"Connecting the last mile" (Japanese language version)

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ルイス=アップルビー


謝辞

インターニュース(Internews)は、本レポート制作にあたり、著者であるルイス=アップルビー氏 (Lois Appleby)を支援して頂いた皆様に厚く感謝の意を申し上げます。特に、本プロジェクト 実施にあたり、アップルビー氏の執筆に賛同くださったクラウンエイジェンツ(Crown Agents) 、及び英国国際開発省の人道安全保障部(CHASE)の皆様に心より感謝いたします。また、 欧州ジャーナリズムセンターの椿梨奈氏には調査に多大なるご支援いただきました。 ご自身の辛い体験を語って頂いた東北地方の被災者の方々、そして貴重な情報、ご 意見、ご支援を頂いた以下の個人・団体の皆様に感謝の意を表します。 日本赤十字社、ケア・インターナショナルジャパン、Google、日本民間放送連盟、 国 際協力機構、椎名規之様(ジャパン・プラットフォーム)、ラジオ石巻、H@! FM、 フジ テレビ、日日新聞社、市川裕康様、中村三樹男様、渡部正樹様(国連人道問題 調整事 務所)、スー=ハドソン様、内尾太一様、伊藤恵子様、フィリーダ=パービス様 最後に、本レポートの翻訳に携わっていただいた、以下の個人・団体の皆様に厚くお礼申し上げます。 四方智之様、ジョージタウン大学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス、アンドリュー=スティール様、 デジタル・グローブ・アナリティクス、遠藤有美様、抦 太郎様、常田麻ゆ子様、山西厚様、河邊章子様 協力していただいた皆様へ心から感謝の気持ちと御礼を申し上げたく、謝辞にかえさせていただきます 編集長:マーク=ハーヴィー 著者:ルイス=アップルビー 主要な協力者:欧州ジャーナリズムセンター 椿梨奈 副編集長:キャスリン=シェイアー 協力者:ジャコボ=キンタニーリャ、ニコレッタ=アントニーニ デザイナー:ルイス=ヴィルチェス eleuve.carbonamade.com

写真

ルイス=アップル ビー、トムソン・ ロイター財団

表紙写真 大雪の中、地震と津波の被害を受けた仙 台の工場が並ぶ地域で、救助隊員が無線 で話す様子。2011年3月16日撮影。 提供:キム=キュンフン(ロイター)、トムソン・ロイター財 団- ALERTNET

研究に対する協力: スウェーデン政府


CONNECTING THE LAST MILE 東日本大震災におけるコミュニケー ションの役割

3

目次

序文

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要旨

6

国際人道支援組織に向けた東日本大震災からの教訓と提言

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1. 2011年3月11日:地震、津波、そして原発事故の三重災害

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1.1 震災前・最中・後の情報収集及び通信方法の移り変わり

11

1.2 震災時、世界で最もテレビを観ている日本人がラジオに乗り換えた

14

2. 早期警報システム:潜在能力と課題

15

2.1 早期警報システムはどのように機能したのか

15

2.2 口コミ:ボランティアは命懸けで警鐘を鳴らした

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3. 全国と地元メディアの反応

19

3.1 三 大 脅 威 を も た ら す 地 震:テ レ ビ 放送局の対応

19

3.2 震災後:テレビが主要な情報源としての鍵を握る

21

3.3 危機的状況下における活字メディアの速報報道

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4. 被災者による、被災者のための地域情報

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4.1 地元のラジオ局:「命綱」としての 役割

23

4.2 緊急時専用の災害FM

26

4.3 壁新聞:地方紙と地域会報の役割

26

4.4 避難所対象の回報:地域を再びつなぐ

28

5.

29

デジタル時代においての災害コミュニケーション

5.1 支援と討論を激化させたツイッター

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5.2 フェイスブックとミクシィ:友達の最後のログインはいつ?

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5.3 ユーチューブ:経験の共有、援助の要請、そして「原発くん」

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5.4 ライブストリーミング:全世界が展開を見守る

32

5.5 ソーシャルメディアの限界

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5.6 デジタルメディアを駆使した被災後の発展

34

5.7 グーグルのパーソンファインダー

34

5.8 「テクノロジー・ボランティア」という新たな動向と震災マッピング

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CONNECTING THE LAST MILE 東日本大震災におけるコミュニケー ションの役割

4

5.9 通信会社:危機の中で生まれたイノベーション

38

6.

39

デジタル・アーカイブ、ビッグデータの共有

6.1 記憶を刻む:地元住民が作るデジタル・アーカイブ、フォト・ライブラリー

39

6.2 震 災 デ ー タ の「 足 跡 」の 追 跡

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6.3 PROJECT311:災害へのより良い理解と準備のためのビッグデータの共有

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7. 支援組織間のコミュニケーション

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8. 「ラストマイルへの橋渡し」:解決策は ローテク、それともハイテク?

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9. 各方面への提言

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全ての関係者に向けて

45

人道支援組織に向けて

45

技術セクターに向けて

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日本国内の関係者に向けて

47

各国政府と支援者に向けて

47

10. タイムライン

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11. 主要参考資料

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インターニュースの活動­人道危機におけるコミュニケーション支援

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CDAC NET WORK について

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ケーススタディ 地元ラジオ ケーススタディ#1:宮城県登米市

24

地元ラジオ ケーススタディ#2:宮城県石巻市

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地域の活字メディア ケーススタディ#1:宮城県石巻市

27

デジタル ケーススタディ#1:ツイッターによる屋上救出作戦

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地域の活字メディア ケーススタディ#2:ぼくのふるさと̶大人と子供をつなぐ記憶

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CONNECTING THE LAST MILE 東日本大震災におけるコミュニケー ションの役割

序文 2011年3月11日に日本を襲った大震災発生から最初の48 時間、日本そして各国のメディアは福島第一原発で起こっ た事故へ関心を向けました。原発の危機的状況は、 マグニ チュード9.0の地震、そして巨大津波への対応に加えて「第 三」の複雑な要素をもたらしました。 福島原発での出来事は東京電力株式会社(TEPCO)と日本 政府に情報管理の危機を引き起こし、その結果、国民・被 災者からの信頼は徐々に失われました。福島原発事故で生 じた情報管理上の課題、それによる国民からの信頼の低下 は、日本に限らず、大規模な国際人道支援と復旧作業にお けるコミュニケーションの役割の認識の大きな部分を占め ることとなりました。 日本で震災が起こった2011年3月、インターニュースの人道 コミュニケーション支援チームは、この震災と同様に数百 万人の被災者を出したハイチとパキスタンで行ったように、 地方自治体・人道支援組織・地域コミュニティ間の情報共 有の役割を担う地元メディアを支援するための活動を行い ました。 当時、これらの二つの災害はハイチとパキスタンの政府、そ して国際人道支援組織にとって、前例のない複雑なもので した。 ポルトープランスとイスラマバードで活動した経験のある我 々は、日本の震災の様々な要素の中でも、特に福島で起き た事故に対応する多数のコミュニケーション・イニシアチブ が発足されるだろうと認識していました。そして、それらの イニシアチブから学べる教訓は、情報とコミュニケーション の重要性を「支援」の一部と考慮する多くの組織にとって 看過できないものであり、その教訓を人道支援や復旧作業 のメカニズムに組み込むべき要素が溢れていると認証しま した。 日本から得られる教訓への我々の関心は、被災地との通信 の重要性に焦点をおくCDACネットワークを通じて、その中 でも特に国連人道問題調整事務所(UNOCHA)の代表者 の方々によって共有されることとなりました。また、この関

心の存在を実証するかのように、2012年7月には、Google 主催の東日本大震災における情報技術の役割についてのフ ォーラムが宮城県仙台市で行われました。 そうした背景を踏まえてインターニュースは、限られたリソ ースとスウェーデン国際開発庁の後援のおかげで、東日本 大震災の際にケア・インターナショナルの緊急救援隊員で あり、クラウン・エイジェント及び英国国際開発省人道安全 保障部より後援を受けたルイス=アップルビー氏に、本レポ ート制作をお願いすることとなりました。 本レポートは、ルイス=アップルビー氏の尽力と、欧州ジャ ーナリズムセンターの椿梨奈氏の多大なる支援により実現 することができました。また、国際的な人道支援組織が東 日本大震災でコミュニケーションが担った役割について、福 島の危機を超えて学ぶべきことは多大であるとの確信のも と作り上げたものでもあります。 「ラストマイルへの橋渡し」は、世界中の被災地域で活動 する、人道支援組織の知識基盤として貢献できるであろう と期待しております。さらに本レポートが、仙台で開催され る「第3回国連防災世界会議」に参加される日本と世界の 代表者の方々にもご参考にして頂ければ幸いです。この国 連防災世界会議で、さらに優れた被災地とのコミュニケー ションの在り方を築く重要性が結束的に認識されれば、情 報というものがどれだけ難解な危機に見舞われた人々の命 を助け、復旧を後押しできるものなのかを認知している人 々にとって、とても力強い結果になることと確信しておりま す。 インターニュース・ヨーロッパ 事務局長 マーク=ハーヴィー (Mark Harvey, Executive Director, Internews Europe) インターニュース人道支援プロジェクト 主任 ジャコボ=キンタニーリャ (Jacobo Quintanilla, Director, Humanitarian Projects, Internews)

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CONNECTING THE LAST MILE 東日本大震災におけるコミュニケー ションの役割

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要旨 2011年3月11日、日本は数千年に一度の史上最大級 の巨大地震に見舞われた。東京から約400キロ北東 に位置する東北地方太平洋沖を直撃。その地震によっ て大規模な津波が発生し、町や村はまるごと飲み込ま れ、死亡・行方不明者は約1万8000人以上、負傷者は 6000人1 を超え 、さらに47万人以上の避難者を出す 結果となった2 。最も被害が大きかった場所では、震災 後数ヶ月の間、電力の供給、携帯電話のネットワークや インターネットへの接続がなかった。震源地から150 キロ南にある福島原子力発電所で放射能漏れが発生し ていることが分かると、事態はさらに深刻化した。 日本は世界でも有数のメディアと情報が豊富なデジ タル化した社会である。

壊滅的な被害が大きかった一方で、もし日本の進んだ 防災措置がなければ、死亡者や被災者の数はもっと多 かっただろうと考えられている。3 日本では、巨額な資 金が防災対策に投じられている。4 1995年に発生し た阪神淡路大震災では、約80%の死亡原因が建物の 倒壊によるものだった。しかし2011年の震災では、地 震そのものによる被害は限定的で、むしろ90%以上の 死因は津波によって引き起こされたのである。5 日本は、世界有数レベルのメディア及び情報通信イン フラを保有6 しており、インターネットやソーシャルメデ ィアネットワークの利用者人口も非常に多い。また、豊 かなデジタル情報化社会としての世界的地位を確立し ている。7

1

NATIONAL POLICE AGENCY OF JAPAN, 28 NOVEMBER 2012

2

WORLD BANK, EVACUATION CENTRE MANAGEMENT: KNOWLEDGE NOTES, CLUSTER 3: EMERGENCY RESPONSE, NOTE 3-5, P.3

3

WORLD BANK JAPAN HTTP://WEB.WORLDBANK.ORG/WBSITE/ EXTERNAL/CONTRIES/EASTASIAPACIFICEXT/

4

WWW.NYTIMES.COM/2011/03/12/WORLD/ASIA/12CODES. HTML?PAGEWANTED=ALL

5

WWW.JAPANTIMES.CO.JP/TEXT/NN20110421A5.HTML

6

WIKIPEDIA: HTTTP://EN.WIKIPEDIA.ORG/WIKI/COMMUNICATIONS_IN_ JAPAN

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WIKIPEDIA: LIST OF COUNTRIES BY NUMBER OF INTERNET USERS

本レポートでは、高度に発達しているその情報・通信イ ンフラが、東日本大震災発生後に人々の生存や復興に どのような役割を果たしたのかを明らかにしていく。既 に重要な問題として認識されていることから、日本政 府や東京電力(TEPCO)による福島原発災害を巡る 情報の取り扱いには注目しないこととする。8 Connecting the Last Mile(「ラストマイルへの橋渡 し」)では、最も被害の大きかった岩手県・宮城県・福 島県の地域がどのように震災に関する情報を受け取っ ていたのかということを探ってきいきたい。具体的に は、地震と津波の発生前、発生の最中、発生後にどの ような通信手段が利用されていたかを明らかにする。 今回の震災で被害に遭った日本だけでなく、国際社会 の人道支援関係者のために、情報コミュニケーション の観点から何を学ぶことができるかを追求するのが目 的である。 地震速報と津波注意報:早期警報システムの有 効性 日本の非常に優れた防災メカニズムは、 マルチメディ ア、自動災害警報システム、建物の耐震性への厳格な 規則、地震発生時に高速列車や危険性の高い機器を 自動停止する装置の導入などと様々である。 地震発生の数秒前に気象庁によって出された緊急地震 速報は、テレビやラジオ放送を中断して流され、学校、 防災機関、地方役所や重要インフラを管理する企業に 伝達される。気象庁のシステム、そして日本の沿岸の街 で一般的に実施されていた避難訓練が、数千もの命を 救った。9 8

THE NEW YORK TIMES: CULTURE OF COMPLICITY TIED TO STRICKEN NUCLEAR PLANT: HTTP://WWW.NYTIMES.COM/2011/04/27/WORLD/ ASIA/27COLLUSION.HTML?PAGEWANTED=2&_R=4&SRC=ME BBC JAPAN DID NOT KEEP RECORDS OF NUCLEAR DISASTER MEETINGS: HTTP://WWW.BBC.CO.UK/NEWS/WORLD-ASIA-16754891 RELEASE OF THE FUKUSHIMA NUCLEAR ACCIDENTS INVESTIGATION REPORT: HTTP://WWW.TEPCO.CO.JP/EN/PRESS/CORP-COM/ RELEASE/2012/1205638_1870.HTML

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SUMMARY OF HOW THE WARNING SYSTEM PERFORMED: HTTP:// SEISMO.BERKELEY.EDU/~RALLEN/RESEARCH/WARNINGSINJAPAN/


CONNECTING THE LAST MILE 東日本大震災におけるコミュニケー ションの役割

しかしながら、最初に気象庁が出した津波警報は、実 際には最大波高が一部地域で40メートルにも及んだ 津波の規模を非常に低く見積もっていた。多くの避難者 は、宮城で6メートル、福島で3メートルという当初の予 測を訂正する続報を受け取らなかった。

は、避難所情報など具体的な情報に関するタグを作成 した。ツイッターのグローバルネットワークが、津波で 足止めを食らった生存者の救助活動を支援した。さら に日本政府は、大地震発生から3日以内に史上初の地 震関連情報専用のツイッターアカウントを設けた。

津波警報を発令する公共無線システムが効果的に作動 した地域もあったが、システム自体が地震によりダメー ジを受けたり、電源供給がなくなったことにより作動し なかった場所ではあまり役に立たなかったのである。多 くの犠牲者は、津波の規模についての続報を受け取ら ず、その結果、高い場所へ避難しなかったことから亡く なった。

グーグルは、地震発生から90分以内に安否確認サー ビス「パーソンファインダー」を立ち上げ、60万人以上 の被災者の個人情報データが、5千人のボランティアに よって震災後90日間に集められた。

気象庁は、津波被害予測の改善化に取り組んでいる。 すべてのシナリオに対処することのできるシステムは存 在しないとの認識が日本及び世界的にも広まっている。 そして災害管理技術の限界、リスク認知や防災について の公教育が必要だということが理解されてきている。 『頻繁に災害に見舞われる他の国にも応用可能な 東日本大震災からの教訓は、人々が直面し得る最 悪のシナリオのリスクを事前に想定して準備するこ との重要性である。日本のリスクの公的認識や避難 訓練、人員の動員という点においては大変優れてお り、他国で類を見ないものである。』 国 連 事 務 総 長 特 別 代 表( 防 災 担 当 )マルガレ ー タ=ワルストロム

躍進するテクノロジーとソーシャルメディアの活用 地震発生直後、インターネットが接続可能であった地 域では、各地で生存者による状況のアップデートや写 真・動画の投稿が相次ぎ、ソーシャルメディアが非常に 活発に利用された。 発生から1時間以内には、震源地への救助依頼などの 用件を対象とするツイッターのハッシュタグが日本南 部のユーザーによって作成された。そしてツイッター社

地震発生日中には、オープンソースの情報集約ソフ ト「Ushahidi」 (ウシャヒディ)を使用した「Sinsai. info」が、IT技術力のあるボランティアのコミュニティに よって立ち上げられた。 そして、福島原発における危機的状況から、放射線汚 染の懸念が強まっていたことに応じ、放射能対策を 考案・共有するためのボランティア主導プロジェクト 「Safecast (セーフキャスト)」が震災後一週間以内に 始動した。2012年12月までに、350万件以上の放射 線量数値データを集めた。 ネット及びモバイル3Gの普及率の高さ、そしてインタ ーネットを基盤とする情報イニシアティブの迅速な展 開が共謀し、モバイルツールはインターネットや電力に アクセスがある被災者たちにとっての「生命線」と化し た。携帯電話やスマートフォンを使用するための十分な 電力があった被災者たちは、安否情報や政府による公 式発表などの情報収集、家族や友人との連絡、そして 震災の全体像を理解するため、大いに役立てた。 しかしながら、 「大規模な停電」と「電話通信ネットワ ークの機能不全」という二つの要因が、テクノロジーや ソーシャルメディアの活用を鈍くした。それによってイン ターネットや電話、なによりも生存者の安否情報への アクセスが制限された。

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CONNECTING THE LAST MILE 東日本大震災におけるコミュニケー ションの役割

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被害を受けた岩手・宮城・福島の沿岸部は、60歳以上 の人口が30%を占める人口減少に見舞われる農漁村 地域である。10 その背景から、死亡者の65.8%は60 歳以上の高齢者だった。11 物理的にも精神的にも避難 生活が困難だったことに加え、12 高齢者はネット上の 情報にアクセスすることや、ソーシャルメディアにも馴 染みがなく、これらを通して得られる支援物資などにつ いての情報も手に入れることができなかった。13 「ラストマイルへの橋渡し」:地域集中型とローテ クメディアの価値 『私たちが新聞を持って避難所へ向かうと、大きな 人だかりが押し寄せて来ました。彼らは情報にとて も飢えていて、私たちはやっとのことで壁に新聞を 貼ることができました。震災後、もし情報が無い状 態に陥ったのなら、人々のストレスや不安はもっと大 きくなるでしょう。ラジオや新聞といった古いメディ アが非常時には一番役に立つのです。』 石 巻 日日 新 聞 編 集 者 武 内 弘 之

震災関連の情報伝達が法的に義務化されているNHK は、地震発生後2分を経ずにすべての国内放送を緊急 報道に切り替えた。さらに民放各局は、CMの放送を止 め、緊急生放送を開始した。2011年3月11日から13日 の間、6つの主要放送局の放送内容の90%以上は、震 災に関連するものだった。 しかしながら、NHKによる震災後調査結果によると、 食料・水・ガソリンや電気の供給についての十分な情 報が被害地域に届いていなかったことが明らかとなっ ている。14 この結果をもとに、NHKは「広範囲にわた る複雑な災害が発生した場合、テレビだけでは人々の あらゆる要求を満たすには不十分である」との見方を 示した。その一方で、2011年の震災では、住民自身が 主体となり、地域のニーズに応じた情報の不足を補う 先導的な取り組みを図った。テレビ・携帯電話・インタ 10

MINISTRY OF INTERNAL AFFAIRS AND COMMUNICATIONS/WORLD BANK REPORT KNOWLEDGE NOTE 3-6, P7

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CABINET OFFICE WHITE PAPER ON AGEING SOCIETY, 2012 (JAPANESE ONLY)

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NHK, 巨大津波その時ひとはどう動いたか (TELEVISION PROGRAMME, AIRED ON 2ND OCTOBER, 2011)

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NHK, 巨大津波その時ひとはどう動いたか (TV PROGRAMME, AIRED ON 2ND OCTOBER, 2011)

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大震災とメディア-東日本大震災の教訓, MITSURU FUKUDA (2012), PP.19-21

ーネットとは異なり、ラジオや新聞は電力の供給の有 無に影響されにくい。地元ラジオ、ローカル新聞、回報 や口コミが、地域コミュニティでは命綱となる情報を伝 える役割を果たした。ラジオは、震災当日から一週間 に及び、最も有効な情報元として活躍した。1995年阪 神淡路大震災を経て、総務省はすでに非常時用ラジオ 放送のライセンス方式を設置していた。2011年の震 災において、地震から1ヶ月の間に、新しい震災用FMラ ジオステーション用のライセンスが合計21件発給さ れ、緊急用の情報の配信を始めた。 本レポートでは、地域集中型とローテクメディアに関 連する3つの取り組みに焦点を当てた(登米市のH@! FM、ラジオ石巻、日日新聞)。これらの取り組みは、生 存者が必要とする情報配信の請負、災害対応と復興に おけるローカルメディアの重要性、そして持続的な資金 提供の難しさを実証した。 「停電が起きた際、特に震災の初期段階で、コミュ ニティラジオ局が命綱となる。悲しいことに、通常時 ではコミュニティラジオの位置づけは認識されてお らず、予算的な限界があることが現状だ。」 ラジ オ石 巻   今 野 雅 彦 氏

情報格差と人道支援の調整 前例のない規模の災害が、既存の人道支援のあり方を 試すこととなり、国連人道問題調整事務所や主要国際 人道非営利団体だけではなく、状況を懸念する世界中 の人々による自発的ネットワークの構築など、国内外で 様々な反響を呼ぶことになった。 地方自治体や社会福祉機関は、地域支援の対応をまと める役割を担ったが、その多くが当然のこと経験不足で あったり、建物及び関係者自身が被害を受けていたりし たことから、調整処理能力が落ちていたのが現実だ。


CONNECTING THE LAST MILE 東日本大震災におけるコミュニケー ションの役割

東日本大震災では、人道的活動のコミュニケーションに 関連する2つの課題が明らかになった。一つは人道支 援者間の情報共有、協力体制の枠組みの欠如である。 これはあらゆる災害で繰り返し起きている問題であり、 これらが支援の重複を生み、効果を落とすこととなる。 例えば、生存者によると、自衛隊や警察、及び非営利 団体から繰り返し、同じ事柄についての問い合わせが 殺到していたのが現状だ。さらに、国内外の非営利団 体はあくまで「ボランティア」であり、プロフェッショナ ルではないという認識されていたことがあった。これ は、政府の日本国内の災害に対する対応計画に、非営 利団体の役割を考慮していないことにも現れている。 二つ目の課題は、人道支援者が震災マップなどを通し て、ボランティアが集めた貴重な情報資源の存在認識 が欠いていたことである。 例えば、Open Street Map(オープン・ストリート・マ ップ)のボランティアで構成されたコミュニティは、被 害に遭った50万以上の道路を一つの地図で可視化し た。また、前文で述べたSinsai.infoでは、約3ヶ月間に 及び、被災地についての1万2千のツイートとメールを分 類、これを地図化したのボランティアであった。これら のボランティアが先導する共同制作型プラットフォーム は、災害対応と復興作業における情報格差の溝を埋め る可能性を秘めている。しかし、こういったプラットフォ ームが、人道支援者によってどの程度利用されていた かという点については明らかではない。 結論として、本レポートは、震災発生時に最も被害を受 けやすい脆弱な層に必要な情報を届けるための「ラス トマイルへの橋渡し」を確立することを目的とし、ロー テクからハイテクまであらゆる情報経路を駆使するこ との重要性を立証するものである。 「ラストマイル」は、最も技術的に進んだ社会において も繋がっている状態でなければならない。情報が命を 救うこと、コミュニケーションそのものが支援の一つで あること、非排他的なコミュニティが一体となって支援 する時に、人道的支援がより効果的に働くこと。他の 大災害で分かったこれらの事実を、今回の東日本大震 災は裏付けた。

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CONNECTING THE LAST MILE 東日本大震災におけるコミュニケー ションの役割

国際人道支援組織に向けた 東日本大震災からの教訓と提言 1 早期警報システムや防災は人々の命を救うが、最 も複雑かつ最悪なシナリオでは情報による警報シ ステムが安全装置として機能しない。災害管理技 術の限界についての公教育や、リスク認知と防災 のたゆみない取り組みが必要不可欠となる。 2 インターネットやソーシャルメディアの基盤は、震 災の対応や復興に多大な貢献をした。しかしなが ら、電気や通信網のインフラに依存しているため、 最も脆弱な人々はアクセスができなくなるのが現 状である。災害に強いコミュニケーション基盤の構 築やインターネット接続の回復の速さが災害管理 計画の核となるべきである。

4 協力・情報共有の体制や非排他的なメカニズム が、政府・NGO・ボランティア団体や被災地を含 むすべてのセクターで整っている場合、複雑な災害 であっても人道支援の活動が被災者のニーズを満 たす可能性が高い。今後、民間セクターやボランテ ィアの技術コミュニティを含む、新しい人道支援者 からの情報の流れが大きくなるにつれて、公的な 災害管理や対応の枠組みの中にこれらの組織やツ ールは統合されていく必要がある。

3 ローテク、ハイテク両方のメディアが重要となる。 地域主導のメディア、とりわけラジオが全国放送 のメディアよりも被災した地域コミュニティの情報 のニーズに効果的に対応でき、また、初期段階の 警報や災害管理システムにおいても大切な役割を 果たす。緊急放送を認可することも死活的に重要 だ。地元メディアは技術的にも予算的にも十分に サポートされている必要があり、緊急時の対応を する人たちは震災前・最中・後を通じて地元メディ アと密に協働していかなければならない。 * FOR SPECIFIC SECTOR-WISE RECOMMENDATIONS READ SECTION 9. RECOMMENDATIONS, P. 45

調査方法 (METHODOLOGY)

本レポートは政府機関や研究者、NGO、その他の利害関係者、日本民間放送連盟に よる調査や研究を含む二次調査に基づく。詳細は「参考文献」の頁。 また、宮城と岩手で2週間にわたる現地調査が行われた際にも、被災者や地方自治体職員、メディア 関係者、研究者、民間企業、NGO、そして市民グループに対するインタビューが行われた。


CONNECTING THE LAST MILE 東日本大震災におけるコミュニケー ションの役割

1 2011年3月11日: 地震、津波、そして原発事故の三重災害 3月11日午後2時46分、 マグニチュード9.0の巨大海底 地震が、東北地方太平洋沖を直撃した。 日本で史上最大の地震は、防潮堤を倒し、500平方キ ロもの範囲を浸水、海岸沿い650キロに及ぶ範囲の町 村を破壊する巨大津波引き起こした。1万8000名以上 の死者・行方不明者、数千名の負傷者を出し、50万以 上の建物が全壊または半壊した。 被害の全容が明らかになるにつれ、福島原子力発電所 が津波による被害を受け、その結果、放射性物質が海 へ漏れていることも判明した。15 地理的に、日本は世界で最も自然災害の被害を受けや すい国である。16 4つのプレート上に位置しており、地 震、津波、火山噴火、さらに台風のような気象現象にま で影響を受ける。 しかし、6千名の死者を出した1995年の阪神淡路大震 災が起こってから、日本は震災対策に何兆円もの投資 を行っており、防災の分野において世界をリードする国 である。17

1.1

震災前・最中・後の情報収集及び 通信方法の移り変わり

日本は世界有数の情報通信インフラを持っており、約 220の地上テレビ局、300のAM/FMラジオ放送局が 15

NATIONAL POLICE AGENCY JAPAN, NOVEMBER 2012.

16

ECONOMIC DAMAGE CAUSED BY NATURAL DISASTERS IN JAPAN: AN EMPIRICAL ANALYSIS FROM THE PERSPECTIVE OF SOCIAL VULNERABILITY, MAMPEI HAYASHI

17

HTTP://HHI.HARVARD.EDU/NEWS/RECENT-NEWS/JAPAN-DISASTERRESOURCES

Location of earthquake, tsunami and affected nuclear power plants. GRAPHIC COURTESY ECONOMIST INTELLIGENCE UNIT

ある。18 地震または津波が予測された際、人々へ警告 するための気象庁による早期警報システムを公共・民 間両方の放送局が使用している。 また、ネットと携帯電話の普及率は非常に高い。統計 によると、ネットユーザーは全体の80%、携帯電話の 利用者は84%となっている。19しかし、日本は同時に 65歳以上の高齢者が全体の人口の24%を占める超高 齢化社会である。20 18

TELEVISION TOKYO

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HTTP://WWW.NEWMEDIATRENDWATCH.COM/MARKETS-BYCOUNTRY/11-LONG-HAUL/54-JAPAN

20

MINISTRY OF INTERNAL AFFAIRS AND COMMUNICATIONS, STATISTICS REPORT NO.63, SEPT 2012

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A man rides a bicycle at an area hit by earthquake and tsunami in Kesennuma, north Japan, March 17, 2011. REUTERS/KIM KYUNG-HOON, COURTESY THE THOMSON REUTERS FOUNDATION – ALERTNET©

震災前、沿岸部の岩手・宮城・福島は60歳以上の人口 が30%を占める、農漁村地域であった。21 今回の地震 と津波での死亡者のうち、65.8%はこれらの60歳以 上の高齢者であり、このグループの脆弱性が明らかとな った。22 21 MINISTRY OF INTERNAL AFFAIRS AND COMMUNICATIONS/WORLD BANK REPORT KNOWLEDGE NOTE 3-6, P7 22

CABINET OFFICE WHITE PAPER ON AGEING SOCIETY, 2012 (JAPANESE ONLY)

地震の規模と津波が押し寄せるまでの時間の短さによ り、これらの高齢の地域住民は肉体的にも精神的にも 避難に困難を伴った。23

23

NHK, 巨大津波その時ひとはどう動いたか (TELEVISION PROGRAMME, AIRED ON 2ND OCTOBER, 2011)


CONNECTING THE LAST MILE 東日本大震災におけるコミュニケー ションの役割

Ishinomaki Saigai FM Station signs, Ishinomaki, November 2012. LOIS APPLEBY

震災後にネット接続の環境改善のために起こったボラ ンティア組織である情報支援プロボノ・プラットフォ ーム(iSPP)の調査によると、テレビが日常的に最も利 用され(87.2%)、インターネット(81.3%)、携帯電話 (63.6%)などが続く。しかし、これらのメディアは災 害の最中、直後には電力や通信ネットワークなどの技 術的問題から頼ることはできなかった。 回答者のうち、日常的にラジオを利用する人は46.6 %しかいなかった一方で、震災後の危機においては最 も利用される(67.5%)メディアとなった。携帯電話は 37.5%、テレビは33.4%、インターネットは19.5%と、 ラジオに比べて非常に低い数字となっている。24 別の研究では、大きな被害を受けた回答者のうち、約 半数(52.3%)しか津波警報を認知していなかったこと が判明した。

では、最も被害を受けた岩手・宮城・福島の地域では、 どのように情報を入手していたのか?どの通信手段が 災害前、最中、後に使われたのだろうか? 概して、被災状況が明らかになるにつれ、災害関連情 報の入手方法は変化していった。また、特に被害が大き かった地域では、地理的な状況によってもその方法は 異なった。

1.2

震災時、世界で最もTVを観ている 日本人がラジオに乗り換えた

これらの地域で最も使われた伝達手段は、無線の拡声 装置の公共ネットワークである。他のメディアは主に津 波警報くらいにしか使われなかった。また、拡声装置 24

ISPP, 「東日本大震災 情報行動調査」について

13


CONNECTING THE LAST MILE 東日本大震災におけるコミュニケー ションの役割

14

2011年3月11日に発表された警報 14:46

地震速報 揺れが来る数秒前に発令

(警報は携帯電話、公共施設、官庁、主要メディアに送られる。メディアは速報をテロップなどを通して報道。) 14:49

津波警報(第一報)宮城:6メートル、福島:3メートル

(テレビ、ラジオ、官庁に送られ地域では拡声器などで呼びかけ。) 15:14

津波警報(第二報)岩手・福島:6メートル、宮城:10メートル以上

(テレビ、ラジオ、官庁に送られ地域では拡声器などで呼びかけ。) 15:30

津波警報(第三報)岩手・宮城・福島:10メートル以上

(テレビ、ラジオ、官庁に送られ地域では拡声器などで呼びかけ。)

のシステムが地震によって破壊された所もあった。この ような場合、人々は自身の過去の経験と避難訓練だけ に頼って決断を下すことになった。25

政府のレポートによると、日本の高齢者の間でのネット 利用者は増えてはいるものの、依然として多くの65歳 以上の人たちはネットを使えない。26

『日本の震災は、 デジタルリテラシーがあり、ネッ トへのアクセスがある人たちと、様々な理由でアク セスできない人たちの間の情報格差の問題を浮き彫 りにしている。』

震災は情報格差の問題を浮き彫りにした。インターネ ットへのアクセスがあり、使える人たちがいる一方で、 様々な理由で情報にアクセスできない人がいる。例え ば、お年寄りの場合、必要な機器を得たり、トレーニン グを受けたりすることができないのかもしれない。接 続できるかできないかの問題もある。さらに東日本大 震災では、震災による危機の数と規模が大きすぎて、 報道による供給と被災地の需要の食い違いの問題が あった。

震災発生の数週間後、または数カ月後、より多くの通 信手段が利用可能になり、被災地の人々は再びどこ から情報を入手するかを選ぶことができるようになっ た。それにもかかわらず、福島原発の問題とその事故 の規模によって、情報の需要と供給の不一致が起こっ ていた。主要メディアは原発事故に注目し、避難所に いる人々が必要な情報を提供しなかったのである。地 方のラジオ局や新聞社、ニュースレター(回報)、避難 所でのアナウンスが主な情報のソースであり続けたの はこのためである。

以下の章は、何が機能して、何が機能しなかったのか、 そしてそれらのケースから将来の自然災害のために 何が学べるのかを評価するため、3つの問題に注目す る。1)早期警報システム、2)全国そして地元メディア のイニシアチブ、3)デジタル通信である。

ネットがつながっていた地域では、携帯電話を使え ない人々の代わりに、使える人々が安否情報を調べた り、政府の公表やニュースを知ることができた。そのよ うな技術やノウハウが無い者は、情報にアクセスでき なかった。

25

NAKAMORI, NAKAMURA, FUKUDA 2011 「平成23年3月11日『東日本大震 災』における津波被災地アンケート調査」

26

MINISTRY OF INTERNAL AFFAIRS AND COMMUNICATIONS, TRENDS IN COMMUNICATION USAGE SURVEY 2011(JAPANESE ONLY)


CONNECTING THE LAST MILE 東日本大震災におけるコミュニケー ションの役割

2 早期警報システム:潜在能力と課題

日本は地震対策において世界をリードする国である。 東日本大震災では、耐震性の高い建造物や機械の自 動停止装置、防災教育の文化、複数のメディアによる 早期警報システムなどによって数えきれないほどの人 命が救われた。日本の早期警報システムは揺れが来 る前、または震源により近い地点に揺れが到達した後 に、警報を人々に送ることが可能である。このような警 報によって、大きな地震が来る前に机の下に隠れたり、 ガスや車を止めたりすることができる。

2.1

早期警報システムはどのように機 能したのか

地震や津波の警報を人々に届ける気象庁は、何万人も の命を救った。 長い地震の歴史がある日本は、約500 億円をかけて2007年10月より地震早期警報システ ムを作った。気象庁の千を超える地震計が大地震が来 る数秒前に警報を送るために、国内の地震活動を観測 している。 27 3月11日、気象庁は大きな振動に捉え、主要動到着の 数秒前に公共のテレビやラジオの放送を中断するため に緊急地震速報を出した。3つの主要な携帯電話会社 の加入者も警報を受信した。気象庁はさらに学校や地 域の防災局、地方自治体にも直接警報を送った。いく つかの大企業も警報を受信し、主要動が到着する前に 高速列車や高層ビルのエレベーター、重機の作動を停 止することができた。28 27

AMERICAN RED CROSS: HTTP://RELIEFWEB.INT/REPORT/JAPAN/JAPANEARTHQUAKE-AND-TSUNAMI-ONE-YEAR-UPDATE-MARCH-2012

28

YAMASAKI, ERIKA (2012) “WHAT WE CAN LEARN FROM JAPAN’S EARLY EARTHQUAKE WARNING SYSTEM,” MOMENTUM: VOL. 1: ISS. 1 ARTICLE 2.

Japan’s public broadcaster NHK announces an earthquake in the Tohoku region on March 11, 2011.

地震発生後の3分以内には、沿岸部の市民に高台に登 ることを勧告する3つの津波警報のうち1つ目の警報が 同時にメディアと政府より出された。29 2つ目と3つ目の警報は44分以内に出され、それぞれ 予測される津波の高さに関する情報を更新した。 ヘリ コプターから押し寄せる波の様子のテレビ中継も行わ れ、人々に避難が必要であることを認識させた。30 こういった早期警報システムの成功にもかかわらず、東 日本大震災はテクノロジーにのみ頼ることはできない ことを明らかにした。31 最初の警報は津波の高さを低 く見積もったため、続報を受信できなかった人々の警 戒を弱めた可能性がある。

29

YAMASAKI, ERIKA, IBID, P12

30

HTTP://WWW.JMA.GO.JP/JMA/EN/ACTIVITIES/EARTHQUAKE.HTML

31

DISASTER DAMAGE IN JAPAN FROM THE TOHOKU DISTRICT, GOVERNMENT OF JAPAN III.1 HTTP://WWW.KANTEI.GO.JP/FOREIGN/ KAN/TOPICS/201106/IAEA_HOUKOKUSHO_E.HTML

15


CONNECTING THE LAST MILE 東日本大震災におけるコミュニケー ションの役割

16

『早期警報システムの予測は外れ、10階建てビルの 高さの津波が押し寄せた。』

大震災とメディア∼東日本大震災の教訓』の著者、福 田充氏は、最初の警報が津波の規模と高さを低く見積 もったことに言及した。また、津波による被害が防災計 画の「想定外」であったとも指摘している。32 地震発生後30分以内に、巨大津波の高さは約40メー トル(10階建てビル以上の高さ)に達し、岩手県宮古 市を直撃した。33 沿岸部のほとんどの町では、避難訓練は日常的に行わ れるものではあるものの、災害対策は地方自治体の管 轄であり、その基準と取り組みの度合いは町によって 異なる。 津波の規模は多くの人にとって予期せぬものであった。 警報を聞き、すぐに行動した人の多くは助かった。しか し、多くの地域の人々は続報を受信できなかったか、津 波の規模を軽視したために助からなかった。 日本民間放送連盟の調査によると、拡声器、ラジオ・テ レビ放送、そして口コミが最も役立った伝達方法であ った。停電の影響を受けない自動車や電池式のラジオ も人々が高台に逃れる際、大いに役立った。34 ラジオやテレビの有用性は被災者がその時に電源を入 れていた場合に限られた。もしこれらの機器がほとん ど点いていない夜などに地震が起こっていたら、携帯 電話が人々に警報を届ける別の手段となっていただろ う。気象庁はエリアメール(SMS-CB)という緊急地震 速報を特定の地域に住む携帯電話の利用者に送るシス テムを使っている。このシステムは特定の電話番号を調 べる必要がないため、個人のプライバシーは守られ、誤 警報のリスクも減る。

32

大震災とメディア-東日本大震災の教訓, MITSURU FUKUDA (2012), P. 11

33

HTTP://WWW.YOMIURI.CO.JP/SCIENCE/NEWS/20110717-OYT1T00152. HTML

34

SURVEY OF THE ROLE OF MEDIA IN THE GEJE, JAPAN COMMERCIAL BROADCASTERS ASSOCIATION, OCTOBER 2011, P.4. (JAPANESE ONLY)

Earthquake alert on mobile phone, November 2012. LOIS APPLEBY

2009年現在、2,100万台の携帯電話が緊急地震速報 を受信することができ、日本の主要な3つの携帯電話 会社は無料でサービスを行なっている。35 ゆれくるコールというスマートフォンのアプリもダウン ロードが可能で、地震発生前に警報を、そしてマグニ チュードの大きさと地震到達までの時間を地域別に送 る。36

35

YAMASAKI, ERIKA (2012) “WHAT WE CAN LEARN FROM JAPAN’S EARLY EARTHQUAKE WARNING SYSTEM,” MOMENTUM: VOL. 1: ISS. 1, ARTICLE 2.

36

HTTPS://ITUNES.APPLE.COM/US/APP/YUREKURU-CALL-FOR-IPHONE/ ID398954883?MT=8


CONNECTING THE LAST MILE 東日本大震災におけるコミュニケー ションの役割

Wireless Community Speakers, November 2012

2.2

LOIS APPLEBY

口コミ:ボランティアは命懸けで 警鐘を鳴らした

日本の消防団はボランティアとして災害管理の訓練を 受けており、津波が到着する地域での警告において功 績がある。地方公務員や消防隊、ボランティアの人たち は拡声器、火災警報器、サイレンなどを使って住民に勧 告した。その中には体を張って家々を回り、必要ならば 高台に避難するための介助をした人もいる。37

津波てんでんこ 東北で有名な標語であり、 「津波が来たら、取る物も

取り敢えず、肉親にも構わずに、各自てんでんばらばら

に一人で高台へと逃げろ」という意味である。この格言

は世代を越えて伝えられ、たくさんの命を救ってきた。 しかし東日本大震災ではこれを無視して高齢な住民 または家族の避難を助けに行った人々も多くいた。

今回の震災で信頼できる適時な地震早期警報システム の重要性が改めて確認された一方で、システムの改善 の余地も浮き彫りになった。 地方自治体と消防局からの警報を送るため、沿岸部に 沿って無線拡声装置が配置されている。被災後の研究 では、拡声器によるアナウンスは気仙沼や陸前高田な どの地域では効果的だった一方で、限界もあることが 判明している。

37

WORLD BANK, GOVERNMENT OF JAPAN: KNOWLEDGE NOTE 2-5 TSUNAMI AND EARTHQUAKE WARNING SYSTEMS, P.3

他の町ではシステム自体が被害を受けたり、予備電源 がなかったり、窓やドアが閉まっていて音が聞こえなか ったりなどの問題があった。拡声装置に頼るだけでは 明らかに不十分だったわけである。

17


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宮城県石巻市は最も津波の被害を受けた地域だった。 被災後、市は災害警報をすべてのラジオ局でも放送す ることを決定し、拡声装置もできるだけ多くの人が聞こ えるようにした。38 しかしながら、 「絶対安全なシステム」は存在しないの である。一度地震が起こればインフラが破壊される可 能性はゼロではなく、それにより報道やその後の更新 情報が制限されうる。

気象庁は現在、津波の正確な予測をするための技術を 改善している。また、日本政府も災害管理技術の限界 を市民が認知する必要があるとの認識を深めた。42 公共放送であるNHKも災害時の原稿を修正し、アナウ ンサーが地域に避難を呼びかける際、より切迫した口 調で話し、また、津波が予測よりも高くなる可能性を強 調するように訓練を行なっている。43

『 日本は世界で最も高度な津波警報システムを構 築したが、それでも3月11日の津波の高さを低く見 積もり、避難者を混乱させ、犠牲者を増やしてしまっ た。』39 W O R L D B A N K , G O V E R N M E N T O F J A PA N : T S U N A M I A N D E A R T H Q U A K E WA R N I N G S Y S T E M S

いくつかの自治体は、3メートルの津波という最初の警 報は受信したものの、停電によりその後10メートル以 上に訂正された情報は受け取れなかった。3メートルと いう情報は拡声装置によって住民の間に流れ続け、高 台まで行かずとも、2階への避難で十分と判断した人々 の死亡原因となった。40 『震災時の地域コミュニティ、政府、そして専門家の 間のコミュニケーションはもっと活発であることが 可能であったし、そうあるべきであった。ハザードマ ップを配布したりや早期警戒を呼びかけるだけでは 不十分である。』 41 W O R L D B A N K / G O V E R N M E N T O F J A PA N : L E A R N I N G F R O M M E G A D I S A S T E R S ( 2 012 )

38

RADIO ISHINOMAKI INTERVIEW, NOVEMBER 2012

39

WORLD BANK, GOVERNMENT OF JAPAN: KNOWLEDGE NOTE 2-5 IBID. P.3

40

IBID GOVERNMENT OF JAPAN III.1, DISASTER DAMAGE IN JAPAN FROM THE TOHOKU DISTRICT, P.8

41

THE WORLD BANK INSTITUTE, IBID. P.4

42

THE WORLD BANK INSTITUTE, IBID. P.4

43

WORLD BANK, GOVERNMENT OF JAPAN: KNOWLEDGE NOTE 2-5 IBID, P.3


CONNECTING THE LAST MILE 東日本大震災におけるコミュニケー ションの役割

3 全国と地元メディアの反応

FNN TV station, November 2012. LOIS APPLEBY

いかなる自然災害でも発生後72時間は人命救助にお いて極めて重要な時間である。迅速で正確なコミュニ ケーションがここでは特に必要となる。地震や他の自 然災害の数が非常に多い日本の報道機関において、テ クノロジーや地域の特派員のネットワークは整ってい る。 しかし東日本大震災では、事態の全体像を提供するこ とは主要メディアにとって容易ではなかった。本章で は、全国そして地域レベルの両方で、 マスコミ報道の何 が機能し、何が機能しなかったのかの概観を示す。

3.1

三大脅威をもたらす地震:テレビ 放送局の対応

気象庁による地震警報が発令された後、公共放送局で あるNHKの災害報道は地震発生の2分後に始まった。 すべての国内のチャンネルはすぐに緊急報道へと切り 替わった。44

44

NHK, WWW.JAMCO.OR.JP/2012_SYMPOSIUM/EN/003/INDEX.HTML

19


CONNECTING THE LAST MILE 東日本大震災におけるコミュニケー ションの役割

20

公共放送局として、NHKは日本での災害関連の情報を 提供する法的な義務があり、自然災害時の災害警報や 救命に関連する情報を報道する公的機関に指定されて いる。これらの役割は1961年に制定された災害対策 基本法に記されている。45 巨大地震であっても報道を 続けられるようにNHK本局が設計されているのはこの ためである。自然災害の映像を記録するための460 台のロボットカメラや、14基のヘリコプターが配置さ れているのもこれが理由だ。 『日本の公共放送局であるNHKには非常に耐震性 の高い本部を持っており、自由に使用できるヘリコ プターやロボットカメラを保有している。』

海外向けの報道を行うNHKワールドでは地震に関 する情報を18言語で報道し、地震発生後2週間以内 に、540万人もの人がウェブサイトを訪れた。ホームペ ージは携帯電話でのアクセスも可能で、寄付ページや 避難者名簿にもリンクされている。さらにグーグルのパ ーソンファインダーもページに埋め込まれている。 民間放送のネットワークも災害に対する反応は早く、 救助活動や救命に関連する情報の特別報道を絶え間 なく続け、地震発生後数日間はコマーシャルを挟むこ ともなかった。. 46 JCCの研究によると、6つの主要なメディアは3月11日 から13日までの間、平均して全体の放送時間の91.5 %を大震災に関する報道にあてた。詳細には、テレビ 東京が95.2%、NHKが92.5%、TBSが93.5%、日本 テレビが92.1%、フジテレビが88.6%、テレビ朝日が 88.7%となっている。 災害発生から4日目、民間放送局はコマーシャルを再 開し、災害関連の報道は全体の70%にまで落ちた。テ レビ東京は3月15日に通常の番組に切り替え、災害関 連の報道は39.5%減少した。

45

NHK’S DISASTER COVERAGE: A VALUED ROLE OF PUBLIC SERVICE MEDIA, ANALYSIS OF THE TELEVISION COVERAGE OF THE GREAT EAST JAPAN DISASTER, TAKANOBU TANAKA, P1

46

JAPAN COMMERCIAL BROADCASTERS ASSOCIATION, JULY 2012

民間放送局とは違い、NHKは震災関連の話題に焦点 を当て続け、4月17日までの約1ヶ月間の災害関連の報 道は60%以上という数字を残した。 報道内容については、当初は地震や津波の被害を受 けた地域に関する報道がほとんどであった。しかし、 政府が福島第一原発付近を飛行禁止区域に指定した 15日以降はその傾向が変わった。JCCによると、3月 11日から4月30日までの間、原発と発電に関する報道 が39.1%、これに地震(32.9%)、津波(25.3%)、東 京電力(24.7%)、避難(21%)と続いている。結果的 に、復旧(13.5%)や救助・支援(2.4%)は最も報道さ れない話題となった。言い換えれば、主要なメディアは 福島原発事故へと目を移し、復旧に苦心していて依然 として支援が必要であった被災地に関する報道を減ら したということである。47 その一方でユニークで前向きな動きも見られた。日本 の放送局はユーストリームやニコニコ動画、ヤフーとい った民間セクターのストリーミングサービスを利用し て、情報をオンライン上に流すことを始めた。!48 『テレビ局は自分たちの番組の生放送をネット上で 無料で配信し始めた。』

14歳の中学生がNHKを彼のiPhoneカメラを使ってユ ーストリームで配信するという、危険でありながら勇敢 な決断をしたことによって始まったものだった。これは 3月11日に地震が発生して17分後に起こった出来事だ った。もちろん違法であるため、危険ではあったが、多 くの全国・地元放送局は非難するのではなくこれの後 に続き、生中継を同じようにネット上にあげ、無料でア クセスできるようにした。49 被災した地域の人々がそ れを見られる可能性は低かったかもしれないが、生配 信は関連情報へのアクセスを大いに拡大し、特に海外 に住む人々にとってはこれが顕著であった。

: WWW.JCC.CO.JP/BUSINESS/

47

JCC, DOCUANA_20110510.PDF

48

MINISTRY OF LAND, INFRASTRUCTURE, TRANSPORT AND TOURISM,

49

GOOGLE CRISIS RESPONSE, 数多くの英断が生み出した、テレビ番組のネット

配信: HTTP://WWW.GOOGLE.ORG/CRISISRESPONSE/KIROKU311/ CHAPTER_10.HTML


CONNECTING THE LAST MILE 東日本大震災におけるコミュニケー ションの役割

Vital donations: televisions carried safety messages and entertained in evacuation centres. NOBUYUKI KOBAYASHI/JAPANESE RED CROSS

3.2

震災後:テレビが主要な情報源とし ての鍵を握る

震災時、地元ラジオにそのトップの座を奪われたテレビ であったが、その後は再び主要な情報源となった。最 も被害を受けた地域では、多くの人びとは学校や公民 館の避難所、スポーツ会館などに設置された避難所で 生活していた。発電機が設置され、避難所の環境が整 ってくると、個人や民間企業、NGOなどがテレビやラジ オを寄付した。 The sets of essential electrical items donated by Japan Red Cross after the disaster. JAPAN RED CROSS

21


CONNECTING THE LAST MILE 東日本大震災におけるコミュニケー ションの役割

22

例えば、日本赤十字社は29ヶ所の避難所にテレビを 提供し、NHKは750台のテレビ、760台のラジオを製 造会社との協力で提供した。50 一度テレビが寄付されると、テレビ放送は人々にとって 一番の情報源としての地位を取り戻した。 日本赤十字社は134,946組の家電製品セットをすべて の公共の避難所と多くの仮設住宅に3億ドル(約300 億円)をかけて配った。51 これらのセットには冷蔵庫、やかん、洗濯機、炊飯器、 電子レンジ、そしてテレビの6つが含まれていた。1セッ ト約2,200ドル(約220,000円)である。52 テレビは、避難民にとって気象庁の警報や娯楽を提供 する重要な情報源として、セットの中に含まれた。 全国・地元テレビはたくさんの情報を提供し、最も辺 鄙な地域の人々にも広く復旧に関する情報を届けた が、多くは十分に地元に密着していなかった。要する に、テレビは地元ラジオや地元紙の働きを補うだけだ ったのだ。

3.3

は多くの新聞社のウェブサイトで得られた。そして何 よりも、たくさんの全国・地方紙がTwitterを使って情 報を提供した。これによりはじめの数週間で新聞社の Twitterのフォロワーが何万人も増加した。 デジタルコンテンツが新聞の読者層を広げた一方で、 活字の方はガソリンや運搬手段を欠いたり、出版社や 印刷システムが被害を受けるなど、困難を強いられた。 それにより日本新聞協会(NSK)は全国・地方紙を含 めた災害対策特別委員会を設置した。 災害対策特別委員会は将来の災害においてどのように 協働すべきかを調査するために作られた。54 また、日 経・読売・朝日の3つの主要新聞社による連絡協議会 が開始された。協議会は、緊急時に他社のシステムや 施設を使えるようにして、将来の災害においてより協力 しやすくするために設置されたものである。55 異なる報道機関の協働は被災地のコミュニティにとっ て不可欠なものであった。これらのような事例はこの 分野における構造的な発展を反映している。

危機的状況における活字メディア の速報報道

活字媒体である新聞は、そのメディアとしての特性か ら、情報の速さとなると遅れをとる。つまり、写しを準 備し、印刷し、流通させる時間が必要となる。しかし、 ほとんどの全国紙はインターネットを使ってこれに対抗 した。例えば、主要な全国紙である日本経済新聞と毎 日新聞はオンライン上にいくつかのコンテンツを無料 で開放している。. 53 ニュース速報や出来事に進展があった場合、最新情報

50

SETOYAMA, JUNICHI. (2011) INFORMATION AND COMMUNICATION PROJECTS AFTER GEJE. (JAPANESE ONLY)

51

JAPAN RED CROSS, JANUARY 2013

52

IBID.

53

− GO.JP/MAIN_CONTENT/000111331.PDF

54

NSK: HTTP://WWW.PRESSNET.OR.JP/ABOUT/SHIMBUN_SHUKAN/ MESSAGE/INDEX.HTML

55

,

WWW.SOUMU. HTML

ANY : WWW.ZAIKEI.CO.JP/ARTICLE/20111111/86304.


CONNECTING THE LAST MILE 東日本大震災におけるコミュニケー ションの役割

4 被災者による、 被災者のための地域情報

NHKなどの全国放送は詳細に震災を報道したが、事態 の規模があまりに大きかったため、現地に特化した情 報を提供できないことも多かった。NHKが震災後に東 北地方で実施した調査では、食料・水・ガソリン・電力 の供給についての情報を十分に提供できていなかった ことが明らかになった。 これに対して、NHKは「様々な意味で広い地域に影響 を与える大規模かつ複雑な災害が発生した場合、テレ ビだけでは人々のさまざまなニーズに応えることはでき ない」との見解を示した。 56 ライブストリーミングのお かげで全国からのアクセスは間違いなく増えたが、携 帯電話などによるインターネットに接続する手段を持 たない人々は蚊帳の外に置かれたままだった。 震災後、東北地方の広い地域で停電が発生し、現地で はテレビを見ることもパソコンを通じてインターネット に接続することもできなかった。携帯電話はつながる ときもあったが、震災関連の最新情報を確実に入手す るための手段としてはベストではなかった。 一方で、全てのラジオや活字メディアが送電線を通じて 供給される電力を必要としたわけではなかった。ほと んどの被災地ではコミュニティラジオやコミュニティペ ーパー(ごく狭い地域で配布されているものも含めて) 、口コミといった地元の媒体によって友人や家族の安否 を含めた重要な情報など、被災者が最も必要としてい

56

NHK’S DISASTER COVERAGE: A VALUED ROLE OF PUBLIC SERVICE MEDIA, ANALYSIS OF THE TELEVISION COVERAGE OF THE GREAT EAST JAPAN DISASTER, TAKANOBU TANAKA, P11

た情報が伝えられた。57 専門家である記者だけでなく、自らが被災者でもあっ た地域のボランティアといった人々が情報の提供に尽 力したことは特筆すべき点である。

4.1

地元のラジオ局:「命綱」としての 役割

最も深刻な被害を受けた漁村では、多くのインターネ ットサーバーが破損した。また、インターネットが利用 できる地域でも、60歳を超える高齢者の多くはその使 い方を知らなかった。そのため、こうした地域ではコミ ュニティラジオ局は住民が生きるための情報やその他 の情報を手に入れる上で必要不可欠だった。震災発生 直後の2週間は他の情報源がなく、地元ラジオ局のリ スナー数はこの時が最も多かった。 NHKラジオは震災について詳しく報じたものの、全国 ニュースの扱いだった。地元ラジオ局の方が周辺地域 の避難所や行方不明者、救援物資についての情報を求 めていた人々のニーズに応えることができた。燃料がな くなるまで車のラジオを聞いた人もいれば、電池式の ラジオに耳を傾けた人もいた。5万台以上のラジオが 政府や日本の電気メーカーによって被災地に寄贈され た。58 57 58

-

, MITSURU FUKUDA (2012), PP.19-21

MINISTRY OF INTERNAL AFFAIRS AND COMMUNICATIONS/WORLD BANK REPORT KNOWLEDGE NOTE 3-2 EMERGENCY COMMUNICATION, P10

23


24

CONNECTING THE LAST MILE 東日本大震災におけるコミュニケー ションの役割

コミュニティラジオ

ケーススタディ#1:宮城県登米市 『 災害時に最も効果的な情報チャンネルは地域社 会と強いつながりを持つ、多くの小規模の専門ラジ オ局なのです。マスメディアは必要な地域の情報を 報道しません。』 斉 藤 恵 一 氏:H @ ! F M 代 表 取 締 役・局 長

H@! FMは宮城県登米市のコミュニティラジオ局である。 斉藤恵一氏は東日本大震災のような地震を想定してこの

ラジオ局を設立した。震災規模の大地震の発生は何年も

Mr. Keiichi Saito, H@! FM Director, Tome City, Miyagi – November 2012. LOIS APPLEBY

前から予測されていたため、斉藤氏は地震に強いラジオ

情報源は登米市役所と仙台から届く地方紙だった。それに

強化に資金を投じ、予備の機器や発電機を購入した。

た。ある医者はどこで診察が受けられるかを、商店を営む

局を作りたいと考えていた。斉藤氏はアンテナの土台の

登米市は海に面していないため津波は来なかったが、市は 地震による被害を受けて、電力のない状態で1カ月以上を 過ごした。しかし、H@! FMは準備万端だった。登米市役 所も停電していて、市民とどのように連絡をとればいいか

分かっていなかった。H@! FMは直ちに役所と協力を開始 し、初日から市役所の声を住民に届ける役割を担った。

登米市長は震災後3週間にわたって毎日このラジオ局に生

出演し、食料や水などライフラインに関する最新情報を伝

えた。テレビやインターネットが使えなかったため、沿岸部

に津波の被害がどの程度及んでいるのかを知っている人は

多くの住民が最新情報を提供するためにラジオ局を訪れ

人たちはいつ在庫が補充されるかを教えてくれた。同局の 職員は「情報源が自ら出向いてくれた上、彼らは地域でも よく知られている人たちだったため、情報の真偽を確かめ る必要はありませんでした」と語った。同局は震災関連の

情報を英語、中国語、韓国語に翻訳して外国人リスナーを 支援しようと、外国語の能力のある人に協力を訴えた。 インターネットが使えるようになると、H@! FMは

リスナーに情報や要望を電子メールで送ってほしい と呼び掛けた。リスナーの関心が高いテーマがあ れば、番組の内容を変更してニーズに応えた。

いなかった。H@! FMでも9日間インターネットを使うこと

震災から約2年が経過した後も、H@! FMは復旧や復興に

ビやラジオのニュースを見たり聞いたりすることができた

人を超える南三陸町からの避難者にも情報を届けてい

ができなかった。当初は多くの人が携帯電話を使ってテレ

が、電力がなかったため、携帯電話の電池はすぐになくなっ た。H@! FMは2000台の電池式ラジオを購入し、避難所

や自宅で避難生活を送る住民など必要としている人々に無 料で配布した。H@! FMはのちに県内沿岸部の気仙沼市と

南三陸町に2カ所の災害用FM局を設立し、予備の機器を送 ったり職員のトレーニングを行うなどしてサポートした。

関する情報を放送し、登米市内の仮設住宅に住む3000 る。H@! FMは毎月「防災の日」を設けて、リスナーに非

常用品やラジオ、電池などを確認するように呼び掛けて いる。市長は今でも週3回、H@! FMに出演している。 同局は7人という少ない人員で運営されているにもか

かわらず、毎日24時間体制で放送を行っている。万が 一また災害が起きても、H@! FMは準備万端だ。


CONNECTING THE LAST MILE 東日本大震災におけるコミュニケー ションの役割

コミュニティラジオ

ケーススタディ#2:宮城県石巻市 『停電が起きると、特に災害の初期段階においては コミュニティラジオ局が非常に重要なライフライン となります。しかし悲しいことに、普段はあまり認識 されず、資金は非常に限られています。』 ラジ オ石 巻 、営 業 部 長 兼 技 術 部 長 、今 野 雅 彦

ラジオ石巻は石巻市にある有名な民間の地元ラジオ局であ る。市は震災によって深刻な被害を受け、市全体で停電が

起きた。しかしラジオ石巻では発電機を使って局と丘の上に あるアンテナに電気を供給し、放送を続けた。停電が発生

したということはガソリンスタンドのポンプが動いていない ということだ。技術部長の今野雅彦氏がたったひとつでき ることは、住民に対して、車のガソリンを提供してほしいと

Mr. Masahiko Konno, Technical Director of Radio Ishinomaki, Ishinomaki, Miyagi. LOIS APPLEBY

呼び掛けることだった。1日分の放送には十分な約20リット

者の名簿から毎日5000∼6000人の名前を交代で読み上

を動かすための燃料が尽きた。ラジオ石巻は1日半にわたっ

はなくなった。同局が情報のある人はスタジオに直接来てほ

ルを集めたあと、津波が直撃した。道路が塞がれ、発電機

て放送を中止せざるを得なくなった。その間、市内で機能し ているメディアは石巻日日新聞の「壁新聞」だけになった。 3月13日になっても、市の大部分がまだ1メートルほど浸

げた。おかげで住民が避難所を回って最愛の人を探す必要

しい、と呼び掛けると、人助けをしたい、経験を伝えたいと

思う多くの住民がメモを手に集まり、メモの内容が放送され た。同局は石巻赤十字病院に30台のラジオを寄贈した。

水していた。自衛隊が被災者をアンテナがある丘に避

同局はコマーシャルから収入を得ているが、人命にかかわ

したが、ネタを探している記者だと思った救助隊員によ

ャルの放送を中止した。その結果、収入が失われた。石巻市

難させた。今野氏は避難用の車両の1台に乗り込もうと

って乗車を拒否された。今野氏がラジオ局は人命救助に 関わる情報を発信していると説明すると、乗車が認めら れた。今野氏はマイクとカメラ、ガソリンが入ったタンク を持ってアンテナに向かい、発電機を動かして、凍える ような寒さの中、丘の上で放送を開始した。電力は2週

間以上戻らなかったため、自動車販売店の経営者が売 れ残りの車のタンクからガソリンを抜いて寄付した。

やがて、石巻市役所の公式情報を放送するために市役所内 に仮設スタジオが設置された。市長は1カ月以上にわたって 定期的にラジオに生出演した。司会者は死亡者・行方不明

る情報を伝える必要に迫られ、数週間にわたってコマーシ

はその後、局の運営コストを支援したが、同局は既に縮小を 余儀なくされた。市は今後は災害警報やお知らせを拡声装

置だけでなくラジオでも放送する必要があると判断した。ラ ジオ石巻は現在、地方自治体の放送訓練に参加している。

25


CONNECTING THE LAST MILE 東日本大震災におけるコミュニケー ションの役割

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日本民間放送連盟の調査によると、震災当日から最初 の1週間で最も役に立つ情報源はラジオだった。59 震災後、報道機関やソーシャルメディアへの信頼が回復 しても、ラジオは地元住民に最も信頼されていた。ラジ オはまた、親しみのある情報源だと言われた。震災の ような衝撃的な出来事が起きたあとではラジオは最も 適切な情報源だったのかもしれない。ラジオなら痛ま しい映像を見る必要がないからだ。60

4.2 緊急時専用の災害FM 地元ラジオを有効活用するためには、災害関連情報の 放送に特化した災害FM局として臨時の放送免許を交 付するという方法がある。1995年の阪神・淡路大震災 を受けて、総務省は災害時の地域情報の伝達を促進 するために臨時の放送免許を交付する制度を創設し た。2011年3月の段階では電話で免許を申請し、その 日のうちに交付を受けることができた。地震発生後1 カ月の間に21の新たな災害FM局が免許の交付を受け て、緊急情報の放送を開始した。61 免許の交付を受けたラジオ局は2種類あった。ひとつ は災害情報だけを放送したいという既存の民間ラジオ 局で、こうしたラジオ局は臨時免許の交付を受けて、一 時的に放送地域を拡大することができた。もうひとつ は災害時に補助的な役割を担うために設立された新し いラジオ局である。62

れていたが、利益を出してはいけないことになってい る。しかし、H@!FMやラジオ石巻など、事態を勘案し て何週間もコマーシャルを放送しないと決定したラジ オ局もあった。この決断によって収入は失われ、既に資 金不足だったラジオ局の財政はさらに圧迫された。

4.3 壁新聞:地方紙と地域回報の役割 多くの被災地では新聞も有効な情報源だった。多くの 避難所にはテレビ放送がされるよりはるか以前の、震 災から1週間以内に新聞が届き始めた。63 岩手県山田町は震災の早い段階には地元ラジオ局が なく、一切情報を知らない住民が数多くいた。例えば、 山田町から335キロ離れた福島の原子力発電所で起き た事故は世界中で報道されていたのに、山田町の住民 は1週間後に地方紙がやっと避難所に届くまで事故に ついて全く知らなかったのである。 新聞は震源から90キロ離れた石巻市でも情報のライ フラインとなった。地元ラジオ局はガソリン不足で一時 的に放送が中止されたため、短期間ながら、地方紙の 石巻日日新聞が発行した手書き新聞が市でただひとつ の情報源となった。この簡素で低コストの地域の取り 組みによって重要な情報が住民の元に届けられた。

しかし全てがうまくいったわけではない。多くのコミュ ニティラジオ局はすでにスポンサー確保に苦しんでお り、財政支援も限られていた。臨時の放送免許では、 運営費用に充てるためにコマーシャルの放送が認めら 59

SURVEY OF THE ROLE OF MEDIA IN THE GEJE, JAPAN COMMERCIAL BROADCASTERS ASSOCIATION, OCTOBER 2011, P13 (JAPANESE ONLY),

60

IBID. P16 & INTERVIEW WITH MIKIO KIMURA, JBA.

61

JAPAN TIMES, 21 APRIL 2011

62

MINISTRY OF COMMUNICATIONS, TEMPORARY RADIO BROADCASTING STATIONS FOR THE GREAT EAST JAPAN EARTHQUAKE DISASTER CURRENT STATE AND CHALLENGES

63

SURVEY OF THE ROLE OF MEDIA IN THE GEJE, JAPAN COMMERCIAL BROADCASTERS ASSOCIATION, OCTOBER 2011 (JAPANESE ONLY),


CONNECTING THE LAST MILE 東日本大震災におけるコミュニケー ションの役割

地域の活字メディア

ケーススタディ#1:宮城県石巻市 『私たちが新聞を持って避難所へ向かうと、大勢の 人が集まってきました。彼らは情報にとても飢えてい て、私たちは壁に新聞を貼るのも大変でした。災害 のあとに情報がなければ、ストレスや不安は強くな ります。非常時には旧式のメディアが一番役に立つ のです 。』 武 内 弘 之: 石 巻 日日 新 聞 編 集 者

日日新聞は石巻地域の有名な地方新聞である。震災前

の1日当たりの販売部数は1万4000部だった。しかし、 オフィスは津波で水浸しになった。印刷機は故障し、停

電も起きた。同紙の記者6人はすぐに市役所に駆けつけ たり周辺を歩きまわったりして情報を集め始めた。

Hiroyuki Takeuchi, Editor, Hibi Shimbun, November 2012. LOIS APPLEBY

地震の翌日、記者は大きな1枚の紙に手書きで記事を書き、 これを6枚の紙に書き写して、5カ所の避難所の壁と1軒の 店のドアに貼った。3月12日から17日まで、毎日手書きで 新聞を作成し、被災者が早く知りたいと思う疑問に答え

た。被災者が寒さと空腹に苦しんでいたため、記者は電力 と水の供給や温かい食事の配給、救助活動について記事 を書いた。死者や行方不明者の公式情報についてはラジ

オ石巻を聞くように呼び掛けた。 「事実に基づいて行動 しよう」という特集記事を掲載し、噂の一掃にも努めた。 記者は取材をするうちに、避難所の外で生活している人

たちが情報から遮断されていて、ほぼ1カ月にわたって支 援を受けていないことに気づいた。記者はこうしたニー ズを市役所と地元のボランティアセンターに伝えた。 6日間にわたって手書きの新聞を発行したあと、家庭

用の印刷機と電源が見つかった。日日新聞はそれから 約1カ月間、A4サイズの用紙に700部を印刷して市内

で配った。震災から2年近くが経過したが、日日新聞は ほぼ毎日、復旧や復興についての報道を続けている。 彼らの「壁新聞」は今でも一般公開されている。 Hiroyuki Takeuchi, Editor, Hibi Shimbun, November 2012. HIBI SHIMBUN

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4.4 避難所対象の回報:地域を再びつ なぐ ニュースレターも避難所や仮設住宅、自宅で避難生活 を送る住民に情報を届けるための費用対効果の良い効 果的な手段だった。 震災発生から1週間のうちに、岩手県の陸前高田市役 所は日刊でニュースレター(回報)の発行を開始した。 当初は医療施設や支援の申請方法について詳細な情 報が掲載された。事態が落ち着くと、仮設住宅や財政 支援に関する情報も掲載されるようになった。70カ所 の避難所で毎日約2400部が配布された。64 別々の避難所に避難したため友人や近所の人たちと 離れ離れになった被災者も多かった。そのため、こうし たニュースレターが地域の絆を強化するツールとなっ た。山田町では3カ所の避難所が地域を再びつなぐた めに独自のニュースレターを発行することを決めた。ケ ア・インターナショナルはこのプロジェクトに支援を行 い、1200部が10日ごとに避難所に配布された。 避難所で暮らしていた住民が町や地元のイベント、地 域のお知らせに関する記事や詩を寄稿し、ボランティア の編集者がそれら全てを紙面に並べた。 その後、住民がさまざまな仮設住宅に分かれて入居す ると、地域は再び分断された。そこで、ケア・インター ナショナルは地元の復興を中心とする同様のニュース レターを発行した。2012年12月まで18カ月間以上に わたって、山田町の仮設住宅や公共施設に約2000部 が届けられた。65

64

MINISTRY OF INTERNAL AFFAIRS AND COMMUNICATIONS/WORLD BANK REPORT KNOWLEDGE NOTE 3-2 EMERGENCY COMMUNICATION, P7

65

CARE INTERNATIONAL JAPAN, NOVEMBER 2012


CONNECTING THE LAST MILE 東日本大震災におけるコミュニケー ションの役割

5 デジタル時代における災害コミュニケ ーション 長引く停電とインフラ被害は、被災地でのコミュニケー ションに多大なる混乱をもたらした。一方で、ネット接 続が可能な地域もあった。接続が可能だった人々にと ってはデジタルメディアは重要な役割を担い、東北地方 以外の人々にとっても大切な情報源となった。 ツイッター、ミクシィ、フェイスブックといったSNS (ソ ーシャル・ネットワーキング・サービス)は、生存者にと って家族や友人の居場所を知り、自身の生存を知らせ る手段となった。地震発生から数時間後には、グーグ ル・パーソンファインダーが開設された。行方不明者を 探し、再会するためのプラットフォームだ。電気通信会 社も利用者が家族や友人と連絡を取る手段を作り上 げた。組織団体や放送局だけでなく、被災地の生存者 も、ユーチューブやユーストリームなどの視聴覚コンテ ンツを彼らの経験を共有するために利用した。中には、 クラウドソーシング防災マップであるSinsai.info(東日 本大震災みんなでつくる復興支援プラットフォーム)に 代表されるような、被災地支援のための自発的な取り 組みも新たに始まった。 本章ではデジタル情報が通信手段として、災害時、災 害後にどのように利用されたのか、将来のためにその 成功事例を考察する。 著名なメディア・ITジャーナリストである津田大介氏に よると、ソーシャルメディアは2010年に日本でブームと なった。例えば、鳩山由紀夫首相(当時)は2010年1月 に日本の首相として初めて自身のツイッターアカウント を作り、ツイートを始めた。 より一般的には、リアルタイムで透明な参加型のコミュ ニケーションであるソーシャルメディアは、世界の情報 のやり取りの方法を激変させている。 「協調」と「双方 向」が基本にあり、情報の提供者と受信者の明確な区

別がないことが多い。既存のメディアでは一方通行型 のコミュニケーションしか行われない。66

5.1

支援と討論を激化させたツイッター

ツイッターは3500万人が利用する、日本で最も人気 のSNSだ。世界的に見ても、アメリカ、ブラジルに続く 3番目の利用者数である。67 政府の統計を見ると、震 災時のツイッターのつぶやきは飛躍的に増加したのが 分かる。 地震発生前の 平均

3月11日午後2 時46分以降

日本国内の毎分 のツイート数

3,000

11,000

日本国内から海外への ダイレクト日本から世 界へのメッセージ数

200

1,000

* 68 2011年のツイッター利用に関するレポートで、小林啓 倫氏は、東日本大震災発生時にツイッターの利用が増 加するにつれて連携が鍵となったと指摘する。例えば、 ハッシュタグ #j-j-helpmeは西日本のユーザーにより3 月11日16時3分に作られ、支援要請の重要な発信点と なり、直ぐ様リツイートされていった。 災害専用のハッシュタグを作ろうとする草の根運動に 応えて、ツイッタージャパン (@twj)は3月12日に利用 頻度の高いハッシュタグをまとめたツイートした。そ 66

WWW.YOUTUBE.COM/WATCH?V=O9_9VU6TUTS&FEATURE=YOUTU.BE

67

HTTP://SEMIOCAST.COM/PUBLICATIONS/2012_07_30_TWITTER_ REACHES_HALF_A_BILLION_ACCOUNTS_140M_IN_THE_US

68

近藤正晃ジェームス。ツイッタージャパン代表。テデックス東京。2011年5月。

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CONNECTING THE LAST MILE 東日本大震災におけるコミュニケー ションの役割

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A screenshot of the Japanese PM’s Office’s Twitter account in 2012

の後、利用目的別に利用頻度の高いハッシュタグを 集めたブログを開設し、公式な災害情報とリンクさせ た。69 最も利用されたハッシュタグは、#anpi(人探 し)、#hinan(避難所情報)、#jishin(地震情報)など であった。 ツイッターは家族や友人と連絡手段だけではなく、災 害関連ニュースの情報源ともなった。 上記のように、全国・地方レベルで多くの報道機関が ツイッターを利用した。被災地の主要新聞のひとつ、宮 城県仙台市の河北新報は、新聞発行が出来なかった間 もツイッターを使って被災者情報を更新した。また、政 府や省庁、地方自治体を含む様々な公的機関も新着情 報を流し、更新するためにツイッターを利用した。 地震発生の4日後、政府は初めてツイッターアカウント (首相官邸<災害情報>@Kantei_Saigai)を立ち上 げ、数日のうちに20万人のフォロワーがついた。地震発 生から数週間のうちに最もリツイートされたメッセージ は3月15日の枝野幸男官房長官(当時)のものだった。 『 被災地において、ガソリン、軽油、重油などの燃 料が不足して大変困っています。全国的な供給量は 問題ありませんので、国民のみなさんにおかれまし ては、買占めなどなさらないように、ぜひともお願い します。』70

機 能 不 全 に 陥 った福 島 原 発 事 故 か ら 6 日 後 、原 発を管 理 する東 京 電 力もツイッターアカウント( @OfficialTEPCO)を作り、開設6時間で11万7000人 以上にフォローされた。 しかしこのような動きは、原子炉の放射能の危険性に 関する東京電力や政府の公式発表に対し、国民の不信 感が増すにつれて物議を醸すようになった。 二転三転する避難場所や公衆衛生についての勧告、そ して包括的な情報不足は、政府や東京電力が情報を非 公開にしているという非難へと発展した。71 一方でツ イッターはユーザーが様々なソースから情報にアクセ スし、知り合いであるか否かに関わらずオンラインユー ザー同士の議論を可能にした。災害関連のハッシュタ グを使うことで、ユーザーはグローバルな議論にリアル タイムで参加することができた。 ツイッターは災害によって始まった様々な社会運動の プラットフォームとしても利用された。節電のためのヤ シマ作戦 72 や買い占めをせず物資を譲りあうことを呼 びかけたウエシマ作戦がその最たる例である。

71 69

HTTP://WWW.HUFFINGTONPOST.COM/2012/11/27/FUKUSHIMANUCLEAR-ACCIDENT_N_2198060.HTML

, AKIHITO KOBAYASHI (2011), PP. 32-41

70

HTTPS://TWITTER.COM/KANTEI_SAIGAI/STATUS/47856739210629120 HTTP://TWIPLOMACY.COM/INFO/ASIA/JAPAN/

HTTP://WWW.NYTIMES.COM/2011/08/09/WORLD/ASIA/09JAPAN. HTML?PAGEWANTED=ALL&_R=0

72

HTTP://WWW.ITMEDIA.CO.JP/NEWS/ARTICLES/1103/12/NEWS017.HTML


CONNECTING THE LAST MILE 東日本大震災におけるコミュニケー ションの役割

デジタルケーススタディ#1:

ツイッターによる屋上救出作戦 他の400人と同じように、内海直子さん(59)は岩手県気仙 沼市を襲った津波と石油タンクの火災から逃れ、公民館の

屋上にたどり着いた。電話やショートメッセージは使えなか ったが、携帯のメールだけはまだ機能していた。夫に状況を

メールで説明し、それはロンドンにいる息子へと送られた。 燃えるさかる気仙沼市の恐ろしい映像をテレビで

見て、直子さんの息子はツイッターで東京都副知事 に状況の詳細説明と救助要請を直接行った。

そのメッセージを読んだ副知事は、東京消防庁

キャプション:内海直子さん。2012年11月ルイス アップルビー撮影。

日以内に全員が無事運び出された。

内海さんは、ツイッターを使っているか、との問いに「いえ、

へ連絡。仙台市からヘリコプターを飛ばし、2

私は自分ではいまだにツイッターを使っていません。若い 人にどうやって使うのか教えてもらわないと」と笑った。

5.2

フェイスブックとミクシィ:友達の 最後のログインはいつ?

フェイスブックは日本で急速に広がっており、すでに 1700万人の利用者がいる。73 比較的最近まで日本 独自のSNSであるミクシィが高い普及率を誇っていた が、フェイスブック利用者が増えている。

能である。つまり「無事です」という投稿をすると友人 知人は高い確率でそれを目にするということだ。それ に対してツイッターの場合、投稿はいつもの「ツイート の奔流」に流されてしまう。75

地震発生から12日、国際社会の関心が高まっているこ とを受け、首相官邸はフェイスブックページを設けた。 記者会見の内容や新着情報を英語に翻訳し、更新し た。74

ミクシィも被災地の東北では最も利用されたソーシャ ルメディアとして挙げられ、過小評価はできない。76 ネットへの接続が限られた地域で、ユーザーは友達が いつ最後にログインしたかをプロフィールを見て簡単 にチェックでき、それによってその人の無事を確認出来 た。3月16日、ミクシィは友だちのログイン履歴を見ら れる新しいアプリをリリースした。77

テクノロジーサイトTechCrunchによると、災害におけ るフェイスブックの強みは、アカウント保有者が親しい 人たちの更新情報だけを見られるというフィルター機

75

HTTP://TECHCRUNCH.COM/2012/10/30/FACEBOOK-THEREASSURANCE-MACHINE/

76

YOUTUBE: HTTP://YOUTU.BE/O9_9VU6TUTS

73

SOCIAL BAKERS STATISTICS, JANUARY 2013

74

HTTP://ASIAJIN.COM/BLOG/2011/03/23/13535/

77

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CONNECTING THE LAST MILE 東日本大震災におけるコミュニケー ションの役割

32

5.3

ユーチューブ:経験の共有、援助の 要請、そして「原発くん」

ユーチューブも災害後に利用された。一般市民が、押 し寄せる津波の動画や募金の呼びかけ、教育ビデオな ど数えきれないほどの動画を投稿し、世界中で視聴さ れた。事実、東日本大震災は史上最も記録された自然 災害とされ、ユーチューブに投稿された災害の動画は 世界に衝撃を与えた。 携帯電話の普及率が高い日本で、生存者は世界の人々 と経験を共有しようとした。地震のあと、生存者によっ て多くのブログやユーチューブのプレイリスト78 に記録 された映像がまとめられた。 A locally produced children s animation, Nuclear 福島原発事故においては、 「原発くん」も誕生した。お 腹が痛い男の子(原子力発電所)とくさいうんち(放射 線問題)の例えを使って事故を分かりやすく説明して ある。原発くんの話はツイッターで始まり、オンライン でアニメとなり、英語へと翻訳された。ネット上で急速 に広まり、180万回の再生回数を記録した。79 ユーチューブは支援を求めるための手段にもなった。 最も話題となった動画は、避難区域内にある福島県南 相馬市の市長自らがボランティアと救援物資を嘆願し たものである。この動画は50万回近く再生された。80 英字新聞ジャパンタイムズによると、その動画は結果と して、大量の救援物資をもたらし、海外メディアに取り 上げられ、政府と東京電力に謝罪の電話をさせた。81

Screenshot of Nuclear Boy, animated cartoon explaining the Fukushima nuclear disaster

5.4

ライブストリーミング:全世界が 震災の展開を見守る

ユーチューブはその多くがすでに録画されたコンテン ツであるが、ユーストリームは生放送用に使われた。前 章で述べた通り、たくさんの報道機関がユーストリーム のような民間サービスを使い、テレビ報道をライブ配 信した。また一方で、個人もスマートフォンなどのデバイ スを使って同じことをした。 最も有名な事例としては、フリージャーナリストであり、 インディペンデント・ウェブ・ジャーナル(IWJ)の設立 者である岩上安身氏が東京電力の記者会見を連日生 中継したもので 82 、視聴者は記者会見と質疑応答を見 ることができた。 ソーシャルメディアは人々が不安や心配事を口にした り、情報の共有をしたりするプラットフォームとなった が、福島原発事故後にはユーストリームはさらにもうひ とつ重要な使われ方をした。放射線量を測定するガイ ガーカウンターの数値を数百人とは言わないまでも、 多くの地域住民が配信し始めたのである。

78

例: HTTP://WWW.YOUTUBE.COM/PLAYLIST?LIST=PLFD50B4177D523453

79

WWW.YOUTUBE.COM/WATCH?V=5SAKN2HSVXA

80

WWW.YOUTUBE.COM/WATCH?V=70ZHQ--CK40

81

HTTP://WWW.JAPANTIMES.CO.JP/NEWS/2012/03/08/NEWS/WILL-311PROVE-SOCIAL-MEDIA-WATERSHED/#.UBDFP2RAHNI

82

WEBSITE: HTTP://IWJ.CO.JP/


CONNECTING THE LAST MILE 東日本大震災におけるコミュニケー ションの役割

ユーストリームはツイッターやフェイスブック、インスタ ントメッセンジャーのアカウントを使った視聴者間のラ イブチャットを可能にした。このサービスは「ソーシャ ル・ストリーム」と呼ばれている。

5.5

しかし組織自体は、ソーシャルメディアを通じての個々 の要請に応える立場にはなかった。支援要請を直接受 けたJRCが、現地の状況を実際に調べると、多くのメッ セージはリツイートされた支援要請で、すでに1週間以 上が経過したものもあった。 『結局のところ、 (ソーシャルメディアの)可能性はリ スクを上回る。ソーシャルメディアはここ日本で定着 していて、それをなくすという選択肢はない。』84

ソーシャルメディアの限界

ソーシャルメディアは人々にとって行方不明者を探した り、事態の情報を入手したりする方法として効果的だっ たが、広域におよぶ被災地のニーズを調べようとした 人道援助組織の人たちにとってはそれほど役に立たな かった。 支援を求めるツイートやフェイスブックのメッセージは ほとんどが二次情報やリツイートされたものであった ため、現場のニーズと合致していないことが多々あった と地方自治体やNGOは証言する。岩手県山田町のと ある避難所の責任者は、政府の対応が効果的であった ためにソーシャルメディアによる支援要請は遅過ぎたと 話す。 「救援物資を求めるツイートをした人もいたよう ですが、地方自治体の方や自衛隊が毎日避難所にいら っしゃって、何か足りなければ数時間のうちに届くとい う状態でした。情報が古ければツイッターは何の役に もたちません。」83

PAT R I C K F U L L E R , C O M M U N I C AT I O N S M A N A G E R , I F R C A S I A PA C I F I C Z O N E

JRCは医療支援をするという自らの責務に集中した。 また、甚大な被害を受けた地域はネットや電話の接続 は数週間つながらなかったため、ソーシャルメディアは 彼らにとって必要のないものだったことは明らかだ。 JRCは、募金の一部を運営費に回しているというネット で流布された噂の被害者にもなった。噂はネットで広 まり、義援金は100パーセント被災者の元へ届くという 広告活動を全国で行うための宣伝費を使わざるを得な くなってしまった。85

災害対応を行った主要な支援組織の日本赤十字社 (JRC)は、募金や国際赤十字とのコミュニケーション を取るためにソーシャルメディアを利用した。JRCは災 害時にツイッターやフェイスブックの公式アカウントを 作らなかったが、あるスタッフが状況を英語で伝えるた めに自分自身のアカウントを使った。 『 情報が古ければツイッターは何の役にもたちま せん』

83

LOIS APPLEBY, インタビュー、 2012年11月

84

同書からの引用

85

WWW.REDCROSS.INT/EN/MAG/MAGAZINE2012_2/10-11.HTML

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CONNECTING THE LAST MILE 東日本大震災におけるコミュニケー ションの役割

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Screenshot of Google Person Finder’s website

5.6

デジタルメディアを駆使した被災 後の発展

2011年より災害時のソーシャルメディア利用について の議論は日本で活発になってきた。被災地の多くの地 方自治体は、災害においてソーシャルメディアは有用な コミュニケーションツールであると考えるようになって いる。86 『 被災地の多くの地方自治体は災害においてソー シャルメディアは有用なコミュニケーションツールで あると考えるようになっている。』

Jガバメントのページによると、国や地方自治体、独立 行政法人のツイッター公式アカウント数は104を超え ている。87 東北の地方自治体の公式アカウントは3倍 に増えた。そのうちの5つは、2012年8月に起こったフ ィリピン沖地震の際、気象庁による津波警報を発信す るために使われた。88 同年12月7日にM7.3の地震が 日本で発生した時、ツイッタージャパンは地震情報を調 べ、議論する際のハッシュタグを推奨した。89 フェイスブックはユーザーが災害時に自身と友人の「無 事を報告」する災害用伝言板のテストを2012年2月に 行った。このサービスは大きな災害が発生した場合の み運営される。90 2012年10月に米国(アメリカ)でハ 86

総務省 (2011年9月)、平成23年版情報通信白書

87

HTTP://TWINAVI.JP/GOV

88

河北日報、2012年11月5日

89

HTTP://BLOG.JP.TWITTER.COM/2012/12/5-12-119-TENKIJPJISHINTENKI.HTML

90

HTTP://TECHLAND.TIME.COM/2012/02/29/NEW-FACEBOOKFEATURE-LETS-YOU-MARK-YOURSELF-AS-SAFE-AFTER-MAJORDISASTER/#IXZZ2DPX1PCWN

リケーン・サンディーが発生した時、伝言板サービスは 開始していなかったものの、フェイスブックのデータに よると最も投稿されたのは「私たちは無事です」という 内容のものだった。91

5.7

グーグルのパーソンファインダー

グーグルのパーソンファインダーは3月11日の地震発生 から約1時間46分後となる、午後16時32分に開始され た。92 サイトはすぐに日本語に翻訳され、携帯からの アクセスにも対応し、人々はすぐに行方不明者に関する 情報を探したり載せたりした。NHKを含む全国の放送 局は死者や行方不明者のリストを放送したものの、特 定の人の情報を調べることが出来たパーソンファイン ダーはより適したツールだったようだ。 グーグルと報道機関、政府機関、ボランティア団体の 協力によってグーグル・パーソンファインダーは、行方 の分からない家族や友人を探すための定評のあるプラ ットフォームとなった。 ネットへの接続がある限り、何万人ものユーザーは情 報を調べ、共有することが出来た。警察庁の死亡者リ ストなどの公式データがデータバンクに加えられた。 各避難所に掲示された避難者登録リストが最も役立 つ情報源だとわかると、グーグルは新たな機能を加え た。マスメディアを通して携帯カメラでリストの写真を 91

HTTP://MASHABLE.COM/2012/10/30/FACEBOOK-SANDY-STATUS-OK/

92

グーグルクラシスレスポンス、パーソンファインダー、東日本大震災での進化 GOOGLE CRISIS RESPONSE 1: WWW.GOOGLE.ORG/CRISISRESPONSE/ KIROKU311/CHAPTER_06.HTML


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撮り、オンラインに載せることを求めたことで、1万枚以 上の画像がアップロードされ、スタッフと5000人のボ ランティアによってパーソンファインダーに情報が追加 された。 さらに地方の報 道機 関と活字メディアとの連 携で 新たな進展があった。毎日新聞をはじめとする全国 紙、NHK、TBS、テレビ朝日などの全国ネットテレビ局 によって集められたデータもまたパーソンファインダー に組み込まれた。93 プラットフォームが作られてから90日後には、61万人 以上の個人データが集まり、大きな成功を修めた。こ れはハイチ地震の後の5万5000データを大きく上回 る数字である。94 また、グーグルはすぐさま日本語、 英語、中国語、韓国語に対応した、東日本大震災のク ライシスレスポンスページを作成した。 サイト内には緊急時の電話相談窓口や計画停電の時 間や地図、義援金を募集中の支援組織などの役立つ 情報リンクを載せた。95 パーソンファインダーは災害発生直後に作られ、報道 機関と政府関係者の連携が早い段階でなされた。しか し災害の前にこれらの仕組みができていたら、初期段 階での情報の流れはより早くなっていただろう。 パーソンファインダーは役立つオンラインリソースの最 たる例である。しかし当然ネットへの接続がなければ 使えない。さらにユーザーにはある程度のITリテラシ ーが求められる。グーグルは多くの高齢者やネット接 続がなかった人々がこのサービスを利用できなかった ことを認識している。 これを受けてグーグルは将来の災害においてより高齢 者に優しい方法を探っている。ひとつのアイデアとして は、避難所を情報のハブとして使用し、コンピューター を設置して、ITにあまり親しみのない人たちをサポート 93

MINISTRY OF LAND, INFRASTRUCTURE, TRANSPORT AND TOURISM, P.57: /WWW.NDL.GO.JP/JP/DATA/PUBLICATION/ REFER/PDF/072803.PDF

94

HTTP://WWW.NYTIMES.COM/2011/07/11/TECHNOLOGY/ QUICK-ACTION-HELPS-GOOGLE-WIN-FRIENDS-IN-JAPAN. HTML?PAGEWANTED=ALL

95

WWW.GOOGLE.CO.UK/CRISISRESPONSE/JAPANQUAKE2011.HTML

Screenshot of the sinsai. info disaster map. In English the motto below says the map was created by everyone, similar to open source.

するというものがある。96

5.8 「テクノロジー・ボランティア」と いう新たな動向と震災マッピング 2010年のハイチ地震を受けて、技術ボランティア団体 は被災地からのメッセージの地図化を競い合った。そ して地震発生から4時間後、Ushahidiクライシスマップ の日本版sinsai.infoが作られた。 ボランティアは3ヶ月にわたり被災地からの12,000の ツイートやメールを確認、分類、地図化した。これによ りそれぞれの地域からどのような情報や依頼が来てい るのかを確認できるようになった。公式発表や死者・ 行方不明者、支援や避難などの情報がカテゴリー分け されている。 3ヶ月後、サイトを管理できるボランティアは少なくな り、ツイートを通じたレポートの数も減った。グーグル のパーソンファインダーや災害伝言板へのリンクもあっ たこのサイトには、100万人以上が訪れた。ほとんどの ページビューは被災地からで、とりわけネット普及率の 高い仙台からのものだった。 96

グーグル河合敬一氏へのインタビュー、2012年11月

35


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Screenshot of Safecast mobile app showing a radiation map in Japan

支援組織によってサイトが使われたかどうかも実際に 機能したかを評価する際に重要である。さらに、宮城 と岩手での実地調査の際にインタビューを受けた人た ちの中で、誰一人としてこのクライシスマップの存在を 知らなかったという事実は注目すべきである。 sinsai.info常務取締役である関治之氏は2011年4月 20日のブログに次のような投稿をしている。 『 sinsai.infoが何人の役に立ったのかは分からな い。しかし被災地のNGOや人々と話すと、情報格差が 深刻な問題となったことは明らかである。だから、電 力や通信インフラが回復しつつある時にsinsai.infoの ようなプラットフォームが役に立つと信じている。』

OpenStreetMapのボランティアは50万の道路を載せ た地図を作り、これは防災科学技術研究所のウェブサ イトAll311でもシェアされた。 地図がどのように利用 されたかを分析するために更なる調査が必要である。

津波が襲った直後、政府は定期的な情報更新を日本 語で行ったが、英語での支援情報はほとんどなかっ た。UNOCHAは国際人道支援組織のために現状に関 するレポートを作成し、CrisisCommonsのボランティ アは包括的な関連情報のウィキを作成し情報共有をサ ポートした。これはUNOCHAの状況報告書で言及さ れている。


CONNECTING THE LAST MILE 東日本大震災におけるコミュニケー ションの役割

A man looks for his photographs at a collection centre for items which were found in the rubble of an area devastated by the March 11, 2011 earthquake and tsunami in Sendai, Miyagi prefecture March 9, 2012, ahead of the one-year anniversary of March 11, 2011, earthquake and tsunami. More than 250,000 photographs and personal belongings are displayed at the centre for owners to recover. REUTERS/TORU HANAI, COURTESY THE THOMSON REUTERS FOUNDATION – ALERTNET

しかし、他のクライシスマップのプロジェクトで、被災者 の命を救ったという例もあることに注目したい。アメリ カのフレッチャー・スクールとハーバード大学、 マサチュ ーセッツ工科大学そしてボストン大学の学生達により 発足されたクライシスマップは、SAVE JAPAN!のツイ ートデータとOpenStreetMapを利用して、距離が離 れた場所から支援に励んだ。関係者によると、このプロ ジェクトのおかげで3人の命が救われたという報告が あるということだ。

放射能に関する懸念と情報が錯綜する状況を受けて、 ボランティア主導の放射線測定結果を集め、共有する ためのプロジェクトSafecastが災害発生の1週間後に 立ち上げられた。派遣されたボランティアが日本各地 で専用のガイガーカウンターを使って放射線測定を行 った。記録は地図化され、国民が住む地域の放射能レ ベルを知ることができるようになった。350万以上の 記録がすでにとられ、Safecastは世界で最も大きい 放射線モニタリングのプロジェクトとなっている。

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CONNECTING THE LAST MILE 東日本大震災におけるコミュニケー ションの役割

世界中の技術ボランティア団体が日本の災害に反応し たものの、2010年のハイチ地震の時よりその規模は小 さかった。 日本の国内の災害対応能力が1つの原因であるかもし れない。救急サービスや支援組織があるところでは、被 災地はネットよりも地域自体に頼る。もしどのサービス も利用できず、ネットへの接続があるのであれば、ネッ ト上のリソースは次の選択肢となるかもしれない。 また、災害関連の情報が日本語でしかなかったために、 支援組織は言語バリアによってその行動を制限された という見方もある。

5.9

通信会社:危機の中で生まれたイ ノベーション

数ヶ月に及ぶ断続的な停電やインフラへのダメージ、 固定・携帯電話回線の混雑などは東北地方全域の通 信環境に影響した。携帯電話会社は通話トラフィック を95%までに制限し、緊急電話が通じるようにした。 電話回線が繋がらないため、 「パケット通信」という携帯 メールサービスが代わりの通信方法となった。パケット とは128バイト以下の小さいデータである「パッケージ」 に分解されたショートメッセージであり、バラバラにイン ターネットに送られる。データは目的地である受信者の 元へ届くと再び集まる。データを分けることによってたく さんのパッケージが3Gネットワークを通して同時に送ら れることを可能にする。震災時、パケット通信は通話ト ラフィックのように制限されていなかったため、たくさん の人がショートメッセージを送ることができた。 主要な携帯電話会社は災害伝言板という、家族や友人 へメッセージを書いたり録音したりできる、緊急時のメ ールサービスを提供した。 これには2種類の伝言板があった。1つはテキストベース で、電話会社のウェブサイト上にメッセージを入力し、オ ンライン上に保管されるか、事前に登録されたEメールア ドレスに自動的に送られる。もう1つは留守番電話のよう

に、声を録音して受信者に送られるものだ。 様々な災害伝言板は地震の後に140万回利用され、同 じ人数が直接電話をしていたらと考えると、回線の混 雑解消に確かに大いに貢献したと言える。 『災害発生後の数週間、通信会社は移動基地局と少な いながらも避難所に電話を設置する重要な役割を果たし た。』

これによって避難所の責任者たちと地方自治体のやり 取りが可能になり、避難所の人々は無料で1日に1回電 話をかけることができた。宮城、岩手、福島で使用可能 な公衆電話も地震発生から1ヶ月後に無料で使うこと ができた。すべての電話回線が繋がらなかった場所で は、被災者が家族に安全を知らすために衛星電話をか けられる基地局を国際赤十字が設置した。 地震後、通信会社は自然災害におけるネットワーク・イ ンフラの強化を行なってきた。2011年より様々な災害 伝言板のスマートフォンのアプリが作られ、よりユーザ ーが使いやすいように改良されてきている。 原発事故によって人々が個人での放射線量の測定を始 め、個人で使用できる放射線モニタリング機器が売り 切れていることを受けて、ソフトバンクが2012年夏に 世界初の放射線モニタリングが内蔵された携帯を発表 した。 また、すべての主要な携帯電話会社は将来津波・地震 警報を送る携帯を開発することに合意した。 携帯に付いているワンセグがネットへの接続なしにテ レビを試聴することを可能にしたことも特筆すべき点 である。


CONNECTING THE LAST MILE 東日本大震災におけるコミュニケー ションの役割

6 デジタル・アーカイブ、ビッグデータの 共有

震災後に集められたデータは、将来の災害に生かせるも のがないかと多くの研究プロジェクトによって参照され ている。デジタル・アーカイブは復興過程の一部として、 また、将来の災害対策として、東日本大震災で被害を受 けた人たちの体験を記録するために作られている。

6.1

記憶を刻む:地元住民が作るデジ タル・アーカイブ、フォト・ライブラ リー

「3がつ11にちをわすれないためにセンター」 (仙台 市)は、東北地方の人々が動画や音声、写真を保存す るための、市民主導のプロジェクトである。プロジェク トの目的は情報を共有し、震災を乗り越えたマルチメ ディアコンテンツの復旧や保存を進めることだ。 センターはボランティアが作りたいものを作れるように 機器や編集設備を提供する。強い意見を述べたり、辛 い体験を語った匿名の被災者たちの声をまとめた音声 ファイルもあった。これまでに14,000点以上の動画や 写真、音声が集まった。コンテンツの作成や共有は被 災者たちにとって自分を表現する手段となり、過去を語 ることを促した。97

驚くことに自衛隊や警察、消防隊は瓦礫を片付ける 際、何万枚もの写真を回収していた。山元町ではボラ ンティアたちが写真を綺麗にして乾かし、デジタル修正 した上で持ち主の元へ届けることを目指した。写真はネ ット上の画像アーカイブサイトに上げられ、被災者が 顔認証ソフトやキーワード検索によって無くした写真を 探すことができた。 約75万枚の写真が見つけられ、そのうち19,200枚の 持ち主が判明した。98実行委員長の高橋宗正と副実行 委員長の星和人は、損傷が激しくて持ち主が分からな いであろう1,500枚の写真を用い「Lost and Found」 という写真展を世界各地で開いている。99 沿岸部の多くの自治体やボランティアセンターでも何 万枚もの写真を保管し、地元住民に公開している。 グーグルも地域の震災前の様子や廃墟となった姿を記 録に残すプロジェクトを開始した。同社は被災者が津 波の被害を逃れた動画や写真をアップロードして共有 するためのウェブサイト「未来へのキオク」を作った。 何千キロにもわたるグーグルストリートビューの画像 も被災地で記録され、震災前後を見比べることができ る。画像は震災前の生活、現在の復旧作業、復興の過 程を記録する。

記憶を風化させない取り組みとして、仙台の40キロ南 に位置する山元町での「思い出サルベージアルバム」 というプロジェクトがある。山元町では町全体の半分 が津波によって浸水し、他の沿岸部の集落と同様に、 数えきれないほどの身の回り品が流失した。 97

HTTP://RECORDER311-E.SMT.JP/

98

WWW.PLANET-MAG.COM/2012/ART/AIYA-ONO/LOST-AND-FOUND/

99

HTTP://FRAMEWORK.LATIMES.COM/2012/03/23/JAPAN-TSUNAMIEARTHQUAKE-RECOVERED-PHOTOS/

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コミュニティの本

ケーススタディ#2:ぼくのふるさと̶大人 と子供をつなぐ記憶

工藤真弓さん(39)は津波に家を流され、5歳の息

子の由祐くんと5ヶ月にわたって避難所で生活した。 家族の忠告のおかげで、真弓さんは津波が到着す る前に高台にすぐに避難することができた。

地震や津波の際に何をすればよいのかを子供に教えること

の大切さを感じ、真弓さんは1冊の子供向け絵本『ぼくのふる さと』を書きました。この本は彼女自身の話であり、携帯で緊 急地震速報を聞いてから、高台に逃げて津波が街を破壊し ていくのを見るまでを描いたものである。また、仮設の避難

所での生活と、死者を忘れないことについても書いている。 「この本は災害の現実を認めながらも、それをポジティブ

にとらえ、親が子供たちに読むことを願って書きました。ま

た、2011年の津波から助かった子供たちが本を読んだ時に

彼ら自身の経験について話し合えるといいなとも思います。」 Mayumi and Yusuke read their story, November 2012. LOIS APPLEBY

被災地の様子を見ることによってこれらの地域の苦し い現状を知ることにつながり、震災の記憶が未来の世 代にとって意義のある、形あるものになることを願いま す。」100 参照 http://www.miraikioku.com/ streetelevisioniew/en/about

6.2 震災データの「足跡」の追跡 東北大学の災害科学国際研究所(IRDeS)はハーバー ド大学と提携して、震災のデジタル・アーカイブを作ろ うとしており、復興のサポートや教育、災害対策に役立 てられることが期待されている。地震や地図、シミュレ ーション、公式の記録、様々なメディアの報道、ニュース の原稿、個人のケーススタディなど幅広いデータが集 100

WWW.MIRAIKIOKU.COM/STREETELEVISIONIEW/EN/ABOUT

本は4ヶ月で6,000部が売れ、地域の学校で読まれている。

められている。 比較やさらなる研究のためにこれまでの自然災害の記 録も含まれる。例えば、1995年の阪神淡路大震災が 起こった後の河北新報の記事に関する分析によると、 最初の3ヶ月で主に不足していたのは食料や薬、水、 血液、人手であったことが分かっている。しかし東日本 大震災で最も必要だったのはガソリンや仮設住宅、電 力、救援物資、情報であった。101 最先端ソフトウェアを使い、民間企業と協働すること で、同プロジェクトは被災地の3Dイメージや映像、オ ンラインの地図を開発した。また、リアルタイムに復興 過程を記録やし、その情報の共有も情報共有すること も目指している。

101

MICHINOKU SHINROKUDEN, HTTP://BETA.JDARCHIVE.ORG/EN/HOME


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6.3 PROJECT311:災害へのより良 い理解と準備のためのビッグデー タの共有 Project311(東日本大震災ビッグデータワークショッ プ)102 はテクノロジーにより将来の災害対策を改善す るために震災後に始まった取り組みである。プロジェク トの焦点はグーグル、ツイッタージャパン、NHK、朝日 新聞、ホンダ、そして地図製作会社ゼンリンといった主 要な組織が保有するデータを共有することである。 今日のテクノロジーにより、様々な観点から災害の状況 を可視化し、評価でき、学者や技術開発者がデータに アクセスできることは必要不可欠である。 Project311はこの問題を解決するために、データを提 供できる官民の利害関係者を集めた。提供されたデー タは地震が発生週のツイートからNHKの原稿、道路交 通情報にまで及んだ。ホンダによって提供されたデー タは、自動車メーカーがどのように災害対策に貢献で きるかを示した。ホンダの航行衛星ナビゲーションシス テムを使えば、ドライバーがどこを通り、どこを通らな かったのかを地図に落とし込むことができる。これは 地震や津波によってどの道路が壊れたり塞がれたりし たかが分かる技術への応用が考えられる。 多くのプロジェクトが学者や研究者、開発者によって 立案された中で、Project HAYANOとMass Media Coverage Mapという二つの注目すべきプロジェクト もあった。Project HAYANO103 はデータの可視化と シミュレーションによる、福島やその近辺の子供たち の甲状腺がんのリスクに対する理解が狙いだ。東京大 学の早野龍五教授はProject311が提供したデータと SPEEDIや海洋研究開発機構(JAMSTEC)が公表し たデータを統合し、将来甲状腺がんの事例が発生した 場合に備えて、法的に正統な証拠をの基盤を作ろうと している。

A woman looks at her mobile phone as she rests at an evacuation centre for people affected by the March 11 earthquake and tsunami in Ishinomaki, northern Japan April 3, 2011. Japanese engineers grappling on Sunday to control the world’s worst nuclear crisis since Chernobyl tried to seal a crack leaking radiation into the Pacific sea from a crippled reactor. REUTERS/CARLOS BARRIA, COURTESY THE THOMSON REUTERS FOUNDATION – ALERTNET

Coverage Map」104 である。このプロジェクトで は、NHKのニュース速報の原稿やクラウドソーシング データである位置情報(ジオタグ)付きのツイート、ウ ェザーニュース社の減災リポートによって集められた情 報を含む主要なメディアのデータを統合した。105 その結果、ほとんど報道されなかった地域が数多くあ ったことが分かった。ジオタグ付きのツイートやクラウ ドソーシングによって得られたデータを精査すると、こ れらの地域では、ソーシャルメディアや住民自らが発信 した情報が主要な情報源となっていたことが明らかに なった。 複雑な災害の全体像をつかみ、将来の緊急事態に備え るために、異なる分野で連携し合うことは極めて重要 だ。Project311は事態の分析と複雑な状況下での連 携において、類を見ないほど多大な貢献を果たした。

このワークショップで出たもう1つのプロジェクトは、 首都大学東京の渡邉英徳准教授の「Mass Media 102

HTTPS://SITES.GOOGLE.COM/SITE/PRJ311/

104

HTTP://MEDIA.MAPPING.JP/

103

HTTP://SPEEDI.MAPPING.JP/

105

HTTP://WEATHERNEWS.JP/TOHOKU_QUAKE2011/MAP/

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CONNECTING THE LAST MILE 東日本大震災におけるコミュニケー ションの役割

7 支援組織間のコミュニケーション

日本は世界の主要な支援国の1つであるが、今回の前 代未聞の災害によって既存の対応機構の課題が浮かび 上がった。650キロに及ぶ沿岸部の200以上の市や町 が被害を受け、国や地方自治体は大きな壁にぶつかっ た。多くの災害と同様に、東日本大震災はコミュニケー ションと支援の協調の重要性を明らかにした。

日本は世界でも有数のIT技術の故郷であるにもかかわ らず、支援組織の間の情報共有はわずかであった。石 巻市のような政府と市民団体を協働させようという動 きが見られた場所もあったが、全体として情報共有を 促進する体系的な取り組みはなかった。これにより支 援の重複や不手際が起こった。

地方自治体や社会福祉団体は地域の対応を取りまとめ たが、それでも多くは大災害の対応には慣れていなか った。それに加えて、災害によってスタッフや施設も被 害を受けており、それらの処理能力はすでに低下して いた。

ある大槌町の被災者は「自衛隊や警察、NGO、自治体 の職員、ボランティアなどから繰り返し同じ質問をされ ました。大変な状況だったことは理解しますが、とても 疲れたので、個人の情報が必要な方々にお見せできる カードがあったらなと思いました。」と話した。

NGOに関する意識は災害前の日本では比較的低かっ た。支援を受ける側ではなく、常に行う側であった日本 では、国の災害対策におけるNGOの役割は考慮されて いなかった。たくさんの国内外のNGOが日本政府を援 助するために救援を開始したが、彼らに対する一般的 な認識は「ボランティア」であるというものだった。この 認識は災害の早い段階での彼らの働きを妨げた。

国連のUNOCHA、日本赤十字、NGOネットワークの Japan Platformは政府と協調・連携が可能なよりシ ステムを作るために、今回の災害の経験、そして海外か らの緊急時の対応をどのように生かすかの議論を行な っている。


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8 「ラストマイルへの橋渡し」 :解決策は ローテク、それともハイテク? 2年近くが経ち、東日本大震災の長期的な影響はまだ 感じられる。約305,000人は未だに仮設住宅で生活し ており、情報の需要はその内容は変わっても依然として そこにある。 デジタル技術は将来の被災者を救うために、世界で共 有できる新しいアイデアや情報を提供し続けているこ とは疑いようもない。スマートフォンやインターネット、 ソーシャルメディアメディアへのアクセスの増加は今ま でにない形で世界を変化させている。そして日本の生 き延びた人たちが示すように、インターネットが自然災 害の支援の際に重要な役割を担うことができることは 明らかである。 しかし、本レポートはこれらの状況における情報格差 の現実も無視してはならないことを示している。 情報とコミュニケーションは支援の形の1つである。し かし歴史を見ると、残念ながら支援団体はこの事実を 常に認識していたわけではないことが分かる。情報格 差においてネットへのアクセスがない側にいた人たち に情報を提供できれば、危機の際に彼らを救い、コミ ュニティを立て直す時に助けとなるだろう。 被災者のための時宜にかなった正しい情報提供と、地 元住民と支援者のコミュニケーションは災害対応の改 善に必要だ。地元のラジオ局や活字メディアを使うこ ともそうであり、支援団体が採用すべき方法である。 2011年にインターニュース、CDACネットワーク及び Knight財団によって出版されたハイチ地震に関しての レポートは地元ラジオ局やショートメッセージ、クラウ ドソーシングが2010年のハイチ地震直後に被災地と

連絡をとるためにどのように使われたかをまとめてい る。 日本は世界で最も豊かな国の1つであり、ハイチが最も 貧しい国の1つであるにもかかわらず、どのコミュニケー ションの手段が災害で使用され、なぜ使われたのかと いう点において共通するところが多い。日本はテクノロ ジーの分野において非常に進んだ社会である。しかし 基礎的なインフラしか残っていない時、基本に戻ると いう解決方法が肝心である。 日本の震災ではハイチの時と同様に、食料や水、避難 所といった地域の必要な情報を提供する地元ラジオ が必要不可欠だということが示された。ラジオは情報 技術に関する知識や資格はいらず、政府機関や支援組 織、NGOが最も必要な人に正確な人命を救う情報が 届けられる情報源である。 『 災害に巻き込まれた人々にとって、情報が手に入 るかどうかは緊急で深刻な問題である。多くの場合 彼らは家族と離れ離れになり住まいや食料がなく、 周りで起きる出来事に怯え混乱している。そのよう な人々のニーズに応えたメディアは、重要な情報ラ イフラインとなる。』 WORKING WITH THE MEDIA IN CONFLICTS AND OTHER EMERGENCIES, UK DFID, 20 0 0

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CONNECTING THE LAST MILE 東日本大震災におけるコミュニケー ションの役割

日本とハイチの両方で携帯電話は情報を入手し、家族 や友人と連絡をとるために使われた。ハイチではSMS が使われた一方で、日本では多くの人にとってソーシャ ルメディアがライフラインとなった。デジタルメディアと 情報技術が支援形態を改善するのである。

自然災害時の通信手段は多ければ多いほどよいのだと いうのが本レポートのメッセージである。緊急の際は1 つ、いや、たった3つや4つの手段に頼ることはできな い。ローテクとハイテクの両方が災害では重要になる ことを示した。

スマートフォンについては、高価で多くの人は手が届か ないというのが我々の見解である。しかし、グーグルは ケニアでの仮導入が成功している80ドルのスマートフ ォンを開発した。2012年11月のロンドンでのトニー・ブ レア・フェイス財団(Tony Blair s Faith Foundation) の集まりでは、ウィキペディアの創始者であるJimmy Walesがそのスマートフォンの重要性と数億人のネット へのアクセスを実現する可能性を認めている。50ドル のスマートフォンの計画段階に入っており、 国際人道 支援団体は被災地での情報の流通方法の変化に対応 することが求められる。

2015年、日本は第3回国連世界防災会議の開催国と なる。国際人道支援団体にとって1つの課題はこの会 議を東日本大震災とそれに続いた災害におけるコミュ ニケーションの役割を検討し、得た教訓を「ラストマイ ル」への橋渡しのためにどのように生かすのかを決め ることである。


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9 各方面への提言 全ての関係者に向けて » 人道危機への対応に関わる全ての者が、災害対応 時における効果的な情報提供とコミュニケーショ ンの役割及び必要性について、特に対被災者及び 被災者間のコミュニケーションの役割と必要性に ついて、認識しなければならない。上記は緊急事 態の管理における、支援受け入れ国政府、行政諸 機関 、NGO、援助団体、ボランティアと技術専門 家のコミュニティ(V&TCs)、被災者の間の相互の 情報の流れをも意味する。 » 危機的状況下や緊急時においては、多分野 連携 による被災地とのコミュニケーション戦略が求め られる。従来のメディアやソーシャルメディア、公共 警報システム、コミュニティでの呼びかけ、ポスタ ーや冊子、口コミなど、複数の伝達手段や通信基 盤を、状況に応じて使い分ける必要がある。これ一 つで確実という方法はない。 » 全ての援助主体は、OCHAを中心に組織されてい る人道支援クラスター などの既存の調整メカニズ ムを利用し、緊急対応に新しい技術を導入すべき である。OCHAのクラスターがない場所では、代わ りのシステムを設ける必要がある。 » ボランティアと技術専門家のコミュニティ (V&TCs)を含む全ての主体は、相互調整のため の確立されたメカニズムを持つべきである。人道 支援の調整メカニズムには、地元メディアや既存 の通信手段を戦略的に取り入れていくべきだ。こ れは「ラストマイル」を確実につなげるために不可 欠である。

人道支援組織に向けて » 被災地への情報提供や被災共同体とのコミュニケ ーションを、災害対策・緊急対応・復旧能力強化の ための戦略の中心に据えることがきわめて重要で ある。情報は命を救い、コミュニケーションは支援 なのである。 » 支援団体は、人道支援時のコミュニケーション専 門家をチームの一員として採用し、既存のスタッフ に対して、人道コミュニケーション(すなわち、被 災コミュニティとの双方向コミュニケーション)に ついての訓練をすべきである。これには、地元住民 とのコミュニケーションのための事業に予算を配分 することも含まれる。 » 東日本大震災は、支援における効果的なコミュニ ケーションと連携の重要性を浮き彫りにした。多分 野にわたる人道支援コミュニケーション戦略を策 定・展開し、その実施と効果をモニターする必要も 明らかになった。これらの戦略は複数のプラットフ ォーム・多チャンネルによることが前提であり、ロ ーテク、ハイテク、双方の通信手段やツールが重要 となる。 » 支援団体は、地域の情報伝達環境の評価に一層力 を入れるべきである。つまり地元メディアや通信手 段の全体像を把握し、情報の需要を調査し、人道 支援におけるコミュニケーションについての調査、 モニタリング、評価をする必要がある。 » 日本の震災では、ハイチの震災時と同様に、食料 や水、避難所や保健施設がどこにあるのかといっ た、地域固有の情報を提供する地元ラジオが必要 不可欠であることが明らかになった。人道支援団 体は、地元ラジオ局の再開を支援し、ラジオや他 の地元メディアとの連携を図ることが大切である。 それには、技術・資金面での援助や放送免許取得

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CONNECTING THE LAST MILE 東日本大震災におけるコミュニケー ションの役割

に向けての支援なども含まれる。メディアの発展を 支援する組織は、重要なパートナーとなりうる。 » 携帯電話からのインターネットアクセスとソーシャ ルメディアの利用の急増は、世界に前例のない変 化をもたらしている。しかし、災害時における情報 格差(デジタルデバイド)・世代間格差の現実を甘 く見てはならず、災害対策・緊急対応、復旧能力向 上の戦略において、これらの格差に対し効果的な 対策や配慮がなされるべきである。 » 避難所やキャンプ、その他の一時待避所( 市役 所、学校、医療施設、市場、公園など)は、被災者 にとって必要な諸情報が一カ所で得られる情報流 通のハブとして効果的に機能する必要がある。支 援団体は、被災者が災害や支援に関する正確な情 報をタイムリーに入手できるようにすべきである。 また被災者が救援活動に対してフィードバックや 意見を伝えられるようにすることも、同じように重 要だ。被災者同士や支援団体間のコミュニケーシ ョン向上のため、必要に応じて携帯電話の充電場 所、手巻き式・電池式ラジオ、テレビ、パソコン、メ ガホン、衛星電話へのアクセスを確保することも考 慮されるべきである。 » 手巻き式ラジオ、または電池式ラジオを災害の早 い段階で必要に応じて配布し、食料品以外の支援 物資セット(non-food items: NFIs)に携帯電話 とソーラー充電器を含めるべきである。 » 支援団体は、地元住民や支援団体自らのニーズに 将来の技術が適合するよう、技術部門や、ボランテ ィアと技術専門家のコミュニティ(V&TCs)との連 携を強化する必要がある。例えば、ユーザーが発 信するコンテンツを、より正確な状況把握や緊急 人道支援ニーズへの迅速な対応に利用することな どが考えられる。 » 新規の人道支援アクターが増え、人道支援コミュ ニケーションの分野そのものが拡大する中で、地 域とのコミュニケーションにおける効果的な連携 の必要性、重要性が増している。

技術セクターに向けて » 技術を被災地や人道支援セクターのニーズに合わ せるだけでなく、重複を避けることも必要である。 デジタル人道ネットワーク(DH Network)106 の 取り組みや、GSMA災害対応(GSMA Disaster Response)による『自然災害におけるSMS利 用に関するガイドライン』107 の策定、Souktel (SMSサービスを提供するNGO)やカタール財団 などの取り組みがまさに重要。 » 全ての主体が全ての関連リソースを閲覧できる 標準化された情報ポータルの作成が必要であ る。現在、支援組織、政府、民間企業は、各々 独自のシステムを使っており、それらの標準化 と連携は限られている。OCHAの専門デジタル サービス、Humanitarian Responseポータル サイト108の改訂や、携帯アプリ「人道キオスク」 (Humanitarian Kiosk)109 の開始は、興味深 い進展である。 » パートナーシップと調整は必要不可欠であり、災害 発生前に整えておかなければならない。全ての主 体と部門を取り込んだ盤石な関係を事前に築いて おくことが、救援活動での情報伝達や連携・調整 の向上につながる。 » 通信会社は自然災害における情報通信インフラの 強化を継続する必要がある。 連絡手段の回復は 最重要課題である » スマートフォンやソーシャルメディアの利用者が世 界的に増加するのに伴い、災害時のソーシャルメデ ィアの利用は今後増え続け、その重要性も増すだ ろう。しかしながら、接続手段のない人たちや、デ ジタルリテラシーが限られている人たちのための 対策を疎かにしてはならない。インターネット上の リソースは、パソコンへのアクセスがない人たちも 106

HTTP://DIGITALHUMANITARIANS.COM

107

WWW.GSMA.COM/MOBILEFORDEVELOPMENT/TOWARDS-A-CODEOF-CONDUCT-GUIDELINES-FOR-THE-USE-OF-SMS-IN-NATURALDISASTERS

108

WWW.HUMANITARIANRESPONSE.INFO

109

WWW.HUMANITARIANRESPONSE.INFO


CONNECTING THE LAST MILE 東日本大震災におけるコミュニケー ションの役割

閲覧できるよう、携帯電話利用者も念頭に置いて 開発すべきである。 » デジタルアーカイブの作成、ビッグデータの共有、 記憶の保存は、被災者が通常の生活に戻るための 支援、災害対策、及び将来の教育の助けとなる大 切な取り組みである。 » ボランティアと技術専門家のコミュニティ (V&TCs)が地域コミュニティや支援団体に(例 えば関連をマッピングで示す「クラウドマップ」や ソーシャルメディア等を通じて)どのように貢献・ サポートができるかについて、外部評価を行い、よ り良い貢献を可能にすることが重要である。

日本国内の関係者に向けて » 政府諸機関、国連諸機関、国内外のNGO、自衛 隊、警察、社会福祉協議会、民間セクター、技術ボ ランティア組織を含めた、人道支援に関わる組織 間の情報共有システムを構築すべきである。

ておく必要がある。災害管理技術の限界について の市民教育と、リスク認識・災害への備えを促進す る継続的な取り組みが必要である。 » 遠隔操作が可能な早期警報アナウンスシステムを 開発し、自治体などの職員がアナウンス続けるた めにその場に留まって命の危険を冒すことのない よう、避難を可能にすべきである。

各国政府と支援者に向けて » 連絡手段とコミュニケーションネットワークの回復 は優先課題とされるべきである。携帯電話ネット ワークの復旧や、既存の地元メディアが迅速に事 業再開できるための支援、手巻き式または電池式 ラジオ、携帯電話とソーラー充電器を食料品以外 の支援物資セット(NFIs)に入れるよう検討するこ となどが求められる。

» 高齢者やその他の社会的弱者は、情報格差・世代 間格差のために災害時に取り残される可能性があ ることから、彼ら特有の情報ニーズを見極め、対応 する必要がある。

» ドナーと各国政府は、地元メディアと通信会社を、 早期警報・災害対応・復旧能力向上戦略の不可欠 な要素と考えるべきである。ドナーと各国政府は また、これらの戦略ができるだけ広い範囲をカバ ーし、その効果を最大限に発揮するために、支援 実施機関と自治体との戦略的パートナーシップを 奨励すべきである。緊急時の放送免許付与体制を 整備することも極めて重要となろう。

» 地方自治体は、早期警報や災害管理システムにお ける地元ラジオの役割を認識し、ラジオ局も含め た緊急時の共同コミュニケーション戦略を策定す べきである。自治体はまた、災害対策上重要な地 区において、地元ラジオ局が活動に十分な財源を 確保できるようにすべきである。

» ドナーは、災害直後や復興作業の初期段階におけ る被災地への情報の提供、及び被災地とのコミュ ニケーションのため、迅速な資金提供の仕組みを 整えるべきである。その意味で、イギリスの国際開 発省(DFID)の 緊急対応資金提供システムは画 期的だ。ドナー間の調整がカギなのである。

» 日本国内の全住民が家庭に手巻き式または電池 式のラジオと電池を非常用品として備えておくよ う、推奨すべきである。官庁も同様に、緊急時に衛 星電話と手巻き式または電池式のラジオが使える 体制を確保すべきである。

» ドナー・政府は、資金供与先となる支援実施機関 や地方自治体などが、災害・復興時の取り組みに おいて、最も情報の届きにくい人々や弱者の情報・ コミュニケーション需要を優先することを確認す べきである。

» 災害管理システムや早期警報技術が発達し続けて いるとは言え、一般市民はそれらの限界も認識し

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CONNECTING THE LAST MILE 東日本大震災におけるコミュニケー ションの役割

10

タイムライン

2007年10月 気象庁が緊急地震速報の開発

15:03

のために500億円を投資する

2011年3月11日: 14:45

気象庁が振動を観測

し、地震発生直前に自

エリアメール (SMS-CB) システムが特 定地域の携帯電話利用者に気象庁の 警報を一斉通知

のカメラを使い、ユース トリームを通じてNHK

14:46

マグニチュード9.0の

地震が三陸沖で発生 し、東北地方を直撃

15:14

津波警報第2報

最も利用されているハッシュタ

以上、福島6m)

のリンクをまとめ、ツイート

15:30

(岩手6m、宮城10m

10m以上、宮城10m以 上、福島10m以上)

の沿岸部を直撃

16:03

ターハッシュタグ「#j-j-

グーグルが「パーソンフ ァインダー」を開設

1700 ‒ 2400 グーグルが、日本、

2011年3月14日 日本政府が、政府初の災害関 連ツイッターアカウント「 @ Kantei_Saigai」を開始

2011年3月15日 民間放送局がコマーシャル放送を再開 し、災害関連情報の放送時間が減少 政府が福島第一原発上空 を飛行禁止区域に指定

英語、中国語、韓国語対

応の「クライシスレスポン

NHKが災害に関する報道を開始。 全て の国内放送局が緊急報道へと切り替え

危機状況を示すマッピングシステム

14:49

infoを、技術ボランティアが作成

(宮城6M、福島3M)

グと、災害に関する公式情報源

支援要請のためのツイッ

のユーザーが作成 16:32

ツイッタージャパンが、目的別に

津波警報第3報 (岩手

ス」ウェブページを開設

津波警報第1報

2011年3月12日

最初の津波が沿岸部に到達

helpme」を、日本南部 主要インフラの運営会社が気象庁の警 報を受信し、 高速列車や高層ビルのエ レベーター、 重機などが停止

ルなしでの報道を開始

15:12

15:50 頃 10m超の津波が福島

地方自治体や消防への防災行政無線、 及び学校の有線放送電話が気象庁の 警報を受信し、 地域の無線拡声器等に よる警報、 アナウンスが起動

民間テレビ局がコマーシャ

放送の生配信を開始

動的に警報を発令

警報によりテレビ・ラジオ放送が中断

14歳の中学生が、iPhone

「ウシャヒディ」の日本版、Sinsai.

日本国内のツイッター利用が毎 分1万1000ツイートへと急増

2011年3月16日 ミクシィ(Mixi)が「友だち」

のログイン履歴を確認できる 新しいアプリをリリース


CONNECTING THE LAST MILE 東日本大震災におけるコミュニケー ションの役割

2011年3月17日

第2週

2012年夏

東京電力がツイッターアカウント

地元ラジオ、ニュースレター、新聞

ソフトバンクモバイル が世界

「@OfficalTEPCO」を作成

が引き続き重要な情報を提供

Safecastが日本中の放射線測 第1週 ツイッタージャパンが、目的別に

定情報の収集と共有のためのマ ップとそのプロジェクトを作成

最も利用されているハッシュタグ

総理官邸、公式記者会見と更

ンクをまとめたブログを公開

イスブックページを開設

と、災害に関する公式情報源のリ

新情報の英訳を掲載したフェ

コミュニティラジオ局が人命に関 わる情報の 主たる発信源に 簡易ニュースレターや新聞

1ヶ月後 多くの避難所にテレビ設置 計21の新規FM放送局が災

ュースレターの発行を開始

放射線測定情報の収集と共有のた

宮城、岩手、福島3県の利用

可能な全ての公衆電話が震 災1ヶ月後まで無料に

導のProject 311が、災害発生の

第1週における報道とソーシャルメ ディアからの情報の流れを分析

マグニチュード7.3の地震が発生。 数時間のうちに、ツイッタージャ

パンが地震情報フォロー・共有用 の推奨ハッシュタグをリリース

2013年3月 ― 震災から2年 3ヶ月後 グーグル「パーソンファインダー」 へのアップロード、61万件以上に

めのボランティア主導プロジェク

ト、Safecast(セーフキャスト)、発足

グーグルとツイッタージャパン主

害情報報道の免許を取得

が情報ライフラインに

岩手県陸前高田市役所、日刊ニ

電話を発表 2012年10月

2012年12月7日

OCHAが状況報告書の作成を開始 通信会社が災害伝言板を作成

初の放射線測定器付き携帯

6ヶ月後 ほとんどの避難者が政府の提供 したテレビ付き仮設住宅に移動 2012年2月 フェイスブックが災害伝言板を公 開し、全国で運用テストを実施

30万5千人以上の被災者

が引き続き避難生活中

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CONNECTING THE LAST MILE 東日本大震災におけるコミュニケー ションの役割

11 主要参考資料 英語資料

The World Bank Institute. (2012) The Great East Japan Earthquake: Learning from Megadisasters, Knowledge Notes. http://reliefweb.int/report/world/great-eastjapan-earthquake-learning-megadisasters Tanaka, T. (2012). NHK s disaster coverage: A valued role of Public Service Media, Analysis of the TV coverage of the Great East Japan Disaster. http://ripeat.org/2012/ nhkpercentE2percent80percent99s-disastercoverage-a-valued-role-of-public-service-media/ Japanese Ministry of Internal Affairs and Communications. Temporary Radio Broadcasting Stations for the Great East Japan Earthquake: Disaster Current State and Challenges. Government of Japan. (2012), III. Disaster Damage in Japan from the Tohoku District Government of Japan. (2012) Road to Recovery www.kantei.go.jp/foreign/policy/ documents/2012/index.html Google Crisis Response Page, Japan: www.google. co.uk/crisisresponse/japanquake2011.html Japanese Ministry of Internal Affairs and Communications. (2012). Statistics report no.63. The World Bank. (2012)The Sendai Report: Managing Disaster Risks for a Resilient Future. http://reliefweb.int/report/world/sendai-reportmanaging-disaster-risks-resilient-future Japan Red Cross Society (2012) Japan: Earthquake and Tsunami 12 month report. http://reliefweb.int/report/japan/japanearthquake-and-tsunami-12-month-report Yamasaki, Erika (2012) What We Can Learn From Japan s Early Earthquake Warning System, Momentum: Vol. 1: Iss. 1, Article 2. http:// repository.upenn.edu/momentum/vol1/iss1/2 Nelson, A. and Sigal, I. with Zambrano, D. (2011) Media, Information Systems and Communities: Lessons From Haiti, Internews and the CDAC Network www.knightfoundation.org/blogs/ knightblog/2011/1/11/new-media-andhumanitarian-relief-lessons-from-haiti/

UN Foundation, Vodafone Foundation, UNOCHA, Harvard Humanitarian Initiative: Disaster Relief 2.0: The Future of Information Sharing in Humanitarian Emergencies http://reliefweb.int/report/haiti/disaster-relief-20future-information-sharing-humanitarian-emergencies

デジタルアーカイブ

3がつ11にちをわすれないためにセンタ ー: http://recorder311-e.smt.jp/ 2011年東日本大震災デジタルアーカイ ブ: http://www.jdarchive.org/?la=en Google 未来へのキオク: http://www.miraikioku. com/streetelevisioniew/en/about

動画

Instructional video: Japan s earthquake early warning system: http://www.youtube. com/watch?v=7-2m-wf15s8 Japan s tsunami early warning system: how news broke on live Japanese television www.telegraph.co.uk/news/worldnews/asia/ japan/8383724/Japans-tsunami-early-warningsystem-how-news-broke-on-live-Japanese-TV.html# The making of Safecast http://vimeo.com/51823402 Nuclear Boy Animation http://www.youtube.com/watch?v=5sakN2hSVxA

日本語資料 日本民間放送連盟 (2011). 「東日本大震災時 のメディアの役割に関する総合調査」 Project 311: https://sites.google.com/site/prj311/


CONNECTING THE LAST MILE 東日本大震災におけるコミュニケー ションの役割

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インターニュースの活動­人道危機におけ るコミュニケーション支援 活動の目的

現場での活動

私達はコミュニケーションが支 援だと確信しています。 惨事に見舞われた人々は、実 情が次々と明らかになっていく 状況で、モノだけではなく、 「 情 報」を必要としている。

「私達には情報源になるものが全く ないのです。シリアでいったい何が起 きているのか、家族は無事なのか、 そして今日が金曜日なのか木曜日な のかもわからない状態なのです。」 インターニュースの評価活動の一環とし てヨルダンのザータリ難民キャンプで 行われた難民とのインタビューより

歴史的にみても、人道支援セクタ ーは「コミュニケーション」という ものが迫力のある支援の一つであ ると認識していないのが事実だ。

人道支援の際、被災した人々のた めの正確で時宜を得た情報と、被 災者・援助者間のコミュニケーショ ンの重要性は見落とされている。 緊急対応時に地域メディアが担 う可能性を、人道支援団体は十 分に活用していないか、全く着手 していないかの状態である。 緊急時にでも使用可能だと証 明されたテクノロジーの単体 といえば「ラジオ」である。

活動のためのツール

Ç 人道コミュニケーション支援チームを迅速に派遣 するための人材登録制度(ロスター) Ç 緊急時に放送を開始するためのメディア機材キット Ç 人道危機・支援についての報道の仕方に関する 研修教材(報道関係者、指導者向け) Ç 情報ニーズの迅速な把握のための枠組みや方法論 Ç 人道支援活動の実施に関する標準的手順・要領

世界各地の危機や災害において、 被災した人々に必要な情報提供や コミュニケーションが行われるよ う、地元メディアをサポート 。 支援対象国内におけるInternews の既存プロジェクト活性化、及 び技術的サポートの実施 。 活動を記録し、多分野わたり共有 。 支援としてのコミュニケーション、 及び地元メディアの役割の重要性 について、理解促進の呼びかけ。

INTERNEWSの戦略 地元メディアを強化し、情報通信 技術とソーシャルメディアを生かし ながら支援者・地域コミュニティ 間の双方向コミュニケーションを 実現するという重要な役割を、地 元メディアが担えるようにする。

人道支援関係者らが、情報通信技術 を効果的に利用した最先端のコミュ ニケーション戦略を実施できる能力 を身につけ、地域コミュニティを戦 略の中心に据えるよう支援する。 民間セクターを通じたものも含め、 新しいアイデアを導入し組み合わせ ることが人道危機への備え・対応を どのように向上するのか模索する。


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CONNECTING THE LAST MILE 東日本大震災におけるコミュニケー ションの役割

2012年度の活動: 評価、支援、調査

2011年から2012年にかけて、スリ ランカ、チュニジア、リベリア・コー トジボワール、リビア、ケニア・ソマ リア、南スーダン・エチオピア、シリ ア・ヨルダンにおける大規模な人 道危機を受け、これら7つの危機 について、情報コミュニケーション のニーズアセスメントを実施。 2012年には、ハイチ、チャド、中 央アフリカ共和国(ウシャヒディ との共同事業)、ケニア・ソマリ ア、南スーダン、パキスタンの、3 大陸 6カ所において、新しいタイ プの人道プロジェクトを支援。 さらに同年、シリアのメディ アについて調査を実施。 同じく2012年、日本において、2011 年3月の地震・津波・原子力発電所事 故の一連の災害への対応におけるメ ディアの役割に関する調査を実施。

パートナーシッ プと共同事業 人道支援ニーズアセスメン ト能力向上プロジェクト

支援組織の災害対応に関する意思決 定を手助けする携帯アプリ「世界緊 急状況概要」 (Global Emergency Overview-GEO)を開発

グーグル「クライシスレスポンス」 インドネシアのメディア・情 報環境の評価を実施。

プロジェクト

BBCメディアアクション(イギリス の公共放送BBCの途上国メディ ア向け支援団体)と協力し、人道 支援組織が地元住民とより良いコ ミュニケーションを取れるよう手 助けするプロジェクトを実施。

インターニュース の人道支援における 情報提供向上プロ ジェクトについて 2004年のスマトラ沖地震以 来、Internewsは世界各地の主 要な人道危機で活動し、人命を 救う情報の提供、効果的な双方 向コミュニケーション基盤の立ち 上げに必要な、被災者、地元メデ ィア・人道支援組織間相互のつ ながりを確立してきました。 Internewsは以下の災害・危機 において活動してきました。 Ç パキスタン地震(2005)

Ç ダルフールとチャドにおける国内 避難民の発生・増加(2005∼) Ç ケニア大統領選挙後 の暴動(2008)

Ç 南スーダンにおける大規模な避 難民の発生(2006∼2012)

Ç スリランカ内戦(2007∼2010) Ç ガザ紛争(2009)

Ç キルギスにおける民 族衝突(2010)

Ç ハイチ地震(2010∼2011) Ç チュニジアとリビアにおけ る反乱・政変(2011)

政策と支援 Internewsは、被災共同体とのコミ ュニケーション(CDAC)ネットワ ークの創設メンバーで、現在もその 一員として積極的に活動していま す。CDACネットワークは、人道支 援、メディア開発、技術の各部門が 共に活動する画期的ネットワーク です。Internewsは2010年のハイ チ地震でCDAC Haitiを設立し、 2011 年まで運営を続けました。 Internewsはの姉妹組織、は、 Internews Europeは 英国国 際開発省(DFID)が 緊急対応 資金提供システム対象団体とし ての事前承認を得ています。

Internewsはジュネーブを拠点と する機関常設委員会(IASC)の 「被災者に対する説明責任タス クフォース」に貢献しました。 人道支援評価を目的とした「パ フォーマンスとアカウンタビリ ティのための学習ネットワーク」 (ALNAP)が発行する『人道支 援システムの現状』報告書(2012 年版)においても、Internews の活動が称賛されて います。

Ç アフリカの角、リベリア・コー トジボワール、南スーダン・エ チオピア、シリア・ヨルダンに おける難民危機(2012)


CONNECTING THE LAST MILE 東日本大震災におけるコミュニケー ションの役割

Internewsは、被災共同体とのコミュニケーション(CDAC)ネットワーク(www. cdacnetwork.org)の創設メンバーです。CDACネットワークは、人道支援団体、国連諸 機関、赤十字運動、メディア開発組織、技術提供者よる、分野を越えた画期的取り組みで す。情報提供、及び支援者・被災者間の双方向コミュニケーションの実現を、人道支援の重 要な要素と考えています。 CDAC ネットワークは、被災者への情報提供、及び被災者とのコミュニケーションは、命を 救うためのきわめて重要な支援であり、被災者が自らの回復を主導的に行えるようサポー トするための鍵となるものであり、また被災者への説明責任や被災者との真のパートナーシ ップにとって必要不可欠であると考えます。 CDAC ネットワークは、コミュニケーションは支援であるという信条のもとに活動していま す。 現在のCDACネットワークのメンバーは以下の通りです:BBCメディアアクション、赤十字 国際委員会 (ICRC)、インターナショナル・メディア・サポート (IMS)、国際移住機関 (IOM) 、Internews、Merlin、国連人口基金 (UNFPA)、国連難民高等弁務官事務所 (UNHCR) 、国連人道問題調整事務所 (OCHA)、Plan UK、セーブ・ザ・チルドレン、トムソン・ロイタ ー財団、ワールド・ビジョン・インターナショナル

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ATION SAV MATION SAV R O F N I D I ICATION IS A N U M M O C - COMMUNIC S E V IVES I L S E V A S FORMATION N I D I A S I N IS AID O I T A C I NICATION N U IVES - COMM L S E V A S N - INFORMA D I A INFORMATIO S I N O I OMMUNICAT C S E V I L S ATION SAVE M R ATION SAVE O F N I ION IS AID T A C I N U M M SAVES LIVE N O LIVES - CO I T A M R S AID - INFO I N O I T A C I MMUNI O C S E V COMMUN I L S ATION SAVE M R O F N I D I A ON IS AI I T A C I NICATION IS N U M LIVES - COM S E V A S N O I - INFORM D I A S I - INFORMAT N O I T COMMUNICA S E V I L S E ATION SAV M R O MATION SAV F N I TION IS AID A C I N U M M O ES LIVE V A S N O LIVES - C I T A D - INFORM I A S I N O I T CA OMMUN C S E V I - COMMUNI L S E V RMATION SA O F N I D I A S ION IS A T A C I N UNICATION I U M M S LIVES - CO E V A S N O I T ID - INFORM A S I - INFORMA N O I T A COMMUNIC S E V I L S E V MATION SA R O F MATION SA N I D I CATION IS A I N U M M O C ES LIV V A S N O LIVES I T A ID - INFORM A S I N O I T A C COMMUN S E V I - COMMUNI L S E V SA FORMATION N I D I A S I TION IS A A C I N U MUNICATION M M O ES LIVES - C V A S N O I T A ID - INFOR A S I N D - INFORM O I T A C NI ES - COMMU V I L S E V A S N SAVES O I T A M R RMATION O F IS AID - IN N O I T A C I N U MM COMMU S E V I L S LIVES - CO S E V SA FORMATION N I D I A S I TION IS A C I N U MUNICATION M M O ES LIVES - C V A S N O I T A AID - INFOR S I N D - INFORM O I T A C I N ES - COMMU V I L S E V A S ATION SAVE M R RMATION O F N I D ATION IS AI C I N U M M O C COMMU S E V I L S ES LIVES E V SA FORMATION N I D I A S I TION IS A C I N U MUNICATION M M O ES LIVES - C V A S N O I T A AID - INFO S I N ID - INFORM O I T A C I N ES - COMMU V I L S E V A S ATION SAVE M R O ORMATION F N I D ATION IS AI C I N U M M M O C LIVES - COM S ES LIVES E V A S N O I - INFORMAT D I A S I N O I TION IS T A C I N U M MMUNICA M O ES LIVES - C V A S N O I T A M AID - INFO S I N O I AID - INFOR T A C I N ES - COMMU V I L S E V A S N ON SAV


ATION SAVE M R O F N I D CATION IS I N U CATION IS AI M M O C ES LIVES V A S N O I T A - INFORMA D I A S D - INFORM I N O I T COMMUNICA S E V I L S E V ATION S M R O F N ATION SA I ION IS AID T A C I N U M M O SAVES LI N O I T ES LIVES - C A M R S AID - INFO I N O I T A C I MMUNIC O C S E S - COMMUN V I L S VE RMATION SA O F N I D I A ICATION IS N U ICATION IS M M O C VES LIVES A S N O I T A M ID - INFORM A S I ID - INFOR N O I T A - COMMUNIC S E V I L N S E V A NFORMATIO I MATION S D I A S I UNICATION M M O C S SAVES L E N O I T A VES LIV M R O IS AID - INF N O I T A C I N COMMUNIC S E V ES - COMMU I L S E V RMATION SA O F N I D I A S ICATION IS N U M NICATION I M O C SAVES LIVES N O I T A M R INFORM D I A S I AID - INFO N O MMUNICATI O C S E V I L ES MATION R O F N I MATION SAV D I CATION IS A I N U M M O C N SAVES L O I T A VES LIVES M R O F N N IS AID - I O I T A C I N U - COMMUNI S E V I VES - COMM L S E V A S FORMATION N I D I A S I TION I A C I N U M NICATION M O ES LIVES - C V A S N O I T A M - INFOR D I A S I AID - INFOR N O I T COMMUNICA S E V I L S E V ION SAVES T A M R RMATION SA O F N I ION IS AID T A C I N U M M - COMMUN S E V I S LIVES - CO L S E V A S FORMATION N I D I A S I UNICATION M M UNICATION O C S E N SAVES LIV O I T A M R O F - INFOR D I A S I AID - IN N O I T COMMUNICA S E V I L S E V ION SAVE T A M R RMATION SA O F N I ION IS AID T A C I N U M M - COMMUN S E V I S LIVES - CO L S E V A S FORMATION N I D I A S I UNICATION M M UNICATION O C S E N SAVES LIV O I T A M R O F IS AID - INFO N S AID - IN O I T A C I N U VES - COMM I L S E V A S N ION SAVE T A M R O ORMATIO F N I ION IS AID T A C I N U M M O - COMMUN S E V I L ES LIVES - C S E V A S FORMATION N I D I A S I UNICATION M M O MUNICATION C S E N SAVES LIV O I T A M R O F IS AID - INFO N S AID - IN O I T A C I N U VES - COMM I L S E V A S N ION SAV T A M R O ORMATIO F N I ION IS AID T A C I N U M M O - COMMU S E V I L ES LIVES - C S E V A N S


情報は命を救う  ュニケーションは支援だ 2004年のスマトラ沖地震以来、Internewsは世界各地の主要な人道危機の現場で活動し、人命を 救う情報の提供と、効果的な双方向コミュニケーション基盤の立ち上げに必要な、被災者・地元メ ディア・人道支援組織間相互のつながりを確立してきました。 Internewsは、被災共同体とのコミュニケーション(CDAC)ネットワーク(www.cdacnetwork. org)の創設メンバーです。CDACネットワークは、人道支援団体、国連諸機関、赤十字運動、メデ ィア開発組織、技術提供者による、分野を越えた画期的取り組みです。情報の提供、及び支援者・ 被災者間の双方向コミュニケーションの実現を、人道支援の重要な要素と考えています。 Internewsは2010年のハイチ地震でCDAC Haitiを設立し、2011年末まで運営を続けまし た。Internews Europeは、CDACネットワークのロンドンにおける財務・法的な 代表の役割を果 たしています。 Internews Europeは英国国際開発省の緊急対応資金提供システムの供与先として事前承認を得 ており、欧州委員会人道支援事務局(ECHO)のパートナーでもあります。 Internews Europeは、世界各地において、独立メディア、情報の自由、表現の自由への支援を専門 に行なう国際開発組織です。1995年以来、そのプログラムの大半は、危機的状況下にある人々、新 興民主主義諸国、世界で最も貧しい国々を対象としています。

www.internews.eu London +44 207 566 3300 New City Cloisters, 196 Old Street, London, EC1V 9FR Paris +33 153 36 06 06 72, rue Jeanne d Arc, 75013 Paris

www.internews.org +1 202 833 5740 Toll free +1 877 347 1522 Fax: +1 202 833 5745 1640 Rhode Island Ave. NW, 7th Floor, Washington, DC 20036


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