令和元年1月26日自然環境保全活動プロジェクト報告書

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大阪におけるカダヤシ・メダカ生息調査報告書 ―大阪市立自然史博物館外来生物調査支援活動― 自然環境保全活動プロジェクト 北坂 正晃 (水辺環境調査会所属) 2018 年、認定 NPO 法人シニア自然大学校は、地域貢献活動として、大阪市立自然史博物館が 2015 年から 着手している外来生物調査プロジェクト A に協力支援する形で、「自然環境保全活動プロジェクト」“大阪府に おけるカダヤシ・メダカ生息調査”に取組んだ。既存の組織的枠を越え、会員・講座生から調査員を募集して活 動がスタ-トした。 1.カダヤシ・メダカ調査の動機と経緯 1) 2017 年、大阪市立自然史博物館は外来生物「プロジェクトA魚班(カダヤシ・メダカ調査)」を企画、シニ ア自然大学校水辺環境調査会に、府下メダカ生息分布情報の提供と調査協力支援の提案があった。 2) 水辺環境調査会には、過去 20 年に亘る絶滅危惧種メダカの生息状況調査実績がある。メダカ及びメダ カの競合外来魚カダヤシの生息状況の把握は、当校の環境 NPO としての「自然環境の調査研究活動 を積極的に行い、保全と回復に取り組み、社会や行政への提言を行う」という理念に沿うものである。 3) カダヤシは、1916 年頃ボウフラ駆除の目的で北米から移入され、都市部を中心に分布域を広げてきた。 カダヤシは卵胎生魚で仔魚を生んで殖える為、メダカのように卵を産み付ける水草の必要がなくコンクリ -ト護岸の水路でも繁殖できる。メダカの卵や稚魚を捕食したり、食べ物を巡り競合するなど、メダカの 生息に悪影響があり、現在では特定外来生物に指定されている。 2.調査の実施方法、大阪府下全域に亘る広域をカバ-する為、会員・講座生を対象に 2 回に亘り調査員を募集 (機関紙「自然と仲間」にチラシを同封)し、34 名の応募があった。応募者対象に 2018 年 2 月 27 日、5 月 22 日説明会を開催。趣旨説明と自然史博物館作成の資料に基づく、カダヤシとメダカの見分け方(尾びれ・尻 びれの違い、背びれの位置が大きく違う等)、調査シ-トの記入方法、採集したカダヤシの保管・授受方法な どを確認した。2018 年 4 月 16 日には大阪市旭区城北公園で野外体験学習会を実施した。 1) 調査員 33 名は、原則的に住居する地域の調査にあたり、水辺調査に詳しい研究部の水生生物科なら びに調査部の水辺環境調査会所属員がサポ-トした。(応募者 34 名のうち調査には 33 名が参加) 2) 調査員には(カダヤシ・メダカ等の採集用)「タモ網」・「シニア自然大学校調査員」の腕章を貸与し、「カ ダヤシ保管用ビニ-ル袋・エタノ-ル入り標本瓶」・「調査シ-ト」・「調査対象場所地図」などを配布した。 3) 調査期間はカダヤシが活発に活動する 10 月末までを目途に調査活動に入った。 4) 調査途上の不測の事故に備え、調査日程の事前届けを原則とし、NPO 傷害保険に登録し対応した。

調査員募集チラシ

趣旨説明会風景

カダヤシ・メダカ同定資料*

調査シ-ト*

(*大阪市立自然史博物館作成)


3.調査の方法 1) 調査範囲;大阪府全域の公園池・ため池、河川・水路、水田などの水辺を対象とした。 2) 調査対象場所;主に水辺環境調査会が過去のメダカ生息調査でメダカ・カダヤシの生息を確認した 府下 343 ケ所(メダカのみ確認 193 ケ所、カダヤシ・メダカ混生 32 ケ所、カダヤシのみ確認 118 ケ所) を対象とした。 (1) 腕章をつけ、配付された地図を基に調査を行い、住所・緯度経度、採集・目撃した魚類や調査 場所の環境等を調査シ-トに記録した。 (2) 採集したカダヤシはエタノ-ル浸漬標本として別途標本瓶に保管し、調査シ-トと共に大阪市 立自然史博物館に提供。 メダカ他の魚類は写真撮影後放流した。

調査風景

野外体験学習会

調査風景

カダヤシ標本瓶

4.調査の結果 1) 2018 年 11 月末までの調査結果:場所数 399 ケ所、うち生息確認場所 169 ケ所。メダカのみ確認 64 ケ所、 メダカ・カダヤシ混生確認 17 ケ所、カダヤシのみ確認 88 ケ所であった。どちらも確認できなかったのは 230 ケ所で、そのうち、環境の変化で調査不能場所が 35 ケ所であった。すなわち、メダカ確認場所延べ 81 ケ所、カダヤシ確認場所延べ 105 ケ所であった。 2) 調査場所の地域別分析; 便宜上、府下水域を、淀川以北を大阪北部、淀川以南大和川以北を大阪中 央部、大和川以南を大阪南部の 3 つの地域に分けて分析すると、 (1) 大阪北部:調査場所 110 ケ所、うち生息確認 51 ケ所、メダカのみ確認 19 ケ所、メダカ・カダヤシ混生 8 ケ所、カダヤシのみ 24 ケ所、確認出来ず 59 ケ所、うち調査不能場所 11 ケ所。メダカ確認場所延べ 27 ケ所、カダヤシ延べ 32 ケ所であった。(過去の生息確認 81 ケ所、メダカ確認 38 ケ所・混生 14 ケ所・ カダヤシ 29 ケ所) (2)大阪中央部:調査場所 142 ケ所。うち生息確認 73 ケ所、メダカのみ 13 ケ所、メダカ・カダヤシ混生 4 ケ 所、カダヤシのみ 56 ケ所、確認できなかった 69 ケ所、うち調査不能場所 16 ケ所。メダカ延べ 17 ケ所、 カダヤシ延べ 60 ケ所。(過去の生息確認 157 ケ所、メダカ 64 ケ所・混生 16 ケ所・カダヤシ 77 ケ所) (3)大阪南部:調査場所 147 ケ所。うち生息確認 45 ケ所、メダカのみ 32 ケ所、メダカ・カダヤシ混生 5 ケ所、 カダヤシのみ 8 ケ所、確認できなかった 102 ケ所、調査不能場所 8 ケ所。メダカ延べ 37 ケ所・カダヤシ 延べ 13 ケ所であった。(過去の生息確認 105 ケ所、メダカ 91 ケ所・混生 2 ケ所・カダヤシ 12 ケ所)

調査集計表

今回調査

予定先 343 ケ所

今回調査場所集計 399 ケ所


今回調査 確認場所数

地域別生息

メダカ

地域別生息

カダヤシ

(4)因みに、大阪市立自然史博物館「外来生物調査プロジェクト A(魚班)」が作成し、ウェブに公表したメダ カ・カダヤシの生息分布は、下図の通りであった。シニア自然大学校の「自然環境保全活動プロジェ クト」が調査報告したデ-タ-も大幅に反映されている。 (https://osakana-chan.wixsite.com/project-a を検索されたい。 ポイントをクリックすると、採取者や 採取場所の緯度・経度が表示される)

メダカ生息分布図

カダヤシ生息分布図

(大阪市立自然史博物館ウェブペ-ジ

2019.02.21 より引用、

但し、シニア自然大学以外の projectA 参加者のデ-タ-も含む) 5.考察に代えて 本調査を通じて、2008 年の第三次メダカ生息調査以降の約 10 年間で見えてきた変化は以下の通り 1) 今回の確認調査場所数ではメダカ延べ 81 ケ所、カダヤシ延べ 105 ケ所、両者共不確認は 230 ケ所、うち 調査不能場所 35 ケ所。前回と比較して確認率はメダカで 36%、カダヤシで 70%に止まった。 (前回調査メダカ確認延べ 225 ケ所、カダヤシ確認延べ 150 ケ所) 調査予定先 メダカ

(ケ所)

混生

カダヤシ

今回調査 調査場所 メダカ

混生 カダヤシ 確認できず

大阪北部

38

14

29

110

19

8

24

59

大阪中部

64

16

77

142

13

4

56

69

大阪南部

91

2

12

147

32

5

8

102

合 計

193

32

118

399

64

17

88

230

生息場所の分布割合を大阪府下 3 地域(北部・中央部・南部)で比較するとカダヤシは都市化の進む 中央部が 57%を占める。一方メダカは南部が 46%と多少高いが、生息が確認できた場所数では 37 ケ 所で、前回調査時の 93 ケ所から激減している。


2) 生息環境別には、河川・水路ではメダカ 43 ケ所、カダヤシ 47 ケ所と大差はないが、溜池ではメダカ 34 ケ 所、カダヤシ 58 ケ所とカダヤシが多く確認、水田ではメダカのみ 4 ケ所で確認したがカダヤシは確認でき なかった。 3) 確認場所と場所数の変化要因 今回の調査結果は、過去に調査したメダカ生息分布調査結果に比し、何れも確認比率が大幅に 低下していた。 (1) 新名神高速道路などの公共事業や宅地化・商工業団地化などで河川・溜池、水田・水路等の水 辺環境喪失や悪化に依然として歯止めが掛かっていない。殊に稲作水系に依存してきたメダカ等 の生き物の生息に深刻な影響がある。他方、都市部の河川・水路では暗渠化され道路などに転用 されており、更に、急勾配の高いコンクリート護岸に変わっている。加えて高い柵で囲われていて 立入りが出来ない場所が増えており、今回の調査でも 35 ケ所の調査が出来なかった。 (2) 農業従事者の高齢化などによる耕作放棄地の増加やため池の放置、農業の効率化を求めるあま り、多用されている農薬(殺虫剤や除草剤等)の影響が顕在化している可能性は否定できない。 (3)特定外来生物のカダヤシがメダカの生息を脅かせているであろうことも、また大阪中央部に多く生息 していることも今回調査で再確認できた。過去 20 年に亙るメダカ・カダヤシ調査の中で、メダカ群落 の縮小傾向がみられ個体数の減少を実見した。今回調査ではメダカの確認場所数が大幅に減少 し、カダヤシも同様の傾向が見られた。 (4) 地球規模の異常現象が続く中で、大阪府でも 2018 年は豪雨、猛暑、超大型台風の影響で、河川 水路の氾濫や、逆にため池・水路などの干上がりなど、水辺環境に予想外の変化が起こり、水辺の 生態系が影響を受けた。また、短期間での調査であり、猛暑のため、十分な調査ができなかった。 水辺環境の変化に加え、従来調査では同一場所を、季節を変え複数回調査したが、今回は単数 回の調査に終わった。これらの事情が確認場所の減少につながったのではないか、市民調査の限 界ではないかとも思料される。因みに、 メダカ延べ確認場所 カダヤシ延べ確認場所

調査場所数

2000 年

115 ケ所

82 ケ所

223 ケ所

2004 年

153 ケ所

94 ケ所

723 ケ所

2008 年

150 ケ所

123 ケ所

563 ケ所

2012 年

94 ケ所 (メダカ遺伝子解析のため 355 個体を採集した場所数)

2018 年

81 ケ所

105 ケ所

399 ケ所

(5)自然環境保全活動プロジェクトとしてのカダヤシ・メダカの生息調査は一段落したが、特定外来生物 のカダヤシや絶滅危惧種のメダカの生息調査は今後も継続的・網羅的に行われる必要があろう。 4)当該調査活動に掛かるトピックス: (1) カダヤシ・メダカ生息調査に関して報道機関から取材の申し入れを受け、2018 年 11 月 7 日八尾市 の久宝寺緑地調査に同行した。 (2) 大阪市立自然史博物館から、「大阪府のドジョウの標本が少ないのでカダヤシ・メダカ調査の際、 ドジョウが採集されたらカダヤシ標本と同様に提供してほしい」との協力依頼があった。水辺環境調 査会並びに水生生物科が協力支援することとし、2018 年~2020 年の間に 37 ケ所で採集した 71 尾のドジョウ生体標本を提供している。大阪府下でも外来中国大陸系統ドジョウの生息が確認さ れ、外来ドジョウの生息域拡大が懸念される。この件については、調査完了次第調査活動報告書 にまとめる予定である。


(3)大阪市立自然史博物館第 50 回特別展「知るからはじめる外来生物~未来へつなぐ地域 の自然」2015 年度から 2019 年度に実施した市民参加型の外来生物調査「プロジェクト A」 (魚類・哺乳類・昆虫・植物・貝類・鳥類・両性爬虫類等広範囲な外来生物)の成果が纏 められ展示された。当初 2020 年 3 月 1 日から開催予定だったが、2 月に新型コロナウィル ス感染拡大により開催が中止になった。5 月緊急事態宣言の解除により、6 月 9 日から 8 月 31 日まで再開された。特別展では外来生物についての正確な知識と現況に関する解説展示 ブースがあり、殊に特別展開催にあたり調査に協力支援した機関として認定 NPO シニア自 然大学校も紹介されていた。 因みに、特別展では①来生物とは何か、ⅰ外来生物の定義、ⅱ外来生物についての勘違い、 ⅲ本展で扱う外来生物

②外来生物問題、ⅰ外来生物問題の特徴、ⅱ外来生物の被害

③大

阪の外来生物、ⅰ哺乳類、ⅱ鳥類、ⅲ両性・爬虫類、ⅳ魚類、我々が調査協力したカダヤシ・ メダカの分布状況の特徴や調査地点の分布点を表示。ドジョウの在来種・中国大陸系の分布 の経年変化、ⅴ海岸生物、ⅵ陸・淡水産貝類、ⅶ植物、ⅷクモ類、ⅸ昆虫。④環境ごとに見 た日本の外来生物問題、ⅰ淡水環境の危機、ⅱ海の外来生物、ⅲ家の中の虫、ⅳ市街地の外 来植物、ⅴ外来の水田雑草、ⅵ外来水草

⑤国内外来生物、国外から移入されるだけでなく、

人によって他の地域に運ばれた場合、国内移動からも外来生物問題が生じる。それを国内外 来生物と呼ぶ。仮に、同種が生息する地域に、遺伝的に異なる地域の個体が移入された場合、 遺伝的に交雑してしまうという問題が懸念されることなどが丁寧に解説されていた。 (4) 取り分け、シニア自然大学校が支援したカダヤシ・メダカ調査結果は、魚類のブースに「大阪府に おけるカダヤシの分布と生息環境―在来種ミナミメダカとの比較―」と題する下図が展示されてい た。特別展解説書に記述された解説を要約すると以下の通りであった。 ①今回の採集標本に加え博物館収蔵標本(大阪市立 自然史博物館・高槻市立自然博物館・きしわだ自然 資料館・貝塚市立自然遊学館)および文献調査を行 い 2010 年以降の分布状況を調べた。大阪府各地から 686 地点の調査記録が集り、このうち 258 地点でカダヤ シが、172 地点でミナミメダカが確認された。カダヤシは 大阪府中央部に多く、大阪府の北部や南部では少な い傾向があった。逆にミナミメダカは大阪府の中央部で は少なく、大阪府北部や南部に多い傾向があった。 ②採取された環境は両種の間で大きく異なることが分 かった。カダヤシは川の底がコンクリ-との環境で見つ かる傾向があったのに対し、メダカは川の中に植生があ り川岸の裸地が少ない環境で見つかる傾向があった。 ③河川改修や圃場整備などによって、ミナミメダカの生 息に適した環境は失われ 続けていることに加え、カダ ヤシの増加や侵入のリスクは続いており、ミナミメ ダカダヤシ・メダカ分布

カがさらに減少する恐れがある。 (第 50 回特別展解説書参照)


【第 50 回特別展展示場寸景】

外来生物展案内

鳥類 コウライキジ

ドジョウ標本

特別展入口

両生類

ウシガエル

スクミリンゴカイ

外来生物とはなにか

魚類 グッピ-

哺乳類 アライグマ他

ヒメダカ(高橋剛氏提供)

植物オオバナミズキンバイ

来生物問題

稿を終わるに臨み、厳しい気象条件の中、ご協力頂いた調査員の皆さま、当校関係の皆さま、ご指導頂いた 自然史博物館学芸員の皆さま、並びに調査にご協力下さった地権者と施設管理者の皆さまに深甚なる謝意を 表します。

以上

調査にご協力いただいたシニア自然大学校の皆さま(敬称略): 青木伸次・安達伸光・石田由利子・井上一晴・上田収・植野益行・梶川春樹・香月利明・河田航路・ 菊池優子・北坂正晃・木村俊三・湖城健夫・鈴木敏文・高橋剛・樽本信江・菱井孝夫・田丸八郎・ 津田憲之・中西重太郎・西村聰・浜嶋尚義・林美正・藤田久美子・保坂昌弘・増田修平・桝野成人・ 門田尚子・柳照明・山地祥夫・山野渉・山本尚義・吉川文子 調査にご協力いただいた団体:大阪市立自然博物館・枚方市いきもの調査会・茨木バラとカシの会 参考資料: 岩松鷹司;全訂増補版メダカ学全書、大学教育出版(2018.07.20) NPO シニア自然大学校;メダカの生息状況報告-第二次メダカ一斉調査-(2005.10) 〃

;メダカの生息状況報告-第三次メダカ一斉調査(.2010.04)

;メダカの生息と遺伝子型分布の実態に関する検討-第四次大阪府メダカ 調査:大阪府におけるメダカ遺伝子型分布に関する報告‐(2017.04)

林美正他:大阪府に於けるメダカの生息調査予備報告、都市と自然 286 号(2000.1) 大阪市立自然史博物館;第 50 回特別展「知るからはじめる外来生物」解説書(2020.03.01) 〃

; メダカ・カダヤシ生息分布図・メダカ・カダヤシ同定資料・自然史博調査シート等

報告書編集: 認定 NPO 法人シニア大学校調査研究部水辺環境調査会 (北坂正晃、上田収、増田修平、藤田久美子、中西重太郎、中村勇二、林美正)


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