結び目とSkein多項式

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結び目と一変数 skein 多項式 雲居@qmoclock

2019 年 4 月 28 日 結び目の基本的な概念から不変量の 1 つである一変数 skein 多項式の理解までが内容です

1 結び目の基本概念 1.1 結び目と Reidemeister 移動 定義 1.1. R3 内のひも (string) とは三次元空間内の単純折れ線または単純折れ線の一部または全部をなめら かな単純曲線で置き換えたもので伸び縮みが自由なものである, 直感的なひもである 定義 1.2. R3 内の結び目 (knot) とは向きづけられたひも(ひもに一方通行の方向が定められているもの) が 輪のように絡んだひもの状態のことである 定義 1.3. R3 内の絡み目 (link) とはいくつかの結び目の集まりである

図1

三様結び目

図2

ホップ絡み目

定義 1.4. 結び目の交点は当然三次元の情報(ひもの上下)を含んでいる, それを書き表すために上方のひも だけを描く. このような表し方を結び目または絡み目の図式 (diagram) という 定義 1.5. 結び目(絡み目)が 同型である とは, 結び目をあやとりのように変形して向きを込めて同じ形にで きるということである(あやとりのような変形とは後に定義する Reidemeister 移動の有限回の組み合わせで 表せる変形のことである)

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図 3 同型な結び目

定義 1.6. Reidemeister 移動 とは以下の図式で定義される三つの変形のことである(厳密にはセル移動に よって定義されるが今回は省く)

図 4 Reidemeister 移動 I

図 5 Reidemeister 移動 II

図 6 Reidemeister 移動 III

定義 1.7. Reidemeister 移動によって交点のない円周の形に変形できるものを自明結び目 (trivial knot) とい う. 同様に Reidemeister 移動によって交点のない絡み目に変形できるものを自明絡み目 (trivial link) という.

図 7 自明な結び目

定義 1.8. 交点がないような結び目図式を自明なループ (trivial loop) という

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1.2 結び目理論の目標 結び目理論には大きく二つの目標があり, その一つが「二つの結び目あるいは絡み目が同型であるかどうか を判定する」というものである. 結び目や絡み目はパッと見ただけではどのような構造をしているかよくわか らない, あやとりで単純な操作から非直感的な変形が出てきて驚くのも同型な結び目の構造が複雑に変化でき ることからきている部分がある. この目標を達成するためにパッと見ただけで測定できる数値データを使って, 同型な結び目かどうかを判定する位相不変量が必要である. いままでにもさまざまな不変量が開発されてきた が完璧なものはいまだ見つかっていない. これまでに見つかっている不変量として結び目によって定まる多項 式が複数ある. 今回は不変量の 1 つである skein 多項式を理解すること目標として, まず次の節で結び目から得 られる数量について定義していく.

1.3 結び目から得られる数量 定義 1.9. 絡み目が r 個の結び目からできているとき, 各結び目を成分といい r を絡み目の 成分数 という 定義 1.10. 向きづけられた絡み目図式 D の交点 p 近くの二本の向きのついた線分の位置関係により, 交点の 符号 e(p) = ±1 を以下の図のように定義する.

図8

交点の符号

定義 1.11. 絡み目図式 D のすべての交点にわたる交点の符号の和を交点符号和 (writhe) といい w(D) で 表す. 定義 1.12. 結び目あるいは絡み目の図式 D の交点 p について, その符号が +1, −1 かに従って D を D+ , D− と名前付けしたとする, このとき以下の図の D0 をスプライス (splice) によって得られる図式と呼ぶ. この

(D+ , D− , D0 ) の三組をスケイントリプル (skein triple) という.

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図9

スケイントリプル

定義 1.13. 絡み目の図式 D の交点数 (crossing number) を c(D) で表す. 定義 1.14. 絡み目図式 D 内の各結び目成分からそれぞれ交点でないような点をとってきて並べたものを基点 列 (sequence of the base points) という. 定義 1.15. 図式 D が単調 (monotone) であるとは, ある基点列 a = (a1 , · · · , an ) に関して次の条件を満たす ことである (基点 ai が属している結び目図式を Di としている)

• 各 i について ai から Di 上を指定された向きに従って進むとき, どの交点においても最初に上方の交点 として通る

• 各 i < j について Di と Dj のどの交点においても Di の交点のほうが上方にある 定義 1.16. 図式のある交点でひもの上方と下方を入れ替える操作を交差交換 (crossing change) という 定義 1.17. 任意の図式 D と基点列 a が与えられたとき, いくつかの交点で交差交換を行うことで a に関して 単調な図式を構成することができ, この交差交換の最小回数をひずみ度 (warping degree) という, 交差交換を 行う交点をひずみ交点 (warping crossing point) という. 図式 D の任意の基点列に関するひずみ度の最小をそ の図式 D のひずみ度といい d(D) で表す. 定義 1.18. 図式 D の複雑度 (complexity)cd(D) とは cd(D) = (c(D), d(D)) という組のことである.

2 γ 多項式と skein 多項式 定理 2.1. 絡み目図式 D に対して未知数を y とする整係数ローラン多項式族 γn (D; y)(n ∈ Z) で次を満たす ようなものが存在する

• γn (D; y) は Reidemeister 移動 II, III で不変で I に関して等式

が成立.

• 交点なしの自明ループ O に対し

{ 0 γn (O; y) = 1

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(n ̸= 0) (n = 0)


• スケイントリプル (D+ , D− , D0 ) に対して { 0 (交差点が自己交差点) d= 1 (交差点が異なる結び目の交点) を定めると

γn (D+ ; y) + γn (D− ; y) = γn−d (D0 ; y) が成立. この多項式族を γ 多項式族 という. 上の定理の三つ目の条件(およびそれと同値, あるいは類似のもの) をス ケイン関係式 (skein relation) といい, スケイン関係式によって帰納的に定義される多項式をスケイン多項式

(skein polynomial) という.γ 多項式族 は一変数スケイン多項式のなかで最も一般的な形で定められたもので ある.γ 多項式族 が存在することは後で確認するとして、まずはこのような多項式族が存在すると仮定する. す ると次が成立 系 2.1. 絡み目図式 D に対して未知数を x とする整係数ローラン多項式族 cn (D; x)(n ∈ Z) で次を満たすよ うなものが存在する

• cn (D; x) は Reidemeister 移動 I, II, III で不変 • 交点なしの自明ループ O に対して

{ 0 cn (O; x) = 1

(n ̸= 0) (n = 0)

• スケイントリプル (D+ , D− , D0 ) に対して −xcn (D+ ; x) = cn (D− ; x) = (−x)d cn−d (D0 ; x) 証明. fn (D; y) = −y −w(D)+r−1 γ(D; y) とおく, いま Reidemeister 移動 I について交点符号和は 1 減るので, 変化前を w1 (D), 変化後を w2 (D) とおくと

fn (; y) = = y −w1 (D)+r−1 γn (; y) = y −w1 (D)+r−2 γn (; y) = y −w2 (D)+r−1 γn (; y) = fn (; y) となる, もう一つの移動についても同様である. 一方で Reidemeister 移動 II, III については γn と r は不変だが

図 10 交点符号和の変化

図 11 交点符号和の変化

となり交点符号和は変化しないので fn は不変

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また自明なループ O に関して fn (O; y) = y 0 γn (O; y) = γn (O; y) だから二番目の性質も成立. スケイントリプルの交点符号和は w(D+ ) = w(D− ) + 2 = w(D0 ) + 1 の関係が成り立っていることが簡単 にわかる, 成分数 r は D+ , D− では変化しないが D0 ではその交点が異なる結び目成分の交点か同じ結び目内 の自己交点かによって成分数の変化の仕方が変わる. 異なる成分間の交点をスプライスすると成分数が 1 減り, 自己交点をスプライスすると成分数が 1 増える.(手を動かすと簡単にわかる) したがって

y 2 fn (D+ ; y) + fn (D− ; y) = = y −w(D+ )+r+1 γn (D+ ; y) + y −w(D− )+r−1 γn (D− ; y) = y −w(D+ )+r+1 (γn (D+ ; y) + γn (D− ; y)) = y −w(D+ )+r+1 γn−d (D0 ; y) = y 2d fn−d (; y) 最期に y 2 = −x とおけば条件を満たす多項式族 cn (D; x) が得られる 多項式族 cn (D; x) を skein 多項式とよぶ,cn (D; x) を簡単な操作で二変数の skein 多項式に拡張すると

HOMFLY 多項式と呼ばれるものになる.HOMFLY 多項式は二変数 skein 多項式で最も一般的な形で書かれ たものであり, そこから Jones 多項式や Conway 多項式,Alexander 多項式などの不変量が導かれるが今回は 省く. 次は多項式族 cn (D; x) が上記の三つの条件だけから計算可能であることを示す. 定理 2.2. 多項式族 cn (D; x) は上記の 3 つの性質のみで計算できる, 特に有限個の n を除けば必ず cn (D; x) =

0 で n < 0 なら cn (D; x) = 0 証明. r 成分の自明絡み目 O r に対し

cn (Or ; x) = (1 − x)r−1 δn,0 として計算できることを示す. 実際自明絡み目のスケイントリプル (D+ , D− , D0 ) で c(D+ ) = c(D− ) = 1 か つ c(D0 ) = 0 となるようなものにスケイン関係式を適用すると d = 0 だから

−xcn (D+ ; x) + cn (D− ; x) =cn (D0 ; x) cn (Or ; x) =(1 − x)c( Or−1 ; x)

となり帰納的に計算される. 特に cd(D) = (0, 0) のときは計算される.c(D ′ ) < k, または c(D ′ ) = k か つ d(D ′ ) < s) のとき (これを cd(D ′ ) < (k, s) とかく)cn (D ′ ; x) が計算されたと仮定して cd(D) = (k, s) とな る 図式 D について cn (D; x) が計算されることを示す.s = 0 ならば D は自明絡み目なので s > 0 とする. 基 点列 a に関するひずみ度が s となるような基点列を選び, そのときのひずみ交点の 1 つを p とする,p の符号を

ε(p) とおく, このときある非負整数 s0 が存在して cd(D−ε(p) ) ≤ (k, s − 1) < (k, s) cd(D0 ) ≤ (k − 1, s0 ) < (k, s) となる. よって帰納法の仮定とスケイン関係式によって cn (D; x) が計算された.

γ 多項式 の存在の証明を書くと書いたが眠くなってきたのでやめる.

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参考文献 [1] 結び目の理論・河内明夫

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