SOUND ROTARY vol.3 特集:2022年のディスクガイド

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3 February 2023 / published by Waseda Music Records 特集
2022年の ディスクガイド

2022 年のディスクガイド

「SOUND ROTARY」は、早稲田大学公認サークル Waseda Music Records が発行する フリーマガジンです。本号は、やりたいことを詰め込んだ学生ならではのディスクガ イドとなっています。季節の変わり目を肌で感じた時にまた刊行します。

2022 年のディスクガイド

13 インタビュー 「僕たちが6次産業、北海道そして東京について話すときに話すこと」

25 インタビュー

OB TALK!!

35 レビュー

2022 年マイべストエンタメ

46 2022 ディスクガイド作品リスト

Waseda Music Records

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@WaseReco_info

@wasedamusicrecords

https://wasedamusicrecords.studio.site

昨日はどんな音楽を聴きましたか?一昨日は?その前は?い えいえ、答えられないのが普通です。サブスクのカタログの 中で、私たちは安心して忘れることができます。その行為を 断罪することも、眉間に皺を寄せて説教することも、ここで はしません。というより、そんなことできません。その代わ り、ここにレビューを残しておきます。私たちが 2022 年に聞

いて、感動して、場合によってはやはり忘れてしまった音楽。 それらの存在をもう一度感知し、文字通りレビュー=回想し、 過ぎ去った時間に思いを馳せて頂ければ、これに勝る喜びは ありません。このディスクガイドに寄稿しているのは(ほぼ) 全員が現役の学生です。また、途中にはオムニバス企画とし て書き下ろしの記事が掲載されています。ぜひお楽しみに。

01 02 about
02 特集

METAATEM METAFIVE

LEO 今井がアルバム『VLP』をリリースするにあたって のインタビューで「馬力を上げていきたい」と話していた ことが印象に残っている。果たして、彼自身の作品はハー ドな趣を含んだ直線的な進化を遂げたものになった一方 で、METAFIVE ではメンバーの色を絡めとり遠くへ飛ば す投射機のような役割を確実にしていた。先行公開されて いた 2 曲は、フロントマンとしての彼が幅広い力加減を 発揮することをよく示している。“環境と心理”では小山 田圭吾と高橋幸宏のおぼろげな音の印象に輪郭を与えるよ うに、“The Paramedics”ではトーキング・ヘッズを思わ せる軽妙なリズム感とソウルフルな声を同居させた彼らし いスタイルをみせる。

METAFIVE の解散後に彼とメンバーの一員である砂原良 徳を中心に結成された TESTSET は、更に深く音のウェー ブ感を掘り進めている。そこでもやはり、LEO 今井のボー

Dawn FM

The Weeknd

ザ・ウィークエンドにとって 2 年ぶりとなる 5th アルバム。 まず、このアルバムの特徴として挙げられるのはその構成 の洒脱さであろう。FM ラジオ仕立てのコンセプトアルバ

ムであり、ラジオ DJ の語りが随所に挟まれている。中で

も“Out of Time”を挟む 3 作の展開には流石新世代 R&B ス ターと唸らせられる。マイケル色全開の“Sacrifice”から“A

Tale By Quincy”へ。DJ の語りの乗るメロウな音像は夜明 けの空に広がる暖色の陽光を思わせる。そして、亜蘭知子

“Midnight Pretender”のヴェイパーウェイヴ的サンプリン グセンスが光る“Out of Time”へ。海外勢によるシティポッ プの再評価が進んだ 2019 年以降を象徴している。DJ の 語りを挟んで展開するタイラー・ザ・クリエイター参加の

“Here We Go Again”ではメタな毒気がある。この楽曲

をヴェイパーウェイヴ的サンプリングの“Out of Time”か ら繋げる遊び心。まさにラジオ DJ のようなセンス。彼は

SICK! Earl Sweatshirt

Release Date:2021/12/22 Release Date:1/14

カルは確固たる軸を与える役割を果たしていた。こうした

あり方も、彼の言う「馬力」であるのだろうが、前段階で

ある今作は“Wife”のような縦横に広がる軽妙な遊び心を 引き立てる器用さからもわかるように、「馬力」とは剛力 だけではないのだと確認させられる。

ヒップホップシーンにおいて決定的な詩人、アール・ス ウェットシャツの 4 作目。ジャズや R&B を不吉に歪ま せ、ジャンルを一元化しながら「黒人音楽」を奪還するた めのビートに、《このクソッタレにロマンを持たない自由 がここにある》と正当な世界認知に基づくニヒルで内向的 なラップを吐き捨てていたアールは、勇気の一歩を踏み出 した。今作はパンデミックを彷彿とさせるタイトルからは 想像もつかないような希望が語られる。サウンドもソウル

やギターサンプルから 808 を唸らすトラップビートまで、

散漫でありながらクリーンに洗練されている。

パンデミックにおいて連想されるものを巧みに詩に落とし 込み、嘘と真実というテーマを押し広げながら制作された

にんたまちゃん

ワセレコ元会計

今作は、絶望という居心地の良い場所に安住することを許 さぬ人生の真実性に真正面から向き合う、父親となった アールの誠実さが色濃く現れている。

近年のラップゲームは内に向かう傾向が強く、憂鬱を享楽 的な熱狂で消費するノンモラルさえひとつのトレンドに なっているが、アールは表題作“Sick!”において提示され ているように、音楽を変革の手段とすることを諦めない。 世界が良くなっていることを学者が定量的に示すように、 人生の中に確かにある、パンドラの匣の底に煌めく希望と いうひとつの真実を、誰かが語らなければならなかった。 それがアールであったことは驚きだが、アールでなければ ならなかったような気さえする。

死のビジョンと災厄が這い回る、希望というむしろ病的な 真実を孕んだアールの、私たちの生を、ここでは素直に言 祝ごう。

久世 久世と申します。主に US ヒップホッ プとその周辺について語ってます。

Release Date:1/7

前作『After Hours』で暗闇から眩い光へと向かう道中を みせた。今作は夜明けの光が溶けていく様を FM ラジオと いう形でリスナーと共にしたといえる。次作ではどんな光 景をみせてくれるのだろう。

SMiLEY YENA

人気絶頂の中、2021 年に解散したアイズワンの元メンバー

であるイェナが解散後約 9 ヶ月の期間を経てカムバックし

たのが本作。期待のデビュー作というわけである。きっと

イェナを「見つける」人より「待っていた」人達のほうが 多かっただろう。そんな環境下で、イェナが示したのは普

遍的な K-POP だ。リード曲の“SMILEY(feat. BIBI)”は、A

メロ/ B メロ/サビとドンドン盛り上がっていく定番の 構成で、サビのメロディは突き抜けてゆく気持ちよさがあ

る。ポップスに普遍的な美しさ、楽しさ、興奮を覚えるの は曲の骨組みがドラマチックであるからだと私は感じる。

そんな普遍の美学をイェナチームは挑戦し提示してくれた

Release Date:1/17

よりこの EP には明るい、ハツラツとしたパワーがある。 近年の女性 K-POP アーティストは大人びていて、カッコ よくて、アーティスティックであるが故に遠さを感じるイ メージがあったけれど、『SMiLEY』はこちらの手を引い てイェナの明るさのパワーへ連れて行ってくれるような、 そんな印象を受ける。それは楽曲がイェナの人柄を等身大 に映し出せているからだと思う。《笑うことが 勝ちなんだ よ》と歌うイェナの『SMiLEY』パワー……なんの疑いも なくその明るさに引き寄せられる。

小川彩夏 2001 年北海道生まれ。日本大

学芸術学部映画学科に在学。

のだ。B メロや、C メロ、つまりラストのサビへの繋ぎで 盛りあがってゆくために余白を作るところ ......。サビとい

う華を咲かせるために曲を紡いでいる。そんなポップスの タイムレスな基本の魅力を思い出させてくれる。そして何

野口桜子

音楽作ったり聴いたりしてい

ます 20 歳の学生です

04 03
※以下リリース順

Brockwell Mixtape edbl

サウスロンドンは様々な才能を世に生み出していくのだな あとしみじみ感じさせてくれる。それはニューオリンズや ニューヨークと同じように、サウスロンドンという土地自 体が持つ雑多性、多様性がそうさせるのかもしれない。様々 なバックグラウンドを持つものたちが溶け合い、独自の文 化をセッションしていく。エドブラックは、リヴァプール 近郊チェスター出身で、芸術学校に進み音楽を専攻した。 そこでのエディ・スレイマンとの出会いによって、ネオソ ウルに R&B、そしてヒップホップに傾倒していくことに なる。そのエッセンスは今の彼の音楽からとても感じるこ とが出来る。 現在はアフリカやカリブ文化が根付いている ブリクストンというサウスロンドンの地域に拠点を置いてい

るそう。

『Brockwell Mixtape』は、彼の 5 作目のアルバムだ。今作 の特徴のひとつとして、作品それぞれのジャンルが多様

BAD モード 宇多田ヒカル

インスタライブでノンバイナリーであることを自ら明かしたり、

カバーに初めて他人―息子―が登場したり、『BAD モード』は 宇多田のディスコグラフィーにおいて複数の転機を表す象徴と

なった。これまで楽曲を自作してきたのに対し、本作では小袋

成彬、A・G・クック、フローティング・ポインツ、スクリレッ

クスなど R&B /電子音楽の作家たちがクレジットに名を連ねて

いるのもある種の変化だろう。この参加陣からみられるように、 ビヨンセやドレイクがハウスを用いる一歩前で、宇多田はすで にそのリズムを活用している。“BAD モード”はジェシー・ウェ アみたいに暖かでかつセクシャルなディスコビートを演出し、

“One Last Kiss”は澄んだシンセとグリッチの交わり方が印象深 い。ハウス曲の“Find Love”からスクリレックス特有のドロップ が際どい“Face My Fears”、フローティング・ポインツが参加し

た 10 分以上の大曲“Somewhere Near Marseilles ―マルセイユ 辺り―”の大尾はその著しい変化を現す。中盤ではサイケデリッ

であることが挙げられるように思える。例えば、“Never Met”はアップテンポでディスコ調、“Taken”では打って変 わって 00 年代の艶やかなネオソウル、“B.D.E.”ではアシッ ドジャズのような印象を受ける。これは客演の人々が新人 からベテランまで幅広くコミットしているということとも 関わるだろう。なんの垣根もなく溶け合い、よい作品を共 に作っていくという彼らの意識や姿勢が伝わってくる。

Crown Eric Gales

エリック・ゲイルズは現代ギタリストの代表格の一人であ

り、ブルース・ロックアーティスト/セッション・ミュー ジシャンとしてその影響力を高め続けている。筆者は、今

年 2022 年 1 月にリリースされた『Crown』によって彼の 存在を知ることとなったのだが、フレージングやコンピン

グを主として、音楽的発想/演奏技術が高い水準で洗練さ

れており、尚且つ新しいギターサウンドの提示として独自 のテクニックがいくつも展開されていることに驚愕した。

中でも“I Want My Crown”ではおおよそ BPM132 ~ 134 のファンキーなトラック上で高速かつ難解な 32 小節のギ ター・ソロが披露されており、エリック・ゲイルズの本領 を思う存分堪能することができた。現代音楽において和声

ヰ シチィボウイ

クなネオソウルとオルタナティブ R&B などを横断しつつ、宇多

田の既存の強みも大事に保つ。Netflix、Uber Eats、diazepam などの固有名詞や突如の f-word など、ラフで生活の匂いが漂う

歌詞も気を引く。話者が招待する場所はプライベートで、露骨な、 秘密の場所だ。家が社会的自我を脱ぎ捨てて自己の本縁に戻る

場所であり、招かれる場所は他者と分離されたところで、ひた

すら聴者に向けて内緒話を分かち合う。このプライベートな関

係は外部から閉ざされたものだろうか、それとも他者とコミュ

ニケートを図るための一歩だろうか。とりあえず、「マルセイユ 辺り」で会って話そう。この内密性をいちいちパンデミックと

結びつけて称賛の材料にしたくはない。ただ、20 年以上も前に 全列島を揺るがしたソウルフルでグルーヴィーなパフォーマン

スとプロデュース力は、敬意までも示したいくらい一貫してい

て、ロンドンの後輩音楽家たちと共にした足跡は輝かしい。そ

れだけでも記憶する価値は十分にある。

万能初歩

韓国生まれの留学生、〈Tonplein〉・

〈ele-king〉などにぼちぼち寄稿

進行と旋律の複雑化に加速的な傾向が見られるのは言わず

もがなだと思われるが、前述した“I Want My Crown”のギ ター・ソロは正にその後者の傾向が大きく反映されている

典型と言っていいだろう。というのも、本楽曲はコードの 大部分が A ♭ m7 一発で構成されているのだが、マイナー ペンタトニックを基本として、各種パラレルチャーチモー ドの特性音が関係するフレーズがソロ中にたびたび出現す る。ドリアンのみならず、フリジアンやジプシー風な音階 を用いるゆえか、後半の一部では民族的、メタル・ハード ロック的な所謂「速弾き」に近いアプローチが取られてい る『Crown』全体を通して同様のことがいえるが、彼の音 楽に対するアカデミックな姿勢が強く感じ取れる一枚だっ た。

金子斗真 黒人音楽を土台として、和声の はたらきをはじめに音楽の諸構 造を研究し新たな音楽とカル チャーを生成することが目標。

Three Dimensions Deep Amber Mark

テネシー州出身のアーティスト、アンバー・マーク待望の ファーストアルバム『Three Dimensions Deep』は R&B を基軸にしながら、自身のルーツであるジャマイカに由来

したサウンドやスペーシーなトラックが目立つなど、エン ジニアとしても活躍する彼女の器用さが際立つアルバムと なっている。2017 年に発表した EP『3.33am』で、彼女

の人生における 3 という数字にまつわる数奇な運命(自

身の誕生日や音楽を始めるきっかけを作ってくれた母が亡

くなった日時など)をタイトルに冠したマークは、今作で も同様に、3 というモチーフを取り入れている。自身の人

生を 3 Dimensions=3 つの次元に分けて構成するこのアル バムは、将来に対する不安やプレッシャーを吐露し、自分 とは何なのかを模索する過程を経て、自己価値観を獲得し

自信を取り戻すまでの道程を描く。“FOMO”では、カッティ ングギターが心地よいポップなファンクトラックに Fear

Of Missing Out= 取り残されることへの恐怖という SNS が 発達した現代ならではの悩みを明かすなど、多くのリス ナーも抱えている現代的な苦悩を語る。そこから、10 曲 目の“On & On”から 13 曲目の“Darkside”にかけて徐々に 展開される宇宙をモチーフとした音像は、まさしくジャ ケットを連想させるもので、特に“Darkside”において、ʻあ なたという光ʼにたどり着き、他者という存在を得た喜び を地上からロケットが打ち上げられたかのようなパワフル なサウンドと激しく熱を帯びた感情的な歌声で表現する試 みはこのアルバムのハイライトといえるだろう。

ジュンヤ 2001 年生。府中生まれ、横浜 育ち。主に海外ドラマが好き です。

05 06
Release Date:1/19 Release Date:1/19 Release Date:1/28 Release Date:1/28

蜜・月・紀・行 猫戦

猫戦は 2018 年に京都で立命館大学の軽音楽サークルにおいて結 成され、メンバー変遷を経て 2020 年から活動を本格化。2022 年 2 月にアルバム『蜜・月・紀・行』を発表した。猫戦はソウルやファ ンク、ディスコ、そしてシティポップなど幅広いジャンルをルー ツに持ち、それらのエッセンスを作品の至る所で味わうことが出 来る。

猫戦の作品の特徴の一つはメロウさであるように思える。そのメ ロウさは、彼らが持つルーツのエッセンスが散りばめられたメロ ディだけでなく、Vo. 原田の他者との関係性における心情の曖昧 な濃淡が細やかに描かれた歌詞、そして彼女の清らかでささやく ようなエフェメラルな歌声が溶け合うことで成就されている。な かでも“鶴”は、70 ~ 80 年代のシティポップ、ディスコのエッ センスが感じられる。キーボードのイントロ部分は、ディスコナ ンバーのようなグルーヴ感、そして、途中のギタープレイは全体 のメロウさに爽やかなシティポップのアクセントを与えてくれて

Glitch Princess yeule

ケイト・ブッシュに始まったアートポップの歴史の中で、 ビョークやロードらがそれに続き、今はユールがその次に 並ぼうとしている。バロックのような近代美術的感覚が現 れるアートポップに、ユールは電子的なアプローチを仕掛 ける。彼女の背景には、ゴスや静物画、グリッチやドリー ムポップ、またダニー・L・ハールがプロデュースに携わっ

ているようにハイパーポップ的アプローチもあり、非常に 多面的だ。『Glitch Princess』はユールことナット・チミ エルという女性を知る物語である。独白から始まる一曲目 から彼女が「好きなもの」を教えてくれる。これをヒント

に私たちは彼女を知る Web ページを読んでいく。ここで 表現されるのは、彼女自身の内面であり、経験ごとに感じ る彼女の率直な気持ちである。それは不快、嫌なのだ。モ ヤモヤに、発散できない彼女の複雑な心が、一方で美しい

アンビエントサウンドを構成している。心と表現される音

いる。また、“キャビア~ Black Pearl ~”は、イントロとサビ

のギャップがとても心地よい。イントロはゆったりとした柔らか

なギターが心地よいポップな曲調で、僕はそのまま進行していく

のだろうと考えていたが、それが終わるとキーボードがしっとり

と進行させ、渋いファンキーなギターのアクセント、そしてサビ

に来るとウィスパーなコーラスとボーカルの掛け合いが奏でられ

る。《誰かじゃなくあなたから》の《濡れたビターの合図》《ラブ

レター》を待っているという象徴的なフレーズの歌詞が相まって

メロウさ儚さが溢れ出ている。僕はこのアルバムを通しでよく聞

いているのだが、気づくと何周もしてしまっている。これをレコ

メンドしてくれた Spotify に感謝したい。

ヰ シチィボウイ

の二項対立がそこにはある。それは脆弱で琴線のごとく張 り詰められている。これはナット・チミエルという女性に ついて、曲が進むにつれてより深く、深く潜り込み、溶け 込んで全てが象徴化された海のように無限に広がる内面の 物語なのである。5 時間近くにわたる最終曲“The Things They Did for Me Out of Love”にて、無限に続く彼女の究 極に抽象化された意識の奥地に邂逅することとなる。

関西を中心に活動する SSW の 1st。サブスクでは配信さ れていないため全く話題になっていないが、近年のフォー クアルバムの中でも指折りの出来と言える作品だ。青葉市 子のような歌声やメロディラインが乗せられた、60-70 年 代のアシッドフォーク風のガットギターの演奏が身に染み る。時にサイケデリックに、時にクラシックのように進行 する楽曲構成は浅井直樹『アバ・ハイジ』を思い起こさせ る。特に素晴らしいのはその音響。木漏れ日のような透明 感のあるリヴァーブやハーモニーは音響派としてのフォー

クソングの最新型を提示する。要所要所で登場するスチー

ルギターや管楽器類も自己主張ではなく歌をより際立たせ ることに徹し、作品に更なる奥行きが生まれている。

手数が少ないながらそれ故聴き手に寄り添ってくれる様

は、どこか工藤礼子や yumbo の楽曲を思い出す。彼らの

ような「うたもの」の延長線上にいる作品ということがで

きるだろう。聴いていると一種の諦念や悟りを持った優し さで現代の都市を森から眺めているような、そんな様子が 瞼の裏に浮かんでくる。日常を歌いながら世界全てを見て いるかのように振る舞う超越性は「うたもの」の専売特許 だ。決して目新しい音楽とは言えないが、一つ一つの要素 を丁寧に心の奥底に響かせる。

悲しい思い出や戻らない楽しかった日々が思い出されて泣 きそうになるのは、僕だけではないはず。

EPOCALC

Water Walk 編集長。2019 年 より活動開始。音楽系企画記 事が持ち味。うさぎが好き。

Dragon New Warm Mountain I Believe in You Big Thief

もはやビック・シーフしかいない。US インディーの歴史 を前進させられるのも、マスとコアの境目を越えるオルタ

ナティブ・ロックの希望となれるのも、近年脚光を浴びる

新世代のフォーク・ロックシーンの旗手となれるのも、こ

の 4 人しかいない。世界中のインディー・ロックファンが、 全幅の信頼と期待をビック・シーフに投げかけているのは 紛れもない事実だ。実際、これまでに発表された 4 枚の フルアルバムは、それに応えるどころか握り返して想定外

のボールを投げ返してくるような芸当すら披露していた。

そしてそんな中で発表されたこの大作において、これらの視

スナハラ 富山の寒景色の中音楽を聴い

て育ちました。

線は全てシャットアウトされた。パンデミックによって生 じた空間的な隔たりの影響について、彼らはそれぞれインタ ビューで語る。一つのバンでツアーして回るなど、オール

ドスクールなバンドライフを送っていた彼らが引き裂かれ、 そして再び顔を付き合わせた時の喜びはひとしおだろう。

4 つのスタジオを回り 4 人のエンジニアとの 4 者 4 様のク リエイションを経験した 4 人の分かち難い関係性が、こ こには歌われている。

ゆえに密室的なセッションの断片、それはまるでジャケッ トに描かれている 4 匹の獣たちのような、他者の介在を 排した芯のある 20 曲が並べられている。本作の価値をシー ンとの関係性の中で捉えるのは、些か不誠実ではないだろ うか。まずはこの 4 人が再会できたことを共に祝い、そ してまた 4 人と私たちが円盤の上で再会できたことを寿 ぐべきなのではないかと、そう考える。

風間一慶 素手でショートを任せられた ことがあります。ワセレコ

11 代目、SR 編集長。

07 08
ちるちるみちる
畑下マユ
Release Date:2/2 Release Date:2/4 Release Date:2/6 Release Date:2/11

Light The Dawn

George Benson

2022 年 2 月、ニューヨークで 1975 年に行われた、かの 巨匠ジョージ・ベンソンのライブ・アルバムが各種ストリー ミングサービスで配信された。最初に耳を奪われたのは “Take Five”。いくつか特筆すべき点を挙げるならば、まず ギター・ソロのテンポキープ能力である。ジョージ・ベン

ソンのソロでは高速かつ跳躍的なパッセージが何小節にも 渡って展開されることが多々ある。しかし、ライブであり

ながら目立つミスピッキングもなく驚異的な安定感で演奏 し続けるそのさまは、もはや狂気的とも思える。またジョー ジ・ベンソンの得意とする、そのメロディアスなフレージ ングも顕著に出現していると言える。『Breezinʼ』を既に 聴いたことのある読者なら言わずして理解できることだろ

うが、あの心に染み渡るようなメロディ構築が彼の専売特 許であることは間違いない。その意味で、“Take Five”の 4 分 1 秒~から披露される一連のフレーズは、個人的に一

番の見どころである。このフレーズのターゲットノートは

コード Em7 における F ♯つまり 9 度であり、それ自体は ありふれたものではあるが、彼は和音かつレイドバックを 多分に感じながら演奏している。これは直前の激しいパッ セージの応酬も相まって、まるで荒々しくうなる大雨が過 ぎ去り、湖の水面が僅かに揺れている様を彷彿とさせるよ うな強烈な音楽的効果をもたらしていると言えるだろう。

“Take Five”の他に、“Down Here On The Ground”など名 演奏が詰まった素晴らしいライブ・アルバムだった。

金子斗真 黒人音楽を土台として、和声の はたらきをはじめに音楽の諸構 造を研究し新たな音楽とカル チャーを生成することが目標。

God Don't Make Mistakes

Conway the Machine

ブーンバップを基盤にハイエンドなコーク/マフィオソ・ ラップを見せる〈Griselda Records〉陣の躍進の中、コ ンウェイ・ザ・マシーンのアルバムは、そう、〈Griselda Records〉のものだ。ウエストサイド・ガンやマック・ホー ミーなどからも聴ける、ゴツいドラムとベース、ギャング

の話 。それでも本作においてもまだ有効期間が維持さ れている理由は〈Shady Records〉との提携などだけでは ないだろう。コンウェイが話題に挙げる実際の銃器事件は 米社会の根深い問題でもあるし、その告白は未だ無視でき ないパトスを与える。アルケミスト、ヒットボーイなどが プロデュースしたトラックはリッザやカニエ・ウエスト、 ジャスト・ブレイズが浮かぶハイエンドなサンプリングが 遮って、全般的に優れたラップにリル・ウェイン、リック・ ロスなどの参加陣のパフォーマンスまで、容易く非の打ち どころがない〈Griselda Records〉のブランディング・コ

レクションだ。例えコンウェイがレコードを去ってしまっ ても。

THE SPELLBOUND THE SPELLBOUND

BOOM BOOM SATELLITES と THE NOVEMBERS でそれ ぞれ活躍する中野雅之と小林祐介がタッグを組んだスー パーバンド、THE SPELLBOUND のセルフタイトル・デ ビューアルバム。二人の元のバンドの共通レファレンスと して浮かぶナイン・インチ・ネイルズのポップな面を抽出 し、特に小林のボーカル力量の際立ちがさらにポップさを 増す。シンセポップの“はじまり”や“MUSIC”は聴者を ダンスフロアに直々に誘い、DnB を導入した“名前を呼 んで”は聖俗の狭間を突っ走る高揚感をダイナミックな演 奏で表現してピークを迎える。“スカイスクレイパー”の ような LCD サウンドシステム風のダンスパンクを J-Pop なメロディーに昇華する様子や、後半になるとビッグビー ト、テクノなどの文法も取り入れる。そのほかにもケミカ ル・ブラザーズやジャスティスなどの名前が浮かび、パン ク、ハウス、シンセポップ、ビッグビート、ドラムンベー

ス、R&B など、あらゆるジャンルとレファレンスの遺産 を渡りながら完成した、二人に期待できる華麗なダンス曲 で詰め込んだアルバムだ。

Forbidden Feelingz

Nia Archives

イギリスのリーズ出身のジャングリスト、ニア・アーカイ ヴスが発表した、タイトルにもなっているスマッシュヒッ

ト“Forbidden Feelingz”を含む EP。マンチェスターでダ

ンスミュージックにのめり込んだという彼女は、今ジャン グルの新時代を作っているキーパーソンの一人といえるだ ろう。エレクトロニック・ミュージックのアーティストと

万能初歩

韓国生まれの留学生、〈Tonplein〉・

〈ele-king〉などにぼちぼち寄稿

万能初歩

韓国生まれの留学生、〈Tonplein〉・

〈ele-king〉などにぼちぼち寄稿

しては初めて BBC Music Introducing Artist of the Year に 選出されたり、単独公演が即完売し会場の規模を広げて 追加公演を出すなど、2022 年は飛躍の年になった。Brit Awards のライジング・スター部門にもノミネートされ、 これからの勢いに注目が集まる。また男性中心になりがち なダンスミュージック・シーン、その中でも特にジャング ルやドラムンベースというどちらかというといかつめの

ジャンルにおいてジェンダーギャップを埋め、新たな波を 作り地殻変動を起こす存在としてもその活躍が期待されて

いる。先んじて発表された“Luv Like”では軽やかで優しい メロディとジャングルのビートが心地よく、一方でタイト ル曲のように重いベースサウンドでキメていたり、強い ビート一辺倒ではないところが聴きどころである。フルア ルバムが楽しみなアーティストだ。

アンズ

早稲田大学3年。今年は UK インディーに より注目したい。

09 10
Release Date:2/14 Release Date:2/23 Release Date:2/25 Release Date:3/10

forms butasaku

アルバムのリリースに合わせて公開された fnmnl でのイ ンタビューで、butasaku の二人はこのアルバムのエッセ ンスを「宙吊り」と表現した。シンガーソングライター・ butaji とトラックメイカー・荒井優作の往復書簡のような 形で制作され、相互のライフスタイルに喚起されたという

本作の魅力は、あらゆる受容のされ方を包含してしまうよ うなポップさと、輪郭を持たずにうねうねと漂うモチーフ

が不可分な形で同居しているとこに見出されるであろう。

例えば、隙間をたっぷり残したトラックと butaji のソウル フルな声の織りなすスケープは、『Blonde』以降のムード を完結させてしまうほどの強度を持っているように聞こえ る。しかしこのような言葉を待たずとも、十分に本作は生 活に膾炙する傑作たりえるだろう。

しゃんと伸びた火柱のように、ふくよかな強さを内側に感

じさせる butaji の紡ぐ詩は、アブストラクトな荒井の描き

出す景色に人肌の温もりを加える。その優しい光景は、「特 定の何かを愛でる」というよりも「ここにあるものを、こ こにあるものとして置いておく」といった具合に、判断を 留保したまま止まることの肯定を繰り返して止まない。特 定のベクトルを明確に有することなく、そしてだからこそ この作品は「宙吊り」のまま、生活を温める極上のメディ テーションとして機能するのだ。

MOTOMAMI Rosalía

ルイス・フォンシとダディー・ヤンキーによる世界的ヒッ

ト“Despacito”で初めてその音楽を認識してから、気付け ばレゲトンというワードを目にする機会が増えた。バッ

ド・バニーが世界で最も再生され、ビヨンセのニューアル バムにケルマン・デュランが参加する 20 年代、レゲトン

は今やポップシーンとアンダーグラウンドその両方で注目 を集めているが、ロザリアはそのなかでもポップとエク

スペリメンタルを両立する特異な存在である。フラメン

コを現代的ポップスに昇華した前作『El Mal Querer』か

ら、J. バルヴィンと共演した王道レゲトンチューン“Con Altura”の大ヒットを経て、本作『MOTOMAMI』では、こ

風間一慶 素手でショートを任せられた

ことがあります。ワセレコ

11 代目、SR 編集長。

れまでのロザリアらしい“BULERIAS”や“HENTAI”などの トラックに加え、ウィシン、ダディー・ヤンキーによる

“Saoco”を引用した“SAOKO”や、奇妙なフレーズが耳に

残る“BIZCOCHITO”など実験的なトラックが並ぶ。サウ

FR FR Watson

皆さんはポンチャックという音楽をご存知だろうか?日本

でも 90 年代半ばにブームが起こったそうだ。調べてみる

とポンチャックとは「韓国の大衆音楽であるトロットの別 称」と出てくる。宴会などで参加者が次々と歌を歌い継ぐ 大衆文化と密接な関係があるそうだ。そのポンチャックを タイトルに据えたこのアルバムはどこかコミカルな印象が

ある。独特の節回しからくるクセのある、大衆に親しみ を持たれそうな可笑しさ、ノスタルジックなシンセの音

色 つまりあの頃のポンチャックの香りを 250 は現代 に復活させたのだ。今を生きる私達にポンチャックを運ん できてくれたのである。それも新しさを伴って。 リード 曲の“Bang Bus”はそんなポンチャックの特徴の 1 つであ る 2 拍子のノリを全面に出した疾走感あるダンスミュー ジックである。音色は YELLOW MAGIC ORCHESTRA を 彷彿とさせるテクノっぽさもあるが音ネタを多用してお

り、まるで音 MAD のようなユーモアがある。すっかり現

代版へとポンチャックを再構築しているのだ。そんなコミ

カル色が強い曲達が続くが、最後は現代の POP シーンへ

繋がってゆくようなメロウな歌謡曲である“Finale”で締め くくる。楽しいポンチャックの旅の余韻が残る、この幅広 いバランス感覚が素晴らしいと思う。なぜなら彼は有名プ

ロデューサーであり、多くの K-POP アーティストをプロ デュースしているからだ。ちなみにニュージーンズのリー

ド曲もだ。情報を簡単に手に入れることが出来る、リバイ

バルの時代。彼のように埋もれてしまった音楽の歴史を掘 り起こして提示してくれる人が今後も沢山現れてくれたら 嬉しいと思う。

野口桜子

音楽作ったり聴いたりしてい

ます 20 歳の学生です

腹の底に落とし込むように韻を踏む。徳島出身のラッパー・ Watson の言葉を右から左へ流すことはとてもできない。

例えば、放り込まれる固有名詞たちは極めて日本的な貧困

描写の中で綴られる。それは現代的な、またはある種の ヒップホップ的な物質主義へのアンビバレントな想いに繋

がり、Watson というラッパーが、どの地点から生活を描 写しているかを、リスナーに生々しく感じさせるだろう。

一方で、擬音だろうが固有名詞だろうが全てをライミング

に利用する、そんな Watson のラップは韻を固く紡ぎなが

らも滑らかで、時にメロディを獲得しながらフロウの柔

軟性すらも披露する。UK ドリルの文脈をおさえたサウン

ドと日本語独自のライミング/リリックを鮮やかに同居さ せる本作が秘めるものは、重いスネアやハイハットによっ

て言葉の重力を強めるタイトなミックステープ作品ながら も、発展的でありジャンル拡張的にも聞こえる。飾らない

ンド面では、バッド・バニーや J. バルヴィンに代表され る現代的なレゲトンではなく 00 年代レゲトン黎明期にお ける荒さを継承している一方で、リリック面では、かつて の男性中心主義的なレゲトンの下世話な表現を、卑猥さを 残した上で、エンパワメント的視点をもって更新しており、 既存のシーンと接近しながらも独自の位置を築くロザリア の作家性がこれまで以上に強く現れている。

ユウゴ 残酷な天使のテーゼをギターで 弾かされたことがあります。ワ

セレコ 11 代目。DJ してます。

Date:3/18 Release Date:3/23

現在地点から吐き出される彼の言葉は正直かつ切実であ り、その中でもポジティブネスに転換される最終曲“ IʼM WATSON”のメロディアスな着地は、作品全体のストー リー性を浮き上がらせる。ある種のユーモアと 批評性、 それでいて儚さをもサウンド、言葉の面で携え、リスナー の耳に入ってくる情報量以上の豊かさに溢れる。そんな作 品全体で単一的ではない表情を見せる『FR FR』は、じっ くりと腹の中で消化すべき、2022 年の傑作と言って差し 支えない。

市川タツキ 1999 年生。山梨県出身。音楽、 映像作品のライター。主に作

品レビューやカルチャーにつ いてのコラムを執筆。

11 12
PPONG 250
Release
Release
Date:3/16 Release Date:3/18

片沼宗琉(カタヌマソウル)/加々見太輔(だいちゃん)

カタヌマ「今回はドット道東さんのインターンで一緒に なったというご縁で来ていただいてありがとうござい ます。」

だいちゃん「いやいや、こちらこそありがとうございま す。」

カタヌマ「ドット道東さんには本当に感謝しかないです。今回 は僕、北海道育ち東京在住の大学生とだいちゃんさん、東京 育ち北海道在住の大学生がお話をするということでお願いし たいです。」

だいちゃん「よろしくお願いします。」

だいちゃん「幅広く出来る研究室なので、僕は服について研究してます。」

カタヌマ「服と言えば、ファッションショーをやっていたとか伺ったことがあっ たような。」

だいちゃん「そうなんですよね、僕が研究室に入る年だったので関わり はなかったのですが、前々回のファッションショーを行った時はThe 自然の草原みたいなところにランウェイを設置してそこでファッショ ンショーをした事があったと聞きました。とある有名ファッション ショーでDJをしていた方をお招きしていたらしいです。」

カタヌマ「まず、最初なんですけど、だいちゃんさんの大学でやって いることがとても興味深いなって思って。」

だいちゃん「僕は、網走にある東京農大のオホーツクキャンパスに 通ってて、そこの農業産業学部自然資源経営学科っていうところに所 属しています。」

カタヌマ「どんなことをしているんですか。」

だいちゃん「僕の研究室では、6次産業を研究しているんですけれど、1、 2、3次産業ってわかりますか?」

カタヌマ「激アツイベントですねぇ...だいちゃんさんのときはなにか やられたんですか?」

だいちゃん「僕たちは、この前の冬にファッションショーをやり ました。網走湖でやる予定だったんですけど、湖が凍らなかっ たのでその目の前にあるコネクトリップという施設の周りを使 わせてもらって開催しました。」

カタヌマ「そうだったんですね。」

だいちゃん「オホーツクは特に寒いので、使う服を水で濡 らして、凍らせて自立するように展示しましたよ。」

だいちゃん「大学は進学する予定はあまりなかったん ですけれど、勧められて東京農大のオープンキャンパ

だいちゃん「それは思いますね。僕自身、葉とか枝揃ってないとな んかしっくりこないですね。 見栄えがなんとも...(笑)。」

カタヌマ「1次産業が農業とか漁業で、2次産業が製造業や建設業で、3次産業 がサービス業でしたっけ。」

だいちゃん「そのとおりです!それで6次産業って言うのは、この1、2、3 の数字を掛け合わせたら6になるっていうことです。足してもそうなるので諸 説ありますが。」

カタヌマ「諸説ありますね。(笑)」

カタヌマ「めちゃくちゃ良い展示じゃないですか...(ねっと り)」

だいちゃん「ありがとうございます(笑)。こういう自 然環境を使ったユニークな展示をできるのは北海道 らしくていいですね。」

北海道育ち東京の大学生と

カタヌマ「どんなショーなんですか?」

だいちゃん「僕達は漁業に関わるファッションショーや展示を行ってますね。そ こでは実際に使う服をイメージしたものや、実際に使うものをオブジェにした りしてます。そして何よりも、実際に従事する方々をモデルとしてランウェイ に出てもらったりもしてます。」

カタヌマ「めちゃくちゃおもしろいじゃないですか...(ねっとり)」

だいちゃん「例えば、漁で目印とかに使う浮き玉っていうものや網などを使っ てオブジェとか作ってますね。」

カタヌマ「そういう、“生きたもの”や実際に従事する方々を用いるのってな にか理由がありますか?」

だいちゃん「やっぱり1次産業に興味を持ってもらいたいって言うのも そうですけど、かっこいいって思ってもらいたいんですよね。1次産業っ てだれにとっても不可欠な産業ですよね。僕自身漁師ではないのです が、農家のバイトを色々やらせてもらってるんですよね。例えば、芋 を掘ったりとか、それを選別したりとか。僕が聞いた話では、漁師 バイトをしている方が居て、その魅力に取り憑かれてそのまま卒業 後漁師になった方もいましたね。それで、そこにいる方々って職 人のようでとてもかっこいいんですよね。その“生”(なま)のかっ こよさっていうのを伝えたくて、そこに従事する方々やそこで 使われるものを用いてファッションショーをしたいなって思い ました。」

カタヌマ「農家バイトというものがあるんですね!僕がバイトと 聞いて想像するものとは違って新体験な気がしますね。漁師 バイトのその方もそうなのでしょうけれど魅力

である“生”を感じてもらいたいんですね。」

だいちゃん「そうですね、やっぱりかっこよさを感じても らいたいですね。だからこそ“生”の道具とそこに従事する 人を用いて表現していきましたね。」

カタヌマ「ここでとても気になるのが、こういったら語弊があるか もしれないですけど、何故わざわざ北海道に来たのですか?都 内出身の方は大抵都内に進学するものだと思っていたのでそれが とても気になるのと、だいちゃんさん自身はどうして1次産業に 興味を持ったんですか?」

だいちゃん「祖父母が畑を持っていた関係で僕自身が農業に興味を 持って農業高校に通っていたことが大きいですね。そこでは造園につ いて学んで、実際に庭園とかの葉や枝を整えたりする実習とかもあり ましたね。」

カタヌマ「そういう実習があるのは面白いですね。僕の知らない世界かもし れないです。」

スに行ったんですよね。驚くかもしれないんですけど、 世田谷にある東農大とオホーツクの両方行ったんですよ

ね(笑)。親が本当にバイタリティあって、めちゃくちゃ 軽い感じで行きました。」

カタヌマ「溢れすぎてますね(笑)。」

だいちゃん「そこで今の研究室の先生とかともお会いしまし

たね。」

カタヌマ「そうだったんですね。」

だいちゃん「同級生とかは高校卒業して、庭師として働いてる 人が多いですね。みんな頑張っているみたいです。」

カタヌマ「僕の地元の街路樹なんかは苔がむしていたりするんですけ ど、東京はそれらを覆うものがなくて驚きましたね。なんという か、人工物のようにも思えました。全てが完璧で、なんというか、 自然を支配しようとする気概が見えるというか。北海道は自然 には抗えないという感じがします。雪も降るし。」

だいちゃん「北海道は自然って感じがしますね。いい意味で 放置されてるというか(笑)。」

カタヌマ「働く人達リスペクトしかないです...。そういえば、庭とか もそうですけど、東京に来て思ったのが街路樹とかの葉や枝がきっ ちり整えられていてびっくりしました。資金力の差なのかな?みた いに思っちゃいましたが(笑)。」

加々見太輔 生まれも育ちも東京都 狛江市 今現在は網走市在住 東京農業大学 3年 ドット道東というとこ ろでインターン生 をやってます!

カタヌマ「おおらかかもしれないです(笑)。めちゃくちゃ話 が逸れちゃったんですが、ファッションショーの雰囲気っ てどんな感じなんですか?実際に従事する方々が出ると 言ってましたけれど。」

だいちゃん「従事する方々がランウェイに出たり、そ の知り合いの方々が観客として来てくださったりして いてとても雰囲気が良いですね。」

カタヌマ「アットホーム感あってほっこりしますね。そ

ういう場だとあまりそういうことを感じれない気 がしますね。」

だいちゃん「やっぱり、北海道に来てとても感 じるのは東京にいた時よりも人間関係がウエッ トになることですね。僕自身ウエットで密着し たような関係が好きなのでとても心地がいい

東京育ち北海道の大学生

ですね。」

カタヌマ「それは確かに感じるかもしれませんね。実際僕も北海道の地元にい るとお隣さんとかとも挨拶したりしますね。僕的には雪かきがコミュニ ケーションのひとつなのかなとも思いますね。お隣さんの場所もかいて あげたりしてコミュニュケーションがはじまる。」

だいちゃん「それはあるかもしれないですね。僕は生まれも育ちも東 京なので、やっぱり一層感じますね。東京だとどことなくみんな個々 で存在してる感じがして、ドライな人間関係な気がします。」

カタヌマ「やっぱり、東京だと人がとても多いわけだし、他者に干渉す

ることもないのかなって思いますね。地元とかだと良い悪い関係 なくあっという間に情報とか広がったりしますからね。」

だいちゃん「確かにそうですね(笑)。そういうところも僕は好 きですね。あたたかみに触れられるというか。」

カタヌマ「確かにそうですね。僕は東京に来て感じたのはある意 味で“自由”って言うところですかね。まあ、一人暮らしと いうこともあるんでしょうけど、干渉されることが少ない

し、何をしても誰も『良い』とか『良くない』とか言わな いんですよね。それって、僕にとってとてもいい事だと思 う反面、軸がなければ自分を見失う恐ろしさもあるなあっ て思いましたね。」

だいちゃん「確かにそれはありますね。北海道に来て から思うのがアグレッシブになりすぎずに肩の力を抜 いて自分のやりたいことできるなって思いましたね。

東京は選択肢こそ多いですが、競争が激しくて疲弊

してしまうというか。北海道は『試される

大地』ということもあってとてもチャンスが 多いと思いますね。」

カタヌマ「僕がいつも北海道に対して使う表現に『フ ロンティア』ってあるんですけど、まさにそう ですね。イーストコーストは新天地なので(笑)。」

だいちゃん「誰でもやる気があればなにかができ る場所のように思えますね。」

カタヌマ「そろそろお時間がアレなので、無茶ぶりなので すが今後の目標とかありますか?」

だいちゃん「ほんとに無茶ぶりですね(笑)。そうですね、 先程も言ったと思うんですけど服が好きなんです。特に 古着が好きなんですけど、周りに古着屋が全くと言ってい いほどないんですよね。だから、そういうファッションの 選択肢を増やすために周りの人達を巻き込みながらメディア やプラットフォームを整備したいなって思ってます。」

カタヌマ「確かに、北海道だと札幌以外は選択肢が狭まってしまい ますよね。とても素晴らしいと思います!本日は素敵なお話本 当にありがとうございました!!」

だいちゃん「こちらこそありがとうございました。」

片沼宗琉 北海道釧路市出身、 東京都在住 早稲田大学2年生 僕たちが6次産業、北海道そして東京について話すときに話すこと

14 13

『AINOU』(2018)と『NIA』の間には『竜とそばかすの 姫』(2021)の主演経験がある。色々と変わった背景のも と、本作を開く“KAPO”の自信は興味深い。《ありよりは べりの五十音のお言葉で曲はできます(簡単!)》。ミニマ ルなハープ系リフにさまざまな変奏を加えて綺麗な言葉

とキャッチーなアクセントでライミングする曲はハイテ ンションでポジティブなペルソナを久々に召喚する。か

と思うと続いての“さよならクレール”では millennium parade のメンバーと突然緊迫した危機状況を演出する。

その次の“アイミル”はまた軽いピアノジャズラップタッ チのキャッチーなリズムとバックコーラスで自己愛の説 破。このような変化に戸惑う暇はない。“Hey 日”、“Q 日” のだるめのファンク連作に続いて“祝辞”のグリッチと ディストーションは再度反転を繰り返し、アンビエントテ クスチャーで不協する器楽が印象的な“MIU”、トップライ

ンとファルセットが対比的な“NIA”などは出発点からずい

ぶん遠ざかった景色に孤独さを感じるのだ。アルバムの一 貫性を壊すのも直すのも全部彼女が作って実演する「ズレ」

の感覚で、不協和音を恐れないファルセットとシンコペー

ションなど彼女の刻印が鮮明なパフォーマンスは、その危

うさまでもポップに昇華する技芸と共に、今度も作品を特 別さでまとめるところが素晴らしかった。

RAMONA PARK BROKE MY HEART

Vince Staples

LA の理性的でペシミスティックなラッパー、ヴィンス・

ステイプルズの集大成としてリリースされた 5 作目のア

ルバム。彼の独創性溢れるディスコグラフィに比べ、統一

感のあるレイドバックしたサウンドを背にメロディアスな ラップが乗る今作は、ウェッサイの正統派ギャングスタ・

ラップとして引き受けることが出来る。

ここでは《頂点に立とうとしても、皆を連れてはいけない /全員を金持ちにすることはできないし、全員とファック

することもできない。》というラインから徹頭徹尾シリア

スで自嘲的な物語が語られる。

ヴィンスのフッドであるロングビーチのゆったりとしたさ ざ波、ギャングカルチャーに対する疑念、希望的なアイデ

万能初歩 韓国生まれの留学生、〈Tonplein〉・ 〈ele-king〉などにぼちぼち寄稿

amen break nostalgia aphextwinsucks

アニメ等をサンプリングしたブレイクコア、所謂「ロリコ ア」のレーベルとして最近急速に知名度が上がりつつある

〈MAD BREAKS〉からの作品。エイフェックスツインサッ クスは(sucks とか言っているものの)エイフェックス・ ツイン的なドリルンベースが持ち味のトラックメイカー。

〈MAD BREAKS〉のなかでも人気のアーティストだ。

アーメンブレイクによって元曲になかった過剰さが発生し つつも、決してノイジーにならない絶妙なラインを狙って

いるのは流石。流麗なアーメンブレイクといった趣だろう か。サンプリングの仕方もとても丁寧であり、「美味しい

ところを持ってくる」醍醐味を味わえる。

白眉は三曲目“just between us”。チャットモンチー“ここ だけの話”をサンプリングしている。今作中で最も派手に アーメンブレイクを利かせカットアップもしまくる。この 過剰さで異形化させながら、やはり聴きづらくしないのは

彼の手腕によるものだろう。その上でチャットモンチーの ゼロ年代感(“ここだけの話”は 2010 年発表だが)を残

しつつ、現代のネット音楽として昇華している様は一つの

手法を作った感さえある。Y2K の音楽的解釈と言える現 代ロリコアの到達点の一つと言ってしまっても良いかもし

れない。そしてロリコアでありながら実はアニメそのもの をサンプリングしていないのも面白い。だがロリコアのイ デアというべきものに触れた点で、今作はこのジャンルの 中でもトップクラスの出来だと思う。

EPOCALC

Space Sounds 編集長。2032 年

に地球外の音楽「フレア」を受信。

紹介し、一躍時の人となる。

ア等々上昇的な機運全ては、発砲音とそれに対する人々の 歓声、ヴィンスに刻印されたリアリズム、PTSD に伴う暴

力/拝金主義が徹底的に打ち消してしまう。

Aethiopes

billy woods

NYのラップデュオ、アーマンド・ハマーとしても活躍す

るアングラシーンの重鎮=ビリー・ウッズが同郷のプロ

デューサーであるプリザーベーションとタッグを組んだソ

ロアルバム。今作を聴いてまずあるのは、プリザーベーショ

ンの「ラップをさせる」という妥協のないミニマルで特異 なビートだ。古今東西の忘れられた音を拾い集めたサンプ

ルで構築された幻想世界は、ウッズの過剰な引用と視点の 躍動によって押し広げられている。

ウッズは植民地支配や資本主義の搾取構造、政治の動向な

どの事実と引用による他者性に自らのアイデアを絡め合わ

せ、あらゆる権力関係に対するユーモラスでアイロニカル、 そしてなにより詩的な言葉を激しくスピットする。この知 的な方法、いわば二重三重の押韻性は、ほとんど彼にしか

ありえない。しかし今作においても革命的なアイデアには 乏しい。その理由は“Remorseless”というマルクス主義を

しかし今作でも擬人化された銃との狂気的なラブロマンス

“WHEN SPARKS FLY”や刹那的な生き方を淡々とラップ するフックと情景を落とし込んだ技巧的なバースで構成さ れる“BANG THAT”など、巧みなリリシズム自体は全く損 なわれていない。

スムースなラップと哀愁漂うサウンドがヴィンスの言葉と 身体を軽やかに運んでいくが、ラモナパークはヴィンスの 心を掴んで離さない。

そしてヴィンスがここで提示した光の当たらぬ残酷な世界 と、私たちの生きる世界とを隔てる境界線は存在しない。 「私」が「あなた」でないことの必然性は、どこにも存在 しない。

久世

久世と申します。主に US ヒップホッ プとその周辺について語ってます。

破壊する極めて個人的な悲劇とその認知を通して理解され る。ウッズの匿名性は韜     晦癖などではなく、こ うしたリアリズムを覆い隠すものであった。

「過去は決して遠くない」とモノクロで語られた世界は、 高らかに鳴り響くフルートを背に、決定論と資本主義リア リズムという永続する神の無慈悲によってモノクロで彩ら れるのだ。そこからアウトロの“Smith + Cross”でようや く時計が進み、アイロニーを貫きつつ現代におけるあらゆ る問題を暗喩させる。

単なるカタルシスに終わらせないこの大傑作は、私たちそ れぞれに真実に向き合う勇気、思考、創造を要求している。

久世

久世と申します。主に US ヒップホッ プとその周辺について語ってます。

15 16 NIA
中村佳穂
Release
Release
Release
Release
Date:3/23
Date:3/31
Date:4/8
Date:4/8

SAULT

匿名性の高い神出鬼没のプロジェクトであり、その音源も ソウルからヒップホップ、ファンクにロックにジャズに至 るまで広範なカバー範囲を誇り、まるでその定義を拒む かのように活動を続けてきたソー。中心にいるのはリト ル・シムズやクレオ・ソル、さらにはアデルのプロデュー

スまで務めるサウスロンドンのドラマー、インフローこと ディーン・ジョサイア・カヴァーだ。

BLM への連帯を強く表明した 2020 年の連作『Untitled (Rise&Black Is)』、99 日間限定ダウンロードの音源として (ウェブ上では)現在聞くことができない 2021 年の『NINE』 をリリースしたのちに発表されたのが本作『AIR』である。 そんな本作はというと、扇情的なビートが牽引するファン

ク・ロックという、ほぼ唯一彼らの音源の中で共通してい

た要素は大きく奥へ引っ込み、代わりに室内楽的な要素 と荘厳なコーラスが前面に強調される意欲作となった。

オーケストレーションの導入というより、オーケストラそ のものが作品の軸になっている。思えばインフローが手が

けた、リトル・シムズの 2021 年の大傑作『Sometimes I Might Be Introvert』のオープニング・トラックも、壮大な

オーケストラから幕を開けていた。あの時から彼の世界観

の中にはこの『AIR』の構想があったのかもしれない。あ

らゆる予想を上回り裏切ってくる、やはり神出鬼没のプロ ジェクトだ。

春火燎原 春ねむり

「 叫べ!光れ!ロックンロールは死なない!」と 4 年前に 訴えた彼女は、ウイルスが蔓延し、実際に戦争が始まって る一方でギターソロどうこうの議論が白熱している現状を みて一体どう思うのだろうか。

“zzz #sn1527”において宮沢賢治の『よだかの星』を引 用しているということがこのアルバムのすべてである。望 まぬ名を与えられ、助けを求めるも拒絶され、自ら飛び立 ち傷つき燃えながらも星になる。またこのアルバムタイト ルは「星火燎原」という四字熟語をもじったものである。

風間一慶 素手でショートを任せられた

ことがあります。ワセレコ

11 代目、SR 編集長。

星のように小さな光のような火でも原野を焼き尽くす、ま さに春ねむりというアーティストを表している言葉である。 このアルバムではポエトリーラップとデスボイスが使用 される。デスボイスはメタルにおいて歪んだ楽器にボーカ ルが負けないようにする技法、この二つを使い分けること で理不尽な社会への強い反抗心と、聴いている一人ひとり

脈光 大石晴子

前作『POWERS』(2020)は英米圏インディー・オルタナティ

ブ・ロックの演奏を充実に再現すると同時に優れた J-Pop 式メ ロディーを重ねて特別な風味でブレンドした力作だった。本作

もまたそれに準する価値を秘めたアルバムと紹介できるだろう。

“電波の街”、“金色”ではニルヴァーナの強烈なリーフが顕現 するグランジロック風に、“キャロル”ではブリットポップ風

に、“くだらない”では典型的な日本のポップロック風に仕上げ

るなど、あらゆるファン層を満足させられる高密度なロックナ ンバーが続く。ただ、前作と決定的に違いを見せるところがあ るとすれば、それはシンセサイザーとコーラスを使ってもっと 深い空間感覚を形成するところにある。その変化が一番著しい

“OOPARTS”を聴くと、アラン・パーソンズ、デヴィッド・ボ ウイのごとく宇宙空間を広げて、滅亡の近づいた地球を捨てて 去る光景を通して、空間的・運命的拡張の特異点に至ることが 確認できる。スケールの変化は時間軸にも訪れる。アニメ『平

家物語』の OP テーマとしてシングルカットされた“光るとき”

で話者は未来・歴史・現実の境を超えて話しかける。《何回だっ

て言うよ、世界は美しいよ/それは君が諦めないからだよ》。運

命の定めを乗り越えて対話を試みるナラティブと、トレモロ演 奏が入ってポストロック的に膨張するスケールが絡み合う瞬間 は、まさに今年最も忘れ難い感動をもたらした。本作で論じる

希望は逆説的で、膨張する音はむしろ逆らえない運命として役 割を果たす。それでも話者が次世代に向けて《世界を愛してく

ださい》(“マヨイガ”)と言える理由は、我らが住む場所は「今・ 此処」であるからで、その世界を継がれる人々が存在するから

であろう。希望を継ぐ責任の大きさを美しく奏で、歌ったアル バムだ。

万能初歩

韓国生まれの留学生、〈Tonplein〉・

〈ele-king〉などにぼちぼち寄稿

我らが早稲田大学のソウルミュージックサークル・The Naleio の出身でもある大石晴子。彼女の 1st アルバム『脈 光』は、ソウルや R&B のテイストを汲みながらも、その

枠組みには囚われない緻密な音響構築とコロナ禍を経て生 まれた詩作が印象深い作品だった。総勢 14 名のアーティ ストとのコラボレーションによって制作された本作は、大

石の独特な歌唱法や表現力がつぶさに捉えられた一枚で、 それぞれの曲におけるバックバンドの演奏と自由で型には まることのない歌声が交わるサウンドは、まるで生き物の ような動的な魅力を放っている。

シングル“ランプ/巡り”を 2020 年の 4 月に発表して以 降、表立った活動からは距離を置いていた大石が、コロナ 禍の中で完成へとこぎつけた本作には、誰しもが停滞や足

踏みを余儀なくされたここ数年間の日々の記憶や葛藤が刻 まれている。《まだ青い絨毯/選り分けられぬ/ゆくゆく

に向けて語り掛けるような優しさを両立している。聴いて いると自然と気持ちが強く鼓舞される。

この文章を読んでいる君がもし学校で楽しそうに過ごす 人達に絶望しているというのなら、もし猛スピードで動く 社会に嫌気がさしているというのなら、もしみんな死ねと 一回でも思ったことがあるというのならこのアルバムを聴 いてほしい。神聖かまってちゃん『友達を殺してまで。』、 きのこ帝国『eureka』に並ぶ、教室の隅で祈っている君 のための叫びだ。

Kun

法政大学 2 年、法政大学にて ライブイベントを企画してい ます。

を“菜の花” 》や《行き場がない/これまでの事ごと/煮 溶かしては固めてを続けている“さなぎ”》など、作中の 詩からは、どこかもがき苦しんでいるかのような姿が浮か ぶリリックも登場する。しかし、そのような先の見えない 不確かな状況でも、大石は光を見失わない。ラップを取り 入れた 3 曲目の“手の届く”で、日々の中にある手の届く 範囲のささやかな喜びや幸せを、彼女は爽やかなビートと シタールの音色のような心地よいギターフレーズにのせて 歌う。『脈光』は、自分を見つめ直したいときにまたここ に戻ってこようと、そんな思いを抱かせてくれる特別な作 品だ。

ジュンヤ 2001 年生。府中生まれ、横浜

育ち。主に海外ドラマが好き です。

17 18
AIR
our
羊文学
hope
Release Date:4/15 Release
Release Date:4/22 Release
Date:4/20
Date:4/27

Based On A Feeling

Sabrina Claudio

要は感情なのだ。マイアミ出身のシンガー、サブリナ・ク

ラウディオが送る『Based On A Feeling』にはエロティシ ズムと憂鬱が充満している。全 11 曲のラブソングにパッ ケージされたムードは濃密かつ親密。恋愛、依存、有害な 関係性、そしてセックスについてのテーマを歌いながら、 ピアノのメロディやストリングスに被さるボーカルの粘着 性こそが、この作品における親密さを高める。

1 曲目“Subtle Things”の、ベッドルームで奏でられる音

と囁かれる声から、モダンなネオソウルへの接続を匂わせ る音楽的な文脈を感じさせながらも、その音の触れ合いに 耳を奪われる。音によって生み出される官能的な空間、そ して親密さ。それは暗い部屋での温かみのある肉体的な感

触を、肉声の生々しさによって感じさせることでもあり、 または楽器と声を交わらせ、その音楽に存在するものを決 して切り離させないような、アンサンブルのことでもある。

Radiate Like This

Warpaint

ウォーペイントの魅力を一言で表現するなら「気怠さ漂う 大人ギャル」である。愛してやまないガールズバンドたち について語るならば、90 年代のライオット・ガールムー

ブメントまで遡りたいところだが、長くなりそうなので今 回は割愛。

このアルバムには、前作までのキラーチューン——“New song”や“Disco//very”——などのような、飛び抜けて 盛り上がる曲はない。むしろ本作は“Love Is to Die”や

“Whiteout”などの曲に顕著に表れていた、コクトーツイン ズなどにも通じるどこか〈4AD〉的な「耽美さ」を纏った 質感に磨きをかけたような作品である。6 年という年月が バンドにもたらす変化は当然だが、プロデュースしたのが トム・ヨークとサスペリアのリメイク版の音楽を担当した

サム・ペッツ=デイヴィスと知って、このアルバムの空気 感に妙に納得してしまった。

ムーディーな恋愛感情と依存的な関係性を主体的に描写し

た 2 曲目“Don t Make Me Wait”や続く 3 曲目“IOU”にお いても、自らの声(ボーカル)を二重にミックスし、多層 性を生み出している。音を重ね合い、粘着させるその演出 は、人間関係の終わり、別れに抵抗するような、歌の主題 とその感情に則している。欲望に忠実になることで完成し た魅惑的なこの空間は、全ての者の感情を溶かす。

スーパーチャンポン おとぼけビーバー

イデオロギーに毒牙を向ける音楽作品はたくさんある。

そもそもパンクの出現から反抗的な表象を前面に出したも ので、アンダーグラウンドでモッシュを起こすなど、おと ぼけビーバーが演奏するハードコアパンクの形式はマスへ の反目的性格を持つ。メンバーが全員 10 代のパンクバン

ド、リンダ・リンダズの話題曲“Racist, Sexist Boy”(2021)

から見えるライオット・ガールの痕跡など、ジェンダー問 題意識が反規範的態度を示す音楽を通じて耕されてきた歴

史も脳裏に浮かぶ。

市川タツキ 1999 年生。山梨県出身。音楽、

映像作品のライター。主に作

品レビューやカルチャーにつ いてのコラムを執筆。

『スーパーチャンポン』の場合、コールアンドレスポンス 形式をとる尖ったブラックユーモアが突破戦略だ。《携帯 みてしまいました/アイツめっちゃマッチングしてまし

た》《ワンチャン狙い/ジジイハズカム》など、女性の周 りで起こる笑えない状況を清々しく非難したり、《あなた との恋/歌にしてジャスラック》とステレオタイプを逆手

にとって弄ぶ。最も意表を突くのは《アイドンビリーブマ イ母性/他人事じゃないよ児童虐待》と子供をなんと「人 質」に取ることで、母性神話を政治化するジェンダー規範 と国家権力の暴力に対してさらなる禁忌な暴力で対応する という予想外の発想でショックを与える場面だ。そのよう なブラックユーモアと重たく叩いてぶち破るハードコアな 演奏の上に「おとぼけな」顔をして言い回すダジャレ型の サビを混ぜると、強烈な痛覚でどうにも忘れ難いスーパー ホットスパイシーチャンポンの完成だ。もちろんいい年し て駄々こねてるおっさんに辛さを鎮めるお冷など《取り分 けませんことよ》?

万能初歩

韓国生まれの留学生、〈Tonplein〉・ 〈ele-king〉などにぼちぼち寄稿

A Light for Attracting Attention

The Smile

コロナの流行により、それぞれ別々に収録をして曲を完成 させることになったという本作。Vo. / Gt. のエミリー・

コカルは、元々はこのアルバムのタイトルを『Exquisite Corpse』(シュルレアリスムにおける作品の共同制作の手 法、直訳すると優美な屍骸)にしようと思っていたという。

物理的な距離を置く期間を経て、それぞれの内省的な部分

が研ぎ澄まされたことで、これだけの珠玉の楽曲たちが生 まれたのかもしれない。

レディオヘッドのメンバーであるトム・ヨークとジョニー・ グリーンウッドが、サンズ・オブ・ケメットなどサウスロ ンドンのジャズシーンの中心人物の一人であるドラマーの

トム・スキナーとバンドを結成 という概要からは想

像できないほど、このプロジェクトはフレッシュさに満ち 溢れている。事実、このデビューアルバムのプロモーショ

ンで、彼らがあたかも「僕たちデビューしたての新人バン ドです!」といった軽妙なノリで SNS を更新していたの も記憶に新しい。

トムとジョニーは曲ごとに楽器を持ち替えながら、その キャリアの中で培ってきたリズム解釈を、トレンドと化し たポストパンク・リバイバルのサウンドに惜しげもなく織

に発展したり、“Speech Bubbles”の後半で合流するビー トの奇怪なアクセントの置き方のようにさりげなく配置さ れたりしている。寂寥感の漂うリリックも含め、そのどれ もが疑いようもなく「今」を穿つための刺激的な一手とし て響いている。飄々とした表情を崩さないままツボを深く 突いてくる、憎たらしいほどに素晴らしいデビューアルバ ムだ。

小宮えみり 早稲田建築。現在は TOKION と いうメディアの編集部にいる。

り交ぜる。“You Will Never Work In Television Again”や“We Don't Know What Tomorrow Brings”などで、それは諧謔的 なほど荒々しく発露したり、“Thin Thing”でシステマチック

風間一慶 素手でショートを任せられた

ことがあります。ワセレコ

11 代目、SR 編集長。

19 20
Release Date:5/6 Release Date:5/6 Release Date:5/6 Release Date:5/13

Mr. Morale & The Big Steppers

Kendrick Lamar

もはや世界一のリリシストと言っても過言ではないケンドリッ

ク・ラマーが、そのディスコグラフィーを通して彼が大衆文化 の黒人問題に対して象徴的な存在になったことは否めないはず だ。しかし本作は英雄の裏面に精神疾患・性中毒などの問題を 背負ってきた個人の告白が描かれる。製作陣はゴスペル、ジャ

ズ、アフロリズム、トラップなどを用いて今度も優秀な楽曲を 提供し、ケンドリックの多様なペルソナ劇に積極同行する。各 パートのイントロはゴスペルクワイアを動員してお馴染みの素 晴らしいパフォーマンスで期待を集め、ボーイ・ワンダーが参

加した“N95”と“Silent Hill”は『DAMN.』(2017)でのバンギン グ力を想起させる。アルケミストのトラックでテイラー・ペイ ジとの罵り合いを録った“We Cry Together”は、ヒップホップ に根付いた女性嫌悪的慣習に男性ラップ音楽家が改めて応答す る衝撃的なフェミニズムソングだ。これはいわゆる「正しさ— correctness」のための取り組みではない。論争を予想してわざ

Release Date:5/13

とコダック・ブラックを起用したり(“Silent Hill”)、外からの英 雄的圧迫を脱ぎ捨てる(“Savior”)。一個人はメシアでもスーパー

ヒーローでもない。ただ彼は家族・隣人のそばで、その幸せの

ために取り組むべきと決意したのであって(“Auntie Diaries”)、 ここで高潮するクワイアの声は教会講壇の権威を覆す力をも発 揮する。そこでケンドリックはこれまで各作品の答えとなった 信仰においても大きな旋回を図る。ポーティス・ヘッドのベス・

ギボンズが登場する“Mother I Sober”と、本作発売前に先行公

開されてのちに加わった“The Heart Part 5”はそれぞれ違う方 向でメッセージをまとめる両ヴァージョンのフィナーレと言え るだろう。個人と集団の正体性が交差する荒野の中、話者は個 人が歓待されてこそコミュニティーが回復することを主張する。 我らの日記は歴史になると信じて。

万能初歩 韓国生まれの留学生、〈Tonplein〉・ 〈ele-king〉などにぼちぼち寄稿

Some Nights I Dream of Doors Obongjayar

ナイジェリア出身でロンドンを拠点に活動するオボンジェ イヤーのファーストアルバムは今年の 5 月にリリース された。不運にも、その週の音楽リスナーたちの興味は 同じ日にリリースされたケンドリック・ラマーとザ・ス マイルのアルバムの方に集中したが、今作が 2016 年に SoundCloud で公開したデモが脚光を浴びてから 6 年越し のファーストアルバムということを考えれば、オボンジェ イヤー自身、注目を集めるためのポップスター的戦略には 関心がないということは明らかだ。むしろ、このアルバム の捉えづらさはそういった彼の姿勢に起因していると言っ てもいい。

オープニングトラック "Try" では《All we do is try》と繊 細なファルセットで歌い、続く "Message in a Hammer"

では攻撃的なビートに乗せて、ナイジェリア政府の腐敗に 対する怒りを強烈に叫ぶ。全体を通して印象的な、優しく

REFLECTION tofubeats

tofubeats はある日、突発性難聴を患って、それを機に音

楽を通して自己省察の時間を持ったと語る。かと言って、 その結果である『REFLECTION』が他者を受け入れず内

面に潜り込む作品ではない。2010 年代以降の日本ダンス・ ポップ・ラップフィールドで DJ /プロデューサーとして活

躍した彼のディスコグラフィーは重要な記録で、その広い

スペクトラムは無彩色な心象の中でも八色に輝くからだ。 一番注目すべき曲は海辺の夕日が浮かぶボサノヴァ曲“恋

とミサイル”、そしてムーグシンセとドラムンベースが衝

突する上で中村佳穂がグルーヴとビブラートが活きた本作

最高のパフォーマンスを見せる“REFLECTION”だろう。

インストも華麗だ。チップマンクサンプルとブラスが散ら

ばる“Emotional Bias”、フューチャーベースの澄んだ残響

がテーマと合致する“Afterimage”、作者の出来事と密接に

関連付けたタイトルの“SOMEBODY TORE MY P”で省察

ぼちぼち銀河 柴田聡子

Release Date:5/13

包み込まれるようなシンセサイザーの音色は、不安を含み つつもポジティブな感覚を聴き手に抱かせ、その下で響く

ビートはアフロビーツ、ヒップホップ、R&B、アマピア ノと豊かに移り変わる。「真のアーティストは自分がやり たいことにのみフォーカスして、周りは気にしない。」と シャイガールとの対談でも語っていたように、変化に晒さ れながらも自らの表現を追求し続ける彼の姿勢はこのアル バムでも貫かれている。

ユウゴ

残酷な天使のテーゼをギターで

弾かされたことがあります。ワ

セレコ 11 代目。DJ してます。

ケンドリック・ラマーが何を言ってるか分からなくても、 柴田聡子が何を歌っているかが分かる。これだけで日本語 話者に生まれて良かったと言ってしまいたくなる。例えば

“24 秒”の《うすれて/かすれて/忘れて/いくようで》 でのド直球にエモーショナルな演出は、意味が伝わるから こそ切実に響く。本作の歌詞はこれまでの柴田聡子の作品 の中でもとびきり感情表現が明瞭である。それを支えるの は R&B やファンク、ヒップホップをも飲み込んだような

メリハリのあるバンドサウンドだ。曲ごとに全く違ったア レンジが施され、繊細さと大胆さを自由に行き来するこの 豊かなサウンドは、再生するたびに新たな発見をリスナー にもたらす。同様に、歌詞も聴くたびに違った表情を見せ てくれる。柴田聡子の新たな代表曲となった“雑感”は、 聴くたびにグッとくる箇所が変わるのだ。たった今聴いて みたところ、今回は《片目で歩いてるのを/偉いって言わ

Release Date:5/18

の時間を提供する長めのビートなど。この馴染みのある空 虚感は魅力的に完成されていて、今年はそこをよく訪ねた 一年だった。

万能初歩

韓国生まれの留学生、〈Tonplein〉・ 〈ele-king〉などにぼちぼち寄稿

Release Date:5/25

れるのも妙です》に心掴まれた。そう、言葉が分かるから といって一度に全てを理解出来るだなんて思い上がりも甚 だしい。しかし、意味が伝わらなくても言葉以上のものを 受け取ることだってある。それが音楽という表現なのだか ら。 もこみ

神奈川県 Gami Holla City 在住 の大学院生。好きな DIVA は

山口百恵。

21 22

ALONE OMSB

ケンドリック・ラマーは今年、世界的にも注目度が最高潮

に達した 5 年ぶりのアルバムで、ミスター・モラルとザ・ ビッグ・ステッパーズという 2 つのペルソナを作り上げ、 「1855 日」分のストーリーを語った。実に 7 年ぶりのアル バムとなる OMSB の『ALONE』も、浅野忠信によるジャ ケットからも分かるように 2 つのペルソナを往復してい る。CD やレコード付属の歌詞カードを丹念に読み込むと、 本名の「加藤ブランドン」と MC 名の「OMSB」という 2 つの名義がかなり意識的に使い分けられていることが分か

る。例えば 11 曲目“OMSB から君へ”は、タイトルにこ そ「OMSB」が用いられているが、作詞は「加藤ブランドン」 となっている。では、「君」とは誰か。かつての OMSB 自 身か?それともリリック終盤で出てくる妻のこと?あるい は我々リスナー?いずれにせよ、これは「君へ」の私信の ように受け取れる。宛先が誰なのか「正解」はない。優れ

MY REVOLUTION ゆうらん船

2016 年結成のゆうらん船は 1st アルバム『MY GE NERATION』で一気にその名を轟かせ、今年待望の 2 作 目となる『MY REVOLUTION』を完成させた。

天才的な詩人である内村イタルの歌詞がバンドサウンドに よって奏でられると、ここまで壮大になるのかと衝撃を受

けた。「フォーキーでストレンジなグッドメロディを土台

に、多彩なアレンジのバンドサウンドが光る中毒性の高い」

とオフィシャルサイトに記されている通り、今作はフォー クの領域を大きく飛び越え、実験的サウンドが楽曲を彩る。

どこか未来を予感させ、どこか懐かしくもあり、はたまた

旅に出たくなるようで、かと思えば我々に寄り添ってくれ るようである。時空を縦横無尽に駆け巡る音像は、一周回っ

て不穏な性格をも身に纏う。

特に後半の流れには息を呑むだろう。ブレイクビーツが 混じったアシッドハウス的“Headphone2”から、内村の声

た作家はそんなもの提示しない。傑作揃いの本作は名義の 使い分けという点だけでも無尽蔵に語れるのだが、字数の 都合上ここまでで限界だ。あとは CD なり LP なりを購入 してあなたの目と耳で確かめればいい。

Next Time Could Be Your Last Time

Forgiveness

「今年はあまりアンビエントを聴いていなかった」という

書き出しから始めると、では例外的に聴いていた数少ない

アンビエントのアルバムが紹介されるのではないかと思っ

て頂けるだろうが、おそらくこの作品のジャンルはアンビ エントではない。さらに言えば、ECM 的な何かでもなけ れば、ニューエイジでもエレクトロニカでもないだろう(巷 でもそう言われている)。しかし、この作品に存在する要 素としては、上記の全てが含まれているのだ。

もこみ 神奈川県 Gami Holla City 在住 の大学院生。好きな DIVA は 山口百恵。

それでいて各ジャンルのシグネチャーな音が刻印として散 りばめられているわけでもなく、原理的なアンビエントに のみある匿名性を高いレベルで帯びている奇妙な音楽。一 体これは何なのか?

つまるところ、これは概念としての「アンビエント」なの だと思う。興味深いが無視できる、メロディアスでかつ押 しつけがましくない音楽。「ある」と「ない」が相克しな

ashbalkum

Salamanda

に加工が入ったエレクトロナンバー“Hurry up!”の流れは、 その不気味さを一層助長する。そして“少しの風”で感情 的に大きく揺さぶられ、ラストの“good moring”で内村イ タルのまろやかな歌声に思わず涙する。一つの物語の終末 と始まりを同時にみているという何とも不思議な感覚にと らわれる。

あらゆるサウンドが奇跡的に共存し、一つのパッケージン グされた作品の中で連なって輝いている。2022 年に産み 落とされた大傑作だ。一人でも多くの人に聴いてほしい。

クサカ 東京在住の大学生です。ワセ

レコをもうすぐ引退します。

9 月にジャン=リュック・ゴダールが亡くなった。彼の代 表作『気狂いピエロ』の中にこんな一節がある。「人間は 夢で出来ている/夢は人間で出来ている」。また、『カルメ ンという名の女』という作品では「映画を撮るためには目 を開くのではなく閉じなければならない」という言葉も残 している。映画は夢であり、人間もまた夢なのかもしれな

い。

では音楽はどうか。そう思ったあなたは、ソウルを拠点と するエレクトロニカ・ユニット、サラマンダの 1st アルバ ム『ashbalkum』をぜひ聴いてみてほしい。

アルバムは“Overdose”によるトリップから幕を開ける。

沈んでいくのか浮かんでいくのか、上も下もわからないま ま音に導かれていくと、そこに広がるのは球形のユートピ

ア。アルバムを通して、スティーヴ・ライヒを彷彿とさせ

るようなミニマルかつ民族音楽めいた心地良いリズムが遊

い音楽。今年はあまりアンビエントを聴かなかった私が、 唯一アンビエント盤として無意識に聴き回していた所以が ここにある気がする。とにかく空間に放たれる音の豊饒さ に驚かされる。これほど多様な楽しみ方ができて、かつ、 あらゆることから解放された音楽はそう他にはないと断言 できる。メンバーのリチャード・パイクとジャック・ウィ リーにより選ばれた影響元プレイリストには本当に様々な ジャンルの楽曲が入れられているのだが、恐ろしいことに ほんの 40 分弱にほぼ全ての楽曲からの影響が垣間見える。

サブスク時代の博識なミニマリズムの天才たちによる「ア ンビエント」アルバム、まさに奇跡だ。

市原

サブスク世代の渋谷系バンド 「 ケイチ & ココナッツ・グルーヴ」

ギタリスト、プロデューサー。2 月

にフルアルバムを発表予定。

び心たっぷりに散りばめられている。

後半はどこか懐かしい子どもの声のような音が絶妙にサン プリング&カットアップされた曲が印象的。夢に終わりは なく、現実もまた夢なのではないかという余韻を残して、 アルバムは幕を閉じる。

タイトルである『ashbalkum』の名前の由来は、韓国語で「現 実」が「夢」であることに気づくという、象徴的かつ音韻 的な再解釈から来ているとのこと。曖昧で儚い実存主義的 世界をこんなにも美しく創り出せるのかと、ため息をつい てしまう。

小宮えみり

早稲田建築。現在は TOKION と

いうメディアの編集部にいる。

23 24
Release Date:5/25 Release Date:5/25 Release Date:6/10 Release Date:6/10

着々とその歴史を積み重ねてきた︙

高田馬場で産声をあげた

設立から 11 年

今回は︑ その礎を築いたレジェンドたちが登場サークルの黎明期に在籍し︑

︵通称:ワセレコ︶は︑

ウエダマサキさん(本文中:ウエダ)

映像ディレクター 2019 年に<岩壁音楽祭>を立ち上げ

田中「上から教えられたことないもん ( 笑 )。でも継承 されてるのだと、コンピとかは今でも早稲田祭で昔の在

庫を売ったりしてるよね。それと、くまロックも続いて るし。」

-当時から学生会館で活動してたんですか?

当時の活動から<岩壁音楽祭>の運営に至るまで、     貴重な証言を、どうぞごゆるりとお楽しみください。

今回は OB の方に僕らの知らないワセレコの話

をお聞きしたくて。コロナを挟んで継承が完璧になさ れてない中で、昔の話を伺いたいなと思ったんです。

お二人は 3 代目ですよね。 1

-なるほど。主にどういった活動をしていましたか? ウエダ「コンピ CD 作ったり、イベントやったりか な。」

田中「私たちの時はくまロック っていう学内のバ ン ドを集める企画を結構頻繁にやってて、プラス 早

田中 「8 年前かな?できたばっかりの時かも。1 年    生の前期の時は知らなかったんだよね。ワセレコはで きたばっかりだし、同じ大学内のバンドを集めて企画 してるのも面白そうだなって思って、飛び入りで後期 新歓行って。当時の幹事長から説明を聞いて「緑の 看板のイタリアンに行こう」ってすぐそこのサ

イ ゼリヤに連れてかれて ( 笑 )。 それでそのまま入っ たって感じ。」

ウエダ「俺が入ったのは 2 年生になった時だね。俺

は放送研究会っていうデカめのサークル入ってて、歴 史も長いからルールもガチガチだし、もっとフランク なサークルないかなと思ってたの。それで新しいサー

クルの方が面白そうだなと思って。(ワセレコには) 高校の同級生も入ってたし、新歓行ったらみんなフ ラットで愉快だしね。」

-当時はサークル全体で何人くらいでしたか? 田中「20 人くらい?私含めて 4 人で、上が 10 人 くらいかな。3 代目が 10 人いるかいないかで、下が 12,3 人みたいな。」

慶音楽祭 っていう早稲田と慶応のバンドを新宿の Marz 2 に集めてやるっていうのもしてた。くまロック でいろんなサークルとのつながりを作りつつ、とはい え他の大学とも集まれたらいいよね、みたいなので早 慶音楽祭をやってたかな。」

ウエダ「“知名度を上げるためにはどうしよう”み たいなこととか、“立ち上がったばっかりのチームを どうするか”みたいなので 3 年間が過ぎていった感じ だったね。」

そういう話ができるのは財産ですよね。 サークルの初期ならでは。

田中「確かに。サークルの体をなすためにやってた のかもしれない。」

ウエダ「最初だから引き継ぎもなくて、スクラッ プアンドビルドみたいな ( 笑 )。」

1 インタビュー時、2022 年度のワセレコは 11 代目にあたる 2 新宿 Marz:歌舞伎町にあるライブハウス

田中莉菜さん(本文中:田中)

教育学部出身

Qetic を経て、人材会社に勤務 猫とゲームが好き

-東北の芸術大学の人とかを呼んで作品を出したり、そ こもすごいですよね。僕らもただイベントをやるだけ じゃダメだなって思って、場所だったりブッキングも含 めて 僕たちでやる意味を意識していて。なので note は読んでいて勉強になりました。

田中「毎週のミーティングは学生会館。部室がなかっ

たから、月に一回は会議室を使うための抽選会に出な きゃいけなくて、『この日の何時から使います』っての

を決めてた。多い時とか 2 時間くらい待っ た気もする し。」

-サークルがそんなに活気付いていたんですね。

ウエダ「臭かったもん、学生会館 ( 笑 )。」

-今はどうですか?

ウエダ「なんか…良い匂いがする ( 笑 )。日曜だから かな。」

-話が飛ぶんですが、 <岩壁音楽祭> に関してお話

を伺いたくて。OB で運営している方がいるという こと

で興味を持ったんですけれども。

ウエダ「 ルーツは大学の時に遊んでた茶箱 3 で、そこ

の人からパーティーのやり方とか機材とか集客の仕方と

か、あと『オーガナイザーはこうしなきゃだよ』みたい なのを教わって。それで社会人になって海外のフェスに

行ったら、お客さんも主催も若かったの。その時に『フ ェスのやり方は教わらなかったな』と思って。そこから

岩壁の note 書いてるゴトウくんが『山形に面白い場所

ある』って電話してきて、ここでやるかと。赤字前提で、 全員社会人だし、ボーナスを元気玉みたいにぶつ

けて ( 笑 )。 それを note に書いて、読んでくれた人が 岩壁に入ってくれたり、違うイベントとかフェスやった ら超最高じゃんみたいな。」

3 茶箱:早稲田にある音楽喫茶、茶箱(さばこ)

ウエダ「良かった、ボーナスが効いてたね ( 笑 )。結 局お金ない時ってロケーションを活用するしかな くて、 あるハコをうまく使うっていう。」

-ハコの話だと、岩壁のインスタで「開墾したからあと 20 人入れます。」というのを見ました ( 笑 )。 田中「あれは私の担当というか、みんなブッキング する中で私は開墾してた ( 笑 )。」

ウエダ「みんなでやりたいこと書くの。その時に「開 墾」って書いてあって ( 笑 )。じゃあ開墾のリーダーだねっ て ( 笑 )。」

-ワセレコの DNA が躍動しているのを見ると励みに な ります。最後に、ワセレコが今後どこに向かった ら良いのか、聞いてもいいですか? ウエダ「もうちゃんとできてるよ。俺らとは全然違う 道に行ってるし、多分下の代も違う道に向かうし、それ でいいんじゃない?だんだん一個の道が太 くなるより、 みんなバラバラに進んで広がっ てくみたい な。」

それで気づいたら合流したり。そういうのが良 いですね。

ありがとうございました!

<岩壁音楽祭> 「オープンソースなフェス」を志向し、 山形県の採石遺跡を会場に開催される音楽フェス 気になった方は公式サイトへ!

https://www.gampeki.com/

Waseda Music Records
OB Talk!! お話をきいた先輩
26 25

You Who Are Leaving To Nirvana

高田みどり

久石譲率いる Mkwaju Ensemble に所属していたことで知 られる打楽器奏者、高田みどり。名盤『MKWAJU』の演 奏でも分かる通り、高田みどりはアフリカをはじめとした 伝統音楽に立脚したプレイングで知られる。その上で、あ くまでアヴァンギャルドな音楽性を志向した、「土着と洗 練」の言葉がよく似合うパーカッショニストだろう。昨今 のアンビエント・リヴァバルの追い風を受け、国内外から 再評価されたのも記憶に新しい。今作は彼女の新作になる。

高野山金剛峯寺の僧侶の唱える深淵な声明とアフリカ伝統

音楽を感じさせるパーカッションが絡み合い、唯一無二の 音世界が楽しめる。

ところで奈良時代の東大寺大仏開眼法要ではインド、中国、 タイなど様々な国々の僧侶が東大寺に集まり、各々の伝統 音楽を演奏したらしい。これは今以上に外国との距離が遠 かった当時としては衝撃的なことであったらしく、以後日

本の音楽に多大な影響を及ぼしたそうだ。この話を聞くと

海外音楽からの影響に目が行きがちだが、それと同等に国 内の音楽への再評価も進んだのではないだろうか。多様な 音楽と共に披露された自国の音楽は当時の日本人がそれま で気づいていなかった「日本音楽」をもたらしたに違いな

い。今作はそんな 1200 年前の伝説的な法要を彷彿とさせ る。アフリカ世界の価値観が入り込むことで、日本人が幾 度となく耳にした般若心経も新鮮な響きをもって届けられ るのだ。

EPOCALC

国際指名手配犯。2035 年に発 覚したフレアによる漸次的な

精神洗脳作用により人類の七 割がフレア症を発症したため。

Gemini Rights Steve Lacy

垢抜けた楽しさや遊び心に溢れながらもどこか切なさを湛

える。1998 年生まれの若き天才であるスティーブ・レイ シーの新作にそのような印象を持つのは、この作品が終

わってしまったボーイフレンドとの関係について綴ってい るからだろうか。ジ・インターネットのギタリストとして

活躍していたレイシーは、ファンクネスに溢れ、R&B の エッセンスを取り込みながら、高度かつリラックスしたギ ターパフォーマンスを展開させる。しかし一方で、パート

ナーとの別れに対して感情的に反応してもいる。2022 年

のブレイクソング“Bad Habit”はキャッチーで器用な展開 が楽しくありながら、そこに映るレイシー自身の姿は実に 不器用なものだ。ボーカルは少し哀しさを纏い、タイトル

(悪い癖)の意味するものはセクシーでもある。好きな人 との官能的な日々を回想しながら、叶わなかった恋を歌う この曲に宿る切実さは、ポップな曲調とメロディーによっ

Nearly Happily Ever After shishi

リトアニア、と聞いて思い浮かべる情景は何だろうか。も

しかしたら、「何だろうか」ではなく「あるだろうか」と 尋ねた方が適切かもしれない。凡そ馴染みのない国へ抱く

情緒は好奇心とも言えるが、同時に心理的な距離感も示し ている。百聞は一見に如かずとあるように、「我々には想 像のつかない生活をしているのだろう」という評価は大体

その土地へ旅してみれば散っていくこととなる。しかし、

リトアニア発の 3 ピース・ガールズバンドによる本作は、

「聞けばわかる」と言わんばかりにありふれた日常に関す る美学を展開する。

始まって早々に聞こえる音楽は自分たちも聞きなじみがあ る、誕生日にうたわれるあのメロディ。ハッピーバースデー だ。聞いて思い浮かべるイメージ通りのポップな雰囲気そ

のままに、開始一分ほどでギターが低く揺れ始めていく。

3 人によるタイトな編成とそれに見合う緊張感のある音の

一方で、彼女たちの生活模様を淡々と流す様は格好よく

日常を謳歌する上での美学を示すようでもある。YouTube

チャンネルにあげられている MV 通りの、気取らない、無

邪気でいながらクールであり続ける不思議なバランス感覚 はリズムの変則さとメロディのキャッチーさが同居しあう が故だろうか。

このアルバムはリトアニアのインディー・ロックシーンを 映すものではないかもしれない。しかし、コロナ禍で隔た

りを一層強く感じる今だからこそ、日常の美学はどこでも

追求されている証としての強さを持つ一作となっている。

にんたまちゃん

ワセレコ元会計

Hellfire black midi

エンジン音を吹き鳴らし、F1 カーで縦横無尽に世界中を

暴れまわった彼らは、神が宿ると称したジャムセッション

を捨て、見事に隊列を組んだ軍を引き連れ、息を飲むほど

美しく再度世界を蹂躙した。サウスロンドンからライブを 重ねていった彼らの足跡をまとめるとこんな感じであろう

か。そして今作『Hellfire』で神を捨てた彼らが地獄を描

くのは当然と言ったら当然だ。 このアルバムを一言で表すと「9 つの地獄に関する短編 集」である。殺人、失恋、戦争、様々な痛みを描く。それ ぞれで鳴らされているサウンドも、予想もつかないほど激

しい曲や美しいバラード、そしてプログレやジャズ、スラッ シュ・メタル、果てはフラメンコまで様々なジャンルを横 断する。楽曲ごとに役割があり、アルバム全体を通して緻

密に設計されている今作はプログレと称されることが多い

アルバムではあるが、どちらかというとクラシックの方が

て鮮やかに音楽として昇華される。ウェルメイドさを保ち ながら、音楽としての面白さを追求する本作は、多くのレ イヤーに溢れる豊かさを湛える。自らのあけすけな感情、 性欲、後悔と誠実さを保つこと。現代的でカジュアルな恋 愛感情についてのアルバム、その身軽さとオープンなスタ ンスを貫く音楽性は、オリジナルな感性のもとで、我々を 魅了するだろう。

市川タツキ 1999 年生。山梨県出身。音楽、

映像作品のライター。主に作 品レビューやカルチャーにつ いてのコラムを執筆。

近い。メンバーもクラシックを聴くそう。そういう面では キング・クリムゾンというより、現代のチャールズ・アイ ヴスと言うのが正しい。彼らもまた諸行無常な人生に対し、 アイヴスのように答えのない質問をこちらに投げかけるの だ。

「何が起こるかわからない」というデザインにおいて彼ら の緻密さ、美しさに勝る者は今現在いないと言って良い。 デビューアルバムから 3 年でここまでたどり着くとはと ても恐ろしい。でも繰り返し聞いているとあのエンジン音 が不思議と恋しく思うのは何故だろう?

Kun 法政大学 2 年、法政大学にて ライブイベントを企画してい

ます。

27 28
Release Date:6/10 Release Date:6/15 Release Date:7/15 Release Date:7/15

NOT TiGHT DOMi & JD BECK

いや、十分タイトだろ。そう突っ込ませるところすらデュ オの自信かもしれない。アンダーソン・パークの総括製

作のもとで発表された二人の若きキーボーディストのド

ミとドラマーの JD・ベックのデビュー作は良くも悪くも

『You're Dead!』(フライング・ロータス、2014)や『Drunk』

(サンダーキャット、2017)の亜流的継承作に思える。そ

れを証明するかのように当の本人たちが直に参加している

が、例えば“SMiLE”を代表に全般的にチルでサイケデリッ

クなテーマとイレギュラーなリズム運用などから、影響源

の名前が先に浮かぶのは仕方ないことだ。しかし、本作

のサポート陣は好事家のネタにとどまるだけには惜しい。 ジャズ/フュージョンの伝説的人物、ハービー・ハンコッ

クの参加はこの機械的な技巧が即ちニュー・ジャズの現在 であると裏付けるような一手だ。例えば『エアにに』(長 谷川白紙、2019)がニュー・ジャズの一番カオスな可能

性であるとするならば、本作はその整った可能性の産物だ

ろう。

suburban blues

computer fight

おしなべて、ポストパンクはビートを押し出した音楽であ

る。音楽ジャンルはリズムによって大別されるとされ、レ ゲエやファンク等、様々な音楽ジャンルを取り入れてきた

ポストパンクバンドたちがそのリズムを主張させることは 有効な音響的手法であったことが推測されるが、同時にも

う一つの効果を生んでいると思われる。ビートは曲を進め るために鳴る役割があり、その意志のある音である。従っ

て、ビートの主張による効果とは、曲の進行に対する意志

の強固さの裏付けであることが了解される。それこそが、 暴れることや叫ぶことで思想の過剰さを証明してきたパ

ンクに対するポスト・パンクであると言える。computer fight“suburban blues”からはそうしたポストパンクの精神

万能初歩

韓国生まれの留学生、〈Tonplein〉・ 〈ele-king〉などにぼちぼち寄稿

Tchotchke

Tchotchke

ゼロ年代生まれサブスク育ちの僕は、Y2K の潮流にそこ まで乗り気になれていない。幼すぎたせいでノスタルジー など微塵もないし、歴史資料として触れるゼロ年代ポップ

カルチャーは軒並みイケてると思えなかった。とはいえ、

ピンクパンサレス『to hell with it』などは 2022 年という「今」

との合一願望を満たしてくれるものだったから、気が付く

と聴いていた気がする。でも、ドラムンの、加速主義的な

(?)速さや焦燥は夜間にも交感神経を刺激するから困っ

たもんだ。

そんな私はひたすらに 60ʼ s のポップスを聴いていた。ゾ

ンビーズ、マルゴ・ガリヤン、ラヴィン・スプーンフル。

今回紹介するチャーチカの名を世に知らしめたセルフタイ トルアルバムには、まさにそれらの 60 s のテイストが色 濃く存在する。

チャーチカは元ピンキーピンキーのメンバーがコロナ禍

に LA から NY へと移り、そこで新たに結成したバンドだ。

前バンドの頃から 60 ~ 70 s を志向しており、それがきっ

かけで友人だったザ・レモン・ツイッグスのダダリオ兄弟

のプロデュースの下で制作されることに。そしてそれが功

を奏した。

近年の女性 3 人組のバンドというとハイムが思い出され

るけれど、チャーチカはとにかく 60ʼ s 調。ここまで徹底 的にやられると「堪らんッ!!」としか言えない。レトロ

でポップなロックで世界を席巻するダダリオ兄弟の才能を ここでも味わえるとは 。

市原

サブスク世代の渋谷系バンド 「 ケイチ & ココナッツ・グルーヴ」

ギタリスト、プロデューサー。2 月

にフルアルバムを発表予定。

性が強く感じられる一方、インプロノイズ演奏のパートも 確認できる。明確なリズムの有無、という点で楽曲にダイ ナミクスをもたらしているが、実際はポストパンクと接続

FICTION BREIMEN

コンスタントに作品を発表し続け、飛ぶ鳥を落とす勢いの

BREIMEN が 3 枚目のアルバムを発表した。昨年 Waseda Music Records のイベントにも出演してくれたこの 5 人組

は、2022 年に入ってからも各メンバーがあらゆるアーティ ストのサポートを務め、演奏や表現の幅を広げていった。

今作では、吸収したものを消化しそれに「制約」を与える

ことで、表現を洗練させていったと彼らは語る。

映画の冒頭を予感させるような“フィクション”で始まり、

文字通り“エンドロール”で締め括られる。彼らのルーツ であるファンクやジャズのグルーヴを随所に聴くことがで きるが、それに止まらない。「猫踏んじゃった」のメロディー

を引用した“CATWALK”や重厚ディスコ/ファンクチック

なナンバーである“苦楽ララ”など、遊び心を持ちながら、

表現の幅を広げようと試みているのが窺える。

さて、この 35 分の「映画」の登場人物は一体誰だろうか。

するものであり、それはビートの過剰により加速した音楽 のその最高速度の提示であろう ( 楽曲“jikka punk”の例が 最も了解しやすいと思われる ) 項垂れているのは、加速が 足りない。転倒によってのみ最高速度を定義できるのであ り、computer fight“suburban blues”には転倒のエモーショ ナルが収録されている。

Zanjitsu

@BandofZanjitsu ベース

computer fight 2 ギター

答えは演奏している BREIMEN のメンバーである。例え ば Vo. の高木が制作前に恋愛での失敗をしてしまったらし い。そうしたメンバーの体験をリンクさせ、「フィクショ ン」の世界でもう一つのストーリーを動かしているのであ る。そして我々は作品を「虚構」として受け取りながらも、 各人の現実と擬似的に重ね合わせる。

彼らのパーソナルな体験を洗練された演奏で料理した一作 は、今年の大きなハイライトとなったに違いない。

クサカ 東京在住の大学生です。ワセ レコをもうすぐ引退します。

29 30
Release Date:7/15 Release Date:7/15 Release Date:7/20 Release Date:7/20

RENAISSANCE

Beyoncé

ケンドリック・ラマーは最新作『Mr.Morale & The Big Steppers』の最終曲“Mirror”で、《ごめん、俺は俺を選ぶ

よ(I choose me, I'm sorry)》という重々しいラインを軽 やかに歌い上げた。とある批評家の言葉を借りるならば、 まさしく「役割を降りながら役目を果たした」アルバムで ある。一方、「役割を引き受けながら役目を存分に果たした」

のがクイーン・B ことビヨンセによる『RENAISSANCE』 であると言えよう。「再興」と題された本作のテーマはズ バリ、愛と自由とセックスである。また、今年に入って徐々

に回復しつつあるクラブという現場、そこで朝まで汗を流 して踊り果てるという解放的な営みへの惜しみない賛辞で ある。そしてこの快楽主義は政治的主張でもあるのだ。古

今のダンスミュージックの歴史を総覧するような多彩な ビートを、とてつもない数の制作者とともに現代的なプロ

ダクションで取り入れたこの作品は、ビヨンセという稀代

のスーパースターの名のもとでしか出来ないやり方でやり きったからこそ意義深く、気高く、美しい。本作はゲイで ある今は亡き親戚、アンクル・ジョニーに捧げられている。

NewJeans

HYBE の新レーベル〈ADOR〉からデビューした新人ガールズ

グループ・ニュージーンズの 1stEP。2022 年のポップシーンを 語る上で欠かせない作品だ。この作品を聴いて驚いた人は多い

だろう。私は「え! K-POP アイドルがこれをやるの! しかも デビュー作で!カッコ良すぎる~」と面食らってしまった。普

段おすすめの音楽を紹介しない私が友達に「凄いアイドルがデ ビューした!!」って LINE したくらいである。そう感じた人は 私だけでは無いだろう。そう感じさせるのは、この作品が POP シーンの新しい流行のドアを開けたからだと思う。大衆に支持

されている K-POP アイドルがこれをリリースした事が、よりこ

の作品を時代の象徴的なもの、変化点だと感じるものにしてい

もこみ

神奈川県 Gami Holla City 在住 の大学院生。好きな DIVA は 山口百恵。

Florist

Florist

現在フォークというジャンルにおいて、言葉と鳴らされて いる音はどれだけ緊密な関係にあるのだろうか。世界の ポップシーンを牽引するスターが『folklore』というアル バムを発表し、あらゆる場所のあらゆる寝室のあらゆる音 色がシームレスに数千万人と接続される社会で、内省を内 省たらしめるだけの音楽はこの上なく希少だ。

フローリストの核であるエミリー・A・スプレイグという

人間の内側/外側に起こった幾つもの出来事が、彼女の生 み出す作品——つまりフローリストのディスコグラフィに どのような影響をもたらしたのかについては、ここでは考 証をしない。代わりに、エミリーが一人で作り上げた前作

からバンドが再び集まり共に作り上げたのがこの ST 作で あるということ、何度も挿入される環境音が直線的な生命 の流れを想起させること、この点において今年発表された

ビック・シーフの最新作の密室的なイメージとは対比的な

関係にあるということ、“43”のギターソロが素晴らしい

ということ、そしてエミリーの詞が足元を離れて達観の方 向へ向かいつつあり、その位置エネルギーが過不足なく安

寧を誘う歌に変換されているということについて記述した い。内省を簡単には見出せない、あらゆる眠れぬ人々の元 まで、このたおやかな歌が届いていてほしい。

ると思う。流行は 20 年周期で回るという定説があるが、まさに

それを実感できる作品で、縦に重なる旋律美的な音像というよ

り、リズム中心的な音像を感じる。このサウンドは 2000 年代

の US POP シーンの流行に近いものがあり、2002 年に生まれ

焦年時代

PUNPEE & BIM

8 月頭、PUNPEE & BIM によってリリースされた EP『焦年時 代』。近年ヒップホップにおいて急速な形式の変化が見られるが、 単にヒップホップ的な形式および作曲手法が音楽ジャンルを跨

ぐだけでなく、ヒップポップ自体が他ジャンルとの融合に対し て迎合的である傾向が強い。これは、明確に時期を特定するこ

とはかなわないにせよ、少なからず日本では、2010 年代初頭

あたりまでヒップホップが閉塞的排他的なアンダーグラウンド ミュージックであった当時からは想像だにできないような事態 である。この流れを受けてか、また PUNPEE 生来の特性である ようにも思えるが、『焦年時代』では更にポップでボーダーレス

風間一慶 素手でショートを任せられた

ことがあります。ワセレコ

11 代目、SR 編集長。

な色彩を纏った楽曲たちが披露された。“トローチ”ではバイオ リンソロが展開され、この型破りさには流石に意表を突かれた ものの、違和感なく楽曲に溶け込んでおり、寧ろ程よいスパイ スの役割を果たしていた。また本作では、日本語ヒップホップ

の作詞の手法に関して、日本特有の情緒的な感性が強く反映さ

た私や、K-POP を聴くオーディエンスの中心の層からすれば新 しい音楽なのだ。1 曲目の“Attention”は A メロ B メロのオケが 1.2.3.4. とノレるクラップを中心に構成されていて、音数が少な い、潔くて洗練されたサウンドとなっている。ヒジョーにクー ルだ。これを新人のガールズグループが歌っているのが凄い。 新人なのだからフレッシュで可愛らしいサウンドにしようとし たり、はたまたカッコ良いと言っても、強さを全面に出したカッ コよさではなく、清い水のような爽やかなカッコ良さを演出し たのは、K-POP だけではなく、ガールズグループではあまりな かったように思う。こちらの予測を裏切ってくる K-POP シーン の引き出しの多さには目を見張るものがある。

野口桜子

音楽作ったり聴いたりしてい

ます 20 歳の学生です

れていると言える。 特に “蛍火” では《 えんや 列島 節操な い/えんや 電灯 蝉もいない 》というフックのリリックを見 ればわかるように、日本の伝統的な美的観念を踏襲した夏の情 緒を覚えるような言葉選びが為されている。このような試みは ZORN による“夕方ノスタルジー feat.WEEDY”を彷彿とさせる が、いずれも日本語の旨味成分とも言える詩的な華やかさを最 大限活かすような形で歌詞が構築されていることが分かる。アー ティストによって取り組み方は違えど、そのような手法が日本 語ヒップホップを邦ヒップホップたらしめる独自の、重要な手 続きの 1 つであることに変わりはないだろう。日本語ヒップホッ プでは特異な位置に居座り続ける PUNPEE の音楽観や世界観が 垣間見える 1 枚であった。

金子斗真

黒人音楽を土台として、和声の はたらきをはじめに音楽の諸構 造を研究し新たな音楽とカル チャーを生成することが目標。

31 32
ʻNew Jeansʼ
NewJeans 1st EP
Release Date:7/29 Release Date:7/29 Release Date:8/1 Release Date:8/3

YC2.5

Kamui

Kamui の待望のアルバムは、Intro や skit もしっかり含 んだ聞きごたえのある一作。過去には QN や Jin Dogg、 Ralph、Tohji を迎えていたが、今回は Dos Monos の メンバーの荘子 it からゆるふわギャング、Menace 無、 MUDOLLY RANGERS に加え、VTuber という枠を越えた

クオリティが話題のピーナッツくんまで客演として迎えて いる。最近は仲間内だけでフィーチャリングして完結する

アルバムも多いが、化学反応を楽しむのもまた一興派の私 にとってはなんだか物足りないため、これだけレンジの広

いチョイスはとてもうれしい。そんでもってアルバムへの 没入感!ボーカルにボーカロイドを使った曲で幕を開け、

3 曲目は Kamui らしいアグレッシブな曲調でキャッチ―

なノリノリさが来た後、Kamui のオルターエゴ=別人格で

あるボーカロイドの suimee の楽曲が来る。前半だけでも 非常に楽しい。Kamui の歌声はアグレッシブさ、いい意

incomplete 流線形

流線形は、2001 年にクニモンド瀧口が中心となって結成さ

れたバンドである。2003 年には初のアルバム『シティミュー ジック』を発表、2006 年からはメンバーを固定することが

ない、瀧口のソロプロジェクトとなった。プロジェクト名は 松任谷由実の『流線形ʼ80』が由来で、瀧口は作品コンセプ トによって「流線形ʼ〇〇」と数字部分を変更する予定だっ

たそう。

本作はオリジナルアルバムとしては前作『TOKYO SNIPER』

から約 16 年振りの一作。瀧口の音楽のルーツである山下達

郎、サディスティックス、ティンパンアレーをお手本とし、

打ち込みではなくバンドスタイルの生音にこだわったとい

う。5 作品中 4 作品はボーカルに元キリンジの堀込泰行が参 加している。

今回は次の 2 曲を取り上げたい。まず“3 号線”は過去作『CITY MUSIC』からのセルフカバーで、オリジナルの持つポップさ

味での人間らしい粗さと適度なオートチューンを加えるこ

とによって表現されていると思う。この歌声が、時には同 じ要素を持つものと合わさったときより大きなパワーを満 ちた曲になり(ゆるふわとの曲がまさにそう!)、先ほど 述べたものとは逆の要素を持つ別人格 suimee とのフィー チャリングの楽曲ではお互いを補うように共生する。

クラウドファンディングを経て完成したこのアルバム。焦

らし溜めをしたうえでのリリースだったためかな~り期待 値が高かったが、客演も曲の展開も盛りだくさん、かつ

Kamui らしくまとまっていて、その期待にしっかり応え てくる作品だった!

julI

DJ、イベントオーガナイザー。国内

のヒップホップや R&B、インディー

ズシーンやダンスミュージックなど

多岐にわたるジャンルを好む。

頭痛 Khaki

下北沢のインディーバンドシーンに明るい人なら今年一度

ならず何度か Khaki というバンド名を耳にしたことであろ

う。彼らは昨年発表したアルバム『Janome』を皮切りに 下北沢のバンドシーンで台頭し始め、今年の新作 EP『頭 痛』は様々な音楽ライターたちの目に留まり、耳の早い

リスナーに鮮烈な印象を与えた。2018 年にバンドを結成

し、2021 年に本格始動した Khaki は、サニーデイ・サー

ビスやはっぴぃえんどなどの影響を色濃く受けながらも、

ビートルズやオアシスといった海外のインディーロックの

エッセンスを織り込んだサウンドを展開する。前作は邦楽 的な明るさを表しながらもその陰でインディーロックの鋭 さや陰鬱さが垣間見えるような作品であったが、今作はイ

ンディーロックやネオ・プログレにかなり接近した作品と 言えるだろう。“Overtone”はその 90 年代のネオ・プログ レ的なサウンド作りが非常に秀逸であり、バンドとしての

新しい側面を発揮しているように思われる。Khaki がもつ 素朴で、かつミステリアスな雰囲気は健在であり、“子宮” のその妖艶でどこか危うい雰囲気は今の Khaki を象徴する 楽曲となっている。“違う月を見ていた”では、ツーボー カルの強みを変拍子としなやかでたおやかなメロディーで 存分に発揮している。沈んだサウンドを讃えながら駆け抜 けてゆく疾走感を感じさせる“うってつけ”は、Khaki の 独自の感性が詰まった詞が光る楽曲になっている。EP を 通して退廃的でありつつも、作詞やメロディーの美しさに 心揺さぶられる、刺激的である種のハードボイルドを感じ させる作品であった。

進暁花

文構 2 年のしんです。音楽と文 学が好きで、文章とか書いてま す。好きな音楽はヒップホップ とかオルタナ !

Killer in Neverland 4s4ki

と今作は異なり、堀込泰行の優しく柔らかく包み込むような 美しい歌声が切なく甘いメロディが乗って、メランコリック な官能さが薫っている。また、イントロ部分の「アレ」が元 ネタとは異なってメロウで切なげな表現になっていたことに とても痺れた。“潮騒”は一十三十一の『CITY DIVE』に収録の、 女性視点として描かれた“人魚になりたい”の男性視点 ver.

として描かれている。恋の切なさや後悔が表現されている歌 詞が優しく繊細な歌声に包まれ、目が醒めるような爽やかな 夏の風を運ぶメロディの上を漂っている。地元の友達の車の ラジオから流れた流線形は僕にシティミュージックを教えて くれた。ここをお借りして、本当に感謝したい。

ヰ シチィボウイ

東京を中心に活動する SSW の 3rd アルバム。国内アーティ ストとしてはかなり早い段階でハイパーポップ的な意匠を 取り入れたことについて非常に雑な形で言及されることが 多い氏だが、ここでは氏の音楽をその文脈のみを中心に解 釈したり、ジャンル混合的な作風をマジックワードと化し

ている「カオス」イメージを用いて捉えることは避けたい。

今作は『遺影にイェーイ』以降の流れを踏襲しつつ、全体

を通して wet 成分多めの音作りがなされており、トラック

の先鋭性と J-POP 的な要素のバランスを模索したことが うかがえる。“先制の剣”ではドラムンベースを基調にし

つつトライバルなリズムを取り入れたり、dariacore を特

徴づけるサウンド(細かく刻まれた SuperSaw やガラス

が割れる音など)を Future Bass のフォーマットで再解釈

してみたりと、かなり興味深い試みが行われていて聴きご

たえがある。“paranoia”では《ロックスターごっこでもす

るか》というネタツイの書き出しのようなフレーズを合図 に深めのリバーブがかかった幻惑的なトラップから激しい バンドサウンドに切り替わり、不安定な心境が吐露される。 一方で、落ち着いたトラックの上でゆるめのラップを披露 する“Cross Out”など『遺影~』以前の作風に近い、SSW としての才覚が光る楽曲も多い。独自の世界観を築き上げ ながら、普遍的なポップミュージックたりうるポテンシャ ルを十分に備えた意欲作。

cellulose 早稲田大学文化構想学部 1

年。今年は DTM を頑張りた いです。

33 34
Release Date:8/4 Release Date:8/17 Release Date:8/17 Release Date:8/24

2022年マイベストエンタメ

ディスクガイドを作ることが決まった時に、サークル員の何名か は戸惑った。彼らは音楽と同じ熱量で他のエンタメを愛するもの 達だった。この記事は、行き場を無くした彼らの語りへのパッショ ンが形を帯びたものである。

『アナザー・カントリー』

ジュリアン・ミッチェル 演劇

森山春萌

2001 年生 美味しいものを 食べることと舞台観劇が好き です。

私が 2022 年を振り返って一番印象に残っている舞台は何かと 聞かれたら『アナザー・カントリー』が思い浮かぶ。本作は劇 作家のジュリアン・ミッチェルによって描かれた戯曲で、約 40 年前に初演と映画化がされた。そして今回日本で初めて舞 台化され、6 月~ 7 月にかけて東京・大阪・福岡の 3 都市で全 23 公演上演された。1930 年代イギリスのパブリックスクール を舞台にした本作品は、同性愛者や共産主義者の排斥、階級社 会の縮図ともいえる寮生活、学生同士の覇権争いなど様々な要

素を含んでいた。主人公のガイ・ベネットは成績トップで同性 愛者、その盟友であるトミー・ジャッドは共産主義に傾倒する 学生である。この 2 人を中心に物語が進んでいく。その中でも、 学生同士の覇権争いに負け排斥された 2 人が、オレンジ色の スポットライトの下で話すシーンが印象に残っている。この世 の不条理を前にベネットは「じゃあ何が俺のためになる?この 世に未来なんてない!!!」と言い放つ。そして大きく右足を 振りかぶりステージに打ち付けて「絶対にやっつけてやる!! 絶対に 絶対に 」「あいつらの人生にずっと取り憑いてや る!!!」とこれ以上ないほどに憎悪を抱えて鋭い眼光を向け 声を荒げる。殺されそうなくらいの恐怖を感じた。そしてラス ト、2 人は真っ直ぐ前を見つめスポットライトが絞られていく。 絞られる直前、ベネットはどこか悲しげでありながら、うすく 笑みを浮かべた表情だけが残る。やがてそれも消えてなくなり、

涙があふれた。後にベネットは自国への復讐のためにソ連のス パイとなる。演劇は誰かの想いを継承していく、最もリアルな 媒体なのかもしれないと感じた。

ガルシア・マルケス

文構 2 年のしんです。音楽

と文学が好きで、文章とか

書いてます。好きな音楽は HipHop とかオルタナ!

ガルシア=マルケスという大作家を読んだことはあるだろう

か。彼が残した『百年の孤独』は 1960 年代にその頂点を迎え たラテンアメリカ文学ブームを象徴する記念碑作品である。し かし、その内容は冒頭から多くの人物が登場し、日本人には馴 染みがないラテンアメリカの土地を舞台にしているため、はっ きり言って難しい。だが、それでこの作品を読まずにいるのは あまりに惜しい。そこで私がこの記事で紹介する『ガルシア= マルケス中短編傑作集』を『百年の孤独』への、そしてラテン

アメリカ文学が孕む幻想と現実が交錯する豊かな土壌への橋が けとしたい。この中短編は初期の作品から『百年の孤独』以降

の作品を収録しており、ガルシア=マルケスの巧みなストー リーテリング、一介のマジックリアリズム作品と括るには有り 余る普遍性を堪能するのにもってこいの作品である。特に私が この作品集でおすすめするのは、「純真なエレンディラと邪悪 な祖母の信じがたくも悲痛な物語」である。孫娘エレンディラ

と、彼女を召使いのようにこき使う祖母とが待ち構える運命に ついて、静謐に、そして書かないことで生まれる余白の語りが 砂漠という舞台で読者の脳内でダイナミックに広がる作品であ る。この作品が持つ魔力は「百年の孤独」や他の作品にも顕著 であるが、その異様な空気感は特筆すべきものがある。まだま だ紹介したい作品が山ほどあるが、紙面がそれを許さない。こ

の作品集がガルシア=マルケスの、ラテンアメリカ文学のさら なる受容に貢献することを切に願う。

セリーヌ・シアマ/フランス/73分

2001 年生 府中生まれ、横 浜育ち。主に海外ドラマが好 きです。

2022 年のベスト映画を選ぶことは非常に難しい 劇場で鑑

賞した作品としてポール・トーマス・アンダーソン監督の『リ コリス・ピザ』やアレックス・トンプソン監督の『セイント・ フランシス』、ギヨーム・ブラック監督の『みんなのヴァカン ス』などが好きな作品で、ここから選ぶか迷ったものの、今回 は個人的に一番グッときたセリーヌ・シアマ監督の『秘密の森 の、その向こう』を取り上げたい。この映画は、8 歳の少女ネ リーが森の中で母と同じ名前の少女マリオンと出会うという時

空を超えたファンタジー映画で、ネリーは母になる前の母、つ まり“8 歳のママ”と邂逅する。“8 歳のママ”と出会うとはど

のような感じなのだろうか。劇中では、ネリーとマリオンはま さに友だちのような親密な関係を築き、微笑ましい日々を過ご

すが、その過程でネリーは知らなかった母の一面を知りその過 去に直接触れることになる。それにより、母親という社会的な 役割を通してマリオンと接してきた部分もあるネリーが一個人

としてのマリオンの存在を認識し、感情を共有することで、彼 女を母親という呪縛から解放する。この映画からは、そのよう

な親子関係の序列を変革し対等なものに向かわせようとする意 志が非常に強く感じられる。それは度々登場する食事シーンや 父との会話シーンにおける水平を意識した人物の配置、運転す る母にお菓子を食べさせてあげようと後部座席から伸ばされた ネリーの手を捉える親密なショットなどによく表れていた。そ

の他にも、画面一杯に映る赤や黄に色づいた秋の情景や風に吹 かれる木々の音、寝室に入り込む夕日の光など、どのシーンを 取っても魅力的な本作は、73 分とは思えない深い余韻を残し てくれるだろう。

ワセレコ一年。最近は Bialystocks が好きです。

私が 2022 年観て一番面白かったバラエティは『ニシダ更生プ ログラム』だ。この企画は、2022 年 6 月に、サーヤとニシダ からなるお笑いコンビ『ラランド』の YouTube チャンネル『ラ ラチューン』で、1 時間越えの動画として公開された。企画の 内容は、クズ芸人というキャラで許されなくなったニシダの 日々の言動やお笑いへの態度を、サーヤが改心させるべく、番 組スタッフや作家などの周囲の人にニシダの課題や改善案を聞 き出し、その VTR をサーヤと共にニシダが尊敬する南海キャ ンディーズの山里亮太と観ながら、企画の最終段階として山里 がニシダにアドバイスするものである。

企画を通して、ニシダは周囲の人々から過去の迷惑行為や日々 の言動に対して厳しい意見をもらう。さらには、名プロデュー サー佐久間宣行からは芸人ニシダの弱さと強さを分析される。 こういったニシダの人格や芸人としての器量にまで至る厳しい 言葉に、ニシダが泣いてしまう場面もあり、もはやドキュメン タリーとして私は観ていた。ニシダの愚かな部分を私たちは客 観視するが、言葉として炙り出されるニシダの愚かな部分が自 分の愚かさとして感情移入するのだ。そして、山里の言葉に感 動したのだが、山里の自分を悪者にしつつ、ニシダを対等にラ イバル視し、お笑いという戦場で共に戦おうという姿勢は人生 を経験したからこそ出てくる愛あるもので、心に沁みた。とに かく、ここでは書ききれないので、是非、笑えて泣ける本動画 を観ていただきたい!

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いった 『ニシダ更生プログラム』
『ララチューン』 動画 ジュンヤ
『秘密の森の、その向こう』
映画
進暁花 『ガルシア=マルケス中短編集』

Betsu No Jikan

岡田拓郎

中学生の頃、修学旅行先の京都で龍安寺を訪れた。世界遺 産にも指定されているこの寺で最も有名な枯山水の庭園に 足を踏み入れた時、肺に流れ込む空気の重みが確かに変 わったのを覚えている。塀の向こうの景色がどうであれ、 超然と佇む悠久がそこにはあった。

「この石庭には 15 個の石が配置されているんですけれど

も、どの角度から眺めても必ず 1 個の石は他の石に隠れ てしまう造りになっているんですよ」と案内係が加える。

どれだけ感動しようとも、その石庭を完全に俯瞰し堪能す ることが原理的に不可能であることに、当時の僕は深い感 銘を受けた。

『Betsu No Jikan』もまた、完全には俯瞰しきれないこと を暗黙のうちに了承せざるをえないほどの多層的な魅力を 持つ作品だ。それは岡田拓郎と客演陣の自由闊達なキャッ チボールの賜物でもあり、リモートでの音源制作を逆手に

取った編集の妙技でもあり、レフト・フィールドであり

ながら普遍的なポップスの追求を続ける LA の現代ジャズ

シーンの結実した形でもある。

シークバーの移動と共に、幽玄さを保ったまま音楽は彼岸 へ流れていく。その総体に思いを馳せるもよし、個別の音 に耳を澄ませて美しい響きを堪能するのもよし。あらゆる

時間の流れを包摂しながら、この作品は間違いなくあなた

にオルタナティブな体験を提供してくれるだろう。

Nisemono Ginger Root

ジンジャー・ルートが 2021 年にバズるきっかけとなった

“Loretta”を含む EP『City Slicker』では、Future Funk や

シティ・ポップのような 2020 年近辺に隆盛となった音楽

のみならず、それに付随するイメージを見事なまでにまと めてみせた。その前作がジンジャー・ルートが拾うイメー

ジの手広さを示すならば、今作はよりコンセプトを固めた

作品群といえる。

あるアイドルの、そのタイトルのままに、「ニセモノ」と

して振る舞うジンジャー・ルートのストーリーを追う形で

我々はこのアルバムを聴くことになるが、音楽はそのス トーリーテリングの要素として現れる。彼自身が「GRCU

風間一慶

素手でショートを任せられた

ことがあります。ワセレコ

11 代目、SR 編集長。

There's Nothing But Pleasure

Bubble Tea and Cigarettes

〈Elefant Records〉から突如現れた韓国出身・NY 在住の 男女二人組。バブル・ティーとはいわゆるタピオカミルク ティーのことらしい。現代東アジアを象徴する存在という

ことなのだろうか。今作はエコーの深いギターとチープな

シンセサイザーが印象的なドリームポップ。スローテンポ

ながら非常にメロディアスでメロウな作風であり、洋楽を 普段聴かない人にこそオススメしたい作品だ。

メン・アイ・トラストなどの現行のインディ・ロックへの

憧憬が見える音作りや歌唱は〈Elefant Records〉では異 色ながら、レーベルカラーからは決してぶれていない。そ

の一方で K-POP を確かに感じさせるムード音楽風のメロ ディラインと空間の広がりが見えるようなエコーの組み合 わせは、ゲロゲリゲゲゲ『鶯谷地獄変』の韓国版とも言え

る雰囲気を湛えている。Vaporwave を再解釈したともい えるこの音作りは、ノイズ・アヴァンギャルド方面の音楽

ファンの琴線にも響くだろう。このように数多の文脈を組 み合わせつつ決して難解にならず、万人に開かれたポップ スを作る彼らの手腕には舌を巻くばかりだ。

アルバム一枚を通して聴いてみても一つの物語を読んでい る気分になれる。美しく儚げな空気が続く様はさながら韓 国映画のよう。各曲バラバラで聴いても面白くアルバムと

して見ても優れている今作は、シングル中心のサブスク時 代におけるアルバムの一つの在り方とも言えるだろう。

EPOCALC

AFG 対フレア課。アンチ = フ

レア音楽の提唱者。フレア人

の地球支配以降もアンチ = フ

レアによる抵抗を続ける。

(Ginger Root Cinematic Universe)」と呼ぶシリーズは

楽曲と映像が密接に補完しあって成立する。彼は『City Slicker』より始まったこのシステムをさらに強化し、現代 的なミュージカルのように成り立たせた。

映像と楽曲が相互に関連性を持つ作品が現れたのは最近の ことではない。カゲロウプロジェクトに代表されるような ネット発の音楽には得てしてそうした傾向があり、現在で も YOASOBI などによって継承されている。この流れをよ りポップに、よりドラマを見ているのと同じぐらいの気軽 さで楽しめるように、ジンジャー・ルートは再定義したの だろう。『Nisemono』は、2020 年代のポップカルチャー において重要なのは編集力であると宣言した。

にんたまちゃん

ワセレコ元会計

Natural Brown Prom Queen

Sudan Archives

〈Stones Throw〉でそのキャリアを広めてきたバイオリニ スト出身のプロデューサー/歌手、スーダン・アーカイ

ブス。本作『Natural Brown Prom Queen』は R&B を中

心としたフュージョン・ポップ・アルバムである。例え

ば—まさに「Sudan」の名の如く—アフロなパッカーショ

ンとハウスリズムの上でラップとバイオリンを乗せてダ

ンサブルに展開していく“Home Maker”は本作の色を表す

最高のイントロ。“NBPQ(Topless)”や“Milk Me”では女

性の性的主体性の再建を表明したり、“Copy Cat(Broken Notions)”ではラットに一喝する。“ChevyS10”などでも アグレッシブなフュージョンを見せて、故郷への愛憎は全 体構成を担う。それら全ての物語を彼女のあらゆる技能を 大胆に用いて多彩な色に編んでいく、緻密な傑作だ。

万能初歩 韓国生まれの留学生、〈Tonplein〉・

〈ele-king〉などにぼちぼち寄稿

38 37
Release Date:8/31 Release Date:9/2 Release Date:9/9 Release Date:9/9

demon time

Mura Masa

今夏フジロックで来日し、大いに観客を沸かせたムラ・マ サ。その翌月に発表された今作では、ハイパーポップや ヒップホップ界隈から今をときめく様々な若手アーティス トを迎え、ジャンル豊かなコラボレーションを披露してい る。先行シングルとして発表された“bbycakes”では BBC Sound of 2022 にも選出され、今最も勢いのあるピンクパ

ンサレスを起用。アルバム中 2 曲にシャイガール、そし

て日本からは Tohji など、他にも注目必須なアーティスト

が揃う。“2gether”のような過去作に通ずる儚げでメロディ アスな楽曲もありながら、全体的には機械的でいてポップ、

そして M7“hollaback bitch”のように少し生意気な感じの サウンドで、2000 年代に突入したときの新しい時代を予

感させるような近未来的雰囲気が漂っている(本人曰く

Y2K という表現はあまり好きでないそう)。アルバムを通 して聴いたとき、日本のカルチャーを背景に持つ者なら頭

town without sky

Telematic Visions

東京には空がない、ほんとの空が見たい——(© 高村智恵 子)。高校 2 年生のトラックメイカー/ DJ による 2nd ア ルバム。前作『bluespring』で提示した「まだ見ぬ/いつ

か見たはずの空への憧憬」というビジョンを引き継ぎつつ、 今作では近未来的なデザインの都市や鉄道が持つパキっと

した空気感や無人感をテクノサウンドに仮託して表現する

という試みを見事に結実させた。切ない旋律がエロゲの サントラのようにも発車メロディのようにも響く 1 曲目

“back to”は徐々に加速し、気合ミニマルテクノ 2 曲に連 結する。寒々としたアンビエントから次第にテクスチャが

浮かび上がる“gate”は今作のハイライトの 1 つといえる。

実質的な表題曲“without sky”では暴れ回るウワモノとブ

レイクビーツに乗せて現実と心象風景が重なり合う。

前作のリリースパーティーに合わせて制作され(このリリ パの映像は氏自身が撮影した夜のお台場の風景から始まる

Release Date:9/16

に「平成」の二文字が思い浮かぶのではないだろうか。本

人も 90 ~ 00 年代頃の日本の音楽から強い影響を受けて いると語るように、あの時代独特のガチャガチャしたポッ プさが感じ取れる。バブル崩壊後の不景気の中で逆に明る い音楽が多く作られた時代と、パンデミックの内に籠らざ

るを得ない状況下でポジティブさを求める今の時代が重 なって反映されているようにみえる。

10 MICROPHONES AND DISTORTED WAVEFORMS!!

hirihiri & lilbesh ramko

音割れの可能性を追求し続ける異才 2 人によるコラボ EP。

初のコラボ曲であり既にアンセムとなっている“142clawz”

から僅か 1 ヶ月でのリリースとなる今作では、バイレファ

ンキのリズムを取り入れると同時に dariacore / hyperflip

以降の感覚が強く反映され、ますますエクストリームな音

像が展開されるが、そこで描かれるのは等身大の日常だ。

ドラムンで助走をつけ、歌い出しと同時にワイドなベース

が空間を喰らいつくす“GOING DOWN”に始まり、トラッ

プから地響きのようなバイレファンキへと ramcore 式ビー

トスイッチを繰り出す“BEAT IT”、激情バイレファンキロッ

ク(?)の“SEVENSTARS”、《ヒリラム止められないモー

アンズ

早稲田大学3年。今年は UK インディーに より注目したい。

ド/バキバキに割れ割れをもっと/壊したいデカい星ご

と》というラインが印象的な“POP IT”と一気に駆け抜け

る。トリを飾る“SUMMERTIME”は蒸し暑い夏の日の情景

をあまりにも鮮烈に切り取った爽やかなサマーチューンだ。

Circus

Release Date:9/16

のだが、数か月後に公開されたアニメ『輪るピングドラム』

劇場版の冒頭が近いトーンの実写映像だったことには運命 的なものを感じざるを得なかった)、今作の方向性を決定

づけたといっても過言ではない四つ打ち“paradox”はクラ ブミュージックとしての機能美とデジタルの夢幻が融合し

たマスターピースだ。最終曲“reproducibility”は BPM180 でテクノやブレイクコアが入り混じり、目まぐるしい展開 を繰り広げたのち、減速し、停車する。降りた先に広がる

景色は cellulose 早稲田大学文化構想学部 1

年。今年は DTM を頑張りた

いです。

Ryohu

今年 3 月で解散することが決定した KANDYTOWN のメ

ンバー、Ryohu の待望のアルバム。前作の、ノー客演

で臨んだメジャーデビューアルバムとは打って変わり、

Ryohu っぽいセレクトの豪華な面々を客演に迎えた 9 曲 入りの作品となった。

とはいっても 1 曲目の客演である Jeter のチョイスは情報

解禁時から度肝を抜かれた。どういう繋がりなのかわから ないが、安定したスキルと安定したファンによって「中堅

層」になっている Ryohu が勢いのある若手とコラボする

のはマジですごいし、こういう交流が日本語ラップの循環 とかそういうのにめちゃくちゃいい気がする。そのあとは 都会的で洗練された 4 つ打ち!さいこ~。のあとはいよ いよ、、?とドキドキしていると陽気でキャッチ―なメロ

ディーに Ryohu らしいラップとマジで飢えに飢えていた

YONCE の歌声が乗った最高な時間がやってくる。“

GIRL”

Release Date:9/17

屈指のパンチライン《エナドリを飲む俺はモンスター》が 示すように、本作全体のムードを形作る無数の固有名詞の 中でも特に頻出するエナジードリンクの数々は自嘲的に言 及されるアイテムではなく、胸騒ぎや衝動を加速させる燃 料として再定義される。鬱屈とした感情や過去の記憶をも 爆音で飲み込み、疾走し続ける 2 人の軌跡はまだ始まっ たばかりだ。

cellulose 早稲田大学文化構想学部 1

年。今年は DTM を頑張りた いです。

Release Date:9/21

の時とは打って変わり、東京神奈川で若者時代を一通り過 ごし、変わりゆくものと変わらないものに思いを巡らせる 2 人は、2 人の状況を重ね合わせて聞くとより一層グッと くるものがある。明るい中にも哀愁が漂う場面もありつつ 未来志向な 2 人の明るい 1 曲が終わると一気にメロウな ムードになって、豪華な客演の曲がだんだん明るいムード に持ちこみ、最後は Ryohu らしいポップさのある楽曲で 明るいフィニッシュ。

KANDYTOWN の解散は寂しいが、個々の活動は上向きだ と確信できる希望溢れる素晴らしい一作だ。

julI

DJ、イベントオーガナイザー。国 内のヒップホップや R&B、イン ディーズシーンやダンスミュー ジックなど多岐にわたるジャンル を好む。

40 39

The Spoon

Oscar Jerome

イギリス東部のノーウィッチに生まれ、現在はサウスロン ドンを拠点に活動するギタリスト。ロンドンのアフロジャ ズバンド・ココロコへの楽曲提供やセッションへの参加、 また前作ではエズラ・コレクティブらジャズバンドのメン バーをフィーチャーするなど、ジャズシーンのアーティス トらと幅広く交流している。

そんな彼が 2 年ぶりに発表した今作では、現代社会のひ ずみに対しての怒りや自身の抱えた困難を、ジャズをベー スにしながらもファンク/ソウルなどを融合させたグルー ヴィーなサウンドにのせて吐き出している。アルバム中盤

の“Channel Your Anger”で、混沌とした世界に抱いた怒 りはむしろ変化を生み出す力になると、パーカッシヴな リズムの上で彼は歌う。ループされたビートが印象的な

“Feed the Pigs”では、資本主義社会のなかで人々が利益の ために繰り広げる醜い争いを食べ物に群がる動物にたとえ、

その弊害を皮肉っている。前作に続き今作でもボーカルの 客演を迎えたり、ロンドンの地元ミュージシャンが演奏に 参加するなど複数のアーティストとのコラボレーションが 楽しめる。アルバムクレジットを注意してたどってみると、 思いがけない新たなアーティストとの出会いがあるかもし れない。秋に行われたイギリスツアーで愛用されている新 たなギターは東京のチームがデザインしたらしく、そこも 小さな注目ポイントだ。

Perform the Compositions of Sam Wilkes & Jacob Mann

Sam Wilkes & Jacob Mann

2 人のサムを観ていた。そう、サム・ゲンデル&サム・

ウィルクスのことだ。2 人は立川で行われた< FESTIVAL

FRUEZINHO >のトリだった。ブルーノ・ペルナーダス

の異国のグルーヴに圧倒された私は、しばらくゆったりし たあと、最前列近くで神々しい舞台を見上げていたように 思う。会場の立川ステージガーデンには瀬戸内海の豊島美 術館にも似た開放感があって、会場の外で泣き喚く子供の 声が静謐なアンビエントと混ざりあっていたのは確かサム &サムの時だった気がする。素晴らしかった。

Darklife death's dynamic shroud

よりポップに、より露悪的に、よりアグレッシブに、より メディテーティブに。Vaporwave というジャンルは、狂 騒的な消費活動の熱から沸き立つ蒸気をタービンへ流し込 むようにして、ぐるぐると表象的な遊戯を続けてきた。こ の燃費の悪い遊戯は、その原資である消費活動が無限に続 くように、決して終わることがない。だからこそ、この点

において、Vaporwave は死にたくても死ねない。 death's dynamic shroud の新作に、黎明期の Vaporwave との接点はもはや見出せない。アルカやフルームといっ

た IDM 方面のソングライターたちとの親和性を感じるの が自然だろう。“Judgment Bolt”や“After Third Heaven”な どで、ピッチを変えられた声が、うめき声やコーラスのよ うに配置されるのではなく、変更された先で歌としてト

ラックに合流する手法は、Ecojam 以来の流れを汲んでい るのかもしれない。しかしそれ以上に目立つのは、“Neon

アンズ

早稲田大学3年。今年は UK インディーに より注目したい。

けれども今回話すのはサム・ウィルクス&ジェイコブ・マ ンについてだ。2018 年以降、選ぼうとすればほぼ全ての カタログが年間ベストに入ってしまうサム・ゲンデルをど うするかが年末の悩みなのだが、今年はサム・ゲンデル枠 としてサム・ウィルクス&ジェイコブ・マンをとりわけ聴 いていたような気がする(もちろん両者は別物だし、サム・

Fossora Björk

Memories”や“Messe de E-102”といった曲で聞かれるよ

うな、シンプルな声の使い方——つまり「普通に録って普 通に聞かせる」——といった点だ。

冗長的なムードから放たれた本作は、Vaporwave の終わ らない遊戯から離脱したようにも感じられる。もちろんそ

こに一抹の寂しさを感じないわけではないが、一人のアー

ティストがその遊戯から降りて自律したクリエイティビ ティを発揮する様には心動かされる。

風間一慶 素手でショートを任せられた

ことがあります。ワセレコ

11 代目、SR 編集長。

来るべきビョークの最新作がガバを参照しているという ニュースを見た時に、周りの音楽マニアたちと同様、その 情報感度の高さとフットワークの軽さに驚かされた。しか

し思い返してみれば、彼女がキャリアの中で見せてきた身

のこなしは軽業そのものであった。エレクトロニカに寄っ

た『Vespertine』からヘビーなジャーマン・テクノのよう

にも聞こえる『Volta』。ダーティー・プロジェクターズや アルカとの共作も、フックアップのタイミングは絶妙その ものだった。それを思えば本作の志向は、自らの DJ セッ

トでひたすら BPM の早いベース・ミュージック~ドラム

ンベースをかけていた彼女にとって、ある意味ストレート な表現なのかもしれない。

ただ、そのフットワークの軽さに対して、本作の立脚点は

不惑そのものである。菌類にインスパイアされ、地元であ

るアイスランドのミュージシャンとのコラボレーションで

ゲンデルはいつでも愛聴している)。

この作品をジャンルに分類するならば「ドリーミー・アン ビエント・ジャズ」と呼ぶのが相応しい気はする。でも、 それこそエレクトロニカの要素も感じれば、1 曲目からは 懐かしいあの頃の Wii の音楽が想起させられたりもする

(似顔絵チャンネルの BGM は名曲!)。ヒップホップ以降 の、環境音楽といったところか。

音楽の 4 番目の原則は音色だと正式に制定する日が来た ら、おそらくすぐに 5 番目はテクスチュアにすべきと申 し入れられると思う。最近の音楽では、そんなことを考え させるようなものが特に好きだ。

市原

サブスク世代の渋谷系バンド 「 ケイチ & ココナッツ・グルーヴ」 ギタリスト、プロデューサー。2 月 にフルアルバムを発表予定。

このアルバムは作成された。目立つのは鋭敏さよりも、む しろバス・クラリネットやチェロといった室内楽に多く用 いられるインストゥルメントによる通奏低音。恐らくそ のほとんどを一つの楽団によって仕上げたのであろうか、 ビョークの今のモードが「根」にあることを声高に示すよ うに、全ての曲のマナーがくっきりと固定されている。ゆ えにどこから聞いても自然に触れられるような本作、微量 の毒に注意しながらご賞味あれ。

風間一慶 素手でショートを任せられた

ことがあります。ワセレコ

11 代目、SR 編集長。

42 41
Release Date:9/23 Release Date:9/23 Release Date:9/23 Release Date:9/30

笑う光 耳中華

大真面目に書きます。言語、デザイン、音、あらゆる構築

する要素を徹底的なまでのアナーキズムによって脱構築を 図ったのが耳中華であろう。そして再構築として『笑う光』

を成すのは、「金子」だったり「光」だったりする。デジ タルに無数に存在し、誰しもが触れるナンセンスな音や意 匠の塵芥、誰もが聞き覚えのあるフリー音源やゆっくりボ イス、ゴシック体が器用な仕事によって積み立てられるの だ。それらはいちいち目にも止められないものだ。誰しも が触れているのに。だから『笑う光』を見て、聴くと支離 滅裂なのになんかわかってしまうし、なんか既視感のある 映像だったりする。インタビューにて耳中華は「レモン」 と「洗濯機」が買えるという点で共通していると指摘する。

結局は意味を成すのは解釈なのだ。イデアがあってそれを 知ろうとするのではなく、対象を見て私がどう経験し解釈 するかだ。『笑う光』は小気味よく僕らの学びの踊りに空

So wet Boys

HEAVEN

LISMO、ASICS、サカナクション、でんでんぱっしょ ん 歌詞で使われる単語は、私たち現役学生世代にとっ て、どれも卑近なほど側にあったものだ。奈良発のコレク

ティブが編み出すリリックと音像は青く、それでいて褪せ ているような記憶の中のスクールライフを思い起こさせ る。彼らはその身近な言葉を綿密に、というよりは軽快に、

時にはリリックのうえで連想ゲームを繰り広げさえする。

《ミスっても勉強/ My Teacher ならチルノ/ Chill してい るから目の色レッド》 最早 Y2K に止まらず、既に 10 年代までノスタルジアとして表現される過去になってきて いる。若き彼らが経験とともにしてきたそのままの言葉を 用いているために、必然的に言葉も新しくなる。ただしこ れは、抽象的に表現された象徴主義的な詞でも、個人的な

体験の吐露のストーリーテリングでもない。

良い音楽とは、織りなすアトモスフィアが聴く者に情景

Release Date:10/1

き地を貸してくれる。生きていくうちに勝手に構成される 全ての枠組みから少しでも遠ざけてくれる。あらゆる『~ である』から解放してくれる。これを埒外だと嘲笑するの は枠に囚われすぎている。本当に笑うのはそれを跳躍した 人間のみだ。これは音楽概念を超えたもう deconstructed club 最高傑作であり、そして必ず松任谷由実なのだ。

Being Funny in a Foreign Language

The 1975

現代を代表するポップバンド、The 1975 が原点に回帰し

てみせた 5 作目『Being Funny in a Foreign Language』(邦 題:外国語での言葉遊び)。「何が人々を The 1975 に惹 きつけるのか?」そんな問いから派生して、彼らは「The 1975 とは何か?」どころか「バンドとは何か?」という

地点まで立ち返ることとなる。瞬間的決断で捉える、写真 のようなアルバム 。きっとリスナーは彼ら以上にこの アルバムを反芻することになる。それは、彼らが彼らの現 在地として、シニカルであったりメタ的であったり、そう

いった利口な目線抜きにして彼らのバンドをアルバム全体 で語ることをしたからであり、そしてそんなアルバムが世 界中のリスナーから愛されている。この成功は尊い。

スナハラ 富山の寒景色の中音楽を聴い て育ちました。

DOKI DOKI

Release Date:10/5

を与えるものだ。『So Wet Boys』は、その言葉の意匠で、 リスナーとの絶妙な距離感を意識している。ここでは誰も 置いて行かれることはない。同じ時代を生きるリスナーと

ともにしてきた言葉で誰でも Ride on Wave できる、みん なにとっての So wet Boys なのだ。

サニーデイ・サービス

2020 年発表の『いいね !』以来となる 14 枚目のアルバム は、長年日本のインディー/オルタナティヴロックシーン を牽引し続けている彼らの力量と多幸感が凝縮された一枚 となった。ボサノヴァやフォークなどを参照しつつも、曽 我部恵一の声で歌われる詞がのると、サニーデイ・サービ スの「ポップさ」にいとも簡単に変わってしまう。

コロナウイルス感染拡大以降、アンビエントやニューエイ ジといったヒーリング効果がある音楽を聴くようになった

人もいるかもしれない。私もそのうちの一人である。実際、 曽我部も今年、コロナ療養中にソロ名義でのアンビエント 作品を制作するなど、そうしたサウンドに接近する動きを 見せている。

Release Date:10/24

スナハラ 富山の寒景色の中音楽を聴い

て育ちました。

今作が「多幸感」を有することについては先述したが、コ

ロナ禍を通過し、全体を通して行くあてのない寂しさを 纏っているのは気のせいだろうか。特に中盤の“ロンリー・

小川彩夏

2001 年北海道生まれ。日本大 学芸術学部映画学科に在学。

Release Date:11/1

プラネット・フォーエバー”では、《365 日ずっと雨が降 るおかしな星》のような鬱屈とした世の中を翻って肯定 し、最後は《笑っているよ》と少し悲しげに締めくくる。 彼ら自身を含む今を生きる人がそれぞれの苦しみを抱える 中で、世の中の混沌としている状況をも了解し、ギターを 盛大に掻き鳴らす。彼らの音楽は無責任に元気付けるこ となく、悲しみを共有し我々に寄り添ってくれる。『DOKI DOKI』は我々と共生するアルバムである。

クサカ 東京在住の大学生です。ワセ

レコをもうすぐ引退します。

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Mom

昨年発表された『終わりのカリカチュア』の成功を引っ提 げ、11 月に満を持してリリースされた通算 5 作目のフル アルバム。Mom の真骨頂である空間的なサウンドを展開 しながらも、アートワークやタイトルからも読み取れるよ うにフォークロックの暗がりが同時に描かれる。“鉄人 28 号になって”のような Mom 独自のポップス解釈に基づく キャッチーなものもありながらも、“続・青春”や“スーパー ヘヴン”のようなアンダーグラウンドを彷彿とさせるもの も混在している。このような多彩なサウンドの上で歌われ る歌詞はアーティストとしての、1 人の人間としての孤独 とそのなかで見えてくる光を表現しているように思われ る。¥= 経済の世界の窮屈さを頻出する《ひとりぼっちの 部屋》というフレーズで表しながらも、そこに訪れる君と いう存在をちらつかせる。そして“¥”以降の楽曲でフォー クロックの色を増しながら、内面を克明に描く内容のリ

Release Date:11/2

リックは“青い花”、“あの子が描いた非現実の王国”で溢 れ出す。そこには、それでも歩んでいかなくてはいけない、

しかし「非現実の王国」がヘンリー・ダーガーの『非現実 の王国で』を参照しているのであれば、最後の二曲は作品 が世に出ることがなくても、表現し続けるある種の狂気性

を備えた祝祭的なサウンドであるようにも思われる。今作

はアーティストとしての成熟が結実した、Mom の身を削っ て作られた作品であった。

進暁花

文構 2 年のしんです。音楽と

文学が好きで、文章とか書い

てます。好きな音楽はヒップ

ホップとかオルタナ !

I Didn't Meant To Haunt You Quadeca

YouTuber という異例の経歴ながらにして、来る晩秋に 7 枚目となるアルバムをリリースしたのがベン・ラスキーこ

とクアデカである。15 ヶ月にも及ぶこのプロジェクトは、

既に世界のコアな音楽リスナーの中で話題の中心に立って おり、彼の最高傑作として評価されている。

死や孤独、メタ的な視点で見る自分自身。クアデカはそれ

を死んだばかりのゴーストになって表現する。タイトルの I と You は、ともに自分自身を指しているようにも思える。

自分自身でありながら、それは無限のごとく雄大だ。それ

はボン・イヴェールに通ずるような静寂かつ壮大でありな

がら、自分自身に回帰するというプロセスを経ている。

印象派のようなアートワーク、トルコ、アイルランド、ア イスランドの極寒の地域で撮影されたという一貫したアン

ビエンスを醸し出す全曲のフルムービーがより世界に引 き寄せる。多彩なヴォーカル表現、サンデー・サービス・

Release Date:11/10

クワイアのコーラスやダニー・ブラウンの特徴的なラッ

プ ...... それらがゴーストの手によって語られる。

22 歳の、嘲笑の対象にすらなっていたネット発のラッパー

が、1 人のアーティストとして一つの到達点に達し、これ

からの制作の糧となるような作品になったことは最早言う

までもない。

SOUND ROTARY vol.3 編集部

編集長  風間一慶

スタッフ 池田虹香

井戸海如

植木巧

岡本美柚

片沼宗琉

金山悠吾

草鹿立

佐野杏

潮平知彩

しんかわまゆき

進暁花         須田響

ご協力いただいた皆様

市原諒

市川タツキ

ウエダマサキ

えみり ( 小宮えみり )

加々見太輔

金子斗真

久世

田中莉菜

にんたまちゃん ( 田島直 )

野口桜子

畠山

もこみ

EPOCALC

ライター from ワセレコ

佐野杏

風間一慶

小川彩夏

片沼宗琉

万能初歩

スナハラ

富山の寒景色の中音楽を聴い

て育ちました。

45 ¥ の世界
砂原慶聡        田島直      所崎順也        土田一太      傳田人志輝       友寄晴菜      水野明香        三谷諒太郎      向山結香        森山春萌      渡邊毬乃 ロゴデザイン 西野亮 表紙 進暁花
草鹿立  進暁花  押木珠里愛  所崎順也  砂原慶聡  逸見悠生  金山悠吾  神山薫平 アーティスト名 アルバム名 ページ Amber Mark Three Dimentions Deep 6 aphextwinsucks amen break nostalgia 15 Beyoncé RENAISSANCE 31 Big Thief Dragon New Warm Mountain Believe in You 8 billy woods Aethiopes 16 Björk Fossora 42 black midi Hellfire 28 BREIMEN FICTION 30 Bubble Tea and Cigarettes There's nothing but pleasure 37 butasaku forms 13 computer fight suburban blues 30 conway the machine god don't make mistakes 12 death's dynamic shroud Darklife 41 DOMi & JD BECK NOT TiGHT 29 Earl Sweatshirt SICK! 4 edbl Blockwell Mixtape 5 Eric Gales Crown 6 Florist Florist 31 Forgiveness Next Time Could Be Your Last Time 24 George Benson Light The Dawn (Live New York '75) 11 ginger root NISEMONO 38 HEAVEN So wet Boys 43 hirihiri & lilbesh ramko 10 MICROPHONES AND DISTORTED WAVEFORMS!! 40 Kamui YC2.5 33 Kendrick Lamar Mr. Morale & The Big Steppers 21 khaki 頭痛 34 METAFIVE METAATEM 3 Mom ¥の世界 45 Mura Masa demon time 39 NewJeans NewJeans 1st EP 'New Jeans' 32 Nia Archives Forbidden Feelingz 12 Obongjayer Some Nights Dream of Doors 21 OMSB ALONE 23 Oscar Jerome The Spoon 41 PUNPEE & BIM 焦年時代 32 Quedeca Didn't Mean To Haunt You 45 Rosalía MOTOMAMI 14 Ryohu Circus 40 Sabrina Claudio Based On A Feeling 19 Salamanda ashbalkum 24 Sam Wilkes & Jacob Mann Perform the Composotions of Sam Wilkes & Jacob Mann 42 SAULT AIR 17 shishi Nearly happily ever after 27 Steve Lacy Gemini Lights 28 Sudan Archives Natural Brown Prom Queen 38 Tchotchke Tchotchke 29 Telematic Visions town without sky 39 The 1975 Being Funny In A Foreign Language 44 The Smile A Light for Attracting Attention 20 THE SPELLBOUND THE SPELLBOUND 11 The Weeknd Dawn FM 3 tofubeats REFLECTION 22 Vince Staples ROMONA PARK BROKE MY HEART 16 Warpaint Radiate Like This 19 Watson FR FR 14 YENA SMiLEY 4 yeule Glitch Princess 7 おとぼけビーバー スーパーチャンポン 20 サニーデイ・サービス DOKI DOKI 44 ゆうらん船 MY REVOLUTION 23 宇多⽥ヒカル BADモード 5 岡⽥拓郎 Betsu no Jikan 37 ⾼⽥みどり You Who Are Leaving To Nirvana 27 ⽿中華 笑う光 43 柴⽥聡⼦ ぼちぼち銀河 22 春ねむり 春⽕燎原 18 ⼤⽯晴⼦ 脈光 18 中村佳穂 NIA 15 猫戦 蜜・⽉・紀・⾏ 7 畑下マユ ちるちるみちる 8 ⽺⽂学 our hope 17 流線形 incomplete 33 250 PPONG 13 4s4ki Killer in Neverland 34 ディスクガイド作品リスト 46
SOUND ROTARY vol.3 「2022
2023年2 月 発行 Waseda Music Records 本誌掲載物の無断転載を禁止します。
ディスクガイド」
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