第一機械時代の理論とデザイン

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31/5/2011 鬼頭貴大

レイナー・バンハム著 石原達二/増成隆士訳 原広司校閲

『第一機械時代の理論とデザイン』 鹿島出版会, 1976

第一部 素因―アカデミズムと合理主義の著述家たち 1900 - 1914 旧(アカデミズム)の新(新しい材料、技術)への適応、発展、脱却 第二部 イタリア―未来派の宣言と設計案 1909 - 1914 新しい技術が社会にもたらすべき変化の提案 第三部 オランダ―ベルラーへの遺産―デ・ステイル 1917 - 1925 ベルラーへの米国への眼差しと国際様式への礎 第四部 パリ―美術界とル・コルビュジエ フランス、 ドイツ、 オランダの融合と巨匠の誕生 第五部 バウハウス―新様式の勝利 マンパワーと出版の強み

構成 アカデミズム

WWⅠ 新大陸からの影響

アカデミーの権威の内側から、 アカデミーからの飛躍の試み ↓ 形式的な考えからを継承しつつ、新しい材料と技術を吸収 ↓ 国家戦略としての産業と建築の在り方を模索 ↓ 美術との連携を積極的に意識しつつ展開 ↓ WWⅠ中の発展と新大陸から輸入 ↓ 各地域でのスタンスの確立 ↓ 主導権の新大陸への移行

巨匠、地域色の確立

新大陸へ


概要 20世紀初頭、 フランスにおいてアカデミズムが新しい建築材料と技術によって動 機づけられ、内側から新たな方向づけを求めるという前進的な姿勢で変化していく。 第一次世界大戦以前はフランス以外にイギリス、 ドイツ、イタリアでも建築の新たな 方向づけを提示することが盛んに行われ、それが大戦後のヨーロッパにおける建築 発展の布石となる。 ドイツにおける発展は国家政策としての側面が強く、産業との結びつきを重要視 することで、大戦後国の構造が変わってもバウハウスとしてその流れは継承されるこ ととなる。 イタリアではサンテリアの視覚的に訴えるスケッチを上手に用いて未来派が理論 を展開する。未来派は結局提案だけで終わり実践されなかったが、実践されなかっ たからこそ、それが幸か不幸か一種の理想像としての寿命を獲得したようである。 第一次世界大戦中は、大戦に直接巻き込まれなかったオランダを中心にデ・ステ イルが発展する。 またドイツから生まれた表現派の流れがオランダでも生まれる。 戦後はパリのル・コルビュジエとベルリンの巨匠たちを中心に展開されることとな るが、 フランスとドイツ(そして後にアメリカ) で活躍する巨匠たちは皆、戦前から続 いてきた運動の集積、集大成として建築界に新たな時代をもたらす。

考察 来るべき将来を見据えたベクトル的思考を仮定して本書を読み解くと、 アカデミズ ムが継承してきた強い軸線を基軸としながら、複数の国・地域で同時多発的に理論 が構築され、それらが第一次世界大戦後に台頭してくる巨匠たちを生むための布石 となる、 という大きな流れが浮かび上がる。バンハムは建築史家として過去の出来 事を丁寧にまとめ上げるだけでなく、そこから浮かび上がる世界規模(欧と米)の流 れを彼が執筆していた 「第二機械時代」においても継承し、 これからの展開のあるべ き姿を模索していたのではないだろうか。 本書で締め役としてフラーが登場し、当時の技術の可能性を最大限引き出した。 そんな彼が過去の偉人と化した今日は「何時代」なのだろうか。

今日では機械があまりにも発展しすぎて、その利便性を社会、個人レベルの生活 に適応させること自体に、そのメリット・デメリットが問われる時代になっている。新 たな技術の可能性を探ることに夢中だった第一機械時代と、技術の取捨選択にも莫 大なエネルギーを投じなければならなくなった今日。建築理論が弱まっている (議論 されなくなってきている?)今、現代建築にとって前進するための動力源は何なのだ ろうか。


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