成果 授業の成果としてアンケートには下記のような回答が見られました。 振り返りアンケート(抜粋) • 生徒たちも1学期当初はグループワークに慣れず、ぎこちなく話し合いを 行っていましたが、回を重ねるにつれて話し合いが活発化し、学期末に は人前で堂々と発表をできるようになっていました。その成長を見守る 32
ことができ、とても喜ばしかったです。
• ほとんどの生徒が協力し合い、アイデアも素晴らしいものが出ていたの で、高校生の柔軟な考え方に感心した部分が大きかったです。 • 生徒のマンネリと妥協を打破して下さったのは外部講師のお力でした。 今後とも続けていただけると嬉しいです。 • 生徒と共にSDGsについて深く学ぶことができて、多様な意見や考えを 共有して協働的に学ぶこと自体が必要な経験だったと思います。中身に ついても、社会問題を本質的に理解するきっかけになったので、とても 良かったと思います。
「生徒の柔軟な発想に感心した」 「生徒たちの成長が見て取れた」とい
った意見が多く見られたように感じます。私は授業を俯瞰してみる立場で あった為、生徒の細かな活動まで見たわけではありませんが、教室の外か ら見ても生徒たちが授業の回数を重ねるにつれて活発に意見交換し、さま
ざまな発想からアイデアを生み出していました。この活動を通して生徒は着 実に力を身につけ成長していきました。教員にとって生徒の成長を見ること
ができるのは何より喜ばしいことです。この授業はそうした教員にとっての 「やりがい」を感じる事ができた授業ではないでしょうか。
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SDGsチャレンジプロジェクト 総合的な探究の時間 生徒の振り返り 吉井 宏平
福翔高校の生徒の実態 福翔高校は進学型総合学科です。生徒の約9割が大学、短大などの上
級学校への進学を目指しています。また、部活動も盛んであり、25の部活
動と4つの同好会が存在し、放課後は生徒たちが学校のさまざまな場所
で活動を行っています。生徒全体の雰囲気は明るく、活発な生徒が多く在 籍しています。1年次にはキャリア教育に関する科目である「産業社会と人 間」があり、将来について考え、コミュニケーション力の育成など社会人ス キルを身に付けることができます。一方で、社会問題に関する批判的視点
や創造性については課題があり、総探の授業を行うことによってそれらの 課題を解決していきたいと考えました。
学習開始当初 前章で述べたように、グローバル経営プログラムの一部生徒は、1年次
からSDGsに関する学習を行う機会がありました。しかし、それ以外の生徒 は授業でSDGsに触れる機会が少なく、生徒のアンケートを振り返ってみ
ると、総合的な探究科目の学習以前にSDGsについて知っていたかという
問いに対して、約半数の生徒が「知らなかった」という回答をしていました。 そのため、カリキュラム開始前の2年次に、SDGsに関するガイダンスを実 施し、調べ学習を行わせるなど、授業までにSDGsについて知る機会を設 けました。このカリキュラムではグループ学習を中心に実施をしましたが、 グループ分けの際にあえて文系、理系の生徒を同じグループで配置しまし
た。さまざまな課題解決を行うにあたって、多様な視点から学ぶ必要性が あると考えたからです。しかし、普段の授業では同じ教室で学ぶ機会が少
ないため、なかなかグループメンバーで打ち解けるまで時間がかかることも あったようでした。また、コロナ禍ということもあり、対面でのグループワー クができないなど、さまざまな問題点もありました。
協働的な学びを通じて 学習開始当初はぎこちなさが見えた生徒たちですが、学習を重ねるにつ
れて積極的にコミュニケーションを取るようになり、アイデア展開を行う頃 には、多くのグループが良好な人間関係を確立することができました。ま た、中間発表が終わり2学期に入った頃には、グループワークにもかなり慣
れてきて、デザイン思考を使いながらスムーズに活動を行えていました。総 探の振り返りアンケートを見てみると、多く生徒が自分以外の生徒と協働的
に学んだことの意義について言及している文章が多く見られ、この学習を通 してコミュニケーション能力を身に着けさせることができたようでした。 ●授業後アンケート(抜粋) • アイデアを考える中で、同じグループの人と意見を出し合うことで、一人 では浮かばなかったような意見を知ることができ、より深めていくこと ができたと思います。一人では難しくても、協力することでとても良いア イデアを考えることができました。簡単に終わらせるのではなく、より良 いものになるように考え続けようとすることはもちろん、周りの人と協力 し合うことの大切さを改めて実感できたように思います。たくさん成長 できたので良かったです。 • クラスが混合だったので、今まで話したことがなかった人とも関わる機会 が増え、積極的にコミュニケーションを図ろうとすることができました。 • グループには初対面の人がいて、その中で理系と文系それぞれいるの で、課題に対して様々な面から意見を交わすことができた。また、SDGs を知り、より深く学ぼうというきっかけにもなった。 • 普段自分が考えないことを友達と話し合うことで様々なことを知ること ができたので良い経験になりました。 • 授業を重ねていくごとにグループのメンバーとも仲を深める事ができ、よ り積極的にディスカッションする事に繋がった。アイデアが形になった後 に先生方にアドバイスを求めてインタビューした事も良い経験になった。 • 毎週話し合いがあるので、みんなと交流を深めることができたし、話し 合いの仕方もだんだんわかってきて、最終的には円滑に話し合いを進 めることができました。この経験を生かして、大学ではグループディスカ ッションの時に率先して話し合いを進めていきたいです。
社会問題に対する意識向上 生徒の考え出したアイデアは多種多様な内容でした。中には授業当初
に設定した課題と考え出したアイデアにズレが生じているグループもあり ましたが、中間発表での指摘を受け最終発表までには修正を行うことがで
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きていました。こうした学習を通じて、生徒たちの社会問題に関する意識は 大きく変わってきたようでした。 ●授業後アンケート(抜粋) • SDGsを通して小さなことからでも知ることが大事だと学びました。知ら なければ今何が問題でその原因も解決策も分からないままだと思いま す。そのため今起きている問題に目を向けて小さなことから知識を増や していくことが解決の第一歩だと考えています。 • 現在の日本における諸問題に関して、自分達でも解決する為の足掛かり を作る事ができると実感出来た事。実際に出来るかどうかはさておき、 まずは思いついたアイデアをグループで出し合う事により、イノベーティ ブなアイデアを作る事が出来たと思う。 • SDGsを考えるうえで、 「自然環境」や「教育」といったグループ分けは あったけれど、自然環境も教育に通ずる面があったり、教育によって自 然環境の維持に繋がることもあるように、様々な問題が密接に結びつ いているという事を強く感じた。しかし、その広範囲に渡る地球規模の 問題を抱えているいま、どこかひとつの立場からその問題を見つめるこ とによって、より深く、実現すれば大きく地球に貢献しうるアイデアが浮 かんだのだと思う。そして各分野のアイデアを皆が持ち寄り、各方面に とっていいバランスで採用されていけば、SDGsの目標により近づくのだ と思う。 • 最初はあまり乗り気ではなかったけど、回数を重ね、考えを深めるにつ れて週2時間では足りないと思うほどのめり込んでいました。また、授業 を通して世の中には私の知らないところで大きな課題に直面している人 達がいて、そういった課題は私たち一人ひとりが現状を正しく知り、少し 気にかけるだけでかなり課題解決に繋がることが改めてよくわかりまし た。直接自分に関係がなくても、正しい知識を持ち、ほんの少しでも協 力できるように常にアンテナを張っていたいと思います。 • 最初はSDGsの一つ一つの目標を達成することは簡単なことではないと 他人事のように考えてしまっていたところがあったけど、活動を通してど んなに小さなことでも自分にできることを行動に移していくことが目標 達成の第一歩なんだと思いました。また今の現状について調べて知ろう とすることで、少しずつでも良い方向に向かっていくのではないかと思い ました。総探の授業を通してSDGsについてたくさん触れることができ たことは私にとってすごく良い機会になったと思うので、ここで終わりで はなく、これからもSDGsについて知ろうとすることを大切にしたいです。 • 今まで、街中に落ちているゴミに対して、 「汚いな」や「誰がなんで捨て るんだろう」と思ったことはあったけど、実際に自分で解決策を考えたこ とはありませんでした。今回の授業を通して、自分が知らなかった、目に ついていなかった世界や日本のゴミ問題について知り、自分たちなりの 解決策を考えることでポイ捨てに対する見方も変わり、自分にできるこ とをしようと思うようになりました。将来自分たちのアイデアが実現し、 36
人々のゴミ問題についての理解を深め、住みやすい世界を作っていける と良いなと思います。 • 環境問題について、とても身近に感じました。言葉だけでなく実際に自 分が今できることを具体的に考えた貴重な時間になりました。自分たち の考えたアイデアは規模が大きく、実現は難しいかもしれませんが、小 さなことでもプラスチック問題などは今の自分でも対策や活動に参加す ることは出来るので行動に移します。
また、生徒の考え出したアイデアは高校生ならではの柔軟で独創的な
発想を用いたものが多くあり、最終発表会にご参加いただいたコメンテー ターのアンケートにもその点が多く言及されていました。 ●最終発表会
ご意見・ご感想入力フォーム(抜粋)
• どの発表も思考が柔軟で、オリジナリティにあふれており、感心しました。 • 高校生とは思えないほどの発表力と、大人には思いつかないアイデアに 驚きました。 • 柔軟な発想でとても面白かったです。大人になるにつれてリアルに考え すぎてあれはこうだから無理か…などと規模を縮小したり、実用的に考 えすぎることが増えがちな中、2030年に実現できるかも!という設定 で面白い企画ばかりでした。 • フレッシュなアイデアに満ち溢れていて、発表としての質も期待していた 以上で、すばらしい成果だったと感じました。
学習を通じて身に付けたもの こうした学習を通じて生徒はいったいどのような力を身に付けたのでし
ょうか?アンケートの「学習を通じて身に付けた力は何ですか」という問い に対し「コミュニケーション能力」 「アイデアの発想力」 「伝える力」 「先のこ とを見通す力」などさまざまな回答が見られました。
●授業後アンケート(抜粋) 「学習を通じて身に付けた力は何ですか」に
対して
〇協働性に関する回答 ・ コミュニケーション能力 ・ 話合う力 ・ 発言力 ・ 意見を積極的に出す力 ・ 意見をまとめる力 ・ 協働力 ・ 相手の意見を理解する力 37
〇探究に関する回答 ・ アイデアを生み出す力 ・ 多角的に物事を見る力 ・ 発想力 ・ 課題発見能力 ・ 一つのことについて掘り下げて考える力 ・ 先のことを考える力 〇アウトプットに関する回答 ・ 文章力 ・ 資料をつくる力 ・ プレゼンテーション能力
この学習がもたらした効果は、私たち教員が授業開始当初に予想して
いた効果を遥かに上回るものでした。高校3年生がここで身に付けた力を 次のステージで発揮してほしいと願うばかりです。
38
高校生にSDGs意識を浸透させる デザイン教育の導入 Leon Loh
はじめに 福翔高校で実施されたSDGsチャレンジプロジェクトは、日本の高校
において、デザイン教育を一般教育として実践する可能性を提示していま
す。SDGsチャレンジプロジェクトは、 「デザインと技術」や「技術教育」科
目にみられるように、デザイン教育を分割し、その本質的な理解に基づい て設計されています。SDGsチャレンジプロジェクトをデザイン教育プログ ラムとして設計することで①SDGs意識の促進・育成、②21世紀型スキル
の育成、③社会性と情動的学習の育成、という三つの重要な目標の達成を 目指すことができます。この章では、一般教育としてのデザイン教育の一形
態であるSDGsチャレンジプロジェクトの概念化に向けた考察を紹介して いきます。
デザイン教育としてのSDGsチャレンジプロジェクトの構想 SDGsチャレンジプロジェクトは、問題解決能力・創造性・批判的思考・
デザイン思考を身につけることができるプロジェクトで、以下のポイントに 留意して設計されました。
• 生徒がSDGsに関連する現実問題を解決すること
• 問題解決にデザイン思考またはデザインプロセスを応用すること • 教師と生徒の議論のアプローチを通じて解決策を構想すること
SDGsチャレンジプロジェクトは、上記の要素に基づき、問題解決プロ
セスの中心となるデザインプロセスによって構成されています。図1はこの
プロジェクトの構想を示しています。このプロジェクトは四つの段階で構成 されており、各段階は次のように説明できます。
図1 SDGsチャレンジプロジェクトの構想
第一段階:問題の発見と選択 この段階では、生徒はSDGsに関連する地域社会の問題を探索し、特
定します。多くの生徒はデザインプロセスに触れたことがないため、教師が 地域社会で見られる問題の例をいくつか提示する必要があるでしょう。そ
うすることで、生徒は身の回りに存在する問題への意識を高めることがで きます。マインドマップなどのさまざまな手法を用いて、生徒はブレーンスト ーミングを行い、身の回りの問題を探します。
生徒は、問題を理解するリサーチを行うために、身の回りの問題を探す
ことから始めます。このリサーチの手法は、観察、現地調査、インタビュー などがあります。これらのリサーチを通して、生徒は関係者への共感を深 め、問題をより深く理解できるようになります。あまり身近でない問題をリ
サーチしようとすると、問題の理解を深めるのに有用なインタビューや、現 地調査による情報収集が困難になるので注意しましょう。
問題を探索した後に、生徒はどの問題が最も重要な問題かを決める必
要があります。生徒の意思決定を促すには、質問方式が効果的であると言 えるでしょう。
第二段階:アイデアの概念化 この段階では、生徒は問題解決するための新しいアイデアを考える前
に、問題または問題の一部を解決できる既存の解決策を調査します。こう 40
することで、生徒は既に実現されているアイデアを知らずに似たようなアイ
デアを考える手間を省くことができます。また、既存の解決策から学び、新
しい解決策を提案することで既存の解決策を改善することができる可能 性もあります。
次に、ブレーンストーミングを行い、できるだけ多くの創造的な解決策を
模索します。その後、どの解決策が問題解決に最も適しているかを判断し ます。
問題解決のための創造的なアイデアを考える際に、生徒は他の科目で勉
強したさまざまな知識やスキルを活用する必要があります。さまざまな科目 で学んだ知識やスキルを使うことで、生徒は知識とスキルを統合し、アイデ アを実現可能な解決策に概念化する応用力を身につけることができます。
教師は、生徒がアイデアを構想する際に答えを教えるのではなく、メン
ターまたはファシリテーターとして、生徒が自ら答えを見つけられるように
導く役割を担います。また、教師は、生徒が答えを見つけられるように、質
問のフレーム作りを手助けすることもあるでしょう。このように、 「師弟関
係」のように教師が生徒に指示を与えて解決策を生み出すのではなく、教 師と生徒は創造的な解決策を「コ・デザイン」していくのです。
生徒が最適な解決策を選択できるようにするために、教師は生徒がそ
れぞれの解決策を評価できるフレームワークを作成して手助けすることが
できます。このフレームワークは、① 解決策が果たすべき目的、② 利用者と 利害関係者による評価、③ 解決策が生み出す正の影響、④ 解決策が生み
出す負の影響、⑤ 解決策の持続可能性という五つの項目に基づいて、生徒
が、解決策を評価できるように導きます。この評価基準は網羅的なもので なく、生徒がいつでも評価基準に関連項目を追加することができる柔軟な ものと考えてください。
第三段階:アイデアの発展 最適な解決策を決定した後、その解決策をさらに改善・発展させるため
に、解決策の詳細について検討します。詳細に検討することで、解決策を
可能な限り実現可能なものにすることができます。生徒は、プレゼンテーシ ョンボードに可能な限り詳細に書き込み、解決策がどのように問題を解決
するかを説明します。場合によっては、解決策がどのように機能するかを説
明するために簡単なモデルを作成することも有効です。生徒によっては、簡 単なモデルを作ることで、解決策がどのように機能するかをより明確にイメ ージできることもあるでしょう。
第四段階:構想の最終発表 最終段階では、生徒は自分たちの解決策を同級生や関係者に発表する
ことが求められます。生徒は、自分たちで考えた解決策の構想を明確かつ 効果的に説明する必要があるので、どのような情報を提示すべきか吟味し
41
なければなりません。また、プレゼンテーションの内容を論理的、かつ、首
尾一貫した内容に整理する必要もあります。プレゼンテーションを通して、 重要なコミュニケーション能力とプレゼンテーション能力を身につけること ができます。
デザイン思考による問題解決プロセスの反復性 生徒がデザイン思考に取り組む際に、問題発見から始まり、その解決策
に至るまでのデザインプロセスは、直線的ではないことを念頭に置いてお
くことが大切です。時には、生徒が問題の理解を深めていく中で、たとえリ サーチの途中であっても、スタート地点に立ち戻って問題を再定義すること
もあり得ます。また、解決すべきより本質的な問題が他にもあるかもしれな いと気づいて、別の問題に焦点を当てて進路変更する場合もあります。こ のように、デザイン思考では、いつでも問題と解決策を再検討し、焦点を修
正し、興味のある問題を解決するための創造的な解決策に向かうことがで きます。
42
「問題」の発見から始まる 高校生の主体性を伸ばすデザイン教育 菊澤 育代
背景 新しい学習指導要領では、予測困難な社会で求められる資質・能力を身
につけ、生涯にわたって能動的に探究を深めることの重要性が指摘されて
います1)。この能力・資質の習得には、生徒が社会とのつながりを感じ、主 体的に問題を発見し解決に繋げる学びの場が求められます。
福翔高校では、九州大学大学院芸術工学研究院SDGsデザインユニッ
トとともに、2019年からデザイン思考教育のスキームを取り入れた「SDGs チャレンジプロジェクト」に取り組んできました。私は外部観察者という立
場で参加させていただき、客観的に取り組みを観察してきました。このプロ ジェクトでは、SDGsに関連するテーマの中から生徒自ら課題を発見し、特
定し、解決策を洗い出し、抽出するという一連の流れを体験します。貧困、 ごみ問題、いじめ、食品ロスなど、国や世代を超えた世界の多様な問題の中
で、Black Lives Matter運動などに代表される人種差別や、待機児童問題 など、高校生にとって直接的な経験の少ない社会問題にも触れます。この、
直接的な経験が不足した状態で、問題の本質を理解し問題を適切な対象・ 範囲に落とし込むプロセスは困難を極めます。しかし、この問題設定が、そ
の後の主体的な探究の原動力となります。本稿では、こうした生徒の“問題” の受け止め方に注目し、主体的な探究を進めるヒントを模索します。
課題認識 ここでは、あるグループの活動プロセスを例として取り上げ、生徒の問
題に対する認識を整理します。食品ロスをテーマにしたこのグループでは、
「飢餓」、 「世界の貧困」、 「食べ残し」、 「売れ残り」などの課題が挙がり ました。続く先行事例の調査では、 「食品業界の消費期限の表示見直しに
関する取り組み」、 「生産を調整する技術」、 「廃棄食品を再加工して再度 食品として提供する取り組み」、 「食品パッケージの環境配慮」などが挙げ られました(図1)。
食べ残し
飢餓 世界の貧困(1日200 円以下で生活)
問題
売れ残り
国内の子どもの 貧困
消費期限の見直し
持続可能な生産 生産抑制
事例
食品パッケージの 環境配慮
解決策
廃棄食品の加工に よる再利用
家庭での食品の 延命化技術
図1 活動プロセスの例
これらは一見、全て食品ロスというテーマに関連しているように見えま
すが、実はそれぞれの問題と事例は一部しか重なり合っていません。問題・
事例・解決策を整理すると、飢餓や世界の貧困は「食料不足」に関する問 題であり、食べ残しや売れ残りは「食料の廃棄」に関する問題です(図2) 。さらに、これらを俯瞰すると、一方では食料が不足し一方では廃棄されて
いるという「不均衡」の問題も見えてきます。しかし、先行事例調査では消 費期限の見直しや生産の抑制など、主に「売れ残り」に関する事例のほか、 問題とは直接的な関係が認められない「食品パッケージの環境配慮」など
も挙げられました。SDGsチャレンジプロジェクトの授業計画では、問題の
決定(絞り込み)後に先行事例調査を行いますが、こうした結果は、問題の 絞り込みが十分ではなかったことが示唆されます。そしてこのグループが
最終的に導き出した解決策は「家庭で食品の延命化を図る技術」でした。 この技術は、問題発掘のステージで挙げられた食べ残しや売れ残りではな く、 「家庭での食品廃棄」という見えない課題が想定されているようです。
44
1
2
食料不足の問題? 3
飢餓 世界の貧困(1日200 円以下で生活)
問題
図2
家庭での食品廃棄?
?
消費期限の見直し
持続可能な生産
生産抑制
食品パッケージの 環境配慮
解決策
食べ残し 売れ残り
国内の子どもの 貧困
? 事例
不均衡の問題?
食料廃棄の問題?
廃棄食品の加工に よる再利用
家庭での食品の 延命化技術
問題・事例・解決策の関係性
二つの共感 こうしたズレが発生する要因として、デザイン思考の第一のステップで
ある「課題の洗い出し」で求められる「共感」の不足が考えられます2)。 「 共感」は、対象者の視点や立場で問題をより詳細に観察するプロセスです
が、これが不足すると、問題・対象・解決策などの間に齟齬が生じます。実
社会では、解決策に合わせて問題を置き替えることはできませんが、学習 のプロセスとしては、行ったり来たりしながら問題自体を見直すことも必要 になるでしょう。
この「共感」を掘り下げてみると、 「相手の心の状態を推論し理解する」
といういわばクールな<認知的共感>と「相手の状態を感情的に共有する」 というホットな<情動的共感>という二つの機能的要素に分けられます3)。
本プロジェクトのような課題解決型の学びにおいては、問題を抱える対
象者の立場から見た問題の深掘りという側面において<認知的共感>が必
要となり、問題解決のプロセスにおいて対象者に寄り添い問題に関心を持
つ姿勢には<情動的共感>が求められます。論理性や有効性のある解決 策を導くためには<認知的共感>が、自分ごとに捉える主体性の形成には <情動的共感>が重要である、と言い換えられるかもしれません。
こうした共感を高めるためにはどのような方法があるでしょうか。ここで
は、共感の形成に寄与すると思われる手法について紹介します。
45
「共感」をサポートする手法 アンカー体験 新しい学習指導要領では、学力の3要素(知識・技術、思考力・判断
力・表現力、主体性・協働性・多様性)に連動して「習得・活用・探究」の3 段階の学習が提示されています。このうち、 「習得」と「活用」では「与えら
れた問いを解く」のに対して、 「探究」では生徒自らが「問いを立てる」とい う違いがあります4)。デザイン思考では、 「共感」を軸に問いを立てるとこ
ろから始まります。問いを立てることの重要性は認められつつも、その問い の本質的な価値を生徒が理解する難しさも一方で指摘されています5)。そ
うした場合に有効とされるのが、学習のその後の展開の支えともなるアン
カー体験(anchoring experience)です。アンカー体験とは、その単語の 意味する通り、錨を使って船を係留させるように、その問いを探究するため
の礎となる体験です。例えば、細胞や病気に関する学習において、 「親友は 僕を病気にするのか?」という問いを設定し、先生は生徒に、南アフリカで エイズに感染した少年の物語を読み、議論することを促します6)。この物語 は、病気が彼らにどのように関係しているかという文脈を理解させるための
アンカー体験となります。つまり、生徒に特定の経験を疑似的に体験させ、 問いに向かうためのスターティングポイントとなる杭を打つ試みです。これ
は、なぜどのようにその問題が自分に関係するのかを認識することで認知
的共感を促し、またそのストーリーに感情移入するほどに情動的共感を高 められると考えられます。
ペルソナ手法による対象の具現化 「共感」には、問題を主体的にとらえる視点が欠かせません。問題に直
面している対象者がその事象にどのような考えや感情を持っているのか、 その考え方の背景にどのような価値観があるのかといった、人間性に関わ
る部分までも深く理解することが共感につながります。そのためには、一般 的なモデルを想定するのではなく、 「特定の誰か」を対象に設定するという 手法が用いられます。
これは、ペルソナと呼ばれ、 「本物の人間ではないけれど、デザインのプ
ロセスの過程で本物の人間のかわりになるもの」と定義されます7)。想像上
の対象を厳密かつ詳細に定義づけることで、人間中心の設計が可能とな
り、サービスに求められる具体的な機能やユーザーインターフェースが検討 できるようになります。例えば、ペルソナの出身地、趣味、性格、価値観など
具体的なプロフィールを設定し、そのペルソナがサービスをどのように使用 するかを時系列に検討します8)。こうした手法は、実際の現場の問題を正し
く認識するという意識を向上させ、認知的共感で言われる「相手の心の状 態を推論し理解する」ことにつながります。 46
SDGsチャレンジプロジェクトのあるグループは、自動車から排出され
るCO2の抑制に着目し、問題の対象を「車に乗る人みんな」と設定しまし た。しかし、これを「平日は他県への通勤に、週末は家族での買い物に自
家用車を利用するAさん家族」など、具体的なペルソナに落とし込むこと で、解決策自体も、低燃費な自動車の選択から、カーシェアなど利用形態
の転換、自動車から他の移動手段への切り替えなど、全く異なる提案が出
てくることも予想されます。自身の知り合いなどを思い浮かべることで情動 的共感を刺激することも考えられます。
マインドマッピング 最後はマインドマッピングです。マインドマッピングは、アイデア間の関
係を視覚的に表現する手法で、書面や口頭での説明よりも、瞬間的にその シーンの要点を認識させたり、空間構造を説明することに長けています9)。 それに対し、言語的な表現は、抽象的なアイデア間の複雑な論理関係を補
足し、条件付きのアクションについても説明することができます10)。マイン
ドマッピングは、視覚的な図式とそれを補強する言語表現を組み合わせる
ことで、問題の位置付けや影響し合うオブジェクトとの関係性を理解しや すくなります。
先述の食品ロスを取り上げたグループでも、 「食べ残し」や「売れ残り」
がターゲットや先行事例とどんな関係にあるのか、どのような論理関係で 結ばれているのか、といった構造をマインドマッピングで表現することで、
理解が深まるでしょう。このように、対象者と結ばれる各オブジェクト(例え ば、問題・事例・影響など)との関係を視覚化し言語化することで、認知的 共感を高め、論理性のある問題解決につながることが期待されます。
さいごに 生徒が生涯にわたって能動的に探究を深めるためには、社会課題に関
心を持ち、それを自身や自身の生活とのつながりを持って考えることが重 要になります。立体的に事象の関係性を把握し表現する<認識的共感>
と、問題や対象を当事者目線で感じ取る<情動的共感>は、いずれも生徒 が社会とのつながりを実感することに役立つと考えられます。 「共感」とい
うのは、問題に向き合う最初のとっかかりであり、主体的に探究を続ける エネルギーともなります。これを高めることで、正解のない社会において柔 軟な発想で解決策を模索し、かつ影響を受ける個々人を思いやる配慮が育 まれるのではないでしょうか。
注および参考文献 1). 文部科学省. 高等学校学習指導要領(平成 30 年告示)解説 総合的な探究の時間 編. (2018) 2). 菊澤育代: イノベーション力を育む多様な学び : ICT教育、STEAM教育、デザイン 思考教育の考察を通して, 都市政策研究, 22, pp.21–31 (2021)
47
3). 梅田聡: 共感の理論と脳内メカニズム, 高次脳機能研究 (旧 失語症研究), 38(2), pp.133–8 (2018) 4). 友野伸一郎: 探究活動において生徒が 「自ら問いを立てる」には 主体性と問題意 識の育成が欠かせない, キャリアガイダンス. リクルート進学総研 (2018) 5). Krajcik, J.S., Blumenfeld, P.C.: Project-based learning, Cambridge University Press, pp.317–334 (2012) 6). 前掲 5) 7). Cooper, A., 山形浩生: コンピュータは、むずかしすぎて使えない!, 翔泳社 (2000) https://cir.nii.ac.jp/ja/crid/1130282269572875776.bib (最終閲覧 日: 2022,1,18) 8). 大迫周平, 亀井靖高, 細合晋太郎, 加藤公敬, 石塚昭彦, 坂口和敏, et al.: PBL に おけるデザイン思考適用の効果と課題, 情報処理学会研究報告, 2014(2), pp.1–7 (2014) 9). Ware, C.: Visual thinking for design. Elsevier (2010) 10). 前掲 9)
48
SDGs教育プログラムのための ツールデザイン 張 彦芳
九州大学SDGsデザインユニットは、前章で説明したSDGsデザイン
スクールの活動の一環である高大連携で培われた知見や経験を活かし て、SDGs教育のツール開発の可能性を探っています。さらに、開発したツ ールを含めた教育手法を、オープンソースで世界に発信することを目指して
います。SDGs教育プログラムのツールを開発するために、デザイン思考1) の専門家と高校教育の教員が連携しながら、SDGs教育プログラムを実施
することができるツールをデザインしました。このツールは、自ら問題を提 起すること、グループディスカッション、応用、評価などに活用できます。
まず、教育現場におけるデザイン思考を活かした教育プロセスの六つの
ステップに必要なツールを考えました(図1)。デザイン思考のプロセスは、
「着想」、 「アイデア化」、 「実現」の三つのステップに沿って進み、それぞ れの段階において必要なツールは異なります。具体的にSDGs教育プログ ラムで使用したツールの一部を例として紹介します。
図1 教育プロセスの六つのステップに必要なツール例
「着想」ステップのツール例 生徒は、設定した課題に関する先行事例調査(図書、インターネット検
索、電話、インタビューなど)を、 「事例調査」シート(図2)に記入します。 このシートには、 (1)グループで設定した課題、 (2)設定した課題解決に 向けた既存の取り組みを最大2件書き込む自由記述欄を設けました。
「アイデア化」ステップのツール例 グループ内で出された多くのアイデアから一案または数案に絞るため
に、出されたアイデアを取捨選択する必要があります。そのための評価指 標として、 「アイデア選択のチェック項目」シート(図3)を作成しました。
「実現」ステップのツール例 アイデアに対する第三者評価を行うため、コメントやアドバイスを集約
し、検証するための「アイデア検証」シート(図4)を作成しました。 (1)グ ループのアイデア(2)そのアイデアについてどう思うか、についてヒアリン グした結果を書き込める自由記述様式を設けました。
図2 事例調査シート
図3 アイデア選択のチェック 項目シート
図4 アイデア検証シート
これらのワークシートに加えて、教育現場でデザイン思考のプロセスを
より深く理解するために、デザイン思考の六つのステップの総括的なツール として、高等学校教員用メソッドカードと生徒用クエスチョンカードの2種 類のカードを開発しました。
教員用メソッドカード SDGsチャレンジプロジェクトを検証し、高等学校の教育現場で利用
できる教員用メソッドカードを開発しました(図5)。これは、国際的な SDGsワークショップであるGlobal Goals Jam2)で使用されているJam
キットを参考にしました。具体的には、使用頻度の高いデザイン手法であ 50
る「フィールドワーク」、 「KJ法」、 「ペルソナ」、 「ブレインストーミング」、
「WWWWWH」、 「バックキャスティング」、 「ダブルダイヤモンド」、 「コ
ンセプトスケッチ」、 「ステークホルダーマップ」、 「ペーパープロトタイピン グ」、 「ストーリーボード」、 「第三者評価」の12種類をカードにしました。
図5 メソッドカード
生徒用クエスチョンカード SDGs教育において、生徒がより深いディスカッションを行うための生
徒用クエスチョンカードを開発しました(図6)。これは授業の際に、事例
調査シートなど他のツールと組み合わせて利用することができます。デザ
イン思考のプロセスとクリティカルシンキングのプロセスを組み合わせ、 「 理解」、 「課題定義」、 「アイデア展開」、 「テスト」の四つのステップに合わ せ、各4種類のカードで構成されています。それぞれのステップには、 「知
識」と「応用」があり、生徒のスキルや授業の目的に応じて選択できる内容 になっています。これらのカードを利用することで、生徒はするべきことを より深く理解することができ、体系的な考えに導くことができます。
理解カード (表)
理解カード (裏)
課題定義カード (表)
課題定義カード (裏)
51
アイデア展開カード (表)
アイデア展開カード (裏)
テストカード (表)
テストカード (裏)
図6 クエスチョンカード
上述の、 「事例調査」シート、 「アイデア検証」シート、 「アイデア選択の
チェック項目」シート、コメントカード、アンケート、メソッドカード、クエスチ
ョンカード、評価シートの教育ツールを活用した双方向性の授業を行うこと は、知識先行ではなく、主体的、協働的に新たな価値を創造する人材育成 の助けとなります。また、教員がデザイン思考のノウハウを把握し、自ら授業 を指導できるように、ツール利用のマニュアル開発も計画しています。
今後はSDGs教育プログラムのツールをさらに多くの高等学校で展開で
きるように、実践と評価を経てパッケージ化する予定です。高等学校の総合 的な探究の時間などの授業において、現場の教員の一助となること、そして 生徒の21世紀型スキルの習得に貢献できることを願っています。
注および参考文献 1). ティム・ブラウン:『デザイン思考が世界を変える』, 早川書房出版 (2014) 2). Global Goals Jam公式サイト https://globalgoalsjam.org (最終閲覧 日:2022.218)
52
STEAM教育としての SDGsチャレンジプロジェクト 鷹野 典子
STEM はScience、Technology、Engineering、Mathematicsの頭
文字をとったもので、2001年に米国NSF (National Science Foundation) のJudith
A.
Ramaleyが提唱しました1)。アメリカでは1980年代から教
育における科学と数学の重要性が多くの教育提言の中で論じられてお り、2015年にSTEM教育法が制定されました。さらに2006年にSTEMに
Artを加えたSTEAMという用語がGeorgette Yakmanにより初めて使わ れ、STEAM教育の枠組みとカリキュラムが作られました2)3)。STEAM教
育は、これらの分野を横断的に学び、それらを応用して、想像力や創造的な 方法で問題解決できる人材を育成する教育として世界に広がっています。
日本においては、経済産業省が令和の教育改革に向けた「未来の教育ビ
ジョン」として、① 学びのSTEAM化、② 学びの自立化・個別最適化、③新し
い学習基盤づくりを三つの柱に提言しています。 「学びのSTEAM化」は、一 人ひとりのわくわくする感覚を呼び覚まし、文理問わず必要な教科知識・専
門知識を習得し(=知る)、探究・プロジェクト型学習による課題発見・解決
の試行錯誤し(=創る)、これら「知る」と「創る」が循環する学びを指してい ます。文部科学省においても「STEAM教育等の各教科等横断的な学習の 推進」の中で、AIやIoTなどの急速な技術の進展で社会が激しく変化し多 様な課題が生じている現代において、これらの課題に対応して求められる資
質・能力を育成するためにSTEAM教育の必要性をあげています。STEAM 教育の中のArtには「芸術」に近いArt、そして「教養」に近いArts (Liberal
Arts)という、大きく分けて二つの概念がありますが、文部科学省において
は芸術、文化のみならず、生活、経済、法律、政治、倫理等を含めた広い範 囲 (Liberal Arts)で定義し、推進することが重要であると述べています。
2017年の学習指導要領の改訂において「主体的・対話的で深い学び」
を目指すことが示され、高等学校では「総合的な学習の時間」が「総合的 な探究の時間」に変更となり、2022年度から本格実施となります。文部科
学省中央教育審議会答申(令和3年1月26日)の中では、 「高等学校におい ては、新学習指導要領に新たに位置付けられた『総合的な探究の時間』や
『理数探究』が実生活、実社会における複雑な文脈の中に存在する事象 などを対象として教科等横断的な課題を設定する点や、課題の解決に際し
て、各教科等で学んだことを総合的に働かせながら、探究のプロセスを展 開する点などから、STEAM教育が狙いとするところと多くの共通点があ
り、各高等学校において、これらの科目等を中心としてSTEAM教育に取 り組むことが期待される」とあります。
福翔学校では、2022年の「総合的な探究の時間」の本格的な実施に
向けた準備として、2019年よりデザイン思考を取り入れたSDGsチャレン
ジプロジェクトを行なっています。デザイン思考を用いたこのプロジェクト は、 「発散」と「収束」を繰り返す試行錯誤のプロセス、グループワークの
作業が中心となる形、固定概念の排除によるイノベーティブなアイデア出 しなど、STEAM教育の特性を含んでいます。また、SDGsはさまざまな現
代の課題を含んでおり、解決を思考するためには教科横断的な知識が必 要となります4)。さらにデザイン思考をサステナビリティ研究に取り入れるこ とで、必要な学際性を高めることができることも示されており5)、これらも
STEAM教育の特性となっています。したがって、福翔高等学校で実施され ているデザイン思考を用いたSDGsチャレンジプロジェクトは、 「総合的な 探究の時間」で求められているSTEAM教育の一つのよいモデルになると 考えられます。
注および参考文献 1). Breiner, J. M. et al.: What Is STEM? A discussion about conceptions of STEM in education and partnerships, School Science and Mathematics, 112(1), pp.3-11. (2012) 2). Yakman, G.: STΣ@M Education: an overview of creating a model of integrative education. Pupils Attitudes Towards Technology 2008 Annual Proceedings. (2008) 3). 胸組虎胤: STEM教育とSTEAM教育,鳴門教育大学研究紀要,第34巻, pp.5872 (2019) 4). Annan-Diab, F., Molinari, C.: Interdisciplinarity: Practical approach to advancing education for sustainability and for the sustainable development goals. The International Journal of Management Education, 15(2), pp.73-83. (2017) 5). Maher, R. et al.: Integrating design thinking with sustainability science: a research through design approach. Sustainability Science, 13(6), pp.1565-1587 (2018)
54
おわりに
自然環境と人間環境の持続可能性に関する課題を抱える未来に向け
て、生徒に近い将来への備えと情報を与える新しい学習体験を提供するこ とは非常に重要です。教育は、生徒の当面のニーズを満たすと同時に、彼ら
をアクティブラーナーとして育て、将来への準備を後押しすることができま
す。私たちは、このような目的を念頭に置いてこのSDGsチャレンジプロジ ェクトを企画しました。
このハンドブックが、教壇に立つ先生方にとって、SDGsチャレンジプロ
ジェクトを企画、設計、実施する際の道標となることを願っています。また、 教育関係や学術関係の皆様には、このハンドブックで言及したアイデアを 拡大・発展させ、活用していただくことを期待しています。
謝辞
まず何よりも、プロジェクトの中心メンバーが2019年の当初から粘り強
く努力してくれたことに心から感謝したいと思います。COVID-19パンデミ ックの影響により、このプロジェクトで実施する教育プログラムを大幅に変
更することになりましたが、メンバー全員の決意のおかげで、この難局を乗 り越えることができました。
学校で大規模な教育プログラムを計画し実施するには、実現させよ
うという強い意志を持った人々の力が欠かせません。この場をお借りし
て、SDGsチャレンジプロジェクトの実施を許可してくださった福翔高校の 校長先生に感謝を申し上げます。
次に、このプログラムの実現に関わったすべての先生方、研究者、生徒
の皆さんに感謝します。このプロジェクトの運営に尽力してくださった、第 一線で活躍されている教育者の先生方なくして、このプロジェクトは実現 できませんでした。
最後になりますが、このプロジェクトを実現するために貢献してくださっ
たすべての方々に感謝を申し上げます。今後も、私たちの経験をSDGsチャ レンジプロジェクトの実施に興味を持つすべての教育者の皆様と共有して いきたいと思います。
索引
SDGsチャレンジプロジェクト
5
グローバル経営プログラム
25
デザイン教育
7
ワークシート
28
デザイン思考
9
学習指導要領
43
デザインプロセス
9
共感
45
SDGs
13
情動の共感
45
持続可能な開発目
14
アンカー体験
46
SDGs教育
16
ペルソナ
46
SDGsデザインスクール
16
マインドマッピング
47
教育パッケージ
17
ツールデザイン
49
総合的な探究の時間
19
「事例調査」シート
50
総合的な学習の時間
19
「アイデア選択のチェック項目」シート
50
Society5.0
19
「アイデア検証」シート
50
福岡立福翔高等学校
19
メソッドカード
50
SCP
20
クエスチョンカード
51
キャリア教育
20
STEAM
53
21世紀型スキル
21
STEAM教育
53
アクティブラーナー
23
未来の教育ビジョン
53
能動的学習者
23
学びのSTEAM化
53
執筆者
Leon Loh
張 彦芳
下村 萌
九州大学大学院芸術工学研究院助教。主
九州大学大学院芸術工学研究院講師。芸
九州大学大学院 芸 術工学 研究院 芸工イ
な研究テーマはデザイン教育。プロダクト
術工学博士、専門分野はユニバーサルデザ
ンターナショナルオフィス助教。専門分野
デザイン教育、一般教育としてのデザイン
イン、ソーシャルデザイン。デザイン現場に
は行政デザイン、国際関係。九州大学芸
教育について研究している。デザイン活動
て様々な分野でユニバーサルデザインを実
術工学部を卒業後、デザインファームGK
を通して、小学生、中学生、高校生に批判
践した後、現在は、教育現場で、多様性を
TECHにてデザイナーとして従事。現在
的思考と創造性を身につけさせることが研
尊敬しながら共にデザインし、共に成長す
は、日本とフィンランドの子育て支援に関
究の目的である。
る仕組みづくり、社会実装の手法や可能性
する行政サービスデザインの研究と実践に
を研究している。
取り組む。
手島 政則
吉井 宏平
菊澤 育代
福岡市立福翔高等学校主幹教諭。経済学
福岡市立福翔高等学校教諭。専門教科は
福岡アジア都市研究所研究主査。カナダ・
修士。専門教科は商業及び情報。1993年
美術、九州産業大学大学院博士後期課程
ダルハウジー大学大学院修了、九州大学大
より福岡市立高等学 校に勤務。2010 年
を修了し博士号を取得。画家としても活動
学院芸術工学府博士後期課程修了、芸術
福岡市教育委員会主任指導主事を拝命し
し東京や福岡で個展を8回開催。清須市第
工学博士。地球環境戦略研究機関にて環
2013年より現職。2008年からキャリア教
7回はるひ絵画トリエンナーレで優秀賞、
境政策研究に従事。現在は、プラスチック
育に従事しており学校改革担当として学校
シェル美術賞2014で審査員奨励賞を受
を中心とした循環型社会形成のほか、外国
の魅力向上のためのプログラム開発に取り
賞。2016年より美術科教諭として福岡市
人防災や都市のイノベーション研究に取り
組んでいる。2019年文部科学大臣優秀教
に勤務、2019年よりキャリア教育に従事。
組む。2018年4月より現職。
職員表彰受賞。
鷹野 典子 九州大学大学院農学研究科修了。九州大 学大学院生物資源環境科学府にて学位取 得後、九州大学大学院医学研究院テクニカ ルスタッフを経て、現在、九州大学大学院 芸術工学研究院学術研究員。専門分野: 分子遺伝学。
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SDGsデザインスクール | Exploration 1.0 2022年3月31日発行
著者:Leon LOH、張彦芳、下村萌、菊澤育代、手島政則、 吉井宏平、鷹野典子 編集:Leon LOH、張彦芳、下村萌、鷹野典子 デザイン:Francisco Sánchez 発行:九州大学大学院芸術工学研究院 福岡県福岡市南区塩原4-9-1