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Special interview with 1

日本語

SACHIYO KANEKO


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Photo: Andrei Farcasanu


金子祥代 SACHIYO KANEKO JAPAN

私には彼女は飛ぶ鳥のようだ。 自由に軽やかに飛ぶことを楽しんでいるように見える。 東京に生まれ、書を7歳で始める。それは自然なことだったと彼女は言う。小さ な少女は自分から学ぶことを始め、それが彼女に羽を与えることになる。 我々の伝統芸術を長年学んだ後、書をベースに現代アートを作り始めた。 初めての個展は 2000 年。以後、メキシコ・・・・などの多くの場所に展示の機 会が広がる。 津田塾大学学芸学部国際関係学科卒業。国際を学んだだけではなく、実践し続け ていると思う。

対談:高尾義彦(ジャーナリスト)

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YOSHIHIKO TAKAO: 初めて私があなたの作品に触れたのは 2008 年出版の「インクの魔法」です。 私も書を学んでいるので書がわかっているつもりでいましたが、全く新しい世 界で驚きました。伝統文化は堅苦しいと思っていたらなんと自由なのだろうと。 墨の作品と物語が大胆な余白の中に配置されて、本全体が詩のようでした。 そこからあなたに興味を持って観察しています。 SACHIYO KANEKO: ありがとうございます。 YOSHIHIKO: 様々な活動をしていますね。これはジャーナリストとしての目にも興味深いで す。 まず壁面作品から聞かせてください。様々なタイプの作品を発表していますね。 時に全く別の作家が書いたかのようですが、共通のこだわりはあるのですか?

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SACHIYO: 私にとって書はライフワークなので、 我々の伝統的な墨、紙、筆にはこだわ りたいと思っています。 今までに他の材料も試していますが、 結局ここに帰ってくる。 なぜなら、扱いは難しく、自由に使え るようになるには何年も修行が要り ますが、これほど忠実に、私の息遣い を再現できる材料は他にありません。 最高の道具。それに、2000 年前に書か れた文字が今でもそのままみられる のですよ。同じ素材で書いたら私の作 品を 2000 年後の誰かが鑑賞するかも しれない。ロマンチックですよね。 YOSHIHIKO: 本当に。 書というと、一般的に Chinese or Japanese calligraphy と訳されますが、あな た は SHO と い う 日 本 語 を 使 う こ と が 多 い で す ね 。 何 故 ? ア ラ ビ ア の Calligraphy と違いはありますか。 SACHIYO: 大いにあります。 書はもともと中国の甲骨文字から始まる長い歴史を持っています。東洋では長 い間芸術の中でも最高の扱いだった。それは一つには、もともと文字は神の言葉 を記録したものなので、字そのものが神聖だったこともあります。 しかし人々は紙や筆といった道具を手に入れた。この道具は書いた人そのもの を再現してしまう。つまり、よい書を見る人は書いた人の高い精神性を鑑賞して いるわけです。同じ作品の中に同じ文字が出てきても同じ形はしていない。これ は決定的にアラビアのカリグラフィーと違うところです。字の形よりも線に人 が出る。西洋の文化が入ってきて、文人の部屋の中でなく、大きな会場の壁に展 示される鑑賞スタイルが増えて大きな紙や筆を手に入れた現在はより線の可能 性が広がったと思います。

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Photo: Shigeaki Hashimoto

YOSHIHIKO: 線の芸術ですか。そこをもう少し聞かせてください

SACHIYO: これは海外でのワークショップで何度も実験しているのですが、まず、質のよい 線と悪い線をバラバラにたくさん混ぜて「好きな線を選んでください」と言うと、 見事にバラバラの好みの答がでます。 次に、 「生き生きとした健康な線を選んでみましょう」と言うと、だいたい同じ 線を選ぶのです。この瞬間に初めて書に触れた人でも線の価値に気づくのです。 新たな point of view を手に入れる。書いてみると尚更実感します。心の状態と 体の動きがよくないと「生きた線」は書けないのです。だからこそ価値がある。 だからいい線で書いた作品からは感動がうまれる。そこに言葉はいらない。

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YOSHIHIKO: 今おっしゃったことと大きな作品のパフォーマンスには関係が?つい最近もバ ルセロナで超大作のパフォーマンスを成功させましたね。サイズは4㍍ x10 ㍍ とか。あなたが筆より小さく見える。

Photo: Douglas Sielski

SACHIYO: 大いに関係があります。 普段、書の作品は紙に残った線の跡を鑑賞するわけです。その線から何を感じる か。それには人によっては訓練がいります。日本人でも、正しい線の引き方を見 せると、わずか 5 センチの線を引くのにもこんなに筆が動くのかと驚きます。 紙に残った長さの前にも後にも、そして紙のずっと上の高い空間も使って線が 生まれます。これはなかなかできないし、そもそも知られていない。教えられて も気づく人が少ない。 これは残念だなと思ったのです。一番大事で難しいところを何とか伝えたい。そ れで大きく大きくしてみたわけです。

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YOSHIHIKO: あなたのパフォーマンスを見ていると、フィギュアスケートの衣装のようなス カートをつけていることが多いですね。天女の羽衣みたいで美しいですが、あれ にも何か意味があるのですか?

SACHIYO: 天女の羽衣とはうれしいですね。というより、そこに気付いてくださったのが。 あれは下半身の動きを強調するために作りました。手だけで書くのじゃなくて 全身を使ってやっと線が生まれるのを表現するためです。おかげで多くの方が、 書いているはずなのにダンスのようだと。リズム感にまで気づいてくれたのが とてもうれしい。

YOSHIHIKO: それで海外公演も増えているのかな。まさに天女の羽衣で飛んでいるわけだ。

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SACHIYO: 本当にそうかもしれません。 それから、観客だけでなく、私の海 外公演は、現地スタッフの協力で、 現地のアーティストとの共演で実 現しています。バルセロナではもっ と国際的でした。スペイン、カナダ、 ウガンダ、パレスチナのスタッフ と、メキシコ、スペインのミュージ シャンと共演しました。これは大き いことです。日本文化を持って行っ て紹介するのではなく、一緒に新し いステージを創る。SHO が単なる 日本体験じゃなしに本当の international art になる可能性が感じられます。 YOSHIHIKO: すばらしい!書が東洋の伝統ではなく世界の伝統になる日がくる。 ところで日本の伝統の世界では、誰にも師匠がいます。あなたは今の師匠、友野 浅峰先生と 9 歳で出会いました。もちろん師匠は大きな存在ですね。ですが、他 に影響を受けた芸術家はいますか? SACHIYO: はい。私たちは一生学び続けなければなりません。師匠からは学ぶ姿勢を教わり ました。それから、タマヨ(メキシコ 1899-1991)とモディリアニ(イタリア 1884-1920)が大好きです。 YOSHIHIKO: それはどうして?書とも違うし二人も似ていないように思いますが。 SACHIYO: この二人は出身地も生き方も作風も違います。ただ、タマヨはメキシコの古い芸 術を深く研究し、非常に力強いタッチでズシンと腹の底に響くような作品を残 しました。京都で初めて作品に触れた時は衝撃でした。ピカソや同時代のスーパ

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ースターの作品が 100 点以上もある中で2点レモンとスイカの小品があっただ けなのですが釘付けになったのを今でもおぼえています。モディリアニはあの 有名な肖像画のシリーズが心地よく大好きなのですが、その前に、アフリカの芸 術を研究した時期があり、その時の作品を見た時に惹かれる理由が分かった気 がしました。二人ともプリミティブなところに根っこがあって、そこから強いエ ネルギーを発しているのだなあと。子供の頃から古典に触れてきた自分にとっ て共感しやすいのに加えて、形よりもっと深いものの力を強く実感させてくれ た二人です。 YOSHIHIKO: 日本の伝統ばかりでなく色々なところから学びがあるわけですね。 SACHIYO: はい。伝統というのは保存ではありません。いつの時代にも前衛があって、それ が新鮮な感動や新しい可能性を生んで生き残って来た。形は違って見えても残 る普遍的な部分。それが伝統の力です。古いままのものを保存するだけだと食べ 物のように腐ってしまうか古びて棄てられてしまいます。私がこの時代に生き ていること。今だからできることがある。 YOSHIHIKO: だから私が驚いた「インクの魔法」の作品のように様々な新しい表現が生まれる のですね。 と同時に伝統を学んできたあなたが現代アーティストとして活動できる理由で もある。 最近バルセロナでもうひとつプロジェクトを始めましたが。 SACHIYO: はい、「我々の伝統は普遍であることの証拠を集めよう」というものです。 私の作品は非常に東洋的です。しかし、いわゆる書とはまったく違ってみえるも のもある。私の作品は伝統芸術の進化なのです。つまり、書の最も重要な部分は 残している。であるなら普遍性があるはずです。 であるならば、世界には様々な文化がありますが、私の作品と調和するだろうと 思うのです。 今年バルセロナでこれを開始しました。歴史地区に作品を置いて写真を撮りま

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した。おしゃれなお店や現代的なものとも並べてみました。これは成功したと思 います。他の場所でも続けたいと思います また、今回は時間がなくてできませんでしたが、もっと大きな作品で街自体とコ ラボするようなことがしてみたいと思います。 YOSHIHIKO: それはおもしろいですね。実際どの写真にも調和があると思います。次が早く見 たいです。 次はどこなのでしょう。 あなたの活動を通して日本の美のエッセンスがどんどん世界に広がっていくと いいですね。 2016 年 4 月

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それから 12


YOSHIHIKO: 前回のインタビューは2016年4月に行われましたが、それから1年、新し い活動や実績も生まれています。こうした経験を振り返って、これからどんな 世界に挑戦したいのか、聞かせてください。 SACHIYO: バルセロナのアーティスト・イン・レジデンス Jiwar に 3 か月滞在し、Jiwar のバックアップで大作揮毫パフォーマンス、さらには 10 ㍍の作品の展示を実 現しました。これは街=大きな都市ならではの体験で、多くの人に出会い、作 品を見ていただくことができた刺激的な 3 か月でした。ちょうどその後高尾さ んとの対談が実現しました。 その後カディス(アンダルシア)のアーティスト・イン・レジデンス Linea de Costa に 3 か月滞在しました。 バルセロナでの密度の濃い忙しい毎日の後で、混沌と解放を実際に体感した感 じ。 東京生まれで、人生ずっと街にしか住んだことがない私が 3 か月間、海と空と 風にひたすら身を浸したのは初めての体験。 光の海岸と呼ばれるカディスの光は本当に特別なものだったと思います。 ちょうどカディス国際ダンス・フェスティバルがあり、毎日劇場や海岸や公園 に様々なダンスを見に行きました。 同時にアトリエと同じ建物ではビデオダンス・フェスティバルが始まりまし た。 これだけ多種多様なコンテンポラリーダンスをまとめて眺める機会は初めてで したが、見ているうちに、これは私がずっと温めてきたコンセプトを実現する 方法なのではないかと気が付きました。 アーティスト・イン・レジデンスでは、広いアトリエを制約なしに使うことが できたので、3㍍四方の白い BOX を作り、線を描く音と動きでダンス作品を仕 上げるという人生初の表現に挑戦しました。

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初めての映像作品制作にもかかわらず、すでにポルトガルとスペインの2つの 国際ビデオダンス・フェスティバルで選抜され、上映されました。 カディス滞在の後、マドリッドでメキシコのアーティスト Knut Pani とのコラ ボレーション制作をドキュメント映像にするという体験も叶いました。 まさに表現の可能性が大きく広がった転換期になったのではないかと思いま す。 今後は、さらに心を解放し、もっと自由に表現をしていけたらと思っていま す。 10 年後の自分が何をしているのかわからない、その自分に会ってみたい。そん なワクワク感を久しぶりに思い出しました。 現在は来春のメキシコシティでの個展の準備を始めています。

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YOSHIHIKO: どんな個展になる予定ですか? SACHIYO: 2012 年の「書かれた庭」展では実験的だった銀箔を使った Under the moonlight シリーズ が今回は主力作品となります。日本とメキシコを結ぶ文 学として、前回はウラルメ・ゴンザレスの詩「書かれた庭」を書作品にし、展 示全体を象徴する作品としました。今回はホセ・エミリオ・パチェーコの「永 遠の海」を考えています。より俳句の影響を感じる作品です。新たな実験作に も取り掛かっています。 YOSHIHIKO: 最後にあなたにとって芸術活動とは何ですか。何か目的が? SACHIYO: どちらかというと自分を知る作業なので、私が直接誰かに何かをするというよ うな大義名分はありません。ただ、よい作品は人の心を変える、ということだ けは体験しているし、信じているので、そんなよい作品を作りたい。そうした らほんの少しでも平和につながるのかもしれません。

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インタビューを終えて 金子祥代さんから、フランスで創刊された雑誌「PAN」に取り上げられる話が 飛び込んできたのでインタビュアーを務めてほしい、とメールを貰ったのは、 2016 年 3 月だった。日本で 3 年ごとに開かれる「湖心社書展」で知り合い、活 動を注目していたが、スペインと日本、遠く離れてインタビューが成立するの か、やや不安だった。 しかし、メールのやりとりを通じて、 「書」に対する彼女の心境などを具体的に 「文字」にして確認していくうちに、インタビューの形を整えることができた。 彼女がブログで発信する「Kinko ちゃん随筆」にも接して、旺盛なチャレンジ 精神に感心し、常に明るく前向きに見える彼女を応援したい気持ちになった。 今回は 1 年前のこのインタビューに加えてその後の活動ぶりも追加し、「書の 芸術家」として、10 年後を見据えて活動を続ける、と抱負を披露してくれた。 ヨーロッパや南米など広い世界ではばたく「天女」の活躍を、今後も楽しみに 見守りたい。 2017 年 夏

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WRITER

高尾義彦

YOSHIHIKO TAKAO: 【略歴】 ジャーナリスト。 東京大学文学部卒。

毎日新聞社在籍 42 年。 司法記者としてロッキード事件の取材など担当、 核兵器廃絶・平和運動の取材・報道などに携わる。 著書は 「陽気なピエロたちー田中角栄幻想の現場検証」 「中坊公平の 追いつめる」など。 その後、日本新聞インキで社長など 6 年。 2017 年 6 月、72 歳の誕生日を迎えて退任。 同時に、「河彦」の名前でインターネット上で発信してきた 俳句とエッセイをまとめた『無償の愛をつぶやくⅡ』を出版した。 この本には、 金子さんのインタビューや 和紙の歴史などをテーマにしたエッセイも含まれる。 ご希望の方はコチラから yytakao@nifty.com

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Reference 【performance】 JAPANESE CALLIGRAPHY☆LIVE☆WAVE☆Sachiyo Kaneko (Barcelona, 2016) https://www.youtube.com/watch?v=bUh4jOKo8PM 【Official Website】 http://www.kinkochan.com/english/index.html 【Book】 ‘Magical Ink’ ISBN-10: 4779003474 ISBN-13: 978-4779003479

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ARTE 金子祥代スペシャルインタビュー JAPAN ART 書  

書家、現代美術家 金子祥代の特別インタビュー。 聞き手:高尾義彦(ジャーナリスト)

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書家、現代美術家 金子祥代の特別インタビュー。 聞き手:高尾義彦(ジャーナリスト)

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