ニッケルとその用途に関する専門誌
ニッケル・2025年40巻1号
ニッケルとESG (環境・社会・ガバナンス)
ニッケル生産における持続可能性 に関する考察


ベロニク・スチューカース博士 ニッケル協会 会長



ステンレス鋼中のニッケル― バランスの取れたアプローチ







ニッケルとその用途に関する専門誌
ニッケル・2025年40巻1号
ニッケル生産における持続可能性 に関する考察
ベロニク・スチューカース博士 ニッケル協会 会長
ステンレス鋼中のニッケル― バランスの取れたアプローチ
•各タンクの屋根は、1.4404/316L ステンレス鋼製の厚さ 12.5mm の DN250パイプ(10インチSCH80S)で 作られた 3 本のステンレス鋼柱によっ て支えられています
•タンクの底部とシェルの下部6.4メート ルには、強度と耐腐食性を高めるた めに 1.4162/UNS S32101 リーン二相 ステンレス鋼が使用されており、底板 は 3 mm、下部シェルは4 mmの厚さと なっています
•上部シェルと屋根には、二相ステンレ ス鋼 1.4462/S32205 が使用されてい ます
クーベルク・プロジェクトは、現時点でヨーロッパ最大となる容量12,000立方 メートルもあるステンレス鋼製の飲料水貯蔵施設です。ドイツのウルムに位置 するこの大規模な貯水施設は、Hydro-ElektrikGmbH社によって建設されま した。主に316L(UNSS31603)ステンレス鋼、リーン二相ステンレス鋼、およ び標準二相ステンレス鋼で構成されており、効率の向上、水質の維持、そして 長期的な保守費用の削減を目的として、この施設は設計されています。
過去 50 年間で飲料水貯蔵業界は 大きく進化しており、ステンレス鋼 で内張りされたコンクリートタンク から、洗浄システムを一体化した完 全なステンレス鋼製のタンクへと移 行してきました。3 つのタンクシェ ルは、Hydro-Elektrik GmbH 社のス パイラル巻き取りプロセスを使用し て製造されました。このプロセスで は、10 トンのコイルからシートメタル を巻き取ってスパイラル形状に形成 します。各タンクは、約 21 トンのリー ン二相ステンレス鋼、30 トンの標準 二相ステンレス鋼、そして柱用には 0.3 トンの 316L ステンレス鋼が使用 されています。その結果、溶接個所が 少ないため構造的な強度が向上し、 厚さと直径の精密な管理も可能な大 口径タンクが実現しました。戦略的 な材料選定は、飲料水の供給水に含 まれる二酸化塩素などの課題に対 応しており、これに耐えるグレードの 材料が必要でした。Hydro-Elektrik GmbH 社はステンレス鋼の特性と革 新的なエンジニアリングを活用する ことで、クーベルク飲料水貯蔵施設 においてデザイン、持続可能性、耐久 性について新しい基準を打ち立てま した。この施設は、2023 年末に運用 を開始しました。
「ステンレススチール・ワールド」に 掲載された記事を元に編集
ニッケル業界は今、重大な岐路に立たされています。地政学的な緊張の高まり や生産のインドネシアへのシフトによってニッケルに注目が集まる一方で、各国 は重要鉱物の確保に奔走しています。同時に、業界としては、持続可能な方法 でニッケルを生産しなければなりません。
今回のニッケル誌では、環境・社会・ガバナンス(ESG)の観点からニッケルを 詳しく見ていきます。業界の一部では批判されているところもありますが、大き な前進も見られます。ニッケルの採掘や生産が労働者や地域社会、環境に与え る影響は、適切な対応によって軽減することが可能です。業界が高いESG基準 を達成できるように、様々なツールを提供し研究を行っているところがあります が、ニッケル協会もその一つです。
持続可能性はニッケルの鉱山会社や生産会社にとどまらず、ニッケルのライフ サイクル全体に渡る影響も対象としています。ニッケル協会の会員はこの責任を 真剣に受け止めており、ニッケルの利点と責任ある使用についての理解を深め るべく邁進しています。
リソースと専門知識を 結集して、会員は科学 的研究、査読済み研究、 さらには国際的なベス トプラクティスに前向き に取り組んでいます。
ニッケルは地域社会の 支援、経済成長、そして エネルギー転換において重要な役割を果たしています。ニッケル協会の使命は、 ニッケルの持続可能な供給とニッケル産業の持続可能な発展を推進することで す。しかしながら、私たちだけでは、それを成し遂げることはできません。私た ちは、すべての業界関係者に対し、最高水準の持続可能性とガバナンス基準を 遵守すること、そしてニッケルの下流ユーザーに対しては、その基準をサプライ ヤーにも適用することを強く求めます——地域社会、産業、そして環境にとって の「ウィン・ウィン」となることを目指して。
クレア・リチャードソン
ニッケル誌編集長
表紙および上の画像は、インドネシ ア・南スラウェシの旧ニッケル採掘跡 地での苗木の植樹の様子を示してお り、土地の回復と再生に向けた重要 な取り組みを強調しています。
ニッケル協会の「持続可能性指針原 則」は、企業が高度なESG基準を達 成するための道筋を示すものであり、 業界全体およびバリューチェーン全 体にわたる行動を促す原動力となる ものです。
02 ケーススタディ33 クーベルク飲料水貯蔵施設
03 論説
環境、社会、ガバナンス
04 ニッケルの注目話題
06 ニッケルの処理 ニッケル生産における持続可能 性に関する考察
08 ニッケル協会 会長 ベロニク・スチューカース博士 ニッケル協会を率いて
10 持続可能性とステンレス鋼中のニッ ケル
バランスの取れたアプローチ
12 バッテリーチャット マーク・マカサー博士とのインタ ビュー
14 技術に関する Q&A
15 なぜニッケル?
15 UNS詳細
16 天の声 アンディ・スコットによるアビの 彫刻
ニッケル誌はニッケル協会が発行しています:www. nickelinstitute.org
ベロニク・スチューカース博士、会長 クレア・リチャードソ ン、編集長 communications@nickelinstitute.org
寄稿者:Parvin Adeli, Gary Coates, Mark Mistry, Geir Moe, Kim Oakes, Pablo Rodríguez Domínguez, Frank Smith, Lyle Trytten, Odette Ziezold デザイン:Constructive Communications社 本資料は。読者の一般的な情報提供を目的として作成された ものであり、適切な助言を得ることなく特定の用途に使用した り、依存したりすることはできません。本資料は技術的に正し いと考えられていますが、ニッケル協会、その会員、スタッフお よびコンサルタントは、本情報の一般的または特定の用途へ の適合性を表明または保証するものではなく、本資料に記載 された情報に関連するいかなる責任または義務を負うもので はありません。
ISSN 0829-8351
Hayes Print Groupによりカナダで再生紙に印刷
Stock image credits: ストック画像クレジット 表紙:Getty©SOPA Images, 3 ㌻Getty©NurPhoto, 6 ㌻Getty©NurPhoto, 10 ㌻iStock©CHUNYIP WONG, 11㌻ iStock©PhonlamaiPhoto 15 ㌻VectorStock©Sklyaksun, composition Constructive Communications
アメリカ国立科学財団(NSF)の化学イノベーションセンター・プログラムの支援 を受けた研究者たちは、アンモニアと炭酸塩を使用して、鉱石やリサイクル材料 からコバルトとニッケルを分離する新しい方法を開発しました。この二つの金属 を 99% という純度で得られるこの効率的な抽出方法は、電子廃棄物の持続可 能な利用を促進し、起こり得る供給不足の緩和にも貢献できる可能性がありま す。バッテリー駆動技術にはコバルトとニッケルは重要な元素です。「この方法は、 従来の精製化学薬品の過酷な性質に対処し、廃棄されたバッテリーから新たな 価値を生み出します」と、ノースウェスタン大学の協力者とともに、ペンシルベニ ア大学で研究チームを率いた化学者エリック・シェルター氏は述べています。
中国・深圳の南方科技大学(SUSTech)の物理学者たちは、常圧下で新しい
ニッケル系高温超伝導体を開発しました。研究室で成長させたニッケル酸化 物の薄膜を用いたこのブレークスルーは「常圧下で」−233°C(−387°F)を 超える温度での超伝導を実現しました。これまでにこのような超伝導特性を 実現したのは、銅酸化物と鉄系材料だけでした。「大きな希望は臨界温度を さらに引き上げて、[このような材 料を]より実用的な応用に役立てら れるようにすることです」と、研究 者のダンフェン・リー氏は語ってい ます。この発見により、磁気共鳴画 像法(MRI)などの技術がより安価 で効率的になる可能性があります。 この研究成果は、学術誌Natureに 掲載されました。
中国企業のファラシス・エナジー社は、エネルギー密度が400Wh/kgを超える 全固体電池(ASSB)を安定したセルサイクルで、実環境試験を行う段階に入 ったと発表しました。硫化物系システムを基盤とし、高ニッケル三元系正極材 と高シリコン負極材を用いたこれらの全固体電解質セルは、ピンプリック(穿 刺)、せん断、ホットボックス試験に合格しており、セルレベルでの熱暴走時の 自己遮断機能も備えています。ファラシス・エナジー社は、酸化物系および高 分子系に基づく全固体電池の開発でも進展しており、リチウム金属負極と高 ニッケル正極を用いることで、最大 500Wh/kg のエネルギー密度を実現して います。総じて、これらの軽量全固体電池(ASSB)は、安全性の向上、エネル ギー密度の増加、そしてより高速な充電といったメリット実現を目指していま す。これはEV業界における、さらなる前進です!
それは、重金属集積植物が地中から 金属を吸収するというファイトマイニ ングというプロセスで抽出された金属 を用いて制作された最初の作品で す。H2ERG’ の材料研究者兼デザイナー、 カロライン・ヒーリー氏によるこのリン グは、ニッケル、銀、銅、亜鉛を含む金 属粉末を混合し、透明な球体の中に 封入したデザインが特徴となっていま す。リングに使用された金属は、バイオ マイニング・スタートアップの Phyona 社の協力を得て調達されました。同 社は、金属を抽出するための低炭素 で完全にバイオベースの方法を開発す ることに重点を置いています。リング の金属は、イギリス北部の伝統的な石 炭鉱山跡地から採取されました。この 植物はバイオリメディエーション(生 物浄化)として知られるプロセスで、 土壌から汚染物質を除去する手助け をします。
本シリーズの第4部ではニッケル生 産がもたらす影響とその軽減につい て考察します。
インドネシアのソロワコ州東ルウの PT Vale Indonesia 社が再生した旧 鉱山跡地に作業員達が植林をしてい ます。
鉱山業界では持続可能性に関し大きく分けて3つのカテゴリーに分類されます: 環境への影響、社会的影響及びガバナンスです。それではこれらについてもう少し 掘り下げていきましょう。ただしニッケル業界も進化しており、1950年代の手法は 今日とは異なるという点にも留意する必要があります。
ニッケルについての主な環境問題は他 の多くのベースメタル操業と同様です: 操業活動及びその結果生じる廃棄物 による土地、大気、水質及び生態系に 与える影響です。
土地
熱帯表層鉱床(ラテライト)は土地と 生物多様性に多大な影響を与えます、 特に独自の土地固有種のある島におい ては絶滅のリスクがあります。
温帯の大陸地帯では広範な種の分布 により表層採掘のリスクは低減されま す。高品位の地下硫化鉱床では表層破
壊は最小化されます。
見た目を採掘以前の状態に完全に戻 すことは、地形の変貌によりまず不可 能です。ニッケルを多く含む土壌は自 生植物種類に影響し、ニッケルを採取 することで異なる植生を生じさせますー 良し悪しは別として異なったものです。
修復作業は地域社会及び規制当局と 協議の上計画し、生態系上また経済的 に有用なものを目指すべきです。計画 は地域の変化する目標や気候変動に よる影響にも柔軟に対応可能なものに しておくべきです。
大気及び水質
大気汚染は採掘工程より加工工程の 方が大きな問題です。採掘車両の排出 (移動機器の燃料燃焼から生じる)は 比較的少量です。硫化鉱の選鉱はエネ ルギー集約型であり、現場の化石燃料 発電からの排出があります。遠隔地鉱 山では住民に対する汚染物質の影響 が幾分和らげられます。
ラテライト鉱の製錬は高エネルギーを 必要とし、二酸化炭素及び汚染物質 を排出します。一方硫化鉱の製錬では 亜硫酸ガスが発生しますが遠隔地の ため配送が現実的ではない場合を除 き多くの場合硫酸として回収されます。
酸浸出法はよりクリーンな工程として の選択肢です。
水質汚染は熱帯地方の採掘での浸食 と重金属により生じます、一方硫化鉱 鉱山では酸性鉱山排水が生じる可能 性があります。各工程の廃液にも金属 が含まれます。排水や廃液の適正な処 理は不可欠です。
固形廃棄物
他のすべての鉱山活動と同様、ニッケ ルの採掘及び加工において考慮すべき 問題として固形廃棄物があります。ニッ ケル硫化鉱鉱山の尾鉱(多くは残余鉄 硫化物を含むケイ酸塩脈石)、ニッケ ルラテライト鉱または硫化鉱の製錬ス ラグ、ニッケルラテライト鉱酸浸出工程 または精鉱やマットの製錬から生じる 化学的沈殿物残渣などがあります。国 際鉱業金属協会(ICMM)の尾鉱に関 する業界基準などの先進的な取り組み に従うことが固形廃棄物にかかわるリ スク削減の鍵となります。
社会的影響及びガバナンス 社会的課題には従業員及び地域社会 に対し責任ある対応をすることが含ま れます。熟練労働者は採掘及び加工に とり不可欠です、したがって一流大手企 業は研修の充実、適切な作業機器の 提供、及び安全な職場環境の確保を 優先しています。
現在世界的に話題となっているFPIC (自由意志による、事前の十分な情報 に基づく同意)は操業のための社会的 許可の必要性を際立たせています。活 動により影響を受ける地域社会には― 影響の良し悪しは別としてー必ず情報 を提供し、同意を得なければなりませ ん。この対話の成熟度は国により異な りますが、同意を得て維持できなけれ ば、生産者にとって壊滅的な結果を招 く可能性があります。
ニッケル鉱山業におけるガバナンスは 他の資源産業のそれを反映していま す。内部的には意思決定手順は透明性、 包括性、および十分な情報の下に行わ れなければなりません。
対外的には企業は政府、規制当局、お よび社会と建設的な関係をはぐくみ、一 方市民社会に対して不当な影響力を行 使せずに多様な声が政策や実務に反 映されるようにするべきです。
進歩を続ける
世界的には上記の諸問題に対処す る様々な管理システムが使用されて います。統合鉱業基準イニシアティ ブ(Consolidated Mining Standards Initiative)は、Copper Mark(Nickel Markを含む)、国際鉱業金属協会 (ICMM)、カナダ鉱業協会(Mining Association of Canada)及びワール ド・ゴールド・カウンシル(World Gold Council)は夫々異なる責任ある4つの 鉱業基準を環境、社会及びガバナンス 問題を含む一つの世界的な基準に統 一することを目指しています。
ライフサイクルアセスメント(LCA)など の手法を用いることで個々の設備及び 業界全体についての様々な環境に関す る改善の余地が大きい部分をピンポイ ントで明らかにし、各企業が持続可能 性への取り組みを的確に進めるための 助けとなります。しかしながらその解釈 には常に注意が必要です。このシリー ズの今後の記事では斬新なアプローチ によりニッケル生産による影響をいか に少なくできるかを見て行きます。
生態学的影響を適切に規制するには 適切な情報が必要です。ニッケル協 会の会員はNiPERAの活動を支援し、 信頼性の高いデータを得るべく重要 な科学的研究を推進します。
ベロニク・スチューカース、ニッケル 協会 会長
ベルギー国籍
英国エクセター大学にて有機化学 の博士号取得
規制および官公庁業務において25 年以上の経験
ユミコアおよびアルベマールにて 16年以上民間企業での勤務経験 2012年、ニッケル協会にパブリック ポリシー&サステナビリティ部門ディ レクターとして入職
2025年1月1日付で会長に就任
2025 年1月、ベロニク・スチューカース博士がニッケル協会の会長に就任しまし た。化学、企業経営、そして政策提言における豊富な知見と実績を有するスチュ ーカース博士は、金属産業への深い情熱を胸にこの重責を担います。今後は、ニ ッケル業界における持続可能性の確保、技術革新の推進、責任ある調達の推 進に向け、尽力する決意です。
ニッケル協会を率いて スチューカース博士は、ニッケルが現 代のテクノロジーおよび持続可能な開 発において極めて重要な役割を担って いることを深く認識しています。彼女は、 業界の多くの企業が今後もニッケル協 会を、不可欠な知見と支援を提供する 中核的な存在として活用できるよう、精 力的に取り組んでいます。「ニッケルは、 社会に多大な恩恵をもたらす戦略的 鉱物です。一方で、責任を持って管理 すべき課題も抱えています」と、スチュ ーカース博士は語ります。「ニッケル協 会は、業界関係者、規制当局、そして多 様なステークホルダーが、確かな情報 と専門的知見に基づいて意思決定を行 えるよう、独自の専門知識を提供し、政 策提言を行っています」
スチューカース博士が掲げる最優先課 題は、ニッケル協会の組織体制、資金 基盤、そして会員構成の強化を図るこ とで、業界全体が直面する課題により 効果的に対応できる体制を構築する ことです。彼女は、ニッケル協会という 枠組みを通じた共同の取り組みによっ て、個々の企業では対処が難しい、将 来に深刻な影響を及ぼす可能性を孕 んだ課題にも立ち向かうことが可能に なると強調しています。そうした課題 は、ニッケル産業の将来に深刻な影響 を及ぼす可能性を孕んでいます。ニッケ ル協会は、責任ある企業同士が専門 知識を共有し、リスクを分担しながら、 持続可能なニッケル産業の未来に向け
て共に歩むための重要なプラットフォー ムであると、彼女は位置づけています。 グローバルな持続可能性におけるニッ ケルの役割
「ニッケルは、低炭素経済の実現に不可 欠な存在です」と、スチューカース博士 は力強く語ります。「ニッケルは、すべ ての再生可能エネルギー技術やバッテ リー、エネルギー貯蔵システムに不可 欠な材料であり、気候変動への対応に おいて中心的な役割を担っています」。 ニッケルが果たす役割はそれだけにと どまらず、安全な水の供給、食料の供 給網、衛生的な医療機器の製造、耐 久性に優れたインフラ整備、さらには 公共空間を彩るアート作品に至るまで、 多岐にわたる分野で貢献しており、健 康で持続可能な社会の実現に大きく寄 与しているのです。
「持続可能性は、何よりもまずその原点 (源)から始まります。将来の世代にわ たってニッケルを安定的に確保し続け ることは、私たち全員の責任なのです」 と、彼女は力強く訴えます。
この理念のもと、協会は、環境 (Environmental)・社会 (Social)・ガバ ナンス (Governance) (ESG)の観点を企 業活動に組み込むための「サステナビ リティ指針原則」を策定しています。 責任ある調達の推進 ベロニク・スチューカース博士は、責任 ある調達をESGへの取組みにおける第 一歩と位置づけています。「責任ある調
達基準は、企業が、リスクが特に高い 部分や、問題が集中している箇所を特 定し、データギャップを解消し、投資 家やステークホルダーとの信頼関係を 構築する上で重要なツールです」と彼 女は語ります。ニッケル協会は、OECD のガイダンスに準拠した責任ある調達 の枠組みである「Cu Mark」と連携し、 ニッケル分野向けに「Ni Mark」を開発 しました。Ni Markは大手企業から新 興生産者に至るまで、調達と監査に柔 軟に対応するのを可能にします。
イノベーションの推進 業界をリードする知見の担い手とし て、ニッケル協会は規制科学、市場開発、 新しい用途の開拓におけるイノベー ションを推進する存在です。スチュー カース博士は、大量の水損失を防ぐ耐 震性の給水システムなど、ステンレス 鋼の先進的な応用例に注目していま す。ニッケルが持つ優れた耐久性とリサ イクル性は、持続可能なインフラストラ クチャーにおけるゲームチェンジャーと なります。
今後、超高低温環境下でも優れた強度 と耐久性を発揮する高ニッケル合金は、 宇宙技術の分野においても極めて重 要な役割を果たすと、彼女は展望して います。電池材料として注目を集めが ちなニッケルですが、その可能性はエ ネルギー貯蔵の枠を超え、遥か宇宙の 領域にまで広がっているのです。
アドボカシーと教育 ニッケル協会は、政策立案者、製造業者、 そして消費者に対する教育の分野に おいても、信頼されるグローバル・パー トナーとしての地位を確立しています。
スチューカース博士は次のように述べて います。「当協会の専門家たちは、人間
の健康、環境科学、規制対応、市場応 用、持続可能性といった幅広い分野に おいて、他に類を見ない知見を提供して います。私たちは、科学的根拠に基づい た正確な情報こそが、あらゆるレベルに おける意思決定を支える礎であると信 じています」
金属、音楽、そしてリーダーシップへ の情熱
スチューカース博士は、有機化学の研 究からキャリアをスタートさせ、その 後、金属分野における政策提言の道へ と進みました。ユミコア社およびアル ベマール社での実務経験を経て、13年 前にニッケル協会に加わり、その後ブ リュッセル事務所の責任者として組織 を牽引してきました。「一度でも金属の 魅力に触れたら、もう簡単には離れら れません」と、彼女は微笑みながら語り ます。
しかし、ベロニクの情熱は金属の世界 にとどまりません。余暇には音楽家とし ても豊かな才能を発揮しています。すぐ れたピアニストであると同時に、地元 ベルギーで実績のある吹奏楽団ではク ラリネット奏者としてチームワークの精 神を発揮しています。さらに、ベルギー のオーケストラ「Casco Phil」の理事も 務めています。
そして、ニッケル協会の新たな“シェフ・ ドールケストル(指揮者)”として、彼女 はこの組織の特長を明確に語っていま す。「情熱、専門知識、プロフェッショ ナリズム、チームワーク、そして楽しさ です」と彼女は断言します。「私たちは、 チーム内でも会員との関係においても、 尊敬、協力、信頼を大切に育んでいます。 それが、ニッケルの力強く持続可能な 未来を支えるのです。」
「ニッケルは社会に大きな恩恵をもた らす戦略的鉱物ですが、責任をもっ て管理しなければならない課題もあ ります。」
ニッケル含有ステンレス鋼は製造時 の環境負荷が高い場合もあります が、寿命は長く、効率的でリサイク ルが可能です。持続可能性は社会 的経済的要素を含むライフサイクル アセスメントにより評価されます。
今日では持続可能性とは単なる流行語ではありませんーそれは産業、政策、お よび消費者が選択を行う際の指針となる原則です。ステンレス鋼分野ではニッケ ルは材料の性能向上、寿命の延長及び長期の持続可能性目標を支えるに際して 重要な役割を果たしています。しかしこの場合、持続可能性とは何を意味し、ま たどうすればそれを正確に測れるのでしょうか? 持続可能性の核心とは、現世代のニー ズを満たしながら次世代がそのニーズ を満たす能力を損なわないようにする ことです。それには経済成長、環境保 護及び社会的福祉のバランスをとる必 要があります。一方で持続可能な開発 がこれを達成するためのロードマップ です―即ち技術、実践及び政策を継続 的に改善して行くプロセスです。
素材の評価はカーボンフットプリント やエネルギー消費量にとどまりません ー環境面、経済面及び社会面を考慮し ながらその全ライフサイクルの影響を 理解することが必要です。ライフサイク ルアセスメント(LCA)などのツールに
素材の持続可能性は比較することは可 能でしょうか?答えはイエスですがとて も複雑です。1990 年代以来科学者及 び業界専門家達は持続可能性をベース とした素材の評価方法を定める努力を してきました。環境面及び経済面につ いては合意された方法及びツールによ り既に確立されている一方、社会面に ついては進化中です。
より素材の「ゆりかごから墓場まで」の 環境影響を評価する体系的な取り組 みが可能となります。
ISO 規格で定義されたLCAはニッケル 含有ステンレス鋼の全ライフサイクルー 即ち原材料の採掘から寿命の終焉たる リサイクルまでーにわたる環境に与える 影響を評価するのに役立ちます。
補完的手法であるライフサイクルコスト (LCC)やソーシャル LCA は評価を経済 的社会的影響にまで広げるものでより 包括的な持続可能性評価を提供してく れます。これらのツールは環境面での 利点のみならず経済効率や社会的責 任をも強調するものです。
文脈が重要 いかなる素材も本質的に持続可能性 を有してはいませんーその影響は生 産、使用、および使用後の管理次第で す。水力発電を使用し全量リサイクルさ れたスクラップから生産されたステン レス鋼を例に取ってみましょう。一見非 常に持続可能性があるように見えます が、もしそれが不適切に廃棄されリサ イクルされない短命の電子機器の装飾 的部品に使用されれば持続可能性を 損なうことになります。
逆にニッケル含有ステンレス鋼を長寿 命用途-例えばインフラや化学処理― に使用することは、その価値を極大化 しまた環境への影響を時間をかけて 弱めることになります。
リサイクルされたステンレス鋼は一般 的に一次原料から生産されたものより、 炭素及び環境フットプリントが低くなり ます。しかし持続可能性の評価はその 商品の全ライフサイクルにわたる経済 的社会的側面を考慮する必要があり ます。
そしてリサイクルは常に持続可能性を 高めるでしょうか?必ずしもそうではあ りません。もしリサイクルされたステン レス鋼がその強靭な特性を生かすこと なく、またリサイクルもされない短命な 商品に使用された場合その持続可能 性は一次ステンレス鋼を長寿命の完全
リサイクル用途に使用した場合に比較 して劣るかもしれません。
社会的な観点から見ると、インフラが 整っていない地域での一次生産は、裕 福な地域で雇用が少ない高度に効率 化されたリサイクルプロセスに比べて、 より多くの雇用と経済的利益を生み出 す可能性があります。
したがって LCA、LCC 及びソーシャル
LCA の定量的データは素材及び製品シ ステムを包括的に評価するのに不可欠 なツールであり、それにより持続可能 性のあらゆる側面の情報に基づいた 意思決定が可能になります。
将来を見据えて:ニッケルとともに持 続可能な将来を築く
ステンレス鋼におけるニッケルの役割 は極めて重要です。ニッケルの経済的 価値は高いため川下メーカーやエンド ユーザーはニッケル含有製品を採用す るかニッケル不使用の代替品を探すか 慎重に評価をする事になります。ニッケ ルは機能性、寿命、効率が良いことで 経済性がある場合に使用されますーこ れは環境面でも大きなメリットをもた らします。さらにステンレス鋼のリサイク ル業者にとってはニッケル含有ステンレ ス鋼スクラップのより高い経済的価値 がメリットを生み、回収率の向上に役 立っています。
耐久性、耐食性及びリサイクル可能性 によりニッケル含有ステンレス鋼は持 続可能性用途に最適な素材となりま す。LCA 及び LCC 研究への継続的な投 資により業界はニッケルの長期的価値 を強調する一方で実践面での改良によ り環境フットプリントの縮小を可能にし ます。
ニッケル協会の活動はニッケルの社会 的経済的な関連性や世界の様々な地域 における生産と使用のバリューチェーン についての理解を深め、環境及び経済 面を社会的側面で補足しています。
全世界の産業が環境にやさしい慣 行を採用しつつある中で、ニッケルを ステンレス鋼に思慮深く配合するこ とで経済的成功、環境保護及び社会 的責任のバランスをとる一助となり ます―これはまさに持続可能性を反 映したものです。
ニッケル・2025年40巻1号 | 11
マーク・マッカーサー博士と彼のチー ムは、エネルギー貯蔵エコシステ ムにおける有用な材料と製造方 法の発見・開発に取り組んでいま す。2020年以降、マッカーサー博士 はNOVONIXの正極チームを率い、 同社が特許を取得している全乾式・ ゼロ廃棄物の正極材合成技術の開 発とスケールアップを進めてきまし た。この技術は、ニッケル系正極の 製造コストと環境負荷を大幅に削 減することが期待されています。
NOVONIX での現職に就く以前 は、マッカーサー博士はテスラ社 に勤務し、電気自動車(EV)およ びエネルギー貯蔵システム(ESS) 分野における新しいリチウムイ オン電池材料と技術の開発に従 事していました。エネルギー貯 蔵材料をテーマにマギル大学で 化学工学の博士号を取得し、ダ ルハウジー大学ではジェフ・ダー ン教授の指導のもと、物理学で修 士号を取得しています。
現在、マーク・マッカーサー博士はカナダ・ノバスコシア州にあるNOVONIX社で 研究開発部門のディレクターを務めています。ニッケル協会のバッテリー専門家、 パーヴィン・アデリ博士が同氏にインタビューを行い、ニッケル系正極製造のコ ストと環境負荷を大幅に削減することが期待されている、NOVONIXの特許技 術、全乾式・ゼロ廃棄物の正極材合成技術について話を伺いました。
NOVONIXについて教えてください NOVONIXは2013年に設立された、バ ッテリー材料・技術・サービスの会社 です。ダルハウジー大学からスピンアウ トした企業で、当初は超高精度なバッ テリー試験装置の開発からスタートし ました。以来、研究開発サービスへと 事業を拡大し続けています。私たちの R&Dチームは、セル試作ラインを使って バッテリーセルを製造・試験し、材料 の開発や特性評価を提供することもで きます。
2017年には、米国テネシー州チャタヌー ガにNOVONIXAnodeMaterialsを設 立し、業界向けに高性能なグラファイト を開発しました。私が率いるカソード 材料チームは5年前に設立され、ダル ハウジー大学のマーク・オブロヴァック 博士のバッテリー材料研究室で最初 に開発された、特許取得済みの全乾式・ ゼロ廃棄物、正極材製造技術の商業化 に取り組んでいます。
全乾式・ゼロ廃棄物プロセス技術の焦 点は何ですか?
私たちの技術は、ニッケル・マンガン・ コバルト(NMC)系正極材料を、拡張 可能で持続可能かつコスト効率の高い
方法で合成することに焦点を当ててい ます。
他の技術と何が違うのですか? 従来のNMC正極材料製造プロセスで は、まずニッケル、マンガン、コバルトの 硫酸塩を使った水溶液共沈法により、 前駆体カソード活物質(PCAM)を合 成します。この工程では、廃水や副産物 (たとえば硫酸ナトリウム)が発生しま す。その後、PCAMにリチウム化合物を 混合し、焼成することで最終的なカソ ード活物質(CAM)粉末が得られます。 一方、NOVONIXでは、同等の高品質な NMC材料を、より優れたプロセスで製 造することに注力しました。ニッケル含 有率60~95%の各種NMC化学物質 において、従来法に引けをとらない性 能を実現しています。私たちのプロセ スフローはシンプルに見えますが、最 終製品をつくるのは簡単ではありませ ん。金属粉末、酸化物、炭酸塩などの 金属原料をリチウムやドーパント(添 加剤)と組み合わせ、すべてを焼成し ます。
このプロセスの「マジック」は、特殊な 試薬を使用せずに、すべての原料を完 全に乾燥した状態で組み合わせ、精密
な加熱によって結晶構造を整えること にあります。その結果、同じ設備を使い ながら、まったく新しい方法で同等の NMC粉末を作り出しています。
全乾式・ゼロ廃棄物プロセスの利点は 何でしょうか?
全乾式プロセスへ移行することで、設 備投資(CAPEX)と運用コスト(OPEX) をそれぞれ最大30%、50%削減する ことが可能です¹。私たちは高品質な CAM(正極活物質)粉末を、廃棄物を 一切出さずに製造しています。副産物と しての硫酸ナトリウム廃棄物も発生せ ず、特殊な廃棄物処理システムも不要 です。また、NOVONIXの技術を導入す るための設備改造も簡単です。同じ材 料を作りながら、コストを削減し、廃 棄物を排除し、工場の設置面積も縮小 できる…これはCAM製造業者にとって、 まさに理想的な組み合わせです。
難題は何だったのでしょうか? NMCのような三元系CAM(正極活物 質)の問題は、組み合わせる原料それ ぞれの酸化状態が異なることにありま す。「パーティーにいる子どもたち全員 を仲良く遊ばせる」ようなものですが、 それがとても難しいんです。特にマンガ ンは厄介で、ニッケルやコバルトとうま く混ざりません。最初の課題は、粒子 内で陽イオンが均一に混ざらないとい う問題を克服することでした。本来は 美しく均一に混ざった結晶構造ができ るべきところに、局所的にマンガンだけ が集まった「島」のような部分ができ
てしまうのです。私たちは、実験室レベ ルを超えたプロセスを開発し、異なる 原料をどう組み合わせればよいかを理 解する必要がありました。それには時 間がかかりました。そして分かったのは、 それぞれの化学組成には、その「均一 性の欠如」を克服するための独自の戦 略が必要だということです。
事業拡大と大規模生産に向けた次の ステップは?
バッテリー材料の大規模生産化には多 くの課題があることを、私たちは理解 しています。現在もエンジニアリングを 進め、年間1万トン規模のパイロット施 設を活用して、商業展開への道筋を定 めており、同時に、この技術をスケール アップして市場に投入するためのオプ ションも検討しています。私たちは、最 終的なスケールの工業化を支援できる、 実力ある企業とのパートナーシップの 確立に注力しています。
CAM(正極活物質)をNOVONIX方式 で製造するための施設を提供できる材 料メーカーと提携するか、あるいは自 社でその施設を建設することも可能で す。現時点では、この技術が市場に良 い影響をもたらすことを実現するため の最善の手段として、パートナーシップ とライセンス供与のルートを優先して います。
このインタビュー全文はニッケル協会 の公式ブログ「Chronickels」でご覧い ただけます。
1.Hatch社が実施した、初期段階(FEL-1)におけるプロセス比較の概算見積もり
断熱カバーを取り外した状態 の、NOVONIX社の全長13.5メート ルのローラーハース炉(RHK)。ガ ス処理システムおよびローラー/ヒ ーターカバーが見える。
混合材
「NOVONIXでは、同じ高品質な材 料を、より優れたプロセスで製造す ることに注力してきました。」
GeirMoeは専門技術士であり、ニ ッケル協会の技術サポート・サー ビスの責任者です。同氏は世界 各地に配属された素材の専門 家らと共に、技術的アドバイス を求めるニッケル含有材料のエ ンドユーザーや仕様を設定する 方々のサポートをしています。同 氏の専門家チームは、ステンレス 鋼、ニッケル合金、ニッケルメッ キなどの幅広い用途に関する技術 的なアドバイスを無料で提供し、 ニッケルを安心してご利用いただけ るよう努めています。
専門家に聞く 技術サポートに寄せられる
問:私が使用する304L (UNS S30403)と316L (S31603) の溶接部分がわずか に磁石に反応します。フェライトは溶接部に重要と読んだことがあります。 説明をお願いします。
答:すべてのステンレス鋼の微細構造 は全てその化学組成により決まってい ます。ニッケル含有 300 系ステンレス 鋼はオーステナイト微細構造を有しま す。ほとんどニッケルを含まない400 系ステンレス鋼はフェライト系であり、 一方フェライトとオーステナイトがほぼ 半分ずつの二相ステンレス鋼のニッケ ル含有は 300 系と 400 系の中間です。
の他の不純物に対する溶解性も上回 ります。従って 304L (308L) や316L用の 溶接電極の化学組成は溶接金属にフ ェライトを加える調整を行い高温割れ への抵抗力を強め溶着速度を高める ことが可能となります。
オンライン版ニッケル誌
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不幸にして、100%vオーステナイト微 細構造で固まる溶接部は高温割れを しやすくなります。この理由はオーステ ナイトの熱膨張係数がフェライト微細 構造より高く、従って溶接部が冷却す るにつれて溶接幅全体にわたる引張 応力により縦割れが発生する可能性 があります。
この高温割れが起きやすい状況は硫 黄その他の不純物によりさらに悪化し ます。これらはオーステナイト中で溶け にくく、溶接部が固まるにつれて結晶 粒界に凝縮され、結晶粒界の引張応 力をさらに低下させ高温割れを起きや すくします。高温割れを防ぐには、低 い入熱で溶接速度を遅くすることで冷 却速度を落とすことが必要ですがこ れは生産性には悪影響があります。
フェライト微細構造はオーステナイト に比べ熱膨張係数がより低く、硫黄そ
308L 及び 316L の溶接部の高温割れ を避けるため一般的には 4-10% のフ ェライト(FNフェライトナンバー)が望 ましいとされます。実際の化学組成 が示される場合は、通常フェライトの パーセンテージまたはフェライトナン バー(FN)が溶接電極の材料証明書に 記載されます。FN は実際の組成に基 づき算出されたものです。(実際の化 学分析ではなく典型的な化学分析値 のみを記載するサプライヤーもいま す)溶接完了後の溶接部フェライト量 は材料証明書記載と一致することは まずありません。というのは溶接部は 溶接電極とベースメタルの混合物であ り、溶接中にオーステナイトの安定剤 である窒素が空気中から溶接金属内 に取り込まれる可能性があり、冷却速 度も最終的なフェライト含有量に影響 を与えるためです。最後に、フェライト は強磁性体であり、溶接部に含まれる 少量のフェライトでも磁気吸引力を感 じるのには十分です。
ニッケルはナノワイヤからステンレス鋼合金まで様々な形で存在します。しかし如何な る特性がニッケルを日常品においても不可欠な要素としているのでしょうか?
クロム仕上げでのニッケル
野原に立っている風力タービンを見ても、おそらくニッケルは 目に入らないでしょう。それでもニッケルは、風力タービンが何 十年にもわたって安定して確実に作動し、優れた性能を発揮す るために欠かせない重要な素材です。
それではニッケルはどこにあるのでしょう? タワーの上部にあるボックス状の部分「ナセ ル」の内部には、機械的エネルギーを電気 に変換するギアボックスがあり、そこにはニ ッケルが不可欠なのです。
ギアボックスは、ブレードの回転速度(毎分 8~20 回転)を、毎分 1000~1800 回転のシャ フトの回転速度に変換し、効率的な発電を可 能にします。ギアボックス内の金属は、摩耗、 振動、そして極端な温度にも耐えられなけれ ばなりません。ギアボックスの重量は40トン を超えることもあり、約 1.5% のニッケルに加 え、クロムやモリブデンを含む高強度の鋼合 金で作られています。
これら3つの合金元素はいずれも強度を高めます が、極寒の環境下での脆さを防ぐのはニッケルだ けです。ギアボックスが故障すれば、発電はでき ません。ニッケルは風力タービンの性能を発揮す るためには不可欠な存在なのです。
輝きがあり耐久性もある外観を得る ために、「羽」は6ミリメートル(0.25 インチ)の304L(UNSS30403)ス テンレス鋼のプレートから切り出さ れました。魅力的な表面はサンドブ ラスト後にビーズブラストすることで 得られました。
天の声:
印象的で幻想的な美学を持ち、頭を後ろに反らせた「天の声 (The Calling)」は、 ミネソタ州の象徴的な州鳥であるアビ (水に潜って魚を食べる鳥)に触発されて 作られました。5,000 以上のステンレススチールの部品で構成されたこのランド マーク彫刻は、ミネソタ・ユナイテッド・フットボール・クラブのアリアンツ・フィー ルド・スタジアムにあるユナイテッド・ヴィレッジ開発のために、マクガイア家財 団によって委託されました。
英国スコットランドのケルピーズ (スコッ トランドの水辺に住み、馬の姿をして いる想像上の動物)彫刻で有名なアン ディ・スコットは、製作会社のダイソン とウィーマックと提携しました。この プロジェクトは、彼の工房で始まりま した。スコットはこう言います。「私は 軟鋼で三分の一のスケールの模型を 作り、それを同僚たちが実物大のアー トワークに拡大しました。彼らは素晴 らしい仕事をしました。船が伝統的に 作られていた方法に似た技術を使い、 鋼のフレームに鋼板を張り、1枚1枚手 作業で固定して溶接しました。」
65のセクションは、13 台の全長17メー トルのセミトレーラーによる車列で運 ばれ、現地で10日間かけて組み立て られました。高さ11メートル(36フィー ト)、翼幅 30メートル(98 フィート)も あるこの彫刻の重量は、およそ25トン にもなります。
アメリカ・ミネソタ州セントポールのそ の地域における大規模な再開発の一 環として、この彫刻は都市景観の中で もひときわ目立つ場所に設置されて います。